マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
厄介なファンに絡まれた





第254話 修羅に堕つる

 

 始まった一方的な因縁をはらむ一戦を前に、デイビットは逸る気持ちを抑えきれない様子で叫ぶ。

 

「さぁ、カイザー! 先攻後攻、好きな方を選べ! MeはYouに言い訳の一つすら許すつもりはない!」

 

 それは自ら有利を手放す行為に等しいが、デイビットからすれば必要な儀式だ。

 

「なら俺は後攻を選ぶ」

 

「フン、サイバー流お得意の戦法か。良いだろう、Meのターン! ドロー!!」

 

 やがて、予想通りのつまらない答えを返した亮を余所に、先攻を得たデイビットはカードを引くが、初期手札と加えたカードを見てピクリと動きを止める。

 

――なんだ、この手札は?

 

「《カオス・グレファー》を召喚! そして効果発動! 手札の光属性1体を墓地に送り、デッキから闇属性1体を墓地へ!」

 

 そんなデイビットが最初に繰り出したのは筋骨隆々の白髪戦士。その《カオス・グレファー》が闇のオーラが宿る白金の剣を掲げれば、デイビットの墓地に混沌たる力が渦を巻く。

 

《カオス・グレファー》 攻撃表示

星4 属性 戦士族

攻1700 守1600

 

「カードを3枚セットし、魔法カード《命削りの宝札》発動! 手札が3枚になるようドロー!」

 

 そして墓地にカードを送りつつ布陣を整え、新たにカードを引いたデイビットは手札で隠れた口元の裏で獰猛な笑みを浮かべながら確信する。

 

――オイオイこれじゃ……Meの勝ちじゃないか!

 

 己の勝利を。

 

 やがて、永続魔法《魂吸収》を発動し、カードを1枚セットしたデイビットはエンド時に魔法カード《命削りの宝札》のデメリットにより残った手札を捨ててターンを終えた。

 

 

 

デイビットLP:4000 手札0

《カオス・グレファー》攻1700

伏せ×4

《魂吸収》

VS

亮LP:4000 手札5

 

 

 しかし亮からすれば、少々不気味なフィールドである。あれだけの啖呵を切った割りには静かすぎる立ち上がりに罠の気配を感じるも――

 

――攻撃力1700の下級モンスターが1体……誘っているのか?

 

「俺のターン、ドロー! 俺は――」

 

「待って貰おうか! Youのスタンバイフェイズに罠カード《ナイトメア・デーモンズ》で《カオス・グレファー》を墓地に送って発動! これでYouのフィールドに3体のトークンをプレゼントだ!」

 

 亮がカードを引いた瞬間に《カオス・グレファー》はドロリと黒い泥に溶け、三つに分かれて亮のフィールドに白髪の黒い人型となって現れた。

 

『ナイトメア・デーモン・トークン』×3 攻撃表示

星6 闇属性 悪魔族

攻2000 守2000

 

「喜べよ、カイザー! 攻撃力2000のモンスターが3体も揃ったんだからな! HAHAHA!」

 

 そして挑発気に嗤うデイビットの声に、観客となった吹雪と藤原がその狙いを看破するが――

 

「おっと、これじゃあ相手がいた上で自分のモンスターが0じゃなきゃ特殊召喚できない《サイバー・ドラゴン》が呼べないね」

 

「デイビットくんは、カイザーのデッキを熟知した上で此処に来ている……」

 

「その通りさ、剣帝(パラディン)! Meはカイザーの全てのデュエルを見た上で相応しくないと判断したんでネ!」

 

 己の師をあざけるデイビットの姿に、亮は一度静かに閉じた瞳を開眼させて宣言した。

 

「……《サイバー・ドラゴン》の特殊召喚を妨害できてご満悦のようだが――俺の! そして師範の! リスペクトデュエルは! サイバー流は! その程度で倒される程、浅くはない!!」

 

 サイバー流のデュエルは、この程度の苦難を前に挫けるものではないのだと。

 

「俺は魔法カード《パワー・ボンド》を発動! 機械族融合モンスターの攻撃力を倍にして融合召喚する!!」

 

 そして亮が天に掲げて発動を宣言するカードは、亮の象徴たる1枚であり、最も信頼するサイバー流の奥義。

 

「俺は手札の2枚の《サイバー・ドラゴン》を――」

 

「浅いんだよォ!! チェーンして罠カード《リバース・リユース》発動! Meの墓地のリバースモンスターを2体までYouのフィールドに裏守備表示で特殊召喚する!!」

 

「――ッ!?」

 

 だが、そんな奥義が降り立つ先であった亮のフィールドは3体の『ナイトメア・デーモン・トークン』と裏側のカードによって塞がれ、着地先を失うこととなる。

 

「モンスターゾーンを埋められた!?」

 

「彼のエクストラデッキにトークンか裏守備モンスターを素材に出来る融合モンスターがいれば、突破は可能だけど……あの様子じゃ無理そうネ」

 

 やがて焦った様子の藤原の声を後押しするようにレジーが溜息を吐く中、亮は出花を挫かれた事実に悔しさを見せながらも、今の亮には己の象徴を無為に墓地に送る他ない。

 

「くっ……! 魔法カード《パワー・ボンド》の効果は不発に終わり、墓地に……送られる」

 

「こうも簡単にサイバー流の奥の手を無駄にするとは……本当にYouはMeを失望させてくれるネ――トークンをリリースして《サイバー・ドラゴン》をアドバンス召喚してれば、防げただろうに」

 

「……ッ!」

 

 そうして、あげつらうようにプレイミスを嘆いて見せるデイビットの姿に亮は歯嚙みする中、観客席の小日向はヤジ混じりの声援を送るが――

 

「ハァ、結果論に惑わされんじゃないわよ。2000打点リリースして2100打点呼んでも仕方なかったでしょ」

 

「違うよ、小日向くん。《パワー・ボンド》は亮にとって特別な意味を持つカード……それを躱された事実は単純なアドバンテージ以上に重いんだ」

 

「僕も《オネスト》を躱される時があるから良く分かるよ」

 

 吹雪と藤原の言う通り、《パワー・ボンド》のカードは亮にとってかなり思い入れのある1枚である為、それを無為に失った事実はデュエルに大きな影を落とす。

 

「ならばバトルだ! 3体の『ナイトメア・デーモン・トークン』でダイレクトアタック!!」

 

 だが、それでも果敢に攻めの姿勢を崩さぬカイザーが『ナイトメア・デーモン・トークン』をけしかければ――

 

「不用心だな――ダイレクトアタック時に罠カード《パワー・ウォール》発動! バトルダメージを無効にし、受ける筈だったダメージ500につき1枚! デッキからカードを墓地に送る!」

 

 1体目の『ナイトメア・デーモン・トークン』の拳はカードの壁に阻まれる。

 

「だが、2体目以降のトークンの攻撃は止まらない!」

 

「そいつはどうかな! 墓地に送られた4枚のカードの内の1枚――《絶対王 バック・ジャック》の効果発動! デッキトップ3枚の順番を操作! 更に自身を除外しデッキトップが罠カードならセット!」

 

 やがて『ナイトメア・デーモン・トークン』の2体目、3体目を突撃させた亮だが、地面からジェット噴射が空に上がったと思えば、1枚のカードがデイビットのフィールドに伏せられた。

 

「カードが除外されたことで永続魔法《魂吸収》の効果によりMeは500回復するが、今は大した問題じゃない!」

 

デイビットLP:4000 → 4500

 

「そして《絶対王 バック・ジャック》でセットしたカードはこのターンに発動可能! さぁ、発動しろ罠カード《戦線復帰》! 墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚だ!!」

 

 さすれば、その伏せられたカードが光輝くと同時に――

 

Planet(プラネット)! The() One(ワン)!!」

 

 空から隕石がデイビットのフィールドに落下し、クレーターを生み出した。

 

 だが、そのクレーターの中から隕石と思しき黒鉄の球体が独りでに浮かび上がる。

 

「――《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》!!」

 

 そして土を払うように一回転した先にあるのは、身体の中央を光の帯が輪のように囲む銀縁の黒鉄の要塞の如き姿。

 

 やがて宙に浮かぶ二つの剛腕の拳を打ち合わせたと同時に、背中の二門のロケットブースターがデイビットの闘志に応えるように火を吹いた。

 

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》 守備表示

星8 闇属性 機械族

攻2800 守2200

 

「プラネットシリーズ……だと……!?」

 

「そんな馬鹿なッ! あのカードはキース・ハワードが所持している筈だよ!?」

 

 この場に存在する筈のないカードの出現に呆然と呟く亮を余所に、内実を語る藤原だが、その全てをデイビットは一蹴してみせる。

 

「勿論、Meがチャンプ自身から継いだのサ! 彼に代わって!」

 

――彼?

 

 このカードは正真正銘、キース・ハワードが有していた本物のプラネットシリーズの1枚なのだと。

 

「このカードがMeの元に舞い降りたのは運命のいたずらに過ぎない――だが!」

 

 やがて「彼」との言葉のニュアンスに疑問を覚える亮を余所に、デイビットは己の決意と覚悟を語って見せる。

 

「だからこそMeは! こいつを全米チャンプに! いや、それすら超えた()の玉座に! 連れて行く義務があるのサ!!」

 

 かつての全米チャンプが果たせなかった栄光へ、託されたカードと想いと共に全てを背負って行くのだと。

 

「さぁ、カイザー! MeのSATURN(サターン)を前にどう動く!」

 

「……俺はバトルを終了し、魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いの手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする!」

 

「フン、Meの手札は0だ」

 

 そうして己の攻撃に立ちふさがる《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》を前に撤退を余儀なくされた亮は埋められたモンスターゾーンにやり難さを覚えつつも――

 

「永続魔法《補充部隊》を発動し、カードを2枚伏せる。そして魔法カード《命削りの宝札》により3枚ドロー! さらに2枚のカードをセット……ターンエンドだ」

 

 どうにか体制を整えつつ、ターンを終えると同時に魔法カード《命削りの宝札》の

デメリットで手札を捨ててターンを終えた。

 

 

デイビットLP:4500 手札0

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》守2200

伏せ×1

《魂吸収》

VS

亮LP:4000 手札0

裏守備モンスター×2

『ナイトメアトークン』×3 攻2000

伏せ×4

《補充部隊》

 

 

「Meのターン、ドロー! メインフェイズ開始時に魔法カード《強欲で金満な壺》を発動する――Meのエクストラデッキ6枚を除外し、2枚ドロー! カードが除外されたことで《魂吸収》で回復!」

 

デイビットLP:4500 → 7500

 

 そうして思うようにデュエルが出来ない亮を余所に、思うが儘にデュエルするデイビットは手札を補充しつつ、一気にライフを回復して――

 

SATURN(サターン)を攻撃表示に変更し、バトル!!」

 

 防御の為に交差した腕を解き放った《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》が拳を打ち鳴らす中、攻勢に移る。

 

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》 守備表示 → 攻撃表示

守2200 → 攻2800

 

「セットモンスターを叩き潰せ、SATURN(サターン)! Anger(アンガー) HAMMER(ハンマー)!!」

 

「――セットモンスターを!?」

 

 だが、攻撃表示の『ナイトメア・デーモン・トークン』たちを素通りした《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》に亮が予想外だと驚きの声を漏らす中、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の剛腕は裏側のカードに叩きつけられる。

 

 そして明かされる裏守備表示の正体は、六本腕を持つ醜き異形の怪物が奇怪な叫び声と共に、脱皮するように赤い表皮を弾けさせれば――

 

《ワーム・ヴィクトリー》 裏守備表示 → 表側守備表示

星7 光属性 爬虫類族

攻 0 守2500

 

「MeがYouにプレゼントした《ワーム・ヴィクトリー》のリバース効果! フィールドの爬虫類族『ワーム』以外の全ての表側モンスターを破壊する!!」

 

 《ワーム・ヴィクトリー》の弾けた表皮が血の雨のようにフィールド全域に降り注ぐ。

 

 さすれば、その血の如き雨を受け、3体の『ナイトメア・デーモン・トークン』は苦しみにうめくように倒れ、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》もまた故障し、エラーを起こしたようにその身体を明滅させ始めた。

 

SATURN(サターン)ごと破壊する気なの!?」

 

「いや、SATURN(サターン)の効果は――」

 

「そうサ! SATURN(サターン)が『相手の効果によって破壊された』瞬間! 互いにSATURN(サターン)の攻撃力分!2800ポイントのダメージを与える!!」

 

 やがて小日向の声を余所に全てを察した亮へ、デイビットは称賛の声を送りつつ握った拳の親指を振り下ろしつつ、フィニッシュ宣告を放つ。

 

「拙い、『ナイトメア・デーモン・トークン』も破壊された際に亮へ800のダメージを与える効果がある!?」

 

ONE(ワン) SHOT(ショット) KILL(キルゥ)……」

 

END(エンド)は二人もいらない――消えろ、カイザー!!」

 

 そして、ダメージが2800に留まらない事実を藤原が叫ぶ中、やたらと発音の良い吹雪の呟きを余所に、デイビットは両手を広げ――

 

 

「――DOUBLE(ダブル) IMPACT(インパクト)!!」

 

 

 起爆を宣言。

 

 

 途端に《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》は全身の隙間から光を放つと同時に爆発し、敵味方問わず全てを消し去らん勢いで爆炎を轟かせた。

 

 

「かのカイザーも意外と呆気ない最後だったわネ」

 

 

 そうして爆発の余波の煙の中からレジーは勝利したデイビットの機嫌が直っているかを窺うが――

 

 

 

デイビットLP:7500 → 6100

 

亮LP:4000 → 1400

 

 

「耐えた!」

 

「全く、ハラハラさせるんじゃないわよ……」

 

 デイビットだけでなく、亮のライフも健在な事実に藤原と小日向は毛色の違う歓声を送る。

 

「……ぐっ……、俺は、墓地の罠カード《ダメージ・ダイエット》を除外……した」

 

 支払った代償は決して小さくはなくとも、ライフダメージ1000ごとに手札を補充できる《補充部隊》の効果で1枚ドローする亮の闘志は折れてなどいない。

 

「フン、考えることは同じか。Meも墓地の罠カード《ダメージ・ダイエット》を除外させて貰った――これで2枚のカードが除外されたことでMeのライフは《魂吸収》により1000回復だ」

 

デイビットLP:6100 → 7100

 

「だが、なにを安心してるんだ? このターン受ける効果ダメージを半減して助かった気か?」

 

 しかしダメージ軽減とライフ回復を同時に行っていたデイビットは、気の抜けた亮を叱責するように1枚のリバースカードに手をかざした。

 

「ぬるいんだよ!! リバースカードオープン! 永続罠《リビングデッドの呼び声》発動! 甦れ、SATURN(サターン)!!」

 

 さすれば再び《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》がデイビットの傍らに戻り、その剛腕の拳を握る。当然、その拳が狙う先は――

 

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》 攻撃表示

星8 闇属性 機械族

攻2800 守2200

 

「再び裏守備モンスターに! 最後に残った裏守備表示の《ワーム・ヴィクトリー》へ攻撃!! Anger(アンガー) HAMMER(ハンマー)! Second(セカンド)!!」

 

 《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の起爆コードとなるもう1枚の裏守備モンスターの1体、《ワーム・ヴィクトリー》の元へ、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の拳が振り下ろされる。

 

「拙い! 半減しても1400のダメージを受けたら亮は!!」

 

 それの意味するところは焦った様子の吹雪の声が示している。再び《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》が爆発すれば、丁度、亮のライフをピッタリ削れる計算だ。

 

「その攻撃宣言時、罠カード《敵襲警報-イエローアラート-》を発動! 手札のモンスターを特殊召喚し、そのカード以外への攻撃を封じる!!」

 

 しかし、カイザーと呼ばれた男が、これ以上の好き勝手を許す筈がない。彼の背後に鳴り響くコールに従い、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の拳を防ぐように1枚のカードが飛び出せば――

 

「来い! 《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》! そして、このカードはフィールド・墓地にて《サイバー・ドラゴン》として扱う!」

 

 白い眼球のような光が浮かぶ丸い金属の球体を数珠つなぎにした《サイバー・ドラゴン》の骨支を思わせる機械竜が、行く手を遮るように現れた。

 

《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》 → 《サイバー・ドラゴン》 守備表示

星1 光属性 機械族

攻 100 守 100

 

「なら、そのまま粉砕しろ、SATURN(サターン)!!」

 

「くっ……! だが、対象モンスターが消えたことで、これ以上の攻撃は叶わない!」

 

 だが、その守備力はたったの100――壁にしかならない数値だが、この瞬間においては値千金の壁だった。

 

「破壊されたヘルツの効果により墓地の《サイバー・ドラゴン》を手札に!」

 

「フン、首の皮一枚繋いだか……《クリバンデット》を召喚し、カードを1枚セット――Meはこれでターンエンドだ」

 

 やがて手札を一気に整えて来た亮へ、デイビットは油断することなく

 

 盗賊風の毛玉を呼び出し、ターンを終えようとするが――

 

《クリバンデット》 攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1000 守 700

 

「待って貰おう! そのメインフェイズ2終了時に墓地の罠カード《ハイレート・ドロー》の効果! 自分フィールドのカード1枚――裏守備モンスターを破壊し、このカードをセット!」

 

 それに亮が待ったをかけると同時にフィールドの裏守備モンスターに1枚のカードが突き刺さり、一度ドロドロと溶けた後に魔法・罠ゾーンに収まっていった。

 

「ハッ、慌ててSATURN(サターン)のスイッチを破壊したか。エンド時に《クリバンデット》をリリースし、デッキの上の5枚の中から――魔法カード《強欲で金満な壺》を手札に加え、残りを墓地へ送る」

 

 こうして《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の起爆キーである《ワーム・ヴィクトリー》を除去した亮をしり目に《クリバンデット》から1枚のカードを受け取ったデイビットは今度こそターンを終える。

 

 

 

デイビットLP:7100 手札1

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》攻2800

伏せ×1

《魂吸収》

《リビングデッドの呼び声》

VS

亮LP:1400 手札1

伏せ×4

《補充部隊》

 

 

 

 そして、最初のターンの無様を嗤うような挑発が届く中、亮はデッキからカードを引き抜いた。

 

「そろそろ本気を見せて欲しいところだ」

 

「俺のターン、ドロー! 相手フィールド上にのみモンスターがいる時! 手札からこのカードは特殊召喚できる! 来い! 《サイバー・ドラゴン》!!」

 

 待望の時とばかりに来たる、白銀の装甲に覆われた蛇のように長い体躯を持つ機械竜が、闘志に満ちた機械音染みた雄叫びを上げた。

 

《サイバー・ドラゴン》 攻撃表示

星5 光属性 機械族

攻2100 守1600

 

「更に《サイバー・ドラゴン・コア》を通常召喚! このカードもフィールド・墓地では《サイバー・ドラゴン》として扱う!」

 

 さらにその列に赤いコアを身体の中央に憑りつけた黒いやせ細った蛇を思わせる機械竜が加わる。

 

《サイバー・ドラゴン・コア》→《サイバー・ドラゴン》 攻撃表示

星2 光属性 機械族

攻400 守1500

 

「更にコアの効果によりデッキから『サイバー』カード1枚――魔法カード《サイバー・レヴシステム》を手札に!」

 

「融合素材を揃えたようだが《パワー・ボンド》は墓地! 手札を使い切ってサイバー・エンドでも融合して見せるか? Meのライフは削り切れないだろうがな!」

 

 こうして兄弟(他ナンバー)機の特性を利用して実質的な《サイバー・ドラゴン》たちを集め、サイバー流の切り札に繋げる準備をする亮へ、デイビットは称賛を贈りつつも、「だからこそ」初動の失敗が響くとあげつらうが――

 

「それはどうかな?」

 

「Why?」

 

「罠カード《サイバネティック・レボリューション》発動! フィールドの《サイバー・ドラゴン》を墓地へ送り、エクストラデッキから舞い降りろ――」

 

 亮がフィールドに手をかざした途端、《サイバー・ドラゴン・コア》の姿が黒き影に覆われて行き、大翼を広げて飛翔すれば――

 

「――《サイバー・エンド・ドラゴン》!!」

 

 巨大な翼を広げる三つ首の機械竜が、その巨躯をうならせながら生誕の雄たけびを天に届かんばかりに響かせた。

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》 攻撃表示

星10 光属性 機械族

攻4000 守2800

 

「1体のモンスターで融合だと!?」

 

「だが、その代償として次のターンのエンド時に墓地に送られる……だが、今はそれで十分だ!!」

 

 最小の消費で最大のリターンたる《サイバー・エンド・ドラゴン》を呼び寄せた亮は、前のターンに伏せた魔法カード《アイアン・ドロー》で2枚ドローしつつ、ダメ押しの1枚を発動。

 

「魔法カード《サイバー・レヴシステム》! 墓地より甦れ、2体目の《サイバー・ドラゴン》!」

 

 さすれば2体目の《サイバー・ドラゴン》がその列に並び、白金の機械竜が3体揃い踏み。

 

《サイバー・ドラゴン》 攻撃表示

星5 光属性 機械族

攻2100 守1600

 

「総攻撃力は8200……相変わらずのパワーね」

 

――不調の中でコレって……

 

「――バトルだ!! サイバー・エンドの攻撃! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!」

 

 やがて小日向の呟きを余所に、亮の闘志に呼応した《サイバー・エンド・ドラゴン》が三つ首から破壊のブレスを放てば拳で迎え撃った《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の反撃など意に介さず、主の怨敵を消し飛ばす。

 

「チィッ! SATURN(サターン)が!」

 

デイビットLP:7100 → 5900

 

「そして2体の《サイバー・ドラゴン》のダイレクトアタック! ダブル・エヴォリューションバーストッ!!」

 

 さらに2体の《サイバー・ドラゴン》たちも口元に光り輝くブレスをチャージし、無防備なデイビットに放つが――

 

「そいつは無駄サ! 墓地の罠カード《光の護封霊剣》を除外し、このターンMeへのダイレクトアタックを封じる! そしてカードの除外により《魂吸収》で回復!」

 

 その二筋のブレスを遮るように現れた二つの光十字が盾となって受け止め、デイビットには届かない。

 

デイビットLP:5900 → 6400

 

「躱したか……」

 

――強い……トップエリートの名は伊達ではない。この彼すら届かなかった「END(エンド)」、どれ程のデュエリストだったんだ……

 

 こうして己の猛攻をしのいだデイビットへ、恩師を侮辱した男へも、亮は心中で敬意(リスペクト)を贈る。

 

 デイビットが何を想って己に挑んで来たのは、今の亮には分からない(リスペクト仕切れない)

 

「カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

――だが、今の俺に出来ることは彼のデュエルに敬意(リスペクト)を以て望むことだけだ!

 

 しかし、それでも亮は分からないなりにデイビットを知ろうとするが――

 

「STOP! そのエンド時、永続罠《リターナブル瓶》を発動! 墓地のMeの罠カード1枚を除外し、墓地の罠カード1枚《リバース・リユース》を手札に加える! カードを除外したことで《魂吸収》で回復!」

 

デイビットLP:6400 → 6900

 

――あのカードで俺は……

 

 デイビットの足元から這い出した宝石が散りばめて顔を模した壺から吐き出された1枚のカードに、先程の敗北寸前だった光景が脳裏を過る。

 

 

 

デイビットLP:6900 手札2

《魂吸収》

《リターナブル瓶》

VS

亮LP:1400 手札0

《サイバー・エンド・ドラゴン》攻4000

《サイバー・ドラゴン》×2 攻2100

伏せ×4

《補充部隊》

 

 

 

「Meのターン、ドロー! メインフェイズ開始時に再び魔法カード《強欲で金満な壺》を発動! エクストラ6枚を除外し、2枚ドロー!」

 

 やがて、今まで感じたことのない焦燥感の只中にいる亮を余所にデイビットはドローしつつ、すぐさま前のターンに手札に加えていた欲深き壺でドローとライフ回復を図り――

 

「さらに永続罠《リターナブル瓶》の効果で墓地の罠カード1枚を除外し、墓地の罠カード1枚を手札に! これで合計7枚のカードが除外された! 《魂吸収》で回復!」

 

デイビットLP:6900 → 1万400

 

 墓地からのカード回収も絡めて1万越えのライフを獲得したデイビットは1枚のカードを天にかざした。

 

「魔法カード《死者蘇生》! 三度(みたび)、甦れ――SATURN(サターン)!!」

 

 さすれば、天上の世界より《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》がフィールドに降り立つ。

 

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》 攻撃表示

星8 闇属性 機械族

攻2800 守2200

 

「此処でMeの手札の1枚と1000のライフをコストにSATURN(サターン)は真の力を解放する!! Mode(モード) Change(チェンジ)!!」

 

 そして、真の力を解放せんと《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の駆動部が音を立てて開いていけば――

 

デイビットLP:1万400 → 9400

 

「――FINAL(ファイナル) MODE(モード)!!」

 

 両肩と足元から二門ずつの砲台が解放され、身体の中央部を強調するようにスライドした装甲から満ち溢れるエネルギーを示すように熱波が迸る。

 

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)

攻2800 → 攻3800

 

「バトル!! 《サイバー・ドラゴン》を粉砕し、フィニッシュを決めろ! SATURN(サターン)!!」

 

「それは通さない! 罠カード《アタック・リフレクター・ユニット》発動! 《サイバー・ドラゴン》1体を進化させる! デッキより次元進化!!」

 

 そうして完全開放された《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の両肩と脚部、そして変形した両腕の砲台から同時発射される中、砲弾の迫る《サイバー・ドラゴン》の周囲に新たなアーマーが襲来。

 

「――来たれ、《サイバー・バリア・ドラゴン》!!」

 

 そして、《サイバー・ドラゴン》の1体とドッキングし、鋭角的なフォルムを得つつ首元の4つの鍵爪のようなアンテナがついた頑強な輪状の防具を装着し、尾の先にレーザーの射手口を装備した新たな姿と化した。

 

《サイバー・バリア・ドラゴン》 攻撃表示

星6 光属性 機械族

攻 800 守2800

 

「ハン! だが、その攻撃力はたった800!!」

 

「攻撃表示の《サイバー・バリア・ドラゴン》は相手モンスター1体の攻撃を無効化できる!! エヴォリューション・バリア!」

 

 さすれば、止まらぬ筈の《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の砲撃は、《サイバー・バリア・ドラゴン》が頭を亀のように首元の装甲にうずめ、その首元の周りから伸びるアンテナから発せられたエネルギーが光の壁となって受け止める。

 

「無駄だと言ったのが分からないようだな! 墓地の罠カード《ブレイクスルー・スキル》を除外し、サイバー・バリアの効果を無効!!」

 

「!?」

 

「その貧相な攻撃力を恨んで、お寝んねしな!!」

 

 しかし、《サイバー・バリア・ドラゴン》の首元のアンテナがひび割れ始めると同時に、展開していた光の壁にも亀裂が広がっていき――

 

「ならば、罠カード《ハイレート・ドロー》を発動! 《サイバー・ドラゴン》とサイバー・バリアを破壊し、1枚ドロー!」

 

 《バリア》によって展開された光の壁が砕け散る瞬間に、亮は自らサイバー・ドラゴンたちを破壊。対象が消えたことで砲撃は獲物を見失い亮の背後に着弾し、爆炎を上げる他ない。

 

「そして自身の効果でセットされていた《ハイレート・ドロー》は除外されるが――お前には俺のフィールドに唯一残った《サイバー・エンド・ドラゴン》が立ち塞がる!」

 

 こうして、亮の象徴たる《サイバー・エンド・ドラゴン》がデイビットの魂たる《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の前に立ちふさがる。

 

「なら、そいつを叩きのめしてやるまでサ!! 行け、SATURN(サターン)!!」

 

 だが、デイビットが臆する筈がなかった。

 

「墓地の2枚の《スキル・サクセサー》を除外し効果発動! SATURN(サターン)の攻撃力を800――2枚分で1600のパワーアップだ!!」

 

 奥の手中の奥の手とばかりに《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の胸部部分が展開し、一際大きな砲台がピピピと音を立てながらエネルギーをチャージしていき――

 

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)

攻3800 → 攻5400

 

「――End(エンド) of(オブ) COSMOS (コスモス)!!」

 

 周囲の空気を揺らしながら螺旋を描き放たれるは破壊の一撃。

 

 それに対して《サイバー・エンド・ドラゴン》は三つ首より三筋のブレスを放って迎撃せんとするが、削岩機(ドリル)のようにブレスを巻き込み突き進む《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の一撃はブレスすら呑み込んだ一撃と化して三つ首の機械竜を爆炎の海に突き落とした。

 

「ぐぅぁぁぁぁあぁぁあ!!」

 

 それにより発生した1400のダメージを以てジャストキル――亮のライフは尽きることとなる。

 

 

 

 そして爆炎轟く地獄から、機械竜の咆哮が響き渡った。

 

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》

攻4000 → 攻4300 → 攻4000

 

カイザーLP:1400 → 300

 

「チッ、中々しぶといじゃないか」

 

「ハァ……ハァ、俺は罠カード《アームズ・コール》にてサイバー・エンドに装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備……した」

 

「フン、成程ネ。そいつの相手モンスター1体につき攻撃力が300上がる効果で延命した訳だ」

 

「1000ポイントのダメージを……受けたことで、《補充部隊》で1枚ドローさせて貰う……」

 

 かくして満身創痍で辛うじてライフという名の命を繋いだ亮の姿にデイビットは舌打ちしつつも、状況を正確に把握。

 

 亮のライフは尽きる寸前だが、手札は2枚と逆転の布石を残しつつ、追撃しようにも《サイバー・エンド・ドラゴン》が立ちはだかる。

 

「そして装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を代償に、俺のサイバー・エンドは倒れない……!」

 

「今のYouと同じように虫の息とは、見苦しい限りだよ、HAHAHA!」

 

 そうして、未だ倒れぬ己のマイフェイバリットを誇る亮、デイビットは嗤いつつも、その瞳は死に体の亮を鋭く捉えて離さない。

 

「先のバトルで合計4枚のカードが除外された――永続魔法《魂吸収》の効果で2000回復させて貰う」

 

デイビットLP:9400 → 1万1400

 

 やがて《ブレイクスルー・スキル》、《ハイレート・ドロー》、2枚の《スキル・サクセサー》の除外分のライフを回復しつつ、カードを3枚セットしてターンを終えた。

 

「ターンの終わりにYouの死にぞこないのサイバー・エンドは自壊し、MeのSATURN(サターン)FINAL(ファイナル) MODE(モード)は解除される」

 

 かくして、《サイバー・エンド・ドラゴン》が罠カード《サイバネティック・レボリューション》のデメリットで光の粒子となって消えていく中、

 

 デイビットの《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》も展開した身体の隙間から冷却用の煙を出しつつ、普段のノーマルモードへと移行。

 

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)

攻5400 → 攻2800

 

 

デイビットLP:1万1400 手札0

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》攻2800

伏せ×3

《魂吸収》

《リターナブル瓶》

VS

亮LP:300 手札2

伏せ×1

《補充部隊》

 

 

 だが、爆発的に上がった《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の攻撃力が元に戻ろうとも、互いのアドバンテージの差は全ての面においてデイビットが握っていた。

 

 辛うじて手札は上回っていようとも、盤面差を思えばないに等しい代物。

 

 亮の耳に敗北の足音が聞こえ始める。

 

 ()()負ける。負けて失う。師が、可能性が、未来の選択肢が、なにもかもが亮の掌から零れ落ちていく。

 

「俺の……俺のターン! ドロー!」

 

――考えるな! 今はデュエルに集中しろ! 師範が信じたリスペクトデュエルに!!

 

 しかし、そんな迷いを振り切った亮は引いたカードに己が間違っていないのだと確信を得た。

 

「墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》の効果! 自身を除外しデッキから『サイバー・ドラゴン』カードを1体――《プロト・サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!!」

 

 墓地に眠りし《サイバー・ドラゴン・コア》がその黒き数珠繋ぎの身体を砕けば、くすんだ灰色の筒状を連ならせた型落ち品のプロトタイプな機械竜がとぐろを巻いた。

 

《プロト・サイバー・ドラゴン》 → 《サイバー・ドラゴン》 守備表示

星3 光属性 機械族

攻1100 守 600

 

「そして俺のフィールド・墓地の光属性・機械族モンスターを全て除外し、降臨せよ!!」

 

 そして、今ここに亮は掲げた右腕の先の天に思いを託す。さすれば天上の世界より――

 

「――《サイバー・エルタニン》!!」

 

 巨大な機械仕掛けの竜の頭部が空中要塞よろしく姿を見せ、その背面から排出された小型の機械竜の頭が獲物を探すように周囲を舞う。

 

《サイバー・エルタニン》 攻撃表示

星10 光属性 機械族

攻 ? 守 ?

 

「《サイバー・エルタニン》の攻撃力は特殊召喚時に除外したカードの数×500となり、特殊召喚時、フィールドの全てのモンスターを墓地に送る!! コンステレイション・シージュ!!」

 

 やがて《サイバー・エルタニン》の周囲を舞う竜の顎たる子機(ファンネル)がデイビットのフィールドへと一斉に火を吹き、その全てを薙ぎ払った。

 

「何度挑もうと同じことサ! カウンター罠《昇天の剛角笛》発動! そいつの特殊召喚を無効!!」

 

「くっ……!?」

 

 かに思われたが巨大な角笛の音波が《サイバー・エルタニン》の電子回路を狂わせれば、宙に浮かぶ要塞たるその身は煙を上げながら墜落。

 

 当然、竜の顎型の子機(ファンネル)も機能を停止し、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》を射抜くことは叶わない。

 

「更にYouへ1枚ドローさせる代わりに、強制的にバトルフェイズとなる! まぁ、Youには攻撃する為のモンスターが1体たりともいないがな! HAHAHA!」

 

「ド……ロー」

 

――……!?

 

 そうして逆転をかけた《サイバー・エルタニン》すら躱され、モンスターのいない状況の強制バトル。だが、カードを1枚引いた亮はその瞳を大きく揺らす。

 

「おっと、忘れるなよ、カイザー! 特殊召喚が無効になろうともYouがエルタニンの除外に使用したカードは除外されたままだ。更にコアの除外の分も合わせて――Meは《魂吸収》により回復!」

 

デイビットLP:1万1400 → 1万4900

 

 やがて、天より降りる光の祝福によってライフを回復し続けるデイビットは、亮の逆転をかけた一手により、更に状況が悪くなった現状を嗤って見せた。

 

「感謝するよ、Youが無駄に足掻いたお陰でMeのライフは潤沢なんだからサ!」

 

 もはや今のデイビットのライフは亮お得意の《パワー・ボンド》によって攻撃力を倍化した《サイバー・エンド・ドラゴン》の8000の攻撃力ですら削り切れない。

 

 更に攻撃力を倍化する《リミッター解除》があったとしても、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》が立ちはだかる限り、届き得ぬ数値。

 

「もう諦めたらどうだ、カイザー? ライフ差は1万を超え、Youのモンスターは0! もはやバトルすらできない有様じゃないか!」

 

 いや、それらの選択肢はどのみち叶わない。既にバトルフェイズである以上、通常魔法の《パワー・ボンド》を発動することは叶わないのだから。

 

 そうして亮の耳に振り切った筈の敗北の足音が追い付いてくる。

 

 負ける。

 

 また負ける。

 

 また負けて失う。

 

 次は何を失う?

 

 師の理念か?

 

 サイバー流の誇りか?

 

 リスペクトの矜持か?

 

 それとも友か?

 

 それは分からない。

 

 だが、確実に言えることは一つ。

 

 失う。

 

「……だ」

 

 失ってしまう。

 

「だが、Meも鬼じゃない。Youがさっさとターンを終えれば、楽に地獄へ送ってやる!」

 

 失ってしまうの()()

 

「いやだ」

 

「……Why?」

 

「いやだ、俺は……俺は……!!」

 

 ()()()失ってしまうのなら――そんな思いにかられた亮は喉から絞り出すように示して見せる。

 

 

「――負けたくないぃいいい!!」

 

 

 今、己が最も欲しいものを。

 

 

 何もいらない。どうせ失ってしまうのなら、負けるのならば、何もいらない。

 

 

「どんな形でもいい――俺は勝ちたい……! 貴様を倒して!!」

 

 だが、勝利だけは貰う(奪う)

 

「HAHAHA! ナイスなジョークじゃないか。Meに勝つだって? 現実を見ろよ、カイザー!!」

 

 デイビットの挑発的な嘲笑すら、今の亮の心を揺さぶる代物にはなり得ない。

 

「今のYouはまさに裸の王様って奴サ!」

 

「分かったんだ。今やっと――俺はアモン戦以来、誤魔化し続けてきた」

 

 今の亮には、己の内から溢れ出る感情こそが全て。

 

「相手をリスペクトする俺のデュエル、それに準じることこそが師範の願いであり、俺の目指す先だと……だが違う」

 

 もはや師の掲げた願いも、亮の心には響かない。

 

「力無き思想に何の意味がある! あの時、俺が勝利していれば、全ての景色が違っていた筈だ!!」

 

 あの時に勝利があれば、亮の未来は全てが変わっていた。

 

 アモンを降し、仕入れた情報で友の危機に駆け付け、藤原を救い、学園の改革をうたうコブラを退け、願った未来が勝ち取れた。

 

「そう、俺は!! 飢えている! 乾いている! 勝利に!!」

 

 だからこそ、亮は心の底から求める。

 

 己の内の渇きを満たす代物。そう――

 

「お前の懐にある勝利を奪い取ってでも! 俺はァッ!!」

 

 勝利を寄こせ。

 

「ハン、ご高説どうも――だが今のYouの姿を日本じゃ『こう』言うんだろ?」

 

 だが、幾ら亮が勝利を求めたところで、デイビットの語るように現実は変わらない。盤上は変わらない。アドバンテージの差は変わらない。

 

「『負け犬の遠吠え』ってサ! HAHAHA!」

 

 攻撃すら叶わない今の状況でお得意のパワーファイトも叶わない。

 

 力の信奉者たるデイビットの実力は本物だ。亮が幾ら叫んだところで、その事実は不動のものである。

 

 しかし、そんな彼は1枚のカードを亮に託して(ドローさせて)くれた。

 

「――俺は速攻魔法《サイバー・ロード・フュージョン》を発動!! 除外されたモンスターをデッキに戻すことで融合召喚する!! 俺は全てのモンスターを生贄(素材)とする!!」

 

 サイバー流の禁じられた力を呼び起こす1枚を。

 

「これが全てを得る為の俺の足掻きだぁ!!」

 

 やがて2体の《サイバー・ドラゴン》が、

 

 小型の《サイバードラゴン・コア》と《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》が、

 

 進化体たる《サイバー・バリア・ドラゴン》と《サイバー・エルタニン》が、

 

 そして彼のフェイバリットカードである《サイバー・エンド・ドラゴン》が。

 

 それら7体の(素材)を呑み込んだ光の渦より、禁忌の力が呼び覚まされる

 

 

「――出でよ!! 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》!!」

 

 

 やがて亮の背後に浮かび上がるは今までの白銀の機械竜とは全てが異なる巨大な灰鉄の機械竜。

 

 だが、その機械竜には頭となるべき部分が存在せず、蛇のように長い体躯の根元に機械の胴体が鎮座するのみ。

 

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 攻撃表示

星8 闇属性 機械族

攻 ? 守 ?

 

「その攻撃力は融合素材としたモンスターの数×800! よって5600!!」

 

 しかし、生贄(素材)の力を吸収し終えた途端に胴体部分の各所より灰鉄の竜の首が7つ伸び、「キメラ」との名に相応しい姿へと変貌を遂げた《キメラテック・オーバー・ドラゴン》が、怒りの咆哮を轟かせれば、亮のフィールドの残りのカードが全て墓地へと送られた。

 

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》

攻 ? 守 ?

攻5600 守5600

 

「攻撃力5600だって!?」

 

「今更なにを呼ぼうがコイツで終わりサ! 罠カード《リバース・リユース》! そして永続罠《召喚制限-猛突するモンスター》!!」

 

 やがて亮の変貌に言葉を失っていた吹雪が驚きの声を漏らすが、デイビットからすればこの程度の反撃など想定内であるとばかりに2枚のカードが発動され――

 

「これでYouの場に裏側守備表示で2体の《ワーム・ヴィクトリー》が特殊召喚され、永続罠《召喚制限-猛突するモンスター》の効果により、強制リバース!」

 

 亮のフィールドに舞い戻るように赤い表皮を飛ばし血の如き雨を巻き散らしながら現れた《ワーム・ヴィクトリー》の地の底から響く叫びが、悪夢のコンボの火付け役となる。

 

《ワーム・ヴィクトリー》 裏側守備表示 → 攻撃表示

星7 光属性 爬虫類族

攻 0 守2500

 

「そのデカブツ諸共、SATURN(サターン)を破壊し、フィニッシュさ!!」

 

「……貴様の必殺のコンボか。これまでのデュエル、そいつには随分と梃子摺ったが――もう発動はさせない」

 

 やがてカウントのように明滅を速めて爆発せんとする《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》だが、普段の亮から考えられないような嘲笑う声と同時に《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の明滅のペースは大きく落ちて沈黙。

 

 その身を爆弾と化すことなく《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》はデイビットのフィールドに静かに浮かぶのみ。

 

「何故、SATURN(サターン)が起爆しない!?」

 

「俺は既に罠カード《攻撃の無敵化》を発動していた――これでフィールドのモンスター1体はこのターン『破壊されない』!!」

 

「チッ、小細工を……だがキメラテック・オーバーには消えて貰う!!」

 

 そうして、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の不発のタネを明かす亮だが、デイビットの言うように《ワーム・ヴィクトリー》の効果は一切消えてはいない。

 

 ゆえに、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》に纏わりついて圧し潰さんと《ワーム・ヴィクトリー》が迫るが――

 

「無駄だァ! 手札から速攻魔法《禁じられた聖衣》を発動! これで攻撃力600ダウンを代償に、俺のキメラテック・オーバーは効果では破壊されない!!」

 

 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の7つの首から放たれる轟きに気圧されるように《ワーム・ヴィクトリー》たちは膝をつく。

 

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》

攻5600 → 攻5000

 

「バトルだ!! やれェ!! 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》!! エヴォリューション・レザルト・バーストォッ!!」

 

 もはや3枚のリバースカードを使い切ったデイビットには、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の中央の首の1つから放たれるブレスを止める術はない。

 

 そして、そのブレスはデイビットを守らんと両腕を交差した《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》を呑み込み、その余波がデイビットを打ち据える。

 

「ぐぅっ……!!」

 

デイビットLP:1万3000 → 1万800

 

 だが、その莫大なライフを削り切るには至らない。

 

「フン……この程度か?」

 

 そして不適な笑みを浮かべるデイビットがチラと見やった亮の最後の手札も発動される様子がない。今、発動できるカードではないのだから。

 

「残念だがMeのライフを削り切るには足りない。サイバー流お得意のパワーファイトもMeには通じないのサ――さぁ、ターンを終えろ! 次のターンでとどめを刺してやるよ!!」

 

「次のタァーン? 何を言っている?」

 

 ゆえに勝利を確信したデイビットだが、その妄信を亮は嘲笑してみせる。

 

「言っただろぉ――このターンでケリをつけると! 俺は勝ァつ!!」

 

「HAHAHA! 最後の手札でも使おうって言うのか? それで1度や2度、追撃したところで――まさか!?」

 

 そして、遅ればせながらデイビットも亮の思惑を知ることとなるが、もう遅い。

 

「そう!! キメラテック・オーバーは融合素材としたモンスターの数まで攻撃できる!!」

 

「残り、6連撃……だと……!?」

 

――拙い、今のMeのライフは……

 

「――消えろ、敗者は!!」

 

 既に全てのリバースカードを使い終えたデイビットには、亮の攻撃を止める手段がない。

 

 今や《攻撃の無敵化》によって破壊されてくれない《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》は、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃をひたすら受け続けるサンドバッグ状態。

 

「エヴォリューション・レザルト・バースト――」

 

「こんな……こんな、甘ちゃん坊やにMeが……!!」

 

 やがて亮が渾身の力を込めて叫ばんとすれば、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の6つの首が死を運ぶ光の輝きを放ち始めた。

 

 

 そんな中、デイビットの脳裏を過去の情景が巡る。

 

 

“待ってよ、兄さんたち、この手紙を頼まれて――”

 

“何をしている! 兄者を待たせるような真似はするな!”

 

“ならMeが届けておくよ。約束サ”

 

“こいつはお前への礼だ――お前の言う坊主には後で俺様から別の形で礼をするからよ”

 

 巡る、幼き日の運命の出会いが。

 

“凄いなデイビット。よもやその年で中等部の生徒から勝利をもぎ取るとは……校長として誇らしく思うよ”

 

“トップエリートもこんな程度か。この学園でボクが得られそうな物はなさそうだ”

 

“また挑みに来たのか? 何度来ようとも、お前に選べるのは敗北の方法だけだ”

 

“お前も懲りない奴だ。ボクに負けるのがそんなに楽しいのか?”

 

 巡る、宿命の出会いが。

 

“ボクはあのカードを手にしなくちゃならない……欲に塗れた奴らにあのカードを渡したくないんだ”

 

“ボクの卒業デュエル――キミに受けて欲しい。勘違いするな。ボクの挑戦から逃げない相手がキミしかいないだけだ”

 

“この拍手も、歓声も、ボクだけに贈られたものじゃない”

 

“プロの世界で待っているよ”

 

 巡る、決意の別れが。

 

“「END」……彼に相応しい呼び名じゃないかしら? ライバル調査? 苦しい言い訳ネ”

 

“ああ、ペガサス会長が極東の彼を「ENDの再来」と評した。才能は確かだよ”

 

“大人になれデイビット。こんな呼び名など所詮はプロパガンダ(宣伝)の一環だ――誰も名の重みなど気にはしない”

 

 巡る、(敗北)へと続く情景が。

 

 

 ふざけるな。

 

 

「――ロォグレンダァ(六連打)ッ!!」

 

 

「――くっそぉぉおおっぉおおぉおお!!」

 

 

 やがて《キメラテック・オーバー・ドラゴン》から放たれる六筋の光線が、デイビットの相棒たる《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》を何度も貫き、そのライフの全てを削り取っていく。

 

 

 積み上げた全てを。果たす筈だった約束を。晴らす筈だった無念を。

 

 

 ふざけるな。

 

 

「Meが……」

 

「ククク……」

 

 膝をついたデイビットは、もはや屈辱に塗れる他ない。

 

「フフフ……」

 

 そして、望むものを手にした亮はたまらず笑みを漏らす。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハ!! そうだ! これだ! 勝者こそが全てを手に入れる! それこそが真理!!」

 

 今の亮は気分が良かった。勝利した。負けなかった。失わなかった。

 

 そう、ずっと己を蝕んでいた悩みを解消することなど、簡単なことだったのだ。

 

「待っていてください、師範!! 俺は、全てを手にして見せる!!」

 

 失うのが怖いのなら奪えば良い。力も、勝利も、望みも――己が欲する全てを。

 

「サイバー流も! 望んだ日々も! 頂きたるリスペクトも!! その全てを!!」

 

「亮……」

 

 

 そうして熱に浮かされるように高笑う亮の姿へ、吹雪の悲し気な視線が向けられるが、今の亮には届きはしない。

 

 

 今の亮に届くのは、屈辱に塗れ膝をつくデイビットの姿のみ。

 

 

 

 

 

 

 

デイビットLP:500

 

 僅かに()()()()()ライフのみ。

 

「なん……だと……!?」

 

「Me……は墓地の罠カード《仁王立ち》と《リターナブル瓶》の効果でカードを除外し、《魂吸収》で回復させて貰った」

 

 やがて膝を払いながら立ち上がったデイビットは己の右手で額を強く押さえ、怒りに歪んだ表情を見せながら、我慢がならない様子で叫ぶ。

 

「……屈辱だよ……Meが! お前如きに……こんな! 無様な真似をさせられるなんてサぁ!!」

 

 今のデイビットは己が許せない。

 

 彼がライバルと認めた男は、決して無様な姿を表には見せなかった。完璧を超えた先を追い求めていた。

 

 だというのに、今の己はなんだ? 相手の猛攻もさばけず、墓地のカードを無為に消費して必死に延命に縋る姿は無様でならない。

 

 しかし、そんな怒りを前に、亮は覇気の抜けた顔で呟く。

 

「何故だ……俺は勝利の為に…………」

 

 この時ばかりは全てを忘れ(捨て)、勝利だけを追い求めた――だというのに届かない現実。得られなかった勝利。

 

 次は何を捨てれば良い。何を捨てれば勝てる。

 

 だが、縋るような亮の想いに応えてくれる誰かは此処にはいない。

 

「……手札1枚で長考か? さっさとしろ。Meの気は長くないんでネ」

 

「カードを……セットしてターンエンド……だ」

 

 やがて速攻魔法《サイバーロード・フュージョン》のデメリットにより《キメラテック・オーバー・ドラゴン》以外のモンスターで攻撃できない亮は、辛うじてデュエルの意思を見せてターンを終えた。

 

 

デイビットLP:500 手札1

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》攻2800

《魂吸収》

《リターナブル瓶》

《召喚制限-猛突するモンスター》

VS

亮LP:300 手札0

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》攻5600

《ワーム・ヴィクトリー》×2 攻0

伏せ×1

 

 

「Meのターン、ドロー!! ……チッ、《リターナブル瓶》の効果で墓地の罠カードを手札に!」

 

 そうして、先の豹変が嘘のような亮の姿と、己の無様さに苛立つデイビットはカードを引くが、望むカードを引けなかった事実から、勝負の流れが亮に傾きつつある事実に更に苛立ちを募らせる。

 

デイビットLP:500 → 1000

 

「バトル! SATURN(サターン)で攻撃!! Anger(アンガー) HAMMER(ハンマー)!!」

 

 やがて、その苛立ちのままに放たれる《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の拳が攻撃力0の《ワーム・ヴィクトリー》に振るわれるが――

 

「く、来るなァ!! 罠カード《和睦の使者》!! モンスターを戦闘破壊から守り!バトルダメージをゼロにする!!」

 

「クッ、何処までもしぶとい奴だ……いい加減沈めよ! Meはカードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 迫る敗北から逃げるように発動された平和の祈りに、振るう拳を見失った《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》が戦闘態勢を解く中、デイビットは収まらぬ苛立ちのままターンを終えた。

 

 

デイビットLP:500 手札1

The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》攻2800

伏せ×2

《魂吸収》

《リターナブル瓶》

《召喚制限-猛突するモンスター》

VS

亮LP:300 手札0

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》攻5600

《ワーム・ヴィクトリー》×2 攻0

 

 

 かくして泥仕合の様相を見せるデュエル。

 

「俺の、俺のターン、ドロー!! ――くっ!」

 

――装備魔法《エターナル・エヴォリューション・バースト》……俺のバトル時に相手の効果を封殺するカード……だが……!

 

 しかし、亮は引いたカードに歯嚙みする。確かに、このカードがあれば次の攻撃をデイビットは絶対に防ぐことは出来ないだろう。

 

「俺は装備魔法《エターナル・エヴォリューション・バースト》を発動し……装備……」

 

「本当に屈辱だよ!! Meが……このMeが、お前みたいな半端者にこんな選択を取らされるなんてサ!!」

 

 だが、怒りに満ちた表情を見せるデイビットのデュエルが、彼の相棒たるカードの力の前では、今の亮は届かない。

 

「まだ……まだ、足りないのか……! 勝利のみを追い求め、鬼になろうとも届かないのか!!」

 

「罠カード《リバース・リユース》発動! リバースモンスターをYouの元へ! そして永続罠《召喚制限-猛突するモンスター》により強制リバースした《ワーム・ヴィクトリー》によって『ワーム』以外のモンスター全てを破壊する!!」

 

 そうして、亮のフィールドに現れた《ワーム・ヴィクトリー》が雄たけびを上げながら、血の如き赤い雨をばら撒けば、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の起爆スイッチが作動する。

 

《ワーム・ヴィクトリー》 裏守備表示 → 攻撃表示

星7 光属性 爬虫類族

攻 0 守2500

 

「何故だ……何故だ、なぜだ……」

 

「起爆しろ、SATURN(サターン)!!」

 

 やがて、うわ言のように亮が言葉を零す中、己から勝利を捨てる羽目になったデイビットが声の限りに叫べば、《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》の身体は明滅を速めながら、そのエネルギーを内部にため込み――

 

「――DOUBLE(ダブル) IMPACT(インパクト)!!」

 

「なぜだぁぁぁぁーーッ!!」

 

 全ての力を解き放つ輝きと共に《The (ザ・)big (ビッグ・)SATURN(サターン)》が爆ぜる中、亮は叫ぶ他なかった。

 

 

 この時ばかりは、とリスペクトを忘れ、

 

 勝利だけを追い求め、

 

 あらゆる全てを削ぎ落し、

 

 修羅に堕ちてでも、

 

 勝利をリスペクトした先に、

 

 

カイザーLP:300 → 0

 

デイビットLP:1000 → 0

 

 

 勝利()()なかったのだから。

 

 

 

 

 今の亮は行き場を失った迷い子のように叫ぶ他ない。

 

 




暗い闇の中でこそ光り輝くものもある


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