マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
ダークネス は やみワカメ を くりだした!

でゅえる    せっとく
りあるふぁいと にげる





第236話 悲劇の引き金

 

 

 吹雪とコブラがデュエルディスクを構えた姿に、ダークネスと名乗った仮面の青年はこの場の最後の一人、斎王に向けてチラと視線を向け言葉を投げかける。

 

「そっちのお前は構えないで良いのか?」

 

「私はただの見届け人のようなものと考えてくれて構わない」

 

「ふん、なら3人での変則的なバトルロイヤルだ! お前たちは交互にターンを分け合って貰う。互いのライフとフィールドは別々だが、互いのモンスターの利用は許可してやろう」

 

 しかし、通信機を片手に戦う姿勢を見せない斎王のスタンスに、ダークネスと名乗った青年は、「2 VS 1」の数の利を失った代わりに特殊ルールを設定。

 

 吹雪とコブラが頷いた所作を「異論なし」との合図としてデッキからカードを引き抜いた。

 

「だが、先攻は貰う! ドロー! 魔法カード《手札抹殺》を発動し、全てのプレイヤーは手札を捨て、その枚数分ドローする!」

 

 そして早速とばかりに手札を整えた先から――

 

「《カードガンナー》を召喚!! そして効果発動! オレのデッキの上からカードを3枚まで墓地に送り、攻撃力を枚数×500アップ!」

 

 青いキャタピラの足に赤いボディが生えたロボがガラスに覆われた機械の頭から覗くサーチライトの瞳をピコピコ光らせた。

 

《カードガンナー》 攻撃表示

星3 地属性 機械族

攻 400 守 400

攻1900

 

「魔法カード《妨げられた壊獣の眠り》発動! フィールドのモンスターを全て破壊!!」

 

 途端に巨大な爆発がダークネスのフィールドを覆う。当然、ボロクズのスクラップと化し吹っ飛んでいく《カードガンナー》の残骸。

 

「自分のモンスターだけを!?」

 

「その後、全てのプレイヤーのフィールドに1体ずつ『壊獣』たちを呼び出す。お前たちの個を映したモンスターをな!」

 

 自傷とも言えるプレイングに驚きの声を漏らす吹雪を余所にダークネスが空へと手をかざせば、3つの影が3人のフィールドに大地を砕きながら着地。

 

 ダークネスの背後には、重厚な黒い装甲に覆われ黄金のラインが奔る巨躯を持つコブラのような怪獣ならぬ「壊獣」が金属をこすり合わせるような異音を雄叫びとして放ち、

 

ダークネスのフィールドの

《壊星壊獣ジズキエル》 攻撃表示

星10 光属性 機械族

攻3300 守2600

 

 吹雪の頭上には、巨大な蝶が身の丈を超える青い羽を羽ばたかせ、周囲に疾風を引き起こし、

 

吹雪のフィールドの

《怪粉壊獣ガダーラ》 攻撃表示

星8 風属性 昆虫族

攻2700 守1600

 

 コブラの背後には、黒い鎧を纏ったような人型の巨人が腕組みをしながら佇んでいた。

 

コブラのフィールドの

《多次元壊獣ラディアン》 攻撃表示

星7 闇属性 悪魔族

攻2800 守2500

 

「《カードガンナー》が破壊され、墓地に送られたことで1枚ドローさせて貰うぞ」

 

「何を狙っているんだ……」

 

「今に分かる――見せてやろう。ダークネスの世界で頂点となるモンスターを――魔法カード《死者蘇生》! 墓地より蘇れ、個を超越せし魔龍! 《クリアー・バイス・ドラゴン》!!」

 

 無意味に最上級モンスターを献上するかのようなダークネスの戦法に警戒の色を見せる吹雪を余所に、ダークネスが呼び出したのは巨大な水晶。

 

 その透き通る水晶の内側には巨大な灰色のドラゴンが身体を丸めて収まっていた。

 

《クリアー・バイス・ドラゴン》 攻撃表示

星8 闇属性 ドラゴン族

攻 ? 守 0

攻 0

 

「そしてフィールド魔法《クリアー・ワールド》発動!」

 

「これは……」

 

「《クリアー・ワールド》の中では、モンスターの属性ごとにコントロールするプレイヤーへネガティブエフェクト(デメリットとなる縛り)が与えられる」

 

 周囲が雲の大地に覆われる中、太陽代わりの巨大なクリスタルが天に輝く中、周囲の変化に戸惑う吹雪へダークネスは己が見せつけるように、その(効果)を語っていく。

 

「風属性をコントロールするプレイヤーは魔法カードの発動に500のライフコストが課せられ、闇属性をコントロールするプレイヤーは自軍に2体以上モンスターが存在している場合、攻撃できない」

 

「くっ、ボクたちは互いのフィールドを疑似的に共有している……!」

 

「フフッ、そうだ。お前たちは二重の枷を負う――個性を持つから影響を受ける。そんなものはいらない。個をなくし。全てをダークネスの元に」

 

 そう、ダークネスのデッキの中核たる《クリアー・ワールド》は、個を捨て去ったダークネスそのものと言える効果を持つ。

 

 モンスターを呼び出すだけで様々な枷を強いるのだ。これでは優位に働く筈の数の利も還って逆効果でしかない。

 

「だが、お前だって、その影響は受ける!」

 

「忘れたのか? 《クリアー・バイス・ドラゴン》は何物にも縛られない解き放たれた存在。まさにダークネス。ゆえにこのモンスターに属性はないも同然――クリアー・バイスがいる限り、オレは《クリアー・ワールド》の効果を受けない」

 

 そして当然、吹雪が語ったような問題などダークネスとてクリア済み。

 

「魔法カード《貪欲な壺》を発動し、墓地の5枚のモンスターをデッキに戻し2枚ドローし、カードを3枚セットしてターンエンドだ。オレのターンの終わりにフィールド魔法《クリアー・ワールド》の維持コストとしてライフを500支払う」

 

ダークネスLP:4000 → 3500

 

 己のみ世の(ことわり)を受けぬ様は、まさに《クリアー・ワールド》という世界の神ともいえよう。

 

 

ダークネスLP:3500 手札0

《クリアー・バイス・ドラゴン》 《壊星壊獣ジズキエル》

伏せ×3

フィールド魔法《クリアー・ワールド》

VS

吹雪LP:4000 手札5

《怪粉壊獣ガダーラ》

VS

コブラLP:4000 手札5

《多次元壊獣ラディアン》

 

 

 

 そうして一方的な不条理を受ける吹雪だが、そんなものに負けるデュエリストがブリザード・プリンスなど自称できる筈はなく、速攻とばかりに手札の1枚のカードに手をかければ――

 

「ボクのターン、ドロー! 早速、頼むよ、ボクの相棒! 《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》召喚!」

 

 突如として宙を舞った一輪の薔薇を緑のマントをはためかせながら、その名に違わぬ疾風の速度を以ってつかみ取った豹の戦士が一輪の薔薇を口に加え、両手を頭上に交差させ、背を伸ばすような所作を取った。

 

 頭上にて交わる右手のサーベルと左手の盾がハートを形作っているような気がしないでもない。

 

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》 攻撃表示

星4 地属性 獣戦士族

攻2000 守1600

 

「フッ、随分と時代遅れな相棒だな」

 

 そんなイロモノ感あふれる登場をした《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》を鼻で嗤うダークネス。

 

 なにせ、《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》は攻撃する際に味方を生贄にしなければならない使い難さの目立つカードだ。

 

 ハッキリ言って、同じ攻撃力の通常モンスターでも採用した方が良い場合が大半だろう。

 

「カードパワーだけが全てじゃないよ――ボクは魔法カード《融合派兵》を発動! エクストラデッキの《ミノケンタウロス》を公開し、そこに記された融合素材となるカード! 《ミノタウルス》をデッキより特殊召喚!!」

 

「だが、《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクトにより、魔法カードを発動したお前のライフは500削られる!」

 

吹雪LP:4000 → 3500

 

 しかし、そんなダークネスの挑発など意に介さず、ネガティブエフェクトによりライフを削られながら呼び出されたのは、赤い鎧で上半身を守る闘牛の獣戦士。

 

 己をホームラン予告でもするようにダークネスに向ける姿は何処か雄々しい。

 

《ミノタウルス》 攻撃表示

星4 地属性 獣戦士族

攻1700 守1000

 

「大変だなぁ。そんな雑魚一体呼ぶのにライフが必要だなんて」

 

 とはいえ、ダークネスの言う通り、その攻撃力は1700とライフを払ってまで呼び出した割には頼りない数値だが、吹雪は取り合うことなく、攻め気を崩さない。

 

「魔法カード《死者蘇生》! 墓地から《レスキュー・ラビット》が復活!」

 

「臆さないか――なら《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクトを受けろ!」

 

吹雪LP:3500 → 3000

 

 安全メットを被った小さな兎が登場し、コテンと寝ころび愛らしさを振り撒くも、闇のデュエルゆえにライフの減少は吹雪の肉体と精神を蝕んでいく。

 

《レスキュー・ラビット》 守備表示

星4 地属性 獣族

攻 300 守 100

 

「ぐっ、ハァ……ハァ……《レスキュー・ラビット》の効果! 自身を除外しデッキからレベル4以下の同じ通常モンスターを2体……呼び出させて貰うよ!」

 

 そうしてライフが減る度に得も言われぬ息苦しさを吹雪が感じる中、《レスキュー・ラビット》が首に揺れるレシーバーを連打すれば――

 

「デッキより2体の《幻獣王ガゼル》を特殊召喚!!」

 

 吹雪の左右の背後から、風を切りながら黒いたてがみを持つ獅子のような獣が2体現れた。

 

《幻獣王ガゼル》×2 攻撃表示

星4 地属性 獣族

攻1500 守1200

 

「おいおい、攻撃も出来ない状況で早くもライフが4分の1減ってしまったじゃないか。パートナーの愚行を止めなくて構わないのか?」

 

 これで、このターンに合計4体のモンスターを並べた吹雪。

 

 だが、ダークネスが呆れた姿勢を見せるようにコブラのフィールドに「闇属性」の《多次元壊獣ラディアン》がいる限り、《クリアー・ワールド》によって攻撃は叶わない。

 

 しかし、そんな嘲笑うようなダークネスの言葉に対し、コブラは何一つ反応を見せず沈黙を守ったままだ。

 

「だんまりとは、薄情な男だ」

 

「関係ない……! 友達が今も闇の中で苦しんでいるんだ! なら、今無理をしないで、一体いつするって言うんだ!!」

 

 そんなコブラの姿勢に唾吐くダークネスだが、吹雪は己が胸の内を明かす。(藤原)を救う為に、戦場に立ったのは他ならぬ己の意思。

 

 なれば、息苦しさも苦痛も、全てを踏み越えて先に進むのみ。

 

「ボクはコブラさんのフィールドの《多次元壊獣ラディアン》とボクのフィールドの《幻獣王ガゼル》! そして墓地の《トランスフォーム・スフィア》を除外して手札より現れろ!!」

 

 その吹雪の闘志に応えるようにフィールドに巨大な竜巻が吹き荒れ、その中に《多次元壊獣ラディアン》と《幻獣王ガゼル》が呑み込まれていく中、その竜巻に小さな水のスフィアがチラと見えれば――

 

「大気を統べる麗しの翼! 《The() アトモスフィア》!!」

 

 そのスフィアを起点に伸びた4枚の白き翼が竜巻を吹き飛ばし、水のスフィアを腹部に装着した橙の巨大な鳥が紐のように上り4本の尾を揺らし、吹雪の頭上たる「天」に顕現した。

 

The() アトモスフィア》 攻撃表示

星8 風属性 鳥獣族

攻1000 守 800

 

「《The() アトモスフィア》の効果! 相手モンスター1体を吸収し、装備! そしてその攻撃力を得る! 《壊星壊獣ジズキエル》を吸い込め! テンペスト・ミラージュ!!」

 

 そのいななきより生じた風はダークネスのフィールドの《壊星壊獣ジズキエル》を空へと舞いあげ、《The() アトモスフィア》の腹部の水のスフィアに吸い込まれていく。

 

The() アトモスフィア》

攻1000 → 攻4300

 

――攻撃力3000オーバーのモンスターを失って、微動だにしない……あの《クリアー・バイス・ドラゴン》には、それ程の効果があるのか?

 

「此処で魔法カード《ビーストレイジ》発動! 除外された獣族1体につき、ボクのフィールドの全てのモンスターの攻撃力は200アップする! 除外された獣族は2体!」

 

 盤面が荒らされようとも不敵な所作を崩さぬダークネスへ吹雪は駄目押しとばかりにカードを発動させれば――

 

「《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクト!!」

 

吹雪LP:3000 → 2500

 

 何処からか響く獣の雄叫びが吹雪のモンスターたちの闘争本能を呼び起こし、その力を高めていく。

 

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》

攻2000 → 攻2400

 

The() アトモスフィア》

攻4300 → 攻4700

 

《ミノタウルス》

攻1700 → 攻2100

 

《幻獣王ガゼル》

攻1500 → 攻1900

 

《怪粉壊獣ガダーラ》

攻2700 → 攻3100

 

「だとしても、闇属性がいなくなった今! ボクの攻撃を遮るものはない! バトルだ!」

 

 やがて吹雪の華麗なる獣たちの舞踏会が幕を開く。

 

 彼らの総攻撃力は優に4000を超え、ダークネスがライフを倍要求していたとしても問題ない次元だ。

 

「ボクの友達は返して貰う! 《The() アトモスフィア》で《クリアー・バイス・ドラゴン》を攻撃!! テンペスト・サンクションズ!!」

 

「随分と張り切っているようだが、お前の覚悟などダークネスの前では無力!!」

 

 そして《The() アトモスフィア》の翼より、攻撃力0の《クリアー・バイス・ドラゴン》を容易く両断する風の刃の猛威が降り注ぐが、ダークネスとて黙ってはやられはしない。

 

「罠カード《パワーフレーム》! 己より攻撃力が高いモンスターに攻撃された時! その攻撃を無効にする!!」

 

 放った風が《クリアー・バイス・ドラゴン》の潜むクリスタルに乱反射するように吸い込まれて行けば、巻き上がっていた突風はシュルシュルと鳴りを潜めていく。

 

「そしてこのカードはクリアー・バイスの装備カードとなり、その攻撃力を相手との差だけアップ!」

 

 やがて何処へ消えたのかと風の行方を探せば、クリスタルの内部にて《クリアー・バイス・ドラゴン》の糧となる始末。

 

《クリアー・バイス・ドラゴン》

攻0 → 攻4700

 

「無駄な足掻きは止せ。これ以上、余計な痛みと苦しみを味わいたくないだろう? さぁ、素直に来るが良い。我らダークネスの元へ」

 

 爆発的に攻撃力を上げた《クリアー・バイス・ドラゴン》の姿を証として、ダークネスがサレンダーを提案する。互いの実力差は明白だと。しかし吹雪が返す言葉など一つしかない。

 

「生憎だけど、ボクは闇になど決して屈しない!」

 

「……気に入らないね。なら、存分に足掻かせてやるよ!」

 

 そうして世界を美しいものと信じて疑わないような吹雪の視線を前にダークネスは、此処にきて初めて苛立ちのような感情を見せながら宣言した。

 

「《妨げられた壊獣の眠り》で呼び出された『壊獣』たちは、攻撃可能な場合、必ず攻撃しなければならない!!」

 

「ガダーラが!?」

 

「お前が呼び出した《The() アトモスフィア》の力が! 個が! お前に牙を剥く!!」

 

 するとダークネスの言葉に従うように吹雪のフィールドの《怪粉壊獣ガダーラ》が蝶の羽を羽ばたかせ始めた。

 

 この戦闘で発生するダメージは1600――残りライフ2500の吹雪には耐えられる数値だが、残る900ライフでは、今度は《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクトがその首を絞める。

 

 魔法を多用する吹雪からすれば致命的なダメージだった。

 

「己が個を呪うんだな!」

 

 やがて本能に逆らえず、《クリアー・バイス・ドラゴン》に突撃するべく高く飛翔した《怪粉壊獣ガダーラ》。

 

 生憎と今の吹雪にその愚行を止める手段はない。

 

 ゆえに訪れるであろう手痛いダメージに身を構える吹雪。

 

 

 だが、それらの前に突如として紳士服に身を包んだ二足で立つウーパールーパーが傘片手に現れた。

 

《ジェントルーパー》 守備表示

星4 光属性 爬虫類族

攻1200 守1000

 

「……なんだ? このモンスターは?」

 

「相手の攻撃宣言時に手札の《ジェントルーパー》は特殊召喚できる――変則的なバトルロイヤルである以上、吹雪くんの攻撃も『相手』だ」

 

 その傘を開いてクルクル回す《ジェントルーパー》を呼び出したコブラは、淡々と語る中――

 

「そして相手はこのカード以外を攻撃対象にできない」

 

「だが、《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクトは受けて貰う! それによりお前たちの手札を公開!」

 

「助かります! パンサーウォリアー! ガダーラを生贄とし、《ジェントルーパー》を攻撃だ!」

 

「チッ、デメリット効果を利用したか」

 

 割り込むように薔薇を咥えつつ跳躍した《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の剣が《ジェントルーパー》を傘ごと袈裟斬りに切り裂いた。

 

 何故か爆散した両生類の最後を余所に、己が雑魚と侮ったカードの思わぬ活躍に舌を打ったダークネスは、「だが」と状況の改善が限定的である旨を突き付ける。

 

「だが、《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクトからは逃れられない! お前が呼び出した《The() アトモスフィア》の属性は『風』!」

 

「でもバトルは無事終えられる! 魔法カード《馬の骨の対価》を発動! 通常モンスター《ミノタウルス》を墓地に送って2枚ドローだ!」

 

「ネガティブエフェクト!!」

 

吹雪LP:2500 → 2000

 

 しかし、それでもライフの減少と共に生じる闇のゲームの苦痛に苛まれながらも、《ミノタウルス》をより受け継いだカードを手に足掻く吹雪。

 

「ぐぅっ……! ボ、ボクは墓地の魔法《シャッフル・リボーン》を除外し、《幻獣王ガゼル》をデッキに戻し1枚ドロー」

 

「ふん、小細工を――魔法の発動ではない為、ネガティブエフェクトは発生しない」

 

「……残りの3枚の手札を……全てセットして……ターン……エンド」

 

 かくして光と消えた《幻獣王ガゼル》によって、増強された吹雪の手札は、逆転の可能性を託すように伏せられた。

 

 

ダークネスLP:3500 手札0

《クリアー・バイス・ドラゴン》

《パワーフレーム》 伏せ×2

フィールド魔法《クリアー・ワールド》

VS

吹雪LP:2000 手札0

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》 《The() アトモスフィア》

伏せ×3 《壊星壊獣ジズキエル》(装備扱い)

VS

コブラLP:4000 手札4

 

 

「何を伏せたかは知らないが、もはやお前のライフは半分。早々に終わらせ――」

 

 そうして吹雪の猛攻をこともなさげに躱してみせたダークネスがデッキに手をかけようとした瞬間、ダークネスのつける仮面に罅が入り、カランと乾いた音を地下室に響かせながらダークネスの素顔が露わとなった。

 

「ボクの《The() アトモスフィア》の美貌がキミの素顔を暴いたよう――そんな……馬鹿な……」

 

 だが、軽口を以て強気を演出しようとした吹雪の予想に反し、ダークネスと名乗った青年の素顔は彼にとって信じられないもの。なにせ――

 

「藤原……どうして、キミが!?」

 

 己が捜していた親友がダークネスの正体など、悪い冗談以外の何者でもない。

 

「…………ふん、何を驚くことがある――オレは自ら望んでダークネスを受け入れたからに決まっているだろう?」

 

「そんな筈はない! キミは、そんなことをする人間じゃなかった筈だ!」

 

 その反面、ダークネス――いや、藤原は、吹雪が信じたくなかった現実をこともなげに並べて見せるが、吹雪の知る「藤原 優介」という男は闇に魂を売り渡すようなデュエリストではない。

 

 心変わりを引き起こすだけの「なにか」があった。そう考えるのが自然。

 

 吹雪の予感は真実を射ていた。そんな中、藤原は語る。

 

「違うな。オレは思い知ったんだよ。お前らとの日々がゴミだとね」

 

「ゴミ……だって?」

 

「ああ、そうさ。絆や想い友人や家族――そんなものに縋っても、いずれは俺のことなど忘れ、通り過ぎていってしまう」

 

 藤原は思い知らされたのだと。かつて、自分が信じていたものが、どれ程くだらないものだったのかと。か細く弱いものだったのかと。

 

「そんなものに縋ってなんになる? ゴミだと思って何が悪い?」

 

「違う! ボクの知る藤原 優介はそんな弱い男じゃない! 家族を大切に思うキミの姿が! ボクたちと共に歩むと誓ったキミの言葉が! 決意が嘘だったなんて言わせない!」

 

「そうだな。オレもかつてはそんな希望を信じていたさ」

 

 激昂混じりに吹雪が叫ぶ内容など、藤原も承知の上だった。

 

 

 信じていた。家族の愛を、親友の友情を、恩師の教えを、仲間たちの絆を。

 

 

 どれだけ唆されようとも、信じていた。

 

 

 信じていたのだ。

 

 

「――だが見ろ! この学園を! この世界を!!」

 

 

 信じていたのに。

 

 

「オレのことなど簡単に忘れた! あの人の言った通りに! あの人を含めて誰も思い出しやしない! オレの両親すらだ!!」

 

 

 信じていたのに、ダークネスの力は簡単にそれらを消し飛ばした。

 

 

 砂の城が崩れるように、藤原が積み重ねてきた想いも願いも全てがあっけなく消え去った。

 

 そうして泣き叫ぶ童のようにがなりを上げた藤原の怒声に吹雪は気圧されるも、此処で引いてはならぬと、一歩前に出て声を張る。

 

――あの人だと?

 

「でもボクは覚えている!」

 

「そうか。そうだったな。お前は覚えていたんだったな。流石はオレの大親友」

 

 コブラの内心の懸念を余所に力強く言い放った吹雪へ、藤原は鼻で嗤いながらおどけたように「良く出来ました」と手を叩いて見せた。

 

 そう、確かに吹雪は覚えていた。

 

 

 だが、それは彼らの「友情の力」なのだろうか? 「結束の力」なのだろうか?

 

「――亮はどうした?」

 

「――ッ!?」

 

 いいや、違う。

 

「そう、お前がオレを覚えていたのは絆でも友情でも、ましてや奇跡でもない――お前にダークネスの適性があったからだ!!」

 

 ただ自分が振るった力と同系統の力があった。たった、それだけ。

 

 吹雪は逆に証明してしまったのだ――「ダークネスの力の強大さ」を。自分たちが信じていた友情なんてものが如何にちっぽけなものだったのかを。

 

「大きな力の前には、絆なんて簡単に砕け散るゴミでしかないと知らされたんだ。なら、そんなものに縋って何になる! なんにもならないさ!」

 

「でも、こうしてキミの前にボクはたどり着いた!」

 

「オレが何も知らないと思っているのか? 違うんだよ。こいつらが捜しに来たのは、他の特待生寮の人間だ! オレじゃない!」

 

 始まりは唆され、騙されたも同然だったのかもしれない。しかし、こうして真理を突き付けられた今の藤原が信じるべきものは明確に定まっている。定まってしまった。

 

 力こそが真理、ダークネスこそが真理――それ以外はゴミでしかないのだと。

 

「お前も! こいつらも! 世界中の人間が証明してくれたのさ! どんなお綺麗な理想も巨大な力の前には! ダークネスの前にはゴミ同然なのだと!!」

 

「だとしても藤原! 聞いてく――」

 

「オレのターン!! ドロー!!」

 

 そうして、吹雪の説得の声を遮り、力強くカードを引いた藤原は――

 

「メインフェイズ開始時に魔法カード《強欲で金満な壺》発動! エクストラデッキを6枚裏側除外し、2枚ドロー!! 墓地の魔法カード《妨げられた壊獣の眠り》を除外し、デッキから《雷撃壊獣サンダー・ザ・キング》を手札に!」

 

 壺が砕け散る中、一気に手札を増強しつつも、「このターンで終わりだ」とばかりに、かつての友へ別れの言葉代わりに叫ぶ。

 

「吹雪! お前が絆を信じるデュエリストだという個性はよく分かった。嫌と言うほどに! 確かにお前は昔から、友だ仲間だとうるさいヤツだったからな!」

 

 今語った吹雪の説得など、藤原からすれば過去の焼き増しでしかない。

 

「だがその煩わしい考えももう必要ない! このターンで全て終わらせる!」

 

「だけど、ボクたちのフィールドに『壊獣』がいなくなった以上、新たな『壊獣』を呼び出すことは出来ない!」

 

「お前を仕留めるだけなら必要ないさ! バトル! 《クリアー・バイス・ドラゴン》で《The() アトモスフィア》に攻撃!!」

 

「同じ攻撃力のアトモスフィアを!?」

 

 そして藤原が指さした先である《The() アトモスフィア》に向けて《クリアー・バイス・ドラゴン》が頭を出し、口にブレスをチャージさせるが、吹雪からすれば相打ちにしかならない相手の選択に困惑の声を漏らす。

 

 普通に考えれば、《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》を攻撃すれば、吹雪の残りライフ2000を削りとれる計算だ。しかし、藤原は邪悪な笑みを浮かべつつ種明かししてみせる。

 

「クリアー・バイスには相手の個性を倍返しにする力がある――もう、分かるよなァ」

 

「倍返し……だって!? つまり実質ボクのモンスターの2倍の攻撃力!?」

 

 自身が攻撃した時のみ、必ず相手を葬る魔龍――それが《クリアー・バイス・ドラゴン》の神髄。

 

 吹雪がセットカードで幾ら味方の攻撃力を上げようとも、全てが無意味。なにせ、ダメージステップ時のみ必ずその攻撃力の倍になるのだから。

 

「――クリーン・マリシャス・ストリーム!!」

 

 そうして放たれた黒紫のブレスが《The() アトモスフィア》に直撃する。

 

 

 

 と思いきや、すんでのところで、軌道がズレたことで雲の上の大地に爆発を引き起こすに留まった。

 

「――なにっ!?」

 

「お生憎様! 力圧しだけじゃあブリザード・プリンスを捉えることは叶わないよ! 罠カード《鎖付きブーメラン》を発動させて貰った!」

 

 爆風が晴れた先からは《クリアー・バイス・ドラゴン》の首に巻き付き、ブレスの軌道を強引に曲げた鎖が《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の腕から伸びている。

 

「この効果により、クリアー・バイスを守備表示に! さらに《鎖付きブーメラン》がボクのモンスター1体の装備カードとなり攻撃力を500アップ!!」

 

「……くだらない小細工を――永続罠《最終突撃命令》発動! フィールドのモンスター全ては強制的に攻撃表示になる!」

 

 しかし、藤原の声に《クリアー・バイス・ドラゴン》はすぐさま己の首に巻き付いた鎖を振りほどき、怒りの雄叫びを上げた。

 

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》

攻2400 → 攻2900

 

《クリアー・バイス・ドラゴン》 攻撃表示 → 守備表示 → 攻撃表示

攻4700 → 守 0 → 攻4700

 

「だとしても、一度守備表示になったクリアー・バイスは、このターンの攻撃権利を失う!」

 

「それはどうかな! 罠カード《ゲットライド!》発動! 墓地のユニオンモンスター1体――《比翼レンリン》をクリアー・バイスに装備!!」

 

 怒り心頭な雄叫びを上げる《クリアー・バイス・ドラゴン》にもたらされるのは虹色の羽毛を持つ竜の力。

 

「《比翼レンリン》を装備したモンスターの元々の攻撃力は1000となり、2回攻撃が可能になる!!」

 

 クリスタルの内側に虹色に輝く力を宿した《クリアー・バイス・ドラゴン》は、再び頭だけを出し、その口にブレスを再チャージ。

 

《クリアー・バイス・ドラゴン》

攻4700 → 攻5700

 

「なっ!?」

 

「さぁ、今度こそ受けるがいい! クリアー・バイスの攻撃を!」

 

 黒紫のブレスは今度こそ《The() アトモスフィア》ごと吹雪を消し飛ばさんと迫る。

 

「くっ! 速攻魔法《非常食》を発動! ボクの魔法・罠ゾーンのカードを2枚墓地に送り、ボクのライフを2000回復する!」

 

「ネガティブエフェクト!!」

 

吹雪LP:2000 → 1500 → 3500

 

 吹雪は苦し紛れとばかりに最後のセットカード以外を回復に費やすが、残念ながら発生するダメージが4700である以上、後一歩足りない。

 

「だけど、装備された《壊星壊獣ジズキエル》が墓地に送られたことで、ボクの《The() アトモスフィア》の攻撃力は下がる!」

 

 かと思いきや、力を失った《The() アトモスフィア》が疲れたように翼を下ろせば、《クリアー・バイス・ドラゴン》からのブレスもそれに合わせたように大きく減衰し――

 

The() アトモスフィア》

攻4700 → 1400

 

「だが、攻撃は止まらない!!」

 

「ぐぅあぁぅっ!!」

 

 一度目の攻撃よりも、かなり小規模な爆発の余波が吹雪を襲った。

 

吹雪LP:3500 → 2100

 

「ふん、クリアー・バイスの効果を逆手にとって窮地を脱したか。さしずめお前の最後の希望の一手だった訳だ」

 

「最……後……だって? ブリザード・プリンスが贈る……魔法の時間は、永遠……さ!」

 

「……変わらないな、吹雪。お前はいつもそうだ。道化を演じて本質から目を逸らす」

 

 そうしてみっともなく足掻く相手を嗤う藤原へ、吹雪は闇のデュエルによるダメージを誤魔化すように冗談交じりにウィンクして見せるが、そんなかつての友人へ藤原は棘のある言葉を零した。

 

「ボクが……目を逸らしているだって?」

 

「凄惨な現実に蓋をして。お綺麗な舞台だけに目を向け踊る愚かな王子――それがお前だ」

 

「何が言いたい!」

 

「このアカデミアはまるで社会の縮図だよ。富める者がますます富み、貧しい者は奪われる日々から逃れられない」

 

 もってまわった回りくどい口調で、藤原はお綺麗な言葉を並べ立てる吹雪の本質を暴いて行く。

 

 アカデミアに蔓延る理不尽な問題は学内に留まるものではない。外を見やれば形を変えて何処にでも存在している。

 

「彼らはオレと同じだった。全てを忘れ、消えてしまいたい程の衝動を抱えていた」

 

 (社会)と言う閉じた世界から逃れられない息苦しさ、己の無力感。力()あった藤原にさえ逃れられなかった「それ」に何も持ちえぬ彼らが抗える筈もない。

 

 そんな彼らに対し、持つ者(吹雪)は何をした?

 

「吹雪、お前はそんな問題に一度でも向き合ったことがあるか? いいや、一度もない筈だ。『三天才』だとおだてられ、愚かだった頃のオレと舞踏会で忙しかったよなぁ、王・子・様(ブリザード・プリンス)

 

 そう「可哀そうだな」で終わる。悲劇に酔って終わる。誰も手を差し伸べない。「時間が」「力が」「立場が」そうやって理由をつけて何もしない――だって面倒だから。

 

 それは吹雪でさえ例外ではなかった。身近な社会(アカデミア)の問題にすら関心を示さない。

 

「お前も結局は同じなんだよ――『自分の周りさえ良ければ』と考えるゴミ共と! だがダークネスは全てを受け入れる!! 救いとなる!!」

 

「確かに、ボクはキミを含めて彼らに手を差し伸べられなかったのかもしれない……だけど! デュエリストとして目指す背は示してきたつもりだ!!」

 

「そんなもの強者の理屈に過ぎない! そして今度はそれをお前が味わう番だ! なにせお前の手札は0!!」

 

 そうしてダークネスの正当性を主張する相手に、吹雪は「導くもの」としての矜持を語るが、藤原は「そんなものでは誰も救えない」と切って捨てる。

 

そっちの男(コブラ)のターンが終わった後に残るのは、今のお前に相応しい相棒たる時代遅れのゴミ(パンサーウォリアー)だけだ!!」

 

 なにせ今の吹雪はまさに窮地。この状況で目指すべき背中が一体何の役に立つ?

 

「カードを1枚セットし、《クリバンデッド》を召喚してターンエンド!! エンド時に《クリバンデッド》の効果により、自身をリリース!!」

 

 そんな吹雪をせせら笑うように黄色いバンダナと眼帯をした毛玉がゲラゲラ笑いながら消えていく中――

 

《クリバンデッド》 攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1000 守 700

 

「デッキの上から5枚のカードの内の1枚を手札に加え、残りを墓地に! 最後にフィールド魔法《クリアー・ワールド》の維持コストを払う!」

 

ダークネス藤原LP:3500 → 3000

 

 くだらぬ理想論では誰も救えぬとばかりに、会話を打ち切った藤原はターンを終えた。

 

 

ダークネス藤原LP:3000 手札2

《クリアー・バイス・ドラゴン》

《パワーフレーム》 《比翼レンリン》 《最終突撃命令》 伏せ×1

フィールド魔法《クリアー・ワールド》

VS

吹雪LP:2100 手札0

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》

伏せ×1

VS

コブラLP:4000 手札4

 

 

 こうして、かつての親友同士がぶつかり合う中、コブラは平時と変わらぬ所作でカードを引くが――

 

「私のターン、ドロー」

 

「このスタンバイフェイズに地属性をコントロールするお前たちはネガティブエフェクトを受ける――とはいえ、『表側守備モンスターを破壊する』効果も相手がいなくては無意味だがな」

 

 その身を《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクトが――苛むことは何とか避けられた。しかし藤原は雇われのコブラを嘲笑うように余裕を見せる。

 

「だが、お前のような力に迎合するだけのゴミには、これで十分だ」

 

「墓地の《アマリリース》を除外し、アドバンス召喚のリリースを1体軽減――レベル6の《ヴェノム・ボア》を召喚」

 

 そんな藤原を余所に、三つ目の大蛇がコブラの元でとぐろを巻き、尾の先についた眼球のないもう一つの蛇の頭が存在を示すように口を開けていた。

 

《ヴェノム・ボア》 攻撃表示

星5 地属性 爬虫類族

攻1600 守1200

 

「《ヴェノム・ボア》の効果を発動し、相手フィールドのモンスター1体に『ヴェノムカウンター』を2つ乗せる」

 

 やがて《ヴェノム・ボア》の二つの口からそれぞれ放たれた毒液が2匹の蛇の形を模して《クリアー・バイス・ドラゴン》の水晶に噛みつくも、変化らしい変化は起こらない。

 

《クリアー・バイス・ドラゴン》のヴェノムカウンター:0 → 2

 

「魔法カード《ヴェノム・ショット》を発動。デッキから爬虫類族を1体墓地に送り、相手モンスター1体に『ヴェノムカウンター』を2つ乗せる」

 

 今度は《クリアー・バイス・ドラゴン》の足元から毒液の蛇が2匹、その身に噛みつくが、やはり何も起こらない。

 

《クリアー・バイス・ドラゴン》のヴェノムカウンター:2 → 4

 

「カードを2枚セットし、魔法カード《命削りの宝札》を発動させて貰おう。私は手札が3枚になるようにドローする。更にカードを3枚セット――ターンエンドだ」

 

 かくして動きらしい動きは見せず、5枚のセットカードを伏せてコブラは手早くターンを終えた。

 

 

ダークネス藤原LP:3000 手札2

《クリアー・バイス・ドラゴン》

《パワーフレーム》 《比翼レンリン》 《最終突撃命令》 伏せ×1

フィールド魔法《クリアー・ワールド》

VS

吹雪LP:2100 手札0

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》

伏せ×1

VS

コブラLP:4000 手札0

《ヴェノム・ボア》

伏せ×5

 

 

 そんな想定していた以上に得体の知れぬコブラのデュエルに藤原は警戒心を募らせる。

 

――オレが来る前にダークネスへ放り込まれた特待寮の生徒を回収しに来ている以上、そこらのデュエリストでは無い筈だが……

 

 吹雪のように「友人を助ける」ではなく、コブラは「ダークネスの問題を片づける」為に派遣された前提がある以上、ダークネスの脅威を十二分に理解した上で「解決可能」と判断しているに他ならない。

 

――あの男の狙いが読めない。攻撃する気配もなければ、防御も半端。吹雪への援護すら最低限。

 

 だというのに、コブラの動きは何もかも半端だった。狙いが読めない。

 

「随分と消極的なターンじゃないか。吹雪へ援護の一つでも、してやったらどうだ?」

 

「どうした? キミのターンだが?」

 

「……オレのターン、ドロー!」

 

 軽く挑発しても暖簾に腕押し、糠に釘――まるで手ごたえを見せないコブラは藤原にとって唯々不気味だった。

 

――相手の場には謎のカウンターを乗せる低打点(ヴェノム・ボア)と、生贄が無ければ攻撃できない雑魚(漆黒の豹戦士パンサーウォリアー)の2体……ならば!

 

「罠カード《ギブ&テイク》! オレの墓地のモンスター1体をお前たちのフィールドに守備表示で特殊召喚! そしてターン終了時までクリアー・バイスのレベルはそいつの数値分上がるが関係ない!!」

 

 しかし、盤面を支配しているのは自分だと藤原はお得意の「個」の利用とばかりに《クリアー・バイス・ドラゴン》の的を用意して見せれば――

 

「――王子様(吹雪)に《怪粉壊獣ガダーラ》をプレゼントだ! そして永続罠《最終突撃命令》の効果で攻撃表示に!」

 

 それに伴い吹雪のフィールドで再び羽を広げる巨大な毒蛾が、耳障りな甲高い威嚇音を発した。

 

吹雪のフィールドの

《怪粉壊獣ガダーラ》 守備表示 → 攻撃表示

星8 風属性 昆虫族

攻2700 守1600

 

「そして相手フィールドに『壊獣』がいる時、手札よりこいつは特殊召喚できる! 《雷撃壊獣サンダー・ザ・キング》!!」

 

そんな《怪粉壊獣ガダーラ》の威嚇音に闘争本能を刺激された三つ首の魔龍が、黒紫の体躯と同色の翼を広げて周囲に紫電を放ちながら飛翔し、有象無象のエサ共へと雄叫びを上げた。

 

《雷撃壊獣サンダー・ザ・キング》 攻撃表示

星9 光属性 雷族

攻3300 守2100

 

 

 これで2回攻撃が可能な《クリアー・バイス・ドラゴン》を含めれば、吹雪とコブラを片付ける算段が付いたとばかりに藤原は宣言する。

 

「怪しげなカウンターを乗せるそいつ諸共、お前には消えて貰う! バトル! クリアー・バイス! 《ヴェノム・ボア》を攻撃しろ!!」

 

 さすればクリスタルの内側から頭を出し、破壊のブレスを己に毒液を飛ばす無礼を働いた《ヴェノム・ボア》へと向けられた。

 

 と同時に、その頭に毒液の蛇が牙を剥く。

 

「――クリアー・バイス!?」

 

「その攻撃宣言時、罠カード《反撃の毒牙》を発動させて貰った。『ヴェノム』が攻撃された時、その攻撃を無効にし、バトルフェイズを強制終了させる」

 

「……フッ、慌てて身を守りに入ったか」

 

 《クリアー・バイス・ドラゴン》が顔に張り付いた異物(毒液の蛇)にクリスタルの中でもんどりを打つ中、藤原はあえて強気に笑って見せるが――

 

「《反撃の毒牙》の更なる効果により、攻撃モンスターに『ヴェノムカウンター』を1つ乗せさせて貰おう」

 

《クリアー・バイス・ドラゴン》のヴェノムカウンター:4 → 5

 

――さっきから何を狙っている? ステータスを下げる訳でもなく、効果に影響を及ぼす訳でもないカウンターを乗せて何になる……

 

 コブラには攻撃を防いだ安堵も、窮地を脱した達成感も見えず、文字通り何の反応も見せない。

 

「コブラ、朗報だ」

 

「そうか。藤原 優介――これを受け取るといい」

 

 

 だが、見届け人だと語った斎王の言葉にようやくコブラは反応らしい反応を見せた。

 

 

 そして斎王からコブラへ投げ渡された代物が、コブラから藤原へと放られる。反射的に受け取ってしまった藤原が手の内に収まった通信機へと目を向ければ――

 

 

「……通信機? 何の真似だ?」

 

『その声、優介……優介なの!?』

 

「――ッ!?」

 

 聞こえる筈のない声が、語る筈のない内容を述べている光景に、藤原の瞳はゆっくりと見開かれた。

 

「その声……まさか藤原のお母様……?」

 

「なん……で……」

 

『やっぱり優介なのね!! 急に連絡がつかなくなって、本当に――』

 

 吹雪が通信機越しの声の正体を己の記憶から引き出すが、当事者である藤原は通信機越しから溢れる母の言葉に現実感を感じず、何処か遠くの出来事のように聞こえている。

 

 ダークネスの力によって、素養を持つ吹雪以外の全人類の「藤原 優介」に関する記憶が消えた筈なのに、何故己の名を呼ぶ家族の声が届くのか――彼の心は混乱の極みにあった。

 

「キミのご両親とコンタクトを取らせて貰った」

 

 これは種を明かすコブラの言う通り、吹雪から「藤原 優介」の情報を入手し、斎王から「藤原の心をいかに揺さぶれるか」がキーとなるとの主張から、コブラが用意した策である。

 

 託児所的な道場を開いていた竜崎のツテを頼りに接触させ事情を説明し、ダークネスの力によって忘却させられていた藤原の両親の息子への記憶のサルベージを試みたのだ。

 

 上手くいくかは賭けの部分が大きく、「成功すれば御の字」程度の代物だったが、今の藤原の様子を見れば効果は十二分にある様子が窺える。

 

 それもそうだろう。

 

「さて、特異な力も持たぬご両親は、ご自慢のダークネスの力とやらを乗り越えたようだが――どうするかね?」

 

 自分が散々ダークネスの力の前ではゴミだと語った、家族の想い()がその力を打ち破った証明なのだから。

 

「どうして……ダークネスの力は……」

 

『貴方に何があったの!? 私もお父さんも、どうしてか貴方のこと忘れてしまったって……でも、もう心配――』

 

「うわっ!?」

 

「通信機が勝手に!?」

 

 しかし此処で突如として通信機が闇色のオーラに包まれた途端に砕け散り、機能を失った鉄くずは家族の想い()を伝える職務を放棄したように地面へと散らばった。

 

「そうだ……ダークネスの言う通りだ……こんなもの、細工すれば幾らでも、でっち上げられる」

 

 それと同時に藤原を包む闇のオーラが濃くなり、流れるように藤原は顔を歪ませて逃避と自己弁護を重ね――

 

「――随分と汚い真似をするじゃないか!!」

 

「そうじゃない、藤原! キミのご両親の言葉に耳を傾けるんだ!!」

 

 全てが己を騙す虚構だったのだとの結論に結び付けた。

 

 確かに、通信機越しの声など幾らでも人の手が加えられるものであり、藤原の過去も吹雪経由で知ることは難しくはないだろう。

 

 だが、吹雪からすれば当人が願った奇跡を不意にする藤原に今一度思い直すように叫ぶことしか出来ない。

 

 藤原があんなに願っていた奇跡が起こったのに、既に時遅しなんて救いがないじゃないかと。

 

「斎王」

 

「後一押しと言ったところだ」

 

「なら、プランBと行こう」

 

 だが、対するコブラは静かに運命を見通す斎王に確認を取った後、次のプランに移る。元々「成功すれば御の字」程度の代物に過度な期待などしていない。

 

「……なんだと?」

 

 そうしてコブラの変わった気配に「次はどんな汚い真似を」と藤原が歪んだ顔で睨みを利かせるが――

 

「罠カード《ヴェノム・スプラッシュ》を発動! モンスター1体に乗せられた『ヴェノムカウンター』を取り除き、カウンターの数×700のダメージをキミに与える!」

 

「――なっ!?」

 

 700×5=3500――そして藤原のライフは3000。

 

《クリアー・バイス・ドラゴン》のヴェノムカウンター:5 → 0

 

 藤原がその意味を把握する刹那の間に《クリアー・バイス・ドラゴン》に噛みついていた毒液の蛇はその身を爆ぜさせ、藤原を蝕み殺す毒液のつぶてと化した。

 

「くっ、させるかよ! 墓地の罠カード《ダメージ・ダイエット》を除外! このターン、オレが受ける効果ダメージを半減する!!」

 

 しかし、それでもなお既のところで、己の前に光の壁を生じさせた藤原――だが、それでも半分の毒液のつぶてはその壁を貫通し、藤原の身を毒で焼いていく。

 

「――ぐぅぁぁあぁああぁあああっ!!」

 

ダークネス藤原LP:3000 → 1250

 

 

 そんな闇のデュエルにより生じた苦痛にもがく藤原の姿に吹雪は思わずコブラへ制止を願うが――

 

「やめてください、コブラさん! 藤原の心はまだ戻ってこれます!!」

 

「……ふん、懐柔が無理と分かれば即排除か。やってくれたじゃないか……だが、結局俺を倒すことは出来なかった! その程度なんだよ、お前たちが語る力は!!」

 

 この期に及んで何も語らぬコブラの代わりに藤原が吐き捨てるように代弁して見せる。

 

 コブラはどちらかと言えば、体制に都合の悪いものを排除する立場だ。吹雪が何を語ろうとも方針を変える材料にはなりえない。

 

「オレは魔法カード《アドバンスドロー》を発動! レベル8以上の《雷撃壊獣サンダー・ザ・キング》をリリースし、2枚ドローだ! 更に魔法カード《マジック・プランター》により、永続罠――《最終突撃命令》を墓地に送って、更に2枚ドロー!」

 

 やがて《雷撃壊獣サンダー・ザ・キング》と共に光と消えた1枚のカードがそれぞれ藤原の手元に再構築されていく中――

 

「永続魔法《怨霊の湿地帯》を発動し、カードを2枚セットしてターンエンド!!」

 

 雲の上の世界に響き始めた怨霊の歌声により、新たな布陣を整えた藤原は、もう惑わされないとばかりに叫ぶ。

 

「そうさ! 悩みも苦しみも、全て忘れてしまえば良い!」

 

 忘却こそが彼の救い。

 

「何もかもを全てダークネスに委ね、その意思に従えば良い!!」

 

 ダークネスこそが彼の救い。

 

「――そうすればオレは苦しくない!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

「藤原……」

 

 そうして高笑いを上げる藤原を吹雪は痛ましい者でも見るような視線を向ける。

 

 何が彼を此処まで追いつめたのか。

 

 親友が此処まで追いつめられていたにも拘らず、何故気づけなかったのか。

 

 藤原の「お綺麗な舞台だけに目を向け踊る愚かな王子」との言葉が吹雪に突き刺さる。

 

 今の己では藤原を救えない――そんな考えが吹雪の脳裏を占め始めた。

 

――やはり彼は強い。コブラさんが救助を放棄した以上、ボクだけじゃ藤原を止められない……この戦いの真の勝利、ボクが信じる真の可能性! それにかける!!

 

「罠カード《裁きの天秤》! ボクの手札・フィールドと、相手のフィールドの枚数差だけカードをドローする! ボクの手札は0! フィールドにはパンサーウォリアーと《怪粉壊獣ガダーラ》、そして《裁きの天秤》の3枚!」

 

「今更、無駄な足掻きを――オレのフィールドには、合計7枚のカードだ」

 

 やがて吹雪の最後の希望であるセットカードが明かされ、フィールドに天秤が現れるが藤原からすれば脅威足りえない。

 

 何枚カードを引こうとも吹雪のデッキの性質上、魔法カードの発動が制限されている今の状況では無意味だと藤原は鼻で嗤う。

 

「そうやって愚かな王子様らしく、お城の中(閉じた世界)で無駄な努力を重ねているがいいさ」

 

「……藤原、確かにボクはキミの言うような愚かな王子(プリンス)だったのかもしれない。でも王子(プリンス)は道半ばな存在だということを忘れてはいないかい?」

 

「何が言いたい?」

 

 しかし吹雪から急に訳の分からない発言が返ってきた為、疑問を胸に藤原も眉をひそめる。藤原の比喩を皮肉ったのかと考えるも、抽象的過ぎて答えは出ない。

 

 そんな不可解な視線を向けられるも吹雪は真っすぐな瞳で藤原を見つめ返し、誓うように宣言する。

 

「多くの苦難を超え、ボクは友を救える男に! 王子(プリンス)は今、(キング)になる!!」

 

「だから何が言いたい!!」

 

ブリザード・プリンス(氷雪の王子)の夢の時間は終わりさ! キミを助ける為、ブリザード・キングへ!! フブキング(氷雪の王)として王道を進む!!」

 

「くだらない御託はもう沢山だ!! さっさとドローしろ!!」

 

 だが、傍から聞いても意味不明な内容を並べ立てる吹雪に、藤原は面倒さからか理解を拒否するように激昂で返す。

 

 さすれば吹雪も《裁きの天秤》の効果処理に移り、カードのドローの為にデッキの上に指を置いた。

 

「ボクたちの絆は決して途切れさせない!! 《裁きの天秤》の効果で4枚のカードを――」

 

――来てくれ、藤原を救うあのカードよ!!

 

 そして瞳を閉じ、全神経をデッキにかけた指に集中した吹雪は、フィールドの浮かぶ天秤が己の側に傾いた瞬間に目を見開き――

 

 

 

「―― キ ン グ ド ロ ー ! !」

 

 

「キ、キングドロー!?」

 

 戸惑う藤原を置き去りにして4枚のカードをドロー。

 

ダークネス藤原LP:1250 → 750

 

 ターンの終わりを示すように《クリアー・ワールド》の維持コストが支払われていくのが妙に印象的だった。

 

 

ダークネス藤原LP:750 手札1

《クリアー・バイス・ドラゴン》

《パワーフレーム》 《比翼レンリン》 《怨霊の湿地帯》 伏せ×2

フィールド魔法《クリアー・ワールド》

VS

吹雪LP:2100 手札4

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》 《怪粉壊獣ガダーラ》

VS

コブラLP:4000 手札0

《ヴェノム・ボア》

伏せ×3

 

 

 かくして、「ブリザード・プリンス」あらため「フブキング」こと吹雪のキングドローにより一気に潤沢となった吹雪の手札。

 

「キ、キングドローだか何だか知らないが、その顔を見るに結局、望んだカードは引けなかったようだな――運にすら見放されたか」

 

 だが、藤原の言うように吹雪の表情は晴れない。キーカードは引けなかったのだろう。5枚も引いてその様では勝利の女神に見放されたと断じられても否定は出来ない。

 

 しかし吹雪は人差し指を天の勝利の女神――が存在するかは不明だが――に向けて掲げ、藤原に問いかけた。

 

「――キミの瞳に何が見える?」

 

「いい加減、鬱陶しいんだよ!!」

 

「天!!」

 

 かつての友人同士のバカ騒ぎでも思い出させて情景を煽る安い手に乗ると思っているのか、とばかりに怒声を上げる藤原を余所に、自身でセルフ「天」コールを得た吹雪は、ターン開始を告げる通常ドローを――

 

「――JOIN(ドロー)!!」

 

「幾らふざけて現実逃避しようがネガティブエフェクトにより、お前は後4度しか魔法カードを発動できない!」

 

 決めゼリフと共に行うが、怒れる藤原の言う通り現実は変わらない。手札が増えようとも発動できるカード回数自体が絞られるのだから。

 

「お前の下級モンスターを魔法カードで補助する戦法――その個がある限り、状況は何も変わっていないんだよォ!!」

 

「藤原、キミに言っていなかったことがある」

 

「今度は何だ!」

 

 だというのに、この期に及んで不可解な説得を重ねる吹雪に、最後の遺言くらいは聞いてやろうと苛立ちつつも耳を傾けるが――

 

「ボクは生まれてこのかた――ふざけたことが『ない』のが自慢だ!!」

 

「そんな見え透いた嘘が――」

 

 どう考えても嘘だと――藤原は断ずることが出来なかった。

 

 なにせ真っすぐな吹雪の瞳には、嘘偽りない色が藤原にも分かる程に煌めいている。

 

「――嘘、だろ……」

 

――あれら全てを真面目……に……?

 

 そんな吹雪の澄んだ瞳に対し、ありえないものでも見たように思わず後ずさる藤原。

 

 

 そう、吹雪の周囲からみれば、楽し気にふざける言動・所作は、美学を持って行われる当人にとっては至って真面目なもの。

 

 天・JOINの掛け声も、集中力を高めたり、乱れた精神をリセットさせるルーティーン。王子らしい華やかで派手な振る舞いは最高の己へと鼓舞し、演じる為のペルソナ(素面)仮面(ペルソナ)ではない。

 

 とはいえ、吹雪とて、己の行いが「一般的ではない」ことは理解している。そして「周囲に合わせるべきか?」とも悩んだこともある。だが――

 

「『兄さんは兄さんのままでいてね』――そう言って明日香が大好きだと言ってくれたこのカードと共に言葉にボクは誓ったのさ! 魔法カード《思い出のブランコ》!!」

 

 己の背を押してくれた家族()の存在が、彼から迷いを吹っ切らせる。己は己のままで良いのだと。そんな過去の情景を思い出せるブランコが揺れる音が響く中――

 

「墓地より、甦れ! 《ミノタウルス》!!」

 

「ネ、ネガティブエフェクト!!」

 

吹雪LP:2100 → 1600

 

 ブランコを立ちこぎしていた二足の牛の戦士《ミノタウルス》が幼き日の兄妹の思い出の焼き増しのように現れた。明日香のことを《ミノタウルス》扱いしている訳ではない。

 

《ミノタウルス》 攻撃表示

星4 地属性 獣戦士族

攻1700 守1000

 

「キャストチェンジだ! 《ミノタウルス》! 魔法カード《戦線復活の代償》! 通常モンスターである《ミノタウルス》を墓地に送り、こいつを装備させ墓地からモンスター1体を復活させる! ボクが呼ぶのは当然――」

 

「ネガティブエフェクトを忘れるなよ、吹雪!!」

 

 そんな《ミノタウルス》が斧をスイングして竜巻を起こせば――

 

吹雪LP:1600 → 1100

 

「ぐぅっ!? ……何度でもスターダムに舞い上がれ! 《The() アトモスフィア》!!」

 

 吹雪のライフを削りながらも、竜巻の中より現れた橙の巨鳥――《The() アトモスフィア》が翼を広げたと同時に、腹部に浮かぶ水のスフィアへと引き込むように逆巻いた風が周囲の物体を吸い込まんとうねりを上げた。

 

The() アトモスフィア》 攻撃表示

星8 風属性 鳥獣族

攻1000 守 800

 

「《The() アトモスフィア》の効果! 相手フィールドのモンスター1体を吸収する! キミを惑わせる全ては、ボクが――」

 

「無駄なんだよ! 墓地の罠カード《スキル・プリズナー》を除外し、効果発動! このターン、《クリアー・バイス・ドラゴン》を対象とするモンスター効果は無効化される!!」

 

 しかし、その風は《クリアー・バイス・ドラゴン》の雲の大地から飛び出した半透明な壁によって遮られ、《The() アトモスフィア》の吸引を妨げる。

 

 

 そうして《クリアー・バイス・ドラゴン》の攻略に失敗し、突破口を失った吹雪へ念入りに否定するように藤原はダークネスの力を誇示して見せた。

 

「こ、これで、永続魔法《怨霊の湿地帯》の効果により、お前が攻撃可能なのは、『壊獣』を除けば、雑魚のパンサーウォリアーのみ!! いい加減、この絶望的な現実(盤面)を受け止めるんだな!」

 

「その通りだ。ボクは現実と向き合えていなかった。間違っていたんだ」

 

「…………ようやく理解できたか、己の愚かさが!」

 

「ああ、ボクは愚かだった。追いつめられたキミを見て、傷ついたキミを見て、己を抑えてキミに寄り添おうとした」

 

 そんな藤原の主張に対し、否定を重ねた今までとは違い己が内に受け止める吹雪。そう吹雪は自身の過ちを認めたのだ。

 

「己の()をさらけ出したキミへ、己を抑えて偽るような真似をしたボクの言葉が届く筈もない……ボクがすべきことは一つだったんだ。それは――」

 

 傷ついた相手を労わる言葉と言えば聞こえは良いが、その実「自身の心からの言葉」とはどうしても齟齬が出る。

 

 親友が平時は語れぬであろう心の奥底を剥き出しにぶつかって来たというのに、此方が臆して(ブレーキを踏んで)どうするというのか。

 

 道は一つしかなかった。

 

 

「――ボクの全てをさらけ出すこと!!」

 

「なぜ、そうなる!?」

 

 

――今の今までアレで抑えていたのか!?

 

 アクセルフルスロットル以外の選択肢などある筈がない――藤原の想像を遥かに超えたレベルで(ハート)を急加速させた吹雪は、右まぶたに二本指を添えてキメ顔で告げる。

 

「藤原――いや、ダークネス藤原!! このボク――フブキングの全てを受け止めて貰おうか! ショータイム!!」

 

 事情を知らぬ人が見ればふざけているようにしか見えない吹雪の言動だが、当人は大真面目(ガチ)である。

 

 藤原を、ダークネス藤原を、親友としてダークネス含めて丸ごと受け止めて見せる――それが吹雪の答え。出来る出来ないではない。「やる」のだ。

 

「こんな殺風景なフィールドじゃボクの相棒の衣装は映えない――ドレス・チェンジだ! 速攻魔法《移り気な仕立屋》!」

 

「ネ、ネガティブエフェクト!!」

 

吹雪LP:1100 → 600

 

 そして吹雪のウィンクと指さしを受けた《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》が口に加えた薔薇を天に投げつつ緑のマントを脱ぎすて一瞬ばかり藤原の視界から消えた先より――

 

「《クリアー・バイス・ドラゴン》に装備されたユニオン――《比翼レンリン》を別の対象に移す! 虹色の衣装を纏え、キミが主演だ! パンサーウォリアー!!」

 

 虹色の翼を思わせるパーツが両肩と腰より伸びる《比翼レンリン》の体色と同じ黄緑の鎧にチェンジした《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》が自由落下してきた一輪の薔薇をキャッチした後、口に加えて仰け反るようなポーズを取った。

 

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》

攻2400 → 攻1400

 

「そして装備魔法《幻惑の巻物》を発動! パンサーウォリアーをボクが宣言した属性に変化させる! ボクが選ぶのは勿論、主演を照らすに相応しいスポットライトたる『光属性』!!」

 

「ネ、ネガティブエフェクト!!」

 

吹雪LP:600 → 100

 

 そんな強烈な色彩を放つ《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》に空より光の使徒だと示さんとする光が当てられれば鎧に反射し、その身体をキラキラとしたエフェクトが包む。

 

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》

地属性 → 光属性

 

「だが、《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクトにより、お前たちの手札が公開され――」

 

しかし属性の変化は《クリアー・ワールド》の前では悪手だと、吹雪の最後の手札が天に浮かぶクリスタルによって暴かれるが――

 

「――《オネスト》……だと!?」

 

 その1枚こそが、藤原を救うべく吹雪が引き当てた1枚。

 

「キングのドローは必然さ――藤原! キミの心はまだ(ダークネス)には屈してはいない!」

 

『マスター、共に帰りましょう! あの場所(友と家族の元)へ!』

 

 藤原が相棒たる《オネスト》のカードをダークネスに巻き込まなかったことが、彼の心が(ダークネス)に屈していない何よりの証明なのだと。

 

 その吹雪の決意にオネストも呼応するように己が願いを誓う。

 

「さぁ、バトルワルツ(フェイズ)と行こう!!」

 

「捨てたゴミ共が鬱陶しいんだよ!! 罠カード《ギブ&テイク》!! オレの墓地の《多次元壊獣ラディアン》をコブラのフィールドに特殊召喚!!」

 

 だが、そんな吹雪とその隣に立つオネストの姿を否定するように藤原の足元から巨大な影が跳躍し、コブラのフィールドにて腕を交差させ、その人型の巨躯を丸めた。

 

 これにより吹雪たちを《クリアー・ワールド》の新たなネガティブエフェクトが襲うこととなる。

 

コブラのフィールドの

《多次元壊獣ラディアン》 守備表示

星7 闇属性 悪魔族

攻2800 守2500

 

 

「闇属性が存在することで新たなネガティブエフェクトだ!! 2体以上モンスターをコントロールしている限り、お前たちは攻撃宣――」

 

「罠カード《闇霊術-「欲」》――私のフィールドの闇属性をリリースし、デッキから2枚ドローする。キミが手札の魔法カードを公開すれば無効にできるが、どうするね?」

 

 その前に、コブラの足元から広がる円陣の内の「欲」の文字に親指を立てて沈んで行く《多次元壊獣ラディアン》――これで《クリアー・ワールド》の(ネガティブエフェクト)は機能しない。

 

「くっ、公開はしない……!」

 

「2枚ドロー。これで闇属性が消えたことで、攻撃制限は解除される」

 

「ありがとうございます、コブラさん!」

 

 そんなコブラの援護に礼を告げつつ吹雪は合図代わりに指をパチンと鳴らせば――

 

「ガダーラをリリースし、パンサーウォリアーで攻撃!!」

 

 煙のように消えていった《怪粉壊獣ガダーラ》が生み出した霧のロードを《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》は駆け抜けた。

 

「ネガティブエフェクトから逃れつつ攻撃するつもりか――だが、永続罠《スピリットバリア》発動! これでオレの場にモンスターがいる限り、ダメージを受けない!!」

 

「無駄だよ! 今のパンサーウォリアーは連撃が可能だ!」

 

「くっ……!!」

 

 それは、たとえ、藤原の抵抗があろうとも止まることはなく、吹雪は手札の《オネスト》に願いを託すべく――

 

「ボク一人では届かなかったキミの手を! 今度こそ掴み取って見せる! 他でもない一人の友として!!」

 

 今、その効果(希望)を発動させた。

 

「その為の力を貸してくれ、オネスト! パンサーウォリアー!!」

 

『勿論です!』

 

「ダメージステップ時、手札から《オネスト》を発動! 光属性となったパンサーウォリアーの攻撃力を相手の攻撃力分アップさせる!!」

 

 さすれば《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の背中より毛先が虹色の純白の翼が花開く。

 

《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》

攻1400 → 攻7100

 

 やがて跳躍した《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》を《オネスト》の翼が天を回させれば虹色のヴェールが軌跡として残り、殺風景な《クリアー・ワールド》を幻想的な光景が包む。

 

「《クリアー・バイス・ドラゴン》、撃破! 追撃の――」

 

 そして急降下と共に打ち下ろされた《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の剣が《クリアー・バイス・ドラゴン》を両断し、《比翼レンリン》の鎧で得た力によって跳ね上げた剣が二の太刀となって――

 

「うぅ、やめろ、やめろ! やめろぉおおぉおおおお!!」

 

「――(こく)(ひょう)(せい)(てん)(ざん)!!」

 

 天使(オネスト)の翼の輝きを乗せた黒き斬撃が、無防備に叫ぶ他ない藤原を切り裂いた。

 

「うわぁぁぁあああぁあああああ!!」

 

ダークネス藤原LP:750 → 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダークネス藤原LP:0

 

 

 

ダークネス藤原LP:0 → 100 → 200 → 400 → 700 →

 

 そうして決着のついたデュエルが()()()()()()ように巻き戻って行く。

 

――ハァ……ハァ……なんだ、こいつ……

 

 そんな最中、息を整える藤原だったが、己に刃を向けていた《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》が天に上り、《オネスト》の翼を得る前に戻って行く光景を余所にひとりごちた。

 

――ふ、吹雪、これがお前の心の闇か。後悔の方向性は別として、お前はオレの苦しみに気づけなかったことを悔いていたんだ……な。

 

 

 そう、これは経緯はどうあれ、ダークネスに魅入られた吹雪の願望が見せた幻影に過ぎない。

 

 

ダークネス藤原LP:750

 

 

 本当の決着――その真相は、此方である。

 

 

 時は、装備カードで衣装チェンジした《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》が《怪粉壊獣ガダーラ》をリリースして攻撃宣言した瞬間まで巻き戻る。

 

 

 

 そして《クリアー・バイス・ドラゴン》へ突き進む《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の背を押すべく、吹雪は隣に立つオネストに目配せした後、願いを託すが――

 

「ボク一人では届かなかったキミの手を! 今度こそ掴み取って見せる!」

 

「――『他でもない一人の友として』か?」

 

「そうだ! 《オネスト》と願いと共に、キミの全てを解き放って見せる!!」

 

『マスター! 今、貴方を救ってみせます!!』

 

 自身の言葉を先回りして放たれた藤原の声に、挫かれた出鼻を立て直すように吹雪とオネストは力強く返すが――

 

「残念ながら、それは叶わない――オレの最後の手札は《ダーク・オネスト》!!」

 

『黒い……僕……?』

 

「《ダーク・オネスト》はオレの闇属性モンスターが戦闘する時、手札から墓地に送ることで相手モンスターの攻撃力を、その攻撃力分ダウンさせる!!」

 

 藤原の手札の1枚――黒く染まった《オネスト》の姿を見せられたことで、吹雪たちの願いは水泡に帰す。

 

「これが真実のラストターンなんだよ、吹雪!!」

 

「くっ、拙い! 既に攻撃宣言は……!」

 

 そう、《オネスト》の効果で光属性となった《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の攻撃力を上げようとも、その後で《ダーク・オネスト》に攻撃力を0にされれば意味はない。

 

「さよならだ、吹雪! いや、『ようこそ』と言うべきかな! 共にダークネスと一つになろうじゃないか!!」

 

 ゆえに勝利を確信した藤原が意気揚々と高笑う中、《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》が《クリアー・バイス・ドラゴン》の目前に迫る。

 

 だが、突如として《クリアー・バイス・ドラゴン》の足元から巨大な蛇の影が《クリアー・バイス・ドラゴン》の潜む水晶を覆った。

 

 そして、今まで沈黙を守っていたコブラは発動させていた1枚のカードの効果を語る。

 

「罠カード《毒蛇の供物》を発動させて貰った。私の爬虫類族――《ヴェノム・ボア》と相手フィールドのカード2枚――《クリアー・バイス・ドラゴン》と《クリアー・ワールド》は破壊される」

 

「ようやく動いたか! だが無駄だ!! オレの墓地には魔法カード《復活の福音》がある! こいつを除外して《クリアー・バイス・ドラゴン》の身代わりとすれば、結末は変わらない!!」

 

 しかし、藤原のいうように意味はない。《クリアー・バイス・ドラゴン》の破壊を防ぐ術が藤原にある以上、《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の攻撃は止まらず、吹雪の敗北の運命は変わらないのだから。

 

「そうだな。なら、選びたまえ」

 

 そして、それはコブラも承知の上だった。

 

「ふん、今度は何を狙っているんだ?」

 

「なにも狙ってはいない――私のミッションはこのデュエルを勝利で終えることだけだ」

 

 吹雪の敗北が確定した瞬間でさえ、動じない相手へ藤原は真意を推し量ろうとするも、コブラは揺るがない。

 

 それもそうだろう。

 

 

 藤原のライフは750と秒読み一歩手前だというのに、

 

 コブラのライフは未だ無傷。

 

 

 己のエース、戦術、ギミック――それらを全て吐き出した藤原と違い、

 

 コブラは殆ど動いていない。エースすら未だ不明だ。

 

 

 それらを前に、ようやく藤原はコブラの消極的なデュエルの狙いに気づいた。

 

「まさか、お前……初めから吹雪を……す、捨て石にするつもりだった……のか?」

 

 人道度外視の勝利への最適解。

 

 親友(藤原)の為にと率先して挑むであろう吹雪の命を、相手の情報を引き出し、相手を疲弊させる為だけの消耗品と割り切った作戦。

 

 吹雪が勝てば良し。負けても、親友の為にと限界以上に藤原を削ってくれるだけの実力はあるゆえに悪い手ではない。

 

 その理屈は理解できる。だが、感情は別だと藤原が震える声で問いかけようとも、コブラは何も答えない。だが、その沈黙が何より雄弁に全てを物語っていた。

 

「――だから吹雪のライフが100にまで減る光景を黙って見ていたのか!? 闇のデュエルなんだぞ!」

 

 闇のデュエルを仕掛けた側の藤原が言えた義理ではないが、まだ学生である吹雪を戦いの場に巻き込んでおいて、その命を「捨て石」と完全に割り切れる人間がどれだけいるだろうか?

 

 傷つき、苦しみ膝をつく友の為に戦う青年を前に罪悪感の一つも抱かず、心すら揺らさず蛇のように潜んでいられるコブラの精神性は藤原にとって理解の外だった。

 

 だが、そんな藤原にコブラは短く返す。

 

「彼は全ての覚悟をした上で、この場に立っている。なら、私に出来るのは彼を『一人の兵士』として特別扱いしないことだ」

 

 吹雪は覚悟を以て指令(ミッション)に参加した――ならば、その全ては指令(ミッション)の完遂に費やすのが道理。元軍属らしい思想である。

 

「オ、オレの余力を削る為だけに、吹雪の命を――」

 

「捨てたと断ずる割には随分と気にするじゃないか」

 

「くっ……! 吹雪を犠牲にしてでも己が有利な状況にしたいか!! 屑が!!」

 

「早く選びたまえ」

 

 そうして「これ以上の問答をする気はない」と藤原の糾弾を流すコブラの姿に、藤原はギリギリと歯嚙みするが、現実は変わらない。

 

 ダークネスへ縋る理由となった醜悪な者たちが遣わした権化であるコブラの前に、藤原が取れる選択肢は既に二つしかない。

 

「藤原……」

 

『マスター……』

 

 此処で吹雪に倒されるか、

 

 吹雪を倒し、満身創痍の身で無傷のコブラと勝ち目のない戦いを繰り広げるか。

 

 二人でダークネス諸共死ぬか、一人で真理(ダークネス)を失うか――引き金はその(藤原の)指にかけられた。

 

 吹雪を倒してダークネスと一つになる。そんな結末に悩む必要のないデュエルだった筈なのに、命の可否が委ねられる。

 

 悩む、悩む、悩む。ダークネスに全て委ねていた筈の決断が藤原に重くのしかかる。

 

「ど、どうした、吹雪! 命乞いの一つでもして見せてみろ!!」

 

「ボクはキミの選択を信じるよ」

 

 沈黙を嫌った藤原が挑発的な声を飛ばしても、吹雪から望む返答は引き出せない。「助けてくれ」の一言でもあれば、「サレンダーしろ」とでも言えるのに、誰も彼もが選択からの逃避を許してくれない。

 

「ハァ……ハァ……オレに! オレに出来ないと思っているんだろう! ()にかつての友を殺せる筈がないと!!」

 

 そうして一歩後ずさった藤原は、突き付けられた現実に耐えられないように叫ぶ。高を括っているだけだと。

 

 このままデュエルを続ければ、吹雪もたまらず「死にたくない」と叫ぶに違いない筈だと。

 

「だったら、とんだ誤算だったな! 僕にはダークネスこそが、唯一絶対!! これで、吹雪! お前は終わりだ!!」

 

 強がりにしか見えない宣言と共に藤原は最後に残された《ダーク・オネスト》のカードに手をかける。

 

 だが、相手からは何の反応も見られない。

 

 どうして何も言ってくれない。

 

 あれだけ親友だと語って見せた吹雪は、どうして何も言ってくれない。

 

「《ダーク・オネスト》を墓地に送って効果発動!!」

 

 

 もはや藤原に後戻りは許されなくなった。

 

 

 コブラは藤原を助ける気がない。ダークネスという脅威ごと排除するつもりだ。

 

 

 それはつまり、吹雪を倒しダークネスと一つになれば、吹雪も排除の枠組みに組み込まれることを意味する。

 

 

 藤原に残された道は一つ。吹雪を倒し、コブラを倒し、全てをダークネスと一つとすること。

 

 迷うことなど何もない。最初に戻っただけだ。

 

 

 

「《クリアー・バイス・ドラゴン》は効果破壊される場合、手札1枚を身代わりとする!!」

 

 だが、それでも親友が死ぬ可能性のある選択など、彼には選べなかった。

 

 

 藤原の最後の手札(ダーク・オネスト)を贄に《毒蛇の供物》によって生じた影の蛇を《クリアー・バイス・ドラゴン》の咆哮が打ち消していく。

 

「……ぁ」

 

「――吹雪くん!!」

 

「――オネスト!!」

 

『マスター!!』

 

『――Yessssss!!!!』

 

 呆然と零れた藤原の呟きを合図に駆けだした《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の背より、《オネスト》の純白の翼が広がり、翼から加速を得た突進と同時に横薙ぎに振り切られた剣が《クリアー・バイス・ドラゴン》の放ったブレス諸共その身を両断。

 

 

 そして《クリアー・バイス・ドラゴン》が爆炎の中に散っていく中、その爆炎の中より漆黒の豹戦士が光り輝く翼と共に飛翔。

 

「――来るな、来るな! 来るなぁ! オレは! 僕は!!」

 

「藤原! キミの心は戻りたがっているんだ! 帰ろう! みんなのところへ!!」

 

『マスター! 共に戻りましょう!!』

 

「追撃のダイレクトアタックだ、パンサーウォリアー!!」

 

 やがて恐慌状態の藤原へ、頭上――天より上段に構えられた《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の剣が――

 

「――(てん)(ひょう)(こく)(ふう)(ざん)!!」

 

『――Woooo!!!!』

 

 藤原を包むダークネスの闇を切り裂き、周囲に闇の奔流を消し去る光が瞬いた。

 

藤原LP:750 → 0

 

 

 

 

 







てきの やみわかめ は たおれた!





Q:コブラの最後のセットカードは?

A:罠カード《墓穴ホール》――はダメージステップ時に発動できなかった……(恥)

ですので、カウンター罠《透破抜き》にしておきます(小声)

ゲームエンドの為の2000の効果ダメージは無くなりますが、盤面ほぼ0にはなるのでコブラなら問題ないかと




Q:匿名希望の可能性の竜「レッドアイズは!?」

A:原作の「明日香VS吹雪」にてパンサーウォリアーメインのデッキでデュエルした吹雪へ
明日香が「どうして本気を出さないの!?」「レッドアイズは!?」などの追求がなかった件と、

原作にて、過去に吹雪のデュエルを見たサラという精霊が「レッドアイズ使い」という分かり易すぎる特徴を見落とすとは思えないので、

「ニュートラル状態の吹雪のデッキはパンサーウォリアー主軸」と判断させて貰いました。
私見ですが、吹雪がダークネス化する際の一件でレッドアイズを手に入れたものと推察しています。


後、「カッコいいドラゴン!」と「薔薇を一輪加えた獣戦士」を並べた結果、
「吹雪さんは、やっぱパンサーウォリアーだわ」とか思ゲフンゲフン


~今作での吹雪のデッキ~

アニメ版の獣戦士族デッキと、漫画版のスフィアな鳥獣族デッキを合体させた
所謂「下級ビースト(獣・獣戦士・鳥獣)」デッキです。

遊戯(幻獣王ガゼル)城之内(漆黒の豹戦士パンサーウォリアー)海馬(ミノタウルス)と伝説の面々が使用したモンスターが揃い踏みのロマンが詰まっています。

大型が殆どいない為、火力勝負が苦手ですが、その分サポート系を詰め込んである為
スフィアの吸収能力などでテクニカルに相手を翻弄しましょう(翻弄できるとは言っていない)


《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》は、融合体がOCG化されれば他と同様に《融合派兵》で呼べ――ない、だと!?
(種族指定とかバレットェ……)



~今作の藤原(ダークネス化)のデッキ~

《クリアー・バイス・ドラゴン》と《クリアー・ワールド》を主軸にするべく、『壊獣』の出張セットと合体。
敵ボス陣営、『壊獣』ばっかり使ってるな……(作者の引き出しの少なさを嘆きつつ)

作中で見せたように『壊獣』を相手フィールドに投げて、《クリアー・ワールド》のネガティブエフェクトを与えて、《クリアー・バイス・ドラゴン》の倍パンチ効果で殴るデッキ。

《クリアー・バイス・ドラゴン》が相手ターンで攻撃力0を晒し、相手モンスターいないと0パンチしか打てないお茶目っぷりを
両方を解決できる罠カード《パワーフレーム》で強引に解決――《サイクロン》は勘弁な!


コブラのデッキは、またの機会に(殆ど動いてないですし)


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