マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
???「テぇテン(タイタン)がやられちぇまったみてぇだなぁ……」

???「オーホッホ、ですがあの方はセブンスターズの中でも最弱……」

???「【クリボー】に負ける奴なんていらない! クッキーになっちゃえ!」




第279話 TURN-90 アカデミアのプライド

 

 

 

 セブンスターズの1番手を退けたのも束の間――アカデミアでは今日も今日とて生徒たちが切磋琢磨していた。

 

 そんな生徒たちの最上位ことフォースの面々である十代たちも例外に漏れず専用のデュエル場に集められれば、本日担当のクロノスは「おほん」と咳払いを一つした後、仰々しい仕草で己の隣の人物の紹介に入る。

 

「今日はプロデュエリストであらレール、『数学博士』でお馴染ミーノ『マティマティカ』氏に来て頂いたノーネ。ハンデの方は設定してあるカーラ胸を借りるつもリーデ挑戦す――」

 

 十代たちの視界に入るのは、数字が大きく散りばめられた真っ赤なタキシードに身を包んだ細く伸びたグルグル眉毛とグルグル髭が特徴の男――『マティマティカ』、アカデミア生徒の多くの目標であるプロデュエリストの1人だ。

 

 クロノスの紹介にマティマティカが己のW字に伸びる後ろ髪と同じ角度でS字に曲がる前髪を手癖で触れていたが――

 

「はいはーい! 俺、デュエルする! 選ぶのは後攻ね!」

 

 挨拶もそこそこに普段の8割増しでやる気に満ちた十代の待ちきれないとばかりの宣言が響けば、クロノスは顔を真っ青にしながらしどろもどろになりつつも弁解を述べた。

 

「ちょ、ちょ失礼なノーネ!? も、申し訳なイーノMr.マティマティカ! シニョール遊城は何と言ウーカ、デュエルを楽しみ過――」

 

「構わないとも。むしろプロを前に委縮していない分、好感触でさえある」

 

「そ、そうナノーネ? だっターラ、他のシニョールたち――順番は構わなイーノ?」

 

「はい、私は構いません」

 

「当人が問題にしないと述べた以上、()わたくしから言うことはありませんわ」

 

「俺も問題ありません、クロノス教諭」

 

「ではでーは、シニョール遊城! 失礼のないように――って、待つノーネ!?」

 

 やがてトントン拍子で話が進む中、相変わらずジャングルから帰らない大山を除いた明日香、胡蝶、万丈目の許しが出たとばかりにデュエル場に駆け出す十代と、それを後ろから歩いて追うマティマティカ。

 

 そして、その2人の背中を審判役+監督役として慌てて追いかけるクロノスの背中を尻目に明日香は思わず苦笑を零した。

 

「ふふっ、いつも以上にやる気タップリみたいね」

 

「どうにもセブンスターズとのデュエルを見て触発されたらしくてね。いい迷惑だ」

 

「そうかしら? 私も他の先生たちの本気も気になるところだけど……」

 

「……アイツの場合は『今から強くなればセブンスターズともデュエル出来るかもしれない』程度の考えだと思うよ、天上院くん」

 

 やがて、万丈目が十代のモチベーションの高さに若干の辟易を見せる中、明日香と共にクロノスの後に続けば――

 

 

「アワワのワ! 始まっちゃったノーネ!? シニョールの失礼がないとよいのだケード……!」

 

「ご安心なさって構いませんことよ、クロノス教諭。相手もプロ、遊城のように接してくる相手にも慣れておられますわ」

 

 先んじてクロノスの元で観戦ムードだった胡蝶が、心配でハラハラしっぱなしのクロノスへ安心材料を並べる。

 

 

 

マティマティカLP:2000(ハンデ) 手札2

伏せ×5

VS

十代LP:4000 手札5

 

 

 初期ライフ半分のハンデを背負ったマティマティカは、魔法カード《強欲で金満な壺》で2枚ドローしたものの、カードを5枚伏せてターンをアッサリ終えた1ターン目にユベルが怪訝な声を漏らす。

 

『手札補強して5枚カードを伏せただけ? 何処のリーグか知らないけど、プロランク10位って割には随分消極的じゃないか』

 

――うーん、でもハンデでライフが半分になってるなら慎重になるのは普通じゃないか?

 

 とはいえ、十代もユベルと同様の感覚を持った様子。ゆえに、一抹の懸念材料を覚えつつも己を納得させる言葉を探す十代へ、マティマティカの声が届いた。

 

「どうしたんだい? 私の講義(デュエル)は退屈だったかな?」

 

「いいや、これからアンタをぶっ倒す方法を考えてたのさ! 俺のターン、ドロー!」

 

 そんな相手からの軽い言葉のジャブに、一旦思考を打ち切った十代はデッキに手をかけ、カードをドロー。そして永続魔法《切り裂かれし闇》を発動した後、手札の1枚に手をかけた。

 

「まずはお前だ! スパークマンを召喚! そして発動していた永続魔法《切り裂かれし闇》で1枚ドロー!」

 

 そうして水色のバイザーで顔を隠した青のヒーロースーツに身を包んだ稲妻のヒーローが天へと掲げた掌から紫電を迸らせれば――

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) スパークマン》 攻撃表示

星4 光属性 戦士族

攻1600 守1400

 

「早速、行くぜ! 魔法カード《融合》! フィールドのスパークマンと手札のエッジマンを融合!」

 

 空にエネルギーフィールドが渦巻き、そこへ十代の手札の1枚と共に《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) スパークマン》 が飛び込んだ。

 

「融合召喚! 頼んだぜ! プラズマヴァイスマン!!」

 

 さすれば、渦より黄金の重装甲に身を包んだ《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) スパークマン》 ――いや、《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) プラズマヴァイスマン》 がより巨大な装甲に覆われた両腕で大地を砕くように大地に着地。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) プラズマヴァイスマン》 攻撃表示

星8 地属性 戦士族

攻2600 守2300

 

「キミの手札からモンスターが墓地に送られたことで、罠カード《廃車復活》を発動させて貰おう。そのモンスターを頂こうか」

 

 十代の《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) プラズマヴァイスマン》 と鏡合わせの姿勢で全身をくまなく黄金のアーマーで包んだ二本角のヒーローが()()()()()()()の元に降り立つ。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 攻撃表示

星7 地属性 戦士族

攻2600 守1800

 

「なっ!? 俺のエッジマンが!?」

 

 マティマティカの元に腕を組んで立つ《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 の姿に困惑する十代だったが、その疑問が氷解する間もなく「パチン」とそろばんを弾くような音と共に亡者の嘆きが十代を襲った。

 

十代LP:4000 → 3500

 

「うぉっ!? な、なんだ、なんだ!?」

 

「キミの《融合》に対し、このカードを発動していたのさ。永続罠《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》をね」

 

「です・かりきゅれーたー?」

 

「このカードがフィールドに存在する限り、フィールドからモンスターが墓地に送られる度に、その持ち主は500ポイントのダメージが発生する」

 

 唐突に生じたダメージにキョロキョロする十代へ、マティマティカは己の背後に立つ何処かそろばんにも似た不気味な呪具を親指で指さしつつタネを明かして見せれば、十代も事態の厄介さを段々と呑み込み始める。

 

 そう、先の十代へのダメージは、フィールドから《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) スパークマン》 が墓地に送られたことによるもの。それが意味するところは――

 

「げっ! じゃあ下手に融合したらあっという間に俺のライフがなくなっちまうのか……」

 

『本来なら守備モンスターでしのげる状況でも、着実にダメージは蓄積してくって寸法か……厄介な』

 

 フィールドを経由して融合召喚を多用する十代にとって――否、フィールドにモンスターを繰り出してデュエルする全てのデュエリストにとって鬼門となる状況だ。

 

「その通りだ。今後の融合召喚は気を付けたまえ」

 

『成程ね。こいつのデッキは――』

 

「でも、エッジマンは返して貰うぜ! プラズマヴァイスマンの効果! 手札を1枚捨て相手の攻撃表示モンスターを破壊する! プラズマ・パルサーション!」

 

 だが、十代は「相手も条件は同じ」とばかりに《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 を指さし《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) プラズマヴァイスマン》 に指示すれば、巨大な装甲に覆われた両腕から巨大な雷撃の槍がはなたれる。

 

 そんな雷撃の槍を《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 は交差した両腕で受け止めようとするも、己の黄金の鎧すら熱し溶かす威力に苦悶の声を上げた後、爆散。

 

 やがて敵の元から解放され十代の元こと墓地に戻るだけでなく――

 

『――っ!? それは拙いよ十代!』

 

「へっ?」

 

「フィールドからモンスターが離れた瞬間、《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》の効果! その持ち主に500のダメージを与える!」

 

「おう! これでアンタのライフが500削られ――」

 

 《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 の死に際の断末魔が《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》の玉石を弾き、亡者の声に変換されて十代を襲った。

 

十代LP:3500 → 3000

 

「うわっ!? な、なんでだ!?」

 

「やれやれ……先程の講義(効果説明)を聞いていなかったのかな?」

 

「えっ? いや、エッジマンをコントロールしてたのは、そっちだろ!?」

 

 目を白黒させながら「マティマティカがダメージを受ける筈だった」と困惑する十代へ、マティマティカは少し呆れ気味な表情を見せるも慣れた様子で補足説明に移る。

 

「これは補習が必要なようだ。どれだけデュエル中にカードのコントロールが移動しようと『持ち主』は『そのカードの持ち主』である大前提は崩れないのさ」

 

「なっ!? まさかアンタのデッキって――」

 

「そう、私のデッキにモンスターは一切入っていない。キミのモンスターでデュエルする――それが私のスタイル」

 

 そう、遅ればせながら察した十代の予想通り、マティマティカは「数学博士」との呼び名通り、《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》を活用したデッキを扱うプロデュエリスト。

 

 彼の卓越した頭脳から導かれる緻密な計算によって、初見のデッキであっても即座に対応し己がしもべとして扱う姿は、まるで自分のデッキと戦わされている感覚すら覚えるだろう。

 

「じゃあ《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》でダメージを受けるのは俺だけってこと!?」

 

「そういうことさ。さて、そろそろ講義に――デュエルに戻りたまえ」

 

「へへっ、流石プロ……初めて見る戦術だぜ! でも今のアンタのフィールドはガラ空きだ! プラズマヴァイスマンでダイレクトアタック!」

 

 やがて一風変わったスタイルにテンションの上がった十代は、臆することなく《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) プラズマヴァイスマン》 を進軍させ、ハンデによって半減されたマティマティカの残りライフ2000を刈り取りに行くが――

 

「やはりアマチュアか。罠カード《天龍雪獄(てんろうせつごく)》発動。相手墓地のモンスターを私のフィールドに特殊召喚する――また来てもらうか、エッジマン」

 

 その行く手は突如として吹き荒れたブリザードの中より現れた、他ならぬ十代が頼りにしてきたヒーローこと《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 に塞がれる。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 攻撃表示

星7 地属性 戦士族

攻2600 守1800

 

「くっ!?」

 

「永続魔法《切り裂かれし闇》の強化は『攻撃宣言時』に適応される効果、もう『その時は過ぎている』」

 

 そしてマティマティカは見透かしたように十代を指さし問いかけた。

 

「さぁ、選択の時だ。相打つか退くかを――勝利と言う正答を導きだしてみたまえ」

 

――俺のデッキの特徴を一瞬で掴まれた……これがプロ。

 

「だとしても、俺は退かねぇぜ! 攻撃は続行だ!」

 

「ならば迎え撃ちたまえ、エッジマン!」

 

 しかし、此処で退いては名折れだと果敢に攻め込む十代の意思に応え《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) プラズマヴァイスマン》 の巨大な装甲に覆われた右拳と、黄金のアーマーに身を包んだ《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 のブレードが突き出した右拳が激突。

 

 さすれば、金属同士がぶつかり合う歪な音色を奏でながら互いの拳は交錯するも、両者とも一歩も引かずにそのまま拳を振り切ればクロスカウンターの形で互いの拳がそれぞれの頭に直撃。

 

 共に致命打となり倒れ、ダブルノックダウンの様相を見せた。

 

「キミのモンスターが2体墓地に送られたことで《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》の2回分のダメージを受けたまえ!」

 

「うわっ!!」

 

 だが、その2つのヒーローの魂の残照は《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》によって妄執と変質し、十代を襲う。

 

十代LP:3000 → 2500 → 2000

 

 その衝撃に苦悶の声を漏らす十代へ、マティマティカは失望の声を落とした。

 

「折角のライフハンデも1ターンで不意にするとは――フォース2期生は随分と質が低いね」

 

「……まさか昔のカイザーとデュエルしたのか?」

 

「その通りだとも。彼は実に素晴らしいデュエリストだった。美しいとさえ思える計算しつくされたデッキとタクティクス――是非ともハンデなど抜きにして(本来の私で)デュエルしたかったが……」

 

 十代が察した通り、プロとして多忙な身のマティマティカがアカデミアの要望に態々応えたのは、カイザーこと丸藤 亮の存在が大きい。

 

 今は青くとも将来有望なデュエリストとのデュエルはマティマティカにとっても、有意義なものだからだ。

 

「それは彼がプロランクを駆け上がるまで待つのが道理さ」

 

「そっか、流石カイザー! でも今、デュエルしているのは俺だ! 未来に余所見してる場合じゃねぇぜ!」

 

 そうして、望郷に似た感情を見せるマティマティカだが、十代は己を無視させないとばかりに力強く宣言し、1枚のカードを発動させた。

 

「魔法カード《死者蘇生》! 復活しろ、エッジマン!!」

 

『お前のデュエルスタイルじゃ、こいつを越えるのは難しい筈だよ』

 

 さすれば、先程倒れた《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 が今度はきちんと十代の元で再臨を果たし、拳を握ってみせる。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 攻撃表示

星7 地属性 戦士族

攻2600 守1800

 

「成程。融合HEROは『融合召喚以外の特殊召喚』が叶わない。少しは知恵を絞ったようだね」

 

「ああ! 俺のプラズマヴァイスマンは墓地から特殊召喚できない以上、他のヒーローを奪っても無傷じゃ凌げないだろ! カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

『エッジマンには貫通能力がある。《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》のダメージよりお前が受けるダメージの方が多いよ』

 

 そうして、マティマティカの「相手の墓地からモンスターを奪う」戦術の穴を突いた十代の評価を上方修正するマティマティカ。

 

 

マティマティカLP:2000(ハンデ) 手札2

伏せ×2

死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)

VS

十代LP:2000 手札0

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 攻2600

伏せ×1

《切り裂かれし闇》

 

 

 そして、己のターンに通常ドローしたマティマティカは魔法カード《強欲で金満な壺》で追加で2枚ドローし――

 

「しかし、浅知恵と評する他ないな。魔法カード《洗脳-ブレインコントロール》発動。ライフを800支払いターンの終わりまでキミのエッジマンのコントロールを得る」

 

マティマティカLP:2000 → 1200

 

 《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 の頭部を宙に浮かぶ謎の両手が包めば、フラフラとした足取りで歩き出した《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 は再びマティマティカの元に立ち十代へとファイティングポーズを向けた。

 

「あぁ!? また俺のエッジマンが~!?」

 

「呆気ない終幕だが――致し方あるまい。エッジマンでダイレクトアタックといこう」

 

 そして、今度は先のターンとは逆の形でガラ空きの十代の元へヒーローこと《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 が進軍するが――

 

「そう簡単に終わってたまるかよ! 罠カード《カウンター・ゲート》! ダイレクトアタックを無効にし、1枚ドロー! それがモンスターなら召喚するぜ!」

 

 《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 から繰り出された右拳は十代の前に形成された異次元の門を叩く結果に終わる。そして、《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 の拳によって砕けた門の先から1つの影が飛び出した。

 

「ドロー! 俺が引いたのは――フェザーマン ! モンスターカードだ!」

 

 その正体は緑の体毛で覆われた背に白い翼の伸びる風のヒーローが、空を舞い十代を守るようにかつての仲間へと立ちふさがる。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フェザーマン》 攻撃表示

星3 風属性 戦士族

攻1000 守1000

 

「通常モンスターか。《切り裂かれし闇》で1ドローしたまえ」

 

「言われなくても! ドロー!」

 

「良いカードは引けたかな?」

 

「くっ、でもターンの終わりにエッジマンは返して貰うぜ!」

 

 そして、カードをドローしながら十代は、バトルを終えたマティマティカへ戦況を示すが、マティマティカは己のグルグル髭をピンと弾きつつ余裕を崩さない。

 

「実に甘い目算なことだ。装備魔法《夢迷枕(ゆめまくら)パラソムニア》をエッジマンに装備。カードを2枚セットしてターンエンド」

 

 やがて、《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 の頭上にアリクイに似たぬいぐるみが浮かべば、《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 はコクリコクリと眠気と戦い始め――

 

「よし! 戻ってこい、エッジマン! そして俺のターン――」

 

「――そのエンド時に装備魔法《夢迷枕パラソムニア》の効果を発動。装備モンスターを破壊」

 

 ターンの終わりと共に腕を組んだ形で器用に立ったまま眠りこけた《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 の頭上のアリクイに似たぬいぐるみは、夢を食らう幻獣「(ばく)」としての本性を見せ《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 を頭から丸のみ。

 

「そして、そのモンスターと同じ属性・種族・攻撃力の『パラソムニアトークン』を特殊召喚し、自身を装備させる」

 

 獲物を食らったことで巨大化したぬいぐるみは白い胴体で大地を砕きながら着地し、黒い頭部から悍ましい鳴き声を響かせた。

 

『パラソムニアトークン』攻撃表示

星1 地属性 戦士族

攻 ? 守 0

攻2600

 

「エ、エッジマン!?」

 

「おっと、《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》のダメージを忘れていないかね?」

 

「うおわっ!?」

 

 かくして、再び倒れた者の最後の念が《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》によって、怨念へと変貌され十代を襲い、そのライフを着実に削り取っていく。

 

十代LP:2000 → 1500

 

「更に罠カード《リボーン・パズル》の方も発動させて貰おう。私のフィールドで効果破壊されたモンスター1体を復活させる――当然、私のフィールドにね」

 

 ぬいぐるみこと《夢迷枕パラソムニア》によって食べられた《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 の思念の欠片がパズルのように繋ぎ合わされていく。

 

 そうして十代の《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 は再びマティマティカの元に再構成される始末。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》  攻撃表示

星7 地属性 戦士族

攻2600 守1800

 

「今度こそターンエンドだ。さて、そろそろキミの本気とやらを見せてくれたまえ」

 

「くっ……!」

 

『よくも十代のカードを好き勝手に……!!』

 

 

マティマティカLP:1200(ハンデ) 手札0

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) エッジマン》 攻2600

『パラソムニアトークン』攻2600

伏せ×3

死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)

《夢迷枕パラソムニア》

VS

十代LP:1500 手札1

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フェザーマン》 攻撃表示

《切り裂かれし闇》

 

 

 

 かくして、引っ掻き回され続けている状態の十代へ観戦していた明日香は苦い顔を見せた。

 

「これがプロランク10位、数学博士と言われるマティマティカの実力……!」

 

 自分の実力を過信していた訳ではないが、プロの実力の程を見せ付けられるような試合展開は明日香としても思うところがあるのだろう。

 

「ですが、遊城も墓地へ罠カード《仁王立ち》を落としていた以上、ダメージを確実に回避する策の用意はあってよ」

 

「そして、デッキの相性で言えば十代が大幅に有利――そのアドバンテージを活かしきれれば……」

 

「早速、シニョール遊城の踏ん張りどころナノーネ」

 

――今までの貴方らしさが通じない相手ナーノ。どう対応するか見ものナノーネ。

 

 やがて、胡蝶と万丈目が戦況を鑑みる中、クロノスだけは十代の中に眠るポテンシャルへの期待を込めた眼差しを向けていた。

 

 

 

 だが、そうしてターンを重ね、ぶつかり合う十代とマティマティカだが――

 

「どうだ! これが俺のとっておきのヒーロー! シャイニング・フレア・ウィングマンの力だぜ! ターンエンド!」

 

「フム、これは厄介だ。私のターン、ドロー。では魔法カード《エクスチェンジ》を発動。互いの手札を1枚トレードさせて貰うよ」

 

「げっ、また俺のカードを!?」

 

 十代のデッキの最大パワーこと攻撃力を持つ白き装甲に覆われた光のヒーロー《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン》の攻撃によって戦局は十代に大きく傾く中、マティマティカは何度めか分からぬ程に十代のカードに手を伸ばす。

 

 そして、手にした1枚のカードを手に、マティマティカはいたずらっぽい笑みを浮かべて発動。

 

「キミの言葉を借りるのなら――ヒーローにはヒーローに相応しい戦う舞台があるんだってね。フィールド魔法スカイスクレイパー!!」

 

 さすれば、十代を知る者なら誰しもが目にした摩天楼のビル群が周囲よりせり上がり始めた。

 

『拙いよ、十代! エッジマンの攻撃力が1000上がればシャイニング・フレア・ウィングマンを越える!!』

 

「くそっ! 墓地にヒーローが後1体いれば……!」

 

 このヒーローの力を増す舞台によって、()()()()()()()()()()()()()()も当然力を増すこととなる。

 

 

 

 その事実の重みを誰よりも知る万丈目たちは悲鳴染みた声を漏らした。

 

「十代の十八番まで奪うだと!?」

 

「しかも相手のモンスターを奪っていくマティマティカのスタイルが、墓地のヒーローの力を継ぐシャイニング・フレア・ウィングマンの効果を阻害しているわ……!」

 

「でも、このバトルで遊城のライフが削り切られる心配はなくってよ!」

 

「だとしテーモ、《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》のせいで今後マティマティカの元にいるヒーローたちを下手に破壊することも出来なくなるノーネ」

 

 明日香や胡蝶が現状を再確認するが、クロノスが締めたように多くのデュエリストが当然として行う「モンスター同士が戦う」だけで十代の退路は塞がれていく。

 

「くっ……十代が守りに入ったとしてもマティマティカは墓地の罠カード《ハイレート・ドロー》を使って、いつでも十代のヒーローたちを破壊し、ダメージに変換できる……!」

 

「遊城くんに手をこまねく時間は一切残されていないってことね……」

 

 更には十代のライフというタイムリミットは予断を許さない状況である事実に「己なら」と万丈目と明日香が戦況を語り合う中、クロノスは十代の方へと視線を向けて内心でひとりごちる。

 

――その通りナノーネ。プロにとって「初見で対応する」ことは出来て当然の項目でスーノ……シニョール十代の「デュエルの最中で学び強くなる」デーハ、遅すぎるノーネ。

 

 かくして、プロとの初めてのデュエルに大いに翻弄される十代だったが、当人の意識を置き去りにしながらデュエルは佳境に入り始めていた――が、彼らの決着の軌跡を拝むのは、また機会があればとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 割り振られた宿直室染みた小さな部屋にて神崎は携帯端末ごしにコブラから苦言を貰っていた。

 

『初戦は随分と危ない決着だったじゃないか』

 

「いや~、実質ノーリスクの作戦とはいえデュエルの勝敗に絶対はありませんから想定の範囲内ということでお願いします」

 

 なにせ、セブンスターズの1人目タイタンとのデュエルは中々に接戦だったのだ。

 

 最後のターン、タイタンが冷静に魔法カード《ディスカバード・アタック》を発動し、ダイレクトアタックを狙っていれば勝負はより泥沼の様相を見せていただろう。

 

 これでは「7人抜きする」などと言われても怪しいものである。

 

『……まあ良い。今作戦の強みである「リスクの低さ」を捨ててまで、最大戦果を望んでは本末転倒だ』

 

「助かります。それでお互い気がかりだった初戦を無事には終えられましたが、其方の方は?」

 

 やがて、「作戦立てたけど一戦目で瓦解したぜ!」というアホの極みの最悪を回避できた為、互いの状況の再確認に移る神崎。

 

 なにせ現在、下っ端の立場の神崎(新人教師的な立場)は、トップたる校長コブラの状況をこうして通話越しに知る他ないのだから。

 

『至って平和そのものだとも。ただ、キミの今の立場を鑑みれば学内の情報程度は把握していて貰いたいところだな』

 

「生憎と本校舎に向かうこともない職場なので、ご勘弁を」

 

 世間話ではないが「教員は多忙」との話は何処の世界でも同じだ。本校舎に縁遠いレッド男子寮を管轄する身となれば、なおさらであろう。情報の偏りは否めない。

 

「それで態々、ご連絡頂けたということは――」

 

『ああ、相手側より2人目の来訪の知らせが来た――が、ターゲットではない。1人目と同様に対処してくれ』

 

「了解しました。此方も準備しておきます」

 

――後、6人か。

 

 そうして、話の主題たる新たなセブンスターズの襲来の知らせに神崎はデッキを手に取りパラパラと微調整しながら新たな一戦へと意識を向けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 定期試験が近づくアカデミアにおいて、小腹が空けば直ぐに軽食にありつける購買部近くのフードコートは生徒たちにとって絶好のたまり場である。

 

 それゆえ、十代の弟分を目指す剣山も例外に漏れず、2年のラー・イエローの面々に混じり模擬テストにかじりついていたが――

 

「くぁ~! 終わったザウルス~!」

 

 小さなアラーム音と共に、ペンを置きテーブルから両の手を上げ解放感に身を包ませる剣山。そんな彼の元より模擬テストの用紙を回収した小原は赤ペン片手に告げる。

 

「採点しとくから飯でも食べときな」

 

「助かるドン、小原先輩」

 

「別に良いよ。代わりに後でデッキ調整とデュエル付き合ってもらうし」

 

「任せてくれだドン! デュエルなら望むところザウルス!」

 

 そうして、ブルー昇格に燃える剣山とギブ&テイクよろしくなやり取りがなされる中、同席して自習に勤しんでいた翔は思わずと言った具合に問うた。

 

「でもホントに良いんスか? 剣山くん1年生っスよ?」

 

「それ、どういう意味だドン」

 

「同じ寮ならデュエルにハンデが一切つかないんだから、学年差なんて殆ど関係ないだろ」

 

 だが、若干以上に棘のある言葉にピクリと眉を跳ねさせた剣山だったが、小原の真っ当な物言いに反論する間もなく、むしろ逆に翔が意外そうな表情を浮かべて疑問を続ける。

 

「えっ? じゃあラー・イエローの3年の先輩たちや、剣山くんも僕の実力とさして変わらないってことっスか?」

 

 そう、歪んだ歴史のアカデミアでは同じ寮のデュエルでは一切ハンデが介入しない。それは「必要ない」と判断されていることと同義であり、突き詰めれば「1年も3年も区分する程の大きな差はない」とも同義であろう。

 

 とはいえ、「レッド落ち間際」と「ブルー昇格間近」では流石に差が出てくるだろうが。

 

「それはそれで複雑な気分ザウルス……」

 

「それ、どういう意味っス!」

 

「ま、また喧嘩して……ダメだよ、ふ、二人とも……」

 

「放っとけよ、大原。これは2人にとって、もう挨拶みたいなものだろうから」

 

 そうして、お互いに目標が同じゆえに強くライバル視する剣山と翔がテーブルを挟んでにらみ合う中、なんとか場を収めようとする大原と流石に慣れが出てきた小原を背景に試合開始のゴングが鳴り響く。

 

「大体、丸藤先輩は『なんか頼りない』って1年生の中で噂になってたドン」

 

「なっ!? だったら――剣山くんだって1年に避けられてる癖に! このボッチ恐竜!」

 

「そんなの嘘だドン! 俺は今まで同年代には『アニキ』と慕われて来た男ザウルス!」

 

「常識的に考えるっス! 入学早々オベリスク・ブルー寮にカチコミかける人が慕われる訳ないっスよ! 恐怖の対象っス! まさに『恐』竜っス!」

 

「!? そうなんザウルス、小原先輩!?」

 

 剣山は「人望の有無」を先制パンチとして放つが、翔から返って来た激烈なカウンターに思わず小原に確認を取れば――

 

「うん、お前ちょっと孤立気味だぞ」

 

「くっ……どうりで、アカデミアではティラノ団が自然に結成されなかった訳ザウルス……!」

 

「そうさ! 人望のない剣山くんにアニキの弟分は相応しくないっスよ! 今日という今日こそは真の弟分の座へ引導を渡してやるっス!」

 

「人望で言えば丸藤先輩も大したことないドン! 取巻先輩に聞いたザウルス! ラー・イエローの在籍期間はオレたち1年生と大差ないって!」

 

 やがて、「高校デビューに失敗した人」状態の剣山へ、翔は此処ぞとばかりに攻勢に出るも、「高校でスタートダッシュに失敗した人」である事実を突きつけられ、翔は一瞬言葉に詰まる。

 

「い、言ったっスね~! もう怒ったっス! デュエルでコテンパンに――」

 

 やがて、「こうなればデュエルで白黒つけるしかない」と翔がデュエルディスクを取り出すが――

 

 

「――丸藤! 聞いてくれよ、丸藤! 俺、凄い人に会っちゃったんだよ!!」

 

 

「邪魔しないで慕谷くん! 今、それどころじゃないっス!」

 

 どこからともなく駆けつけた慕谷が高まったテンションのまま乱入。

 

「おいおい、良いのか丸藤? 慕谷のビッグニュースを聞かなくて」

 

「なにかあったザウルス、取巻先輩?」

 

 そうして、共に来た自慢気な取巻の様子に興味を引かれた剣山が先を促せば――

 

「実は俺たち、プロデュエリストにばったり会っちまったんだよ」

 

「そうなんだよ、丸藤! 生のマティマティカ!!」

 

 デュエルアカデミアの生徒の多くが夢見る先――プロデュエリストとの邂逅に慕谷のテンションは留まることをしらない。

 

「……? 誰っスか?」

 

 だが、翔には関係なかった。知らない名ゆえか興味が乏しい。

 

「はぁ!? お前、マジかよ!? ランキング10位の数学博士! マティマティカ! マジモンのトッププロ!! 雲の上の人なんだぞ!?」

 

「悪いけど、ちょっと知らないっス」

 

「こ、これだから情弱は……!」

 

 とはいえ、これは翔が一概に悪い訳ではない。

 

 遊戯王ワールドにおいてプロデュエリストは「色々なプロリーグ」の中でしのぎを削る面々たちを指す。

 

 その中のランキングのトップを原作の一例をあげるなら――

 

 キース・ハワードは元「全米チャンプ」≒「全米リーグのランキング1位」、

 

 ジーク・ロイドは「ヨーロッパチャンプ」≒「ヨーロッパランキング1位」、

 

 と、いった具合に「デュエルチャンプ(チャンピオン)」1つとっても様々だ。

 

 つまり、全世界の人間がデュエリストである遊戯王ワールドでの「各リーグのプロ人数」を鑑みれば「ランキング10位」は決して低くはなく、上澄みといって良い立ち位置ではある。

 

 ただ、リアルのスポーツ(読者側の感覚)でも、個人技のスポーツで「世界で10番目に強いプレイヤー」ならまだしも、「○○リーグで10番目に強いプレイヤー」となればピンと来ない人も多いだろう。

 

 

 閑話休題。

 

 

 そんなこんなで慕谷の力説を手ごたえなく受ける翔を余所に、剣山は当然の疑問を口にした。

 

「でも、そんな凄いプロが何しに来たんだドン?」

 

「噂の道場破りじゃないっスか?」

 

「どう考えてもフォースとのデュエルだろ」

 

 やがて、翔の予想を修正する形で小原から解がなされば、取巻も思い出したように手を叩く。

 

「あ~、そういやフォース制度って維持されたんだっけ。でも遊城たち、ついこないだまで『候補生』だったろ? 流石にプロ相手は早――」

 

「 「 ――アニキをバカにするなっス(ドン)!! 」 」

 

 だが、地雷を踏んだ。

 

「えっ、いや、だって実際そうだろ!? あの卒業デュエル忘れたのかよ!?」

 

「今のは取巻が悪いぞ」

 

「そ、そんなこと言うなよ小原~、俺はただ現実的な話を――」

 

「アニキならプロ相手でも互角に戦えるっス!」

 

「そうだドン! アニキを侮るような発言は見過ごせないザウルス!」

 

 かくして、先程まで喧嘩していたのが嘘のように息ピッタリで噛みつく翔と剣山を前に、周囲に取巻が助けを求めるが、生憎と彼の味方はいない。

 

「……こういう時だけ仲良いよな、お前ら」

 

「で、でも、ど、道場破りのう、噂のこともあ、あるよね」

 

「……それは確かにそうだドン」

 

「……そうっスね。なんか凄い人たちが挑戦しに来てるって噂があったし」

 

「俺の時と対応違くない!?」

 

 しかし、此処で慕谷の呟きに反応した大原の「噂も気がかり」との内容に剣山と翔が各々矛を収めつつ気にし始める中、取巻の魂の叫びを余所に剣山は「餅は餅屋」とばかりに噂に詳しそうな人物を頼る。

 

「トメさ~ん! 噂の道場破りのこと何か聞いてるザウルス~?」

 

「あたしかい? そう言われても……他の先生から聞いた話じゃ『新しい先生や職員の人が来るかも』――ってことくらいで……」

 

 さすれば、商品の品出しをしていた眼鏡の恰幅の良い購買部おばちゃんの「トメさん」が生徒の会話が耳に入りやすい立場から情報を精査するも、「道場破り」こと「学外からの来訪者」をピックアップしていくが――

 

「精々、購買部の方にも『どんな人を雇って欲しいか』聞かれたくらいかしら?」

 

「バイトでも雇うドン?」

 

「あはは、違う違う。こんな島くんだりに来て貰うんだからバイトじゃ可哀想だよ」

 

「言われてみればそうっスね。僕ら、あんまり気にしたことないけど」

 

「大抵のものは揃ってるもんな」

 

 残念ながらトメさんからの情報では、翔たちの望む「噂の真相」を解き明かすことは叶わない。

 

「トメさん、ドローパンの代金おいとくドン」

 

「毎度ありがとうね。話は戻るけど、なんでも人材発掘の専門家の人が色々探してくれてるんですって。コブラ校長はホント手広くやってるわよね~」

 

「あの校長先生ザウルスか……噂の真偽は分からず仕舞いだドン」

 

 やがて、手間賃ではないが剣山が情報の対価に売り上げに貢献する中、追加で情報が明かされるも――

 

「すみませーん、これくださーい」

 

「……求む……」

 

「――サテンに来たぜ!」

 

「あら、そろそろ戻らなくっちゃ。みんな試験勉強、頑張ってね」

 

 購買部への来客にトメさんを見送れば、キリが良いとばかりに剣山たちも慕谷たちを加えて採点待ちの軽食へと話題は移り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 大きな校舎から離れた島の端にある港近くの質素なアパート風の建物の周囲で、神崎は掃除用具片手に職務を全うしていた。

 

「ん~、今日も平和だ――ん?」

 

 だが、地平線へと視線を向けた神崎は遥か遠方から近づく気配にピクリと反応を見せる。

 

「――定期船……じゃないな。この航路、それに速度も」

 

「神崎さーん! 次のセブンスターズ来たー?」

 

「こら! 勝手に突っ走るな馬鹿者!」

 

 そんな中、タイミングが良いのか悪いのか十代と万丈目が校舎の方から元気よく駆け寄る姿を捉えた神崎は、いつものように形ばかりの笑顔で応対。

 

「そう焦らずとも来訪の際はお知らせしますよ」

 

「でも、今日来る予定なんだろ? くぅ~、次はどんなデュエリストが来るんだろ~!」

 

「全く、天上院くんと纏まって動いた方が無駄がないと言うのに貴様は……」

 

 やがて、予定が合わなかった――と言うよりは十代の爆走に巻き込まれた形の万丈目が息を切らせる横で、神崎は息を吐くように嘘を並べ立てる。

 

「ですが、それらしい連絡もあったので少し様子を見てきます」

 

「なぁなぁ! 俺も一緒に行って良い!?」

 

「構いませんよ。ただ、此方の指示には従うように」

 

「了解です!」

 

「おい、真面目にしろ。万が一に備えんか」

 

「あまり心配なさらずとも倫理委員会の方々が巡回していますし、そう危険なことはないかと」

 

 かくして、ビシッと敬礼の真似事をする十代に苦言を呈する万丈目を引き連れ、少々不穏な気配を見せる2人目のセブンスターズの来訪(予定)を出迎えるべく彼らは海岸の方へと移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、ビーチよろしく綺麗な海が広がる場にて到着すれば、乗り捨てられたジェットスキーと思しき代物が砂浜に着岸されていた光景が広がる。

 

 更に、その持ち主と思しき白いタキシードに身を包んだ茶髪に眼鏡の青年が襟を正している様子を見れば、丁度今しがた到着した様子が伺えた。

 

 やがて、神崎たちに気づいた白のタキシードの青年は軽薄な口調で挨拶を贈る。

 

「おっと、アンタたちがお出迎えって訳か。随分と花のないこった」

 

「セブンスターズの方……で問題ありませんか?」

 

「他にどう見えるってんだ?」

 

「では、まず自己紹介を。今日、貴方とデュエルすることになっている神崎と申します。彼らはその見学の生徒、遊城 十代と万丈目 準」

 

「そうかい。オレは『ボーイ』――よろしくしてくれなくて構わねぇぜ」

 

 そして神崎の形式ばったやり取りを興味なさげにあしらった白のタキシードの青年「ボーイ」は、デュエルディスクを取り出し急かすように言い放つ。

 

「さて、これで挨拶も済ませた。早速デュエルをしゃれ込もうじゃねぇか。三幻魔のカードがオレを待ってるんでね」

 

「三幻魔のカード?」

 

「なんだよ、知らないのか? 伝説のカード――ゾクゾクする響きだろ? カードを扱う身なら是が非でも手にしたいお宝だ」

 

 だが、十代からの疑問にボーイは呆れた様子を見せるが――

 

「いや、そうじゃなくて……これって三幻魔のカードを取り合う伝承?の話じゃなくて普通の交流戦だろ?」

 

「こいつは失敬、表向きはそうなってるんだったな。忘れてくれ」

 

「……? どういうことだ?」

 

 十代の認識にボーイの呆れた視線はせせら笑うような代物に変わるも、当の十代は首を傾げる他ない。

 

「マイクパフォーマンスはありがたいのですが、デュエルの方は少々お待ちを。見学者が揃ってからになっておりますので」

 

「はっ、先生も大変なこった。なら、さっさと呼んでくれねぇか? オレも暇じゃないんだ」

 

「万丈目くん」

 

 しかし、割って入る形で神崎は手早くデュエルの準備を整えようと万丈目に目配せすれば、意図を察した万丈目が携帯端末を取り出し始め――

 

「直ぐに天上院くんの方に連絡を入れ――」

 

「――天上院?」

 

「どうかしましたか?」

 

 るも、万丈目が零した名にボーイは小さく反応を見せた。

 

「ひょっとして天上院 明日香のことか?」

 

「天上院くんを知っているのか?」

 

 やがて、神崎を無視して万丈目から明日香の存在を確認したボーイはニヒルな笑みを浮かべた後、告げる。

 

 

「フッ、気が代わった。オレを雇わせてやる」

 

 

 訳わかんないことを。

 

 

「……? 急にどうしたんだ?」

 

「俺に聞くな」

 

「つまり、こういうことさ」

 

 そして180度の態度の急変に当然の反応を見せる十代と万丈目への返答はボーイの手から放たれた1枚のトランプだった。

 

 その飛来するトランプを掴み損ねた結果、己の頭に上手い具合に刺さった神崎が手に取って確認すれば、トランプ風の名刺であることが判明。

 

「これは……フリーギャンブラーの方でしたか」

 

――いや、フリーギャンブラーってなんだよ。

 

 その名刺に英語で記された内容に神崎は内心でツッコミを入れる他ない。いわゆる「代打ち(代理賭博)」に当たるのだろが、あらためて聞くと妙な響きだ。

 

「この世界、まだまだ若輩者ですが――既に天下は取ったつもりでいます。お役に立ちますよ」

 

「ようするに、セブンスターズ側からアカデミア側に鞍替えしたいと?」

 

「悪くない話だろ? 三幻魔のカードはオレが守ってやるからさ」

 

 かくして、ボーイの不可解な心変わりの真相を端的に評した神崎へ、ボーイは肯定を返すが――

 

「あの、セブンスターズ側として依頼を受けておられると思うのですが、その依頼を放棄なさるおつもりで?」

 

「構わねぇよ。オレからすれば、はした金同然だ」

 

――そう言う問題じゃないと思うんだが……

 

 神崎からすれば、恐らくカミューラに金で雇われているだろうセブンスターズの穴埋め(ボーイ)の裏切りなど想定外である。

 

 金の関係とはいえ平気で裏切る相手を、迎撃の兵としてでもアカデミアに置くのは問題だろう。

 

「……申し訳ありませんが、私の一存では決められない話なので――」

 

「なら、上司にでもなんでも連絡しな。今の責任者は徹底した実力主義なんだろう? 落ち目と噂の学園からすれば渡りに船だろうぜ」

 

 とはいえ、今の立場では上司に確認を取る他ない為、自信タップリのボーイを余所に携帯端末を手に連絡を取り始める神崎。

 

「なんか妙なことになって来たな、万丈目」

 

「天上院くんの名を聞いた途端になんなんだ、アイツは……」

 

「ボーイだっけ? 俺たちと歳は近いっぽいし、天上院の知り合いとか?」

 

 そうして電話口でペコペコ頭を下げる神崎を余所に、十代と万丈目は明日香への連絡も忘れて困惑と共に事の成り行きを見守ることとなった。

 

 

 

「――はい、はい――――はい、了承しました」

 

ギャラ(依頼料)は幾ら積んでくれるって? サービスしとくぜ」

 

 やがて、通話を終えた神崎へボーイはギャラ交渉に入ろうとするが、神崎は腕にデュエルディスクを装着しながら上からの返答を告げる。

 

「コブラ校長いわく『実力が分からなければ判断が付かない』と。ですので――」

 

「結局、やることは変わらねぇってことか」

 

「そうなります」

 

 結局、デュエルすることになる事実は変わらない。先程までのやり取りは何だったのか。

 

「相手は一番下っ端のアンタで良いのかい?」

 

「私の職務なので」

 

「アンタも大変だねぇ。ならさっさと始めようぜ」

 

 そうして、哀愁漂う神崎へデュエルに適した距離へと歩きながら憐憫の視線を向けたボーイは、互いのデッキがデュエルディスクにセットされたことを確認した後――

 

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 ボーイの淡い思惑のこもったデュエルが開始された。

 

 

 






カミューラ「なんで裏切ろうとしてんの?」





Q:ボーイって誰?

A:原作アニメGXのセブンスターズ編にて、三幻魔を巡るデュエルの情報を微妙に曲解された状態で聞きつけ
セブンスターズと戦うべくアカデミアに自分を売り込みに来たギャンブラー。

原作では、幼少期の明日香との因縁からデュエルに発展。なんか最後は良い話風に終わる。


Q:マティマティカって誰?

A:原作アニメGXのジェネックス編にて登場したプロデュエリストたちの1人。
どのリーグか明言されていないがランキングは10位。大山の野生のディスティニードローで敗北している。


Q:マティマティカって、ハンデ負った上で十代を追い詰める程に強いの?

A:原作では、彼より上のランキング8位の人が明日香相手に実質ハンデ貰った上に負けただけでなく
明日香が「普通に勝つなら、もっと簡単にできるけど、ブルー女子のプライドの為に勝ち方を選ぶわ」と
擁護不可能なレベルで「明日香のカマセ」ポジだったので

ランキングが10位と劣るマティマティカも「典型的なカマセ」と言われても否定はできない。

ただ今作では、「デュエリストの目標であり憧れでもあるプロデュエリスト」が「十代たちのカマセ」では、プロを目指している生徒たちが道化以外の何物でもないので、

プロデュエリストは本来このくらいの扱いであるべきだと考えております。



~今作のマティマティカのデッキ~

原作でのデュエルスタイルは数学博士らしく《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》を戦術に絡め――
《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》で相手の攻撃制限

未OCG『測量戦士 トランシッター』の効果で自軍をリリースし、直接攻撃。

上記の際に別途で自軍に呼び出した相手モンスターを墓地に送ることで《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》のダメージを狙う。

のだが、この流れがまどろっこし過ぎたので――
ひたすら相手のモンスターを奪ってデュエルし、《死の(デス・)演算盤(カリキュレーター)》のダメージを相手にだけ押し付けていくデッキに改造。【フルモン】の逆バージョン。

どんな相手のモンスターも持ち前の頭脳ですぐさま使いこなし、
疑似ミラーマッチを仕掛けていく姿はなんか数学博士っぽいのではなかろうか(願望)



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