マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
Q:なんでOCGでの禁止カードがあんだよ! 教えはどうなってんだ、教えは!


A:漫画版GXでの小日向のデッキが未OCG永続魔法『蛇龍の沼地』により相手フィールドに爬虫類族を投げながら墓地肥やしするタイプのデッキだったので

相手に投げた爬虫類族を活用する方針に舵を切った結果、漫画版GXに登場した漫画版GXのジムことジェームス・クロコダイル・クックのデッキと悪魔合体した為です。

相手のエースの力を我が物のように使う《The(ザ・) tyrant(タイラント・) NEPTUNE(ネプチューン)》の姿は原作で評された「暴君」の名に相応しいのではなかろうか(小並感)





第273話 アカデミアの返礼

 

 

 

 レッド寮前の広場にて、今年度における最後の試験が実施されていた。

 

 入学時より数がまばらになった生徒たちが各々デュエルを開始し始める中、翔もラストチャンスを掴むべくデュエルに勤しむが、その最後のデュエルになるかもしれない相手は――

 

「どうだ! 俺のフィールドの装備パワー全開のモンスターたちに、お前のロイドはパワー不足だぜ! ターンエンド!」

 

 何かと付き合いの長い友人たる慕谷が率いる、槍と斧を構えた鎧武者・ハヤブサ頭の西洋甲冑を纏う騎士・開脚姿勢で尾針を突き出すハチの多国籍ならぬ他種族軍。

 

――でもモビルベースの守備力高くて辛ぇな……

 

 だが、それらを率いる慕谷は内心で若干情けないことを零しつつ、取り返した盤面差を誇る様子を見せつつターンを終えた。

 

 

慕谷LP:700

《不意打ち又佐》攻1300 → 攻2300

(はやぶさ)の騎士》攻1000 → 攻3000

B・(ビー・)F(フォース)-連撃のツインボウ》攻1000

伏せ×1

《デーモンの斧》

《モルトシュラーク》

《ガーディアンの力》(魔力カウンター×4)

《月鏡の盾》

VS

翔LP:1300

《スーパービークロイド-モビルベース》守5000

伏せ×2

 

 

 しかし、対する翔は劣勢に気後れすることなくカードをドローし、逆転を賭けた一手を打って出た。

 

「デュエルは攻撃力でするもんじゃないっス! 結界像もいなくなった今こそ畳み掛けさせて貰うスよ! モビルベースの効果! 相手1体の攻撃力以下のロイド融合体を特殊召喚! 頼んだよ! 《スチームジャイロイド》!」

 

 《スーパービークロイド-モビルベース》の内部から汽笛の音を上げながら大地を爆進するのはプロペラのついたデフォルメされた黒鉄の列車。

 

 先頭車両についた目口からやる気を漲らせている様子。

 

《スチームジャイロイド》攻撃表示

星6 地属性 機械族

攻2200 守1600

 

「ハン、どうやらエクストラデッキのロイドたちは品切れのようだな!」

 

 しかし、効果もない《スチームジャイロイド》の出現に翔のロイドたちをよく知る慕谷は戦況の有利を確信するも――

 

「――速攻魔法《次元誘爆》!」

 

「じ、《次元誘爆》だと!? (な、なんだっけ? あの効果?)」

 

「僕の融合モンスター1体――《スチームジャイロイド》をエクストラデッキに戻し、お互いに除外されているモンスターを2体まで特殊召喚っス!」

 

「成程な。4枚目以降の速攻魔法《マグネット・リバース》枠か! だが、どんな融合体を呼ぼうとも――」

 

 未知のカードに一瞬ばかり肝を冷やした慕谷だが、その用途を把握し想定内だと安堵の息を吐く。

 

「誰が融合モンスターを特殊召喚するって言ったっスか?」

 

「なん……だと……!?」

 

 いや、慕谷は吐こうとした安堵の息を引っ込めざるを得ない状況を突きつけられた。

 

「僕は除外されている《パトロイド》と《サブマリンロイド》を特殊召喚!!」

 

 やがて、翔の元に現れるタイヤの手足の生えたデフォルメされたパトカーが白の警察帽の位置を直しながら駆けつけ、

 

《パトロイド》守備表示

星4 地属性 機械族

攻1200 守1200

 

 青い背と黄色い腹の潜水艦が身体から伸びる両腕で顔の付いた魚雷を持ちつつ大地の海から顔を出す。

 

《サブマリンロイド》攻撃表示

星4 水属性 機械族

攻 800 守1800

 

「馬鹿な! 融合素材専門の低級モンスターを此処で!?」

 

「融合素材専門は仮の姿っス! この状況なら融合体ロイドよりも、その真価を発揮する! 《パトロイド》の効果で慕谷くんのセットカードを確認!」

 

 慕谷からすれば(融合素材で直ぐにバイバイされる為に)殆ど初見の《パトロイド》がサイレンを鳴らせば、ハッとした表情の《(はやぶさ)の騎士》が敬礼しながら慕谷のセットカードをペロリとめくり公開(密告)

 

「……? なんで、そんなカードを? まぁ、問題なしっス! バトル! 《サブマリンロイド》でダイレクトアタック!!」

 

 《パトロイド》からの安全確認を受け取った翔は、《サブマリンロイド》を大地に潜水させ、敵の軍勢をすり抜けるように進軍させ、《サブマリンロイド》が持つ魚雷が慕谷に向けて放たれる。

 

「馬鹿め! 永続罠《バブル・ブリンガー》発動! レベル4以上のモンスターはダイレクトアタックできない!!」

 

 その寸前に地中にて海中よろしく泡が溢れ出し、視界不良に陥った《サブマリンロイド》は堪らぬ様子で地中から飛び出し、翔の元へと帰っていった。

 

「でも、それは慕谷くんも同じ――って、レベル3ばっかりなのは、これが理由っスか!? くっ、ターンエンド!」

 

「その通り! 更に《サブマリンロイド》が守備表示になれるのは、『攻撃をした後』! つまり今の《サブマリンロイド》はまさに『まな板の上の鯉』ならぬ『大地の上の潜水艦』! 逃げ場はないぜ!」

 

 やがて泡こと《バブル・ブリンガー》の意味する本当の策略にかかった翔へ、慕谷は勝利を確信するが――

 

「エンド時にモビルベースの効果! フィールドのロイド1体――《サブマリンロイド》を手札に戻し、その場所に移動するっス!」

 

 しれっとした表情で《サブマリンロイド》は《スーパービークロイド-モビルベース》の内部に格納されていく。

 

「なっ!? そんな効果が!?」

 

「はーはっは! (普段はあんまり使わない)隠された効果っス!」

 

「他の面々もデュエル中ですので、声は抑えるように」

 

「あっ、すみません」

 

「も、申し訳ないっス……」

 

 そうして窮地を危うげなく脱した翔が自信満々に胸を張るも、佐藤から「ヒートアップし過ぎ」との注意を受け、スゴスゴと身体を小さくする羽目となった。

 

 だが、彼らのデュエルの本番が此処からであろうことは容易に見て取れる為、またヒートアップしそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな今年度の最後の試験も一足先に終わった卒業生の綾小路は果たしておかねばならぬ決戦の為、アカデミアの広場にて友人たちと談笑していた明日香へと声をかけた。

 

「天ッ上ォー院くん! ボクの熱き想いをデュエルに乗せよう! 是非、受け取って欲しいッ!!」

 

 いや、声をかけたと評するにはあまりに熱と圧のある申し出である。

 

「えっと、デュエルのお誘いですよね?」

 

「想いの発露でもある!」

 

「あっ、はい、じゃあデュエル」

 

「デュエル!!」

 

 やがて、イマイチ分かっていない明日香を余所に、綾小路の想いを告げるデュエルが幕を開いた。

 

 

「…………アレ……なに?」

 

「あれは3年の綾小路先輩ですね」

 

 とはいえ、急に現れて明日香とデュエルし始めた光景に理解が追い付いていないレインが綾小路を指さしつつ原麗華に問いかけるも、望んだ答えは得られなかったのか今度は雪乃へ問えば――

 

「……………アレ……なに?」

 

「数日後には卒業デュエルでしょう? 卒業前の告白ラッシュよ」

 

 シンプルな解が得られた――が、レインには看過できぬ当然の疑問が浮かぶ。

 

「…………明日香、付き合うの……?」

 

「そ、そうなんですか、雪乃さん!?」

 

「さぁ? 明日香の目にはデュエルしか映ってなさそうだけど……デュエルの内容次第じゃひょっとしたら、ひょっとしちゃうかもね」

 

 そうして、友人を取り巻く1つの恋の行く末を前にアレやコレやと邪推が成される中、デュエルの様子を見やれば――

 

 先攻を得た綾小路が魔法カード《強欲で金満な壺》で2枚ドローした後、手札の1枚のカードを手に意気揚々と宣言していた。

 

「早速、僕のサービスエースを受けて貰うよ! 魔法カード《アンティ勝負》発動! お互いに手札を1枚選び、そのレベルを競う! 勝った方が1000ダメージを与え、負けた方は選んだ自分のカードを墓地送りさ!」

 

 やがて、互いの秘めたる1枚を示し合わせるように掲げた両者は、そのカードを公開すれば――

 

「僕が選んだのは――レベル12! 《サブテラーマリス・バレスアッシュ》!」

 

「くっ……私が選んだのはレベル8《聖戦士カオス・ソルジャー》……墓地に送ります」

 

 綾小路の元より猛き溶岩を纏う土色の土竜が身体を丸めた途端、小気味の言いショット音を響かせながら球体となって明日香へ着弾し、小さく爆ぜる。

 

明日香LP:4000 → 3000

 

「フィフティーンラブ――僕のサービスエースが決まったようだね」

 

「早速、来たわね!  綾小路先輩のテニスに見立てたバーン戦術が!」

 

「相変わらずイケメンですわ……」

 

「……テニス……?」

 

 やがて、解説に回ったジュンコとももえの一見すると意味不明な発言にレインが小首をかしげる中、人差し指を立てて決めポーズしていた綾小路が動きを見せた。

 

「此処でショットの魔術師を呼ぼうじゃないか――《コールド・エンチャンター》召喚! その効果により手札を捨てた分だけアイスカウンターを自身に乗せ、その数×300 パワーアップ!」

 

 現れた純白と淡い水色の衣に身を包んだ氷の結晶の杖を持つ白髪の女性が腰を落として杖を構えれば、その氷の杖の先端に円が形成され氷のラケットとなっていく。

 

《コールド・エンチャンター》攻撃表示

星4 水属性 水族

攻1600 守1200

攻1900

 

「墓地の《エッジインプ・シザー》の効果! 手札を1枚デッキの上に戻し、自身を守備表示で復活!」

 

 更に、《コールド・エンチャンター》の予備のラケットを熟さんと連なった6つのハサミが刃の足を持ち手代わりに閉じてテニスラケットに擬態し、伝説のラケット風に大地へ突き刺さった。

 

《エッジインプ・シザー》守備表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1200 守 800

 

 

「さぁ、お次はスマッシュエースも決めさせて貰うよ! 《星見獣ガリス》の効果! デッキトップを墓地に送り、それがモンスターならそのレベル×200のダメージを与え、特殊召喚! 当然――」

 

 やがて、鳥のいななきと共にデッキトップに手をかけた綾小路が、そのカードを明日香へ見せ付けるように引き抜くが――

 

「《エッジインプ・シザー》の効果で戻した《サブテラーマリス・バレスアッシュ》……!」

 

 明日香の言う通り、確認するまでもない結果に 外見説明が現れ、翼の間に形成したテニス印のエネルギーショットを発射。

 

《星見獣ガリス》攻撃表示

星3 地属性 獣族

攻 800 守 800

 

「くっ……!」

 

「その通りさ! これでサーティーンラブ――早くも後がなくなって来たんじゃないかな?」

 

明日香LP:3000 → 600

 

 僅か1ターンで明日香のライフに瀕死クラスのダメージを与えた綾小路はカードを2枚セットしてターンを終えた。

 

 

綾小路LP:4000 手札0

《コールド・エンチャンター》攻1900

《エッジインプ・シザー》守800

《星見獣ガリス》攻800

伏せ×2

VS

明日香LP:600 手札5

 

 

「明日香さん!?」

 

「やっぱりブルー3年の殿方だけあって、お強くイケメンですわぁ……」

 

「明日香さんのライフは一気に押し込まれましたが、綾小路先輩の盤面に脅威となる材料は少なそうですね」

 

「……先輩、強い……?」

 

 明日香のピンチにおののくジュンコとももえに対し、冷静に盤面を見定める原麗華だが、レインは不安の解消を願うように雪乃へ問えば――

 

「『フォース候補生』に選ばれている以上、アカデミアは私たちより『強い』って考えてるんじゃないかしら?」

 

「……雪乃も……強くなった……」

 

「ふふっ、ありがと」

 

 雪乃らしからぬ強気さの見えぬ返答を受け、レインは逆に励ますような言葉を贈る姿に対し、雪乃はレインの頬をピンと弾きながら悪戯な笑みを向けていた。

 

 

 

 

 そんなオーディエンスからの注視を余所に、カードをドローした明日香は――

 

「私は《サイバー・ジムナティクス》を召喚し、効果発動! 手札を1枚捨て、《星見獣ガリス》を破壊させて貰うわ!」

 

 黒のボディスーツを纏った白い仮面の褐色肌の女性が指を弾けば、後ろに纏めた長い金の髪が僅かに揺れると同時に《星見獣ガリス》へコインが突き刺さり爆散。

 

《サイバー・ジムナティクス》攻撃表示

星4 地属性 戦士族

攻 800 守1800

 

「カードを3枚セットしてターンエンド!」

 

「おや、攻撃しないのかい? 僕のデッキを前に――」

 

 《星見獣ガリス》を仕留めただけで即座にターンを終えた明日香に、綾小路が心配そうな表情を見せるが――

 

「効果ダメージを主体とする相手に長期戦は悪手――でしょう? アドバイスは不要です。ここ数か月、綾小路先輩のデュエルは間近で見せて頂いてますから」

 

「おっと、僕のデュエルにキミの視線が釘付けだったなんて……照れるな」

 

 助言染みた真似を拒否した己へ、綾小路は何処までが本気なのか判断に困る様相で照れて見せる姿に、明日香は逸れかけた意識をデュエルへ引き戻す。

 

「…………《魔法(マジック・)の筒(シリンダー)》が伏せられている状況で闇雲に攻勢へ出るつもりはありません。私のライフが僅かでも、コンボ性の強い先輩のスタイルなら『その僅か』を削ることは、今は難しい筈です」

 

「なら、僕のレシーブエースはお預けって訳だ――なら、こっちはどうかな罠カード《サブテラーの継承》!」

 

 そうして、ライフ程に己の優位は崩れていないと示す明日香へ、綾小路はリバースカードに手をかざした。

 

「その効果により《エッジインプ・シザー》を墓地に送り、属性の同じリバースモンスター1体を手札に加える!《シャドール・ビースト》を手札に! そして、このカードは再びセットされる」

 

 途端に、《コールド・エンチャンター》の氷のラケットに天高く打ち上げられた《エッジインプ・シザー》がキラリと光れば、1枚のカードが綾小路の元に舞い降りる。

 

「繰り返し使える罠!?」

 

「驚いた顔も素敵だね、天上院くん――でも、これで僕の手札は1枚」

 

 やがて、驚愕に彩られた明日香の表情を愛でた綾小路は、増えた手札を見せ付けるように突き出してカードをドロー。

 

「更に、僕のターン、ドロー! これで2枚に――再び罠カード《サブテラーの継承》を発動! 今度はリバースモンスター《シャドール・ビースト》を墓地に送り、そのレベル以下の同じ属性のモンスター1体を手札に加える!」

 

 さすれば、綾小路の手札は2枚に増え、更に《コールド・エンチャンター》が氷のラケットを打ち鳴らせば――

 

「更に効果で墓地に送られた《シャドール・ビースト》の効果で1枚ドロー!!」

 

「手札が3枚に……!」

 

 前のターン、0枚だった手札が3枚にまで増強され、更にはサーチにより必要パーツを揃えている始末。

 

「これだけあれば僕のスマッシュコンボは十二分に起動が可能さ! カードを1枚セットし、《エッジインプ・シザー》の効果! 手札1枚をデッキトップに戻し、特殊召喚!」

 

 前のターンの焼き増しのように《エッジインプ・シザー》が現れる光景を前に思わず身構える明日香。

 

《エッジインプ・シザー》守備表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1200 守 800

 

「そして、此処で伝説のビッグサーバーを呼び出そう! 通常召喚!!」

 

 銃身が前後に伸びる歪な拳銃から悪魔の頭が飛び出し、グリップ部分から伸びた両腕でカラカラと身体を回せば――その姿は段々と機械のボディを持つ大柄なテニスロボに見えていく訳もないような気もしないでもない。

 

 いや、やっぱ見えない。

 

(気分は『伝説のビッグサーバー』って訳でもない)

《インフェルニティ・リローダー》攻撃表示

星1 闇属性 戦士族

攻 900 守 0

 

「ッ! 《エッジインプ・シザー》の効果を使ったということは――」

 

「そう! 『伝説のビッグサーバー(インフェルニティ・リローダー)』効果! 僕の手札が0枚の時、カードを1枚ドロー!」

 

 やがて、明日香の直感を裏打ちするように《インフェルニティ・リローダー》が己と一体化した引き金を引けば胴体の撃鉄が振り下ろされ――

 

「それがモンスターであればレベル×200のダメージを与え、魔法・罠なら僕は500のダメージを受ける!!」

 

 獲物を探るように綾小路と明日香に向けられた前後の銃身から、この一戦を終わらせる運命の弾丸が放たれた。

 

「当然、レベル12《サブテラーマリス・バレスアッシュ》!! これでフィニッシュだ!!」

 

 その運命の弾丸は綾小路が定めた通りに明日香のハートを撃ち抜き、恋のノックアウトを取る。

 

 

 

「……明日香、頑張って……!」

 

「流石に応援のタイミングが遅いんじゃ……」

 

 やがて、レインの応援も虚しく――

 

 

 

 

明日香LP:600 → 3000

 

 なんてことはなく、心臓を撃ち抜かれた様子も感じさせずに胸の前で手を払った明日香のライフは健在どころか一気に回復している始末。

 

「なっ!?」

 

「勝負を焦りましたね、綾小路先輩。罠カード《レインボー・ライフ》――これで、このターンの私へのダメージは全て回復に変換されます」

 

「くっ……」

 

 やがて、今度は驚く番となった綾小路が悔し気な様相を見せる中、明日香は射貫くように語ってみせる。

 

「そう、長期戦が苦手なのは先輩のデッキも同じ。その新しく伏せた1枚のカードだけで今の私のライフを削り切るのは難しいんじゃないですか?」

 

 そう、効果ダメージが主体の綾小路にとって手痛い回復だった。

 

 やがて、貧弱な盤面ながら悠然と立つ明日香を前に綾小路は撤退か強攻の選択が突き付けられるが、このデュエルの趣旨を思えば答えは一つだと綾小路は奮い立つ。

 

「いいや! 退きはしないよ!! 僕の想い全てをキミにぶつけなければ意味がない!アタックあるのみだ! バトル! 《コールド・エンチャンター》で《サイバー・ジムナティクス》に攻撃!」

 

 綾小路の気持ちに後押しされるように天高く氷のボールを放った《コールド・エンチャンター》は、氷のラケットによる鋭いスイングで氷の魔球を放つ。

 

「ライフが回復するのに!?」

 

「……厄介なモンスターを破壊しておきたい……」

 

「それとも、これ以上、回復されたくない部分と悩みどころね」

 

 やがて、オーディエンスのジュンコの驚きの声へ注釈を入れるレインと雪乃を余所に、その魔球は《サイバー・ジムナティクス》の足元でスピンをかけながら跳ねると同時に、その頭部に直撃。

 

「罠カード《ドゥーブルパッセ》! 《サイバー・ジムナティクス》の攻撃力分のダメージを相手に与え、その攻撃を私へのダイレクトアタックにする!」

 

「しまっ――」

 

 することなく、身代わりのように一歩前に出た明日香へと向かった氷の魔球は、着弾する寸前で虹色の壁に阻まれ、周囲に細かな氷の粒と砕け幻想的なダイヤモンドダストを生み出した。

 

綾小路LP:4000 → 3200

 

明日香LP:3000 → 4900

 

 

「上手く躱しましたよ!」

 

「……守って……回復もした……」

 

「あら、どっちもだなんて……随分と欲張りになったのね」

 

「ダイヤモンドダストの中に佇む明日香様……お美しいですわ」

 

「なんてふつくしぃんだ、明日香くん……」

 

 やがて、いつもの三人組がガッツポーズを取る中、ほぅと吐息を漏らすももえに混じるように綾小路も細氷の結晶の舞う中に立つ明日香へ熱い視線を贈る。

 

 

 

 なお、その後のデュエルは綾小路が改めて効果ダメージを加えるも、此度の回復が後々に響き、明日香のライフを削り切ることは後一歩、叶わぬ結果となった。

 

 

 

 かくして、ラブデュエルを終えた両者はお互いに健闘を称え合うが――

 

「綾小路先輩、いいデュエルでした」

 

「いいや、完敗だよ。でも聞かせてくれなかい。僕の想いを込めたデュエルへの答えを!!」

 

「……? えっと……卒業してもお元気で?」

 

 最後に熱いデュエルでの告白の返事を問うた綾小路へ、明日香は僅かに首を傾げた後、卒業していく先輩に早めの賛辞を贈った。

 

「なっ!?」

 

「えっ?」

 

 途端に固まる綾小路。思っていた反応と違ったせいか戸惑う明日香。

 

「う……うぅ……」

 

「あ、あの綾小路先輩、今回のデュエルはどちらが勝ってもおかしくな――」

 

 やがて、うつむき小さく嗚咽を漏らし始めた綾小路に、明日香は慰めではなく本心から此度のデュエルの結果など時の運でしかなかったのだと語ろうとするが――

 

「――うわぁぁぁぁああぁあああんッ!!」

 

「あ、綾小路先輩!? 急にどうし――」

 

 それより先に突如として立ち上がり背を向けた綾小路が走り去る姿に、明日香が咄嗟に手を伸ばすも届かず。

 

「恋なんて……恋なんて大っ嫌いだぁぁあぁあぁああ!!」

 

「えぇ……」

 

 ドップラー効果を響かせながらガチ泣きしながら駆けた綾小路を止められるものなど、この場には誰一人としていなかった。

 

「これは……明日香さんの返事は『No』で良いんでしょうか?」

 

「むしろ『Yes・No』以前の問題じゃないかしら?」

 

 やがて、呆然と綾小路が走り去った先を見やる明日香を余所に、原麗華と雪乃がコソコソと語り合う中、明日香の元にとっとこ駆け寄ったレインは問うた。

 

「……明日香、何処にも……行かない?」

 

「えっ? 今日は特に予定はなかったと思うけど……急にどうしたの?」

 

 だが、質問の仕方が悪いせいか曲解する明日香を余所に、レインは再度問いかければ――

 

「……行かない……?」

 

「え、ええ、卒業まで一緒に頑張りましょう」

 

 望んだ答えが得られたのか、レインは同意を示すように無言でコクリと頷く。

 

 

 

 そうして、流石にあの様相の綾小路の後を追いかける気にはなれなかったのか「敗北の傷へ塩をすりつけることもない」と、そっとしておくこととした明日香たちは予定通りに暫しの歓談を過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女たちの歓談を余所に1年の終わりだろうがお構いなしの十代と万丈目は、いつも通りに亮へデュエルを挑むべくフォース用の一室に入室しようとするが――

 

「カイザー! デュエルしよ――」

 

「ストップだ、十代くん」

 

「――っと、吹雪さん? どうかしたのか? 大山先輩も珍しくアカデミアにいるし」

 

 扉の前でたむろしていた吹雪の手で歩みを制された十代は、扉の前で立ち往生する試験の時期ゆえにジャングルから戻っていた半裸の大男――ターザンこと大山が未だにジャングルに帰っていないことに珍しさを感じざるを得ない。

 

 それゆえ、十代は吹雪たちに交じり共に部屋の様子を伺えば――

 

「お客さんが来ていてね」

 

「誰なんだ? 外国の人?」

 

「おい、十代。覗き見なんぞ趣味が悪いぞ」

 

 チラと伺えた金髪と顔立ちから吹雪の語る「お客」への興味を募らせる十代を万丈目がいさめるが、吹雪は咎めることなくウィンクして見せた。

 

「亮のライバルってところかな」

 

「カイザーの卒業前に――プロの場に向かう前に宣戦布告へ来たんだろう。男同士の語らいに無粋な真似は出来んということだ」

 

――……そっか。最後の試験も終わったし、カイザーたち卒業しちゃうんだよな……

 

 やがて壁を背に立つ大山の注釈を耳に目前に迫った別れの日を感じてか少々ナイーブな気分になる十代だったが――

 

「なら、俺は席を外します」

 

「えっ!? 万丈目は気にならないのかよ!? あのカイザーのライバルだぜ?」

 

 踵を返した万丈目の背に先程までの神妙さなど忘れたように膨らんだ好奇心を見せる十代へ、万丈目は大きくため息を吐いて呆れタップリに言い放つ。

 

「バカバカしい。貴様は一体いつから上を眺められる程に強くなったんだ」

 

 そう、確かに万丈目の言う通り、亮の実力に追いすがれていない身で向こうをライバル視を如何こうしたところで、さしたる効果もあるまい。

 

「でも、万丈目だってカイザー、ライバル視してたじゃん。兄ちゃんたちと話してたろ?」

 

 だが、それは万丈目にも突き刺さるブーメランだった。

 

「俺と貴様を同列に並べるな!」

 

「えぇー、もう同じ候補生の仲間じゃんかよー」

 

「誰が仲間だ! 誰が! 貴様と俺の間には百の――いや、千すら超えた万の壁があるわ!!」

 

「へへっ、スゲェ壁だな! 挑み甲斐があるぜ!」

 

「貴様という奴は、ああ言えばこう言いおって……!!」

 

 やがて痛いところを突かれたゆえかムキになる万丈目だが、十代からすればその手の歌い文句は望むところ。結果、負け惜しみ染みた言葉を飛ばす羽目になる万丈目だったが――

 

「ふふっ」

 

「て、天上院くん!? いつの間に……綾小路先輩との話は――いや、それよりも何かおかしな部分でもあったのかい?」

 

 いつの間にか合流していた明日香の思わず零した笑みに万丈目は先程の意地の張り合いを即座に止めつつ咳払い一つして、取り繕って見せた。

 

「ごめんなさいね。ただ、そんなに風にムキになる万丈目くんを初めてみたから、つい……」

 

「~~ッ! 十代!! 貴様のせいで天上院くんに嗤われただろうが!」

 

「えっ!? 俺のせい!?」

 

『おい、黙って聞いてやっていれば――ボクの十代の名をきやすく呼ぶなよ、万丈目!!』

 

 だが、外面を繕うのが少々遅かった為、責任転嫁する他ない万丈目にさらされる十代にとっては災難であっただろう。

 

「う~ん、競い合う友情の輝き! 胸キュンポイント8点だ!」

 

 とはいえ、それらの背景の凡そを察している吹雪からすれば彼が好む輝かしき青春の一幕であった。

 

 

 

 

 

 かくして、彼らの青春の一波乱が終われば――

 

「全く、貴様という奴は……とにかく、そういうことだ。天上院くん、こいつのことは任せて構わないかい?」

 

「そんなに心配することないと思うんだけれど……」

 

 そんな捨て台詞と共に万丈目が席を外していく中、室内での亮の会話もひと段落が着こうとしていた。

 

 

『少しはマシな面構えになったじゃないカ』

 

『キミには世話になった』

 

 亮を一瞥することなく背を向ける軍服にも似た白い学生服の男ことデイビット・ラブは、思いがけない返答にオーバーに肩をすくめてみせる。

 

『MeがYouを? よしてくれ』

 

 まさか、過去の言いがかり染みた形で吹っ掛けたデュエルをそんな風に思っていたなどデイビットにとって想定外だった。そして、そんな慣れ合いなど彼の望むものではない。

 

 ゆえに、振り返り様に語気を強めて言い放った。

 

『完膚なきまでに叩き潰す――プロの世界という処刑場で膝を震えさせて待っているんだナ』

 

『ああ、その時は良いデュエルにしよう』

 

『チッ、話はそれだけだ』

 

 だが、相も変わらず友人のように接してくる亮に若干の苛立ちを感じたデイビットは、「用は済んだ」と相手の纏う雰囲気に嫌気がさしたように足早に立ち去ろうとするが――

 

「扉の前でなんダ? 邪魔だ。失せろ、Boy」

 

「わ、悪ぃ」

 

『なんだ、こいつ? 失礼な奴だね』

 

 開いた扉の前にいた十代に出鼻をくじかれた苛立ちをぶつけつつ、今度こそこの場を後にした。

 

 そんなデイビットを見送った亮は、扉の前でたむろする面々の姿に疑問をぶつけるも――

 

「何をしているんだ、吹雪」

 

「友情のインターセプトさ!」

 

「……本当に何をしていたんだ」

 

 残念ながら、親指を立てて歯をキラッめかせる吹雪流の気遣いは届いていない。当人も届ける気がないのだろうが。

 

「あっ、カイザー! デュエルしようぜ!」

 

「すまない、十代。この後、コブラ校長の元に用があってな」

 

「えぇー、そっかー、じゃあ仕方ないか」

 

「なら、このボクが相手になろうじゃないか!」

 

「えっ、良いの!? じゃあ、デュエルだ、吹雪さん!!」

 

 やがて、終わりが目前に感じてか一戦でも多くとデュエルをねだる十代の願いは残念ながら届かなかったが、立ち去る亮を見送りデュエルへ挑む様子を見れば、彼らの日常は最後まで脅かされることなく終わりそうである。

 

 

 

 

 

 ところ変わって、日常が変わらねば終わりな面々への最後の審判をくだすように佐藤は口を開いた。

 

「今回は合否の発表の前に総評を行います。呼ばれた者は来るように。まずは――」

 

「と、とうとう最後の時が来ちゃったっス……ど、どうしよう、慕谷くん……」

 

「お前は俺に勝ったんだから、まだマシな方だろ! 俺を差し置いて緊張するな!」

 

 そうして、1人ずつ呼び出されるクラスメイトを尻目に死刑台に上がる囚人のような面持ちでハラハラしっぱなしの翔と慕谷。

 

 彼らの様子を見るに、どうやら実技の自信はあまりない様子。

 

「で、でも、他のみんなのデュエルは、なんか凄そうな気がするし、気が気じゃないっス!」

 

「やれるだけ、やったんだから――」

 

「次、慕谷くん」

 

「は、はい!!」

 

「し、慕谷くん! ファイトっス!」

 

 しかし、彼らの友情を引き裂くような佐藤の声が響けば、慕谷はガチガチに緊張した様子で駆け寄る他ない。やがて繰り出されるのは――

 

「慕谷くんのデッキは『装備ビート』で一貫しつつ、『直接攻撃可能モンスター主体』、『モンスター比率を増やし、貫通攻撃主体』、『特殊召喚封じモンスター主体』、『2回攻撃主体』などと様々なパターンを試していたようですが、今回の試験はその集大成と考えても?」

 

「えっ?」

 

 懐かしき圧迫面接染みた問答。

 

「闇雲に試していただけですか?」

 

「えっ、あー、それは! えーと、最初は装備を一点集中してダイレクトアタックでぶん殴って勝ちで行くつもりだったんですけど、そのモンスターがやられた後が負けてばっかで……」

 

 僅かに呆けていた慕谷だが、続きを促すような佐藤の声に慌てて自論を語っていく。

 

「その為に特殊召喚を封じることで、相手の行動を阻害していたのでは?」

 

「そ、それは……その、それが出来た時は良いんですけど、手札が偏った時に何も出来ないことが多くて……」

 

「そこから何故、今の形に?」

 

「えー、さっき言った通り手札が偏るとキツかったので、偏っても最低限は動けるようにしたと言いますか……はい」

 

 装備魔法を主体とする戦術を好む慕谷だったが、「モンスターと装備」の2つが揃って初めて真価を発揮する性質上、手札事故は致命的だった。ゆえに防御面を見直したと語る慕谷。

 

「それが2回攻撃の効果を持つモンスターと、レベル4以上の攻撃を制限する永続カードだったと」

 

「……はい」

 

 そうして、レベル4以上の攻撃を制限する構築にすることで、「モンスターと装備」が上手く揃わぬ状況でも即やられぬようにし、その制限をすり抜ける相手には装備魔法で有利を取っていくスタイルを示すが――

 

「ですが、その場合レベル4の結界像が攻撃参加できなくなりますが、その辺りはどうお考えていますか?」

 

 佐藤の言う通り、前の翔のデュエルで見せた《烈風の結界像》などの「結界像」たちは全てレベル4であり、自ら敷いた制限に引っかかってしまうモンスターたちだ。

 

 それゆえに、アンチシナジーな旨を指摘されるが、慕谷は頭をかきつつ自分なりの解を語ってみせる。

 

「あー、《レベル制限B地区》も《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》も制限カード(1枚しか採用不可)だから、モンスターへの攻撃は結構参加できるんです。《バブル・ブリンガー》はダイレクトアタックしか封じないんで」

 

「立ち回りでカバーできる範囲だと判断した訳ですか――今後の改善点は?」

 

 ルール上の採用可能枚数ゆえに「結界像と同時に手札に来る確率」を鑑みて、問題ないと判断した慕谷へ、間髪入れずに佐藤が今後の改善案を問えば――

 

「あー、えー、《マシュマロン》みたいな戦闘で破壊されないモンスターがシンドイので、その辺りを――貫通モンスターかな? 混ぜてみようかと考えてます」

 

「なら、永続罠《バブル・ブリンガー》のもう1つの効果の活用にも気を配りなさい。選択肢が『ある』と『ない』では大きく変わります」

 

「えっ? あ、ありがとうございます」

 

「以上です。次、丸藤くん」

 

 最後にポツリと零された助言と共にポカンとする慕谷が解放されれば、お次は翔の番。彼も先の慕谷と負けず劣らずに緊張した面持ちで前に出る。

 

「ははは、はいっス!!」

 

――ヤバいっス! 入学したての頃みたいに滅茶苦茶つつかれる感じっス!

 

 なにせ、それは入学したての頃を思い出させる厳しさが垣間見える為、失言する訳にはいかないと気を張る翔。

 

「丸藤くんのデッキは《チェーン・マテリアル》を主軸にした後は一貫していますね。デッキの核を変えなかったのは何故ですか?」

 

「わわわ……えっと、えっと――」

 

 だが、なんかダメそうだった。

 

「理由がなければ構いません」

 

「あ、あるっス!!」

 

「続けて」

 

 しかし、此処で挫けて終わる翔はもういない。立ち直りの速さでカバーした翔は自信を以て己のNewロイドデッキの真価を語る。

 

「僕のビークロイドたちは1体1体のパワーがそんなに高くなくて、融合することで強くなるっス!」

 

「融合デッキの基本的な性質ですね」

 

「そうっス! でも、ロイドたちは意外に横の繋がり(融合素材同士の互換性)がないから手札に集まったロイドで融合できない状況に陥りやすいんス!」

 

 そう、これがロイドの致命的な欠点だった。

 

 十代のHEROたちは融合素材ごとにA融合体・B融合体といった「選択肢」という形で融合召喚の幅が多く、基本「融合できない」なんてことは殆どない。

 

 だが、ロイドは大半の融合体が専用の融合素材を要求しており、「手札に複数のロイドと《融合》があっても融合召喚できない」なんてことがザラにある。

 

 融合素材モンスターの力で戦おうにも上述したようにパワー不足は否めないだろう。

 

「だからこそ一息に纏めて融合できる今のスタイルという訳ですか」

 

「それだけじゃないっスよ! 今までは融合素材になったロイドたちに出番はなかったっスけど、速攻魔法《次元誘爆》で僕のデッキは進化したんス!」

 

「具体的には?」

 

 しかし、融合召喚して終わりだった今までとは大きく違うのだと翔は得意げに己のデッキの変化を語ってみせる。

 

「状況に応じたロイドを帰還させられるんス! 相手の伏せが気になる時は《パトロイド》、自分の伏せを守りたい時は《ネイビィロイド》――って具合に!」

 

 それこそが融合素材モンスターであることを利用した「除外→帰還コンボ」だった。効果は慕谷との試験デュエルで見せた通りである。

 

「――で、あるのなら装備カードを主体とする慕谷くんのデュエルで《アーマロイドガイデンゴー》を呼ばなかったのは何故ですか?」

 

「そんなの決まってるっス! 《アーマロイドガイデンゴー》の魔法・罠を除去する効果は『アドバンス召喚した時』に発動するから、特殊召喚する意味はないっス!」

 

「《スーパービークロイド-モビルベース》で手札に戻してからアドバンス召喚しなかったのは何故か――との問いだったのですが」

 

「あっ」

 

 なんかダメそうな気配が翔に突き刺さった。

 

 

 おNew過ぎた結果、翔のデッキ慣れが間に合わなかったらしい。

 

 

 やがて、その後も暫しの問答が続いた後に開放された翔は真っ白に燃え尽きたように腰を落とした。

 

「次は――」

 

「……終わったっス。僕のアカデミア生活も終わりっス」

 

 夢も希望もありはしないのだと、大一番のラストチャンスで大ポカをした翔の脳裏を巡るのは楽しかったアカデミアでの日々――いや、あんまり楽しい日々はなかった。

 

「お前が終わりなら逆説的に俺も終わりじゃねぇかよ……」

 

「見るっス、この死屍累々なみんなを――仲良く退学で終わりっス」

 

 だが、励ます慕谷の言う通り、翔がダメなら彼に負けた慕谷はもっと可能性がない。

 

 ゆえに、翔と似たような状態のクラスメイトの重苦しい雰囲気に耐えられなくなったのか希望を探すように慕谷は言葉を尽くす。

 

「じ、自暴自棄になるなよ、丸藤! みんなもだ! 俺たちみんな、強くなった実感はあっただろ!」

 

「デュエルエリートじゃなきゃ意味ないっス。ゴメンよ、お兄さん……僕、やっぱり落ちこぼれだったっス……」

 

 しかし、佐藤の問答を受け、新たな死屍累々が広がっていく中で探す希望など儚い代物でしかなかった。

 

 絶望のターンエンドである。

 

 

 

 

 

 

 

「全く、あのアホ(十代)め……先輩方に気を利かせられんのか」

 

 そんな地獄もかくやな面々を余所に、亮とデイビットの会合を邪魔してはならぬとブラブラ散策していた万丈目だが、その歩みはふと止まる。

 

「あのカイザーが認めたライバル……か」

 

 カイザーと並び立ち、超えることを目標にしていた万丈目にとって、吹雪が――いや、あの亮自らがライバルと認める相手を己の視界に入れたくなかった。そんな気持ちもゼロではない。

 

 己こそが――そう醜い嫉妬心を燻らせてしまうかもしれない。それが万丈目には怖かったのかもしれない。

 

「いや、上を見上げてもキリがない。今は候補生から本当のフォースになるのが先だ」

 

 だが、道半ばで迷っていても仕方がないと顔を上げた万丈目は、来た道を引き返し始める。

 

「……そろそろ戻るか――? 声?」

 

 しかし、彼の耳が捉えた大仰に驚く人間の声の方へと誘われれば――

 

 

『なんデスート!? 卒業デュエルの在校生代表に、シニョール十代を!?』

 

 一発で誰か判明する独特な口調が校長室の少しばかり開いた扉の奥から響いていた。

 

『2年生ニーモ、シニョール大山を含め、粒が揃っている中で1年生の起用ナノーネ!?』

 

『最後まで我儘を言ってしまい申し訳ないです』

 

『キミが気にすることではない』

 

 やがて、校長室の窓からアカデミアを眺めていたコブラの背中越しの声が亮の謝罪を切って捨てる。

 

『在校生代表の選出権は首席であるキミの権利だ。存分に行使したまえ』

 

 そして、そんな言葉を最後に少し開いていた扉は閉められ、話題は詳細へと移っていった。

 

 

 

 

 

 だが、そんな細部の会話を知る術もなく、関係のない万丈目は暫しの思案の後――

 

 

――十代が、カイザーの最後の相手に……?

 

 

『――デュエルの馬鹿やろぉぉおおぉおおおお!!』

 

 

 綾小路が涙ながらにアカデミアの島内の山の方で叫ぶ声が木霊して響けば、思考の渦に沈んだ万丈目の意識は引き上げられる。

 

――綾小路先輩……玉砕なされたんですね……

 

 そんな声に全てを察した万丈目はフォース用の一室への道から背を向け、オベリスクブルー男子寮の方へと歩を進め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山奥から悲恋の青春的叫びが響く頃、そんな声がギリギリ届かぬオシリスレッドの面々への総評を終わらせた佐藤はこの場を切り上げるべく未だ死屍累々な翔たちへ最後の言葉を贈る。

 

「退学者へ該当するものは0になります。この時期まで残ってしまった事実を重く受け止めて寮に戻り、樺山教諭ならびに響教諭の指示に従うように――以上です。各自解散しなさい」

 

 その端的な説明に周囲のレッド生徒がザワザワし始める中、翔は信じられぬ様子で立ち上がり叫んだ。

 

「0人!? みんな退学ってことっスか!?」

 

「落ち着け、丸藤! 退学者が0人ってことだ!」

 

「じゃあ、昇格者は何人っス!? ――って、待ってくださいっス! 佐藤先生!」

 

「なんでしょう?」

 

 そうして、混乱した様子の翔が慕谷に肩を引かれるのも振り払って、この場を去っていく佐藤へ縋るように駆け寄り問うが――

 

「僕たち昇格なんスか!?」

 

「退学勧告を受けなかった時点で論じるまでもない話です。教員の方々をあまり待たせてはいけませんよ」

 

「……? じゃあ、みんな昇格したってことっスか……?」

 

「最初からそう告げた筈ですが?」

 

「なんでっスか!!」

 

 佐藤からの「昇格」を意味する朗報を前に翔は何故か納得がいっていない表情で噛みついた。

 

「た、確かに名前呼んでくれれば――って、まさか分かってなかったの俺たちだけ? ……まぁ、態々全員呼ぶ方もアレか」

 

 そう、慕谷の言う通り「退学者」の有無ではなく、いつも通りに「昇格者」の名を呼べば余計な混乱を生むことはない。態々、今回だけ異なる形にしたのはいたずらが過ぎよう。

 

「――なんでプレミした僕が昇格なんスか!!」

 

「ま、丸藤!?」

 

 だが、翔が問題にしているのは全くの別件だった。それが己のプレイミスの件。

 

 装備魔法を主体とする慕谷を相手に《アーマロイドガイデンゴー》の防ぎ難い「除外」効果を忘れずに活用していれば、グンと楽に勝利できたのだ。

 

 ゆえに、今回の試験での翔のプレイミスが意味するところは大きい。無駄に手古摺るどころか勝てる勝負を落とす可能性すらあったのだから。

 

「呆れた。未だに問題の本質を理解していなかったとは」

 

 しかし、分かり易くため息を吐いて呆れて見せる佐藤の見解は違う。

 

「プロの世界ですらプレイミスは起こり得ます。『プレイミスが理由で昇格できない』のならば、全生徒がレッド生ですよ」

 

 なにせ、デュエルにおいて「プレイミス」は避けられない代物だ。戦況一つ読み違えるだけで「結果的にミスだった」ことなどザラにある。

 

 それに加えてプレイミスを恐れてデュエルが消極的になってしまっては本末転倒な為、「プレイミスの有無」は直接的な昇格・降格には加味されないのだと佐藤は語ってみせた。

 

「で、でも、『プレイミスに気を配れ』って響先生に言われたっス!」

 

「それは当時の貴方のデュエルが常に粗雑だったからでしょう?」

 

「ざ、雑!?」

 

 しかし、別の教員から注意された旨を翔が返すも、痛烈な一撃がカウンターされる始末。

 

「まぁ、あの時は結構なレベルで雑だったな」

 

「し、慕谷くん!? どっちの味方なんスか!!」

 

「いや、俺も他人のこと言えた義理じゃないけど、お互い自分が使うカードすら怪しかったし」

 

「うぐっ……」

 

 そうして、いつの間にやら背中(友人)からも切られることとなった翔は返す言葉を失うが――

 

「とはいえ、凡その改善も見られ、デッキ並びにプレイングも一定のレベルに達してはいますから昇格――いえ、『レッドからの昇格』『程度』なら問題ありませんよ」

 

「じゃあ、遂にやったんスか……? イエローに上がれるんスか……?」

 

「辛くも及第点と言――」

 

「――やった……やった! やったっス~!! 遂にイエロー生っス!!」

 

 佐藤からの一々棘のある合格判定の最中に翔の中でようやく実感が生まれ、ワナワナと喜びに震えながら身体全体より溢れるような喝采と共にバンザイして両手を上げた。

 

「ギリギリ滑り込みだけど昇格達成っス!! やったー!!」

 

「聞きなさい」

 

「――グエッ!?」

 

 だが、そんな翔の喜びの万歳三唱は己の頭を掴んで捻った佐藤によって強引に向き合わされる形で終わりを告げる。

 

「辛うじて退学を逃れた程度で調子に乗らないように。現段階ではレッド落ちの可能性が卒業まで常について回ると考えなさい――キミたちには、そのくらいの認識が丁度良いでしょう」

 

「……はいっス」

 

「耳が痛いな……」

 

 そうして、要約すれば「お前ら調子乗れる立場か?」とありがたい説法を食らった翔たちがガクリと肩を落とす中、背を向けた佐藤は去り際に一つ付け加えた。

 

「とはいえ、キミたちが羽を伸ばせるのは今日くらいでしょう。はしゃぐのは荷造りする時くらいに留めなさい」

 

「はいっス!!」

 

 そんな「はしゃぐなら程々にな」を意味する言葉に、破顔した翔は最後にビシッとお辞儀をした後――

 

「みんなー! 昇格のお祝いにハイタッチするっスー!!」

 

「 「 「 せーの! 」 」 」

 

 つい少し前まで死屍累々だったオシリスレッドの面々――否、新ラー・イエローの面々は円陣を組むように集まり――

 

「 「 「 やったー!! 」 」 」

 

 自分たちの昇格を祝って暫しの間、天高々に届くような万歳三唱を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 そんなアカデミアの一角のお祭り騒ぎの様相を余所に、フォース用の一室では――

 

「――パンサーウォリアーでダイレクトアタックだ!!」

 

 漆黒の豹の戦士が対峙する十代へ向けてフィールドを駆け抜け、己が愛刀ならぬサーベルを振りぬいたと同時にライフが0になることを示す音が響く

 

「くっそー! 後、ちょっとだったのにー!!」

 

「フッ、まだまだハンデなしじゃ負け越して上げられないからね!」

 

 やがて脱力したようにその場に座り込んで悔しがる十代は、差し出された吹雪の手を取りつつ互いの健闘を称え合う。

 

「次の相手を頼みます!」

 

「勿論だ! 大山くん! キミの進化したドロー、魅せて貰うよ!」

 

「じゃあ俺は天上院とデュエルし――おっ、万丈目おかえりーって、なんかあったのか?」

 

 そうして、大山へとデュエルの順番を替わった十代がデュエル場から離れ、今度は明日香へデュエルを挑もうとする中、戻って来た万丈目の姿を確認し、丁度良いと駆け寄っていく。

 

「天上院くん、今構わないかい?」

 

「構わないけど……どうしたの? 深刻そうな顔して」

 

「ん~? 万丈目のヤツ、急にどうしたんだ?」

 

 しかし、いつもとは異なる万丈目の気配に十代は怪訝な様子で明日香とのやり取りを見守るが――

 

「十代、貴様もだ」

 

「えっ、俺も?」

 

「それで万丈目くん、話って?」

 

 珍しく1年フォース候補生だけが集まった中、吹雪と大山のデュエルを尻目に万丈目は促されるままに重い口を開く。

 

「卒業デュエルの在校生代表――1年の俺たちは辞退しておかないか?」

 

「えっ?」

 

 それは卒業式にて、卒業生の首席が選んだ在校生1名と締めのデュエルする行事の件。

 

 基本的に在校生もデュエルの腕に秀でた人間が選ばれる傾向があるだけに、フォースの候補生に選ばれた面々から選出される可能性が高い。

 

「えぇ~、なんでだよ。選ばれた奴が頑張りゃ良いじゃん」

 

「カイザーの最後の相手に1年生が選ばれたとなれば、先輩方も面白くはないだろう。ならば俺たちが先んじて辞退していた方が余計な波風を立てずに済む――そうだろう?」

 

「それは……確かに、そうかもしれないけど……」

 

 当然の不満を漏らす十代へ、万丈目が説明していけば優等生の明日香も納得の理由が述べられる。

 

「俺は反対! そういうの何か違うだろ」

 

 だが、理解と納得は別口だった。

 

「ふん、貴様が無根拠に『そう』言うだろうことは想定済みだ」

 

 しかし、万丈目も察していたゆえか咎めることはなく、鋭い視線を以て十代を指さして言葉を叩きつけた。

 

「――俺とデュエルしろ、十代」

 

 デュエルの挑戦状を。

 

「貴様が勝てば勝手にしろ。だが、俺が勝てば従って貰う」

 

「良いな、それ! そっちの方が分かり易くて良いぜ!」

 

「ちょっと万丈目くん! そんな喧嘩みたいなこと――」

 

 勝った方に従う――そんなシンプルだが些か乱暴に思える意見に明日香は思わず割って入るが、万丈目は突き放すように視線で制した。

 

「邪魔をしないでくれ天上院くん――それとも、キミも在校生代表に未練がある口か?」

 

「そ、そうは言わないけど、こんな乱暴なやり方じゃなくても……」

 

 いつも己には紳士的だった万丈目の厳しい視線を前に明日香は戸惑いを見せるも――

 

「へへっ、じゃあ早速やろうぜ! 審判は頼む、天上院!」

 

「いや、場所を変えるぞ。此処では吹雪さんたちに止められかねん」

 

 当の十代が乗り気な以上、止めれそうな人間(吹雪)はデュエル中である為、状況に流されるように一同は場を移すこととなる。

 

 

 

 

 そうして、3名が向かったのは購買付近の――

 

「此処って、フードコートの……?」

 

 お昼休みに生徒たちが憩いを求めるフードコートの近くに設置されたデュエル場。とはいえ、今は時間帯の問題か人の気配は感じさせないが。

 

 やがて、十代が馴染みの場の珍しい雰囲気にキョロキョロ周囲へ人影を探す中、デュエル場の一角に立った万丈目はデュエルディスクを装着しながらこの場を選んだ理由を告げる。

 

「今の時間帯なら人も少ない。それに貴様が散々デュエルしている場だ。珍しくもない光景なら、悪目立ちもせんだろう」

 

「2人とも頭を冷やしなさい! こんな喧嘩みたいな真似、本当に――」

 

「天上院くん――俺は本気だ」

 

「へへっ、そういや候補生になってから、お前と真正面からぶつかる機会って中々なかったよな!」

 

 そうして、明日香の最後の注意を真っ向から弾いた万丈目が立つデュエル場へと十代はワクワクを隠し切れぬ様子でデュエルディスクを手に歩を進め――

 

「ふん、結果は前と同じになるだろうがな」

 

「なら、前の俺とは違うってところ見せてやるぜ!」

 

 互いに軽口を以て勝負の了承と取れば――

 

「天上院くん、開始の合図を頼む」

 

「行くぜ、万丈目!!」

 

「――もう! デュエル開始!!」

 

「 「 デュエル! 」 」

 

 審判役となった明日香の宣言と共に、1年最強を決める決戦の火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 さぁ、最強は(どちら)だ。

 

 

 

 

 

 

 

「――ああ、成程。そういうことか」

 

 そんな彼らのデュエルを、笑みを浮かべた1つの人影が見つめていたことを彼らは知る由もない。

 

 






翔くん、レッド脱出! 脱出!




この度iloveu.exe様から支援絵を頂きました。ありがてぇ……!! 骨身に染みる……!
https://img.syosetu.org/img/user/405051/101326.png
普段の神崎のイラスト。胡散臭い会社員――にあるガッチガチの背中に吹く。
そりゃ海馬社長も警戒するわ……(謎の関西弁)

https://img.syosetu.org/img/user/405051/101327.png
冥界の王の力(腕)を行使した神崎。
その「このような結果になり残念です」とでも言わんばかりの所作がバクラに別れ(死刑宣告)を告げた時を思い出させるぜ!(思い出させない)



~今作の翔のデッキ(New・VerUp版)~

前回の《チェーン・マテリアル》と《フュージョン・ゲート》のコンボからの復活スタイルを維持しつつ特化させた。

一番の目玉は、速攻魔法《次元誘爆》によって疑似的に「任意のロイドを好きなタイミングで呼べる」為、ニッチ過ぎる効果を持つロイドたちをピンポイントな状況で活用できる――かもしれない。

速攻魔法《次元誘爆》には融合モンスターをデッキに戻す必要があるが、相手に表側のモンスターさえいれば《スーパービークロイド-モビルベース》で《スーパービークロイド-モビルベース》を供給し続けられるのであまり困らない。

一番の問題は――
「大量の融合召喚を上述のコンボで一刻も早く行う」+「要である《次元誘爆》に必要な『除外された相手モンスターの用意』」の双方に特化する必要がある為、
カイザーことお兄さん印の《パワー・ボンド》を採用する余地が一切ない。

すまねぇ、カイザー。
融合テーマのロイドって想像以上に融合召喚が苦手やったんや……(自己矛盾)



~今作の綾小路ミツルのデッキ~

原作で彼が使用した「1500の効果ダメージを与えるカード群」が手札やデッキトップを参照するカードが多かった為、OCGでの類似カードを主軸にした。

その際に「高レベルのモンスター」が必要だった為、サーチ手段も多い【サブテラー】テーマを拝借。《サブテラーの導師》や《サブテラーの継承》を以てコンボパーツを集めていく。

彼のエース――未OCGカード『伝説のビッグサーバー』は
デッキから未OCG魔法『サービスエース』(自分手札の1枚の種類を相手に当てさせ、ハズレなら1500ダメージを与える)を
サーチする効果を持っているが、OCGの中に似た代物がなかったので――

疑似『サービスエース』を内蔵している《インフェルニティ・リローダー》で代用している。

【導師ビート】の真似事も出来る為、妨害力はそこそこあり、
(下準備がアレだが)効果ダメージもライフ4000環境ではシャレにならない威力が出るので
彼がライバル視していたカイザーにもワンチャンあるのではなかろうか?


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