マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
色んな光属性たちが卒業しました。デュワッ!





第244話 赤・青・黄色

 

 

 アカデミアに到着した新入生こと十代は、校長先生のありがたいお話を右から左へフライアウェイした後、三沢を引き連れ学園探検に赴いていた。

 

 最初のターゲットは一際大きな本校舎。生徒たちが様々な分野を学ぶだけあって、各種施設が目白押しである。

 

 そんな十代が早速目を付けたのは、まるでプロ選手の舞台である巨大なドームの内部を再現した大きなデュエル場。

 

「うぉー! なにここ! プロの会場みたいじゃん!? 観客席まである! なぁ、三沢! 軽くデュエルしていこうぜ!」

 

 周囲を取り囲む観客席から中央のデュエルスペースが注目の的となる場を前に、我慢できずにデッキを取り出し三沢にデュエルを申し込むが――

 

「望むところ――と言いたいが、上の紋章を見ろ」

 

「へっ? オベリスクの紋章があるけど……」

 

「此処のデュエルフィールドは、オベリスクブルー専用の場所なんだ。俺たちラーイエローは原則使用できない」

 

 三沢が指差した会場の一角にあるゲートにある『オベリスクの巨神兵』の頭部をモチーフにした紋章の存在が、彼らのデュエルを妨げた。

 

 だが、当の十代はいまいちよく分かっていないのか首をかしげる姿にユベルは注釈を交える。

 

「……?」

 

『十代、この学園は下から赤、黄、青の順で格付けされて扱いが違うんだ。パンフレットにも載っていただろう?』

 

「あっ、制服の色って、そういうことだったのか……」

 

「その通り」

 

 そんな中、第三者の声が響いた。それに対し、十代とユベル、そして三沢が声の発生源を見上げれば、観客席の影からゆっくりと降りてくる青い制服を着た跳ねた黒髪の男子生徒が一人。

 

「おっ、青い制服」

 

万丈目(まんじょうめ) (じゅん)……」

 

「――知ってるのか、三沢!?」

 

 その人物の正体を因縁深そうに三沢は呟くが、「誰!?」とばかりに振り返った十代の反応に困り顔で説明に移る。

 

「……むしろキミが知らないことに驚きだよ。俺たちと同年代で頭一つ抜けているデュエリストだ。大会で1度くらいは当たらなかったか?」

 

「いや、俺、大会とか、あんま出ないし……」

 

「そう……か。1年から青の制服に袖を通せるのは、アカデミア中等部からのトップエリートか、俺たちが受けた試験で破格の実力を見せた場合だけなんだ――つまり凄い強い」

 

「へぇー、あいつスゲェ強いのか……」

 

『ボクの十代を青にしないなんて、見る目のない試験官たちだね』

 

 やがて三沢からの分かり易い説明に納得を示す十代。しかしユベルは、愛する十代が「イエローが妥当」と侮られた事実に苛立ち気な視線を万丈目に向ける中、いたずらを思いついたように十代の耳元でささやいて見せた。

 

『丁度良いじゃないか。アイツ青い制服なんだからオベリスクブルーだろ? アイツとデュエルすれば、此処が使えるんじゃないかな?』

 

「!! ナイスアイデアだぜ! 俺、遊城 十代! なぁ、万丈目! 俺とデュエルしないか!」

 

「……確かに本気ではなかったとはいえ、クロノス教諭を倒したお前に興味はある」

 

「なら!!」

 

 そうして提案されたデュエルのお誘いに、万丈目が興味深そうな反応を見せる姿に十代もデュエルディスクを準備するが――

 

「だが、時間が悪い」

 

「時間?」

 

「そろそろ歓迎会が始まる時刻だ。先輩方が俺たちを祝ってくださる席に遅れる訳にはいかない」

 

 万丈目から常識的な形で断りが入れられる。先に予定がある以上、其方を優先するのは当然のこと。

 

「それは十代を()()()()()()()()()との判断か?」

 

「好きに受け取れ」

 

「――貴方たち、なにしてるの!?」

 

 しかし三沢からの挑発染みた問いを流す万丈目だったが、この場に再び第三者――4人目だが――であるブルー女子の制服の金の長髪の女子生徒のいさめるような声が響いた。

 

「……天上院(てんじょういん)くんか。校則違反しそうな新入りへ、注意ついでに挨拶しただけだとも」

 

 そんな女子生徒、天上院(てんじょういん) 明日香(あすか)を前に、万丈目は視線を切りながら短く現状を伝え、足早に踵を返してブルー寮へと歩を進める。

 

「そろそろ時間だ。先に失礼させて貰おう」

 

「待って」

 

「……他に何か用かな?」

 

「ジュンコとももえを見なかった? ブルー女子寮も探したんだけど、どうにも見かけなくって……」

 

「なんだ、そんなことか……ブルー女子寮に『いない』のなら、『落ちた』と考えるのが自然だろう。俺の知り合いも殆どがイエローやレッドに落ちていた」

 

 だが、呼び止められた明日香の問いかけに推察も織り交ぜつつ万丈目は答えた。己も一度は疑問に思った内容だと。

 

「アカデミアが様変わりしたとの噂はどうやら本当だったようだね――お互い、彼らの二の舞にならぬよう気を付けようじゃないか」

 

 かくして、そんな去り際の言葉と共に万丈目が完全に立ち去った中、万丈目と明日香のやり取りに、気後れしたのか沈黙が続いていたが――

 

『十代、歓迎会間に合わなくなるよ』

 

「あっ、やべっ!? 急ぐぞ、三沢!!」

 

「ああ!! それと――確か、天上院くんだったね! キミも早く向かった方が良い!」

 

「じゃぁな~! 天上院~!」

 

 ユベルの声に、十代と三沢は慌てた様子でイエロー寮に向けて駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時間と舞台も少々変わり、コテージ風な外観のイエロー寮にて、イエロー生の新入生に向けた歓迎会が催されていた。

 

「エビフライカレー旨ェー!」

 

「十代、寮長先生のお話が――」

 

「はは、私は堅苦しい挨拶は苦手なので、皆さん各々楽しんでくださいな」

 

 その最中、好物のエビフライつきのカレーライスをかっこむ十代を三沢がいさめるが、白髪交じりのおかっぱ髪のちょび髭おじさんことイエロー寮の寮長である「樺山(かばやま)」の無礼講との声に、他のイエロー生たちも肩の力が抜けていく。

 

 かくして、イエロー寮がアカデミアの中でもっとも生徒が多いこともあいまって、あっという間にお祭り騒ぎの様相をかもし出した。

 

「お前、遊城 十代だろ? 噂になってるぜ、クロノス先生を倒したって!」

 

「へへっ、照れるな」

 

「僕は小原(こはら) 洋司(ようじ)――よろしく」

 

「ぼ、僕は大原(おおはら) (すすむ)

 

 そんな中、新入生話題の人物である十代に声をかけたのは、緑髪の小柄な青年、小原(こはら) 洋司(ようじ)と、

 

 オドオドした黒の角刈りの大男、大原(おおはら) (すすむ)の二人。

 

 そうして、早速訪れた新しい出会いに話が弾めば――

 

「へぇー、大原ってゲームデザイナー志望なんだ!」

 

「ま、まだまだだよ、僕なんか。ブルーに上がれるくらいじゃないとダメだから、もっと頑張らないと……」

 

「お前は、また直ぐにそうやって――」

 

「そうだぜ! 俺なんて将来の夢すら何にも決まってないからな!」

 

『正義のヒーローになるんじゃなかったのかい? まぁ、職業ではないだろうけど』

 

 互いの将来の夢について語り合ったり、

 

神楽坂(かぐらざか)は理論派なのか――実は、俺もそうなんだ。同じ理論派として、ぜひ話を聞かせてくれないか?」

 

 はたまた、その隣で三沢が逆さ箒ヘアーの青年、神楽坂(かぐらざか)とデュエル理論について議論したり、

 

「新入生たち! オカルトに興味はないかな!? 興味があれば我らオカルトブラザーズの元まで!!」

 

『……こいつらに、ボクのことは見えていないか。放っておいて問題ないね』

 

 そんな新入生たちに、2年のロン毛眼鏡の高寺、小柄な向田、ぽっちゃり眼鏡の井坂が自分たちの部活勧誘をして回っていたり、

 

「別次元に移住したから、恐竜が絶滅していないなんて初めて聞きました……物知りなんですね、海野(うみの)さん」

 

「当然ですわ、宇佐美(うさみ)さん! この程度、上流階級のわたくしにとって教養に過ぎませんことよ!」

 

――わたくしはイエローでは終わりませんわ! 今に見ていらっしゃい!!

 

 イエロー女子の制服の一団の中のショートボブの青髪宇佐美(うさみ) 彰子(しょうこ)と、

 

 白いリボンのついたカチューシャをしたウェーブがかった青の長髪海野(うみの) 幸子(ゆきこ)が趣味をきっかけに話題に花開かせたり、

 

『……十代の悪い虫になりそうなのは、いなさそうか』

 

 そんな具合で、各々和気あいあいとするイエロー生徒たちの輪に入った十代をユベルは見回りがてらに眺めつつ、「早く二人きりになりたい」と考えながらも、満足気に小さく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、お城もかくやな建物――ブルー男子寮にて、一流ホテルのロビーのような広々とした空間にビュッフェ形式で並ぶ料理の数々を小皿に盛ったブルー女子の制服を着たレイン恵は、手を止めつつ思わず呟いた。

 

「むぐむぐ……ブルー生徒の減少……何故?」

 

 そう、歓迎会が開始され、三学年合わせた全てのブルー生徒が揃っている筈だというのに生徒の数は酷く少ない。

 

 その総数の少なさゆえか男女混合で行われている程だ。

 

 だが、突如謎の鐘の音が響けば、2、3年合わせても少数なブルー女子たちの注目は、上階部分の扉が開いた先に向けられる。そこから現れるのは――

 

「やぁ、みんな――キミの瞳に何が見える?」

 

 みんなのアイドル、フブキングこと天上院 吹雪が、お約束のポーズで指を空へと向けていた。その両隣には、ユニットよろしく並ぶ亮と藤原の姿も見える。

 

「…………シャンデリア?」

 

「 「 「 せーの! 」 」 」

 

 やがて天井を見上げて、見当違いの答えを漏らすレインを余所に、ブルー女子の生徒たちが息を合わせて――

 

「 「 「 天 」 」 」

 

「――JOIN(ジョイン)!!」

 

「きゃ~! 吹雪様~!」

 

「こっち向いて~!」

 

「亮様~!!」

 

 吹雪こと天JOINのお約束の台詞のやり取りがなされたと共にガッツポーズでもとるような吹雪の所作に黄色い歓声が送られ、宮殿よろしくな階段から自分たちの元に降りてくる吹雪たちの元へ、おっかけよろしくブルー女子たちが駆け寄っていた。

 

 まるでアイドルのコンサートである。

 

 

 こうして、ブルー女子の激減により、ブルー男子寮の歓迎会に組み込まれた結果、みんなのアイドル天上院 吹雪ことフブキングのキラキラ笑顔を間近に拝めることになったブルー女子が胸を打たれる中、別口から会場入りした小日向は、げんなりした表情を向けていた。

 

 同じフォースの立場ゆえに、ぶっ続けであのテンションに晒され続ける彼女からすれば、きっと頭痛をこらえるように兄を見やる明日香のような心境なのだろう。

 

「小日向さん、ちょっと良いかしら?」

 

「あっ、良くないです」

 

 ゆえに好物の一つでも食べて心を落ち着かせようとした小日向だったが、届いた声に嫌な予感を感じて即断りを入れた。

 

 だが、件の相手――看護教諭であり、オベリスクブルー女子寮の寮長でもある赤茶な髪を後ろで留め、ギザギザナイフな形状の右前髪を伸ばす鮎川(あゆかわ) 恵美(えみ)は、重ねて願いでる。

 

「もう、そんなこと言わずに! 私はイエロー女子の様子も見に行かなきゃならないの。だから、今年も新入生のブルー女子は少ないし、こっちは貴方に任せたいんだけど……駄目?」

 

 そうして両手を合わせて茶目っ気タップリなウィンクしながら、小日向にこの場を託そうとする鮎川。

 

 なにせ旧体制では「女子は一律でブルー」とされる程度に数が少ない。それが新体制の苛烈な競争性にさらされれば、先も語ったように「ブルー女子」の数は前述の比ではない程の少数である。

 

 さらに「その中の1年生」となれば、片手の数で足りてしまうのだ。

 

 なれば、余裕のある人員が大変な場のフォローを任されるのも自明の理。

 

「ワタシニハ、ニガオモイデスヨー」

 

「そんな露骨に嫌な顔しないで!?」

 

 とはいえ、面倒臭がりな小日向は、棒読みで己の力不足を嘆いてみせる。

 

「ハァ……なら2年の胡蝶に――」

 

「駄目よ。折角の恋のアタックの邪魔しちゃ――だから、ね? お願い出来ないかしら?」

 

 やがて亮へと熱烈アプローチしている長髪に耳元で三つ編みを編んだ髪型のブルー女子「胡蝶(こちょう) (らん)」に押し付け――もとい託そうとするが、ブルーに上がりようやく憧れのカイザー亮に会えた事実を知る鮎川は首を振る。

 

「あっ、そろそろ行かなくちゃ! じゃぁ、任せたわよ~!」

 

 そうして、鮎川に4人しかいない1年生ブルー女子を若干強引に任された小日向は、件の4名の元に足を運び――

 

「……フォース在籍の3年、『小日向(こひなた) 星華(せいか)』――って言っても、貴方たちで勝手によろしくしておいて。面倒だから問題だけは起こさないでよ」

 

 些か投げやりながらも対応。とはいえ、新入生間に何か問題があった際に対処するだけだ。何もなければ暇でいられる。

 

「様変わりした学園のことで、質問があるなら答えてあげるから。以上。はい、解散。各々好きにして」

 

「ねぇ、貴方――アタシとアツいデュエルをしてくださらない?」

 

 しかし、そんな小日向の甘い期待は裏切られ、紫がかった桃色のツインテールのブルー女子、藤原(ふじわら) 雪乃(ゆきの)が甘ったるい口調でデュエルを提案。

 

「……あー、優介が言ってた例の遠過ぎる親戚か。うん、嫌」

 

「あらぁ? 『四帝』の一角ともあろう貴方が勝負を前に背を向けて逃げるの?」

 

「一人許すと他も群がるから面倒なのよ。だから、私とデュエルしたいなら『フォースと戦わせて問題ない』って試験で教師陣に示して――私は私の為以外に時間、使いたくないから。はい、話終わり」

 

 だが、「フォースとのデュエル」は小日向が軽々しく判断していいものではない為、雪乃に幾ら挑発されようが「否」しか返せない。仕事を増やしたくないだけでは断じてないのだ。

 

 そうしてパンと手を叩いて要請を打ち切った小日向へ、雪乃から物足りない視線が向けられる中、ふとレインは食事の手を止めて呟いた。

 

「……むぐ……『四帝』……? 『三天才』ではなく……?」

 

 原作の歴史において「四帝」なる名称は存在しない。あったのは亮・吹雪・藤原の3人をまとめた「三天才」のみだ。

 

「それは昔の通名ですね――あっ、私は(はら) 麗華(れいか)と言います」

 

 そんな悩めるレインに緑髪のボブカットの眼鏡のブルー女子、(はら) 麗華(れいか)が委員長っぽいハキハキした口調で自己紹介しつつ解説。

 

「……レイン恵……詳細を」

 

「まずは言わずと知れたサイバー流の使い手である『皇帝(こうてい)』――丸藤 亮さん」

 

 やがて、2、3年のブルー女子の渦中に原 麗華が手を向ければ、学園最強と名高い亮が、胡蝶とデュエルについて何やら語り合っており、

 

「此方の天上院 明日香さんのお兄さんでもあり、ブリーザード・キングことフブキングを自称する皆さんのアイドルこと『牙帝(がてい)』――天上院 吹雪さん」

 

 明日香の紹介を交えつつ、亮の近くで吹雪がサインやら握手やらのファンサービスに精を出しており、

 

「雪乃さんの遠い親戚でもある知識量は随一の天才と謳われる『剣帝(けんてい)』――藤原 優介さん」

 

 そんな吹雪のマネージャー感があふれる立ち位置で場が混乱せぬように立ち回る藤原の姿が映り、

 

「そして、此方のフォース制度が制定されていらい唯一の紅一点である『鱗帝(りんてい)』――小日向 星華さんです」

 

 最後に、いつの間にやらソファに座って軽食を再開していた小日向を紹介した後、原 麗華は解説の締めくくりを語る。

 

「小日向さんが頭角を現されたのが高等部からだったので、他の3人の方々のことを中等部時代に『三天才』と呼ばれていました。高等部では『四帝』が主流なようです」

 

「情報提供……感謝……」

 

「お気になさらず。私たちは共に勉学を励む学友になるのですから。其方の――天上院 明日香さんでしたよね。中等部では縁がありませんでしたが、同じブルー女子として、今後はよろしくお願いいたします」

 

「明日香で良いわ。よろしくね」

 

「相変わらずカタいわね、麗華」

 

「雪乃さんがおおらか過ぎるだけだと思います」

 

「……上げる」

 

 こうして、旧知の間柄と思しき雪乃と原 麗華に、友達の証とばかりに料理を配るレイン。

 

 そんなクラスメイトが3人しかいない現状に、明日香も新しい縁を受け入れ始める中、それらの様子をチラと眺めていた小日向は、問題ない交流が始まった事実に思考を余所に回し始める。

 

――今年のブルー女子は4人って、前年度と大して変わらないじゃない。中等部の改革どうなってんだか……まぁ、私が楽できるから良いや。

 

 それは、ある種の学園での立ち位置を気にしたものではあったが、「一介の生徒がどうこうする問題でもないか」とサラッと流された。

 

「早速で申し訳ありませんが、小日向先輩! 質問があるのですが!!」

 

「あー、はいはい。大声出さなくても聞こえるから」

 

――寮でのことは胡蝶に押し付けとこ。あの子も来年3年なんだし。

 

 やがて響いた原 麗華が己を呼ぶ声に、小日向は皿を置きつつソファから腰を上げる。

 

 3年生として、己が学園に何を残せるのか――そんな一抹の未来を考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で場所を変え、更には時間もグンと戻り――

 

 アカデミア行きの船にて、船室のタコ部屋にすし詰めにされて「到着まで待機」と缶詰にされた赤い制服――オシリスレッドの新入生、丸藤(まるふじ) (しょう)は、アカデミアについて早々大きくため息を吐いた。

 

「はぁ……ぼろっちい寮っスね~」

 

 なにせ、荷物片手に翔が訪れたオシリスレッドにあてがわれた寮は、木造の二階建てのボロアパートにも見える何とも寂れたもの。

 

 学園内で階級によって待遇差を設けていることは知ってはいたものの、こうもボロ屋では気分も滅入る。それゆえに足取りが重くなったせいか、翔が最後だ。

 

 他のレッド生は「少しでも良い部屋を」と競うように先に行ってしまった。ゆえに「余り物には福がある」と信じて「部屋は全て1階」との説明から、暫く世話になる寮の扉をもう一度大きなため息をこぼしながら開けた。

 

「はぁ、入学早々“これ”じゃあ、先が思いやられるっス」

 

「来たか、新入生!! 俺はレッド2年の大山(たいざん) (たいら)! 今日は、この寮の説明――」

 

「ニ゛ャ゛ッ゛ー゛!!」

 

 その瞬間に翔の視界に映った、はち切れんばかりのマッスルポージング男と、ロードランナーを走る薄茶毛の猫がなんか喋ってたので、翔は即座に扉を閉めた。

 

――へ、変な人いるー!? 後、猫がロードランナー走ってた!? なんで!?

 

 翔の脳内は混乱の最中にあった。

 

 自室となる筈の扉を開けば、だだっ広いだけの空間が広がり、そこに伸びっぱなしで放置したような長髪を持つ半裸の筋肉男がいれば、戸惑いもしよう。

 

 ちなみに猫の名前は「ファラオ」である。ぜい肉はない。

 

「ど、どうしよう、寮長さんに言った方が良いのかな!? でも、2階は『食堂など』って話で、他は1階の大部屋一つだったし、一体どうすれば――」

 

「取り敢えず、入ると良い!! 他の新入生も待っているぞ!!」

 

「――うわぁー! 人攫いー!!」

 

 だが、扉の前でゴチャゴチャ悩んでいた翔は、別の扉から出て来たマッスル男こと大山(たいざん)に小脇に抱えられ、恐らく同じ道を辿っていたのであろう他のレッド生の元に並べられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は、オベリスクブルー女子寮の内部に設置された「オシリスレッド女子寮(エリア)」へと移る。多くの赤い制服を着た女子生徒たちに諸々の説明をしていた黒のロングヘアーの女教師こと響みどりだったが――

 

 左右対称に分け広げた茶髪を肩口まで伸ばす1年レッド女子枕田(まくらだ) ジュンコは、現実を拒否するように叫ぶ。

 

「――なんなんですか、ここ!」

 

「大部屋です。新体制からブルー女子も色分けされるようになったので、寮のランクに格差が発生しました」

 

「まさか私たち、みんな此処でくらすんですか!?」

 

「そうです。消灯時刻には気を付けてくださいね」

 

 やがてジュンコに響みどりから無情な現実が叩きつけられる。

 

 レッド女子寮――それは、大部屋に全てのレッド女子を叩きこむ荒業が光る場。

 

 防犯的な側面も考え、ブルー女子寮の豪勢な建物内部に、レッド女子寮を設置した感じだ。むろん、イエロー女子寮も完備されており、内容は男子のイエロー寮と似た状態である。

 

 豪勢なブルー女子寮内部にあるだけ、レッド男子寮より遥かにマシなのだが、ジュンコたちは納得できまい。

 

「プライベートエリアは!!」

 

「1人1つ仕切りを用意しました。他の子のを取っちゃ駄目ですよ」

 

「冗談……でしょ……」

 

「信じられませんわ!?」

 

 プライベートもへったくれもない空間に文句を入れるが、返って来た返答に言葉を失うほかない。

 

 ジュンコの友人の後ろでまとめた長い黒髪が跳ねる「浜口(はまぐち) ももえ」もめまいをこらえるように頭を押さえるが、現実は変わらない。なお、レッド男子寮には“これ(仕切り板)”すらない。

 

「お風呂は!」

 

「共用です。レッド用の浴室は混雑が想定されるので、順番で揉めないように――規定時間にも注意してください」

 

「お手洗いは!?」

 

「共用です。掃除は当番制です」

 

 多くのレッド女子の意見を代弁するようなジュンコとももえの声が響くが、全ての返答が――

 

 無情! 圧倒的、無情!

 

 この地獄から抜け出す方法はただ一つ! デュエル! デュエルで上の階級(ラー・イエロー)を勝ち取るのみ!!

 

「抗議します!!」

 

「ご自由に。ただ、そろそろ歓迎会の時刻なので移動の準備を」

 

 しかし、第ニの道を選択したジュンコに他のレッド女子も迎合する中、響みどりは慣れた様子で次の予定を先に済ませる旨を伝えた。

 

 1年前もこんな感じだったであろうことが容易に想像できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてレッド女子たちを引き連れた響みどりが訪れたのはレッド寮――ではなく、レッド生たち用の教室。男女全てのレッド生が集められた空間にて教壇に立つのは――

 

「オシリスレッドにようこそ。私はレッド男子寮の寮長『佐藤 浩二』――仕事は来年までにレッド生を0にすることです」

 

「私はブルー女子寮内部にある女子レッドスペース――もとい女子レッド寮の担当『響 みどり』です。イエロー寮のスペースも兼業していますが、遠慮せず色々聞いて貰って大丈夫ですよ」

 

 ウェーブがかったロン毛の眼鏡の男、「佐藤(さとう) 浩二(こうじ)」と、此処までレッド女子の案内を務めた響みどり。

 

「早速、歓迎会――など貴方たちには不要なので、授業を始めます」

 

「よろしくお願いしますッ!!」

 

「唯一のレッド2年生である大山くんは此方を解いておいてください。他の皆さんは教科書の――」

 

 やがて佐藤の声を合図に授業が始まり、無駄に良い返事をした大山にプリントが手渡されるが――

 

「待ってください!」

 

「おや、どうしましたか、取巻くん? 教科書を忘れてしまったのですか?」

 

 此処でレッド生の1人、もじゃ毛に眼鏡の青年「取巻(とりまき) 太陽(たいよう)」が待ったをかけた。なにせ、彼は中等部ではオベリスクブルーだった男――万丈目の知り合いをやっていた己が「オシリスレッド」など認められる筈がない。

 

「僕らがレッドなんて納得できません!!」

 

「そうですわ! わたくしたちがレッドなんて、何かの間違いに違いありませんの!!」

 

「そうよ、そうよ!!」

 

 そうして席を立った取巻の声に、ももえとジュンコを含めたレッド生徒たちが、がなりを上げるが――

 

「……恒例行事になりつつありますね」

 

「では、貴方がたが如何にデュエリストとして未熟なのかを解説していきたいと思います。そして、その説明を聞いた上で再試験を望むものは特例で許可します」

 

「本当ですの!?」

 

 デジャヴを感じる響みどりを余所に、佐藤からアッサリと救済案が提示された。思わず食いつくももえ。

 

「ええ、本当です。ただ、その再試験で落第点だった場合、即退学とします」

 

「は、はぁっ!? ふざけんな!!」

 

「どうしてでしょう? 貴方たちは『自分はレッド以上の実力を有している』と自負した上で再試験を望んだのでしょう? ならば、何も問題は無い筈です――なにせ『落第点など取る筈がない』のですから」

 

 しかし、生じるあまりのリスクに抗議する取巻だが、佐藤からすれば「ノーリスクである筈」の提案である。

 

「佐藤教諭ッ! 解き終わりましたッ!!」

 

「流石ですね、大山くん。此方は少し長くなりそうなので、響先生――お任せしても?」

 

「構いませんけど…………はい、確認しました。次は此方を」

 

「はいッッッ!!」

 

――隣で凄い声量っス……

 

 やがて、完全に一人、別の世界に生きている大山(たいざん)の姿に、些か引き気味の翔が内心で呟く中、佐藤の救済案がスタートされれば――

 

「では『我こそは』との方は挙手をお願いします」

 

「はい! お願い致しますわ!!」

 

――明日香様の元へ一番乗りですことよ!!

 

「くっ、出遅れた!!」

 

「なら浜口さんの階級決めの際の実技試験のデュエルについてです」

 

 一番乗りの切符を得て立ち上がったももえは、一気にオベリスクブルーにまで上り詰める心意気だ。やがて、佐藤の問いかけに記憶を巡らせる中――

 

「《レスキュー・キャット》を守備表示で蘇生し、ターンを終えていましたね――何故ですか?」

 

「そんなの決まってますわ! 守備表示なら戦闘ダメージが発生しませんもの!!」

 

「質問の仕方が悪かったようですね。相手のフィールドに残った唯一のカードである攻撃力1500だった《レジェンド・デビル》を放置してまで守りを固めた意図は?」

 

 迷いなく自身タップリで返答したももえに、佐藤は己の不備を謝罪しながら再度問う。

 

「……? 攻撃力が足りないのですから、守備表示に――」

 

「失礼。まだ難しかったようですね」

 

 その意図を測れず首を傾げて同じ返答を返したももえに、佐藤は再度「己の不備」を謝罪し、問い方を変えた。

 

「何故、《レスキュー・キャット》の効果を使用しなかったのですか? それとも貴方のデッキは攻撃力1500のモンスターが召喚された段階で守りを固めるしか成す術がないデッキなのですか?」

 

「……えっ?」

 

「もう少し踏み込みましょうか。《レスキュー・キャット》はデッキから好きなレベル3以下の獣族を2体呼ぶことが出来る対応力の高い効果を持っています。呼び出せる獣族がデッキにいなかった――となれば、デッキ構築の段階で問題があったと言うことになるでしょう」

 

 このやり取りをご覧の皆様も、そろそろ「この子(浜口 ももえ)、馬鹿なのか?」――そう思いたくなるだろう。

 

 だが、彼女たちは基本「デュエルに本気ではない」のだ。

 

 なにもしなくても、最上位のオベリスクブルーの組み分けがなされ、

 

 なにもしなくても、進級にさして問題はなく、

 

 なにもしなくても、問題があった際は補習を受ければ済む。

 

 そうして、エスカレーター式に上がっていった現在がこの有様である。

 

 デュエルが当たり前の世界では、当たり前すぎて学びの意欲のハードルが一段ばかり高いのだ。

 

 なにせ、自分で理解せずとも「デュエルディスク」が全てオートで進行してくれるのだから。負けても進級に何一つ問題がないとなれば、学ぶ意欲も消えよう。

 

 こんなザマでは、原作での一件のようにプロから「キミたちのデュエルは花嫁修業」と侮られて当然だ。

 

「浜口さん――再試験をお受けになりますか?」

 

「ぇ、えっと、その……」

 

「私はどちらでも構いません。『昇級』でも『退学』でも」

 

 ようやく己の現状を理解したももえが言葉を濁す中、佐藤は淡々と語る。佐藤の仕事はただ一つ。レッド生を次のステップに進ませること。

 

「――1年後にレッド寮が空になれば良いのですから」

 

 それは学内への道に限った話ではない。明らかに見込みがないものへ、去る道を諭すことも時に必要だ。

 

「で、でも、そこに、に、二年生のお方が……」

 

「彼はやむを得ない事情により進級試験に参加できなかった為、例外的にレッドに在籍しています――まぁ、今月の試験・実技で落第点だった場合は『退学』ですが」

 

 やがて、唯一のレッド2年生の大山(たいざん)を縋るように指さすももえだが、イレギュラーの話をしても致し方あるまい。彼女たちに“ そ れ (イレギュラー要素)”はないのだから。

 

「――他に質問は?」

 

 そうして佐藤に見下ろされながらの問いに、返答代わりにガクリと膝を落とし着席したももえ。

 

「では次の方」

 

「はい!」

 

――ハッ、所詮は、ままごとデュエルのブルー女子! 俺は、プレイミスまみれのお前のデュエルとは違うんだよ!

 

 そんなももえから一瞬で視線を切った佐藤に、今度は自信に溢れた取巻が挙手。なにせ取巻は進級試験の際に、あそこまでの無様は晒していない。

 

「取巻くんはデュエル中に《聖なるバリア -ミラーフォース-》のカードを使用していましたね。どういった意図でデッキに組み込んだのですか?」

 

――デッキ構築する段階の話!? ……どう答えるのが正解だ?

 

 だが、問題があるかどうかは別だった。返答に悩む取巻。

 

 何を意図した質問なのか? 何を問題視されているのか? 浮かぶ疑問は数知れず。そうして取巻が悩んでいる間に――

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無情にも佐藤から謝罪の言葉が入る方が早かった。返答に迷った時点で「特に考えずに入れた」「自分のデッキに自信がない」などと答えたようなものだ。

 

 それなら迷いなく「強力だから!」「カッコいいから!」と答えた方が、評価されただろう。

 

――や、止めといて正解だったっス……

 

 そうして、精神力をガリガリ削ってくる佐藤の問題を前に、翔は内心で思わず安堵のため息を零すが――

 

「響教諭ッ!! 解き終わりましたッ!!」

 

「はい、確認します。ですが大山(たいざん)くん――元気が良いのは構いませんが、他の生徒もいますから声は抑えるように」

 

「いえ、そろそろドロー修行に参りたいので、失礼させて貰います」

 

「………………ご、ご自由に」

 

「――とぅ!!」

 

 唐突に窓から飛び降り、森の中に向かっていった大山(たいざん)の姿に目を奪われた翔は思わず二度見しつつ叫ぶ。

 

「あ、あれ! いいんっスか!? 授業放棄っスよ!?」

 

 なにせ、授業放棄が可愛く見えるレベルの蛮行である。

 

 そんな中、他に救済案を望む生徒がいなかったことで、手が空いた佐藤から説明がなされた。

 

「授業を受ける・受けないは皆さんの自由です。『必要ない』と感じれば席を外してもペナルティの類はありません。ただ、(最下層)の制服を纏う意味を理解して頂きたいですがね」

 

――い、嫌みな先生っスね……

 

 しかし、棘のある佐藤の物言いに、思わず翔は頬を引きつらせる。

 

 

「――Ah()ー、Ah()ーッ! Ahhh(アアア)ー!!」

 

――ていうか、あの先輩、ホントに何なんスか!?

 

 だが、森の中から響いた音程を下げ、上げした「ジャングルこそが故郷」と言わんばかりの雄叫びに、肩をびくつかせた翔は思わず内心で叫ぶ他なかった。

 

 

 自分はとんでもない場所に来てしまったのかもしれない――と。

 

 

 






見てごらん、翔――新しい兄貴分だよ




Q:取巻って誰? オリキャラ?

A:原作の初期万丈目の周りで子分感だしていた眼鏡の方のオベリスクブルー生徒です。

原作で名前はありませんでしたが、遊戯王のゲーム作品にて「取巻 太陽」との名をゲット。
性格は「よくある傲慢なブルー生徒そのもの」です。デュエルの実力はお察し(原作での様子を見つつ)



Q:何故、わた――浜口 ももえにこのような狼藉を!!

A:一番分かり易く「アカンやろ、これ……」な状態だったからです。

原作にて、棒立ちの攻撃力1600の未OCGカード『酒豪神 バッカス』を前に共に挑んだ枕田 ジュンコ共々完全に戦意喪失していたエピソードがあり、
(今作で《レジェンド・デビル》に差し替えたのは、毎ターン300打点が上がる『酒豪神 バッカス』と類似した効果だった為です)

……3000打点の大型モンスターならまだしも、下級モンスター1体を前に戦意喪失する現実。

そしてジュンコ、ももえは共に「レッドなんか」と見下す発言から察するに
自己認識は「レッドより自分たちの方が強い」――え、えぇ……(困惑)

そんな具合で――
今作で、「オシリスレッド」に分類されるのは、男女共々このレベルの人たちです。
言ってしまえば「光るものはある気がするけれど、他がおざなり過ぎる」な具合になります。
(他は、病気や怪我などのやむを得ない事情があった場合とかですね)



Q:TF組!?

A:明日香がボッチはかわいそうやったから……(´・ω・`)

イエロー女子の方は、「ラー・イエローに組み分けされた女子生徒もいる」との描写の為です(なので今後の出番は……)

選出理由は、GXの原作組と関りがある(剣山+裸三沢など)や、未来の召喚方と無縁な面々になっております。後、GXの相性と知名度(おい)


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