マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
三沢フラグが立った! 立ったよ、兄貴!






第267話 未知との遭遇

 

 

 

 意外な人物の登場に内心で面食らう神崎を余所に、ステップジョニーはラジカセをポチッと操作して軽快な音楽を響かせながら指を天へと向けて始まりを告げるように宣言していた。

 

「ミュージック・スタート!!」

 

――渡米するだけでなく、有名オーディションのデュエル試験まで辿り着いていたとは…………私が宇宙に行っている間に頑張っていたんだな……

 

「俺の先攻、ドロー! まずは本日のライブ会場へ案内するぜ! フィールド魔法《召魔装着》発動! これにより、俺の戦士・魔法使い・ドラゴン族は300パワーアップ!」

 

 そうして、ステップジョニーが指さした天井からミラーボールよろしくカラフルな光が明滅し始める。

 

「弱体化しちまうが――《悪魔嬢リリス》を通常召喚! 更に魔法カード《融合派兵》を発動だ! エクストラデッキの《クリッチー》を公開し――《黒き森のウィッチ》をデッキから特殊召喚!」

 

 そんな即興のステージに二本角が伸びる赤髪の女悪魔が舞い降りれば、その隣に立つようにステップジョニーは陣取り――

 

《悪魔嬢リリス》攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻2000 守 0

攻1000

 

 《悪魔嬢リリス》から横に離れるようにステップジョニーがポーズを固定しながらスライド移動すれば、その間から紫色の長髪を持つ盲目の女性が身に纏う黒いローブの端を少し掴みながら優雅に一礼しつつ現れた。

 

《黒き森のウィッチ》 攻撃表示

星4 闇属性 魔法使い族

攻1100 守1200

攻1400 守1500

 

 やがて《悪魔嬢リリス》の効果で闇属性の《黒き森のウィッチ》がリリースされ、デッキから選択された3枚の内の1枚のカードがセットされる中、同時にバックステップで下がったステップジョニーが手札の1枚を手に指をパチンと鳴らせば――

 

「墓地に送られた《黒き森のウィッチ》の効果で手札に加えた《ハイ・プリーステス》を墓地に送り、フィールド魔法《召魔装着》の効果! デッキより『魔装戦士』1体――《魔装戦士 アルニス》を特殊召喚だ!」

 

 ステップジョニーが先程いた場所に朱雀を思わせる深紅の全身鎧を纏った女戦士が多段の機械翼を広げて空より着地した。

 

《魔装戦士 アルニス》守備表示

星4 炎属性 戦士族

攻1700 守1200

攻2000 守1500

 

 そうして、最後にカードを1枚セットして横に一回転してターンを終えたステップジョニーを見やった神崎は、使用されたカードと原作知識から相手のデッキ内容を逆算し始める。

 

――『魔装戦士』を絡めているとはいえ、原作でのアテム曰く「ミュージシャンデッキ」が根底に見える。フェイバリットを意図的に隠した行為を鑑みれば……

 

 その精度は、今までのオーディション相手と異なり原作知識からひととなりを把握しているだけに高い。

 

 ゆえに、己の良い手札を確認した神崎は好調な自身に違和感を覚えつつも、仕事を果たす。

 

――此方の手札は悪くない。余裕を持って動ける。デッキ改造が上手く働いたか? 彼には感謝しないと。

 

 

ステップジョニーLP:4000 手札2

《魔装戦士 アルニス》守1500

《悪魔嬢リリス》攻1000

伏せ×2

フィールド魔法《召魔装着》

VS

神崎LP:4000 手札5

 

 

『私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを経てメインフェイズへ。《サクリボー》を召喚』

 

 そんな新調された神崎のデッキの一番槍はやはりと言うべきか毛玉が1匹ことクリボーの1体。背中のウジャト眼を亀の甲羅よろしく背負いながらヤル気タップリに小さな手足を左右に伸ばす。

 

《サクリボー》攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

 

 その神崎のデュエルを映像越しに別室で眺めていたセラは、採点担当の職員からの意向に沿った指示をインカムを通じて送った。

 

「神崎、《魔装戦士 アルニス》を破壊するようにとの話です」

 

『了解』

 

「ねぇ、セラ――神崎さんってデュエル強いの? あんまりデュエリストってイメージないんだけど……」

 

 そんな中、手持ち無沙汰になった杏子は手を止め待ちの姿勢となったセラへと思わず問う。

 

 それは神崎のデュエルの腕前の話。

 

 試験する側は色々求められるとの話を聞いた身だが何人かの試験が画面の向こう側で終わっている今でも、それらの片鱗は見えてこない。

 

 杏子の目には至って普通にデュエルしている光景しかなく、あまり何かに秀でている印象がないデュエルだった。

 

「そうですね。『デュエリストとして』見れば少々物足りない実力になるかと」

 

「……? それって、どういうこと?」

 

 だが、態々呼び立てて依頼した側のセラも杏子の辛口採点に同意を見せる。セラから見ても正直、神崎は「デュエリストとしては二流」との印象が拭えない。

 

 しかし、その物言いに違和感を覚えた杏子が小首をかしげる姿へ苦笑交じりに注釈を入れた。

 

「デュエリストが持つべき『勝利への意識』が酷く低いんです。その意識の差は窮地の時ほどに大きく響く――海馬社長も、その点へは大きな苦言を申されていました」

 

 それが神崎の「デュエリストとして」の「致命的な」欠陥。

 

「ふーん、あの海馬くんが……」

 

「『目的が叶えば負けても構わない』とも言いかねない在り方は、やはり海馬社長と馬が合わないのでしょうね」

 

 その点に助けられたものもあれば、取りこぼしたものもある。

 

 勝利こそを是とする海馬とは、真逆な性質ゆえに相容れない――が、その相反する2つがあったからこそ見えた景色(BIG5との和解)もあった。

 

 その辺りの複雑な諸事情が結果主義な海馬をしても、神崎を受容にも排斥にも踏み切れなかったのだろう。

 

 やがて、神崎の実力を「弱くはないが、一流と比べると見劣りして物足りない」との認識を杏子が抱く中――

 

『《サクリボー》をリリースして《機巧嘴(きこうし)八咫御先(ヤタノミサキ)》を特殊召喚。バトルフェイズ、《悪魔嬢リリス》を攻撃』

 

 画面上の神崎のフィールドに四対の翼を広げる黄金の体躯を持つ翼竜がいなないていた。

 

機巧嘴(きこうし)八咫御先(ヤタノミサキ)》》攻撃表示

星5 光属性 機械族

攻2050 守2050

 

 

 そして、《サクリボー》の効果で1枚ドローする神崎の声に従い《機巧嘴(きこうし)八咫御先(ヤタノミサキ)》がいななきと共に翼を広げて《悪魔嬢リリス》へ足の爪を繰り出す。

 

「そっか――って、《悪魔嬢リリス》に攻撃してるけど良いの? 確か、《魔装戦士 アルニス》に攻撃するって話じゃ……」

 

「――!? 神崎、どういう意図で――」

 

 だが、そんな杏子の声に、セラ――もとい劇団側――の指示を無視した神崎のデュエルへ、セラの脳内で「責任・信用問題」の文字が脳裏をよぎり始めた。さっき神崎をちょっと褒めたのが台無しである。

 

『罠カード《立ちはだかる強敵》! バトルの相手こと、選曲は俺に決めさせて貰う! アルニスのダンスに酔いな!』

 

 しかし、その《悪魔嬢リリス》を庇うように深紅の翼を広げて飛翔し、割って入った《魔装戦士 アルニス》が《機巧嘴(きこうし)八咫御先(ヤタノミサキ)》の爪の一撃によって貫かれて散っていく。

 

『そして破壊されたアルニスの効果! デッキから攻撃力1500以下の魔法使い族――《黒き森のウィッチ》を特殊召喚!』

 

 そんな中、砕けた《魔装戦士 アルニス》の深紅の鎧の中から《黒き森のウィッチ》が現れると共に宙に放り出され、地上で受け止めるような所作を取るステップジョニーが横にターンするタイミングでフィールドに降り立った。

 

《黒き森のウィッチ》攻撃表示

星4 闇属性 魔法使い族

攻1100 守1200

攻1400 守1500

 

 

 そうして、結果的に当初の予定通りになったデュエルの流れに安堵の息を吐くセラを余所に、百済木は感嘆の息を漏らす。

 

「ほぅ、中々の目を持ってるなぁ……流石はペンギンのオジキ(BIG5の大瀧)の盟友さんだぜぇ」

 

「えっ? セラの指示無視しちゃって構わないの?」

 

 だが、返ってきた杏子からの当然の疑問へ、百済木は肩をすくめながら呆れ気味に返した。

 

「やれやれ、これだから演出が分かってない奴は――『華麗に防いだ』絵の方が映えるのよぉ」

 

 そう、先程ステップジョニーが発動した《立ちはだかる強敵》は《悪魔嬢リリス》の効果によって確認後にランダムにセットされた罠カード――神崎の動体視力を以てすれば、その位置を把握しておくことなど容易い。

 

 ただ、シャッフルしたカードを動体視力で判別する行為がルール的に問題か否かは怪しいところだが、黙っていれば確実なグレーである。

 

 実際、今の百済木のように「相手の反応からセットされたカードを予想した」とでも勘違えば確認する術はない。

 

「……はいはい、私は未熟ですよー」

 

『メインフェイズ2に八咫御先(ヤタノミサキ)の効果発動。モンスター1体を通常召喚します。《クリバンデット》を召喚』

 

 そんな真っ黒なグレーゾーンを突っ走る神崎の元に、眼帯にバンダナの犯罪者こと盗賊風ファッションのまん丸毛玉がナイフ片手に現れていた。

 

《クリバンデット》攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1000 守 700

 

 そうして、仮にも表現者(ダンサー)である己に毒を吐いた百済木へ、杏子は口を尖らせて流す中、画面上の神崎はカードを2枚セットしてターンを終える。

 

 更に神崎は、そのエンド時に《クリバンデット》の効果でデッキの上5枚の中から《バーサーカークラッシュ》を手札に加え、残りを墓地に送り、

 

 ステップジョニーは最初のターンのように《悪魔嬢リリス》の効果で《黒き森のウィッチ》をリリースし、デッキから新たな罠カードをセットしつつ、《黒き森のウィッチ》の効果でデッキから新たなモンスターを手札に加えて次のターンに備えていた。

 

 

 だが、そんな両者のデュエルの経緯を眺めていた杏子はふと零す。

 

「でも、さっきから『クリボー』ばかりね……神崎さんのデッキって意外とファンシー?」

 

「デッキと違って本人は中々に良い性格をしておられますけどね」

 

 それは杏子が持つ神崎のイメージとの乖離から出たものだったが、指示無視の件からかセラから中々に棘のある注釈がなされれば、杏子は思わず問うてしまう。「ひょっとして仲が悪いのか?」と。

 

「そ、そうなんだ……ひょっとして、昔に何かあった?」

 

「兄と共に殺し合いました」

 

「えっ」

 

「冗談です」

 

「あっ、うん」

 

 だが、その詳細は物騒な発言を優しく微笑んで流したセラの姿を前に、杏子は引き下がらざるを得ない。

 

――セラたちと、神崎さんの間に一体なにが……

 

 やがて、杏子は聞くに聞けない雰囲気を前に悩まし気にする他ない中、画面上のライフの変動のないデュエルは動きを見せ始めていた。

 

 

ステップジョニーLP:4000 手札3

《悪魔嬢リリス》攻1000

伏せ×2

フィールド魔法《召魔装着》

VS

神崎LP:4000 手札4

機巧嘴(きこうし)八咫御先(ヤタノミサキ)》攻2050

伏せ×2

 

 

「魔法カード《融合派兵》! 今度は《裁きを下す女帝》を公開し、ベースを呼ばせて貰うぜ! 来なッ、《響女(ヒビキメ)》! 更に《音女(オトメ)》を通常召喚し、ツインベースだ!」

 

 通常ドローしたステップジョニーが両手を左右に広げる所作と共に繰り出したのは2体のバンドウーマン。

 

 ウェーブのかかった青い長髪に肩の出た緑のドレスに身を包んだ女戦士が、音符マークの大鎌をベースのように構えて演奏準備に入り、

 

響女(ヒビキメ)》 攻撃表示

星4 地属性 戦士族

攻1450 守1000

攻1750 守1300

 

 上述の女戦士と瓜二つの外見で、赤い髪とピンクのドレスの女戦士が同じような音符マークの大鎌をギターよろしく構えてベースを担当してみせる。

 

音女(オトメ)》攻撃表示

星3 地属性 戦士族

攻1200 守 900

攻1500 守1200

 

「此処で主役の登場だァ! 罠カード《死魂(ネクロ・)融合(フュージョン)》! 墓地の融合素材となる2体を裏側除外し、鳴り響け俺のソウル!!」

 

 そして、ベースに続くように主役のご登場。デュエルディスクをギターのように動かしたステップジョニーの背後から――

 

「――《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》!!」

 

 背中合わせの形で現れたのは赤いバンダナで怒髪天を衝くように金髪を逆立てたジーンズ一丁のバンドマン。

 

音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》攻撃表示

星5 光属性 魔法使い族

攻1750 守1500

攻2050 守1800

 

「とはいえ、《死魂(ネクロ・)融合(フュージョン)》で融合した場合、そのターン攻撃は出来ない――だが! こいつでソウルビートを響かせる! 永続魔法《連合軍》!!」

 

 《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》が己の相棒の真っ赤なギターを打ち鳴らせば、その旋律に合わせるように《響女(ヒビキメ)》と《音女(オトメ)》も大鎌のベースを響かせる。

 

「これにより俺のフィールドの戦士族は、戦士族と()()使()()()の数×200パワーアップ!!」

 

 さすれば、そんな3人の演奏が戦士たちに力を与え、2人の大鎌は禍々しさを帯びていった。

 

響女(ヒビキメ)

攻1750 → 攻2350

 

音女(オトメ)

攻1500 → 攻2100

 

「最高に高まったロックンロールが、ミュージックの次元を押し上げた! バトルと行くぜ! 《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》バンドのビートを受けた《響女(ヒビキメ)》の渾身のソウルビートを受けな!」

 

 やがて、ステップジョニーが左右に開けていた腕を、足をピタンと揃えると共に前に突き出し、その両手の指で示した先に一歩前に出た《響女(ヒビキメ)》がソロパートとばかりに激しい曲調の歌声と共に大鎌のベースを弾きならす。

 

 さすれば、その音波にノックアウトさせられたのか翼竜であることを忘れたように《機巧嘴(きこうし)八咫御先(ヤタノミサキ)》がフラフラと墜落し、神崎の元に真っ逆さまに落下して爆散。

 

神崎LP:4000 → 3700

 

 それによりガラ空きになった神崎の本陣へと、ステップジョニーは姿勢を半身に変えながら指で銃のように構えて、銃弾を放つような仕草で攻勢を宣言した。

 

「続け! 《音女(オトメ)》! リリス! ダイレクトアタックだ!」

 

『クリー!』

 

『クリリ!』

 

 すると同時にステップジョニーの視界を黒いまん丸毛玉たちが覆いつくす。

 

「!? なんだ、この毛玉共!?」

 

「罠カード《レベル・レジストウォール》の効果です。破壊された八咫御先(ヤタノミサキ)と同じレベルになるようにデッキから任意の数のモンスターを効果を無効にして特殊召喚しました」

 

 さすれば思わず素でツッコミを入れたステップジョニーを余所に、神崎の元にはクリボー5兄弟の(多分)長男こと紫の毛玉がぬぼーと現れ、

 

《クリバー》守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

 さらに(多分)次男と思しき桃色の毛玉が強気な視線を送り、

 

《クリビー》守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

 そして、(多分)三男――ではなく、突如として現れた(多分)五男の三つ子の黒い毛玉ことノーマル《クリボー》の出現に「!?」と二度見した後に顔を見合わせる《クリバー》と《クリビー》。

 

《クリボー》×3 守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「オーディエンスが増えたなら、破壊のメロディを受けて貰うぜ! 死の一曲を届けてやりな! 《音女(オトメ)》とリリスで《クリバー》と《クリビー》を攻撃だ!」

 

 しかし、そんな毛玉寸劇を前にすぐさま正気に戻ったステップジョニーは前に伸ばした腕を天へと掲げて指を鳴らせば、それを合図に音符の大鎌ベースに乗って、悪魔の歌声が毛玉たちの心を奪う。

 

「破壊された《クリビー》の効果でデッキから『クリボー』の名が記されたカード――《クリボーを呼ぶ笛》を手札に。そして、《クリバー》の効果によりデッキから《クリボン》を特殊召喚」

 

 そうして、相手のライブ攻撃にテンションアゲアゲし過ぎて力尽き、グッタリした《クリバー》と《クリビー》をリボンのついた尻尾でベシッと片付けた毛玉こと《クリボン》を余所に――

 

《クリボン》守備表示

星1 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

 バトルを終えたステップジョニーは魔法カード《三戦の才》で2枚ドローし、カードを1枚セットしてターンを終える。

 

「そのエンド時にセットしていた速攻魔法《機雷化》を発動。《クリボー》を全て破壊し、その枚数分のカードを破壊します」

 

『クリッ!』

 

『クリリー!』

 

 だが、それと同時に三つ子《クリボー》たちは、カミカゼアタックを敢行。しかし、その行く手を遮るようにステップジョニーはターンしながら腕を払えば――

 

 

「伝説は止めさせねぇ! 罠カード《ガガガシールド》発動! こいつを装備した《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》の破壊はまぬがれる! 更にリリスも自身の効果でリリースだ!」

 

「では《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》と《連合軍》、《ガガガシールド》を選択します」

 

 空より縦に長い大盾が《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》の元に舞い降りれば、その大盾は彼のギターを巻き込み変形合体。

 

 トゲトゲ・ゴテゴテな装飾のついたビッグギターへと進化を遂げた結果、そのトゲに突き刺さった《クリボー》の1体は仕事を果たすことなく爆散し、天へと昇って行く。

 

 だが、2体目の誘爆でビッグギターの外装は破損し、元のギターへと逆戻り。

 

 そして、最後に仕事を果たし(爆死して)お空で敬礼する3体目の《クリボー》が永続魔法《連合軍》を破壊できたお陰で《響女(ヒビキメ)》と《音女(オトメ)》の攻撃力はガクッと下がっていた。

 

 

ステップジョニーLP:4000 手札1

音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》攻2050

響女(ヒビキメ)》攻2300 → 攻1750

音女(オトメ)》攻2100 → 攻1500

伏せ×2

フィールド魔法《召魔装着》

VS

神崎LP:3700 手札5

《クリボン》守200

 

 

 

 そうして、一気に攻勢に出たステップジョニーのターンが終える中、その様子を別室で画面越しに見ていた杏子は、このデュエル――いや、此処までの受験者()()のデュエルを通して浮かんだ疑問が思わず口から零れた。

 

「さっきからずっと思ってたんだけど……どうして、みんなデュエル中に踊るんだろう?」

 

 それは、デュエル中にオーバーな所作を以て疑似的にダンスを魅せる受験者たちの姿。

 

 1人、2人程度なら個人の問題だと流せなくもないが、ダンスの実技を見る場でもないのに今デュエルしているステップジョニーを含めて示し合わせたように踊りながらデュエルしている事実は杏子にとって只々不可解である。

 

 だが、そんな杏子へ百済木が呆れた様子を見せるが――

 

「おんや? 知らねぇのかい。ダンサーの端くれだってのに疎いこって」

 

「……悪かったわね」

 

「無理もありません。あのスタイルが確立されたのは最近の話とのことですから」

 

「そうなの?」

 

「百済木」

 

「へい、姉御」

 

 セラから客人対応を突き付けられた百済木は粛々と解説役を買って出る。

 

「まぁ、発端は『とある一人の男』がオーディションで始めたことを周囲が真似し始めた――言っちまえば、すんげぇアングラなもんだからよぉ」

 

 とはいえ、話の根幹は大したものではない。言ってしまえば「ただの流行り」でしかないのだから。

 

「アンタみたいにアンテナ弱い奴なら、知らなくても無理はねぇさ」

 

「そんな人が……」

 

 しかし、異国の地で土地勘も情報網(アンテナ)もない杏子が感心する中、画面上にてカードをドローした神崎のフィールドに動きが見られる。

 

『《クリボン》をリリースして《クリバビロン》をアドバンス召喚します』

 

『バビィッ!!』

 

 それは、伸びた2本の犬歯を覗かせる群青色の大きな毛玉が、額の一本角を天に伸ばしながら威嚇するように瞳を鋭くさせる姿。

 

《クリバビロン》攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻1500 守1000

 

『毛玉の親玉が登場か。だが、そんなパワーじゃ俺のダンスについては来れ――』

 

『自身の効果で墓地の『クリボー』の数×300のパワーアップです』

 

 その《クリバビロン》はステップジョニーの言う通り、まさに『クリボー』の親玉に相応しい力――散っていった同胞の『クリボー』たちの力を受け取って、グググと《クリバビロン》の体躯は2周り程大きくなった。

 

《クリバビロン》攻撃表示

攻1500 守1000

攻3300 守2800

 

 

『こ、攻撃力3000オーバー!?』

 

『バトルフェイズへ。《クリバビロン》で《響女(ヒビキメ)》を攻撃』

 

『バビビィッ!!』

 

 やがて、高まった力のまま《響女(ヒビキメ)》に《クリバビロン》は額の一本角を突き刺し、まん丸毛玉ボディで突撃を敢行。

 

「こ、攻撃力3300!? クリボーって、あんなにパワー出るんだ……」

 

「おいおい、勝負に熱くなっちまって、目的忘れてんじゃ――」

 

「その心配は無用だと思いますよ」

 

 その圧倒的パワーで叩き潰さんとする姿に、杏子と百済木が別々の意味で驚きを覚える中――

 

『ソロで押し負けるなら――セッションだ! 罠カード《援護射撃》!』

 

 ステップジョニーは《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》と共に左右で《響女(ヒビキメ)》を挟むように位置取ると共に、ギターをかき鳴らした。

 

『これにより《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》の攻撃力が、《響女(ヒビキメ)》に加算される! 即興のソウルビートを魅せてやりな!』

 

 さすれば、《響女(ヒビキメ)》の音符の大鎌のベースの音色は強靭さと棘々しさを増していき、音波の反射壁となって《クリバビロン》の突撃をはじき返す。

 

響女(ヒビキメ)

攻1750 → 攻3800

 

『墓地の《サクリボー》を除外し、破壊を免れます』

 

『バ、バビィ……』

 

 そして、吹き飛ばされゴロゴロ転がった《クリバビロン》が立ち上がれば、その自慢の一本角にヒビが入った事実に《クリバビロン》は涙目を見せていた。

 

《クリバビロン》

攻3300 守2800

攻3000 守2500

 

神崎LP:3700 → 3200

 

『へっ、良い音色だったろ?』

 

やがてバトルフェイズを終え、メインフェイズ2にて4枚の手札を見やる画面上の神崎を余所に、杏子はおずおずと先の話題を振り返る。

 

「ね、ねぇ、百済木くん、その噂の人って誰なの?」

 

「いんや、知らねぇ。だが、この業界に神風を巻き起こした奴なんだ。とっくにデカい舞台に昇り詰めてるだろうさ」

 

 それは、この場の多くの受験者たちに影響を与えたと思しき噂の謎のダンサーの正体。とはいえ、その正体はこの手の情報に聡い百済木にも掴めてはいない。

 

「な、名前とかは?」

 

「名乗り出た奴もいたらしいが、騙り(偽物)ばっかりだったらしい――オーディションの記録さかのぼりゃぁ一発でバレってのに馬鹿な奴らだよなぁ」

 

「じゃぁ特徴とかだけでも!」

 

「お、おぉぅ。噂じゃ、マントつけた大男だぁ、眼鏡の女だぁ、醜いブ男だぁ――な具合で情報が一人歩きしてる現状よぉぅ。騙り(偽物)が多かった弊害さぁ」

 

 だが、それでも詳細を求める杏子に、仕方なしに百済木は漠然と把握している範囲の情報を語るが――

 

「まっ、そんなに会いたいなら今デュエルしてる何でも屋さんに頼むんだなぁ」

 

『カードを2枚セットしてターンエンドです』

 

 餅は餅屋とばかりに百済木は、画面上にてターンを終える神崎を指さした。

 

ステップジョニーLP:4000 手札1

音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》攻2050

響女(ヒビキメ)》攻3800 → 攻1750

音女(オトメ)》攻1500

伏せ×1

フィールド魔法《召魔装着》

VS

神崎LP:3200 手札2

《クリバビロン》攻3000

伏せ×2

 

 

 そうして、辛うじて攻撃をしのいだものの《クリバビロン》の高い攻撃力を前に現在、成す術のないステップジョニーは突破口を見出す為にも気合を入れてドロー。

 

「俺のターン、ドロー!! 来たぜ! このデッキのボーカルの出番が! 《ハイ・プリーステス》召喚!!」

 

 その結果、遂に最後のバンドメンバーこと丸みを帯びた帽子から垣間見える澄んだ青の髪を持った女性が両の手を合わせた祈りの所作と共に現れた。

 

《ハイ・プリーステス》攻撃表示

星3 光属性 魔法使い族

攻1100 守 800

攻1400 守1100

 

「そして、こいつでラストソングのセッションを響かせろ! 魔法カード《マジシャンズ・クロス》!!」

 

 さすれば、MCのように振る舞ったステップジョニーの合図と共に《ハイ・プリーステス》がギターとベースの面々に見守られつつ、一歩前に出て地面からせり出したマイクの前に立てば――

 

「仲間のミュージシャン(魔法使い族)たちの攻撃を放棄することで、1体のミュージシャン(魔法使い族)に力を集め――このターン、攻撃力を3000にする!!」

 

 ロックな演奏に似つかわしくない澄んだ声でバラードを披露すれば、奇跡の調和によって《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》の音楽性も高まりを見せる。

 

音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)

攻2050 → 攻3000

 

「まだだ! 罠カード《メタル化・魔法反射装甲》発動! 《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》は、ヘヴィメタル・キングにパワーアップ!」

 

 そうして、高まりのまま《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》に両肩に棘のついたメタルな革ジャンとパンクなメイクがなされ、音楽性が攻撃的に変化。

 

音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)

攻3000 → 攻3300

 

「バトル! ヘヴィメタル・キングで《クリバビロン》を攻撃!」

 

 そんな《音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)》――いや、ヘビィメタル・キングのハイビートな旋律が《クリバビロン》に迫り――

 

「その攻撃時、手札の《クリブー》を捨てデッキから《クリボール》を手札に――墓地に『クリボー』が増えたことで《クリバビロン》の攻守が300上昇」

 

「相打ち狙いは無駄だぜ! ダメージステップ時《メタル化・魔法反射装甲》の効果で、相手の攻撃力の半分が追加でパワーアップ!」

 

 思わず仲間(クリブー)と共に負けじと叫んだ《クリバビロン》たちの声を飲み込みながら、ヘビィメタル・キングの奏でる音色が着弾。

 

《クリバビロン》

攻3000 守2500

攻3300 守2800

 

音楽家の(ミュージシャン・)帝王(キング)

攻3300 → 攻4950

 

 

「悪魔のキッス!!」

 

『バ、バビィ~!?』

 

 さすれば、圧倒的な音域に三半規管をやられたように《クリバビロン》は目を回してフラフラした後、ポテンと倒れてしまう。これにて、神崎を守る盾となるモンスターは消えた。

 

神崎LP:3200 → 1550

 

「《マジシャンズ・クロス》の効果で残りの魔法使い族の《ハイ・プリーステス》は攻撃できないが――戦士族のベースたちには関係ない! 《響女(ヒビキメ)》のダイレクトアタックでフィニッシュだ!」

 

「その直接攻撃の際、墓地の《虹クリボー》を特殊召喚」

 

 その隙を逃さぬように指を鳴らしたステップジョニーの宣言と共に《響女(ヒビキメ)》が音符の大鎌のベースを弾きならし、音波のビッグウェーブを叩きつけんとするが、その衝撃は紫色のつや肌ボールこと《虹クリボー》が観客として身体で受け止める。

 

《虹クリボー》守備表示

星1 光属性 悪魔族

攻100 守100

 

「だったら《響女(ヒビキメ)》で蹴散らして、《音女(オトメ)》のダイレクトアタックを受けて貰うぜ!」

 

 しかし、《虹クリボー》はあっけなくダウンした為、大鎌のベースを鳴らす《音女(オトメ)》の演奏は止められず、音波の波が神崎を強かに打ち付けた。

 

神崎LP:1550 → 50

 

 

『チィッ、フィニッシュを逃しちまったか……ならバトルは終了だ!』

 

 そうして、仕留めきれなかった事実に舌を打ちステップジョニーが悔し気な様相を見せる中、そんな彼らのデュエルを別室で眺めていた杏子は呼吸することを思い出したように大きく息を吐いた。

 

「ギ、ギリギリね……」

 

「よくもまぁ頭が回るもんだ」

 

 そして百済木と共に、中々見ることがないギリギリのライフの数値に対する各々の反応を見せる中――

 

「神崎、試験の終了を通告して欲しいとのことです」

 

『了解。お疲れ様でした。これで――』

 

『えっ……ま、待ってく――』

 

 インカムで神崎へ指示を出すセラの声に、画面上の神崎から社交辞令的な労いの言葉が告げられるも、僅かに理解の遅れたステップジョニーが食い下がる。

 

『結果は追ってお知らせするとのことです』

 

『くっ……本日は、ありがとござぃましたァ!!』

 

 だが、続いた神崎の平坦な声を前にステップジョニーは隠せない程の悔し気な表情を滲ませながら引き下がる姿が画面上に広がる光景に、杏子は思わずセラの方を振り返った。

 

「えっ、打ち切っちゃうの!?」

 

「劇団側のお眼鏡には適わなかったってことだろうなぁ」

 

 しかし、忙しそうに劇団側と橋渡しするセラの代わりに告げられた百済木の言葉が現状を端的に物語っていよう。

 

 

 

 

 

 

 

その後、代わる代わるオーディションデュエルは何度も繰り返されるも、試験官の補充が出来た段階で引継ぎを終えて神崎が解放されれば、セラが労いの社交辞令を贈った。

 

「腕は衰えていないようですね」

 

「この手の依頼もありますから」

 

 そうして手短なやり取りながらも依頼の完遂が告げられる中、杏子はおずおずと手を上げ申し出る。

 

「あ、あの神崎さん、今って依頼大丈夫ですか?」

 

「今の依頼主次第でしょうか」

 

「私は構いません。此方の依頼は完了しましたから」

 

「じゃあ、えっと実は――」

 

 それは、つい先程に百済木から語られた「ミュージカル界の謎の新星」の話。

 

 とはいえ、原作知識にもない話であり、最近まで宇宙にいた神崎からすれば初耳である。

 

――私が宇宙に行っている間に、そんなことが……

 

「そんな方がいらしたんですね」

 

 だが、同時に神崎は営業スマイルの裏で疑念を芽生えさせた。

 

――真崎さんの行動に合わせて出現した? いや、流石に勘繰り過ぎ……とも言い切れない。

 

 そう、件の謎の人物は、夢の道の最中に壁にぶつかった杏子にとってあまりに都合の良い存在。

 

 神崎の脳裏に「歴史の修正力」なる原作の鎖の気配がチラと映る。

 

――どうにも、タイミングがあからさま過ぎる……ほぼ破綻した原作の流れが元に戻ろうとしているとでも言うのか?

 

 しかし、そうして考え込む様子の神崎の姿を「否」の返答と感じて不安げな杏子だったが――

 

「あの……やっぱり、難しいですか?」

 

「そうだぜぇ、流石に時期が悪いぜ時期が」

 

「時期……?」

 

 百済木の含みのある発言に、情勢の問題を示される。だが、その辺りの事情など与り知らぬ杏子が疑問符を浮かべれば、セラが助け船を出すように命じた。

 

「百済木、説明を」

 

「しゃぁすッ!! アンタ、『賢者の宝石』の舞台を目指してんなら知ってるかもしれねぇが、その人選の厳選っぷりは他の追随を許しちゃいねぇ! ――と語ったところで実際問題、多少の妥協はされてる。人間なんだ、多少の差異は仕方がねぇとな」

 

 その内実は、杏子の夢の舞台――に携わる面々に激震が走ったことである。

 

「だが、とある学園祭にてミラクルは起こったのさ」

 

 それは、あるデュエルを学びやたる孤島での行事にて彗星のごとく現れた存在。

 

「まさにブラック・マジシャン・ガールの生き写しの出現! いや、まさにカードから飛び出してきたような存在! まさに神が創りし芸術!! まさに、金の卵!」

 

 そう、ご存知デュエルアカデミアに遊びに来た精霊こと、ブラマジガールさんである。

 

「突発的な乱入でありながら、周囲の状況を見て咄嗟にヒール役をこなしつつ、イメージを損なわないコミカルなキャラクター性を保ちながら最大限のパフォーマンスを演出させた技量! それすなわち究極の投影!」

 

 だが、当のブラマジガールからすれば「ちょっと人間世界に遊びに来た」だけだが、そんな事情など知らない人からすれば「絵の中の住人が現実世界に誕生した」レベルの話である。

 

 当然、捨て置かれる筈もなく世の中は大騒ぎだ。ブラック・マジシャン・ガールを題材にした舞台をしている劇団からすれば、見逃せる筈もない。

 

「――が、世界中が血眼になって探しても影すら見当たらない始末さぁ。その女の『お師匠様』とやらは、かなりのやり手らしい」

 

「そ、そうなんだ」

 

――そんな凄い人がいたなんて……

 

 そうして、熱弁した百済木の勢いに杏子はドン引きしながらも理解を見せる。話題性が大きすぎる話があれば、他の噂など掻き消えてしまうことだろう。

 

 だが、此処で神崎は1つばかり提案を切り出した。

 

「ただ、真崎さんからすればチャンスです」

 

「えっ?」

 

 とはいえ、急に「チャンス」だと言われても、今まで上手くいっていなかった杏子からすればピンとこないが、神崎にも言い分があった。

 

「今まで漠然としたイメージで先行していたものがある種、明確化されました。劇団への興味はないようですから彼女の振る舞いをコピーすれば真崎さんの夢も――」

 

 それが指標の出現。

 

 この話題っぷりからして、今後の「ブラック・マジシャン・ガールらしさ」がブラマジガールを基準にするだろうことは明白である。

 

 他の面々もブラマジガールの模倣に奔るだろうが、逆に土壌が他より真っ新な杏子の方が優位に立てる公算が高い。

 

「でも、それって――」

 

「おい、流石にそいつは酷ってもんじゃねぇかぁ?」

 

 だが、その意味するところへ杏子が気づくと同時に、百済木が待ったをかけた。

 

「どうしてでしょう?」

 

「確かに一つの解がなされたことは認めるぜ? だが、それは今までの演者の振る舞いが間違っていたことにはならねぇ」

 

 それは、形は違えど表現者(アイドル)の育成に関わる百済木の矜持だった。

 

 幾らブラマジガールが騒がれているとはいえ、その在り方全てが「賢者の宝石の舞台に適しているか?」と問われれば、「否」を返す他ない。

 

「劇団側だって完成形のコピーを求めている訳じゃねぇ筈だ。違うかい? 人の個性潰すような真似は無粋だぜ」

 

 ゆえに、杏子の個性を潰すような物言いを咎める百済木だが、神崎は首を横に振る。

 

「いいえ、これは真崎さんが夢を叶えられるチャンスが見えた旨を示させて頂いているだけです。選ぶのは彼女だ」

 

「自分殺してまで叶える夢に価値があるのかい?」

 

「夢への比重の置き方は人それぞれですよ」

 

「――そこまでにしてください。当人を置き去りにして話す内容ではありません」

 

 そうして、「夢を叶える為の代償としては大き過ぎる」との論争に発展し始める中、セラはパンと手を叩き、話題を打ち切らせた。

 

――やけに拘る……誰かから依頼を受けた話でしょうか?

 

「だ、だがよぅ、姉御」

 

 やがて、百済木の発言を封殺し、神崎の行動の根底をセラは内心で推察する中、論争の執着の為にも杏子に問いかけた。

 

「杏子は、どうなさるつもりですか?」

 

「か、可能性って、どのくらいありますか?」

 

「今までよりかは格段に上がります。努力は一定のラインまでなら平等に有効ですから」

 

 真崎 杏子という個を排した「ブラマジガールのコピー」として「夢が叶う」可能性は決して低くはない。

 

 神崎が語るように「努力」と「模倣」は相性が良いのだ。どんな技術体系でも、誰もが最初は模倣から始まるのだから。

 

「とはいえ、努力にも年齢という名の鮮度があります。やはり若い方が覚えが良い現実はある。決断が遅れれば遅れる程に可能性は下がるかと」

 

 しかし、努力でも「肉体の衰え」の問題はどうにも出来ない。それゆえに決断の重要性を神崎は告げるが――

 

「先程お伝えした通り、決めるのは真崎さんです。私に出来るのは選択肢を提示することだけですから」

 

 それでもなお、最後の決断は杏子に委ねた。

 

 なにせ、遊戯の依頼では「杏子の意思を尊重する」必要があるのだから。今までの物言いも遊戯の要望の範疇を逸脱しない範囲に留めている。

 

 

 そうして、セラ、百済木、神崎の3人からの視線にさらされる杏子は、降って湧いた決断を前に目をグルグル回しながら思考加速のオーバーフローをさせ――

 

「う、噂の人と会ってから決めます!」

 

 思考放棄気味の結論を下した。まぁ、専門家の意見を求めるのは間違いでもない。

 

「おいおい、相手は多分トップスターだぜぇ? なに話すんだよ……」

 

「そもそも会える確証がある訳ではないのですが」

 

 とはいえ、呆れ顔の百済木と共に困り顔をする神崎の言う通り、今の段階では段取りゼロである。

 

「百済木さん! 時間っす!」

 

「ディーヴァさんの投影準備できてます!」

 

「移動式ソリッドビジョンの稼働、入ります!」

 

「周辺地形との同期、オールクリア!」

 

「では、この話は以上です。杏子と百済木は仕事に戻りましょう――神崎、本日は助かりました。ありがとうございます」

 

 かくして、最後の最後でグダった相談会は百済木軍団の声を合図にて、セラの手により終わりを告げる。

 

 ゆえに神崎は追い出されるように、この場を後にすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、杏子回りのゴタゴタも鳴りを潜め、情報集めに奔走し始めた神崎。

 

「お次は謎のダンサー探し……か。一体その正体は誰なのやら」

 

 だが、原作にて影も形もなかった話となれば懸念材料は計り知れない。ゆえに、方針を悩む神崎だったが、携帯端末からのコール音にすぐさま思考から意識を引き戻し応対する。

 

「はい、『紹介屋』。ご用件は――」

 

『神崎! さっさとアカデミアに来い! 十代の元気が――』

 

――えっ? この声って……ユベル?

 

 しかし、携帯端末越しに響く聞きなれた声に神崎は面食らう。

 

「ユベル……さんですか? 通話できているということは、実体化なされている?」

 

――物質次元での実体化は精霊にとって、かなり力を使う行為だった筈……

 

 なにせ、相手が相手――(ヤベェ)精霊からの電話である。もはやホラー話の導入にすら思えた。

 

『そんなことどうでも良いだろ! お前、こういうの得意だったね! 口車でも何でも良いから、十代を元気づけるんだ! 良いか、直ぐにだぞ!』

 

――いや、現体制のアカデミアの来訪はしっかり手続きを踏まないと駄目なんだが……しかし、相手がユベルさん(元危険なヤンデレ)となると最悪の可能性もある。

 

 そんな中でも止まらぬ怒涛のユベルからの脅迫染みた要請に思考の渦に叩きこまれていた神崎は内心の動揺を抑え込んで平静を装い淡々と返す。

 

「直ぐに向かうのは構いませんが、本日中は流石に不可能です」

 

――KC社員の時ならまだしも、今のフリーの身じゃ、事後承諾でアカデミアに密入すれば大問題になる。

 

『関係ない! ボクの十代の一大事なんだぞ!』

 

「そもそも遊城くんは、何を落ち込んで――」

 

 そうして、現実的な問題を交えて会話の糸口を見出そうとしていた神崎だが、そのユベルとの通話は唐突にブツリと切れた。

 

 もはや、神崎は置いてけぼりを食らった精神のまま天を仰ぐ他ない。

 

――えぇ……本当に何があったんだ? 原作のような鬱展開の材料は皆無な環境なのに?

 

 なにせ、アカデミアに問題がないかどうかは神崎が何度もアカデミアを訪れて確認しつくした部分である。

 

 唯一あった危ない事件こと、サイコ・ショッカーの件でさえ、実質神崎の助力がなくとも新生アカデミア倫理委員会が問題なく対処できていた。

 

 それゆえに、問題の種すら見当がつかない神崎は思考放棄とばかりに「知ってる人に聞こう」と連絡を取り始める。だが――

 

「牛尾くん、今構いませ――」

 

『だから、勝手に部外者招こうとしてんじゃ――あ゛ァ゛!? 今、忙しいんだ! 後にし――って、お前はまた! 良いかよく聞けよ、ユベル! お前さんが十代を気にかけんのは分かるが、ガキ預かってる場で無茶苦茶されると困――』

 

「あっ、はい」

 

 速攻で通信を切られた。忙しいなら仕様がない。

 

 携帯端末から鳴る「ツー、ツー」との音がなんとも無常であった。

 

 やがて、「強引に現地入りするべきか?」と物騒なことを考え始める神崎へ、再び響くコール音。

 

「はい、此方――」

 

『コブラだ。神崎、既に連絡されただろうが、遊城 十代と共にいる精霊ユベルの件なら問題ない。其方の件での勝手な真似は慎んでくれ』

 

 そして続く、速攻で先回りして釘を刺しに来たコブラの声。流石が元軍人、判断が早い。

 

「心配なさらずとも、今は無茶をできる環境にはいませんよ」

 

『キミの過去の経歴を思えば釘を刺したくもなる――だが、此方はついでの話だ』

 

「と、言うと?」

 

 やがて、コブラの懸念をいけしゃあしゃあと、とぼけて見せる神崎に告げられるのは――

 

『どちらかと言えば、才能を腐らせかねない現状の方が問題だね』

 

「遊城くんが? 彼は悩みとは無縁なタイプだと思っていたのですが……」

 

――鬱展開であるデスデュエル編や異世界編が皆無な今のアカデミアで何を悩むんだ?筆記の点数?

 

 ユベルが騒いでいた「十代の元気がない」との話の部分。当然、神崎には皆目見当がつかない。

 

『多少の概要は把握しているが、本質の部分は不明瞭だ。マスター鮫島にも話は通したが、どうにも正攻法が通じる話ではないように思えてな。力を借りたい』

 

「――ご依頼ありがとうございます」

 

 しかし「依頼とあらば」と一二もなく笑顔で快諾した神崎。こうした切り替えの速さは彼の強味なのかもしれない。

 

 ゆえに、招待されるままに神崎はアカデミアに向けて動き出す。

 

 

 なお、かの地にてスポ根マンガみたいなことで悩んでいる十代がいるとは夢にも思っていない。

 

 

 







ミュージカルデュエルって本当になんなんだよ……(頭痛)


~今作のステップジョニーのデッキ~

彼が原作で使用したカードに戦士族・魔法使い族が多かった為、その辺りを中核に添えた代物。

原作アニメでの「メタル化を装備して、ヘビィメタル・キングだぜェ!」を目指すスタイル。

だが、最終着地点が「装備カードを沢山つけたレベル4バニラ」同然な為、デッキパワーはお察し。

《悪魔嬢リリス》の罠サーチにお世話になりっぱなしになるだろう。

原作アニメで使用していた《水の踊り子》と《ハープの精》? 《召魔装着》に対応できない面々をフォローする余裕など、このデッキにはない。

代わりに原作アニメで使用された《音女》の色違いモンスターの《響女》を追加したから許して。


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