マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
レイ「ハァ……ハァ……敗北者?」

フブキング「乗るな、レイちゃん!! 戻るんだ!!」





第256話 オカルトにはロマンが詰まっている

 

 

 ダーク黒田は歓喜していた。「いずれ来たる」と毎夜の枕元でワクワクしていた(非現実)との会合が、今ここに巡り合ったのだから。

 

 まさに男のロマンとの会合。

 

「まず手短に事情、話してくれや」

 

「我が闇の叡知を――」

 

「黒田、遊びじゃねぇんだ。お前は向こうで大人しくしてろ」

 

 だが、そのダーク黒田は牛尾に首根っこを掴まれ、部屋の扉の爆破を指示していそうなアカデミア倫理委員会の女性職員の元へ放り投げられ、ドナドナよろしく引き離される中、高寺が代表して語り始める。

 

「僕たちは、デュエルのオカルト面……特にデュエルの起源である精霊の研究を――」

 

「その辺は構わねぇから、問題の根っこの方を頼む」

 

 しかし、牛尾に「オカルトブラザーズの活動内容」はすっ飛ばすように急かされた為、高寺、向田、井坂はローテーションを組むように手短な説明に変更。

 

「心霊術を応用したウィジャ盤を用いてサイコ・ショッカーの精霊を呼び出したんです!でも相手は3体の生贄が必要だって……」

 

「カードの生贄じゃなかった場合も考えて、念の為に鶏も用意しました!」

 

「なのに、相手は人間の生贄――僕らの命じゃなければ駄目だって!」

 

 そうして「3体の人間の命を求める精霊」と契約してしまった情報を把握した牛尾は、思案を重ね――

 

(形はどうあれ“儀式”で蘇ろうとしてんなら、“定められたルール”を逸脱した行動は取れねぇ筈……)

 

「校長経由で注意喚起するよう頼む。後、2チーム出して巡回――接触はすんなよ」

 

「ハッ!」

 

 アカデミア倫理委員会のメンバーに一先ずの指示を出した牛尾は、今後の方針を固めながら安心させるように、高寺たちの肩に手を置いた。

 

「取り敢えず、背格好似てる奴を囮にして、誘き出して拘束する方向にすっか。お前ら三人は一先ず此処にいろ。敵の狙いがお前らな以上、ほっつき歩かれる方が面倒だ」

 

「 「 「 は、はい……! 」 」 」

 

 かくして、安堵の息を漏らしながら緊張の糸が切れたせいか膝から崩れ落ちるオカルトブラザーズを余所に、倫理委員会の一人に抱えられていたダーク黒田は牛尾へ不服そうに呼びかける。

 

「おい、牛尾」

 

「黒田……大人しくしとけって言――」

 

「――また別の生徒が来たぞ」

 

 だが、アカデミア倫理委員会の本部の出入り口から巡回に向かおうとしていた面々が、新たに来訪した生徒との間で右往左往している姿を指さすダーク黒田の姿が牛尾の視界に映った。

 

「あん? オカルトなんちゃらはお前らだけじゃねぇのか?」

 

「いや、僕らだけの筈だが……」

 

 やがて、オカルトブラザーズの仲間を牛尾は疑うも、高寺から即座に否定された為、致し方なしに其方に歩を進めれば――

 

 

「いやあ、久しぶりですね、遊城くん」

 

「試験の時に神崎さんも来てたんなら声かけてくれよ!」

 

 先程電話で席を立った神崎が十代と取り留めのない話をしながら、

 

「元KC社員とは……どうして離職を?」

 

『どうせ変なことやらかしてクビになったんだろう?』

 

「自主退職です。やりたいことがあったので、今は個人経営を少々」

 

 素朴な疑問を漏らす三沢の質問へ、呆れた視線を向けるユベルの言葉を神崎はやんわり否定しつつ入室し、

 

『フッフッフ、此処にいたか生贄共よ』

 

 更に、その後に続く微妙に実体化した半透明な身体を黒い帽子とコートで覆い隠す、目元の赤外線スコープが赤く輝くサイコ・ショッカーが続いていた。

 

 

――れ、例の精霊(サイコ・ショッカー)、連れて来てるー!?

 

 

 そんな危険人物(精霊)を普通に連れて来た元上司の蛮行に牛尾は血相を変えて駆け寄る――その姿を確認した神崎は気さくな雰囲気で話題を振る。

 

「ああ、牛尾くん、実は少々込み入ったお話が――」

 

「な、な、な、なんで連れて来たんすか!! 『生贄』とか言ってる奴ですよ!!」

 

 なにせ、サイコ・ショッカーは3人の人間の命を奪おうとしている危険な精霊だ。そんな相手をホイホイ被害者(オカルトブラザーズ)の元に連れてくる道理が何処にあろうか。

 

「ですが、『正式な手続きを踏んだ』と仰っていたので……」

 

『そうだとも! 今は三騎士共の目が厳しくてね! しかと、いにしえの契約に則っている! これが証拠の書類だとも!!』

 

 しかし、神崎の返答に乗っかるようにサイコ・ショッカーは懐から1枚の謎の文字が並ぶ羊皮紙を取り出し、己の正当性を語る中、十代は思わず呟いた。

 

「精霊の契約って、書類なんだな……」

 

『悪魔の契約書と思えば、そんなに変じゃないと思うけど』

 

 ファンタジーの権化の割りに凄い現代的な手続きである。とはいえ、ユベルの言が違和感を消してくれることだろう。サイコ・ショッカーは「悪魔」族ではなく機械族だが。

 

「てか、十代たちは何で此処にいんだ!」

 

 だが、牛尾からすれば、それどころではない。元上司が危険人物(精霊)連れてくるわ、守る対象が増えるわで、緊急性は加速度的に上がっている。

 

「サイコ・ショッカーさんと衝突一歩手前だったので、連れてくる他なかった具合です。『任せてください』とは言ったんですが……」

 

こいつ(神崎)を態々十代が心配してやる必要もないと思うんだけどね』

 

 だというのに、神崎は相変わらずの営業スマイルのマイペースで、強力な助っ人になる筈のユベルは何処か気だるげで――

 

『きちんと事前に説明し、確認と最後通告も行った! だというのに、契約後に「無理だ」は通らないだろう!!』

 

「お互いの文化の違いが起こしたすれ違いですね」

 

――ふ、普通に話してるー!? い、いや、精霊界と取引してきたから慣れてんのは分かるけども!

 

 悪質な営業マンみたいなことを語るサイコ・ショッカーに、「うんうん」とお悩み相談振る神崎の姿は、牛尾としても内心で驚きを隠せない。精霊が見えるメンツの中で唯一焦っている己が馬鹿みたいである。

 

「しかし、どうしてまた急に物質次元に来られようと思ったんですか? 生贄を以て物質次元で実体化しても人に扮せない以上、観光すら叶いませんよ」

 

『そんなミーハー共と同じにして貰っては困る! 実は数年前よりある噂が――』

 

「ちょいちょいちょーい!! 勝手に話進めるの待った! とりあえず、人の目もあっから別室で話すぞ!」

 

 だが、世間話を始める感覚で身の上話を始めるサイコ・ショッカーの姿に牛尾は大慌てで場を整える。生徒に聞かせるには拙い話題もあるやもしれない。

 

「お前らちょっと生徒の方は頼むわ!! 黒田、お前も向こうだバカ野郎!」

 

「なっ!? この闇の契約を――」

 

「ご武運を」

 

 やがて、サイコ・ショッカーと――ついでに神崎を引き連れた牛尾は、こっそり後をつけようとするダーク黒田を回れ右させつつ、取調室っぽい一室へ押し込まれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 そうして、カツ丼でも出てきそうな部屋にて、椅子に倒れ込むように座る牛尾は、大きなため息と共に脱力する。

 

「ハァ~、勘弁してくださいよ、ホント。此処はオカルト課じゃないんすよ?」

 

「申し訳ありません。会話を続けないと強硬手段に打って出られかねなかったもので」

 

「あ~、それはそうなんすけど……ぶっちゃけ此処に誘導してくれたのは助かりました」

 

 そして神崎の不用意に見えた行動の真意を知った牛尾は、微妙に納得できずとも理解を示しつつ――

 

『そろそろ構わないかね? 私は彼ら3人の生贄を諦めるつもりはない。キミたちが横紙破りをするのなら、それは「精霊の掟」を無視することに他ならない』

 

 契約書片手に3人の生徒の命を求めるサイコ・ショッカーへと向き直る。

 

『キミたちは「その意味が分からない」訳ではないだろう?』

 

――マジで強硬姿勢かよ。「いにしえの契約」とか言ってたが、そんなデカい効力がある代物なのか?

 

 やがて牛尾は、サイコ・ショッカーとオカルトブラザーズが交わした契約に並々ならぬ効力があることを察する中で、神崎が口火を切った。

 

「取り敢えず先の話の続きとしませんか? 内容次第では、貴方のご希望に沿ったご提案が出来るかと」

 

『例えば?』

 

「より良質な生贄をご紹介します」

 

「物騒な話やめてくださいよ、ホント……此処、学校なんすから」

 

『ほう、悪くない――良いだろう』

 

 さすれば、営業スマイルで「生贄の代用」をチラつかせる相変わらずな神崎に、牛尾が頭痛をこらえるように額に手を当てる中、サイコ・ショッカーは先程中断された「何故、人間の世界に来たのか?」について語り始める。

 

『数年前より精霊界では噂になっていてね。「三幻魔」を復活させようとしているものがいる、と――私はそれを防ぎたいのだ』

 

 原作では不明だったサイコ・ショッカーの来訪理由だが、色々歪んだ今の歴史では「三幻魔復活の阻止」を目的に掲げているのだと。

 

 だとしても、生徒の命を危険に晒す行為を牛尾が見過ごせる筈がない。

 

「三幻魔だ三軒茶屋だが知らねぇが、人の命3人も奪ってやることかよ!」

 

『了見が狭いな、人間――三幻魔が復活し、その力を無作為に振るわれれば世界中の精霊たちから力が吸収され続け、命を奪いかねない結果となり得る』

 

 取調室よろしく机にバンと手を置き怒りの声を上げる牛尾だが、当のサイコ・ショッカーは肩をすくめて呆れた様子だ。

 

 なにせ、原作でも三幻魔復活の最終儀式の段階で世界中のカードの精霊が衰弱し続け、命の危機に晒されている。「そのまま力を奪われ続ければ――」と考えれば座してはいられないだろう。

 

『よもや精霊の命は、人間の命より軽いと申す訳ではないだろう?』

 

「……でも今んとこは噂だろ? それだけの理由で3人も殺して良い理由になる訳ないだろ」

 

 だが、牛尾の言う通り「今」は三幻魔の復活の話の影も形もない以上、生徒を守る立場としてサイコ・ショッカーの行動は止めねばならない。

 

「一つ構いませんか?」

 

『なんだね』

 

「情報の信憑性は、どのあたりから来ているのでしょう?」

 

 しかし、そんな中で神崎が一つばかり問いかけた。それが「噂」の信憑性。サイコ・ショッカー側がどの程度の話を掴んでいるかの件だが――

 

『物質次元にて三幻魔のカードを「現物(カード)化」した者がいる。確かな情報だとも――更に、そのカードがこの学園に封じられている情報も掴んだ』

 

「そいつは……」

 

――確かにコブラが、鮫島元校長から「三幻魔に関する情報」を仕入れたって話は聞いてるが……

 

 過去の影丸が、デュエルアカデミア設立の際に三幻魔のカードを都合し、学園の地下に封じたことまで把握したサイコ・ショッカーの言葉に、牛尾は己の知る範囲の情報と照らし合わせて顔をしかめた。

 

 サイコ・ショッカー側も「命」がかかっている以上、簡単には引き下がれない。

 

『これはお前たち人間の為でもある。もし万が一に三幻魔の力で精霊が犠牲になれば――どうなると思う?』

 

「どうって……」

 

 それゆえか、試すように問いかけたサイコ・ショッカーの問いかけの答えに詰まる牛尾だが、その返答は神崎が務めた。

 

「三幻魔の力にすら耐えうる大きな力を持った精霊が出て来るかと」

 

 原作では十代がその野望を挫いた為に明確な証明は叶わないが、十代が敗北して三幻魔の()()復活がなされれば、「デュエリストには頼れぬ」と精霊側が本腰を入れてもおかしくはない。

 

「なら、そいつに解決させりゃあ良いだけの話じゃねぇか。お前さんが出張る理由がねぇだろ」

 

『彼らが、人間側の被害を憂慮してくれるとでも本気で思っているのかね?』

 

 しかし、その段階まで事態が困窮した場合、牛尾の言うような配慮は精霊側も見せられないだろう。なにせ、三幻魔を自由にし続ける限り、世界中の精霊の力は奪われ続けるのだから。

 

「周辺まとめて三幻魔の担い手を消し飛ばす可能性もあるかと」

 

「周辺? どのくらいの規模っすか?」

 

 そして説明を引き継いだような神崎の発言に、牛尾が思わず被害規模を問うが――

 

「さぁ?」

 

「この期に及んで隠し事はやめてくださいよ……」

 

「本当に分からないんです。相手の気分次第ですから」

 

 神崎も「分からない」としか返せない。原作でも起こり得なかった話である以上、予想一つ立てにくい話だ。

 

『三幻魔の悪用を人間が行ったとなれば、怒りのあまりかなりの範囲が対象になるだろう――精霊側としても下手人を一刻も早く、かつ確実に始末する必要がある』

 

 だが、サイコ・ショッカーは脅かすように「全面戦争レベル」と語って見せる。

 

『躊躇する間に力の弱い精霊はバタバタと死んでいくのだからね』

 

 仮に巨大な力を持つ精霊が「慈愛に満ちた存在」であっても――いや、だからこそ犠牲を最小限に抑えるべく「速やかな解決」が急務なのだから。

 

「だけどよ、お前さんが単身で動いたメリットはなんだ? まさか力の弱い精霊の為に――とか言うタイプじゃねぇだろ」

 

 とはいえ、此処で牛尾にある疑問が浮かぶ。それが「そんな緊急性のある問題」に対し、サイコ・ショッカーが「単独」で動いている点だ。

 

 本当に「緊急性」があるのなら、もっと多くの精霊たちが動いてもおかしくはない。

 

『ふん、そんなもの自衛の為に決まっているだろう。万が一にでも三幻魔が復活すれば私とてタダでは済まん』

 

「くっ……つっても――」

 

 しかし、アッサリ丸め込まれる牛尾に、一室の壁を通り抜けるような形でユベルが顔を出した。

 

『丸め込まれるなよ、牛尾――そいつはボクの十代が、あの3人を庇った時に命を一度、狙ってる』

 

「うぉっ、ユベル!? どうした!?」

 

『十代が「心配だから」って聞かなくてね』

 

 急に顔を出したユベルに驚き椅子から落ちかけた牛尾が座り直すが、得られた新たな情報に別の疑問が浮かぶ。

 

「そいつは助かるが……そっちの方は言っちまえば生贄の代わりだろ? ん? …………いや、なんで態々1年トップクラスの十代に喧嘩売ったんだ? 言っちゃアレだが、オカルトなんちゃら3人倒す方が絶対楽だろ」

 

 それは態々実力の高い十代を生贄として狙ったこと。ユベルという守護者もおり、なおかつデュエルも強い十代より、ほぼ一般人なオカルトブラザーズを狙った方が遥かに効率的だ。

 

『それは、あの者が私の邪魔を――』

 

より上質な命(遊城くん)なら力の上がり幅はより大きくなりますから」

 

「……テメェ、精霊界の未来だ何だとかぬかしてた癖に、結局は私欲に奔ってんじゃねぇか!」

 

 だが、神崎からの援護射撃に牛尾は「我が意を得たり」と立ち上がって、サイコ・ショッカーに詰め寄るが――

 

『そ、それはだな!』

 

「そうでもありませんよ。三幻魔を操る者と戦う可能性もありますし、自己強化の結論はおかしな話ではないかと」

 

『そう、それだ!』

 

 退け腰になったサイコ・ショッカーがしどろもどろになる中、神崎が告げた内容に飛びつくように指をさす。

 

「――アンタ、どっちの味方なんすか!!」

 

 そんな双方に利のある話をばら撒く神崎に、牛尾ががなり声を上げるが、神崎とてサイコ・ショッカーを片付けて終いに出来ぬ事情があるのだ。

 

「正式な手続きを踏んだ相手を感情論で排斥した場合のデメリットを憂慮しているだけです」

 

――原作で無茶苦茶言っていたのとは訳が違うからな……人を「精霊の道理を無視する相手」と判断される材料は可能な限り消しておかないと、精霊界で奮闘するゼーマンの邪魔になりかねない。

 

 それが、この歪んだ歴史の中でのサイコ・ショッカーが「伝説の三騎士を恐れて真っ当な手段を取っている」点。契約の横紙破りをするには、相応の理由が必要だ。

 

『――その通りだ! キミのように話の分かる人間の存在は助かるよ!』

 

『おい、神崎――まさか十代の命を狙った「こいつを許せ」なんて言わないだろうね?』

 

 そして、牛尾の剣幕から逃げ、神崎の背後で味方を得たと叫ぶサイコ・ショッカーに、ユベルは剣呑な表情と気配を見せるが――

 

「今回の件で言えば、自ら首を差し出した遊城くんの行いが悪手です。命のやり取りの場に自らの意思で上がった以上、自己責任だ――本来ならユベルさんが止めるべき立場だったんですよ?」

 

『…………お前の「そういうところ」は昔から嫌いだよ』

 

 そもそも十代が自ら危険に飛び込んだ――との痛い部分を突かれてか、ユベルは小さく舌を打つ。

 

「ハハ、これは手厳しい」

 

――「友達の為」と言えば聞こえは良いが、今の遊城くんは「負けた時のことを考えていない」からな……

 

『ふん、なら後はそっちで何とかするんだね』

 

 やがて、ユベルの愛の暴走を危惧する神崎がハラハラする中、ユベルは不機嫌そうに壁をすり抜け部屋から消えていった。

 

 それを確認したサイコ・ショッカーは「数の有利が戻った」と牛尾を指さし叫ぼうとするが――

 

『そういうことだ。速やかにあの三人を生贄とし――』

 

「ですので、代案を一つ」

 

『……代案だと?』

 

 サイコ・ショッカー視点では「話の分かる味方」の神崎の提案に耳を傾けることとなる。

 

「我々としても三幻魔復活は避けたい事柄です。ですので、貴方との協調姿勢を取る理由が十二分にある」

 

『……つまり?』

 

「3人の生贄を一時『保留』として頂けませんか? その対価は学園側の協力――こうして話し合いの場を頂けた以上、『敵対は厄介だ』と思われる程度には買っておられますよね?」

 

 その内容は平たく言えば「三幻魔復活の阻止」という共通の目的を前に手を取り合うこと。

 

 3人の生贄を以てサイコ・ショッカーが得るであろう「実体化」の部分を「アカデミア」が担当し、サイコ・ショッカー自身のパワーアップは、ギリギリまで待って貰うプラン。

 

「そして万が一、三幻魔が『完全』復活した場合は、あの3人には速やかに生贄になって頂きます」

 

――完全復活の間には、「使用者のデュエル」「精霊が見えるデュエリスト」「儀式場」「使用者の勝利」を挟む以上、海馬社長が動けば一瞬で終わる。

 

 なにせ、三幻魔が「完全」に復活するには多くの段階をクリアする必要がある。それら全てを素通りすることは早々起こり得ない。

 

「んな道理が通ると――」

 

「『完全』復活の阻止に失敗すれば、どのみち大勢死にますよ。なら3人程度誤差です」

 

 怒りの待ったをかけようとする牛尾だが、上述した条件を素通りされた段階で、「大量の死者」が出かねない事態だ。3人がどうとか言っていられる状況ではない。

 

 しかし、そう命の重さを軽んじるような発言をする神崎へ、牛尾は悲し気な視線を向けた。

 

「……変わっちまいましたね、神崎さん――昔のアンタなら『3人程度誤差』なんて口が裂けても言わなかった筈だ」

 

 牛尾の知る神崎は命に真摯だった。目的が利用の為であっても、命の価値を軽んじることは決してしない。

 

 その姿勢だけは、牛尾も認めていただけに「3人なら死んでいい」とも取れる発言は大きな失望すら感じ、同時に変わってしまった一応恩人の姿が何処か悲しかった。

 

()()()生贄は牛尾くんで」

 

「じゃあ!?」

 

 そんな牛尾の悲しみは一瞬で引っ込んだ。

 

 だが「じゃあ」って何だよ――と牛尾が思う間もなく、サイコ・ショッカーは神妙な様子で牛尾をジッと見やり満足気な声を漏らす。

 

『ふむ、この男から発するパワー、波動……並ではないな――良いだろう。彼を担保とするのなら、あの3人は諦めよう』

 

「なんで俺なんすか!?」

 

「私はアカデミアに長期間滞在できませんから。海馬社長もお許しになられないでしょうし」

 

――くっ!? この人いつも自分を犠牲の第一候補にした上で提案するから性質悪い……

 

 そうして、生贄の代用に選ばれた牛尾は、「そういやKC時代はアカデミア関連全部外されてた」事実を思い出しつつも、やっぱり変わっていなかった神崎の在り方に頭を抱えつつ――

 

『さぁ、この書類に血印を押したまえ』

 

「さぁ、牛尾くん――生徒の未来の為ですよ」

 

 サイコ・ショッカーから突き出される修正を加えた新しい契約書を突きつけられることとなった。

 

 

 

 

 

 オカルトブラザーズはハラハラしながら牛尾たちが消えた取調室っぽい部屋を心配気に見ていたが、変わらぬ姿で出てきた2人と1体の姿に代表して高寺は喜色の声を漏らす。

 

「だ、大丈夫でしたか、牛尾さん!!」

 

「おう……色々話した結果、今回は見逃して貰えることになったわ」

 

「やった!」

 

「良かった! 死なずに済む!!」

 

 そして牛尾の言葉に向田と井坂が肩を合わせながら生還を喜び、

 

「やはり学園にも精霊のスペシャリストがいたか……」

 

「流石だぜ、牛尾!」

 

『……十代、今回は本当に危なかったんだよ? 流石に自重して欲しいな』

 

 感慨深く頷く三沢の隣で牛尾にガッチャポーズを贈る十代を、ユベルがたしなめていた。

 

 そうして事態の収拾にかかる牛尾が同僚に指示を飛ばす中――

 

「警戒のレベル一段引き下げの報告頼む。俺は――いや、後コブラ校長を呼んどいてくれ」

 

「ハッ!」

 

「んで、お前らは説教な」

 

「 「 「 なっ!? 」 」 」

 

 牛尾が自分たちに告げた無常な現実を前に、オカルトブラザーズが固まって顔を見合わせるが、牛尾は安心させるように言葉を選びつつ、十代も指さす。

 

「まぁ、そうビビんな。精霊に関わっちまった以上、危険性の説明とかしなきゃだからよ――十代、お前一人で戦おうとしたらしいな? そっちも説教だ」

 

「げっ!?」

 

「ガキが殺し合いに首突っ込むんじゃねぇよ。そっちの、えーと」

 

「ラー・イエロー1年、三沢 大地です」

 

「おう、俺は牛尾 哲だ――三沢も説明受けとけ」

 

 そして、牛尾が見知らぬ十代の友人三沢にも同様の言伝をした後――

 

――ホントは全部「夢」だと忘れちまって貰う方が良いんだが、こいつら(オカルトブラザーズ)、形はどうあれ精霊の呼び出しに成功しちまう輩だからなぁ……

 

「後、神崎さん――アンタもアドバイザー代わりに手ェ貸してください。依頼料は別途に払いますから」

 

 僅かに逡巡した牛尾は神崎にも協力を要請――今は離れたとはいえ、かつてはKCでオカルトの最先端を突っ走っていた元上司だ。この手の説明は慣れた人物である。

 

「お代は不要ですよ。今回は牛尾くんに貧乏くじを引かせてしまいましたから」

 

「そっすか。懐寂しい身なんで助かります」

 

――ったく、昔っから一々義理堅いよな、この人。

 

 

 

 やがて、軽く手を上げ感謝を示した牛尾の元、十代を倫理委員会の本部にある会議室に案内し、一同が並んだテーブルの前に立つパイプ椅子に着席したことを確認した牛尾はホワイトボードの前で口火を切った。

 

「まず最初に――友好的なヤツもいるが、精霊は人間のお友達じゃねぇからな。その辺、履き違えちゃなんねぇ」

 

「でも僕らは、精霊なんて見えませんよ? 友達になりようが……」

 

 だが、そんな牛尾の主張に高寺は「自分たちに縁のない話」と語るが、「その方が良い」とホワイトボードの前に立つ神崎が続ける。

 

「原則、精霊は『見えない方が良い』と思ってください――見えれば、向こうから寄ってきますからね」

 

「なんで? 友達増えて楽しいじゃん!」

 

『十代……牛尾の話、聞いてたのかい?』

 

「トラブルも寄ってくんだよ。精霊の『良かれ』が人間にも『良い』とは限らねぇからな」

 

 しかし、友好的な精霊に慣れた十代の危機感のなさをユベルが咎める中、牛尾が付け加えたように一般人にとって「精霊が見える」ことはリスクの方が遥かに大きい。

 

「後、普通に人間を食い物にするタイプの精霊もいるからよ」

 

「『見えない』ことが一種の防波堤になっているんです。そして、皆さんは『その防波堤を乗り越えてしまった』――身を守る術すら持たず」

 

 精霊は良い悪いに関わらず「自分たちが見える者」に寄る――ようは幽霊の類と同じだ。互いに()()()()()()()ことで「住む世界が異なる」と一線を引ける。

 

「高寺、向田、井坂。実際の所、お前らは結構スゲェことやっちまったんだ。だからこそ決断しなきゃならねぇ――関わらねぇで生きるか、関わって生きるか」

 

 だが、牛尾の言う通り、オカルトブラザーズは普通ならば「超えられない筈の線」を「超えて()()()()」のだ。それはある種の才能とも言えるが、危険が伴う代物である。

 

「精霊にかかわれば……」

 

「また今回みたいなことが起こる可能性が……」

 

「次は牛尾さんが近くにいるとは限らない……」

 

「そういうこった」

 

 やがて高寺、向田、井坂がうつむきながら今回の「命の危険」があった件をキチンと重く受け止める様子を牛尾が満足気に頷く中、今まで沈黙を守っていた三沢が挙手をした。

 

「一つ質問、構わないでしょうか」

 

「ん? 遠慮せずドンドン聞いて良いぞ。今後に関わる問題だからな――それに後で親御さんの方にも連絡いれっから、疑問は極力減らしとけ」

 

「精霊が見えずとも、『精霊憑き』となった人間は歴史上『それなりの数がいる』との話がありますが、この場合の危険性の有無はどうなりますか?」

 

「それは僕らも気になります! 精霊が憑くとドロー力が上がるって噂も!!」

 

 そして牛尾に促されるままに質問した三沢――と追従する形で問うた高寺に対し、牛尾は悩まし気に頭をガリガリとかきながら答えて見せた。

 

「『見聞き出来ない』なら問題はほぼねぇと思ってくれて構わねぇ。その手の精霊は関係性の変化を嫌うからな――後、ドロー云々はガセだ。精霊なしでも強ぇ奴は強ぇし、精霊いても弱ぇ奴は弱ぇ」

 

 原作の遊戯王GXには豆に手足の生えた外見の《ジェリービーンズマン》というカードの精霊がついているトムという少年がいる。

 

 だが、そのトムは精霊が見える訳でもなければ、特殊な力を持つ訳でもない――そして、別にデュエルが強い訳でもない普通の少年だ。

 

 つまり「精霊がいるから○○」なんてことは、まず()()()()()()。「なにかある」とすれば、それは当人の素養に他ならない。

 

「現代での精霊が憑くパターンは『自分と同じカードを愛用している』場合が多いので、仮に精霊が憑いても、その精霊のカードを使い続けなければ精霊側も興味を失って離れていきます」

 

 そして、神崎が追加で説明したように「精霊がつく」デュエリストは大抵の場合「その精霊のカードを愛用している」のだ――デッキに入れない場合はまず存在しない。

 

 十代ですら、ハネクリボーを何のシナジーもないHEROデッキに投入しているレベルだ。

 

 その為、「精霊がつく」ことによるトラブルを回避したいのなら、暫くそのカードをデッキから外すだけで、大抵の場合は精霊の方から「思ったより自分のカードで目一杯デュエルしてくれない」と離れてくれる。

 

 古井戸で長く孤独を味わったカードや、ユベルなどの例外中の例外を除けば、必要以上に恐れることはないのだ。

 

「成程……」

 

「そもそもの精霊が『気まぐれ』な奴らだからな。俺らの思うようには早々動いちゃくれねぇのよ」

 

 やがて、他の細かな説明も合わせて「今後、全てを忘れるか否か」の話し合いは、コブラ校長がサイコ・ショッカーを直に確認するまで続いていった。

 

 

 

 

 

 そうして、サイコ・ショッカーもコブラに連れていかれ、十代たちが解散し、見学に来ていた初等部の面々も帰路についたことで、いつもの日常を取り戻し始めたアカデミア倫理委員会の本部にて、一仕事終えた様子の神崎へ牛尾は問いかけた。

 

「んで、イカサマの方はどうでしたか?」

 

 それは、神崎がアカデミアに来た当初の目的こと仕事の話。

 

「取りあえず可能な限りイカサマしてみましたが、生徒の方に該当する所作がなかったので、恐らくシロかと」

 

「つまり、あのジャングル坊主(大山 平)は、オカルトの領域に足突っ込んだってことっすか?」

 

「そうなります」

 

 神崎も可能な限り大山(たいざん)の動きを見切ったが、イカサマの様子はなかった為、「周囲を納得させる情報」作りの為に、「実際のイカサマの様子」と「大山の様子」を比較する形が並ぶ資料を渡された牛尾は悩まし気に眉をひそめた。

 

 もはや第六感の世界である。

 

「マジかよ……『カードの順番覚えてた』とかで説明ついたりは――」

 

「其方は既に『デッキトップは認識されるまで未知である』との論文が発表されていますよ」

 

 それに対し、信じられない様子で希望的観測を述べる牛尾だが、神崎も「デュエル」を前に「一般常識」は通じないのだと返す他ない。

 

――実際、デッキトップが《救世竜 セイヴァー・ドラゴン》に()()()()「無視される」世界だからな……

 

 なにせ遊戯王ワールドでは、エクストラデッキに、融合体が生えようが、アクセルシンクロが生えようが、ランクアップエクシーズチェンジしようが、問題ない(スルーされる)世界なのだから。

 

 

 今日も今日とて、遊戯王ワールドは絶好調である。

 

 





サイコ・ショッカーが牛尾の仲間になった(例の音楽)

精霊つきのデュエリストは相棒(or嫁)カードをもっと積極的に使おうぜ!




Q:原作GXでもサイコ・ショッカーは三幻魔の復活を阻止しに来たの?

A:不明です。正直「何しに来たんだ?」レベルで目的が謎でした。
仮に十代を倒して復活出来ていたとしても、後々袋叩きにされるだけなのは誰の目にも明らかでしたし。

なので、今作では「生贄3体も要求するレベルで動く理由」として「三幻魔」を理由にさせて頂きました。




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