前回のあらすじ
翔「どうして、ステルス・ユニオンの効果が使えないんスか!!」
ルール上、裏側守備表示のカードの種族は「不明」扱いの為、ステルス・ユニオンの「機械族モンスター以外を装備」する効果は適用できません。
翔「でも、あの時は『さっき見たから機械族じゃない』って分かってるっス!」
裏側守備表示のカードへの効果の適用を認めてしまった場合、プレイヤーが情報を有していない裏側守備表示のカードへステルス・ユニオンが効果を使用する際、「相手の種族を確認する」との「テキストに記載のない処理」が必要になってしまいます。
翔「……確かに、ステルス・ユニオンにそんな効果はないっス……つまり、裏側守備表示のカードへ『種族とかを指定するカード』は使えないんスね!」
例外もあります。
翔「!?」
どうやら理解したようだな――そうだ! これがデュエルモンスターズだ!
「わたくし、亮様のことをお慕いしておりますの。勿論、恋愛的な意味で」
とある一室のテーブルを囲む中で紡がれた胡蝶 蘭からの愛の告白に、何故か同席させられている吹雪と綾小路はゴクリと息をのむ。
「だが、俺は――」
「――存じていますわ。亮様には色恋が分からないのでしょう? そのくらいのこと、わたくしにも分かってよ。ずっと貴方のことを見てきましたもの」
しかし、向かい合うように座る亮の言葉を遮った胡蝶 蘭は手を前に突き出しながら「全て承知の上」と返した。実直過ぎる亮では「お試し期間で」なんて甘い話すらしないだろう。
「ですが、亮様が納得できる形で恋を理解なされるよりも卒業される方が確実に早い――そして、このアカデミアというくびきから亮様が飛び立たれた時、わたくしは接点を失ってしまう」
そして、顔の前で手を組み肘をテーブルについた胡蝶 蘭は、この場の意義を語る。
原作では「プロになって追いかける」的なことを言っていたが、歪んだ歴史において互いの実力差が理解できぬ胡蝶 蘭ではない。プロにもランク差はあるのだから。
「だからこそ亮様の卒業前に『恋』がなんたるかの欠片だけでも掴んで貰いますわ」
そう、胡蝶蘭に残された時間は短い。後、3話くらいで学園から羽ばたいていく亮を止める手段など一体どこにあるのか。
「その為に恋の伝道師こと吹雪様と、おモテになる綾小路先輩に同席願ってよ」
「亮、ボクとてキミの歩みを急かす気はなかったけど――恋する者の味方として傍観は出来ないよ!!」
「カイザー! 今こそ恋のスマッシュを伝授しようじゃないか!!」
ゆえに、胡蝶 蘭は恋のスペシャリスト?たちの頼もしそうな声に後押しされながら宣言する。
「今日ばかりは他のフォース並びに候補生の方々の邪魔は入らぬようにさせて貰いましたわ!」
「胡蝶…………」
もはや、これが最後のチャンスであろう。ゆえに思う存分語り合うのだ。
「さぁ、リスペクト談義を始めましてよ! 今回のテーマは――『恋』ですわ!!」
リスペクトを以て、「恋」がなんたるかを。
そんな胡蝶 蘭の計画のしわ寄せを受ける形で、残りの候補生をぶん投げられた小日向と藤原だが、明日香の進路相談に乗る形で藤原が離脱した為、向上心の塊と好奇心の塊とのデュエルを順番にする羽目になっていた。
そうして、まずは万丈目とのデュエルが幕を開けば、魔法カード《強欲で金満な壺》で2枚ドローした小日向は永続魔法《魂吸収》を発動した後、カードを3枚セットしてターンを終える。
小日向LP:4000 手札3
伏せ×3
《魂吸収》
VS
万丈目LP:4000 手札5
そんな一切モンスターを召喚しない不気味な程の静かな立ち上がりに対峙する万丈目は内心で警戒感を募らせていた。
――相変わらずデュエル中は普段と別人レベルの様相だ……攻めづらい。だが、甘く出れば一気に食われかねん。だが……
「俺のターン、ドロー! 魔法カード《融合派兵》を発動! エクストラデッキの《竜魔人 キングドラグーン》を公開し、其処に記された《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》を特殊召喚!!」
しかし、臆することなくカードを引いた万丈目が繰り出すのは、彼のデッキの代名詞たる竜の骨でつくられた鎧を身に纏う竜操の魔術師が青いマントをはためかせながら現れる。
《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》攻撃表示
星4 闇属性 魔法使い族
攻1200 守1100
「そして、このカードがこいつの真価を発揮させる! 魔法カード《ドラゴンを呼ぶ笛》!」
やがて《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》が懐から取り出した竜を模した笛の音を力いっぱい奏でれば――
「俺の手札より現れろ! 光と闇のドラゴンたちよ!!」
純白のドラゴンが黄金の関節をうならせ4枚の翼を広げて大空を舞う中、その体躯を何処かトカゲ染みた様相に変化させ、
《アークブレイブドラゴン》攻撃表示
星7 光属性 ドラゴン族 → 爬虫類族
攻2400 守2000
細身の流線的な身体に巨大な爪にも見える6枚の翼が毒々しい標識を思わせる漆黒のドラゴンがいななきを上げる中、此方も体躯が蛇のような形に変貌していった。
《パンデミック・ドラゴン》攻撃表示
星7 闇属性 ドラゴン族 → 爬虫類族
攻2500 守1000
「――!? 種族が!?」
「その瞬間、《ダメージ=レプトル》、《毒蛇の怨念》、《DNA改造手術》の3枚の永続罠を発動させて貰ったわ。これでフィールドの全てのモンスターは《DNA改造手術》の効果で宣言した爬虫類族に」
――くっ、これではドラゴン族を守る《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》が案山子同然に……それに永続系のカードは《
かくして、歪に変化させられた己がドラゴンたちを見上げながら万丈目は内心で舌を打つ。デッキにドラゴン族を指定するサポートカードが多い万丈目のデッキにとって、中々に無視できない事象だ。
だが、速攻魔法《魔力の泉》で小日向の表側の魔法・罠の数――4枚ドローし、己の表側の魔法・罠の数こと1枚の手札を捨てた万丈目は増えた手札から視線を切り攻勢に出る。
「バトル! ロード・オブ・ドラゴンでダイレクトアタックだ!!」
その主の声に《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》が大きく息を吸い込んだ後に放った笛の音の不協和音に晒される小日向は内心で小さく苛立ちを募らせていた。
――吹雪の時より随分と冷静じゃない。ムカつく。
小日向LP:4000 → 2800
「爬虫類族の戦闘によって私がダメージを受けた瞬間、永続罠《ダメージ=レプトル》の効果が発動するわ! そのダメージ以下の爬虫類族をデッキから特殊召喚!!」
やがて、
《イピリア》守備表示
星2 地属性 爬虫類族
攻 500 守 500
「《イピリア》が召喚されたことでカードを1枚ドロー!」
「だとしても、そのステータスでは壁にもならん! 切り裂け、《アークブレイブドラゴン》!」
しかし、地を這うしか叶わぬ《イピリア》では、大空より強襲する《アークブレイブドラゴン》の牙を躱す術もなく、呆気なく空にさらわれ上空にて血肉の欠片をバラまく結果となる。
「でも私の爬虫類が戦闘で破壊された瞬間、永続罠《毒蛇の怨念》の効果が発動! デッキからレベル4以下の爬虫類族を特殊召喚! 来なさい、《ブラックマンバ》!」
だが、今度はそれらの血肉の気配に誘われる一本角の生えた紫のコブラが身体をくねらせ這い出した。
《ブラックマンバ》守備表示
星3 闇属性 爬虫類族
攻1300 守1000
「ワラワラと湧いてこようが、俺の敵ではない! 蹴散らせ! 《パンデミック・ドラゴン》!」
とはいえ、空を制する捕食者を前にエサが増えただけだと《パンデミック・ドラゴン》が風を切って襲来するが、その牙が獲物に届く寸前でバランスを崩し、地面を削る形で着陸する羽目となった。
《パンデミック・ドラゴン》攻撃表示 → 守備表示
攻2500 → 守1000
「なっ!?」
「毒の龍の割に、蛇の毒が効くのね――呼び出された《ブラックマンバ》の効果で、私のデッキから爬虫類族1体を墓地に送ることで、表示形式を変更させて貰ったわ」
万丈目の驚きの声を余所に《パンデミック・ドラゴン》の首元から牙を抜いた毒蛇こと《ブラックマンバ》がピョンと小日向のフィールドに戻りながらチロチロと挑発するように舌を揺らす姿が視界にちらつく万丈目だが――
――くっ、小日向先輩お得意のパターンに……いや、今はこれで良い。
「永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》を発動し、カードを1枚セット! これでターンエンドだ!」
一杯食わされたものの、立ち上がりは悪くないと互いの盤面差を見やりつつターンを終えた。
小日向LP:2800 手札4
《ブラックマンバ》攻1300
《魂吸収》
《DNA改造手術》
《ダメージ=レプトル》
《毒蛇の怨念》
VS
万丈目LP:4000 手札2
《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》攻1200
《アークブレイブドラゴン》攻2400
《パンデミック・ドラゴン》守1000
伏せ×1
《未来融合-フューチャー・フュージョン》
「ん~? なんか万丈目のデュエル、いつもと……違う?」
『確かに、前の十代とのデュエルじゃ、もっと攻め気が強かったよね』
違和感の正体が万丈目のデュエルの様子。今の万丈目は十代の目から見て少々消極的に見えるも、その理由はサッパリなのか悩まし気に唸る十代とユベル。
「十代くん、そこは教師としてもうちょっと早くに気づいていて欲しかった部分なんだけど」
「げっ、響先生!? な、なんで此処に!?」
だが、いつの間にやら増えた1つの声こと響みどりの存在に十代は思わずビクリと席を立った。
「今日、小日向さん1人って聞いたから様子を見に来たんですよ――それと仮にもフォース候補生なんだから、相手の変化には気を配るよーに」
とはいえ、軽いお説教と共に説明されれば、納得の内容である。
亮と胡蝶 蘭の件にフォース並びに候補生が集中しているとはいえ、フォースと候補生が凡そ1体1の状況で配置されている中、小日向にだけ2名の候補生がぶん投げられている状況ともなれば当然だろう。
なお、大山は単身ジャングル行きの為、例外とする。
閑話休題。
『はぁ、相変わらず馴れ馴れしい女だ』
「は、はーい。それで、やっぱ違うの?」
「ええ、小日向さんと万丈目くんのデッキって、お互いがお互いに相性があんまり良くないの――というより、もっと前に違和感くらい覚えてると思ってたんだけど……」
やがて、教師として軽いお小言を飛ばす響みどりに十代は困った様相を見せる中、話題を変えるように問いかけた。
「は、はは……でもさ! 両方、相性が悪いなんて変じゃないか?」
『確かに、普通は相性の良し悪しは一方的なものの筈……』
とはいえ、十代もアカデミアで近しいデュエリストの変化は気になる部分である。
「なら、それを今日の課題とします! このデュエルを通じて、しっかり学ぶように――ね?」
「えぇー!?」
だが、藪蛇を踏んだとばかりに課題とする響みどりの姿に、十代は縋るように願い出れば――
「――じゃあさ! なんかヒントくれよ、響先生!」
「なら1つだけ!」
「おぉ!」
指を一本立てる響みどりより情けがかけられた。これが佐藤なら「自分で考えなさい」と突き放されるだろう。
「小日向さんは、ああ見えて凄く負けず嫌いなの。1年の十代くんが相手でも徹底して勝ちに行くくらいだから」
「えっ、そうなの?」
『まぁ、それは何となく想像つくけど…………でも、それ本当にヒントなのか?』
しかし、折角貰ったヒントに十代はピンと来ない様子。とはいえ、小日向の人物像を凡そ察しているユベルでさえ、疑問符を浮かべるのだからヒントとしては意地の悪いものなのやもしれない。
そんなオーディエンスが授業にふける中、デュエルに戻れば――
――あー、ヤダヤダ。明らかに「奥の手隠してます」って面してるじゃない。
件の小日向も万丈目の変化は察しているのか内心でゲンナリした様相である。
「私のターン、ドロー。魔法カード《強欲で金満な壺》を発動してエクストラデッキ6枚を裏側で除外して2枚ドロー」
そうして、砕けた壺の中から飛び出した2枚のカードを見やりつつ、小日向は面倒そうに心中でため息を吐いた。
――吹雪との試験の時みたいに呑まれて、下手打ってくれれば楽だってのに……
「カードが除外されたことで永続魔法《魂吸収》の効果により、1枚につき500回復ね」
やがて、辺りに散らばった壺の欠片が光となって小日向を包み、先のライフダメージを帳消しする最中――
小日向LP:2800 → 5800
「そしてフィールドに爬虫類族がいる時、手札の《ブラックマンバ》は特殊召喚できるわ」
小日向の肩から、もう1匹の《ブラックマンバ》が蛇の体躯をにゅるりと落として顔を出す。
《ブラックマンバ》守備表示
星3 闇属性 爬虫類族
攻1300 守1000
「当然、効果も使って墓地に爬虫類族を送らせて貰うわね」
さらに《ブラックマンバ》の口より放たれた毒液が《パンデミック・ドラゴン》の顔にかかれば、怒り狂ったような雄たけびと共に《パンデミック・ドラゴン》が奮い立った。
《パンデミック・ドラゴン》 守備表示 → 攻撃表示
守1000 → 攻2500
「ちょっと物足りないけど、その乗り気は鬱陶しいから見せてあげる。私のフィールド・墓地の爬虫類族、全てを贄に現れなさい――」
だが、そんな竜の怒りを前に2体の《ブラックマンバ》たちが溶けるように大地に消えていけば――
「――《邪龍アナンタ》!!」
毒の沼となった大地を砕き土色の巨大な大蛇が現れ大口を開く。
《邪龍アナンタ》攻撃表示
星8 闇属性 爬虫類族
攻 ? 守 ?
――来たか!
「《邪龍アナンタ》のステータスは自身の効果で除外した爬虫類族の数×600アップよ。更にカードが除外されたことで永続魔法《魂吸収》の回復もプラス」
だが、小日向の宣言と共に《邪龍アナンタ》の開かれた大口から新たに数多の蛇の頭が噴出し、多頭の異形となって、それぞれの頭から各々咆哮が轟けば、足元の毒沼より零れた同胞たちの命の光が小日向を癒す。
《邪龍アナンタ》
攻 ? 守 ?
↓
攻3000 守3000
小日向LP:5800 → 8300
「此処で速攻魔法《帝王の烈旋》発動。相手モンスターをリリースしてアドバンス召喚させて貰うわ――アンタの《アークブレイブドラゴン》を食い破って、現れなさい」
更に、そんな毒沼より強襲する1つの影が大口を開けて《アークブレイブドラゴン》に食らいつき、空にいざす《アークブレイブドラゴン》を毒沼に引きずり込めば――
「――《スパウン・アリゲーター》!!」
その先より毒沼より現れし真っ赤な巨大なワニが現れると共に、身体を振って泥を弾き飛ばしながらその身体を覆う白い部分鎧を見せた。
《スパウン・アリゲーター》攻撃表示
星5 水属性 爬虫類族
攻2200 守1000
「バトル! 《スパウン・アリゲーター》でロード・オブ・ドラゴンを攻撃! スピニング・イート!!」
「ぐっ……!!」
《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》を見下ろす程の巨体から、その肩口に牙を突き立てた《スパウン・アリゲーター》の顎の力は、《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》の身体を苦も無く圧し折り、その亡骸を《スパウン・アリゲーター》は頭を上げつつ踊り食うように捕食。
万丈目LP:4000 → 3000
「さぁ、アナンタ! どちらが毒の王に相応しいか見せてやりなさい! 《パンデミック・ドラゴン》を攻撃! 毒牙連撃破!」
《邪龍アナンタ》の身体から伸びる幾重もの蛇の頭が一斉に《パンデミック・ドラゴン》へと食いつき、翼、腕、足と次々に食いちぎっていく。
その捕食者の猛攻に、《パンデミック・ドラゴン》は懸命に足掻いていたが、最後は蛇の頭の1つが首に食いつかれたことが致命打となり毒の沼に沈むこととなる。
万丈目LP:3000 → 2500
「ッ! だが、破壊された《パンデミック・ドラゴン》はフィールドに毒をバラまきすべてのモンスターの攻撃力を1000下げる!」
しかし、《パンデミック・ドラゴン》が倒れ伏した瞬間に、その身体は毒の粒子となって周囲に散布され、《邪龍アナンタ》と《スパウン・アリゲーター》の鱗をグズグズに溶かしていった。
《邪龍アナンタ》
攻3000 → 攻2000
《スパウン・アリゲーター》
攻2200 → 攻1200
「ならターンエンド。だけどこのエンド時に《スパウン・アリゲーター》の効果、自身のアドバンス召喚に使用した爬虫類族を復活させるわ――当然、私のフィールドにね」
そうして、小さなしっぺ返しなど気にした様子もない小日向がターンを終えれば、《スパウン・アリゲーター》は身体を震わせ、フィールドに1つの卵を産み落とす。
そう、これが《スパウン・アリゲーター》の力。捕食した命を己が兵とする代物。
「だとしても、墓地の俺のドラゴンたちに関係は――いや、《DNA改造手術》……まさかフィールドを参照する効果か!?」
「そういうこと――《アークブレイブドラゴン》が復活。もちろん、このドラゴンの効果は知ってるわよね?」
やがて、ひび割れていく卵の正体に万丈目が最悪を想定する中、誕生した《アークブレイブドラゴン》は更に爬虫類――いや、ワニの姿に近づいた身体で、親の《スパウン・アリゲーター》の元でゴロゴロと喉を鳴らしていた。
《アークブレイブドラゴン》攻撃表示
星7 光属性 ドラゴン族 → 爬虫類族
攻2400 守2000
「……墓地から特殊召喚された時、相手の表側の魔法・罠カードを除外しパワーアップ……する……!」
「仕事する前に永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》には消えて貰うわ。そして、除外した数×200のパワーアップ」
だが、《スパウン・アリゲーター》に尾でパシンと促されれば《アークブレイブドラゴン》はかつての主へ向け、炎のブレスを放ち、その焼き尽くした大地を誇るように親の《スパウン・アリゲーター》の元に降り立つ。
《アークブレイブドラゴン》
攻2400 守2000
↓
攻2600 守2200
「更にエンド時にアナンタの効果でフィールドのカード1枚を破壊する。これでアンタのセットカードを破壊しても良いけど――《スパウン・アリゲーター》を破壊」
「なっ!?」
更に万丈目のフィールドを食い散らかすと思われていた、《邪龍アナンタ》は万丈目の予想を裏切り、同胞食いをし始める始末。
これには《アークブレイブドラゴン》も、己を生みなおした母たる《スパウン・アリゲーター》が《邪龍アナンタ》に食い散らかされている現状に、口をあんぐり開ける他ない。
「残~念、永続罠《毒蛇の怨念》は爬虫類族が墓地に送られても発動可能だから。デッキより《ラミア》を特殊召喚。その効果でデッキからレベル8の爬虫類族――《ダーク・アリゲーター》を手札に」
だが、そんな《スパウン・アリゲーター》の肉片の中から、緑の大蛇の胴体を持つ人に似た上半身を持つ異形のバケモノが人の両腕で周辺の肉片を押しのけつつ這い出していく。
《ラミア》守備表示
星4 闇属性 爬虫類族
攻1300 守1500
「これで、今度こそターンエンドよ」
やがて、爆誕したNEWお母さんを前に二度見する《アークブレイブドラゴン》を余所に、今度こそ小日向のターンは終わりを告げた。
小日向LP:8300 手札3
《邪龍アナンタ》攻2000
《アークブレイブドラゴン》攻2600
《ラミア》守1500
《魂吸収》
《DNA改造手術》
《ダメージ=レプトル》
《毒蛇の怨念》
VS
万丈目LP:2500 手札2
伏せ×1
そんな弱肉強食よろしくなやり取りを余所に、大いに盤面を食い荒らされた万丈目は形はどうあれ見逃されたセットカードをチラと見つつ己の劣勢に歯がみする。
――くっ、小日向先輩の読み通り、俺のセットカードは十全に効果を発揮できる状況じゃない。《DNA改造手術》が厄介だ……
「俺のターン! ドロー!」
――駄目だ。このカードだけでは守りを固めるしか出来ない。それではジリ貧になりかねん。
「速攻魔法《魔力の泉》を発動! 4枚ドローし、手札を1枚捨てる!」
しかし、引いたカードに状況打開の一手がなかったゆえか、万丈目は己の背後から間欠泉のように噴出した聖水を以て相手の魔法・罠カードに破壊耐性を与える愚を犯してでも破格の手札増強に奔る姿に、対面する小日向は内心で舌打ちした。
――チッ、私のデッキ
「俺は魔法カード《浅すぎた墓穴》を発動! お互いに墓地からモンスター1体を裏側守備表示で復活させる!」
「……今の私の墓地には《スパウン・アリゲーター》しか――」
やがて、大地こと墓地より竜の叫びが木霊すれば、お互いのフィールドに2体の影がチラと映った後に裏側のカードの姿をさらすが――
「罠カード《バーストブレス》! 俺のフィールドの
その裏側のカードより、その身を炎に包んだ《パンデミック・ドラゴン》が現れ万丈目の頭上にて翼を広げた。
「ッ! 裏側表示のカードは《DNA改造手術》の影響下に――」
「そう! いない!! 竜の怒りを受けて貰うぞ!」
そうして、その身体を炎に散らしながらも不死鳥のごとくフィールドの中心に炸裂させた《パンデミック・ドラゴン》の輝きは、猛毒すらかき消す程の業火となって燃え盛る。
その炎の只中では、小日向のフィールドの《ラミア》も《アークブレイブドラゴン》も一瞬で焼け付き、火をくべる為の燃料と化す。
やがて、炎が収まった先にはグズグズに溶けた鱗を捨て、脱皮した《邪龍アナンタ》と裏側のカードとして残る《スパウン・アリゲーター》だけが残った。
「チィッ! 永続罠《毒蛇の怨念》の効果! デッキより《イピリア》を特殊召喚! 更にその効果で1枚ドロー!」
焼け跡から《イピリア》が残り火を嫌がるように《邪龍アナンタ》の影に隠れ現れるが――
《イピリア》守備表示
星2 地属性 爬虫類族
攻 500 守 500
――拙い、恐らくアイツの手札には――
「魔法カード《死者蘇生》! 俺の墓地より舞い戻れ、《アークブレイブドラゴン》!!」
小日向の懸念通り、万丈目の墓地より光の竜こと《アークブレイブドラゴン》が4枚翼を広げて再臨。
《アークブレイブドラゴン》攻撃表示
星7 光属性 ドラゴン族
攻2400 守2000
「効果は説明するまでもあるまい!」
「くっ……やってくれるじゃない……!」
当然、先のターンのお返しとばかりに《アークブレイブドラゴン》から放たれた聖なる炎のブレスが小日向の魔法・罠カードを焼き、4枚のカード全てを除外していく。
《アークブレイブドラゴン》
攻2400 守2000
↓
攻3200 守2800
「このまま一気に決めさせて貰う! 魔法カード《
更に万丈目の気迫に呼応するように竜に模した縁取りのされた鏡より、《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》と白き長大なる竜の姿が光と共に交じり合えば――
「反撃の狼煙を上げろ! 《竜魔人 キングドラグーン》!!」
鏡の中から光と共に現れた巨体が黄金の竜の下半身で大地をうねらせながら立ち、翼代わりに深緑のマントを広げた人の上半身が、竜の如き雄たけびを上げた。
《竜魔人 キングドラグーン》攻撃表示
星7 闇属性 ドラゴン族
攻2400 守1100
「キングドラグーンの効果! 手札より同胞を呼び起こす! 来たれ! 天空の竜剣士! 《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》!
そんな《竜魔人 キングドラグーン》の雄たけびに招かれるように、橙の甲殻に覆われた細身の竜人剣士が黒き大剣を天上に掲げ、竜の軍団入りを果たす
《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》
星8 風属性 ドラゴン族
攻2600 守1200
《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》の効果で墓地の《パンデミック・ドラゴン》を装備させた万丈目が敵地を示すように相手フィールドを指させば――
「うぉおぉ! チャンスだ、行っけー! 万丈目ぇー!!」
――やかましいわ! 言われんでも分かってる!
「バトル! 行け、ドラゴンたちよ!! 蛇共を粉砕しろ!!」
お節介に感じる十代の声援の中、《竜魔人 キングドラグーン》の両腕から生成された波動弾が《イピリア》を貫き、
《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》が振り下ろした大剣が《スパウン・アリゲーター》を両断し、
上空より急降下した《アークブレイブドラゴン》の牙が《邪龍アナンタ》を穿った。
小日向LP:8300 → 7300
「ハッ! だとしてもアンタの発動した《浅すぎた墓穴》のお陰で大したダメージは――」
「速攻魔法《ライバル・アライバル》発動! それにより、こいつを召喚する! 2体のドラゴンたちを贄に、降臨せよ――」
だが、守備モンスターが多かったゆえにダメージは微々たるものと煽る小日向の視界には、《アークブレイブドラゴン》と《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》が光と闇となって交錯するように交わり――
「――《
降臨するは、黒と白の二色の半身を持つ2本の尾を持つ異様なるドラゴン。だが、天使と悪魔を思わせる二種の翼を広げるその姿は何処か神秘性すら感じさせた。
《
星8 光属性 ドラゴン族
攻2800 守2400
「拙――」
「追撃だ! 《
状況の悪化を悟った小日向を目がけて《
「くぅうぅっ……!!」
小日向LP:7300 → 4200
着弾と同時に生じた疾風に対し、防御するように目元を腕で隠す小日向に突き付けられた戦況の変化は受けたライフダメージ以上のものだろう。
「カードを1枚セットしてターンエンドだ!」
――行ける。行けるぞ! 俺の力はフォースの一角に届きつつある……! だが、此処で気を緩めるな万丈目 準! 手負いの獣ほど厄介なものはない!
やがて、万丈目は想定以上の己の躍進に浮つく足元へとしかと檄を飛ばしてターンを終えた。
小日向LP:4200 手札4
VS
万丈目LP:4000 手札0
《
《竜魔人 キングドラグーン》攻2400
伏せ×1
――くっっそがッ!! 《ダーク・アリゲーター》で押し切るプランが台無しじゃない!
だが、当の小日向は万丈目の殊勝さを吹き飛ばす程の悪態を内心で叫ぶ。
彼女の想定として、種族変更で攻めあぐねるだろう万丈目へ、召喚リリースの際の爬虫類族の数だけ分身ことトークンを生み出す《ダーク・アリゲーター》で一気に押し切る算段だっただけに諸々の布陣が全て吹き飛んだ現状は看過できない。
セットカードを破壊するべきだったかと悔やもうにも、相手の《
ベストはあれど正解がないのがデュエルの世界とも言うべき事態か。
――しかも、ご丁寧に蓋までして! ホント、生意気!
そしてなにより、攻守を500下げることであらゆる効果を無効化する《
「私のターン!! ドロー!!」
――拙い、拙い、拙い! このままじゃ負ける! いや、負け自体は許容範囲だけど、完敗したみたいな状況は拙い!
そして若干キレ気味にドローした小日向だったが、その内心は冷静に――そう、冷静にデュエルとは関係ないことを考え始めていた。
他者から見た自己評価。
原作の漫画版GXでの様子から見ても、どちらかと言わずとも承認欲求が強めな小日向にとって、かなり気にする部分である。
――更に運の悪いことに、今の指導担当は響教諭……人柄の割に採点はシビア! 「1年坊に大きく遅れを取った事実」だけでもヤバいのに完敗に近い印象を抱かれるのは拙い!
それに加えて、今の状況は「フォースからの降格」という問題が現実味を帯びていく。
そんな今のデュエルとは無関係な部分に思考が流れる彼女は愚かしく映るだろう。
――こいつを使うしかないの? 相手、1年坊よ!?
だが、彼女にとってデュエルへの解答は既に済んだ後。そう、勝利までの道筋を見据えた前提とした悩みである。勝ち方すら選べるのが本当の一流――しかし、今は選べぬ現実が歯痒いのだろう。
「~~ッ! フィールド・墓地の爬虫類族を全て除外し、2枚目の《邪龍アナンタ》を特殊召喚!」
やがて、苦渋の決断とばかりに《邪龍アナンタ》が大口を開けて再び現れ、その開いた大口から今度は4つの蛇の頭を出しながら悲鳴染みた甲高い唸り声を漏らす。
《邪龍アナンタ》攻撃表示
星8 闇属性 爬虫類族
攻 ? 守 ?
↓
攻2400 守2400
「そして除外された《ラミア》の効果! 私の爬虫類族1体はこのターン効果では破壊されない!」
「させん! 《
「知ってるわよ! チェーンして速攻魔法《帝王の烈旋》発動! このターン、アンタのモンスター1体をアドバンス召喚の際にリリースが可能に!」
やがて《邪龍アナンタ》を守らんとする4本の蛇の頭の1つに新たに参入しようとした《ラミア》を、《
《
攻2800 守2400
↓
攻2300 守1900
――くっ、《
「3体目の《ブラックマンバ》を特殊召喚!」
「だが、そのカードの効果は《竜魔人 キングドラグーン》によって《
隙間風を縫うように《ブラックマンバ》がとぐろを巻きながら顔を出す。
《ブラックマンバ》守備表示
星3 闇属性 爬虫類族
攻1300 守1000
「関係ないわよ! こいつは唯の頭数!! こいつとアンタの《
そして、万丈目の足元に燻っていた風が突風となって《
「来なさい、暴虐の化身! 全てを奪いつくす罪深き暴君!」
やがて、その逆巻く風を切り裂くのは一振りの大鎌。
暴風ごと両断された《
「――《
その姿は鈍い灰の鎧に身を包んだ四足のワニの戦士。
だが、頭部は影のように揺らめき実体が見えず、仕留めた獲物を貪った後に空へと上げる怨嗟の雄たけびはこの世の者とは思えぬ程の邪悪さを孕んでいた。
《
星10 水属性 爬虫類族
攻 0 守 0
↓
攻4100 守3400
「プ、プラネットシリーズ……だと……!?」
現れた異様な存在感とネームバリューに思わず一歩後ずさる万丈目。小日向がプラネットシリーズを使うなどと言う話はこれまで一度も聞いたことがない。
「――ッ! だが、ただでは終わらん! 罠カード《竜の転生》! キングドラグーンを除外し、墓地より転生せよ、レヴァテイン!!」
だが、臆しかけていた心に鞭を打った万丈目が《竜魔人 キングドラグーン》へと指差せば、意を汲んだ《竜魔人 キングドラグーン》が己を炎で包み転生を果たす。
やがて、同胞の命と引き換えに再臨した《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》は眼前の暴虐の覇者を前に、主を守らんと大剣を盾のように構えた。
《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》守備表示
星8 風属性 ドラゴン族
攻2600 守1200
「更にレヴァテインの効果! 墓地の《
そして《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》の大剣に散っていった同胞の思いが残留思念となって宿り、主を守る鉄壁の守りと化していく姿に、小日向はその頑強さに舌を巻いた。
「……成程ね。これでレヴァテインが破壊されても、その瞬間に《
「そうだ! これで其方の攻撃が俺に届くことはない!!」
そう、この布陣が完成すれば《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》と《
それを前にすれば如何にプラネットシリーズであろうとも、突破は容易ではない。
完成さえすれば――だが。
「残念だけど――《
しかし、《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》の大剣に宿る筈だった《
《
攻4100 守3400
↓
攻3600 守2900
「《
そうして、語られた《
――コピー能力!?
「そう、
プラネットシリーズの中で最も異質と呼べる力。
その力は、アドバンス召喚の際のリリース――贄によって、全てが定められる悪しきに言えば人頼みにすら思える代物だ。
だが、小日向が「勝利さえも奪う」と評したようにその可能性は無限に等しく広がる。
なにせ実質、この世の全てのカードの力を我が物と出来るに等しいのだから。
「もはやアンタのレヴァテインはただの壁!! 蹴散らしなさい、アナンタ!!」
やがて、他ならぬ己と共に戦う仲間の力によって、翼をもがれたも同然の《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》は《邪龍アナンタ》の数多の牙を捌き切ることは叶わず、その身を食い散らかされていく。
「これで終局よ!!」
そして、がら空きの万丈目に向けて《
「――
「ぐぉぅぉおおぉおおおぉお!!」
振るわれた。
万丈目LP:2500 → 0
かくして、決着がなされたデュエルを前に膝をつく万丈目へ、十代が元気よく駆け寄り励ましの言葉を贈るが――
「万丈目~!! おしかったなー!!」
「……デカい声で騒ぐな。やかましい」
対する万丈目は普段の軽口にすら影が見える表情で力なくあしらうが、そんな光景を前にユベルは十代に耳打ちするようにささやいた。
『フッ、十代――こいつ、らしくない程に凹んでるよ』
「そんな落ち込むなよ! しっかし、最後に呼んでたのなんか凄かったよな!」
「――やかましいと言っとるだろうが!! ……全く、プラネットシリーズも知らんのか貴様は」
あっけらかんに己の状態を評した十代へ、万丈目は落ち込む気をなくしたように普段の様相で十代の偏りの多い知識に苦言を漏らす。
「プラネットシリーズ!? なにそれ、凄そうじゃん!!」
「授業で教えた内容だった筈なんだけど……」
だが、此処で少し遅れて合流した響みどりからの痛い指摘に十代は逃げ道を探すように小日向へ、次の己のデュエルの順番へと話を振った。
「あー、ははは――小日向先輩! 次、俺の番! 俺にもプラネットシリーズ使ってくれよ!」
「『小日向先輩、次お願いします』よ」
「つ、次お願いします」
『……なんでこいつだけ、やたらと敬称を気にするんだか』
やがて、相も変わらず堅苦しさを強いる小日向に、敬称を忘れがちな十代は思わずタジタジになりつつも、小さく頭を下げるが――
「でも悪いけどパス」
「えぇっ!? なんで!? ちゃんと日にち開けたじゃん!?」
「パスったら、パス!!」
続いた小日向の言葉は看過できなかった。彼女の提示した条件を守っていただけに突然のデュエルキャンセルへ十代は物申すが、小日向は頑なだった。
「待ってください、小日向先輩。十代の馬鹿の言葉遣いが至らなかった面はありますが、流石にその対応は――」
「嫌って言ってるでしょ! 散れ! しっ、しっ!」
それは流石に気の毒に思った万丈目が出した助け船が瞬時に沈められる程である。
やがて羽虫でも払うように片手であしらう小日向に困った様子の十代たちに救いの第三者が舞い降りた。
「まぁ、そんなに難しく考えることないよ、天上院さん。選択肢にだって限りが――」
「優介、後任せる」
「うわっ!? う、うん、構わないけど」
それは扉を開きながら明日香と共に戻って来た進路相談を受けていた藤原。だが、睨むような小日向の視線に射貫かれると共に、丸投げされる始末。
そうして、完全なエスケープ姿勢のままこの場を立ち去っていく小日向を十代は引き留めようとするが――
「えぇ!? 小日向先輩、今日は俺とデュエルする約束だったじゃん!? 日にちも開けて――」
「はい、ストップ。十代くん、無理強いは駄目よ」
『先に約束を破ったのはあっちじゃないか』
見かねた響みどりに間に入られ、制止されている間に小日向は完全にこの場を後にした。
そうして、来たるべきデュエルに燃えていた十代は不完全燃焼感を隠すことなく大きくため息を吐く。
「あー、行っちゃった……」
「また別の日にお願いすれば快く……とは行かないでしょうけど、無碍にはされないだろうから、その時に――ね?」
「えっと……響先生、僕が遊城くんとデュエルすれば良いんですよね?」
とはいえ、そんな十代へ響みどりや藤原からフォローが入るが、当人は「プラネットシリーズ」という名のビッグネームに未練が強い様子。
『まったく、我儘な女だ』
「でも、やっぱ俺もプラネットシリーズとデュエルしたかったなー」
「おい! 藤原先輩に失礼だぞ!」
だが、対戦相手を買って出てくれた藤原を前にして、その態度は頂けないと苦言を呈しつつ十代の頭を掴んで強く握る万丈目へ、藤原は優しく言いなだめた。
「あはは、気にしてないよ、万丈目くん。遊城くんがハンデ戦に思うところがあるのは知ってるからね」
「こら、頭を下げろ馬鹿者が……!!」
「痛たたたッ! ギブギブ! 万丈目、ギブ!」
「こら、2人とも喧嘩しないの! じゃれ合いなら
「……聞いてないし」
しかし、現状は反省の色が見えない十代の頭にヘッドロックをかけ始めた万丈目へ、セコンド――もとい仲裁役を買って出た響みどりが矛先をいさめる光景に、藤原の入る余地はない。
そんな完全な蚊帳の外な状況に、藤原は愚痴混じりに小さくため息を吐いた。
「まぁ、あんまり実感ないよね。亮はハンデがあっても結構、変わらずデュエルしてる感じだから」
「そうなんですか? 藤原先輩も、あまり普段と変わらない様子でしたけれど……」
そんな中、同じく蚊帳の外だった明日香の反応を前に、藤原は己の心が若干救われる感覚を覚えると共に持論を展開。
「結構、違うよ? ライフハンデありだと場に残す攻撃力のラインにも気を使うし、相手の牽制レベルの攻撃ですら致命打になりうるから、最初から背水の陣を前提に動かなきゃならないし」
――つまり抑え気味の今で、亮と藤原先輩は私たち相手に互角以上に戦われている……これがハンデを解かれた兄さんたちより一段上のデュエリスト。
そう、ライフは「残ってさえいれば良い」と軽視されがちな代物だが、その些細な変化は存外馬鹿にならない。
それゆえ、明日香が藤原への敬意を若干上方修正する中、万丈目と十代のバトルは終局を迎えていた。
「藤原先輩だけではない……! 小日向先輩の件もだ……! 貴様は気を抜くと直ぐに礼儀を忘れおって……!!」
「で、でも先に約束破ったの先輩の方じゃん!」
「
「万丈目くん、小日向さんはそんなことであんな態度を取りはしないよ」
だが、此処で流されがちな藤原の芯の通った発言に万丈目の腕が僅かに緩む。
「っ!? 藤原先輩には何か心当たりが?」
『よし、抜けた!!』
その一瞬の隙をついて脱出した十代だが、当然の疑問を問いかけるが――
「ふぅ――? じゃあ何で怒ってたんだ?」
「うーん、僕の口から言うのはフェアじゃないかな?」
『マスターたちが原因の一端を担っているようなものだからね』
藤原が困ったように言葉を濁した結果、その真実は十代たちに届くことはない。
そんな彼らのやり取りの中、双方の詳細を完全に把握しているオネストだけがバツが悪そうにポツリとこぼすが、十代たちに届くことはなかった。
レッド寮の前の広場にて、レッド生徒たちが自主練とばかりにデュエルに励む姿を離れた場所から眺めていた神崎は、背後からの声に振り向かずに返す。
「また此処にいたんすか」
「これは牛尾くん。何かありましたか?」
「レッド生徒にいらねぇちょっかいかけられちゃ困るってことで見張り頼まれたんすよ。気になる生徒でもいたんですかい?」
「特には。丸藤 亮の弟さんの状態を確認しているだけです」
件の人物――牛尾からの苦言に神崎は定型文らしく返すが、その相変わらずの反応に牛尾は見せ付けるように大きくため息を吐いた。
「ハァー、そういう贔屓は今じゃもうご法度ですぜ?」
「手を加える訳ではないのでご安心を。状態を把握しておきたいだけです」
――丸藤 翔が退学した場合、丸藤 亮が受ける影響は未知数だからな……
だが、牛尾の心配を余所に神崎が問題視しているのはレッド生ではなく亮の精神状況に及ぼす影響の種――翔の動向が主だった。
しかし、「翔」ではなく「亮の弟」と神崎が評したせいか牛尾は思わず棘のある言葉を飛ばしてしまうが――
「あの十代をブチ切れさせた人に言われても説得力ないっすよ」
「それに関しては申し開きもない」
「…………あー、いや、こっちこそすんません。本来なら俺らでどうにかする問題っすよね」
「構いませんよ。今は身軽ですから」
粛々と謝罪を返す神崎の姿に、牛尾は己の失言を恥じるが、相も変わらず神崎には響いた様子はない。
やがて、両者の間――傍から見れば牛尾だけだが――に痛い沈黙が流れるも、暫くして牛尾は意を決したように言葉を発した。
「神崎さん」
「なんでしょう?」
「…………
それは神崎が提示したカミューラの情報。秘密主義の神崎が開示した事実が牛尾には重くのしかかる。
「コブラ校長はなんと?」
「今んとこ俺が率先して身体張るように言われてます――心配しなくても逃げやしませんよ。俺みたいな奴を許してくれたアイツらに、顔向けできないことは絶対にしねぇと誓ったもんで」
「そうですか。ですが正直、相手の出方が読めないので現状では確定したことは何も言えません」
だが、コブラからの無茶にも見える指示に準じる姿勢を見せた牛尾だが、思いもよらぬ神崎の発言に牛尾は力なく笑って見せた。
「ハハッ、まさかアンタの口から『読めねぇ』なんて聞かされるたぁ……世も末っすね」
「大袈裟な。買い被り過ぎですよ」
――原作知識から外れたことはサッパリだからなぁ……
実際問題、神崎の行動・先読み・計画は「原作知識を前提として」立てられている。
しかし、度重なる原作崩壊により修復不可能な程に原作からズレた現状における神崎は、戦闘方面以外で大して役に立たない。審美眼とうそぶいて来た原作知識のバックアップがなければ存外脆いものだ。
「……そういうのは自分の経歴振り返ってから言ってくださいよ」
――この人から時々出るよな、この手の謙遜。
ただ、そんな原作知識のバックアップからなる虚栄を間近で見続けてきた牛尾からすれば、神崎に何も読ませない敵の姿も実物以上に大きく見えよう。
――いや、逆に描いてる
「ところで、そろそろ本題に入って貰えませんか?」
だが、「此処で余計なことを考えるな」とばかりに己の思考を両断した神崎からの声に、牛尾は参った様子を見せながらも心中で慎重を期しながら「見張り役を買って出た」実情を明かす。
――露骨に話変えに来たな……こういう所は相変わらずか。
「えー、それなんすけど……『レイン恵』って名前に聞き覚えありません? 白髪でいつも『ポケー』と能天気そうな嬢ちゃんなんすけど」
それがレイン恵の存在。童実野高校に在籍していた人物と瓜二つな存在が同じ歳でアカデミアにいる問題。
――聞くべきなのか悩みどころだったが、この人に「読めない」と言わせる状況なら不確定要素は潰しとくべきだろ。
コブラからは「動きがないなら干渉するべきでない」と言われてはいるものの、背中を刺される危険性は可能な限り排除しておきたかった。
「ええ、存じてますよ」
「――本当っすか!?」
「天上院 明日香のご学友ですよね?」
だが、僅かに期待をにじませた問いへの返答は、牛尾の望むものではなかった。ゆえに、もう暫し踏み込んで見せるが――
「あー、はい、そりゃそうなんすけど……他で聞いた覚えはないんすか? 例えば、ほら、遊戯たちが学生時代の頃とか! KCに来てた客の中とか!」
「武藤くんのクラスメイトは把握していましたが、そんな名前に覚えはありません。それに客人の中に、そんな特徴のある人物がいれば忘れないかと」
――おい、この人サラッと遊戯たち監視してたこと認めたぞ。いや、デュエルキングの身辺把握すんのは企業人としちゃぁ間違ってねぇんだろうけどさ。
少し考え込んで爆弾発言を繰り出しながら「知らない」と語る神崎へ、牛尾は別の意味で頭を抱えながらも、若干の気落ちを見せれば――
「……そうっすか」
「心配事なら此方で処――」
「――しなくていいっすから! なんもしなくて大丈夫なんで!! マジで! フリとかじゃなく!」
なんかヤバいこと言い出した神崎を牛尾は慌てて制止した。
「警告・制裁の類は倫理委員会の方の管轄っすから! ホント! それに今、制裁デュエルに代わるペナルティやら何やらで忙しいんすから、これ以上、厄介事の種は御免ですぜ!」
「おや? まだ改革は完了していなかったんですか?」
――既に原作アカデミアの原型が残ってないのに!?
そうして、牛尾が矢継ぎ早に「助けは不要」との理由を並べ立てる中に聞き逃せない発言があったせいか神崎は平静を装いつつも、更なる原作崩壊の危機に心中で冷や汗を流す。
「あー、まだ道半ばらしいっす。制裁デュエル回りは見直されて、今は社会的なペナルティで代用していく方針っすね」
「へぇ」
――め、迷宮兄弟とのタッグデュエルが!?
やがて、欠片くらいはあった原作イベント復帰の可能性が完全に潰える事実に内心で震える神崎。
とはいえ、これにはちゃんとした理由がある。
「まぁ、悪さしたガキを格上がデュエルでボコったところで『反省しねぇ』ってのがコブラ校長の見解なもんで」
――……確かに原作でも迷宮兄弟との制裁タッグデュエルで丸藤 翔が成長を見せたとはいえ、「立ち入り禁止の廃屋に入った」ことを「反省したか?」と問われれば微妙なラインか。
なにせ、牛尾の発言に神崎が原作を思い出すように「制裁デュエル」が「正常に機能している様子」が原作に「一切ない」のだから。
「それに、制裁デュエルが原因でデュエルに変な苦手意識が植え付いちまったら親御さんに顔向け出来ねぇでしょう?」
それに加え、原作のヘルカイザー誕生の様子を見るに「デュエルが原因でトラウマを併発する」ことが普通にある遊戯王ワールドにおいて、「制裁デュエル」の存在はナンセンスである。
原作でも迷宮兄弟の実力を前に、翔の心が折れそうになっている場面も多々あった。というか、十代がいなければ変なトラウマを受けていただろう。
「ぶっちゃけ、効果が見込めてんなら鮫島さんの時代で素行不良が抑制されてなきゃ、おかしいっすから」
「教育の難しいところですね」
――げ、原作の舞台の全否定……
そうして、歪んだ歴史とはいえ(アカデミアの)現場の人間により、原作模様が全否定される光景に複雑な心境に陥る神崎。1人の遊戯王ファンとしてはむず痒いところだろう。
「そうなんすよ。他にも寮の管理含めて、教師に色々負担が大き過ぎだかなんやで、授業に専念して貰って他は散らすって話で、治安維持担当の俺らに罰則やらの『叱る役』全般が回ってきてるし……」
やがて、未だアカデミアは改革の道半ばなのだと頭をかきながら山積みの将来の予定に苦悩する牛尾に、神崎は剛三郎時代のKCを思い出してか共感の姿勢を見せるが――
「まだコブラ校長の新体制は2年目ですから、今が一番忙しい訳ですか」
「そこまで分かってんなら、頼むから大人しくしてくださいよ、マジで」
牛尾の一番の悩みの種は、目の前のブレーキぶっ壊れおじさんなのだから労わって欲しいものである。
購買にほど近くも周囲に人の気配のない自販機近くのベンチに腰掛ける小日向は、その手に持った冷たいジュースの空き缶をゴミ箱にポイッとゴールさせた後、冷えた頭で小さく呟いた。
「はー、最悪。なんなのアイツら」
彼女の気分は大変よろしくなかった。
あげられた「アイツら」が誰を指すかなど語るまでもないだろう。
「……アレで1年とか、ふざけんじゃないわよ」
少しばかりナメていた事実を認めねばなるまい。卒業までなら誤魔化せる程度の差はある筈だとの己の考えが甘かったのだと。
才能――昔は、碌に足掻きもしない者の言い訳だと嗤っていたものだが、中等部で本物と出会ったとき、思い知らされた筈なのに。
皇帝カイザー。
彼が
「あー、もう面倒ー、あんな約束なんてするんじゃなかった」
ゆえに、似たような奴らが己の背後に追いついてきたとなれば心中穏やかではいられない。
安易な約束をしてしまった事実を前にダルそうにひとりごちるが、あんな才能お化けが己の在学中にまた出てくるなど流石に彼女も想定外であろう。
自分が1年の時――同い年だった時期より遥かに実力を備え、更には成長率まで備えている始末。「天は二物を与えず」とはなんだったのか。
「いや、デュエルを避け過ぎれば降格されてたかー」
とはいえ、彼女がこだわる「フォースの座」は逃げの姿勢で維持できるものではない。「弱卒は不要」とのコブラの姿勢ゆえに小日向の気は重くなる。
今回は隠し玉による奇襲が成功しただけともなれば、次は更に厄介になろうことを思えば更に気分は沈んでいこう。
だが、そんな倦怠感の中でとらえた足音に対し、己を探しに来るであろう元気の塊の正体を察して若干の苛立ちを混ぜつつ言い放つ。
「散れって言ったで――」
いや、言い放とうとしたが、撤回せざるを得なかった。
なにせ眼前に立つ人物は己の予想に反し――
「ちっ、嫌な顔見た」
「辛辣だな、星華」
今、二番目くらいに会いたくないであろう顔――亮だったのだから。
ゆえに、再出した不機嫌さを隠すこともなく小日向は投げやりに追っ払う材料を探し始める。
「なんで、こんなとこにいんの? 胡蝶との話は?」
「俺が不甲斐ないせいで、少し休憩を挟むことになった」
「片方の答えにしかなってないんだけど……それともアレ? 女の後つける趣味でも出来た?」
しかし、亮の相変わらずの天然混じりの返答に頭を痛めつつも、分かり易く棘のある言葉を飛ばす小日向。
「ふと見かけたキミの様子がおかしいように思えた」
「はぁ? いつも通りですけど」
だが、一切堪えた様子のない亮の返答に八つ当たり染みた苛立ちを募らせる小日向だが――
「そうか」
「隣、座んな」
当然のようにベンチこと、小日向の隣に腰かけた亮の姿に話の通じなさを感じざるを得ない。
やがて、次に何を言い出すのかと面倒そうに身構えた小日向に対して、何も語らないどころか視線すら向けることなく綺麗な姿勢で座ったまま誰もいない真正面を見つめ続けている状態の亮。
そんな物言わぬ完全な置物と化した亮に、小日向は根負けする形で話題を振った。
「……で、何? だんまりされると居心地悪いんだけど」
「十代たちは確かに才能に溢れている。だが、現時点ではキミが焦る段階じゃない」
「強者のセリフね。吹雪にでも言ってあげれば? きっと
さすれば、言葉に反応するだけのロボットのように微妙に質問に沿わない解答を見せる亮だが、小さく嗤いながら零した小日向の声に初めて視線は相手に向いた。
「……あの吹雪がか?」
亮が「あの」と評するように吹雪は常に笑顔とサービス精神を忘れぬ紳士ことみんなのアイドルである。「苦い顔」どころか分かり易く不快感を示すようなことはない。精々が「困った顔」程度だろう。
それゆえの疑問。
「ハァ~、ちょっとはマシになったかと思えば、相変わらず無自覚ね。フォース昇格をかけた定期試験でデュエルさせられるのが吹雪や私な理由、考えたことないの?」
「ない。アカデミアの決定を俺は信じている」
やがて、亮の疑問を解消しうるヒントを馬鹿にしつつも何処か試すような小日向から投げかけられるが、それに対しては迷うことなく断言してみせた。
その真っ直ぐ過ぎる信頼に小日向の内より怒りが顔を出しそうになるも、既のところで流すが――
「……チッ、私たちと違ってアンタや優介は別格なのよ。ハンデなしで戦わせちゃダメって判断されてんの――ったく、言わせんなバカ」
「俺はキミが劣っているとは思わない」
「ふざけんじゃ――!!」
亮のブレることのない言葉に小日向の怒りが火を噴く。
「デュエルの腕が全てではない筈だ」
と、同時に怒気に晒されつつも亮は気にした様子もなく自論を語る。
「俺には吹雪のように誰かの心を惹きつけることは出来ない」
なにせ、吹雪は亮にない強さを持っていた。
「優介のように誰かの心の弱さを上手く察してやることは叶わない」
それは藤原も同じで、
「星華のように社会という枠組みに対して巧みに立ち回る術を持たない」
当然、小日向にも当てはまる。
「デュエルの腕ばかりが持てはやされる俺には、其方の方が眩しく思う」
だが、亮には「デュエルの腕」しかなかった。
進路に悩む
己を追いかける
彼に出来るのは「デュエルで叩き潰す」ことだけだ。
そうして、実践的な経験になってやること以外、何も出来ない己を知る度に
「……………………ふん、そんなの詭弁じゃない」
そう、詭弁でしかない。幾ら隣の芝生は青く見えようとも、亮は吹雪たちの強さが後天的に身に付く可能性は高いが、逆は絶望的なのだから。
「かもしれない。だが、デュエルの実力だけを重視するのならアカデミアにリスペクトの精神など不要の筈だ」
しかし、それでも亮は今のアカデミアの姿勢を、友の力を認めるアカデミアの姿勢を好ましいものだと考えている。
「だからこそ、俺は信じている。アカデミアの決定を」
ゆえに、信じるのだ。
「キミがフォースに相応しいとの判断を」
アカデミアが、己の友人たちを正しく評価してくれているのだと。
「邪魔をした」
そうして、小さく謝罪を入れて亮は席を立つ。そろそろ予定の休憩時刻が終わりを告げる以上、吹雪たちの元に戻らねばならないのだから。
やがて、言いたいことだけを言って勝手に立ち去った亮。
普段バカみたいに語っている「リスペクトの心」とやらは何処へ行ったのやら。
「……バッカじゃないの」
ゆえに、小日向は立ち去る亮の背中からそっぽを向いてぶっきらぼうにそう呟いた。
早〇女レ〇ちゃん「かーっ! 卑しか女ばい!」