マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

262 / 289

前回のあらすじ
これがサイバーガール(デッキ)よ!!

と、言える日が来るのは一体いつになるのやら(遠い目)






第262話 鬼才 と 凡人

『無二の同胞……ですか?』

 

「ええ、それ以外は必要ありません。いえ、むしろ何もしないでください」

 

『シグナーの龍の勝手を許すので――』

 

 告げられた言葉を復唱するゼーマンへ神崎は念押しするが、ゼーマンが納得していない様子は声色から容易に把握できた為、神崎は再度釘をさす。

 

「変わらず三騎士の方針に従ってください。どんなイレギュラーが起きようとも、そのスタンスを絶対に崩さないように」

 

――そうしている限り、相手は本格的な行動には移せない。証拠になりえるのは冥界の王の存在を三騎士たちに把握されること……だが、今の状態を維持できれば「それすら」も問題足りえない。

 

 そう、神崎の内心の声が示すように、ゼーマンの立場は盤石である。仮に、冥界の王まわりの情報が発覚したとしても――

 

「ゼーマン、今の貴方には積み上げた実績がある。正体の発覚を含めて最悪の状況になっても三騎士たちは貴方たちに厳しい処置を取れない」

 

――「心を入れ替えて善行を積んでいる」との認識が残る以上、即排除される心配はまずない。最低でも弁明の機会は用意される。

 

 精霊界にはびこる多くの問題に対し、真摯に向き合ってきた実績がある以上、幾らエンシェント・フェアリー・ドラゴンが危険性を忠言したとしても、伝説の三騎士たちが問答無用で殺しに来ることは絶対にない。

 

 絶対にないからこそ、彼らは「正義の味方」なのだから。

 

 もし、エンシェント・フェアリー・ドラゴンが強硬策に出れば、今度は「伝説の三騎士 陣営 VS シグナーの龍 陣営」の構図になりうる可能性も十二分にありうるのだ。

 

 それゆえに、エンシェント・フェアリー・ドラゴンも、ゼーマンを前に「同じ陣営に入って様子を見る」なんて消極的な手を取っているのであろうことは明白である。

 

 正義側同士でぶつかり合うなど、エンシェント・フェアリー・ドラゴンとしても望むことろではあるまい。

 

 

 だが、この理屈にはただ1点ばかり問題があった。ゆえにゼーマンは罰を覚悟で忠言を飛ばす。

 

『お待ちを! シグナーの龍共と肩を並べようなど、御身にも危険が及ぶ可能性があります! どうかご再考を!』

 

 そう、伝説の三騎士が仲間として認めているのは、あくまで「ゼーマンたちのみ」なのだ。過去(前任者)の悪行より冥界の王の危険性は1ミリも変わっていない以上、神崎だけは即殺の危険性が付いて回る。

 

「此方にも危機に対する備えはあります。むしろ、貴方が前提から逸れた行動を起こした方が、最悪の可能性は跳ね上がると理解してください」

 

――上手くいけば、ゼーマン経由で伝説の三騎士に加えて、シグナーの龍たちの陣営の情報を把握できる破格の状況が創れる。これは是が非でも維持したい。

 

 だが、それでも神崎はゼーマンの忠言を退けた。なにせ、これが上手くいけば5D’s編にて情報戦に困ることがなくなる。将来的に打つ予定の一手を含めて、是が非でも果たしておきたい部分だった。

 

 そもそも、冥界の王の目的であった「世界を滅ぼす」を保留すれば、神崎という「個人」レベルなら逃げ切る方法は十二分にある。

 

『ですが――』

 

「どのみち接触があった以上、あなた方は逃げ隠れ出来る状態ではありません。むしろ、今のまま堂々としている方が私の方も逆に安全です」

 

 そうして、それでも心配が尽きないゼーマンに対し、神崎が幾つかそれらしい理由を何度かやり取りした後、渋々と言った様子で「是」を返したゼーマンの言葉を合図に此度の連絡会は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 やがて、表面上は「問題ない」と語っていた神崎だが、頭痛をこらえるように額に手を当て項垂れつつ呟いた。

 

「…………大事にならないと良いな」

 

――せめて遊城くんたちが卒業するまで大人しくして欲しかった……

 

 ゼーマンに告げた「堂々としていればいい」とは何だったのか。

 

 とはいえ、カミューラ探しに、ダークネス問題、そして遊星の両親の問題などと、忙しさに追われている神崎としては他の問題ならまだしも、完全な敵対関係にあるシグナーの龍の問題まで加わると、少々キャパオーバーだった。

 

 なにせ、状況次第では5000年周期の赤き龍と冥界の王の殺し合いが、前倒しになる可能性だってあるのだから。

 

 しかし、マイナスばかりではない。

 

「いや、プラスに考えよう。これでZ-ONEの時代にシグナーの龍が介入できる状況を作りやすくなった」

 

 そう、これが神崎がパラドックスとの一方的な相談を経て改善した未来救済の策。

 

 かつて名もなき科学者だった頃のZ-ONEは、不動 遊星のデータを己の脳にインプットすることで過去の英雄を復活させて破滅に向かう世界を前に、人々に手を差し伸べる道を取った。

 

 だが、彼が持っていた《スターダスト・ドラゴン》が「本物だった可能性」は「限りなく0」である。

 

 何故なら、世界崩壊の危機にありながら他のシグナーの龍たちが一切助けに来ないなど、彼らの精神性を鑑みれば「ありえない」ことなのだから。

 

 《スターダスト・ドラゴン》だけが助けに来た、と考えるよりは、Z-ONEが公的なレプリカを用意したと考える方が自然だ。

 

 ゆえに、神崎は考えた。

 

 Z-ONEたちが世界崩壊を前に奮闘していた同時期に、精霊世界にて何かあったのかもしれない、と。

 

 其方にかかりっきりだったゆえに、エンシェント・フェアリー・ドラゴンを始めとしたシグナーの龍たちはZ-ONEの元に駆けつけることが出来なかった。

 

 なれば、答えは簡単だ。

 

「ゼーマンに背中を預ける――とまではいかずとも、戦線を任せて貰える程度の信頼関係を構築させないと」

 

 神崎の狙いは、エンシェント・フェアリー・ドラゴンを含めたシグナーの龍たちが人類がZ-ONEを残して潰える前に、遊星として人助けをしていたZ-ONEの元へ駆けつけられる状況を担保しておくこと。

 

 戦力という点に関しては神崎は大きく都合がつけられる部分である。

 

 それゆえの友好関係。それゆえの情報把握。それゆえの戦力調達。

 

 かつて、パラドックスに告げた救済案から大きく毛色を変えたことで、かなり穏便な策となったものの、それでも一番の問題は残っている。

 

――この方法なら、流石にパラドックスも納得してくれる……と思いたい。とはいえ、冥界の王と、ダークシンクロの部分だけは、どうにか誤魔化す方法を考えておかないと。

 

 それこそが、救済案の相談の際、パラドックスに冥界の王まわりの情報を握られていた点。

 

 過去の冥界の王の悪行を思えば今後において、あまりにも致命的だった。

 

「記憶の改竄は避けたいな」

 

 やがて、そんな物騒なことを口走りながら神崎は行動を開始する。

 

 

 さて、パラドックスの明日はどっちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処でアカデミアに舞台を戻せば、多くの観客が見守るデュエル場にて亮の前には対戦相手の顎に広いU字の髭を伸ばす高校生か疑わしい筋骨隆々の大男が立っていた。

 

「よう、会いたかったぜ、カイザー」

 

「……江戸川か」

 

「なんだよ、オレのことなんざ忘れちまってると思ってたんだが……覚えてくれてたとは光栄だ」

 

 彼はノース校3年、生徒会長をも務める男――江戸川(えどがわ) 遊離(ゆうり)

 

 名前に「遊」の字を持つが、原作で重要な立ち位置にいた訳でもなく、特殊な出自でもない。

 

 悪く言えば、原作にいた「ただのモブ」でしかない人物である。

 

 亮からすれば、己が倒してきた凡百の中の一人でしかないだろう――その自覚があったゆえに江戸川は肩をすくめて、おどけたように驚きを示して見せるが、亮は己の胸に拳をかざし静かに語る。

 

「忘れない。キミはずっと俺を追い続けてくれた。何度、敗北しようとも、何度、挫かれようとも――そんなデュエリストを忘れる訳がない」

 

「おいおい、随分と買ってくれるじゃねぇか」

 

「俺は……もっと早くに気づくべきだったんだ」

 

 そうして、敗北に誰よりも向き合ってきただろう相手を前に、亮が後悔を滲ませる中――

 

「そうかい。なら、今度はそっちが挫かれる番だ!!」

 

 そんな亮の感慨など、興味が無いと言わんばかりに江戸川が腕を振った行為を合図に、この交流戦の最後を締めくくるデュエルが幕を開けた。

 

 

 

 

 やがて、当然とばかりに先攻を得たのは江戸川――いや、後攻を得たのは亮。

 

「先攻は貰うぜ――ドロー! 魔法カード《手札抹殺》発動! 互いに手札を全て捨て、その分ドローだ!!」

 

「墓地に送られた《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》の効果――デッキから《サイバー・ドラゴン》を手札に」

 

「その程度くれてやるさ! オレは魔法カード《融合派兵》を発動! エクストラデッキの《クリッチー》を公開し、デッキからその融合素材――《黒き森のウィッチ》を特殊召喚!」

 

 そして、江戸川のフィールドの一番槍には黒いローブを纏った紫色の長髪の盲目の女性が祈るように指を組み、額に開く第三の目で空を見上げつつ歩み出た。

 

《黒き森のウィッチ》守備表示

星4 闇属性 魔法使い族

攻1100 守1200

 

「此処で手札の通常モンスターを墓地に送り、こいつを手札から特殊召喚! 来な! 《コスモブレイン》!!」

 

 そんな《黒き森のウィッチ》が見上げる空より宇宙の輝きが花開けば、宙を割いて深紅のタイトなドレスの女王が青のローブを両肩で揺らしつつ、身の丈を優に超える星座を模した杖を手に現れた。

 

《コスモブレイン》 攻撃表示

星7 闇属性 魔法使い族

攻1500 守2450

攻2900

 

 その《コスモブレイン》の姿に、亮は相手のメインエンジンがかかる気配を感じるが――

 

「己を呼び出す為の贄のレベル×200分、攻撃力が上昇するモンスターか。だが、その本領は――」

 

「そこから先は今、見せてやるさ! 《黒き森のウィッチ》をリリースし、《コスモブレイン》の効果発動! デッキより通常モンスター1体を特殊召喚する!! さぁ、来な! 《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》!!」

 

 《コスモブレイン》に杖を向けられた《黒き森のウィッチ》の身体は光の粒子となって消え、その光の中より現れるは漆黒の竜。

 

 細身のラインでありながらも、甲殻を連ならせたような全身からは強靭さを感じさせた。

 

真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》攻撃表示

星7 闇属性 ドラゴン族

攻2400 守2000

 

「レッドアイズだと?」

 

「そして墓地に送られた《黒き森のウィッチ》の効果で守備力1500以下――《魔界発現世行きデスガイド》をデッキから手札に!」

 

 そうして呼び出された《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の姿へ、僅かに眉を顰める亮を余所に江戸川の展開は止まらない。

 

「まだだ! 《悪魔嬢アリス》を通常召喚!! その効果により墓地の《悪魔嬢リリス》が復活!!」

 

 くすんだ黒い肌に覆われたツインテールの金の髪を揺らす少女の悪魔が、頭と背中の翼で滑空しながら眼下を嘲るようにゆっくりとフィールドに降り立った。

 

 その顔だけに浮かぶ白い肌は、何処か作り物めいたものを思わせる。

 

《悪魔嬢アリス》攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻 0 守2000

 

 そんな《悪魔嬢アリス》の影からヌルリと這い出た赤髪の頭に大きな二本角を伸ばす女の悪魔は、蠱惑的な笑みを浮かべながら、《悪魔嬢アリス》と同じように頭と背中から伸びる翼を広げた。

 

《悪魔嬢リリス》攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻2000 守 0

 

「そして《悪魔嬢リリス》の効果発動! オレの闇属性1体――《悪魔嬢アリス》をリリースし、デッキから罠カードを3枚選択! 相手がランダムに選んだ1枚をセットする!」

 

 やがて《悪魔嬢リリス》の笑みを向けられ、コクリと頷いた《悪魔嬢アリス》が影に溶けて消えていく中、現れる3枚の罠カード。

 

「右端だ」

 

――へっ、良いカードが伏せれた。幸先は悪くねぇ。

 

 その内の1枚――望むカードが伏せられた状況に、己へ勝負の流れが来ていることを感じ取った江戸川は、リリースされた《悪魔嬢アリス》によって手札に加えた2枚目の《悪魔嬢リリス》を手に、このターンの締めへと取りかかる。

 

「オレは最後に、手札1枚をデッキの上に戻すことで、墓地の《エッジインプ・シザー》を復活させて貰うぜ」

 

 そして、現れるは家庭用のハサミを6つばかり繋げた複葉刃ハサミに憑りついた悪魔が、連なった刃の部分を足代わりに器用に立つ。

 

《エッジインプ・シザー》守備表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1200 守 800

 

 魔法カード《レッドアイズ・インサイト》を発動して、サーチした《真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)》を伏せてターンを終えた。

 

 

 

江戸川LP:4000 手札1

《コスモブレイン》攻2900

真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》攻2400

《悪魔嬢リリス》攻2000

《エッジインプ・シザー》守800

伏せ×2

VS

亮LP:4000 手札6

 

 

 

 

 そんな大型モンスターに、下級モンスターを添えて、セットカードで守る基本に忠実なオーソドックスな布陣を前に、フォース生用の観客席の吹雪と藤原は意見を交わす。

 

「おっと、去年とはかなりデッキが変わってるみたいだね――どう見る?」

 

「『ノース校の悪魔』の代名詞は未だに温存……って、ことかな?」

 

『まさか、フェイバリットカードをデッキから外してしまったのか?』

 

 だが、そんな中でオネストだけは、他人事ではない可能性に若干ビクビクしていたが――

 

「さっきまで『アスリン、アスリン』喚いてた癖に今更、気取っても恰好つかないわよ」

 

「おや、そう――かな?」

 

『先程の応援っぷりが別人レベルに格好がついている!?』

 

 小日向のヤジ染みた声に対する吹雪のキメ顔返答の完成度の高さに、抱いていた不安など全て吹き飛ぶオネスト。

 

「……ま、まぁ、いつだって自分に正直なのが吹雪の良いところだから」

 

「ハァ……真面目に答えるなら相手がどんな布陣をしこうが、上から叩けるのが亮の強みでしょ――どーせ、手札にワンキルパーツ揃ってるわよ」

 

 そんな変わらぬ吹雪のマイペースを余所に、小日向が己の考察を述べれば、藤原もそれに同調してみせる。

 

「最近の亮は、毎ターン『防げなければ終わり』を突き付けてくるよね」

 

「は? なに、ひょっとして『毎回、防げる自分凄い』アピール?」

 

「ええっ!? そんなつもりじゃ――」

 

 だが、それは小日向の地雷だった模様。唐突ないわれのない怒りを前に藤原は逃げ腰にならざるを得ない中、吹雪が助け船を出すが――

 

「おやおや、喧嘩腰は良くないよ、小日向くん」

 

「他人事ぶっても、アンタも私側な(毎回は防ぎきれない)事実は変わらないわよ」

 

「……ハハハ、これは痛いところを突かれちゃったね」

 

 此方も小日向による痛烈なカウンターを前に、吹雪は乾いた笑いを漏らす他ない。

 

 同じフォース生徒であっても、実力の差が全くない訳ではないのだから。

 

 

 

 

 

 そんなフォース生のやり取りを余所に、フォース最強のデュエリストである亮は、ターンの開始にカードをドローし、手札の1枚のカードに手をかけようとする。

 

「俺のターン、ドロー。俺は――」

 

「そのドローフェイズ時、永続罠《真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)》を発動! オレのフィールドにレッドアイズがいる時、1ターンに1度だけ墓地の通常モンスターを復活させる! 頼むぜ、オレの相棒!!」

 

 しかし、それに先んじて江戸川が1枚のカードを発動させれば、それを合図とするように轟かせた《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の天への咆哮が、墓地に眠る同胞の亡骸を呼び覚ます。

 

 それこそが、江戸川のフェイバリット。

 

 彼が「ノース校の悪魔」と呼ばれる所以(ゆえん)となった1枚。

 

 

「――《デビルゾア》!!」

 

 そして大地より這い出る形で現れるは、青き悪魔。

 

 それは翼のような耳で周囲を把握し、異常に発達した両腕を以て大地を揺らしながら今、その関節部から攻撃的な角が伸びる全身をあらわにした。

 

《デビルゾア》攻撃表示

星7 闇属性 悪魔族

攻2600 守1900

 

「来たか。なら俺は――」

 

「そして攻撃力2500以上の闇属性――《デビルゾア》をリリースし、発動しろ!!」

 

 その《デビルゾア》に、相手のフェイバリットカードが変わっていない事実を嬉しく感じる亮を尻目に、《デビルゾア》の身体がボコボコと脈動した後、その身体が内部から破裂した。

 

「――《闇のデッキ破壊ウイルス》!!」

 

 途端にフィールド全域に広がるのは血飛沫――ではなく、黒いドクロにも見えるダニ状のウイルス。

 

 それら闇のウイルスが亮のフィールドや手札に次々と付着していく。

 

「魔法か罠! オレが宣言したお前のカードを、全て破壊する! オレが選ぶのは当然、『魔法カード』だ!! さぁ、手札を見せな!!」

 

「俺の手札の魔法カードは3枚だ」

 

 さすれば、亮の6枚の手札の中の魔法カードである――

 

 相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する

 《ハーピィの羽根帚》

 

 互いに1枚ドローし、次のターン終了時まで互いにダメージを受けなくなる

 《一時休戦》

 

 そして、亮の代名詞たるカード。

 

 機械族の融合モンスターを、攻撃力を倍にして融合する

 《パワーボンド》

 

 その3枚の亮の手札が破壊され、墓地へと送られた。

 

「……危ねぇ、危ねぇ。オレの罠の除去に加えて、伝家の宝刀《パワーボンド》だけじゃなく、そのデメリットのダメージすら回避する手を握ってやがったか」

 

 その強力な3枚のカードを前に、江戸川は冷や汗を拭った。《闇のデッキ破壊ウイルス》がなければ、亮は文字通り1ターンで江戸川を仕留めていただろう。

 

「だが、《闇のデッキ破壊ウイルス》の効果で3ターンの間、お前がドローした魔法カードは破壊され続ける! これで融合召喚は封じたぜ!!」

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する為、手札の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚」

 

 そうして、己の有利を確信する江戸川を余所に、亮のフィールドに白金の装甲に覆われた機械龍が、蛇のように長大な身体を丸めて亮を守るように現れた。

 

《サイバー・ドラゴン》守備表示

星5 光属性 機械族

攻2100 守1600

 

「そいつを壁にしてターンをやり過ごそうって腹か? 違うよな、お前はそんなチンケな男じゃねぇ筈だ」

 

「《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を召喚。効果により、墓地の2100ステータス――《サイバー・ファロス》が復活」

 

 しかし、油断はしないと語る江戸川を前に、次々と亮の相棒たる機械龍の眷属たちが現れる。

 

 それは三本指を広げたような翼を持つ、海蛇のような機械龍と、

 

《サイバー・ドラゴン・ネクステア》→《サイバー・ドラゴン》 攻撃表示

星1 光属性 機械族

攻 200 守 200

 

 半透明な素材で覆われているゆえか、周囲の光によって淡い水色に輝く灯台の如き要塞の姿が亮のフィールドに並んだ。

 

《サイバー・ファロス》守備表示

星1 光属性 機械族

攻 0 守2100

 

「《サイバー・ファロス》の効果――俺は融合召喚を行う。フィールドの《サイバー・ドラゴン・ネクステア》、《サイバー・ファロス》、そして手札の《サイバー・ドラゴン・コア》を素材に融合!!」

 

 やがて《サイバー・ファロス》の灯台部分が光を放てば、その中へと2体の機械龍たちが吸い込まれ――

 

「融合召喚! 《サイバー・エタニティ・ドラゴン》!!」

 

 その光の中から次元の壁を切り裂き、現れるは世界を一回り巻ける程に長大な機械龍。

 

 その《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の白銀の装甲が、「亮を守る」――その一点にのみ、力を注ぐように、その巨大な体躯でとぐろを巻いた。

 

《サイバー・エタニティ・ドラゴン》守備表示

星10 光属性 機械族

攻2800 守4000

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

「即席にしちゃぁ頑強な壁だ――そのエンド時にリリスの効果! 《エッジインプ・シザー》をリリースし、また3枚の罠カードの中から選んで貰うぜ!」

 

 そうして、巨大な機械龍を従えターンを終えた亮を前に、江戸川も《エッジインプ・シザー》を闇の中に沈ませた対価に、《悪魔嬢リリス》に1枚のカードをセットさせ、亮の盤面を崩さんと己のデッキの牙を研ぐ。

 

 

江戸川LP:4000 手札3

《コスモブレイン》攻2900

真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》攻2400

《悪魔嬢リリス》攻2000

伏せ×1

真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)

VS

亮LP:4000 手札0

《サイバー・エタニティ・ドラゴン》守4000

《サイバー・ドラゴン》守1600

伏せ×1

 

 

 

 だが、普段の亮の速攻勝利をよく知る観客席の明日香は、眼前に広がる光景を前に信じられない様子で思わず呟いた。

 

「亮がああも何もさせて貰えないなんて……」

 

 なにせ《サイバー・エンド・ドラゴン》を始め、攻撃的なデュエルの印象の強い亮が、このターンに行ったのは「壁モンスターを並べるだけ」である。

 

 伏せカードも、たった1枚であり、手札も0――盤石には程遠く見えよう。

 

「いや、守備力4000ならば守りには十分な筈だ」

 

「だが、逆を言えば『守りに入らされた』……あのカイザーが」

 

 やがて、三沢と万丈目がそれぞれ私見を述べる中、十代は周囲の深刻さなど気づいた様子もなく、オブライエンに同郷への賛辞を贈るが――

 

「オブライエン! お前の先輩、凄いな!!」

 

「まだ出鼻を挫いただけに過ぎない。状況は未だイーブンだ」

 

『十代、彼の目線じゃ「別に凄くない」ってさ』

 

 腕を組み、デュエルの経緯を静かに見守るオブライエンとしては、ユベルの言うように「現段階では賞賛に値しない」と辛口採点である。

 

 

 

 

 

 そして、それは亮とデュエルしている江戸川が誰よりも理解していた。

 

 亮が、こんな程度の妨害で仕留められるようなデュエリストなら「皇帝(カイザー)」などと呼ばれてはいない。

 

「だが、んな程度で安心してる訳じゃねぇだろ! オレのターン、ドロー!! フィールド魔法《天威無崩の地》発動! そして《魔界発現世行きデスガイド》を通常召喚!」

 

 やがて、フィールドが岩肌に覆われる中、その悪路を駆ける不自然な程に真っ黒なバスがドリフト停車に失敗。

 

 それによって二転三転転がった結果、横転したバス――の扉を蹴破り、紺の添乗員服に身を包んだ肩口まで伸ばした赤髪の女悪魔のガイドが身体の埃を払いながら現れれば――

 

《魔界発現世行きデスガイド》攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1000 守 600

 

「デスガイドの効果! デッキからレベル3悪魔族――《クリッター》を特殊召喚する!」

 

 横転したバスの窓から、必死な泣きっ面で這って脱出した丸い毛玉の三つ目の悪魔が身体の調子を確かめるように丸毛玉から伸びる己の細い手足で伸びをする。

 

《クリッター》守備表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1000 守 600

 

「さぁ、もういっちょ頼むぜ、《コスモブレイン》! 《クリッター》をリリースして出てこい! 《デビルゾア》!!」

 

 そんな中、《コスモブレイン》の杖をかざされれば、伸びをしていた《クリッター》の内側を食い破るように、青き悪魔たる《デビルゾア》が現れ、威嚇するような唸り声を響かせた。

 

《デビルゾア》攻撃表示

星7 闇属性 悪魔族

攻2600 守1900

 

 やがて、墓地に送られた《クリッター》の効果で2枚目の《魔界発現世行きデスガイド》をサーチした江戸川だが――

 

「まだだ! デスガイドをリリースして三度リリスの効果発動! さぁ、選びな!!」

 

「左側だ」

 

「なら、こいつをセット! そして永続罠《真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)》の効果! 墓地の2体目の《デビルゾア》が復活!!」

 

 《悪魔嬢リリス》の効果を最大限活用し、セットカードを途切れさせない――だけでなく、新たな《デビルゾア》をフィールドに呼び寄せ、次々と大型モンスターを繰り出していく。

 

《デビルゾア》攻撃表示

星7 闇属性 悪魔族

攻2600 守1900

 

 そうして、最上級悪魔たる攻撃力2600の《デビルゾア》が2体も立ち並び、

 

 さらに攻撃力が2900にまでパワーアップした《コスモブレイン》と、《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》に加えて、

 

 下級モンスターでは破格の攻撃力2000を持つ《悪魔嬢リリス》と、

 

 江戸川のフィールドを埋め尽くす5体のモンスターたちに対し、亮のフィールドには2体しかモンスターはいない。

 

「バトル! リリスで《サイバー・ドラゴン》を攻撃!」

 

 しかし、そんな亮を守る2体の壁も、翼を広げて空中に飛んだ《悪魔嬢リリス》から放たれる爪の一撃を前に《サイバー・ドラゴン》が切り裂かれれば、残るは後1体。

 

「だが、《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の防御は突破できない」

 

 とはいえ、その残る《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の守備力は4000。江戸川のモンスターたちでは突破できない数値である。

 

「はんっ! オレの名を覚えていても、こいつは忘れちまったらしい――《デビルゾア》!! 攻撃だ!!」

 

 だが、亮が語った前提を無視して江戸川が《デビルゾア》を突っ込ませ、その剛腕を《サイバー・エタニティ・ドラゴン》に叩きつければ――

 

「ダメージステップ時、罠カード《メタル化・魔法反射装甲》発動! 攻撃力を300アップ! さらに攻撃時、相手モンスターの攻撃力の半分パワーアップ!!」

 

 両者が接触する前に《デビルゾア》の腕と肩、そして頭に羽織る形で、メタリックな装甲板が装着された。

 

 その結果、剛腕を叩きつけた《デビルゾア》を弾き飛ばすように《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の全身を電磁シールドが包み込んだ瞬間に、《メタル化・魔法反射装甲》がそのエネルギーを吸収。

 

 途端に《デビルゾア》が纏うアーマーが一瞬、煌めいたと同時に――

 

《デビルゾア》

攻2600 → 攻2900 → 攻4300

 

「デビル・エックス・シザース!!」

 

 《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の巨躯は、十字に切り裂かれていた。

 

 やがて、内部のスパークによって誘爆し、爆炎の中に消えていく《サイバー・エタニティ・ドラゴン》に向けて、亮は手をかざす。

 

「機械族の融合モンスターがバトルで破壊された瞬間、墓地の《サイバー・ファロス》を除外し、効果発動――デッキから《パワーボンド》を手札に加える」

 

「チッ、『ドロー』じゃねぇ場合は、《闇のデッキ破壊ウイルス》で破壊は出来ねぇ」

 

 さすれば、その残骸の中から1枚のカードを手札に加える亮の姿を、江戸川は苦い表情で見送るも――

 

「このままがら空きのお前をぶっ飛ばしたいところだが……さっさと《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の効果でサイバー・ドラゴンを呼びな!」

 

 己の有利は崩れていないと、亮の言葉を先回りするように先を促すが、対する亮はピクリと動きを止めた。

 

「知っていたのか」

 

 なにせ、《サイバー・エタニティ・ドラゴン》は最近、手にしたカードである。オブライエンの時とは違い、事前調査で判明するようなものではない。ノース校に使い手でもいるのかと、考える亮。

 

「ああ、知ってるさ。俺とタメ(同い年)で、お前のことを知らない奴なんていねぇ」

 

 だが、そんな亮の疑問を曲解した江戸川は、拳を握りながら己の思いの丈を語る。

 

 皇帝(カイザー)、丸藤 亮――同学年なら、誰もが1度は土をつけられた(敗北した)ことがあろう相手。

 

 江戸川たちは、ただ、「歳が同じだった」と言うだけで、常に比較され続けてきた。

 

 親に、教師に、プロ業界に、「(カイザー)に比べてキミは――」、「キミも(カイザー)のように――」、「(カイザー)に出来たんだ。キミだって――」、

 

 そんな現実を履き違えた無責任な言葉に晒され続けた。

 

「お前は、いつだって俺たちの前にいた……!!」

 

 ジュニアの大会で、皇帝(カイザー)を見れば、江戸川は――いや、凡人たちは「二番目争い」に準じなければならない異常。それが、彼らの日常だった。

 

 誰もカイザーに勝てなかった。「俺が倒す」と意気込んでいた者たちも、次第に諦めていった。

 

 そうして、決勝で行うカイザーのデュエルは「思い出作り」に堕ちていく。

 

 きっと将来「世界的なデュエリスト」になるであろう相手(カイザー)と「デュエルした事実だけ」で皆が皆、満足していくのだ。

 

 だが江戸川には、そんなもの御免だった。

 

「誰もがお前の背中を追いかける立場だった。だがなぁ……」

 

 そして、江戸川は今、此処にいる。

 

 相手(カイザー)の魔法を封じ、サイバー・ドラゴンたちを薙ぎ倒し、

 

 己のモンスターだけが、フィールドを支配する。

 

 とうとう、此処まで来た。後一歩――いや、もう数歩で届く。きっと届く。

 

 違う。()()()()

 

 他の誰でもない己自身が。

 

「――今度は、お前が追いかける番だ!!」

 

 そう、力強く宣言した江戸川を前に、亮はポツリと言葉を零した。

 

「……己が情けなくなる」

 

「あん?」

 

「誰もが向き合っていた『それ』に、気づくのが随分と遅れた」

 

 しかし、その独白は要領を得てはおらず、江戸川に正しく伝わってはいない。

 

「何をゴチャゴチャ言ってんのか知らねぇが、テメェもデュエリストならデュエルで語りな!」

 

「そうだな。デュエルで語ろう」

 

 ゆえに、問答を切り上げてみせる江戸川の言葉に応じる形で、亮はフィールドに手をかざす。

 

「《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の効果により墓地で《サイバー・ドラゴン》として扱う《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を特殊召喚」

 

 さすれば、前のターンの焼き増しのように《サイバー・ドラゴン・ネクステア》が翼を広げて現れれば、

 

《サイバー・ドラゴン・ネクステア》守備表示

星1 光属性 機械族

攻100 守100

 

「そして、ネクステアの効果によりステータス2100の《サイバー・ドラゴン》を復活させる」

 

 その尾の先に連結する形で《サイバー・ドラゴン》も、亮を守る壁となって立ちふさがる。

 

《サイバー・ドラゴン》守備表示

星5 光属性 機械族

攻2100 守1600

 

 やがて、相手フィールドに効果モンスターが呼び出されたことで、《天威無崩の地》で2ドローした江戸川は、此処ぞとばかりに攻勢に出れば――

 

「だとしても、壁が1枚足りねぇぜ!! レッドアイズ! 《デビルゾア》! 露払いしな!!」

 

 《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の口から放たれた球体状の黒き炎が、

 

 《デビルゾア》が交差した腕を開放する形で放ったX字の斬撃が、

 

 亮のフィールドのサイバー・ドラゴンたちを粉砕し、爆炎を轟かせる。

 

「これで、正真正銘がら空きだ! 《コスモブレイン》でダイレクトアタック!!」

 

 そうして最後の最後に《コスモブレイン》が杖を天にかざせば、空より降り注ぐ流星群が無防備な亮に次々と炸裂。

 

亮LP:4000 → 1100

 

 そのライフを一気に半分以上、削り取った。

 

「バトルはこれで終いだ――まぁ、ほんの挨拶代わりよ」

 

 しかし、そのライフアドバンテージすら、江戸川にとっては「挨拶代わり」と切って捨てる些事である。

 

 江戸川の知るカイザー亮というデュエリストは、この程度が痛手となるような(やわ)な実力では決してない。

 

「《メタル化・魔法反射装甲》を装備した《デビルゾア》を墓地に送り、オレの相棒は真の姿を見せる!」

 

 それゆえに、万全を期するべく《デビルゾア》の半身を覆う装甲の更なる力を発揮させれば――

 

「――《メタル・デビルゾア》!!」

 

 《デビルゾア》を簡易的に覆っていただけの装甲は完全に融合する形で、《デビルゾア》に溶け込み、

 

 青き悪魔である《デビルゾア》を完全にマシン化させた姿と化した。

 

《メタル・デビルゾア》攻撃表示

星8 闇属性 機械族

攻3000 守2300

 

こうして、攻撃力3000という大台を従えた江戸川は、カードを2枚セットしてターンを終えるが、その闘志に満ちた視線は鋭く亮を見据えていた。

 

 

江戸川LP:4000 手札1

《メタル・デビルゾア》攻3000

《コスモブレイン》攻2900

《デビルゾア》攻2600

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》攻2400

《悪魔嬢リリス》攻2000

伏せ×3

真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)

フィールド魔法《天威無崩の地》

VS

亮LP:1100 手札0

伏せ×1

 

 

 

 そうして、手痛い一撃を受けた亮の姿に観客席の明日香は驚きの声を漏らしていた。

 

「亮が先手を許すなんて……!」

 

「驚嘆に値するな」

 

「実質、分校扱いのノース校を侮っていた訳ではないが……此処までとは」

 

 その現実はオブライエンの言葉を前に、思わず万丈目も同意せざるを得ない。

 

 正直、万丈目は今回のデュエルを「カイザー亮の実力を推し量る為の試金石」程度にしか考えていなかった。亮が遅れを取る可能性など、全く想定していない。

 

 だが、蓋を開ければどうだ?

 

 亮を相手に江戸川は、ハンドアドバンテージを稼ぎ、フィールドアドバンテージを引き離し、ライフアドバンテージすら手中に取った。

 

 そう、万丈目は心のどこかで「ノース校の最強と言えども、カイザーには及ばない」と高を括っていた現実を認めざるを得ない。

 

 万丈目は、怠けているつもりなどなかったと言うのに。

 

 だが、万丈目より「2年先に生まれた」江戸川には、時間的なアドバンテージが確実に存在している。当たり前の話だ。兎と亀の童話よろしく「己が努力している間に、他が努力していない」なんて、都合の良いことばかりが起こる筈もない。

 

 

「流石はカイザーだ。楽に攻め落とさせてはくれない」

 

「なんだと?」

 

 しかし、そんな己の耳に届いたオブライエンの「驚嘆に値する」との言葉の真意に、万丈目が意図を測りかねる中、顎に手を当て思案を続けていた三沢が納得の声を落とす。

 

「……成程。前のターン、カイザーは攻撃的な融合体を呼んで攻めに転じることも出来た。だが、この戦況を予測したゆえの守勢……か」

 

 そう、最初の亮のターン、《サイバー・エンド・ドラゴン》を呼び、攻勢に出ることは一応可能だった。

 

 だが、その場合、次の江戸川のターンで《メタル化・魔法反射装甲》でパワーアップされた《デビルゾア》によって、亮は深刻なダメージを受けていたことだろう。

 

「そう、未だ江戸川のデュエルはカイザーの掌の上だ」

 

『魔法カードを実質、封じられた上で……か』

 

「どっちも頑張れー!」

 

 やがて、「盤面ほどに江戸川が押している訳ではない」と締めくくったオブライエンの主張に対し、ユベルが補足を入れる中、十代だけが純粋な「一観客」として声援を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 そんな観客たちの考察を余所に、江戸川はあえて挑発するような言葉を選ぶが――

 

「どうしたよ、お前のターンだぜ? まぁ、折角サーチしたお得意の《パワー・ボンド》も今じゃ宝の持ち腐れだがな」

 

「俺のターン、ドロー」

 

「待ちな! そのドローは《闇のデッキ破壊ウイルス》の効果で確認させて貰うぜ! 魔法カードなら当然――」

 

「俺が引いたのは《融合呪印生物-光》――モンスターだ」

 

 亮の心は波風一つ立ちはしない。「もし、魔法カードを引いてしまえば――」なんて恐れすら欠片も見せないメンタルは、江戸川にとって只々厄介だった。

 

「チッ、悪運の強い野郎だ」

 

――守備力1600じゃぁセットしてある《影のデッキ破壊ウイルス》じゃ墓地には送れねぇ。

 

「俺は永続罠《DNA改造手術》を発動。フィールドの全てのモンスターを俺が宣言した種族とする。機械族を宣言」

 

 しかし、亮が1枚のカードを発動させ、江戸川の悪魔族たちがマシン化していけば――

 

「なんの真似――ッ! リリスの効果! リリス自身をリリースし、罠カードを伏せる!」

 

「だが、伏せたターンには発動できない」

 

 その意図を察した江戸川が《悪魔嬢リリス》によって、1枚のカードを新たにセットするも亮の言う通り、それでは亮は止まらない。

 

「墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》を除外し、デッキから『サイバー・ドラゴン』1体を――《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を特殊召喚。効果により、《サイバー・ドラゴン》が復活」

 

 そして、三度、《サイバー・ドラゴン・ネクステア》がデッキよりフィールド内に羽ばたけば――

 

《サイバー・ドラゴン・ネクステア》→《サイバー・ドラゴン》守備表示

星1 光属性 機械族

攻100 守100

 

 共をするように《サイバー・ドラゴン》が追従。

 

《サイバー・ドラゴン》守備表示

星5 光属性 機械族

攻2100 守1600

 

 

 そうして、効果モンスターが呼ばれたことで、フィールド魔法《天威無崩の地》で2枚ドローする江戸川は、顔に警戒の表情を浮かべつつ、確かめるように言葉を落とす。

 

「……へっ、とうとう《パワーボンド》の素材を揃えて来たか」

 

「俺は《サイバー・ドラゴン》として扱う《サイバー・ドラゴン・ネクステア》と、相手フィールドの機械族を素材に融合召喚!!」

 

「くっ、オレのモンスターを根こそぎ……!」

 

 だが、江戸川の誘導に乗ることなく、亮が《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を指さし、空に浮かんだ全てを吸い込む大穴に、江戸川の《コスモブレイン》と《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》、そしてデビルゾアたちが吸い込まれれば――

 

「現れろ、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》!! その攻撃力は素材の数×1000!!」

 

 輪を連ならせたような歪な長大な体を持つ銀龍が、列車のように大地を駆け抜け現れる。

 

 やがて、その連ならせた輪の4つから、小竜の頭部が獲物を求めるように牙を剥いて顔を出した。

 

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》攻撃表示

星8 闇属性 機械族

攻 0 守 0

攻5000

 

「まだだ。《融合呪印生物-光》を通常召喚」

 

 続いて現れるのは、幾つもの生物を強引に球体に押しとどめたような不気味な様相を醸し出す歪な球体状のモンスター。

 

《融合呪印生物-光》攻撃表示

星3 光属性 岩石族 → 機械族

攻1000 守1600

 

「効果発動! このカードを含めた融合素材をリリースし、生贄(リリース・)融合(フュージョン)!!」

 

 そんな歪な《融合呪印生物-光》が《サイバー・ドラゴン》の首元に貼りつけば、《融合呪印生物-光》の身体は発光と共にグネグネと粘土のように姿を変え始める。

 

「――現れろ! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》!!」

 

 そして、光が収まった先には疑似的に頭を一つ増やし、双頭となった機械龍がフィールドに降り立った。

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》攻撃表示

星8 光属性 機械族

攻2800 守2100

 

「たった一手で……!!」

 

――そうだよな! それでこそカイザー……俺が追い続けたデュエリストだ!

 

 魔法すら碌に使えぬ亮のたった1ターンで、江戸川の布陣は無に帰した。

 

 2000オーバーの攻撃力5体が並んでいた江戸川の圧倒的優位は崩れ、亮のフィールドに2回攻撃が可能な攻撃力2800と、5000の大型融合モンスターが立ち並ぶ。

 

「バトル!!」

 

「だが、タダで通す気はねぇ!! 罠カード《レッドアイズ・スピリット》発動! 甦れ、《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》!!」

 

 しかし、それでも江戸川の備えは崩れない。

 

 再び天を舞う黒き龍たる《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》が翼を広げれば――

 

真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》攻撃表示

星7 闇属性 ドラゴン族 → 機械族

攻2400 守2000

 

「そして守備力2000以上の闇属性――《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》をリリースし、罠カード《影のデッキ破壊ウイルス》発動!! 今度は守備力1500以下をむしばむ(破壊)ウイルスだ!!」

 

 その瞬間に、《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の身体は弾け飛び、「影」の文字が浮かぶコウモリに似たウイルスが広げた翼をもって亮のフィールドに降り注ぐ。

 

 さすれば、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の全身から異常を知らせるシグナルが明滅し始め――

 

「消えろ、キメラテック・フォートレス!」

 

 内部機構が誤作動を起こし、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は内部から爆散。立ち昇る炎の中で、白金の機械魔龍は崩れ落ちていった。

 

「だとしても、サイバー・ツインの攻撃は残っている! エヴォリューション・ツイン・バースト!!」

 

「承知の上さ! 罠カード《逢魔ノ刻》! 甦れ、《メタル・デビルゾア》!!」

 

 それでも、《サイバー・ツイン・ドラゴン》の双頭が大口を開け、二対の光線のブレスが放たれるも、大地を砕き現れた《メタル・デビルゾア》が魔法反射装甲に覆われた腕を振るえば、二対の光線はあらぬ方へと弾かれ、デュエル場の屋根に着弾するに終わる。

 

《メタル・デビルゾア》攻撃表示

星8 闇属性 機械族

攻3000 守2300

 

「攻撃はキャンセルだ。ターンエンド」

 

――凌ぎ……切った……!

 

 そうして、亮の攻勢を凡そ十全と言える形で挫いた江戸川は、確かな手ごたえを感じ取る。

 

 

江戸川LP:4000 手札3

《メタル・デビルゾア》攻3000

伏せ×1

真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)

フィールド魔法《天威無崩の地》

VS

亮LP:1100 手札1

《サイバー・ツイン・ドラゴン》攻2800

《DNA改造手術》

 

 

 なにせ、今の亮の手札に残るは無意味な《パワーボンド》のみ。

 

 セットカードも全て判明し、完全なガラ空き。

 

 最後に残る《サイバー・ツイン・ドラゴン》も、《メタル・デビルゾア》の敵ではない。

 

 

「オレのターン、ドロー!!」

 

――届く……! 後少し……後少しで!! 届く()なんだ……!!

 

 ゆえに、逸る気持ちを押さえつけ、カードをドローした江戸川は一切の抜かりなく、亮より勝利をもぎ取るべく1枚のカードを発動させる。

 

「オレは魔法カード《融合派兵》発動! 《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》を公開し、デッキより舞い上がれ、レッドアイズ!!」

 

 それにより、三度舞い戻る《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》が空にて翼を広げて、咆哮を響かせれば――

 

真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》攻撃表示

星7 闇属性 ドラゴン族 → 機械族

攻2400 守2000

 

「さらに永続罠《真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)》の効果! 甦れ、《デビルゾア》!!」

 

 その黒竜の雄たけびに呼応するように江戸川のフェイバリットたる《デビルゾア》が天より音を立てて大地を砕きながら降り立った。

 

《デビルゾア》攻撃表示

星7 闇属性 悪魔族 → 機械族

攻2600 守1900

 

 そうして、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を薙ぎ倒さんと進軍する《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》とデビルゾアたち。

 

「バトルと行――」

 

 だが、件の相手である《サイバー・ツイン・ドラゴン》が唐突に爆散した。

 

「なっ!? サイバー・ツインが……独りでに……?」

 

「メインフェイズ終了時、墓地の罠カード《ハイレート・ドロー》の効果を発動させて貰った。俺のモンスターを破壊することで、墓地のこのカードはセットされる」

 

 そんな前触れなき急変を前に戸惑う江戸川へ、亮は自ら己を守るモンスターを手放したことが明かされる。

 

 だが、伏せられた《ハイレート・ドロー》も「罠カード」である以上、セットされたターンは無用の長物に他ならない。

 

「だったら、そのままダイレクトアタックするまでだ!」

 

 ゆえに、江戸川はモンスターたちを進軍させるが、今度は天より降り注ぐ光の刃がデビルゾアたちの行く手を遮る檻を生み出すように地面に突き刺さる。

 

「墓地の永続罠《光の護封霊剣》を除外し、このターンのダイレクトアタックを無効にする」

 

「――ッ!」

 

――くっ……罠カード《メタル化・魔法反射装甲》のパワーアップで仕留める段取りが……

 

 そうして、千載一遇の機会を惜しくも逃した江戸川は内心で舌を打つ。

 

 《光の護封霊剣》のダイレクトアタック封じだけならば、セットしていた罠カード《メタル化・魔法反射装甲》の攻撃力上昇によって突破できていただけに、この空振りは大きな痛手だ。

 

――《レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン》を呼び出して少しでも攻撃力を上げておくべきか? いや、此処は!

 

 だが、その失敗を引きずることはせず、次のターンの攻防に意識を向けた江戸川は、瞬きの思考の間に結論を定め、カードを2枚セットしてターンを終えた。

 

 

江戸川LP:4000 手札1

《メタル・デビルゾア》攻3000

《デビルゾア》攻2600

真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》攻2400

伏せ×3

真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)

フィールド魔法《天威無崩の地》

VS

亮LP:1100 手札1

伏せ×1

《DNA改造手術》

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

「その瞬間、《闇のデッキ破壊ウイルス》と《影のデッキ破壊ウイルス》の効果が適用される! 『魔法カード』か『守備力1500』以下なら破壊だ!!」

 

 やがて、圧倒的なアドバンテージ差を前にしているにも関わらず、変わらぬ平常心でカードを引いた亮に対し、江戸川は焦ったようにドローカードの確認を急かす。

 

「俺が引いたカードは《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》――守備力1500以下の為、破壊されるが、墓地に送られた《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》の効果によって墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》を手札に加える」

 

 だが、亮の手札を侵食したウイルスによって崩れ落ちた1枚のカードは、墓地のカードに転生を果たす形で舞い戻り――

 

「《サイバー・ドラゴン・コア》を通常召喚」

 

 亮のフィールドで黒い球体が数珠繋がりになったような痩せ細った機械竜として現れた。

 

《サイバー・ドラゴン・コア》→《サイバー・ドラゴン》攻撃表示

星2 光属性 機械族

攻 400 守1500

 

「キメラテック・フォートレスは呼ばせねぇ! 罠カード《闇のデッキ破壊ウイルス》! 《メタル・デビルゾア》をリリースし、今度は罠カードを選択!」

 

 その瞬間に、《メタル・デビルゾア》の装甲の隙間から黒い瘴気が噴出し、亮のフィールドを呑み込めば、セットされた《ハイレート・ドロー》を含め、《DNA改造手術》が砂の城が崩れるように消えていく。

 

 その結果、《DNA改造手術》によって、マシン化させられていた江戸川のモンスターたちは元の姿へと戻っていった。

 

「これでお前に残ったのは、貧相な《サイバー・ドラゴン・コア》と形無しの《パワーボンド》だけだ!!」

 

 これにより、前のターンのように《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を呼び出すことは叶わない。

 

 元々が機械族の《メタル・デビルゾア》も既にいない以上、亮に残るのは現状アタッカーになりえないカード。

 

「だが、俺は《サイバー・ドラゴン・コア》の召喚時の効果により、このカードを手札に加えさせて貰った」

 

「あん?」

 

 と、つい先程サーチした1枚のカードだけだ。

 

「速攻魔法《サイバネティック・フュージョン・サポート》発動! ライフを半分支払い、このターン1度だけ機械族の融合召喚の際に、墓地のカードが使用可能!」

 

亮LP:1100 → 550

 

 そして、その最後の1枚によって、このデュエルは別の景色を映し出す。

 

「なん……だと……!?」

 

「そして、墓地の《サイバー・エタニティ・ドラゴン》を除外後、このカードを発動させて貰う。魔法カード――」

 

 やがて、墓地より数多の機械龍たちがスパークを引き起こしながら、生誕の時を待つようにうごめく中――

 

「――《パワーボンド》!!」

 

 亮の――いや、皇帝(カイザー)の代名詞たるカードが発動された。

 

「《サイバー・ドラゴン》として扱う《サイバー・ドラゴン・コア》と墓地の《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》、そして《サイバー・ドラゴン》を除外し、融合召喚!!」

 

 やがて、墓地に眠る機械龍たちが天に轟く紫電の光に飲み込まれていけば、その光の中に巨大な影が浮かび上がる。

 

 そして、降り立つはサイバー流の象徴であり、亮のフェイバリットカードである1枚。

 

「――降臨せよ! 《サイバー・エンド・ドラゴン》!!」

 

 白銀の巨躯を持つ三つ首の機械竜が、王者の証たる巨大な翼を広げ、絶対的な力を示すように大気すら揺らす咆哮を轟かせる。

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》攻撃表示

星10 光属性 機械族

攻4000 守2800

 

「《パワーボンド》で呼び出されたモンスターの攻撃力は倍となる!」

 

 その圧倒的なまでの威容は、攻撃力として如実に現れ、全てを薙ぎ倒す必殺の力が《サイバー・エンド・ドラゴン》の中で脈動を始める。

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》

攻4000 → 攻8000

 

「バトル!!」

 

「させるかァ!! レッドアイズをリリースし、罠カード《闇の閃光》発動!」

 

 そうして、三つ首にエネルギーをチャージし始める《サイバー・エンド・ドラゴン》だが、その前に立ちはだかった《真紅眼の黒竜 (レッドアイズ・ブラックドラゴン)》が黒き閃光となって、その身を散らせば――

 

「このターン特殊召喚されたモンスターを全て破壊する! これで、《パワーボンド》のデメリットダメージでお前は――」

 

 その漆黒の輝きは数多の刃となって、《サイバー・エンド・ドラゴン》の身体を貫いていく。

 

 ことはなく、《サイバー・エンド・ドラゴン》が雄たけびを上げて大気を震わせれば、漆黒の閃光はより強い光にかき消されるように消えていった。

 

「なん……で……!」

 

「除外した《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の効果により、サイバー・エンドは破壊されない」

 

 そう、江戸川が用意した全ての戦略は、既に亮によって打ち崩されている。

 

「此処まで来て――」

 

――いや、違う……これは!

 

 そして、遅ればせながら江戸川は気付いた。己がとんだ思い違いをしていた現実を。

 

 ハンドアドバンテージの優位を保った?

 

 フィールドアドバンテージを維持した?

 

 ライフアドバンテージを引き離した?

 

 確かに、アドバンテージを稼ぎ積み上げる行為は、己の優位に働くだろう。

 

 だが、そこまでだ。

 

 積み上げたアドバンテージが勝利を意味する訳ではない。

 

「サイバー・エンドの攻撃!!」

 

――最初から『こう』なるようにデュエルの流れを……!

 

 やがて、亮の指によって狙いを定めた《サイバー・エンド・ドラゴン》の三対の眼が己を捉える中、江戸川は理解する。互いに見ている景色があまりにも違い過ぎたことに。

 

 このデュエル中の江戸川は、盤面差やライフ差を前に一喜一憂していただけに過ぎない。

 

「エターナル・エヴォリューション――」

 

 そうして、江戸川の元に最後に残った《デビルゾア》を目がけて《サイバー・エンド・ドラゴン》の三つ首の口から蓄積された光輝くエネルギーが、今――

 

「――バーストッ!!」

 

 破壊の奔流となって放たれた。

 

――あぁ……

 

 大地を削り、空間を歪ませ、破壊音を響かせながら迫る《サイバー・エンド・ドラゴン》のブレスを前に、江戸川の胸中は不思議と穏やかだった。

 

 終始、亮にデュエルの主導権を握られていたことなど気づきもしなかった屈辱的な敗北だというのに、江戸川の心には怒りすら沸いてこない。

 

 そうして、全てを貫く光の奔流に相棒の《デビルゾア》と共に呑まれた江戸川の胸を占めるのは――

 

――やっぱ遠い……な。

 

江戸川LP:4000 → 0

 

 ライバルと認めたデュエリストへの純粋な賛辞だけだった。

 

 

 やがて、デュエル場にて一際大きな爆炎が立ち昇る。

 

 

 それは、デュエルの終幕を告げる鐘の音にも思えた。

 

 

 

 

 

 デュエル場にて、二人のデュエリストが向かい合う。

 

 だが、一方は敗北を前に膝をつき、腕を組んだ相手を見上げることすら叶わない。

 

 

 その勝者を前に、会場は不思議な程に静まり返っていた。

 

「なに…………これ」

 

 そんな中、観客席の中の誰かが呟く。

 

 デュエルについて学んできたデュエルアカデミアの生徒ゆえに、眼前の光景の理解を脳が拒絶する。

 

 全てのアドバンテージを握っていた江戸川が終始、優勢だったのにも拘わらず、まるで運命に逆らえぬように流れのまま回避不能の必殺の一撃が放たれた。

 

 偶然。ただ運が良かっただけ。勝利の女神の気まぐれが起こったに過ぎない。

 

 そう笑い飛ばせれば、どれだけ良かっただろうか。

 

「これが……カイザー」

 

 だが、観客席の十代は思わずゴクリと唾を飲む。

 

 理屈は分からない。しかし、確信だけがあった。

 

 このデュエルは全て皇帝(カイザー)の手の平の上だったのだと。

 

「――アカデミア最強のデュエリスト」

 

 やがて、十代の呟きを余所に勝利者であることを示すように亮が拳を突き上げた瞬間、割れんばかりの喝采が会場を揺らすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 





リスペクトの境地――の片鱗




Q:江戸川って誰? カイザーを追いつめる程の実力者なの?

A:立ち位置は「ノース校のカイザー」と呼べるポジション。なお原作では1年の万丈目のカマセにされた。後は「(万丈目)サンダー!」と叫ぶ係。

今作では姉妹校の学園トップが「本校の1年生の万丈目以下」では姉妹校の価値がなくなるので、過去のコブラの改革で底上げ。

今作での肉薄は、カイザーの主戦術である融合魔法を封じたゆえのもの。というか、魔法封じられて一発しか攻撃貰ってないカイザー側が異常。




~今作の江戸川のデッキ~
彼が原作で使用していた《デビルゾア》をメタル化させることを突き詰めたデッキ。

その過程でレッドアイズと化学反応した結果、レッドアイズのメタル化も追加された。
機械化はロマン!

真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)》で上述した2体をポコポコ復活させつつ、《悪魔嬢リリス》の効果で《メタル化・魔法反射装甲》をサーチからのアーマー進化を目指そう(違)

素引きしてしまったアーマー体(おい)は《エッジインプ・シザー》で戻せば無問題だ!

《デビルゾア》は高ステータスな闇属性な為、《悪魔嬢リリス》で《メタル化・魔法反射装甲》のついでにサーチ可能な各種ウイルスの素材にも活用すれば中々戦えるぞ。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。