前回のあらすじ
ワクワクを思い出すんだ!(物理)
宇宙にて光のヒーローの声が木霊する。
「今会いに行くよ十ゥ代ィィイイイィ!!」
ネオスが一体いつからこのテンションで叫んでいたのかは定かではないが、神崎は予想だにしない相手に僅かに反応が遅れるも、リアルファイト適性のお陰か何とかその進路を塞ぐように立ちはだかったものの――
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
自身のことなど眼中にない様子で高笑いを上げながら地球へ目掛けて突っ込むネオスの勢いに、神崎は落下地点の調整に移るが、ネオスの身体から光の欠片が分離するように別れた。
――会話は望めそうにないか。それに加えて、よもや別動隊とは。
「追え」
「UGOGO!!」
「UGEGE!!」
「UGUGU!!」
「IYAttHOooOooOU!!」
そうしてネオスにガンガン地球へ押し込まれながらも神崎は分離した光の欠片に向けてオレイカルコス・ソルジャーをワラワラ放ちつつ思案する。
――コブラさんを筆頭に戦力を集めた以上、問題ないとは思うが……牛尾くんにも連絡を入れておかないと。
明らかに破滅の光に呑まれたネオスの襲来。
二手に分かれた襲撃。
宇宙での迎撃の筈が、生身で大気圏突入する羽目になる――などなど、
想定外の事態が多くはあったが、破滅の光が「究極のD」に引き寄せられていることを原作知識より把握している神崎の動揺はネオスの件以外は小さい。
究極のD周辺は、コブラを筆頭に荒事にも対処できる人間を纏めており、コブラの戦闘技能・胆力・デュエルの実力を加味すれば「これで勝てない」のなら神崎が行ったところでどうにもならないレベルだ。
ゆえに、今の神崎が最優先すべきは――
――コミュニケーションを取りましょう――よッ!
ネオスの対処のみ。
やがて背中合わせにネオスを背負うような体勢を取った神崎は、相手の両手首を掴んだまま、ネオスと共にきりもみ回転しながら地球へと落下していく。
そうして、少しばかり邪悪な流れ星が一つ落ちた。
やがて何処かの無人島へ、きりもみ回転しながら圧倒的な加速によってネオスの脳天を地面に叩きつけた神崎は、着弾の衝撃を利用して距離を取り様子を窺うが――
「フフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 戻ってきた! 戻ってきたよ、地球に!! 十ゥ代ィ!! キミの助けが必要なんだァ!!」
大きく亀裂の入った地面からなんでもないように立ち上がるネオスが高笑いを上げながら述べる発言に、状況の改善には至っていないことを把握した。
――スマホは……ギリギリ無事。大田さんに特注品を頼んだ甲斐があった。とはいえ、どうしたものか。
そうして落下の際の衝撃で甚大なダメージを負った通信機を内ポケットに仕舞った神崎は、一応とばかりにダメ元でネオスとの対話を試みる。
「此方の言葉は届いていますか?」
「……キミは?」
――会話……望めるんだ。
しかし、予想に反した理知的な声がネオスの口から零れたことで、なおのこと現在のネオスの状態が分からなくなる神崎は、内心の困惑を隠しながら希望を持って会話のキャッチボールへ移るも――
「私は神崎と申します。KCにて――」
「神崎? 神崎!! かんざきィ!! 覚えている! キミの名を!!」
――なんだろう。この前途多難な感じは。
完全に情緒不安定な具合にテンションが乱高下するネオスに指差された神崎は、諦めムードを内心に漂わせていた。とはいえ、投げ出す訳にもいかない。
なにせ、ネオスがこんなおかしなことになっている原因は神崎自身にあるのだから。
「それは光栄で――」
「十代に試練を与え、成長を促してくれたキミには感謝している。正しき闇の力へ適性を持つ彼は、きっとこの先、大きな助けとなってくれる筈だ」
――これはまとも……と判断して良いのだろうか? 性格の変化で説明がつく範囲なのか?
「そして心して聞いてくれ、神崎――今、この星に強大な危機が迫っている。私とて世界の救済への助力は惜しまないつもりだが、できれば十代と共に、キミの力も借りたい」
だが、これまた唐突にまともな受け答えをし始めたネオスの姿が、神崎を惑わせる。方針が定められない。
――信じていいのか? 破滅の光が正しく作用した可能性も0ではない。それに
「人類を救うべく、共に戦おう」
「なら一つだけ質問させて頂きたい」
「ああ、一つと言わず好きなだけ聞いてくれ! 共に世界を救う者として、協力は惜しまない!」
そうして、悩みに悩む内心を余所に、表面上はネオスへ友好的な態度を取る神崎。それゆえか、ネオスもまた、心を許すように拳を握って力強く己が使命を宣言する。
「宇宙で破滅の光と遭遇した貴方は、どうしました?」
それは至極当然、神崎が知らない領域の情報のすり合わせである。そして、ネオスからしても何でもない話だ。ゆえに返答はすぐになされた。
「当然、ネオスペーシアンたちと共に力を合わせて戦ったとも!!」
「――《六芒星の呪縛》」
しかし、返答と共にネオスの胴体に、カードの実体化の力にて出現した六芒星が描かれた魔法陣が現れ、装着者の動きを封じる。
そう、ネオスペーシアンと共にネオスが破滅の光と戦ったのならば、「ネオスがこの場にいてはならない」のだ。
戦いの途中で増援の要請の為に来た――と考えようにも、最大戦力であろうネオスが直接来る道理はない。むしろネオスペーシアンたちの誰かが来る方が自然だろう。
「なにを!? いや、この力……邪悪な力で満ちている――よもや、十代を助けてくれたキミが、今や邪悪な力に呑まれてしまっていたとは……」
――自覚症状がない。一番厄介な状態だ。
そうして、その場から動けなくなったネオスへと歩を進めた神崎が、左腕にデュエルディスクを装着した後、カードの実体化によって宿した力がこもった左手をネオスの額へと向ける。
話をしようにも、ネオスに巣食う破滅の光をなんとかしてからでなければ、意味はあるまい。
「《洗脳解除》」
「ラス・オブ・ネオス!!」
しかし、その左手が接触する直前に、《六芒星の呪縛》の拘束を部分的に強引に破ったネオスの放たれた手刀が、咄嗟に後ろに跳んだ神崎のデュエルディスクごと左腕を断ち切った。
――この焼け付くような感覚……レプリカの『ラーの翼神竜』との接触の時に近い……
やがてネオスの足元で千切れた神崎の左腕が闇となって崩れていく中、距離を取った神崎は失った左手を右手で押さえつつ再生させながら思案する。
そう、ネオスの力が如何に強かろうと、鍛えに鍛えた神崎の肉体がこうも呆気なく損傷する理由は明白だった。
このネオスは、ただ破滅の光で狂ったのではなく――
「それ程までの浸食を……済まない! 私が来るのが遅くなってしまったばかりに! だが、まだきっと間に合う! すぐにその邪悪な力を捨てるんだ! その力はキミに災いをもたらす!」
「破滅の光だけではなく、正しき闇の力も有しておられましたか」
ネオスの根幹を維持した状態で、破滅の光を受容した――まさに正しき闇の力と破滅の光が同居している奇跡的な状態を維持している。
「話を逸らさないでくれ! キミが振るっているその力はとても危険なものなんだ!」
そうしてネオスの状態を推察する神崎だが、対するネオスは神崎の内に巣食う邪悪な力――冥界の王の力の危険性を訴えるが、神崎としても「はい」と頷く訳にもいかない。
「今の貴方は、破滅の光の力を受けたことによって正常な判断が出来ない状態と思われます。ですので、まずは力の分離を――」
「……捨てる気はないということか。やむを得まい――少々手荒になるが、必ずキミを救って見せる! ハァァアアァアア!!」
ゆえに、互いが互いを別ベクトルで説得し合う流れが生まれるも、応じる気が無いと判断したネオスが、《六芒星の呪縛》を砕くべく、破滅の光と正しき闇の力の行使に出た。
「ネオス・フォース!!」
やがて身体を覆うオーラによってか己が胴体の《六芒星の呪縛》を砕いたネオスが、拳に球体状の波動を宿しながら神崎へ向けて跳躍しながら宙より右ストレートを振りかぶった。
「《闇の呪縛》」
「無駄だ!!」
それに対し、指さしで座標を示した瞬間にネオスの足元から数多の鎖が飛び出すも、ネオスの動きを留めることは叶わずに即砕け散り、《ネオス・フォース》の宿る右ストレートが神崎に迫るが――
――!? こうもアッサリ!?
「――《攻撃の無力化》!!」
そのネオスの拳はカードの実体化によって生じた風の渦に呑まれ、無力化される――かと思いきや、収まりきらぬエネルギーが逃げ場を求めるように弾け、暴発。
その爆風に乗って更に距離を取る神崎は、追撃の姿勢を見せるネオスを見やり、その心中で思わず叫ぶ。
――こうも違うのか!? 正義側の力というものは!!
いつぞやも語ったやも知れぬが、無駄に頑強なマッスルな肉体に加え、冥界の王の再生能力を併せ持った神崎の不死性とでも称するものはかなりのものだ。
その頑強さゆえに、多くの邪悪なものたちの力を受け止めてきた。
だが、その反面「聖なる力」――例を出せば、レプリカの『ラーの翼神竜』の一件や、三邪神の力、ホルアクティ――などには滅法弱い。
更に冥界の王が消え、その座に収まったことで冥界の王の弱点を明確に受け継いでいると言っても過言ではないだろう。
「ハァ!!」
やがてネオスの左拳にも宿った左右の《ネオス・フォース》のラッシュの一つが大地を砕く中、回避に徹していた神崎は指先により大地に座標を定めて――
「《封魔の呪印》」
「――遅いッ!!」
別の魔法陣にてネオスの動きを封じようとするも、その陣が敷き終える前に大地を踏み砕いたネオスによって防がれ、追撃の拳が放たれた。
つまり、応用性の高いカードの実体化の力を冥界の王の力によって行使している以上、正義側の力を持つネオスに通じない。
残された神崎の攻撃手段であるお得意の肉弾戦も、
《
遊戯に例えるのなら、《ブラック・マジシャン》ことマハードの位置にいる存在だろう。
そんな存在を狂わせる原因となってしまった神崎が、遊戯王シリーズという原作を愛する彼が、ネオスをどうして殴り飛ばせようか。
「《砂漠の裁き》」
「ゴパッ!?」
そんなことはなかった。
カードの実体化の力でネオスの足元の大地を砂に変え、思わずつんのめったネオスの顎を神崎の全身の関節を連なるように駆動させながら放った正拳突きが炸裂。
その脳にまで届いた衝撃によって糸の切れた人形のように倒れたネオスを前に、神崎はどうにか正気に戻す方法を思案しようとするが――
「ま、まだ……だ……」
それより先に、ネオスは砂地に拳を打ち立てながら、ゆっくりと立ち上がり始めた。
「ヒーロー……は、決して……くじけない……!」
ダメージがない訳では決してない。ネオスの震える膝を見れば一目瞭然だ。だが、それでも――どれだけ狂っていようとも、彼はヒーローなのだ。
邪悪な力に魅入られた者を止めねばならぬ状況で、膝をついてなどいられない。
――流石に一撃では終わらないか。
そんなネオスへ、神崎はそんなことを考えながら相手に体勢を立て直す間すら与えぬ、と間髪入れずに右腕を人間の限界を超えた領域でねじり、回転させた貫手を放つ。
「ぐぅぉあぁぁぁああぁああぁああぁあアクア・ドルフィン!!」
「ウケケ!!」
――キミも!?
そんな人外の所業の貫手をどてっぱらに食らいながらも、ネオスは己の皮をねじり、肉を抉り、骨を削る痛みに耐え、仲間の名を叫べば筋肉質な人型の身体を持つイルカ頭こと《
「 「 コンタクト融合!! 」 」
ネオスとイルカ頭ことアクア・ドルフィンが共に破滅の光でおかしくなった身であっても光に包まれると共に融合し、アクア・ドルフィンの特徴を継いだ青い体躯のネオス――《
――このアクア・フォームで、神崎! キミを助けて見せる!
「――エコー・バースト!!」
此処でネオス――いや、アクア・ネオスは腹に貫手を食らいながらも、己が懐で貫手を放っている神崎へ額を向け、そこからアクア・ドルフィンの力である音波による一撃を放つ。
だが、その一撃が届く前に、神崎は放っていた貫手を脇腹に沿わせる形で肉を抉る勢いのままに身体を回転させ、かち上げた左足でネオスの顎をねじり蹴る。
やがて己が意に反して空に音波攻撃を放つこととなったアクア・ネオスの身体が回転しつつ地から足が離れた途端に、胴体が神崎によって抱え込まれ――
「――グッ!?」
神崎の身体ごと後ろに投げられたことで、アクア・ネオスの頭は大地に叩きつけられ、その身体で逆十字を表すこととなった。
そして力尽きるようにアクア・ネオスが仰向きに倒れた瞬間、その腹部にいつの間にやら体勢を整えていた神崎の肘が落とされ、その一撃によりビクンと身体が跳ねた後、動かなくなるアクア・ネオス。
こうして、ネオスの制圧を完了した神崎は、壊れる二歩手前状態のスマホを慎重に操作しツバインシュタイン博士への連絡を試みる。
カードの実体化の力が通じない以上、狂ってしまったネオスを治せる可能性のある人間は、恐らく彼だけだろう。
「ラ、ラピッド――」
だが、そうしてスマホに意識を向けた神崎の隙をつくように、かすれたネオスの声が零れたと思えば――
「――ストーム!!」
ネオスより放たれたうねる海流の一撃が、神崎がいた場所を貫いた。
そうして、砕け散ったスマホの残骸が地面に転がる中、震える膝に手を置きつつも、なんとか立ち上がったネオスへ、咄嗟に横に跳んで海流の一撃を回避していた神崎はポツリと零す。
「驚いたな」
――確実に意識を断った手応えはあったが……
そして、すぐさま五指で地面を削りながらネオスを再起不能にするべく、追撃をかけた。
「エアハミング・バード!!」
「クカカ!!」
だが、その摩擦熱で着火した五指の掌底がネオスに接触する前に、赤い肌に筋肉質な人型の身体を持つハチドリが、ネオスの背後に現れると同時に――
「 「 トリプルコンタクト融合!! 」 」
ネオスと、アクア・ドルフィン――そしてエアハミング・バードの3体の力が一瞬の輝きと共に一つと化す。
「――ストーム・ネオス!!」
こうして現れた水色の先鋭的なフォルムのアーマーを纏った巨大な翼をもつ、青きネオス――《
それと同時に巨大な竜巻が、神崎の五指の掌底を一瞬弾き、その僅かな時間にストーム・ネオスは天高く舞い上がった。
「アルティメット・タイフーン!!」
そこから繰り出されるのは雨霰と吹き荒れる暴風――幾重もの竜巻が周囲に形成され、無人島の木々を揺らし、海は荒れ果て、空に暴力的な風が吹き荒れる。
――近づかせないつもりか。
『ゼーマン。精霊界の混沌の門の近くまでのゲートを開け、暴れても問題ない場所がいる』
『静観していた魔轟神が眠る地……ですか!?』
「――ストーム・ウィング!!」
そんな中、ゼーマンへのコンタクトを取る神崎を余所に、制空権を取ったストーム・ネオスが嵐を引き起こす中、背中の翼の稼働によって竜巻たちが意思を持つように神崎へと殺到。
『急げ』
『直ちに!』
そうして迫る竜巻の牙に対し、神崎は右足をブランと脱力させつつ上げた後、弓を引き絞るような溜めの後に振り切られた足先から放たれる4つに並んだ牙の如き風の刃が、竜巻を噛み千切った轟きを上げてストーム・ネオスへと迫った
「だとしても――くっ!?」
当然、ストーム・ネオスとて己に迫る風の顎を回避したが、その回避先を狙った神崎の貫手によって打ち出された空気の槍が片翼を打ち抜く。
それにより片方の翼を失ったことでバランスを崩したストーム・ネオスへ、空気を蹴り抜き強引に足場とした神崎が迫る姿に、ストーム・ネオスは迎撃としてカウンターの拳を放つ。
だが、その両者の拳が交錯する寸前で相手が文字通り、空中で急停止した。
「――なっ!?」
掌で空気を進行方向と逆に押し出した理屈は理解できるが、納得できるかは別だろう――しかし、そんな一瞬の意識の空白を縫うように再加速した神崎の膝がネオスの腹部に深々と刺さり、ストーム・ネオスは己が身体をくの字に曲げることとなる。
そして受けた衝撃で身体が固まったストーム・ネオスの背中へ、神崎の両の掌を組んだ一撃が叩き込まれた。
遅れて響く音を余所に再び無人島に叩き落され、生まれたクレーターの中で仰向けに倒れるも腕を起こしたストーム・ネオスへ、空より落下エネルギーがふんだんに乗った蹴りが打ち据えられる。
やがて一段と大きくなったクレーターの中で、ストーム・ネオスの腕がパタリとひび割れた大地に力尽きるように落ちる中、神崎は今度こそ動けないネオスを運び出そうと手を伸ばした。
だが、今度は大地の方が限界を迎えたように一気に崩れ、ネオスの身体が大地に一気に浸食した海水によって流されていく。
当然、神崎も海の上を走りつつ、今度こそネオスの腕を取ろうとするが――
――まだだ……諦める訳にはいかない! フレア・スカラベ!! ブラック・パンサー!!
「ハハハ!!」
「フフフ!!」
どこからともなく現れた、角のないカブトムシ風の人型の戦士と、マントをつけた黒い豹が、傷ついたネオスへ光と共に一体化。
「 「 クアドラプル! コンタクト融合!! 」 」
そして神崎の手を振り切るように一筋の光となって天へと飛翔するのは、青き翼を残したまま、黒いブレードのような新たな二対の翼を広げ、白さを取り戻した身体に手足を黒い装甲で覆った新たなネオスが――
「――コスモ・ネオス!!」
――コスモ……ネオス……?
天にて己が名を力強く宣言した。
そんなネオスこと《
そうして警戒心を募らせる神崎だが、そんなことを考えているうちに、空に二つ目の太陽が昇った。
――……………………は?
コスモ・ネオスの天に掲げた右腕がいつの間にか岩肌に覆われており、そこより轟々と凄まじい熱量を感じさせる炎とマグマの球体が呆ける神崎を余所に放たれる。
当然、回避しようとする神崎だが、その脳裏にふと浮かぶ「この熱量の物体が海に落ちて問題ないのか」と。そんな懸念により思わず動きが止まる神崎。
しかし、戦闘中では致命的な数瞬の迷いを余所に、海水と接触したゆえなのか水蒸気爆発の如き、巨大な爆発が辺りを覆った。
そして暫くして収まった熱風の中より、ズタボロになったスーツとその内に焼けただれた身体を晒す神崎が宙に立つ。
回避の選択肢がなく、迎撃した場合の影響も未知だったゆえに受け止める選択をした為のダメージだが、今まで回避に専念していた攻撃をまともに受けたせいか、その傷跡は痛々しい。
それらの損傷が冥界の王の力にて治っていくが、その動きは緩慢そのもの――平時と比較すれば、その治りはひどく遅かった。
そう、此処まで優勢に戦闘を運んできたが、ネオスの攻撃が神崎に致命的なダメージを与える点は何一つ解決されていない。今までは躱し切れていたから問題になっていなかっただけだ。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
やがて邪魔くさそうにネクタイだった残骸を引き千切って捨てた海上の神崎へ、空のコスモ・ネオスは高笑いしながら急降下と共に跳び蹴りを放ち、先と逆の立場の神崎が両手を交差させ受けて止める。
だが、その勢いは一切減衰することなく神崎の両腕にめり込んだコスモ・ネオスの足のかぎ爪が心臓を貫かんとするが、神崎が両腕を強引にスイングする形で足のかぎ爪を引き抜いた。
しかし、その引き抜く直前にコスモ・ネオスは足から先程の炎とマグマの球体を生成し、誘爆。
その爆発の際の上昇気流に乗ったコスモ・ネオスは天高く舞い上がり、広げた翼から羽根の弾丸を雨霰と放ちながら、右腕を前方に突き出した状態で己が身体を回転させて再度急降下し――
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
光の矢となったコスモ・ネオスの右爪が神崎の左肩を貫く――――も、抜けなくなった。
そうして己が身体を貫いたコスモ・ネオスの腕を、筋肉を絞めて拘束した神崎は伸ばした左手でネオスの右肩を掴みつつポツリと零す。
「離すなよ」
「――ヵッ!?」
その瞬間、コスモ・ネオスの腹部に内臓を抉り殺さんとする拳の連打が叩き込まれ、ネオスの身体が吹き飛ぶ――ことは、神崎の左肩を貫いた腕により叶わない。
コスモ・ネオスも空いた左腕でかぎ爪を振るうも、神崎の拳は止まることはなく、どちらが先に力尽きるかの我慢比べの泥仕合と化す中――
最初に限界を迎えたのはコスモ・ネオスの右肩だった。
吹き飛ぶ形で発散されない衝撃は、その楔となっていたコスモ・ネオスの右肩が千切れ飛ぶことで自由を取り戻し、コスモ・ネオスは宙を吹き飛び、やがて大地に叩きつけられる。
「ぐっ……! 《リバース・オブ・ネオス》! ぅ――おぉぉおおぉおおおお!!」
だとしても、すぐさま体勢を整え、千切れた右腕を生やそうとするコスモ・ネオスの前に、千切れた己の腕が落ちると同時に、左肩に大穴が空いた状態で神崎がいつぞやと同様に飛び蹴りを放った。
だが、今度は大地を砕くに終わり、咄嗟に横に跳んで回避していたコスモ・ネオスは翼を広げて空へと飛び立ち、腕の回復の時間を稼ごうとするも、その頭がいつの間にか距離を詰めていた神崎の右手に掴まれ、大地に叩きつけられる。
そうして頭部を起点に地面にめり込んだコスモ・ネオスへ、宙で縦に回転した神崎は断頭台代わりのかかと落としを振り下ろすが、それより先に地中にて腕の治療が完了したコスモ・ネオスが炎とマグマの球体を放つ方が早かった。
そんな回避不能のゼロ距離砲撃を前に、神崎はかかと落としの着点を強引にずらし、顔半分を焼かれながらも、ずらしたかかと落としを軸足として大地ごとコスモ・ネオスの頭をボールのように蹴り上げた。
そうして顎が強引にかち上げられたことで、晒された無防備な胴体へ半身の構えで連撃を放つ。
砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く
砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く
砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く
コスモ・ネオスの手足の関節を、翼を、皮膚を、骨を、内臓を、心臓を、
砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く
砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く
砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く
ありとあらゆる箇所を、心を、精神を砕かんと拳を放ち続けた。
やがて、そんな乱打が暫し続いた後、コスモ・ネオスの膝がガクリと落ちたことを確認した神崎は攻撃の手を止めるが、倒れる筈だった、コスモ・ネオスはギリギリのところで一歩前に出ることで倒れない。
だが、そんな折れぬ闘志を見せるも、倒れなかっただけでは当然、その隙だらけの身に拳を握った神崎から追撃が放たれるが道理。
「神……崎……邪神の力に……負けては駄目だ……気を強く……持って」
しかし、その拳は放たれない。放てない。
そう、神崎はネオスの状態を読み違えていた。
なにせ、ネオスの言葉は最初からおおよそ一貫している。
破滅の光という脅威の存在を十代たちに伝えに来た。
神崎の内から感じた邪悪な冥界の王の力を捨てるように行動。
そして此処まで攻撃され続けているにも拘わらず、未だに神崎の身を案じている。
そう――破滅の光によって狂わされようとも、発言が支離滅裂としていようとも、彼のヒーローの心は何一つとして挫けてなどいなかった。
そんな正義の味方を此処まで追いつめたのは誰だ?
殺す以外の道を砕いたのは誰だ?
破滅の光のせいで狂っている以上、仕方がない処置――本当か?
力を思う存分振るう機会に飛びついただけじゃないのか? 気分よく抑圧を解放したかっただけじゃないのか?
今、己の焼けただれた顔が、嗤っているのか、皮膚が引き攣っているだけなのか、神崎自身も分からない。
『所詮は貴様も我と同じ――破滅を齎すものでしかない』
記憶の世界にて、大邪神ゾーク・ネクロファデスが語った言葉が脳裏に反芻される。
気分が良いよな、力を思う存分振るうのは。色んな技を試せて楽しいよなぁ。破壊衝動のままに、気兼ねなく、相手を叩き伏せてさぞ爽快だろう。たとえそれが――
「神崎、力を……捨てるのは怖い……かも、しれない。だが、そんなまやかしの力に……負けるな……」
自分を案じてくれている相手でも。
「いつだって……やり直せ……」
殺す気で拳を振るった。
それが狂わせてしまったネオスを救う為の拳なのか、心根の違いを見せつけられたゆえの嫉妬なのか、自分の失態を隠す為の愚行なのか、未だ倒れぬ相手への恐怖なのか、際限なく成長を続ける相手の力への危惧なのか。
もはや神崎本人にもよく分かっていない。
あれだけ他者を傷つけることへの躊躇いがあった筈だというのに、それをいとも容易く振り切る程の衝動と共に、思考より先に拳が出た――それだけの話。
『貴様も所詮は我と同じだ』
かつてゾークに告げられた言葉が脳内で反芻される。
だが、放たれた拳は止まらない。
浮遊感を神崎が感じると共に、放たれた拳が当たった幾重にも封印が施された重厚な巨大な門が塵と化す。
『ゲート固定に手間取り申し訳ありません!』
頭の中に響くゼーマンの声を余所に白き石造りの建造物が立ち並ぶ魔轟神界が拳の衝撃の余波によって破壊の爪痕を残し、遅れて響く轟音の最中、赤毛の三つ首の小型の犬や、蛇、猫などの姿をした魔轟神獣たちや、黒い翼が伸びる小柄な人型の悪魔たちが散り散りに逃げていく。
それらの情報を把握した瞬間に神崎は己が身体を冥界の王の力で覆うことで隠した。
精霊界で己の姿を晒す気がないゆえの行為だと、自分の心に言い訳をして。
そんな神崎の隣を一足先に自由落下していたネオスは、白き神殿の空の玉座の前に落ち、その衝撃ゆえか、曖昧だった意識が明瞭さを取り戻していく。
「ぐっ……此処は……」
――精霊界……に何故……
そして仰向けに倒れた動かぬ身体のまま、空を見やれば天を覆う程の巨大過ぎる二対の翼が背より伸びる生物の胚子のような不気味な化け物が目に入る。
「邪悪な、力に……呑まれてしまった……のか? くっ……」
――後がない。彼を止めるには、私の全てを懸けなければ!!
その化け物の内にうごめく力の気配より、その正体を察したネオスだが、そんな化け物より雨霰と鋭利に尖った触腕が放たれ己が手足を貫いていく只中、ネオスは最後の力を振り絞り叫ぶ。
「ネオスペーシアンたちよ!!」
たとえ、己一人で力が足りずとも、助け合うことが出来る――それがネオスたちの力。正しき闇の力。
苦しんでいる誰かを助ける為の力。
「――私に彼を救う力を!!」
やがてネオスの決意を示すように光り輝くその身に、残りのネオスペーシアンたちも光と共に融合し、一体化していく。
「ハァァァアアアアァアアアア!!」
そして、光り輝くネオスの身体が膨れ上がっていき――
「 「 「 クインタプル!! フュージョン!! 」 」 」
光の先より現れる巨大化した強靭な体躯に土色のアーマーを纏う白き戦士が、黄金の翼を広げて拳を握って名乗りを上げる。
「――ゴッド・ネオス!!」
やがて《
「レジェンダリィイィ――――」
「 」
空にて、ガラスを引き裂くような不協和音を轟かせる化け物の頭部の前方に形成されたボコボコと脈動する黒い球体より全てを呑み込まんとする闇の奔流が放たれると同時に――
「――ス ト ラ イ ク ゥ ウ ゥ ウ ウ ウ ゥ ウ ゥ ゥ ゥ ウ ウ ウ ッ!!」
腕を突き出したゴッド・ネオスの両の掌から解放された光の一撃がぶつかり合う。
やがて、その二対の波動のぶつかり合いの余波によって周囲が崩壊していく終着点とばかりに、辺り一帯を包み込む巨大な衝撃波が世界を襲った。
魔轟神's「頼むから帰って」
Q:おい、デュエルしろよ。
A:ネオスたちが自力でデュエルが可能ならば、原作で十代を態々誘拐(おい)する必要もないので、
デュエル運用には色々条件があると判断させて頂きました。
原作にて、衛星兵器を物理で破壊していたネオスを信じるんだ!