マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

269 / 289



前回のあらすじ
デュエル関係以外あんまり役に立たないポジは遊戯王シリーズの伝統枠






第269話 大人の事情

 

 

 

 

 亮がひな形を考案したフォース候補生の制度がボチボチのスタートを切り出した頃、校長室にて呼び出された吹雪と小日向はクロノスから通達を受けていた。

 

「シニョール天上院、シニョーラ小日向――今後、2人ニーハ、候補生とハンデ抜きのデュエルをこなして貰うことになるノーネ」

 

「つまり、私たちはフォース不適格ってことですかー?」

 

「止しなよ、小日向くん。クロノス教諭にも深い訳が――」

 

 それは思いのほかに健闘する候補生たちへ制限の一部を解除する旨だが、態々自分たち「だけ」を呼び出したとなれば、小日向がそう勘ぐるのも無理からぬ話。

 

「そ、そういうことじゃなイーノ! これは、候補生のみんなーニ経験を積んで貰う為ナーノ! シニョール藤原や、カイザーには任せられないカーラ、貴方たち2人に任せるしかないノーネ!」

 

「ほら、深い訳があっただろう?」

 

「ハイハイ、深い訳ねー」

 

 しかし、吹雪の推察通りに事情を語るクロノスの慌てた姿へ、小日向は皮肉タップリに返した。

 

「よーするに、今いるフォースの卒業が目前だから候補生に追い上げかけたいけど、亮と優介の全力じゃアイツら叩き潰しかねないから、2人より落ちる私らに相手させようって話でしょ?」

 

 そう、どう贔屓目に見ても吹雪たちの扱いは格下のそれである。

 

「深すぎて笑えてくるんですけどー」

 

「こ、小日向くん校長先生の前だよ。言い方が――」

 

 ゆえに不満を隠そうともしない明け透けな小日向の態度へ、流石に吹雪もいさめるように忠告するが――

 

「構わんよ。正式な場で正せるのなら問題ない。我々はむしろ信頼の証と受け取っている程だ」

 

 コブラは普段の外面仕様を知っている為か気にした様子もない。だが、一応とばかりに教育者として注釈を入れる。

 

「へそを曲げたくなる気持ちは分からなくもない。だが、キミたちとて己の立ち位置を理解している筈だ。違うかね?」

 

「それは…………理解しています」

 

「はーい、了解でーす」

 

 やがて、突き付けられたアカデミア側からの評価に吹雪が言葉を濁す中、小日向の軽い調子の返事を最後にこの場はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 1年オベリスク・ブルーの教室にて、授業の終わりを告げる鐘の音が響けば教壇に立っていた佐藤は説明の手を止め、生徒の方を見やる。

 

「この2つのカードは一見すると同じ効果に見えますが――と、今日は此処までとします。課題を用意しましたので『必要だと思う者』は取りに来るように」

 

 そして、手短にそう伝えると教室の隅に備え付けられた机に乗った前回の課題の余りを回収しながら、今回分の課題を置いた後に去っていった姿を見送った十代は、力尽きたように机に突っ伏した。

 

「あぁー、佐藤先生の授業、受けるといっつも怠くなるぜ……」

 

『授業の堅苦しさはアカデミア一だね』

 

「それだけ貴様が筆記をおざなりにしてきた証明だ、馬鹿者」

 

「まぁ、仕方ないさ。カードテキストにすら記載がない効果内容なんて普通は意識する機会がないからな」

 

 やがて、頭から煙を出しそうな十代を一瞥もせずに切って捨てる万丈目は、一応のフォローを入れた三沢にも冷たく言い放った。

 

「止めろ、三沢。デュエルディスクに頼り切った軟弱者を甘やかすな」

 

『猿じゃないんだから、文明の利器に頼って何が悪いんだい?』

 

 遊戯王ワールドにおいてデュエルディスクは大抵の処理を自動で行ってくれるハイテク機器だ。複雑なルールからなる各処理をデジタルでオート化されることの恩恵は、誰の目にも明らかだろう。

 

 ユベルの言う通り、その利便性を頼ることは悪ではないが、この世界においてプロスポーツ的な側面の強いプロデュエリストを目指す者たちが「あっ、なんか知らないけど(偶然、効果が上手くかみ合って)勝った!」を連発されても困るのだ。

 

「うぉぁー、課題が億劫だぜ……」

 

「フン、嫌ならしなければ良いだけの話だ。課題があろうとなかろうと加点も減点もされんのだからな」

 

「そりゃ、そうだけどさー」

 

 そうして億劫そうに頭をかく十代が困った表情を見せるが、リアルでは「コンマイ語」などと揶揄される複雑怪奇なルールを正確に把握しなければならないことを思えば、共感も出来よう。

 

「十代」

 

「むぐぐ……ん? なんだ、三沢?」

 

 だが、そんな中ふと己の名を呼んだ三沢の声に十代が顔を上げれば、触れるべきか否かを僅かに逡巡した後に――

 

「迷いは……晴れたのか?」

 

「――おう! カイザーたちってスゲーんだな!」

 

 そう、三沢に問われれば、十代は一二もなく明るい調子で親指を立てて見せる。

 

 これには調子の戻った十代の姿が、ただの空元気かもしれぬと心配した三沢も肩の荷を下ろせよう。

 

「当たり前だ。そもそもフォース制度は、カイザーの為に用意されたようなものだぞ」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

『態々、1人の生徒の為に大袈裟な奴らだ』

 

「らしいな。俺も先輩方が噂しているのを聞いたことがある」

 

「真の傑物は周囲が放っておかんものだ」

 

 やがて、以前のような関係に無事戻れた十代たちがたわいもない話で盛り上がる中――

 

「――あっ、そろそろ行かねぇと!」

 

「毎度のことながらフォースの教室は1年の教室と距離があるのが面倒だな」

 

 以前とは唯一違う立場となった2人が、三沢へ軽く上げた手でもって別れの挨拶を贈る。

 

「じゃあ、三沢! また寮でな!」

 

「ああ、楽しんで来い」

 

『今度こそボクの力で、あのすまし顔にギャフンと言わせてやる……!』

 

 そうして、2人を見送った三沢が暫く板書を眺める中、他の生徒たちも含めて誰もいなくなった教室にてポツリと呟いた。

 

「…………1番君には、随分と引き離されてしまったな」

 

 しかし、その瞳には静かに燃える闘志だけが宿っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、校長室に訪れていた神崎は、テーブルを挟んで向かい合う形でコブラへ仕事がてら近況確認に勤しんでいた。

 

「――それで、遊城くんの様子はどうですか?」

 

「ああ、ヤマは越えただろう。今では元気なものだ」

 

「少々楽観的では?」

 

「心配せずとも元々彼らは凡その挫折を乗り越えた能力的に優れた面々だ。早々、大きな問題は起きんよ。今までのフォースの中でも、彼ほどに崩れたのは1人だけだ」

 

「そうでしたか」

 

 そうして、探り合うように語るコブラと神崎の会合の中――

 

――なんナーノ? ナンデ魑魅魍魎の化かし合いーに、ワタクシが巻き込まれてるノーネ?

 

 その空間に囚われたクロノスは置物のように沈黙を守りながら、己の不運を嘆く他ない。とはいえ、言うほど化かし合っている場でもないが。

 

「頼まれていた件は此方に。ただ、もう一方の件はお断りさせて頂きます」

 

「相変わらず仕事が早いな――クロノス教諭、キミはどう見る?」

 

 やがて、世間話も余所に神崎から差し出されたファイルを受け取ったコブラは、そのままクロノスにパス。

 

――は、話振らないで欲しイーノ!

 

「ちょ、ちょっと待ってなノーネ。今、確認すルーノ」

 

 当然、なんの気構えもしていなかったクロノスが内心で悲鳴を上げつつ、ファイルの中身を確認していくが――

 

――た、確かプロの招致の話だカーラ、この書類もその手の……って、プロの名前が一杯ナーノ!?

 

「そう焦らずとも構わんよ。それで神崎、メンタルケアの件は何か問題でも?」

 

 そんなクロノスを置いて、彼らの話は進んでいく。

 

「私のような乱暴な手法しか使えない人間ではなく、キチンと専門技術を修めた方が対応するべき話です。今回はイレギュラー中のイレギュラーでしたから」

 

「だが、キミ程にデュエルの知識を有している人間は、そうはいまい。教員との連携もスムーズに行える筈だ」

 

 その話題は、カウンセラー扱いの雇用の件だが、神崎は否定的だった。

 

「知識を持っていることと、教えるスキルは別物です。それに、この学園に長くかかわる気のない人間が、どの面さげて教育に携われますか?」

 

 なにせ、神崎としては原作GXの時期が終了すれば、5D’sへの本格的な備えが必要になる以上、十代たち以降の生徒への関心は限りなく0だ。

 

 そんな人物、教育に携わる者として失格と言えよう。

 

 だからこそ、神崎は頑なにアカデミアに籍を置こうとはしない。

 

 幾ら前世で培ったカード知識があろうとも、そんなものクロノスを含めた教員たちには当然のように備わっている代物だ。教育者として、さしたるアドバンテージにもなりはしない。

 

「頑なだな――ところでクロノス教諭、教育者のキミから見て彼はどう映る?」

 

 そんな神崎の姿勢を崩すのは難しいと見てか、別の切り口としてクロノスに話題を振るコブラ。だが――

 

――マルチタスク止めるノーネ! ついていけなイーノ!

 

 彼は現在、ファイルと格闘中である。内心で更に悲鳴を上げるクロノス。

 

「コブラ校長ゥーガ、彼を教員などぉーに雇い入れたいのナーラ、悪いけど反対せざるを得なイーノ」

 

 だが、それでもクロノスは、予め用意していた己のスタンスを示して見せた。

 

「どれだけ知識があろうトーモ、『乱暴な手法』を主にしている自覚がある人間ーニ、大事な生徒たちは任せらないノーネ!」

 

 そう、乱暴な手法――例えば、「素行の悪い生徒をデュエルでぶっ飛ばすぜ」なんて教育者の風上にも置けない人間性であろう。教え、導くのが教師の仕事なのだから。

 

 当然、先日の十代の時のように「精神的に追い詰める言葉でぶっ飛ばすぜ」もクロノス的には論外である。

 

「素晴らしいお考えです。彼のような志の高い教員の方がおられればコブラ校長も心強いですね」

 

 だが、そんなクロノスの言葉に感銘を受けたように小さく拍手する神崎。

 

――シニョールは、どの立ち位置なノーネ!? 今、ワタクシは貴方をけなしたノーヨ!?

 

 そして、その神崎にドン引きするクロノス。とはいえ、要約して「アンタ教育現場に向いてないよ」からの「素晴らしいお考えです」は意味不明であろう。

 

 ただ、神崎の中で「原作の光のデュエルを信じたクロノス先生」像をリアルで実感できた事実は、彼にとっては普通に感動ものである。ミーハーか。

 

 しかし、そんなミーハー心が伝わる訳もなく、場の空気が変な感じになり始める前にコブラは口火を切った。

 

「そうだな。彼には頑張って貰いたいものだ。それでクロノス教諭、そろそろ答えを聞こうか」

 

――き、来たノーネ!?

 

「プロの招致デスーガ、ホントにこんなに呼べるノーネ?」

 

「ええ、好みそうな話題を用意できれば興味を持って頂けるので――彼らも将来の商売敵の動向は気になるでしょうから」

 

 投げかけられた話題は神崎が持ち込んだファイルの中身――フォース用のプロデュエリスト招致の件。コブラが前回の際に依頼したものだ。

 

 今やKCを去った神崎だが、KC時代に培った人脈は意外と生きている。まぁ、門前払いされない程度の代物だが、それでも話だけでも通せるのは、やはり強い。

 

「それにフォースのブランドが継続さえすれば、直に私の仲介も必要なくなるかと」

 

 それに加えて、原作知識からなる「見る目が秀でている」と誤認されていることも相まって、フォースの評価に太鼓判を押せる事実も後押ししていた。

 

「デスーガ、そもそもの話、海馬オーナーに頼めーばKC経由で話が通るカーラ、シニョールの助力は必要なくなルーノ。シニョールでなければならない意味が少々疑問なノーネ」

 

「クロノス教諭、それは我々の問題だ。校長の席について実感したことだが、学び舎というのは古今東西どうにも閉鎖的過ぎる」

 

 しかし、神崎に出来ることなど、KCの海馬や乃亜が大抵はもっと上手くやれる。その意味ではクロノスの発言はもっともだったが――

 

「だが、KCのように企業単位で繋がりを持てば、それを理由に他の企業からも横やりを入れられる原因になりかねない――生徒たちの将来を思えば、それは避けたい部分だ」

 

「そう言えーば、マスター鮫島も個人単位ノーネ……万が一の時は、後腐れなく出来る相手ってことナーノ?」

 

 借りる手がデカ過ぎるのも、それはそれで問題――というか面倒なのだ。

 

「そういうことでしたら、いつでも切り捨てて頂いて構いませんよ」

 

――サラッと言いやがっターノ。伊達にあのKCで生き抜いてないノーネ……

 

 やがて、己の進退を明け透けに笑ってポイ捨てして見せる神崎へ、変なものを見る視線をクロノスが向ける中、コブラは一段低い声で感謝を述べた。

 

「そういう意味では、キミがKCを去ってくれて助かっているよ。()()()()()()?」

 

「買い被りですよ」

 

「キナ臭いものを察知して潜るのを止めたのだろう? KCに戻らず『何でも屋』染みた真似を始めたのは、表立って情報を集められない相手を探してのもの――だが未だに足取りが掴めない。ゆえに待ちの姿勢」

 

――や、止めるノーネ! ワタクシの前でヤバそうな話、始めるのマジで止めルーノ!?

 

 そして、内心で絶叫するクロノスの前で唐突に始まるコブラの推理。

 

 断片的な情報しか得られない立場ながら、推察も交えて繰り出されるコブラのそれは間違った過程を経ながらも、凡そ真相に辿り着きつつある。

 

 まぁ、「宇宙の悪い奴をやっつけに行ってました」などと言う状況を想定するのは無理ゲーだろうが。

 

――過程が違うとはいえ、こうも断片的な情報で真相になんで辿り着けるの!?

 

「かないませんね――聞かせても?」

 

「構わんよ」

 

 やがて、神崎が内心でコブラの洞察力に戦慄を抱く中、クロノスにも聞かせるように明かされるのは――

 

――か、構うノーネ! ホントに構うノーネ!?

 

「生徒の安全の為だ」

 

――じゃあ、しょうがなイーノ!!

 

 テーブルにスッとおかれた1枚の似顔絵。そこには長い緑髪の女性が描かれている。

 

「この女性に見覚えは?」

 

「……? ないノーネ」

 

「私もだ。しかし、今時似顔絵とは……写真はないのかね?」

 

「ええ、全く」

 

 しかし、当然と言うべきかクロノスが首を傾げる中、コブラはある程度の事情を察したように頷いた。

 

「ふむ、そういう存在か。キミの追跡を撒けるとなると、かなりの力の持ち主だな。既に死亡している可能性は?」

 

「未知数です。何もないに越したことはないんですが」

 

「そうか。なら、万が一の際は此方で対処する必要があるな」

 

 そうして、「相手は写真に写らない異様な存在」であり、その手の専門家たちから「今も逃げ続けられている事実」を「己に明かした」ことからコブラが凡そを把握すれば――

 

――? ……? つまり、この人がアカデミアに悪さしに来るってことナーノ?

 

「クロノス教諭、私が動けん時はキミが暫定的に校長業務を引き継ぎ給え」

 

「……? ワタクシが戦うんじゃなイーノ?」

 

 若干、理解が遅れていたクロノスが、コブラの要請に疑問を持った。「生徒を守るのは己の仕事ではないのか?」と。

 

「何を馬鹿なことを言っている。アカデミア倫理委員会が何の為に存在していると思っているんだ。私が彼らとの連携に手がかかりっきりになった際の話だとも」

 

「――そういうことなら任せて欲しいノーネ!!」

 

「心強い返事で助かるよ。とはいえ、現段階では疑惑の話でしかない。彼の言う通り、何もなければ杞憂で終わる話だ」

 

 やがて、学園の治安維持を守る組織の存在を指摘され、自身の領分を理解したクロノスが己の胸をドンと叩く中、此度の会合もお開きの空気が流れ始める。

 

「では、ご依頼はプロの招致の件を継続する形ということで」

 

「そうなるな。一先ずフォース生と面通しをしておこうか。彼らの要望を直に聞いてくれ――クロノス教諭、案内を」

 

「任せるノーネ!」

 

――昔は狙ってた校長の座だケード、校長先生も大変なノーネ……

 

 こうして、神崎を引き連れフォースの面々の元へ案内し始めるクロノスだが、内心では学園の立て直しと、校長の業務に板挟みのコブラに少々同情的だった。

 

 昔は出世に興味津々だった身だが、正直、「今日からキミが校長だ」と言われても己には出来る気がしない。

 

 とはいえ、普通はこんなこと(吸血鬼の襲来とか)考える必要は全然ない筈なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、レッド生徒たちは、定期試験のデュエルに望んでいた。

 

 と言っても、凡その面々のデュエルは終わり、今や「翔 VS ももえ」のデュエルを残すのみ。

 

 

 そして、彼女の定番の魔法カード《魔獣の懐柔》と《レスキューキャット》の連撃で5体の可愛い獣たちを従えたももえは、己の伏せカードを指さし意気揚々と宣言した。

 

「今、わたくしのフィールドの5体の獣族ちゃんたちの属性――地、水、炎、風が揃った時、このカードが発動できますわ! 罠カード《風林火山》!!」

 

 さすれば、ももえのフィールドの2匹の猫が、ビーバーが、子狼の小さな獣人が、天へと可愛らしい鳴き声を轟かせれば、空気を読んだ地面がパカリと地割れし、翔の魔法・罠カードを断層の底へと誘っていく。

 

「その効果により、貴方の魔法・罠ゾーンのカードを全て破壊!!」

 

「させないっスよ!! 速攻魔法《瞬間融合》と罠カード《チェーン・マテリアル》発動! これにより、僕はデッキのモンスターを素材に融合召喚するっス!!」

 

 しかし、その断層から突如として竜巻と共に4つの機影が飛び出した。

 

 さすれば、2つに分かれた新幹線がトラックの両端を挟むように音を立てて接続され、

 

 ステルス戦闘機が背中に翼となるように装着を果たし、

 

 最後に大型ドリルの削岩機が2つに分かれ、トラックの下部へとドッキング。

 

「これが僕の究極の乗り物――《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》っス!!」

 

 その翔の声に応えるように、トラックの上段から出現した頭部パーツのマシンアイを光らせ、両肩の新幹線のパーツから伸びた剛腕を回転させながら己が周囲を奔る竜巻をかき消しながら機械の巨兵が現れた。

 

《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》 攻撃表示

星9 地属性 機械族

攻3600 守3000

 

「出ましたわね! ですが、フィールド魔法《フュージョン・ゲート》も含めて、厄介な伏せカードは消えましてよ!」

 

「でも、僕の《スチームロイド》と《ジャイロイド》は守備表示! しかもステルス・ユニオンの攻撃力の敵じゃないっス!」

 

――うぅ……でも、コンボの要の《チェーン・マテリアル》を使っちゃったのは痛いっス……

 

 その《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の圧倒的な姿に強気な姿勢を見せる翔だが、その内心は想定していたコンボが崩れた現実に歯嚙みしていたが――

 

「お生憎様! 永続魔法《憑依覚醒》! 属性1体につき300ポイントパワーアップですわ! わたくしのフィールドの5体は全て違う属性でしてよ!」

 

「こ、攻撃力1500アップ!? で、でも、まだ足りないっスよ!」

 

 ももえの獣族モンスターたちの攻撃力が一気に上がった事実に動揺を見せる翔。とはいえ、今のももえの一番高い攻撃力は1000な為、1500上がったところで《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》の敵ではない。

 

「速攻魔法《百獣大行進》発動! このターン、獣族×200分――1000ポイントパワーアップですわ!」

 

「レ、レベル2で攻撃力3000超え!?」

 

 だが、毛を逆立てて威嚇する小さな獣たちの姿に翔は一歩後ずさるも、既のところで踏みとどまった。まだギリギリ大丈夫だと。

 

「で、でも後ちょっと足りないっス! 残念でした!」

 

「永続魔法《レベル制限B地区》発動! レベル4以上は全て守備表示になって貰いましてよ!」

 

「し、しまった!?」

 

 しかし、《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》が膝をつく姿に、翔は大きく動揺を見せるが、相手は止まってくれはしない。

 

《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》攻撃表示 → 守備表示

攻3600 → 守3000

 

「バトル! 3体の獣ちゃんたちで《スチームロイド》と《ジャイロイド》、そしてステルス・ユニオンを攻撃! 残りの2体のダイレクトアタックでフィニッシュですわ!!」

 

 やがてデフォルメされた生きた青いヘリコプターこと《ジャイロイド》と、同じく生きた列車の《スチームロイド》を含めた翔のロイドたちが、小さな獣たちに全身をガジガジかじられ、むず痒さから悶絶して爆死するが――

 

「ジャ、《ジャイロイド》は1ターンに1度、バトルでは破壊されないっス!! う、うわぁあぁあ!!」

 

 最後の最後で少しばかり踏ん張った《ジャイロイド》の奮闘によって、翔のライフは辛くも残ることとなる。

 

翔LP:4000 → 500

 

「くっ、仕留めきれませんでしたわ……!」

 

 やがて、勝負に出たゆえに一気にカードを消費したももえが計算違いに悩まし気な声を漏らす中、カードを1枚セットしてターンを終えた。

 

 そのエンド時に《魔獣の懐柔》と《レスキューキャット》によって呼び出された獣たちは、それらのデメリットにより自壊を余儀なくされる。

 

 だが、永続魔法《メルフィーのかくれんぼ》の効果によってそれらの破壊は免れ、ももえの元で小さな牙爪を翔に向けるも、速攻魔法《百獣大行進》の効果が切れればシュンと大人しく伏せを始めた。

 

ももえLP:1300 手札1

《魔轟神獣ケルベラル》攻1000 → 攻2500

《空牙団の飛哨 リコン》攻1000 → 攻2500

《リトル・キメラ》攻600 → 攻2100

《素早いビーバー》攻400 → 攻1900

《またたびキャット》攻 0 → 攻1500

伏せ×1

《メルフィーのかくれんぼ》

《憑依覚醒》

《レベル制限B地区》

《ジャンクスリープ》

VS

翔LP:500 手札1

 

 

 とはいえ、盤上を見れば圧倒的なアドバンテージ差が見て取れる。まさに翔にとっての背水の陣。

 

 だが、翔はそれでも勝利の道筋を見据えていた。

 

――やった! これで永続魔法《レベル制限B地区》を墓地の《ギャラクシー・サイクロン》で破壊して、速攻魔法《マグネット・リバース》で復活したステルス・ユニオンで連続攻撃すればボクの勝ちっス!

 

 そう、思わぬ痛手を支払ったが、既に逆転の布石は準備されている。

 

 後はその一手を切るだけ。

 

「僕のターン! ドロー! 僕は――」

 

「そのドローフェイズ時に罠カード《風林火山》発動! 貴方の残りの手札2枚をランダムに捨てさせますわ!」

 

「えっ?」

 

 だが、獣たちの尻尾フリフリから放たれた疾風が翔の速攻魔法《マグネット・リバース》と今ドローした罠カード《進入禁止!No Entry!!》を叩き落とす。

 

 こうして、手札を失い逆転どころか足掻く手足を失った翔のデュエルは、次のターンでアッサリと押し負けてしまい終了を喫することとなった。

 

 

 

 

 

「やりましてよ! わたくしの勝ちですわ!」

 

「ももえ、勝ったの!? いいなー、私は最後の最後に負けちゃって……」

 

「そ、そうでしたの……申し訳ないですわ、ジュンコさん。わたくし一人で盛り上がってしまって……」

 

「えっ、いや、そんなつもりで言ったんじゃ――」

 

 やがて、ももえが友人のジュンコと勝利の喜びに浸る中、翔は逆転の道筋がキチンと見えたゆえ確かな手ごたえを覚えていただけに大きなショックを受けていた。

 

――そ、そんな……後、ちょっとだったのに……

 

「皆さん、集合してください。合否を発表します」

 

 しかし、その翔の内心の葛藤を余所に、響みどりの声が響けばレッド生徒たちは集合し、此度の合否結果を待つこととなる。

 

「昇格者は、枕田 ジュンコさんに――」

 

「ぇ? わ、私、昇格ですか!? 負けちゃったんですよ!?」

 

「私語は慎みなさい。理由は後程お伝えします」

 

「他は――」

 

 そして、響みどりがジュンコの私語を封殺しながら昇格者たちの名前を読み上げ終えれば――

 

「――最後に、浜口 ももえさん、昇格者は以上になります」

 

「やりましたわー! 2人揃って昇格ですわよ、ジュンコさん!」

 

 真っ先にはしゃいで見せたももえに引っ張られるように他の昇格者たちも各々喜色の声が漏れ出始めるが、それらの面々とは異なりジュンコの反応はイマイチの様子。

 

「う、うん」

 

「もっと喜びましょう! これで明日香さんの元へ行けますわ! 吹雪様の元も!」

 

「そ、そりゃ私も素直に喜びたいけど、負けて昇格って言われても納得が……」

 

「総評に移ります。呼ばれた者は前へ、まずは――」

 

 だが、負けた身で――とジュンコが喜び切れぬ心象を語る最中、響みどりは順番に名前を呼びながら、それぞれの生徒たちのデュエルの評価点・改善点を告げていく。

 

「――よく頑張りましたね。文句なしの昇格です。ラー・イエローで満足することなく、オベリスク・ブルーを視野に入れて、ハンデ戦であってもブルー寮の生徒たちへ積極的に挑んでみるのも良いかもしれません」

 

 そうして、昇格を喜ぶもの、残留を悔やむものの明暗が分かれた反応を余所に――

 

「次は……枕田さん」

 

「あっ、はーい! 響先生! どういうことですか! 負けたのに昇格って!」

 

 遂にいまいち納得できていないジュンコの番が来れば、此処ぞとばかりに胸の内の困惑を晴らそうとするジュンコ。

 

「枕田さんはライフコスト面が課題となっていましたが、永続魔法《魂吸収》で上手く賄えていました。昨今はコストとして除外をトリガーにするものも多いですから、回復の機会も多く申し分ありません」

 

「あっ、どうも」

 

「永続系カードゆえの除去の危機に対しても、永続罠《潜海(シー・ステルス)奇襲(・アタック)》で守ることが可能であり、更にその際の一時除外が回復に利用できる――除外系のカードをデッキに多めに配分したことも含めて、前回から大きく改善しましたね」

 

 だが、「どんな厳しい言葉が来るのか」と身構えていたジュンコへ贈られるのは賞賛の言葉。

 

――助けて、ももえ。凄い褒められて逆に不安……

 

「ジュ、ジュンコさんがべた褒めに困惑しておられますわ……」

 

 これにはジュンコも縋るように友人に視線を送るが、残念ながら今ももえに出来ることなど何もない。

 

「プレイングにも大きな問題はありませんでした。今後は展開の要である罠カード《暗岩の海竜神》と、それに必要な『海』へより素早くアクセスすることを意識し、課題にしてみましょう」

 

 最後に、新たな課題点を指摘した響みどりは背を向け、次なる生徒へ意識を向けようとするが、その背へジュンコは肝心な部分が語られていないと待ったをかけた。

 

「以上です。次は――」

 

「ま、待ってください、響先生! 負けたのに昇格な部分の説明がまだです!」

 

「昇格ラインに達していた貴方より、相手の方が遥かに成長していて強かっただけです」

 

「――正論!?」

 

 しかし、2秒でぶった切られた。

 

 思わずジュンコは膝をつく。「まぁ、及第点」と「キミ、パーフェクトゥ!!」が試験でぶつかってしまえば仕方のない話である。

 

「次は……慕谷くん、貴方は前回とは打って変わって、デッキコンセプトから迷走している節が――」

 

「……うぅ、納得したけど、なんだか納得できない……」

 

「ジュンコさん、前向きに考えましょう! これで、雑魚寝生活ともオサラバですわ!」

 

「あっ、そっか。それに明日香さんにも会いに行けるじゃない!」

 

 やがて、響みどりの総評をバックミュージックにジュンコとももえは友情の未来へレディゴーするが――

 

「次は……浜口さん」

 

「そうでして――あっ、お呼ばれしてしまいましたわ。ジュンコさん、今後のお話は後程に」

 

「罠カード《風林火山》の採用、随分と思い切った印象を受けます。ですが、ただの一発屋にならず発動条件の属性を散らせる点を、永続魔法《憑依覚醒》や《マタタビ仙狸》などによって強味としてしっかりと活かせていました」

 

 ももえは、響みどりの総評を渾身のドヤ顔で受けに行く。もっと褒めてくれても構わないのだと。

 

「反面、永続系のカードを多用しているようなので、魔法・罠ゾーンの圧迫が柔軟性を損なう可能性を意識した方が良いでしょう」

 

 しかし、加点よりも減点が少ないタイプだったゆえか、ももえの承認欲求タイムは早々に終わりを告げ、ついでに遠回しに「このままだと限界が見えてる」と釘を刺される始末。

 

 やがて、ももえの高々だった鼻はしょんぼり曲がり、ジュンコの元にトボトボ戻る中、遂に――

 

「次は……丸藤くん、貴方は『ビークロイド』専用融合である《ビークロイド・コネクション・ゾーン》と《チェーン・マテリアル》によるコンボで展開するスタイルへ、大きく変化しましたね」

 

 己の番が来たと翔は背筋をピンと伸ばしながら黙して総評へと耳を傾ける。

 

「《ビークロイド・コネクション・ゾーン》だけでなく、《大融合》も交え融合手段を大きく増やし、通常の融合系カードを使用した際に自壊しても問題ないよう蘇生系のカードも交え、即効性に劣るもののよく練られていました」

 

 翔のデッキは大きく様変わりしたものの、その方向性は響みどりにも理解できる代物だった。翔の中のデッキの完成形がどんな代物かは未知数だが、将来的な期待値は決して低くはない。

 

「半面、プレイングの粗さは未だ課題が多いので、気を配るように」

 

 ただ、翔の一番の問題点へ、未だ大きな改善が見られなかった。

 

「一番致命的だったのは、最後のターンに《風林火山》の発動にチェーンして、速攻魔法《マグネット・リバース》を発動しなかったのは何故ですか?」

 

「えっ? あっ! ……いや、でも結局は意味ないっス!」

 

 しかし、翔はその響みどりの指摘に異を唱える。

 

「続けて」

 

 そして、怒られると身構えた翔に続きを促した響みどりが耳を傾ければ――

 

「…………えー、ステルス・ユニオンが復活しても、永続魔法《レベル制限B地区》で守備表示になっちゃうっス!」

 

 速攻魔法《マグネット・リバース》の発動を意識していなかった翔だが、あの状況では意味はない。

 

「それに《風林火山》の効果を選ぶのはチェーン処理の後だから、復活した後に破壊効果を選ばれて、壁にすらならないっス!」

 

 どちらにせよ翔の逆転の布石だった《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》は攻撃に参加することが出来ない。《風林火山》には「モンスター破壊」「魔法・罠破壊」「手札破壊」「ドロー」と4種の効果を選べるのだから。

 

「ですが、手札破壊は防げます」

 

「えっ!? あっ、ホントだ……なら、こうっス! ステルス・ユニオンが壁になっても、ももえさんのフィールドには裏守備表示にできる永続罠《ジャンクスリーブ》があったっス!」

 

 しかし、その《風林火山》の選択肢を操作できたと語る響みどりへ、ハッとした翔は改めて考え直すも、結果は同じだと返す。

 

「ステルス・ユニオンの効果で、こっちの守備力を0にする《またたびキャット》を装備しても、次のターンに新しく召喚される《ゼンマイニャンコ》の効果で手札に戻されるから、やっぱり壁にもならないっス!」

 

 あの状況で、ももえにとって「守備表示になった《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》は脅威ではなかった」ゆえに「《風林火山》の手札破壊を確定で選ばれる」為、「手札は守れない」と主張する翔。

 

「ですが、手札は守れた筈です」

 

「だから、ステルス・ユニオンを破壊する必要ないんスから、《風林火山》で結局は手札を墓地に送られて――」

 

「《風林火山》の手札破壊効果は『2枚以上なければ』適用できません」

 

「…………あ」

 

 だが、翔の主張は前提から間違っていた。

 

「あの時、丸藤くんは1ターンの延命が可能でした。僅かであっても、その延命が奇跡を起こすことがデュエルの世界では往々にあります。プレイングの粗さは、そういった奇跡を掃いて捨てているも同然です。反省するように」

 

 そうして、最後に手厳しい指摘を受けた翔が悔しさにうつむく中、他の面々への総評を終わらせた響みどりはパンと手を叩いて周囲の注目を集めた。

 

「今日は此処までになります――昇格したラー・イエロー女子は、このまま寮の案内を行いますので、ついてきてください。昇格したイエロー男子の方はレッド寮にて樺山先生がお待ちです。指示に従うように」

 

 さすれば、昇格組にとっての朗報を伝えつつ、住居環境の改善にテンションを上げる面々と、お通夜もかくやな面々の二極化された空間はお開きとなる。

 

「他は各自、解散とします」

 

「響先生! 響先生! 寮の質問良いですか!」

 

「構いませんよ」

 

 そして、響みどりの後に続く新ラー・イエロー女生徒のジュンコは手を上げ、「もう雑魚寝は嫌だ」とばかりに新たな住居環境を問いただしていた。

 

「洗面台って、共用部じゃなくて部屋にありますよね!?」

 

「あります」

 

「お風呂は!?」

 

「あります。大浴場の方も利用可能です」

 

 さすれば、明かされる真っ当な内容に諸手を上げて喜ぶ一同。これが彼女らが望んだ人間らしい暮らし! 刑務所もどきとは、オサラバ! 圧倒的! 圧倒的シャバ(自由)の空気!!

 

「テレビは!?」

 

「ありません。イエローエリアの共有部分のものを仲良く使うように」

 

「……流石にテレビはなかったか」

 

 だが、家電はなかった。

 

「このご時世ですわよ!? 感覚がマヒしてませんの!?」

 

 しかし、テレビを「流石に」と言ってしまう辺り、心は未だに雑魚寝部屋(レッド寮)に囚われている。悲しい。

 

「部屋の鍵になります」

 

「――鍵!? 鍵、閉めて良いの!?」

 

「落ち着いてくださいな、ジュンコさん!」

 

 この悲しき温度差は暫く続きそうである。

 

 

 

 

 だが、悲しさでは此方も負けてはいない。未だに男女共そこそこの数いるレッド残留組である。

 

 各々が「あの時のプレイミスが」「あのカード入れときゃ良かった」「なんで、この効果を勘違いしてたんだろ」と後悔に浸る中、翔は今回の試験に結構、自信があっただけに、落胆の幅も大きかった。

 

「うぅ……ボロクソに言われちゃったっス……」

 

「ドンマイ、丸藤。でも、デッキの方は褒められてたって、なっ?」

 

 しかし、そんな翔を励ます存在――慕谷の声。今日だけは彼のモブ顔が心強い。

 

「……むしろ、慕谷くんは両方ボロクソに言われてたのに凹まないんスか?」

 

 なにせ、今回の試験で(多分)一番評価が悪かった人間である。むしろ、その謎の前向きさが気になるくらいだ。

 

「いや、もはや一人でレッド残留しなかった安堵の方がデカい」

 

「それはそれで、昇格できなかったみんなに酷いっス……」

 

 しかし、残念ながらその理由は、あまり褒められたものではなかったが――まぁ、元気づけられたので良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 そんな定期試験の阿鼻叫喚とは無縁のフォース候補生たちは、だだっ広いフォース用の教室で待ちぼうけを食らっていた。

 

吹雪さんたち(フォースのみんな)、遅いなー」

 

 そうして、何度目かも分からぬ十代の呟きが教室に零れる中、いい加減にうっとうしくなってきた万丈目が苛立ちを隠さぬように苦言を漏らす。

 

「さっきから、やかましいぞ。大人しく待てんのか、貴様は」

 

「でも、確かに遅いわね――兄さんは、コブラ校長に呼び出しを受けたって言ってたけど……何かあったのかしら?」

 

「そういえば、大山くんもいないじゃないか! 胡蝶くん知らないかい! クラスメイトだろう!」

 

 やがて、明日香の言葉に綾小路がフォースの面々+αの行方の聞き取りを始めるが――

 

「あの男なら『フォースとの差を直に触れた今なら!』とか言いながら、森へ還り(ターザンし)ましてよ」

 

『…………アイツも相変わらずだね』

 

 残念ながら+α(ターザン)以外の行方は、胡蝶含めてこの場の誰にも把握できてはいない。

 

 やがて、待てなくなったのか十代が万丈目にデュエルを挑まんとするが――

 

「暇だしデュエルし――おっ、吹雪さんたちだ! おーい!」

 

「あぁ、亮様……今日も凛々しいお姿……」

 

 遠方の開いた扉から現れたフォースの面々に十代は踵を返して「待ちくたびれた」とばかりに手を振るが――

 

「――って、クロノス教諭と……あっ」

 

 見知った顔を見かけてか、十代の動きはピタリと止まり、振っていた腕は即座に仕舞われた。

 

「あら? 知り合いじゃないの? 会釈してくれてるみたいだけど……」

 

「……知り合いだけど、そうじゃない」

 

 そんな十代の豹変の原因であろう張り付けた笑顔の男を見やる明日香だが、当の十代は頑なな様子を見せるばかり。

 

 これには万丈目も意外な表情を見せた。「人類皆友達」的なスタンスの十代らしくないと。

 

「珍しいな、貴様がこうも嫌悪感を隠さんとは」

 

「喧嘩でもした?」

 

『……本当に何を言われたんだい? キミの様子からして余程酷いことを言われたんだろうけど……』

 

「あんまり貴方とは関わりのなさそうな人だけど……誰かしら?」

 

 そのあまりの拒絶っぷりに明日香が心配げに様子を伺うが、十代は何も語る様子はない。

 

 だが、代わりとばかりに、件の人物の情報を持つ人物が明日香へのアピールも兼ねて意気揚々と明かして見せた。

 

「彼はKCの神崎だね! 父さんたちと会っているのを何度か見たよ! いや、僕自身が話したこともあるくらいさ!」

 

「KC……の?」

 

「そうだとも、天上院くん!! 仕事熱心な人だと聞いているよ! でも、僕には『アレとは関わるな』とも言っていたね!!」

 

「は、はあ……」

 

「確かに、綾小路モーターズの御曹司である先輩なら、KCの幹部とも話す機会もあるだろう」

 

 そう、万丈目の言う通り、綾小路は「綾小路モーターズ」という大企業の御曹司である。つまり金づ――お金持ち。KC時代の神崎のお得意様だ。

 

 万丈目も兄の関係で顔を合わせた程度はある。

 

 その辺りと縁のない明日香からすれば、海馬社長の存在感とBIG5のイロ――もといインパクトの前に、神崎のことなどあまり記憶に残らないだろう。

 

「元だけどな」

 

「KCを辞した話は聞いていたが――情報に疎い貴様が、よく知っていたな」

 

 そして、それは「その辺りと縁のなさそうな十代」にも当てはまる筈だったが、ポロッと零した十代の声に万丈目は目ざとく反応した。

 

 己がいるアカデミアの制度すらマトモに把握していない人間が、KCの――その中でも印象の薄い人間の進退まで把握しているのは流石にチグハグが過ぎるだろう。

 

「確かにそうよね……つまり、近況を伝え合う程度には仲が良かったってこと?」

 

「…………昔、会っただけだし」

 

「いい加減になさい、遊城! 嫌いな相手でもリスペクトの心を以て接するのが亮様の教えですことよ!!」

 

 だが、いつまでも不貞腐れた様子を隠しもしない十代へ、胡蝶が怒りのリスペクト説法を放つ。

 

『いや、アカデミアの教えだろ……』

 

「胡蝶先輩の言う通りだ。へつらえとは言わんが、それとなく対応できるようにならんと馬鹿を見るのは貴様自身だぞ」

 

 そして、それには万丈目も肯定を返した。「嫌い」なら「嫌い」で構わないが、「排斥する」などの攻撃的な姿勢ではなく、「関わらないようにする」などの接し方もあろう。

 

 今、フォースの面々と話している神崎が、自分たちと今後どう関係するかは不明だが、今の十代の姿勢が正しいとは万丈目にも思えない。

 

「…………分かってるよ」

 

「分かっているのなら、その仏頂面を直ぐに止めろ」

 

 ゆえに、口ほどに分かっている様子のない十代と、厳しく告げる万丈目の間に不穏な空気が流れるが――

 

「ま、まぁ、良いじゃない、万丈目くん。苦手な人くらい誰にでもいるから、今のところ(候補生の間)はそこまで気にすることないんじゃない? ねっ?」

 

 その衝突を危惧してか、明日香はやんわりと場を流そうとするも、あまり効果は見られない。

 

――兄さん、亮、早く話終わらせてきて……

 

 ゆえに、明日香は、この2人を確実に止められるであろうフォースの面々へSOSを贈る他なかった。

 

 

 ただ、亮は神崎と色々話したかったことがあった為か、その要請が聞き遂げられたのは、かなり遅かったことを此処に記しておく。

 

 

 

 

 






デュエルのルール全部ちゃんと説明してよ――という名の難問

俺たちは雰囲気でデュエルをやっている……!



~今作の翔のデッキ(VerUp版)~

「マテリアル1キル」でお馴染みの《チェーン・マテリアル》と《フュージョン・ゲート》を中核としたデッキに大きく変化。

《チェーン・マテリアル》効果で融合するとエンド時に自壊してしまうが、蘇生させて闘うスタイル。

手札に《ビークロイド・コネクション・ゾーン》や《大融合》があれば上述の自壊も回避できるが、

基本コンボの2枚だけでも《チェーン・マテリアル》の効果で融合したモンスター同士を融合させれば自壊は回避可能。
《フュージョン・ゲート》で素材が除外される点も《マグネット・リバース》なら帰還できる。

とはいえ、バトルフェイズを1ターン捨てる関係上、攻め手が遅れるのが普通に致命的。

更に一番の問題として、お兄さんから貰った《パワー・ボンド》とのシナジーが皆無。
これが兄離れというものか……(違)




~今作のジュンコデッキ(VerUp版)~
作中で語った以上の範囲に大きな変化はない。
《暗岩の海竜神》により、展開力のなさをカバーできるようになったが、《伝説の都アトランティス》こと「海」を失うと彼女の原作使用フェイバリットカード《マーメイド・ナイト》の効果が機能不全を起こす欠陥を抱えている。

人魚じゃないけど「海」になれる《海神の巫女》を一緒に呼んで上げよう。


~今作のももえデッキ(VerUp版)~
作中で語った以上の範囲に大きな変化はない。

属性を散らして《憑依覚醒》のお陰で打点不足が多少改善されているが、5属性揃っても打点が2500止まりなので、結構頼りない。

Q:なんで「空牙団」テーマが混ざってるの? テーマ出張?

A:レベル2以下の風属性の獣族が5体しかいない + 最低限の攻撃力を持っているのが「空牙団」員しかいなかった。
《マタタビ仙狸》が風属性ですが、素の攻撃力0ですし。

というか、レベル2以下の獣族は、地属性以外の層が薄過ぎる。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。