マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
世界の修正力「お前に人の心はないのか!? もっと原作を思いやれ!!」




第249話 なんやコイツ

 

 

 アカデミア1年生にとっての最初の定期試験を無事突破し、各々の課題を見つけた十代たちはイエロー寮にて――

 

「俺は2年の大山(たいざん) (たいら)! 今日からラー・イエローに昇格した! よろしく頼む!」

 

 ジャングルから飛び出してきたような筋骨隆々の半裸の男――大山(たいざん)の加入を迎えていた。

 

 そうして凡その紹介を終え、多くのイエロー生徒が「また変なの来たな」「また変になったな」と解散していく中、そんな大山(たいざん)に苦い敗北を突き付けられた三沢は驚いた様子で近づき思わず問いかけた。

 

「先輩がイエローに? ブルーの間違いでは?」

 

 戦った三沢だからこそ、その事実を強く実感する。大山(たいざん)の実力はピーキーながらもかなりの高水準に――1年最強の万丈目すら容易く凌駕しかねない位置にあった筈だと。

 

「ハハハ! それがどうにも、学園側にイカサマを疑われてしまってな! 現在、審議中なんだ! しかし理屈で推し量れぬのがドローの世界! 仕方のない話だろう!」

 

 しかし学園としても「ドローの神髄」などと言いながら、デッキトップを当て続ける意味☆不明な存在を容易く認める訳にはいかないのだ。後で「イカサマだった」と発覚すれば大問題になりかねない。

 

 それゆえの調査期間も兼ねたブルー昇格の見送り――なのだと、大山(たいざん)は堪えた様子もなく豪快に笑って見せる。

 

 そんな中、「イエローに上がった」事実と、珍獣感の物珍しさゆえに十代が興味本位で寄りつつ、他人事ではないのか降格理由の話題を振るが――

 

「へぇ~、大山(たいざん)……先輩は、なんでレッドまで落ちたんだ?」

 

「僻地のジャングルでドローの修行をしていたら、試験までにアカデミアへ帰るのが遅れてしまってな! ハハハ、面目ない限りだ!」

 

『……こいつ、なに言ってるんだ?』

 

 十代の隣で興味なさげに浮かんでいたユベルが、あまりの理由に愛しい人の悪影響になるか否かを測りかねた様子で十代の肩を引くが、十代は別の点が気になる様子。

 

「試験遅れただけでレッドまで落ちるのかよ……」

 

「いや、俺は間に合うつもりで帰路を組んでいたのだが、学園側(倫理委員会)が計算した結果どうにも『間に合わない』と結論が下ってな! 『間に合わせる気がなかった』と判断され、それでレッドまで落ちることとなった!」

 

 よもや「試験に寝坊しただけで降格に?」と心配を募らせる十代だったが、大山(たいざん)が語る凡そ遭遇しえない状況を前に、毛ほども参考にならない現実が横たわる。

 

「退学にならなかったのは、救助作業に従事した恩赦といったところだそうだ!」

 

「救助作業?」

 

「ああ! ジャングルにて怪我人がいてな! 諸々手助けした件だ! とはいえ、それがなかったとしても、『間に合わない』と判断されたがな! ハハハ!」

 

『な、なんなんだ、コイツ……』

 

 正直、異常な執着に近い愛をこじらせていたユベルをしても、理解の及ばない存在を前に十代の背をグイグイ引っ張るユベル――お近づきになりたくない様子。

 

 しかし、十代は気にせず前に出る。

 

「あっ、そうだ! 大山(たいざん)先輩! 三沢がなんかドローで悩んでんだよ! 相談乗ってくれないか!」

 

「お、おい、十代。そんな急に失礼――」

 

「なんだ、そんなことか――構わんぞ! お前のようなタイプなら感覚より、理屈で詰めるべきだな!」

 

「やったな、三沢!」

 

「――よろしくお願いします!」

 

 そうして悩める(三沢)の為と、珍獣への興味も少々混じった十代の提案を大山(たいざん)は快く了承。

 

 やがて大山(たいざん)はイエロー男子寮の共同エリアの空いた席に着席を促し、ちょっと遠近法の狂った体格違いが並ぶ中、「ドローの神髄」の秘密とやらがアッサリ明かされ始める。

 

「ピンチの時! 『カードAを引けば勝てる!』、そう思ったことはあるか?」

 

「それはありますが……」

 

 そして、最初に問われた大山(たいざん)の問いに三沢が自身の一般的な初見を述べるが――

 

「ならば、『でも、こういう時は大抵カードBのカードを引くんだよなぁ……』は、どうだ?」

 

「……あります」

 

「そして『いや、カードAを引き当てて見せる! うぉぉおおぉお! ドロー! やっぱ、カードBだぁぁあぁあああ!!』は?」

 

「………………あります」

 

 その問答の内容は誰もが覚えのあるような代物ばかり――大山(たいざん)の意図が三沢には読み取れない。

 

「そう! オレも昔はそうだった! いや、今もそうだ!」

 

『じゃぁ、今までの話はなんだったんだい……』

 

 当然、ユベルにも大山(たいざん)の問答は意味不明だった。十代は言わずもがなな為、疑問符を浮かべて沈黙を守る。

 

「だが、こうは考えられないか? 『カードBを引く』ことをオレは『当てていた』のだと!」

 

『いや、言わないだろ』

 

 やがて自信満々に「ドローの神髄」の核を述べる大山(たいざん)へ、ユベルの鋭いツッコミが入る中――

 

「三沢! こんな言葉を知っているか! 『敵を知り己を知れば百戦殆からず』――今のお前は『敵を知る』ことは出来ていても、『己を知れていない』!」

 

「――まさか、ドローの神髄とは!?」

 

 三沢は何かを掴んだ様子でハッとした表情を浮かべる。

 

「そうだ! 己のコンディション! 己が扱うカードの気分! 己の運! 己のその他諸々! それら全てを知り、デッキのカードの順番を把握できるまでに()()()()!!! それこそが、オレのドローの極意!!」

 

「えーと、どういうことなんだ?」

 

「成程! デッキの順番を知っているということは、リソースとの相談が常に可能な状態を指す! 次のドローの内容が分かれば、今ある手札で『どう動くことが最良』なのかも逆説的に判明する訳ですね!!」

 

「……あー、うん、えー……やったな三沢!!」

 

 席を勢いよく立つ程に白熱する大山(たいざん)と三沢の討論――そして、置いてけぼりな十代は、とりあえず友の悩みが解消されたっぽい事実を喜ぶこととする。

 

「ああ! ドローという『未知』を、こんな風に定義するとは……」

 

『自分たちが何を言ってるのか分かってるのかい?』

 

「とはいえ、偉そうなことを言っても、オレが辿り着いた極地は『なんとなく』の延長線上の代物だ。イカサマを疑われても致し方のない話ではある」

 

 しかし、言うは易く行うは難し――ユベルが零すように「それが出来れば苦労はしない」ことであろう。それは大山(たいざん)とて理解している。

 

 彼のドローの神髄も、未だ完璧とは言い難い。

 

「ふーん……なあなあ、大山(たいざん)先輩! その神髄! 俺にも出来っかな?」

 

「学力が必須だ! 確率の計算、相手や己の心情把握、己のコンディションへの理解の為の肉体の情報――とにかく様々な知識が必要になる。ペーパーテスト程度で躓いていては話にならんぞ! ハッハッハ!」

 

『そういえば、こいつは2年の筆記トップだったね。満点取るだけはあるのか』

 

 やがて十代の認識を正すように大山(たいざん)が豪快に笑う中、ユベルが遅ればせながら大山(たいざん)の名を見た場を思い出しつつ「十代の家庭教師くらいにはなるか」と些か失礼なことを考え出していた。

 

 

 かくして、三沢は大山(たいざん)の教えを受け、ドローの神髄たる「己を知る」道を探ることとなる。ついでに、十代はユベルの入れ知恵で勉強を教えて貰うらしい。

 

 どちらも容易い道ではないやもしれないが、先日の試験の時のような後悔を思えば、奮起の力は十二分にあろう。

 

 

 

 

 

 

 

 影丸とアムナエルへの物理的撃破を決めた神崎だったが、相手の根城が分からねば振るう拳もありはしない。相手の影丸は齢100を超えてもなお各界に影響力を持つ相手――当然、セーフハウス(秘密の隠れ家)の一つや二つあって当然。

 

 

 それゆえ、情報を求めた神崎が訪れたのは、アンダーグラウンドな住人が仕切るビルの一角にある応接室のような場所。

 

 

 その一室の窓から覗く眼下には煌びやかな装飾が広がるパーティ会場が広がり、周囲の面々は目元を仮面で隠しており、やんごとなき事情がヒシヒシと感じられる空間だ。

 

 

 そんな法スレスレの場の支配人であるタキシードとシルクハットに身を包んだ眼鏡の男――モンキー猿山は、向かい合って座す珍しい客を前に不思議そうに肩をすくめて問いかける。

 

「かつてはKCの幹部だった方が、こんなアンダーグラウンドの住人になんのようでしょう?」

 

「盛況のようですね、猿山さん」

 

「あぁ? 俺たちを脅そうってのかい?」

 

「止せ、犬飼――私の護衛が失礼を」

 

 だが、含みが見えた神崎の返答に、モンキー猿山の背後に護衛として控えていた逆立てた髪に全身に傷のある筋骨隆々な半裸の男――マッドドッグ犬飼の恫喝するような声を、モンキー猿山はいさめた。

 

 相手は一応客人である。

 

 それに加えて、この場に違法なものは何一つない。此処にあるのは――

 

「ただ『盛況』とは、なんのことでしょう? この場はあくまで個人的なお取引がなされる場――偶々、囚人たちの息抜きデュエルの場が近くにありますが……それが視界に入ってしまう点は致し方ないでしょう」

 

 金を持て余した悪趣味な暇人が、個人的な取引をする光景と、

 

 その暇人から心ばかりのお布施を頂戴するモンキー猿山たちが、被害者家族への支援を慈善で行い、

 

 そして偶々近くで囚人たちが、コロシアム風な檻の中で息抜きがてらのデュエルを行っているだけだ。

 

「囚人たちもフラストレーションが溜まっていたゆえか少々演出が荒くなりがちですが、あの程度は身体を張ったバラエティの範囲ですとも」

 

 この場に、囚人同士の苛烈なデュエルを観戦して、金銭を賭けている――なんて現実は、どこにも存在しないのだと、モンキー猿山は得意気な顔で語る。

 

「此処に違法なものなど何一つない――違いますか?」

 

「今回はそう言った話ではありませんよ」

 

 しかし、それらは今回の神崎の要件とは関係なかった。

 

「……と、言うと?」

 

「買い物です。影丸理事長の居場所を少々」

 

「あの老人ですか……死期が近いとはいえ、未だその力は健在。流石に表立って売るのは、はばかられますな」

 

 そうして明かされた「影丸を切れ」との要求にモンキー猿山は顎に手を当て難色を見せる。

 

 かつては悪名を轟かせるも、今やKCを去り何の後ろ盾のない男と、

 

 余命いくばくとはいえ、未だに各界の力は健在の老人――モンキー猿山としても即決するのは難しい話だ。

 

「ですが、此方としても貴方を無碍にするのもよろしくない。さて、どうしたものか……」

 

 今に限定すれば、影丸に良い顔をしておくべきだが、なんだかんだで波乱を起こしてきた神崎と決定的に敵対するのは避けたい。

 

 

 ゆえにモンキー猿山は担保を求め、窓の外での囚人同士のデュエルに視線を向けた。

 

 つられて視線を向けた神崎の視界に映るのは、褐色肌の青年が呼び出したスライムの竜《ヒューマノイド・ドレイク》が、顔を布で隠した大男のフィールドの囚人服を着たモンスター《凶悪犯-チョップマン》に噛みついている光景。

 

(青年)一番人気でね」

 

 そしてモンキー猿山は、布で顔を隠した大男が装備魔法《与奪の首飾り》で相手の手札を捨てさせ、永続罠《魔力の棘》と永続魔法《悪夢の拷問部屋》による効果ダメージを受けた褐色肌の青年が苦悶の声を漏らす姿をせせら笑いながら続けるが――

 

「デュエルの腕は並ですが、儚げなルックスと健気な姿勢の()()が良い」

 

「そうですか」

 

 神崎の反応は芳しくない。

 

「あちらで観戦中のレディは、彼の大ファンのようなんですよ。逐一、お越しになられる」

 

「持って回った言い方は必要ありませんよ」

 

 やがて手を変え、品を変えていたモンキー猿山だったが、神崎の返答に大きくため息を吐きながら、本題を持ち出した。

 

「では単刀直入に――デュエルで勝ち取られては?」

 

「私の腕を知っていての提案でしょうか?」

 

「なにも、貴方が直接戦う必要などないでしょう? それこそ、誰かを雇えば良い『いつものように』ね」

 

「犬飼――キミもそう思うだろう?」

 

「そうさ! アンタは黙って、アイツを呼べば良い! それで望む買い物が出来るんだ! 安いもんだろう!」

 

 そう、マッドドッグ犬飼が直接的に表するように、モンキー猿山が担保に求めた対価は「確実な恩恵」の証明。

 

 影丸を切っても、復讐される心配が皆無である事実――それこそが担保の正体。

 

「生憎ですが、KCを去った私に大それたことは出来ませんよ」

 

 だが、神崎から返って来たのは、モンキー猿山が望んでいた答えではない。

 

「今日のところは、お暇させて貰います」

 

「おい、待ち――」

 

「またのお越しを」

 

 それどころか、マッドドッグ犬飼の静止の声もむなしく、神崎は軽く会釈してこの場を後にする姿だった。

 

 そうしてアッサリ目に見送ったモンキー猿山に、マッドドッグ犬飼は怒声を上げるが――

 

「おい、なんのつもりだ猿山! 俺は――」

 

「落ち着くんだ、犬飼。彼が態々こんな場所に直に足を運んだ以上、余程切羽詰まっている筈。なら、呼びたくとも呼べない――そう考えるのが自然だろう」

 

 モンキー猿山は神崎が早々に引き上げた事実が何よりの証明だと返す。裏の楔は露と消えた。

 

「チキンレースも、そろそろ終幕と言ったところだ。忙しくなりますね、これは」

 

「――やめろ! くだらない政治なんざ知ったことか!」

 

 ならば、裏の勢力図の変化が――と続けようとしたモンキー猿山だが、対するマッドドッグ犬飼は大声を張り上げながら、話を打ち切って見せる。

 

「ですが、死亡説が濃厚になってきたとなると、抑え込まれていた――何処へ行く気です?」

 

 やがて、マッドドッグ犬飼は、モンキー猿山の話など聞く耳も持たない様子で肩を怒らせながら、この場を去っていった。

 

「やれやれ……腕は確かだと言うのに困った男だ」

 

 そうしてモンキー猿山は、相方の厄介な癇癪に今までとは別の形で溜息を吐きつつ受話器を手に取り、何処かへと連絡を取り始める。

 

 文字通り、これから忙しくなるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツが死ぬ訳…………ねぇだろ」

 

 そんな一室の外で、再戦の機会を永久に失った一人のデュエリストが零した痛恨の念は、誰にも届くことなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アカデミア1年生にとっての最初の定期試験も終わり、先の熱気も過去となれば再び学園に平時の趣が戻る中、オシリス・レッドの生徒たちは変わらぬ世界に囚われていた。

 

「では本日の授業を始めるノーネ」

 

「ク、クロノス教諭!?」

 

「クロノス教諭がどうして此処(レッドの授業)に!?」

 

「まさかわたくしたちは、既に(オシリス・レッドから)脱出(昇格)を!?」

 

 しかし、何時もの佐藤ではなく、クロノスが出現した事態に取巻、ジュンコ、ももえはレッド生の総意を代弁するように仰天して見せるが――

 

「……なに言ってるノーネ? シニョールたちの制服は赤いままナーノ」

 

「ウッ……」

 

「あ、あのう……佐藤教諭はどうなされたのですの?」

 

 クロノスから返って来た正論の前にアッサリと取巻が崩れ去る中、ももえがおずおずと手を挙げて一同が感じる当然の疑問を述べれば、クロノスは呆れた様子で口を開いた。

 

「オシリス・レッドの担当は、変化をつける為に一定期間ごとに変わるノーネ」

 

 それはオシリス・レッドの授業を担当する教員が「固定」ではないこと。教師と生徒――どちらも人間である以上、合う合わないの相性は必ず存在する。

 

 他の二色の寮との交流が、デュエルでのトラウマなどの回避の為に当人たちの実力も加味して制限されているオシリス・レッドに与えられたのが、「教師側の変化」だ。

 

「とはいーえ、シニョール佐藤がレッド男子寮の寮長である点は変わらないかーら、シニョーラ(レッド女子)たちはともかーく、シニョール(レッド男子)たちは顔を合わせる機会もあるデーショ」

 

 そうして教師の変更の事情を説明し終えたクロノスは授業に戻ろうとするが、此処で再起した取巻が勢いよく席を立って手を上げ宣言した。

 

「クロノス教諭! 僕がレッドなのはおかしいです! 今一度キチンと採点してください!」

 

 それは、いつぞやの昇格の要請。クロノスはエリート意識が強い教員であり、中等部の元ブルー生徒の取巻なら、便宜を図って貰えるとの公算だったが――

 

 

――この人、また言ってるっス……折角、声の大きい大山(たいざん)先輩がジャングルに行って静かなのに……

 

 とはいえ、隣の翔は「どうせ無理だ」と呆れ顔で内心のため息を漏らす中、クロノスは一応用意していた先日の試験結果を手に、期待に満ちた眼差しを見せるレッド生徒()()に応えて見せる。

 

「シニョール取巻は、呼び出し易いデメリットアタッカーに装備カードを加えたパワーファイトが持ち味のスタイルかーら……」

 

 そんなクロノスから語られるのは、取巻のデッキの変化。

 

 彼のエースは《ゴブリン突撃部隊》――召喚制限のないレベル4としては破格の攻撃力を誇るものの、攻撃後に守備力0を晒すデメリットを持つカードだ。

 

「装備カード部分を永続魔法《一族の結束》に任せーて、《ゴブリン突撃部隊》などのデメリットを永続罠《スキルドレイン》で打ち消しつつ、手軽に呼べる3000オーバーのパワーで押していくスタイルに変更していましターノ」

 

「そうです! もうかつての僕とは違う! 先日の試験のデュエルだって、危なげなく勝ちました!」

 

 そう、取巻とて只々嘆いていただけではない。

 

 佐藤からの「もっと頭使え」に類する発言を受けつつも、佐藤を全無視して大山(たいざん)の意味不明な特訓を受け入れ、曲がりなりにも進歩したのだ。

 

「分かってるノーネ。デメリットアタッカーを戦士族に絞り、罠カード《天地開闢》で《ADチェンジャー》を墓地に送って、《ゴブリン突撃部隊》のデメリット解除手段を増やしたのも含めて、見違えターノ」

 

 そして、それはクロノスも、佐藤も――更にアカデミア側も把握している。

 

「なら!」

 

「ですーが、まず一つ聞いておくノーネ――永続罠《最終突撃命令》をどうして採用したノーネ?」

 

 しかし、取巻のデュエルには大きな問題があった。致命的過ぎる問題が。

 

 それゆえ、覚えのある問い方をするクロノスに取巻は勝ち誇ったような表情を見せた。

 

――あの眼鏡(佐藤教諭)の時と同じか! ですが、甘いですよ、クロノス教諭!

 

「それは勿論、《ゴブリン突撃部隊》のデメリットを打ち消す為です! 永続罠《スキルドレイン》だけでは心許ない! しかも、これで守りに入った相手の低級モンスターも強制的に攻撃表示にして打ち破れます!」

 

「――ノン!!」

 

「!? な、なにがダメなんですか!」

 

 だが、自信を持って答えた内容が否定された事実に取巻は戸惑いの表情を浮かべた。永続罠《最終突撃命令》の使い方に間違いはない筈だ、と。

 

「《ADチェンジャー》は相手のモンスターにも使えるノーネ」

 

「そのくらい知っています!」

 

 だというのに、関係のないカードの説明を加えるクロノスの意図を読めず、取巻は苛立ちを隠せぬように叫ぶが――

 

「……そもそもシニョールのデッキはスタイルの変更により《ゴブリン突撃部隊》の3000打点前後が限界ナーノ。相手が4000オーバーの攻撃力を出したらどうするノーネ?」

 

「それは《ADチェンジャー》や《重力解除》で――あっ」

 

「そうナーノ。シニョールのデッキは『自分で自分の持ち味を殺している』ノーネ。これはデッキ構築の段階……ノン、せめて試運転の段階で気づくべき点ナーノ」

 

 軽い例題をクロノスが提示すれば、ハッとした表情を浮かべる取巻。

 

 そう、高い攻撃力を持っていても守備力はそこそこ、そんなカードはザラにある。

 

 その隙を《ゴブリン突撃部隊》のデメリットを打ち消せる《ADチェンジャー》などで付ける――筈なのだが、強制的に攻撃表示に()()()()()()永続罠《最終突撃命令》とは少々アンチシナジーだった。

 

「『自分の使うカード効果くらいは最低限、理解しておく』――シニョール佐藤にも、言われたデーショ?」

 

 どんなに強力な効果を持つカードでも、己のエースやデッキとの相性は存在する。今回のような「うっかりミス」を公式戦に類する「試験」でやらかすのは致命的であろう。

 

「それすら出来ていないノーニ、イエローに上がれるなんて思わないことなノーネ。こういった細かなミスがシニョールたちからは、()()()見受けられターノ」

 

「くっ……!」

 

 そうして結果的に晒しものになった取巻の犠牲を以て、他のレッド生徒も覚えがあるのか、すごすごと引き下がっていく中、クロノスは思い出したかのように続けた。

 

「ああ、それとシニョール丸藤――魔法カード《パワー・ボンド》を頑なに使わないのは理由があるノーネ? シニョール取巻とのデュエルでも使ってれば勝てたノーニ」

 

「――!?」

 

「そ、それは……」

 

 曲がりなりにも足掻いていた己が、神頼みしていただけの相手()に負けていた事実を受け、取巻が翔をにらむが、当の翔は上手く言葉が出ないのかしどろもどろである。

 

 とはいえ、過去に翔が「《パワー・ボンド》があれば勝ち確だと誤認し、対戦相手を煽りまくったこと」を兄の亮からいさめられた際に使用を封印――などと、己の恥部をさらけ出さねばならない以上、口も重くなろう。

 

「言いたくないなら構わなイーノ。ただ、状況を左右するタイミングでドローして『訳あって使えない』のなら、その時(使える時)が来るまでデッキから外しておく方が良いノーネ」

 

 やがて、そうとは知らぬクロノスから重ねての忠言を贈られるが――

 

「下手をすると『そのカードを引いたせいで負けた』なんて、思い込みにも繋がりかねナイーノ――シニョール佐藤からも言われたデーショ?」

 

「えっ?」

 

 佐藤の授業など眼中にない翔はポカンとした表情を見せていた。

 

「…………やはり忘れていましターカ――なら、今度こそ覚えておくノーネ」

 

――こんなやる気のない生徒たちを前にシーテ、シニョール佐藤はよく奮闘したノーネ。

 

「シニョールたちの状態は、シニョール佐藤からしっかり伝わってルーノ。『自分たちの力だけで上がれる』とシニョールたちは頑張ったのでしょうーが、世の中そんなに甘くないノーネ」

 

 こうして、まさに「ドロップアウト・ボーイ&ガール」なレッド生徒のありように溜息を吐きたい気持ちをグッと堪えたクロノスは、生徒たちの意識を授業に向けるよう言葉を並べていく。

 

「今一度、自分たちの立ち位置を自覚すルーノ――授業を始めるノーネ」

 

 流石の彼らも、これで授業の必要性を理解してくれることと信じて。

 

――最初に(佐藤で)圧をかけて、(クロノス)で抜く……恣意的に憎まれ役を用意するなんて、コブラ校長も人が悪いノーネ。

 

 ただ、クロノスの胸の内にくすぶる「学園側が気を揉まねば、やる気の一つも出せないのか?」との昏い思いは晴れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あくる日、雲が広がる大空の只中で宙に浮かぶ神崎は携帯片手になにやら通話していたが――

 

「そうでしたか。面会は難しい――と。ご無理を言ってしまい申し訳ありません。では」

 

 誰もいない先へと一礼しつつ通信を終えた。

 

――影丸理事長もKCの()()は周知の筈……それでも藤原くんの事件を起こした以上、不老不死に一切の妥協をするつもりはないことは明白。

 

 このやり取りの相手は、影丸の表の顔であるアカデミア理事長に向けてのもの。話し合いで済めば御の字ゆえの一手だったが、残念ながら電話担当の者を前に、その機会はアッサリ消失。

 

「此方の動向くらいは掴んでいるとは思いましたが……」

 

――なら、かつて責任者であった私に会合の場をくれる可能性もあるかと思ったが……

 

 かつて、オカルト課の代表を務めていた自身との会合の場なら、原作同様に不老不死を追い求めている影丸も食いつくやもしれない、と判断した神崎の予想は大きく外れることとなる。

 

 

 影丸としても「三幻魔による不老不死」が目前である以上、神崎と関わることのリスクを避けたと予想されよう。

 

「流石に正面からは会ってくれないか」

 

――アムナエルが指名手配された件から、警戒されてしまったか? その件は関係ないんだけどな。

 

 とはいえ、内心ですら自覚の薄い神崎だが、彼の古巣であるオカルト課の手により、親友が世界的に指名手配された事実。

 

 そして、つい先日まで一切表に出ていなかった――宇宙にいたので当たり前なのだが――相手が、三幻魔復活の計画間近で急に現れれば、警戒するなと言う方が無理な話。

 

 

「仕方ない。当初の予定通りに行こう」

 

 ゆえに、会合の場を失った神崎は、右手で右目を覆うような所作を見せる。

 

――影丸理事長の(バー)は直に見たことはないが、人非ざる者(ホムンクルス)(バー)は悪目立ちが過ぎる。

 

 態々、裏の怪しい場で名指しで探ったのは、「影丸とコンタクトを取りたい」旨を間接的に伝える為と――

 

 

 

 

――(オレイカルコス)の目。

 

 

 

 

 表向きに「何処で情報を入手したか」のアリバイ作りがしたかっただけだ。

 

 

 

 天に生じた不可視の眼球が世界を浚う(さらう)

 

 

 

「――見つけた」

 

 

 

 決戦の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 変わらぬ平和な日々を享受するアカデミアのイエロー寮にて、三沢は己を知るべく広場で熱心にドローの素振りをしていた。

 

「ドロー! ドロー! ドロー! やはり難しいな……俺は自分が思っているより遥かに己のことを知らなかったのだと痛感させられる」

 

『朝から元気なヤツだね……』

 

「調子どうだー、三沢ー!」

 

 しかし順調とはいかない様子を見せる三沢へ、ユベルを連れた十代の声が届けば――

 

「まずまずと言ったところだ。まぁ、長い目で頑張るさ――それで、どうしたんだ、十代? 何か用があったんじゃないのか?」

 

「気分転換にデュエルしようぜ! 小原と大原誘ってタッグ戦とか!」

 

『息抜きも必要だろうからね。ボクの十代の慈悲に感謝すると良いよ』

 

 こんを詰める姿を案じてか十代からデュエルの要請がなされるも、三沢は首を振って否定を返した。

 

「悪いが、先約がある。寮でプロの映像資料を見る約束をしていてな。今を逃したくない」

 

「あー、寮にはテレビ、共同エリアの一個しかないもんなー」

 

 そう、イエロー寮には大型の家電製品は共用エリアにしかない。テレビも無論1台のみ――それゆえ日々、熾烈なチャンネル争いが繰り広げられているが余談である。

 

『ブルーに上がれば部屋に一つずつあるらしいよ――しかしコイツ、ボクの十代の厚意を無碍にするなんて……』

 

「じゃあさ、俺も一緒に観戦しても良いか?」

 

「俺は構わないが……相手次第だな」

 

 しかしデュエル観戦も十代の琴線に触れたのか、軽いやり取りの後、テレビのある広い共用スペースに向かった二名――いや、三名を待ち受けていたのは――

 

 

「待たせたな、神楽坂――どうした、そんな暗い顔をして」

 

 逆さ箒頭の1年生の青年「神楽坂(かぐらざか)」が縫い付けられたように椅子に座り、この世の終わりのような表情で首を垂れていた。

 

 同じ理論派の同士ゆえか三沢も「只事ではない」と心配気な声を漏らす中、神楽坂はかすれた声色で力なく零した。

 

「このままだと次の定期試験で、オシリス・レッドに落ちるかもしれない……さっき樺山寮長から告げられた」

 

「あんま気にすんなよ、神楽坂! レッドでも何処でもデュエルは――」

 

「……お前は良いよな、遊城。なんの悩みもなさそうで、毎日楽しそうにデュエルしてさ」

 

 しかし、十代の励ましの言葉にすら嫌味な返答を零す程に、神楽坂の心はやさぐれている様子。

 

『……お前、喧嘩売ってるのかい?』

 

「落ち込むのは分かるが、他人に当たるのは止せ。そもそも十代はお前の事情を何も知らないんだ」

 

 やがてユベルがガチギレ寸前の中、三沢が神楽坂をいさめつつ向かい合う形で十代を席に座らせ、相談会を開催する手筈を整えた。

 

「今日の鑑賞会は止そう――今のお前をそのままにはしておけない」

 

「じゃあ、三人で相談しようぜ! 俺も頑張って考えるし!」

 

「……オレは記憶力が良すぎて、どんなデッキを作っても誰かの真似になってしまうんだ……そこから、改良を重ねようとしてもコピーデッキから抜け出せない」

 

 そうして語られるのは神楽坂が、誰もが持つ「デュエリストの形」を持たない。否、()()()()問題。

 

 彼の卓越した記憶力は、己の内に眠る未知の可能性すら既知に貶め、「誰かのコピー」の烙印を押す。まさに特定分野が秀で過ぎたゆえの弊害。

 

「確か、この前の試験ではクロノス教諭のデッキをコピーしていたな」

 

「結局、惨敗したよ……デッキも、プレイングも、大きな間違いはなかった筈なのに……どうして、あそこまで……オレのデュエルは誰かの猿真似に過ぎないのか?」

 

 しかし、どれだけ似せようとも――いや、似せた結果「他人のデッキを使っている」と同義になってしまう。ゆえに、勝てない。

 

 今回の例を示せば「クロノスのデッキを十代が使って、同じように勝てるのか?」と問えば、答えはおのずと分かるだろう。

 

「気にすんなよ! 真似くらい誰だってするだろ? 俺だってプロの真似とかよくやるし!」

 

「――お前にオレの気持ちが分かる訳がない!!」

 

 だが、楽観的な十代の主張に、神楽坂は大きく声を荒げた。

 

 凡そ努力というものを積み重ね続けてきた神楽坂にとって、日々を気の向くままに歩む十代は水と油だった。

 

「入試でクロノス教諭を倒し! 1年トップの万丈目の目に留まり、同寮で無敗のお前が!! 負け続けなオレと同じな訳ないだろ!!」

 

 十代の持つ誰もが羨むような輝かしい経歴は、ひたすらに神楽坂のコンプレックスを刺激する。

 

 誰かのコピーにしかなれない彼にとって、他の誰にも真似できない「個」を持つ十代は嫉妬の対象だ。

 

 そんな相手に「自分も同じことをしたから気持ちは分かる」なんて言われて、平静でいられるほど神楽坂は大人でもなければ、精神的余裕もない。

 

「落ち着け、神楽坂。十代にも悪気はないんだ」

 

『もう良いだろう、十代。こいつはキミの助けなんていらないってさ』

 

 やがてユベルが十代を、三沢が神楽坂を別ベクトルでなだめる中、神楽坂は曲がりなりにも相談に乗ってくれた相手への言葉ではないことを陳謝するが――

 

「……悪い、遊城。だけど、もうオレは自分のデュエルが分からないんだ……猿真似野郎だ劣化コピーだなんだと揶揄され、負け続けのオレには……何も……」

 

 もはや足掻き続けて来た神楽坂には、これ以上どう足掻けば良いのかが分からない。

 

 

 この学園の多くの者は「本気」だ。本気で夢を掴む為に足掻いている。でなければ、誰がこんな僻地の島まで来るものか。

 

 

 それは未だ将来の展望もなく、明確な夢を持たぬ十代には本当の意味では実感できぬものなのだろう。

 

 だが、分からないなりに考えることは出来る。

 

「……うーん、じゃあいっそのこと、誰も使っていないようなカードを使ってみるとか? これなら誰の真似にもならないだろ?」

 

「無茶を言うな、十代。『誰も使っていない』範囲はかなり狭い。その制限の中でデッキを形にするのは至難だぞ」

 

 そんな十代の提案は、三沢にやんわり「ほぼ不可能」と言われる程度に拙いものだが、それでも苦手な頭を使って見せる十代。

 

「そっかー、言われてみれば世界中にデュエリストがいるんだもんなー」

 

『全く、キミは相変わらず甘いな――まぁ、そこが良いところでもあるんだけれど』

 

「神楽坂、なにか思い入れのあるカードはあるか? 自分のフェイバリットを起点にデッキを組めば、コピーからの脱却に繋がるかもしれない」

 

「言っただろ? 記憶力が良いんだ。気に入る入らないなんて、全てのカードが凡そ横並びだよ」

 

『印象の強弱関係なしに、ちゃんと覚えて思い入れが出来ちゃう訳か。難儀な話だ』

 

 やがて三沢から告げられた一般論も、脅威的な記憶力を持つ神楽坂には適さない。もはや「忘れられない」呪縛だ――これにはユベルも同情的な視線を向ける。

 

 そうして「打つ手なし」と、そんな最悪が脳裏を過った神楽坂が益々ふさぎ込んでいく中――

 

「やっぱり、オレは誰かの劣化コピーにしかなれないんだ……」

 

「じゃあ劣化コピーで良くないか?」

 

「十代! そんな言い方は――」

 

「えっ? 『劣化しても大丈夫なくらい強い相手を真似したら良い』って思ったんだけど……ダメかな?」

 

「劣化……しても大丈夫?」

 

 何となしに十代が零した提案が、この場の空気を一新し始める。

 

 そして困惑と希望が入り混じった表情の浮かぶ顔を上げた神楽坂に、十代は無根拠ながらも変わらず自信満々な様子で親指を立てて宣言した。

 

「おう! もっと強いデュエリストのデッキをコピーしようぜ! クロノス先生も片手で倒せるくらいの! それなら劣化しても十分強いだろ!」

 

 それが「劣化を許容する」――本来であれば回避すべき事柄だが、プロデュエリストなどの「デュエルの腕」が最重要な職を目指している訳ではない神楽坂なら、その前提も崩れよう。

 

 例えるのなら「カードデザイナーは最強のデュエリストでなければ務まらないか?」と問われれば、「一定ラインさえクリアしていれば良い」と返す具合だ。

 

 

「『似るのを避ける』ではなく『もっと似せる』……か。確かにアリかもしれないな」

 

「もっと真似するなんて、考えたことなかった……」

 

 そんな当たり前過ぎて逆に無意識に除外していた選択肢の提示に、三沢と神楽坂は好感触を得るが――

 

『まぁ、大抵は自分のフェイバリットを探すように言われるだろうね』

 

「だが、待て十代。劣化を許容する以上、完璧なコピーを目指さなければならない――当然、かなりの情報が必要になる。今の俺たちに、それだけの情報を集められる対象は、身近な相手に限定されてしまうぞ」

 

 三沢が述べるように「強いデュエリストのコピー」は容易いものではない。デッキ構築などで都度、微妙に改良という形で変化し続ける以上、相手が「どういったデュエリストなのか?」は必須。

 

 シンプルに「他人への理解」のハードルが高いことは言わずもがなだろう。

 

「うーん、ならアカデミアで1番強い人にしようぜ! フォースの人、スッゲー強いんだろ? 『天! JOIN!』の人とか!」

 

 ゆえに最近、万丈目すら翻弄した身近な人物を上げる十代。

 

「だが、フォースの方々が俺たちに協力してくれるかどうか……」

 

『仮に協力できても、妬まれて余計なトラブルを抱え込みかねない――十代に余計な火の粉が飛びかねないのは流石のボクも許容できないな』

 

 しかし、寮ごとで厳格に管理される今のアカデミアにおいて、フォースに軽々と頼み事はできない。

 

 フォースが特定の誰かを軽々しく贔屓し始めれば、「どうしてアイツだけ」といらぬ妬み僻みを買うことは必至である為、ユベルも十代の顔を覗き込みながら止めざるを得ぬ。

 

 

「いや、オレは頂点を目指す!!」

 

「頂点? まさか!」

 

 だが、此処で神楽坂が勢いよく席を立ちながら自発的にコピー先を決めたことを宣言。

 

 先程までの鬱屈した雰囲気を感じさせぬ神楽坂の言葉には力強さが見え、更にはその発言内容から三沢も神楽坂の二の句に辿り着いた。

 

 そう、彼がコピーするのは――

 

 

「――俺はデュエルキング(武藤 遊戯)になる!」

 

 

 目指すのは最強のデュエリスト――デュエルキングたる武藤 遊戯のデッキ、否! 「武藤 遊戯」そのもの!

 

『随分、無茶苦茶なこと言い出したね……』

 

「無謀だ、神楽坂! 『デュエルキングが使用したカード』は人気が高く、収集に向いていない! デッキを組むどころの話ではなくなるぞ!」

 

 しかし、此処で呆れ顔を見せるユベルを余所に三沢が待ったをかけた。

 

 なにせ、この「遊戯王ワールド」は「カードの価値」がべらんめぇに高い世界なのだ。

 

 有名なデュエリストの愛用や、「カッコいい!」「かわいい!」なんて雑多な理由ですら、その価値は跳ね上がり、値段も天井知らずである。

 

 《おジャマイエロー》程にピーキーでもない限り、攻守が低いからタダ同然――なんて例は、殆どない。先のシリーズ「ARC-V」では刑務所内で賄賂としてカードをやり取りする程なのだから。

 

 閑話休題。

 

「もっと可能性のある範囲で絞り込むべきだ!」

 

「此処で妥協すれば、オレは一生後悔する!」

 

 上述の理由から詳細を詰めるように忠言する三沢だが、神楽坂は頑なだった。

 

 ようやく見つけた光明を前に、二の足を踏みたくないのだと叫ぶ。

 

「オレは、オレが組んだ魂のデッキに『勝利』の錦を飾らせてやりたい!」

 

 それこそが神楽坂の本音。

 

 どれだけ「誰かのコピーデッキ」であっても当たり前の話だが「デッキを組んだのは神楽坂」なのだ。

 

 己と一緒に戦ってくれるカードを「勝たせてやりたい」と思うのがデュエリストとして自然な願い。

 

「神楽坂……」

 

「試験までに間に合わないかもしれない。降格――いや、退学になっても集まらないかもしれない。でも、此処で諦めたら一生、半端な猿真似野郎のままだ! だから!」

 

『……“猿真似野郎になる(よりコピーを極める)”って話をしてるんじゃなかったのかい?』

 

 そうして、熱い胸の内をさらけ出す神楽坂に、十代以外には届かぬユベルのツッコミが入る中――

 

 

「――オレは武藤 遊戯になる!」

 

 

『ニュアンスがおかしいよ……』

 

 神楽坂は決意表明した。

 

 もう負け続きの神楽坂は終わりだ。此処からどんな苦難があろうとも武藤 遊戯として見果てぬ先の(ロード)を進むのだと。

 

 とはいえ、やはりユベルが呟いたように「ちょっとおかしくない?」と評せざるを得ないが。

 

 

 

 

 

「――話は聞かせて貰ったぞ、1年!!」

 

大山(たいざん)先輩!?」

 

 だが、そんな神楽坂の熱い想いに呼応した大山(たいざん)が乱入――お忘れやもしれないが、此処はイエロー寮の共同エリア。あれだけ騒げば当然、他の生徒も「何事か?」と様子を見に来てもおかしくはない。

 

「オレは腐っても元オベリスク・ブルー! 学園内に知り合いは多い! 出来うる限りカード情報を探ってみよう!」

 

「ならぼくは、おたくの為に武藤 遊戯の秘蔵映像を提供しよう!」

 

「秋葉原!」

 

 そして握りこぶしを作る大山(たいざん)の提案の隣で、自慢のコレクションを手に秋葉原も眼鏡の位置を直しつつ乱入。

 

「じゃあ俺はオカルトブラザーズの先輩方に相談してみる!」

 

「な、なら、ぼくは樺山先生のところへ行ってみるよ!」

 

「小原! 大原!」

 

 さらに小柄、大柄な凸凹コンビも駆けつけ――

 

「なら、俺はクロノス教諭に頼んで、デュエルキングのデュエルの映像や資料を借りて来よう!」

 

「三沢!」

 

「じゃあ俺はイエロー寮のみんなに聞いてみるぜ!」

 

『やれやれ――ならボクは、その辺の精霊に話を聞いてみるよ』

 

「遊城!」

 

 この場の三沢と十代――後、ユベルも協力を確約。

 

「ならオレは武藤 遊戯のシミュレートに取り掛かる! 完全に武藤 遊戯になり切って――いや、武藤 遊戯になる!」

 

「ああ! お前の記憶力なら出来るさ!」

 

 そして、早速とばかりに己がなすべきことを定めた神楽坂が、三沢の声に周囲を見渡せば、多くのイエロー寮の生徒たちが、こんな馬鹿げてる計画に乗ってくれている事実が広がっていた。

 

 

 そんな結束の力と言うべき光景に、目頭が熱くなり思わずと言った具合で神楽坂の口から言葉が零れる。

 

「済まない、みんな! オレの為に……!」

 

 それは感謝。

 

 だが、イエロー寮の面々とて100%の善意で協力している訳ではない。

 

「何言ってんだよ! 俺だって遊戯さんとデュエルしてみたいし!」

 

「疑似的な物ではあるが、全デュエリストの憧れだからな!」

 

「ハハハ! 連戦になるぞ! 今の内に覚悟をしておくといい!」

 

 十代、三沢、大山(たいざん)が代弁して見せたように、神楽坂の類まれなる記憶力から再現されたデュエルキングとのデュエルの機会があるやもしれない――となれば、是が非でも実現したくなるのがデュエリストという生き物。

 

「ああ! 完成の暁にはみんなでデュエルしよう!!」

 

 ならば、神楽坂が返す言葉は一つしかない。同僚の仲間として、友として、そして疑似デュエルキング(武藤 遊戯)として、チャレンジャーっぽい相手からの挑戦を受けるのみ。

 

 

 その時こそが――

 

 

「―― そ れ が オ レ た ち の バ ト ル シ テ ィ だ!!」

 

 

 彼らの決戦の舞台となる。

 

 

 

 こうして、一体感で変なテンションになったイエロー寮生たちは一致団結して、武藤 遊戯を追い求める。集団が同じ方向を向いた時の妙な万能感の恐ろしさが此処にはあった。

 

 

 後に彼らへ「武藤 遊戯のデッキ展示」というタイムリーな知らせが入るのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 影丸理事長に匿われているであろうアムナエルの居場所をキャッチした神崎は、影丸理事長が所有する人目を避けるように建てられた巨大なビルの前に立っていた。

 

 だが、その建物にはある筈の玄関はおろか入り口すらなく、恐らく特定の人物(影丸理事長)か内部からの操作のみでしか侵入者を許さないまさに灰石(コンクリート)の城。

 

「インターホン……は、流石にないか」

 

 当然、ビルの前に立つ神崎が内部に来訪を知らせることすら叶わない。

 

「お邪魔します」

 

 ゆえに神崎は適当な壁を蹴り砕き、強引に入り口を作ってビル内部に来訪。

 

 途端に、熱源・振動などの諸々の探知を請け負う赤いモノアイを光らせる筒状の機械仕掛けのガードマンたちが左右から展開した銃口に火を吹かせる中――

 

――執行猶予付くといいんだが……

 

 いつの間にか、それら防衛ロボ(機械のガードマン)の隣に移動していた神崎は、防衛ロボの機能中枢のあるモノアイ付近の筒の頂点を理外の握力で握り潰しながら、些末事を考えつつ天井を見上げた。

 

 

 その視界に映る、屋上のヘリポートに向かっているであろう特徴的な(バー)を持つアムナエルと、その隣の弱々しい(バー)を視界に収めながら神崎は突き進む。

 

 

 不法侵入、器物損壊、暴行(予定)、殺人未遂(予定)などの数多の犯罪行為を重ねながら。

 

 

 そんな彼の背後で防衛ロボが破壊された際の衝撃で爆炎を上げていた。

 

 

 






※原作はカードゲームアニメです。

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