前回のあらすじ
???「力が……力が欲しいか?」
万丈目「黙っていろ!! これは俺のデュエルだ!」
???「……|•́ㅿ•̀ )シュン」
万丈目LP:600 → 0
万丈目のライフが尽きたことを知らせる音がデュエルディスクより響く中、ラストアタックの際に拳を突き出したままの十代は遅ればせながら呟いた。
「…………勝った……のか?」
『他にどう見えるって言うんだい』
「ああ、貴様の勝ちだ」
そうして、届いたユベルと万丈目からの声に、己の勝利を実感できていなかった十代は己の握っていた拳をほどいて手の平を見やる。
「……勝った…………勝った!
ギュッと拳を握った十代は、未だ不確だった現実を噛み締めるように言葉を零し――
「――いよぉっっしゃぁあぁあっ!!」
『――クリリィイィイイィイ!!』
ハネクリボーと共に、天高く両腕を上げながら全身で喜色の叫びをあげた。
万丈目 準――このアカデミアで最初に壁としてぶつかったデュエリスト。
デュエルへの向き合い方もまるで真逆なのに――いや、真逆だからこそ互いに互いへ強いライバル意識を抱いてきた。
そんな相手からこの1年の集大成とも呼べるような場で勝利できたとなれば、感慨深さもひとしおであろう。
ゆえに、ひとしきり叫んだ十代は万丈目へ二本の指先を向けて、自分流の健闘を称え合う所作を贈る。
「ガッチャ! 楽しいデュエ――」
「リベンジやったな、遊城ー!」
「良いデュエルだったよー!」
「――って、小原に、
だが、そんなガッチャが万丈目に届く前にラー・イエローの生徒たちの声援が響いたことで十代が周囲を見渡せば――
「惜しかったな、万丈目ー!」
「……ナイス……ファイト……」
「酷いじゃない、明日香。こんな楽しそうなこと独り占めするなんて」
「そ、そういう訳じゃ――」
「そうですわ! わたくしたちも誘ってくださいな!」
「これで1年最強の座は遊城って訳か!」
「おいおい、まだ1勝1敗だろ!」
「なんだ、なんだ! みんなして!?」
『いつの間にか随分とオーディエンスが増えてるじゃないか』
ユベルの言う通り、ラー・イエローだけでなく、オベリスク・ブルーの生徒含め数多くの人間が観客として十代たちのデュエルを密かに観戦していたことが発覚。
『クリィ、クリリ!』
「ん? どうかしたのか、相棒?」
「あ、あの!!」
さらに、その観客の中から1つの人影が十代の元へと駆けよれば、周囲も釣られて隠れることを辞めた多くの生徒たちでフードコートのデュエルスペースは人でごった返す。
「うぉっ!? えーと、確かお前は――」
「丸藤 翔っス! アニキと呼ばせてください!」
「確か、入試の時に会ったよな? というか、急にどうしたんだよ……」
「お、覚えててくれたんスか!?」
そして、人混みの口火を切った人影ことラー・イエローの新入りこと丸藤 翔がなにやら1年の遅れを取り戻すかのように原作ムーヴを始めていた。
「僕! アニキのデュエルを見て、感動したんス!」
『なんだ、コイツ……』
「是非、僕を弟分にしてください、アニキ!」
『は?』
だが、そんな憧れと尊敬の眼差しを向ける翔の行いは、ユベルという特大の地雷原でタップダンスを踊るに等しい無謀。
視線で人が殺せるんじゃなかと思えてしまう形相でユベルにらまれていることなど知る由もない翔へ、十代は一拍悩んだ様子を見せてから返答する。
「うーん、でも弟分とかより……そうだ! ライバルになろうぜ!」
「えぇ!? なんでっスか!? 僕、イエローっスよ!?」
「えぇー、じゃあファン第1号で」
「……僕がアニキの一番最初のファン……」
しかし、イエロー上がりたての翔からすれば、恐れ多いどころか相手にならない実力差だと、と己を卑下しつつおののく姿に、「なら」と十代がパッと思いついた代案を受け取った翔は何処か頬を緩めて満足げだ。
とはいえ、そこに「アニキ」呼びへの許可は含まれていないが詮無きこと。
「リ、リベンジおめでとう、遊城くん!」
「おめでとう、十代くん!」
「ゆ、遊戯さ――じゃなくて神楽坂! それに大原も! みんな集まって、ホントどうしたんだよ!?」
そうして、次々と友人たちにもみくちゃにされる十代が、ようやく当然の疑問に行き当たれば――
「『1年最強を決める』なんて聞いたら見に来るだろ」
「が、学園中で噂になってるよ」
「えっ、そうなの?」
『そうらしいね。よくもまぁ、こんなに集まったもんだ』
十代と万丈目の一戦は、突発的に始まったにもかかわらずアカデミアで知らぬものはいない程に何故か周知されていた。
「さぁ、みんなで十代くんの勝利を祝って胴上げしよう!」
「遊戯さんに続け!!」
「ゆ、遊戯さん!? なに言ってるんスか!? でも賛成っス!」
やがて、神楽坂の音頭の元、ラー・イエロー、オベリスク・ブルーの十代に馴染みのある面々が此度の激闘のデュエルの観戦のお礼とばかりに十代を担ぎあげ胴上げを開始。
当の十代も満更ではないのか時折「イェーイ!」と喜色の声を上げながら勝者の義務とやらを楽しんでいた。
かくして一気にお祭り騒ぎの様相を見せている十代たちから少し離れて、遠巻きから眺めていた万丈目は何処か羨ましくとも呆れた様子で呟いた。
「フン、相変わらず勝っても負けても騒がしい奴らだ」
「すまないな。どうにも想定以上に集まってしまってね」
そして、そんな己の隣に立った三沢の姿に万丈目はぶっきら棒に謝礼を返す。
「三沢か……手間をかけさせて悪かったな。礼は後で返す」
「期待しておくよ。ただ、急に俺の部屋まで押しかけて来て『人を集めてくれ』なんて――次からは前もって言っておいてくれると助かる」
そう、碌に周知もされずに始まった此度のデュエルでいつの間にやら多くの観戦者が集ったのは万丈目に依頼された三沢が情報を流したゆえ。
噂として「1年最強を決める勝負」「因縁のリベンジマッチ」等々――1年でフォースの候補生にまで選ばれた2人のデュエルならば話題には事欠かない。
とはいえ、事前準備もなしにともなれば、さしもの三沢も苦労したようだが。
「心配せずとも、こんなバカ騒ぎはこれっきりだ」
「ふっ、そうだと良いんだが――どちらにせよ、これで一安心だな」
「なにが言いたい?」
「これだけの人間が今回のデュエルを見れば、在校生代表に選ばれても誰も文句は言わないだろう?」
「だから、なんの話だ」
だが、此処に来て三沢と万丈目の意識に差異が開き始めた。
「……? その為に俺に人を集めるように頼んだんじゃないのか?」
「勘違いするな。如何に奴が能天気だとしても、大勢の前で負けたとなれば大人しく辞退すると考えたに過ぎん」
三沢の予想では「1年で在校生代表に選ばれた十代がいらぬトラブルに巻き込まれぬ為」と判断していたが、万丈目の考えはあくまで「在校生代表を諦めさせる為」の様子。
「いや、どう考えても…………ああ、そういうことか――すまない、どうやら俺の勘違いだったみたいだ。いらぬ邪推を生みかねない推理は俺の胸の内に仕舞っておくよ」
しかし、ハッと何かに気づいた様子を見せた三沢は
「…………分かれば良い」
「俺は良い後輩たちを持ったな」
「カイザー!?」
だが、そんな万丈目もいつの間にか傍にいた亮の姿に慌てて己を取り繕う中、胡蝶 蘭の良く通る声が胴上げ組の面々に飛ぶ。
「貴方たち! 亮様に道を開けなさい!!」
「おっ、カイザーじゃん!」
「お兄さん!?」
やがて、学園最強の出現に胴上げを止めた一同は、何処かの神話の割れた海よろしく左右に分かれていく。
そして、割れた人混みの海の只中をカツン、カツンと靴音を響かせながら十代の元へ歩んで行く亮の姿を一同が固唾を呑んで見守る中、十代の前に立った亮はいつもと変わらぬ様子で語る。
「この場を借りて、申し出させて貰おう」
「ん?」
『クリィ?』
「十代、在校生代表として俺の卒業デュエルを受けてくれないか?」
亮のアカデミア3年間の集大成の相手として、1年生である十代を選んだことを。
かのカイザーとまで呼ばれるデュエリストからの直々の願い。
「お兄さんがアニキと……?」
それは、1年生の間、退学の瀬戸際で奮闘していただけの翔にとっては信じられない言葉。
なにせ、翔はこの苦しい1年間でデュエリストとして爆発的――とまでは言わずとも、中々の成長を遂げた。このまま2年目の日々を乗り越えれば、もっと成長できるだろう。
だが、そんな2年目の日々を過ごしていない1年生である十代が、この過酷とも言える学園で腕を磨いてきた2年生たちを差し置いて在校生の代表に選ばれる。
そして、それをこの場の誰もが――いや、アカデミアが当然のことのように受け止めている現実。
「ああ、勿論だぜ!! 良いよな、万丈目!」
「勝手にしろ」
やがて、グッと親指を立てて勝負を受けた十代が一応とばかりに万丈目に確認を取り合う光景を眺めていた翔は、かつて佐藤が言った「辛くも及第点」との言葉の本当の意味を実感することとなる。
そう、丸藤 翔はようやく昇り始めたばかりなのだ。
この果てしなく続くデュエリストの道を。
かくして、未だ盛り上がりが収まらぬフードコート近くのデュエル場から人目に付かぬようそそくさと離れた神崎へ、空中に浮かぶおジャマイエローは引き留めるように語りかけた。
『ねぇ、ねぇ、ちょっとアンタ~、良かったのん? なんにも言わなくて~』
「どういった意味でしょう?」
『隠れて噂を流して生徒をいっぱい集める手伝いしたんだから少しくらい自慢したって、バチ当たらないわよん?』
そう、十代へデュエルを挑む前に万丈目があらかじめ三沢に願いでた「十代の最大限の実力を多くの人間に鮮烈に見せ付ける」為には、「ある程度のデュエルの経過を観客に見せる」必要がある。
なにせ最後のフィニッシュだけ見ても、十代が在校生代表に相応しいか否かの判断は付かない。
ゆえに、三沢が噂を広める時間を稼ぐべく、万丈目はデュエルの前に十代へそれらしい理由を説明してみせたり、態々デュエルする場所を移動したりと手を講じたのだ。
そして、それらの事情を万丈目の様子から察した神崎は、余計なお節介と知りつつもコッソリ助力した次第である。ただ――
「生徒間で盛り上がっている場への大人の介入は嫌がられますよ。ほら、学園祭で教員がアレコレ口を出して来たら鬱陶しいでしょう?」
『う~ん、そう言われるとそんな気もするけど……』
それらしい理由を付けておジャマイエローを煙に巻こうとする神崎は、礼や見返りが欲しくてやった訳ではない。
ただの自己満足――いや、実際問題として三沢の働きかけだけでも十分な人数は集まっていた公算が高い以上、文字通り「余計なお節介」でしかないのだ。
まぁ、「声だけを遠くへ届ける」なんて裏技も使った以上、神崎が詳細を誰かに語る選択肢は存在しないのだが。
とはいえ、おジャマイエローは変な奴を見るような視線を神崎に向けつつ、ポロっと零す。
『……アンタ、なんて言うかアレね。ずっと見張ってたオイラから見て――競争心? 闘争心? そーいうのが足りてないんじゃない?』
「ずっと見張っていた?」
『あっ、気を悪くしたらゴメンなさいねん。アリスの姉貴からキツく言われてたからなんだけど――全くアリスの姉貴も心配性よね~』
――コブラ経由で私の身元の証明はなされている筈……何を探っている? どちらかと言えば怨霊的な存在ゆえの察知能力があるのか?
だが、おジャマイエローから零れた聞き逃せない発言に神崎は内心で気を引き締める。相手が相手だ。己の力の根にある部分――冥界の王の力を察知する可能性はゼロではない。
『でも安心してん! ホントーに大したことじゃないのよ! 精霊も見えて、カードも大切にしてるのに精霊の影も形も感じ取れないなんて珍しいでしょ? だからなのよ~』
しかし、おジャマイエローは己の顔の前でブンブン手を振りながら陽気な様子でボロボロ語る。あまり当人を前に大っぴらに話してはいけないことまで話している状態だが、おジャマイエローは気付いても、気にしてもいない様子。
とはいえ、おジャマイエローのお気楽なのにも理由はある。
『オイラも言ったのよん! 「精霊界からこっちに来るのって大変だからじゃないか?」って! でも、アリスの姉貴は納得しなくって~』
原作GXにて、サイコ・ショッカーが3人もの生贄を以て精霊界から
学園祭の時のように「楽しそう!」な軽い理由で気楽に来るブラック・マジシャン・ガールたちのような面々は、総じて「精霊として大きな力を持っている」ゆえである。
その為、「小さな力しか持たない精霊」であるおジャマイエローからすれば、アリスの懸念は「心配し過ぎ」と笑い飛ばせる程度のものだ。
しかし、「発覚=死」レベルの情報を秘する神崎からすれば、おジャマイエロー経由でアリスの疑念を晴らしておきたいゆえに、相手の弁に乗る形で潔白を主張するが――
「なら、大変だからこそ『居ない』と言えば良かったのでは?」
『うーん、でも偶然できる小さな次元のひずみを運よく見つけられれば、オイラたちみたいな力の弱い精霊でも来れるには来れるのよ~』
おジャマイエローのような「小さな力しか持たない精霊」でも――いや、「小さな力しか持たないゆえ」に小さな綻びから意外と簡単に来れることもある為、アリスを説得しきれなかったのだと返すおジャマイエロー。
「なら、精霊界に帰られたのかもしれませんね。あまりデュエルをしない性質なので、精霊の皆さんからすれば面白味がないやもしれませんし」
――基本的に人間は精霊界へ行く場合はゲートが必要だが、精霊には必要なかった筈……
『そりゃ精霊界に帰る「だけ」なら、いつでも帰れるけど…………余程、力のある精霊じゃないとこっちには二度と来れないかもしれないのよん! 直ぐ見切りを付けちゃ勿体ないじゃない~』
そうして、己への追及を避けようとする神崎が言葉を重ねるが、神崎が密かに抱く危機感は、おジャマイエローには知るよりもない為、暖簾に腕押しである。
そもそもの話、おジャマイエローが「もったいない」と語るように他の次元へは「多くが自由に行き来できない」ことが前提なのだ。自由に行き来が出来るなら原作GXにてサイコ・ショッカーやツバインシュタイン博士があれだけ苦労していない。
『聞くところによるとアンタ、精霊に詳しいんでしょう? 心当たりがあるならアリスの姉貴に――』
「あなた方も粘られたのですか?」
『えっ?』
「精霊界に帰ろうと思ったことがあるような口調だったので」
だが、そんなおジャマイエローへ今度は神崎が問いかけた。
原作GXにて、おジャマイエローの兄たちが井戸の底に捨てられていたことを思えば、神崎としても気になる部分である。
井戸に捨てられていたカードの精霊たちは、なにを思って井戸の中に居続けたのかと。「精霊界に帰れない」なんてことはなかった筈だ。原作の彼らの様子に「二度と故郷に帰れない絶望」なんてものはなかったのだから。
それゆえに、「冷たい井戸の底で閉じ込められるような生活」の心の支えがなんだったのかと。
『それはオイラって言うよりは、むしろ
ただ、一応はノース校の校長である市ノ瀬に管理されていたおジャマイエローには兄であるブラック、グリーンの苦悩は本当の意味では実感できない。ただ1つだけ分かることもあった。
『兄ちゃんたちも「折角こっちに来れたんだから」って、楽しい思い出が欲しかったのかもね~、精霊界へ帰る
遥か昔の彼らのご先祖様の精霊たちは、人間たちと普通に仲良く暮らしていた――遥か古代アトランティスの時代に潰える前の人と精霊の間に垣根のなかった世界への憧れが魂に受け継がれていたのかもしれない、と。
「その様子を見るに諦めなかった甲斐があったようですね」
『――そうなのよ~ん! ねぇ、聞いて! この前、兄ちゃんたちと一緒にいた子が生徒の1人に選ばれたのよ~!』
「それは何より」
『そうでしょう~! 「ザコ」だの「ゴミ」だの言われて来たオイラたちへ「自分のデッキに必要だ」って!!』
やがて、おジャマイエローの人間への期待感をにじませる瞳は、確かな実感となってマシンガントークの如く放たれる。
そう、彼らの物質次元での依り代となるカードたちは、アカデミアの購買にてデュエリストの出会いを待っているのだ。
『その時はもう! ホント~に! 兄ちゃんたちとみんなでお祭り騒ぎだったのよ!』
ゆえに仲間の良き出会いを己のことのように喜び、自慢げに話すおジャマイエローは今の楽しき日々をこれでもかと話し続ける。
そうして、神崎の歩み以上に止まることのなかったおジャマイエローのマシンガントークだったが――
『それでね、それでねん! その生徒が――』
「申し訳ない。そろそろ行かないと」
『えぇ~! もっとお喋りしましょうよ~!』
船着き場にて、足を止めた神崎の申し訳なさげの声に此度の場はお開きとなる。
「ご勘弁を。仕事もありますし」
『そう言われると引き留められないわね……じゃあ、またね~ん!』
とはいえ、おジャマイエローはもっと話したいようだが「仕事がある」と言われれば、アカデミアの生徒たちを見守る立場でもあるおジャマイエローに引き留める術はない。
ゆえに、定期船に乗って去る神崎へ向けてブンブンと腕を振っておジャマイエローは別れを惜しむこととした。
『…………あらん? オイラ、なにを聞こうとしてたんだっけ?』
ところ変わって日にちもまたいだ頃、アカデミアの全校生徒が観客席にて見守る中、アカデミアで定期試験が行われる一番大きなデュエル場にて、たった2人のデュエリストが向かい合う。
そんな場に審判として立つクロノスは卒業していく生徒たちへ抱く寂しさを隠すように努めてオーバーに宣言した。
「卒業デュエルを始めるノーネ! このデュエルは学園外にも発信しているカーラ、やり直しなんーて出来まセェーンヌ! 両者、悔いのないようにすルーノ!」
そう、改革後のアカデミアは相も変わらず外部への情報発信を徹底しているゆえ、生徒は勿論のことクロノスとて情けのないところは見せられない。
だが、そんな緊張感を抱くクロノスに反し、卒業生代表の亮は普段と変わらぬ様子で語りだす。
「十代、俺はあまり良い先輩ではなかったのかもしれない。接した時間も少なければ、託せたものも…………駄目だな、やはり上手くは伝えられそうにない」
とはいえ、持ち前の口下手さも変わらぬ為、亮は言葉を打ち切ってデュエルディスクを構えて見せる。
「デュエルで語ろう。やはり俺には、それしか出来ない」
「望むところだぜ!」
「デハデーハ! デュエルの前ェーニ! 先攻後攻の選択権を持つシニョール遊城! どちらか選ぶノーネ!」
そして、最後の言葉はデュエルの中で――と在校生代表の十代と共に話が済めば、クロノスの最後の音頭の元――
「勿論、先攻だぜ! カイザーのサイバー流は後攻が得意なんだろ!」
「ああ」
「両者、気合は十分なノーネ! だったァーラ――デュエル開始ィィイィイイィイナノーネ!!」
「 「 デュエル!! 」 」
この1年の集大成となるデュエルが幕を開けた。
「俺の先攻! ドロー!!」
『気を付けろよ、十代。今のカイザーにライフハンデなんてものはない――僅かなダメージすら許されない時と違って余裕が段違いだ。大胆に攻め込んでくるよ』
――勿論分かってるぜ、ユベル!! 1ターンだって猶予は渡せない!
かくして、始まってしまった卒業デュエル。だが、十代の中で行事的な思惑なんて欠片もない。ハンデ抜きの正真正銘の真剣勝負――全力全開のカイザーを前にデュエルできる喜びと楽しみが満ちている。
「俺は魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いは手札を全て捨て、捨てた枚数ドローする!」
「俺は墓地に送られた《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》の効果。デッキから《サイバー・ドラゴン》を手札に」
「だったら、モンスター効果が発動したことで魔法カード《三戦の才》を発動! 俺は更に2枚ドロー!」
そして、挨拶代わりのドロー合戦が渦巻けば、亮のデッキから白銀の機械龍が手札に轟くと同時に、十代の元でうちわ型の軍配が双方の激突を望むように振るわれた。
やがて、魔法カード《闇の量産工場》で墓地の2枚のヒーローを回収した十代は――
「来い! フェザーマン!!」
緑の体毛に白い翼の生えた何処か獣染みた特徴を残す風のヒーローが鉤爪の拳を握って、雄々しく現れた。
《
星3 風属性 戦士族
攻1000 守1000
その《
「此処で魔法カード《馬の骨の対価》を発動! フェザーマンを墓地に送って2枚ドロー!」
『仕込みは十分ってところかな』
「魔法カード《死者蘇生》! 墓地から戻ってこい! エッジマン!!」
そうして《
《
星7 地属性 戦士族
攻2600 守1800
「魔法カード《融合派兵》! エクストラデッキのスチームヒーラーを公開し、デッキからバブルマンを特殊召喚だ!!」
更に顔の上半分を覆う水色のマスクに同色のアーマーを装着した名前の通りに操る水を背中のタンクを親指で指さすポーズと共に白いマントをひるがえす。
《
星4 水属性 戦士族
攻 800 守1200
「カードを5枚セットしてターンエンド!!」
十代LP:4000 手札1
《
《
伏せ×5
VS
亮LP:4000 手札6
かくして、攻撃できない1ターン目ゆえに5枚のセットカードで守りを固めた十代だが、自ら貧弱な攻撃力を晒した《
「エッジマンはともかく、バブルマンを攻撃表示だと?」
「何か狙いがあるんだろうけど、あからさま過ぎるわ……」
そう、明日香の言う通り、圧倒的な攻撃力が自慢のカイザー亮を前に800ぽっちの攻撃力を晒すなど自殺行為以外の何物でもない。
誰の目から見ても「5枚のセットカードで迎え撃ちます」と宣伝しているようなものだ。
こうも見え透いた罠など誰が不用意に踏んでくれるというのか。
しかし、亮と付き合いの長い吹雪たちの考えは真逆だった。
「でも、亮なら真正面から飛び込んで行っちゃうだろうね」
「馬鹿でしょ」
「こ、小日向さん、亮も亮なりに十代くんの気持ちに応えようとしているだけだから……」
何故なら、丸藤 亮というデュエリストは罠を前に臆することもなければ、罠を除去するまで動くのを待つタイプでもない。
悪く言えば、見え透いた罠に不用意に突っ込むタイプだ。
ただ、1つばかり注釈を付け加えるのなら――その歩みは凡百のそれではない。
そう、
「俺のターン、ドロー」
――十代。お前の目が教えてくれている。その場しのぎの防御ではなく、既に俺から勝利をもぎ取らんとしていることが。
やがて、カードをドローした後、暫し逡巡するカイザーは十代の目に確かな闘志が満ちていることを感じ取る。それはもはや「攻めて来い」と言わんばかりの挑発だ。
「墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》を除外し、効果発動! デッキから『サイバードラゴン』1体――《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を特殊召喚」
ゆえに、亮が繰り出すのは「ドラゴン」との名の割に海蛇のような小柄な体躯の機械龍。
だが、そんな《サイバー・ドラゴン・ネクステア》が三本指を広げたような翼を広げ、機械音を響かせれば――
《サイバー・ドラゴン・ネクステア》守備表示
星1 光属性 機械族
攻 200 守 200
「更に《サイバー・ドラゴン・ネクステア》の効果により、墓地よりステータス2100の――《サイバー・ファロス》を蘇生」
大地より半透明な灯台が飛び出すように建設され、灯台の天頂部より光を灯すと共にその全容を水色の淡い光が包み込んだ。
《サイバー・ファロス》守備表示
星1 光属性 機械族
攻 0 守2100
――ならば、俺も全力で応えよう。
「此処で魔法カード《機械複製術》を発動。攻撃力500以下の《サイバー・ドラゴン・ネクステア》の同名モンスター2体をデッキから特殊召喚するが、フィールドの《サイバー・ドラゴン・ネクステア》は《サイバー・ドラゴン》として扱われている」
『まさか!?』
「デッキより来たれ! 2体の《サイバー・ドラゴン》!」
十代の挑発を真正面から受ける形で呼び出されるのは、彼の相棒たる白銀の機械龍が亮の左右を固めるように左右対象となる姿勢で天を向き現れる。
《サイバー・ドラゴン》×2
星5 光属性 機械族
攻2100 守1600
「《サイバー・ヴァリー》を召喚」
そうして次々と機械龍が並ぶ中、それらより一回り巨大ながらも眼すらない顔なき無貌の機械龍がその細く長い身体で《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を絡めとれば――
《サイバー・ヴァリー》攻撃表示
星1 光属性 機械族
攻 0 守 0
「そして《サイバー・ヴァリー》の効果――フィールドのモンスター1体と自身を除外し2枚ドロー」
《サイバー・ヴァリー》と共に《サイバー・ドラゴン・ネクステア》の姿は消え、光の粒子となって亮の手札を潤した。
――俺の全てを以て挑もう!!
かくして、下準備は終わったとばかりにフィールドへと手をかざす亮。
「揃った……」
その姿を見て、そう呟いたのは果たして観客の誰の声だったのだろう。
「俺は《サイバー・ファロス》の効果を発動! 融合召喚を行う!! フィールドと手札の《サイバー・ドラゴン》3体を融合!!」
そんなデュエル場にまで届く筈のない誰かの呟きを合図とするように、手をかざした亮のフィールドにて3体の《サイバー・ドラゴン》たちの間で巨大なスパークが迸り始める。
「現れろ!!」
さすれば、そのスパークがぶつかり合うように巨大な渦と化し、3体の《サイバー・ドラゴン》たちを呑み込んで行き――
「――《サイバー・エンド・ドラゴン》!!」
渦の果てより降臨するのは亮の相棒たる三者三様の形を見せる三つ首の巨大な機械龍。
その巨躯から伸ばす巨大な翼を広げ、咆哮を轟かせる姿はまさに圧巻の一言。
《サイバー・エンド・ドラゴン》攻撃表示
星10 光属性 機械族
攻4000 守2800
『1ターン目で……!』
「相変わらず最高だぜ、カイザーは!」
「バトル!! 行け、《サイバー・エンド・ドラゴン》! エッジマンを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!!」
速攻とばかりに《サイバー・エンド・ドラゴン》の三つ首から迸るエネルギーが破壊の奔流となって放たれんとする中、迎え撃つ《
「でも、流石にそいつは通さないぜ! 罠カード《エッジ・ハンマー》!! エッジマンをリリースし、《サイバー・エンド・ドラゴン》を破壊!! その攻撃力分のダメージをカイザーに与える!!」
途端に、ブースターがパージされ、推進力を生み出す為のブースターはハンマーへと変形。
そして振りかぶり気味に《
周囲を巨大な爆発と爆煙で包みこんだ。
「4000の効果ダメージ!! これでアニキの勝ちっス!!」
その圧倒される規模の余波を前に、観客席の翔は兄である亮の一瞬の隙を狙いすましたアニキ分の勝利を確信するが――
『まぁ、そんな簡単に終わってくれる相手じゃないだろうね』
当の十代はユベルの言う通り、これで勝てるなら苦労はないと爆煙の中に目を凝らしていた。
その中より現れるのは3体の《サイバー・ドラゴン》が亮を守るように周囲でとぐろを巻く姿。
《サイバー・ドラゴン》×3 攻撃表示
星5 光属性 機械族
攻2100 守1600
「速攻魔法《融合解除》を発動させて貰った。よって対象を失った《エッジ・ハンマー》は不発となる」
『来るぞ、十代!』
「《サイバー・ドラゴン》でバブルマンを攻撃! エヴォリューション・バースト!!」
そして、無為に《
これで、十代を守るヒーローは消え、残りの2体の《サイバー・ドラゴン》の攻撃で十代のライフは尽きる。
だが、光線のブレスに貫かれた《
「速攻魔法《バブル・シャッフル》! バブルマンと《サイバー・ドラゴン》は守備表示になって貰ったぜ!」
意思を持ったかのように動く泡が《サイバー・ドラゴン》を包めば、金属の装甲がサビたことで《サイバー・ドラゴン》の動きが鈍り、その攻撃は十代までは届かない。
《
「まだだ! 《バブルシャッフル》の更なる効果! バブルマンをリリースし、手札のヒーローを特殊召喚する! 頼んだぜ、バーストレディ!!」
やがて、泡状になった《
《
星3 炎属性 戦士族
攻1200 守800
「ならば2体目の《サイバー・ドラゴン》の攻撃!!」
「その攻撃宣言時、罠カード《異次元トンネル-ミラーゲート-》発動! 互いのコントロールを入れ替えてバトルを行う!」
やがて亮の左側に陣取っていた《サイバー・ドラゴン》が牙を剥きながら《
「速攻魔法《フォトン・ジェネレーター・ユニット》発動! フィールドの2体の《サイバー・ドラゴン》をリリースし、デッキより現れろ!!」
しかし、飛び掛かった《サイバー・ドラゴン》が鏡の世界へ呑み込まれる寸前に、とぐろを巻いて守備表示になっていた方の《サイバー・ドラゴン》が追加装備と共に激突すれば――
「――《サイバー・レーザー・ドラゴン》!!」
2体の《サイバー・ドラゴン》が分解・再連結され、一回り大きく長大な新たな機械竜としてバージョンアップされ、閉じた花のつぼみのような尾先を大地に突き刺すことで強引に身体を引き戻すことで窮地を脱した。
《サイバー・レーザー・ドラゴン》攻撃表示
星7 光属性 機械族
攻2400 守1800
さすれば迎え入れる住人が消えたことで鏡の迷宮こと《異次元トンネル-ミラーゲート-》も砕け散り、ガラス片から仲間を守るように《
「くっ!?」
『躱された!』
「3体目の《サイバー・ドラゴン》でバーストレディを攻撃し、《サイバー・レーザー・ドラゴン》でダイレクトアタック! エヴォリューション・レーザーショット!!」
そして、《サイバー・ドラゴン》の光線のブレスによって《
「――ぅわぁあぁぁあ!!」
十代LP:4000 → 1600
形だけみれば見え透いた罠に無防備に突っ込んで来ただけの愚者の如き歩みが止めきれない。
くだらぬ小細工など悠々と踏み潰して突き進む姿はまさに
そうして、多くの罠を費やしたにも関わらず半分以上のライフを持っていかれた十代だが、その顔には強気な笑みが浮かんでいた。
「ぐっ……でも、凌ぎ切ったぜ!」
『あのカイザーの攻撃を凌げるなら、この程度のダメージ安いもんさ』
そう、あのカイザー亮を前に凡そライフ半分で済んだのだ。この事実は大きい。
ライフが尽きなければ、敗北ではない。勝利の可能性は十二分にある。
そして、既に逆転への布石も揃えた。
「速攻魔法《サイバネティック・フュージョン・サポート》! 俺はライフを半分払うことで、このターン融合召喚の際に1度だけ墓地のカードも除外できる!!」
だが、
カイザーLP:4000 → 2000
再び亮の元で迸るスパークこと機械族の進化の灯火が点火される中、ユベルは苛立ち気にヤジを飛ばす。
『今はバトルフェイズだってのに、しつこい奴だ!!』
「速攻魔法《瞬間融合》! 《サイバネティック・フュージョン・サポート》により《サイバー・ファロス》を除くフィールド・墓地の機械族モンスター全てを除外し、現れろ!!」
モンスターを呼び出すのはメインフェイズ――なんて定石など飛び越え、そびえ立つ《サイバー・ファロス》以外の数多の機械龍を呑み込み、二度目の融合の渦の先より、くすんだ銀の装甲が顔を出す。
「――《キメラテック・オーバー・ドラゴン》!!」
そしてフィールドに鎮座するのは灰鉄で出来た巨大な壺のような胴体に竜の尾が伸びるだけの「ドラゴン」とは形容できぬ歪な存在。
更に、その出現の際の衝撃で亮のフィールドの《サイバー・ファロス》が消し飛ばされ、墓地に送られていくが――
《キメラテック・オーバー・ドラゴン》攻撃表示
星9 闇属性 機械族
攻 ? 守 ?
「そのステータスは素材としたモンスターの数×800ポイント! よって、その攻撃力は――」
それと同時に《キメラテック・オーバー・ドラゴン》は、その首なき胴体から己が身に取り込んだ機械龍の数――5本の首を伸ばして咆哮を上げる姿を以て、その名の通りに「キメラ」と評される機械龍としての全容を見せ付けた。
《キメラテック・オーバー・ドラゴン》
攻 ? 守 ?
↓
攻4000 守4000
「攻撃力4000!?」
「ダイレクトアタックだ! 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》! エヴォリューション・レザルト・バースト!!」
完全に無防備な十代へ目がけて5つのブレスの奔流が逃げ場を奪うように放たれんとするが、その破壊の一撃がくだされる前に笛の音が響いた。
「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》! 頼んだぜ、相棒!!」
『クリッ!』
途端に十代の元に天より降り立つ天使の翼が生えた毛玉こと《ハネクリボー》。
決意タップリの様子で、翼で己を包み身体全体を盾とするように《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の前に立ちはだかった。
《ハネクリボー》守備表示
星1 光属性 天使族
攻 300 守 200
「《ハネクリボー》の効果は知ってるよな? これで今度こそ凌ぎ切らせて貰ったぜ!」
そして得意げに語る十代の言う通り《ハネクリボー》の「破壊され、墓地に送られたターンのダメージを0にする」効果によって、今度こそ亮の進撃は止まることとなる。
「ならば《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃をキャンセルだ」
『ハネクリボーを攻撃しない……?』
それゆえ、忌々し気な様子で《キメラテック・オーバー・ドラゴン》は五つ首にチャージしていたエネルギーを霧散させ、矛を収めさせた亮の元で苛立ち混じりに「グルル」と喉を鳴らす。
その苛立ちは獲物を前に尻尾を巻く担い手への怒り。
「そして、このカードを発動する――速攻魔法《サイバーロード・フュージョン》!!」
ではなく、獲物へと止めを刺すのが己ではないことへの怒り。
「除外された《サイバー・ドラゴン》3体をデッキに戻し、融合召喚!!」
天へと三度現れた融合の渦へ三つの機械龍の幻影が連なるように昇り、この一戦を終わらせる巨躯へと昇華する。
「再臨せよ!」
「嘘……だろ……」
「――《サイバー・エンド・ドラゴン》!!」
そうして現れるのは、このターン退けた筈の《サイバー・エンド・ドラゴン》が雄たけびを上げる姿。
《サイバー・エンド・ドラゴン》攻撃表示
星10 光属性 機械族
攻4000 守2800
やがて、亮は静かに告げる。
「お前がこの状況を託すに値するカードは分かっている」
そう、この状況は十代の入学試験の時に酷似したもの。
「お前も知っての通り、《サイバー・エンド・ドラゴン》には貫通ダメージを与える効果を持つ――《ハネクリボー》の効果は適用が間に合わない」
だが、今回はクロノスの《
「《サイバー・エンド・ドラゴン》で《ハネクリボー》を攻撃!!」
ゆえに、これで最後の攻撃だと言わんばかりの力強い宣言の元、《サイバー・エンド・ドラゴン》の三つ首から破壊のエネルギーがチャージされて行き――
「――エターナル・エヴォリューション・バースト!!」
回避不能の破壊の三筋の奔流となって十代へと放たれた。
そんな必殺の一撃が大地を削りながら己に迫る中、高揚感にも似た妙な心地よさに浸りつつ十代は、世界がスローに見えるかのような感覚の中で思わず呟いた。
「やっぱカイザーは強ぇ。パーフェクトどころじゃないぜ……」
「だが、『パーフェクト』などデュエリストに眠る無限の可能性に比べれば、ただの称号に過ぎない」
しかし、《サイバー・エンド・ドラゴン》が放つ破壊の奔流が周囲と共に緩やかに進む中で、十代と亮――お互いの意思だけが不思議とスッと交わされる。
そんな極限の集中状態から流れる2人だけの奇跡の時間の中、亮は卒業生として最後の言葉を贈った。
「飾る言葉に惑わされるな。可能性という道中を楽しんでいけ」
「サンキュー、カイザー! 卒業生の言葉――しっかりと受け取ったぜ!」
やがて、卒業生の言葉を受け取った十代の感謝を合図とするように、スローだった周囲の時間が元の速度を取り戻していく。
そして、《サイバー・エンド・ドラゴン》が放ったブレスが破壊の奔流となって、大地を砕きながら《ハネクリボー》ごと十代を呑み込まんとする中、十代は最後のリバースカードへ手をかざした。
「だけどさ、在校生代表として俺から卒業の記念はこれからだ! 受け取れ、カイザー!!」
さすれば、《ハネクリボー》の眼前に摩訶不思議な魔法陣が出現し――
「罠カード《リミット・リバース》! 墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を復活だ! さぁ、ド派手な花火を上げようぜ!!」
1つの人影が《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃を遮るように降り立つ。
「――ユベル!!」
その人影の正体は十代の唯一無二のパートナーであるユベル。その背の竜の翼を広げて悠然と腕を組む姿には十代を守る意思が垣間見えた。
《ユベル》攻撃表示
星10 闇属性 悪魔族
攻 0 守 0
「更に、墓地の罠カード《仁王立ち》を除外し、ユベルを選択! これでカイザー! アンタはユベル以外を攻撃できない! さぁ、これで今度の今度こそ凌ぎ切らせて貰ったぜ!」
そして迫る《サイバー・エンド・ドラゴン》の破壊の奔流たるブレスを迎え撃つように立ちはだかったユベルを前に、静かに瞳を閉じた亮は開眼すると同時に――
「――攻撃続行だ、サイバー・エンド!!」
「へへっ、ユベルが相手でも真正面から――って訳か! 望むところだぜ! 勝負だ、カイザー!!」
亮の指示に臆することなく《サイバー・エンド・ドラゴン》は応え、更なる力をブレスに乗せた姿に、十代も如何にしてユベルに対抗するのかワクワクを抑えきれない様子で見据えつつ、拳を握って突き出した。
さすれば、十代の愛を受けたユベルは、足元からツタを移動型の盾のように己の周りを旋回させ始める。
「ユベルの効果! 攻撃されたダメージ計算前に、攻撃モンスターである《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力分のダメージを与える!!」
そして《サイバー・エンド・ドラゴン》のブレスと、ユベルのツタの壁が激突。
互いに互いを押しつぶさんとしのぎを削り始めるも、ユベルの力によって逆に押し返していき――
「行くぜ、ユベル!」
『勿論だよ!!』
「ナイトメア・ペイン!!」
『ナイトメ――ッ!?』
「墓地の罠カード《ブレイクスルー・スキル》を除外させて貰った。これでユベルの効果は発動しない――言った筈だ、十代」
しかし、破壊のブレスが亮へとはじき返されることなく、《サイバー・エンド・ドラゴン》の放ったブレスはジリジリとユベルを押し込んでいく中、ユベルを心配する十代へ亮は再びかの言葉を告げる。
「――ユベル!?」
「『お前がこの状況を託すに値するカードは分かっている』と」
『くっ……十代、ゴメ――』
「ユベルの効果が無効になったことでサイバー・エンドが与えるダメージは十代、お前が受けることとなる――サイバー・エンド!!」
そして、最後の十代の策も読み切っていた亮は、己が相棒たる《サイバー・エンド・ドラゴン》に引導を渡させべく声を張れば、ブレスを放っていた《サイバー・エンド・ドラゴン》の眼が鈍く光り――
「――エターナル・エヴォリューション・バースト!!」
「『――うわぁぁあああぁあああ!!」』
より強大になった光のブレスがユベル諸共、十代を呑み込んだ。
十代LP:1600 → 0
卒業デュエルの決着がついたというのに観客の誰一人として言葉を発せられない。
辺りを沈黙が支配する。
そんな中、ただ1人だけ普段と変わらぬ様子で歩みより、膝をつく十代へ手を伸ばした亮は――
「十代、良いデュエルだった」
「加減しなさい!! 馬鹿なの!?」
後ろから襲来していた小日向に頭をパシンと
在校生と卒業生がデュエルを通じてターンを重ねながら対話する――なんて空気を一切読まず、容赦なく
だが、そんな中でも周囲の観客たちは頑張って空気を読んで盛大な拍手を送った。
その後、カイザーは小日向に首根っこ掴まれガクガク揺らされたり、肩へ手を置いた吹雪からフォローの言葉が贈られたり、頭を抱えた様相の藤原からの呆れた視線を受けることとなるが栓無きこと。
ただ、そんな物言わぬ親しさが垣間見える卒業生のやり取りを、十代は何処か眩しさを覚えつつ、あの言葉を贈る。
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、カイザー!!」
結果が敗北であっても、十代にとって最高に楽しいデュエルだったのだから。
今日の最強カードは《一時休戦》!
お互いに1枚ドローする代わりに、次のターン終了までお互いにダメージが発生しない
まさに「休戦」の名に相応しい守りのカードだ!
これにて、1年生編は終了となります。
定期更新が崩れて申し訳ない限りの章でした。
そして、アンケートの方も締め切りとさせて頂きます。ご協力感謝です。
頂いたご意見はしかと糧にして参りたいと思います。