マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
吹雪「ボクは! ボク自身とオネストで 超 融 合 !!」

オネスト「王子と天使! 今ここに交わり、天地創造の叫びを上げよ!!」

フブキング「 「 フュージョン・チェンジ! フブKING(キング)!! 」 」

藤原「どういう……ことだ……」

フブキング「 「 キングドロー!! 」 」




第237話 楔

 

 

『此方、コブラ――対象の救出に成功した。詳細は追って伝える』

 

 アカデミアの校長室にて一人残り、業務を代行していた乃亜の元にコブラの通信が届く。

 

 その朗報は、ダークネス次元という脳筋な神崎ですら手出しを躊躇った領域であった為、心配の種は尽きなかった乃亜の肩の荷も降りよう。

 

 それゆえか、黒のサングラスと肩に棘のついたライダースーツを着た瓜二つの3人の壮年の男たちが、乃亜に謝辞でも贈るように朗らかに語り合う。

 

「どうやら向こうは無事に済んだようだな。あの程度の心の闇では、この辺りが限界か」

 

「永遠を望む愚か者たち程度の企みで運命の輪を動かそうなど、土台無茶な話ではあった――時期尚早だったと言う他あるまい」

 

「だが、得られたものもある。やはりと言うべきか、世界に及ぼされた影響は深刻なものだったと再確認できただけでも良しとしよう」

 

 

 そうして語り合う3人の影を前に、乃亜は動けない。

 

 なにせ、その首筋にそっと手を沿える骨の手の主――山羊に似た頭蓋骨に人間の外骨格を含めた長身を漆黒のローブで覆い隠した謎の存在から発せられる底冷えするようなプレッシャーに、すくんだ身体は指一本たりとも動かせない。

 

 文字通り、人とは次元の違う相手。生物的な恐怖が乃亜の身を苛むが――

 

――動けない……! こいつらは一体……!?

 

「自己紹介くら……いしても、ばちは……当たらない、んじゃない……かな?」

 

 気迫を以て辛うじて動いた震える声で乃亜は少しでも情報を得ようと口を開いた。

 

「おっと、これは失礼。私は『真実を語る者』――トゥルーマン」

 

「『ミスターT』と呼んでくれたまえ」

 

「その様子を見るに何も聞かされていないようだな。いや、それも当然だろう――あの傲慢な男が許す筈もない」

 

 だが、意外と素直に「ミスターT」と口々に名乗った3人は、口調だけは乃亜に友好的だった。

 

「何が……狙い、だ?」

 

――傲慢な男? 誰のことを言っている?

 

 しかしミスターTが語った「傲慢な男」との相手にだけは、僅かに侮蔑を孕んだ口調であったことを乃亜は見逃さない。

 

 そうして一字一句逃さないように恐怖で身をすくませつつも、強い視線を向ける乃亜だったが、ミスターTたちは何処か子供でもあやすような困った表情を見せた。

 

「おやおや、そんな怖い顔をしないでくれないかね――我々は()()()()の敵ではない」

 

()()()()で共に存在する運命共同体とも言える仲じゃないか」

 

「仲間という……のなら、拘束を……解いて貰いたい……ね」

 

「申し訳ないが暫し我慢して欲しい。なにせ、()()()()は崩壊の危機に瀕している――()()と言い換えても良い次元でね」

 

 あくまで乃亜と「敵対するつもりはない」と語るミスターTたち。

 

 乃亜の動きの制限をやり玉にあげようにも、首に手を添えているだけの行為を「拘束」と言うには弱いだろう。

 

 しかし、山羊のような頭蓋を持つ黒いローブの相手は、そんな乃亜の心を見透かすように静かに語り始める。

 

「汝の内に巣食う闇」

 

 それは乃亜が誰にも明かさなかった己と近しい者へと抱いた心中(心の闇)

 

「優秀な弟への劣等感、純粋な末弟への憧憬、排斥された父親への葛藤、拭えぬ恩人への疑念――幾ら強がろうとも心は偽れぬ」

 

「そう、キミの全ては()()()()()()()()()というのに、こうして見世物にされ続けるなど、あまりに惨いことだとは思わないかい?」

 

――話が噛み合っている気がしない。何が言いたい? ボクの背後にいる存在が彼ら(ミスターT)の親玉で良いのか? そもそも『傲慢な男』とは誰を指す? 世界の崩壊とはなんだ? 彼らが齎すものではないのか?

 

 だが、乃亜からすれば、会話になっている気がしなかった。相手が此方に合わせる気がないとも感じられる。

 

 山羊のような頭蓋を持つローブの相手の言葉は乃亜の心中を言い当てたことは理解できるが、それらがミスターTの説明に繋がる道程が乃亜には見えない。

 

 乃亜の心中が一体、世界の崩壊とどう結びつくのか、破綻とどう繋がるのか。己への優秀さに自負のある乃亜にさえ、分からないことだらけだった。

 

「懸命に思案を巡らせているところで悪いが、それは徒労というものだよ」

 

「その通りだ。聡明なキミが幾ら考えたところで真実に辿り着くことはない――いや、辿り着いたところで()()()()()()()()()()()と言うべきか」

 

 そんな乃亜の思考を読んだようにミスターTたちは肩をすくめて呆れた姿勢を見せるばかりだ。乃亜へ、これ以上の説明をする気はないらしい。

 

 だが、此処で空中から突如現れた黒いもやに包まれたカードが新たなミスターTとなって、ダークネスの仮面を片手に合流しつつ、オーバーに息を吐いた。

 

「回収に成功した。彼らの目を掻い潜るのには苦労したよ」

 

「アレの悪食さは困ったものだからね。不確定要素は消しておくに限る」

 

「此方の要件も済んだ以上、長居は無用だろう」

 

 そうして乃亜の相手をやめたミスターTたちが各々帰り支度を始める旨を話し合っていたが――

 

――4人目、こいつも同じ顔……後ろのヤツの分身と考えるべきか。彼らの目的はダークネスの仮面の回収……だけでは無い筈。

 

「汝が知る必要の無きことだ」

 

 だが、そんな乃亜の思考は、そう零した黒いローブの相手の白骨の手が乃亜の首から頭にゆるりと移した瞬間に鈍化し、睡魔のような気怠さによってままならない。

 

「此度を忘れ、このくだらぬ喜劇の只中で暫し踊り続けるがいい」

 

 やがて乃亜の身体が深淵に沈んで行くかのような心地良さに落ちていく中、彼は己が意識を繋ぎ止めることが叶わず、糸の切れた人形のように力なく椅子に己の身体を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は役者と舞台が揃う時をゆるりと待つとしよう」

 

 そんな黒ローブの最後の言葉は、既に乃亜の耳には届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『如何に不死のモンスターといえども、攻略法は存在する!! 来たれ、《サイバー・エルタニン》! コンステレイション・シージュ!! これで突破口は開けた!! 受けて貰おうか、この一撃を! ドラコニス・アセンション!!』

 

 亮の頭上に、巨大な機械の竜の頭部が出現し、その周囲を飛び回る小型の機械の竜の頭部たちと共に一斉に光線を放ち、フィールドを焼け野原と化していく。

 

『降臨せよ、サイバーエンド!! 《パワーボンド》の効果により、その攻撃力は2倍の8000!! バトルだ!! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!』

 

 そして時に、三つ首の巨大な機械竜の圧倒的なパワーを更に高めた一撃を以て、全てを薙ぎ倒さんとするその姿はまさに圧巻。

 

『そうくるか――ならば、速攻魔法《融合解除》!! サイバーエンドの融合を解除! これで対象を失ったその効果は不発となる!!』

 

 その巨大な力に振り回されることなく、自在に3体の蛇のような体躯を持つ機械竜に分離させ、相手の一手をものともしないその姿は、皇帝――カイザーと呼ばれるに相応しい。

 

『そして解除された3体の《サイバー・ドラゴン》で攻撃!! エボリューション・バースト! 三連打ァ!!』

 

 若くしてサイバー流を修め、その流派の顔と言うべき《サイバー・ドラゴン》たちを手足のように扱う様は、まさに麒麟児。マスター鮫島が手放しで褒め称えるだけはある。

 

『まだだ! 速攻魔法《フォトン・ジェネレーター・ユニット》発動! 2体の《サイバー・ドラゴン》を素材に降臨せよ、《サイバー・レーザー・ドラゴン》!!』

 

 二体の機械竜が連なり、その身を長大な機械竜と化し、尾の先から花弁のように開いた発射口より、立ち塞がる全てを貫くかのような輝きをほとばしらせる姿は、カードパワーに惑わされる様子もなく、己のデュエルを貫くその姿は実にオーナーが好みそうなデュエリストだ。

 

『バトルフェイズ中に呼び出されたサイバー・レーザーには攻撃権が残っている!! 追撃の――エヴォリューション・レーザーショットォ!!』

 

 こんなぬるま湯のような環境(お世辞にも整っているとは言えない学園)で、なにをどうすれば、こんな化け物が生まれるのか。

 

 

 

 

 忌々しい程の才能だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学内にあるアカデミア倫理委員会の本部にて、牛尾は倫理委員会の面々にKCからの通告を告げた後に続く組織改革に頭を悩ませていたが、視界の端で捉えた遅い帰還を果たした後輩へ、返事代わりに話題を放った。

 

「おー、戻ったかアモン。どうだったよ」

 

「……問題ない」

 

 だが、牛尾の向い側にドカッと腰を落とし、職務に戻るアモンのらしからぬ態度に思わず牛尾が、亮とのデュエルの話題に触れれば――

 

「なんだよ、負けちまったのか?」

 

「『問題ない』と言った筈だ」

 

「そう怒――悪い、悪い、これ以上、詮索しねぇよ」

 

 ギロリと擬音が聞こえそうな視線がアモンの眼鏡越しに突き刺さり、牛尾は両手を軽く上げて降参を示しつつすごすごと退散の姿勢を取る。

 

「相変わらずお前さんは妥協を知らねぇなぁ……」

 

「それで、首尾はどうだ」

 

「ぶっちゃけた話、根っこから治さねぇとどうにもならねぇ感じだ――転職したくなくなるよ」

 

 そうして仕事の話に移る牛尾たちだが、アカデミア倫理委員会の問題点は多かった――というか、殆ど機能していなかった。

 

 学内に蔓延る問題に何も対処できていないどころか、殆ど気づけていない。

 

 寿命の概念がバグったことで定期的な転職染みた真似が必要になった牛尾の部署移動の最初の場となるだけに、こうも問題点ばかりでは頭を抱えたくなろう。

 

「自分の新しい城だろう? 不義理は全て返ってくるよ」

 

「心配しなくても手は抜かねぇよ。放っぽり出された後が怖いもんでな」

 

――寿命だ何だと、転々としなきゃならなくなった理由ある身としては、初っ端が辛いぜ。

 

 しかし、アモンから正論を突き刺されれば、牛尾もため息を吐きつつ受け入れるしかない。なにせ、今の牛尾はKCの後ろ盾がなければ実験動物よろしくな具合で何されるか分からない立場なのだから。

 

「ぐっ……!?」

 

「どうしたんすか、鮫島さん? 学園の惨状を前にして気に病むのは分かりますけど、悔やむより先にやれることやりましょうや」

 

 そんな中、アカデミア倫理委員会の破綻っぷりと、牛尾の元に集められた学内並びに生徒たちの惨状に心を痛めていた鮫島の目頭を押さえる姿に、牛尾が手を止めぬままに労わる声を飛ばすが、鮫島は首を横に振って無念そうに声を絞り出した。

 

「……違います。どうして……どうして、忘れてしまっていたんだ……」

 

「……? あー、ひょっとして例の『藤原 優介』って生徒のことっすか? あっちは無事終わったってことなら、良かったじゃないですか」

 

 ダークネスの力が消えたことで、失われた藤原の記憶が戻ったことで新たな自責の念を抱え込む鮫島。牛尾の慰めの言葉も効果は薄い様子だ。

 

「あぁ……とても純粋で真っすぐな生徒だったのに、忘れてしまうなんて、教師として――」

 

「そこは仕様がねぇと諦めるしかないっすよ。頭の中イジられてたようなもんなんすから――家族すら覚えてなかったのに、逆に鮫島校長が覚えてた方が驚きでしょうし」

 

 大事な生徒のことを忘れてしまったことを嘆く鮫島だが、牛尾からすれば世界中の人間が逃れられていなかった規模を持つダークネスの力を弾ける人間がいる方がおかしな話である。

 

 とはいえ、そんな奇跡の存在だった吹雪の言を重要視しなかった件で、また己を責めてしまうのが鮫島の人の良さなのだが。

 

――昔の俺にも、こんな先生がいたら何か変わったのかね……

 

「おーい、アモン。乃亜がお前さんに用事があるってよ。こっちは良いから、向かってくれー」

 

「う、牛尾さーん! マグレ警部という方が、捕まえた人たちの引き取りに、こ、来られましたー!」

 

「おう、分かった。んじゃ、この場は頼むわ」

 

 やがて鮫島の人柄を見つつ何にもならないことを考えた後、北森からの客人の知らせに牛尾は席を外すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時間は少々飛び、藤原たちの騒動の後始末が一先ず終えたところで、それらを担当していたコブラたちは報告もかねて乃亜の元に集っていた。

 

 そうして色々と報告が飛び交った後、コブラが代表として最後の締めとして今後の方針にかかわる報告を述べる。

 

「藤原 優介に話を聞いたところ、彼にダークネスの道を示したのは大徳寺という教員だったそうだ。彼に孤独感を植え付けた生徒の失踪も彼の仕業だと判明した」

 

「ダークネスの研究ついでに、素養のある人間を引き込む一手だった訳か――抜け目がないね。証拠の方は?」

 

 オネストという精霊がいた以外は、多少デュエルが強いだけの藤原にダークネスの道を悪意を持って示した下手人を取り逃がした事実に乃亜も軽い調子で相手を称しつつも眉を顰めるが、今回の件で朗報もあった。

 

 それが、藤原がダークネスの力で行使した「全世界の人間に向けた記憶の消去」であるとコブラは続ける。

 

「藤原青年が己の記憶消去を徹底したのが功を奏した。記憶の欠落により、藤原青年を中心とした研究資料を処理し損ねたようだ」

 

「流石の錬金術師サマも、忘れさせられた隠し場所の後始末は出来なかった訳か」

 

 そう、下手人の大徳寺自身も「記憶の消去から逃れられなかった点」――つまり、藤原の件に大徳寺が関与した証明である研究データだけが、破棄されずに残っていたのだ。

 

 人目をはばかられる研究であり、数も多いであろう各種研究資料を散らして隠す必要がある以上、「藤原についての記憶を失う」影響は肩をすくめる乃亜が言うように、計り知れない。

 

 原作では、アカデミアの拠点を引き払う必要がなかったゆえに問題にならなかったが、歪んだこの歴史では、あまりに致命的だった。

 

 そして一教員である大徳寺に大々的な儀式場が用意できないことは自明の理である為、証言と物証という表では強大なカードを手にした乃亜へ、斎王は試すように問う。

 

「どうする? 掴んだ尻尾を引いてみるのかな?」

 

「止めておこうかな。相手の全容も分かっていない段階で交戦は避けたい。彼の方は表の流儀で手を打っておくさ」

 

 斎王の占いにより背後の親玉の存在を示唆しているが、それでも乃亜は相手の背後関係を完全に明らかにする方針を示した。

 

 追いつめ過ぎた相手がヤケになってオカルトの力で大々的に危害を振り撒くようになれば、ギースや斎王のような人間の立場は一気に悪くなる――中世の魔女狩りの再臨など御免であろう。

 

「だから斎王、キミは藤原 優介と天上院 吹雪のメンタルケアを――またダークネスとやらに魅入られると困るからね」

 

「心得た」

 

「コブラ、キミは学園内の方を頼む。不穏分子の再確認も含めてね。人員の方は増員含めて好きに使って良い」

 

「なら、教員側に紛れさせる人員の許可を頼む。発破は内からもあった方が良い」

 

 そうして乃亜は一先ずアカデミアの掃除を優先するように、仕事を次の段階へと進めるべく新たな指令を下していけば――

 

「手配しよう――美寿知、キミはもけ夫くんを担当しているツバインシュタイン博士たちと合流して特待生寮の最終調査を。あの寮は後に解体するから、そのつもりで――以上だ」

 

 この場の面々が次々に校長室を後にしていく。

 

「アモン、キミは残ってくれ――ボクと別のオカルト案件を片付けようか」

 

「…………僕に、ですか。了解しました」

 

 だが、最後の最後で乃亜に呼び止められたアモンは、精霊を見る力もなく、特異な力も持たない自身に「その手の仕事」の同行を要請された事実へ、違う意味で面倒な気配をひしひしと感じることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アカデミアのある島内は生徒・教師・職員たちの生活圏以外は森が多い。そんな森深くにポツンとある枯れ井戸など意識しなければ近づくことすらないだろう。

 

 そんな枯れ井戸の前に乃亜とアモンは訪れていた。

 

「此処が噂の立ち入り禁止の枯れ井戸……ですか」

 

 そう枯れ井戸を覗き込みながら呟くアモンは学内の調査の際に、この場所がどういった場所か知りえていた。

 

 生徒たちが「不要なカードの廃棄場所」として利用している――だが、だからこそ不可解だと顔を上げたアモンは乃亜に問う。

 

「そろそろ事情を話して貰えませんか? オカルト案件と言いながら、その実ただのカード回収に頭である貴方が動く必要はないでしょう?」

 

「そう、難しい話じゃないよ。ボクたちは『カードの精霊が見えない』からさ――斎王と美寿知曰く、この枯れ井戸は怨み辛みの籠った精霊の坩堝(るつぼ)との話でね。鈍い方が助かる時もある」

 

 だが、対する乃亜の返答はまともに答える気が感じられない。精霊が見えない条件ならアモンだけでも十分である。

 

 しかし、これ以上、語る気はないのか乃亜は縄ハシゴを下した枯れ井戸の中へと一足先に入って行った。

 

 

 

 

 

 そうして井戸であることを感じさせない水気のなさと、だだっ広い地下空洞一面に捨てられたカードが広がる場に下りた乃亜は思わず呆れた声を漏らした。

 

「これは……何というか、悪い意味で圧巻だね。まるでカードの姥捨て山だ」

 

「生徒の素行調査をしていた身としては、特に不思議には思いません」

 

 後に地下に降りて合流したアモンが「だろうな」と返す他なく、カードの回収を始めるも、疑問があった――それが鮫島の枯れ井戸への対応。

 

「ただマスター鮫島の人間性を見た限り、何故このカードを回収しなかったかは疑問ですが」

 

「一度は回収したんじゃないかな? そして『いけないことだ』と生徒に教え、解決したと判断した」

 

 しかし、これは鮫島と直に接した乃亜から解がなされた。鮫島は言ってしまえば「性善説」を絶対視しているような人物なのだ。「話せば分かってくれる」と相手の善性を信頼し過ぎている。

 

「だけど、立ち入りを禁止したところで人の目が少ない以上、来る馬鹿は一定数いる。試しに捨てても見回り一ついないんじゃ、何も言われない。そして悪しき伝統の復活――そんなところかな」

 

 そう予想する乃亜の言うように、残念ながら世の中「良い人」ばかりではないのだ。抜け道があれば悪用する人間も当然いる。

 

「気づいた教師もいたかもしれないけど、面倒ごとに関わりたくないと口を閉ざしたか、あえて残すことでカードの投棄場所として現状を把握し易く――いや、そんなことするくらいなら、購買辺りにポイント交換券でもつけた方が建設的か」

 

 教師陣側の問題――というより、システム的な問題点への改善案を話の種に上げつつカードを拾うが――

 

「ポイント交換券? カードの無料回収で十分では?」

 

「人は自分の物をタダで提供するくらいなら、捨てる選択を取る卑しい生き物なのさ――無論、ボクたちもね」

 

「その卑しいアンタたちには相応のモノが返ってくるとは思わないのかしら?」

 

 アモンと乃亜の他にいる筈のない枯れ井戸の地下で、少女のような第三者の声が響いた。

 

――気配がしなかった!? 何だ、この女!?

 

「初めましてお嬢さん。ボクは海馬 乃亜。この学園の改革を担当する臨時代表と言ったところかな?」

 

 咄嗟に跳び退いたアモンに反し、乃亜は突然現れた 黒のウェーブがかった長髪に黒のゴスロリ衣装の少女へ仰々しく礼をしつつ名乗りを上げれば――

 

「あら、これはご丁寧に――あたしは『アリス』、よろしくね」

 

 少女、「アリス」は花のような笑顔を振りまいて見せる。

 

「……アモンだ」

 

「でも聞き捨てならない言葉が聞こえたわ。この屑共の巣窟を改革するですって?」

 

「耳が痛いな」

 

 しかし、「学園の改革」との点にアリスは一段と低くなった声色で苛立ちを隠すことなく示して見せた。

 

「恨みつらみが籠った言葉だ。思うところがあるのか?」

 

「『思うところがある』ですって? あるわ。あるに決まってる!!」

 

 やがて詳細を問うたアモンの発現に、アリスは激しい負の感情をあらわにしながら叫びを上げる。

 

「しがない人形の精霊でしかないあたしには、破られるカードたちへ、井戸に捨てられるカードたちへ、何も出来なかった……でもね」

 

 この学園に飾られていた西洋人形に宿った精霊であるアリスは、誰よりもアカデミアの負の側面を見続けた。

 

 カードの強奪、破棄、投棄――物言わぬ相手だからと傲慢さを肥大させていく者たち、そして彼らを誰も咎めることのない現実。

 

 同じ物言わぬ立場であり、ずっと、そんな光景を見続けてきたアリスがアカデミアの生徒を憎み始めることは必然だった。

 

 そう、カードの精霊が見えない乃亜やアモンに、アリスを知覚することができるのは「人形の精霊」としての意思が宿った人形であるゆえ――そしてアリスは憎悪に満ちた目で続ける。

 

「――積もりに積もった怨嗟はあたしたちに力を与えたわ! とても大きな力を!!」

 

『そうだぜー! 今こそオレたちを捨てた奴らに復讐する時だー!』

 

『やってやりましょう、アリスの姉さん!』

 

 今こそ復讐の時だと。

 

 そのアリスに続くのは、赤い海パンオンリーの変な生物2体――ぽっちゃり体型の黒の小さな人型《おジャマブラック》と、筋肉質な一つ目の緑の小さな人型《おジャマグリーン》たちがアリスの周囲でフワフワ浮かぶ。

 

 

 他にも、骸骨、芋虫、もこもこ毛並みの犬、渦巻き模様の紫猫、緑の小竜、筆を持つ小さな紫のゴブリン、顔のついた壺、一つ目の緑の蛇と赤い蛇、角の生えたビーバー、前歯の長い兎、赤い花が顔になった不気味な植物、百合に似た花、駒に似た身体に大翼をもつ一つ目の化け物、赤い人型のアイツ、草の髪を揺らす足の着いた丸い生物、天使の翼を広げる額にハートのついた丸い生物、etc.etc

 

 

 全体的にパッとしない面々が多いが、アリスの背後に山ほど浮かんでいる光景が見えれば百鬼夜行もかくやな光景である。残念ながら乃亜とアモンに見えはしないが。

 

 

 そんなデュエリストたちの不義理により捨てられたカードたちの怨嗟を一身に受けたアリスは、それらのカードたちを組み込んだデッキをデュエルディスクにセットし、復讐の時が来たと宣言した。

 

「さぁ、闇のデュエルの始まりよ! 敗者は永遠に真っ暗な絶望の淵をさまよって貰うわ!」

 

「ボクたちはキミの敵ではないよ。むしろ、その復讐の手伝いに来たんだ――キミたちの味方さ」

 

『味方ー? アリスの姉さん、アイツ、あんなこと言ってますけどー』

 

『ひょっとして悪い奴らじゃないんじゃ……』

 

『ニャン?』

 

「お黙り! なに丸め込まれそうになってるの! 忘れたのかしら、この学園の人間が貴方たちにした所業を!」

 

 しかしデュエルする気が皆無な乃亜からの思わぬ返答に「味方じゃん!」とおジャマグリーンとブラックは顔を明るく反応するが、そんな甘い考えはすぐさまアリスにたしなめられた。

 

 今更そんな言葉に騙される阿呆など…………そんなにいない。

 

『はっ!? そうだった! 俺たちをこんな井戸の底に捨てたアイツらを許せる訳ないぜ!』

 

『まったくだなー!』

 

『ワン!』

 

「そうだね。キミたちの怨みは正当なものだ」

 

 そうしておジャマたちが「危ないところだった……」と冷や汗を流す中、乃亜はアリスへの交渉を続けていく。

 

「だけど闇のデュエルで生徒たちに危害を加えれば、これ幸いと彼らに大義名分を与えてしまう『こんな奴らは捨てられて当然だった』ってね」

 

『確かに俺たちだけで、倒せる数なんて高がしれてるしなー』

 

『でも許せない気持ちに嘘は吐けないぜ! それは此処のみんなも同じ気持ちだぞ!』

 

『シャー!』

 

 実際問題、乃亜の言うように復讐しようにも何人か犠牲者が出た段階で、大々的な鎮圧が行われることは明白だ。海馬に飛んでこられれば、流石の彼らもひとたまりもない。

 

 だが、受けた仕打ちを鑑みれば、スゴスゴと引き下がることもできないのも、また真理。

 

 ゆえに困った様子でおジャマグリーンが一同を代表してアリスへ、心配げな視線と共に向けば――

 

『アリスの姉さんー! どうしよー!』

 

「ふん、簡単なことよ。こいつの話を聞いて決めれば良いだけじゃない――納得できなければ、こいつが最初の犠牲者よ!」

 

『確かに! それなら分かり易いぜ! 流石、姉さん!』

 

『おらおらー! さっさと話しやがれー!』

 

『キュー!』

 

 凄いシンプルな解決策に、すぐさま調子に乗ったおジャマたち含めて精霊たちが急かす――ことなど、知覚できていない乃亜はアリスの発言から前後を予想しつつ主題の部分を明かした。

 

 

「――もっと合法的に復讐しないかい?」

 

 

 しかし発言内容はアリスを含め精霊たちも想定していなかったもの。

 

『合法的ー?』

 

『復讐に合法とかあるのか?』

 

『フェー?』

 

 一般的に忌避される「復讐」を「合法的」に行うとの乃亜の提案に興味津々なカードの精霊たちと、疑念に満ちた瞳を見せるアリス。

 

 そしてアモンの「あの人の悪影響でかくね?」的な感情が籠った視線の中、枯れ井戸の中で悪巧みが始まりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台はアカデミア倫理委員会の犯罪行為を成した面々を島外の警察組織に引き渡すまで一時的に囚えておく独房にて両手足を拘束された4名が転がっていた。

 

 

 彼らは偽造された戸籍を以て、アカデミアに潜入していた者たち――

 

 

 小柄な短い金髪の少年こと、レッド生に扮した『チック』、

 

 スキンヘッドの大男こと、オシリスレッドの管理人に扮した『ゴーグ』、

 

 背の高い茶髪の眼鏡の青年こと、警備員に扮した『クリフ』、

 

 長い茶髪の女性こと、ブルー寮の女医に扮した『ミーネ』、

 

 

 彼らは、生徒たちの情報を学外に流していた罪で囚われている。

 

 

 そうして此処で年貢の納め時か、とあきらめムードな彼らだったが、天井裏より一つの影が降りたち、独房の扉の鍵をピッキングし始めた。

 

「今、助けるぞ、お前たち!」

 

「お頭、どうして此処に!?」

 

「お前たちが捕まったとの情報を『マグレ警部』としての立場で知り、助けに来たに決まっているだろう!」

 

 そう、この肩口まで伸びた紫の髪の眼帯の男こそ彼らのリーダーであり、「マグレ警部」との偽名と立場を持つ――「ザルーグ」である。

 

 やがて鮮やかな手口で鍵を開け、独房の扉を開いたザルーグは、仲間たちの手足の拘束の解除に取り掛かる。

 

「流石、お頭!」

 

「お頭! きっと来てくれると信じてました!!」

 

「気にするな――来るべき決戦の日まで潜伏している予定だったが、こうなっては仕方あるまい! 一旦退却だ!」

 

「逃げてどうすんだ?」

 

「それは当然――って、なにやつ!!」

 

 しかし仲間たちの拘束の解除中に背後でガチャンと独房の扉の締まる音と共に牛尾の声が響いた。

 

「俺たちを捕まえた学園のヤツらです!!」

 

「かなり手強いわ!」

 

「あっ、カギ閉められた!?」

 

 そうして助けに来た身で独房に閉じ込められたザルーグだが、その余裕は崩れない。なにせ、カギをこじ開ける道具は手元にある――なれば脱出など彼からすれば容易い話。

 

 ゆえに仲間に手足の拘束を外す為の道具を隠して託しつつ、相手の注意を引くように牛尾に語りかけた。

 

「ほう、仲間たちが随分と世話になったようだな……それで『逃げてどうする?』とはどういった意味かな?」

 

「此処は海のド真ん中、学園中がお前さんらの敵、船で逃げようが追う足の方が多い、万が一逃げ切れても、ツラは割れてるから指名手配は確実――まぁ、ざっとこんなもんか」

 

 だが、牛尾から語られる状況説明は中々に厳しいものがある。普通ならば永遠の逃亡生活に腰が引けることだろう。

 

「お前さんらの依頼主が誰かは知らねぇが、俺がそいつの立場なら間違いなく切るね」

 

「フッ、我ら黒蠍盗掘団の結束を舐めて貰っては困る! 仲間を見捨てる真似などするものか!!」

 

「お頭!!」

 

「一生ついていきます!」

 

 しかし牛尾の言を鼻で嗤い、啖呵を切ったザルーグに手足の拘束を外し終えた仲間たちも立ち上がり――

 

「そうだとも! 仲間は決して見捨てない! それが――」

 

 屈んだザルーグを前方に中心に、両手を広げて上げたチックと共にX字を作り、

 

 後ろに立ったゴーグが両手を広げ、自身のこめかみに掌を向けるポーズを取り、

 

 左右を固めたミーネとクリフが、X字を崩さぬ形で両手を広げ、

 

「 「 「 黒 蠍 盗 掘 団 !! 」 」 」

 

 彼ら――黒蠍盗掘団の決めポーズを取った。彼らは独房の中で何をやっているのだろうか。

 

「生徒を実験材料扱いする奴らの仲間が、なに言ってんだか」

 

「それも、黒蠍盗――ん? 待て。今の発言、取り消して貰おうか!!」

 

「そうよ、黒蠍盗掘団を侮辱して貰っては困るわ! 我らは誰も痛めず、傷つけず、貧しき者からは何も盗まず!」

 

「これこそ、黒蠍盗掘団の盗みの掟三箇条!」

 

「罪なき生徒を傷つける悪漢と同列にされては、黒蠍の名折れよ!!」

 

 だが、牛尾がため息交じりに零した言葉に黒蠍盗掘団は「心外だ」と食い気味に反論を述べる。彼らは所謂「義賊」――義を通す手段が盗みの悪であれど、外道に落ちる真似は誇りが許さない。

 

「あー……何も知らねぇパターンか」

 

――演技じゃねぇと信じたい。

 

 そんな黒蠍盗掘団の全体的に間の抜けた雰囲気に牛尾はゲンナリしつつも、念の為にと確認を取る。

 

「『大徳寺』って教師のやらかし知らねぇのか?」

 

「大徳寺? その教師と我らに何の関係がある?」

 

「なら、錬金術師アムナエル」

 

「――同志アムナエルを侮辱する真似は止して貰おうか!!」

 

――同志なのかよ……つか、口軽いな。苦労して手にした情報だってのに気が滅入るぜ。

 

 しかしザルーグの「大徳寺=アムナエル」の事実を知らない様子を見るに、一方的な関係であることがありありと見て取れた。

 

 ゆえに藤原の件から明らかになった情報の中から問題のない範囲でなおかつ、「同志」と信じて疑わないザルーグたちが嫌悪感を示すであろう資料を懐から出した牛尾は黒蠍盗掘団に開示すれば――

 

「……とりま、この学園で起きた事件な。これ見て、黒蠍の誇りとやらを思い出してくれや」

 

「ふん、何を馬鹿かな。我らの同志曰く『崇高な使命』があると――んん?」

 

「えっ? なにこれ、酷くない?」

 

「うーわ、まじかぁ……」

 

「ドン引きでやんす……」

 

「き、気持ち悪くなってきた……」

 

 思った以上に、黒蠍盗掘団とアムナエルの関係にヒビが入った。本当に何も知らなかったらしい。

 

「待て待て待て! 敵からの情報をうのみにするな、お前たち!!」

 

「 「 「 はっ!? 」 」 」

 

 だが、此処でザルーグの当然の主張に我を取り戻した黒蠍盗掘団4名が顔を見合わせる。危うく騙されるところだったと――現在進行形で騙されているのは彼らなのだが。

 

 やがてヒビの入った結束を修復すべくザルーグは懐から通信機を取り出し――

 

「此処は黒蠍盗掘団の長として! 私が直接アムナエルに確認を取る!」

 

「流石、お頭!! 切り替えが早い!!」

 

「同志を信じ抜く心意気、見事だわ!」

 

「フッ……さて――――アムナエル! 私だ! マグレ警部こと、ザルーグだ! 小耳に挟んだのだが、学園の生徒で危険な実験をしているとの噂は本当か!」

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになって、おかけ直し――』

 

「――アムナエルゥ!!」

 

 アムナエルに電話したザルーグの耳に届いたのは、無情な音声案内だった。膝から崩れ落ち、悔し気に独房の床を叩いたザルーグの仕草が妙にもの悲しさを感じさせる。

 

 同志の結束は幻想だったらしい。

 

「……やっぱり尻尾切りされてるじゃねぇかよ」

 

「くっ、だとしても仲間たちは助け出して見せる!」

 

「お頭! アンタって人は!」

 

「流石はアタシたちのお頭!」

 

 しかし、呆れ気味な牛尾を余所にすぐさま立ち上がったザルーグは黒蠍盗掘団だけは助けてみせると意気込み、仲間たちと勝手に盛り上がり始めるが――

 

「いや、こっちもアンタら牢屋に放り込む気はねぇのよ」

 

「なんだと?」

 

「精霊を人間とこの牢屋に入れると問題が大きいんだよ。今の人間社会は精霊を受け入れる土壌なんてねぇからな」

 

 牛尾としては、斎王から彼らが精霊だと知らされた段階で「一般的な扱い」が出来ない事情があった。

 

「よもや、命の取り合いを望むというのか? そういうのは、黒蠍的にちょっと遠慮願いたいのだが……」

 

「おう、俺も死にたくねぇからパス。だから、精霊のことは精霊に任せるわ」

 

 だが、事情を知らぬザルーグたちからすれば「よもや口封じを……」と物騒な警戒心を募らせるが、牛尾も顔の前で手を左右に振って否定を返す。

 

「こっちのツテで精霊界の司法機関まで送っから、弁明はそっちでしてくれや」

 

「ううーむ……」

 

 そうして、自分たちがこの先辿るであろう顛末を聞かされたザルーグが悩まし気な表情を見せるが、実質的な選択肢は殆どない。

 

――この男の言うように逃げ場がないことも事実。その言葉を何処まで信じて良いかは定かではないが、アムナエルたちは我らを助ける気がない以上……形だけでも呑む他あるまい。

 

「お、お頭……」

 

「……俺たちこれからどうなるんだ?」

 

「安心しろ、お前たち! 万が一の時は、私の命令に従っていただけだと言うんだ!」

 

 やがて不安気な表情を見せる黒蠍盗掘団4名にザルーグはリーダーとして全てを背負い込む覚悟を見せるが――

 

「お頭! 駄目よ、そんなこと!」

 

「そうだぜ、お頭! 黒蠍盗掘団は常に共に!」

 

「お前たち……!!」

 

「 「 「 お頭……!! 」 」 」

 

 黒蠍盗掘団の結束の絆は鉄よりも固い――やがて仲間同士見つめ合った後、円陣を組むように暑苦しい程の熱い抱擁を交わす黒蠍盗掘団。

 

 

――いや、そういうの含めて精霊界でやってくれ、って話なんだが……

 

 そんな彼らの寸劇染みたやり取りを見つつ、牛尾は何度目か分からぬため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時間は良い感じに進み――

 

 

 校長室にて、乃亜とコブラが各所から集められた情報を右へ左へと処理していく中、乃亜の前に積まれた書類の一番上の資料の顔写真を指さしアリスが声を張る。

 

「あっ! コイツ! コイツは屑よ! 人のカードを奪って、破り捨てちゃうヤツなの!」

 

『こいつは、アイツだなー! あっちのアイツ捨てたヤツだわー! 酷いヤツだぜー!』

 

『クェー!』

 

「調査結果とも相違ないね。なら退学と社会的ペナルティをプレゼントだ」

 

 そう、これこそが乃亜が語った「合法的な復讐」――アカデミアの負の側面を見続けてきたアリスたちは言うならば、アカデミアの問題児たちの生き証人。

 

 乃亜たちが行った調査結果の裏付けとして、これ程までに最適な人材はおるまい。

 

 アリスや捨てられたカードの精霊たちの怨み辛みも、思う存分晴らせるとなれば、精霊たちとて協力的になろう。

 

 精霊が見えない乃亜たちでもアリスの通訳があれば無問題である。

 

「でもコイツ、親が偉いとか何とか言ってたけど、大丈夫なの?」

 

『そうだよな。こういうので泣き寝入りしちゃうのも多いんだよ』

 

『フェフェー!』

 

「ああ、問題ないよ。ドラ息子可愛さとは言っても、限度があるからね。望むなら鳥カゴで『自慢の息子への道』を用意する旨を伝えるさ」

 

 そうしてルンルンで魔女狩り染みた真似を行うアリスが懸念事項を上げるが、その辺りの問題は神崎が過去に通った道である。

 

 戦場へマッスルで物理的に突貫してきた集団が恐れるのは、海馬社長くらいだ。

 

「鳥カゴ?」

 

「素敵なところさ」

 

「……碌でもない雰囲気しかしないのだけれど」

 

 しかし、その辺りの事情を知らないアリスが小首をかしげて見せるが、乃亜は何でもないように語るそれ(鳥カゴ)が禄でもないようなものにしか思えない。実際かなり禄でもないが。

 

『アリスの姉さん! 次のヤツ来ましたよ!』

 

『一緒に学園を良くしちゃおうぜー!』

 

『ニャー!』

 

 そうして、おジャマブラック・グリーンたち含めた精霊たちの手により、ひとりでに浮かぶ書類が宙を舞う中、コブラが咳払いしつつ釘をさすが――

 

「乃亜、あまり派手にやり過ぎるな。一般的な教師像は『生徒を見捨てず』だろう?」

 

「だからだよ。これだけの問題があった以上、KCも無傷ではいられないからね。学園改革への徹底した姿勢を見せるのさ」

 

 学園の問題に関して海馬が隠蔽など許す筈もない以上、半端は許されない。次に学園の自浄作用が働かず内部が腐ることになれば、下手をすればKCが終わりかねない可能性だって見えてくる。

 

「問題の発生を『0』にするのは現実的に不可能なんだ。なら『即時解決』を印象付けた方が良い」

 

「教育とは難儀なものだな」

 

「ふん、いい気味よ! ――あっ、でも次の子はとっても良い子よ! デュエルはそんなに強くないけど、カードのことをとっても大切にしてくれる子なの!」

 

 そうして苛烈なまでの対応に目頭を押さえるコブラを余所に、その辺の事情とは無縁なアリスは何とも楽し気だ。

 

「此方も情報と相違ないね。ならレッドに落とそう」

 

『えっー!? なんでだー!?』

 

『キュー?』

 

「!? どうしてよ!? その子は――」

 

「デュエルが弱いからだよ。見たところ、基礎の部分の段階でかなり『抜け』がある。なら、一から鍛え直した方が良い」

 

「そ、そう……なら、仕方がない……のかしら……」

 

 だが、そんなアリスも「カードを大事にする良いデュエリスト」に降格が突き付けられた現実に困惑顔を見せるが――

 

「ああ、仕方のないことさ。でも頑張り次第では十分に芽が出る――出なければ退学だけどね」

 

「……ね、ねぇ、ちょっと貴方、厳し過ぎない? そんなことじゃ生徒がいなくなっちゃうわよ?」

 

 続いた乃亜の「退学」との発言に、先程までのルンルンな魔女狩りスタンスは何処へ行ったのか引き気味だ。

 

「今までが甘すぎただけだよ。そもそもアカデミアが建てられた『デュエルエリートを育成する』という目的を見れば、足切りは冷徹なくらいが丁度良い」

 

 しかし乃亜は譲らない。「楽しいだけのデュエル」がしたいのなら、アカデミアに来る意味はない。この学園は「上を目指す場」なのだから。

 

「デュエルを楽しむだけなら、何もアカデミアである必要なんてないんだから」

 

「……コブラ! 貴方からも何か言って――」

 

 そんな乃亜の説得を諦めたアリスが、コブラを頼ろうとするが――

 

「失礼。牛尾から電話だ――恐らく教師の意識改革の為の修練(トレーニング)の件だろう」

 

「そうかい。なら此方はボクがやっておくから、キミは――」

 

「いや、すぐ戻る。生徒の状態は出来得る限り把握しておきたい」

 

 別件の緊急の仕事が入ったと足早に去っていくコブラの姿に、アリスは他にも何やら企んでいるのかと、怪訝な視線を乃亜へと向けた。

 

「教員の姿を見ないと思ったら……貴方たち、他にも何かやってるの?」

 

「まぁね、新たなアカデミア体制に適応して貰う為の研修を少し」

 

「それ、絶対『少し』じゃないわよね……」

 

 やがて平然とした表情で無茶苦茶しまくる乃亜の姿へ、今更ながらに「早まってしまったかもしれない」とアリスが思う中、学内にて「ペペロンチィイイイイノ!!」と叫ぶ人がいたとかいないとか。

 

 

 こんな調子では、脱落した教師の補充も必要になりそうである。

 

 

 






おジャマイエロー「兄ちゃんたち!?」



これにて、原作3年前のアカデミア編が終わり――原作開始2年前部分と宇宙に行った神崎の件をさっと片づけることになるかと思います。


遂に見えて来た、原作1年前(+α)時期の十代の受験が!!(逸る気持ち感)



Q:黒蠍盗掘団って、この時期から学園に潜入していたの?

A:流石に十代が入学した時期に合わせて潜入するのは怪し過ぎると判断させて頂きました。

目的に関しては――
影丸理事長の野望の為に「精霊が見える生徒」が必要なので、今作ではその辺りの調査を想定しております。


Q:アリスがレギュラー化……だと……!?

A:「ドールキメラ」がOCG化していないので、原作とは違う形で浄化を図る必要があった為です(なお密告装置)

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