マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
カイザー「今日の最強カードは《一時休戦》――《パワーボンド》のデメリットも回避できる良いカードだ。手札にあれば不測の際、頼もしい1枚となるだろう」






第4章 セブンスターズ編 崩壊する日常
第276話 あからさまな挑戦状


 

 

 

 アカデミアの校長室でデスクを前に座すコブラへ受話器の向こう側の人物は焦った様子でまくし立てていた。

 

『ど、どうしてデアールか、ムッシュコブラ! 吾輩(わがはい)はアカデミアの改革に全面的に協力すると申したではないですか!』

 

「Mr.ナポレオン、キミの能力を疑っている訳ではないが――ご子息の進学に先んじてアカデミアに席を置こうとする状況になっている現実は看過できない」

 

 コブラの通話相手の名はナポレオン――原作では十代たちが2年生になった頃に教頭として赴任した人物である。ただ、その性格は「原作初期の頃のクロノス先生」と凡そ合致しており、「教頭」としての能力には疑問が残ろう。

 

 更に、コブラの語った「十代が3年生時に入学する息子」ことマルタンと共に、3年目の途中でアカデミアから去っていく為、「息子の身を案じて一線を引いた」と言えば聞こえは良いが、結果的に「混乱だけもたらして汚名を返上することなく自己都合で去った」教員だ。

 

 当然――

 

『そ、それは誤解デアール! 確かにマルタンは来年アカデミアを受験する予定デアールが――』

 

「現在のアカデミアは改革を推し進めているとはいえ、依然として微妙な立場だ。そんな中で『教員が我が子可愛さに』などと要らぬ誤解を受けかねない事態は、此方としても避けたいことを理解して頂きたい」

 

 コブラの言う通り、そんな能力的に疑問が残る人物(ナポレオン教頭)を招き入れる余裕は、この歪んだ歴史におけるアカデミアには一切ない。

 

 生徒の行方不明こと死亡(大徳寺主導の墓守の試練)海外留学に偽装した失踪(影丸主導のダークネスの実験)、成績不振による学園ブランドの低下の蓄積etc.etc

 

 そう、次に大きな問題が起きればコブラの進退どころか「アカデミアの取り潰し」すら視野に入るレベルの負債が残っているのだから。

 

「以上がキミを採用しなかった理由だ。悪いが業務も山積みでね――これ以上の直談判に付き合えん」

 

『ま、待って欲しいのデア――』

 

「失礼する」

 

 やがて、通話を打ち切ったコブラは差し迫った問題を前に対処すべく、今のアカデミアの中核を担う2人へと謝罪と共に向き直った。

 

「すまないな、話の腰を折ってしまって」

 

「いや、それは構わないんすけど……人員増やしてくれるって話じゃなかったんすか?」

 

「誰でも良い訳ではない。孤島という閉鎖的な立地がある以上、自浄作用の腐敗の問題は常について回る。半端者を招く訳にはいかん」

 

 牛尾が、アカデミアの警備の大部分を担う「アカデミア倫理委員会」の顔役として苦し気な人員事情を漏らすが、此処ばかりはコブラとて妥協は出来ぬ部分だと返すほかない。

 

「ねぇ、いい加減に話を戻してくれない? あたしだって暇じゃないのよ」

 

「そういうなよ、アリス。俺らにとっちゃ死活問題なんだぜ?」

 

 だが、此処でアリスが、いつまでたっても脇に逸れた話を戻さぬ2人に対して苛立ちを隠すことなく苦言を飛ばすが、牛尾の泣き言を無視して言い放った。

 

「だとしても、人形の怨霊のあたしには関係ないわ。今は『セブンスターズ』とか言う奴らが来て面倒事を起こすって話の方が重要でしょう――ねぇ、コブラ?」

 

 なにせ、人形の(元)怨霊としてカードの精霊(おジャマイエロー)たちと友好を結び、アカデミア中に監視の目を巡らせるアリスにとって、「外」から迫る敵は最重要案件である。

 

 こうしている間に「カードの精霊たちが敵の顔を知らず素通りさせました」なんて報告があれば目も当てられない。

 

 そんな事情を理解しているコブラは、話の根っこの部分を語り始めた。

 

「勿論だとも。マスター鮫島の話ではこの学園の地盤に封印された強大な力を持つ『三幻魔』を狙う謎に包まれた7名のデュエリスト――『セブンスターズ』を、アカデミアの選ばれた7人のデュエリストが打ち払う(いにしえ)より伝わる盟約との話だ」

 

「つまり、果し合いみたいなもんすか」

 

「なにそれ。盟約だかなんだか知らないけど、前年度も前々年度もそんな奴ら来てなかったわよ」

 

「存じている。これはアカデミア設立時の最初期より伝承として言い伝えられて来た今や化石染みた代物でしかない」

 

「……あっやしいわねぇ」

 

 だが、蓋を開けてみればアリスが呟いた通り「意味不明」の伝統だった。

 

 危険らしい三幻魔のカードがアカデミアに封印されているのは「封印した輩の問題」である為、流すとして――

 

 まず、「危険カードを狙う(恐らく)悪い奴ら」の対処を、デュエルの腕が立つとはいえ「アカデミアの生徒が撃退しなければならない理由」が一切ない。

 

 流石に「(いにしえ)の言い伝え!」でゴリ押すのは、我が子を信頼してアカデミアに通わせている親御さんへの裏切りどころではない蛮行である。

 

 更に(恐らく)悪い奴らが「態々7人の人数制限」を「かけてくれる」点も、なんらかの別の意図が垣間見え、どう考えても罠臭い。

 

 もはや、「もうセキュリティ(警察)呼べよ」と言われかねない状態だ。別に「超常の存在に選ばれた者でしか解決できない」訳でもないのだから。

 

 しかし、この歪んだ歴史の影響で上述の問題をゴリ押せる「影丸理事長の強権」が潰えたことで、セブンスターズ側も体裁は取り繕ってきた。

 

「十中八九、罠だろう。だが、相手も『流石にこのままではあからさま過ぎる』と考えたのか、『伝承になぞらえたアカデミアの伝統である交流試合』との正規の手順を踏んできた」

 

 そう、コブラが語ったように相手が「過去の伝承を現代風にアレンジしただけのショーイベントです」とのカモフラージュこと建前を用意してきた為、無視するわけにもいかない事情がある。

 

「実際、マスター鮫島が語った『(いにしえ)からの言い伝え』との情報は過去のアカデミア設立時から学外でも噂されている以上、無碍にすれば角が立つ」

 

 風評――今のアカデミアにとって、もっとも気にしなければならないウィークポイントだ。前体制での悪評は未だ完全に取り除けた訳ではないのだから。

 

「『伝統を軽んじ、勝負から逃げた』などと吹聴されれば生徒たちの将来に傷がつきかねん」

 

「敗北条件はどうなってんすか?」

 

「この7つの鍵を奪われること――つまり、学園側が7敗することだ」

 

 やがて、ボリボリと困ったように頭をかく牛尾へ、コブラはデスクから取り出したケースに収められた7枚の板がパズルのように1つに組み合わされた代物をテーブルに乗せれば、胡散臭そうに1枚の板こと鍵を指でつまんだアリスは――

 

「なら鍵、壊しちゃえば? 伝統なんて出来っこない状況なら――」

 

「悪手だな。この鍵は用意されたものだ。代用品がある可能性は決して少なくない」

 

 爆弾発言をするも、コブラは厳しい口調で「否」を示すように首を左右に振る。風評が肝だというのに「大事な伝承の鍵の管理も碌に出来ない学園」なんてレッテルを貼られれば意味がない。

 

「それに加えて、この鍵を『重要なもの』と定義して託された以上、紛失や破損は付け入る隙を与えるだけになりかねない」

 

「なによ。じゃあ、そいつらの言う通りに馬鹿正直に『交流試合』する気なの?」

 

 やがて、「アレもダメ」「これもダメ」なやり取りに嫌気がさしたようなアリスが自身の両の手を腰に当てつつ呆れ顔を見せつつも話し合えば――

 

「その選択肢はない。こんな化石同然の伝承を今になって持ちだす輩がまともだと思うのかね?」

 

「でも『伝統を軽んじる』のはダメなんでしょう?」

 

「アカデミアへの挑戦状を俺ら『倫理委員会が受ける』ってのもおかしな話っすからね。相手さんも納得しねぇでしょうし、『挑戦から逃げた』ってレッテル張りに来るんじゃないっすか?」

 

「安心してくれ、シンプルな解決案を用意した」

 

 諸々の問題点を共有した後、1枚の書面をデスクに置いたコブラより全ての問題をクリアできる魔法のような――訳でもないが――解決案が明かされる。

 

 

 そして、その概要を語り終えたコブラへ、牛尾は頭を抱えた様子で呟いた。

 

 

「……あー、はいはい、理屈は分かるんすけど――これ、コブラ校長の発案じゃねぇっすよね?」

 

「バッッッッカみたいなこと考える奴がいたものね。こんなの本当に出来るの?」

 

「仮に失敗したとしてもアカデミア側にさしたるデメリットがない。ゆえに私はこの案を受けるつもりだ」

 

 アリスの呆れを通り越して感心すらしていそうな感想に反し、肯定的な意見を見せるコブラ。そして、困り顔の牛尾は助けを求めるようにアリスへ問うた。

 

「いや、まぁ、それはそうなんすけど…………どうするよ?」

 

「良いんじゃない? やらせてみれば」

 

「……意外だねぇ、てっきりお前さんは反対するもんとばかり」

 

「正直、貴方たち程は彼のこと信用できる気はしないけど、この無茶苦茶な案は『生徒を守りたい』って考えた結果なのくらいは分かるもの――でもアカデミアでの監視は続けるわよ」

 

「では決まりだ」

 

 しかし、達観にも似た心境のアリスが発案者への警戒を続けることを条件に若干、投げやり気味に作戦の同意を見せれば、一同の腹は決まった。

 

「だが、情報漏洩を防ぐ意味でも全容を知る者は最低限に抑えなければならない。ゆえに――」

 

 そうして、必要事項を話し合いつつ各部署へ連絡を入れ始める3名。

 

 そう、此処に生徒を守りたいアカデミア VS 幻魔絶対復活させたいセブンスターズの構図が形成されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牛尾とアリスが校長室から去った後、デスクに席を落としたコブラは受話器片手に連絡を取っていた。

 

「――ああ、そうだ――懸念だったアリス嬢にも無事に話は通せた。これでアカデミア倫理委員会も上手く情報統制してくれるだろう――が、こんな作戦、考え付いたとして実行しようと思うものかね?」

 

『絶対的な安全性は保障されますよ?』

 

「成功すればの話だがな。此方の手回しは済んだが、キミの方はどうなんだ。計画は盤石かね?」

 

『どうでしょう? 良くも悪くも相手次第でしょうし』

 

「…………まぁ良い」

 

 だが、肝心のコブラの通話相手たるハチャメチャな作戦を立てた人物からの何とも言えぬ物言いにコブラは一言申したくなるのをグッと堪えて先の話を促すように言葉を零した。

 

「しかし、カイザー亮が卒業した途端に『これ』か」

 

『そういう意味では、分かり易いタイミングでしたね』

 

「それに加えて、幻魔復活儀式とやらの条件である遊城 十代を狙えば、同じく条件に合致する藤原 優介が割って入ることも容易に想像できる」

 

『あの2人の実力を思えば、デュエルを避けたくなる気持ちも分かります』

 

「己の力を過信せず、警戒心の高い相手――と考えれば厄介極まりないがな」

 

 コブラが危惧していたのはセブンスターズが動いたタイミングだった。あからさまな程に亮と藤原を避けている。

 

 電話の主の言い分は理解できなくはないが、セブンスターズがただの臆病者ではなさそうなのはコブラとしても悩みの種であろう。ゆえに、これ以上の懸念事項は御免だとばかりに確認を取れば――

 

「ミスター鮫島の話では、学園の伝承自体に影丸『元』理事長が関与している疑いがあるそうだが、あの老人は今や檻の中――今はカミューラとやらが主導していると仮定して良いんだな?」

 

『恐らく間違いはないかと。残りのセブンスターズのメンバーが何人賛同したのかは定かではありませんが』

 

「それは構わんよ。どの道、『枠は7つ』だ」

 

『では、お互い手筈通りに』

 

「ああ、諸々含めて何事もなく終わらせよう」

 

 敵の全容をお互いに最終確認した両者の通信はプツリと途切れた。

 

 やがて、「フゥ」と一つ息を吐いたコブラはデスクの上の計画書を手に取って再度目を通し終えた後、誰に語り掛ける訳でもなくひとりごちる。

 

「…………よくもまぁ海馬 瀬人は、こんな男をコントロールできたな」

 

 そんな今回の計画へのコブラの嘘偽りない感想は、懐から出されたライターによって燃やされていく計画書と同様に誰にも届くことなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コブラ校長からの呼び出しに集まった十代・万丈目・明日香のいつもの3人組は、コブラから語られたこの学園にまつわる伝承を聞かされるも――

 

「三幻魔のカード?」

 

「キミたちには馴染みのない話やもしれんが、このデュエルアカデミアの地下に(いにしえ)より封印されている伝説の3枚のカードのことだ」

 

 代表して首を傾げる十代の様子が示す通り、生徒たちの間では一切周知されていないことが伺える。

 

「――と言っても実情は、デュエルアカデミアの設立の際に箔でもつけたかった一部の面々が地下に収めたのだろう」

 

「うぉー! なにそれ! 凄そうじゃん! デュエルしてみてー!」

 

 だが、続いたコブラからの「封印・伝説」との響きに釣られる十代だが、万丈目は険しい表情で先を促した。

 

「……封印との話ですが、それ程までに危険なカードなのですか?」

 

「前任の鮫島校長に聞いた話では、その3枚のカードが解き放たれれば世界は混沌に――などと、神話によくある内容だ」

 

 とはいえ、残念ながら「危険性」についての「科学的な証明」は一切ない。精々がアカデミアに襲来したサイコ・ショッカーからの伝聞程度だ。

 

「真偽の程は実物を確認できない以上、なんとも言えん。だが、アカデミア設立時から今にかけて三幻魔のカードによる問題は起こってはいないことは確かだ」

 

『なんだい。やけに含みのある言い方じゃないか』

 

「心配し過ぎだって、万丈目!」

 

「馬鹿か貴様は――態々コブラ校長直々に呼ばれた理由を少しは考えろ」

 

「えぇー、それを今から聞くんじゃん」

 

「2人とも、話の腰を折っちゃダメよ。それでコブラ校長、ひょっとして私たちが呼ばれたのって――」

 

 相変わらずの十代の楽観っぷりへ普段通りに苦言を入れる万丈目だが、2人に喧嘩を始められては困るとばかりに明日香が予想した通り――

 

「ああ、キミの考えている通りだ。『封印』があれば『解こうとする者』も現れる」

 

「物好きな……何者ですか?」

 

「七星王――『セブンスターズ』と呼ばれる7人のデュエリストとの話だ。とはいえ、本当に三幻魔を奪い合う訳ではない。語られた伝承に基づいたレクリエーションのようなもの――早い話が交流試合になる」

 

 セブンスターズとのデュエルの件を、肝心な部分を隠しつつ曲解した形で明かされる。

 

「なーんだ。三幻魔は見れないのか」

 

「そのセブンスターズとやらを俺たちが倒せば良いのですか?」

 

「でも7人いるのよね? 進路の為にアカデミアを離れている胡蝶先輩と、ジャングルにいる大山先輩を合わせても、私たちだけじゃ数が足りないわ」

 

「別にいいじゃん! 俺は7連戦でも大丈夫だぜ!」

 

「残念だが、それは難しいだろう。この交流試合は伝承に基づき、封印こと七精門を守る7つの鍵を参加資格として、それらを賭けて戦うルールになる」

 

 三者三様の反応を見せる十代たちだが、コブラからの注釈により直ぐに万丈目は勝負へ挑む姿勢へと頭を回し始めた。

 

「つまり、俺たちの誰かが1度でも負ければ、他の誰かが連勝する必要が出てくる……」

 

「でもさ、逆に誰かが負けても他の奴でフォローできるじゃん! 頼りにしてるぜ、万丈目!」

 

「…………貴様は簡単に言いおって」

 

「ふふっ、そうね。もしもの時は、お願いするわ」

 

「て、天上院くんまで!?」

 

「盛り上がっているところに水を差すようで悪いが、今回の交流戦に参加するのはキミたちではない」

 

 しかし、そんな万丈目たちの友情の力は必要ない旨がコブラによって明かされた。

 

「えっ」

 

「校則を覚えているかね?」

 

「……ひょっとして相手は学生ではないのですか?」

 

「えっ?」

 

『おい! なにお前らだけで勝手に納得し合ってるんだ! ボクの十代にも分かるようにちゃんと伝えろ!』

 

 とはいえ、残念ながらコブラの真意は十代には伝わっていない様子。だが、此処で明日香が助け舟を出す。

 

「遊城くん、伝承は凄く昔のアカデミアのものだから、今の新体制のアカデミアの校則に沿ってないのよ」

 

『……成程ね。つまり相手は、ハンデ戦なんて代物は一切想定してないのか』

 

「へぇー、じゃあ、どうすんだ? 伝承って、なんか大事なんじゃないの?」

 

 そうして、「生徒の実力≒寮の色ごとにハンデを設けて対戦カードを決める」今のアカデミアの体制が「外の人間が勝手に対戦カードを決める」此度のイベントに沿っていない旨を理解した十代は、コブラ――と言うよりアカデミアの「のっぴきならない事情」を察する他ない。

 

「うむ、前置きが長くなったが、我が校としては『相手側がどの程度の実力者を用意してくるか分からない』以上、『生徒の選出は絞らざるを得ない』との結論が出た」

 

 そうして、話題が「アカデミアの事情」から「十代たちが呼ばれた要件」へとシフトする中――

 

「ゆえにフォースからの参加者は胡蝶・大山の2名のみだ」

 

「えぇー!? 俺もデュエルしたいのにー!?」

 

 十代としては残念なお知らせが舞い込む。長々と話を聞いて「なんか凄そうな相手(セブンスターズ)」との「デュエルの機会すらない」となれば文句も言いたくなる。

 

「自惚れるな馬鹿者。俺たち2年生のフォース昇格は『将来性を加味して』だ。先輩方と同じ扱いをして貰えると思うな」

 

「なんだよ! 万丈目は参加したくないのか? 三幻魔だぞ! すっげーデュエリストが来るんだぜ!」

 

「そ、それは……思うところがない訳ではないが、仕方あるまい!」

 

「うむ、万丈目くんの言う通りだ。遊城くん、今回ばかりは諦めてくれ」

 

「ちぇー」

 

 しかし、万丈目の説得もとい「自分も我慢している」との言い分に矛先を収める十代だが、此処で明日香から当然の疑問が飛び出した。

 

「でもメンバーは7人必要なんですよね? 残りの5人はどうするんですか?」

 

『この女の言う通りだ。ボクの十代が普通のブルー生徒に劣るなんて言わせないよ』

 

 表向きは十代たちを「実力に不安が残る」との理由で外した以上、半端な選出は許されないが――

 

「残りのメンバーは我々教員で埋めさせて貰う。とはいえ、相手側が此方の事情を鑑みたデュエリストを選出してくれた場合ならば、キミたちにも出番は作れよう」

 

「マジで! じゃあ俺もデュエルして良いの!?」

 

「条件が合えば――だがね。その場合に備えて、デュエルの見学の場を用意することもある」

 

 生徒ならば、その実力をよく知る教員たちならば納得であろう。更には「相手次第では自分たちも」ともなれば、十代にとっても渡りに船である。

 

「その際は、普段は見れぬ教員たちのまさに全力のデュエル――是非とも、キミたちへ糧にして貰いたい」

 

「やったわね」

 

「おう!」

 

 そうして、明日香にウィンク混じりに目配せを受ける中、まだ見ぬ強敵たちへと期待を膨らませる十代だが、コブラは此処で一段と低い声で問いかけた。

 

「だが、勝手にデュエルしようなどと考えないことだ。『何故か?』は理解できるかね、遊城くん」

 

「えっ!? えーと、校則違反になるから?」

 

「ギリギリ及第点の答えだな。正確には不確かな状態で『前例を作らない』ことが重要になる。1度ルールを軽んじれば『次も』と要求されかねん」

 

「き、気を付けます……」

 

『「伝統」ってのも、こうなると面倒なものだね』

 

 そんなこんなで、喜色一辺倒だった(はしゃいでいた)十代の背中がピンと伸びて、気が引き締まったことを見届けたコブラは、今回の要件を端的にまとめて見せる。

 

「そう、緊張せずとも構わんよ。今回の話の肝はセブンスターズという『アカデミアで管理されていない完全な部外者』が来訪する関係上、万が一の為に最低限の面々にだけでも事情を話しておきたかったからだ」

 

 かくして、十代たちは何も知らないままに渦中へ巻き込まれ――いや、彼らを巻き込まないように上手い具合に此度の騒動を流す算段を背景に、歪な形で進み始める歴史の針。

 

 もはや、その針の行く先は誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 明日香と別れてオベリスク・ブルー男子寮への帰路につく十代は、なんとなしにポツリと零す。

 

「しっかし、セブンスターズかー、コブラ校長もなんか大変そうだよなー」

 

『コブラも確か校長は、まだ今年で3年目だろ? アカデミアを改革中で忙しいって時に、外から古臭い伝統を持ち出されちゃさぞ面倒だろうね』

 

 それは、「伝承」だの「伝統」だの十代から見ても面倒臭そうなことに雁字搦めの様子が伺えたゆえだったが、万丈目はそれを厳しい口調で咎めた。

 

「おい、十代。あまりペラペラと喋るな。『いらん混乱を起こさぬように』との話を忘れたのか貴様は」

 

「別に良いじゃん。今はみんな新入生の歓迎会の準備で寮に集まってるだろうし」

 

「だからといって誰も出歩い――」

 

「三沢ー! 準備の方どうなってるー!」

 

 しかし、これ以上の小言は御免だとばかりにダッシュでオベリスク・ブルー寮へと逃げた十代は見慣れた顔へと駆け寄っていた。

 

「戻ったか――だが、準備の方は殆ど終わったところでな。後は新入生を迎えるばかりで暇をしていたところだ」

 

「あっ、悪ぃ」

 

「気にするな。コブラ校長から直々に呼び出されたとなれば、みんなも納得する他ないよ」

 

 そうして、結果的に歓迎会の準備を放り投げてしまったことを謝罪する十代だが、相手が相手(圧のあるコブラ)だけに三沢含めてブルー生徒が十代たちを糾弾することはないが――

 

「ところで、なんの要件だったんだ?」

 

「えっ? あー、えーと」

 

 流石に「急に呼び出された」理由くらいは知っておきたい――と言うより、皆の納得を得る為にも必要と言ったところか。

 

 とはいえ、その手の腹芸が苦手な十代は言葉に詰まる。先程も「ペラペラ喋るな」と置き去りにした万丈目に言われたばかりである。

 

 だが、此処でようやく追いついた万丈目からコブラが用意していた話題を放る。

 

「フォース候補生だった俺たちを、正式なフォースとして昇格させるとの話だ」

 

『まぁ、嘘ではないね』

 

「そう、それ! 見ろよ、三沢! フォースの証のバッジも貰ったんだぜ!」

 

『似合ってるよ、十代』

 

「ほう、これがか」

 

 そうして、《光の創造神 ホルアクティ》を意識して光の翼を模したピンバッジを自慢げに見せる十代だったが、見せ付けている間にポツンと頭上に疑問が浮かんだ。

 

「だろ! …………あれ? でもカイザーたちは、こんなの付けてなかったような?」

 

「さしずめ殆どカイザーたちの特例状態から正式な制度になった証な訳か。やったな、十代」

 

「フン、浮かれるな。所詮は暫定的な話だ」

 

 とはいえ、それは「フォース制度の誕生がそもそも急ごしらえの産物」であることを思えば疑問は少ない。

 

 卒業前の亮の申し出がなければ、コブラも無理に制度を存続させる気もなかっただろうことは明白だ。

 

 ゆえに万丈目は厳しい物言いだが――

 

「確かに、アカデミア側もフォース制度を維持できるか測りたい思惑があるだろうが――コブラ校長は、半端なデュエリストを在籍させるくらいなら制度自体を廃止するタイプだろう?」

 

「そうだぜ、万丈目! お前だって兄ちゃんたちへ嬉しそうに報告してたじゃん!」

 

「――しとらんわ!!」

 

『バレバレな嘘を吐かない方が良いよ。お前の言うところの「馬鹿」に見える』

 

 三沢と十代の別方向からなる正論の矢に、万丈目は貫かれることとなる。

 

 そうして、痛い腹を突かれた事実を誤魔化した結果、肩で息をする羽目になった万丈目は大きく深呼吸した後、話題を強引に変える。

 

「……全く、浮かれおって。そろそろ歓迎会の会場に行くぞ。今年は俺たちが迎える番だ」

 

『クリリー』

 

「おっ、どうしたんだ?」

 

 

 

「――たのもーザウルス!!」

 

 

 だが、そんな話題の変換も、更なる話題――いや、波乱の足音にかき消された。

 

 

 そんなオベリスク・ブルー男子寮の出入口の開いた戸を前に腕を組んで仁王立ちするドレッドヘアーをバンダナで覆った褐色肌の男に、十代たちを含めたオベリスク・ブルー生徒たちの視線が突き刺さる。

 

「ん? あれは……イエロー生か? 迷子という訳じゃなさそうだが……」

 

「おー! なんだなんだ! 面白そうじゃん!」

 

『なんだい、アレ? まさか道場破りのつもりかい?』

 

「相手にするな。どう見ても考えなしの馬鹿だ」

 

 バンダナ男の袖のないラー・イエローの改造制服に所属を把握する十代たち。

 

 だが、各寮ごとの歓迎会も直に始まる時間帯に別の寮へ足を運んでいる時点で、万丈目の言う通り一般的な感性から語尾共々ズレていることは伺えよう。

 

 

「俺の名はティラノ剣山! アンタらブルー寮の奴らには、俺がオベリスク・ブルーになる為の踏み台になって貰うザウルス!! どっからでもかかってこいだドン!!」

 

 

 ただ、そのバンダナ男こと「ティラノ剣山」が大人しく立ち去ってくれる性質ではないことだけは、誰の目にも明らかだった。

 

 

 

 

 






ナポレオン教頭「!?」






Q:原作2年目キャラのナポレオン教頭は何故、今作のアカデミアを不採用になったの?

A:今作の改革後のアカデミアで、原作初期のクロノス先生のような「レッド切り捨て思想」「長い物(権力)には巻かれろ」なナポレオン教頭を採用するメリットがなかったからです。

デュエルの腕も(本人曰く)さほど高い訳でもないからね!



Q:ティラノ剣山って、こんな殴り込み染みたことする奴だっけ?

A:原作では、クロノスたちの「外部入学の最高はラー・イエロー」だから「キミは優秀」との説明で納得していただけなので

今作の「キミの実力ではオベリスク・ブルーに相応しくない」との評価では納得の矛先を失い、「ブルーに相応しいとこ見せてやるドン!」と結論づけると判断させて頂きました。




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