前回のあらすじ
ZEXALかと思った? ――GXだよ!!(顔芸)
第242話 TURN-01 遊戯を継ぐ者?
その日、エリートデュエリストを養成する学園――デュエルアカデミアの実技試験が海馬ランドの白き竜の頭の形をしたドーム内にて受験番号が大きい順に行われていた。
「《スチームロイド》を召喚してターンエンドっス!!」
そんなドーム内の円形に広がる広い会場を区分けしたデュエル場の一つで、目口のついたファンシーな汽車をポツンと棒立ちにしてターンを終えた左右に分けた毛量の多い水色の髪の鼻眼鏡をかけた小柄な少年「
『さっきの斎王という青年。戻って来る気配がないな……』
『KCは神崎の古巣だろう? 他の社員と連絡を取り合ってるんじゃないかな?』
だが、そんな神崎の隣でネオスとアクア・ドルフィンが、案内の後に席を外したまま戻らぬ斎王を心配し始めるも――
――気を遣わせてしまったかな。
「なら丁度良い機会ですし、確認を――皆さん、帰りの道中はどの程度、覚えていますか?」
斎王が席を外した理由を凡そ把握していた神崎から、考えに考えども分からなかった「代償」を把握すべく情報のすり合わせを提案すれば、ネオスは僅かに悩む様子を見せるも、心を鬼にして厳しい口調で言い放つ。
『そのことか…………神崎、助けて貰った身でこんなことを言いたくはないが、あんな真似は二度としてはいけない』
『そうだよ! 破滅の光の願いの叶え方は、かなり危険なことはキミにも分かっていた筈だ!』
「それに関しては申し開きもありません。軽率でした」
そうして、破滅の光とのデュエル後の件へ素直に謝罪を返す神崎。アクア・ドルフィンの言うように、かなり危険な行為だった以上、突発的に願った自身の浅慮は神崎も自省する他ないだろう。
『……分かってくれたなら良い。私も自己犠牲染みた真似をしてしまった以上、お互い様と水に流そう』
『本当だよ、ネオス! 僕たちは決死隊じゃなくて先兵だったんだから!』
そんな素直に忠言を受け止める神崎の姿に気勢を削がれたゆえ、直ぐに矛を収めたネオスをアクア・ドルフィンが爽やかに笑いながら茶化して見せる中――
「助かります。それで帰路の方は?」
『私が覚えている範囲は、身体に力が戻ると同時に破滅の光が消え、ドルフィーナ星人たちを含めた皆が解放された光景までは覚えているんだが……』
『その先は、次元が歪む感覚を受けたと思ったら――この場に投げ出されていた感じだね!』
「私の願い方によって、破滅の光が『生きて皆で帰る』と願いを定義したのかもしれませんね」
――藤原 優介を確認。やはり両親も存命ならば問題なかったか。
彼ら3名の話題は、破滅の光が「どう願いを叶えたか」に移っていくが、その間も神崎は会場中の人間の把握を平行して進めていた。
「ぎゃー!! 僕の《スチーム・ジャイロイド》がー!!」
「これで実技試験は終了です。結果は追って郵送されます」
金で縁取られた黒い鎧を身に纏う鮮血の翼を広げるモンスターの大きなかぎ爪のついた手甲に貫かれたプロペラのついたファンシーな汽車が白目を剥いて倒れる中、響 みどりは試験官の業務を進めていた。
「うぅ……負けちゃったっス……もう駄目だ~!」
「最初に説明した通り、デュエルの勝敗自体は合否に関係はありません。次の受験番号――」
だが、敗北を前に絶望で膝をつく翔を励ましてやることは出来ない。試験官の立場は「中立」でなければならないのだから。
そうして黒服にドナドナされていく翔の様子を2階の観覧席にて手すりに両肘を置いて眺めていた吹雪は、隣で直立して陣取る亮に軽口を飛ばすが――
「おっと、亮の弟くんは負けちゃったようだね」
「実技試験は『勝利すること』が目的ではない。如何に自身の可能性を見せられるかだ」
「それを測るデュエルの内容にアラが多かった気もするけど……」
『序盤のミスと、ここぞと言うタイミングで臆する場面が目立っていたようだね』
実の弟の敗戦を冷静に処理する亮を余所に、藤原とオネストたちが述べた私見が全てを物語っていよう。
「う~ん、おやすみ~」
『もけけ~』
やがて、そんな三天才の背後の座席で、持参した寝袋で
「亮、久しぶりね」
「――やぁ、明日香! 入学おめでとう! お祝いにボクとの憩いの場をプレゼントしに来たよ!!」
その女生徒「
「兄さんも相変わらず…………元気そうね」
そうした凄まじいお茶目さを遺憾なく発揮し過ぎる相変わらずの兄の姿に、明日香は「中等部の時よりバージョンアップしてない?」などと思いながら困ったような曖昧な笑みを浮かべる他ない。
『凄い言葉を選んでいましたね』
「ははは……」
その原因の一角くらいは担ってしまった藤原だけが、オネストの言葉から逃避するように目を逸らして乾いた笑いを零していた。
此処で神崎たちに場面を移せば――
「身体の方に違和感はないですか?」
『ああ、問題ない。しっかり正しき闇の力が満ちている。キミが破滅の光に願ったことで助かったというのに、こうも不備がないと何だか不思議な気分だ』
『……どうして破滅の光は、ネオスを助けてくれたのかな?』
闇のゲームによる死が確定していたネオスの状態確認が行われていたが、当人曰く「何も問題ない」――しかし、破滅の光と戦って来たアクア・ドルフィンにはにわかに信じがたいのだろう。
だが、そんな中で神崎は一つの仮説を立てる。
「元々彼には『敵味方』という意識がなかったのかもしれません。『願われれば』相手が誰であろうと叶える『装置』だった。そんな感じでしょうか」
破滅の光は、戦っていた筈のドルフィーナ星人の願いも叶え、敵対姿勢を見せていたネオスの内なる願いすら叶えようとし、形はどうあれ神崎の願いも叶えている。
ハッキリ言って「願われたら誰でも叶える」くらいの節操なしっぷりだ。知性はあれども、赤子以下の情緒と思われても仕方あるまい。とはいえ、強大な力があるゆえ手に負えないのだが。
『願った相手に問題があった……か。そういえば、彼がいつから「破滅の光」と呼ばれていたかは、私も知らないな』
そしてネオス自体も破滅の光と戦ってはいても、「どういった経緯で生まれ、どこから来たのか」すら分かっていないのだ。とはいえ、破滅の光が消えた以上、もはや考えるだけ無駄なのかもしれない。
『神崎の願いに
「その時はまた殴って止めますよ」
『止してくれ。流石にこれ以上、三騎士の方々に迷惑はかけられない』
――受験生にイレギュラーは今のところ見当たらない。精霊でも連れていれば分かり易くて助かるんだが。
やがてアクア・ドルフィンの冗談めかした一例に、ネオスが困ったように手で額を押さえる中、神崎の無機質な瞳だけが会場を行きかう人間たちを眺めていた。
そうして談笑をしていたネオスたちを余所に、受験生たちが次々と試験を終えていく中、休憩中のクロノスは頭を悩ませていた。
「ムムムのム! 実技試験の回転が速いノーネ。やっぱり、少し難し過ぎターノ? いやいやいや、此処で緩めても誰の為にもならなイーノ! 今のワタクシには受験生を応援することしか出来ないノーネ!」
そう、アカデミアの改革に伴い入学試験そのものの見直しも今年から実施され、試しにチョイと試験内容を平均化しつつ上げたのだが、これが存外受験生を苦しめている様子。
例年より受験生がガンガン(デュエルで)ぶっ飛ばされていく光景を前にすれば、クロノスの脳裏を設定レベルの難易度調整ミスが過るのも無理からぬ話。
「クロノス教諭、最終組です」
「了解ナーノ!」
だが、新任2年目の佐藤が己を呼ぶ声に、そんな迷いを振り切ったクロノスは今試験の責任者として、デッキ片手に決戦の場ことデュエルスペースへと赴けば――
「受験番号1番! 三沢 大地! 貴方は此度の試験の担当責任者であるワタクシ! クロノス・デ・メディチがお相手するノーネ!!」
「光栄です――よろしくお願いします」
かき上げた黒い短髪に白の学ランの青年「
そんなクロノスと三沢を含めた受験生の最終組が一斉にデュエルを始める中、ネオスはふとポツリと言葉を零した。
『……破滅の光も、本当は正しい願いを叶えたかったのかもしれないな』
それは最後に消えていった破滅の光の件。
決して許されない存在ではあったが、最後の最後で形や経緯はどうあれ「自身の命を助けて消えていった」最後を前にすれば、思うところがあるのだろう。
『……そうだね。彼のことは許せないけど、今は何だか糾弾する気にもなれないよ』
「ですが、既存社会に『不都合』である以上、対峙は避けられなかったかと」
かくして、しんみりとした表情を見せるアクア・ドルフィンを、神崎が「どうにもならないことだった」と助け船を出すが、一同の間に流れる空気の重苦しさは簡単には晴れてはくれなかった。
やがて暫しの時間が流れた頃、デュエル会場にて罠カード《破壊
「対戦、ありがとうございました」
「お見事なノーネ、シニョール三沢」
そうして礼儀正しい三沢の姿へ、クロノスは純粋な賛辞を送る。デュエルの実力だけでなく、相手への
しかし、そんなクロノスの賛辞を前に、三沢は少し困ったような顔を見せる。なにせ――
「いえ、クロノス教諭が最初から本気であれば、何ターン保ったか……」
此度のデュエルは明らかな「手加減」が見えた一戦――その勝利を純粋に喜ぶには、未だ年若い三沢には難しかろう。
「そう、自分を卑下することはなイーノ。それーに、教師のワタクシが本気を出して勝てないナーラ、アカデミアで教えることが無くなっちゃって困っちゃウーノ! オホホのホ!」
とはいえ、「お上品でしょ?」感を出しつつ笑うクロノスの言うように全力の教師陣が歯が立たないレベルの実力を受験生が最初から持っているなら態々アカデミアに来るより、レベッカのように最年少プロでも目指したり、KCやらI2社やらの門でも叩いた方が建設的である。
そんな教師陣を肉薄――あるいは凌駕するゆえ、学内に新しい枠組みを用意せざるを得なくなったフォースの内の1人、亮は眼下で終了した三沢のデュエルに賛辞を送っていた。
「あの1番、爆発力こそないが安定したデュエルだったな」
「クロノス教諭も後半は殆ど本気だったんじゃないかな? 藤――優介もそう思うだろう?」
「そんなに呼びにくいかな?」
「ハハハ、ゴメンよ。どうにも慣れなくってね」
やがて亮へ肯定を返す吹雪が、3年生に上がる前に「丁度良い機会だから」との親友の名前呼びの変更に未だ慣れぬやり取りを藤原と朗らかに笑い合うが――
「――明日香もウカウカしていられないんじゃないかな?」
「そう? 私は負ける気はしないけど」
隣で額に指をシュバッとした吹雪の言葉に対し、明日香はいまいち変わり映えしない入試デュエルを前に退屈そうな視線を向けていた。
そうして最終組のデュエルも次々終了し、終幕の気配を感じさせる会場にて、一人思案にふける神崎だったが――
――流石に受験生の中に分かり易い同郷はいないか。GX開始のこの瞬間なら「ひょっとすれば」とも思ったが……
『最後の受験生のグループのデュエルも、もうじき終わりだな……』
『そういえば、神崎――どうして、この場に僕たちを案内したんだい?』
ネオスとアクア・ドルフィンから今更ながらに「会場選びの意図」が問われる。
斎王が「近況報告」と評していた割に未だに戻って来る気配がないとなれば、この場が自分たちの為に用意されたものは自ずと察しがつく。
なにせ観戦を申し出た神崎が、あまり会場のデュエルに興味を示していないのだから。
ネオスたちが守った平穏を少しでも実感して貰いたい――そんな意図があるのだろう、と。
「ああ、それなんですが――」
だが、その真意は少しばかり違う。
全ての受験生を捌き終わり、その場に立つ人間がいなくなったデュエル場を尻目にクロノスは、この場の責任者としての職務を果たさんとしていた。
「他の成績上位者のデュエルも終わったようなノーネ。試験もお開きにすルーノ」
「ではクロノス教諭、閉会の挨拶を」
やがて、響みどりからマイクを受け取ったクロノスが、何度も修正した跡のある閉会の言葉が書かれた紙を片手にデュエル場に上がる。
「まった~! 受験番号
『そんなに慌てるくらいなら、最初から電話の一本でも入れれば良かったじゃないか』
だが、クラゲを思わせる髪型をした茶髪の黒い学ランの少年「
そんな十代の傍らに浮かぶ紫と黒の肌に竜を思わせる翼を持つオッドアイの人型の精霊、「ユベル」が苦言を呈していたが、生憎と精霊が見えないクロノスたちからすれば関係のない話。
「シニョールは?」
「電車事故による遅刻だそうです。遅延の方も確認が取れました」
「アラーラ、アンラッキーボーイなノーネ」
ゆえに自身に駆け寄り耳打ちする佐藤の声に、十代を取り巻く現状を把握したクロノスは、小さくため息を吐いた後、十代に向けて声を張る。
「――アンラッキーボーイ! シニョールの試験の準備をするかーら、そこで息でも整えて待っておくノーネ!」
そして軽い返事と共に手を振る十代の姿に、帰り支度を整えていた他の受験生たちも最後の1試合を前に、席に着くこととなった。
やがて教員たちが何やら話し合っているデュエル場を眺めながら十代は、逸る気持ちを抑えきれぬ様子で拳を握るが――
「くぅ~、ワクワクが止まらないぜ! 早く試験の準備終わらないかな~!」
「そこのキミ――試験官の方がデッキの最終確認の時間をくれたんだ。一通り見ておいた方が良いんじゃないか?」
『なんだい、こいつ。ボクの十代になれなれしい……』
そんな十代へ、クロノスの意図を訳したような三沢の忠言が届くも、十代のパートナーであるユベルには不評の様子。
「大丈夫だって! 俺のデッキはいつでも行けるぜ! それより、お前のデュエル! 此処に来る途中にチラっと見たけど、スッゲー強いな! 最初から、ちゃんと見たかったぜー!」
しかし、そうしたユベルの態度に慣れた様子の十代は、実力者との出会いに感激した様子でデュエルを見逃したことを悔やんで見せるが、そんな十代へ近くにいた翔から呆れたような声が届いた。
「そりゃそうっス。受験番号1番――つまり筆記試験、第1位の三沢くんだよ」
なにせ、三沢の実力は「受験番号」と言う形で証明されているのだ。十代が感激した出会いは半ば必然であろう。
「へぇー、受験番号ってそういう意味だったのか」
「キミが自分のデッキに自信があったのなら、俺の発言は余計なお世話だったな。すまない」
『ふん、身の程をキチンと分かっているようだね』
「いいっていいって! 同じ学校に通う仲になるんだから! 強いデュエリストは大歓迎だぜ! 入学してもよろしくな!」
「ああ、楽しみにしているよ」
かくして軽く謝罪を返す三沢の姿に満足気なユベル。とはいえ、元々十代は気にしてはいないのだが。
「三沢くんはともかく、キミは実技試験もまだなのに凄い自信っスね……」
――受験番号60番だからかな?
そうして親交を深める二人の「自身の入学を毛ほども疑っていない」姿に、翔が何度目か分からぬため息を思わず吐いた。
「今年の受験生で2番目くらいに強い相手がライバルか~!」
「アンラッキーボーイ! 試験の準備ができターノ! 降りてくるノーネ!」
「よし、俺の番だ!」
やがてワクワクを抑えきれない呟きを零す十代の元に、届いたクロノスから待望の言葉に、デュエル場に向かう十代だが――
「――キミ」
その歩みを三沢が呼び止めた。思わず振り返る十代。
「ん?」
「なぜ俺が2番なんだい?」
「――1番は俺だからさ」
しかし受験番号という序列を無視したランク付けを疑問に思った三沢へ、十代は強気な笑みと共に返答し、残りはデュエルで語るとばかりにデュエル場へ駆け出して行った。
そうしてデュエル場にて向かい合う十代とクロノスの姿に、十代の登場から固まっていたネオスは、我に返った所作で神崎へと振り向き、信じられない様子で呟くが――
『十代……! まさか――』
「ええ、年号を確認した際に偶然その時期だったので」
『……僕たちの「十代に会いたい」という願いも叶えてくれたのかな?』
アクア・ドルフィンの呟きが示したように、全てを示し合わせたような時期・場所にネオスたちが落とされたことを考えれば、決してその可能性は0ではないだろう。
「真相は誰にも分かりません。ただの偶然かもしれませんから」
――遊城 十代とユベルの関係も概ね良好。暴走の危険性は問題ないか。
とはいえ、破滅の光が消えた今――その真相は誰にもあずかり知らぬことであった。
かくして十代とクロノス――原作GXの始まりの対戦カードが今、花開く。
「ボンジョォ~ルノ!」
「受験番号60番! ゆ、遊城 十代です!」
「シニョール十代――ワタクシはクロノス・デ・メディチ。この実技試験の責任者やってルーノデス」
「光栄だな。試験の責任者が対戦してくれるなんて。きっと俺、それだけ期待されてるってことかな~、へへ」
だが、原作GXから歪みに歪んだ歴史を歩む彼らの語り合いは、同じに見えて微妙な差異が見えよう。
――ただのお調子者なノーカ、自信の裏打ちなノーカ、判断に困ルーノ。
「デュエルコート、
やがて、受験生並びに本校の生徒、そして関係者の観覧する視線を一身に浴びているにも拘わらず緊張した様子が欠片も見えない十代を測りかねていたクロノスが、腰にテーブル状にデュエルディスクが展開する「デュエルコート」を起動させれば、動くメカギミックに十代は目を輝かせた。
「スッゲー! カッコいー! 先生、そのコートって俺も買えるの?」
「
「よーし、頑張るぞ!」
やがて、やる気タップリな十代もデュエルディスクを腕に装着し、腰のベルトからデッキを取り出しセット。
「ま、待ってくださーい!」
する前に、今度はKCの腕章をつけた北森が慌てた様子で十代の元に駆け寄り、走ったせいでズレた鼻眼鏡の位置を直しながら、クロノスへしどろもどろな様子でデッキケースに似た機械片手に告げる。
「遊城くんのデ、デッキのチェックがまだでしたー!」
「デッキのチェック?」
聞きなれぬ単語に首を傾げる十代。
「グールズ事件は知ってるノーネ?」
「ああ! 人のカードを奪ったりする悪い奴らだろ!」
「……まぁ、その認識でも良イーノ。ただ、その他にーも『カードの偽造』とかしてターノ。そのせいでばら撒かれーた偽造カードの回収を、こうした場でチェックしてるノーネ」
「へぇー」
そしてクロノスから語られる「デッキのチェック」の真相に、赤べこよろしく首を上下させる十代。多分、そんなに分かっていない。
そして此方にも人間社会をあまり知らぬネオスも、神崎へ疑問を向けるが――
『そうなのか?』
「ええ、KCの大田さん――技術者の方に作って貰ったものです。カードが白かったり、黒かったりしても、直ぐに分かる優れものですよ」
営業スマイルで語る神崎の真相に嘘はない。
ただ、「
状況次第では、
『精霊界とは違って、こっちでのカード判別は大変なんだね』
――
『デュエルが始まったようだ。先攻は十代か』
『ワクワクを忘れずに頑張るんだ、十代!』
やがてアクア・ドルフィンの謎目線の後に、ネオスたちは逞しく育ったであろう十代の雄姿にワクワクを募らせていた。
かくして、カードのチェック後に始まったデュエルにて先攻を得た十代は、魔法カード《手札抹殺》で手札を一新した後に2枚の永続魔法《補給部隊》と、1枚のセットカードで静かな立ち上がりを見せ――
「魔法カード《予想GUY》でデッキのレベル4以下の通常モンスター1体――《
その十代の元に、緑の体毛に覆われたヒーローが何処からともなく飛び立ち、背中の翼を盾とするように丸めて膝をつく。
《
星3 風属性 戦士族
攻1000 守1000
十代LP:4000 手札1
モンスター
《
魔法・罠
伏せ×1
《補給部隊》×2
VS
クロノスLP:4000 手札5
――ムムーム、HEROデッキのようデスーガ、思ったより動きが少なイーノ。なら、力を引き出すまでーは、軽めにつつくことにするノーネ。
そんな些か頼りなさも見える十代の布陣を前にドローしつつ、思案を巡らせるクロノス。
どうみても「誘い」が見え隠れしているが、やはり頼りなさは否めないゆえ様子見もかねてカードを3枚セットしたクロノスは――
「永続魔法《
その背後から段々に積み重なった形状の土色のレンガの要塞が大地よりせり上がるも、すぐさま欠陥工事よろしく木っ端みじんになる巨大要塞。
「でも、その前にチェーンして速攻魔法《緊急ダイヤ》を先に発動なノーネ! 効果は無効になりマスーガ、デッキから地属性・機械族のレベル4以下と、レベル5以上を1体ずつ守備表示で特殊召喚ゥンヌ!」
しかし、その要塞が崩れきる前に、列車のレールがフィールドに伸びれば――
「さぁ、まとめて来なサーイ! 《
要塞の残骸を乗り越え、レールを走り集まるのは、人間大の歯車の機械人が、剥き出しの歯車が並ぶ身体で膝をつき、
《
星4 地属性 機械族
攻1600 守500
剥き出しの歯車を歪に連ならせた蛇を思わせる体躯を持つ巨大な機械竜がボロボロの大翼を丸め、
《
星8 地属性 機械族
攻3000 守2000
なんかイイ感じの灰色の歯車が地面に転がった。
『古代の歯車トークン』 守備表示
星1 地属性 機械族
攻 0 守 0
「まだなノーネ! 破壊された永続魔法《
そんな『
《
星4 地属性 機械族
攻1700 守1200
「スゲェ! 一気にモンスターが4体も!!」
怒涛の展開に目を輝かせる十代を余所に、クロノスは《
更に魔法カード《アドバンスドロー》で守備表示ゆえに攻撃できない《
「『古代の歯車トークン』と《
己のフェイバリットカードである土色の装甲から幾つもの歯車が覗く機械の巨人を呼び出した。
装甲を盛った一際巨大な右拳が、歯車のかみ合う音と共に持ち上がって握り締められる光景は何とも威圧的である。
《
星8 地属性 機械族
攻3000 守3000
こうして怒涛の展開により一気に攻撃力3000の最上級モンスターの召喚に繋げたクロノスのデュエルを前に、観客席の翔は悲鳴にも似た声を漏らすが――
「いきなり八星モンスターだなんて……!!」
「いや、それ自体は問題じゃない。恐らく、今年の試験は『攻撃力3000ラインをどう処理するか』で測られている。条件は他の受験生も同じだ」
「そ、そうなんスか!?」
隣の三沢が分析して見せたように、翔の試験の際も「
とはいえ、件の翔の力量から呼んだ後は、効果も活用せず普通に攻撃する程度だったが。
「あくまで受験生のデュエルを見た俺の私見だが」
――前体制のように試験デッキを一纏めに用意する訳ではなく、試験官が各々条件に合わせて準備したようにも思えるデッキ……噂の新体制では、教員すら試されているのか?
そうして「倒した先から補充される攻撃力3000」への対応を計られているとの三沢の考察を余所に、墓地の《ADチェンジャー》を除外して攻撃表示に変更した《
《
守 500 → 攻1600
「バトルなノーネ!! 何を伏せていようトーモ! 《
先制パンチとばかりに振りかぶった《
「《
「――うわぁあぁぁ!!」
十代のフィールドに伏せられた1枚のセットカードも、《
十代LP:4000 → 2000
――くっ、ダメージが!? 貫通効果も持ってるのか……!
こうして、《
――さてさーて、これで早速ライフは半分。ワタクシの攻撃を誘っていた以上、なにが出て来るか……このワクワク感は、いつも変わらないノーネ
『アイツ、よくも十代のライフに傷を……!!』
「へへっ! こっちの罠は見透かされてたって訳か……でも、これ以上の追撃は通さないぜ、先生!!」
敵意丸出しのユベルの視線に射抜かれていることなど精霊が見えぬクロノスには知る由もない。そんな中、いたずらが成功した子供のような笑みを見せる十代がリバースカードに手をかざした。
「永続罠《リビングデッドの呼び声》! こいつの効果で墓地のモンスター1体を特殊召喚だ!!」
さすれば十代の墓地から一筋の光が飛び立ち、そのデュエルディスク上に1枚のカードが降り立てば――
「頼むぜ、俺のパートナー!! 《ユベル》!!」
『任せてくれよ、十代。キミのライフの借りはアイツにタップリ支払って貰うさ』
十代を守るようにユベル自身が腕組みしながらフィールドに立ち、クロノスへ向けて威圧的な視線を向けていた。
《ユベル》 攻撃表示
星10 闇属性 悪魔族
攻 0 守 0
だが、そんな十代の相棒の出現に、観客席の翔が我がことのように焦った声を漏らす。
「攻撃力0!? もっと攻撃力が高いモンスターじゃないと、《
「見たことがないカードだ。それにレベル10……この盤面を託すに値する力を持つカードと考えるのが自然だろう」
――1番くんの実力、見せて貰おうか。
なにせ、その攻撃力は0――これでは続く《
――見え透いた罠ナーノ。ですーが、これは試験! なら試験官として虎穴に突っ込んでやるノーネ!
「《
そして、デュエルの渦中にいるクロノスもまた、十代の一挙手一投足を見逃さぬように、あえて無謀に突っ込んで見せる。
さすれば《
「かかったな、先生! 《ユベル》が攻撃された時! 攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを与えるぜ!」
着弾するよりも、十代とユベルがアイコンタクトで息を合わせる方が早い。
「ユベル!!」
『ああ!』
「 『 ナイトメア・ペイン!! 」 』
すると、ユベルの足元から飛び出したツタが《
「そのまま受ける気はないノーネ! 墓地の罠カード《ダメージ・ダイエット》を除外して、効果ダメージを半減すルーノ!!」
しかし、その一撃はクロノスの前方に現れた透明な壁によって減衰され、半減。
クロノスLP:4000 → 3200
「へへっ、そう簡単には通しちゃくれないか」
『だとしても、十代にはこれ以上、指一本たりとも触れさせないさ』
そうして僅かながらの反撃に、手ごたえを感じていた十代たちだが、クロノスは彼らの想定の一歩先を行く。
「何を安心してるノーネ! 試験は此処からが本番デスーノ! 装備魔法《
「なっ!?」
『チッ、コイツ……!』
しかし、突如として《
「――くっ!? こんなに早くユベルを!!」
『でも甘いのは試験官の方さ! 行くよ、十代!!』
「ああ! 《ユベル》の更なる効果! 破壊されたユベルを進化させる!!」
だとしても、ユベルは倒れない。いや――倒れても、何度でも立ち上がる。
「――進化デスート!?」
「来いッ! ユベルの新たな力! 《ユベル-
そしてユベルの身体を覆った数多の黒い鱗が巨大な双頭の黒き竜の姿に変化していき、刺々しい爪を身体から伸ばし、心臓部から開いた巨大な一つ目がギロリとクロノスを見下ろした。
《ユベル-
星11 闇属性 悪魔族
攻 0 守 0
――お、おっかない見た目ナーノ。でもでーも、切り札を破壊されても直ぐに次を用意する……第一印象と違って中々手堅い戦術なノーネ。
やがて、ユベルの進化に気圧されながらも、試験官として毅然な態度で、そのままターンを終えたクロノス。
とはいえ、初見のイメージとかけ離れた十代のデュエルに、相手の底を計りかねていた。
十代LP:2000 手札3
モンスター
《ユベル-
魔法・罠
《補給部隊》×2
VS
クロノスLP:3200 手札1
モンスター
《
《
魔法・罠
伏せ×3
《
こうしてクロノスの初撃を何とか凌いだ十代が、相棒たるユベルの進化体と共に戦う光景を前に、ネオスは得も言われぬプレッシャーを感じ取る。
『あのカードから、凄い力を感じるな……』
『十代も懸命に己を磨いていたんだね!!』
「頼もしい限りですね」
――この会場にいる人間の中に、遊城 十代の変化へ反応を見せる者はいない……か。やはり、私のような異物は早々生じるものではないのか?
そうしてユベルから発せられる力に注目するネオスペーシアンの面々を余所に、神崎はひたすら情報集めに忙しかった。
「なら、頼むぜ、《
やがて次の十代のターンにて、赤と白のライダースーツを纏う炎の女ヒーローが、黄金のヘルムから黒の長髪を揺らして現れれば――
《
星3 炎属性 戦士族
攻1200 守800
「でも攻撃力が足りないノーネ!」
――来るーの? HEROの本領たるあのカードが!
「このターン発動した永続魔法《ウィルスメール》の効果でバーストレディはダイレクトアタック出来るぜ! 食らえ、バーストファイア!!」
クロノスの予想に反し、このターン新たに発動していた永続魔法の効果を得て、より猛る《
「――ひぎゃぁあぁぁあ!! 結構、
クロノスLP:3200 → 2000
こうして、コツコツダメージを重ねる形でバトルを終えた十代は、永続魔法《ウィルスメール》のデメリットにより、《
「ターンエンド! そして、この瞬間! 《ユベル-
『これで十代を邪魔するデカブツには消えて貰うよ!!』
だが、最後の最後でひときわ大きな花火こと破壊の奔流が《ユベル-
――なるほーど、あのカードで相手モンスターを効果破壊し、ガラガラーになった相手フィールドへ下級HEROたちで攻撃していくデッキ……デモ、デーモ。
そうしてモンスターたちは、破壊の奔流を前に膝をつき、今にも倒れんとしていたが――
――それでネタ切れの切れっ切れなーら、ドロップアウトボーイと呼ばねばならないノーネ!
思案していたクロノスが瞳を見開いた瞬間に、最後の力を振り絞った《
『くっ……!?』
「どうした、ユベル!!」
その思わぬ一撃によって《ユベル-
「フ~フフ~ン! 快進撃も此処までなノーネ! 永続罠《
「くらっしゃー・らん!?」
「このカードの効果により、1ターンに1度、地属性の機械族が破壊された時、フィールドのカード1枚を破壊すルーノ!! これでシニョールを守るパートナーもいなくなったノーネ!」
そうして決してただでは倒れぬクロノスの「古代の機械」軍団を前に、《ユベル-
「そいつはどうかな?」
「ヒョ?」
「《ユベル-
『まさかボクの力を此処まで見せることになるとはね……』
そう、ユベルの進化はもう一段階存在するのだから。
「――そっちも読み通りなノーネ!! カウンター罠《透破抜き》! 墓地で発動したモンスター効果を無効にして除外すルーノ!!」
「――なっ!?」
しかし、残念ながら此度はクロノスの元から吹き荒れた疾風を受けた《ユベル-
「進化するモンスターが相手ナーラ、次の進化先の警戒は、当然のことなノーネ!」
「くっ、すまねぇ、ユベル!!」
『構わないよ。こいつが上手だった――それだけの話さ』
《ユベル-
「でもモンスターがいないのは、先生のフィールドも同じだぜ!!」
「そんな甘々な考え、臍が茶を沸かすノーネ!!」
しかし、十代の仕切り直しだとの宣言は、宙より降り立ち大地を揺らす《
《
星8 地属性 機械族
攻3000 守3000
さらに、その隣には《
《
星4 地属性 機械族
攻1700 守1200
↓
攻1900
「なっ!? どうして、先生のフィールドに《
「相手によって破壊された《
そして戸惑う十代にクロノスから告げられるのは、《ユベル-
「さらーに、その効果にチェーンさせて先んじて発動した永続罠《
『あの《
――これが試験責任者の先生の実力……!
やがてワクワクを募らせる十代たちを余所に、《
更にサーチした《
十代LP:2000 手札2
モンスター
なし
魔法・罠
伏せ×2
《ウィルスメール》
《補給部隊》×2
VS
クロノスLP:2000 手札2
モンスター
《
《
魔法・罠
《
《
――これでシニョールは、ユベルという盾を失ったノーネ。此処からが試験の本番デスーノ!
「《
やがてカードをドローしたクロノスが次に繰り出した《
《
星4 地属性 機械族
攻1600 守 500
――窮地をどう凌ぐか見せて貰ウーノ。デスーガ…………この感覚。ワタクシのデュエリストとしての本能がデュエルのスタートから僅カーニ警鐘を鳴らし続けていルーノ。
だが、その後に魔法カード《貪欲な壺》で墓地の5体のモンスターをデッキに戻し、2枚ドローしたクロノスは動きを止めて少々悩んでいた。どうにも十代の実力の全容が未だに見えない。
なにせ、十代は今の今まで「HERO」の真の力を見せていないのだ。出し惜しみするタイプには見えないだけに、クロノスの懸念は募るばかりであろう。
しかし、此処でクロノスは自身の直感を信じて思い切る。
――ならーば!!
「魔法カード《
「先生のフェイバリットを2体も!?」
『少し拙いんじゃないかい、十代』
それは3000打点の大量展開――本来であれば受験生の然るべき実力を計った上で行使する「それ」を未だ全容を見せぬ相手に使う暴挙。
場合によっては生徒にいらぬ挫折を叩きつけることになりかねないことだけにデュエルの経過を採点していた響みどりが糾弾の声を飛ばすが――
「――クロノス教諭!!」
「シャラップ!! 来るノーネ!! ワタクシの《
響みどりの発言を封殺したクロノスの元に、2体の《
《
星8 地属性 機械族
攻3000 守3000
「――スッッッッッゲー!!!!」
そんな尻込みしかねない状況でも、悪い意味でざわつく会場を余所に十代は歓喜の声を轟かせていた。
超大型モンスターの揃い踏み――これで燃えぬデュエリストはいまい。
「ふふん、それ程でもないノーネ」
その十代のリアクションは、クロノスにとっても僥倖であった。やはり自分の直感を信じて良かった、と。変に委縮されれば、クロノスも大目玉を食らっていただろう。
「この3体の攻撃! どう凌ぐか見物なノーネ!! バトル!!」
「待って貰うぜ、先生!! 罠カード《一色即発》! 相手の数まで手札から特殊召喚する! 俺が呼ぶのはこいつだ!」
そして3体の《
「早速、出番だぜ、《ハネクリボー》!!」
『クリリー!』
十代の手札よりポンと音を立てて現れる天使の羽が背に見える茶毛の毛玉。
《ハネクリボー》 守備表示
星1 光属性 天使族
攻300 守200
「羽の生えた《クリボー》ゥンヌ? そのカードでどう防ぐつもりナーノ?」
しかし、クロノスが言外に示すようにステータスは低く、貫通効果を持つ《
だが、《ハネクリボー》には、こんな状況だからこそ発揮する力があるのだと十代は語る。
「へへっ、こいつは破壊され散った時! このターンの俺への戦闘ダメージを0にするのさ!」
『十代、それは無理だよ』
「忘れターノ? 《
「えっ? だから戦闘ダメージを0にする効果が――」
「貫通ダメージは、『墓地に送られる前』に発生すルーノ」
「……えっ?」
『クリィ?』
『だから新しいカードを試験前にデッキに加えるのは止そう――って、あれ程、言ったじゃないか』
しかし、残念ながら十代の主張はクロノスだけでなく、ユベルにすら否定された。残念ながら今回は状況が悪いと言わざるを得ない。
「…………どうやらシニョールは、ドロップアウトボーイだったようなノーネ!! アルティメット・パウンドゥ!!」
「――うゎぁぁああぁあ!!」
やがて3体の《
十代LP:2000
「なんでスート!?」
だが、十代のライフは未だ健在。
『全く、キミは何時もヒヤヒヤさせるね』
「危なかったぜ……間一髪!」
「なにが起きターノ!?」
「最後のリバースカード――罠カード《サンダー・ブレイク》を発動したのさ!」
そんな不可解な状況に大仰するクロノスに十代が1枚のリバースカードの正体を明かせば、クロノスの瞳に納得の色が浮かぶ。
「それーは、手札を1枚捨てることで、フィールドのカードを破壊するカード!? ……なるホード、咄嗟にそのカードで《ハネクリボー》を破壊した訳でスーネ?」
「そうさ! 《ハネクリボー》のお陰で俺へのダメージは0! さぁ、どうする、先生!!」
そう、《ハネクリボー》の効果は表側の状態で墓地に送られてさえすれば問題なく発動する。
しかし効果を勘違いして覚える大ポカを見事にカバーして見せた手腕を前に、クロノスは一つばかり問わねばならなかった。
――あの咄嗟の状況で、即座に戦術を組み直すトーハ……デモ逆に疑問が出ルーノ。
「シニョール十代ーィ、その《ハネクリボー》――いったい何時、手に入れたノーネ?」
「へへっ、実はさ! 此処に来る時に会ったスゲェ人に貰ったんだ!」
――スゲェ人が誰かは知りませーんが、合点はいっターノ。手にしたばかりナーラ、効果を勘違いしていても不思議じゃないノーネ。
それが、十代が「何故《ハネクリボー》の効果を勘違いしていたか」を明かすもの。試験官として明確にしておかねばならない部分である。
――ふぅむ、流石にこの状況で受験生相手に、このカードを使う気もなかったケード……ブラフへの対処を見る為ニーモ、伏せるだけ伏せとクーノ。
そうして、凡その解を得たクロノスは、《ハネクリボー》が破壊されたことで2枚の永続魔法《補給部隊》にて2枚ドローする十代を余所に僅かに思案を見せるも、カードを1枚セットしてターンを終えた。
十代LP:2000 手札2
モンスター
なし
魔法・罠
《ウィルスメール》
《補給部隊》×2
VS
クロノスLP:2000 手札0
モンスター
《
魔法・罠
伏せ×1
《
かくして、フィールドにモンスターもなく、セットカードもない十代がクロノスの3体の《
「あの子、可哀そう。クロノスのお気にめさなかったのね」
どうみても「試験の範囲を逸脱した制裁染みたデュエル」――それが明日香の抱いた感想。エリート意識の強いとの噂が多いクロノスは、十代を入学させる気がないのだろう、と。
「アスリン――クロノス教諭は、そんなことする先生じゃないよ」
「アスリンは止めて」
だが、そんな明日香へウィンクしながらクロノスを弁護する吹雪だが、残念ながら呼び方のチョイスをミスったせいで、失敗している模様。
「早過ぎる……」
「どうしたの、亮?」
「――ボクとの対応の差!?」
だが、思わず零れた亮の呟きにしっかり反応する明日香の姿に、謎の敗北感を覚える吹雪だったが――
「そうだね。クロノス教諭が様子見を殆ど止めた。まだ2回目のターンなのに」
『それだけクロノス教諭が彼の実力を買っている……ということなのだろうか?』
残りの面々こと藤原とオネストは、明日香の味方らしく解説に徹していた為、フォローされることはなかった。
やはり未だ
そんな具合で、色んな注目を浴びる十代だが、旗色は決してよろしくない。
「俺のターンだ!」
『長期戦は不利だよ、十代』
――勿論、分かってるぜ、ユベル!
しかし、絶望的な状況でも、楽し気にカードを引いた十代は――
「魔法カード《闇の量産工場》により、墓地に眠る2体のHEROたちが不屈の闘志で駆け付ける! そして今こそ使うぜ!! 魔法カード《融合》!!」
手札に《
そして引き当てたHEROの真骨頂たる《融合》のカードを使えば、その背後にて渦が逆巻いた。
「今こそ真の姿を見せてくれ! 手札のフェザーマンとバーストレディを融合!! 来い、マイフェイバリットヒーロー!!」
さすれば、これまで散っていった翼をもつ風のヒーローと、炎を操る女ヒーローの力が集い、新たな力が渦の中で脈動。
「――フレイムウィングマン!!」
そして降り立つのは十代のフェイバリットカードたる左片翼を広げ、右腕から竜の顎を覗かせる緑の肌を持つ異形のヒーロー。
《
星6 風属性 戦士族
攻2100 守1200
「ようやく来たノーネ! デスーガ、攻撃力2100ではワタクシの《
「じゃあ先生に教えてやるぜ! ヒーローにはヒーローに相応しい――戦う舞台ってもんがあるんだ!」
だがパワー不足をクロノスに指摘されようとも、十代はデュエルディスクを持ち上げ、最後の1枚の手札のカードを差し込みながら返答する。
「フィールド魔法! スカイスクレイパー!!」
途端に、十代とクロノスの周囲の地面から数多のビル群がせり上がり、戦いの舞台は夜のビル街――摩天楼こと《摩天楼 -スカイスクレイパ-》へと移行する。
やがて、ビル群の只中に立つ3体の《
「さぁ、舞台は整った! 行け、フレイムウィングマン! 《
「しゃらくさいノーネ! 返り討ちにして上げなサーイ! 《
十代の声を合図にタワー天辺から急降下する《
「ヒーローは必ず勝つ! スカイスクレイパーの効果は、ヒーローが己より強い相手と戦う時! 攻撃力を1000ポイントアップさせる、フィールド魔法!」
しかし《
2体目の《
《フレイムウィングマン》
攻2100 → 攻3100
「食らえ、スカイスクレイパー・シュート!!」
伏せカードをチラと見たクロノスの隣に陣取る3体目の《
炎に呑まれ爆散した《
クロノスLP:2000 → 1900
「ノン!? デスーガ、ワタクシのライフは健在! 《
だが、倒れた3体目の《
「そいつはどうかな!」
かと思いきや、《
「フレイムウィングマンの効果により、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを先に受けて貰うぜ!」
「――Oh!? マンマミーアァァアアァッ!?」
その炎の球体がクロノスに向けて放たれる方が少しばかり早かった。
クロノスLP:1900 → 0
「――ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、先生! なっ!」
『はいはい、一緒にやれば良いんだろ。ガッチャ』
こうして、本日の実技入試は、十代とユベルが仲良く二本指を伸ばしてクロノスへ向け、健闘を称える光景を最後に終わりを告げる。
「ちょっと面白いんじゃない、あの子」
そんな十代の存在が、観客席の明日香の興味を掴み、
「丁度良い土産話ができたね、亮」
「どうだろうな。それで彼は――優介と同じなのか?」
「うーん、多分だけど」
『話している様子は見えるけど、無意識の可能性もあるかもしれない』
フォースたちの意識を惹きつけ、
「いいぞー! 60番!」
思わぬ逆転劇に翔の心を掴み、
――よきライバルになれるかもしれないな、1番くん。
三沢の闘志に火をつけ、
『やったよ、神崎! 十代が勝った!!』
「良かったですね」
『手加減されていた試験とはいえ、大健闘だったな!』
アクア・ドルフィンやネオスたちも満足げである。
「……試験であることに救われたか」
ただ、観客席にて一人で座る――オベリスクブルーの青の制服に身を包む「
今日の最強カードは、速攻魔法《リミッター解除》!
機械族の攻撃力を一時的に倍にする強力なカードだ!