マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前話の後書きにて、アカデミア編が始まると言ったな――あれは嘘だ。



前回のあらすじ
セブンスターズ編「…………」

ダークネス編「…………」

???「流石は(原作)崩壊した地獄を見て来た者たちだ――面構えが違う」





GX編 第2章 原作3年前のアカデミア編 遊戯王BK――Blizzard King
第234話 キミの瞳に何が見える?


 

 

 アカデミア本校が建つ島の内部に建てられた特待生寮の地下にある、岩肌の壁に囲まれた儀式場のような円形に広がる薄暗い空間にて、素顔を灰色のローブで覆い隠した黒衣の男に向けて通信機より影丸の年齢を感じさせるしゃがれた声が響く。

 

『アムナエル、1年という短い期間でよくぞ此処までの成果を上げた。だが、残念ながら時間切れとなる――直ぐに戻れ』

 

「少しだけ待ってくれ、影丸。ダークネスへの強い素養を持つ生徒がいた。彼を利用すれば次こそ、必ず成功する……後一歩なんだ」

 

 そんな帰還要請に対し、素顔を灰色のローブで覆った男「アムナエル」は彼らが願う「不老不死」を成す研究は、後一歩で完遂されるのだと語るが――

 

『止せ、海外留学としていた生徒たちの失踪を勘付かれた以上、そこも安全とは言えん。鮫島ならまだしも、蛇の道を知り尽くした相手の目を誤魔化せはせんぞ』

 

 既にアムナエルは少なくない回数、実験の際に生徒を異世界に存在する闇の中に沈めており、影丸が手回しした隠蔽も限界に来た以上、もはや一刻の猶予もない。

 

「だが、キミの身体は限界に――」

 

『まだお迎えは先だ。その検体への実験は、ほとぼりが冷めた後ならば幾らでも機会があろう』

 

 しかし、それでもアムナエルは諦めきれなかった。なにせ、自分はともかく寿命が近い影丸は特殊な培養液に浸したガラス張りの生命維持装置の中でしか生き永らえるのは困難だ。

 

 KCのオカルト課も「寿命を延ばす」などの人道に外れる商品は取り扱っていない――いや、仮に取り扱っていたとしても、売りはしないだろう。

 

 そうして続いた励ますような影丸の言葉にアムナエルの中で迷いが生まれるも、悔し気に握った拳から納得している様子は見られない。

 

『儂に友の身を案じさせてくれ』

 

 やがて、その通信を最後に、地下の一室より一つの影が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晴天広がるアカデミア本校にて、青縁の入った白いアカデミアの制服を着た黒の長髪の青年が、携帯片手に焦ったように駆けていた。

 

 

――頼む。ボクの思い過ごしであってくれ……!

 

 

 その青年の名は「天上院(てんじょういん) 吹雪(ふぶき)」――デュエルアカデミアの1年生であり、最上位のクラス「オベリスクブルー」に配属される実力者だ。だが、それだけではない。

 

 彼は同時に、アカデミア中等部から高等部に進学した若き天才エリートデュエリストの卵でもある。

 

 その実力は、吹雪の親友2人を合わせて「アカデミアの三天才」と評される程だ。

 

 学園側も彼らを含めた成績優秀者には期待しており、オベリスクブルーの生徒の下宿先、俗にいう「ブルー寮」とは別の「特待生寮」を用意する力の入れようを見れば否が応でも頷けよう。

 

 そんな具合に特待生寮にて仲間たちと切磋琢磨した吹雪は、その甘いマスクも相まって「ブリザード・プリンス」と自称――もとい評されている。

 

 

 だが、そんな吹雪が持つ携帯から島外のアカデミア中等部に在学中の2年生である愛しの妹、明日香(あすか)の大きなため息がなされた。

 

『アカデミアの三天才? 何を言っているの兄さん? はぁ、プリンスに続いてまた新しいのを考えたのね……そもそもブリザード・プリンスはキザ過ぎ――あんまり広めない方が良いと思うんだけど……』

 

 ここにきて吹雪の経歴が全否定される。

 

 若干以上に辛辣な発言だが、明日香とてハジケが過ぎる吹雪の言動・行動に頭を悩ませてきた過去があるのだ。天性のお祭り男の肉親となれば、その気苦労は笑えまい。

 

 だが、此処で駆けていた吹雪の足はピタリと止まり、その顔が絶望に染まった。

 

「何を言っているんだ、明日香! ボクと(りょう)! そして藤原(ふじわら)の3人でそう呼ばれていたじゃないか!!」

 

 そんな中、吹雪は、明日香の発言が信じられないとばかりに、縋りつくように声を張ったが――

 

『……用事がそれだけなら切るわよ。これからジュンコとももえの2人で遊びに行く約束があるの』

 

「明日香、待ってくれ! 中等部時代、何度も会って話しただろう! 藤原(ふじわら) 優介(ゆうすけ)だ! ボクの親友の名を本当に覚えていな――」

 

『もう、知らないったら! いい加減しつこいわよ! 後、あんまり亮を困らせちゃダメだからね。じゃ』

 

 切羽詰まった様子で語られる吹雪の言葉を「聞いたこともない」といった具合でバッサリ切り捨てた明日香との通話は切れ、ガチャリと無機質な機械音が吹雪の耳に響く。

 

「明日香! 明日香!! くっ、学園の外の人間なら違うと思ったのに……!」

 

 やがて通話の途切れた携帯へ呼びかけるが、生憎とその声は既に届かない現実に、吹雪は悔し気に拳を握って叫ぶ。

 

「誰も藤原のことを覚えていない! どうしてなんだ!!」

 

 そう、吹雪の親友の一人、「藤原(ふじわら) 優介(ゆうすけ)」の存在が一夜にして消えたのだ。

 

 ただの失踪ならば、話は簡単だったのだが「周囲の人間から藤原に関する記憶だけが消えている」不可解な事件である事実が吹雪を追い詰める。

 

 吹雪と共に「三天才」と呼ばれ、学園で知らぬものがいない人物を「吹雪以外」誰一人覚えていない。

 

 誰に藤原のことを聞いても困惑され、逆に吹雪の体調を気遣われ、時にふざけるなと注意され、世界全てから「おかしいのはお前だ」と指さしてくるような感覚に晒される日々。

 

 

 吹雪の頭は、どうにかなりそうだった。

 

 

 しかし、それでも吹雪が藤原という「自分以外、誰も知らない相手」を信じられていたのは――

 

「彼と過ごした日々は嘘じゃない! それはボクたちのデッキが教えてくれている! なのに!!」

 

 自分のデッキに、藤原とのデュエルを想定したカードが投入されている事実。アカデミアのトップエリートである吹雪は、そういったカードを意味もなく投入するデュエリストではない。

 

 そして、その僅かな違和感は、アカデミアで藤原と頻繁にデュエルする面々のデッキにもみられた。

 

 それだけあれば皆に記憶がなくとも、藤原がいた軌跡は残っているのだと吹雪は信じられる。

 

「なのに、どうして……どうして、誰も覚えていない……んだ」

 

 しかし、それでも誰一人理解者のいない状況は、着実に吹雪の精神を苛んでいた。

 

「騒がしいな、吹雪」

 

 そんな中、項垂れる吹雪に声をかけたのは吹雪と同じ青縁の白いアカデミアの制服に袖を通す藍色の長髪の青年。

 

 彼は、三天才の最後の一人「丸藤(まるふじ) (りょう)」――「皇帝(カイザー)」と称される優れたデュエリストである。

 

「亮……」

 

「どうした? 藤原 優介という生徒は見つかったのか?」

 

「そんな他人行儀な呼び方をしないでくれ! キミの親友でもあった男なんだぞ!!」

 

 しかし心配気な言葉と共に己が肩におかれた亮の手を、吹雪は苛立ち気に払った。

 

 八つ当たりだ。それは吹雪も理解している。だが、あれだけ仲の良かった相手を「見知らぬ他人」のように語る亮の姿が、吹雪には我慢がならなかったのだ。

 

 そうして親友の手を思わず払ってしまった吹雪の顔に後悔の念が映る中、亮は払われた己が手をじっと見た後、吹雪の瞳を真っすぐ見定めて返す。

 

「やはり、いつものおふざけではないようだな」

 

 その亮の瞳は、藤原について語った吹雪の言葉をしかと受け取った真摯な色が見える。

 

「…………信じて、くれるのかい?」

 

「ああ、最初はいつもの冗談だと思っていたが――お前は、こんな性質の悪い嘘は決して吐かない男だ」

 

 藁にも縋るような気持ちで零した吹雪の言葉を、亮は力強く肯定した。吹雪はお祭り男の性分が強いが、誰かを傷つけるような真似は決してしない。

 

「藤原 優介に何があるのかは分からないが、お前の言葉を疑ってしまった俺を許してくれ。俺も特待生寮の生徒たちへの立て続けの海外留学に、不穏な気配を感じていたんだ」

 

 そうして親友からの悲痛な訴えを見逃してしまった件に頭を下げる亮へ、吹雪は助力を願うように掌を差し出した。

 

「……亮! キミってヤツは!」

 

「校長室に向かおう。師範なら、きっと力になってくれる筈だ」

 

「ああ!」

 

 かくして互いに握手で和解した二人は、亮に「サイバー流」というデュエル流派を過去に教えた師でもある人物――アカデミア本校の校長こと鮫島校長がいる校長室へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで校長室にてデスクに座る、アカデミアの制服に似たデザインのベージュの教員服に身を包んだスキンヘッドに顎髭が特徴の恰幅の良い壮年の男「鮫島」こと鮫島校長から――

 

「申し訳ない、吹雪くん。今の私にできることは何もないんだ」

 

 学園側が動くことは出来ない旨を知らされた。

 

「くっ……やっぱり、鮫島校長もボクがおかしいだけだと仰りたいんですか!!」

 

 吹雪も予想はしていた返答だった。大半の人間から見て「吹雪の頭がおかしくなった」との結論に達することだろう。

 

 だが、吹雪とて此度の事件を証明する糸口程度はあるのだと、鮫島校長のデスクに赤い宝玉が光る矢じりのような形状をした目元を覆う為の黒い仮面を叩きつけた。

 

「でも、藤原から託されたこの仮面を調べて貰えれば何か分かる筈です! お願いします!!」

 

「そうではありません――この出自不明の仮面が何で出来ていたとしても、キミが言う『藤原 優介』なる人物の失踪の明確な証拠に繋がらない以上、大々的に動く大義名分にならないのです。この学園を守る者として、いたずらに混乱をばら撒く真似は出来ないのです」

 

 そう力強く説得する吹雪だが、鮫島校長からの返答は変わらない。

 

 なにせ世の中にはルールがある。法と言っても良い。そんな人間が生み出した決まり事は「世界中でただ1人の生徒だけが認識する人間を探す」ことを許しはしないのだ。

 

 吹雪が個人的に調べようにも、知り合いへの聞き取り調査すら嫌悪感を向けられることだろう。「吹雪以外に誰一人として認識していない相手」のことを根掘り葉掘り聞いてくる行動など傍から見れば異常者以外の何者でもないのだから。

 

 そして吹雪の要望を受け、多くの人員を費やして大々的調査するとなれば、問題はより大きくなる。

 

 人のプライバシーを覗き見る真似も必要になろう。物々しい調査は生徒たちの不安を煽ることになろう。就職や進学に忙しい学園の3年生の邪魔をすることになろう。調査する人員の規模によっては他の業務にも支障が出かねないことになろう。etc.etc

 

 細かな例を挙げればキリがない。

 

 鮫島校長にとって――いや、デュエルアカデミアにとって吹雪の要請に応えることはデメリットがあまりにも大き過ぎた。

 

「待ってください、師範! 確かに吹雪はお調子者(お祭り男)な面もありますが、こんな嘘を吐く男ではありません! それは俺が誰よりも分かっています!」

 

 だが、此処で亮が一歩前に出て吹雪を援護する。確かに明確な証拠と呼べるものは何もない。しかし友人として吹雪をよく知る亮からすれば、自分たちにこそ異常があると思えてならない。

 

「それに不自然に続く特待生寮の生徒の海外留学も何かがおかしい!」

 

 このところ亮のクラスメイトである特待生寮の生徒たちが次々と海外留学しており、音沙汰もない。それらも加味した上で危機感を持って訴えるのだ。

 

「師範! 俺たちの手に負えないなにかが、起こっているのかもしれません! オーナーに! 海馬社長に連絡を!!」

 

「確かに、今大きな何かが動いていることは私も感じております」

 

――影丸理事長が何やら企んでいる気配もある……だが、相手の狙いが分からない今、下手に動いて、生徒たちを危険に巻き込む訳にはいかない。

 

 しかし鮫島校長は頑なだった。なにせ此処は「島」という逃げ場のない場所である。それに加えて「学園」という性質上「守るべき大勢の生徒を抱えている」も同義。

 

 相手の狙いも分からず、不確定な情報を前提に動いて万が一のことがあれば、今以上の混乱や、生徒から犠牲者が出る可能性は決して低くはない。

 

「だとしても、それは一生徒である貴方たちが踏み入るべきことではありません」

 

「ですが師範……」

 

 言外に「吹雪の個人的調査」へ釘を刺し、「己が個人的に調べる」旨を告げた鮫島校長の姿勢に、吹雪の苦悩を知る亮は苦虫を嚙み潰したような表情を見せるも――

 

「亮、分かってください……」

 

――近々KCより監査が入るとの話があった。その時に何かが見つかれば……

 

 思慮を巡らせつつも「今は」と深々と頭を下げた鮫島校長の姿に、亮は拳を握って出かかった言葉を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて校長室を後にし、建物の外に出た吹雪と亮だったが、亮は沈痛な表情で吹雪に告げる。

 

「済まない、吹雪。大見得を切っておいて……」

 

 亮の「自身の師ならば」との提案。だが、彼が考えている以上に「学園を経営する者」という枠組みの中にいる鮫島校長は、不確かな情報や憶測で安易に動くことを許されぬ立場だった。

 

 しかし、それでも表立って動けないなりに手を尽くす姿勢を見せた鮫島校長の言葉を亮は信じるが――

 

「だが、師範にも考えがあっての――」

 

「いや、良いんだ、亮。ボクもこんな荒唐無稽な話、直ぐに信じて貰えるとは思っていないよ――でも、キミが信じてくれて嬉しかった」

 

 吹雪はどこか諦めるように「気にしていない」と小さく首を横に振った後、亮の視線を真っすぐと見て告げられた言葉に、亮は己が無力さに顔を背けた。

 

「吹雪……力になれず、本当に済まない……!」

 

「気にしないでくれ――鮫島校長はああ言っていたけど、ボクはボクなりに手を尽くしてみる。今までありがとう、亮」

 

「そう……か。俺も師範の邪魔にならないよう調べてみる。夜に報告し合おう」

 

「ああ、灯台で落ち合おう」

 

 かくして吹雪は特待生寮へ、亮はアカデミア本校の建物へと二手に分かれ、手掛かりを探すこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この決断を後悔するとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特待生寮の藤原がいたとされる部屋にて、吹雪は家探しするも「空き部屋」とばかりに整頓された光景は、人が住んでいた気配すら感じさせない。

 

「部屋の方にも痕跡はなかった……手がかりになりそうなモノは、藤原から託されたこの仮面だけ」

 

――誰も彼も藤原の存在を覚えていなかった。やっぱり……おかしいのはボクの方なのか?

 

 調べれば調べる程に、集まる情報全てが藤原の存在を否定する。そんな早くも手詰まりが見え始めた状況だが、吹雪には別の方針があった。

 

――なら、この仮面の情報から真相を探ってみよう。手がかりになりそうなものは……

 

 そして考えを巡らせれば、最近赴任した錬金術の授業を受け持つ前髪を左右に分け、長い黒髪を後ろでまとめた眼鏡の教員の男、「大徳寺」から告げられた言葉が脳裏を過る。

 

『吹雪くん、生憎「藤原 優介」という人物に心当たりはないですが、その仮面に特別な力が宿っていることは分かりますニャ。もしその力に興味があるなら、特待生寮の地下に何時でも来てくれて大丈夫ですニャ』

 

 その教員は吹雪が託された仮面の正体を知っているような口ぶりだった。

 

 ただそう告げられた時は、消えた藤原を学園中探し回っていたため、そのことは今の今まで頭の隅に放置していた次第である。

 

――そういえば大徳寺先生は、藤原がボクに残したこの仮面のことを話していたな。今に思えば怪し気な話だったけど……

 

 しかし仮面の正体を知っているということは、藤原の消失に関与している可能性もあり、危険性は言わずもがな。

 

――今は手掛かりが少しでも欲しい。鮫島校長と近しい亮を呼べば相手が警戒して出てこない可能性もある。やはり此処は!

 

 だが、藤原の捜索の突破口を求めていた吹雪は危険を承知で誘いに乗る。虎穴に入らずんば虎子を得ず――荒唐無稽な話に僅かでも現実味が帯びれば、鮫島校長も動けよう。

 

 そうして、吹雪は空き部屋を後にし、この特待生寮の地下へと進む階段に向けて駆けていく。

 

 その先に、藤原を救う道があると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター……どう、して……』

 

 (藤原)を想うその声は、吹雪には届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで特待生寮の壁代わりの剥き出しの岩肌が広がる地下室にて、吹雪の声が木霊する。

 

「大徳寺先生ー! 吹雪です! 天上院 吹雪です! あの時のお話を聞きに来たんですが、いないんですかー?」

 

 だが呼びに呼べども返答はなく、魔法陣でも描いたような跡が残る石畳の上に散乱する書物や資料が並ぶばかりで、肝心要の大徳寺先生の姿は欠片も見当たらない。

 

――おかしいな。今日は大徳寺先生の授業もなかったし、あんな提案をした以上、ボクを待っているものだと思ったけど……それに。

 

「この散らかり具合……まるで夜逃げでもしたみたいじゃないか」

 

 やがて「様子がおかしい」と足を止めた吹雪は、顎に手を当て困ったように首を傾げて見せる。

 

 なにせ、部屋の様子を見れば「地面に何らかの陣を書いている途中で慌てて逃げ出した」ようにしか見えない。明らかに吹雪を誘うような発言をした相手の部屋にしては、腑に落ちない点が多かった。

 

 やがて吹雪は、大徳寺先生との接触を内心で諦めつつ、手掛かりを求めて石畳の上を転がる書物の一つを手に取り調査を始めていくも、一見さんお断りとばかりに専門的な用語の羅列に困ったように頬をかいた。

 

「流石にボクが分かる範囲は少ないか。こっちは、なんだろう……『ダークネス次元への次元干渉』? 別次元なんて、ロマン溢れるテーマだけど――!? この仮面……!? まさか――」

 

 たが、パラパラとページをめくった先に「自分が持っている仮面の記述」を見つけ、その目を見開いた。

 

 やがて、可能な限り周辺の書物や資料の内容を咀嚼した吹雪は、確信に満ちた表情を浮かべるも――

 

「――やっぱり、藤原が向かったのはダークネス次元……儀式の準備の詳細が記されている以上、大徳寺先生が関与していたのか? でも、それなら藤原のことを覚えていないのはおかしい……」

 

 折角手に入れた情報が、逆に新たな謎を呼ぶ結果を生む。

 

 大徳寺先生の研究によって藤原がダークネス次元に飛ばされた――そう考えれば、全ての謎は解けるというのに、肝心要の大徳寺先生に「藤原の記憶がない」事実が、その吹雪の推理を否定する。

 

――でも、あの様子は嘘には見えなかった……なにかトラブルがあったのか?

 

 演技の可能性を吹雪が考えるも、愛の伝道師を自称し、「人の機微」に聡い吹雪には、大徳寺先生が嘘をついているようには思えない。

 

 それに加え、吹雪を利用するのなら「藤原を知っている」と語った方が吹雪をより釣れた筈である。

 

 それをしなかった現実が「大徳寺先生に藤原の記憶がない」ことに真実味を帯びさせた。嘘を吐こうにも「藤原の特徴を知らない」以上、簡単にボロが出るため、相手も避けることは明白だろう。

 

 やがて一先ずの成果を得た吹雪は、目ぼしい資料を見定めて亮との合流を意識するも――

 

「手がかりがない以上、此処を調べた後で亮と合流し…………誰だ!!」

 

 己の視界の端で捉えた不審な人影に声を荒げるも、当の相手は即座に踵を返して逃げるようにこの場を後にする。

 

「待てッ!!」

 

 そうして「逃げる」ということは「やましいこと」があると考えるのが道理だと、吹雪はその人影を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 KCのロゴが見える巨大なヘリコプターがアカデミアに着陸したのも束の間、そんなヘリから降りた面々を迎えた鮫島校長は、来客である一同の代表者である青年を校長室に案内する。

 

「この島は暑いね」

 

「このような唐突な来訪は困ります、乃亜様」

 

 そんな鮫島校長の意識は、向かい合って座る海馬社長によく似た顔立ちの青年「乃亜」に注がれていた。

 

――海馬オーナーの弟「海馬 乃亜」。科学方面に造詣が深い海馬オーナーとは違い、非科学的分野を追求する若き天才との話だったが……

 

「本日はどういったご用件で? よもや、乃亜様が自らアカデミアの監査を担当なされるのですか?」

 

 なにせ、この学園のオーナーである海馬 瀬人の弟(と、いうことになっている)相手の直々の来訪だ。何もない筈がない。

 

 ゆえに、乃亜が明らかに多くの人員を引き連れて来たことから、鮫島校長は前々から通達されていた「学校の実情の調査」かと、当たりをつけるが――

 

「ああ、そのことか。()()()、もう終わったよ」

 

「終わった? これからでは、ないのですか?」

 

「通知を行いキミが受理したその瞬間から監査を始めたんだ。学園の自然な状態を知りたかったからね――今日は、その結果発表さ」

 

 すごい軽い感じで乃亜から明かされた掟破りな監査法を明かされる。さしずめ「近々」の拡大解釈と言ったところか。

 

 そんな具合で、知らぬ間に学園中を調べ回られていた事実に、鮫島校長は乾いた笑い声を漏らした。

 

「はは、貴方も人が悪い」

 

――アカデミアを調べて回るような面々はいなかった筈だが、一体いつの間に……

 

「それで、どうでしたか? 我が校はお眼鏡に叶いましたか?」

 

 学園にいる者として「まるで気が付かなかった」事実を軽口で隠しながら、鮫島校長は明かされる裁定を心配する様子も見せずに結果発表を促した。

 

 なにせ、自身の愛弟子カイザー亮や、その亮に並ぶブリザード・プリンスこと吹雪――そんな優れたデュエリストを輩出できた証明がある以上、過度な心配は二人に失礼というもの。

 

 海馬社長も、この結果には満足する確信が鮫島校長にはあった。

 

「うーん、言い難いけど、こう言ったことは濁しても仕方がないからハッキリ言わせて貰おうかな」

 

だが先程とは打って変わって困り顔を見せた乃亜が、自身の後ろにガードとして立つ黒服グラサンの牛尾から何やら書類の束を受け取ったと思えば、すぐさま鮫島校長に向けて数枚の書類を差し出された。

 

 

「鮫島校長、この解雇通知の書類にサインを頼むよ」

 

 

「ぇ?」

 

 

「依願退職――という形を取るのかな? まぁ、キミの要望は可能な限り応えるつもりだけど、その辺を抜きにして言ってしまえば――」

 

 そうして差し出された書類を前に、ピタリと固まる鮫島校長。ちょっと相手が何を言っているのか理解が追いついていなかった。

 

 

 そんな鮫島校長を余所に、幾ら言葉を濁したところで、無情な現実はなにも変わりなどしないのだと、乃亜は淡々と此度の要件の()()を語って見せる。

 

 

 

「――キミ、クビ」

 

 

 

 社会の荒波が鮫島校長を襲った。

 

 

 

 






この人を外すだけで、原作の問題の半分くらいが消えるんだよね。




Q:鮫島校長がクビ……だと……!?

A:原作開始時のアカデミアの状況を鑑みれば、アカデミアを管理する立場に向いていないのは一目瞭然だから……(震え声)

庇ってくれる都合の良い人(神崎)もいませんし。

詳しくは次回――というか、今章。



Q:えっ!? 吹雪のダークネス化は、大徳寺先生が原因だったの!?

A:原作のダークネス事件の際に、(二)十代から排水溝に流す脅しを受け、魂状態だった大徳寺先生から「天上院くんは元々ダークネスの力を持っていた。自分たちはそれを利用しただけ」との旨を自白しており、

また、セブンスターズ編の吹雪から「儀式場は大徳寺先生が用意した」的な証言もある為、完全に黒です。

そして吹雪に「ダークネスへの高い適正があった」と知っている以上、比較対象が当然いたことになり、「特待生寮の生徒も戻ってきた」との言から繰り返し実験していたと思われます。

早い話、この段階では、まだワルだった頃の大徳寺先生な状態です。


Q:藤原の方は?

A:オカルトへの専門知識もない一介の学生に過ぎない藤原が、その手の魔術的な教本を用意できるとは思えないので、

ダークネス世界に不老不死を求める影丸とアムナエルからの助力があったと思えます。

そうして利用するつもりが、ダークネスから直に強い影響を受けた藤原によって、記憶消去を受けたことで計画が水泡に帰した――と、想定しております。




Q:原作を見るに、アカデミアでの大徳寺先生は、影丸理事長の野望阻止に動いていたんじゃないの?

A:この時点では、原作3年前です。

原作では、吹雪がダークネス化し、戻ってきた際に自責の念から、反逆に至ったのだと、作者は考えております。


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