マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
えっ!? この状況からでも入れる保険があるんですか!?






第260話 TURN-24 復活! 万丈目サンダー

 

「遊びに来たぜ! 万丈目!!」

 

 オベリスク・ブルー男子寮の自室にて、ノックする音に扉を開いた万丈目は、眼前へ青い制服に袖を通した十代と三沢が軽い調子でアポなし訪問かます姿に面食らう。

 

「いきなり何だ、貴様ら!!」

 

「いやー、今、業者の人たちが大きめの荷物運んでくれててさ。クロノス先生に『邪魔になるから』って言われたから退散がてらに万丈目の部屋に遊びに来ようって!」

 

――「寮移動は大変」とは先輩方も言っていたが……

 

 しかし、困ったように頬をかく十代からの説明に万丈目は一先ずの理解を見せるも――

 

「……事情は分かった。だが、俺に何のメリットがある」

 

 ずっとオベリスク・ブルーだった万丈目に、その辺りの深刻さは実感できない為、「避難先」との提案に頷けなかった。万丈目からすれば、十代とそこまで親しくなった覚えはない。

 

「まぁ、実はそっちの方は建前でさ」

 

「建前?」

 

「前に、お前の兄ちゃん悪く言っちゃったの悪かったと思ってるんだ――でも、謝って終わりにするのも何か違うだろ? だから、お詫びを持って来たんだ!」

 

「つまり、貴様から詫びの品を受け取れば良いのか?」

 

 だが、十代から続けて語られた内容に雲行きが変わり始める。反省して謝罪に来た相手を問答無用で追い払うのは気が引けよう。

 

 ゆえに肩の力を抜いて扉のドアノブから手を放した万丈目は腕組みしつつ十代の言葉を待った。

 

「ああ! 後、ラー・イエローで噂になってたんだけど、万丈目は色んな奴とデュエルして経験積んでるって聞いてさ!」

 

「それはそうだが……」

 

 しかし語られる内容は万丈目の動向である。それゆえ、相手が何をしに来たのか図れずに怪訝な表情を見せる万丈目。

 

「だから、ラッキーカードだ! こいつが君の所に行きたがってる――なんてな!」

 

 とはいえ、その答えはガッツポーズを取る十代によってアッサリ判明した。ゆえに、十代から差し出された1枚のカードを万丈目は快く受け取った。

 

 託されたカードは――

 

「カード? ……フン、精々使い道のあ――」

 

 “決闘王(デュエルキング)コピーデッキ完成試デュエル券”の文字とお洒落な文体のナンバーが並び、

 

 更に背景には武藤 遊戯のシルエットと共に、彼が使用したモンスターの代表的な面々が同じくシルエットで描かれた謎の1枚だった。

 

「――なんだこれッ!?」

 

 そんな無駄にデザインが凝っている意味☆不明なカードを前に、変な声が出る万丈目。

 

「『決闘王(デュエルキング)コピーデッキ完成試デュエル券』さ!! しかも番号一桁代だぜ!!」

 

「説明になってない!!」

 

 しかし、自信満々に語る十代の説明では、その正体は伺えない。

 

 万丈目は「ふざけているのか!」とも考えたが、十代の様子を見れば真面目に「詫び」として意味☆不明なカードを差し出している現実が広がる中、三沢から助け舟が出た。

 

「今、神楽坂がデュエルキングのコピーデッキを構築していてな。それは完成した時に先んじてデュエルできる整理券だ。俺も持ってる」

 

「――貴様もか!?」

 

 だが、そんな三沢も、この意味☆不明なカード(整理券)を要する一派である事実に若干の絶望を覚える万丈目。彼もまた一桁ナンバーである。

 

「ああ、大原がデザインしてくれたものを小原が形にしたんだ。一応、偽造防止の仕掛けもちゃんとあるぞ」

 

「無駄に手が込んでるのは、それでか……」

 

「コピーとはいえ、デュエルキングとのデュエルは得難い経験になるだろう? 十代なりの誠意なんだ。受け取ってやってくれ」

 

 そうして、三沢からの大まかな説明を前に万丈目もことの概要を理解し、この「詫び」が至って真面目なものである事実に安堵の声を漏らす。

 

 十代なりに万丈目のことを考えた品なら、受け取ることもやぶさかではない。万丈目としても、兄のことで十代に食って掛かった件に思うところもある。

 

「…………分かった。これで、あの時の件は一応、水に流してやろう」

 

「マジで!? ありがとな!」

 

「フン、もう済んだことだ。用が終わったのなら――」

 

 ゆえに、謎のカード(整理券)を受け取った万丈目に十代は「仲直りが出来た」と喜ぶが、万丈目は「意外と深刻に考えていた十代」の姿にバツの悪さを感じたゆえか、思わずそっ気のない態度で追い払おうとするが――

 

「なら、万丈目! もう1個、話があんだけど構わないか?」

 

「……ハァ、この際だ。聞くだけ聞いてやる」

 

 十代からマイペースに放られた追加の話題に、呆れ顔で続きを促して見せる。

 

「万丈目って、遊戯さんが使ったカードってなんか持ってる? あっ!? ひょっとして大山先輩に聞かれた後だった?」

 

「いや、この券の話含めて今、貴様らから聞いたのが初めてだ」

 

「あれ? 大山先輩、『ブルー寮で――』って言ってたのに……」

 

「そう不思議な話でもないだろう」

 

 そして十代に言わんとするところ「コピーデッキ完成への協力」を理解した万丈目は、十代と親交がある大山が万丈目に今回の話を持って来なかった件も予想がついた。

 

「ああ、そういうことか」

 

「……? どういうことだよ」

 

「来い。茶くらいは出してやる」

 

 やがて、同じく理解に至った三沢が頷く中、未だ状況が読めない十代を余所に踵を返して部屋に戻る万丈目は、説明がてら先の「やや貰い過ぎた詫び」を返すべく自室へと招き入れた。

 

 

 

 

 

 

 こうして、当初の「遊びに来た」との十代の言が間接的に叶う中、万丈目はベッドの下からジュラルミンケースを取り出して見せる。そこには――

 

「スッゲー! なにそのデカいケース? ひょっとして中身、全部カードか!?」

 

 十代の予想通り、万丈目が有するカードが綺麗に整頓された状態で山のように並んでいた。

 

「ああ、そうだ。だが、俺の持っているカードはドラゴン系に偏っている。ブラック・マジシャン使いだったデュエルキングが使っていたカードなど恐らくないぞ」

 

「十代、大山先輩もその点を理解していたからこそ、無理に話を持ち掛けなかったんだろう」

 

 とはいえ、その中身はドラゴン族のカードばかりである。三沢が推察した通り、遊戯のコピーデッキ作成には役立てそうにはなかった。

 

「でもさ! こんなに一杯あるなら、1、2枚あるんじゃないか!?」

 

「確認したければ好きにしろ」

 

 しかし、それでも探そうと――というよりは、どんなカードがあるのかへの興味が勝る十代へ、万丈目はぶっきらぼうに許可してみせる。

 

「構わないのか? それに、この数では確認するのも一苦労だぞ?」

 

「フン、昔使っていたカードだが最近はデッキ構成の関係上、留守番続きだからな――それに、今年中にコピーデッキが完成した方が俺にとっても都合が良い」

 

「フッ、そうか」

 

 そんな中、問われた「他人に自分のカードを触らせる心理的ハードル」と「時間的拘束」なども流して見せた万丈目の様子を、微笑ましい具合で苦笑する三沢。

 

「じゃあ、早速!!」

 

『十代、話は終わったのかい?』

 

「よっしゃ! (一緒に)探すぜ!」

 

『勿論さ。これで、ようやくボクと十代の時間が取れるんだから』

 

 だが、当の十代は持ち主の許可を前に、今まで空中で黙していたユベルにアイコンタクトを送りつつ、カード鑑賞もといカード捜索に打って出た。

 

「おっ! 《砦を守る翼竜》じゃん!」

 

『十代、そっちに《デビルドラゴン》があるよ』

 

「ホントだ!?」

 

 そうして、童子のようにカードを前に一喜一憂する十代の姿に、万丈目は呆れたようにため息を漏らす。

 

「……全く、騒がしい奴だ」

 

「だが、不思議と悪い気はしないだろう?」

 

「…………フン」

 

 しかし、「久しく忘れていた気持ちを思い出させてくれる」と言わんばかりの三沢の言葉に、万丈目はそっぽを向くように鼻を鳴らした。

 

「おっ! 《暗黒の竜王》みっけ!! これ使ってたの見たことあるぜ!」

 

『デュエルキングは《ブラック・マジシャン》のイメージあったけど、こうして見ると意外とドラゴンも使ってるんだね』

 

「おい――武藤 遊戯が使っていれば何でも良い訳がないだろう。もっと考えて探せ」

 

 だが、十代のカードチョイスがアバウト過ぎた現実に、万丈目は思わずアドバイスがてら前に出る。

 

「おっ、万丈目も手伝ってくれんのか?」

 

『手伝わなくても構わないよ。ボクと十代、2人で楽しんでるんだから』

 

「チッ……貴様に任せていればコピーデッキが完成しそうにないからだ、馬鹿者」

 

 そうして、精霊の存在を知覚できない万丈目は、ユベルの苦言など知る由もなく、なし崩し的に遊戯のコピーデッキ作成に協力することとなる。

 

 そんな3人で、やいのやいのとカードをやり取りしている何でもない時間は、普段の万丈目に常に奔る緊張感を暫しの間、緩める結果となろう。

 

 

 とはいえ、当人たちが気づくのは暫く後になりそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの国の何処かの小さな洋館にて、慌てて夜逃げしたように荷物が散乱している室内に転がる鉄臭い赤黒い液体が入っていたグラスを手に取ってテーブルの上に置いた神崎は暫し考え込む。

 

 その思考の海の源泉にあるのは、赤黒い液体を飲んでいたと思しき相手。

 

――結局、真崎さん次第との話か。まぁ、武藤くん単独で決める話でもないだろう。

 

 ではなく、遊戯からの依頼の件。やがて、懐から携帯電話を手に連絡を取る神崎。

 

「お久しぶりです、大瀧さん。今日は、少しお願いがありまして――」

 

 そうして、BIG5の大瀧(ペンギン・ナイトメアの人)に諸々の事情を説明し、メリットを提示しながら個人的な話を願い出るも――

 

『ふむふむ、ミュージカル「賢者の宝石」の件ですか』

 

 通話口の大瀧の声色はやや硬い。

 

『ただ、流石にねじ込むのは難しいですぞ。デュエルモンスターズの発展と共に、その人気もうなぎ登りですからな! 端役――との言い方は好みませんが、どの役も競争率が高すぎます!』

 

 なにせ、今の大瀧からすれば、原作での乃亜編のような提案を杏子にするメリットなど皆無だ。

 

『(それに、もしも裏工作がバレたら海馬社長から「ペナルティに」と私のペンギンランドに何をしでかすか……私はペンギンちゃんの安全の為、その手のことからは足を洗ったのです!)』

 

 なにより、折角叶えた自分の夢(ペンギンランド)が潰れるリスクを負ってまで、デュエルキングの友人とは言っても所詮は一介の小娘ごときに骨を折らねばならないのか――小声で語る大瀧からすれば、そんな具合だろう。

 

 幾ら良きビジネスパートナーだった相手のたっての願いとはいえ、大瀧とて譲れぬラインは越えられない。

 

「では、舞台裏の一つでも――現場の空気を知るだけでもかなり違うかと」

 

『……つまりお遊び見学という話ですか? ぐふふ、その程度のことならば海馬社長もデュエルキングのお友達を前に、口を噤むことでしょうな!』

 

 だが、「無理だ」と言えば快く妥協してくれるのが大瀧から見た神崎の良いところ。これが海馬なら絶対に妥協しない。

 

 大瀧としても、対海馬に適している遊戯に恩を売れるのなら安い買い物である。遊戯の善良な人間性を鑑みれば、反故にされる心配もないのだから。

 

「それは助かります。ただ、未だ予定が――」

 

『ぬふふ、気にしなくて結構ですとも! キミが先の先を想定して動きたがるのは、よ~く知っていますから!』

 

「いつも、お手間を取らせてしまって申し訳ないです」

 

『いえいえ、代わりに此方の頼みも()()聞いてくれるのでしょぉう? 昔と同じように持たれつで行こうじゃありませんか! あっはっはっは!』

 

 そうして、会社を辞した後でも、しっかりと己を立てるかつての後輩の在り方に大瀧は上機嫌のまま通話を終えた。

 

 

 

 やがて、携帯を仕舞いつつ神崎は凡その下準備の最後のピースが収まった事実に一仕事終えたように息を吐く。

 

――これで真崎さんに才能があれば、一線級のダンサーたちなら誰かが見ぬく筈。才能がなくても、憧れの舞台裏は思い出には悪くないだろう。

 

「後は、武藤くんからの連絡待ちか――念の為、ツバインシュタイン博士の『疑似次元論』を物質次元(人間世界)用から、冥界用に組み直しておこう」

 

――えー、千年秘術書、千年秘術書っと。

 

 そんなこんなで、遊戯や杏子がどんな選択を取るにしても直ぐに動けるように状況を整えた神崎は、記憶編でコピーした千年秘術書を影から取り出して片手で開いて読み込みつつ、空いた手で散らかった室内から相手の逃走先の情報を探り始める。

 

「ゲートを開く為の意識領域の指向性と、多量のデュエルエナジーも必要に……いや、この場合は牛尾くんに起こった『魂のランクアップ現象』を利用できるのか?」

 

 とはいえ、「直ぐに動けるように」とのお題目の割には考えていることが結構常識から外れ始めているのは如何なものか。

 

「それとも物質次元と冥界の間にプラナ次元を配置すれば――いや、あの世界での活動は高次の意識領域が必要になるか。遊城くんレベルの強い意識領域持ちならともかく、真崎さんがどの程度になるか……今はサブプランくらいに考えておこう」

 

――まぁ、詳しい内容はツバインシュタイン博士が詰めることになるだろうけど。

 

 傍から見れば、外堀を全力で埋めにかかっているようにも思えるが、遊戯たちが拒否した段階で一瞬にして計画は白紙になるのが唯一の救いか。

 

 やがて冥界移住計画の考えを纏めるように独りごちつつ、屋敷の中の調査を続ける神崎はセブンスターズの残党の情報を探しつつ、端末に転送されたホプキンス教授たちに任せた遺跡調査の報告を得つつ、エネルギー部門の機関で不動博士の系譜をチェックし始めた。

 

 ワンマンアーミー(一人軍隊)ならぬワンマンリーマン(一人会社)とはこのことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イエロー寮からブルー男子寮に戻る十代、万丈目、三沢の3人組が戻る道すがら、十代は伸びをしつつ満足げな声を漏らした。

 

「いやー、神楽坂の奴スッゲー喜んでたな!」

 

「なんでもかんでも詰め込めば良い訳がないだろうに……何を考えているんだ、あのモノマネ男は」

 

「デュエルキングをトレースしている神楽坂なりに考えがあるんだろう」

 

 それは、万丈目が所有していたカードの一部を神楽坂に提供もしくはトレードした件だが、頭痛をこらえるように額を押さえる万丈目の姿を見れば、デッキバランスを無視したチョイスだった模様。

 

三沢のフォローも、少々無理がある様子なことが見て取れた。

 

『ボクとしては、アイツが何処へ向かっているのか少し疑問だよ』

 

 やがて、ユベルの苦言をバックに、オベリスク・ブルー男子寮に戻った3人組。

 

「やぁ、万丈目くん! 探したよ!」

 

 だが、そんな彼らを出迎えるようにテニスウェアを着た肩口まで伸ばした茶髪の青年が、出迎え代わりにキラリと歯を光らせた青春スマイルを煌めかせていた。

 

「綾小路先輩? すみません、お手数をかけてしまったようで」

 

「なに気にすることはないさ!! 新たな仲間たちとの出会い! そして友情!! 青春万歳!!」

 

 やがて青春スマイルの人物こと「綾小路(あやのこうじ) ミツル」へとすぐさま駆け寄り礼を尽くす万丈目だが、当の綾小路は気にした様子もなく熱血感タップリに笑って見せる。

 

 

 そんなやり取りがなされる中、オベリスク・ブルーに上がりたての十代は同寮の顔ぶれを把握しきれていないゆえか相手の第一印象ことインパクトに若干の気後れをみせるが――

 

「……なんなんだ、あの暑苦しい奴」

 

『爽やか風の割に、中身は無駄に熱血だね……』

 

「あれはオベリスク・ブルー3年の綾小路先輩だな。テニス部の主将でもある」

 

「へぇ~、万丈目って顔広いんだなー」

 

「貴様が無頓着過ぎるだけだ」

 

 三沢からの情報に一先ず楽天的に流そうとした十代を、綾小路を連れて戻ってきた万丈目がいさめた。

 

 なにせ、1年のブルー生徒がごく少数な以上、先輩(年上)がクラスメイト状態である。同年代の友達感覚ではいらぬ諍いを起こす可能性もなくはないのだから。

 

「初めましてだね、遊城くん! 三沢くん! オベリスク・ブルーにようこそ! ボクはオベリスク・ブルー3年、綾小路 ミツル!! 今日からキミたちも、ボクのライバルだ!!」

 

「えっ、お、おう……あ、ありがとうございます?」

 

 しかし、そんな万丈目の苦言を余所に、綾小路は友好どころか一気にライバル認定まで駆け抜けて握手を求める始末。

 

 その熱血的とすら言える距離の詰め方は、人懐っこい性質の十代を以てしても戸惑いが勝る。

 

『グイグイ来るなぁ……あんまりボクの十代に馴れ馴れしくして欲しくないんだけど』

 

「三沢 大地と申します。3年の先輩に『そう(ライバルと)』言っていただけるとは光栄です」

 

「――学年なんか関係ないさ、三沢くん!!」

 

 そうして、十代に続いて謙遜交じりに挨拶した三沢だが、そんな三沢の肩をガシッと掴みつつ綾小路は熱弁する。

 

「デュエルは『どんな歳でもチャンピオンすら倒す可能性がある最高のカードゲーム!』――ペガサス会長もそう仰っていたじゃないか!!」

 

 正確には「どんな初心者でも強いチャンピオンをやっつけられる最高のカードゲーム!」であるが、言いたいことは大体同じである。

 

『……まぁ、悪い奴ではなさそうだね。暑苦しいけど』

 

「じゃあ早速、俺とデュエルしようぜ、綾小路先輩!」

 

「勿論! と言いたいところだけど、先に済ませておくべき伝言があってね! そっちが先さ!」

 

 やがて、相手の熱血っぷりに慣れ始めた十代がいつもの調子を取り戻すも、対する綾小路はオーバーに肩をすくめて残念がってみせる。彼とて、何の理由もなく十代たちの帰還を待っていた訳ではないのだ。

 

「伝言? 態々、先輩自ら……ですか?」

 

「去年まで、この時期にオベリスク・ブルー1年は殆どいなかったからね! 急を要する時は3年に話が回ってくるんだ!」

 

「そうなのかー」

 

『態々1年生数人を集めるより、3年生を集めた時に言伝を頼んだ方が教師も楽なんだろうさ』

 

 そして三沢が先を促した後に明かされたのは、オベリスク・ブルー1年の層の薄さが抱える問題。

 

 ユベルの言う通り、そんな数人の為に学園の細かなリソースをあまり割くことが出来ない事情があるのだ。

 

「それでお話の方は――」

 

「――ノース校との交流戦についてだとも!」

 

 かくして、十代たちは綾小路からの通達により、学園の外のイベントに初めて直に触れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、既定の日時にてデュエル場の一つに集まった学園の凡そ全てのオベリスク・ブルーの生徒たち。

 

「在学中に1度でも代表戦に出た生徒ーは、譲ってあげルーノ」

 

 まばらながらも人数の問題からザワザワと喧騒が広がる中、簡易的に設置された壇上よりクロノスが拡声器片手にアナウンスを送っていたが――

 

「交流戦か~、どんな相手なんだろ! 楽しみだなー!」

 

 そのアナウンスと関係ない十代は、まばらな人混みの只中の熱気に充てられたようにワクワクが抑えきれぬ様子で両の拳を握っていたところ、背後から声がかかった。

 

「ノース校との交流戦は毎年恒例の友好を称え合う大舞台だからな。代表者二名は、どちらも実力者が選ばれることだろう」

 

「あっ、大山先輩だ! 久しぶり!」

 

 その人物は、十代よりも一足早くにオベリスク・ブルーに昇格していた大山。相変わらずの半裸のターザンスタイルゆえ人混みの中でも無駄に浮いているが、十代は気にした様子もなく再会を喜んでいた。

 

「久しぶりだな、十代! よくぞオベリスク・ブルーに上がってきた!! 最高のタイミングだぞ!」

 

「そうなのか?」

 

 そして話題が此度の交流戦の内容に移れば、知り合ったばかりの綾小路が自慢げな様子で情報を明かす。

 

「まぁね! 交流戦はオベリスク・ブルー以外の参加は認められていないんだ! ちなみに僕は前の年に華麗な勝利を収めたよ!!」

 

 そう、基本的にアカデミアでは「学園の代表」に類する立ち位置を務められるのはオベリスク・ブルー以外に許されていない。

 

 それは外部に「きちんと寮分け」が機能していることのアピールであったり、アカデミアのブランドの誇示であったりと理由は様々だ。

 

「うぉー! 綾小路先輩、強いんだな! 今度、俺ともデュエルしよ――してください!」

 

「構わないとも! 後輩の面倒を見るのも先輩の務めさ!!」

 

 とはいえ、十代からすれば「その辺り」の事情などより、過去に代表選出された綾小路の力量の方が興味の中心である。

 

 そうして、十代の社交辞令を一切含まない純粋な賛辞に気をよくする綾小路だが――

 

「ハッハッハ! 相変わらずの三度の飯よりデュエルの様子だな、十代! だが、綾小路先輩はあのカイザー亮のライバルを自称する程だ! 気を抜けば一気に持っていかれるぞ!」

 

『「自称」なんだね』

 

「学園トップのカイザーと!? スッゲー!」

 

「そうだろう! カイザーの宿命のライバルとは僕のことさ!」

 

 やがて、「誰にでもライバル認定してそう」と言わんばかりのユベルの言を余所に、局地的に謎の熱血空間を形成し始める 1 (十代) 2 (大山) 3 (綾小路)年のブルー生徒。

 

 だが、そんな彼ら――というか、十代を少し離れた場所から万丈目は冷ややかな視線で見やっていた。

 

「……相変わらず騒がしい奴だな。三沢、イエローの時でも『ああ』だったのか?」

 

「……まぁ、十代はあれで中々素直な性分だからな。先輩方からすれば可愛がり甲斐のある後輩なんだろう」

 

『おい、お前ら――ボクの十代に気安く触るなよ』

 

 言外に「静かに出来ないのか」と言わんばかりの万丈目へ、三沢がフォローするが十代はラー・イエローでも基本あんな感じだったので否定しきれないのが困ったところ。

 

 こうして、新たなクラスメイトにより様変わりする人間模様を観察していた万丈目だったが――

 

「ちょっといいかしら?」

 

「て、天上院くん!? ……ゴホン、なにか用かい?」

 

 当然、人混みの中では彼らもまた観察される側である。

 

 天上院 明日香に背後から急に声をかけられたせいか、それともそれ以外か定かではないが、万丈目の肩が大きく跳ねるも、あわてて取り繕った万丈目は何でもないように先を促した。

 

「遊城 十代がオベリスク・ブルーに上がったって聞いたから、会っておきたくて――今、大丈夫?」

 

「(またアイツか……)」

 

「万丈目」

 

「……分かっている。少し待っていてくれ」

 

 しかし、明日香のお目当ては渦中の十代の模様。若干、肩を落とす万丈目だが、三沢の声に「ハァ」とため息交じりに我に戻って相変わらず騒がしい十代の元へ向かっていった。

 

 

 

『よし、十代から万丈目へ矛先が向いた! 全く、アイツら……十代に馴れ馴れしいじゃないか!』

 

 こうして、万丈目の尊い犠牲を以て熱血空間から解放された十代の頭を空中にて逆さに抱えるユベルを余所に、十代と明日香が会合するが――

 

「おーい、なんか用――って、あっ! 入学初日に会った! えーと、あー……天上院!」

 

 十代からすれば明日香の印象は凄い薄かった。

 

 ユベルを察知した相手、世話焼きな大小凸凹コンビ、ユベルの天敵、学園での初敗北の相手、クイズ眼鏡、ジャングルの王者、偽遊戯、コテコテテンプレお嬢様、テニス熱血――

 

 その中に並ぶ明日香の圧倒的……! 圧倒的インパクト不足……!

 

「『明日香』で構わないわ」

 

『やれやれ、この女もボクの十代に色目でも使う気とは……身の程を知らない奴だ』

 

 とはいえ、明日香も不快に思うこともなく、良い機会だと友好的な姿勢は崩さない。いや、学園の有名人である明日香からすれば、十代の反応は逆に新鮮なのだろう。

 

 十代の入試でのクロノスとのデュエルの件もあって、俄然興味が強まるところ。

 

「じゃあ『天上院』って呼ばせて貰うぜ!」

 

 だが、十代は こ れ (名前呼び)を拒否。

 

「えっ? いえ、別に『明日香』で構わないのだけれど……」

 

 思わず戸惑いを見せる明日香。

 

 明日香からすれば名前呼びなど兄である吹雪との区別も含めて、そんな大それた意味もなく、更には彼女の知名度ゆえに断られたこともない為、先程まであった興味が別の形を見せていくが――

 

「でも『天上院』って呼ばせて貰うぜ!」

 

「えーと、話聞いてる?」

 

 十代は凄い頑なだった。

 

 空中で浮かぶユベルも、そんな十代の気配りに感激したように己の口元を両手で押さえているが、残念ながら誰にも見えていない為、明日香の当然の疑問を解消することは叶わない。

 

「天上院さん、十代には『お相手』がいるんだ。察してやってくれ」

 

「あ、ああ、そうなの」

 

 だが、此処で三沢からの助け舟により納得した明日香が「普通、此処まで徹底する?」と新たに浮かんだ疑問をグッと飲み込んだ。

 

 

「残念でしたね、明日香さん……」

 

「……ドンマイ……」

 

「後で慰めてあげましょう?」

 

 しかし、そんな明日香の心情を知ってか知らずか、遠巻きで様子を伺っていたレインたちは、謎の敗戦感に包まれている。

 

――まったく、あの子たちは……

 

 そんな友人たちの耳年増もかくやな有様に内心で頭を痛める明日香。

 

『ふふん、ボクの十代の隣はもう埋まってるんだ。諦めるんだね』

 

「それで天上院の話って?」

 

「そう、大したことじゃないのよ。ノース校の代表者決定戦の舞台で、ブルーに上がった貴方の実力――見せて貰うわ。それを伝えたかっただけなの」

 

 やがて、先を促す十代へ明日香が此度の用件を伝えるが、ただの決意表明に近いものの為、それ自体はスッと終わる。たった、これだけだと言うのに何ともゴタついたものだ。

 

「デワデーワ、今年度も希望者が多かったノーデ、前年度と同じく『じゃんけん』で代表を決めるノーネ」

 

「……えっ?」

 

 だが、クロノスの拡声器越しの声に、そのゴタつきは加速する。

 

「まずはザッと人数を減らす為ぇーに、ワタクシとシニョールたちで勝負ナーノ。最初はグーで行くノーネ! 準備すルーノ!」

 

「じゃん……けん……?」

 

 かくして、意図していなかった現実に固まる明日香を余所に、周囲のブルー生徒たちは私語をピタリと止め――

 

 手の甲に指をあててシワを作る者、

 

 組んだ手の中を覗く者、

 

 腰だめに構えた右拳に、開いた左手を鞘のように添える者、

 

 クロノス側から見やすいようにと3つの棒つきパネルを用意する者、

 

 各々の必殺のスタイルで勝利を取りに行く。

 

 そんな剣呑とした雰囲気が広がる中、状況の変化についていけず固まる明日香の疑問を代弁するように十代は三沢に問うた。

 

「デュエルの学校なのに、デュエルで決めないのか?」

 

『珍しいこともあるんだね』

 

「可能な限りチャンスを平等化する為らしいぞ。実力順ではフォースや3年生が独占してしまうからな」

 

「へぇ~、詳しいんだな、三沢!」

 

「まぁ、当面の目標の一つにはしていたからな。だが、じゃんけんで負けても気にすることはないさ。聞いた話では、代表戦以外にも交流の場は用意されるらしい」

 

『ふーん、さしずめ名誉の舞台をかけて――って感じか』

 

 やがて、三沢から語られたように他校との代表戦に選ばれることがプロへの売名に繋がる旨を聞かされる。

 

 そう、定期試験での大多数が一纏めに試合を組まれる形と異なり、代表戦は正真正銘の1 VS 1の形式な為、此処ぞとばかりのアピールの機会に周囲の生徒たちは燃えているのだ。

 

「おっしゃー! 絶対に勝つぜ!! 勝負だ、天上院!!」

 

「え、ええ、そうね」

 

――決着はデュエルでつけたかったのだけれど……

 

「あっ! 最初はグーなノーネ! じゃーんけーん――」

 

 こうして、明日香の予定とは大きく異なる形で、十代との一戦――の前に、クロノスとのじゃんけんが始まる。

 

 悩ましき三つの選択を前に、戦士たちがくだした決断は如何なるものなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 精霊界の一角ならぬヴァンパイアたちが主に住まう一国《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》に建つ、一際大きな図書館のような屋敷。

 

 その広大な一室の中の数えきれない程の本棚が並ぶ通路にて、白いシャツに黒の貴族風の装いをした長い白髪に血の気が感じられない程に白い肌を持つ青年《ヴァンパイア・スカージレット》がマントを揺らしつつ歩を進めていた。

 

 そんな《ヴァンパイア・スカージレット》が歩く姿を確認した金の刺繍の入ったボロボロの黒い外套で全身をすっぽり覆った《死眼の伝霊-プシュコポンポス》はすぐさま壁の端に寄り、大名行列が通り過ぎるのを待つようにひざまずいて(こうべ)を垂れる。

 

 木っ端なゴースト()である彼が、上位の立場を持つ相手の歩みを妨げる訳にはいかない為、相手の姿が見えなくなるまでピクリとも動かない。

 

 暫くして、誰もいなくなった通路にて数多の本を手に移動を再開した《死眼の伝霊-プシュコポンポス》は、空いている席に座った後、パラパラと読書に勤しみ調べものに注力し始めた。

 

――やはり精霊界の歴史は長いな。人間の歴史が若造に思える。

 

 お察しの通り、この《死眼の伝霊-プシュコポンポス》に扮しているのは神崎である。精霊世界にて情報収集に当たっていた。

 

 そんな神崎がローブの中で感慨深く頷くように、精霊界の歴史は非常に長い。

 

 なにせ、人類がウホウホしていた(原始人だった)頃から、既に高度な文明・技術が発達しているのだ。

 

 その点は、3000年前の古代エジプトの時代の段階で幻想の魔術師――つまり、《ブラック・マジシャン》が存在していたことが証明となる。精霊の服装から服飾技術や、諸々の装備から逆算すれば疑いようがない。

 

 とはいえ、進み過ぎて「戦争→終戦→平和→戦争」のループを繰り返しているような状態が無きにしも非ずなのだろうが。

 

 

 そして、神崎が何故、コソコソ変装してまで精霊世界のヴァンパイアたちが住まう地域に来ているのかと言うと――

 

――精霊界のヴァンパイアの精霊(カー)と、物質次元の吸血鬼(ヴァンパイア)のカミューラの違いってなんなんだろうか? その手の記述は未だに見られないが……

 

 中々見つからないカミューラの捜索に別のアプローチをかける為である。

 

――へぇー、1万年前は物質次元との境は曖昧だったのか……ダーツの故郷とも一部交流があったとは驚きだ。

 

 早い話が、「ヴァンパイアのことはヴァンパイアに聞け」な餅は餅屋理論だ。とはいえ、真正面から聞きに行ったところで答えて貰えるとは思っていないゆえの現在なのだが。

 

 そんなこんなで、一般公開されている範囲で長々と読書タイムを過ごした神崎は、取り敢えず入手した情報で方針の変更を考えつつ帰路につく。

 

 そうして、人の目を避けて物質次元への道を隠れて開くべく、《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》の住宅地を抜けてさらに進んだ領土圏内から脱する一歩を踏み出す神崎。

 

 

 その瞬間に、黒い三又の槍が神崎の背を貫いた。

 

 

 神崎の心臓を的確に貫いた黒い血を思わせる色合いの槍の担い手を確かめるように振り返る神崎だが、背後には人っ子一人存在しない。

 

 

 

 だが、神崎の超人的な視力は《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》の気高い丘の上にある白き城から、白い法衣に腕を胸にかけて黒い鎧を纏った長いウェーブがかった白髪のヴァンパイア――《竜血公(ドラクレア)ヴァンパイア》が風で赤いマントを揺らしながら、手元に第二射の槍を生成している姿が映る。

 

――これは……やはり、間者と思われてしまったのか? ……いや、情報の用途はともかく間者であることは事実か。

 

 攻撃が来ていることは理解していた神崎だが、思いのほか確殺を狙った一撃に内心で頭を抱えざるをえない。

 

 とはいえ、原作にてカミューラが「吸血鬼狩りがあった」と語っていた以上、自分たちを探る相手へ過敏な警戒を見せることは自明の理。

 

 やがて、己の短慮を嘆く神崎に追い打ちをかけるように槍の雨が《死眼の伝霊-プシュコポンポス》の姿を貫き、周囲に断末魔が響き渡ると同時にその身体は土くれのように崩れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かの国の何処かの山の中にて、身体に幾重にも刺さった三又の槍を引っこ抜きながら神崎は安堵の息を吐く。

 

「ふぅ、なんとか誤魔化せた――筈。流石に初撃で致命傷を受けに回った以上、誤魔化されてくれる……と信じよう。えー、此処は何処だったか……」

 

 槍の狙撃を回避せず死を装いながら、次元跳躍した神崎だが正確な座標を定める時間がなかったゆえに、物質次元の何処に移動したのか当人ですら定かではない。

 

 ゆえに、周囲を確認した後に変装を解いた神崎は携帯端末のスイッチを入れるが、電波が繋がった瞬間に留守番メッセージよろしく大量の通知が届き、優先度合の変更を余儀なくされた。

 

「おっ、大半は武藤くんからだ。えー、はいはい、真崎さんの件……と」

 

――纏めてしまえば「真崎さんの意思に委ねる」か。人の心……意志の力を信じる彼らしい決定だな……

 

 それらは仕事の依頼など色々あれど、急を要するのは遊戯からの依頼の件。杏子からの要望を手に、依頼の方向性を知らせるものだった為、神崎は端末の番号をプッシュして仕事に移る。

 

「――はい、あの件についてなんですが――はい、予定通りにお願いを――」

 

 そうして、遊戯の下した結論に一抹の眩しさを覚えつつ、山の中を移動しながら関係各所に連絡を入れ終えた神崎は近場の都市を視界に収めるも、ふと言葉を零した。

 

「これで武藤くんに頼まれた場は問題ない、と――これで解決してくれれば御の字。彼らには朗報を届けたいが……」

 

――現実って奴は、そこまで個人に優しくはないんだよな……

 

 神崎は、遊戯と杏子の立てた方針が最良の結果を生むとは思えなかった。

 

 世の中の厳しさと言うものは社会に属する神崎も強く実感するところ。なにせ、原作知識という莫大なアドバンテージを以てしても神崎が最良の結果を得られたことなど、数える程しかないのだから。

 

 プラナの適性すら持つデュエルキングの遊戯本人の話ならまだしも、今回は諸々の能力が一般的な人間でしかない杏子を主題としたものだ。

 

しかし、正道を猪突猛進できるのは若人(わこうど)の特権。

 

「まぁ、後は武藤くんの要望通り、『真崎さんの意思に任せよう』」

 

 それゆえ、後は天の采配に任せるのみ。遊戯の言葉を借りるのならば、挫折とて糧にできる強さが彼らにはある。神崎が考える程に、やわではないのだ。

 

『此方、ゼーマン。今、よろしいでしょうか? 至急ご報告したいことが』

 

「はい、構いませんよ」

 

――ああ、《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》での件か。警戒させてしまったかもしれない。

 

 そうして、純粋な若者の在り方に眩しさを覚えていた神崎だったが、脳裏に響いたゼーマンからの連絡にすぐさま気を引き締める。

 

 精霊界の色々と火種がくすぶっている世情を考えれば、《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》での神崎の失態は各勢力の緊張状態を引き上げかねない。

 

 ゆえに、適当に敵対勢力でもでっち上げて各勢力の共闘ルートを組み立てる神崎。

 

『エンシェント・フェアリー・ドラゴン――シグナーの竜の1体が、三騎士の陣営に加わることとなりました。探りを入れる目的かと思われますが、どうなさいますか?』

 

――…………ん?

 

 だが、ゼーマンからの報告によって、神崎の頭の中は真っ白になった。

 

 

 現実って奴は、そこまで個人に優しくはないんだよ、神崎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、各々の過ごす日々が過ぎ去り迎えたノース校との交流試合の日。

 

 保護者などの来賓の面々もいない為、広い会場の観客席に座る十代は、思い出し笑いならぬ思いだし後悔な様子を感じさせる声を漏らした。

 

「くっそ~! あの時、パーを出してれば~!」

 

あの女(明日香)も十代との最初の勝負がじゃんけんになるとは予想してなかっただろうね』

 

 そう、十代は最後の最後で明日香に敗れたのだ。

 

 第六感ともいうべき感覚に愛された十代の破格の連勝劇に終止符を打ったのは、無意識から放たれた明日香の一手(グー)

 

 まるで「最初はグー」の掛け声をそのまま繰り出したかのような誰の意思も介在していない(グー)――その一手は十代の第六感すら欺き、オベリスク・ブルーの女王としての格の違いを見せつけるかの如し。

 

「まだ言っているのか貴様は……そんなくだらんことで一々悩むとは小さい男だ」

 

『ふん、こいつは――ボクの十代は繊細なんだよ。お前とは違うんだ』

 

 しかし、十代の右隣に座る万丈目からすれば、そんな()うに日をまたいだ話を蒸し返されても「いい加減に切り替えろ」と言わざるを得ない。

 

 いや、プロの舞台さながらの広い会場でただ一人立ったことなど一度や二度ではない万丈目からすれば、その手の舞台と無縁だった十代の気持ちは分からないのも当然であろう。

 

「あら、そんな万丈目のボウヤは一番最初に負けていたじゃない」

 

「えっ、そうなのか、藤原!?」

 

 だが、十代の後列に座る雪乃の声に十代が振り向くも――

 

「『雪乃』って呼んで貰える?」

 

『おい、まだ立場が分かって――』

 

「あっ、悪ぃけどゴメンな――それより、万丈目! 藤原の言ったことって本当か!?」

 

 雪乃の誘うような願い出をバッサリ両断して、すぐさま万丈目に情報の正誤を確認する十代。ユベルが不機嫌になる暇すらない。

 

「ふふっ、つれない子」

 

 とはいえ、件の雪乃はこうも素っ気なくされると逆に振り向かせたくなるのか、クスクス笑みをこぼしつつ獲物を狙うような視線を這わせるが、残念ながら十代の興味はライバルの対戦(じゃんけん)結果である。

 

『これで分かっただろう! 十代とボクの間に割って入れる奴なんていないんだよ!』

 

「…………ノーコメントだ」

 

「万丈目、それは肯定したに等しいぞ。まぁ、俺もすぐに負――」

 

「………………所詮……確率の産物……」

 

 バツが悪そうに顔を背ける万丈目を、十代の左隣の三沢がフォローするより早く、感情が乗っていない声ながらも、どこかさめざめしいレインの嘆きが雪乃の隣で響いた。此方も速攻で負けたらしい。

 

「レ、レインさん! 気を落とさないで! 雪乃さん! レインさんに謝ってください!一番最初に負けちゃったレインさんに!」

 

「原くん、それは追い打ちになっていないか?」

 

 そんなレインをその隣の原麗華が元気づけようとするが、どう聞いても三沢の言う通り追い打ちにしかなっていない。

 

「えっ、あっ!? そんなつもりはなくてですね! その――」

 

「レイン、拗ねないの」

 

「…………否定……平時……」

 

 やがて原麗華の謝罪も効果が薄い様子で、拗ねたように口を膨らませるレインの頬を雪乃がつつき始めるも、会場に動きがあったことに気づいた十代がグッと前のめりになる中――

 

「おっ! 試合、始まるみたいだぜ!!」

 

「話によれば俺たちと同じ1年生らしいが……」

 

「これでは、まるで前座試合扱いだな。流石の天上院くんも穏やかではいられないだろう」

 

「頑張れー! 天上院ー!」

 

『十代が女の応援を……! ……でも苗字呼びだし、流石に同じ学校の人間を応援しない訳にも――』

 

 三沢と万丈目も、それぞれ注視する間にて十代は早めの声援を送れば、他の面々もつられたように応援を贈り始める。

 

「ほら、レインさんも応援しましょう! 明日香さーん! 頑張ってくださーい!」

 

「……ファイト……」

 

「ノース校の先鋒のお手並み――魅せて貰おうかしら」

 

「ファイトだ、アスリィーーィン!!」

 

 そうして、ホームゆえに高まる応援の最中、何処からか恋の伝道師の声援が響いていた。

 

 

 

 

 

――十代がオベリスク・ブルーに上がってから、交友関係が広がった気がするわね……後、兄さん、アスリンはやめて。

 

 デュエル場に立った明日香が、友人たちの声援にサラッと混ざる吹雪に頭を悩ませていたが、ノース校の代表の一人である明日香の対戦相手の丸鼻の男は腕を組んで瞳を閉じたまま黙して動かない。

 

 左右に扇状に固められた髪型に異国の出で立ちを際立たせる浅黒い肌、

 

 赤いタンクトップに黒のベストを羽織った軽装から覗く肩から鍛え抜かれた腕が伸び、

 

 その腰元のベルトには固定されたミリタリー装備が並ぶも、その分野の知識のない明日香からすれば相手の人物像を探る手掛かりにすらならない。

 

 そう、今の明日香には対戦相手の男が全くの未知であった。「大会で活躍した」「高名なデュエリストの目に留まった」「別の分野で優れた結果を出した」などの噂の類すらない始末。

 

「慕われているようだな」

 

 だが、此処でノース校の代表の男は閉じていた瞳を開き、明日香に届く声援への反応を見せた。

 

「……ええ、みんな良い子たちよ。それで貴方が私のお相手かしら?」

 

「流石は名高い『オベリスク・ブルーの女王』と言うべきか。相手にとって不足はない」

 

「違うわ」

 

 そうして、探るように代表の男に問うた明日香だが、相手の賛辞を含めた返答にピシャリと否定を返す。さすれば、此処まで冷静沈着な様子を見せてきた代表の男の眉が違和感を覚えたように僅かに動いた。

 

「……?」

 

「私は『オベリスクブルーの女王』じゃなく、一人のデュエリスト『天上院 明日香』として、この場にいるの」

 

「成程な。どうやらオレは礼を失したらしい」

 

「構わないわ。名乗って貰える?」

 

 しかし、明日香の強い意志を見せる言葉と視線に、代表の男はもう一度瞳を閉じた後、軽い謝罪の後に明日香に名乗りを上げる。

 

 

「――オブライエン」

 

 

 やがて、意識を切り替えるように再度開かれた代表の男の瞳には――

 

 

「オースチン・オブライエン」

 

 

 秘めた熱き闘志が垣間見えた。

 

 

 

 





(兄が)フリ〇ザー VS (デッキが)ファ〇ヤー

(観客に万丈目)サ〇ダー(フラグが折れた人)

これが伝説の三体……!(違)



Q:オブライエン!? オブライエンがどうしてノース校に!? ウエスト校から自力で脱出を!?

A:オブライエンとコブラは原作でも交流があったので、その関係からです。

アークティック校なんて、なかったんや……!!


Q:万丈目は漫画版のように《光と闇の(ライトアンドダークネス)(ドラゴン)》を所持しているのに精霊が見えないの?

A:漫画版のエピソード「《光と闇の(ライトアンドダークネス)(ドラゴン)》にマァトの羽根(ハネクリボー)の力が移り宿る」一件が消し飛んだので、今作の《光と闇の(ライトアンドダークネス)(ドラゴン)》は一般的なカードになっております。

よって、万丈目に及ぼす影響も小さくなった為、精霊の知覚に至っておりません。
パック産らしいですし、特別な一枚って訳でもなさそうなので。

アニメ版の切っ掛けである《おジャマイエロー》との縁も今のところないですし。


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