マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
ねぇ――キミを案じてくれる正義の味方(ヒーロー)を殴るって、どんな気持ち?














最高に楽しいよね


第232話 私にいい考えがある

 

 

 早速ではあるが、時間の針が戻るどころか進み、破滅の光とのデュエルの一件も後始末を含めて完全に収束し、牛尾の負傷も完治した頃、現場復帰の前の念の為の問診にと、ツバインシュタイン博士に呼ばれた牛尾は――

 

 

 

「――魂の()()()()()()

 

 

 

 

 開口一番にツバインシュタイン博士から告げられた発言に首を傾げる他なかった。

 

「それが今、キミの身体で起こっている現象の正体です」

 

「あー、つまりどういう病気なんすか? 破滅の光ってヤツにやられた傷が原因なんすよね?」

 

 主治医と患者のように向かい合ってに椅子に座る両者だが、想定外の結果だったと頭を悩ませるツバインシュタイン博士の危機感は生憎と牛尾には一ミリも伝わっていない。

 

「病気ではありませんぞ。精神が昇華したことで肉体の乖離(かいり)を誘発し、それによって現世への物質干渉する際に弊害を引き起こしておるのです。それに加えて、特異存在への知覚領域が併発したことで、第六感と呼ぶべき――」

 

「――待った。待ってくださいよ。俺も色々勉強はしましたけど、専門的過ぎて訳分かんないっすから」

 

 その為、追加の説明を始めたツバインシュタイン博士だが、KCにて様々な分野について何かと叩き込まれている牛尾にも理解が追いつかない。

 

 とはいえ、今回ばかりは仕方のない話。この現象を正確に把握しているのは現時点の人類でツバインシュタイン博士しかいないのだから。

 

 ゆえに、ツバインシュタイン博士はいつもの具合で簡単な言葉に変換する。

 

 

「簡単に言えばキミは、()()()()()()()()()()

 

 

「へー、そうなんすね」

 

「そうなんですぞ」

 

 そうして凄く分かり易くなった説明に牛尾もうんうんと納得したようにツバインシュタイン博士に合わせて頷くが、此処に来てその動きはピタリと停止。

 

「……………………ぇ?」

 

 やがて油が切れた機械のようにギギギとツバインシュタイン博士へ首を動かして視線を向け――

 

「いや、あの――」

 

「――簡単に詳細の方も説明しますから。どうかパニックを起こさないで」

 

「…………うっす」

 

 思わず席から立ち上がろうとするも、両の手を前に出したツバインシュタイン博士の声に牛尾の浮いた腰は椅子にドカッと落ちた。

 

「怪我をすれば身体は、その箇所を『より丈夫に』修復するでしょう?」

 

 そうして頭を抱えたくなる牛尾の心境を余所にツバインシュタイン博士から例題を交えた説明がなされていくが――

 

「それと同じように、魂と呼ぶべきものへ極度の外的負荷が直接かけられたことによって、人の根底の部分に変質が起こったのです。専門的な話を無視すれば、『魂が強化された』とでも考えてくださいな」

 

「てーと、つまり『強化された魂』に『俺の肉体』が()()()()()()()()――って、ことっすか?」

 

「そんな感じです」

 

 己が辛うじて把握した状態を零す牛尾にツバインシュタイン博士はコクリと小さく頷く。

 

 とはいえ、牛尾からすれば「魂と肉体のバランスが崩れた」結果、「己の命になんか良くない影響が出るらしい」程度の浅い理解だ。

 

 そうなれば次に気になるのは「なんか良くない影響」の部分。最悪の可能性が脳裏に過り、冷や汗が流れる牛尾。

 

「そんな感じっすかぁ……俺、どのくらい生きられるんすかね」

 

「今の感じだと推定ですが、300年くらいじゃないですかな」

 

「300年っすか…………300年!? えっ、いや、ぇっ、300年!? 30年じゃなくて!?」

 

 だが、そんな牛尾の懸念は予想だにしない形で裏切られる。寿命が縮むどころか、延びるのならば、今までの深刻な雰囲気が何だったのかと思っても無理からぬ話。

 

「確かにキミの肉体は『強化された魂』についていけていませんが、『全く』という訳ではありません。その影響が老化の抑制、寿命の延長、特異な力の発現――本当に様々な形として表れている」

 

――この影響がそのまま続けば恐らく牛尾くんは『肉体を必要としない』状態に陥る可能性すらある……とはいえ、不確定な仮説で不安にさせることもないでしょう。

 

 しかし、そう都合の良い話ばかりでもない。今は魂と肉体のバランスの崩壊が「人間的な範疇」に留まっているが、この状態が永遠に続く保証は何処にもないのだ。

 

「なんだ、脅かさないでくださいよ。良いこと尽くめじゃないすか」

 

「今、()()()()()()()()()()――正直な話、キミの身体が今後どんな影響が出るかは完全に未知数です。覚悟だけはしておいた方が良いと思いますよ」

 

 だというのに、安堵の表情で脱力する牛尾へ、ツバインシュタイン博士は脅しに近い形の苦言を呈する。

 

 実際問題、ツバインシュタイン博士が把握できている範囲はかなり少ない以上、明日には牛尾の精神と肉体のバランスが崩れてハジケ死ぬ可能性だって決してゼロではないのだから。

 

「……うっす」

 

「Mr神崎にも話は通しますが、隠す方向性になるでしょうな。キミもモルモットは嫌でしょう?」

 

 そんな言外のプレッシャーに、またまた頭を抱えたくなる気分に牛尾は逆戻りだ。

 

 今、把握できている範囲の寿命の延長、老化の抑制だけでも、人類を狂わせるだけの魔力があるのだから。その誘惑を前に、彼の命など容易く「人類発展の犠牲」という名の炉にくべてしまえる程に。

 

 

 そうして厄介過ぎる立ち位置に陥った牛尾が、不況の煽りを受けてリストラ食らったサラリーマン染みた大きなため息を吐いて項垂れていたが――

 

 

 KCの建物自体を揺らす揺れと轟音、そしてけたたましく流れるサイレンの音にその表情は即座に鳴りを潜めて引き締まり、すぐさま椅子から立ち上がりツバインシュタイン博士をガードするように立っていた。

 

 コブラから受けた軍事訓練が実を結んでいるようである。

 

「ったく、落ち込む暇もねぇな、こりゃ」

 

「――ツバインシュタイン博士! 緊急要請です! ただちにラボまで!!」

 

 だが、血相を変えたギースが、牛尾の懸念を余所に乱暴に扉を開いて一室に駆け付けた姿に「自分の仕事は少なそうだ」と牛尾は肩の力を抜くこととなった。

 

 やがて社内に鳴り響いていたサイレンが止まり、「警報の状態の確認だった」と嘘くさいアナウンスをバックミュージックにツバインシュタイン博士は、ギースの先導に従いこの場を後にする。その前に――

 

「なら、牛尾くん――キミも精霊などが見えるようになる可能性が高いでしょうから。斎王くんにでも色々教わっといてくださいな」

 

「は、はぁ」

 

 軽く指差しつつ告げられた今後の予定に、牛尾は戸惑いつつも頷いた。

 

 

――えぇ……人間やめちまった俺の扱い、軽くないっすか?

 

 

 そんな牛尾の内心の困惑の声に、応えてくれる誰かは生憎と此処にはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正式な手順を踏まずに、なおかつ定められたポイントでない場所へ強引に異次元のゲートを開いたゆえか、オカルト課の研究ブースの一角が廃墟さながらな状態になっている中、別室にてツバインシュタイン博士は肩をすくめつつ、それらを引き起こした下手人へ言葉を零す。

 

「今回は随分と大変だったご様子ですな」

 

 訳知り顔で小さく息を吐くツバインシュタイン博士だが、詳細は精々が――いつも何でもないような装いで留守から戻る相手が、これだけの騒ぎを起こす程の「なにか」があった――程度のことしか分からない。

 

 そんな下手人こと神崎は、ボロボロのスーツでネオスたちを担いで早急に帰還した慌ただしさなど感じさせないように、一度焼かれた事実など伺わせない顔で笑顔を作って見せる。

 

「私の方は、もう治りましたから問題ありませんよ」

 

――あの時の選択はベストではなかったが、ベターだった。いや、これも言い訳か。

 

「ハァ……貴方が多量のデュエルエナジーにより強化された人間とはいえ、死ぬ時は死にますから過信は禁物だと言わせて貰いたい」

 

 内心でネオスとの一戦への反省会をしつつ返答した神崎だが、ツバインシュタイン博士は何度目かも分からぬため息を吐きつつ、諦め混じりの苦言を漏らした。

 

 ツバインシュタイン博士からすれば、純粋な人間の頃から強固な肉体を持っていたというのに、危険を冒してまで更に上を目指す神崎の思想は理解の外である。

 

 なにせ、今回接敵したような破滅の光と戦うなら、他に幾らでも方法があるのだから。

 

「その辺りのお説教はまた今度でお願いします――それで、どうですか?」

 

――どちらにせよ、相手(ネオス)に此方を殺す気は皆無だった以上、致命傷には遠い。

 

 やがて何時もの営業スマイルで語る気がない神崎の姿に、追及を諦めたツバインシュタイン博士は、眼下に並ぶ手術台に括りつけられたネオスたちを見やり困ったように頭をかいた。

 

「どうもこうも、今回のお土産が宇宙人とは……正直、驚きを隠せません」

 

「……イルカ頭の彼は、ドルフィーナ星人らしいですよ」

 

「人類の宇宙学では『ドルフィーナ星』なんて見つけてないんですけどねぇ……」

 

 常日頃なら、神崎のお土産なるオーパーツの数々に破顔させるツバインシュタイン博士だが、流石に負傷した宇宙人ことネオスペーシアンたちが運ばれてくれば戸惑いの方が勝る。

 

 何故、宇宙人である彼らが地球にいるのか。

 

 何故、彼らは怪我をしているのか。

 

 何故、彼らを運んできたのが神崎なのか。

 

 疑問は尽きないが――

 

「それで――彼ら、治せますか?」

 

「うーむ、可能な限り調査してはみましたが、この……ネオスくんたちでしたかな? 彼らの内に二つのエネルギーがこうも反発し合っているというのに、何故生きているのか……」

 

 そもそも今の人類に「宇宙人の治療技術」を期待されても困るのだ。オカルト課の魔法染みた治療方法も、今回ばかりは役に立たない。なにせ、それらの技術は「人間用」にチューンされたものなのだから。

 

 そんな分からないことが多過ぎると言うのに、期待を込めて向けられる神崎の視線がツバインシュタイン博士の困り顔に突き刺さる。

 

「今の段階では、その程度しか言えませんぞ。この安定している状態も何時まで保つか……」

 

「では、反発し合うエネルギーの片側でも除去できれば――そういったお話でしょうか?」

 

「無理ですよ。片側どころか、双方どちらの力への介入も不可能です。我々の技術を大きく逸脱した力ですな、『これら』は」

 

 やがて観念するように軽く両手を上げて首を横に振るツバインシュタイン博士。もはや人間が、ネオスたちに出来ることなど一つである。

 

「正直な話、人類にできるのは彼らを『検体』として扱い、技術革新に繋げる程度が関の山に――」

 

「――精霊界での対処を願いましょう」

 

 だが、その決断は神崎によってバッサリと断ち切られた。

 

「では、私の方でギースくんへ事情を説明しておきますぞ」

 

――その決断を『惜しい』と考えてしまう自分が憎いですな。

 

 やがてネオスたちを担いでKCが所有する精霊界へのゲートへと向かう神崎を見送ったツバインシュタイン博士は、その背に後ろ髪を引かれる思いを内心で吐露する。

 

 

 そう、学者であるツバインシュタイン博士の性が訴える。これは人類の発展の為に活用すべきだと。

 

 治せと命じたからには、神崎は治療した彼らを、故郷の宇宙へ解放するのだろう。

 

 しかし、まだ見ぬ宇宙の果てにいた知的生命体のサンプルを手放すなど、人類史レベルの損失だ。

 

 とはいえ、そんなことを口に出せば、自分の顔面は殴り飛ばされる――ことはなくとも、上級の精霊の鍵の対価を利用して、記憶封印を幾重にも重ねがけされることだろう。

 

 

 だが、己がそんな危ないことを考えていたことを見抜いたのか、ネオスたちを運び終えた神崎が戻って来る姿にツバインシュタイン博士の背中が思わず伸びる。

 

 今更、危険思想でクビにされて、この環境から追い出されるなどツバインシュタイン博士には耐えられない。

 

 どうにか穏便に――と、思わず腕が前にでるツバインシュタイン博士。

 

「研究用は此方を――宇宙人(コスモ・ネオス)の腕です」

 

――本ッッ当! もう! 一生ついていきます!!

 

 だが、その腕に収まった神崎の懐から取り出されたビン詰めにされた宇宙人の腕に、ツバインシュタイン博士の背中は90度に曲がることとなった。

 

 

 

 

 そんな感無量なツバインシュタイン博士を背に、神崎は今度こそその場を後にする。

 

『ゼーマン、今から情報を送る対象を何とか治療できないか掛け合ってみてくれ』

 

『御意に』

 

――ああ、そうさ。分かっていただろう。

 

 そうしてゼーマン経由で伝説の三騎士もしくは、その勢力の中でネオスを治せる相手の手配をする中、今の神崎にあるのは、正義のヒーローを殴り飛ばした罪悪感だけ。

 

 

 しかし、今の神崎にはその罪悪感が何処か心地よい。なにせ、それは――

 

 

――今更止まれるものでもない。そうだろう?

 

 

 未だ、彼が人の心を忘れていない証明なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、意識のないままネオスたちはギースの友人ならぬ友精霊のサクリファイスの手で精霊界に運ばれ、そこに住まう精霊たちの働き掛けにより、ゼーマンの元に送られる。

 

 

 そして、そのゼーマンは白き居城の3つの玉座に座す伝説の三騎士の前にて、膝をつき拳を合わせた形で礼をしつつ、嘆願を行っていた。

 

「この者たちは我らに保護を求めた魔轟神たちの居城にて先日、出現した巨大な化け物を撃退した英傑たちでございます! ですが、その際に相手の力に蝕まれ、今はこの状態……」

 

 ちなみにバックボーンは、神崎が関わった諸々の経緯を誤魔化す為に――

 

 

 伝説の三騎士たちが危惧する邪悪な存在(オレイカルコスの神)の気配を漂わせる化け物(神崎)をネオスたちが、その身を賭して倒した――と言うことになっている。

 

 そう、早い話が破滅の光の浸食を、精霊界に突如出現した化け物(神崎)のせいにしたのだ。

 

 ネオスたちの戦いの余波で、色々心がへし折られた魔轟神たちの陣営が、証言者になってくれた為、信頼性のある情報となろう。

 

 

「どうか、三騎士様のお力でご慈悲を与えていただけないでしょうか! 彼の者の力!! 必ずや三騎士様が願う世界の平和の為に共に歩んでくれるかと!!」

 

やがて深々と頭を下げるゼーマンへ、伝説の騎士――ティマイオス→クリティウス→ヘルモスの順で声が届く。

 

「我らの増援が間に合わなんだ、あの件か!」

 

「星の邪念を祓いし者ならば、我らの同胞も同じ!」

 

「無論、是と返させて貰おう! その者たちを我らの前に!」

 

「ははー!」

 

 やがて、ゼーマンの手により運び終えた深く眠ったように動かぬネオスたちを、三点で囲む布陣にそれぞれ移動する三騎士たちへ、ゼーマンは彼らの手足となるべく、治療の詳細を問うが――

 

「して、此処は何をすれば――」

 

 それを遮るように三騎士たちが、息を合わせたように腰の剣を抜き放ち、ティマイオス→クリティウス→ヘルモスの順で宣言する。

 

「ゼーマンよ、我らはこれより、彼の者の邪念を祓う!」

 

「だが、この者を苛む強大な邪念! 一朝一夕では行くまい!!」

 

「ゆえに汝がすべきことは一つ! 我らが動けぬ間の世への守護!!」

 

 そう、ネオスたちを蝕む邪悪な力ということになっている破滅の光の影響は、伝説の三騎士とて即座に祓えるものではない。

 

 当然、その間、三騎士たちは動けなくなる。だが、三騎士たちの懸念であった邪悪な星の意思(オレイカルコスの神)を討ち払った――ことになっている――ネオスたちの為ならば何のその。

 

「そのような! 願われるまでもなく!!」

 

 やがて己の胸を拳で叩いたゼーマンの使命に満ちた表情に、伝説の三騎士たちは小さく頷き、声を張る。

 

「 「 「 我らが力! 心の光と共に!! 」 」 」

 

「心の光と共に!!」

 

 そして、彼らの間でお決まりのセリフを合図に伝説の三騎士たちが抜き放った剣が地面に突き立てられれば――

 

「我が身、《伝説の騎士ヘルモス》の効果発動! モンスターである《ダイナソーイング》を受ける! フリーダム・ソード!!」

 

 城之内似の伝説の騎士ヘルモスの剣に、四足の白い恐竜のぬいぐるみのような姿が一瞬映った後、大地に光の軌跡が奔り――

 

「我が身、《伝説の騎士クリティウス》の効果発動! 罠カード《ディメンション・ミラージュ》の力を受ける! ウィズダム・ソード!!」

 

 その光の軌跡を受け取った海馬似の伝説の騎士クリティウスの剣に、黄金の縁取りがなされた漆黒の石碑が一瞬映った後、更に大地に光の軌跡が奔れば――

 

「我が身、《伝説の騎士ティマイオス》の効果発動! 魔法カード《渾身の一撃》の力を受ける! ジャスティス・ソード!!」

 

 その光の軌跡を受け取ったアテム似の伝説の騎士ティマイオスの剣に、光り輝く拳を放つ赤いヒーロースーツの戦士が一瞬映った後、大地に光の軌跡が奔り、伝説の騎士ヘルモスの元へ向かえば――

 

 

 これにより、戦闘で破壊されない力で伝説の三騎士たちの身を守りつつ、攻撃される度に攻撃力を1000上げる《ダイナソーイング》の力が!

 

 相手に攻撃を何度も強制させる《ディメンションミラージュ》によって引き上げられていく!

 

 更には互いの戦闘ダメージを0にする《渾身の一撃》の力により、ネオスたちを守り、なおかつ効果破壊の力で、その内の破滅の光を祓う!

 

 

 そう! ネオスたちの内を苛む破滅の光の力へ、毎度1000ずつ加算されていく力が永遠に叩きつけられていく!

 

 

 まさに無限の3乗ループ!!

 

 

 やがて伝説の三騎士たちの剣を起点に三点の正義の光の柱が立ち昇り、その内の邪悪な存在を祓っていく。

 

「 「 「 ぐうぁぁぁぅあぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁあああああ!! 」 」 」

 

「ウケケケケケェぁぁぁあぇぇぇぇええ!!」

 

 だが、そんな光の陣の中にて、各々の内でのたうち回る破滅の力によって、ネオスたちは苦悶の叫びを上げた。

 

「汝らの内に巣食う邪悪な力を祓う為とはいえ、辛かろう!!」

 

「だが、耐えてくれ! 心の光への道を決して諦めてはならぬ!!」

 

「今一度、汝らの願いを胸に、己の心を奮い立たせるのだ!」

 

 そんな彼らにティマイオス→クリティウス→ヘルモスの順で投げかけられる励ましの声に――

 

――十代! 十代ィ! キミが願ってくれたようなヒーローに! 私は! 私はなってみせる! そう! 負けられない! 邪悪な力になど! 決して!!

 

 ネオスの長く孤独な戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてゼーマンより「ネオスは治療中」との知らせを受けていた神崎は、思うところが多かった此度の一件に思案を巡らせる間もなく、いつもの冥界の王の力で影より手や目を生やして動かし仕事に戻っていた。

 

――ネオスたち……治るよな。いや、きっと治るさ。そう信じるしかない。それに今は目の前のことを片付けなければ。しかし……

 

 戻っていたのだが、己が留守中に起こったことの顛末を把握してみれば――

 

――どうしてD-END(ディーエンド)がデュエル中に生えてきたの!? それにコブラさん、デュエルしてないし!! 後、牛尾くん、どうして人間やめてるの!?

 

 神崎がネオスと殴り合っている間に、想定以上に原作ブレイクの嵐が吹き荒れていた。

 

 全部お前のせいだよ――と切って捨てるには少々酷なレベルだろう。

 

 だが、頭を抱えていても問題は解決してくれないことは神崎も良く知っている為、一つ一つ処理していくしかない。

 

「落ち着こう。一つずつ片づけていくんだ……」

 

――千里眼グループは……まぁ、いいか。1000億の大仕事消えたけど、きっと大丈夫。

 

 だというのに、速攻でぶん投げられる千里眼グループ。

 

 原作ではこの会社が《Dragoon(ドラグーン) D-END(ディーエンド)》を1000億円かけて生み出していた背景がある。

 

 とはいえ、元々会社としては大きく土台もしっかりしている為、未来の仕事の一つや二つがなくなったところで、大勢に影響はなかろう。

 

「コブラさんから現組織形態への陳述書――いや、これは『もっと情報寄こせ』との話だよな……」

 

 そうして早々に問題を片づけた神崎だが、此方の方は先ほどのようにぶん投げる訳にもいかない。

 

 なにせ元軍属として、その手の問題に非常に優秀なコブラからすれば、神崎から捻出される「出所が不明な不自然な情報」から、原作知識の正体に辿り着く可能性は決して絵空事ではないだろう。

 

 シャーディーの二の舞は避けたい神崎からすれば、最低でも己から矛先を逸らすだけの「なにか」は提示しなければならない。

 

「セキュリティの創設は現時点では時期尚早だ……」

 

――いや、それ以前にGX時代にセキュリティを設立すると今度こそイリアステルに殺されかねない……仕込みがあるとはいえ過信は禁物だろう。

 

 だが、セキュリティを強引に設立して立場で縛ろうにも、ただでさえ原作という本来の歴史がぶっ壊れまくっている以上、イリアステルを刺激する手は神崎とて避けたいところ。ゆえに――

 

「となれば、自発的に情報収集して貰うか」

 

――下手に此方から開示しない分、シャーディーの時のようなことは避けられるだろう。此方に踏み込まれそうになれば、ギースから私に報告がなされる、と。

 

「確か、剛三郎殿が社長だった時代にギースがその手のチームを組んでいたから、KCから人員は捻出できる筈――あった。あった。後は希望者を募れば良いか」

 

 過去にKCのオカルト課にあった既存組織を復活させる方向に舵を取る――とはいえ、精霊が見えるギースの力を悪用した「盗み聞きor見」をする程度の浅い組織だが。

 

 

 素直にうまい具合に原作知識を明かす――が、選択肢にないのが彼らしい。

 

 

 そうして昔の書類を引っ張り出し、新しい人事の書類を作る傍ら、牛尾の健康診断記録を手に神崎は笑顔を崩さないまま難しい顔を作る。

 

「これで残すところは…………目下一番の問題になった牛尾くんの件――厄介なことに先が一気に読めなくなった」

 

――牛尾くんの年齢がバグったせいで、彼の年齢から原作5D’sの開始時期の推察が叶わない。

 

 そう、既にご存じであろうが、牛尾は「遊戯王DM」だけにとどまらず「遊戯王5D’s」でも登場する特殊な立ち位置なのだ。

 

 つまり、牛尾が寿命で死ぬ前までの間にDM→GX→5D’sの流れがあることを意味し、この3シリーズが人間の寿命である「凡そ100年以内」に区分できる――筈だった。

 

 だというのに、ツバインシュタイン博士の現時点の予想が「300年くらい生きるかも!」「でも増えるかもしれないし、減るかもしれない」な「つまり正確な部分は分からないのね?」な状態な為、完全に当初の思惑は潰えたといっても過言ではない。

 

――アテが外れた以上、不動博士の存在確認まで保留か。

 

 ゆえに神崎は今後、大学やら研究所やらをチョイチョイ回り蟹型ヘアーを探す日々が続くことだろう。

 

――あぁ、不動博士の奥さんも探さないと。別の人と結婚したら不動 遊星が消えるんだよな…………それに、パラドックスの時に不動くんが何か言いたげだったことも気になる。

 

 それに加えて、不動博士の妻――つまり、遊星の母にあたる人物も探さねばならない。無事に原作通り進む保証なんて何処にもないのと、現在進行形で思い知らされているばかりなのだから。

 

 

 なお、そんな遊星の母の原作からの情報が「家族写真1枚」という絶望的なものだが。

 

 

 とはいえ、仮に神崎が二人を見つけても、双方の意思を捻じ曲げる訳にはいかないので、最悪の場合は、二人の細胞から試験管ベイビーを生み出すことになるだろう。

 

 その場合は、遊星に謎の属性が追加されるが、詮無きことだ。

 

――……………………………………どうして顔しか知らない相手の花嫁、探しているんだろう。

 

 それは世界の為だとしか言えないが、深く考えちゃ駄目だ。きっとドツボにはまる。

 

 

 神崎の終わりの見えない孤独な戦いは、未だに続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして忙しい日々を過ごすことで、己が内で鎌首をもたげる暴力性などの問題に蓋をして逃避することに成功した神崎は、「Theお偉方の会議」と言わんばかりにBIG5諸共、海馬に呼び出され会議室に集っていた。

 

 やがてスクリーンの前に立つモクバ――の補佐のセラが、服に着られる感が溢れた有様でリクルートスーツに身を包み、今回の議題の口火を切った。

 

「今回の議題は『アカデミアの成績不振』に関してです」

 

 そう、モクバたちの元に預けられたプラナたちは各々がKCの各部署に根を下ろすことに成功したのだ。やはりシャーディーから「新たな世界に相応しい」と選ばれるだけあって、個々のスペックは高かったのだろう。

 

「設立当初、海馬 瀬人自ら音頭を取っていた時期は目覚ましい躍進を遂げていましたが、離れた時期から見え始めた低迷が無視できない状態になっております」

 

 そして今回の議題であるアカデミアの現状を述べていくセラ。

 

 

 デュエルアカデミア――それは遊戯王GXの舞台となる孤島へ海馬が建設した学園。

 

 原作でも「歴史深く栄えあるアカデミア」と称される程に卒業することが大きなステータスとなる名門校――との触れ込みなのだが、原作主人公である十代が入学した時期は「酷い」の一言である。

 

 オベリスクブルーという最上位の実力に位置するクラスだというのに大半が微妙な実力しか持たず、精神面も弱者を見下し、強者に媚びへつらう酷い有様。

 

 真ん中に位置するラーイエローも、そんな半端者ばかりのオベリスクブルーを前に、歯向かう気概もない者たちばかり。

 

 最下層のオシリスレッドに至っては「カードテキスト読めないの? 日本語大丈夫?」レベルの阿呆の集まり。

 

 

 誰もが「栄え……あるの?」と首を傾げたくなる惨状が広がっていたのだ。中には化け物クラスに強い者もいるにはいるが、そんなものは数人レベルである。

 

 

 閑話休題。

 

 

 それゆえか、そんな原作――の前に当たるこの時間軸でも、その片鱗は早くも見え始めていた。

 

 かつては、海馬がオーナーとして自ら学園にて指揮を執り「己がロード」を生徒・教師に叩き込むことで、「栄えあるアカデミア」に相応しい環境と、優れた生徒を輩出していたが、海馬とてKCの長――いつまでも学園にかかりっきりではいられない。

 

 己がノウハウを叩き込んだ以上、後は任せるだけと海馬が学園から去るのは当然だ。

 

 だというのに、海馬が学園から去った時期から、年々アカデミアのレベルが落ち続ければKCとしても、なにか手を打たねばならぬところだろう。

 

 

 ゆえの此度の会合である。

 

「それにより、モクバからも『新しい視点』が必要との主張から、BIG5たちを含め――」

 

「待て、セラ。何故こいつらの――」

 

「黙っていてください、海馬。分校の件は、貴方がモクバに任せた筈です。そのモクバが『必要』と判断した――その決定を信じないのですか?」

 

 そうして説明を続けるセラへ、海馬が遮る形で意見を述べようとしたが、その発言がなされる前に即座に制された。

 

 その上で、海馬の補佐に就任していたマニが、モクバのフォローに忙しい磯野に代わって海馬をなだめるも――

 

「海馬、キミが弟を案ずる気持ちはよく分かる。血の繋がりこそないが、私もディーヴァを弟のように思っている。だが、時には――」

 

「あやすような物言いは止めろ、マニ。そもそもの問題はKCで立場の大きい人間がアカデミアに長期的に拘れない点だった筈だ。その点をはき違えるな」

 

 海馬から鋭い視線を向けられ、マニは閉口させられることとなる。

 

 そう、海馬とてBIG5への嫌悪感で口を出した訳ではない。

 

 如何に能力があれども海馬には到底及ばないBIG5たちでは、KCとアカデミアの二足の草鞋を履こうにも、必ずどちらかは片手間になってしまうだろう。

 

 そんな決定をアカデミアのオーナーの立場を持つ海馬は許す訳にはいかない。ゆえに「其方を先に明かせ」と海馬の試すような挑発的な視線が向けられた先にいたモクバは、応えて見せるとばかりに拳を握って前に出た。

 

「安心してくれ、兄サマ! BIG5のヤツらを関わらせる訳もキチンとあるぜい! 俺……僕の計画は――」

 

「ぐふふ、モクバ様。この場は身内しかいないのですから無理に口調を正さずとも良いのではありませんかな?」

 

「茶化してやるな、大瀧。背伸びしたいお年頃なんだろう」

 

「儂の工場とは特に関係ない話だろう? 帰っていいか?」

 

 出たのだが、《ペンギン・ナイトメア》の人こと大瀧、

 

 《人造人間サイコショッカー》の人こと大門、

 

 《機械軍曹》の人こと大田の怒涛のおっさんラッシュが、その歩みを妨げる。

 

「静粛に」

 

「ヒェッ!?」

 

 そんな説明の途中で茶々を入れるおっさん共をセラがバンと壁を叩いて周囲の意識を集めて警告――それにより、《ペンギン・ナイトメア》の人こと大瀧が絞めたペンギンのような声を上げた。

 

「フフフ、おっかないですねぇ」

 

 だが、それらのやり取りを意地の悪い顔をする《ジャッジ・マン》の人こと大岡を余所に、神崎の脳裏に閃きが奔る。

 

――分校か……どのみち本校へ人員を送れない以上、介入は――いや、待て。これはチャンスだ。

 

 まさに「私にいい考えがある」とばかりに、今まで抱えていた問題を纏めて解決できる妙案に確かな手ごたえを感じる神崎。

 

 とはいえ、こういう時は大抵そのチャンスを活かすどころか、見当違いの場所にフライアウェイし続けているが、流石に今回こそはと信じることとしよう。

 

 

 そうして強制的に静寂を取り戻した会議室を満足気にチラと見たセラは直属の上司にあたるモクバに説明の再開を促す。

 

「モクバ――続きを」

 

「おう! 俺は今のアカデミアの一番の問題はその『閉鎖的な環境』にあると考えてるんだぜい! 本校なんかはモロに島の中だからな!」

 

「島内という限られた空間ゆえに、生徒たちが『成績優秀者』という天井にて無意識に蓋をしているような状況です」

 

 やがてモクバの説明にセラが注釈を交える中、《深海の戦士》の人こと大下がポツリと零した。

 

「井の中の蛙といった具合か」

 

 そう、アカデミアの一番の問題は此処にこそある。

 

 

 多くの生徒たちが目指すプロの水準に届いていないと言うのに、教師・生徒問わず「オベリスクブルー」という到達点で満足してしまうのだ。

 

 そうして覚えた満足から天狗になり、自惚れた彼らには、如何にデュエルに注力する為の(環境)があろうとも、宝の持ち腐れ。

 

 そんな生徒たちの尻を叩かねばならない教師たちだが、普段の授業で忙しい彼らに学園の自浄作用の問題への全ての責を問うのは酷な話。

 

「そうだぜい! 今のアカデミアに必要なものは、外からの刺激! 例えば実力派デュエリストを招致しての交流戦とかな!」

 

「ですが、どんな改革も必ず成功する保証は何処にもありません。その為、4つの分校それぞれに別の改革方針を立て、検証比較していきます」

 

 ゆえにモクバが打ち出した改革案が、安く言えば「アカデミアの外にはもっと強いデュエリストがいるよ! 油断してちゃダメだ! 彼らに負けないように頑張ろう!」と学園側へ働きかける計画である。

 

「成程、我々とモクバ様の価値観の違いが、そのまま改革の形に現れる訳だな」

 

 セラにより補足された説明も加味して《人造人間サイコ・ショッカー》の人こと大門も、自分たちにお鉢が回ってきた理由を把握した。

 

 例えば、モクバが語った「実力派デュエリストとの交流戦」を上げれば「生徒たちの心を折らず、向上心を引き出せる人物」が求められる。

 

 とはいえ、そんな都合の良いデュエリストがホイホイ見つかる訳がない以上、色々試していく他ない――が、モクバが全ての指揮を取ってしまえば、どうしても偏りが生まれよう。

 

 それゆえ、別視点としてのBIG5(おっさん)たちの起用だ。

 

「モクバの改革を進めた後、最も現状を好転させた方針を他の分校にも促し、本校にも取り込みを打診していく予定です」

 

「生徒をモルモット扱いかね? 末恐ろしいお嬢さんだ」

 

 だが「手探り」を「実験的」と揶揄した《深海の戦士》の人こと大下が肩をすくめる姿へモクバは声を張る。

 

「やめろよ、大下! 考えたのは俺だ! 今までのやり方で結果が出ていなかった以上、手探りでも改革は必要だろ!」

 

 そう、モクバが言うように海馬がオーナーであるアカデミアが成績不振となれば、連鎖的にKCのイメージダウンにも繋がりかねない。

 

 だが外の目が、大下が揶揄したように此度の件を指さすことも、あり得ない話ではないだろう。

 

 ゆえに大下へ助け舟を出すように《ジャッジ・マン》の人こと大岡が口を開けば――

 

「ご気分を害させてしまったようで申し訳ない、モクバ様。ですが、大下の言うような穿った見られ方をする可能性は十分にあるでしょう? 我らとて尻尾切りされない為の言質くらい貰っても罰は当たらないかと思いますがねぇ」

 

「……そこは安心してくれて構わないぜい! 失敗したからって、お前らをKCから追い出すような真似はしないからな!」

 

「余程のことがあれば別ですが」

 

 そうして、モクバの確約により、一先ずは矛先を収めたBIG5たち――の中で、この議題に興味なさげだった《機械軍曹》の人こと大田は発言0ではバツが悪いのか、ふと海馬に問いかけた。

 

「ところで海馬、貴様は自身の手で本校の改革には乗り出そうとは考えんのか?」

 

「俺のやり方は在任期間中に見せ、結果も出してやった。後に、それを受けて学園をどう運営していくかは、ヤツらが考えるべきことだ」

 

 しかし、海馬は相変わらずの海馬節。

 

 本校の鮫島校長へ目指す先のビジョンと道筋を見せつけた以上、過多に干渉する気は海馬にない。あくまで学園は、海馬が満足しうる好敵手を求めてのもの――手をかけ過ぎては興が削がれよう。

 

 鮫島校長が独自に学園を建て直せば良し、出来なければモクバの計画で建て直せば良し。

 

 どちらにせよ、海馬に損はない。

 

「獅子は我が子を谷底へ――か。キミらしい強者の理屈だな」

 

「せめて信頼と言ってやれ」

 

 《深海の戦士》の人こと大下と、《機械軍曹》の人こと大田が「はいはい、いつものいつもの」

する中、話は纏まったと《ペンギン・ナイトメア》の人こと大瀧が、4つの分校の資料を手にやる気を漲らせながら宣言。

 

「ぐふふ、なら話もまとまったところで――仕事の方に戻りましょうかね! モクバ様が担当する一校を除き、残った三校の割り振りを!」

 

「でしたら、少々お願いが」

 

 そう宣言したのだが、此処で神崎がようやく口を開いて願い出た。

 

「おや、珍しいですねぇ。キミがこの手の話題に食いつくなんて」

 

「そういえば、神崎は今までアカデミアの件からは外されていたな――なら一か所任せてみるか。お前は良くも悪くも型破りだ。変化という点では適任やもしれん」

 

 さすれば、《ジャッジ・マン》の人こと大岡の何気ない発言から、《人造人間サイコ・ショッカー》の人こと大門が「ハブられてたの気にしていたのか」との暖かい視線と共に、自分たちは分校2つで良いと譲歩する中――

 

「お待ちなさい! ペンギンちゃんの憩いの場である氷の城! ノース校は――」

 

 《ペンギン・ナイトメア》の人こと大瀧は、「ノース校」→「周囲が氷に覆われている」→「なら北極」→「愛すべきペンギン」の理屈により、ノース校は譲れないと声を張ろうとするが――

 

――って、完全な男所帯じゃないですか!?

 

「――ノース校を任せましょうじゃありませんか!」

 

 資料にはノース校は「過酷過ぎる立地より現段階では男子生徒のみ」との一文に、譲ることにした――後輩に華を持たせる大人の対応も時には必要である。

 

「相変わらずお前は…………」

 

「そう言ってやるな。こういった過酷な環境での追い込みは、神崎の方針に一番近いだろう」

 

 そんな大瀧へ呆れた視線を向ける《機械軍曹》の人こと大田だが、《人造人間サイコ・ショッカー》の人こと大門の言うように、オカルト課のカリキュラムに一番近い場所とも言えよう。

 

「でも神崎! アカデミアは学校、つまり親から子供を任されてるんだ……あんまり無茶しちゃダメだぜい?」

 

「ご安心ください、モクバ様」

 

 だが、学園で無茶苦茶されては困ると心配げな声を漏らすモクバへ、神崎は小さく手を前に出して「大したことはしない」とフラグ満載なことを確約。

 

 そう、大分前の会議序盤に「私にいい考えがある」と閃いていた部分は、分校の改革ではなく、将来――具体的には原作開始頃――に本校で起こる事件へ対処する為の布石だ。

 

 

 ゆえに、改革の面では、モクバの心配は無用であろう。

 

 

「一人ばかり教師を赴任させるだけですよ」

 

 

 こうして、モクバプレゼンツ――KCの分校改革がスタートするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時計の針を少々進め――

 

 更にところ変わって、海のど真ん中の氷山に囲まれた島――ノース校の内部、西部劇を思わせるウェスタンな装いの学園に舞台を移す。

 

 そんなノース校にて、革ジャンを着た頭髪が後退し始めている丸ぶち眼鏡の顎に青ひげが残る壮年の男――ノース校の校長「市ノ瀬」へ、コブラは此度の学園改革を任されたものとして、私見を述べていた。

 

「――などになります。それとは別に学園の各地に散らしたカードは私が全て回収しておきしょう。今のやり方ではカードを取る時にしか鍛えられない――鍛錬は継続して初めて意味を持つ」

 

 そう、此処ノース校では入学に際し、学園外の極寒の敷地内に散りばめられたカードを最低40枚集めてデッキを組まなければならない。

 

 とはいえ、コブラの言うように「修練の為」というには些か限定的過ぎる手法だろう。

 

「確かに『カードをエサに』は些か前時代的でしたな。生徒のモチベーションを物で釣ろうなどは些か浅慮でした。ただ、カードの回収まで請け負って頂かなくとも――」

 

「お気になさらず、仕事ですので」

 

「これは頭が下がる。では、一先ずの目標として今年の交流戦を勝利で飾りましょう! そしてトメさんのキ――ゴホンゴホン、ノース校を盛り上げていこうじゃないですか!」

 

 やがて学園中のカードを集める大変な作業を自ら買って出たコブラへ、市ノ瀬校長は軽く会釈して礼を告げつつ、案内した場は――

 

「此方が我が校のデュエル場になっております。学園ランキングのトップを目指して丁度、生徒たちでデュエルしているところでして――」

 

 ガンマンが撃ち合いでもするのかと勘違う開けた荒野にて、ノース校中の生徒たちが、あちらこちらでデュエルに興じていた。

 

 市ノ瀬校長の説明の通り、この学園は全校生徒に順位が割り振られるランキング制を採用しており、上位に行けば行くほど好成績で卒業できるシステムである。

 

「みんな! 一度デュエルの手を止めて、注目してくれ!」

 

 やがて市ノ瀬校長は大きく手を叩き、順位をかけてデュエルする生徒たちの注目を集め――

 

「此方、我が校の改革の為に来てくださった専門の講師の方! 『コブラ』さんだ! なんとあのKCで働くデュエリストだぞ!」

 

 一同の視線が集まる中、コブラを紹介すれば、生徒たちの値踏みするような数多の視線が注がれる。なにせ彼らは日々、ランキングを争う殺伐とした環境の中にいる者たち――その気性は「荒くれもの」と言っても過言ではないだろう。

 

「生温いな……」

 

 だが、そんな彼らへ向けてコブラから零れた言葉は辛辣だった。

 

「ああ? なんだ、おっさん?」

 

「交流戦程度を目標とする教師と、学園ランキング如きで満足している貴様らの志が生温いと言ったんだ」

 

 生徒の一人が思わず苛立ち気な様子で言葉を放るが、コブラの態度は何一つ変わらない。

 

「こんな軟弱者どもの中で、お山の大将を気取ったところで、強くはなれん」

 

 ランキングの中で順位を競うと言えば聞こえは良いが、競う生徒たちの実力がお粗末では、おままごとにしかならない。これではたとえ1位になったところでお山の大将が関の山。

 

「教えを与える立場に立つことで見えるモノもあるというのに、互いに師事し合うことも忘れた貴様らが『プロを目指す』などとは――笑わせる」

 

「ライバルを育てろって言うのかよ」

 

「おっさん、情報アドバンテージって知ってるか?」

 

「くだらん戯言だな」

 

 学びの部分でも切磋琢磨せよ、と語るコブラこそを「仲良しこよしの方が生温い」と嘲笑う生徒たちだが、コブラからすれば弱者の戯言でしかない。

 

「衆目に晒されるプロの世界において、己のデッキなど対策されて当然の環境だ。学園程度のランキングで己より低い相手に対策されて落ちる程度なら、プロなど無謀以外の何者でもない」

 

 なにせ、彼らが目指す「プロデュエリストの世界」は、この学園を鼻で嗤えるレベルで過酷なのだ。

 

 常に「最高のデュエル」が求められ、勝利という華を文字通り奪い合うまさに戦国の世。

 

 人気商売である側面もあるにはあるが、どんな人気者でも腑抜けたデュエルをしようものならバッシングの嵐が吹き荒れるだろう。

 

 それらを思えば、生徒たちの志のなんと低いことか。丸腰同然の力と覚悟で戦場に飛び込むなど、死にに行くようなものである。

 

「だがキミたちにとて、私に言わせれば『くだらない』と一笑に付す程度の代物とはいえ、矜持があるだろう」

 

 ゆえに、コブラが最初にするべきは学園そのものではなく、「生徒たち」の「意識」改革。

 

 教育は飴ばかりが能ではない。時に鞭も必要だ。

 

「かかってきたまえ」

 

 やがてデュエルディスクを構えたコブラは、ノース校の全ての生徒が集まるデュエル会場におり、人差し指で挑戦者を募るように挑発。

 

 

「誰か一人でも私に勝てたのならば、大人しく引き下がってやろうじゃないか」

 

 

 これが此処ノース校に、悪魔(鬼教官)が降り立った瞬間だった。

 

 

 

 







万丈目サンダー「えっ?」

おジャマ・イエロー「えっ?」

アームド・ドラゴン's「えっ?」


Q:牛尾さんが!?

A:作中の年齢的にどう考えても全作品に登場できる訳がないので、
年齢の方をバグらせることで諸々の問題を、解決させて頂きました。

やったね、牛尾さん! シリーズ皆勤賞だ!



Q:デュエルアカデミアのブランドは海馬社長が先導して作り上げたものなの?

A:原作の様子を見るに、鮫島校長が原作内で語られる程のアカデミアブランドを積み上げたとは
到底考えられなかった為、今作では独自設定を定めさせ頂きました。

流石に「己が力で這い上がって来い!」な海馬社長もアカデミアが軌道に乗るまでは面倒見るかと。


Q:作中でノース校が酷い言われようだったけど、そんなに酷いの?

A:原作では、成長途中だった1年生の頃の万丈目がトップに立てる程度のところです。

ランキングシステムも、新入生狩りくらいにしか機能していなかったと思われます。

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