マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
レイ「『ビッグウェーブ』『乗る』『方法』――で検索っと」

吹雪『やぁ、みんなのアイドルフブキングのチャンネルにようこそ! 今日は華麗な波乗りをレクチャーしよう! ボードは友達! Best(ベスト) Friend(フレンド)!』 

レイ「違う、そうじゃない――チャンネル登録ッ!!」





第258話 相棒

 

 

 此処で唐突に時間を少々巻き戻し、遊戯とレベッカが互いにドギマギしながら並んでタブレットを眺めつつデュエル観戦をし始めた頃――

 

 そのタブレット上には、デュエルアカデミアの定期試験にてデュエルを行う2人のデュエリストがデュエルを開始していた。

 

 

 

 その1人――ラー・イエローの三沢は、先攻を得て通常ドローし、6枚に増えた手札を以て次のターンに来るであろう相手の攻勢に備える盤面を敷く。

 

「俺は魔法(マジック)カード《高等儀式術》を発動! デッキの通常モンスター《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》2体を墓地に送り、そのレベルの合計――レベル8の儀式モンスターを儀式召喚する!」

 

 やがて一番槍として、機械翼を持つ磁石の剣士が贄として大地に描かれた魔法陣の中に消えれば――

 

「現れろ! 《リトマスの死の剣士》!!」

 

 その魔法陣より、角のように横に広い博士帽を被った貴族風の白の服装の剣士が赤紫のマントをはためかせながら、左右の双剣を交差させ三沢を守るように膝をついた。

 

《リトマスの死の剣士》 守備表示

星8 闇属性 戦士族

攻 0 守 0

 

「さらに魔法(マジック)カード《苦渋の決断》! デッキからレベル4の通常モンスター《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)β(・ベータ)》を墓地に送り、その同名カードを手札に! そして召喚!!」

 

 そんな《リトマスの死の剣士》に続くのは、丸い黄色の球体を人型に繋げた磁石の戦士が、頭の左右から延びる磁石の角と、丸い両手から延びる磁石の爪を天に掲げてヤル気と磁力を漲らせながら登場。

 

磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)β(・ベータ)》 攻撃表示

星4 地属性 岩石族

攻1700 守1600

 

「此処でフィールド魔法《マグネット・フィールド》を発動! そして効果により、1ターンに1度、墓地から『マグネットウォリアー』1体――《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》が復活!!」

 

 そして、フィールドが彼らの放つ磁力の力で満ちていく中、サイバーパンクな近未来的な風景が広がったと思えば――

 

 そこからU字磁石のマフラーを付けた翼をもつ薄桃色のずんぐりとした磁石の戦士が、《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)β(・ベータ)》の頭の磁石に引っ付いた。

 

磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》 守備表示

星4 地属性 岩石族

攻1500 守1800

 

「まだまだ行くぞ! 魔法(マジック)カード《同胞の絆》! ライフを2000払い、俺の《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)β(・ベータ)》と同じレベル・属性・種族の別のモンスターを2体特殊召喚する!」

 

三沢LP:4000 → 2000

 

 またまた《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》を引き剥がした《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)β(・ベータ)》の磁力に引き寄せられるように三沢のデッキが光を放つ。

 

「プラスとマイナス――その二つの磁力は引き寄せ合う! さぁ、俺のフィールドに集え! 《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》! 《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)α(・アルファ)》!」

 

 さすれば、別の《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》と、

 

磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》 守備表示

星4 地属性 岩石族

攻1500 守1800

 

 磁石の剣と盾を持ったU字磁石の頭の《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)α(・アルファ)》が、今度は《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)β(・ベータ)》の頭から延びる左右の磁石に引きついた。

 

磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)α(・アルファ)》 守備表示

星4 地属性 岩石族

攻1400 守1700

 

 磁力の力――かどうかは、ともかく――次々にモンスターが三沢のフィールドを埋め尽くしていく。

 

「1ターンでモンスター5体を……!」

 

 そんな光景に、三沢の対戦相手――オベリスク・ブルー女子の原麗華は己の眼鏡の位置を確認するように触れつつ感嘆の息を漏らした。

 

魔法(マジック)カード《馬の骨の対価》で《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)β(・ベータ)》を墓地に送り2枚ドロー! 今引いた2枚目の《馬の骨の対価》も発動だ! 《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)α(・アルファ)》を墓地に送り2枚ドロー!」

 

 やがて、《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)β(・ベータ)》と《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)α(・アルファ)》が砂のように崩れると同時に、光ったデッキトップからカードを引き抜いた三沢は、永続魔法《魂吸収》を発動し、残った2枚のカード全てを伏せてターンを終える。

 

 

三沢LP:2000 手札0

《リトマスの死の剣士》守0

磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》×2 守1800

伏せ×2

《魂吸収》

フィールド魔法《マグネット・フィールド》

VS

原麗華LP:4000 手札6

 

 

 手札を使い切ったものの、戦闘では破壊されない《リトマスの死の剣士》に、まずまずの守備力を持つ下級モンスター2体で守りの布陣を敷いた三沢。

 

 フィールド魔法《マグネット・フィールド》の効果により、攻撃をすれば相手はたちまち手札に逆戻り――加えて2枚の伏せカードもあるとなれば易々とは攻撃できないだろう。

 

「堅実な立ち上がりですね……」

 

 ゆえに、称賛の声を贈る原麗華――前回の試験から流れた「三沢は不調」との噂を覆す仕上がり振りである。

 

「これが今の俺の知恵と魂を込めた6つのデッキ――その一つ! 動かざること地の如し! 易々とは崩させない!」

 

「成程、風林火山陰雷にちなんだ六属性のデッキですか……さしずめ、前の試験での大山先輩の時は――静かなること『水』のデッキ」

 

 やがて三沢から零れた6つのデッキに異なる戦術を詰めたことを伺わせる発言に、前回の試験で使用したデッキから考察を重ねる原麗華だが――

 

「俺の理論は日々進化を続けている! 前回と同じとは思わないことだ!」

 

「無論、侮りなどしません! 私のターン! ドロー!」

 

 三沢の忠告めいた発言に、先入観を捨てて己のデュエルを遂行する決意と共にカードを引いた。

 

「《召喚僧サモンプリースト》を召喚! その効果により、自身は守備表示になります!」

 

 そして現れるのは袖の広い中華風の黒衣に身を包んだ長い灰髪の老魔術師が宙で浮かぶ形で腰を下ろす。

 

《召喚僧サモンプリースト》 攻撃表示 → 守備表示

星4 闇属性 魔法使い族

攻 800 守1600

 

「《召喚僧サモンプリースト》の更なる効果! 手札の魔法(マジック)カード《マジックブラスト》を墓地に送り、デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚です! お願いします、《連弾の魔術師》!」

 

 そんな《召喚僧サモンプリースト》の黒衣のフードに光る赤い宝玉を輝かせれば宙に魔法陣が展開され、そこより紫のコートを羽織ったかぎ爪が丸い球体を掴んだ形をした二対の杖を持つ魔術師が歩み出る。

 

 この魔術師――《連弾の魔術師》こそが、原麗華のデッキの中核となるフェイバリットモンスター。

 

《連弾の魔術師》 攻撃表示

星4 闇属性 魔法使い族

攻1600 守1200

 

「永続魔法《悪夢の拷問部屋》を発動! さらに続けて魔法(マジック)カード《同胞の絆》を2000のライフを支払い《召喚僧サモンプリースト》を対象に発動です!」

 

 そうして一気に相手のライフを削り切ろうとした原麗華だが 《召喚僧サモンプリースト》が両手を天に掲げて祈りの所作を行った瞬間に地下深くに眠る遺跡の鼓動が大地を揺るがす。

 

「《召喚僧サモンプリースト》と同じレベル・属性・種族で別のモンスター2体――《霊滅術師 カイクウ》と《マジックアブソーバー》をデッキから特殊召喚――」

 

「そうはさせない! チェーンして永続罠《古代遺跡の目覚め(トラミッド・パルス)》発動! その効果により墓地の岩石族2体を除外し、フィールドのカード1枚を破壊する! 破壊するのは《召喚僧サモンプリースト》だ!」

 

 さすれば、その揺れによって体勢を崩した《召喚僧サモンプリースト》の腰からゴキリと嫌な音が響くと共に、《召喚僧サモンプリースト》はパタリと地面に倒れ込む。

 

「永続罠がフィールドに存在することで、《リトマスの死の剣士》の攻・守は3000アップする」

 

《リトマスの死の剣士》

攻 0 守 0

攻3000 守3000

 

「くっ……! 《召喚僧サモンプリースト》が破壊されたことで、魔法(マジック)カード《同胞の絆》はライフコストを払うも不発に終わります……」

 

 やがて、心配気に駆け寄った呼ばれる筈だった顔半分に火傷の後があるお坊さんと、大鎌のような杖を持つ波打つような白と青の文様が奔る黒衣をまとった黒の長髪の女に連れられて、ドクターストップよろしく《召喚僧サモンプリースト》は戦場から離れるように運ばれていった。

 

原麗華LP:4000 → 2000

 

「俺は2枚のカードが除外されたことで永続魔法《魂吸収》の効果により1枚につき500――1000のライフを回復する」

 

三沢LP:2000 → 3000

 

 こうして、無為にライフを失うこととなった原麗華に対し、三沢は大地からの光の恵みを享受する。

 

 今や互いのライフ差が逆転した状況だが、原麗華の目に陰りはない。なにせ――

 

「ですが、《連弾の魔術師》の効果は受けて貰います! 私が通常魔法を発動する度に400ポイントのダメージです! さらに三沢さんに効果ダメージを与えたことで永続魔法《悪夢の拷問部屋》により追加で300のダメージ!!」

 

 彼女の必殺のコンボは継続中である。《連弾の魔術師》から放たれる火球が《悪夢の拷問部屋》を経由することで、燃え盛る拷問器具の弾丸となって三沢に着弾。

 

三沢LP:3000 → 2600 → 2300

 

「このくらい必要経費だ」

 

 そう、原麗華が通常魔法を発動する度に400+300――700ポイントのダメージを与えるコンボこそが、原麗華の主戦術。

 

 単純計算で魔法(マジック)カードを6回発動するだけで、相手のライフを削りきることが可能だ。

 

「キミの効果ダメージ主体のデッキは確かに厄介だが、残り2枚の手札では大きなダメージは望めない」

 

 しかし、三沢の言う通り、幾ら魔法(マジック)カード《同胞の絆》のライフコストで三沢のライフが目減りしていると言っても、原麗華の2枚の手札では700×2――1400のダメージが限度。

 

「それはどうですかね! 魔法(マジック)カード《グリモの魔導書》! デッキから『魔導書』カード――《セフェルの魔導書》を手札に!」

 

 だが、その程度の問題点は原麗華にとってないも同然とばかりに、彼女の頭上に宝玉が表紙に浮かぶ紫の書が浮かび、そのページが独りでにめくられば1冊の紫の本がその手札に舞い込んだ。

 

「通常魔法が発動し終えたこの瞬間! 再び《連弾の魔術師》と永続魔法《悪夢の拷問部屋》のコンボで三沢さんに400+300! 合計700のダメージです!」

 

 そうして魔法(マジック)カードが発動されれば当然、《連弾の魔術師》が拷問器具を絡めた火球を放たれ、三沢に着弾してライフを着実に削っていく。

 

三沢LP:2300 → 1600

 

 しかし、今の原麗華の手札は2()()()()

 

「くっ……! まだ問題ない!」

 

「なら、どんどん行きますよ! 魔法(マジック)カード《セフェルの魔導書》を発動! 手札の『魔導書』1枚――《ネクロの魔導書》を公開し、墓地の『魔導書』カードの効果を得ます! 当然、《グリモの魔導書》を選択!」

 

 そうして、またまた原麗華の頭上で紫の書が1冊の本が浮かびあがり、そのページが開けば今度は桃色に輝く書が彼女の手札に舞い込んだ。

 

「そしてデッキから更なる『魔導書』カード――《ルドラの魔導書》を手札に! そして、三度《連弾の魔術師》と《悪夢の拷問部屋》のコンボが発動! 合わせて700のダメージです!」

 

 当然、先と同じように《連弾の魔術師》が燃え盛る拷問器具を放ち、三沢のライフを削っていく。

 

三沢LP:1600 → 900

 

 そんな今の原麗華の()()()2()()――つまり先程から一切減っていない。

 

「連続サーチによる疑似ループコンボか……!」

 

「今更、気づいても遅いですよ! 魔法(マジック)カード《ルドラの魔導書》を発動! 手札の『魔導書』――《ネクロの魔導書》を墓地に送り、2枚ドロー! 当然、四度目のコンボダメージです!」

 

 そう、原麗華のデッキは《連弾の魔術師》の効果を最大限活かす為に特化されている。

 

 時には先攻1ターンキルすら容易に可能だ。

 

三沢LP:900 → 200

 

「っ……! だが、その2枚のドローで通常魔法を引けなければ、このコンボは潰える!」

 

「ご心配には及びません。なにせ私のデッキの大半は魔法(マジック)カード! 引けない確率など微々たるものです! ドロー!!」

 

 しかし、腕で己を守るような姿勢の三沢の言葉通り、原麗華の無限ループは「疑似」的なものだ。魔法(マジック)カードの供給が途絶えれば、そこで止まる。

 

 幾ら原麗華が自信満々にカードを引けども、魔法(マジック)カードが引けなければ攻撃力が飛びぬけて高い訳でもない《連弾の魔術師》を残してターンを終える他ない。

 

 だが、三沢と彼が従えるモンスターたちごと閉じ込めるように黒い鉄檻が空から地響きを立てて降り立った事実が、現実を突きつけた。

 

「来ました! 魔法(マジック)カード《悪夢の鉄檻》発動! このカードは発動後にフィールドに2ターンの間、留まり互いのバトルを封じます!」

 

 そう、これにより三沢はバトルを封じられ――るどころではなく、《連弾の魔術師》のコンボのトリガーとなる。

 

「ですが、それも意味のない話――三沢さんのライフはこれで終わりです! 五度目の効果ダメージコンボでフィニッシュです!」

 

 やがて宙に浮かんだ拷問器具が《連弾の魔術師》が杖を振り下ろすと同時に炎を受けて三沢に殺到し、その残りたった200のライフを刈り取った。

 

 

 

 

三沢LP:200

 

「なっ!?」

 

 かに思われた。

 

 《連弾の魔術師》の両手から二対の杖がカランと音を立てて零れ落ちる。

 

「悪いが俺はこのカードを発動させて貰った――速攻魔法《突撃指令》!」

 

「速攻魔法《突撃指令》!? そのカードは確か自分の通常モンスター1体を犠牲に相手モンスター1体を破壊するカード……!」

 

 そして、三沢の発言を注釈するような原麗華が《連弾の魔術師》の方を見やれば、《連弾の魔術師》の腹部には《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》の拳が突き刺さっていた。

 

「その通りだ――この効果により、キミの《連弾の魔術師》は破壊させて貰ったよ。効果ダメージの起点が消えた以上、コンボは成立しない!」

 

 やがて、《悪夢の鉄檻》の中でロケットパンチの姿勢のままで固まりこと切れた《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》を誇るように三沢が宣言するが、原麗華の脳裏に疑問が浮かぶ。

 

「そんなカードがあるのなら、もっと早くに――はっ!?」

 

 しかし、その「もっと早くに《連弾の魔術師》を破壊していればダメージを抑えられた」との疑問への解は、他ならぬ原麗華自身の明晰な頭脳が導き出せてしまう。

 

「そう、キミなら確実に《連弾の魔術師》の起点となる『通常魔法』を引いてくることは想定できた」

 

 そう、「ドロー力」である。

 

 優れたデュエリストほどに大きな影響を与えるドロー力を逆手に取ったのだ。

 

 オベリスク・ブルーに在籍する相手ならば「確実に引いてくる筈だ」との計算を以て、罠を仕掛けたのである。

 

 一歩間違えれば、そのままライフを削りきられて負けていた可能性もある一手だが、三沢とて格上のオベリスク・ブルー相手にノーリスクで勝てるとは考えていない。

 

「恐らく今のキミの残りの1枚の手札では《連弾の魔術師》を再展開し、魔法(マジック)カードを発動する余力はない」

 

「くっ、私の手札を削る為にわざと……!」

 

「そういうことだ。キミのデッキのデータは既に把握済みでね――悪いが、泳がさせて貰った」

 

 その甲斐あって、今の原麗華のモンスターはゼロ――最後の1枚も、次のターン以降を想定されたカードではないことは予想がつく。

 

「なら、私は魔法(マジック)カード《光の護封剣》を発動! これで三沢さんには3ターンの間、攻撃は叶いません!」

 

 しかし、それでも原麗華に応えていたデッキは彼女に二重の守りを――数多の光の剣を三沢のフィールドに降り注がせ、モンスターたちの自由を奪った。

 

「今の私には《悪夢の鉄檻》と《光の護封剣》の守りがあります! 立て直しは十二分に可能です! ターンエンド!」

 

 これで、守りのカードが2枚――永続罠《古代遺跡の目覚め(トラミッド・パルス)》の効果で次のターン1枚破壊されようとも三沢は攻撃できず、墓地の岩石族の数不足により永続罠《古代遺跡の目覚め(トラミッド・パルス)》の発動は叶わない。

 

「三沢さんの弱点は引きの弱さ――私だって把握済みですよ」

 

 そして、互いに手札が0という大山(たいざん)とのデュエルと同じ状況となれば、ドロー力の勝負となる。

 

 

三沢LP:200 手札0

《リトマスの死の剣士》守3000

磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》守1800

《魂吸収》

古代遺跡の目覚め(トラミッド・パルス)

フィールド魔法《マグネット・フィールド》

VS

原 麗華LP:2000 手札0

《悪夢の鉄檻》

《光の護封剣》

 

 

「ならば俺のターン! ドロー!」

 

――フッ、やはり思うようには引けないか。

 

 しかし、三沢とてドローの修行を重ねた身――だが、千載一遇の機会を活かすカードは引けなかった模様。

 

「確かにキミの言う通り俺のドローの弱さは課題だ。だが、その課題を前に無策でデュエルに臨んだ訳じゃない!」

 

 とはいえ、三沢もそれは想定内である。他ならぬ「己を知る」ことにかけた日々は伊達ではない。

 

「今の俺は引きに頼る必要はなくてね!」

 

 そう、今の盤面があれば、最低限「次に備える」ことを積み重ねることは可能だ。

 

「フィールド魔法《マグネット・フィールド》の効果! 俺のフィールドに『磁石の戦士』がある時! 磁力の力が、墓地より仲間を引き寄せる! 来い! 《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》!」

 

 そして再び磁力を放つ《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》に引き寄せられ、瓜二つの同名カードたる《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》が拳を磁力で繋げつつ再会を喜ぶ中――

 

磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》 守備表示

星4 地属性 岩石族

攻1500 守1800

 

「さらに永続罠《古代遺跡の目覚め(トラミッド・パルス)》の効果により墓地の2枚の岩石族を除外し、キミの《光の護封剣》を破壊! 2枚のカードを除外したことでさらに回復!」

 

三沢LP:200 → 1200

 

 揺れる大地が、《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)γ(・ガンマ)》たちの周囲に突き刺さる数多の光の剣を地割れに飲み込み、そこから漏れ出る恵みの光が三沢を覆う。

 

「カードをセットしてターンエンドだ!」

 

――俺が伏せたのは(トラップ)カード《岩投げアタック》……これにより500ダメージと共に岩石族《タックルセイダー》を墓地に送れば、相手の守りを崩せる筈だ。

 

 こうして、アッサリめにターンを終えた三沢が、フラグ満載なことを考える中――

 

――私の《悪夢の鉄檻》は次のターンまで保つとはいえ、ターンを重ねるごとに三沢さんのフィールドは埋まり、ライフもどんどん回復してしまいます。

 

 デッキに手をかける原麗華も同様にフラグ満載なことを考え始めていた。

 

――このドローで最低でも牽制用のカードを引かなければ……!

 

 

 かくして、互いに嫌なフラグを立てあいながら、デュエルは結構長引くこととなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、そんなデュエルをタブレットで眺めていた遊戯たちの元へ舞台を戻せば、レベッカがデュエル開始前までのドギマギなどなかったようにデュエルを批評していた。

 

「ふーん、そんなに悪いようには見えないけど――あの海馬がダーリンに意見を求めるなんて、なにか問題でもあるの?」

 

なにせレベッカは名のあるデュエリストである。デュエルへの真摯な姿勢は恋をしようとも変わらない。

 

 それゆえにレベッカは解せなかった。あのプライドの権化である海馬が、ライバルとして認めた遊戯に「相談」という形で意見を求めたことに――なにせ、三沢たちのデュエルに大きな問題は見られないのだから。

 

 そして、それには遊戯も同意を示しつつも、小耳に挟んだ裏の部分の情報を明かした。

 

「うーん、ボクも問題ないとは思うんだけど、モクバくんが言うには実績部分でアメリカ校に後れを取ってるのが気になるらしいんだって」

 

「あ~、ペガサス会長に負けっぱなしは癪な訳ね」

 

「ボクは『大丈夫』って言ったんだけど、海馬くんは納得してないみたいなんだ……」

 

 それが、いつぞやのデイビットが語った部分である「本校以上に躍進を続けるデュエルアカデミア・アメリカ校」の評判部分だ。

 

 負けず嫌いの海馬からすれば、面白くあるまい。

 

「まぁ、ペガサス会長のお膝元で『END』なんてイレギュラーが出て来たんじゃ海馬も流石に焦っちゃうわよ」

 

「『END』?」

 

 だが、此処で「話の核が見えた」と腕を組んでうんうん頷くレベッカだったが、対する遊戯の首を傾げる姿に、信じられないものでも見るような視線を向ける。

 

「ダーリンは知らないの? 海外じゃ有名な話なんだけど……」

 

 なにせ、海外の――ホプキンス教授との所縁のある――大学に進学した遊戯が、本場の有名な話題を知らぬとなれば、戸惑いもしよう。

 

「あはは……最近までずっと勉強漬けだったから……」

 

「減点!」

 

「えっ?」

 

 しかし、目線を逸らして頭をかく遊戯の眼前に、レベッカの人差し指が向けられた。

 

「ダメじゃないダーリン! 考古学は『今』があって初めて成立する分野なんだから! 今、世界で起きていることへ常にアンテナを張ること!」

 

 そう、歴史とは当然のことながら連綿と「繋がっている」ものだ。「今」ですら100年も経てば考古学の範疇になろう――つまり、「今」も「考古学の一部」と言っても過言ではないのだ。

 

「ご、ごめん」

 

「全く、お爺ちゃんは甘いんだから――分野は違うけど、此処は学者先輩の私がエスコートしてあげるわ!」

 

 やがて分野は違えど先輩(レベッカ)の忠言を粛々と受ける遊戯へ、レベッカは未熟な弟弟子(遊戯)に一つばかり道を示す。

 

「一先ず、次のお休みにプロの試合観戦にでも行きましょう! はい、決定!」

 

「じゃあ折角だから海馬くんに貰ったペアチケットを――」

 

「えっ? ペア(二人)?」

 

「あっ」

 

 だが、遊戯から帰ってきた思わぬ返答(二人っきりの旅行)にレベッカは両手を合わせた姿勢のままでピタリと固まった。

 

 レベッカとしては祖父のホプキンス教授も交えて、いつものメンバーで出かけるとばかり考えていただけに、想定外だった模様。思わぬお誘い(デートの誘い)を前に、レベッカの表情は朱に染まっていく中――

 

「いや、えっと、これは、その、そんな変な意味じゃなくて! 偶々貰ったチケットだから――」

 

 速攻で日和る遊戯。

 

 顔を照れで真っ赤に染めながら両手をアワアワせわしなく動かす姿は恋愛初心者感が否めない。天下のデュエルキングの名が泣こう。

 

「そ、そうよね! せ、折角、貰ったのに無駄になっちゃわ、悪いもの!」

 

 そして、そんな遊戯の日和りに便乗してしまうレベッカ――千載一遇の機会を逃すとはこのことか。

 

「うん、その、えーと……………………」

 

 やがて、語る言い訳が尽きたのか遊戯は言葉を探すように視線を彷徨わせた後に沈黙。

 

 両者の間になんとも言えぬ浮ついた雰囲気が流れる中、タブレット上のデュエルにて長引いた泥仕合を制した三沢が勝利の拳を掲げた瞬間に響いた観客の喝采の音声にビクリと反応した遊戯とレベッカは――

 

「えっと、あっ――そ、そろそろ時間だから教授の元に、い、行かないと!!」

 

「そ、そうね! お、お爺ちゃんを待たせちゃダメよね!」

 

 降って湧いた予定と言う名の波に乗り、2人揃って慌てた様子のまま簡易テントから飛び出すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で、舞台と時間は少々戻り、デュエルアカデミアにて三沢の試合と凡そ同時進行していた十代の対戦相手であるカチューシャで青のウェーブがかった長髪を整えたラー・イエロー女子こと海野(うみの) 幸子(ゆきこ)は右手の甲を口元に当てながらお上品――らしい――高笑いを上げていた。

 

「オーホッホッホ! 完璧な手札ですわ! わたくしの勝ちは決まったも同然でしてよ!」

 

 対戦相手の十代は、1年の中でまさに新進気鋭の存在である。

 

 しかし、それを加味しても先攻を得た海野の手札はパーフェクトだった。

 

「わたくしは魔法(マジック)カード《スター・ブラスト》を発動! 支払ったライフ500につき手札のモンスターのレベルを一つ下げますわ! わたくしは1500のライフを支払いレベルを3つダウンさせます!」

 

海野LP:4000 → 2500

 

 空に赤い球体に閉じ込められたような黄色い星型が7つ浮かぶ中、その3つがボボンと破裂し、海野にその衝撃が届くも――

 

「そしてレベルが7から4に下がった《超古深海王シーラカンス》を通常召喚ですわ!!」

 

 その破裂した際の煙を押しのけるように藍色の重厚な鱗に覆われた巨大な古代の魚が大口から雄たけびを響かせて、現れた。

 

《超古深海王シーラカンス》 攻撃表示

星7 水属性 魚族

攻2800 守2200

 

「おぉ! 最上級モンスターがこんなにアッサリ!」

 

「驚くには早くてよ! 《超古深海王シーラカンス》の効果! わたくしの手札1枚を墓地に送ることでデッキからレベル4以下の魚族を可能な限り特殊召喚しますわ!」

 

 空を泳ぐ《超古深海王シーラカンス》の巨体にテンションを上げる十代の姿に気分よく鼻を鳴らす海野が指をパチンとならせば、天へと雄たけびを上げる《超古深海王シーラカンス》が津波を呼び寄せ――

 

「来なさい! 2体の《剣闘(グラディアル)(ビースト)トラケス》と、《剣闘(グラディアル)(ビースト)ムルミロ》!!」

 

 その波に乗せられ2体のフグの頭を持つまん丸な体形の二頭身の魚人が三角の装甲を繋ぎ合わせたような鎧に身を包み、小さな腕で杖を構え、

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)トラケス》×2 守備表示

星3 水属性 魚族

攻1400 守 400

 

 それらの隣で2体の青い甲殻のような鱗に覆われた背中に二対の大口径の大砲を携えた魚の戦士が並び立ち、海野のフィールドを埋め尽くした。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)ムルミロ》×2 守備表示

星3 水属性 魚族

攻 800 守 400

 

「一気にモンスターが4体も!?」

 

「驚くのは早いと申し上げたでしょう? 本番は此処からですわ! フィールドの『剣闘(グラディアル)(ビースト)』2体をデッキに戻すことで、エクストラデッキの《剣闘(グラディアル)(ビースト)エセダリ》は特殊召喚できますわ!」

 

 やがて《剣闘(グラディアル)(ビースト)トラケス》と《剣闘(グラディアル)(ビースト)ムルミロ》の2体ずつが海流を巻き上げ飛び跳ねれば、光を放ち一体化。

 

「トラケス2体と、ムルミロ2体をそれぞれデッキに戻し、エクストラデッキから舞い降りなさい、2体の《剣闘(グラディアル)(ビースト)エセダリ》!!」

 

 そして、空中より水飛沫を挙げて着水した2体は、黄色のサイドカーのようなチャリオットに乗った棍棒と盾を構えた黒いゴリラ。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)エセダリ》×2 攻撃表示

星5 地属性 獣族

攻2500 守1400

 

「攻撃力2500以上が3体並んだ!?」

 

「まだまだですことよ! レベル5以上の『剣闘(グラディアル)(ビースト)』2体――エセダリ2体をデッキ(エクストラデッキ)に戻すことで、エクストラデッキからこのカードは特殊召喚できますわ!!」

 

 だが、そんな《剣闘(グラディアル)(ビースト)エセダリ》2体が右腕と左腕をロックするように組み、ダンスのように 走らせれば――

 

「来なさい、わたくしの従僕であり、剣闘(グラディアル)(ビースト)たちを束ねる司令官!」

 

 うねりを上げる海流が二対の水竜のように絡み合い、やがて水の中にて2つの影は一つとなる。

 

「――《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》!!」

 

 そうして、弾けた二対の海流より現れるのは、赤い鎧に身を包んだ二足の鹿の獣人。

 

 その頭から光り輝く角を枝分かれさせて伸ばしながら、杖を腰だめに構えて金色の杖先を十代へと向けた。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》 守備表示

星8 闇属性 獣戦士族

攻2400 守3000

 

「おぉー! なんか凄そうなの出てきたぁー!」

 

「ふふん、下々の反応(リアクション)は中々に心地よくてよ――エーディトルの効果! 1ターンに1度、エクストラデッキから『剣闘(グラディアル)(ビースト)』1体を召喚条件を無視して呼びだせますわ!」

 

 《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》が杖を大地に突きつければ、その音に触発されるように海野のデュエルディスクから巨大な影が一つ飛び立ち、天より大地に影を落とす。

 

「来なさい、剣闘(グラディアル)(ビースト)の絶対王者! 《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》!!」

 

 やがて地響きと共に大地に降り立った黄金の鎧に身を包んだ百獣の王たるライオンの獣人が両手に携えた相棒たる金色の大盾と大斧を誇るように雄たけびを上げた。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》 攻撃表示

星8 炎属性 獣戦士族

攻3000 守2800

 

「わたくしはこれでターンエンド――折角ですから、お教えして差し上げますわ。ヘラクレイノスは手札を捨てることで魔法(マジック)(トラップ)カードを封じますの」

 

 大型モンスター2体を従えターンを終えた海野は意気揚々とばかりに十代を指さし、己の絶対的有利を宣言した。

 

魔法(マジック)カード(融合)が主体の貴方が、どう動くのか見ものですわね!」

 

 なにせ、指さす海野と動きをシンクロさせるように斧を十代に向ける《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》は、本領を発揮するには融合召喚が必要な十代のHEROたちの天敵とも言える相手。

 

 《ユベル》を頼ろうにも、此方もリリースが2体必要な最上級モンスターである為、魔法・罠に制限が課されては、少々困りもの。

 

 

海野LP:2500 手札3

《超古深海王シーラカンス》攻2800

剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》守3000

剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》攻3000

VS

十代LP:4000 手札5

 

 

 そんな現状を前に、十代の背後に浮かぶユベルは悩まし気な声を漏らす。

 

『中々厄介な布陣じゃないか――ラー・イエローにも、こんな生徒がいたんだね』

 

――女子寮は全部おんなじとこにあるから、授業以外じゃあんまり会わないからなー

 

『キミが手続きの類を面倒臭がるからじゃないか』

 

 なにせ、ラー・イエロー男子の大半とデュエルしていた十代だが、反面ラー・イエロー女子との交流は少ない。

 

 それは「ユベルが嫉妬する」からとの理由もあれど、十代の内心の声が示すように実際問題「寮移動」に関する諸々を十代が面倒臭がった部分が大きいだろう。

 

 早い話が、十代にとって海野とのデュエルは対策なしで挑むには些か以上に相性の悪い相手だった。

 

「へへっ、でも、まぁ楽しみが増えたぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

 それゆえか、モンスターを裏守備表示で伏せ、残りの手札5枚全て伏せる――完全な守勢の構えを見せる十代。

 

 

海野LP:2500 手札3

《超古深海王シーラカンス》攻2800

剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》守3000

剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》攻3000

VS

十代LP:4000 手札0

裏守備モンスター×1

伏せ×5

 

 

「あらあら、亀のように守りを固めて打つ手がないようですわね――ですが、わたくしは手を緩めるつもりはありませんわ! わたくしのターン! ドロー!」

 

 しかし、それは悪手だと海野は嗤う。「通常ドローによって海野の手札が増える」=「《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》の魔法・罠の発動無効回数も増える」のだ。

 

 下手な延命は十代の首を自ら絞めると同義である。

 

「エーディトルの効果! エクストラデッキから召喚条件を無視して『剣闘(グラディアル)(ビースト)』を一体、呼び出しますわ!」

 

 それに加えて、ターンを(また)げば(また)ぐ程に《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》は杖で地面を突き叩き、新たな仲間を呼び寄せ続ける。

 

「――天を統べる長! 《剣闘(グラディアル)(ビースト)ガイザレス》!」

 

 そうして、海野のデュエルディスクから疾風と共に風切り音を響かせて現れるのは

 

 深緑の重鎧をまとった赤い花のようなトサカを持つ緑の鳥の獣人が、その重量を感じさせぬように巨大な翼で大空を舞う。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)ガイザレス》 攻撃表示

星6 闇属性 鳥獣族

攻2400 守1500

 

「特殊召喚されたガイザレスの効果! フィールドのカードを2枚破壊しますわ! 当然、貴方の伏せカードを――」

 

「そうはさせないぜ! (トラップ)カード《ブレイクスルー・スキル》発動! これでガイザレスの効果は無効だ!」

 

「無駄ですわ! ヘラクレイノスの効果! わたくしの手札1枚をコストに魔法・(トラップ)カードの効果を無効化! これでガイザレスの効果を阻むものはありませんことよ!」

 

 《剣闘(グラディアル)(ビースト)ガイザレス》が翼を広げて発生させた突風が十代のフィールドに吹き抜けるが、その行く手を遮るように十代のフィールドの1枚のカードが起き上がって風をはじき返さんとする。

 

 しかし、その行く手を遮るように起き上がった1枚のカードは《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》が突進と共に振るった斧によって両断された。

 

 

 と同時に、その斧にこの世のものとは思えぬ数多の文字が纏わりつく。

 

「そいつは、どうかな! 俺はライフを半分払ってカウンター罠《虚無を呼ぶ呪文(ヴァニティー・コール)》発動!」

 

十代LP:4000 → 2000

 

 やがて、その不気味な数多の文字は怨霊のようにフィールドに広がりながら、狙いすませた獲物へと殺到。

 

「《虚無を呼ぶ呪文(ヴァニティー・コール)》ですって!?」

 

「こいつはチェーン4以降に発動できるカウンター罠! そしてチェーン中に発動された『カード全て』を無効にして破壊する!!」

 

『万丈目対策に入れたカードが上手く決まったじゃないか』

 

 そう、これは万丈目のカウンター罠や、《光と闇の(ライトアンドダークネス)(・ドラゴン)》の対策として投入した1枚――万丈目を相手にどこまで通じるか未知数の部分ではあったが、海野には効果抜群だった模様。

 

「これでガイザレスと一緒に厄介なヘラクレイノスにもオサラバして貰うぜ!!」

 

 やがて、数多の呪いの文字に浸食された《剣闘(グラディアル)(ビースト)ガイザレス》と《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》は苦悶の声を上げながら消えていく。

 

 その光景を海野は歯嚙みして見送る他ない。

 

「くっ……! やられましてよ……!」

 

――エーディトルは融合素材に出来ない……! これを即座に嗅ぎ付けて……!

 

 それに加えて、最初のターンのように《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》を展開しようにもモンスターゾーンの圧迫と《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》のデメリットにより叶わない。

 

『あの顔を見るにエーディトルを素材に別のエーディトルを呼び出すのは無理そうだね――ひとまずヘラクレイノスの厄介な効果を心配する必要はなくなったかな?』

 

――いいや、ユベル。海野の目は全然諦めてねぇぜ!

 

 ゆえにユベルは一先ずの山は越えたと理論的に判断するも、十代は感覚的に「むしろ此処から」と警戒を強めた。

 

「《超古深海王シーラカンス》の効果! 手札1枚を捨て再び、来なさい3体のトラケス!!」

 

 そんな十代の警戒を余所に《超古深海王シーラカンス》が再び大波を唸らせれば、波に乗って3体のフグ頭こと《剣闘(グラディアル)(ビースト)トラケス》が重なるようにそれぞれの小さな杖を振り上げる。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)トラケス》×3 守備表示

星3 水属性 魚族

攻1400 守 400

 

「でも、前のターンにエーディトルで召喚条件を無視した以上、そいつらだけじゃあヘラクレイノスを呼べない筈だ!」

 

「……その通りですわ。本来であればヘラクレイノスは《剣闘(グラディアル)(ビースト)ラクエル》を含めた『剣闘(グラディアル)(ビースト)』3体をデッキに戻すことで初めて呼び出せるモンスター」

 

『でも、ラクエルは魚族じゃない……かな?』

 

 しかし、十代の言う通り今の海野の布陣では、融合HEROキラーである《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》を呼ぶことは叶わない。

 

「ふん、わたくしの裏をかけてご満悦のようですけど――わたくしのデッキが、この程度で制せるとは思わないことね!!」

 

 だが、海野のデッキは其処まで浅くはない。

 

「3体の『剣闘(グラディアル)(ビースト)』――トラケス3体をデッキに戻し、エクストラデッキから現れなさい! 闇夜の支配者! 《剣闘(グラディアル)(ビースト)ネロキウス》!!」

 

 《剣闘(グラディアル)(ビースト)トラケス》が三筋の海流となって天に水球を作り、弾けたと思えば空には6枚羽根を広げる群青の鎧に身を包んだ巨大なコウモリの獣人が腕を組んで宙に浮かぶ。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)ネロキウス》 攻撃表示

星8 闇属性 鳥獣族

攻2800 守1900

 

「エーディトルを攻撃表示に変更し、バトル!!」

 

 そして、《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》が杖の先から光の剣先を生成した途端に――

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》守備表示 → 攻撃表示

守3000 → 攻2400

 

「お行きなさい、ネロキウス! その裏守備モンスターを粉砕するのよ!」

 

 《剣闘(グラディアル)(ビースト)ネロキウス》は翼を縦に畳んで空より急降下し、十代を守る唯一の裏守備モンスターへと突撃するが、十代とて唯では通さない。

 

「そうはさせないぜ! (トラップ)カードを――」

 

「無駄ですわ! ネロキウスが攻撃する時、相手は如何なるカード効果も発動できない!」

 

 しかし、十代の思惑は口から怪音波を放った《剣闘(グラディアル)(ビースト)ネロキウス》によって遮られ、そのまま《剣闘(グラディアル)(ビースト)ネロキウス》の突撃は十代を守る裏守備モンスターである――丸みを帯びた粘土のような土色の大柄なヒーローの腹部へと深々と突き刺さる。

 

E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)クレイマン》 裏守備表示 → 表側守備表示

星4 地属性 戦士族

攻800 守2000

 

「ク、クレイマン!?」

 

『クロノスの時と同系統の効果か』

 

 そして留まることを知らない《剣闘(グラディアル)(ビースト)ネロキウス》の加速によって空へと跳ね上げられた《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)クレイマン》は、その頑丈な筈の身体を木っ端微塵に散らすこととなった。

 

「これで貴方を守るモンスターはゼロ! フィニッシュを決めなさい! 《超古深海王シーラカンス》とエーディトルでダイレクトアタック!!」

 

 こうして守り手を失った十代に宙を泳ぐ《超古深海王シーラカンス》の突進と、杖を構えて駆け抜ける《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》が迫る。

 

「させるか! (トラップ)カード《パワー・ウォール》! 俺が受ける筈だったダメージ500につき1枚のカードをデッキから墓地に送ることで、このバトルでのダメージをゼロにする!!」

 

「所詮は悪あがき! エーディトルのダイレクトアタックは止まりませんわ!」

 

 それら二連撃の一つをリバースカードに手をかざした十代のデッキから6枚のカードの盾を以てはじき返すも、その脇を通り抜ける《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》の歩みを止めることは叶わない。

 

「いいや、ピンチの時こそHEROが駆けつけるのさ! (トラップ)カード《リミット・リバース》発動! 攻撃表示で攻撃力1000以下のモンスター1体を――《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フェザーマン》が復活!!」

 

 だが、十代の目前に迫った《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》の前に白き翼をもった緑の体毛に覆われたヒーローが、その身を賭して十代を守らんと飛び出した。

 

E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フェザーマン》 攻撃表示

星3 風属性 戦士族

攻1000 守1000

 

十代LP:2000 → 600

 

「ぐっ……! 助かったぜ、フェザーマン!」

 

 杖の一撃に弾き飛ばされたことで倒れ消える《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フェザーマン》の救援により辛うじて窮地を脱した十代だが――

 

「ふん、バトルを終了しますわ」

 

――前回と違って色々用意してきているようね……でも!

 

「よっしゃぁ! これで俺の――」

 

「このバトル終了時、ネロキウスの効果発動!」

 

 しのぎ切ったと拳を突き上げた十代の喜色の声は、海野の遮る声と共に天高く飛翔した《剣闘(グラディアル)(ビースト)ネロキウス》の風切り音にかき消された。

 

「えっ?」

 

「ネロキウスをエクストラデッキに戻すことで、デッキから2体の『剣闘(グラディアル)(ビースト)』を呼び出せますわ! 来なさい、《剣闘(グラディアル)(ビースト)サジタリィ》! 《剣闘(グラディアル)(ビースト)ベストロウリィ》!」

 

 そして天より四足の馬の半身でフィールドを駆け下りた長い金髪をざっくばらんに伸ばす雄々しいケンタウロスが、自慢の大弓を引き絞り勝利を狙い、

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)サジタリィ》 守備表示

星3 風属性 鳥獣族

攻1400 守 1000

 

 その頭上にて、灰の軽鎧に身を包んだ緑の鳥の獣人が背中の大きな翼を広げつつ、宙を舞った。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)ベストロウリィ》 守備表示

星4 風属性 鳥獣族

攻1500 守 800

 

「そして『剣闘(グラディアル)(ビースト)』の効果で特殊召喚された2体の効果発動!」

 

 さすれば、此処に――剣闘(グラディアル)(ビースト)たちの本来の力が発揮される。

 

「まずはサジタリィの効果で手札の『剣闘(グラディアル)(ビースト)』カード――《剣闘(グラディアル)(ビースト)の底力》を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

 まずは、《剣闘(グラディアル)(ビースト)サジタリィ》が弓矢で海野の手札を射抜けば、矢はそのまま天へと昇った後に海野のデッキに光を落とし、2枚のカードを導き、

 

「お次はベストロウリィの効果ですわ! フィールドの魔法・(トラップ)カード1枚を破壊! 当然、貴方の最後の希望の伏せカードを破壊!」

 

 そして《剣闘(グラディアル)(ビースト)ベストロウリィ》が翼を翻せば、一筋の風が十代の最後のセットカードを貫くが――

 

「くっ、仕方ねぇ! (トラップ)カード《デビル・コメディアン》発動! 俺はコイントスで裏表を当てる! 当たれば海野の墓地のカードは全部除外だ!」

 

「なっ!?」

 

――拙いですわ!? 今、墓地のあのカードを除外されては……!

 

 十代の手により先んじて発動されたカードから顔を出した2体の悪魔がゲラゲラと笑い声を木霊させたことで、海野は予定を狂わされることになる。

 

「表だ! コイントス! 結果は裏! 外れた場合は海野の墓地のカードの枚数分、俺のデッキからカードを墓地に送るぜ」

 

「……運にも見放されたようですわね」

 

 と思ったら、十代のコイントスは海野に影響を与えることのない形で不発。2体の悪魔はピタリと笑うことをやめ、十代の肩にポンと手を置いた後に消えていった。

 

「へへっ、そんな時もあるさ!」

 

「――デュエル続行ですことよ! エーディトルの効果! バトルした『剣闘(グラディアル)(ビースト)』を1体デッキに戻すことで、別の『剣闘(グラディアル)(ビースト)』をデッキから特殊召喚できますわ」

 

 やがて、堪えた様子のない十代を余所に海野が《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》を指さし沙汰を下せば――

 

「わたくしはエーディトル自身をデッキに戻し、《剣闘(グラディアル)(ビースト)ラクエル》を特殊召喚! そして自身の効果でパワーアップ!」

 

 《剣闘(グラディアル)(ビースト)総監(テイマー)エーディトル》は杖を大地に突き刺したと同時に煙幕を張り、消えゆく煙と同時に姿を消したと思えば、煙の中からは深紅の仮面で顔を覆った獅子の獣人が炎の輪を迸らせる。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)ラクエル》 攻撃表示

星4 炎属性 獣戦士族

攻1800 守 400

攻2100

 

「役者は揃いましたわ! 墓地の速攻魔法《剣闘(グラディアル)(ビースト)の底力》の効果! 墓地の『剣闘(グラディアル)(ビースト)』2体――トラケスとムルミロをデッキに戻し、このカードを手札に!!」

 

 そして海野は墓地のカードを回収しつつ、腕を天に掲げれば――

 

『さっきのサジタリィの効果で墓地に送ったのは、この為か……抜け目ない女だ』

 

「この3体……まさか!?」

 

「《剣闘(グラディアル)(ビースト)ラクエル》を含めた『剣闘(グラディアル)(ビースト)』3体をデッキに戻し、再び舞い降りなさい! ヘラクレイノス!!」

 

 ユベルと十代の予想通り、3体の剣闘(グラディアル)(ビースト)たちが大地へ溶けるように消えた途端、大地を砕きながら《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》が地中より舞い戻った。

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》 攻撃表示

星8 炎属性 獣戦士族

攻3000 守2800

 

「これで、再び貴方の魔法(マジック)(トラップ)カードは封じられたも同然ですことよ!」

 

「でも、ただじゃ終わらないぜ! 相手がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚した時、墓地の2枚の(トラップ)カード《迷い風》は、俺のフィールドにセットできる!」

 

 しかし、十代とて唯では通さない。

 

 《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》が現れた際に砕けた大地の隙間から吹きすさぶ風が十代のフィールドに集まれば、それらは2枚の伏せカードの形をとる。

 

「成程、そのカード(迷い風)でヘラクレイノスの効果を封じる魂胆のようですわね――ですが、そう簡単にいくとは思わないことよ!」

 

 とはいえ、その程度の妨害など海野も想定済み。ゆえに取って置きの1枚のカードを伏せて海野はターンを終えた。

 

 

海野LP:2500 手札3

《超古深海王シーラカンス》攻2800

剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》攻3000

伏せ×1

VS

十代LP:600 手札0

伏せ×2

 

 

 こうして、伏せられた2枚の(トラップ)カード《迷い風》があれども手札0の絶体絶命のピンチの十代だが、その顔に悲哀の色はなく楽し気な笑みだけが浮かんでいる。

 

「俺のターン、ドローだ! 早速、行くぜ! 墓地の《ブレイクスルー・スキル》の効果!墓地のこのカードを除外して相手モンスター1体の効果を無効にする!」

 

 そして、引いたカードを余所に墓地のカード――死者の手招きが《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》の足を掴む。

 

「こいつはカードの発動じゃない! ヘラクレイノスじゃ防げないぜ!」

 

「織り込み済みですことよ! 速攻魔法《禁じられた聖槍》! ヘラクレイノスの攻撃力を800下げる代わりに、このターンの間は魔法・罠の効果を受けませんわ!」

 

 だが、その死者の腕へ天より飛来する聖なる槍が貫かんと迫った。

 

「させるか! チェーンして(トラップ)カード《迷い風》発動! 特殊召喚されたモンスター1体の効果を無効にし、攻撃力を半分にする!」

 

 だが、その聖なる槍は十代の元から吹き荒れた突風によって狙いがブレ始めるも――

 

「させませんわ! ヘラクレイノスの効果により手札を1枚捨てて無効!」

 

「なら2枚目の(トラップ)カード《迷い風》の効果!」

 

「ヘラクレイノスの効果で無効!」

 

 都度、2度生じた突風はいずれも《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》の斧の一振りによって断ち切られ、天より飛来した聖なる槍は《ブレイクスルー・スキル》による死者の腕へと突き刺さり、浄化されて消えていく。

 

「どうやら手詰まりのようですわね。チェーンの処理が完了し、速攻魔法《禁じられた聖槍》の効果が適用されますわ」

 

 その聖なる槍の浄化の力は《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》の力を一時的に阻害してしまうが――

 

剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》

攻3000 → 攻2200

 

「これで互いの手札は1枚!! 貴方の逆転の切り札を封じる準備は出来ましてよ!」

 

 十代が繰り出す魔法・(トラップ)カードを完全に封じる準備の出来た海野にとって攻撃力800ダウン程度など些細な問題だ。

 

 仮に攻撃力2200を超えられて《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》を失ったとしても、《超古深海王シーラカンス》がいる限り、立て直しは容易。

 

 まさに万全。まさに盤石。

 

「俺の最後の手札はこいつだ! 手札がこのカードだけの時、バブルマンは特殊召喚できるぜ!」

 

 だが、その鉄壁の布陣に十代は蟻の一穴(いっけつ)を穿たんと、青のヒーロースーツに水色のアーマーに身を包んだ《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)バブルマン》が白いマントを翻しながら現れた。

 

E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)バブルマン》 守備表示

星4 水属性 戦士族

攻 800 守1200

 

「そして俺のフィールドと手札にバブルマン以外のカードが存在しない時、俺は2枚ドローできる!!」

 

「こ、このタイミングで2ドロー!?」

 

――わたくしが防げる魔法・罠の発動は後1度のみ……!

 

 2枚に増えた十代の手札――それは、海野へ選択を強いる。

 

「俺は魔法(マジック)カード《ホープ・オブ・フィフス》発動! 墓地の5体のHEROをデッキに戻して、2枚ドローする!!」

 

「それ以上、カードは引かせませんわ! わたくしの最後の手札を捨てヘラクレイノスの効果により、その魔法(マジック)カードの発動を無効!!」

 

 やがて、新たに手札を増やさんとした十代に対し、これ以上の選択肢を十代に与えることを嫌った海野は《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》に斧を振るわせ十代の発動しようとしたカードを両断。

 

「でも、これで海野の手札はなくなった!」

 

「ですが、貴方の手札は最後の1枚! 追加のドローなしでどうするおつもりかしら!」

 

 これで十代の言う通り《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》の脅威は去ったが、返す海野が示すように先ほどの状態に戻っただけだ。

 

 《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》を破壊されようとも《超古深海王シーラカンス》の効果があれば容易に立て直せる海野に対し、十代のフィールドには《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)バブルマン》しかおらず後がない。

 

「俺の最後の1枚はこいつさ! 魔法(マジック)カード《ミラクル・フュージョン》!」

 

「墓地のモンスターを融合させる《ミラクル・フュージョン》!? だったら何故、《ホープ・オブ・フィフス》で墓地のカードを戻そうなどと――っ!?」

 

 しかし、最後の最後で発動した十代のカードに海野は面食らう。海野が《ホープ・オブ・フィフス》を無効化していなければ「墓地のHEROを5枚戻す」こととなる――つまり《ミラクル・フュージョン》が手札で腐る(発動できなくなる)危険もあったのだ。

 

 だが、そんな懸念は他ならぬ海野自身がハタと気づく。

 

「ああ、海野が無効にしてくれなかったら、正直ヤバかったぜ!」

 

「あの状況でハッタリを……!!」

 

 そう、あの時の十代は《ホープ・オブ・フィフス》で2枚ドローできていても、《ミラクル・フュージョン》が死に札となり、通常の融合召喚で突破しようにも《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)バブルマン》を素材にした癖の強い融合モンスターしか呼ぶことが叶わない。

 

 仮に(トラップ)カードを伏せることができても、次のターン《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》に無効化されるだけだ。

 

「墓地のフェザーマンとバーストレディを除外し、墓地融合!」

 

 やがて、一杯食わされたと歯嚙みする海野を余所に《ミラクル・フュージョン》の輝きが、天に渦を描き、散っていったHEROたちを鼓舞するように飲み込めば――

 

「マイフェイバリットヒーロー!!」

 

 渦より一つの影が十代のフィールドに降り立つ。

 

「――フレイム・ウィングマン!!」

 

 緑の肌に、右手の竜の顎、左肩から白の片翼を持つ異形の身ながらも、腕を組み十代の傍で佇む堂に入った姿はヒーローであることを疑わせない。

 

E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フレイム・ウィングマン》 攻撃表示

星6 風属性 戦士族

攻2100 守1200

 

「フレイム・ウィングマンの効果は知ってるよな?」

 

「ですが、その攻撃力は2100! 攻撃力の下がった《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》すら突破できませんわ!」

 

 《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フレイム・ウィングマン》は戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果を持つ。これが決まれば、海野の残りライフを削り切れる計算だが――海野の言う通り、それは「戦闘で破壊できれば」の話だ。

 

「だったら、こうだ!! 墓地の魔法(マジック)カード《シャッフル・リボーン》を除外し、効果発動!! バブルマンをデッキに戻し、1枚ドローする!!」

 

「くっ、此処に来て『引き』の勝負を……!」

 

 しかし、海野とのハッタリ勝負を制した十代はデュエルディスクへと飛び戻った《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)バブルマン》の助けを借りつつ、己の土俵で勝負を挑む。

 

 そして、勢いよくカードを引いた十代の手に舞い込んだのは――

 

「俺が引いたのは――魔法(マジック)カード《E(イー)-エマージェンシーコール》!!」

 

「……HEROのサーチカードでしたようね。この勝負、わたくしの勝――」

 

 新たなHEROを招集(サーチ)する1枚。攻撃力を上げ下げするものではない。

 

 ゆえに海野は賭けに勝った。

 

「――俺の勝ちだ! エマージェンシーコールの効果で《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)キャプテン・ゴールド》を手札に!!」

 

 と思いきや、十代の手札に赤いマントを揺らす黄金のアーマーに身を包んだ姿が映ったと思えば――

 

「キャプテン・ゴールドはHEROの戦う舞台を導いてくれる! 手札のこのカードを墓地に送り、デッキからサーチしたフィールド魔法を発動! HEROの大舞台! 摩天楼――」

 

「ッ!?」

 

「――スカイスクレイパー!!」

 

 途端に、2人のデュエリストの周囲から数多のビル群がせり上がり、天を闇が覆う夜の世界へと彼らを(いざな)った。

 

 そして、ビル群を見下ろせる一際高いタワーの天変にて両腕を組んで立つ《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フレイム・ウィングマン》の視界には摩天楼の景色が広がっていることだろう。

 

 此処こそが、E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)が強者に挑む(攻撃する)時、力を貸してくれる舞台。

 

 まさにHEROたちの土俵、まさにHEROたちのホーム。

 

「バトル! 行っけぇ! フレイム・ウィングマン!!」

 

「くっ、迎え撃ちなさい! ヘラクレイノス!!」

 

 やがて跳躍と共にビル群を足場に加速に加速を重ねた《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フレイム・ウィングマン》が突き出した右腕の竜の牙と、《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》が叩き潰すように振り下ろした斧がぶつかり合う。

 

「スカイスクレイパー・シュートォ!!」

 

 火花を散らし、せめぎあう中で後押しするように十代の声援が響けば《摩天楼 -スカイスクレイパー-》の効果により、《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フレイム・ウィングマン》の身体を炎が包めば、《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》の斧は熱波によって融解。

 

E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フレイム・ウィングマン》

攻2100 → 攻3100

 

 そして炎の弾丸と化した《E・(エレメンタル)HERO(・ヒーロー)フレイム・ウィングマン》は、咄嗟に構えなおされた《剣闘(グラディアル)(ビースト)ヘラクレイノス》の盾ごと、剣闘獣の王を貫けば――

 

海野LP:2500 → 1300 → 0

 

 王の最後を彩るように弾けた炎が、その担い手の海野もろとも全てを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 そんな十代のデュエルを遊戯とレベッカを待つ間の暇を潰す為にタブレット上に広がるデュエルを神崎と観戦していたホプキンス教授は目を輝かせながら画面上の決めポーズを取る十代を眺めていた。

 

『ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!』

 

「ほ~、これがミスター神崎の注目株か――なんともエンターテインメント性の高い子だね。見ていて年甲斐なくワクワクするデュエルだ」

 

 絶体絶命の状況からの綱渡りを思わせるギリギリな逆転劇。

 

 アカデミアの定期試験デュエルを行う数多くの面々の中から神崎がオススメしただけあって光るものを感じずにはいられない一戦だったとホプキンス教授が称するが――

 

「とはいえ、彼はあまりプロの世界に興味がないタイプですから、観戦の機会は在学中だけになりそうです」

 

――(十代)の墓地の(トラップ)カード《スキル・サクセサー》で攻撃力800アップ出来た以上、ドローの意味はあまりなかったが……遊城くん視点では相手のモンスターは『効果を知らないカード』な訳だから警戒は必須か。

 

 内心で十代の成長をうんうん噛み締めていた神崎は、十代は「逆にプロには向かない」と返す。自由人過ぎて、プロの世界ですら十代には狭いのだ。

 

「ふーむ、なんとも惜しい気がするが……彼がどんな道を歩むのか興味深くもある――進路は決まっているのかい?」

 

「彼の性格上だと、そうですね…………『冒険家』に類するかと」

 

「成程、双六と似たタイプか」

 

 やがて神崎の評から十代に若かりし頃の親友(双六)がダブるホプキンス教授だが――

 

「教授~!」

 

「お爺ちゃ~ん!」

 

「おっと、そろそろ仕事の話に戻ろうか」

 

 遠方より慌てた様子で駆け寄る弟子(遊戯)(レベッカ)の姿に、タブレットを神崎に返したホプキンス教授は先人の遺産(遺跡)へ敬意を示すように襟を正した。

 

 

 

 

 

 

 そうして軽く挨拶をすませて遺跡調査の仕事を開始したホプキンス教授一行だが、手持ち無沙汰な専門外の神崎は、「積もる話もあるだろうから」とのホプキンス教授の計らいもあって、遺跡の周囲の地層を見つつなにやらメモを取る遊戯の元にいた。

 

 やがて完全に「職場見学に来るも、することなくて暇になったおじさん」と化した神崎だったが、遊戯は作業しつつポツリと言葉を零した。

 

「すみません、ドタバタしちゃって……」

 

「いえ、お気になさらず――しかし、武藤くんが考古学者の道を志していたとは驚きました。ゲームデザイナーは諦めてしまったのですか?」

 

 そんな申し訳なさそうな遊戯に対し、神崎はこの場をセッティングしたホプキンス教授の思惑を考えながら、他愛のない世間話に移るが――

 

「まだ、なんとも」

 

 思いのほか無視できない話題だったのか、ペンを奔らせていた遊戯の手がピタリと止まった。

 

「けど、別にそれでも構わないと思ってるんです。確かに、デュエルキングの称号はボクの夢に陰を落としたのかもしれない。でも」

 

「でも?」

 

 そして、此処ではない何処か遠くを見るように空を見上げた遊戯に、神崎は先を促す。

 

「もう一人のボク――ううん、アテムはボクに沢山のもの(出会い)を遺してくれた。ボクにはそれだけで十分に思えて」

 

 そう、遊戯にとって一番大切なのは「友」――己の夢に影響があったとしても、アテムに悪感情を向ける気など遊戯にはなかった。

 

「そうでしたか」

 

「それに、今の自分も結構、気に入っているんです。一番の親友(アテム)のことをキチンと知りたかったですし」

 

「おや? 武藤くんとは一心同体の関係だったのでしょう?」

 

「それは……そうなんですけど……実は、アテムの記憶が戻ったのはボクたちが分かれる直前だったから、全てを知れた訳じゃないんです」

 

 だが、感慨深い思いの中にいた神崎は続いた遊戯の発言にピクリと反応しつつ、脳裏に浮かんだ疑問をそれとなく問うてみれば、遊戯は己の無知を恥じるように頭をかいた。

 

「アテムも記憶の世――じゃなくて、戻った記憶のことを幾らかは話してくれたんですけど、闘いの儀に備えなきゃならなかったのもあって、搔い摘んだ感じになっちゃって……」

 

――記憶編の介入の際の弊害が出てる!?

 

 そして遊戯の説明を前に神崎はピシリと動きを止めつつ表面上は平静を装いつつも、内心は己のやらかしに頭を抱えることとなる。

 

 

 そう、神崎が記憶の世界にて行われる究極の闇のゲームに横紙破りでエントリーしつつ、アレコレ引っ掻き回してしまった結果――

 

 遊戯たちは、アテムどころか、マナにすらギリギリまで会えず、

 

 肝心のアテムも、バクラとゲーム盤の前で会合することがなくなった為、「究極の闇のゲーム」周辺の情報がゴッソリ抜け落ち、

 

 遊戯たちが、バクラと遭遇しなかったことで、諸々の経過をバクラから聞き及ぶこともなく、

 

 遊戯とアテムの合流後は直ぐに「ジェセル!」からの帰還ルート。そして、すぐさま闘いの儀に備える過密スケジュールである。

 

 

 原作の遊戯に比べ、歪んだ歴史の遊戯は古代エジプトの生の情報があまりにも不足していた。

 

「今、こうして考古学の道を進む度に、ボクはアテムのことを何も知らなかったんだって、痛感してます」

 

「…………情報量だけが友人の証ではありませんよ」

 

 ゆえに、「(アテム)のことを知れて嬉しい」と、はにかみながら鼻をかく遊戯に神崎は目線を逸らしながら慰めの言葉を贈る他ない。

 

 神崎の居たたまれなさが凄かった。

 

「そう言って貰えると助かります――……なんだか湿っぽい空気になっちゃって、すみません」

 

「お気になさらずに」

 

「……そういえば、神崎さんKC辞めちゃったんですよね。今は『なんでも屋』みたいなことをしてるって、モクバくんから聞いた時は驚きました。それに長い間『行方が知れなかった』とも」

 

――『なんでも屋』って……微妙に認識がズレてるが、許容範囲内だろう。

 

「新規事業の開拓の為に色々手回しが必要だったもので」

 

 やがて、重くなった雰囲気を変えるように別の話題を放った遊戯は「モクバが心配していた」部分を主にするも、必要最低限の返答しかしない神崎の姿に慌てて手を己の顔の前で振った。

 

「あっ、すみません! 別に根掘り葉掘り聞く気はなくて……その……」

 

 それは、いつぞや(DM編終了目前)の遊戯と神崎のデュエルの時の失敗を重ねぬように言葉を探す遊戯だが、上手く切り出せないのか言葉を詰まらせる。

 

「……? ひょっとしてご依頼の話ですか?」

 

 そんな遊戯の様子に僅かに思案を巡らせていた神崎はポンと手を叩き、遊戯の言葉を先回りしてみせた。

 

 基本、神崎に近づく面々は雑談以外は「仕事」の話がメインである。

 

「……はい、ちょっと誰に頼んだら良いのか分からない相談事があって――あっ、別に闇のゲームみたいな危険な話とかじゃないですよ!?」

 

「それは助かります。もう昔のように無茶が出来る歳ではありませんし」

 

――戸籍上の年齢に見合った『老い』を偽装している身としては、『表』での立ち振る舞いにも気を配らないと。

 

 やがて、相談事に移る前に危険性がないことを急ぎ注釈した遊戯へ、軽く冗談を返す神崎だが、実際問題「書類上の年齢」を考えれば派手な動きは控えなければならない時期である。

 

 基本、「物理的に強いジジイ」はオカルト(常識外)の産物なのだ。

 

「フフッ、世界各地を飛び回っている人のセリフとは思えないですね」

 

「そうでもないですよ。昔とは違い時差に身体がついていきませんから」

 

 そうして、遊戯と軽いジョークを交えつつ、話しやすい空気づくりに努めた神崎は――

 

「では、そろそろ仕事の話に移りましょうか」

 

 いつもの営業スマイルを見せる。

 

 とはいえ、その内心は遊戯の依頼は如何なるものか、測りかねていた為、気が気ではなかったが。

 

 

 

 

 






今作では、記憶編にて記憶の世界の住人と誰とも「まともな会話」してないからね、相棒たち(酷)



~今作の三沢デッキ(VSタニヤVer)~

原作にて、(プラス)(マイナス)効果による戦闘抑制or強制する未OCGの磁石の戦士デッキを、

初期『磁石の戦士』シリーズの通常モンスターでありカテゴリーカードという恵まれた要素から、
引き寄せあう(仲間を呼ぶ展開力)
反発しあう(コストで墓地に)
反発しあう2(フィールド魔法《マグネット・フィールド》のバウンス)

で再現した――と言うには少々苦しいか(目そらし)
《リトマスの死の剣士》を出張させて三沢らしさを強引にアピール(おい)



~今作の原 麗華デッキ~
当人を象徴とするカードが欲しかった為、使用カードの中から《連弾の魔術師》をチョイス。
典型的な【連弾バーン】の『魔導書』軸の《同法の絆》採用型。

GX作中ではライフ4000環境な為、《連弾の魔術師》に制限(or準制限)がかかった前提の構築。

ワンキルも狙えなくもないが、上述の前提から《連弾の魔術師》を置く前に――

《マジックアブソーバー》で回収した速攻魔法《ゲーテの魔導書》で相手の場を荒らし、
《霊滅術師 カイクウ》で相手の墓地を荒らしながら攻め立てる

バーン(効果ダメージ)は!?」な有様にけっこう陥る(おい)



~今作の海野 幸子デッキ~
彼女を象徴とする《超古深海王シーラカンス》を前提に、GX時代の召喚法に限定した結果
【シーラカンス剣闘獣】になった。『剣闘(グラディアル)(ビースト)』は魚族が2種いるんだぜー!(周知)

《超古深海王シーラカンス》を呼べればご自慢の爆発力が発揮されるが、
逆に呼べないと【剣闘獣(半端Ver)】デッキに成り下がる。

魔法・罠を潰してくる構築の為、正規の融合召喚メインの十代の天敵と言える相手。



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