マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
サイコ・ショッカー「一般的な精霊は実体化するのも大変なのだ! ホイホイ不思議パワーを使いまくれる奴ら(大きな力を持つ精霊たち)と一緒にしないで貰いたい!」






第257話 情熱の赤きビッグウェーブ

 

 サイコ・ショッカーの生贄騒動も鳴りを潜め、平和を取り戻したアカデミアのラー・イエロー男子寮にて、十代たちは相変わらずの学園ライフを送っていた、

 

「神楽坂ー! ほら、これ! 遊戯さんが使ってたカード! 受け取ってくれ!」

 

「良いのかい? 助かるよ、十代くん!」

 

 そして十代が「遊戯デッキ」の為のカードを提供する中、普段より思いのほかトーンの高い声で神楽坂がラフな口調で感謝を述べる姿にユベルがイラッとするも――

 

『ボクの十代を気安く呼――あっ、今の段階から武藤 遊戯の猿真似を始めてるのか……』

 

「うぉー、スゲェ! 今のメッチャ似てた!」

 

 神楽坂の逆立てた髪が3つに枝分かれし始めている光景を前に真相を知り、矛を収めるユベルの発言を聞いて十代はクオリティにはしゃぐ。

 

「だが、オレからしたらまだ地味すぎるくらいだぜ! もっと腕にシルバー巻かないとな!」

 

「今のはデュエルする時の遊戯さんだ!」

 

『そういえばデュエルキングは二重人格って噂が流れてたね』

 

 やがて、気分を良くしたのか神楽坂も「遊戯の物真似(トレース)」を披露する中、「一般人から見た遊戯とアテムの関係」の再現度合いに感心の声を漏らした。

 

「キミのお陰で、オレの魂のデッキは着々と完成しつつある! 決戦の時は近いぜ、相棒!」

 

「まさか遊戯さんの相棒の『あのカード』が手に入ったのか!? 超見てー!」

 

「…………だったら良かったんだけどな」

 

『急に素に戻るなよ……』

 

 だが、遊戯の相棒たるカードの入手状況に話題が移れば、遊戯の物真似も鳴りを潜め意気消沈した神楽坂へと戻る。

 

 そんな中、此処で三沢が宝の描かれたカードを渡す風に遊戯の使用カードを手に神楽坂の左肩に励ましの言葉と共に手を置いた。

 

「イカサマの疑いが晴れた大山先輩もブルーに上がられて、カード集めに協力なさってくれているんだ。お前が気落ちしてどうする、神楽坂――元気を出せ」

 

「城之内くん……!」

 

「三沢だ」

 

 さすれば、神楽坂は遊戯トレースに三沢を巻き込んで見せる。気分は王国編の一幕(存在しない記憶)だ。

 

 やがて、そのまま三沢とデッキ相談を始めた神楽坂を余所に十代は窓の外に見つけたオカルトブラザーズの面々にデュエルのお誘いを贈る中――

 

「おっ! オカルトブラザーズのみんな~! タッグデュエルしないか~!」

 

『デュエル漬けなのは構わないけど、試験への備えも忘れるなよ。オベリスク・ブルーに上がるんだろ? 交流戦や文化祭とかのキミが好きそうなお祭り騒ぎは、上の階級の方が豪華に遊べるらしいし、後悔しても知らないからね』

 

――安心しろよ、ユベル! 今回は普段から勉強しといたからさ!

 

 ユベルの小言へ内心でそう返した十代は、手を振って応えたオカルトブラザーズの方へ向かいつつ、自信満々に宙を浮く相棒に告げる。

 

「次の試験は筆記も自信タップリだぜ!!」

 

『前の試験の時のキミも同じようなこと言ってたのを忘れたのかい?』

 

 とはいえ、十代の後を宙に浮かんで追いかけるユベルからすれば、頑張っている姿を間近で見ているとはいえ、妄信は出来ない様子。

 

 

 そんなこんなで、万丈目――と他ならぬ己の為にオベリスク・ブルーを目指す十代は、近づきつつある定期試験に備えて、マイペースながらに学びを蓄えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台はオシリス・レッドの実技授業へ移る。レッド生徒同士のデュエルを順番に見ていたクロノスが足を止めたのは、万丈目の元取り巻き――慕谷 雷蔵と、明日香の元取り巻き――浜口 ももえのデュエルであった。

 

 

 とはいえ、デュエルは始まったばかり。先攻を得た慕谷が魔法カード《手札抹殺》を使用し――

 

「俺は魔法カード《ワン・フォー・ワン》で呼び出した《アクアアクトレス・テトラ》を対象に魔法カード《同胞の絆》を発動! 2000のライフを支払いデッキより同じレベル・属性・種族の別モンスター2体を呼び出す!」

 

 赤い体に青いデフォルメ顔に白い飾りのついた帽子をかぶった長い尾ヒレを持つ《アクアアクトレス・テトラ》がパシャンと水飛沫を上げて跳ねれば、左右に水柱が二つ立つ。

 

慕谷LP:4000 → 2000

 

「《かつて神と呼ばれた亀》!! 《ラージマウス》!!」

 

 その水柱が崩れて落水する中、甲羅で滝を割るように歩み出る桃色の亀が遺跡の柱の上に鎮座し、

 

《かつて神と呼ばれた亀》 守備表示

星1 水属性 水族

攻 0 守1800

 

 さらに隙っ歯の並ぶたらこ唇の醜悪な顔を持つ四足と尾が伸びる紫の水生生物が、不快な鳴き声を響かせながら水柱より顔を出した。

 

《ラージマウス》 守備表示

星1 水属性 水族

攻 300 守 250

 

 そうして《アクアアクトレス・テトラ》の効果でサーチした永続魔法《水舞台(アクアリウム・ステージ)》を発動してターンを終えた慕谷は自信を持って宣言した。

 

「《かつて神と呼ばれた亀》の効果により、互いに攻撃力1800以上のモンスターを特殊召喚できない!!」

 

――そして、次のターンには手札の……完璧だ!

 

 そう、この布陣は相手に大型モンスターを出させない為の守りの布石――互いの行動を封じる《かつて神と呼ばれた亀》だが、慕谷のデッキにおいては殆ど問題なく、対戦相手のももえだけの首を絞める効果である。

 

 

慕谷LP:2000 手札2

《アクアアクトレス・テトラ》守300

《かつて神と呼ばれた亀》守1800

《ラージマウス》守250

水舞台(アクアリウム・ステージ)

VS

ももえLP:4000 手札6

 

 

「お生憎様! わたくしのデッキは低レベルモンスターが主体! なんの障害にもなりませんわ!」

 

 だが、カードをドローし、魔法カード《強欲で貪欲な壺》で2枚ドローしたももえは、己の敵ではないと返す。

 

 そして魔法カード《ブーギートラップ》で墓地の罠カード1枚をセットしたももえが――

 

「魔法カード《魔獣の懐柔》! デッキよりレベル2以下の獣族3体を特殊召喚!!」

 

 1枚のカードを発動させれば、ももえのデッキより三つの影がピョンと飛び出した。

 

 その一つは茶毛のモモンガが白い腹を見せながら手足の間の膜を翼代わりに滑空してフィールドに降り立ち、

 

《素早いモモンガ》 攻撃表示

星2 地属性 獣族

攻1000 守 100

 

 その隣に、よく似た茶毛のムササビが白い腹を見せながら、上述の焼き増しのように滑空しながら現れ、

 

《素早いムササビ》 攻撃表示

星2 地属性 獣族

攻 800 守 100

 

 最後に宮司の恰好をした頭の大きい土色の毛色の犬が2本の足でトコトコと遅ればせながら、その列に並び立つ。

 

《チャウチャウちゃん》 攻撃表示

星2 地属性 獣族

攻 800 守 800

 

「さらに《レスキュー・キャット》ちゃんを通常召喚し、効果発動! デッキからレベル3以下のネコちゃん(獣族)2体を特殊召喚ですわ!!」

 

 そんな3体の獣――小動物の列に並ぶのは、ヘルメットをかぶった猫たる《レスキュー・キャット》――は、すぐさまドロンと煙を出した宙返りと共に消えれば――

 

 尾の先に赤いリボンをつけた黒猫が赤い瞳を光らせながら煙の中から歩み出る。

 

《尾も白い黒猫》 攻撃表示

星2 地属性 獣族

攻 800 守 500

 

 やがて《尾も白い黒猫》が歩み出た煙が晴れた先には、うずまき模様が浮かぶ青い猫が鈴のついた赤いリボンを首に巻きつつ、仰向けに寝転がって手足をバタバタしつつ煙の残り香を味わっていた。

 

《またたびキャット》 攻撃表示

星2 地属性 獣族

攻 0 守 500

 

「だが、その程度の攻撃力では俺の《かつて神と呼ばれた亀》の守備力を突破できない!!」

 

 しかし、幾ら5体のモンスターを並べようとも、その攻撃力は貧弱そのもの――慕谷の布陣を完全に打ち崩すには些か力不足。

 

「それはどうでしょう――永続魔法《弱者の意地》を発動し、バトル!! そして攻撃時に速攻魔法《百獣大行進》発動! わたくしのフィールドのビーストちゃんはその数×200パワーアップですわ!

 

「攻撃力1000アップだと!?」

 

 かと思われたが、小動物の鳴き声が響き、闘争心を高――まるかは、さておき野生の本能を呼び起こした5体の獣族たちは瞳を赤くギラつかせて牙を剥く。

 

《素早いモモンガ》

攻1000 → 攻2000

 

《素早いムササビ》+《チャウチャウちゃん》+《尾の白い黒猫》

攻 800 → 攻1800

 

《またたびキャット》 

攻 0 → 攻1000

 

「一番槍ですわ! お行きなさい、モモンガちゃん!!」

 

 とはいえ、全体的にこじんまりした小動物’sの中から《素早いモモンガ》が、のほほんとあくびをする《かつて神と呼ばれた亀》目掛けて飛び掛かるが迫力は皆無だ。

 

「そしてレベル2以下が相手を戦闘破壊したことで、永続魔法《弱者の意地》の効果で手札0のわたくしは2枚ドローすることが――」

 

 やがて爆発――というよりは、喧嘩のデフォルメのような土煙がポカポカと上がる中、ももえが確かな手ごたえを持つ。

 

 だが、その彼女の視界には、煙が晴れた先からは肩で息をする《素早いモモンガ》が甲羅に籠った《かつて神と呼ばれた亀》を前に、諦めたようにももえの元へ戻っていく光景が映った。

 

「なっ!? どうして《かつて神と呼ばれた亀》が!?」

 

「ふっ、《アクアアクトレス・テトラ》でサーチし発動しておいた永続魔法《水舞台(アクアリウム・ステージ)》の効果さ! 俺の水属性モンスターたちは、水属性以外には破壊されない!!」

 

――くっ、こんなことなら水属性の《素早いビーバー》ちゃんを呼ぶべきでしたわ……!でもあの子は「召喚」した時に真価を発揮する子……今の選択が完全な間違いではありませんことよ!

 

 そして語られる慕谷の解説に甲羅から頭を出す《かつて神と呼ばれた亀》を余所に、ももえは己の判断ミスを嘆くも、直ぐに切り替えようとするが――

 

「忘れるな! ターンの終わりに魔法カード《魔獣の懐柔》と《レスキュー・キャット》のデメリットにより、お前のモンスターは全滅する!」

 

 ももえの5体の小動物こと獣族は、慕谷が指をさした通りこのターンの終わりで自壊してしまう。

 

 更に永続魔法《弱者の意地》によるドローが叶わなかったももえの手札は0――幾ら慕谷のモンスターの攻撃力が低いとはいえ、無防備にターンを明け渡すのはハイリスクだ。

 

 しかし、ももえは強きな笑みを浮かべた。

 

「その程度、織り込み済みですわ! 永続罠《ジャンクスリープ》を発動させて頂きましてよ! これでエンド時にわたくしのビーストちゃんたちは裏側守備表示に!!」

 

「デメリットを回避したか……!」

 

 そうして、魔法カード《ブーギートラップ》により即時発動が可能になっていた永続罠の効果で己の5体の小動物モンスターが宙返りと共に狸よろしくドロンと姿を隠す中でももえはターンを終えた。

 

 

慕谷LP:2000 手札2

《アクアアクトレス・テトラ》守300

《かつて神と呼ばれた亀》守1800

《ラージマウス》守250

水舞台(アクアリウム・ステージ)

VS

ももえLP:4000 手札0

裏守備表示×5

《弱者の意地》

《ジャンクスリープ》

 

――少々、想定とは異なりましたが悪くはありませんわ!

 

 手札は心もとなく、備えのセットカードもないももえだが、裏守備とはいえ5体のモンスターが並ぶ布陣に満足気なももえは、慕谷が通常ドローし、魔法カード《強欲で金満な壺》で2枚ドローする光景を余所に内心でほくそ笑むが――

 

「俺は《ラージマウス》を攻撃表示にし、3枚のカードを発動させて貰う!! 装備魔法《魔導士の力》! 装備魔法《団結の力》!! 装備魔法《ガーディアンの力》!!!!」

 

「3つの『力』カードですって!?」

 

「そう! この3つの力により『俺の魔法・罠の数×500』! 『俺のモンスターの数×800』! 『このカードに乗った魔力カウンターの数×500』ポイント、《ラージマウス》はパワーアップする!!」

 

 一気に発動された3枚の装備魔法により、慕谷の《ラージマウス》が巨大化し、醜悪な叫びを上げ、口から唾液よろしく消化液をばら撒く光景に頬をひきつらせた。

 

 ももえ的には不気味なモンスターのドアップは堪えるのだろう。

 

《ラージマウス》

攻 300 → 攻4700

 

 しかし、ももえは己の優勢を示す。

 

「攻撃力4000越え!? ですが、わたくしは5体の裏守備ビーストちゃんたちに守られていますわ!!」

 

――そして、あなたが突破の為のモンスターを増やした瞬間、永続罠《ジャンクスリープ》の効果により、わたくしのビーストちゃんが一斉にリバースすれば……

 

 なにせ、5体の裏守備モンスターによりダメージは完全シャットアウト。

 

 相手が追加でモンスターを呼ぼうものなら、永続罠《ジャンクスリープ》により《尾も白い黒猫》がリバースし、その効果によって相手モンスター2体を手札に戻せる。

 

 まさに盤石。

 

「バトル!! 4つ目の力――《ラージマウス》の力を見よ!! このカードはダイレクトアタックが可能!!」

 

「なんですって!?」

 

 などと、フラグ満載のことを考えていたせいか想定外の事態にももえは狼狽えた。

 

「ふん、一見すれば数合わせの雑魚っぽいコイツを侮ったのがお前の敗因だ!!」

 

 やがて、一般的にはハッキリ言って醜悪な《ラージマウス》に親指を向け誇る慕谷の号令の元――

 

「バック・ニードル・ショック!」

 

 ももえ目掛けて跳躍した巨大化した《ラージマウス》は空中で回転し、背面の麻痺毒があるらしい棘を向けてボディプレス。

 

「そんなぁぁぁぁぁああああぁ!!」

 

ももえLP:4000 → 0

 

 残念ながら些細な選択ミスによってももえは無念そうな叫び声をあげて敗戦を期すこととなった。

 

「くっ、前のターンに水属性の《素早いビーバー》ちゃんを呼んでおけば……!」

 

「勝敗は違っていたかもしれないな――俺の手札、装備魔法で固まって事故気味だったし」

 

 やがてデュエル後の感想戦に移るももえの呟きに、慕谷も肯定を返す。

 

 高い攻撃力を持つ下級通常モンスターを装備魔法で補助する慕谷のデッキは、ダイレクトアタックが可能な《ラージマウス》を装備魔法で強化し、一気に相手のライフを削り切る形に改良された。

 

 だが、反面バトルフェイズを行えない「先攻」は苦手分野であり、モンスターを裏守備にしてダメージを与え難い形で潜むももえのデッキとの相性も良くはない。

 

「浜口の《素早いビーバー》の攻撃力って幾つ?」

 

「400ですけど……《ラージマウス》の守備力250より、低いカードは逆に珍しいですわよ?」

 

「だよな~、フィールド魔法《湿地草原》引けてれば1200のパワーアップで《ラージマウス》の攻撃力1500になるから、魔法カード《百獣大行進》で1000アップしても――あっ、フィールド魔法が手札でダブったら、それこそヤバいか」

 

 やがて、「あーでもない」「こーでもない」と互いのデュエルを振り返るももえと慕谷だが、現在の彼らの手持ちの知識では妙案が浮かばないのか悩まし気な声が続くばかり。

 

 

 そんな二人の様子を余所に用紙に採点するクロノスは、声をかけることなく別の組の元へと移動を始める。

 

――良い具合に見違えたケード、全体的に粗削りなデュエルなノーネ。でも、その調子で一杯悩ムーノ。終わったデュエルを漫然と流さず向き合うことは、とっても大事なノーネ。

 

 そう、今のももえたちに必要なのは「己の頭でデュエルと向き合う」こと――アドバイスは悩み切った後だ。

 

 そうして思案ながらに歩を進めたクロノスが足を止めた対戦カードは――

 

――お次ーハ、シニョール丸藤……素養はレッドの中でピカイチなノーニ、相手を侮る悪癖がある生徒ナーノ。お相手はシニョーラ枕田……似た精神的未熟さを持つ相手同士のデュエルはどんな調子なノーネ?

 

 翔と、明日香の元取り巻き枕田 ジュンコがデュエルにてぶつかり合い数ターンが経過していた。

 

 

 

翔LP:1800 手札6

《エクスプレスロイド》守1600

《一族の結束》

VS

ジュンコLP:3000 手札3

《プリンセス人魚》守1000

《恍惚の人魚(マーメイド)》守1100

伏せ×4

フィールド魔法《伝説の都 アトランティス》

 

 

 そうして、ジュンコのターンエンドを受けた翔は、危機を脱したことに小さく息を吐く。

 

――危なかったっす。罠カード《進入禁止!No Entry!!》で守備にしてなきゃ、もっと大ダメージ受けてた……

 

 だが、互いの盤面差は開き始めており、翔にとって油断ならない状況である。しかし、当の翔は通常ドローも加味して増えた手札を眺めつつほくそ笑んでいた。

 

――でも、罠カード《スーパーチャージ》と《エクスプレスロイド》で増えた今の手札なら!

 

「僕はビークロイド専用融合魔法! 《ビークロイド・コネクション・ゾーン》発動! フィールドのエクスプレス、手札のトラック、ドリル、ステルス――この4体のロイドたちを素材に融合召喚!」

 

 そして、華麗な逆転をかけて翔が専用融合カードを天にかざせば、新幹線、大型トラック、大型ドリルのついた削岩機、ステルス戦闘機にデフォルメされた目玉と手が伸びる4機が天へと飛び立ち――

 

「これが僕の最強の乗り物だ! 《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》!! 永続魔法《一族の結束》で攻撃力800アップっす!」

 

 胴体部分を担当した《トラックロイド》を貫く形で両肩となった《エクスプレスロイド》から両腕が伸びる中、

 

 《ステルスロイド》が胴体を覆いつつ、背中側にて翼となり、

 

 《ドリルロイド》がその体躯を2つに分ければ、両足となって巨躯を支え、

 

 最後に《トラックロイド》の運転席部分からロボットの頭が飛び出したことで、此処に超巨大ロボが海面に水飛沫を上げながら着水して降臨した。

 

《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》 攻撃表示

星9 地属性 機械族

攻3600 守3000

攻4400

 

「《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の効果! 機械族以外のモンスター1体をこのカードの装備カードにするっす! 《恍惚の人魚(マーメイド)》は頂きっすよ!」

 

「ただじゃやられないわ! 罠カード《同姓同名同盟》発動! レベル2以下の通常モンスター1体の同名モンスターをデッキから可能な限り特殊召喚!」

 

 やがて機械巨人たる《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の胸の部分が展開し、赤い長髪を揺らす緑の体表の人に酷似した上半身と、桃色の魚の下半身を持った人魚――《恍惚の人魚(マーメイド)》を吸い込もうとするが、《恍惚の人魚(マーメイド)》が水面に歌声を響かせれば――

 

「来なさい! 2体の《恍惚の人魚(マーメイド)》! フィールド魔法《伝説の都 アトランティス》の効果でレベルダウン! 代わりに攻守が200パワーアップ!」

 

 《恍惚の人魚(マーメイド)》と瓜二つの2体の仲間たちが海面より飛び出す。

 

《恍惚の人魚(マーメイド)》×2 守備表示

星3 → 星2 水属性 魚族

攻1200 守 900

攻1400 守1100

 

「でもステルス・ユニオンの効果は防げないっす!」

 

 だが、歌声を響かせた《恍惚の人魚(マーメイド)》は吸引に逆らえず《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の胸の格納庫に収納された。

 

「バトル!! 自身の効果で装備したカードがある時! ステルス・ユニオンは相手の全てのモンスターに攻撃できるっす!」

 

「しまった!?」

 

――罠カード《同姓同名同盟》発動しなきゃよかった……!

 

 そして吸収した力を奪うように《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の胸部にヒレのVが浮かぶ中、左右の腕を人魚たちへ向けられた事実にジュンコは己が失策を悟る。

 

「しかも、その攻撃は貫通するっすよ! ステルス・ユニオンの攻撃力は半分になるっすけど、そっちの低い守備力なら関係ない!」

 

「じゃあ、こう! 永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の効果! 私の水属性1体をターンの終わりまで除外! 《プリンセス人魚》を除外よ!」

 

 だが、ジュンコのフィールドの長い金髪を持つ白い肌と赤い魚の下半身を持つ人魚《プリンセス人魚》は海中に身を潜めた為――

 

「むっ!? でも2回攻撃っす! ブロウクン・ナックル!!」

 

 攻撃力が4400から2200に半減した《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》のロケットパンチがジュンコの2体の《恍惚の人魚(マーメイド)》が尾で掬い上げた海水の壁を突き抜けて撃ち抜いた。

 

ジュンコLP:3000 → 800

 

「よくもやったわねぇ……!」

 

「こ、怖い顔しても無駄っすよ! 攻撃力はステルス・ユニオンが上! カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 そうして、一気にライフが減った事実に苛立ちを募らせるジュンコの憤怒の形相を前に、翔は退け腰になりながらも、腕を組みそびえ立つ《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の勇姿の後押しを得つつ強がって魅せる。

 

「そのエンド時に永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》で除外していた《プリンセス人魚》が帰還するわ!フィールド魔法《伝説の都 アトランティス》でパワーアップ!」

 

 やがて、海面からチラと頭を出した《プリンセス人魚》が赤いヒレの耳で安全を確認した後、水面から跳ねて戻った中、ジュンコは――

 

《プリンセス人魚》 攻撃表示

星4 → 星3 水属性 魚族

攻1500 守 800

攻1700 守1000

 

 

 

翔LP:1800 手札1

《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》攻4400

伏せ×2

《一族の結束》

《恍惚の人魚(マーメイド)》装備扱い

VS

ジュンコLP:800 手札3

《プリンセス人魚》攻1700

伏せ×2

潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)

フィールド魔法《伝説の都 アトランティス》

 

 

「私のターン! ドロー! そしてスタンバイフェイズに《プリンセス人魚》の効果!私のライフを800回復!!」

 

ジュンコLP:800 → 1600

 

 《プリンセス人魚》が長い薄手袋にて首元のブローチに手を添えれば、その宝石が輝きを放ち、その光がジュンコを包み癒していく。

 

「魔法カード《融合派兵》! エクストラの《アクア・ドラゴン》を公開し、その素材である《海原の女戦士》をデッキから特殊召喚!!」

 

 その後、魔法カード《強欲で金満な壺》によって増えた手札から繰り出されるのは、青い長髪を揺らす、肌色の人間の上半身に黄緑の魚の下半身を持つ人魚が、海面の上に立つように泳いで見せる。

 

《海原の女戦士》 攻撃表示

星4 → 星3 水属性 魚族

攻1300 守1400

攻1500 守1600

 

「魔法カード《悪魔への貢物》! アンタの効果モンスターを墓地へ送って私は手札から通常モンスターを特殊召喚するわ! 墓地送りは当然ステルス・ユニオン!」

 

 更に此処で《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の足元の水面に黒い影が映れば、地盤が沈下したことで《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の巨体は海へと沈み始めていく。

 

「ス、ステルス・ユニオンが!?」

 

「さぁ、来るのよ! 《弓を引くマーメイド》!!」

 

 やがて親指を立てて《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》が沈み切った先の海面から、巨大な黄金のシャコガイが飛び出した。

 

 そうして、その黄金のシャコガイが音を立てて開けば、その中より緑の長髪に褐色肌の人間の上半身と白い鱗を持つ魚の下半身の人魚が赤い弓と銀の矢を手に構えて見せる。

 

《弓を引くマーメイド》 攻撃表示

星4 → 星3 水属性 水族

攻1400 守1500

攻1600 守1700

 

「更に《氷水(こおりみず)》を通常召喚!!」

 

 そして、相手の切り札が消えた先からジュンコが従える海より、茶の長髪に青い体表と腹に棘の生えた人間の上半身に緑の魚の下半身を持つ人魚が水面を跳ねる中――

 

氷水(こおりみず)》 攻撃表示

星3 → 星2 水属性 水族

攻1150 守 900

攻1350 守1100

 

「まだまだァ! 魔法カード《死者蘇生》で《マーメイドナイト》を復活!」

 

 最後の最後にジュンコのお気に入りの1枚たる赤い長髪に「ナイト」の名通りに剣と盾を持つ、エメラルドの魚の下半身を青い鎧で固めた人魚が4体の人魚たちを率いるように剣を天へと掲げながら現れた。

 

《マーメイドナイト》 攻撃表示

星4 → 星3 水属性 水族

攻1500 守 700

攻1700 守 900

 

「さっきから人魚ばっかりっすね……」

 

「そうよ、悪い? これが私の『人魚(マーメイド)』デッキ!」

 

 そう、呆れ気味な翔の呟きを肯定するジュンコの言葉通り、彼女のデッキは「人魚」デッキ――ジュンコのお気に入りの1枚たる《マーメイドナイト》を筆頭に、さしずめ「人魚アド」を重視したデッキだ。

 

「その恐ろしさをタップリと分からせて上げる! バトル!」

 

 そして、5体の人魚たちが翔を敗北の海の底へ引きずり込むべく、水飛沫を上げながら迫りくる。

 

「《マーメイドナイト》は《海》がある時、2回攻撃が可能! フィールドには《海》として扱う《伝説の都 アトランティス》がある! さぁ、3000越えのダメージを食らいなさい!!」

 

 フィニッシャーを務めるのは勿論ジュンコのお気に入りたる《マーメイドナイト》――通常モンスター「人魚」たちが相手の布陣を崩し、《マーメイドナイト》の連撃の刃でとどめを刺す。

 

 それこそが、ジュンコが新たに確立したスタイル。

 

「さ、させないっす! カウンター罠《カウンター・ゲート》! モンスター1体の攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

 だが、そんな《マーメイドナイト》の水面ごと翔を両断する筈だった剣は異次元の穴より飛来した影との衝突により弾かれる。

 

「更に、そのドローがモンスターだったから召喚っす! 来い、《ジェット・ロイド》! 永続魔法《一族の結束》で800パワーアップ!」

 

 さすれば、その陰たるつぶらな瞳の付いた朱色のジェット機が、車輪の手足を伸ばしつつ現れ、翔を守るように主の前でホバリングした。

 

《ジェット・ロイド》 攻撃表示

星4 風属性 機械族

攻1200 守1800

攻2000

 

「だったら、《弓を引くマーメイド》で攻撃!」

 

「攻撃力はこっちが上っすよ!?」

 

 しかし、攻撃力が2000に上がった《ジェット・ロイド》へ、フィールド魔法《伝説の都 アトランティス》で強化されたとはいえ攻撃力1600の《弓を引くマーメイド》をけしかけるジュンコの行動に翔は面食らうが――

 

「永続罠《窮鼠の進撃》! レベル3以下の通常モンスターがバトルする時! ライフを100の倍数支払って、相手モンスターの攻撃力をその分だけ下げる!! 500のライフを支払うわ!!」

 

 相手をひき飛ばすべく海面を走るように飛ぶ《ジェット・ロイド》の突進は、《弓を引くマーメイド》が、乗り込む巨大なシャコガイが口を閉じたことによって、《ジェット・ロイド》の身体は貝の間で挟まれることとなった。

 

ジュンコLP:1600 → 1100

 

《ジェット・ロイド》

攻2000 → 攻1500

 

「――アローショット!!」

 

 そして、身動きが出来ぬ《ジェット・ロイド》へ殆どゼロ距離で引き絞った弓より《弓を引くマーメイド》が矢を放てば、《ジェット・ロイド》の装甲をアッサリと砕き進んだ矢は翔に直撃。

 

「くぅ……!」

 

翔LP:1800 → 1700

 

「これでアンタのモンスターは0! 残りのマーメイドたちの一斉攻撃でフィニッシュよ!」

 

 こうして、守り手を失った翔は、ジュンコの率いるマーメイド軍団からの熱烈アタックを受けることとなる。

 

 そして、波に乗りながら翔へと殺到する4体のマーメイドたちは、突如として水上都市よろしく現れた巨大な白い装甲板が立ちふさがったことで、無情にもその白き壁に激突した。

 

 

 

 やがて海面から変形しつつ全容を見せつけるように現れるのは、白い装甲に覆われた巨大ロボ。その両腕にはクレーンやら運搬用のレールやらの面影がみられるように、先の海上都市が変形した姿の様子。

 

《スーパービークロイド-モビルベース》 守備表示

星10 地属性 機械族

攻 0 守5000

攻 800

 

「えっ……?」

 

 そんな具合で、思いっきり《スーパービークロイド-モビルベース》の装甲にぶつかったせいか、4体の人魚たちはプカプカと水死体よろしくジュンコの元へ攻撃キャンセルな形で戻って来る中、呆然とするジュンコ。

 

「《ジェット・ロイド》の効果っす! このカードが攻撃された時、手札から罠カードを――罠カード《死魂融合(ネクロ・フュージョン)》を発動させて貰ったっすよ! これで墓地のロイド融合体とロイドを裏側で除外して融合完了っす!」

 

「な、なんですってぇ!?」

 

 だが、翔の説明に再起動を果たしたジュンコと共に、プカプカ浮かぶ4体の人魚たちもガバリと海面から顔を上げて頭のたんこぶを抑えながら、指をさす。

 

「…………あれ? ちょっと待って」

 

 しかし、此処でジュンコは驚きの表情をピタリと止めて頭に浮かんだ疑問を口に出した。

 

「なんでアンタ、前のターンに伏せなかったの? 罠カード《カウンター・ゲート》で《ジェット・ロイド》呼べてなかったら、どうする気だったのよ」

 

「よ、余計なお世話っす!」

 

――こんなに直ぐステルス・ユニオンがやられるなんて想定外だったんすよ!!

 

 それは翔の不可解なプレイングへの件だった。とはいえ、当の翔は内心の動揺を隠しつつ強がってみせる他ない。時は巻いて戻せないのだから。

 

「とにかく!! これで守備力5000が僕を守るっす! 永続罠《窮鼠の進撃》でライフを払って下げるにも全然足りないっすよ!!」

 

「この……調子に乗って~!!」

 

――てゆーか、どっちみち永続罠《窮鼠の進撃》じゃ守備力は下げられないから意味ないわよ!!

 

 やがて、売り言葉に買い言葉のように己が有利を示す翔だが、ジュンコは内外ともに歯ぎしりする程に苛立つも、その脳裏に豆電球がともる感覚と共にひらめきが過った。

 

――あっ、そうだ。

 

「永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の効果! 《弓を引くマーメイド》を除外するわ!」

 

 さすれば、貝に乗る《弓を引くマーメイド》が閉じた貝の内に潜むとともに、海中に身を潜め――

 

「……? そんなことして何の意味があるんすか?」

 

「罠カード《一族の結集》! 《プリンセス人魚》と同じ種族を手札から特殊召喚!《レインボー・マリン・マーメイド》!!」

 

 首を傾げる翔の視界に、虹がかかると同時に現れた緑の長髪を持つ赤い服を着た人間の上半身に、青い魚の下半身を持つ人魚が映った。

 

《レインボー・マリン・マーメイド》 攻撃表示

星5 → 星4 水属性 魚族

攻1550 守1700

攻1750 守1900

 

「レベル5のモンスター? でも無駄っすよ! 攻撃力が全然足りないっす!!」

 

 しかし、その攻撃力は2000すら超えない微々たるもの。翔を守る《スーパービークロイド-モビルベース》の守備力5000は超えられない。

 

「《レインボー・マリン・マーメイド》で攻撃!! そして元々のレベルが5以上の水属性がバトルする時! 永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の効果で、バトルする相手モンスターを破壊するわ!!」

 

「えっ!? ま、拙いっす……!?」

 

 だが、海流の流れと波を利用して虹のアーチを描きながら《レインボー・マリン・マーメイド》が津波と共に《スーパービークロイド-モビルベース》を呑み込まんと迫る中、翔は焦った様子で伏せたカードを発動させた。

 

「そ、速攻魔法《無許可の再奇動(メイルファクターズ・コマンド)》発動! 僕のデッキからユニオンモンスターを機械族に装備するっす! これで《強化支援メカ・ヘビーアーマー》を装着!」

 

 途端に空から飛行機雲を描きながら《スーパービークロイド-モビルベース》の全身に追加パーツよろしくドッキングした白と赤のアーマーたち。

 

 これで守りは万全だと翔は威勢よく語る。

 

「このカードを装備したモビルベースは相手の効果の対象にならない! これで永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》じゃ破壊されないっすよ!」

 

「えっ? 永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》は対象取らない効果だから破壊するけど?」

 

「えっ?」

 

 しかし、ジュンコに効果の勘違いを指摘された(コン〇イ語の洗礼を受けた)翔の間の抜けた声が響く中、大波を引き連れた《レインボー・マリン・マーメイド》はビタンと音を立てて《スーパービークロイド-モビルベース》に激突。

 

 そうして、《スーパービークロイド-モビルベース》の装甲の上を《レインボー・マリン・マーメイド》は力尽きるようにずり落ちて行き、海にバチャンと水飛沫を上げて倒れた。

 

ジュンコLP:1100 → 0

 

「うわぁあぁ……って、あれ? 勝ったっす……か?」

 

 やがて、()()()()のライフが尽きる中、来る筈だった衝撃に目を閉じて身構えていた翔が薄っすらと瞳を開けつつ、状況を確認すれば――

 

「えっ? ちょ、どうしてよ!? モビルベースは破壊できる筈でしょ!?」

 

「なんか知らないけど、勝ったっす!! やったー!!」

 

 納得がいかない様子のジュンコを余所に、翔はこぶしを突き上げて己の勝利を喜んでいる中、クロノスはジュンコへと近寄り声をかける。

 

「詰めが甘いノーネ。《強化支援メカ・ヘビーアーマー》は戦闘だけでなーく、効果破壊でも装備モンスターの身代わりとなれルーノ」

 

「あっ! あっ~!!」

 

 そう、永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》で破壊される筈だった《スーパービークロイド-モビルベース》は《強化支援メカ・ヘビーアーマー》を身代わりとして生存。

 

 よって、バトルはそのまま続行され、守備力5000に突っ込む結果になった――それがジュンコの敗因である。

 

 しかし、此処でジュンコは、ふと気づいた件より未だ喜びの謎ダンスを踊る翔へ指をさしながら詰め寄った。

 

「てゆーか、前のターンに発動してればステルス・ユニオン守れてたじゃないの!! ちゃんとカード使いなさいよ!! 負けちゃったじゃない!!」

 

「へへーん、デュエルの答えは一つじゃないっすよ!」

 

「プレイミスしただけの癖に!!」

 

 そう、翔が《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》に《強化支援メカ・ヘビーアーマー》を装備させていれば、ジュンコの魔法カード《悪魔の貢物》の効果を受けることなく、《ジェット・ロイド》ドロー博打に陥ることもなかったのだ。

 

 とはいえ、ドヤ顔の翔が言う通り、最適なプレイングが必ずしも勝利を呼び込むとは限らないのがデュエルの難しいところである。まぁ、今回の翔の場合はまぐれ当たり以外の何物でもないが。

 

 やがて、敗北感に乙女であることを忘れたように地団駄を踏むジュンコだったが、その元へ友人であるももえが駆けつける。

 

「それを言うならジュンコさんだって、罠カード《同姓同名同盟》の効果で《恍惚の人魚(マーメイド)》を攻撃表示で呼ぶべきでしたわ――そうすれば攻撃力が半減した相手など永続罠《窮鼠の進撃》で返り討ちに出来ましたのに」

 

「それは……相手の攻撃力高かったし、手札に魔法カード《悪魔への貢物》もあったから……貫通に全体攻撃なんて知らなかったし!」

 

 そうして、ももえにプレイミスを指摘されるジュンコだが、《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の効果を知らない身からすれば、「ああする他なかった」と返しつつ、今度は逆にももえのプレイミスを指摘した。

 

「それに、プレイミスしたのはももえも同じでしょ!」

 

「うぐっ!? 折角アドバイスして差し上げたというのに……!」

 

「それに永続罠《窮鼠の進撃》は対象に取る効果だから、結局は防がれちゃうわよ!!」

 

「でも受けるダメージは軽減できたノーネ――お互いに、もっとプレイングに気を配ルーノ」

 

 やがて喧嘩に発展しそうなももえとジュンコのやり取りをクロノスが無理やり収める中、先にデュエルと総評を終えていた取巻は、友人の慕谷が合流した後、ポツリと呟いた。

 

「…………慕谷、気のせいかもしれないけど、聞いても良いか?」

 

「どうした、取巻?」

 

「……僕ら強くなってないか?」

 

 それは確かな自覚。

 

 授業を受ける以外は特段珍しいことをしていないというのに、レッド生徒全員の実力が上方修正されたような実感が取巻の中に芽生えてならない。

 

「気づいたようデスーネ――定期試験を前に、ようやく芽が出て来たノーネ」

 

「クロノス教諭!?」

 

 そんな取巻の実感はいつの間にやらデュエルと総評を終えたレッド生徒を引き連れたクロノスによって肯定された。

 

「ちゃんと授業を受けてさえ貰えレーバ、このくらい当然なノーネ」

 

「なん……だと……!?」

 

「ワタクシたちが、どれだけのドロップアウトボーイ&ガールを見て来たと思ってルーノ!あなた達を最低限ステップアップさせる術なんて、とっくの昔に熟知してるノーネ!」

 

 思わず呆然と呟く取巻だが、クロノスからすれば「デュエリスト育成機関」に来て「その道の専門家(デュエルの教師)」をガン無視する面々(彼ら)の方が異常なのだと返す他ない。

 

 教師とて無能の烙印を押されれば、元校長だった鮫島のようにドロップアウトさせられる現実がある以上、教師側とて己の腕を磨き忘れる訳にはいかないのだから。

 

「俺たちの頑張りは無駄じゃなかったのか……」

 

「そんな……あんな努力が……」

 

 やがて狡い背景からなる自習・復習に思いをはせる慕谷の隣で、その実態を知る翔が努力の方向性に疑問を抱くも――

 

「無駄な努力なんてこの世の何処にもないノーネ! 努力が無駄になるとしターラ、それはあなた達が無駄にしてしまうに他ならなイーノ!!」

 

 クロノスは、形はどうあれ努力の姿勢は無駄ではないことを語る。「正しい努力」ではなかったとしても「それが全て無駄だ」と、どうして言えようか。

 

 

 そうして、レッド生徒たちが己の実力の向上にザワつく中、ジュンコはたまらずと言った具合に拳を握った。

 

「いける! いけるわ! 明日香さんの元に一歩近づけるわよ、ももえ!!」

 

「そうですわ、ジュンコさん! わたくしたちだって、やれば出来る子ですのよ!!」

 

「ぼ、僕もイエローに上がれるっすか!? クロノス先生!」

 

「諦めない心があレーバ、歩みがどれだけ僅かずつデーモ、着実に進めるノーネ!」

 

 やがて、謎の高揚感に包まれるレッド生徒たちの横で、出遅れを実感したのか翔が縋るような声を漏らすが、クロノスは小さな一歩を踏み出した翔の歩みを祝福するように肩に手を置く。

 

 そう、遅ればせながらひな鳥(レッド生徒)たちは空へとはばたく為の翼を手に入れた。

 

 後は飛び立つ時(定期試験)を待つばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は、どこかの国のどこかの荒野に広がる石造りの神殿の中にある祭壇の前にて、遺跡調査の作業員を引き連れていたホプキンス教授は一足先に感嘆の声を漏らした。

 

「キミから連絡があった時は驚いたが――実物を見て更に驚かされたよ」

 

 そう、此処は神崎が前に掘り起こした漫画版5D’s――決闘(デュエル)神官に関する遺跡。

 

「こんなにも状態の良い遺跡が発見されたなんて!」

 

「ホプキンス教授だからこそ、真っ先にご連絡させて頂いた次第です」

 

 やがて、そんなホプキンス教授に恩を着せるように会釈する神崎だが――

 

「まるで手作業で掘り出したみたいじゃないか!」

 

「……大自然が引き起こした奇跡ですね」

 

 勘のいいホプキンス教授の言葉に、神崎も思わず営業スマイルがピシリと固まる他ない。それゆえ、話題の転換の意味も込めて話を変えようとする神崎。

 

「早速なのですが、興味深い部分が――」

 

「ああ、待ってくれ。今回の代表は私じゃないんだ。今日の私は、あくまで付き添いだよ」

 

「しかし――」

 

「其方の心配も分かっているとも。だが安心してくれ――自信を持って任せられる相手だ」

 

「さしずめ後継者と言ったところですか」

 

 だが、此処でホプキンス教授から思わぬ発言が飛び出した。考古学の第一人者であるホプキンス教授が、未確認の遺跡の調査の栄誉を託せる程の相手は、神崎の原作知識にもいない。

 

 精々ホプキンス教授の孫であるレベッカ程度だが、彼女の専門はサイバー系統だ。

 

「では、此方から挨拶に伺わせて頂きます」

 

「なら案内しよう。きっとキミも満足してくれる相手さ」

 

 やがて、当然の帰結とばかりにホプキンス教授の案内の元、神崎は件の人物の元へ向かうこととなった。

 

 

 

 

 

 遺跡調査の為に遺跡の近くに設置された白い仮設テントにて、計画表や遺跡の立体図面が立ち並ぶテーブルに向かう赤いネクタイに紫シャツに白のベストの青年に向けて、レベッカは飛びつくように背中から抱き着き声をかけた。

 

「ダーーーーリン! なに見てるの?」

 

「レ、レベッカ!? ちょ、ちょっと離れて!?」

 

「えぇ~、別に良いじゃない遊戯(ダーリン)――このくらい昔も、やってたんだし」

 

 白のベストの青年――遊戯の背面から首に手を回し、昔の幼かった頃の感覚でスキンシップに興じるレベッカだが、遊戯は顔をゆでだこのように真っ赤に照れながらか細い声でしどろもどろに呟いた。

 

「そ、それは……その……今のレベッカは、も、もう大人だから……」

 

「そ、そっか……」

 

 途端に、レベッカも照れがうつったのか手を放し、ピョンと少しばかり距離を取る。

 

 そう、双方とも学生だった頃とは違い今や立派な社会人――の部分は、あんまり関係ないが今の遊戯では、成長した今のレベッカの行いを過去と同様に「子供のじゃれ合い」では流せぬ状況になったのだ。

 

 下世話な話をすれば、()を無視し切れぬ話である。

 

 そうして、互いに男女の意識を強く持ってしまったゆえか遊戯とレベッカの間に気まずい沈黙が流れるも、そんな空気を変えるべくレベッカは声を裏返らせながら話題を放った。

 

「そ、それでダ、ダーリンは、な、何を見てたの!?」

 

「えっ! う、うん! こ、これだよ!」

 

 そんな強引過ぎる話題変換に遊戯もはやる鼓動を収めるべく飛びつき、タブレット端末をレベッカにも見える位置に配置した。そこに映るのは何処かの会場のデュエル映像。

 

「これって……デュエル中継? 場所はデュエルアカデミアみたいだけど……今の時期なら、ひょっとしてノース校との交流戦?」

 

「ううん、実技の定期試験の様子を配信しているらしいよ。海馬くんから『意見が聞きたい』って頼まれちゃって」

 

 それはレベッカの予想とは僅かに違い、アカデミアの定期試験の様子だが互いに優れたデュエリストゆえに、デュエルの話題は慣れ親しんだもの。

 

「そうなんだ……そ、そうだ!」

 

 ゆえに平静を取り戻し始める遊戯へ、レベッカは意を決した様子で提案。

 

「どうしたの、レベッカ?」

 

「そ、その……ダ、ダーリンの、と、隣で見ても良い?」

 

「う、うん」

 

 やがて、己へとチラチラと合わさるレベッカの視線を前に、遊戯はアッサリと崩れた平静の中で肯定を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ミスター神崎――挨拶は後にして貰って構わないかね?)」

 

「(了解しました)」

 

――なにやってんだよ、AIBO(武藤くん)ォ!!

 

 そんな2人のラブコメ擬きを密かに目撃してしまったホプキンス教授の穏やかながら有無を言わせぬ小声の撤退の合図に、神崎は心中にて、キャラ崩壊全開な勢いで叫びながら頷く他あるまい。

 

 

 

 

 

 そうして、遊戯とレベッカから孫の恋路を応援しつつ離れたホプキンス教授は、大きく息を吐いて当人不在のまま遺跡調査の責任者の紹介に映る。

 

「此処なら問題ないだろう。必要ないやもしれないが、私から紹介しよう」

 

 そう、此度の遺跡調査を取り仕切るのは()の人物。

 

「先程の彼がこの現場を取り仕切る『武藤 遊戯』――考古学者の卵だ」

 

 伝説のデュエルキングたる「武藤 遊戯」その人である。

 

――なんで此処にいるのAIBO(武藤くん)ォオォ!! 宇宙行く前に大学進学するって話は聞いてたけどさァ!!

 

「……驚きました。まさか武藤くんが、考古学の道を歩まれていたなんて」

 

 そうして、神崎は荒ぶる心中が収まりを見せない最中、世間話に紛れて情報収集を始めるも――

 

「ハハハ、私も驚きでしたよ。なんでも、アテムくんと約束したとか――文字通り一心同体だった相手なのだからね。知らずにはいられなかったのだろう」

 

――約束!? 考古学者の必要性は何故!? 原作にそんなのあった!?

 

 朗らかに笑うホプキンス教授から、遊戯の大親友たる「アテム」のルーツを探る(ロマン)を追い始めたのだと説明される。

 

 しかし、その切っ掛けにアクターの存在が関与していたとは神崎も流石に思いつかなかった様子。

 

 

 とはいえ、流石に人生かけてアクター(虚像)の情報を探し始めるなどと、辿り着きようがないのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、遊戯とレベッカがタブレットを操作しようとした手が触れる度にバッと手を放し、ドギマギし始めていたデュエル観戦の舞台であるアカデミアでは――

 

 世に発信されない情報こと、レッド生徒たちのデュエルを終え、クロノスの口から結果発表がなされていた。

 

「――と、シニョール取巻、以上の者は、ラー・イエローに昇格なノーネ!!」

 

「――おっしゃぁああぁああああぁあ!!」

 

 そうして凡そ3分の1のレッド生徒が取巻の歓喜の声に触発されるようにハイタッチしながら喜びの只中にある中、3分の2に分類されたジュンコとももえは思わず不満の声を漏らす。

 

「なんで、私たちがレッドのまま!?」

 

「わたくしたち、強くなったんじゃありませんの!?」

 

「それとこれ(昇格条件)とは別の話ナーノ。でもでーも、後一歩と言ったところですカーラ、腐らず励むノーネ」

 

 そして「強くなった」と語るジュンコとももえに対し、クロノスが告げたのは無常な「あと一歩――か二、三歩足りない」との評価。

 

「シニョーラ枕田は『高い攻撃力を持つ相手』への対処に、ライフを使いすぎなノーネ。それと永続罠《窮鼠の進撃》の為の永続的なライフ回復が、《プリンセス人魚》だけでは心許なイーノ。ライフ管理が杜撰な証拠デスーネ」

 

 ジュンコのデュエルはプレイミスもさることながら、ライフ管理が命のスタイルで後半ライフの息切れを見せた点を思えば、ラー・イエロー昇格は認められず、

 

「シニョーラ浜口は、デッキ構築は大きく改善しましターガ、プレイングに『相手がどう動くか』への意識が低い――ぶっちゃけレーバ、『デュエルが雑』なノーネ。『思い切りの良さ』と『思考停止』は全くの別物ナーノ」

 

 ももえのデュエルは、デッキ構築に凡その及第点を出せたとしても、プレイングの粗さが目立った為、同上。

 

「くっ……! 怒られてる内容がちゃんと分かるのが悔しい……!」

 

「入学開始カーラ、授業をちゃんと受けてレーバとっくの昔に気づけてたことなノーネ」

 

「返す言葉もありませんわ……」

 

 そう、クロノスの言う通り、今回の試験でラー・イエローに上がれた者の大半が、佐藤が授業を担当していた頃から、コツコツ頑張っていた面々ばかりである。一部例外(取巻)が執念で掴みとった部分があれども、その例外では昇級のギリギリのラインだった事実は否めないのだ。

 

「ぼ、僕は!」

 

「焦らずとも順番に総評するノーネ。次はシニョール慕谷! 貴方ーは――」

 

 やがて、ラー・イエロー昇格者たちを前に焦りにかられた翔がクロノスに意見を求めるも、クロノスに「順番だ」と手で制され、レッドの教員が次の担当に代わる最後の仕事とばかりにクロノスは一人一人の生徒たちにアドバイスを送っていく。

 

「――シニョール丸藤は、以上の点を、気を付けるノーネ」

 

「クロノス教諭! 僕のデッキにどのカードを入れれば良いっすか!」

 

 だが、更なるアドバイスを欲した翔に、クロノスは小さく首を横に振った。

 

「それは教えられなイーノ。ワタクシがシニョールたちに与えられるのは『答え』ではなく『解き方』なノーネ。シニョールたちが卒業した後、隣にワタクシたち教員はいないのですカーラ」

 

 そう、「○○のカードをデッキに入れなさい」とクロノスは教えられない。なにせ、それは「思考の放棄」でしかないのだから。

 

 クロノスが翔のデッキを一生面倒みていくことが叶わない以上、クロノスが与えられるのは「思考の土壌」のみ。

 

「そ、そんな……」

 

「焦ることはなイーノ。レッド生徒でも基本1年の猶予があるノーネ。その間なら失敗しても何度でもチャレンジが許されていルーノ」

 

 やがて、絶望の表情を見せる翔へ、クロノスは「諦めるのはまだ早い」旨を伝える。確かにオシリス・レッドは退学のペナルティに追いかけられる立場だが、即座に「退学」が言い渡される例は余程「適性がない」と判断されない限りは稀有だ。

 

 1年間ならば挑戦の機会は、可能な限り用意されている。だが、翔が焦りを見せるのも当然だ。なにせ、もう2度目の定期試験が終わり、直に長期休暇が顔を覗かせる時期。

 

――でも、もうじき半分が過ぎるっす……

 

「僕も、もっと早く頑張ってれば……」

 

「シニョール丸藤、その気付きと実感はとっても大切なノーネ。デスーガ、時間は巻いて戻らなイーノ。過去を悔やむより、『今』を未来に投資することを心掛けるノーネ」

 

 だが、そんな気持ちばかりがはやる翔へ、クロノスは「今、何をするべきか」を重視するようにアドバイスを贈る。

 

 

 かくして、レッド生徒たちは空へと羽ばたき始めた。確かに、その多くは自在に飛べずに地へと落ちたやもしれない。しかし、それで良いのだ。

 

 地に落ちる(失敗する)のは、空へと羽ばたいた(挑戦した)者だけなのだから。

 

 

 





杏子「えっ……?」

レベッカ「乗るしかない……!! このビッグウェーブに……!!」




Q:遊戯ぃっ!!

A:闘いの儀編にて、杏子がアテムに「伝えたいことがある。待ってて(誰から見ても愛の告白)」と告げたので
優しい遊戯は身を引くことを選びました。早い話が失恋です。
DSOD編でも杏子とアテムの仲へ時間を割いて祝福していたのもこの影響です。

そして、GX編にて「ゲームデザイナー」の夢を理想の形で叶えることが潰えたので、
一番の大親友である「アテムの生きた軌跡」を調べる道を選びました。
アテムから「アクターのことを調べて欲しい(意訳)」とも頼まれましたし(なお)

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