マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
祭りじゃ! 祭りじゃ!





第264話 学園祭デュエル! ???乱入!

 遊戯との会談も過去となった頃、神崎は電話と書類の山に追われていた。

 

「ペガサス会長への繋ぎは、これで問題なし――と」

 

――シンクロ召喚の発見が武藤くんの手で、更にはこの時期に……

 

 それは、シンクロ召喚に関してI2社――主にペガサスとの情報共有や、遺跡調査へKCやI2社の人間の介入の際の摩擦の緩和など、様々なお役所仕事系統のアレである。

 

 流石に、広い見識を持っていても根っこは一考古学者なホプキンス教授や、その弟子扱いの遊戯に丸投げできる部分ではないゆえに請け負った――というよりは、企業間の抜け駆けを避けたい思惑から白羽の矢を突き立てられた具合だ。

 

 そうして、未だGX時代の1年目にも拘わらず5D’sの顔である「シンクロ召喚」の出現に色々考える神崎だが――

 

――いや、カード開発や規格の設定、関係各所への通達や全世界への周知などの諸々を鑑みれば、数年で終わる代物じゃない。この程度は誤差の範囲と言える。

 

 彼が予想するように、原作の5D’sの時期で「既にシンクロ召喚が珍しいもの扱いもされずに周知されていた」事実を思えば、GXのこの時期に発見されても「誤差」と言えなくもない。

 

 原作GX終了時から数年後を描いた劇場版「超融合―時を超えた絆―」の事件が切っ掛けとなった――と考えれば、その誤差は「数年以内」と苦しいながらに言えよう。

 

「武藤くんが取り乱す理由も分からなくはない」

 

“「デュエルモンスターズの発展の加速が破滅の未来を引き寄せている」ってパラドックスさんが言ってたので、シンクロ召喚の発表は何時くらいにすれば良いか、相談したくて……”

 

 そう、これが先の会合で遊戯から明かされた「神崎を呼び出した理由」だ。

 

 それは、つまり――

 

「……嘘『は』ないんだろう」

 

――私には「明かすべきではない」と判断した……か。

 

 あの会合で「遊戯が知った遺跡の情報」は明かされなかった事実に他ならない。

 

 遊戯は己の意思で「伝えない」選択を取った。そこからは、遊戯なりに行動する旨が伺えた。

 

 しかし、遊戯の重要性を誰よりも知る神崎は思い悩む。

 

――その気になれば、ホプキンス教授経由で強引に入手することも出来なくはないが……

 

 それは、遊戯の意思を無視してでも「遊戯が隠すべき」と判断した部分を追求するか否かの決断。

 

“………………無理しないでください。全ては捧げられないけれども、助けが欲しくなったら何時でも言ってくれて大丈夫です――と言っても、ボクに出来そうなのはデュエルくらいですけど……”

 

 だが、そう思案する神崎の脳裏にかつて遊戯に告げられた言葉が蘇る。

 

 そう、(遊戯)自分(神崎)を信じてくれた。黒い部分(非道な行為)を薄々察していても知ってもなお「信じる」と言ってくれた。

 

「……武藤くんの選択を信じよう」

 

 なら、そんな相手を信じないのはフェアではない。

 

 それに加えて、漫画版5D’sの原作知識を持つ神崎からすれば、情報の凡そを察せるゆえに「無理に追及する必要はない」との意識も、その決断を後押ししているだろう。

 

――ああも、親身にぶつかって来てくれる相手を蔑ろにしちゃいけない。

 

 とはいえ、その根底にあるのは「信じたい」との希望的観測に他ならないことを神崎は気付いているのだろうか?

 

 絶対的な指標――その前提が崩れた現実を突きつけられた筈なのに。

 

 それでも「信じたい」と考えてしまうのは、彼の弱さなのか。それとも、その心が前を向き始めたゆえなのか。はたまた、ただの思考の放棄か。

 

 その心は本人にすら分からない。

 

 だが、そうして思考と共に止まっていた神崎の手の中の端末からアラーム音が鳴り響く。

 

 仕事の依頼だ。

 

 その認識と共に神崎は手早く「次」へと意識を切り替え、通話片手に移動の準備を始める。

 

 時間は有限である。

 

 滅亡の未来は彼を待ってはくれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなアレコレ時が経つうちに迎えたデュエル・アカデミアの学園祭。生徒たちは、島全体に広がるお祭り騒ぎの雰囲気に足取り軽い様子で各々エンジョイしていた。

 

 それは、デュエル場の一角にいた学外からの数多の客人たちの1人こと――

 

「小日向さん! 久しぶり!」

 

「……ん? あぁ、あの時の恋するチビッ子」

 

「レイちゃんだよ。名前、覚えられないの?」

 

 早乙女 レイと、黒田 月子もまた同様である。とはいえ、休憩中と思しき小日向に朗らかに挨拶するレイと異なり、月子の方は若干の棘がみえた。

 

「ごめんねー、年間いっぱい人と会うから一々覚えてられないのー」

 

 そして、その(挑発)を見逃す小日向ではない。煽られたら煽り返す――倍返しである。

 

「あ゛?」

 

「月子がマジギレしている……メッチャ怖えぇ!」

 

 そうして、瞳の周辺に血管を浮き上がらせながらギョロリと睨み返す月子の背後で、月子の兄こと黒田 夜魅は情けない声を出しながらガタガタ膝を震わせる。トラウマがある様子。

 

 ゆえに、バチバチとぶつかる爬虫類――族、使いたちの闘争を止めてくれることは期待できそうにない。

 

「俺は勝ぁつッ!!」

 

「つ、月子ちゃん! わたしは気にしてないから!」

 

 結果、デュエル場で響く聞きなれた声をバックに友人である月子をなだめようと奮闘する彼女の元へ――

 

「ダメだよ、小日向さん。月子ちゃんの大事な友達をからかうようなことしちゃあ――ゴメンね、みんな。小日向さんは、あまのじゃくなところがあるから……」

 

『とはいえ、「恋するチビッ子」呼びでああも喧嘩腰だったのも、どうかと思うよ』

 

 天使(オネスト使い)――現る。

 

 普段は「影が薄い」と言われる所以である藤原(とオネスト)の圧倒的なまでの常識人力によって、矛先を失っていく二つの爬虫類族使いを見て、レイは天使が舞い降りる様を幻視したそうな。

 

「勝利こそが全て!!」

 

 やがて、聞きなれた誰かの声がデュエル場で響く中、小日向は両手を小さく上げて降参の姿勢を取りつつ肩をすくめて名を呼んだ。

 

「はいはい、悪かったわよ。レイに月子でしょ、覚えてる覚えてる」

 

「――オレは!?」

 

 面識が一切ない夜魅は除外されるが。

 

 そうして、おのれを指さし自己アピールする夜魅をチラと見た小日向は僅かに首を傾げるも納得した様子でポンと手を叩く。

 

「……? アンタ、誰? ……あぁ、そうか。男が出来たのか」

 

「――オレが!?」

 

「ち、違うからね、夜魅くんは、ただの友達で全然そういうのじゃないから!」

 

「――ぐふっ!?」

 

 まさかの勘違いに一瞬ドギマギする夜魅だが、レイが食い気味で否定した現実に吐血しそうな精神的ショックを受けざるを得ない。

 

 夜魅とて別にそういう気持ち(レイへの恋愛感情)があった訳ではないが、「論外」と言わんばかりの否定をされれば傷ついてしまうのは男の性なのだろうか。

 

「……ワンチャン狙ってたのか」

 

「そんな言い方しちゃダメだよ……」

 

『恋愛に興味が出てくる年ごろなんだろう』

 

「兄さん、最低」

 

 だが、「告白する前に振られて大ダメージ」と判断した小日向と藤原の誤認が、月子の中で只でさえ高くなかった夜魅の兄としての威厳を地に落とした。

 

 妹の親友に手を出す(誤解)兄は、月子の中ではアウトらしい。

 

「ち、違うんだ、月子! お兄ちゃんはただ――」

 

「なんですか、()()()()?」

 

「――ぐっふぉぁっ!?」

 

 やがて、弁明の機会すら与えられず他人行儀に呼んでくる月子の言葉の槍に貫かれ、極度のシスコンである夜魅は致命的なダメージを受けて思わず膝をつく。これは立ち上がれない。

 

「うん、気持ちは分からないでもないけど、その辺りにしておいて上げて――ね?」

 

 こうして、メンタルに瀕死の重傷を負った夜魅を藤原に任せたレイたちは、尊い犠牲を背に前を向く。

 

「消えろ、敗者は!!」

 

 デュエル場にて木霊する聞きなれた声を背に、月子は話題を変えたかったのか小日向に問うが――

 

「フォースの人たちって、学園祭で何を出し物にしてるの?」

 

「フォース生でも、学園祭は学年ごとのオベリスクブルーに組み込まれるわよ。4人ぽっちじゃ出来ること殆どないし」

 

「あ、あの! そろそろ良いですか!」

 

 だが、その流れをバッサリ切ってでもレイは、ずっと疑問だった点を解明すべくデュエル場を指さした。

 

「なに? 順番はちゃんと待って貰うわよ」

 

「それは当然ですけど――」

 

 そして、小日向の小言を余所に、レイが指し示した先にあるのは1人のデュエリストの姿。

 

 

「――俺は勝利をリスペクトする!!」

 

 

 三つ首の機械龍を背に従え、対戦相手たちを完膚なきまでに叩き潰す普段の青と白の制服とは異なる黒い衣装を纏う亮の姿。

 

 その纏う雰囲気は、繰り出される言葉は、そしてなによりデュエルは「皇帝(カイザー)」と称される高潔で相手のプライドを重んじていた姿は欠片もない。

 

 

「あの亮様どうしちゃったんですか!?」

 

 ゆえに、レイはたまらず問わずにはいられない。

 

 あれでは、かつて吹雪が己の語ってくれた道を踏み外した姿そのものではないか。

 

 乗り越えた筈の過去に追いつかれてしまったのかとレイは心配気な表情を見せる。

 

「プロ行き決まった面々いるから、そいつらと景品とかで客を釣ってレイド形式のデュエルやってんのよ。あの煩いのは『ヒール役』の演技」

 

「……ヒール? 悪役の演技ってこと?」

 

 だが、真相は凄いしょうもないことだった。

 

「そう、『悪い魔王をやっつけろー』って趣旨。だから、レイド形式な訳」

 

「レイド形式?」

 

「客側が5人1組で1人ずつ挑んで、魔王側のライフをゼロにする形式。5人の挑戦者側は盤面を引き継げて、魔王側はライフだけ引き継ぐから、『5回のデュエルで亮の4000のライフを削る』って考えれば良いわ」

 

 そう、これはオベリスク・ブルー3年の学園祭の出し物の一環である。

 

 オベリスク・ブルーの3年生ともなれば、プロ行きが決まっている者も少なくはない。そんな実質プロデュエリストたちと間近で戦える舞台――それを彼らの売りにした。

 

 とはいえ、対等な条件のデュエルでは一方的になりかねない為、少々お祭り要素を押し出しているが。

 

 亮の件は「悪役とはどんな風にすれば良い?」とクソ真面目に聞いてきた当人へ――

 

「昔の恥さらしてた感じで良いんじゃない?」

 

「確かに悪役感バッチリだね!」

 

「複雑だろうけど、あの時が近いと思うよ」

 

 との友人たちからのありがたいアドバイスを参考にした結果だ。「いつもと違うカイザーが見れて新鮮」と意外と好評である。

 

「な、なんだ……そうだったんだ……」

 

「そっか、カイザーは強いけど、ライフだけ減っちゃう5連戦なら私たち(小学生)でも勝てる可能性あるんだ」

 

「そういうこと」

 

 やがて、心配が杞憂だったと安堵の息を漏らすレイを余所に、月子が祭りの趣旨を理解してく最中、未だグロッキーな夜魅の背をさすりながら藤原が注釈をいれる。

 

「でも、倒せなくてもデュエルの内容でポイントをつけてるから、軽い景品なら負けても手に入るよ。安心してね」

 

『まずはみんなに楽しんで貰うことが目的なんだ』

 

 そう、彼らの出し物は(実質)プロとデュエルして終わりではない。付加価値(オマケ)があるのだ。

 

 (実質)プロのサインや、ブロマイドなどのグッズ、はては一緒に写真を撮るなんてミーハーなものまで多種多様である。

 

 

 そうして、そんなオマケ(景品)に誘われた哀れな子羊たちがまた一人(五人)――決戦の地へと足を運ぶ。

 

「さぁ、次の相手は誰だ!!」

 

「俺たちノース校・四天王が相手だ! 先方は、この俺! 【切り込みガガギゴ】使いの青島が務める!」

 

 その5人組の内の4人――ノース校四天王ことチョビ髭、触覚前髪、ギザギザ頭、ロン毛の中から1人、「青島」がデッキ片手に前に出る。

 

「ほう、つまり《切り込み隊長》を主軸としたデッキか――手の内を明かすとは……後悔することになるぞ!」

 

 だが、その名乗りの際にデッキコンセプトを明かす青島の発言に、亮は頑張って悪ぶってみるが、その内心では「情報アドバンテージをイーブンにする為か」とリスペクトしながら両者は対峙した。

 

「 「 デュエル! 」 」

 

「俺の先攻、ドロー! 魔法カード《デス・メテオ》! 相手に1000のダメージを与える!!」

 

「バーンデッキだと!?」

 

亮LP:4000 → 3000

 

 しかし、蓋を開けてみれば《ガガギゴ》も《切り込み隊長》も関係ない炎の隕石が亮に降り注ぎ、そのライフを着実に削っていく。

 

 とはいえ、青島もこんな騙し討ち染みた真似は本意ではない。

 

「俺の普段のデッキでなくて申し訳ないが――『カイザーとのガチデュエル権』を以て、ノース校のキングに! 江戸川さんに錦を飾らせてやる為なら俺たちのプライド! 今ばかりは捨てるぜ!!」

 

 そう、全ては景品ことデュエルの場を、直に卒業する先輩へ届ける為。江戸川本人は「プロの世界でリベンジ」と言っていたが、後悔がゼロではないことくらいは分かる。それゆえの決断。

 

「まさに一人一殺のノーガード戦法……面白い、血の滾りを感じるぞ!!」

 

 そんな覚悟を受け取った亮は、全身全霊を以て打ち倒すことを悪役感タップリに宣言。

 

 己の魂とも言えるデッキを歪めてまで勝利を求めた彼らへ、温情をかけたデュエル(手を抜いて負ける)など傷に塩を塗る行為に他ならない。

 

 そうして、手札の全てを使いカイザーのライフを大きく削った青島がターンを終えれば――

 

「だが、この俺を前に無防備にターンを渡すなど愚かだと知るがいい! サイバーツインの2連撃に沈めェ!!」

 

「うわぁぁああぁ!!」

 

青島LP:4000 → 1200 → 0

 

 壁モンスターすらいない青島へ、亮は双頭の機械龍を即座に融合し、その連撃を以て一瞬で沈めてみせる。

 

「ナイスだ、青島! 後は1人頭、最低でも1000削れば十二分に勝機はある! 次鋒は【切り込みゴブリン】使いの緑川が引き継ごう!」

 

 かくして、減った亮のライフをそのままにフィールドと手札が一新されて次なるチャレンジャーとしてノース校・四天王の2人目、緑川が亮の残りライフを削るべく手札から効果ダメージを与えるカードを発動した。

 

 

 

「――あんなのアリなんですか!?」

 

「挑み方は自由よ。お祭り騒ぎがメインなんだし」

 

 だが、観客席にてレイは思わず叫ぶ。ハッキリ言って「せこい手段」と言わざるを得ない。

 

 幾ら小日向の言うような「お祭り」ゆえの側面があると言っても、あからさま過ぎる手で想い人たる亮が負けるなど、レイからすれば思うところがあるだろう。

 

「まぁ、あんまり賢い戦法じゃないけどね」

 

 ただ、藤原が思いのほかにバッサリ告げた――アレじゃ亮は倒せない、と。

 

 

 

「ぐぁあぁあああ!!」

 

緑川LP:4000 → 0

 

「よくも緑川をアッサリ! だが後一息だ! 此処は【切り込みG・(ジェノサイド)K(キング)・D(デーモン)】使いの赤井が終わらせよう!」

 

 そうして、また1人と倒れていったノース校の四天王たち――これで残る四天王は2人。

 

 しかし、2人いれば大きく目減りした亮のライフを削り切れると、ノース校の四天王の赤井が手札より効果ダメージを与えるカードを発動していた。

 

 

 

 やがて着実に減っていく亮のライフをレイがドギマギした気持ちで眺めるが――

 

「でも、亮様のライフは殆ど残ってないし……」

 

「あれで倒せるなら、あのバカは『皇帝(カイザー)』なんて呼ばれてないわよ」

 

「見てれば分かるよ、レイちゃん」

 

 小日向と藤原は、亮が敗北する心配など露ともしていなかった。

 

 

 

 

「《サイバー・エタニティ・ドラゴン》でダイレクトアタック!!」

 

「だが、そいつの攻撃力は2800! ライフは残る! 次のドローで効果ダメージを与えるカードを引けば――」

 

赤井LP:4000 → 1200

 

 そうして長大な機械龍の突進を受けた赤井は、今まで四天王たちを1ターンで沈めて来た亮が初めて仕留め損なった事実に勝負の流れを掴んだ感覚を覚え、来たるべき次のドローに力がこもる。

 

「速攻魔法《神秘の中華鍋》! サイバー・エタニティをリリースし、その守備力分のライフを回復する!!」

 

「――なっ!?」

 

 だが、亮が従えていた長大な機械龍こと《サイバー・エタニティ・ドラゴン》を光へと還せば、その光が亮のライフを大幅に回復していく――その数値は4000、初期ライフがそのまま戻ったに等しい。

 

「そして速攻魔法《エターナル・サイバー》により墓地から舞い戻れ! サイバー・エタニティ!!」

 

 更に、赤井の絶望は続く。来る筈だった次のターンの代わりに彼の元へ訪れたのは、光と消えた筈の《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の姿。

 

「当然、墓地から舞い戻ったサイバー・エタニティには攻撃権が残っている!!」

 

 そして、《サイバー・エタニティ・ドラゴン》の長大な身体の関節部がスパークを放ちながら、その口元に収束し始めていたエネルギー波が――

 

「エターナル・エタニティ・バァーストッ!!」

 

 次のターンが来ると信じていた赤井を貫いた。

 

赤井LP:1200 → 0

 

「赤井!」

 

「す、すまない……」

 

「ま、まだだ! この俺! 【切り込み連合軍】使いの黄田が勝負の流れを取り返す!」

 

 悔し気に膝をつく赤井に駆け寄った最後の四天王こと黄田が己を奮い立たせるような言葉と共に、亮のライフ以外が一新されたレイド形式のデュエルに向かうが、その心は頭以上に非情な現実を受け入れ始めていた。

 

 

 

 

 かくして、一人一殺のスタンスで有利を取っていた筈の四天王たちが、一転して窮地に立たされ始めた雰囲気にレイは驚愕と尊敬のまなざしをデュエル場の亮へと向ける。

 

「亮様のライフが一気に回復した!?」

 

「そっか、この戦法(効果ダメージだけ)だと挑戦者側の盤面の引継ぎが殆どなくて、カイザーに毎ターン5枚の手札を引き直させてるのと同じなんだ……」

 

 そう、月子が理解の色を見せるように四天王の効果ダメージを主体とし、モンスターを無視してライフを削り切る作戦は、今回のレイド形式の挑戦者側の恩恵が殆ど受けられない。

 

 幾ら亮が呼び出す強力なモンスターが、盤面がリセットされる度に消えてくれるとはいえ、亮のデッキは魔法カード《パワーボンド》のデメリットによる効果ダメージをフォローするカードも多い。

 

 仕切り直し5枚のドローを5人分の5回も繰り返して、それらのギミックに一切遭遇しないなど、逆に難しいだろう。

 

「そういうこと。アイツを何ターンも自由にさせとくなんて自殺行為でしょ?」

 

「交流戦の時も江戸川くんは、徹底的に亮の自由を奪いにかかってたからね……」

 

『そこまでかけて、辛うじてイーブンだった。やはり、彼は飛びぬけているよ』

 

 そして、それは江戸川も理解していたと小日向と藤原たちは語る。

 

 四天王たちが盤面こと「モンスターを無視」している以上、亮は罠カードなどの妨害を殆ど気にする必要がないのだ。妨害しまくっていた江戸川でさえ――と考えれば、四天王の策は最適とは言い難い。

 

 とはいえ、四天王たちの「自分たちでは確実に当たり負けする以上、速攻しかない」との論も、一理はあるのだが。

 

 

 

 

 

「――ぐわぁあああぁ!!」

 

「 「 「 黄田!! 」 」 」

 

 そうこうしている内に、最後の四天王たる黄田も敗北。黄田に駆け寄っていた青島、緑川、赤井たちが悔し気な表情を見せる。

 

「くっ……此処まで来て……!」

 

 だが、黄田とて、ただやられた訳ではない。大幅に回復した亮のライフを後1人がギリギリ削り切れるかもしれないラインまでは削っている。

 

 しかし、それだけに惜しい。

 

「ククク、これでお前たちに後はない……最後の1人を倒し、俺は勝利する!!」

 

 なにせ、最後の1人は、今回の計画(自分たちのプライドを捨てること)を江戸川が知れば反対すると分かっていただけに情報漏洩を防ぐべく自分たち以外のノース校の協力者を排したゆえに――

 

「拙い! 最後の1人は――」

 

「人が捕まらなかったから数合わせで入れた――」

 

そこら辺に(学園祭見学して)いたおっさんしか……!」

 

 実力度外視で現地調達した人のよさそうなおっさんが最後のメンバーなのだから。

 

「デュエル、よろしくお願いします」

 

「良いだろう! 最後の足掻きを見せてみろ!」

 

 謎のおっさん参戦!!

 

 

 

 

「――神崎さん!?」

 

「なに、また知り合い?」

 

「私の知らない人……誰、レイちゃん?」

 

 そうして、謎のおっさんこと神崎が亮とデュエルする姿に、驚きと共に二度見するレイを、小日向と月子がそれぞれ別ベクトルで興味を示す中、レイは言葉を探すように返答する。

 

「えっとKCの元社員の人で……大門さんが頼りにしてる……人?」

 

 なにせ、正直なところレイは神崎が「どういった人」なのか殆ど知らないのだから。職種すら禄に分からない始末だ。

 

「は? 大門って、KC幹部の?」

 

「……レイちゃん、それって有名な人なの?」

 

「レイちゃん、凄い人と知り合いなんだね……」

 

『親御さんの交友関係かな?』

 

 だが、レイの口からサラッと出てきたKC幹部と名高いBIG5(大門)の名前に年長組の話題はサイコ・ショッカーの人こと大門に持っていかれていく。

 

 

 

 

 そんな刹那で話題から消えた神崎は――

 

「サイバー・エンドでダイレクトアタック! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!」

 

 亮の代名詞たる攻撃力4000の三つ首の機械龍の三筋の光線が放たれ、1ターンキルされそうになっていた。

 

「手札の《クリボー》の効果により戦闘ダメージを0に」

 

『ク――――――リィボァッ!?』

 

 だが、そんな破壊光線の直撃を受けるのは我らが毛玉の悪魔《クリボー》が身体を張って受け止めるも、音を置き去りにする速度で爆散。断末魔を上げる暇すらない。

 

「ダメージを躱した!」

 

「だが、それだけじゃ……!」

 

「結局、次のターンで……!」

 

「ライフは後一歩なのに……!」

 

 そうして、何とか攻撃をしのいだ神崎へ四天王たちは縋るように声援を贈るが――

 

「《キメラテック・オーバー・ドラゴン》! エヴォリューション・レザルト・バースト! 5連打ァ!!」

 

「手札の《虹クリボー》を攻撃モンスターに装備することで、攻撃できなくなります」

 

 新たに五つ首の機械魔龍を呼び出した亮は容赦なく攻撃をしかけるも、その五つ首の口の1つに紫色のつや肌クリボーがドッキングされたことで、異物混入によりエラー音を出しながら機械魔龍は沈黙。

 

「守ってばかりでは俺には勝てんぞ! このバトルフェイズ時に速攻魔法《サイバー・ロード・フュージョン》! 除外された《サイバー・ドラゴン》たちを贄に現れろ! サイバー・ツイン! 攻撃だ!」

 

 だが、1ターン1ターンを辛くも凌ぐ神崎へ、亮はバトルフェイズ中に双頭の機械龍を呼び出し、追撃をかける。そこに相手を「数合わせ」と侮る所作は欠片ほども存在しない。

 

 なにせ――

 

「手札の《クリボール》で攻撃モンスターを守備表示に」

 

 この数合わせ(おっさん)、やたらと攻撃を防いでくる。

 

 相手の意表を衝いた筈のバトルフェイズ中の追撃も、双頭の機械龍の片方の頭に球体状のクリボーが直撃したことで、双頭の機械龍のそれぞれの頭がぶつかり眼を回したことで攻撃は中断されてしまった。

 

 

 亮の中で、「なんか知らないおっさん」への警戒度が高まっていく。そう、生存に特化した神崎の防御能力は伊達ではなく、彼の右に出るものはそんなにいない。

 

「《共闘》と《バーサーカークラッシュ》の効果で攻撃力が5000となった《クリボー》と《ハネクリボー》で攻撃」

 

『 『 クリボォォオオオォオオォオオオオ!! 』 』

 

 そして、凌ぎに凌いで耐え抜いた先に《クリボー》と天使の羽の生えた毛玉が巨大化。

 

 今までのお返しとばかりに、その巨体で亮の白金の機械龍の軍団に巨大化したボディでプレスをかけるべくジャンプ。

 

「無駄だ、無駄だ! 無駄だァ!! 罠カード《サイバネティック・オーバーフロー》! 墓地の《サイバードラゴン》を任意の数除外し、相手フィールドのカードを破壊する!」

 

 したと同時に、亮の墓地に眠る機械龍たちが体内に残る残留電力を放出すれば、それに誘われるように天よりイカズチが落下。

 

「躱せ、おっさん!」

 

「そうしたいのは山々なんですが、手札が尽きまして」

 

『 『 クリッ!? 』 』

 

 四天王のありがたい助言に「ムリ」と返せば、自分たちの末路を悟った巨大化していた《クリボー》と《ハネクリボー》はお互いに顔を見合わせて――

 

『 『 ――クリィイィィイイィイィッ!? 』 』

 

「クリボー、爆殺!!」

 

 天より降り注いだイカズチに焼かれ、ビリビリと雷が明滅する度にレントゲンよろしく骨が映っては消えを繰り返した後に毛玉ボディゆえに静電気がアレしたのか爆散。

 

 

 そうして、挽回をかけた巨大毛玉プレスも失敗に終わった後がない神崎へ――

 

「甦れ、《サイバー・ドラゴン》! 5体で一斉攻撃だ!」

 

「墓地の《クリボーン》を除外し、墓地のクリボーたちを特殊召喚」

 

 亮がトドメを刺すべく機械龍の軍勢を差し向けるが、白いケープを被った純白の毛玉の宣言に、「天の啓示を得た」とばかりに毛玉の軍勢が駆けつける。

 

「ならば蹴散らすのみ!」

 

 まぁ、ステータス差が絶望的なので、毛玉(クリボー)たちは順次しめやかに爆散してくのだが。

 

 

 

 

 そうして、クリボー系統の断末魔がやたらと響きまくるデュエル場を眺めていた小日向は思わず呟いた。

 

「……意外と粘るわね、あのおっさん」

 

「KCに勤めていただけあって、実力者なのかな?」

 

『防御にウェイトを置いたデュエルスタイルのようだね……』

 

 そう、お祭り用で普段のガチ状態ではないとはいえ、あの「皇帝(カイザー)」の猛攻をそこいらの一般人がああも凌げるものではない。

 

 そうして、藤原たちの話題の中心に神崎が再び舞い戻るも――

 

「そうなの、レイちゃん?」

 

「えっ? どうなんだろ……大門さんは海馬社長を本気にさせるくらい強いらしいけど、神崎さんのデュエルは見るのはこれが初めてだし……」

 

「は? あの海馬 瀬人を?」

 

 月子の何気ない質問の返答から、また話題はBIG5の大門(サイコ・ショッカーの人)の元へとさらわれていった。

 

 

 

 

 

 かくして、フォースの面々からの注目はあんまり得られていない現状にて、なんだかんだで奮闘してくれている神崎へ、声援を送っていた四天王の面々は現状を受け止め始める。

 

「なんとか持ちこたえたが……」

 

「おっさんのフィールドは0、手札も1枚じゃ……」

 

「やっぱり、その辺のおっさんに無茶させるもんじゃねぇ!」

 

「アンタは十分にやってくれた!」

 

 そして、そんな四天王の面々の発言に、観客たちも「頑張ったな、おっさん」ムードが広がる中――

 

「相手フィールドの《サイバー・ドラゴン》と相手フィールドの機械族モンスターを素材に融合します」

 

「――なっ!?」

 

 おっさん、究極のサイバー流メタを解禁。

 

 さすれば、亮のフィールドの《サイバー・ドラゴン》が己の意に反して、同胞の血肉をむさぼり始めさせられる。

 

「相手フィールドのモンスターだけで!?」

 

「何する気だ、おっさん!?」

 

「エクストラのお守りこと、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を融合召喚」

 

 その味方殺しの業を負った《サイバー・ドラゴン》の白銀の身体は、罪を示すように暗い色へと変貌し、輪が連なった長大な龍の体躯でかつての主に牙を剥く。

 

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》 攻撃表示

星8 闇属性 機械族

攻 0 守 0

攻5000

 

「おのれ、俺のサイバー・ドラゴンを……!」

 

「これでカイザーのフィールドはがら空き!」

 

「おまけに攻撃力5000のフォートレスまで!」

 

「スゲェぜ! 一発逆転だ!!」

 

「バトルフェイズへ」

 

 かくして、戦況を一変させた神崎はそのまま畳みかけるように無防備な亮へ《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》をけしかけようとするが――

 

「まだだ! リバースカードオープン! 速攻魔法《エターナル・サイバー》! 墓地より舞い戻れ!! 《サイバー・エンド・ドラゴン》!!」

 

 その行く手を遮るように、亮のフェイバリットたる三つ首の機械龍が白銀の装甲を以て大地を砕きながら現れた。

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》攻撃表示

星10 光属性 機械族

攻4000 守2800

 

 攻撃力が劣っているにも拘わらず、攻撃表示で呼び出された《サイバー・エンド・ドラゴン》を前に、罠の気配を感じる神崎。

 

「仕方ありません。此方に余力はありませんし――攻撃続行です」

 

 とはいえ、「現状、次のターンは耐え切れない」との判断から、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の口元にエネルギーをチャージさせるが――

 

「サイバー流に『サイバー・ドラゴン』で挑むなど愚かだと知れェ!!」

 

 さすれば当然とばかりにカイザーは最後のリバースカードを発動。

 

「罠カード《決戦融合-ファイナル・フュージョン》!! 更に罠カード《レインボー・ライフ》!」

 

「あっ」

 

 その瞬間、神崎は己の敗北を悟った。

 

 そう、これは神崎が知らない(原作知識にない)亮と親友の1人によって紡がれた一手。

 

「これにより、貴様だけが互いの融合モンスターの攻撃力の合計分のダメージを受けろぉおぉぉおお!!」

 

「――おっさぁあぁあぁあん!!」

 

 そうして、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》と《サイバー・エンド・ドラゴン》のブレスがぶつかり合った結果に生じた合計9000ポイント分の暴発するエネルギーの奔流が神崎を襲う。

 

 その巨大な爆炎を上げるデュエル場へ、四天王の面々が思わず叫ばざるを得ない。「アンタ、あのカイザー相手によくやってくれたよ」と。

 

「鬼にならねば見えぬ地平がある――敗者の貴様には分かるまい」

 

 かくして、亮が最後にヒール(悪役)としての役割を示しつつ、四天王の面々(+神崎)と握手する光景へ贈られる順番待ち兼観客の拍手をもって彼らの挑戦(来店)は終わりを見せた。

 

 

「熱血タイム終了だ! ヘルカイザー亮、休憩の時間だよ!!」

 

 暫くして、綾小路(テニスの3年の人)がタオルや飲み物片手に場を仕切っていく最中、レイたちに向けて藤原は軽く別れの挨拶を告げる。

 

「あっ、そろそろ準備しないと。またね、レイちゃん、月子ちゃん。後、夜魅くんのこと、そろそろ許してあげてね」

 

『衣装は準備済みのようだよ』

 

「はい! 色々ありがとうございました!」

 

「はーい」

 

 こうして、未だ元気が戻らぬ夜魅を受け取りつつ藤原の離脱を見送ったレイたちの目的を凡そ察している小日向はパンフレットを差し出しつつ告げた。

 

「流石に控室には案内できないから――亮とデュエルしたいなら時間空けてまた来なさい。スケジュールはパンフレットに書いてるわ。はい、これ」

 

「あ、ありがとうございます。でも安心してください! もうズルはしないって約束したので!」

 

「あっそ、まぁ頑張んなさい」

 

「じゃあレイちゃん、他の出し物一緒に回ろっ」

 

「うん! それと夜魅くん、元気出――」

 

 そして、学園祭を堪能するべく、歩み出す――前に、レイは夜魅を立ち直らせんとするが――

 

「兄さん、サッサと準備して」

 

「……えっ?」

 

「荷物持ち」

 

「――お兄ちゃんに任せろ、月子!」

 

 月子の鶴の一声こと「兄を頼りにする声(パシリ発言)」に夜魅はチョロいくらいに華麗に復活。

 

――う、うん、夜魅くんが、それで良いならいいや。

 

「あっ、そういえば吹雪さん見かけないけど、どうしたんですか? こういうお祭り好きそうなのに……」

 

 やがて現実逃避もかねてレイはこの場にいない最後のフォース生である吹雪に挨拶をしていきたい旨を伝えれば、小日向は露骨に疲れた表情を見せた。

 

「逆よ、逆」

 

「逆?」

 

「この手のイベントが好きすぎて山ほど手ぇ伸ばしまくってて忙しくしてるの。ミスコンやらミスターコンやら――詳しいことは、そのパンフ見てれば察するわよ」

 

 そう、天性のお祭り男こと吹雪が「自分のクラスの出し物」だけで満足する筈がなかった。

 

「うわ~、名前がいっぱいあるよ、レイちゃん」

 

「ホントだ……」

 

「吹雪に会いたいなら一際人混みが多いところ巡ってれば、そのうち会えるんじゃない?」

 

「分かりました! 全部、回ってみます!」

 

 かくして、小さな3人組は学園祭を巡るべくこの場を後にする。

 

「悩む者よ、苦しむ者よ、悲しむ者よ……全てを認めよう! 今こそ、ダークネスと1つになるのだ!」

 

――あっ、藤原さんもヒール役するんだ……

 

 その彼女らの背中を、鳥を思わせる変な黒い仮面で目元を覆った藤原――否、ダークネス藤原のデュエルが見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって少々時間も経ったアカデミアの校長室にて、ようやくひと段落ついたとばかりに客人を呼び出していた。

 

「よく来てくれた、待たせてしまったようだな」

 

「いえ、お気になさらず。色々見れて楽しかったですよ――盛況のようで何よりです」

 

――原作では学内の生徒たちだけだったが、此方は学外からも人をこうも呼び込んでいたとは。

 

 その相手は神崎――待っている間、学園祭の出し物を巡って時間を潰していた次第である。学外へのアピールゆえか凝った物が多かったゆえに退屈せずに済んでいた。

 

「環境を整備した以上、盛況でなければ困る」

 

「手厳しいですね」

 

「当然だ。身内で完結しているようなデュエルエリートなど何の意味もない。その為に学外からの目を意識させているのだからな」

 

 だが、コブラは「この程度、出来て当然でなければならない」とばかりに厳しい評価をくだす。デュエルエリートたるもの「デュエルは強いが、他は出来ません」では困るのだ。

 

「この学園祭の姿勢もその一環だと?」

 

「アカデミアにおいてもデュエル以外の発表の場は未だ限られている。荒療治であっても変革は必要だ」

 

「だとしても、オシリス・レッドへ参加すら認めない部分は後々問題になりかねませんよ」

 

「忠告は受け取ろう。だが、大々的に外部の人間を誘致した以上、生徒たちも半端をすれば己の価値が下がることを理解している――いや、理解できぬ弱卒など学園には必要ない」

 

 そうした今のアカデミアの教育理念を問いただすような神崎の言葉にも、コブラは断固とした姿勢を崩さない。

 

 半端者を晒し者にするくらいなら、封殺することが彼らの為なのだと言わんばかりである。

 

――リスペクトを踏まえつつも徹底した合理主義……生徒に良い悪いはともかく、原作の様相が残らない訳だ。

 

 とはいえ、元より教育は門外漢の神崎はさしたる追及をする気はない。宇宙に行っている間に起こった変化を当人たちから直に感じ取りたかっただけだ。

 

「そろそろ仕事の話に入らせて貰おう」

 

 しかし、そうして思案する神崎へ「これ以上、議論する気はない」と本題を切り出すコブラへ、神崎は脱力するように肩をすくめて応対する。

 

「そういえば依頼内容は『現地にて』とのお話でしたね。また内密事ですか?」

 

 なにせ、「依頼する」とは言われても肝心の「依頼内容」が未だ不透明なのだから。

 

「いいや、キミにはただ見極めて欲しい」

 

「と、言うと?」

 

「キミは人間的には完全に信頼することはできんが、その審美眼だけは信用に値する」

 

 そうして、コブラが依頼するのは神崎の「目」を期待したもの。

 

「世界中から数多の人材を集め、かのKCにて己の立場を擁立した力を借り受けたい」

 

 そう、傍から見た神崎の見識はかなりのものだ。

 

 特に才能を持つ者への嗅覚が凄まじい。それは目ざといレベルの話ではない――例え、それが「原作知識」ありきであっても、その存在を知らぬ面々からすれば、何よりも警戒に値する。

 

「……それは構いませんが、私の目を過信されても困りますよ。生徒たちの将来を見据えるには、私は教育の場から些か遠すぎる」

 

――(バー)の知覚では分からない世界である以上、所詮は原作知識ありきだからな……

 

「それで構わんよ。最終的な決定は此方がくだす」

 

 とはいえ、当の神崎は「原作知識から逸脱した範囲はほぼほぼ無力」であることを自覚しているゆえに、やんわりと言い訳染みた言葉を並べるがコブラは一二もなく宣言した。

 

「取りこぼしを最小限に留めることが主目的だ」

 

 これが、今のデュエルアカデミアの更なる起爆剤となることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 そんな大人の話はさておき、島内の原っぱ広がる場を舞台に選んだオベリスク・ブルー1年の様子を見れば――

 

「フィニッシュだ、フレイム・ウィングマン!!」

 

「勝者! チャンピオン十代!!」

 

 右腕に竜の顎を備えたヒーローの炎の一撃を以てデュエルに幕を引いた十代は、背中のマントをはためかせて左手を天へと掲げるポーズを以てチャンピオンの存在感を示す。

 

 そんな中、勝利者宣言をした万丈目の知人こと武田(原作で三沢を追い詰めたモブ)は、職務を全うするように話題を振る。

 

「解説の万丈目さん、先のデュエルどうでしたか?」

 

「チャレンジャー側が攻めに焦った印象が強いデュエルだったな。だが、後半からは――」

 

 そうして、万丈目が先のデュエルの品評を行う中、チャンピオン十代がチャレンジャーの少年へ「良いデュエルだった」と握手したり――

 

「次の試合は、チャンピオン・並びにチャレンジャーの準備が終わり次第――」

 

 武田が次のデュエル準備をアナウンスしたり――

 

「デュエル開始の宣言をしろ、武田!!」

 

「――デュエル開始ィイイィイイ!!」

 

 万丈目の宣言を受けて、武田が右腕を掲げて磯野ムーヴしたりしていた。

 

 

 

 

 そんな光景を「1年オベリスク・ブルー本部」との立て看板がある場で見守っていた原 麗華は眼鏡に謎の光を反射しながら確かな手ごたえを感じていた。

 

「ふっふっふ、盛況のようですね――『プロデュエリストの気分を味わってみよう!』コーナーは!!」

 

『名前の方は、もう少しどうにかならなかったのかい?』

 

「これなら、最低限の人数で回せるし、みんなの希望も組み込める良いアイデアだったと思うわ、麗華」

 

 そう、1年オベリスク・ブルーの出し物は「チャンピオンorチャレンジャー気分を味わえる場」である。

 

 ネーミングセンスはユベルが壊滅的もとい独特と評する程だが、明日香の言う通り「盛り上げ役」などの各種人員を「集まった観客を活用する」といった具合に「人数が少ない」点を彼女らなりにフォローした賜物だ。

 

「いえいえ、デュエル業界で既に名の知れた万丈目さんに、ショーマンシップ溢れる新星の遊城さん、そして我らが明日香さん――3人のスター性があったからこそ、形になった企画です!」

 

「ふふっ、そう謙遜しないで。麗華も含めて、みんなの得意が上手く噛み合った結果よ」

 

 そんな具合で、出し物の成功を確信してか何時もよりテンション高めな原 麗華を微笑ましいものでも見るように苦笑する明日香が各々から来る報告を纏めていれば――

 

「マント一つで、ああもサマになるなんて――本当に面白い子ね」

 

「……明日香……チャンピオン希望者……」

 

 興味深そうに獲物を狙う目を見せる雪乃と共に、レインが「申込書」と書かれた紙の束を差し出しながら明日香の出番を告げる。

 

「えっ? 私? でも全体の指揮が――」

 

 しかし、明日香は「まとめ役」を担当している為、簡単に場を離れられない立ち位置だ。ゆえに、断りを入れようとする明日香。

 

「こっちは私たちでやっておくから、貴方も楽しんでいらっしゃい」

 

「……いらっしゃい……」

 

「ちょ、ちょっと二人とも――」

 

 だが、そんな明日香の遠慮を封殺するように背を押して強引に移動を始めさせる雪乃とレインは、「チャンピオン役の証」である赤いマントの保管場所に向けて進んでいった。

 

 

 

「フッフッフ、牛尾よ。迫る脅威も知らずに能天気な者たちばかりだな」

 

 そんな生徒たちのやり取りを見やった《人造人間-サイコ・ショッカー》は、彼女らの在りようを「能天気」だと嗤って見せるが、パトロール中の牛尾は思わずため息を吐かざるを得ない。

 

「あんま羽目外すなよ。俺も仕事があんだから」

 

「サイコ・ショッカーじゃねぇーか。完成度高けーなオイ」

 

 なにせ、態々魔力(ヘカ)を無駄に使ってまで実体化している《人造人間-サイコ・ショッカー》の姿は「全力で学園祭を堪能している」以外の何物でもないのだから。

 

 

 

 そんな《人造人間-サイコ・ショッカー》が道行く人(オカルトブラザーズ)に写真撮影を求められている光景をチラと見た明日香は、ずっと感じていた疑問を思わず吐露した。

 

「…………ずっと、気になっていたのだけれど、結構な頻度でデュエルモンスターズのカードに仮装した人たちを見かけるのは、どうしてなのかしら……?」

 

「あら、明日香は知らないの?」

 

 そう、それは「仮装してる人多くね?」な件だったが、「なんだ、そんなことか」とばかりにチャンピオン役用の肩に羽織る赤マントを手渡しながら雪乃が種を明かす。

 

「雪乃は知ってるの?」

 

「去年の文化祭で貴方のお兄さんが『コスプレデュエル大会』を開催したの。大々的に宣伝していたから、大盛り上がりだったらしいわよ」

 

「オシリス・レッドの伝統でしたが、新体制では参加できなくなりましたからね。吹雪さんも、伝統が廃れるのをよしとしなかったのでしょう」

 

「……伝説のチーム……」

 

 そうして、雪乃、原 麗華、レインによって明かされるJOINな顛末。

 

「…………私に隠れて何やってたの、兄さん……」

 

 去年の明日香は受験シーズンだったゆえに見に行かなかった裏で、彼女の兄は思う存分祭りをエンJOIN(ジョイ)していたご様子。

 

「今年も有志を集めてやっているわよ」

 

「……後で……一緒に……」

 

「え、ええ、そうね」

 

――本当に何をやってるの、兄さん……

 

 そうして、レインから遊びに誘われる中、自由人過ぎる兄の所業へ頭痛をこらえるように天を見上げた明日香だが、その雲の上で「JOIN!」している吹雪がいるように見えるのは気のせいなのか。

 

 

 

 

 

 

――やはり、チャンピオン側を希望する者が多いな。

 

 そんな明日香たちを余所に「受付」の立て看板の横に備え付けられた机に向かいお客をさばいていた三沢は、思わず統計を取ってしまっていたが、その頭上より少女の声が落ちる。

 

「あの~、受付って此処でするんですか?」

 

「ああ、此方の用紙にチャンピオン側かチャレンジャー側かを選んで記入して欲しい。プロネームや、入場の際の名乗りは此方で用意があるが、希望があれば重ねて記入してくれれば対応する」

 

「じゃあ、これでお願いしまーす」

 

 そうして、手続きを終え、礼を述べつつ会場代わりの広場へ向かっていった少女を見送った三沢だが、そのインパクトの大きさに思わず内心でひとりごちる。

 

――随分と気合の入った仮装だったな……

 

 まるで、カードの中から飛び出してきたかのような人物だったと。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、会場代わりの広場にて、次なる対戦カードを発表しよとする武田だが――

 

「さぁ、次のチャレンジャーの登場だ! クイズデュエリストは世界に1人――」

 

「はいはーい、わたしでーす!」

 

「――この……? !?」

 

 その進行はピタリと止まる。

 

 それは、聞かされていたデュエリストとは異なる人間がデュエル場に手を振りながら乱入した件も無関係ではないだろう。

 

 だが、最たる理由は明白だった。

 

「ブラック・マジシャン……ガール……だと……!?」

 

「オイオイオイ……か、完成度高けーなオイ」

 

「トメさんのじゃないマジの奴だ!?」

 

 オカルトブラザーズの高寺、向田、井坂が言うように《ブラック・マジシャン・ガール》の生き写しと言わんばかりのデュエリストの登場。

 

 その容貌に加えて、武藤 遊戯が使用したことも相まってカルト的な人気を誇る存在(カード)だけに、この場の人間が受けた衝撃は大きかった。

 

 特に2、3年生は顕著である。

 

 なにせ前年度、鮫島校長の時と同様に体型を無視して《ブラック・マジシャン・ガール》の仮装をしていたトメさんへ「主役は生徒たち」とやんわり咎めたコブラは、まさに彼らにとって救世主だったのだから。

 

 

 ただ、その辺に頓着しない万丈目からすれば、《ブラック・マジシャン・ガール》――もう長いので「ブラマジガール」と略すが――の存在は「予定と違うイレギュラー」でしかない。

 

「――ん? おい、予定と違うぞ、藤原」

 

 ゆえに、「プロネーム・入場の際の名乗り」との用紙の束をパラパラと確認しつつ、それを持ってきた雪乃へ咎めるような視線を向けるが――

 

「あら、可愛いチャレンジャーさんね。でも、割り込みなんてイ・ケ・ナ・イ子」

 

「割り込んでませんよ~! あっち(観客席)で待ってたら、順番を代わってくれたんです!」

 

「ふふっ、そう。罪作りな子なのね」

 

 当の雪乃は突然現れた「面白い子(ブラマジガール)」に夢中だった。彼女の悪い癖である。

 

「なら、オイタにはオシオキが必――」

 

「――待ちな!!」

 

 だが、そんな雪乃の悪癖を注意するような声が響いた。

 

「誰かしら?」

 

「ハハン、そのデュエル――俺に譲って貰うぜ!」

 

「……本当に誰かしら?」

 

 そんな己の楽しみを邪魔する「悪い子」へ視線を向ける雪乃だが、件の人物は酷くリアクションに困る装い。

 

 イエローの制服を肩にかけ、それがズリ落ちないように首に緑のボロのスカーフを巻いた急ごしらえ仕様。

 

 逆立てた髪型はヒトデを思わせる――には微妙にトンガリが足りない。

 

 そして何より、その首に光る逆三角形のデカいペンダントを見れば――

 

「その首飾り……ひょっとして武藤 遊戯の仮装のつもり?」

 

「俺のパズルは手作りでね!!」

 

 武藤 遊戯――と言うには、少々苦しい姿である。ブラマジガールの完成度を見た後では、雪乃の興味は惹かれない。

 

「何をやってるんだ神楽坂……これ以上、事態をややこしくするんじゃ――」

 

「なら、聞こう」

 

 その遊戯のパチモンこと神楽坂を、万丈目がやんわりと「出ていけ」と告げようとするが――

 

「見たくはないか?」

 

 当の神楽坂は、堪え切れぬように拳を握って宣言する。

 

「――最強の師弟決戦を!!」

 

 その言葉の意味が分からぬデュエルアカデミアの生徒は、そんなにいない。

 

 そして、万丈目は他ならぬ当事者だった。

 

「まさか……完成したのか!? 武藤 遊戯のコピーデッキが!!」

 

「あら、なら貴方が噂の……」

 

 ゆえに「武藤 遊戯のコピーデッキ」の噂を知る面々を通じて観客を含めた周囲の人間がざわつき始める。彼らは一大イベントの予感をヒシヒシと感じているのだろう。

 

 

「なんの騒ぎ!」

 

 

 ただ、この場の責任者である明日香からすれば、看過は出来ぬ問題だった。赤いマントをはためかせて混乱する場をいさめる姿は、まさに「オベリスク・ブルーの女王」に相応しい。

 

「す、すまない天上院くん、このバカ共を直ぐに摘まみだす――おい、三沢、手伝え!」

 

「神楽坂、デッキの完成が嬉しいのは分かるが、割り込みは感心しないぞ」

 

「――安心してよ、城之内(三沢)くん! 係の人が『面白いから採用』って言ってくれたんだ!」

 

「三沢だ!」

 

 そんな女王の威厳に慌てて万丈目が事態の強引な収束を図るが、増援として呼んだ三沢の説得も虚しく、神楽坂は引く気はない様子。

 

 というか、サラッと裏切者(ユダ)の存在が示唆された。

 

「……どういうことだ?」

 

 これには流石の万丈目も困惑の色を見せる。なにせ、人数が少ないながら苦楽を共にした自分たちの結束は固いとの自負があったからだ。

 

 更に、裏切者の1年が出し物をぶち壊したところで、下がるのは1年の評価――つまり自分の首を絞めると同義である。デメリットが大き過ぎる。

 

 だが、安心して欲しい。

 

 

 

「……師弟対決……きっと、みんな……見たい……」

 

「ああ! 俺も見たいぜ!」

 

 観客代わりの原っぱにいるレインと十代に裏切った自覚など、欠片もない。逆に「きっと盛り上がるぞ~!」と良かれと思っての行為だ。

 

『だけど、十代――こいつ(レイン)が勝手に決めたのに大丈夫かい? あっちの眼鏡(原 麗華)が押し切られてたのが決め手とはいえ、後でキミが怒られないか心配なんだけど……』

 

「止められなかった以上、怒られる時は一緒さ!」

 

『……キミって奴は相変わらずだね』

 

――レインと十代、本当に何やってるの……これは後でお説教ね。

 

 やがて、そんな仲間の暴走に頭を痛める明日香へ、万丈目たちが小声で意見を求めるが――

 

「(天上院くん、どうする?)」

 

「(面白そうだから、このまま進めちゃいましょう?)」

 

「(黙っていろ藤原! 貴様には聞いていない!)」

 

「(落ち着け、万丈目。俺たちが揉め出せば収拾がつかなくなるぞ)」

 

 ものの見事に歩調がバラバラである。「最後に頼れるのは己のみ」それは誰の言葉だったか。

 

「みんな落ち着いて――まずは事実確認からよ」

 

 やがて、周囲のざわつきが限界を迎える前に明日香は動き出す。

 

「ねぇ、そこの貴方――あの子に順番を譲った話は、お互いが同意の上なのよね?」

 

「ひゃ、ひゃい! 大丈夫でひゅ!」

 

――確か……秋葉原くんだったわよね? 神楽坂くんと同じイエロー生徒だし、デッキ披露の場をサプライズしてもおかしくはない。

 

 そうして、急に想い人に話しかけられたゆえか素っ頓狂な声を漏らした秋葉原(魂の名(ソウルネーム))の人間関係から、十代と神楽坂を繋げていく明日香。レインの方は知らん。

 

――それに、神楽坂くんの噂はブルーでも広まってるくらいだし、みんなも「師弟対決」への期待は高まってる……

 

 更に、勝負すると決まった訳でもないのにマイクパフォーマンス(マイクなし)で先に盛り上がり始めているブラマジガールと神楽坂を横目に「観客を活用する催し」の問題点が浮き彫りになったかのような現状へ明日香は決せざるを得なかった。

 

「雪乃、貴方はレインたちを見ていて。万丈目くん、進行役をお願い――三沢くんは、解説を頼むわ」

 

「あら、除け者なんて酷いわ」

 

「任せてくれ、天上院くん!」

 

「俺も構わないが……キミはどうするんだい?」

 

「この場は私に任せて頂戴」

 

 こうして、外した赤マントを雪乃に手渡しつつ、手早く「常識的な判断が冷静に下せる(一部(雪乃に)不安もあるが)」面々に明日香は指示を飛ばしつつ、動き出す。

 

 

 今回をオベリスク・ブルー1年生の最後の学園祭にしない為に。

 

 

 

 







十代「後でスッゲー怒られた……」

レイン「……怒……ら……れた……」

ユベル『だから言ったのに……』


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