マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
(観客席で反省中の)十代「遂に完成したんだな、神楽坂……!」

(同じく反省中の)レイン「……楽しみ……」

(観客席の)サイコ・ショッカー「興味深い対戦カードだな」

ユベル『なんだ、お前!?』





第265話 最強の師弟決戦!(半ギレ)

 混迷し始める場に対し、明日香が最初に試みたのは無軌道に盛り上げるブラマジガールと神楽坂、ひいては観客からイニシアチブ(主導権)を取り返すこと。

 

 その役目を任されたのは万丈目。

 

「まずは飛び入り参加の新鋭の登場だ! その正体はデュエルキングの再来か、はたまた唯のレプリカ野郎か――」

 

 なにせ、万丈目は昔から公的な大会に頻繁に顔を出しており、オベリスク・ブルー1年の中では「大会の流れ」を誰よりも熟知している存在と言えよう。

 

 マイクパフォーマンスに関して心得はあまりないが、(明日香以外)物怖じしない万丈目からすれば、粗さがあれども勢いで周囲の空気を引っ張ってくれる。

 

「――神楽坂ァアアァーー!!」

 

 やがて、デュエル場である広場で腕組みしつつ遊戯ムーヴに勤しむ神楽坂の向かいから――

 

「そして、此方は誰もがご存知――彼女を知らない奴はモグリを疑え! 伝説のデュエリスト! 武藤 遊戯の相棒たる魔術師のたった1人の弟子!!」

 

 観客の期待感を煽るような万丈目の声と共に、金の長髪に水色の軽装の法衣を纏ったデュエルモンスターズ界のアイドルの化身の如き少女が歩み出る。

 

「――ブラック・マジシャン・ガァールゥウウゥウウウ!!」

 

 その万丈目の宣誓と共に登場した瞬間に周囲の面々が歓声を上げれば、頭上に上げた両手を振って応えるブラマジガールへ、神楽坂は挑発めいた言葉を飛ばした。

 

「お前の持ちうる最高の戦術で挑んできな!」

 

「よーし、行っきまーす!」

 

「じゃあ、万丈目くん、デュエル開始の宣言をお願い」

 

「――デュエル開始ィイイィイイ!!」

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 そうして、明日香の指示に従い司会進行役を担当している万丈目の声に従い、2人のデュエリストは互いのデュエルをぶつけ合う。

 

 これにより、明日香たちはなんとか必須要項と言うべき、最初の問題をクリアした。

 

「先攻・後攻はチャレンジャー側が――どっちだ……?」

 

「ブラック・マジシャン・ガールが選ぶに決まってんだろー!」

 

「さんをつけろよデコ助野郎!」

 

 とはいえ、さっそくもたついた万丈目へ周囲の観客がヤジに飛ばすが――

 

「ええーい! やかましいぞ、貴様ら!! 神楽坂! 仮にも武藤 遊戯をコピーしたなら譲れ!!」

 

「ハハン、俺はどっちでも構わないぜ! 好きにしな!」

 

「じゃあ、先攻を貰っちゃいまーす! ドロー!」

 

 万丈目の独断というか投げやりによって、先攻を得たブラマジガールは、魔法カード《手札抹殺》を発動し、墓地に送った分の5枚の手札をリセットすれば――

 

「魔法カード《天底の使徒》発動~! エクストラデッキのカードを1枚墓地に送って『ドラグマ』モンスター1体――《凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》をサーチしまーす!」

 

 空に異次元への大穴が開き、その先より竜の咆哮が木霊する。

 

「そして手札からこの子を召喚! 来て、エクレシアちゃん!」

 

 そんな中、呼び出されたのは白銀の西洋鎧でその身を包んだ金糸の髪の少女。その小柄な身の丈を超えるハンマーを構えれば、額の聖痕が僅かに光をともした。

 

教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》 攻撃表示

星4 光属性 魔法使い族

攻1500 守1500

 

「召喚されたエクレシアちゃんの効果! デッキから『ドラグマ』カード――儀式魔法《凶導の福音(ドラグマータ)》を手札に!」

 

 そうして《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》がハンマーで地面を叩けば、モグラよろしく1枚のカードがブラマジガールの手元へ飛んでいく。

 

「よ~し、これで準備完了! 儀式魔法《凶導の福音(ドラグマータ)》発動で~す! レベルが8になるようにエクストラデッキのモンスターを生贄に儀式召喚!」

 

 さすれば、そこよりまたまた竜の咆哮が響けば、黒き幻影が墓地に消えると同時に――

 

「お願いしまーす! 《凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》!!」

 

 主なきままに一人でに動く長身の西洋鎧が闇色の瘴気で満ちた手甲を動かし、大剣と大盾を交差する形で構えて膝をついた。

 

凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》守備表示

星8 光属性 魔法使い族

攻 500 守2500

 

 やがて永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》を2枚発動し、カードを1枚セットしたブラマジガールはターンを終えた。

 

 

ブラマジガールLP:4000 手札0

凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》守2500

教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》攻1500

伏せ×1

《未来融合-フューチャー・フュージョン》×2

VS

神楽坂LP:4000 手札5

 

 

 こうして、観客が注目するブラマジガールの1ターン目が少々味気なく終わった事実に、明日香は周囲の意見を代弁するように問題定義を解説の三沢へ送った。

 

「思ったより《ブラック・マジシャン・ガール》が影も形もない1ターン目だったわね――解説の三沢くん、彼女のデッキはどう見てる?」

 

「儀式デッキ……という雰囲気ではなさそうだ。確かに、今のところ《ブラック・マジシャン・ガール》との関連性は伺えないが、恐らく本命の前の準備段階なのだろう」

 

 そう、こうしてキチンと解説を機能させれば、耳を傾ける人間がいる限り、集団は意外と纏まるものだ。

 

 1年の筆記ナンバー1の他の追随を許さぬ三沢の知識量を思えばベストなポジションだろう。

 

 後は、明日香はそんな彼らの一歩後ろで軌道修正していく形で、精神的な支柱になればいい。

 

 

 そんな具合で、凡そ周囲の無軌道なゴタゴタの手綱を明日香が握ったことで、一定の落ち着きを見せた雰囲気の中、神楽坂がカードを引けば――

 

「『待ちの姿勢』か――なら、俺の方から攻め込ませて貰うぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

 速攻とばかりに神楽坂は1枚のカードを発動させる。

 

「魔法カード《融合徴兵》! エクストラデッキの《カオス・ウィザード》を公開し、デッキからその融合素材である《ホーリー・エルフ》を手札に!」

 

 さすれば、黒き甲冑を纏う仮面の魔導士がマントをひるがえせば、無より黄緑の法衣を纏った青い肌に金の長髪をもったエルフが神楽坂の手札に舞い降りた。

 

「見てくれているかい、上杉くん――キミから譲り受けたこのカードは大切にさせて貰っているぜ」

 

「遊戯さん……」

 

 そんな神楽坂とラー・イエロー生徒(原作のモブ役こと上杉)のやり取りにブラマジガールも「うんうん」と感慨深く頷くが――

 

「うんうん、良い友情ですね――でも、その瞬間《凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》の効果発動でーす! お互いのエクストラデッキから1枚ずつカードを墓地に送り、その攻撃力の合計の半分パワーアップしまーす!」

 

 《凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》が突如として神楽坂のエクストラデッキへ剣を突き刺し、1枚のカードを貫いた。

 

「じゃあ、キミはそれね!」

 

「くっ、綾小路さんから譲り受けた《超魔導騎士-ブラック・キャバルリー》が!?」

 

 すると、竜騎士と魔導騎士の血に染まった《凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》の剣が脈動と共に禍々しさを増していく。

 

凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)

攻 500 → 攻3400

 

「だが、そいつが守備表示な以上、問題ないぜ!」

 

「でも元々の守備力は2500! お師匠様にだって突破は出来ません!」

 

「そいつは、どうかな?」

 

 しかし、怯まぬ神楽坂へブラマジガールが相手を指さしながら観客の期待である「師弟決戦」の要こと《ブラック・マジシャン》の登場を示唆すれば、神楽坂も天へと拳を握って応えてみせた。

 

「結束の力が、そいつを打ち砕く! 魔法カード《融合》! 《ブラック・マジシャン》と癒しの魔術師の力を借り受け、降臨せよ!!」

 

 さすれば神楽坂の頭上に渦が生じ、その先へ彼の手札から2体の魔術師が光の筋となって吸い込まれ――

 

「――《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》!!」

 

 《ブラック・マジシャン》と、その隣に黄緑のローブを羽織った青い肌のエルフの女性の魔術師が並び立つ。

 

《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》攻撃表示

星8 闇属性 魔法使い族

攻2800 守2300

 

「ブラマジ来たー!!」

 

「……来た……!」

 

 そんな遊戯の顔であるモンスターの融合体に観客席の十代とレインたちも盛り上がるが、対戦相手であるブラマジガールは思わずと言った様相で神楽坂のフィールドを指さし叫んだ。

 

「――って、お師匠様が私じゃなくて、《ホーリー・エルフ》さんと!?」

 

「修羅場だ!?」

 

「いや、ただの師弟なんだから修羅場もへったくれもないだろ」

 

「時代は母性だよ、母性」

 

 そう、観客のオカルトブラザースの発言――は、さておき、《ブラック・マジシャン》の隣にいるのは、弟子である《ブラック・マジシャン・ガール》ではなく、《ホーリー・エルフ》である。

 

 《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の融合素材が《ブラック・マジシャン》または《ブラック・マジシャン・ガール》と「魔法使い族」であるゆえの結果だが、《ブラック・マジシャン》の弟子である身からすれば、なんとなく裏切られた感が強い。

 

 

 とはいえ、一部の面々の独特のリアクションを引っ張られるのは明日香たちにとっては悪手である為、解説の三沢は一般的な周囲の代弁に務めた。

 

「《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》だと!? あれ程のレアカード、一体どうやって……!?」

 

「確かに、かなりのレアカードよね。クラスメイトが持っていたなら自慢話の一つくらい聞こえてきそうなものだけど……」

 

「ハハン! 学園祭の縁日での景品パックで当たったおっさんと、5枚のクリボーカードをトレードしたのさ!」

 

――感謝するぜ、名も知らぬおっさん……!

 

 だが、詳細はとうの神楽坂からアッサリ明かされ、今現在この場にいない笑顔が胡散臭いおっさんに感謝を告げるようにお空を眺めているが、明日香からすれば聞き逃せぬ内容がある。

 

「5枚と1枚って、シャーク(不釣り合いな)トレードなんじゃ……」

 

 それは、明らかに枚数差のある(シャーク)トレードがなされた現状が明かされたからだ。アカデミアの不祥事――とまではいかずとも、変な勘違いを生むのだけは避けたい。

 

「いや、クリボー系のカードもコアな人気があるにはあるが、魔術師師弟のカードの方がネームバリューは上だろう。あの《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》と交換できるなら、悪くはない筈だ」

 

「ちなみに、イエロー1年主催の祭り定番の縁日コーナーはイエロー寮前の広場で開催中だぜ! みんな、来てくれよな!」

 

「勝手に宣伝をするな、馬鹿者! デュエルに戻れ!」

 

「なら、とくと見な! 俺のデュエルを!」

 

 だが、そんな明日香の心配は、三沢の説明が解消し、若干ばかり神楽坂が脱線し始める光景を司会進行の万丈目が修正している光景を見れば安心できよう。

 

「魔法カード《融合派兵》発動! エクストラデッキの《クリッチー》を公開し、デッキから《黒き森のウィッチ》を特殊召喚!」

 

 そうしてデュエルに戻った神楽坂が呼び出した額に第三の目を持つ盲目の黒いローブの女性が祈るように膝をつくが――

 

《黒き森のウィッチ》攻撃表示

星4 闇属性 魔法使い族

攻1100 守1200

 

「この《黒き森のウィッチ》は、小原くんから譲り受けた――」

 

「待って、神楽坂くん。協力してくれた人たちに感謝を贈りたいのは分かるけど、お礼は最後にまとめてするのはどうかしら? 手伝ってくれた人たちだって、デュエルで活躍している姿を見たい筈でしょう?」

 

 逐一、デッキ構築を手伝ってくれたトレード相手へ感謝を述べる神楽坂へ、明日香は少々強めに言い含める。

 

 明日香とて神楽坂の気持ちは分からなくもないが、彼女もオベリスク・ブルー1年の文化祭参加の今後を背負う身、盛り上がりに水を差す可能性は可能な限り排除したい。

 

「…………ハハン! 分かったぜ!」

 

「そ、そう」

 

――無理に遊戯さんっぽく振る舞わなくてもいいのだけれど……

 

 やがて、闇遊戯ムーヴで是を返した神楽坂へ、明日香が若干の苦手意識を持つ中――

 

「なら――魔法カードが発動されたことにより、《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の効果だ! カードをドローし、それが魔法・罠カードならセットが可能!」

 

「仮にもお師匠様のカード、説明は不要ですよ! 罠カードをセットした場合は即座に発動できることはお見通しです!」

 

「だったら早速使わせて貰うぜ! 罠カード《融合(フュージョン)準備(・リザーブ)》! エクストラデッキの《有翼幻獣キマイラ》を公開し、《バフォメット》と墓地の《融合》を手札に! そして、そのまま召喚!!」

 

 神楽坂が伏せたカードに《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》が手をかざせば、《黒き森のウィッチ》が光と消えた先より白い翼を広げる赤い肌の悪魔が大きな2本角を突き出すように前のめりの姿勢で現れた。

 

《バフォメット》攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻1400 守1800

 

「墓地に送られた《黒き森のウィッチ》の効果で《翻弄するエルフの剣士》を手札に! 更に召喚された《バフォメット》の効果! デッキから《幻獣王ガゼル》を手札に加え――」

 

「あの組み合わせは!?」

 

「来るぞ、レイン!」

 

「……?」

 

「再び《融合》を発動し、ガゼルと《バフォメット》で融合召喚! 現れろ! 《有翼幻獣キマイラ》!!」

 

 十代たちの期待を背に現れた、2つの魔獣の顔を持つ四足の幻獣が白い翼を広げ、尾に伸びる蛇の頭と共に咆哮を上げる。

 

《有翼幻獣キマイラ》攻撃表示

星6 風属性 獣族

攻2100 守1800

 

 そして、魔法カード《貪欲な壺》を発動し、墓地の5枚のカードを戻して2枚ドローした神楽坂は、その内の1枚のカードを発動させた。

 

「最後にこいつを発動させて貰うぜ! 魔法カード《死者蘇生》!」

 

「まさか、お師匠様を……!?」

 

「復活しろ! 《エルフの聖剣士》!! その効果により手札から『エルフの剣士』カード――《翻弄するエルフの剣士》を呼び出すぜ! 並び立て、剣士たちよ!」

 

 だが、ブラマジガールの予想とは異なり現れたのは緑の甲冑を纏う二刀流のエルフの剣士。

マントをはためかせクルリと回転する様はなんとも頼もしく、

 

《エルフの聖剣士》攻撃表示

星4 地属性 戦士族

攻2100 守 700

 

 そんな《エルフの聖剣士》と背中合わせの形で現れた瓜二つのボブカットのエルフの剣士が、1本の剣を両手で握り腰元で構えて並び立つ。

 

《翻弄するエルフの剣士》攻撃表示

星4 地属性 戦士族

攻1400 守1200

 

 かくして、フィールドにズラリと並んだのは遊戯の顔である魔術師の融合体たる《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》に、

 

 《有翼幻獣キマイラ》と、2体の『エルフの剣士』たち――そのどれもがデュエルキングを代表するモンスターたち

 

「遊戯さんだ……」

 

「なんだよ…結構、遊戯さんじゃねぇか……」

 

 観客の中の誰かが思わずそう呟くのも無理はない。なにせ、繋ぎに呼び出されるモンスターでさえ、全てが伝説のデュエリストが使用したカードたちなのだから。

 

 やがて、永続魔法《補給部隊》を2枚発動した神楽坂は――

 

「バトル! 行けッ! 《エルフの聖剣士》! エクレシアに攻撃!」

 

 闇遊戯を思わせる強気な姿勢で攻勢に出れば二刀流の《エルフの聖剣士》の右の太刀が《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》のフルスイングした大型ハンマーを受け流し、

 

 ハンマーを振り切ったゆえに隙を晒した《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》の胴を《エルフの聖剣士》の左の太刀が逆胴の形で切り抜いた。

 

「うぅ……! エクレシアちゃんが……!」

 

ブラマジガールLP:4000 → 3400

 

「更に《エルフの聖剣士》の効果を発動させて貰うぜ! こいつがダメージを与えた時、『エルフの剣士』カードの数だけカードをドローする! 2枚ドローだ!」

 

「こっちもタダではやられませんよ~! 魔法使い族が破壊された瞬間に墓地の《マジクリボー》の効果! 墓地から自身を手札に戻します!」

 

 そうして、神楽坂が戦果とばかりに手札を補充する中、ブラマジガールの手札に魔法使いの帽子と杖をつけた黒い毛玉がボヨンと跳ね戻るが――

 

「だったら、続けて《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》で《凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》を攻撃! ツイン・カオス・マジック!!」

 

 そんな光景を無視して《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》こと《ブラック・マジシャン》と《ホーリー・エルフ》のコンビが生み出す黒と白の魔術が、螺旋を描いて交じり合うように弾丸の如く放たれれば《凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》が構えた盾ごとその身を貫いた。

 

「お、お師匠様の裏切者ー!」

 

「これでお前のフィールドはガラ空き! キマイラでダイレクトアタックだ!」

 

 やがて、《ホーリー・エルフ》と息の合った攻撃を見せる師匠へブラマジガールが恨み言を零す最中、《有翼幻獣キマイラ》が遠慮なくブラマジガールの元へ牙を剥き突っ込んでくるが――

 

「させない! 罠カード《ドラグマ・エンカウンター》! 墓地の『ドラグマ』1体――エクレシアちゃんが復活でーす! その効果で『ドラグマ』カードをデッキから手札に!」

 

 その突撃を遮るように《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》がブラマジガールの背後より大型ハンマーを振りかぶりながら迎え撃つ。

 

教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》攻撃表示

星4 光属性 魔法使い族

攻1500 守1500

 

「だが、攻撃力は此方が上! 攻撃続行だ、キマイラ! インパクトダッシュ!」

 

「負けないで、エクレシアちゃん!」

 

 そして、ぶつかり合う《有翼幻獣キマイラ》の突進と《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》の大型ハンマー。

 

 だが、ジリジリと《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》が押し込まれて行き、最後は《有翼幻獣キマイラ》の角にハンマーごと天へと放り投げられた《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》はブラマジガールの足元に転がる結果となった。

 

ブラマジガールLP3400 → 2800

 

 しかし、《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》は地面を転がった際に顔についた土を手の甲で雑に拭った後、不屈の闘志で立ち上がる。

 

「破壊……されない?」

 

「ふふーん、どうです! これがエクレシアちゃんたち『ドラグマ』の力! エクストラデッキから呼び出されたモンスターとのバトルでは破壊されません! お師匠様が融合しても無駄ですからね~!」

 

 そう、《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》たち「ドラグマ」は邪教徒の扱う召喚法(エクストラから呼ばれた者)には決して負けぬ強き意思があるのだ。

 

 融合を主体にする(エクストラを多用する)神楽坂のデッキには少々厄介な面々であろう。

 

「だったら、《翻弄するエルフの剣士》で攻撃だ!」

 

「攻撃力が低いのに? まぁ、いいや。やっちゃえ、エクレシアちゃん!」

 

 だとしても、デッキ相性差に臆することなく攻撃をしかける神楽坂の声に、《翻弄するエルフの剣士》は剣を上段に構え、大型ハンマーを振りかぶる《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》に向けて駆け抜ける。

 

 しかし、今度は剣が大型ハンマーに接触した瞬間に砕け散り、一切の勢いが衰えぬまま《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》のハンマーが《翻弄するエルフの剣士》の腹を深々と穿ち、気合と共に振り切られたハンマーの動きに合わせて《翻弄するエルフの剣士》はお空の星となった。

 

神楽坂LP:4000 → 3900

 

「くっ、すまない、エルフの剣士……! だが、お前の犠牲は無駄にはしない! 2枚の永続魔法《補給部隊》の効果で合計2枚ドロー! …………バトルを終了するぜ」

 

「どうやら良いカードを引き込めなかったようですね――でも、手加減はしません! わたしがダメージを受けたターンのバトルフェイズ、手札の《マジクリボー》を墓地に送って効果発動!」

 

 やがて、モンスターを惜しい形で失った神楽坂へ追い打ちをかけるように、ブラマジガールの手札から《ブラック・マジシャン》に似た紫のトンガリ帽子と杖を持った毛玉こと《マジクリボー》が現れ、その肩に乗って杖を振れば――

 

「デッキか墓地から魔術師師弟のどちらかを特殊召喚します! 呼びだすのは当然――せーの!」

 

「 「 「 《ブラック・マジシャン・ガール》!! 」 」 」

 

「折角なのでわたし自身が登場~!」

 

 観客たちの声援を受け、フィールドにブラマジガール自身がピョンとエントリーした。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》攻撃表示

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

 

 そうして、マジシャンの師弟が対面したフィールドへ司会の万丈目が盛り上げ時とばかりに声を張る。

 

「遂に来たぞ、師弟決戦が!!」

 

「つまり、彼女は、エクレシアをあえて攻撃表示で蘇生させて、《マジクリボー》のダメージトリガーを狙ったのね」

 

「……? だが、あの説明では《エルフの聖剣士》で受けたダメージで問題ないようにも思えるが……」

 

 そんな中で明日香も三沢に解説を振って役目を果たすが、とうの三沢はブラマジガールのプレイングに少々疑問を覚えた様子。

 

「さ、さぁ、お師匠様の攻撃は終わってますよー! わたしを前に、どう来ますか!」

 

「ハハン、焦るなよ。勝負はまだ始まったばかりだぜ?」

 

 やがて、一瞬目を泳がせたブラマジガールが《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》を指さし挑発すれば、神楽坂はフィールド魔法《融合再生機構》を発動し、永続魔法《ブランチ》を発動させ、カードを2枚セットしてターンを終える。

 

「ターンの終わりにフィールド魔法《融合再生機構》の効果により、墓地の融合素材としたカード――《ホーリー・エルフ》が手札に戻って来るぜ」

 

 

ブラマジガールLP:2800 手札1

《ブラック・マジシャン・ガール》攻2000

教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》攻1500

伏せ×2

《未来融合-フューチャー・フュージョン》×2

VS

神楽坂LP:3900 手札1

《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》攻2800

《有翼幻獣キマイラ》攻2100

《エルフの聖剣士》攻2100

伏せ×2

《補給部隊》×2

《ブランチ》

フィールド魔法《融合再生機構》

 

 

「デュエルキングのコピーデッキ――本物より、融合軸に振ってあるとはいえ、中々の完成度ね。戦局は神楽坂くんが有利に見えるけど……」

 

「融合モンスターを主軸にしている以上、『ドラグマ』たちの戦闘耐性が厄介だな。それに相手には2枚の《未来融合-フューチャー・フュージョン》があれば、戦況を大きく動かせる筈だ」

 

 そうして、互いが1ターンずつ終えたことを見届けた明日香と三沢の解説を余所に、ブラマジガールは観客に向けて手を上げ己へ注意を集めていた。

 

「じゃあ、わたしのターン、行っきまーす!」

 

「 「 「 はーい! 」 」 」

 

「ドロー! スタンバイフェイズに2枚の永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》の効果! 融合モンスターの素材をデッキから墓地に送りますね! わたしは《クインテット・マジシャン》2体分の融合素材の――魔法使い族10体をデッキから墓地に送りまーす!」

 

「はーぃ…………マジで?」

 

「10体……? 10体!?」

 

「ヤバいわよ!?」

 

 だが、観客のアカデミア生徒の大半はエグいアドバンテージの発生にドン引きせざるを得ない。「デッキから好きなモンスター10枚を墓地に送って良いよ」は昨今のデュエル環境において大概の場合「死刑宣告」である。

 

「まぁ、そうなるわよね」

 

「予想はしていたが拙いな。好きな魔法使い族を10体も墓地に送れるとなれば、取れる戦術の幅は計り知れない――神楽坂の2枚のリバースカードで対応しきれれば良いが……」

 

「この瞬間、わたしの効果!!」

 

「わたしの効果って!?」

 

 だが、解説2名が悩まし気に戦況を見守る中で宣言されたブラマジガールの発言に、明日香は思わずツッコミを入れた。発言だけ切り取れば意味不明である。

 

「墓地の《ブラック・マジシャン》と《マジシャン・オブ・ブラックカオス》の数×300ポイント攻撃力がアップしまーす! その攻撃力は――うぉぉおぉおおぉおお!!」

 

 しかし、弟子の手にかかり墓地に散っていった師匠たちの力が、ブラマジガールの元へ集まれば、気の抜けるトーンの雄たけびと共にブラマジガールの全身を黄金のオーラが覆っていく。

 

「つまり、永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》はそれらのカードを墓地に送る為だったのね。なんというか、豪勢な使い方に思えるわ……」

 

「その2種類のカードを3枚ずつに加え、墓地で《ブラック・マジシャン》として扱う《マジシャン・オブ・カオス》を3枚――どうやら彼女のデッキは、徹底的に《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力を高めるスタイルのようだな」

 

 やがて、先のブラマジガールの意味不明な発言の真意を理解する明日香を余所に、ブラマジガールのデッキのスタイルを解説する三沢だが――

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻2000 → 攻5600

 

「攻撃力5600!?」

 

「計算が合わない! 9体を墓地に送っても上昇幅は2700! 攻撃力は4700になる筈だ!」

 

 しかし、ブラマジガールの攻撃力は彼らの想定を少々上回る数値を見せた現実にざわめきが広がれば、得意げなブラマジガールの声が響いた。

 

「ふっふっふー、わたしの墓地へ、お師匠様(ブラック・マジシャン)として扱う融合モンスター《竜騎士ブラック・マジシャン》を送っておいたのです!」

 

「《竜騎士ブラック・マジシャン》? 聞いたことのないカードね」

 

「成程、《凶導(ドラグマ)白騎士(アルバス・ナイト)》はその為に……しかし、俺たちも全てのカードを知っている訳ではないとはいえ、有名な《ブラック・マジシャン》に関するカードが、他にもあったとは……」

 

 やがて、今度こそブラマジガールのデッキの本質に触れた明日香と三沢は未だ知り得ぬレアカードの存在に解説担当としての知識不足を悔やむが――

 

「よもやあの伝説のカードを目にする機会に恵まれるとはな」

 

「サ、サイコ・ショッカー!? ちょ、ちょっと貴方どこから――」

 

「知っているのか、サイコ・ショッカー!!」

 

 いつの間にか解説席の背後に立っていたやたらとクオリティの高い《人造人間サイコ・ショッカー》に扮した人が情報提供するも――

 

「ウム、お前たちが知らぬのも無理はない。あれは精霊界より封印されていた伝説の三体の竜にまつわるカード――その守り手たる巫女がいるとの噂は聞いたことがあるが、よもやあのような小娘であったとはな」

 

「あ、ああ、そうなのか」

 

「なんの説明にもなってないじゃない……」

 

 残念ながらサイコ・ショッカーの説明は、常人には理解できない内容だった。傍から見れば「なに言ってんだ、こいつ」である。

 

「詳細はともかく、彼女のデッキは、エクストラから直接墓地に送る『ドラグマ』の効果を利用した戦術を主にしている訳か」

 

「その通り! これで、わたしは強靭! 無敵! 最強! です! 三つ首ドラゴンどころか、五つ首ドラゴンにだって負けませんよ~!」

 

「ハハン、なら攻撃してきな!」

 

 やがて、サイコ・ショッカーの説明をサラッと流した三沢を余所に、ブラマジガールは己の最高に高まったフィール(攻撃力)で鼻高々な様子だが、《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の効果でカードを1枚ドローする神楽坂が臆する様子は欠片もない。

 

「成程、その伏せカードに余程の自信があるようですね――なら、墓地の《魂のしもべ》を除外し、効果発動! 墓地・フィールドの魔術師師弟の種類だけドローします! 2枚ドロー!」

 

 ゆえに、罠の存在を察知したブラマジガールは2枚のカードをドローし、その中から――

 

「デッキからレベル6以上の魔法使い族を墓地に送って手札の《マジシャンズ・ソウルズ》を特殊召喚!」

 

 霊体と思しき姿が希薄な魔術師の師弟がブラマジガールの隣にフワフワと浮かぶように現れた。

 

《マジシャンズ・ソウルズ》守備表示

星1 闇属性 魔法使い族

攻 0 守 0

 

「そして、《マジシャンズ・ソウルズ》の効果でーす! 手札・フィールドの魔法・罠カードを2枚まで墓地に送り、その枚数分ドローできまーす! 2枚の永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》を墓地に送って2枚ドロー!」

 

 さらに、《マジシャンズ・ソウルズ》がそれぞれ杖を交差させれば、フィールドのカードを光と変えて、ブラマジガールに新たな手札を授ける。

 

「まだまだぁ! 魔法カード《ルドラの魔導書》発動! 魔法使い族の《マジシャンズ・ソウルズ》を墓地に送って、三度2枚ドロー!」

 

「3連続の2枚ドロー……一気に手札を増強したな。神楽坂のセットカードが除去されれば危ういぞ」

 

「でも、あの子のデッキは《ブラック・マジシャン》たちを墓地に送ることに特化してるみたいだから、上手くカードを引き込めない可能性もあるわ」

 

 そして、《マジシャンズ・ソウルズ》自身もドローに変換して怒涛の供給を見守る解説の2人の目に――

 

「来ましたよ~! とっておきのカードが!」

 

 手札の1枚を嬉しそうに掲げるブラマジガールの姿が映る。

 

「わたし専用魔法! 《黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)》! フィールドにわたしがいる時、相手フィールドの表側モンスターを全て破壊しまーす! 行きますよー、せーの!」

 

「 「 「 ブラック・バーニング!! 」 」 」

 

 さすれば、観客たちと息を合わせた宣言と共に神楽坂のフィールドに向けたブラマジガールの杖の先から紅蓮の炎の球体が放たれた。

 

 その炎の魔術に対し、口から炎を吹いて対抗する《有翼幻獣キマイラ》と、その背に乗った《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》が黒と白の波動を放つも、

 

 後方で応援していた《エルフの聖剣士》の奮闘も虚しく、彼らを呑み込むように炎は爆ぜ、巨大な爆炎が神楽坂のフィールドを覆った。

 

「お師匠様たち――爆殺!」

 

「どうやら、アドバンテージを供給し続ける《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》を確実に仕留めに行ったようだな」

 

「でも、《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》には破壊された時、魔術師の師弟を呼び出す効果が発動できるわ。盤面だけみれば――」

 

 そうして炎の中に散った裏切者の師匠(ホーリー・エルフにはしった奴)の姿に満足げなブラマジガールを余所に、三沢と明日香は爆炎が収まった煙の中から魔術師の師弟が現れる姿を見――

 

「できないぜ!」

 

「できないの!?」

 

 ることは他ならぬ神楽坂の宣言から叶わない様子。

 

「どうしてですか! わたしに手加減なんて必要ありませんよー!」

 

「……デッキに入っていないんだ」

 

 その謎のプレイングに憤慨するブラマジガールだったが、今までの闇遊戯ムーヴを忘れた様子でしょげた神楽坂の声に返す言葉を失うほかない。

 

「……そうよね。《ブラック・マジシャン・ガール》は、その人気から簡単に手に入るカードじゃなかったわ」

 

「《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の効果は片方だけを呼び出せないからな」

 

 そう、明日香と三沢の言う通り、《ブラック・マジシャン》もそうだが、《ブラック・マジシャン・ガール》も価値が高く中々お目にかかれない圧倒的なレアなカードなのだ。

 

 《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》の師弟が揃って真の力を発揮する効果は、今の神楽坂には縁遠い。

 

「どうやら、その伏せカードは飾りだったようですね――なら、このダイレクトアタックで終わりです!」

 

「そいつは、どうかな?」

 

「えっ?」

 

 しかし、勝利を確信するブラマジガールへ、神楽坂は闇遊戯ムーヴを取り戻しつつ、その程度の問題は解決済みだと言わんばかりの強気な笑みを見せた。

 

「永続魔法《ブランチ》の効果! 融合モンスターが破壊された時、その融合素材の1体を墓地より復活させる! 待たせたな、相棒!」

 

「遂に来ましたか、お師匠様!」

 

「――《ブラック・マジシャン》!!」

 

 そうして、立ち込める煙を巻き込むように逆巻かせ、伝説のデュエリストの相棒たる黒き魔術師が現れる。

 

 

 その姿は、地下から泥がせり出したように大地から2本の腕が伸び、泥で押し固めた人の頭だけが這い出たような姿で長い年月を経た老獪さすら感じさせた。

 

《沼地の魔神王》守備表示

星3 水属性 水族

攻 500 守1100

 

 

「――って、《沼地の魔神王》じゃねぇか!」

 

「んなドロドロな師匠がいて、たまるか!」

 

 そのあんまりな落差に起こるのは観客たちからのブーイングの嵐。散々期待を煽っておいて「これ」ならば当然の反応であろう。

 

「そういえば、《ブラック・マジシャン・ガール》のパワーアップは相手の墓地も参照したわ……違和感の正体は、これだったのね」

 

「《ブラック・マジシャン》なしのデッキだったとは――完成しなかったのか、神楽坂!!」

 

 やがて、いぶかしむ明日香を余所に観客の声を代弁した当然の疑問が三沢から放たれるが――

 

「これで良いんだ、城之内くん」

 

「三沢だ!」

 

「武藤 遊戯のデッキは初めから完成されていたかい? 違う筈だよ」

 

 闇遊戯ムーヴから、遊戯ムーヴに緩急を付けつつ神楽坂は自論を語ってみせる。

 

「今のボクは『カード不足ながらも現状可能な限り最高のデッキを組み上げた』『武藤 遊戯』なんだ!!」

 

「知るか! 俺たちは、魔術師師弟のデュエル――って話だから、見に来たんだぞ!」

 

「肝心の《ブラック・マジシャン》がいないなら、師弟対決も何もないだろ!」

 

「静まれ、貴様ら! デュエル中だぞ!」

 

「《ブラック・マジシャン》のいない遊戯デッキなんて、ライスのないカレー同然だよ!」

 

「ライスのないカレーも、美味しいですよ」

 

「そうですよ! マスターの真似をするなら、最低でもお師匠様は必須じゃないですか!」

 

――この流れは拙いわね……

 

 だが、噂を聞きつけてか、いつの間にやら増え始めていた周囲の観客からの反応はあまり色好いモノではなかった。まぁ、此方も当然の反応だろう。

 

 しかし、そのブーイングの嵐は司会進行の万丈目に抑えられない程に広まり始め、明日香も危機感から事態の収束を図らんと動き出す。

 

 

 

 

 

「――受け取れ、遊戯ィイイィイイ!!」

 

 

 

 

 その前に、神楽坂の元へ飛来する1枚のカード。

 

「――!?」

 

「この声は!?」

 

「まさか!?」

 

「あの伝説のデュエリストが!?」

 

「伝説って?」

 

「ああ!」

 

 観客たちが各々の反応を見せた視線の先にいたのは1人の男。

 

 

 男は《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の豹を思わせるヘルムと、両肩の出た黒い甲冑を纏い、

 

 その肩から「ミスターアカデミア殿堂入り」のタスキをかけ、

 

 背中には「バンド帰りです」と言わんばかりのエレキギターがマントの後ろに鎮座し、

 

 何故か、その手の中にあるウクレレを軽快に奏でた男は歯を光らせ眩しい笑みを浮かべて語る。

 

「なにやら、楽し気じゃないか――ボクも混ぜてやくれないか?」

 

「カイバーマンさん? ううん、違う。パンサーウォリアーを意識したマスク……彼は一体……後、どうしてギターとウクレレ持ってるの?」

 

「(……吹雪さんだよな)」

 

「(吹雪様よ……)」

 

「(伝説のお祭り男が来るとは……)」

 

「(天上院先輩……!? まさか天上院くんが呼んだのか……?)」

 

「なにやってるの、兄さん……」

 

 吹雪の乱入に、場の雰囲気はガラリと変わる。というか、当人の情報量に話題が完全に乗っ取られた。

 

「神楽坂、なんのカードを渡されたんだ?」

 

「こ、これは――《ブラック・マジシャン》!?」

 

「ボクからのプレゼントさ☆」

 

 やがて、三沢がおずおずと尋ねれば、おののく神楽坂を余所に吹雪は茶目っ気タップリに敬礼するように指を目元に充てつつウィンクした後、拳を握って突き出し宣誓するように力強い声を飛ばした。

 

「キミの熱き想い、今のデッキではぶつけきれない筈だ! 少々掟破りになるけれど、学園祭総合統括長のボクの顔に免じて許してくれるかな?」

 

「だけど……だけど、城之内(吹雪)くん!」

 

「城之内さん()は俺ではなかったのか!?」

 

「なに言ってるの、三沢くん!?」

 

 そうして、先とは別の意味で場が混沌とする中、明日香のツッコミだけが虚しく響くが――

 

「聞こえるだろう! デッキの声が!」

 

「でも、今はデュエル中で――」

 

「ようやく出てきましたね、お師匠様が!」

 

「待ちくたびれたぜ!」

 

「いよいよ、師弟対決の始まりだァ!!」

 

「満足させてくれよォ!」

 

 一つになった観客たちの心がいつの間にか神楽坂を後押しするように木霊する。

 

――天上院くん、俺はどうすれば!?

 

「…………許可します」

 

「熱い展開なので許可だ!!」

 

「――みんな、ありがとう!!」

 

 そうして、オベリスク・ブルー1年のまとめ役の明日香の許可を出し、万丈目がGOサインを出せば――

 

「来てくれ! 《ブラック・マジシャン》!!」

 

 デュエルディスクからブザー音が鳴り響いた。

 

「――!?」

 

 思わずカードとデュエルディスクを交互に見やり混乱する神楽坂。当たり前の話だが、デッキ外からカードを追加するのはルール違反である。

 

 それゆえ、解説席から席を立ち神楽坂の元へ駆け寄った三沢が彼のデュエルディスクを操作し始め――

 

「デュエルディスクのイカサマ防止用のシステムだな。ちょっと待ってくれ…………済まない、ブラック・マジシャン・ガールさん――キミのデュエルディスクで許可してやってくれないか?」

 

「えっ? えーと、こう……かな?」

 

「違う、こうだ」

 

「サイコ・ショッカーさん、ありがとー!」

 

「フン、礼には及ばん」

 

「いや、俺からも礼を言わせてくれ、助かったよ――よし、これで問題ない筈だ」

 

 ブラマジガールと、サイコ・ショッカーの手も借りて《沼地の魔神王》を《ブラック・マジシャン》に置き換える形で問題を解決。

 

「なら、万丈目くん」

 

「では、デュエル再開!!」

 

「なら、気を取り直して……行くぜ、相棒!!」

 

 再開されたデュエルの幕を開くのは――

 

「――現れろ、俺の切り札にして最強のしもべ!! 《ブラック・マジシャン》!!」

 

 デュエリストなら誰もが焦がれた伝説のデュエリストの相棒たる黒衣の魔術師。

 

《ブラック・マジシャン》守備表示

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2000

 

「そしてキマイラの効果で墓地から《バフォメット》が復活!」

 

 後、ついでに赤い肌の悪魔こと《バフォメット》が白い翼を丸めて盾がわりにするように隣に陣取った。

 

《バフォメット》守備表示

星5 闇属性 悪魔族

攻1400 守1800

 

「今度こそ、ブラマジ来たー!」

 

「……来たー……!」

 

『まぁ、後の末路は察する状況だけどね』

 

 やがて2枚の永続魔法《補給部隊》で2枚ドローする神楽坂を余所に観客たちも先のブーイングの嵐など忘れたようにテンションのボルテージを上げていく。

 

「出てきましたね、お師匠さま! でも、師を超えるのが弟子の責務! 装備魔法《ワンダー・ワンド》をエクレシアちゃんに装備して――」

 

 しかし、ブラマジガールから急に杖を手渡され、元々持っていた大型ハンマーとの兼ね合いにオロオロする《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》を余所に――

 

教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》

攻1500 → 攻2000

 

 

「バトル! わたしでお師匠様に攻撃! ブラック・バーニング!!」

 

「――ブラック・マジシャン!?」

 

 《ブラック・マジシャン》へブラマジガールの杖から放たれた炎の球体が着弾。「ファ、ファラオォオオォオ!!」との断末魔を空耳させながら鮮やかに出オチしていった。

 

「さぁ、これで更にお師匠様の魂を弟子のわたしが受け継ぎました! わたしはまたまた強くなりまーす!」

 

 やがてシリアルキラーみたいな発言を余所に、更なるパワーを得たブラマジガール。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻5600 → 攻5900

 

「今のわたしはお師匠様すら一撃ノックアウト! ――どうやら、わたしもこっちで強くなり過ぎたようですね……」

 

 その力の強大さに些か調子に乗り始めるが――

 

「エクレシアちゃん! 続いて《バフォメット》も粉砕だ~!」

 

「くっ……! 《バフォメット》が……!」

 

 《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》の大型ハンマーに脳天をしばかれた《バフォメット》が巨大なたんこぶを作りながら地面に叩き伏せられ消えていく様子を見ればデュエルの流れを掴んでいることは確かである。

 

「だが、散っていった相棒たちの想いは無駄にはしない! 罠カード《セットアッパー》! 破壊されたモンスター以下の攻撃力を持つカードをデッキより裏側守備表示で特殊召喚する! 《メタモルポット》をセットだ!!」

 

「うーん、《メタモルポット》かぁ……なら手札を残すのは良くないよね! カードを3枚セットしてターンエンド!」

 

 しかし、なんとか次の手を繋いだ神楽坂へ、ブラマジガールは己の顎に人差し指を当てながら少々思案を見せた後にターンを終えた。

 

 

ブラマジガールLP:2800 手札1

《ブラック・マジシャン・ガール》攻5900

教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》攻2000

伏せ×3

《ワンダー・ワンド》

VS

神楽坂LP:3900 手札4

裏守備モンスター×1

伏せ×1

《補給部隊》×2

《ブランチ》

フィールド魔法《融合再生機構》

 

 

「一気に追い込まれたわね……伏せカードも殆どブラフのようだし、《メタモルポット》の5ドローの内容次第じゃ押し切られかねないわ」

 

「いや、その点は神楽坂のバランス感覚なら問題ないだろう。むしろ、問題なのは相手の5000オーバーの攻撃力――武藤 遊戯はそこまで火力(攻撃力)勝負に秀でたデュエリストじゃない。その面は彼のデッキをコピーした神楽坂にもダイレクトに影響している筈だ」

 

 やがて色んな意味で波乱の多かったブラマジガールのターンへの解説をこなす明日香たちを余所に――

 

「……俺のターン! ドロー! 儀式魔法《高等儀式術》発動! デッキの通常モンスターを――光と闇を! 《エルフの剣士》と《デビル・ドラゴン》を贄に捧げ、カオスフィールドを生成!!」

 

 なんか神楽坂のフィールドでクライマックス感が溢れるエルフの光とドラゴンの闇の力によって道筋が天より描かれる。

 

「儀式召喚!! 駆け抜けろ! 《カオス・ソルジャー》!!」

 

 さすれば、その光と闇の道筋――カオスフィールドを駆け抜ける中で、その身に藍の堅牢な鎧に身を包んだ超戦士がフィールドに降り立ち、剣を構えた。

 

《カオス・ソルジャー》攻撃表示

星8 地属性 戦士族

攻3000 守2500

 

 

「くっ……、伝説の剣士ですら、今のブラマジガールの攻撃力には届かない……!」

 

「つーか、アイツ《カオス・ソルジャー》まで採用したのか!?」

 

「いくら《高等儀式術》が通常モンスターを利用できるからって無茶だろ……」

 

『まぁ、普通はそう思うだろうさ』

 

「今のアイツは『持ちうるカードを全てつぎ込んだ遊戯さん』なんだ! 遊戯さんのカードを外すことなんて絶対にしない!」

 

「……そう……なの……?」

 

「ほう、神に選ばれし者へと手を伸ばすとは――いつの世も人間とは愚かしいな」

 

 途切れることなく現れる闇遊戯ムーヴなデュエルに観客たちのハートを鷲掴みにしていくが、神楽坂の展開はこの程度では止まらない。

 

「魔法カード《融合徴兵》! エクストラデッキの《竜騎士ガイア》を公開し、デッキから《暗黒騎士ガイア》を手札に!」

 

 未だ5枚ドロー可能な《メタモルポット》の効果も使っていないというのに次々と神楽坂の元へ集うは――

 

「まだだ! リバースカードオープン! 罠カード《融合(フュージョン)準備(・リザーブ)》! エクストラデッキの《カイザー・ドラゴン》を公開し、デッキから《砦を守る翼竜》を! 墓地より《融合》を手札に!」

 

 数多のドラゴンたち。

 

 こうして、このターンに名前の挙がった《デビル・ドラゴン》、《砦を守る翼竜》、《カイザー・ドラゴン》――それらの元々の持ち主である万丈目は、信じられない様子で呟いた。

 

「……アイツ、まさか俺が渡したドラゴン族カードを全て採用したのか……!?」

 

――いや、それなら……それなら、たった1つだけ存在する……! あの馬鹿げた攻撃力になった《ブラック・マジシャン・ガール》を真正面から打ち倒す方法が!

 

 そして気づく。神楽坂の狙いに。

 

「魔法カード《融合》! 手札の《暗黒騎士ガイア》とドラゴン族である《砦を守る翼竜》の2体で融合召喚!! 飛翔せよ、《天翔の竜騎士ガイア》!!」

 

 やがて、馬の背から跳躍した二双の突撃槍を持つ騎士が、宙に舞う水色の小型ドラゴンの背中にまたがれば、騎士は竜騎士となって空を駆ける。

 

《天翔の竜騎士ガイア》攻撃表示

星7 風属性 ドラゴン族

攻2600 守2100

 

 フィールド魔法《融合再生機構》の効果で最後に手札に残った《ホーリー・エルフ》を《融合》に変換してセットした神楽坂は運命のドローに賭けた。

 

「此処で反転召喚だ! 《メタモルポット》! その効果により互いは手札を全て捨て、新たに5枚ドロー!!」

 

《メタモルポット》裏守備表示 → 攻撃表示

星2 地属性 岩石族

攻 700 守 600

 

――此処で引き込めるか神楽坂……あのカードを!

 

「――来たぜ、万丈目!」

 

 やがて司会の万丈目に向けて親指を立てつつ僅かに視線を送った神楽坂が繰り出すのは――

 

「俺は《メタモルポット》をリリースし、《カース・オブ・ドラゴン》をアドバンス召喚!!」

 

 《メタモルポット》の壺が砕け散った先から、身体の各所に鋭利な棘が伸びる土色のドラゴンが雄たけびと共に宙を舞う。

 

《カース・オブ・ドラゴン》攻撃表示

星5 闇属性 ドラゴン族

攻2000 守1500

 

「ふっふっふ、どれだけモンスターを呼び出そうとも、最強になったわたしの前では無力ですよ!」

 

 とはいえ、次々と繰り出されるドラゴン軍団はブラマジガールの脅威ではない。彼女が調子に乗って天狗になった鼻を伸ばすように胸を張る様子を見れば分かろう。

 

 だが、これにて神楽坂の全ての準備は整った。

 

「お前が最強の力を振るうのなら、俺は究極の力で応えよう――魔法カード《融合》発動!!」

 

「今更、なにを融合召喚したって――」

 

「俺はあらゆる融合素材に変化する力を持つ《沼地の魔神王》を究極のドラゴンとして扱い! 伝説の剣士と融合させる!!」

 

 そして、《融合》を見せ付けるように腕を突き出した神楽坂の背後で、白き三つ首の竜の幻影が薄っすらと映れば――

 

「――究極融合召喚!!」

 

「きゅ、究極融合召喚!?」

 

「――《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》! 降・臨!!」

 

 天より降り立つのは、伝説の白き竜が三つ首の究極の姿と化した背中に、究極の剣士が乗った――まさにその名に恥じぬ、究極の竜騎士。

 

 その存在感は、フィールドに佇むだけで圧倒的な力を感じさせる。

 

究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》攻撃表示

星12 光属性 ドラゴン族

攻5000 守5000

 

「こ、攻撃力5000!? で、でも5000じゃ最強になったわたしは倒せませんよ!」

 

「いいえ、あのカードの効果は!」

 

「自身以外のドラゴン族の数×500パワーアップする! そして、今の神楽坂のフィールドには2体のドラゴン族が!」

 

「そうだ! よって《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》の攻撃力は――」

 

 そして、《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》の圧倒的な力に仲間たちの力も合わされば、まさに鬼に金棒。

 

究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)

攻5000 → 攻5500 → 攻6000

 

 

「《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力を上回った!!」

 

「バトル!!」

 

 数多の師匠の屍の上で圧倒的なまでの力を手にしたブラマジガールを超えた究極のパワーを見せた《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》を従えた神楽坂が力強く攻勢を宣言。

 

「残念だけど、その攻撃は――」

 

「《天翔の竜騎士ガイア》でアンタに攻撃するぜ!」

 

「えぇっ!? 《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》じゃないんですか!?」

 

 だが、想定外の進軍命令に、なにやら動こうとしていたブラマジガールが突き出した手も思わず固まる。

 

「上手いわね、神楽坂くん――攻撃時に相手を守備表示にする《天翔の竜騎士ガイア》なら相手の攻撃力は関係ないわ!」

 

「わ、わわ! さ、させません! 罠カード《ドラグマ・パニッシュメント》! エクストラデッキのカードを墓地に送り、その攻撃力以下の相手モンスター1体を破壊します!」

 

 しかし、明日香の解説に慌てた様子でブラマジガールがリバースカードを発動させれば天より一筋の大剣が襲来し、《天翔の竜騎士ガイア》を貫いた。

 

「(天翔の竜騎士)ガッ……ガイアッッッ!!」

 

「ガイア――爆・殺! ふふーん! これで、ドラゴン族が減ったので、《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》もわたしの力の前にひれ伏――」

 

「融合モンスターが破壊されたことで、永続魔法《ブランチ》の効果! 甦れ、《砦を守る翼竜》!!」

 

「あっ」

 

 だが観客の悲痛な声が響く中、騎士を失ったドラゴンこと《砦を守る翼竜》がなに食わぬ顔で翼を広げている。竜騎士、散れどもドラゴンは死なず。

 

《砦を守る翼竜》守備表示

星4 風属性 ドラゴン族

攻1400 守1200

 

 やがて2枚の永続魔法《補給部隊》で2ドローする神楽坂は呆けた様子で口を開けるブラマジガールを余所に、観客席で腕組みする吹雪を見やり視線で合図した。

 

 

「行くぜ、海馬(吹雪さん)!!」

 

「全速前進だ!!」

 

「兄さん、怒られるわよ」

 

 そうして、吹雪に海馬ムーヴをお願いした神楽坂は――

 

「 「 《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》の攻撃!! 」 」

 

 闇遊戯と海馬のタッグを思わせるように互いの所作を合わせれば、それに呼応するように《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》の剣士の部分(カオス・ソルジャー)が剣にエネルギーを漲らせ、

 

 ドラゴンの部分(青眼の究極竜)の三つ首のそれぞれからブレスをチャージ。

 

「 「 ギャラクシィイイィイイ!! クラッシャァァアァアァアア!! 」 」

 

「さ、最強になったわたしがー!!」

 

 四筋の破壊の奔流が大地を砕きながらブラマジガールを呑み込み、

 

 《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》だけが油の切れた機械のような所作で破壊の傷跡を眺めていた。

 

「……普通にエクレシアに攻撃してればライフ削り切れたんじゃ……」

 

「明日香、ロマンも時には必要なんだ」

 

 とはいえ、明日香の言うように明らかに攻撃する相手を間違えたように思われたが――

 

ブラマジガールLP:2800 → 2750

 

「しかし、50の僅かなダメージとはいえ――50だと?」

 

「快進撃も此処までですよ! 永続罠《マジシャンズ・プロテクション》を発動していました! これで魔法使い族を従えるわたしへのダメージは全て半減しちゃいます!」

 

 三沢のハッとした表情の通り、このブラマジガール――そんじょそこいらのマジシャンの小娘とは一線を画す。

 

「そして、魔法使い族が破壊されたことで、墓地の《マジクリボー》を回収!」

 

「拙い! この流れは!」

 

「ふははははー! たった50ポイントでもダメージはダメージ! 手札の《マジクリボー》を墓地に送り、効果発動でーす! 復活だ、最強無敵のわたし!!」

 

 《マジクリボー》が杖をクルンと振るえば、《ブラック・マジシャン・ガール》が華麗に復活。

 

 というか、ブラマジガール自身がピョンとジャンプしてフィールドへ舞い戻りつつ、《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》とハイタッチを交していた。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》攻撃表示

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

攻5900

 

 

「ほら、明日香――やはりロマンを重視したのは間違いじゃなかっただろう?」

 

「でも、《マジクリボー》のサルベージと復活があるんだから、ダメージを取っておくべきよ――って、兄さん、サラッと実況席に紛れこまないで」

 

「しかし厄介だな。《マジクリボー》のループを断たない限り、攻撃力5000オーバーの《ブラック・マジシャン・ガール》が復活し続ける……まさに無限ループ」

 

 やがて、苦労して倒した筈の《ブラック・マジシャン・ガール》が簡単に舞い戻った現実に吹雪・明日香・三沢が各々の考察(デュエルに関係ないのもあるが)を披露する中――

 

「くっ……! なら《カース・オブ・ドラゴン》でエクレシアを攻撃! ヘル・フレイム!!」

 

「迎え撃って、エクレシアちゃん! フルスイング・ハンマー・シュート!」

 

 此処に来て焦りを見せ始めた神楽坂の声に従い《カース・オブ・ドラゴン》が炎を噴けば、《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》はハンマー投げよろしくグルグル回転した後、大型ハンマーを投擲。

 

 お空にてゴツンと痛そうな音が響く中、回転し過ぎて今度はグルグルと目を回してフラフラしていた《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》は案の定《カース・オブ・ドラゴン》の炎のブレスを躱せず、炎の中に散っていった。

 

「相打ちになっちゃったけど、エクレシアちゃんの頑張りが、《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》から力を削ぐよ!」

 

究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)

攻6000 → 攻5500

 

「……俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 こうして、超大型モンスター《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》を呼び出した割に相手へ痛手を与えられなかった神楽坂は、沈痛な面持ちでエンド時にフィールド魔法《融合再生機構》の効果で《暗黒騎士ガイア》を手札に戻し、ターンを終えた。

 

 

ブラマジガールLP:2750 手札5

《ブラック・マジシャン・ガール》攻5900

伏せ×1

《マジシャンズ・プロテクション》

VS

神楽坂LP:3900 手札5

究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》攻5500

《砦を守る翼竜》守1200

伏せ×1

《補給部隊》×2

《ブランチ》

フィールド魔法《融合再生機構》

 

 

「絶好調のわたしのターン! ドロー! 相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたカードが存在する時に、このカードは手札から特殊召喚できまーす!」

 

 対する《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》という特大モンスターの攻撃を華麗に(疑似的に)躱せたブラマジガールは有頂天な様子で攻めに転じる。

 

「お願いします、エクレシアのお姉ちゃん! フルルドリスさん!!」

 

 そうして呼び出されたのは純白の西洋鎧に身を包んだ長身の聖剣士――女だてらに大盾を軽々と片手に装備した聖騎士の容貌は鎧に覆われ伺えない。

 

 だが、《教導(ドラグマ)の聖女エクレシア》の仇討とばかりに前のターンに《竜騎士》を屠った地面に突き刺さっている大剣を片手で引き抜く姿から勇猛な様子が見て取れた。

 

教導(ドラグマ)の騎士フルルドリス》攻撃表示

星8 光属性 魔法使い族

攻2500 守2500

 

「更に魔法カード《融合派兵》発動! 効果はキミも知ってるよね? エクストラデッキの《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》を公開し――」

 

 更にダメ押しとして――

 

「分身の術――なんちゃって、2体目の《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚!」

 

 ブラマジガールの隣に、今度はソリッドビジョンの《ブラック・マジシャン・ガール》がターンしつつ並び立つ。その姿は当人の言う通り「分身の術」という程にソックリである。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》攻撃表示

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

攻5900

 

「此処に来て2体目ですって!?」

 

「幾ら神楽坂のライフが殆ど初期値とはいえ、あのパワーの波状攻撃は……!」

 

「バトル~! わたしで《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》を攻撃!」

 

 明日香と三沢が焦った声を零す中、神楽坂を追い詰めるべくブラマジガールは追撃の一手を打つ。

 

「さ・ら・に! この瞬間、罠カード《マジシャンズ・サークル》を発動~! お互いはデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族を――()()()()で特殊召喚()()()()()()()()()

 

 さすれば互いのフィールドの足元に魔法陣が描かれた。

 

「おっと、これは拙いね。彼のデッキに低ステータスの魔法使い族がいれば、殆どダイレクトアタックと変わらないダメージを受けてしまう」

 

「わたしが呼ぶのはこの子! 《チョコ・マジシャン・ガール》!」

 

 やがて、吹雪の懸念を余所に魔法陣より、水色の長髪がのぞくとんがり帽子をかぶった青い魔法少女風の衣装を纏った魔術師の少女が、衣装の背中から伸びるコウモリの翼をピコピコ動かし現れる。

 

《チョコ・マジシャン・ガール》攻撃表示

星4 水属性 魔法使い族

攻1600 守1000

 

「ハ、ハハン、残念だったな。俺のデッキに、もう魔法使い族は存在しないぜ!」

 

 しかし、対する神楽坂のフィールドの魔法陣は不発に終わった。闇遊戯のデッキがごった煮な性質が功を奏したゆえか、首の皮1枚繋がる神楽坂。

 

「だったら、わたしでそのまま攻撃続行! そして、さっきのお返しだー! 手札から《幻想の見習い魔導師》を捨て効果発動! バトルする闇属性・魔法使い族1体の攻撃力を2000ポイントアップ!!」

 

「なっ!?」

 

 だが、その程度は誤差とばかりに褐色肌の《ブラック・マジシャン・ガール》とでも言うべき魔術師の少女がブラマジガールの手札から飛び出し、援護するように魔法を放てば――

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻5900 → 攻7900

 

 

「えーい! スペシャル・ブラックバーニング!!」

 

 天に掲げた杖の先に灯る炎の魔術が隕石ほどに肥大化し、大火球となって《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》に向かって放たれた。

 

 対峙する《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》もドラゴンの三つ首のブレスと、その背に乗る剣の斬撃が振るわれるが、ジリジリと押し負け始め――

 

 

「――ぐぅぁぁぁああああ!!

 

 巨大な大爆発が神楽坂のフィールドを包み込み、その爆炎の渦中にてドラゴンの断末魔が響き渡った。

 

神楽坂LP:3900 → 1500

 

「くっ、まるで攻撃力6000の時であっても関係ない――そう言いたげな攻撃だわ……!」

 

「いや、それよりもこれで神楽坂は闇属性の魔法使い族へ、安易に攻撃できなくなった……例え、相手の手札に《幻想の見習い魔導師》がなくとも、牽制される今の状況は厳しいものがある」

 

 これには明日香や三沢も、圧倒的な攻撃力を真正面から殴り返したブラマジガールのド脳筋な火力攻撃に戦慄を覚える。伝説の魔術師の師弟らしからぬパワーファイトであろう。

 

「あの女、イロモノ枠かと思ったら中々に強いぞ!?」

 

「伝説の三体の龍が選んだ魔術師が弱い訳がなかろう」

 

 やがて万丈目とサイコ・ショッカーが未だ立ち昇っている巨大な爆炎を前に、腕を目元にかざしながら神楽坂の2枚の永続魔法《補給部隊》での2枚ドローを見守る他ない。

 

「だが、《究 極(マスター・オブ)(・ドラゴン)騎士(ナイト)》が破壊されたことで、《ブランチ》の効果! 墓地より舞い戻れ、《カオス・ソルジャー》!!」

 

 しかし、その爆炎を切り裂きながら《カオス・ソルジャー》が神楽坂のフィールドに降り立ち身代わりになってくれた相方(青眼の究極竜)の分まで戦わんと剣を構える。

 

《カオス・ソルジャー》守備表示

星8 地属性 戦士族

攻3000 守2500

 

「くっそ~、伝説の剣士でさえ、今は守備表示にするしかねぇのか……」

 

「……がんばれー……」

 

『ここが正念場だろうね』

 

「お次はフルルドリスさんで《カオス・ソルジャー》を攻撃! そして、フルルドリスさんが攻撃する時、『ドラグマ』たちは500ポイントパワーアップ!」

 

 だとしても、十代とレインの願いも虚しく主の命により抜かれた《教導(ドラグマ)の騎士フルルドリス》の大剣が上段より振るわれ、《カオス・ソルジャー》の剣とぶつかり合えば、先程までの連戦の影響か《カオス・ソルジャー》の剣はピシリとひび割れれば――

 

教導(ドラグマ)の騎士フルルドリス》

攻2500 → 攻3000

 

「カ、カオス・ソルジャー!!」

 

「そして、《チョコ・マジシャン・ガール》で《砦を守る翼竜》も撃破!」

 

 《カオス・ソルジャー》は愛剣もろとも一刀のもとに切り伏せられ、仲間が次々と散っていく光景に思わず空に回避した《砦を守る翼竜》も、《チョコ・マジシャン・ガール》の桃色ビームによってお菓子になって地面に転がる末路を辿った。

 

「そして、そして~!! 2体目のわたしでダイレクトアタック!!」

 

 さすれば、残るはブラマジガールの言う通り、守り手を失った神楽坂のみ。

 

 やがて増え続ける観客との一体感を煽るようにブラマジガールは杖を構えて――

 

「みんなー! 行っくよー!」

 

「い、行くのか……?」

 

「もはや追い打ちじゃあ……」

 

「ファ、ファンである俺たちには退く道はねぇ!」

 

「もうやめて! とっくに――」

 

 若干、引き気味の観客たちと共に――

 

「―― ブ ラ ッ ク ・ バ ー ニ ン グ ! !」

 

 

「 「 「 ゆ、遊戯さぁぁああぁん!! 」 」 」

 

 

「いや、あれ、神楽坂!」

 

 

 火炎球の魔術が神楽坂にダイレクトに襲い掛かり、そのフィールドにて何度目か分からぬ大爆発を引き起こす。

 

 

 5000オーバーのダメージなだけに、その威力が計り知れない様が轟々と立ち昇る業火からも伺えた。

 

 

 そうして、観客の誰もが遊戯さんの敗北を確信し、このデュエルの最後を固唾を呑んで見守る中、爆炎が煙と化して晴れれば――

 

 

 

神楽坂LP:1500

 

 

「ゆ、遊戯さん!」

 

「耐えた……!」

 

「このパターンは!」

 

 しかと2本の足で立つ神楽坂の姿に、観客たちも思わず拳を握った。

 

「……俺は手札の《クリボー》の効果によりダメージをゼロにさせて貰った。ありがとう、《クリボー》……お前のお陰で俺はまだ――戦える!!」

 

 そんな神楽坂の元には、遊戯お馴染みの黒い毛玉こと《クリボー》が煙にせき込む姿が見える。

 

「なら、バトルを終了し、《チョコ・マジシャン・ガール》の効果! 手札の魔法使い族を墓地に送り、1枚ドロー!」

 

 しかし、辛うじて猛攻を躱した神楽坂の絶望は終わらない。《チョコ・マジシャン・ガール》がブラマジガールへ1枚のハート型の入れ物を渡せば、中からチョコが――

 

「おぉ! 良いカードを引きました! 魔法カード《救魔の標》! 墓地の魔法使い族1体――《幻想の見習い魔導師》を手札に回収しまーす! カードを1枚セットしてターンエンドでーす!」

 

 いや、チョコのような褐色肌を持つ先程、神楽坂へ悪夢を見せた《幻想の見習い魔導師》がブラマジガールの手札に舞い戻る結果を生む。

 

「ま、またブラマジガールの手札に《幻想の見習い魔導師》が……」

 

 

ブラマジガールLP:2750 手札2

《ブラック・マジシャン・ガール》×2 攻5900

教導(ドラグマ)の騎士フルルドリス》攻3000

《チョコ・マジシャン・ガール》攻1600

伏せ×1

《マジシャンズ・プロテクション》

VS

神楽坂LP:1500 手札6

伏せ×1

《補給部隊》×2

《ブランチ》

フィールド魔法《融合再生機構》

 

 

 かくして、ゴクリと戦慄の意味で喉を引きつらせる観客を余所に、解説席の背後にて腕組みしていた吹雪が言葉を零した。

 

「どうやら、彼のコピーデッキ――展開方面にかなり力を入れているようだね」

 

「勝手に解説役を取らないで、兄さん」

 

「流石です、天上院先輩。俺はデッキ構築に携わったゆえに気づけたの――」

 

「チッチッチ、フブキングと呼んでくれるかな?」

 

「フ、フブキングですか……」

 

「……兄さん、もう分かったから、せめて大人しく解説してて」

 

 やがて、明日香の退散命令にも動じず、三沢にブッキーハラスメントを繰り出す兄の姿に明日香も諦めたように続きを促せば――

 

「なら、遠慮なく――神楽坂くんのコピーデッキは融合軸で何とかまとめてある。遊戯さんの上級・最上級が多い構築も《ブランチ》でワンクッション挟むことで、展開を持続しやすくしているんだね」

 

――予想外に兄さんが凄い真面目に解説してる……

 

「でも、展開に特化した半面、防御や妨害面は酷く薄い。厳しい言い方だけど、アレじゃあ『武藤 遊戯()()()デュエル』は出来ても『武藤 遊戯()デュエル』は出来ない」

 

 飛び出したのは明日香も驚きのマトモな説明。デュエルを一見しただけだというのに理解度がやたらと高い。流石はフォースと言ったところか。

 

「それは神楽坂が一番理解しています! だからこそ、その展開力で――」

 

「だとしても、相手のマジシャン・ガールさんのデッキは少々風変りとはいえ、攻撃・防御・展開・妨害の一通りが揃っている。凡その下準備をとうに終えた彼女を崩すのは容易くないよ」

 

――普段からこのくらい真面目にしてくれれば――って、感心してる場合じゃなかったわ!?

 

 そうして、(神楽坂)を援護する三沢と吹雪の解説がヒートアップして行く光景に、明日香は慌てて己の役目に戻った。場を整えるのは彼女の仕事である。

 

「彼女が難敵なのはよく分かったわ。それで兄さんの見立てでは神楽坂くんの逆転の芽は、どのくらいあるのかしら?」

 

「そうだね……彼には武藤 遊戯のような攻防一体のデュエルは出来ない――まさに盾を持たないデュエルキング」

 

「矛だけじゃ勝てないって言うの?」

 

「かもしれない。でもね、明日香。そんな矛しか持たない紛い物に、この場の人間は――」

 

 吹雪も、神楽坂の奮闘を理解していても「デュエルキングの劣化コピー」というレッテルを外すことは出来ない。本物はあんなものじゃなかった。それは実力者ほどに如実に実感させられることだ。

 

 しかし、それでも今の絶体絶命の状況で神楽坂がカードをドローする姿が吹雪に――いや、周囲の観客たちの瞳を捉えて放さない。

 

「俺のターン! ドロー!!」

 

 

「――伝説を幻視したんだ」

 

 

 この場の誰もが紛い物の背に、思わず伝説の影を重ねてしまっていた。

 

 

「リバースカードオープン! 罠カード《融合(フュージョン)準備(・リザーブ)》! エクストラデッキの《バラに棲む悪霊》を公開し、デッキから《グレムリン》を! 墓地から《融合》を手札に!」

 

 そうして、巨大な茨に覆われた赤い薔薇から深緑の肌の女の悪霊がフッと花弁を飛ばせば、その1枚より耳の大きな獣を思わせる緑の悪魔が神楽坂の手札に舞い込む。

 

 さすれば神楽坂は、1枚のカードを手札から引き抜いた。

 

「そして手札1枚をコストに魔法カード《ジョーカーズ・ストレート》発動! デッキから《クィーンズ・ナイト》を特殊召喚し、更にデッキから《キングス・ナイト》を手札に加えて召喚できる!」

 

 すると、赤い鎧を纏った金の長髪の女剣士が絵札のマークが描かれた盾を構えて現れ、右手の剣を天へとかざせば――

 

《クィーンズ・ナイト》攻撃表示

星4 光属性 戦士族

攻1500 守1600

 

 そこに交差する形で己の剣を添えた立派な顎髭を蓄えた金髪の壮年の黄金の鎧を纏う剣士が青いマントを翻しながら現れる。

 

《キングス・ナイト》攻撃表示

星4 光属性 戦士族

攻1600 守1400

 

「更に召喚された《キングス・ナイト》の効果! 《クィーンズ・ナイト》が存在する時、デッキから《ジャックス・ナイト》を特殊召喚する! 並び立て、絵札の三騎士!!」

 

 そして、その交差した2つの剣に呼応するように3つ目の剣――青き鎧に身を纏う青年の剣士が並び立った。

 

《ジャックス・ナイト》攻撃表示

星5 光属性 戦士族

攻1900 守1000

 

 

「遊戯さんのフィールドに3体の贄が揃った!」

 

「……揃った……!」

 

『いや、三幻神は墓守の一族ってのが管理してるんだから、アイツが持ってる訳ないだろ』

 

 かくして、遊戯と3体の生贄――そして残った召喚権。

 

 この3つが揃った時、誰もが連想する伝説のカードの存在を十代とレインたちが期待するも、ユベルの言う通り、それは実現不可能な部分である。

 

「まだだ! 魔法カード《融合派兵》! エクストラの《砂の魔女(サンド・ウィッチ)》を公開し、デッキから《岩石の巨兵》を特殊召喚!!」

 

 しかし、そんなことはおかまいなしに神楽坂のフィールドに箒にまたがる伝統的な赤い魔女の衣装に身を包んだ緑髪の女が指をパチンとならせば、

 

 大地より巨大な岩石がせりあがり、己が正体を明かすように音を立てて展開し、二刀の石の剣を持つ岩の兵隊ことゴーレムとなって主の命令を待つ。

 

《岩石の巨兵》攻撃表示

星3 地属性 岩石族

攻1300 守2000

 

「そして、俺の手札1枚を墓地に送り、出てこい! 《THE() トリッキー》!!」

 

 更に神楽坂のモンスターゾーンの最後の席に「?」が描かれたマスクと道化師を思わせる衣装を纏った魔術師が、ビシッと敬礼しながら現れた。

 

THE() トリッキー》攻撃表示

星5 風属性 魔法使い族

攻2000 守1200

 

 

「すっごく沢山、呼び出したね! 今度は何を融合するのー?」

 

「いいや、俺が呼び出すのは手札のこのカード!!」

 

 そんなこんなで、神楽坂のフィールドを埋め尽くした5体のモンスターたちの姿にブラマジガールは頬に指を置いて小首をかしげて見せるが、彼女の予想を覆すように神楽坂は手札の1枚を腕を横へ振り切りながら示した。

 

「――神の召喚!!」

 

「か、神の召喚!?」

 

 それは、ありえない筈の1枚。

 

「俺のフィールドの5体のモンスターを生贄に現れろ!!!」

 

 しかし、そんな前提を破壊し、5体のモンスターが天へと昇る光と化して消えれば、地響きと共に大地に亀裂が入り、全てを薙ぎ倒す破壊の神が顕現する。

 

 

「――エクゾディア!!」

 

 

 強大すぎる己の力を封じる為の手足の鎖を引きちぎり、天を衝く程の藍色の巨躯と共に己が力を示すように、大気を震わせる程の雄たけびを上げた。

 

《守護神エクゾディア》攻撃表示

星10 闇属性 魔法使い族

攻 ? 守 ?

 

「5体を生贄にアドバンス召喚されるモンスター!?」

 

「モンスターではない――神だッ!!」

 

 そして、その《守護神エクゾディア》の巨体を見上げるブラマジガールが思わず一歩後ずさる中――

 

 

「神の力は、生贄にしたモンスターの力の合計となる!!」

 

 

 《守護神エクゾディア》の巨躯へ破壊の神に相応しい絶対的な力が内蔵されれば、拳を握る所作一つで周囲の空間は軋みを上げ、大地が限界を迎えたようにひび割れていく。

 

《守護神エクゾディア》

攻 ? 守 ?

攻8300 守8300

 

 

 その圧倒的なまでの神の威容に観客たちも思わず拳を掲げて叫んだ。

 

「神だ!」

 

「デュエルキングの魂!」

 

「しかも攻撃力8000超え!」

 

「さすがだぁ……」

 

「《幻想の見習い魔導師》のパワーアップすら恐るるに足りん!」

 

「なら、こうです! 罠カード《黒魔族復活の棺》! 相手が召喚した時、そのモンスターとわたしの魔法使い族を墓地に送って、デッキ・手札・墓地から魔法使い族を特殊召喚します! フルルドリスさん、お願い!」

 

 だが、そんな歓声に水を差すように大地に大剣を叩きつけた《教導(ドラグマ)の騎士フルルドリス》によって、《守護神エクゾディア》のひび割れていた足元から魔法陣が浮かび上がるが――

 

 

「神を生贄に!?」

 

「無駄だぜ、ブラマジガール! 遊戯さんの神にトラップなんて通用しない!」

 

「……しない……!」

 

『見た感じ、そんな効果はないみたいだよ』

 

 知らないのか、神に小細工など通用しない。

 

 しかし、ひび割れた大地に描かれた魔法陣より生じた5枚の石板から幾重もの鎖が飛び出し《守護神エクゾディア》を封じるように纏わりつけば、神の苦悶する声が響いた。

 

「――エ、エクゾディア!!」

 

 さすれば、《守護神エクゾディア》は「封印されし」との代名詞を示すように大地に沈み、5枚の石板へ姿が彫られていくごとに身体は存在を保てぬように薄まっていき――

 

「か、神が……!?」

 

「消えていく……!?」

 

「あ、ぁりぇなぃ……」

 

「もうダメだぁ……おしまいだぁ」

 

 5枚の石板に封じられ、沈黙。観客たちも絶望の様相で見守る他ない。

 

「そして、3体目のわたし降~臨~!」

 

 やがて、その5枚の石板を砕き3体目の《ブラック・マジシャン・ガール》が分身よろしく登場。観客へピースを贈るが、帰ってくる反応に最初の頃の明るさはない。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》攻撃表示

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

攻5900

 

 

 当然、神楽坂も同様の絶望感の只中にいた。

 

「くっ……! 神を以てしてでも、届かないのか……!」

 

 倒しても倒しても、その圧倒的な攻撃力と共に無限に復活する――みんなのアイドルこと《ブラック・マジシャン・ガール》。

 

「もはや俺には、無限に現れる魔術師へ成す術は……」

 

 最後の希望だった《守護神エクゾディア》も失った現実は、対峙する神楽坂にとっても悪夢でしかない。

 

「勝てない……ブラック・マジシャン・ガールを……倒す手段は……ない」

 

 ゆえに思わず膝をついた神楽坂は絶望のままに力なく呟いた。

 

 多くの仲間たちの協力のもとで作り上げた己のデッキがまるで通じない事実は神楽坂の心に深い影を落とす。

 

――すまない、みんな……やっぱり俺じゃ……

 

 皆と共に作り上げたデッキに「これならば」と自信が持てたゆえに、神楽坂は申し訳なさも相まってデッキの上に手を置く。

 

 

 

 

「――立ち上がれ!!」

 

 前に、周囲の喧騒を打ち消す程の力強い声が木霊した。

 

 その叱責するような声に思わず顔を上げた神楽坂の視界に映るのは、

 

 

 橙色の長髪を風にたなびかせる青年の姿。

 

 だが、その青年の顔には伝説の白き龍を思わせるマスクによって口元以外は伺えず、

 

 何処かで見たようなことのある白いコートがなんとも印象深い。

 

「カイバー……マン?」

 

「カイバーマンじゃねぇーか。完成度高けーなオイ」

 

 そう、その《正義の味方カイバーマン》に酷似した人物。観客の反応から見ても、そのクオリティはブラマジガール程に高いことが伺える。

 

「……兄さん、今度は誰を連れてきたの?」

 

「いやいや、あれはボクとは関係ないよ」

 

 その乱入者に明日香は原因と思しき兄――吹雪を見やるが、彼は両手を上げて無罪を主張。

 

「カイバーマンさん!?」

 

「馬鹿な、何故あの男がこんな場所に!?」

 

『まさかアレ、お前たちの知り合いかい?』

 

 どうやらブラマジガールや、サイコ・ショッカーたちは知っているようだが――

 

「スッゲー! 本物そっくりだ!」

 

「……そっくり……」

 

「ああ、モクバ様ですか? 今、社長はどちらに――そうでしたか、会社に。いえ、なら構わないのですが」

 

 その辺りの事情を知らぬ十代たちは、カードから飛び出してきたような完成度にテンションを上げるばかりである。

 

 

「だが、カイバーマ――」

 

「貴様が目指した男は、此処で立ち止まるようなデュエリストだったか!」

 

 そんなカイバーマンへ、神楽坂は己の限界を悟ったように口を開くが、振り払うように腕を振ったカイバーマンの声が響く。「お前は一体誰をコピーしたのだ」と言わんばかりだ。

 

「無限などというまやかしを前に膝をつくデュエリストだったか!」

 

「――違う!! あの人は……あの人は、そんなデュエリストじゃない!! だけど……だけど、俺は!!」

 

 しかし、神楽坂は「コピー」ゆえの限界を感じ、「劣化コピーでしかない」と続けようとするも、それより先にカイバーマンが遮るように宣言した。

 

「ならば他ならぬ()のデッキを信じて進め! 敗北であっても、己が手で踏み記したロード! それがお前の未来となるのだ!」

 

 それは「劣化」ではなく「変化」であると、「コピー」であっても今や「お前のデッキ」なのだと。

 

「それを遮るものがいるのなら例え、神であろうとも――」

 

 そう、敗北であっても踏みしめて進め。それがカイバーマンの語るデュエリストのあるべき姿。

 

 それを邪魔するのなら周囲の評価であろうが、己のプライドであろうが、神であろうが――

 

 

「――薙ぎ倒していけ!!」

 

 

 突き進んだ先にこそ、彼が目指したデュエリストの姿がある筈だ。

 

 

 

 その言葉を受けた神楽坂はハッとした表情で己の過ちに気づく。

 

 敗北するのは誰だって嫌だ。負けるより勝てた方が良いだろう。

 

 しかし、敗北は決して避けられるものではない。幾ら無敗を誇ろうとも、いつかは敗北に追いつかれる。

 

 デュエルキングとて、それは例外ではない。

 

――そうだ。デュエルキングは……例え、敗北が間近にあろうと最後まで戦い抜いた……!

 

 ペガサス島のデュエル――デュエルキングは、敗北の瞬間でも前を向いていた。

 

 今の己のように、つまらないプライドにこだわってサレンダーを選びはしなかった。

 

 そして、その真摯な姿勢こそが武藤 遊戯をデュエルキングたらしめる力に繋がっていたじゃないか。

 

――俺は今まで彼の何を見てきたんだ……!

 

 デッキ構築。

 

 プレイング。

 

 タクティクス。

 

 それらだけがデュエルキングの強さの全てではなかった筈だ。

 

 デュエルキングのデュエル映像を世界で誰よりも繰り返し観察・研究してきた神楽坂が、見落としていた部分を受け入れた時、彼の膝は地面より離れる。

 

 やがて、2本の足で立ち上がった神楽坂を見たブラマジガールは相手を指さしながら挑発的な言葉を投げかけた。

 

「どうやら相談は済んだみたいですね! さぁ、この最強わたし軍団を前にどうしますか!」

 

「ハハン……焦るなよ。勝負は此処からだぜ!!」

 

 それに応える神楽坂の答えは一つ。

 

――だが、俺の残った3枚の手札じゃギリギリ後1度の融合が限度……いや、そもそもこの状況を覆せる融合モンスターは既に……今の俺のデッキに手は残されて――

 

 それが例え、ただの強がりであったとしても最後まで戦い抜かんと神楽坂は己に残された3枚の手札を見やるが、残念ながらその3枚では逆転どころか次のターンをしのぐ算段すら立たない。

 

――いや、ある()()()()()()……! だが、相手のデッキカラーを考えれば、可能性は限りなく低い……それでも!!

 

 かに思えた。

 

 僅かに見えた光明に、そのか細い可能性に神楽坂は僅かに迷うも――

 

「魔法カード《思い出のブランコ》発動!! 墓地より舞い戻れ、《ブラック・マジシャン》!!」

 

 神楽坂の闘志に応えるように《ブラック・マジシャン》が魔法陣より舞い戻り、杖を構えた。

 

《ブラック・マジシャン》攻撃表示

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

――その可能性に俺は賭ける!!

 

「最後はお師匠様が相手ですか――でも、《思い出のブランコ》じゃあ、そのデメリットでエンドフェイズに自壊しちゃいますよー!」

 

 そうして、墓地の師匠カードが減ったことで若干パワーが落ちたブラマジガール軍団だが、対する今の《ブラック・マジシャン》では壁にすらならないと胸を張って煽ってみせる程に余裕タップリである。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》×3

攻5900 → 攻5600

 

「フィールド魔法《融合再生機構》の効果で手札を墓地に送り、デッキから魔法カード《融合》を手札に!!」

 

「今更、なにを融合しても無駄ですよ!」

 

「いいや、違うぜ。俺は融合召喚する為にこのカードを手札に加えた訳じゃない」

 

「……? じゃあ、何の為に?」

 

 しかし、逆転の融合召喚を警戒するブラマジガールに対し、神楽坂は精一杯強気な笑みを浮かべて最後の一手を打った。

 

「こいつの為さ! 手札の魔法カードをコストに、魔法カード《二重魔法(ダブルマジック)》を発動!!」

 

「ダ、《二重魔法(ダブルマジック)》!? ……って、なんですか?」

 

「その効果によりアンタの墓地の魔法カード1枚を俺のフィールドにセットする!」

 

「ま、まさか!?」

 

「その『まさか』さ! 今の俺に勝利の布石は存在しない――だが、お前のデッキなら、どうかな?」

 

「さぁ、見せて貰うぜ! お前の墓地の魔法カードを!!」

 

 やがて、このデュエルで一番大きく動揺を見せたブラマジガールの背後に、墓地に眠るカードが浮かび上がっていく。

 

――あのカードがあれば……!

 

「わ、わたしの墓地が赤裸々にー!」

 

 その宙に並ぶカードを注意深く見やる神楽坂は緊張した表情を浮かべていたが、ある1枚のカードの存在を確認した時、その瞳が大きく見開かれた。

 

「俺はそいつをセットさせて貰うぜ! そして発動せよ、魔法カード――」

 

 それこそが、この状況を一変させるカード。

 

「――《黒・魔・導・連・弾(ブラックツインバースト)》!!」

 

 魔術師師弟の合わせ技――武藤 遊戯の代名詞と言える「結束の力」の象徴の1枚。

 

「そうか! あのカードなら!!」

 

「知ってるの、三沢くん!?」

 

「あれは《ブラック・マジシャン》の攻撃力をフィールドの《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力分パワーアップするカード!」

 

「でも、神楽坂くんのフィールドに《ブラック・マジシャン・ガール》なんて――」

 

「違うよ、明日香――《黒・魔・導・連・弾(ブラックツインバースト)》は()()()()()()()()()()()()

 

 やがて三沢の解説に問題点を定義する明日香と注釈を加える吹雪を余所に、カイバーマンは小さく鼻を鳴らした。

 

「フゥン、あの小娘の復活がライフダメージをトリガーにしている以上、無限など残りライフという限界に囚われたまやかしに過ぎん」

 

「つ、つまり最強わたし軍団のパワーが……!!」

 

「全て、俺の《ブラック・マジシャン》の元に集う!!」

 

 そして、3体の弟子の力を逆利用して己の力と化し、黄金の闘気を纏う《ブラック・マジシャン》。

その洗練された魔力の流れは師としての腕の違いを見せるかの如し。

 

《ブラック・マジシャン》

攻2500 → 攻19300

 

 

「こ、攻撃力1万9300のブラック・マジシャンだとォ!?」

 

「カックィー!」

 

「バトルだ! 《ブラック・マジシャン》!!」

 

 そして、観客の声援を余所に《ブラック・マジシャン》は天へと飛翔しタクトのように杖を回転させ、空一面に幾重にも重なり合った魔法陣を展開させていく。

 

「お、お師匠様…………怒ってます?」

 

 そんな見るからにオーバーキルな大魔法が展開されて行く光景を前に、一歩、また一歩と後ずさったブラマジガールたちに向かって――

 

 

「―― 黒 ・ 魔 ・ 導 (ブラック・マジック)!!」

 

 

 天より雷撃の如き黒き光が落ち、周囲を光の奔流が呑み込んだ。

 

 

 

 やがて、光が晴れた先には、クレーターの中で目を回して倒れるブラマジガールの姿が残るのみ。

 

 

 そんな中、現実感なく呆然としていた神楽坂だったが、相手のライフがゼロになったことを示す音が響いたと同時に――

 

 

ブラマジガールLP:2750 → 0

 

 

 握った両手を掲げて、天へ勝利の雄たけびを上げた。

 

 

 

 

 師弟決戦――此処に決着。

 




~今作のブラック・マジシャン・ガールのデッキ~

謎の宗教にハマり、師匠を墓地に送りまくる弟子の図――なデッキ。
『マジシャン・ガール』は手札の師匠を墓地に送れる《チョコ・マジシャン・ガール》以外は採用されていない。
デッキの凡そ4分の1が師匠で埋まって枠がないからね! 仕方ないね!

そんな具合で、墓地で師匠扱いになるカードを落とし終えれば、攻撃力5600がスナック感覚で呼び出され続ける構図になる。

それだけ墓地アド稼げるなら他のカードで制圧盤面敷ける?
その(ブラック・マジシャンの)命、ブラマジガールへ捧げよ。

なんの耐性も強力な効果もない弟子だが、
シンプルなパワー(攻撃力)の波状攻撃は意外と洒落にならない――が単調。

初期手札が師匠フルハウスになることが多々あるが、師弟愛で乗り切ろう。



~今作の神楽坂のデュエルキングのコピーデッキ~

融合代用モンスター以外のモンスターは遊戯に関連するカードしかないデッキ。
とはいえ、大半のモンスターを「融合素材」と割り切っている為、完全に融合軸に振った構築。

それにより、融合召喚することに大半のリソースが取られている為、防御面は頼りない。
《ブランチ》で後続を繋げてはいるものの、相手ターンは基本やられっぱなしになる。

なお、エクゾディアパーツ5枚は流石に邪魔なので、三幻神ポジも兼ねて《守護神エクゾディア》で代用している。




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