前回のあらすじ
フォースのみんな「 「 我らアカデミア四天王!! 」 」
アクア・ドルフィン「5人いるーー!!!!(ポチッ)」
木星の衛星イオにある無限に広がる大宇宙が大空に広がる海岸線のような場所で、神崎らが遭遇した未知――アクア・ドルフィンの色違いたるドルフィーナ星人たちの発光。
だが、状況に置いて行かれる訳にはいかない。この光はどう考えても「破滅の光」であることは明白だ。
しかし、警戒心を高めるネオスたちを余所に、そのドルフィーナ星人たちから発生した破滅の光は、襲い掛かってくる訳でもなく、光り輝いてうごめくのみ。だが――
「……? 彼らの身体が……」
「光となって崩れていく?」
「彼らは一体、どうしてしまったんだ!」
突如として明滅を始め、その身の光で包み輪郭をぼやけさせていくドルフィーナ星人たちへ、神崎、アクア・ドルフィン、ネオスが三者三様の反応を見せる中、眩いまでの光が収まった先にドルフィーナ星人たちの姿はない。
あれ程の存在感を示していた面々の代わりに浮かぶのは、白い靄のような塊が辛うじて輪郭を有する程度の曖昧な存在。
「遅かったな」
そんな何処か悪魔にも怨霊にも見える曖昧な存在は、驚くほど理知的な声を発した。
「…………どちら様でしょう?」
――ドルフィーナ星人の集合意識……で良いのか? 友好的なようだが……
「くっ、僕の仲間たちは既に……!!」
「気を引き締めるんだ、神崎! ヤツこそが私たち正しき闇が戦ってきた破滅の光! 宇宙の破滅をもくろむ相手だ!!」
若干ズレた認識の神崎を諌めるようなアクア・ドルフィンとネオスの声に、身構える一同だが――
「破滅の光……か」
対する白い靄の集合体こと破滅の光は辟易するように呟き、続ける。
「貴様たちはオレをそう呼ぶが、オレ自身が破滅を望んだことなど一度たりともない」
「なんだと!!」
己が破滅に類することなど「していない」と語る破滅の光に、当事者であるネオスは声を荒げるが、神崎は黙して続きを待つ。
――原作では語られなかった部分、破滅の光の本体と戦った十代とユベル……二人が何を交わしたのかは私も知らない。
なにせ、破滅の光の最後は原作でも語られていない領域。原作知識で得られる情報は「前世の覇の力を制御し、ユベルと和解した十代が倒した」程度の代物だ。
その戦いがどうなったのかも、どんな言葉を交わしたかも、どんな決着を迎えたのかすら定かではない。
「オレはお前たちの望みを叶えているだけだ。抑圧を解放しているだけだ」
「解放……だって?」
やがて語られた破滅の光の「思想」と言うべきものが語られるが、言葉尻だけを捉えるのならば、「破滅」とは程遠い内容だった。破滅の光は続ける。
そう、原作GXにて破滅の光に魅入られた者たちは必ずしも「破滅」的な思想を持っている訳ではない。
「
原作GXにて、最初に破滅の光に魅入られたエドの父は、強大な力を持つカード《
とはいえ、その後、直ぐにDDに殺害された為、「破滅」との因果関係は不明である。
「
原作でのDDは、プロの舞台を夢見ていただけだ。チャンピオンになったが、その間、破滅に類する行動はとっていない。
精々が辻斬り染みた真似を行ってBloo-Dに人間を食わせていただけだ。「悪」ではあるが「破滅」というには少々スケールが小さい。
「
そんな中、分かり易く「破滅的」だったのが、原作での斎王。
上述の面々とは違い、明確に世界を破滅させる為に一国の衛星兵器にすら手を出し、文字通りあらゆる手段を用いて世界の破滅を願った。
しかし、彼に「世界の破滅を願う」だけの怨み辛みを有していた例外と言えよう。
「
なにせ、原作でも破滅の光を浴びたユベルは、十代から明確な拒絶を受けるまでは「破滅」なんてものは何一つ考えていなかった。
むしろ「好きな人と世界を創る」と「破滅」とは真逆な行為に奔る程だ。
「
歪んだ此処の歴史でも、破滅の光を浴びたネオスたちは理由を幾らか並べていたが、言ってしまえば「十代に会いに来た」だけだ。
神崎と戦闘になったが、それも「助ける」というヒーロー的な思想は何も変わっていない。「破滅」とは無縁だった。
「
歪んだ歴史のドルフィーナ星人たちも同様である。破滅の光を浴び「願い」を問われ、「仲間との再会」を望んだだけだ。
「オレは一度たりとも世の破滅を願ってなどいない。オレを『破滅の光』と呼ぶのであれば、それは貴様らが破滅を望んでいるゆえに他ならない」
やがて、そう締めくくった破滅の光の言葉にネオスもアクア・ドルフィンも心当たりがあるのか言葉が出てこない。そして神崎も同じだ。
――確かに、原作でも破滅の光を浴びた中で、世界の破壊をもくろんだのは斎王だけ。DDは世界王者で満足し、ユベルは十代に拒絶されて自暴自棄になるまでは『世界の破壊』を望んでいなかった以上、相手の話に矛盾はない。
言ってしまえば「腑に落ちた」――原作知識というパズルのピースを以て、破滅の光の言葉通りの額縁に当てはめられなくもない。
「くっ、だから僕たちは地球に戻っていたのか……!」
「私たちが、『十代に会いたい』と願ってしまったせいで……」
やがてアクア・ドルフィンとネオスも、「十代に会いたい」と思っていた事実からか、拳を握って悔し気に納得した様子。
なにせ、そもそも彼らが破滅の光の「仲間」になったのならば「地球に向かう」ではなく「宇宙にいたまま」で、彼らが言うところの「宇宙の破滅」を及ぼしている方が自然だ。
そうして、破滅の光が「優しき闇が広がる宇宙」とやらを覆っていけば、直に地球にも手が届くのだから。地球に急行する意味など何処にも存在しない。
――さしずめ無差別に願いを力づくで叶える存在。ただ、そんなことをすれば破滅一直線になることを思えば確かに「破滅の光」との呼称は納得できなくはない。
やがて破滅の光の発言と、アクア・ドルフィンとネオスたちの様子から凡その解を組み立てる神崎。
こうも明確な目的意識を一切持たないシステム的な存在となれば、話し合ってどうにか出来る相手ではなかろう。
となれば、排除が道理――白い靄のような相手であろうが、「取り敢えず思いっきり殴る」を信条に神崎が拳を握った。
「貴様もそうだ。
――ッ!
だが、その心中を見透かしたような破滅の光の言葉に、神崎の出鼻は挫かれた。
内心の動揺を抑え込み、表面上は平静を装う神崎が一先ずの弁明の言葉を述べようとするが前に、ネオスとアクア・ドルフィンが庇うような言葉を放るが――
「そんな筈はない! 神崎は破滅の光と遭遇したのは、これが初めてだ! でなければ、私と戦っていた筈が――――まさ……か」
「僕たちに浸食していた破滅の光が、彼に……」
「影響としては直ぐに消える極小さいものだろう。だが、辛うじて拮抗していたバランスを崩すには、その程度で十分だった」
過去の衝突の際が脳裏を過りハッとした二人へ破滅の光は肯定を返す。
原作でも、破滅の光を宿した斎王と真相を知らなかったとはいえ、協力関係にあったエドとデュエルした十代に「カードが見えなくなる」影響が生じる程だ。
神崎とネオスが、あれほど殴り合っておいて、破滅の光の影響が0だと考える方がむしろ不自然だろう。
「オレの力を通じ、貴様の状態は手に取るように分かる。世への恨み、
そして、影響を受けるということは、当然「破滅の光」の干渉を受けるということ。
「手さえ差し伸べすらしなかった者たちが語る理想論への唾棄」
それは――今、この世界において神崎の内面にもっとも踏み込んだ存在と言えよう。
当人が望まずとも、「そういう存在」である破滅の光は、神崎の根底にある願望を把握したゆえに断言するのだ。
「オレを『破滅の光』と呼べるのは、この場では貴様だろう」
この場の誰よりも破滅の光の名に相応しい
「神……崎?」
――言葉で返せる問題じゃないな。
信じられないものでも見るようなアクア・ドルフィンの視線にさらされる中、何を語ろうとも逆効果ゆえに口を閉ざしたままの神崎。
「さて、正しき闇とやら――――そいつを倒さなくて良いのか?」
そんな針の筵もかくやな空気の中、破滅の光は白い靄の身体の一部から指のような形を作り、神崎を指さし問う。
ネオスたちが一番に倒すべきは、誰なのか――と。
そんな破滅の光の問いかけに、一同の間で沈黙が流れる。
仲間と評するにはあまりに出会ったばかりで、一時的な共闘と濁そうにも見過ごしてきた腹の底を垣間見た現実は些か以上に重い。
それに加え、実際にネオスたちは、神崎の内の暴力性に晒された過去があった。
明瞭な記憶が残っていないゆえに、サイコパワーや魔術などの特殊な術があったと仮定し、自分たちにどれだけ言い聞かせても疑念は残る。
破滅の光の影響でリミッターの外れた状態の精霊としての格が高いネオスを、人間が単身で制圧できるものかと。
恩人にあたる人間が語ろうとしない以上、追及する気もなかったが、こうして真相が明かされたとなれば話は別だろう。
「――そんなものは関係ない!」
それでもネオスは断言した――彼は仲間だと。
「ネオス……」
「彼がどれだけ世界を怨んでいても! 己を律している! 堪えている! なら、私が彼を倒す必要はない! 仲間であることは揺るがない!」
神崎の過去に何があろうとも、ネオスが重要視するのは「今」である。彼は己を助けてくれた。協力してくれた。
その裏に別の思惑があるのは、なんとなく感じていても、全てを明け透けに明かせなどと言うつもりはない。誰にだって心の奥底に仕舞いこんでおきたいものの1つや2つ存在する。
ネオスだってそうだ。破滅の光によってあぶり出されてしまった「友として十代に会いたい」との想いがある。
それでも万が一があるのなら、その時に仲間として止めれば良い話だと返すネオス。
「――そうだろう!!」
「違うな」
「っ! 何が、何が違うと言うんだ……!」
だが、そのネオスの主張は破滅の光に一刀の元に切り伏せられた。此処まで真っすぐ否定を返すとは思わなかったのか言葉につまるネオスに破滅の光は淡々と返す。
「それは貴様らの都合の良いように、その者を縛っているだけに過ぎない。その者を世界の奴隷とすることが、正しきことなのか? その者が望んでやっていることだと、本質から目を逸らすことが正しきことなのか?」
ネオスの主張には致命的なまでに「神崎の意思」が考慮されていない。「今」は自分にとって「都合が良い行動」をするゆえに、捨て置くが万が一は容赦しないと言っているに等しい。
少々乱暴な物言いだが、一時的な協力関係ならまだしも「仲間」と語った以上、無視できない問題だ。
「何故、救いの手を差し伸べない? 『もう堪えずとも良い』と言ってやらない? それが
「それ……は……」
「だろうな。それは貴様たちにとって、さぞ『都合が悪い』ことだろう」
仲間だと言っておきながら、都合が悪くなればそっぽを向く――そんな関係性を「仲間」とは評せない。
語り合う時間は宇宙の道中にて、幾らでもあった筈だ。双方の妥協点を探る機会は何度もあった筈だ。
それをしなかったのは、ネオスたちが「自分たちを単身で制圧可能な相手と争う可能性」を危惧したからに他ならない。
「しかし、それでも貴様は、その者を救いたいと思っている。だが、使命を前に踏み切れぬ。ならば、その抑圧――」
そうして使命と危惧との狭間に揺れるネオスに破滅の光はネオスを指さし、ささやいた。
破滅の光は、知っていた。ネオスの内に新たな願いが芽生え始めていたことを。
「――オレが解き放ってやろう」
「あぁぁ゛ぁあ゛あぁあ゛ああああ!!」
途端に叫びを上げるネオスの内から溢れるように白い光が噴出し、その身を覆い始めていく。
「ネオス!? どうしたんだい、ネオス!!」
「離れて――恐らく破滅の光の浸食を受けています」
「どうして! 三騎士たちの助けで僕たちは破滅の光の浸食から逃れた筈!!」
苦しむネオスの背を支えようとしたアクア・ドルフィンを強引に引き離した神崎に、当然の疑問が投げかけられるが、施術を受けたアクア・ドルフィンに分からないものが、その辺りの情報を持たぬ神崎に分かる筈がない。
「この者が新たな抑圧を得たからだ。望んだからだ。願ったからだ」
そんな両者へと破滅の光から回答がなされた。
破滅の光の行動指針はただ一つ。世界の破滅? そんなものではない。
それこそが、一つでも多くの願いを叶えること。
及ぼされる結果など「
「――
態々問答を繰り返したのも、願いを感じ取ったゆえ。
ネオスが選ばれた理由も、この中で一番強い願いを有していたのが偶々ネオスだけだった話だ。
「光を受け入れよ――さすればあの者に救いを与えよう」
「ネオ……ス」
そうして破滅の光の白い靄の只中に瞬く間に呑み込まれたネオスに、手すら差し伸べられない事実をアクア・ドルフィンが悔やむが、浸食の可能性がある以上、ただ見ていることしか出来ない。
やがて白い靄が晴れた先から金の縁取りがなされた両肩に棘のついた黒い全身鎧が、血のように赤いマントを揺らしながら黒い兜と仮面の内より破滅の光のくぐもった声を響かせ――
「貴様を救うには、これが適しているだろう」
左腕に盾のように装着された黒い太陽のようなデュエルディスクを展開させた。
「鎧に、デュエル……ディスク……?」
「覇……王?」
――何故、覇王十代の鎧を……?
その威容な姿に気圧されるアクア・ドルフィンが緊張交じりに呟く中、神崎もまた茫然と言葉を零した。
覇王――原作GXにて、闇に落ちた十代が自身の心を殺し、その身に黒の鎧を纏った姿。
そこに快活な少年だった十代の面影は一切なく、冷酷で圧倒的な力を持ち、精霊界で文字通り屍の山を築いた十代の心の闇が生み出した化け物。
だが、それは十代の心に深い闇がなければ生じる筈のない存在である。それが何故、自身の眼前に立っているのか神崎には理解できない。
「覇王――悪くない。なれば、オレは覇王となろう」
そうして神崎が零した「覇王」との名称を、収束した破滅の光の本体に満たされた実体なき黒き鎧は己に馴染ませるように拳を握る。
そう、此処に実体無き破滅の光は、覇王という実体を得た。
「
やがて展開したデュエルディスクにデッキを差し込み、そう告げた破滅の光――いや、覇王の姿に、神崎は頭を回す。
――ネオスが取り込まれた状態で……いや、その為の先兵だ。海馬社長あたりが「こう」なっていたら、取り返しがつかなかった。
「やるしかないようですね」
「僕たちも共に戦わせてくれ、神崎!」
そしてネオスを見捨てる選択肢がない以上、応じる形でデュエルディスクを取り出した神崎に、アクア・ドルフィンはネオスペーシアンと共に共闘の姿勢を見せ――
「好きにしろ。オレは何者も拒まない」
「助かります。丁度、お願いしようと思っていたところです」
――ネオスを核としている以上、ネオスペーシアンたちの接触が彼を引き戻すキーになってくれる……と願う他ない。
破滅の光こと覇王の同意を得た神崎は、この場で最もネオスを引き戻す力が強いであろうネオスペーシアンたちの協力を願いでる。
「ではデッキ構築を失礼」
さすれば、神崎の手持ちのカードと、アクア・ドルフィンたちのカードが神崎の周囲にてひとりでに浮かび上がった。
やがて宙にて竜巻のように巡るカードたちが、取捨選択を経て神崎の手元に集まり――
『僕たちネオスペーシアンの力! 今はキミに託す!』
アクア・ドルフィンが精霊として神崎の背後に立ったと同時に完成した一つのデッキを持った神崎はデュエルディスクに差し込んだ。
「準備ができたようだな。では、始めよう」
『デュエルだ、破滅の光――いや、覇王!!』
「 「 デュエル 」 」
こうして互いの願いをかけたデュエルが幕を開けたが――
状況に振り回されている――神崎はそう自嘲する。
どれだけ力を後付けしても、ベースが一般人の延長にしかない為、原作知識の領分が届かない事態が起これば脆い。
だが、それでも目的を明瞭に定め直した神崎は、先攻を得たデュエルをどう挑むべきかと手札を見やるが――
「私の先攻ですか」
『……うーん、なんとも言い難いんだが。手札が悪いな』
その手札は後ろから覗き込むアクア・ドルフィンの言うように微妙の一言。動けなくはないが、心許ない盤面しか作れそうにない。
「ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1へ」
『よし、良いカードを引いた!』
「魔法カード《手札抹殺》を発動し、互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分ドローします。そして墓地に送られた《
そして気合を入れてカードを引いた神崎の手札に加わった1枚に喜色の声を上げるアクア・ドルフィンを余所に、手札を一新する神崎と破滅の光の大本こと覇王。
「手札の『HERO』――《
桃色のアーマーに身を包んだ「V」の文字が見える巨大な上腕を持つ幻影より生じるHEROが膝をつけば、神崎の足元にHEROの幻影が浮かび上がった。
《
星5 闇属性 戦士族
攻1600 守1800
「魔法・罠ゾーンの《
そんな《
《
星3 闇属性 戦士族
攻 900 守1100
「魔法・罠ゾーンから特殊召喚された《
その《
《
星4 闇属性 戦士族
攻1000 守1200
「特殊召喚された《
やがて《
「更なる《ヴァイオン》の効果発動。墓地の《
そうしてフィールドに下級モンスターを並べ、手札を揃えた神崎は、覇王に取り込まれたネオスへの呼びかけの一手を打つ。
「頼みます――《
『任せてくれ、神崎!!』
神崎の背後に立っていたアクア・ドルフィンがフィールドで親指を立て降り立った。
《
星3 水属性 戦士族
攻 600 守 800
「手札を1枚《
『エコーロケーション!!』
そして覇王からネオスの心を開放するように、前のめりになったアクア・ドルフィンの口から放たれるのは――
『ウケケケケケ!!』
「生憎だがオレの手札にモンスターはいない」
気の抜けるような怪音波。
しかし残念ながら覇王の手札に該当するカードは見当たらない。
「その場合は私が500のダメージを受けます」
すると怪音波は覇王の手札に跳ね返され、神崎に直撃。
神崎LP:4000 → 3500
『す、すまない、神崎!!』
「いえ、それが狙いです。ダメージを受けたことで墓地の《
思わず謝るアクア・ドルフィンだが、神崎的にはどちらでも問題はなかった。
ダメージを呼び水に墓地に眠るV・HEROたちの幻影が神崎の元に次々と現れ――
「魔法カード《マジック・プランター》を発動。永続罠扱いの《
その幻影の1つがシュルシュルと神崎の手元で2枚のカードになる中、神崎はこのデッキの本領たる「融合召喚」を行う。これこそがネオスペーシアンたちの声を覇王に囚われたネオスに届ける力となる。
「フィールドの《
『コンタクトではない、普通の融合!!』
渦の中に飛び込んだ《
《
星8 水属性 戦士族
攻2500 守2000
「カードを3枚セットしてターンエンドです」
『悪くはない立ち上がりだ!!』
神崎LP:3500 手札1
モンスター
《
《
魔法・罠
伏せ×3
《
VS
覇王LP:4000 手札5
伏せカードが3枚あれども、大型は融合体1体という若干頼りない布陣にアクア・ドルフィンが精一杯の強がりを見せるが、覇王は意に介した様子もなくカードを引き――
「オレのターン、ドロー! フィールド魔法《覇王城》を発動!」
周囲一帯を浜辺から大地にマグマが滾る中に剥き出しの岩肌でそびえ立つ昏き巨城が覇王の背後にそびえ立った。
『この不気味な城は一体……』
――私の知らないカード。効果を見るに
《覇王城》の出現に気圧されるアクア・ドルフィンを余所に、カードテキストを気合で読み取った神崎は見知らぬカードへと警戒を強めていく。
神崎の生命線である情報の不足は、致命的と言えよう。
「魔法カード《闇の量産工場》を発動し、墓地の通常モンスター2体を手札に――そして魔法カード《ダーク・フュージョン》発動!!」
『《ダーク・フュージョン》だって!?』
「チェーンして手札の《増殖するG》を捨て、効果発動。このターン、相手の特殊召喚の度に1枚ドローします」
だが、そんな神崎の懸念を裏切るように発動されたものは既存のものばかり。
「手札の『
覇王の手札に舞い戻った2体のHEROは天に跳躍し、闇の渦の中に溶けあうように一つとなれば――
「――闇の英傑よ、我が前に降り立て! 《
赤と白のヒーロースーツに身を包む《
逆立てた緑の髪を留めるように装着された鋭利な青のバイザーの奥の瞳が何を映しているのかは窺えない。
《
星6 炎属性 悪魔族
攻2100 守1200
――《ダーク・フュージョン》で融合されたモンスターは此方の効果対象にならないが、それ以外の耐性はない。いつ動くべきか……
「《増殖するG》の効果で1枚ドロー」
『そんな、
「魔法カード《三戦の才》を発動! 相手がメインフェイズにモンスター効果を発動したターンに3つの効果から1つを選択する。オレは2枚ドローする効果を選択」
そうして神崎の思案も、アクア・ドルフィンの警戒にも、覇王はさした興味も見せず2枚のカードをドロー。
「墓地の《
やがて墓地に眠る赤い体躯に外骨格染みた鎧で全身を包んだ闇のHEROの叫びが轟けば、頭と両肩から左右に分かれるように角の生えた黒い竜の甲殻のような鎧を纏った闇のHEROが降りたち――
《
星4 地属性 悪魔族
攻1600 守 0
「……1枚ドローです」
「そして『ヘル・ゲイナー』を2ターン後の未来まで除外し、悪魔族1体に2回攻撃を可能とする!!」
『拙い! インフェルノ・ウィングは悪魔族だ!!』
霧のように消える《
「バトル!!」
「お待ちを。貴方のメインフェイズ1の終了時、《
さらに《
《
星3 闇属性 戦士族
攻900 守700
「さらに魔法・罠ゾーンから《
その蛇の頭に似た銃身そのものの右手から毒の弾丸が《
《
攻2100 → 攻1050
「《ダーク・フュージョン》で呼び出されたモンスターが防げるのは、対象を取る効果のみ……」
『でもポイズナーの効果は対象を取らない効果! 良いぞ、神崎!!』
「だが構わん、バトル!! インフェルノ・ウィングの攻撃! インフェルノ・ブラスト!!」
己が影の幻影を引き連れた《
しかし攻撃力1050では、神崎のフィールドは崩しきれないとアクア・ドルフィンは拳を握る。
『だけど攻撃力はアブソリュートZeroが圧倒! ポイズナーも守備表示だ!!』
「墓地の《ダメージ・ダイエット》を除外し、このターン受ける効果ダメージを半分に」
『急にどうしたんだ、神崎!?』
かと思いきや、神崎が己の周囲に透明の壁を出現させる光景にアクア・ドルフィンが戸惑いを見せるも――
「状況が見えているようだな――《覇王城》の効果! モンスターとバトルするダメージ計算時、デッキかエクストラデッキから『
答え合わせのように天を指さし《覇王城》に命を下すように宣言。
「オレはデッキからレベル7の《
さすれば周囲を漂う闇が飛翔する《
《
攻1050 → 攻2450 → 攻3250
「そしてインフェルノ・ウィングが守備モンスターを攻撃した際、その数値を超えていれば貫通ダメージを与える!!」
『《
やがて振り下ろされた闇の爪撃が《
「まだだ! インフェルノ・ウィングが相手モンスターを破壊した時! 攻守どちらか高い方の数値だけダメージを受けて貰おうか! ヘルバック・ファイア!!」
敵の命を燃やして灯った紅蓮の炎が、障害となる透明な壁を打ち砕きつつ神崎をその炎で包んだ。
「――ぐぅぁっ!?」
『神崎!!』
神崎LP:3500 → 950 → 500
闇のデュエルにて、実質ダイレクトアタックと同義のダメージを受けた神崎は、生じた実体のダメージに思わず膝をつくが、生憎と覇王はそんな神崎をアクア・ドルフィンのように労わりなどしない。
「追撃だ、インフェルノ・ウィング!!」
「……ッ! 罠カード《ホーリージャベリン》を発動。相手モンスターの攻撃力分ライフを回復します」
覇王の宣告に飛翔した《
神崎LP:500 → 3750
氷柱から発せられる冷気が、《
「だが、攻撃は止まらん――そして《
『だけど、《ダメージ・ダイエット》の効果で半減だ!』
《
「ぐっ……!!」
神崎LP:3750 → 3000 → 1750
「ダメージを受けたことで墓地の《
しかし炎の中から3つの幻影が膝をつく神崎の元に現れる中、ピキピキと《
「更にフィールドを離れた《
「ふん――バトルを終了し、魔法カード《ダーク・コーリング》! 墓地の融合素材を除外し、悪魔族融合モンスターを融合する!」
やがて《
「墓地の『
さすれば覇王の背後に闇の渦を生じ、その内の炎と土のHEROが呑み込まれていけば――
「ダーク・フュージョン! 来たれ、《
赤い重厚な装甲に覆われた黄色いバイザーをつけた闇のヒーローが、黒い長髪をたなびかせ、右手と一体化した砲台を盾とするように膝をついた。
《
星6 炎属性 悪魔族
攻2000 守2500
「モンスターをセットし、カード2枚を伏せてターンエンドだ」
神崎LP:1750 手札3
魔法・罠
伏せ×2
《
《
《
VS
覇王LP:4000 手札0
モンスター
《
裏守備モンスター×1
魔法・罠
伏せ×3
フィールド魔法《覇王城》
覇王の繰り出した1ターンキルをなんとか凌ぎ切った神崎だが、払った代償は決して小さくない。
強力な効果を持つ《
己の伏せカードとV・HEROの性質から、もう少し攻め気を出すかと神崎は予想したが、相手は何処までも堅実だった。強者特有の「力の誇示」が一切見えない。
そうして覇王を測り兼ねているゆえ、膝立ちのまま動かぬ神崎だったが――
「どうした、お前のターンだが?」
『大丈夫か、神崎!!』
――ネオスの力は、あの状態でも健在か。
遠まわしに時間稼ぎへ釘を刺してきた覇王に、もう一つの問題を誤魔化すように膝に手を置き、痛む身体に鞭打って立ち上がる。
そう、心配気なアクア・ドルフィンの表情のように、神崎の身体の負傷は大きかった。
ネオスと殴り合った際の問題が、そのまま引き継がれている――己のタフネスを無視してダメージを与えてくる所謂「正義側」の力は、やはり厄介だった。
――だが、アブソルート
しかし、身を削っただけの甲斐はなくもない。勝てるに越したことはないが、第一目標は勝利ではないのだから。
「問題ありません。私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1へ――《
やがて手慣れた作り物の笑顔でアクア・ドルフィンを安心させつつ、召喚したのは赤いアーマーに白と黒のヒーロースーツに身を包んだ炎のHERO。
背中から伸びる6つのアームから、1枚のカードが神崎の手札に舞い込む。
《
星4 炎属性 戦士族
攻1200 守1800
「魔法・罠ゾーンの《
そして前のターンの焼き増しのように《
《
星3 闇属性 戦士族
攻 900 守1100
「デッキから《
仲間たる幻影が一つばかり神崎のフィールドで逆巻き、左腕に装着された大盾を構える橙のアーマーに身を包んだHEROが現れた。
《
星4 闇属性 戦士族
攻 500 守2000
「《
さらに《
今度は《
《
星3 闇属性 戦士族
攻 900 守 700
《
攻2000 → 攻1000
「セットしていた罠カード《
『効果は無効化されるが、相手の手札は0! 問題ない!』
やがて、前のターンと同じようにアクア・ドルフィンが神崎のフィールドに駆け付ければ――
《
星3 水属性 戦士族
攻 600 守 800
「魔法カード《融合》を発動。属性の異なる戦士族2体――《
『ハァッァアア! フュージョン!!』
前のターンの焼き増しの如く、融合の渦に飛び込む《
そうして降り立った黒鉄の鎧と、黒いローブでその身を包む――鋼鉄の騎士が右腕と一体化した巨大なハルバードに似た剣を前面に構えた。
《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》 攻撃表示
星8 光属性 戦士族
攻2700 守1600
「バトルフェイズへ移行します。《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》で裏守備モンスターを攻撃」
『――ソウルブレード!!』
面影皆無であれどもアクア・ドルフィンの闘志が引き継がれた《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》の一体化した大剣が裏面のカードに振り下ろされる。
「セットモンスターは《メタモルポット》だ。リバース効果により、互いは手札を全て捨て新たに5枚ドローする」
しかし、思いの外に呆気なく両断される壺が砕ける中、内部の一つ目の絶叫が、神崎と覇王に新たな手札をもたらすが――
《メタモルポット》 裏守備表示 → 守備表示 → 破壊
星2 地属性 岩石族
攻 700 守 600
「ですが墓地に送られた《
『まだだよ! 場のモンスターのみで融合した《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》は2回攻撃が可能だ!!』
「《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》で《
砕け散った《メタモルポット》の残骸を踏み砕きながら覇王の内のネオスに訴えかけるようにアクア・ドルフィンの宣言の元、《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》の大剣が横なぎに振るわれた。
「オレはリバースカードを発動する」
『無駄だ! ギルティギア・フリードは対象を取る効果を無効にできる!』
しかしその《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》の剣は、《
そして、その衝突の際に生じた突風が周囲に吹き荒れる中、《鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード》が二撃目を放つ前に覇王が一手打つ方が早かった。
「手札を1枚墓地に送り、見せてやろう! 最強の力の象徴――絶対無敵! 究極の力を解き放て!! 発動せよ――」
――……まさか。
猛々しい宣言が大気を揺らし、覇王の元に風が引き寄せられていく様子に神崎は己が背に嫌な汗が流れる感覚を覚える。
破滅の光、覇王、そして
いや、懸念事項を徹底して排除し続けてきた神崎だからこそ、「ありえない」と無根拠に考えてしまっていた事実。
この時期に――いや、この歪んだ歴史の只中で、ある筈のない未来。
存在する筈がない1枚。
「――《 超 融 合 》!!」
覇王の手により、数多の命を食らって生み出された闇のカードが禍々しい光を放った。
積み重ねた咎が、道連れを求めるように牙を剥く。
Q;覇王の鎧って、破滅の光の力が発端なの!?
A:破滅の光の力を考察した際に、本編で語ったように「言うほど、破滅の光の影響を受けた人たちって世界の破滅とか望んでいないよね?」との結論に達し、
十代もまた、その影響を受けたと考えました(エド戦で「カードが見えなくなる」などの影響を受けていましたし)
原作GXの異世界編にて起こった悲劇が、その影響の残照をトリガーとすることで、覇王十代が生まれたのだと考察した次第です(流石に学生の十代が「人殺ししまくるぜ!」な結論は異常ですし)
前世で語られた「覇」の力だけでは、そこまで残忍にならないと思われますし
Q:どうしてて
A:原作の十代がユベルとの和解後、最初に「乗り越える壁」として最適だと考えた為です。
破滅の光の大本の決戦。
それは過去の己の罪――「覇王との対峙」こそが一番映える、と(おい)
ただ、これは原作考察からの逆算なので、神崎はさほど関係なかったりします。精々がネオス繋がりくらいです。