前回のあらすじ
フライングかっとビングだ、神崎!!
アカデミアのフォースの面々に用意されたデュエルスペース付きの広々とした空間へ、フォース生5名がたまり場代わりに訪れていた。
そんな中、小日向がソファに腰かけ伸びをしつつ解放感と共にぼやく。
「あー、終わった、終わった! 進級試験も終わってようやく解放されたわー」
そう、進級試験も無事に終えた以上、彼らが2年生だった日々も直に終わる。
「なんだか、あっという間の1年だったよね」
『そうだね、マスター。想像以上に短く感じたよ』
「それだけボクらの思い出が素晴らしき青春のアルバムを彩った証明さ!」
その事実に感慨深く顔を見合わせる藤原とオネストへ、親指と人差し指でVの字を作り顎に添えた吹雪が決めゼリフを述べる中、ポツンと転がる寝袋にいつの間にかINしていたもけ夫の寝言が響く。
「むにゃむにゃ、卒業ありがと~ございま~す」
「卒業式は早いですよ、もけ夫先輩」
『夢の中で一足先に卒業している……正夢ですね』
『もけー』
そうして場の空気が緩む中、亮は神妙な顔で言葉を零した。
「もけ夫先輩が卒業すれば俺たちも、3年生――次の年は、新たなフォース生徒は出て来るだろうか?」
直に自分たちも3年生――最上級生である。託される側から、託す側に回るというのに、フォースの顔ぶれは未だ変わらず。
ゆえに「越えるべき背中」として不十分だったのかと悩む亮に、藤原は同意を見せるも――
「確かに、折角できた新しい区分けだけど顔ぶれは変わらなかったもんね」
「あの野生児あたりが上がってくるんじゃない?」
「なぁに、来年にはアスリンが入学するから大丈夫さ! フォースも賑やかになること請け合いだよ!」
小日向と吹雪から、来年上がってきそうな面々の名が告げられる。
「明日香か……吹雪には悪いが、俺の見立てではフォース入りは時期尚早に思える」
だが、亮の目算では、そう上手くことが運べるとは思えなかった。
「そんなことないさ! アスリンも中等部で腕を磨いているだろうからね!」
「フォースに上がるとしても、2年進級時――俺たちが卒業する時期だろう」
「……随分、心配性だね、亮。明日香の実力が信じられないのかい?」
そんな亮からの「実力不足」とも受け取りかねない発言に、兄である吹雪から僅かに言葉に棘が混ざったことに気が付いた亮は、小さく首を振って否定を入れる。
「気を悪くしたのなら謝ろう。だが、この心配もお前の妹だからだ」
亮とて、吹雪の妹――明日香の実力は存じている。同学年で頭一つ抜き出た実力へは純粋な賞賛を贈れよう。
「吹雪、お前も身を以て知っただろう? フォースの過酷なカリキュラムを。未熟な身で上がろうものなら火傷では済まない。それは最初の交流戦――アメリカ校とのデュエルで身に染みた筈だ」
「……それを言われると、困ったなぁ」
しかし、それと同時に亮は改革されたアカデミアの「厳しさ」を知る者として、親友の妹を案じる気持ちが大きいのだ。
『もけー?』
『そういえばあの時のキミも、もけ夫先輩と殆どの間、寝ていたね。実はあの交流戦では、本校側の戦績が芳しくなかったんだ』
「でも僕たち側が5人いたのに対して、アメリカ校の方は2人だったから、デュエル数の関係上、戦績や勝率に差が出るのは仕方のないことだけどね」
そうして過去の一戦を上げられ、疑問を浮かべる《もけもけ》にオネストと藤原から事情の説明がなされるが――
「『レディファースト』とか言って、舐めてかかるから後れを取るのよ」
ソファに寝そべり雑誌を眺める小日向のぼやきに、その説明は遮られた。
「舐めてはいないさ。それはボクのポリシーだからね――というか、あの時はキミも負けてたじゃないか」
「……最後に勝ったから、私の勝ちよ」
とはいえ、吹雪の言うように、他人事風に語る小日向もアメリカ校との一戦は苦いものである。それゆえに小日向は、若干無理のある理屈で煙に巻いた。
「なら、今のところボクの勝ちだね!」
「――ハァ!? こないだのタッグ戦の勝敗を此処で持ち出す気!? なら、今ここでどっちが上か白黒つけてやるわ! 構えなさい! 速攻で終わらせてあげる!!」
かと思ったら、その理屈を吹雪に逆手に取られた小日向は、憤慨した表情でソファから飛び起き、雑誌を放った手でデュエルディスク片手に詰め寄って行く。
彼らが語る「こないだのタッグ戦」とやらは小日向にとって、かなり苦い出来事のようである。
「その理屈で行くと、亮の一人勝ちになっちゃわないかな……」
『確かに、最近の勝率は彼が一番高い』
『もけけー!』
「こないだ勝ったから、もけ夫先輩が最強? でも、あれもタッグ戦だった気が……」
そんな吹雪と小日向の小競り合いを離れて見守るオネストと藤原だったが、《もけもけ》からの告げられた主張に困ったような顔を見せるが――
『もけー!』
「なら、タッグパートナーの僕も最強って……光属性繋がりがあった僕らと違って、機械族の融合主体の亮と、爬虫類族主体の小日向さんのタッグじゃぁ、十全の力は発揮できないと思うんだけど」
「あのデュエルは俺も課題が多かった。それに吹雪の『人に合わせる』力は相当なもの――あればかりは俺にも真似できん」
そもそも彼らが話題にしている「タッグ戦」はチーム間のデッキ相性によって、実力に大きなムラが生まれるものだ。
その辺りを無視して、常と殆ど変わらぬデュエルが出来るものなど、この中では吹雪くらいのものである。
そうして小日向の手により、ガクガクと体を揺さぶられる吹雪がその辺りの事情も加味して必死に訴えようとするが――
「ほら! さっさと構える!!」
「お、落ち着いて!? デュエルはするから、落ち着こう! これじゃあデッキがセットできないよ!?」
「冷・静・で・す・け・ど!!」
「そこまでにしておけ、二人とも。学園を代表するフォース生として、あまり恥を晒すようなことはするな」
残念ながら吹雪の言葉は届かぬ現状へ、亮が助け船を出した。二人の行動は、どう贔屓目に見ても「学園の顔」というには不適格である。だが――
「……一番、恥さらしてた人に言われたくないんだけど」
「む?」
動きを止め、亮へと釈然としない表情を向けた小日向からの言葉に、今度は亮が動きを止めることとなった。そして、それに関しては、吹雪も苦い顔で同意を見せる。
「うーん、あの時の亮は胸キュンポイントがマイナスだったからなー」
「むにゃむにゃ、勝利をリスペクトだ~、むにゃにゃ」
「まぁまぁ、みんな――今は良い思い出ってことで」
『誰しも一度や二度、道を誤るものだよ』
なにせ、この1年で「最も
「ああ、そうだな。俺が自分の中の壁を乗り越えられたのは、みんなのお陰だ」
しかし、亮はそんな己の過去を恥じることなく、肯定して見せる。亮からすれば恥ではないのだ。藤原の言うように「良き思い出」――仲間との絆のエピソード。
「……うーわ、そんなキザったらしいセリフ――恥ずかし気もなく、まぁ」
「イイね、亮! 胸キュンポイント8点だ!」
「ちょっと吹雪に影響されて来ていないかい?」
『肩の荷が降りた……とでも言えば良いのだろうか?』
だが、当の仲間からの返答は一人を除き、結構辛辣だった。無理もない。
やがて、一同の何とも言えない視線など気にせず満足気な亮を余所に、微妙な空気が場を包む。
「シニョール、茂木! ちょっとお話があるーの! 後でワタクシの元に来るように言っておいて欲しいノーネ!!」
しかし、そんな微妙な空気を切り裂くように、扉を開きクロノス教諭の声が響く中――
「もけ夫先輩、クロノス教諭が呼んでますよ」
「ふぁーい、分かった~後2時間……」
「――分かってない!?」
『もけけー!』
『何やら重要な用事のようだ』
寝袋を揺する藤原の言葉に一切、起きる気のないもけ夫。いや、当人はきっと「2時間後」には動くのだろう。それを察してかクロノスも特に咎めることなく、扉を閉めて立ち去っているのがその証。
「この光景も見収めか……寂しくなるな」
「『来る者がいればまた去る者も然り』さ! 一般入試の時は、
そんなコント染みたやり取りすら懐かしむ亮へ、吹雪は話題の転換を図りつつ妹との再会の為、「一般受験の見学」を提案するが――
「私、パス――亮、後で強そうなのだけ教えて」
「来ないのか?」
「態々船だの、バスだの乗り継ぐの面倒だもの」
早速、同行メンバーが一人減少した。理由を問うた亮にも小日向は、相変わらずの素っ気のなさである。
「フッ、キミらしい理由だな」
「やれやれ――此処はチーム『三天才』の再結成と行くしかないようだね」
やがて、寝ている1名の意思は後で確認することにした吹雪たちは、久々の妹との再会に胸を躍らせる。
その吹雪の脳裏に砂浜を「ウフフ」「アハハ」と兄妹で追いかけっこする情景が流れるが、残念ながら「そんな日が来ることはない」と此処に記しておこう。
アカデミアの来客用の部屋にて、強面なコアラ顔の筋骨隆々な壮年の男――「
「――以上が、前田 隼人くんの在学中の定期試験結果になります、前田さん」
それがアカデミアのオシリスレッドの生徒、熊蔵の息子であるずんぐり体形のコアラ顔こと隼人の成績である。
「退学……でごわすか」
「ええ、能力が本校の定めた規定値に達しておらず、普通の学園なら留年となりますが――本校に『学力不振による留年』は認められておりません。退学です」
だが、残念ながら此度の報告は前田家にとって、何一つ喜ばしいものはない。
「転校先の学園の手配は此方でも用意がありますが、前田さんのご家族のご希望があれば其方に沿う形を取らせて頂きます」
「おいは隼人が目指しとる『でざいなー』言う業界は門外漢でごわすが、この学園以外でも目指せるもんですかい?」
淡々となされる佐藤の説明に、熊蔵が「息子の夢」への可能性を問うも――
「前田くんが目指しているのは『デュエル』のカードデザイナーです。各『デュエル』部門は日々急成長を続けている分野ですので、求められるハードルは上がり続けている『狭き門』です」
「険しい道のようたい……今の隼人が『でざいなー』やっとる会社の門を叩けばチャンスはどのくらいあるんでごわすか?」
「
隼人に突き付けられた現実は無情だ。原作から歴史が歪んだことで――
都合よく
都合よく
都合よく、それらの過程で精霊が知覚できるようになる訳でもなく。
都合よく
都合よく
「うぅむ……」
隼人の夢を最も邪魔しているのが、他ならぬ
「デザイナーの道を諦めたくないのであれば、それらが学べる学園に転校されれば良いかと。ただ、推薦状の類はご用意できませんので、自力で転入試験を突破する必要がありますが」
「色々ご教示頂きありがたい。して、少しばかりお願い申したいと思っちょるんですが――」
やがて息子の為に思い悩む親の姿へ佐藤は「現実的な道」を提示するが、熊蔵は自分の膝をパンと叩き、意を決したように己が決断を告げる。
それが、一人の親として、そう器用でもない熊蔵にできる精一杯の行為だと信じて。
アカデミアの海岸沿いの崖近くに建つ、ボロい2階建てのアパートのようなレッド寮の2階にある面談室にて、佐藤に呼び出された隼人だったが――
「隼人、荷物纏めい。
「父ちゃん!?」
熊蔵こと実の父という思わぬ人物の存在に、隼人は大いに面食らう。実父のアカデミアの来訪は隼人にとっても寝耳に水であろう。
「先生から話ば聞いた
「ま、待ってよ、父ちゃん! ――先生、どういうことなんダナ!?」
だが戸惑いから立ち直らぬ隼人は、父から告げられた無情な現実を前に、縋るようにレッド寮の寮長も兼任している佐藤に事情を問うた。
「成績不振による退学です。在学中に何度も申し上げたでしょう? 脅し文句だとでも思っていたのですか?」
「そう言うことたい。学費もタダじゃなか。最初の約束通り、おはんには家業の造り酒屋継いで貰うばい」
しかし、この場に隼人の味方はいない。佐藤――いや、アカデミアの教師陣は再三に渡り「筆記・実技の成績が不振となれば容赦なく退学になる」旨は隼人を含めて生徒たちに伝えられている。
それでも怠惰な姿勢を改善しなかったのは隼人自身の決断なのだ。幾ら環境を整えようとも、当人のやる気がなければ意味はなかろう。
原作でも、彼は留年しても、十代たちに甲斐甲斐しく接されるまでは概ね同様だったことを思えば、ある種の必然やもしれない。
「――おれはカードデザイナーになる夢、諦めるつもりはないんダナ!!」
だとしても、隼人は夢を諦めてはいなかった。今は腐っていても「いつかは」と来るかどうかも分からない幻想に縋って。
「落ち着いて、前田くん――退学になったからと言って夢を諦める必要はありませんよ。転入した学園で目指せば良いんですから」
とはいえ、佐藤は「それ」を否定しない。あくまで佐藤の認識は「隼人はアカデミアの方針が合わなかった」だけなのだから。
柵なくノビノビ絵を描いている方が成功する例も世に溢れて――はいないが、確かに存在する。現段階で隼人の夢が完全に閉ざされた訳では決してない。
「そ、それなら――」
「止して
だが、熊蔵は「それ」を認める気はなかった。
「隼人――おはんが目指す『でざいなー』言うんは、留年する馬鹿垂れがなれるもんでごわすか?」
「お、おれだって、やれば出来るんダナ!」
「おいが何も知らんと思うとるか? おはんの学園での試験の様子ば見せて貰っとると。レッド生でも、頑張ってイエロー上がった生徒ようさんおるばい」
熊蔵――いや、前田家にも当然だが生活がある。隼人へ「ノビノビ絵を描かせる」ことを許せる程の経済的に多分な余裕はない。
隼人の才能へ一縷の望みを託そうにも、熊蔵に「カードデザイナーの才能の有無」は分からない以上、判断材料は「隼人の積み重ねの有無」に委ねられる。
「でも、隼人――おはんは出来とらんから、
「そ、それは……」
そして、隼人の「それ」は熊蔵の目からみて「限りなく0」だった。
オシリスレッドに落とされた屈辱に耐え切れず、自主的に退学を選んだ者もいる。
変化したアカデミアの在り方について行けぬと見切りをつけ、転校を選んだ者もいる。
だが怠惰に怠惰を重ね、進級試験で留年の烙印を押されたのは隼人だけだ。
「おいは最初から反対やった。気の小さいおはんが、デュエルアカデミア行っても上手くいく訳なか、と」
そうして口ごもる隼人へ、熊蔵は己が胸の内を語る。
「でも母ちゃんは『隼人の夢』やと応援しとった。だから、おいも信じて送り出したでごわす」
隼人がアカデミアに通えたのは、息子の夢を応援してくれた母の後押しがあったからだと。
「だけんど、おはんは応援してくれとった母ちゃんば裏切った! おいは、それが何より許せん!!」
しかし、そんな己の夢を嗤わずに信じてくれた唯一の存在を裏切ったのは他ならぬ隼人だ。
「隼人! おはんの言葉は薄っぺらたい!! アカデミアで腐っとったヤツの言葉に力ばなか!!」
1年無駄にした。そして仮にアカデミアに残れても
「それでも夢、追いかける言うんなら――」
その確信があるからこそ、熊蔵は――
「――おいをデュエルで説得してみせい!!」
隼人の本気を試すのだ。
「おはんが『夢』に本気なら、おいもチャンスば与えてもよか!」
「……分かったんダナ! おれの本気、父ちゃんに見せる!!」
「先生! デュエル場一つ、借りさせて貰うたい!!」
やがて魂の
「おれの先攻、ドローダナ! モンスターをセットして――」
――母ちゃんが隼人に託したデッキのセオリーなら、あのモンスターは《デス・コアラ》。だが、おいの薩摩次元流の前では裏守備モンスターなんぞ、即お陀仏なことは隼人も知っとる筈……。
そうして開始早々モンスターをセットした隼人。だが、他ならぬ息子のデッキは父である熊蔵には手に取るように分かる。しかし、それはあくまで「過去」のものだと警戒する熊蔵だったが――
――隼人は、母ちゃんのデッキをどう自分のもんにしたと。
「おれは魔法カード《魔獣の懐柔》を発動するんダナ! デッキからレベル2以下の獣族3体を――あれ? 発動しないんダナ?」
「魔法カード《魔獣の懐柔》は自分フィールドにモンスターが存在しない時でなければ発動できませんよ」
「あぁ!? しまったんだな!?」
早速、大ポカを佐藤に指摘される隼人の姿を前に、熊蔵は頭痛をこらえるように頭に手を置くと共に急速に気分は冷えていく。「試す」とか言った自分が馬鹿みたいだった。
「……もう良か。サレンダーせい隼人。おはんが如何に怠けとったかは十分に分かった。母ちゃんから託されたデッキば泣いとるばい」
「……っ! まだ挽回できるんダナ! おれは父ちゃんの仕事は継がない! カードデザイナーになるんだな!!」
「恥の上塗りを続けるでごわすか……好きにせい」
だが、「息子も緊張していたんだろう」と一先ず自分に言い聞かせる熊蔵を余所に、隼人は魔法カード《手札抹殺》で手札を一新。
そして2枚の永続魔法《メルフィーのかくれんぼ》と《
隼人LP:4000 手札2
モンスター
裏守備×1
魔法・罠
《メルフィーのかくれんぼ》
《
VS
熊蔵LP:4000 手札5
――母ちゃんが餞別で持たせたデッキ。今のおはんに応えるか、否か……見物たい!
「おいのターン、ドロー!!」
やがて、気を取り直して隼人を試すべくカードを引いた熊蔵は、魔法カード《闇の誘惑》で2枚ドローした後に闇属性《
「早速、行くど! 薩摩次元流の一撃必殺! ちゃぶだい返しィ! 魔法カード《ブラック・ホール》発動! フィールドのモンスターを纏めて破壊じゃ! ちぇすとー!!」
「無駄なんダナ! おれのコアラたち獣族は永続魔法《メルフィーのかくれんぼ》で1ターンに1度、効果じゃ破壊されない!!」
一撃で全てのモンスターを仕留める黒い暴風の如き次元の歪みが、隼人の元で裏守備で伏せるカード――獣族の《デス・コアラ》を吸い込もうとするが、その周囲の生い茂った森が、《デス・コアラ》を守るように包み込む。
だが、その後、特に何も起きることなく裏側守備表示でセットされた《デス・コアラ》は黒き次元の歪みに吸い込まれて行き、破壊された。
住人のいなくなった森だけが隼人の周囲で草木を揺らす。
「なっ!? ど、どうしてなんダナ!?」
「裏側のモンスターば『獣族』じゃな
やがて己の想定との差異に驚きの声を漏らす隼人だが、残念ながら熊蔵の言う通り、「獣族か定かではない」「裏守備表示のモンスター」を《メルフィーのかくれんぼ》では守れない。
「隼人、積み重ねないもんは上っ面すらボロが出ると」
そして自分のデッキすら満足に扱えていない隼人の現状に厳しい言葉を投げかける熊蔵だが――
「おはんが造り酒屋継ぎとうないなら、おいは別にそれでも構わん。じゃが半端しとるくらいなら、
熊蔵とて、無理に家業を継がせる気はなかった。有無を言わせず継がせる気ならアカデミアの入学など初めから許可していない。
だが、「夢を追いかける」ことすら怠惰な隼人に、積み重ねの重要さを説ければ――そう、考えただけだ。
「経験
「まだ《デス・コアラ》1体失っただけダナ! 勝負はこれからダぁ!」
「さよか――おいは《
しかし「未だ本気は見せていない」と言わんばかりの隼人を静かに見やった熊蔵が呼び出したのは、月の模様が浮かぶ扇子を持った緑の着物に身を包んだ青い長髪の女性。
だが、その外見は人ではなく狐にも似た獣のそれであり、着物の背後には卵色のフサフサの尾が見えた。
《
星4 光属性 魔法使い族
攻1850 守1000
↓
攻2150
――おれの知らないカード? 父ちゃんのデッキにあんなカードは入ってなかった筈……。
「バトルでごわす! カグヤでダイレクトアタック! 秘扇! 兜割り!」
「うわっ!? で、でもライフは残るんダナ!」
着物の裾をズルズル引き摺りながらダッシュした《
隼人LP:4000 → 1850
「おいはカードを1枚セットしてターンエンドでごわす」
隼人LP:1850 手札2
モンスター
なし
魔法・罠
《メルフィーのかくれんぼ》
《
VS
熊蔵LP:4000 手札3
モンスター
《
魔法・罠
伏せ×1
《魂吸収》
《憑依覚醒》
結果的に、一気に半分以上のライフを削られた隼人だが、その表情に焦りの色は見えなかった。
――父ちゃんが何を伏せていても、永続魔法《メルフィーのかくれんぼ》と《
なにせ、隼人の獣族――いや、コアラの軍勢は2枚の永続魔法の効果で「戦闘・効果ともども1ターンに1度、破壊されない」状態なのだ。
効果破壊を主な突破手段とする熊蔵のデッキには有効的に働く。
ただ、裏守備の《デス・コアラ》が犠牲になった件は、脇に置いておくものとしよう。
「おれのターン、ドロー! 魔法カード《死者蘇生》で墓地の《ビッグ・コアラ》復活!」
そんな隼人の元に森から飛び出すのは青い毛並みの巨大過ぎるコアラ。その巨躯はそこいらの大樹を優に超え、木を丸々引き抜きアイス棒感覚で頬張るその姿はその名の通り「ビッグ」である。
《ビッグ・コアラ》 攻撃表示
星7 地属性 獣族
攻2700 守2000
「魔法カード《手札抹殺》の時に墓地に送っとったか」
「さらに《吸血コアラ》も通常召喚するんダナ!」
今度は一般的なサイズの灰色の毛並みの首に赤いスカーフを撒いたコアラが現れるが、その額にはコウモリの痣が浮かび、口元に見える牙は吸血鬼顔負けに鋭利だ。
《吸血コアラ》 攻撃表示
星4 地属性 獣族
攻1800 守1500
「バトル! 行け、《ビッグ・コアラ》! ユーカリ・ボム!!」
やがて上述のことから、熊蔵のセットカードを恐れることなく攻勢に出た隼人の声に《ビッグ・コアラ》が、その巨体を揺るがし疾走。
そんな相手の圧に、慌てた様子で着物の袖をアワアワ揺らす《
「させんでごわす! 効果発動!」
「無駄なんダナ! 父ちゃんの薩摩次元流は封じてる!」
「おいの薩摩次元流は、そう甘くなか! 手札1枚と墓地の6枚――計7枚のカードを除外し、墓地から《
そんな窮地から《
なおも迫る《ビッグ・コアラ》の突進を前に、赤いリボンでお洒落した尻尾で顔を叩いた後、手に持ったリンゴを投てきした。
《
星4 光属性 魔法使い族
攻1850 守1500
↓
攻2150
「特殊召喚した際のシラユキの効果で《ビッグ・コアラ》を裏守備表示にするでごわす! 眠りのリンゴ!!」
やがて《
《ビッグ・コアラ》 攻撃表示 → 裏守備表示
攻2700 → 守2000
「これで永続魔法《メルフィーのかくれんぼ》で守ることば叶わん!」
「そ、そんな!?」
「元々の攻撃力1850の魔法使いが呼んだ時永続魔法《憑依覚醒》でドロー。カードを除外したことで永続魔法《魂吸収》で回復ばい」
熊蔵LP:4000 → 7500
「《吸血コアラ》じゃ突破できない……おれはカードを1枚伏せてターンエンドなんダナ……」
かくして《
隼人LP:1850 手札0
モンスター
裏守備モンスター(《ビッグ・コアラ》)
《吸血コアラ》
魔法・罠
伏せ×1
《メルフィーのかくれんぼ》
《
VS
熊蔵LP:7500 手札3
モンスター
《
《
魔法・罠
伏せ×1
《魂吸収》
《憑依覚醒》
「おいのターン! ドロー!」
そして隼人の出鼻を挫いた熊蔵は、墓地にカードがなく、除外されたカードが4枚以上ある為、魔法カード《カオス・グリード》を発動して2枚ドローした後、フィールドの《
「おいは魔法カード《カオス・エンド》発動! フィールドのモンスターを全て破壊でごわす! ちぇすとー!!」
空より白雲を裂いて地上に降り注ぐ白き滅びの光が、フィールド上の全てから命を奪い上げていく。
そんな中で仲良く両手を繋いで倒れた《
「でも、これで父ちゃんのモンスターは0! おれの《吸血コアラ》は永続魔法《メルフィーのかくれんぼ》の効果で無事なんダナ!」
「裏守備の《ビッグ・コアラ》が消えれば問題なか!」
ゆえに自軍にのみモンスター《吸血コアラ》を残す隼人が己の有利を示すが――
「おいは2体目のカグヤを召喚! デッキから3体目のカグヤば手札に! 永続魔法《憑依覚醒》で1枚ドロー!」
やがて寂しくなった熊蔵のフィールドに《
《
星4 光属性 魔法使い族
攻1850 守1500
↓
攻2150
「魔法カード《ユニコーンの導き》で手札1枚ば除外して、鳥獣族の《
そんな姫君のお連れとして、次元よりスルリと降り立ったカンフー服を纏ったカラスの鳥人が、歪んだ刀身の短刀を手に忠誠を誓うように膝をつく。
《
星4 闇属性 鳥獣族
攻1900 守300
↓
攻2500
《
攻2150 → 攻2450
熊蔵LP:7500 → 8000
「バトル! 2体で《吸血コアラ》を攻撃でごわす!!」
カードが除外されたことで永続魔法《魂吸収》で着実にライフを回復していく熊蔵は、隼人のフィールドにて唯一不明なリバースカードを――罠を踏み抜くように攻めるが――
「でも、永続魔法《
「ダイレクトアタック出来ずとも、ダメージは受けて貰うたい!」
特に何も起きることなく、《
「うわぁあぁぁ!!」
隼人LP:1850 → 500
こうして残るはフィールドにモンスターがおらず、手札も0、ライフ500とギリギリの隼人が尻もちをつく姿のみ。
唯一残るリバースカードも、追い込まれた今の状況で発動する気配すらないとなれば、活用タイミングを逃しているのだろう。
「嘆かわしか。おはんのデュエルばリスペクトの欠片も見えん」
ゆえに思わず熊蔵は呟いた。「本気を見せる」と吠えた息子からは、負け犬の遠吠えすら聞こえてこない。
「父ちゃんが……リスペクトデュエルを?」
しかし当の隼人は、サイバー流の理念であり、同時にこのデュエルアカデミアにも掲げられている「リスペクトデュエル」とは無縁そうな、豪快さの塊の熊蔵から「それ」が語られた事実に疑問を呈する。
「おいがアカデミアに通わせるば許したのは、母ちゃんの願いだけじゃなか――鮫島はんが掲げとる『リスペクト』の教えがあったからでごわす」
「鮫島? 確か、前の校長先生の名前ダナ」
「おいは、ワールドグランプリで、あのお人の教えば見て――おはんを任せられると感じたと。なのに、おはんは教えを学ぼうとせんかった。まっこと嘆かわしか」
「ワールドグランプリ? そんな!? 父ちゃんが、あのワールドグランプリに!?」
やがてワールドグランプリにて、「リスペクトの教え」に出会ったと語る熊蔵だが、隼人はそれどころではない。
ワールドグランプリ――「本当のデュエルキングを決める」との名目で全世界を巻き込んだ歴史上、最大規模の大会である。
そんな栄誉ある場に、自分の父親が参戦していたなど、隼人には初耳だった。
「誇れるような戦績じゃなか。じゃが、その会場で鼻つまみもんみたいな相手でもリスペクトを説く鮫島はんの教えを聞いて、おいは頭をトンカチで殴られたみとうな衝撃を受けたでごわす」
「何を教わったんダナ!?」
「カードへのリスペクトたい」
やがて熊蔵の強さの秘訣とばかりに語られる内容へ、尻もちをついた身を起こした隼人が一言一句逃さぬように集中したが――
「デュエリストば戦う時、一番矢面に立つんは『カード』でごわす」
これは隼人が望むような都合の良いパワーアップ話ではない。
「そして、おいのデッキは自分のモンスターもろとも破壊する時もあると。だからこそ、『カードへの
それはデュエリストが当たり前に持っているべき心得。
「隼人――おはんはカードへの敬意があると? いや、
だが、そんな当たり前の心得すら隼人にはなかった。
とはいえ、これはプレイミス自体を責めている訳ではない。人間である以上、見落としや間違いは必ずある。熊蔵が一番問題にしているのは――
「おはんの気持ち一つで多少マシになったやもしれん言うのに――おはんは、この期に及んで『自分の夢しか見とらん』!! カードへ敬意
ミスを顧みることのない隼人の姿勢そのもの。相手の罠を碌に警戒せず、モンスターが傷つこうともお構いなしに、自分の望みばかり先行させる様。
カードを生み出す道を目指す隼人が、誰よりもカードを蔑ろにしている事実だ。
「そのくらいは、素人のおいでも分かるでごわす!!」
こんなものは「ただのカード」だと言ってしまえば、それだけの話やもしれない。いや、精霊が見えない人間からすれば、「ただのカード」と考えるのが自然なのだろう。
しかし、「隼人が目指したデザイナー」は、そんな情緒の欠片もない機械のような人間だったのか?
「隼人! 夢を目指すなら、本気で目指せ! 今のおはんは夢に酔っとるだけと!! 本気の『フリ』しとるだけでごわす!!」
怠惰に過ごす中、ある日突然に天から都合の良い出会いと、都合の良い経験を授かり、都合の良い棚ぼたを待つような人間だったのか?
「そんな半端もんに叶えられる
違うだろう。
父の反対を押し切ってまで隼人が求めた将来像は、そんな様ではなかった筈だ。
「カードを1枚セットしてターンエンドでごわす!! 隼人、これが最後のチャンスたい!!」
隼人LP:500 手札0
モンスター
なし
魔法・罠
伏せ×1
《メルフィーのかくれんぼ》
《
VS
熊蔵LP:8000 手札2
モンスター
《
《
魔法・罠
伏せ×2
《魂吸収》
《憑依覚醒》
「……父ちゃん、おれ……」
「これ以上の言葉はいらん! おはんの本気を見せてみい!! おはんが
やがて熊蔵からの訴えに隼人が胸の内の想いを燻ぶらせるが、今まで怠惰に過ごしてきた隼人の言葉には力がない。
そんな男が、デュエリストとして示すべきことは一つ。
デュエルだ。
「おれの……おれのタァァァアァン!! ドロー!!」
やがて猛る想いのままカードを引いた隼人は、永続罠《バーサーキング》を発動させ、魔法カード《マジック・プランター》によって墓地に送って2枚ドロー。
だが、反撃には一歩手が足りない。
ゆえに永続魔法《メルフィーのかくれんぼ》のもう一つの効果により、墓地の獣族――コアラたちをデッキに戻し、更にもう1枚ドロー。
「――来たんダナ!」
そして勝利に届かずとも、熊蔵に一矢報いる逆転の一手を打つ。
「魔法カード《魔獣の懐柔》! デッキからレベル2以下の獣族3体! 《コアラッコ》1体と《ラッコアラ》2体を特殊召喚ダナ!」
その初手は最初のターンに隼人のミスで発動し損なった3体の獣たちを呼び起こす集合の合図たる遠吠え。
「そして魔法カード《融合》! フィールドの2体のコアラを融合して《コアラッコアラ》を融合召喚!!」
そうして駆けつけるであろうコアラの顔立ちのラッコと、ラッコの顔立ちのコアラが融合の渦に飛び込むこととなれば――
「そして《コアラッコアラ》の効果で手札の獣族を墓地に送り、父ちゃんのモンスター破壊! 魔法カード《闇の量産工場》で手札に戻した2体の《ビッグ・コアラ》を墓地へ!!」
紺色の毛並みの大柄な体躯と強靭な筋肉を持つゴツイコアラが深き森より現れ、墓地から舞い戻った《ビッグ・コアラ》の2体を放り投げ、熊蔵のモンスターをプレス。
魔法・罠の効果で1ターンに1度破壊されない《
「ダイレクトアタックなんダナ、《コアラッコアラ》!!」
やがて熊蔵を守るモンスターがいなくなったことで、《コアラッコアラ》が跳躍と共に頭上で固めた両拳を振るえば、手痛い一撃が熊蔵に届くだろう。
――カグヤの効果でおいの勝ちは変わらん。だが隼人、おはんのデッキは見事応えて見せた。おいにはそれで十分でごわす。
かくして、息子が見せた奮闘の軌跡に満足気に瞳を閉じる熊蔵。その一撃を《
――……ん?
だが、一向に来ない《コアラッコアラ》の攻撃を不審がった熊蔵の耳に、隼人のデュエルディスクからけたたましく鳴り響くブザー音が届いた。
「おかしいんダナ、デッキから《コアラッコ》と、2体の《ラッコアラ》が呼び出せない……どうしてなんダナ?」
そんなブザー音に目を開いた熊蔵の視界に映るのは、デュエルディスクを前に四苦八苦する隼人の姿。これには熊蔵も大きなため息を吐く。
――この馬鹿垂れは、最後の最後で締まりのない……
「隼人、《魔獣の懐柔》では同じモンスターは1体しか呼べんと。別のカードを選ぶでごわす」
「えっ?」
そう、魔法カード《魔獣の懐柔》の効果は、効果を持つレベル2以下の獣族を3「種類」呼び出すものだ。呼び出す3体は全て「違うモンスター」でなければならない。
こんな最後の最後でチョイミスした隼人の姿を見れば、熊蔵が先に抱いた息子への誇らしい思いが呆れで半減されよう。
「母ちゃんのデッキには他のレベル2以下の獣族――《森の聖獣 ユニフォリア》や《キーマウス》がおった
「…………でも」
だというのに説明の後も、もじもじしつつ動かない隼人の姿を前にして、熊蔵の背に嫌な予感がひしひしと感じられた。
「…………まさかデッキに2種類しかおらんのか?」
「そのカードは、コアラカードじゃないから、抜いちゃったんダナ」
そして悲しいことに、その嫌な予感は的中することとなる。
隼人LP:500 手札4
モンスター
なし
魔法・罠
《メルフィーのかくれんぼ》
《
VS
熊蔵LP:8000 手札2
モンスター
《
《
魔法・罠
伏せ×2
《魂吸収》
《憑依覚醒》
やがてターンが回って来た熊蔵は、怒りと共にドローし――
「この――」
魔法カード《強欲で金満な壺》の効果により、エクストラを裏側で6枚除外した熊蔵は、装備魔法《
熊蔵LP:8000 → 11000
「――馬鹿垂れがぁああぁぁあああああ!!」
緑の体表を赤き竜の如き装甲で覆った強靭な体躯を持つ巨大な悪魔が、熊蔵の心を汲むように拳を振り上げ、その鉄拳ことげんこつを隼人の頭に叩き落した。
《紅蓮魔獣 ダ・イーザ》 攻撃表示
星3 炎属性 悪魔族
攻 ? 守 ?
↓
攻6000 守6000
↓
攻6900
隼人LP:500 → 0
かくして、隼人の夢への道は、本来の歴史とは全く別の様相を示すこととなる。
残念ながら本来の歴史のような華々しい道は途絶えたが、今の隼人ならたとえ「亀の歩み」と揶揄されようとも、一歩一歩確実に進んでくれることだろう。
気張れ、隼人。
そんな熊蔵の怒りのげんこつが過去になった頃、海馬ランドにて大きな地揺れが起きた地点にて――
「うぐっ!?」
『ウケッ!?』
『デュワッ!?』
海馬ランドのデュエルドーム付近に神崎が落下し――その上に、アクア・ドルフィンが落下し――さらに、その上にネオスが落下していた。
凄い速度で人間大の存在が同じ場所に落下したせいか、地面にめり込んだ神崎を余所に、ネオスは周囲を見渡す。自分たちは先程まで宇宙にいた筈だと。
『……此処は、ひょっとして地球に戻って来たのか?』
『痛ててて……お、重いよ、ネオス。神崎も潰れちゃってるから』
そうしてネオスの下敷きになっているアクア・ドルフィンが潰れたカエルのような声を漏らす中――
――此処は……壊れた看板。『アカデミア実技受験会場』? 時刻は早朝。今の西暦を鑑みると、随分と作為的な時期だな。
地面にめり込んでいる神崎は、状況把握に忙しかった。そして視界の端に映った情報から凡そを把握する中、手を伸ばすアクア・ドルフィンの姿が映る。
『引っ張るよ、神崎』
『いや、待てアクア・ドルフィン。強引に引っ張り出すより人を呼んだ方が良いかもしれない』
だが、地面にめり込んだ神崎の引き抜き方に争点が移る中、神崎の脳裏を占めるのは宇宙から地球までの帰路についてだった。
――破滅の光にネオスの助命を願った結果、門の元に辿り着き、代償を払い必要な力を得た……が、力の正体は不明。気づいた時は既に地球。帰還方法も不明。
『でも、ネオス。僕たちは見えないだろうし、仮に見える人がいても神崎の状態をどう説明するんだい?』
――状況はこんなところか。
「遅いご帰還のようだね、逆位置の
しかし、そんなカオス過ぎる現場に一切臆することのない斎王の登場に、アクア・ドルフィンとネオスは視線を向けるが――
『知り合いかい? って、僕たちの姿が見えてる!?』
『ハッ!? 拙い!? ――待ってくれ、彼は怪しいものじゃない!!』
『僕たちの姿が見えるのなら、話だけでも聞いてくれ!!』
遊園地の一角にある地面にめり込んだスーツの男という、誰がどう見ても不審人物な神崎の状態へ、慌てた様子で頑張ってフォローするアクア・ドルフィンとネオス。
――十分怪しいと思いますよ。
しかし顔見知りの登場に神崎は対話の姿勢を見せるべく、筋肉を隆起させることで周囲のコンクリを器用に退かして立ち上がった。
とはいえ、そんな光景を前にしても斎王の態度は変わらない。まさに鉄壁のメンタル。
「お互い積もる話もあるだろう。近況報告でも願えないかな? 副社長も心配しておられたよ」
「それは構いませんが、一つばかりリクエストしても?」
――家族の記憶、問題ない。前世、問題ない。原作知識、問題ない。奪って来た力、問題ない。次は……
やがて斎王からの提案に二つ返事で了承を返しつつ条件を提示する神崎だが、その脳裏を占めるのは門が語った「代償」の件。
「なにかね?」
「試験を見学させて頂ければ」
――ああ、そういえば彼はデュエル観戦を趣味としていたか。
「その程度なら構わないとも。では、来賓席の空きに案内しようか」
そうして、趣味と実益を兼ねた神崎の提案へ、斎王は快く誘導する姿に従う神崎たちだが――
――なにを奪われたんだ?
その胸中の不安は決して拭えなかった。
これにて、GXの「原作3年前のアカデミア編」は完結になります<(_ _)>
「最後はアカデミア開始の1年前だった?」――細けぇことは良いんだよ!!ヾ(´∀`ヾ)
次回から、「原作GX開始編」が始められます。ようやく「GXスタート」と胸を張って言えるかと。
どうかお付き合い頂ければ幸いです。
Q:隼人、退学になったの!? 新体制で頑張らなかったの!?
A:隼人ファンの皆様には本当に申し訳ありません。
理由と致しましては――
原作での、凄い甘い鮫島校長体制で「唯一の留年生」というマイナス過ぎる経歴と、
今作での変化によって「十代に会えなかった隼人」であることを考えると、原作の様子から「環境を整えても頑張らないだろうな……」と判断させて貰いました。
原作でも、留年しても危機感0で十代と翔からカードを貰う以外は、ペガサス会長からの唐突な棚ぼたがあるまで、自分のデッキすら碌に改良しない有様で、
「原作キャラだから」とハシゴかけてくれる人もおらず、
今作の改革後のアカデミアの「やる気ないなら辞めろ」なスタンスの前に、隼人は脱落となりました。
でも、実家で稼業を継ぎつつ頑張る感じにシフトしたから……(震え声)
~今作の隼人のデッキ~
コアラ一式を詰めたデッキ
本来であれば、《魔獣の懐柔》で融合素材を揃えたり、《ビッグ・コアラ》のアドバンス召喚リリースにしたり
《金貨猫》て《森の聖獣 ユニフォリア》を蘇生し、そこからコアラを蘇生して永続罠《バーサーキング》のエサにしつつ、
罠カード《キャトルミューティレーション》で呼びなおしてデメリットを踏み倒したり――
と、コアラ色を前面に押し出していく予定だったが、「この時期の隼人に使いこなせる?」との疑問から、こんなデュエル内容に……
(デッキ構築スキル・カード収集能力もなさそうな時期ゆえに「母のデッキを託された」との要素を足させて頂きました)