マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
マティマティカ「斎王たちは田舎へ帰省していた。まごころ込めて植えた割り箸畑からメルヘンチック遊園地が獲れたが、それはデュエルアカデミアAブロック基地となっていた」

???「なんで!!!?」






第280話 TURN-280 明日香にセカンド・ラブ・チャンス!?

 

 

 かくして、妙な成り行きの元で始まった2人目のセブンスターズとのデュエル。

 

「先攻はオレだ! ドロー! 《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》を召喚!」

 

 先手を得たボーイが繰り出すのは、カウボーイハットをかぶったウェスタンな装いの金髪ギャンブラーが何故かハーモニカを吹きながら夕陽をバックに現れる。

 

伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》攻撃表示

星4 闇属性 魔法使い族

攻 500 守1400

 

「フィールド魔法《エンタメデュエル》と永続魔法《セカンド・チャンス》を発動! 更にカードを3枚セットし――《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》の効果発動!」

 

 そして欲望が渦巻く街並みが現れ、獲物を誘うような爛々としたネオンの輝きを見せる中、コインを手の平で遊ばせていた《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》は運を天に任せるようにコイントス。

 

「3回コイントスを行い表が3度なら相手モンスターを全破壊、2枚なら相手の手札を1枚墓地へ、1枚ならオレのフィールドのカード1枚を破壊、0枚ならオレは手札を全て捨てる」

 

「ッ!? 無謀すぎる!?」

 

「えっ、なんでだ?」

 

「馬鹿か貴様! あれでは今、効果を使っても表2枚以外は全てハズレ同然なんだぞ!」

 

 だが、此処で前とは異なり明日香抜きで観戦していた万丈目の驚きの声に、十代が反射的に問いかければ厳しい口調でたしなめられる。

 

 そう、本来なら半々でプラスの効果が得られる《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》だが、今回は3枚表がでても「破壊する相手モンスターがいない」≒「当たりの目が1つ少ない状態でギャンブルしている」ような状況なのだ。

 

「一か八か! 生か死か! この豪快な勝負魂こそギャンブラー精神ってもんよ! コイントス!!」

 

 しかしボーイは高らかに天を仰いでコインを投げる。そこには無謀な状況への恐れがないどころか、そのスリルすら楽しんでいるように思える姿。

 

 やがて、3枚のコインが1枚ずつ地面に落ちれば――

 

「表! 裏、裏か……」

 

「あぁ~! 失敗だ~!」

 

「何を悔しがっているんだ、貴様は……せめて教諭を応援せんか」

 

 結果は「表が1枚のみ」つまりボーイは「自分フィールドのカードを1枚破壊」せねばならないデメリットを負う。

 

「おっと、待ちな! 《セカンド・チャンス》の時間だぜ! この永続魔法の効果によって1ターンに1度、オレはコイントスをやり直せる!」

 

 だが、ボーイが胸ポケットからスカーフを取り出し口づけする仕草と共に、運命をやり直す如く再び3枚のコインが天を舞えば――

 

「表! 表! そして――裏!」

 

「おぉ! 当たりだ!」

 

「さぁ、アンタの手札をランダムに1枚墓地に送らせて貰うぜ! 左端のカードだ!」

 

 今度は狙った目を出せ大当たり。《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》が指を弾きコインの弾丸を繰り出せば、神崎の手札のカードを貫いた。

 

「墓地に送られた《古尖兵ケルベク》の効果――互いのデッキの上から5枚のカードを墓地に送ります」

 

「デッキ破壊……って訳じゃなさそうだな。だが、そいつは待って貰うぜ! フィールド魔法《エンタメデュエル》の効果! 1ターンにコイントスを5回以上行った時、2枚ドローできる!!」

 

 しかし、神崎の貫かれた手札からV字頭の機兵が球体状の胴体から煙を上げながら墜落しつつも最後の力を振り絞り、両の手の鍵爪をお互いのデッキに射出。

 

 される前に周囲の眩い街並みが賭けに勝利したボーイを祝福するかのようにファンファーレを鳴らした。

 

「成程な。当たりハズレに関わらず確実にアドバンテージが得られる……ギャンブル効果のリスクを最低限にするスタイルか」

 

「でも、『一か八かこそ』みたいなこと言ってんのに、ギャンブラーがそれで良いのか?」

 

「それは違いますよ、遊城くん」

 

 そして《古尖兵ケルベク》の死に際の爪により互いのデッキから5枚のカードが墓地に行く中、ボーイのデュエルスタイルを考察した万丈目へ十代が歯切れの悪い印象を受けるが、神崎はその認識へ注釈を入れんとする。

 

「えっ? なんで?」

 

「腕の良いギャンブラーほど『一か八か』――つまり『運』の要素を排除したがるものです。ですので、彼の行動はギャンブラーとしては極めて自然なものですよ」

 

「……? つっても、『ギャンブル』って要は『運の勝負』だろ? んで、その『運の勝負』するのが『ギャンブラー』じゃないの?」

 

 ギャンブルを生業とする者にも色々いるが、十代の言うような「完全に運を天に任せている」輩は少ない。

 

 当然だろう。勝負事で常に天に祈っている者など、直ぐに破滅するのは自明の理。

 

 ゆえにギャンブルで稼ぐには、勝ちの目を確実にする為にも「運」などという不確定を排する他ない。「2分の1の運次第で財産失います」で生計を立てられる訳もないのだから。

 

「個人的な印象ですが、所作や癖から相手の手を見抜いたり、ルールの穴を突いたりと言った『勝負事の駆け引き』を好む方々を『ギャンブラー』と評するのかと」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

 そうして、神崎なりの「ギャンブラーへの認識」に妙に納得した十代は感嘆の息を漏らす。

 

「分かってるじゃねぇか、先生ェさんよぉ――お礼に、オレの腕をジックリ味わわせてやるぜ。カードを追加で1枚セットしてターンエンドだ」

 

「では、そのエンド時に墓地の罠カード《ジョーカーズ・ワイルド》を発動。墓地の光属性・戦士族1体をデッキに戻して自身を手札に戻します」

 

 やがて、その印象を受けて気分を良くしたボーイの機嫌が上向く中、神崎の元に現れた道化師が内緒話をするような仕草と共に、神崎の手札にカードを1枚ねじ込んでいた。

 

 

ボーイLP:4000 手札1

伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》攻500

伏せ×4

《セカンド・チャンス》

フィールド魔法《エンタメデュエル》

VS

神崎LP:4000 手札5

 

 

「よっし! これで次の手札破壊に備えられるぜ!」

 

「しかし、呼び出したモンスターの数に反して、随分とカードを伏せたな。あの口ぶりなら『ギャンブル』デッキで確実だろうが……何が出てくる?」

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを経てメインフェイズ1へ」

 

 そして、十代と万丈目が各々デュエルに注視する中、カードを引いた神崎は――

 

「魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》 を発動。手札の《ライトロード・アサシン ライデン》を墓地に送り2枚ドロー。その後、私のデッキの上から2枚を墓地に送ります」

 

 手札から褐色肌のアサシンを天へと続く光の道へと駆け上がらせ、天より新たな光こと2枚のドローを得る。

 

「墓地の罠カード《もののけの巣くう祠》を除外し、効果発動。墓地のアンデット族1体――《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》の効果を無効にして特殊召喚」

 

 だが、その光から零れるように墓地に送られた槍兵の怨念が、亡者のささやきによって目覚めさせられた。

 

 そして、太古の戦場で散ったことが伺えるボロボロの戦装束の槍兵が、現代の戦場へと帰還するが、その肌にも瞳にも生気は一切感じられない。

 

《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》攻撃表示

星5 闇属性 アンデット族

攻2000 守 0

 

「来たぜ! この流れは!」

 

「魔法カード《ティンクル・ファイブスター》発動。レベル5の《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》を墓地に送り、クリボー5兄弟をデッキから特殊召喚」

 

 十代の期待通りに流れ星に乗って紫、桃、白、緑、茶の毛玉ことクリボー5兄弟。大地に着弾――もとい着地した隕石から1体ずつ降りていく。

 

《クリバー》ビー》ブー》ベー》ボー》攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「《クリバー》の効果――5兄弟をリリースして合体もといデッキから《クリバビロン》を特殊召喚」

 

 やがて、《クリバー》の音頭の元、それぞれが両手で星マークの出っ張りを表現しつつ位置取りしてポーズを取れば、ボフンと煙を上げて5兄弟は合体。

 

『バビビィ!』

 

 一本角の大きな毛玉こと《クリバビロン》の姿を見せた。

 

《クリバビロン》攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻1500 守1500

攻3000 守3000

 

「墓地のクリボーたち×300パワーアップで3000! これでボーイに先制パンチだぜ、神崎さん!」

 

「《クリバビロン》の効果。自身を手札に戻し、墓地の5兄弟を特殊召喚します」

 

『クリバッ!』 『クリビッ!』 『クリブッ!』 『クリベッ!』 『クリボッ!』

 

 しかし、攻め気を見せる十代を余所に、《クリバビロン》が大きく息を吸い込み身体を膨らませた後に再びボフンと煙を上げれば、《クリバビロン》は元のクリボー5兄弟へと分離。

 

《クリバー》ビー》ブー》ベー》ボー》攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「ぶ、分離すんの!?」

 

「相手のセットカードを警戒してのことだろう。とはいえ、今のクリボー共では《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》すら倒せんぞ……」

 

「《クリベー》の効果。5兄弟をリリースして合体。デッキから《クリバンデット》を手札に加え、その後、悪魔族を召喚できます――《クリバンデット》を召喚」

 

 やがて神崎のプレイングに疑問符を浮かべる十代たちを余所に、先程の星のマークの陣形を維持していたクリボー5兄弟は、今度は星を逆転させたマークに陣形変更。

 

 さすれば、再び煙を上げ、今度は眼帯にバンダナを付けた盗賊風の毛玉へと、その姿を変貌させた。

 

《クリバンデット》攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1000 守 700

 

「おぉ! 新しいクリボーだ! ――って、あれってクリボーなのか?」

 

「『クリボーカード』という意味では違うようだが、まぁ仲間なんだろう」

 

「《ライトロード・アサシン ライデン》を通常召喚。その効果でデッキの上から2枚を墓地へ」

 

 褐色肌のアサシンが、マフラーのように巻かれた青い衣をたなびかせてターンしつつ、神崎のデッキを短剣で切り裂いたのを合図に――

 

《ライトロード・アサシン ライデン》攻撃表示

星4 光属性 戦士族

攻1700 守1000

 

「バトルフェイズへ」

 

「待ちな! バトルフェイズ開始時に永続罠《強化蘇生》発動! 墓地の《魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》をレベルを1つ上げて特殊召喚! そして攻撃力は100アップする!」

 

 攻め気を見せる神崎の前に、多くの荷物を背負った大きな角の鹿の獣人が赤いローブを揺らし、右手の水色の宝石が輝く杖を構える。

 

魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》攻撃表示

星3 闇属性 魔法使い族

攻1500 守 200

攻1600

 

「では《クリバンデット》で《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》を攻撃」

 

 とはいえ、当の《クリバンデット》は、そんな《魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》を無視して《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》へナイフを向けつつ飛び掛かった。

 

「させるかよ! 永続罠《ラッキーパンチ》発動! 相手の攻撃宣言時にコイントスを3回行い表が3枚でれば3枚ドロー! 裏が3枚なら自身を破壊! 破壊された瞬間オレは6000のライフを失う!」

 

 途端にボーイの背後に巨大なスロットマシーンが出現。「当」の文字とドクロのマークが半々に記されたレールが高速回転を始めた。

 

「またギャンブルカードだ!? でも《クリバンデット》の攻撃は止まらないぜ!」

 

「そいつはどうかな――チェーンして永続罠《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》発動!」

 

「あれは元全米チャンプも使っていたカード!?」

 

「そう! こいつがある限り、コイントスが行われた際に1度だけ表の数だけ追加効果の確変タイムだ!」

 

 そうして、十代と万丈目の声にボーイが意気揚々と答える中、スロットマシーンの上部に3つの機銃がセットされ――

 

「表が1枚なら500ダメージを与え、2枚なら相手フィールドのカード1枚を破壊し、3枚なら手札を1枚破壊する!」

 

 神崎自身と、そのフィールドのモンスター、そして手札にそれぞれ銃身が向けられる。

 

「表が2枚でたら返り討ちになっちまう!?」

 

「コイントス! 表! 裏! 裏!」

 

「失敗した!」

 

「だが、奴には《セカンド・チャンス》による再試行がある!」

 

 やがて十代の心配の元、スロットが止まるが「当」の文字は1つにドクロのマークが2つ。大ハズレではないが、当たりとも言い難いハズレの部類だろう。

 

 しかし、万丈目の声と共にボーイがスカーフに口づけする仕草をすれば、スロットの画面にニヤけるゴブリンがフィーバーダンスする映像が表示されると同時に再回転を初め――

 

「その通り! コイントス! 表! 表! 表! 大当たりだ!」

 

 ゲラゲラ笑うゴブリンの映像と共に「当」の文字が3つ並びスロットから大量のメダルが吐き出され、更には《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》の機銃が音を立てて起動を始める。

 

「でも神崎さんが手札を失う代わりに、お前の《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》への攻撃は通る!」

 

「なに勘違いしてんだよ――《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》の効果は『表の数だけ施行される』!!」

 

「なっ!?」

 

「よって、先公に500ダメージを与え、アサシン ライデンを破壊し、手札を1枚ランダムに墓地へ送らせ――オレは3枚ドローする!!」

 

 さすれば、3つの機銃が火を噴き、神崎とその手札、更には《ライトロード・アサシン ライデン》を撃ち抜いた。

 

神崎LP:4000 → 3500

 

「む、無茶苦茶じゃん!?」

 

「くっ、これで教諭のリソースは一気に削られる……!」

 

「更に5度以上のコイントスを行った! フィールド魔法《エンタメデュエル》の効果により追加で2枚ドロー!!」

 

 十代と万丈目が戦況の悪化に舌を巻く中、ボーイはスロットから吐き出されたメダルをカードに変換するかのようにドロー。

 

「で、でも《クリバンデット》が残れば、やっぱり攻撃は――」

 

「通らねぇって言ってんだろ!! 発動していた《強制終了》の効果! オレのフィールドのカード1枚――《強化蘇生》を墓地に送ることでバトルフェイズを強制終了だ!!」

 

 しかし、なんか生き残っていた《クリバンデット》がキョロキョロと状況の変化に置いてけぼりにされる中、いつの間にやら停戦を示す信号弾が放たれたことで《クリバンデット》は渋々神崎の元へと戻っていく。

 

「どうだい、先生ェさんよ! オレの『ギャンブルコンボ』の味は!!」

 

「……メインフェイズ2へ。ターンエンドです」

 

 かくして、両の手を広げ自信に満ちた様子のボーイのデュエルスタイルが凡そ明らかになった中、神崎は言葉数少なくターンを終えれば、代わりに十代たちが代弁するかのようにザワつき始める。

 

「な、なんだよ、これ……1回攻撃しようとしただけで神崎さんの手札を削って、しかも自分は手札を5枚も増やしてる……」

 

「まさに大当たりといった具合か。あの男もセブンスターズに選ばれるだけの実力者という訳だ」

 

 なにせ、「ギャンブル効果は当たれば大きい」とは言われていても「5枚のドローに加えて、多様な+α」なんて状況は、早々お目にはかかれない。

 

 それに加えて、ギャンブル効果が2連続で大当たりしたともなれば当然の疑念が十代の中で浮かぶ。

 

「だからって、流石に当たり過ぎじゃねぇか?」

 

「まぁ、それは俺も同意見だが、あの男もラッキーアイテムと思しきスカーフや、スカーフに口づけするルーティンのように『運気を上げる』に繋がる行為を徹底しているんだ。多少なりとも効果が出ていても不思議ではあるまい」

 

「へぇー、あのスカーフなんか大事そうにしてると思ったら、そんな意味があったのか……」

 

 やがて言外に「イカサマ」を疑ってしまった十代だが、その認識を万丈目は否定する。世の中「ゲン担ぎ」を馬鹿に出来ない前例など少なくないのだから。

 

「そうさ。こいつは天上院から頂戴したスカーフ――こいつを持って勝負した時は必ず勝って来た。まさにオレのお守りさ」

 

 だが、そんな十代たちの反応に潔白を示すようにボーイは、愛用のスカーフを自慢するかのように口づけして語れば――

 

「ご友人でし――」

 

「!? どういうことだ!? 何故、天上院くんがお前にスカーフのプレゼントなど!?」

 

「友人関係があったのであれば贈――」

 

「貴様! 天上院くんの何だ!! どんな関係なんだ! まさか……!!」

 

「お、落ち着けよ、万丈目」

 

「これが落ち着いてられるか!!」

 

 話題を広げようとした神崎を遮るように万丈目が急反応を示した。明日香へ何処か特別な感情を抱いている万丈目の暴走に、十代がいつもと逆の立場で止めようとするも効果は薄い。

 

「ボーイさん、申し訳ありませんが彼に説明して貰えませんか? スカーフを贈られた部分だけで構わないので」

 

「やれやれ、見苦しい男の嫉妬を突きつけられるのも面倒だ。話してやるよ」

 

 かくして、ボーイは己の過去を語り始める。

 

 そう、全ては小学校6年生にボーイこと光雄が明日香のいる小学校へ転校してきたのが全ての始まりだった。

 

 当時から光雄は勝負ごとを好み、クラスメイトと互いの所持品を賭けたギャンブルをするのが日常だった。

 

 とはいえ、それはお互いに納得した上での勝負であり、相手側も光雄側から高価な品物を勝ち得ていた為、無理強いしていたものでは決してない(教育的には大問題だが)。

 

 ただ、裕福な家庭に生まれた光雄にとって、己が賭け金とする代金こと物品は大した損失ではない。ゆえに、負けても別の物を賭けて再勝負することにリスクは殆どなかった。

 

 だが、クラスメイトはそうではない。最初の内は光雄から高価な物品を得られて上機嫌に再戦するが連戦連勝できる訳もなく、負ければ己が大事にしていた物が光雄に次々に徴収されていく。

 

 そう、これこそが光雄の遊びだった。「相手の大切にしている(宝物)を奪う」というなんとも悪趣味な遊び。

 

 だが、彼は悪びれない。「奪われたくなければ勝負を受けなければ良い」のだと「高価な品物に目がくらみ、大切な(宝物)を賭けのテーブルに乗せたのは他ならぬ其方」と言わんばかりに。

 

 そんな状況に待ったをかけたのが同じクラスの明日香だった。

 

 当時から既に男前ヒロインだった明日香は、クラスメイトたちの大事な物を取り返すべく「母から貰った大切なスカーフ」を賭けのテーブルに乗せて勝負する。

 

 しかし、明日香は1つ条件を付けくわえた――勝負方法はポーカーなどではなく、「デュエルにしよう」と。

 

 結果は光雄の惨敗。だが、別の物を賭けて再度勝負を挑もうとする光雄に明日香は言い放つ。「今のままでは何度やっても同じ」だと。

 

 当然だ。デュエルの勝敗は運の要素が絡むとはいえ、それは「互いの腕・タクティクス・デッキパワーなどが近しい」状況であって初めて成立する。

 

 プレイミスしまくる初心者同然の当時の光雄を相手に、当時から百戦錬磨の明日香が負ける余地など限りなくゼロだ。

 

 そうして明日香は「デュエルの楽しさと奥の深さ」を知って貰えば、きっと今の悪趣味な遊びよりも楽しくなるとの思いを込め、勝負に期間を開けることを提案したのだが――

 

 

 内心で見下していた相手からの反撃に、光雄は「このまま何度も勝負を続ければ(まぐれ勝ちでも)いずれ己が勝つ。だから明日香のスカーフは自分の物」という稚拙どころか幼稚な理論武装を持って強奪。

 

 他のクラスメイトと異なり、明日香へは淡い恋心を持っていたゆえの蛮行だったが、その後直に光雄が再び転校してしまったことも相まって、明日香は母から貰った大切なスカーフを取り戻す機会を失い――今に至る。

 

 

 そうして、今この場に明日香がいない中、スカーフ入手の経緯を知った十代たちは――

 

「お、おう」

 

「な、なんて奴だ……」

 

 彼らの光雄ことボーイへの評価は地に落ちた。

 

 具体的には「優れたギャンブラーであり、なおかつ手強いセブンスターズの2番手」から

 

急転直下し「クラスメイトから奪ったスカーフにキスするルーティンを繰り返すクソ野郎」へ華麗にクラスチェンジ。

 

 だが、此処でパチパチと祝福するかのような拍手する音が響いた。

 

「成程、急な心変わりはスカーフの返却の為の方便でしたか。気を利かせられず申し訳ない」

 

「 「 えっ? 」 」

 

「……?」

 

 そして顔を見合わせる十代と万丈目を余所に、理解に遅れたボーイへ神崎は続ける。

 

「貴方は過去を後悔していたのでしょう? だからこそ、己の信用を損ねかねない一方的な契約破棄をしてまで今回の話を提案した――違うのですか?」

 

「そんな事情があったとは……」

 

「へぇー、アイツやるじゃん!」

 

 謎の好意的――いや、もはや厚意的な解釈に地の底まで落ちていたボーイの評価が僅かに回復。

 

 過去の所業は許せないが、今の己の栄光ある立場の全てをドブに捨ててまで反省の意を示した姿勢を鑑みれば、明日香に話()()でも通す程度のことはやぶさかではないだろう。

 

「直接顔を合わせ難いのなら、書面にしましょうか? 懺悔と返却の旨を伝えれば、受け取って貰える可能性もあるでしょう。いえ、そもそもこのデュエルの必要性も――」

 

「おいおい、先生ェさんよぉ……アンタの物差しで勝手にオレを測るなよ。先公ってのは、どいつもこいつも説教臭くていけねぇ」

 

 違った。ボーイは反省なんて欠片もしていなかった様子。

 

「これは失礼しました。では、貴方はどうなさるおつもりでしょう?」

 

 そんなボーイの様子を察してか、神崎は返答を謝罪混じりに問いかける。

 

「まさか、セブンスターズを追い払えば天上院さんが見直すとでも? 贖罪にしては一方的だ」

 

 しかし、それはボーイが反省してないと分かったゆえか一転して理詰めで追い詰め始める神崎。そういうところが胡散臭さを加速させている要因だろうに。

 

「まさか、この機会に良い仲になりたい? まぁ、恋愛は自由でしょうが学園での彼女を知る身としては、今のままでは拒絶されるのが目に見えているように思えますが……」

 

 そうして、ボーイの心の奥底に隠していた本音の部分までさらけ出そうとする神崎へ、ボーイは吐き捨てるように呟いた。

 

「言った筈だぜ? 勝った方が総取り、全てを手に入れる――それだけの話さ」

 

「では、此方からも条件を――貴方が負けた際は謝罪を書面にしたためてください。流石に加害者である貴方を被害者である生徒の元へ案内する訳にもいきませんから」

 

 とはいえ、「デュエル前に決めた通りに」とのボーイの言い分を、そのまま神崎は通す訳にもいかない。

 

 ゆえに、条件を付けたす神崎。既にボーイ側が「鞍替えの条件を追加した」件もある為、ボーイも異を唱えることはしなかった。

 

「ですが、彼女の人間性を鑑みれば、貴方の誠意さえ伝われば会合の場も夢物語ではありませんよ」

 

「そういうことはオレに勝ってから言いな! オレのタ――」

 

「私のエンド時に《クリバンデット》の効果。自身をリリースし、デッキの上から5枚を確認。その中の魔法・罠カード1枚を手札に加え、残りを墓地に送ります」

 

 やがて、デュエルが再開され神崎がターンを終えた瞬間に戻る中、ボーイがカードをドローする前に《クリバンデット》がクルリと宙で一回転し、煙と共に消えていく。

 

「更に墓地に送られた《古衛兵アギド》の効果。お互いのデッキの上から5枚のカードを墓地へ」

 

 そして、その煙の中から1枚のカードと一つ目の機兵が翼を広げて飛び出し、1枚のカードが神崎の手札に加わる中、《古衛兵アギド》はそのハサミの腕でお互いのデッキをザックリ両断。

 

「最後に墓地の《ジョーカーズ・ワイルド》の効果で墓地の光属性・戦士族をデッキに戻し、自身を手札に――今度こそターンエンドです。さぁ、どうぞ」

 

 最後に現れた道化師がボーイを指さしクスクス嗤った後、再び神崎の手札にカードを1枚差し込んだ。

 

 

ボーイLP:4000 手札6

伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》攻500

魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》攻1500

《セカンド・チャンス》

《ラッキーパンチ》

(ガン・)(キャノン)(・ショット)

《強制終了》

フィールド魔法《エンタメデュエル》

VS

神崎LP:3500 手札6

 

 

「なんだか妙なことになっちまったな……」

 

「奴を天上院くんの元に連れていくなど許せんが、天上院くんが奴からの詫びを求めている可能性も――」

 

「まぁ、どっちにしろ勝負の結果と天上院の気持ち次第だろ」

 

 かくして、ボーイがアカデミアに自分を売り込む為のデュエルだった筈が、いつの間にやら明日香への謝罪云々へと逸れ始め、十代が珍しく万丈目のフォローに回る中――

 

「はっ、成程ねぇ。アンタのデッキはゾンビみてぇに墓地からワラワラ湧いてくる感じか――今度こそオレのターン! ドロー!」

 

 神崎のデッキの特徴を掴み始めていたボーイがカードを引けば、落ち葉がゴソゴソ擦れ合うような音が響く。

 

「だが! スタンバイフェイズ時に相手の墓地のカードの方が多い時! 墓地の《枯鰈葉(カレイハ)リプレース》は特殊召喚される!!」

 

 そして大地から顔を出したのは落ち葉で出来たヒラメのような謎生物。ただ、その顔はデフォルメが効きすぎている程に簡素なゆえ、見る者に妙な不気味さを植え付けよう。

 

枯鰈葉(カレイハ)リプレース》攻撃表示

星3 闇属性 サイキック族

攻 ? 守 ?

 

「こいつの攻撃力はアンタの墓地のカードの数×200だけパワーアップす――」

 

「相手が特殊召喚した際、手札の《ドラゴン・アイス》の効果。手札を1枚捨て手札・墓地の自身を特殊召喚します」

 

 途端に枯れ葉を朽ちさせるかのように氷の鱗から冷気を発しながら、何処かボロボロの黒い翼が伸びる氷のドラゴンが現れる。

 

《ドラゴン・アイス》守備表示

星5 水属性 ドラゴン族

攻1800 守2200

 

「……ホントにゾンビみてぇに湧いてでやがるな。なら、こっちも右に倣えだ。魔法カード《死者蘇生》! さぁ、レジェンドギャンブラーの復活だ!!」

 

 天より白きアンクが輝く中、1枚のコインが宙を舞い落下する。

 

「来いッ! 《サンド・ギャンブラー》!!」

 

 そのコインは腕を横に振って取ってみせた茶髪のカジノディーラーの男の手の中に収まり――

 

《サンド・ギャンブラー》攻撃表示

星3 光属性 魔法使い族

攻 300 守1600

 

「《サンド・ギャンブラー》の効果! コイントスを3度行い、表が3枚なら相手の! 裏が3枚ならオレの! フィールドのモンスター全てを破壊する!!」

 

 そのディーラーの男こと《サンド・ギャンブラー》の手により三度、3枚のコインが宙を舞う。

 

「ん? 《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》の効果は使わないのか?」

 

「恐らくデメリット効果を嫌ったのだろう。《サンド・ギャンブラー》なら裏が3枚でん限りデメリットはない」

 

「コイントス! 表! 表! 裏! 《セカンド・チャンス》! 表! 表! 表!!」

 

「ま、また表が3枚!?」

 

「再試行したとはいえ、凄まじい豪運だな……」

 

 さすれば、スカーフに口づけしたボーイの出した出目は、十代と万丈目が息を呑む結果となり、《サンド・ギャンブラー》が3枚のコインを弾丸のように射出すれば――

 

「これで、そっちの《ドラゴン・アイス》はあの世行き! 更にフィールド魔法《エンタメデュエル》で2枚ドロー!」

 

 飛来するコインの1枚をキャッチしようとした《ドラゴン・アイス》の腕に接触した途端に爆発。

 

「更に更に! 《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》の全ての効果が適用され、500ダメージ・1枚破壊・ハンデスを受けて貰おうか! まぁ、アンタのフィールドにカードは残っちゃいないがな!」

 

 残り2枚は神崎自身と、その手札の1枚を貫く。そして、神崎から賭け金を徴収するようにメダルとなってボーイの元に降り注いだ。

 

神崎LP:3500 → 3000

 

「まだだ! 魔法カード《貪欲な壺》! 墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

 カジノで客から巻き上げたと思しき宝石が散りばめられた欲望に塗れた壺が、因果応報とばかりに砕け散り、ため込んだ宝石類ことカードがボーイの手中に収まる。

 

「来たぜ、アンタをぶちのめすとっておきが! 《枯鰈葉(カレイハ)リプレース》をリリースし、アドバンス召喚!! 《激昂のムカムカ》!!」

 

 全身を固い岩盤で覆われた何処か蜘蛛にも似たモンスターが、その名の「苛立ち(ムカムカ)」を示すように背中から伸びる沢山の排気口から湯沸かし器のように煙を吹き出しながら現れた。

 

《激昂のムカムカ》攻撃表示

星5 地属性 岩石族

攻1200 守 600

 

「《激昂のムカムカ》の攻・守はオレの手札の数×400ポイントアップ!!」

 

「や、やべぇぜ、万丈目! アイツの手札8枚もある!?」

 

「あの男、これを狙って手札を増やしていたのか!?」

 

 そして《激昂のムカムカ》はメダルをムシャムシャ喰らって、腹を膨らませたカエルのようにその身を肥大化させていく。

 

 やがて、その体格だけは三幻神に匹敵する程の巨体となって大地を揺らした。

 

《激昂のムカムカ》

攻1200 守 600

攻4400 守3800

 

「バトル! 《激昂のムカムカ》でダイレクトアタックだ!!」

 

「墓地の《クリボーン》を除外し、墓地のクリボー5兄弟を特殊召喚」

 

 しかし大地を砕きながら轟音と共に迫る《激昂のムカムカ》を前に、白きクリボーがヴェールの中で祈れば、主のピンチに駆けつけるようにクリボー5兄弟が扇状のポーズを取りながらヒーローショーっぽく出現。

 

《クリバー》ビー》ブー》ベー》ボー》守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「だ、ダメだ! 《クリブー》の効果で《激昂のムカムカ》の攻撃力を1500下げたって、どうしようもねぇ!」

 

「いや、度重なる手札破壊で教諭の手札に罠カードが残っているかすら怪しいぞ」

 

「へぇ、そいつは良いことを聞いたぜ。だったら《クリブー》を攻撃だ!!」

 

『クリブッ!?』

 

 十代と万丈目がポロっと零した言葉により《激昂のムカムカ》のターゲットにされた《クリブー》が「ちょ、おま!?」と言わんばかりにオロオロし始め、縋るように兄弟たちを見やれば――

 

『クリバッ!』 『ク~リビ~!』 『クリベ……』 『クリィ!』

 

 敬礼して見捨――見送る姿勢を取っていたり、「バイバイ!」と別れを惜しむように手を振っていたり、目を背けていたり、なんか応援していたりする兄弟の姿。

 

『――!? クリ!? クリブ!?』

 

 そう、助けはこない。

 

 だが、余所見をしていたせいか一際大きく大地を揺らして跳躍した《激昂のムカムカ》の巨体が《クリブー》に迫り、あわれにも《クリブー》はプチッと押しつぶされた。

 

「《クリブー》が破壊されたことで《クリバー》の効果により、《アンクリボー》を特殊召喚」

 

『クリバ……クリ――クリリッ!!』

 

 やがて、一先ずの怒りが収まった《激昂のムカムカ》がズシン、ズシンとボーイの元に戻っていく中、いつの間にやら面接会場っぽいものが用意され、面接官の《クリバー》がNewメンバーを採用。

 

『アンクリィ!』

 

 見事選ばれた完全な球体状の身体に黄金のアンクと装飾が散りばめられた妙に目力の強い《アンクリボー》が4兄弟より歓迎の胴上げを受けていた。

 

《アンクリボー》守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「更に《クリベー》の効果でデッキから『クリボー』の名が記されたカードを手札に加えます」

 

――段々分かって来たぜ。この先公のデッキは防御主体のデッキ……『守りに守って育てた《クリバビロン》でぶん殴る』、そんなところか。

 

「だが、親玉を呼ぶ厄介な毛玉には消えて貰うぜ! 《サンド・ギャンブラー》で《クリバー》に攻撃!」

 

「その攻撃宣言時に《クリビー》の効果を発動。このターン自身以外の攻撃力を0にすることで相手の攻撃を防ぎます」

 

 続いて《サンド・ギャンブラー》が再びコインを指ではじいて弾丸とすれば、今度はクリボーたちが頭に星のマークを浮かばせて集まり盾とする。

 

 結果、5つの星の盾によってコインの弾丸は弾かれ、攻撃は不発。防衛成功にクリボーたちが――さっき見捨てた兄弟を忘れたかのように――お祭り騒ぎで喜び叫ぶ。

 

『クッリビ~!』

 

「チィッ! なら《伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》を守備表示に変更! 最後に永続魔法《無限の手札》を発動してターンエンドだ!!」

 

 そして、「あっかんべー」と舌を出す《クリビー》の腹立つ顔にイラッとしたボーイが怒りのままにターンを終えた。

 

伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》攻撃表示 → 守備表示

攻500 → 守1400

 

「では、そのメインフェイズ2の終了時に墓地の《ハイレート・ドロー》の効果。《アンクリボー》を破壊し、自身をセット」

 

『アンクリッ!?』

 

 と、同時に《アンクリボー》爆散。

 

『 『 『 クリリッ!? 』 』 』

 

「そしてエンド時に破壊された《アンクリボー》の効果でデッキから《死者蘇生》を手札に加え、更に墓地の罠カード《ジョーカーズ・ワイルド》を自身の効果で回収させて貰います」

 

 やがて倒れ伏した《アンクリボー》が消えていく中、その額にくっついていたアンクだけが神崎の元に戻る中、道化師が何時もの賄賂――じゃなくてカードを神崎の手札にねじ込みながらアンクを失った《アンクリボー》だった毛玉を手に去っていった。

 

 

 

ボーイLP:4000 手札7

《サンド・ギャンブラー》攻300

伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》守1400

魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》攻1500

《激昂のムカムカ》攻1200→攻4000

《セカンド・チャンス》

《無限の手札》

《ラッキーパンチ》

(ガン・)(キャノン)(・ショット)

《強制終了》

フィールド魔法《エンタメデュエル》

VS

神崎LP:3000 手札7

《クリバー》ビー》ベー》ボー》守備表示

伏せ×1

 

 

 

 そんなひたすらクリボーたちが右往左往するだけのターンが終わるも、その辺りはタイタン戦で慣れたのか万丈目の意識はボーイのデュエルへ注視される。

 

 なにせボーイのデッキは万丈目から見ても――

 

「魔法・罠ゾーンを完全に埋めるなど――なんなんだ、あのデッキは……」

 

「? それがどうかしたのかよ?」

 

「馬鹿者! あれでは罠カードはおろか、魔法カードすら使えんではないか!」

 

 そう、ボーイのデッキは非常に不可解だった。

 

 何度も効果を使える永続系統のカードは維持できれば強力な反面、魔法・罠ゾーンを圧迫するデメリットがある。

 

 それは「見えない罠」こと「伏せカード」の数が減ってしまうこともさることながら、今のボーイのように5つの魔法・罠ゾーンが完全に埋まってしまえば「魔法カードの発動すら出来なくなる」致命的な問題が生じるのだ。

 

「あれだけの手札があってもモンスターを呼ぶ以外は何も出来んのだぞ!? まさか、あの『ギャンブルコンボ』だけで戦う気なのか!?」

 

「うーん、確かに変わったデッキだよなー」

 

 あれでは、まさに万丈目の言う通り、ボーイの『ギャンブルコンボ』によって得られた莫大な数の手札も宝の持ち腐れであろう。

 

「では私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを経て、メインフェイズ1へ」

 

 とはいえ、ボーイの動きが少ないのは神崎にとって悪いものではない。ただでさえ、ピーキーな構築になっているクリボーに傾倒したデッキなのだ。

 

 コンボパーツが多いゆえに攻め手が遅くなりがちな神崎にとって、スローテンポのデュエルは望むところ。

 

「魔法カード《光の援軍》を発動。デッキの上から3枚を墓地に送り、デッキから『ライトロード』モンスター1体を手札に加――」

 

()()()()灰流(はる)うらら》の効果発動!! こいつを手札から墓地に送ることで、デッキから手札に加える効果を無効にする!! これ以上の墓地肥やしはさせねぇぜ!」

 

 だが、そんな神崎のカードは栗毛の獣の耳と尻尾のある白い着物の少女によってパシッと叩かれた。

 

 そして見下ろす神崎と見上げる《灰流(はる)うらら》の目が合うも、《灰流(はる)うらら》はニッコリ天使のような笑顔を浮かべて《光の招集》をムシャムシャ食し始める。

 

 そう、《灰流(はる)うらら》はごはんはたくさん(増殖するGでも容赦なく)食べるタイプ。《光の援軍》程度など朝飯前だ。

 

 結果、キーカードのサーチが叶わなかった神崎は埋め合わせとして――

 

「罠カード《ハイレート・ドロー》を発動。私のフィールドのモンスターを任意の数だけ破壊し、2枚につき1枚ドローします」

 

『 『 『 『 クリッ!? 』 』 』 』

 

 クリボー共を爆破する。「えっ!? 聞いてないよ!?」とばかりに神崎を振り返る毛玉共。

 

 やがて沼地から自分たちを破壊せんと伸びる腕に「あっ、これマジの奴だ」と察したクリボーたちは――

 

『クリ! クリバッ!』 『ク~リ~ビ~!!』 『……クリベッ!』 『クリィ!? クリリ!!』

 

 自分は合体に必要と己を指さす者、「まっ、自分は大丈夫でしょ」と口笛を吹いて余裕を見せるもの、「あれ? ひょっとして自分じゃ……」と察し始める者、みんなで話し合おうとする者と四者四様。

 

「4体全てを破壊し、2枚ドロー」

 

『 『 『 『 クリリッ!? 』 』 』 』

 

 残念。全員、アウト~

 

 沼地からハリセンを取り出した腕によって、背後から次々とビンタされるクリボーたち。

 

『 『 『 クリェェエェェ――――ッ!! 』 』 』

 

「魔法カード《死者蘇生》を発動し、墓地の《異界の棘紫獣(きょくしじゅう)》を特殊召喚」

 

 やがて毛玉共が爆発四散した中、腕が戻っていく沼地から飛び出した複眼を持つ大きな狼のような藍色の獣が、刺々しい身体についた泥を全身をブルブル震わせて弾いていた。

 

 のだが、背中の泥が取れきれなかったのか《異界の棘紫獣》は犬のように身体を捻って後ろ足を背中に伸ばすも、バランスを崩してコテンと転がるばかり。

 

《異界の棘紫獣(きょくしじゅう)》守備表示

星5 闇属性 獣族

攻1100 守2200

 

――《クリバビロン》を呼ぶ気か! だが、タダじゃ通さねぇぜ!

 

「その特殊召喚に対し、手札の《朔夜(さよ)しぐれ》を墓地に送って効果発動! そいつの効果はこのターン無効化され、更にフィールドを離れた際に元々の攻撃力分のダメージをテメェに与える!」

 

 そんなアホっぽい犬丸出しの《異界の棘紫獣》の背中を優しく撫で、泥を払ってくれる兎の垂れた耳を模したフードの中から水色の長い髪が二房伸びる白いローブの少女《朔夜(さよ)しぐれ》。

 

 その《朔夜(さよ)しぐれ》の優しさに触れた《異界の棘紫獣》はゴロゴロと喉路を鳴らし、信頼の証のように腹を見せて寝転がり、されるがままに撫でられ始めた。

 

「魔法カード《ティンクル・ファイブスター》を発動。《異界の棘紫獣》をリリースし、デッキ・墓地からクリボー5兄弟を特殊召喚」

 

『ク、クリバ……』 『……クリビ』 『クリ……ベ』 『クリブッ! クリィ?』 『クリィ……』

 

 そうして、ひとしきり撫でられた《異界の棘紫獣》が背中に《朔夜(さよ)しぐれ》を乗せて去っていく中、沼から現れて己の背中をさする4兄弟を余所に、そんな兄弟たちを不思議そうに伺う元気いっぱいな《クリブー》を合わせたクリボー5兄弟が勢揃い。

 

《クリバー》ビー》ブー》ベー》ボー》攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「またチビ共か――だが勝手の代金は払って貰うぜ! 《朔夜(さよ)しぐれ》の効果を受けた《異界の棘紫獣》が墓地に送られたことで、その攻撃力分のダメージを受けな!!」

 

 しかし、4兄弟が背中をさする傍らで、背中に乗せた《朔夜(さよ)しぐれ》の指示に従い5兄弟を蹴散らしながら《異界の棘紫獣》は神崎のスネに突撃をかます。

 

神崎LP:3000 → 1900

 

 さすれば、勢い余って《朔夜(さよ)しぐれ》の頭も合わせてダブル頭突きによって「ゴィーン」と小気味の良い音が2つの頭から響いた後、目を回す《朔夜(さよ)しぐれ》を背に《異界の棘紫獣》は糸の切れた人形のように倒れた。

 

 

 そんな三文芝居の最中、万丈目はハッとした表情でボーイのデッキの不可解さの正体に気づく。

 

「これは……手札誘発か!」

 

「手札誘発?」

 

「貴様も使ったことくらいあるだろう! 手札から発動する奇襲性の高い効果を持つ防ぎ難いカードのことだ!」

 

 手札誘発。雑に説明すれば――

 

 よく遊戯が対戦相手から「これでフィールドに貴様を守るカードはない! 終わりだ、遊戯ィ!」とのシーンで「俺は手札から《クリボー》の効果を発動していたのさ!」って奴の仲間である。

 

 こんな具合で手札から急に発動されるので、相手は準備なしで対処するのは難しい。

 

「へぇー、じゃあそれが一杯あるのがアイツのデッキの強みってことか」

 

「いや、そう簡単な話ではない。手札誘発は奇襲性に優れる反面、ステータスが低く効果も限定的なものが多い。単体では脅威度はどうしても下がる」

 

「? なんでだ? 手札から発動できる罠カードみたいなもんじゃん。強くね?」

 

「馬鹿者! もしも手札が手札誘発ばかりになった状況を考えろ! そこから相手の行動を上手く相殺できたとしても、その先がどうなるかくらい察しがつくだろう!」

 

 だが、良いこと尽くめに聞こえる手札誘発も致命的な問題があった。それは多くが「単体では壁にもならない無力なカードである」点だ。

 

「えっ、そんなのお互いの手札がなくなって、ドロー勝負になるだけ――あっ」

 

「そうだ! 単純なドロー勝負になれば『下級モンスターを召喚して攻撃し合う』状況になる! だが、手札誘発のステータスは基本低い! 多く採用すれば当然、力負けし続ける!」

 

 そう、手札誘発を多く採用すればする程「なんとか相手の行動を全て止めれました」でも「自分は何も動けません」なんて状況もザラに起こり得る。

 

「手札誘発が強みになりえるのは『僅かな手札で平均以上の動きが出来るデッキ』に限られる! しかし、そんな都合の良いデッキがあるなら俺が知りたいくらいだ!!」

 

 リアル(現実)のデュエル環境も「手札誘発を採用しても自分の動きを阻害しないだけのデッキスペースの有無」が(例外はあれども)「強いデッキ」の条件な節もある程だ。

 

 ただ、残念ながらGXのエクストラデッキが融合モンスターだけの時代では(一部を除き)中々難しいところだろう。

 

「その問題へこんな強引なアプローチを……だとしても、魔法・罠ゾーンを完全に埋める暴挙に見合うリターンが果たしてあるのか?」

 

「でも、なんか面白そうだぜ! 流石、セブンスターズ! 色んな奴がいるな~!」

 

 そんな手札誘発の問題を「山ほど手札を引けばOKじゃん!」で解決したのがボーイのデッキなのだと語った万丈目に、理解は話半分でテンションを上げていく十代。

 

「解説ありがとよ。まぁ、そういう訳だ――下手に攻撃すりゃぁ火傷じゃすまないぜ、先生さんよ」

 

「では《クリバー》の効果で5兄弟を《クリバビロン》に合体。手札に戻して即分離し5兄弟を特殊召喚した後、《クリベー》の効果、5兄弟をリリースし、合体こと墓地から《クリバンデット》を回収し、そのまま召喚します」

 

『クリ!? クリバッ!?』『ク、クリビー!』『『クリィッ!?』』『クリリ-!』

 

『バビィ! ッバビィ!? バビー!!』

 

『クリィ、クリベッ! クリリ!』『 『 『 クリィ~!! 』 』 』

 

 やがて合体分離の連続に大慌てのクリボー5兄弟。てんやわんやでゴタゴタする中、何とか《クリベー》の音頭の元、再び兄弟たちは《クリバンデット》へと合体。

 

 だが、大急ぎで合体したゆえか《クリバンデット》は疲労感にフラフラしていて足元がおぼついていない様子。

 

《クリバンデット》攻撃表示

星3 闇属性 悪魔族

攻1000 守 700

 

――攻撃力の勝る《クリバビロン》に合体しねぇだと?

 

「ではバトルフェイズへ。《クリバンデット》で《サンド・ギャンブラー》を攻撃」

 

 しかし、息つく暇もなく即座に戦場に駆り出された《クリバンデット》は時間をかけるように短剣をゆっくり構え、時折神崎の方をチラチラ確認しながら慎重さを示すように敵前へ徒歩で移動を始める中――

 

「永続罠《強制終了》があるのに攻撃すんの!?」

 

「いや、次のターンには再び《枯鰈葉(カレイハ)リプレース》が復活する! 相手のリソースを削るなら今しかない!」

 

「おいおい、テメェら忘れたのか? オレの『ギャンブルコンボ』が成功すりゃあ《強制終了》を使うまでもないってことをよォ!」

 

 十代と万丈目のやり取りを一笑に付したボーイが背後のスロットを起動させれば、出目こが回転を始め、一同が固唾を呑んで見守る中で3つの出目が現れた。

 

「永続罠《ラッキーパンチ》の効果! 表! 裏! 裏! 《セカンド・チャンス》でコイントスの再試行! 表! 表! 表!」

 

「ま、また!?」

 

「《セカンド・チャンス》があるとはいえ、こうも連続で……!」

 

 だが、ボーイがスカーフに口づけして再試行すれば「当」1つ、ドクロが2つだった筈の出目はスロット画面に出てきたゴブリンがキョロキョロ周囲を伺った後、2つのドクロの出目を「当」にズラす確変演出によって大当たりへと変貌。

 

「さぁ、これでオレは5枚のカードをドロー! そしてテメェの《クリバンデット》共々、ライフと手札を撃ち抜くぜ!」

 

 そしてスロットより溢れるメダルの奔流がボーイを潤す中、3つの機銃が神崎とチラチラと後ろを伺っていたゆえに危機に気づかなかった《クリバンデット》を撃ち抜いた。

 

神崎LP:1900 → 1400

 

「私はバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ……このままターンエンドです。エンド時に墓地の《ジョーカーズ・ワイルド》の効果を――」

 

「いい加減しつこいぜ、道化さんよォ! 手札から《D(ディー).D(ディー).クロウ》を捨て、そいつを除外! ピエロはおどけて退場しねぇとなァ!」

 

 かくして、気絶から復帰した《異界の棘紫獣》が未だ目を回している《朔夜(さよ)しぐれ》を口に咥えて去っていく光景を余所に、毎度のことながら道化師が神崎の手札にカードを1枚差し込もうとするが、その両肩をカラスに掴まれ道化師は空こと異次元へとフライアウェイ。

 

 道化師は、お空で親指を立ててお星様(除外ゾーン)で神崎を見守る構図となった。

 

 

ボーイLP:4000 手札11

《サンドギャンブラー》攻300

伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》守1400

魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》攻1500

《激昂のムカムカ》攻1200 → 攻5600

《セカンド・チャンス》

《無限の手札》

《ラッキーパンチ》

(ガン・)(キャノン)(・ショット)

《強制終了》

フィールド魔法《エンタメデュエル》

VS

神崎LP:1400 手札7

 

 

「くっ……手札破壊の弾除けになっていた《ジョーカーズ・ワイルド》が……!」

 

「それよりも万丈目! アイツの手札スゲェぜ! 10枚以上ある!」

 

「ああ、手札枚数に差があり過ぎる。このまま端から端まで止められれば、まともなデュエルは出来んぞ!?」

 

 かくして、益々手札の差が広がり続ける現状へ、流石に焦りを見せ始める万丈目たち。

 

「ハハハ! 賭けに勝ち続ければ、まさにバラ色! これぞギャンブルの醍醐味ってもんよ! オレのターン! ドロー!」

 

――しっかし、1枚ずつとはいえ毎ターン手札破壊してるってのに未だに手札が削り切れねぇ……

 

「さて、どうすっか」

 

 高笑いするボーイだが内心では、そこまで己の有利を過信してはいなかった。なにせデュエル開始から4度の手札破壊を行ったにもかかわらず、今の神崎の手札は7枚。初期値を僅かに上回る。

 

 ダメージも《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》以外は《朔夜(さよ)しぐれ》の効果で1度受けたのみ。

 

 ただ、過信は出来ずとも己が有利な状況である確信がボーイにはある。なにせ、神崎の手札枚数の多さは――

 

――とはいえ、タネは単純だ。攻め気を殆ど見せず温存に奔ったゆえの備蓄。だが、いつまで続くかな!

 

「いや、こんな茶番もう終わらせちまうぜ! バトルだ!!」

 

「墓地の《枯鰈葉(カレイハ)リプレース》を復活させねぇのか!?」

 

「恐らくだが、モンスターゾーンを埋めきってしまうことを嫌ったのだろう。何か仕掛ける気か?」

 

「仕掛けなんざ必要ないね! テメェらの先公のちっぽけなライフなんざ、この一撃でお陀仏よ! ダイレクトアタックだ、《激昂のムカムカ》!!」

 

 やがて《激昂のムカムカ》の巨体が大地を揺らしながら神崎をひき殺さんと迫る中、《クリボーン》の祈りが天に届く。

 

「墓地の2枚目の《クリボーン》を除外し――」

 

「無駄だって言ってんだろ! 手札の《屋敷(やしき)わらし》を墓地に送ることで『墓地から特殊召喚する効果』――つまり《クリボーン》の効果は無効!!」

 

 と同時に黒のゴシックドレスの灰色の長髪の少女が祈りを割り込み、天へとキャンセル要請を届ける。

 

「教諭のデッキの生命線が……!!」

 

「拙いぜ、この攻撃が通れば!?」

 

「チェーンして墓地から3枚目の《クリボーン》を除外し、クリボー5兄弟を特殊召喚」

 

 だが、《屋敷(やしき)わらし》の祈りに更に割り込んだ最後の《クリボーン》の祈りに、急な仕様変更ゆえか天から雑にクリボー5兄弟が排出され、全員共々顔面から地面に落ちた。

 

《クリバー》ビー》ブー》ベー》ボー》守備表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

 やがて、最終的に天が《クリボーン》を選んだ結果に《屋敷(やしき)わらし》が「ガーン!」と擬音が付きそうな表情でフェードアウトしていく中、ボーイは舌打ちしながらも方針変更。

 

「チッ、最後の3枚目も墓地にあったか――攻撃はキャンセルさせて貰うぜ。どうせ叩きゃ、またボコボコでてくるんだ」

 

 そうして、頭――というか一頭身の半分が地面にめり込んだゆえ、脱出に四苦八苦するクリボー5兄弟を余所に、《サンド・ギャンブラー》は宙へとコイントス。

 

「だが、効果破壊ならどうかな? 《サンド・ギャンブラー》の効果!! コイントス!!」

 

「これで、また表が3枚でれば……」

 

「くっ、まさに運命を見守る他ない状況だ……」

 

『クリバ……! 』『クリリ! クリビ!』『クリブー!』『クリベー?』『クリ、クリィ!』

 

 ようやく地面から脱出したクリボー4兄弟の目に映るのは、死刑宣告代わりのコインが宙から落ちる光景。

 

 ゆえに、みんな慌てて天に祈ったり、踊って謎の儀式をしたり、両手から念を飛ばす仕草をしたり、まだ地面にめり込んでいる為に状況を把握していなかったり、最後の1人を地面から引き抜こうとしていたりと様々だ。

 

「裏! 裏! 表! 《セカンド・チャンス》の再試行! 表! 表! 表!! 大当たりだ!! 毛玉共には消えて貰うぜ!!」

 

『 『 『 クリッ!? 』 』 』

 

 だが、現実は無常……! 圧倒的、無常……!

 

 強者には幸運を……! 弱者には不運を……!

 

 それが必然……! 一発逆転など所詮は幻想……!

 

「そして『ギャンブルコンボ』を受けな!!」

 

「ですが、墓地の罠カード《Vivid(ビビッド) Tail(テール)》の効果により《クリベー》を手札に戻し、自身をセットさせて頂きました」

 

 そうして、コインの雨霰にてんやわんやのクリボー5兄弟の中、バイクのエンジン音と共に突如として現れた天才を自称していそうな女ライダーが地面に半分埋まっていた《クリベー》を連れ去り逃亡。

 

『クリバ!? クリバックリ、クリベー!?』 『クリ、クリクリビビー!!』 『クリブ……』 『ク、クリィ……』

 

「はっ、小細工を――だが、そんなもん逆に破壊する的が増えるだけさ!」

 

 やがて、信じていたチームメンバーから裏切られたリーダーみたいな心境のクリボー4兄弟はコインの雨に呑まれ、神崎もコインのつぶてを受ける中、その恩恵だけをボーイが手札として得ていた。

 

神崎LP:1400 → 900

 

「これでアンタを支えるモンスターどころかセットカードも綺麗サッパリ消えちまった。もう諦めるんだな、先生ェさんよぉ」

 

「でも、今んところ神崎さんが受けたダメージは《朔夜(さよ)しぐれ》以外じゃ《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》だけだ! このままなら数ターンは持ちこたえられるぜ!」

 

「ああ、クリボーは防御面に優れているからな。根競べなら十二分に――そうか! これならば直に奴のデッキは機能不全を起こす!」

 

「えっ?」

 

 かくして、相手の心を折るべくボーイは戦況をあげつらうが、此処で庇うような十代の言葉に万丈目は今まで消極的なデュエルだった神崎の意図を察した。

 

「馬鹿者! 相手は毎ターン5枚ドローし続けているような状態なんだぞ! 40枚なぞあっという間に引き切る!」

 

「あっ、そっか! アイツの魔法・罠ゾーンが埋まってるからデッキ回復もできないのか!」

 

「そういうことだ! 墓地で発動する効果もなさそうなデッキである以上、手札の大本であるデッキこそが奴のリソースの限界値!」

 

「神崎さんのデッキは60枚構築だから、リソース勝負なら20枚の分があるってことか!」

 

「しかも、奴がドローを止めるには『ギャンブルコンボ』を停止させなければならん! だが『ギャンブルコンボ』を止めれば、奴のデッキは根底から破綻する!!」

 

 そう、今やボーイのデッキ枚数は一桁。

 

 だからといって、デッキ切れを避ける為にギャンブル効果を使わなければ、相手の攻撃を素通りさせるも同然だ。

 

 ここまで神崎が多くのカードを墓地に送って来た以上、《クリバビロン》の攻撃力は最大限に高まっていることは想像に難くない。

 

 つまり、ボーイに残された道は必要以上にドローしないように気を配りながら『ギャンブルコンボ』を適用させるのみ。

 

 だが、ただでさえ不確定なギャンブル効果に更なるデメリットを追加された状態では破綻は避けられないだろう。

 

「やれやれだぜ。アカデミアってのは馬鹿しかいねぇのか?」

 

「なんだと!」

 

「これだけ手札があれば解決策だって引いてなきゃおかしいだろ! 《プレートクラッシャー》召喚!!」

 

 しかし、そんな万丈目たちの考察を鼻で嗤ったボーイは目元を隠した軽鎧の戦士を繰り出す。

 

 その戦士こと《プレートクラッシャー》は鎧の隙間から垣間見える強靭な肉体を証明するように左右の手にそれぞれ握った長剣を片手で軽々と振り回して見せた。

 

《プレートクラッシャー》攻撃表示

星3 地属性 岩石族

攻1400 守 300

 

「さぁ、《プレートクラッシャー》の効果を見せてやる! オレの魔法・罠ゾーンの表側のカードを墓地に送り、500のダメージを与える!! 《ラッキーパンチ》を墓地へ!!」

 

 そして《プレートクラッシャー》はボーイの魔法・罠ゾーンのカードに右手の長剣を突き立て投げ捨てるように長剣を振れば、カードは砲弾の如き速度で神崎へと放り投げられる。

 

神崎LP:900 → 400

 

 結果カードが着弾し、小さな爆発に包まれる神崎を余所に万丈目は焦った声を漏らす他ない。前提が崩れた。

 

「魔法・罠ゾーンを空ける効果だと!?」

 

「でも、《ラッキーパンチ》がフィールドを離れた! これでアイツは6000のライフを失うデメリットを受け――」

 

「チッチッチ、《ラッキーパンチ》のデメリットは『破壊された』時だ、『墓地に送られた』場合はノーリスク!」

 

「残りライフ400……拙いな。これで《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》のダメージを受けられる猶予がなくなった。相手のデッキ切れまで秒読みとはいえ、相手が全て裏を出す確率に願う他ないぞ」

 

 そして、ボーイが十代へ馬鹿にするように人差し指を振って見せる中、修正を図った万丈目の考察の最中にフィールドのネオン輝く街並みの光が神崎を始めて照らす。

 

「ですが私のライフが500以下になった為、貴方のフィールド魔法《エンタメデュエル》の効果により私は2枚ドローできます」

 

 

 やがて、最後の希望のカードを2枚引く神崎へ、ボーイは嘲笑うように宣言した。

 

 

「そのくらいくれてやるさ。なにせアンタの最後のドローだからな! 《プレートクラッシャー》の効果!! 今度は《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》を墓地に送る!!」

 

 

「2回目だと!?」

 

 

「1ターンに同じ効果を2度使えるモンスター!?」

 

 

 さすれば今度は《プレートクラッシャー》がボーイの魔法・罠ゾーンに左手の長剣を突き立て、引き抜くように長剣をフルスイングすれば、再びカードが砲弾と化して神崎に着弾し爆発。

 

 

「くっ、此処までか……」

 

 

「――神崎さん!!」

 

 

 その風前の灯火のライフは呆気なく吹き消されることとなる。

 

 

 かくして、最後はギャンブルの勝負の場にすら立たせて貰えぬ結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神崎LP:400

 

 かに思われた。

 

「なんだと!?」

 

「どうやら私の運も捨てたものではないようです。手札から《クリアクリボー》の効果を発動させて貰いました。ダメージを与えるモンスターの効果を無効にします」

 

 そう、《プレートクラッシャー》が長剣で放り投げたカード爆弾の爆撃を受けたのは神崎ではなく、薄紫の毛玉こと《クリアクリボー》。

 

 やがて煙でボロボロになった《クリアクリボー》の身体がパッカン開くと共に中から無傷の《クリアクリボー》が現れ、ボーイに向けて胸――というか一頭身の身体全体を――張る。

 

「チッ、往生際の悪い先公だ……だが、アンタの絶望的な状況は何一つ変わっちゃいねぇぜ! 今のオレは魔法を使えるんだからよ! 魔法カード《貪欲な壺》を発動! 墓地の5枚のモンスターをデッキに戻し、2枚のドロー!」

 

 そうして、ボーイの苛立ちとシンクロするように《サンド・ギャンブラー》が散って行った者たちを食わせた《貪欲な壺》を蹴飛ばし砕けば、砕けた壺からメダルの山が溢れボーイの手札をさらに潤していく。

 

「これでアンタは1度でもオレに攻撃した瞬間にライフが尽きる――まさか、『今のオレの手札に《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》がない』なんて甘い考えしてねぇよな?」

 

「拙いぜ、万丈目! これでアイツのデッキに手札誘発が戻っちまった!?」

 

「デッキが残り僅かゆえに、今のドローで引いた可能性も高い……!」

 

「更に、これでオレのデッキ切れより、どう考えても先生ェのライフが尽きる方が早ぇよなぁ」

 

「この状況で盛り返してくるとは……」

 

「くっ、やっぱ伊達にセブンスターズに選ばれちゃいないぜ」

 

「《サンド・ギャンブラー》を守備表示に変更し、カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

 かくして、十代と万丈目たちが戦況の悪化を察する通り、ボーイは文字通りのラストターンを神崎へ突きつける。

 

「さぁ、今度こそ正真正銘のラストターンだぜ、先生――まぁ、その貧弱な毛玉共じゃ、どうやったって巻き返せねぇがな」

 

「そんなことねぇぜ! クリボーはあの遊戯さんのピンチを何度も救ってきたカードなんだ!」

 

 しかし、状況ゆえか黙したままの神崎を庇うように、十代が前例を上げて援護するが――

 

「テメェは馬鹿か? 確かにクリボーたちはデュエルキングも使用したカードだ――が、その役目はあくまで補助的な代物。アタッカーとして運用するもんじゃねぇのは明白だろうが」

 

「その通りだぞ、十代。遊戯さんが使っていたからといって必要以上に特別視するのは止めんか、神楽坂でもあるまいし」

 

「うぐっ!? ま、万丈目はどっちの味方なんだよ!」

 

「味方もへったくれもあるか。もはや俺たちがすべきはこのデュエルを学びの糧とすることだけだろうに」

 

 前例である遊戯でさえ、「クリボーをメインアタッカーにしていた(で殴り合っていた)訳ではない」との真っ当過ぎるボーイの主張に万丈目にすら「援護になっていない」と呆れられる始末。

 

 

ボーイLP:4000 手札9

《サンド・ギャンブラー》守1600

伝説の(レジェンド)賭博師(ギャンブラー)》守1400

魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》攻1500

《プレートクラッシャー》攻1400

《激昂のムカムカ》攻1200 → 攻4800

伏せ×2

《セカンド・チャンス》

《無限の手札》

《強制終了》

フィールド魔法《エンタメデュエル》

VS

神崎LP:400 手札8

 

 

「では私のターン、ドロー。ッ!? スタンバイフェイズを経てメインフェイズ1へ……ま、魔法カード《隣の芝刈り》を……は、発動します」

 

 だが、そんな十代の援護が届いたのかカードを引いた神崎の貼り付けた笑顔の仮面がこのデュエル中に初めて揺れ、急に緊張した様子でカードを発動する神崎に万丈目たちは希望を見出す。

 

「あれは! 相手のデッキと同じ枚数になるように己のデッキを墓地に送れるカード!」

 

「よっしゃぁ! 墓地のクリボーが増えれば神崎さんの戦術の幅もグンと増えるぜ!!」

 

――この先公、なんでソワソワしてんだ? まぁ、なんにせよだ。

 

 ただ、ボーイには神崎が初めて見せた動揺の方が気になってしまう。

 

 ちなみに――ボーイは知らぬ話だが、デッキが一桁になるレベルで《隣の芝刈り》することでしか得られない成分があったりする。そして――

 

「――通す訳ねぇだろうが! 手札から《灰流(はる)うらら》を墓地に送り、そいつの効果は無効だ!!」

 

 大抵、そんな機会は相手が《灰流(はる)うらら》にムシャムシャされるのがお約束だったりする。

 

 そして最高にフィーバーする筈だったカードをモシャモシャほおばる《灰流(はる)うらら》の姿に、神崎の目からハイライトが消えていき、いつもの笑顔の仮面が再生していく始末。

 

「くっ、流石に素通りさせてくれねぇ……!」

 

「奴も教諭の墓地発動のカードに散々手を焼いてきたからな。当然だろう」

 

「…………ハァ、私のフィールドにモンスターがいない時、墓地の罠カード《もののけの巣くう祠》を除外することで墓地のゴースト・ランサーの効果を無効にして特殊召喚」

 

 やがて、大きく肩を落とした神崎の肩をポンと軽く叩きながら《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》が槍を杖代わりに立つ中――

 

《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》攻撃表示

星5 闇属性 アンデット族

攻2000 守 0

 

「そいつで、また毛玉共を呼ぶつもりか――させるかよ! 手札から《朔夜(さよ)しぐれ》の効果発動! このターン、ゴースト・ランサーがフィールドを離れた瞬間、その元々の攻撃力分のダメージでお陀仏さ!」

 

「チェーンして墓地の罠カード《Vivid(ビビッド) Tail(テール)》の効果。《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》を手札に戻し、墓地の自身をセット。ただし、このターン手札に戻したカードの効果は発動できません」

 

 空から女の子もとい《朔夜(さよ)しぐれ》が降って来た為、受け止めようとする《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》を謎の(自称)天才美少女ライダーの駆るバイクが跳ね飛ばした。

 

 バイクに跳ねられ宙を舞い《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》が神崎の手札に救急搬送される中、地面に「ベシン!」と人型の穴を作る形で着地する《朔夜(さよ)しぐれ》。

 

「チッ、これも躱したか」

 

「相手フィールドにのみモンスターがいる時、手札のゴースト・ランサーを自身の効果で特殊召喚」

 

 やがて手札から退院した《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》に地面から救助されるも、《朔夜(さよ)しぐれ》は泣きべそをかきながら逃走。手を貸そうと伸ばした《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》の腕だけが虚しく残った。

 

《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》攻撃表示

星5 闇属性 アンデット族

攻2000 守 0

 

 ただ、そんな寸劇の最中、見逃せない事実にボーイが叫ぶ。

 

「――!? おい、待て! 《Vivid(ビビッド) Tail(テール)》で戻したカードはこのターン使えないんじゃねぇのかよ!?」

 

「『効果が無効化された』訳ではなく『効果は発動できない』だけですので、問題ありませんよ」

 

「えっ? そうなの?」

 

「ああ、教諭の言う通りだ――というか、専門外の奴(ギャンブラー)ならともかく、フォース(未来のプロデュエリスト)ならばその程度は把握しておかんか!!」

 

「ギ、ギブギブ! ちょっとド忘れしてただけだって!!」

 

 しかし万丈目にヘッドロックされる十代がタップする中、コンマイ語の洗礼を浴びたボーイは舌打ちしながら先を促せば――

 

「チッ……これだからデュエルは面倒臭ぇんだ。だが、そこからどうするよ!!」

 

「ゴースト・ランサーをリリースし、《クリバビロン》をアドバンス召喚」

 

『バビィ! バビビィ!!』

 

 なんか悪いことした感のある《劫火の槍術士 ゴースト・ランサー》がしょんぼり消えていく中で現れた《クリバビロン》がヤル気に満ちた様相でビヨンビヨン一頭身の身体を上下させる。

 

 そして、一発逆転に繋がる己の圧倒的な攻撃力の表示バーをチラっと見れば――

 

《クリバビロン》攻撃表示

星5 闇属性 悪魔族

攻1500 守1500

 

「よし! 《クリバビロン》まで繋げたぜ!」

 

「だが、《強制終了》がある限り、バトルは通らん! しかも、あのデッキはクリボーに特化し過ぎて大した除去札は期待できんぞ!」

 

「《クリバビロン》の効果、自身を手札に戻し、墓地からクリボー5兄弟を特殊召喚します――が、どうなさいますか?」

 

『バビッ!?』

 

「………………好きにしな」

 

 すぐさま分離させられる現実に《クリバビロン》が神崎を二度見するも、渋々と言った具合で分離。このデュエルで何度目か分からぬ5兄弟の姿が神崎の元に並んだ。

 

《クリバー》ビー》ブー》ベー》ボー》攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「また分離すんの!?」

 

「《クリバビロン》の攻撃力なしで、どうするつもりなんだ!?」

 

「速攻魔法《機雷化》を発動。《クリボー》を破壊し、その分だけ相手のカードを破壊します――永続罠《強制終了》を破壊」

 

『クリリー!』

 

 さすれば、騎馬を組んだ4兄弟を発射台として《クリボー》が単身で敵陣に強襲をかける。

 

 そして、ボーイのフィールドのカードの1枚にしがみつくと、《クリボー》はチラと振り返り敬礼。当然、4兄弟も敬礼を返せば、それを合図としたかのように小さな爆発がボーイのフィールドを覆った。

 

「《機雷化》だと!?」

 

「あれ、遊戯さんが使ってたの見たことあるぜ!」

 

「あ、あんなニッチなカードまで採用しているのか……」

 

 やがて、爆発の煙に腕で目元を覆う万丈目と十代が思いもよらぬカードの発動に神崎のデッキのピーキーさを実感するが、煙が晴れた先からボーイは軽口を飛ばしてみせる。

 

「だが残念だったなぁ、前のターンに引いてりゃ《ラッキーパンチ》を破壊して勝てたかもしれねぇのに」

 

「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動。デッキから《ハネクリボー》を特殊召喚」

 

『クリリー』

 

 そうして、ボーイが《ラッキーパンチ》のデメリット――表側で破壊された際に6000のライフを失う――を警戒する中、現れるのは小さな天使の翼が生えたクリボー。

 

《ハネクリボー》攻撃表示

星1 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

――また攻撃表示だと? 大体《クリボー》を呼べば再合体は出来た筈。この先公、何を狙ってやがる……

 

「バトルフェイズへ、《ハネクリボー》で《プレートクラッシャー》を攻撃」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

「流石に、あからさま過ぎるぞ!?」

 

「勝負を投げたって感じじゃなさそうだな――だが、こうも博打を挑まれちゃあ受けて立つのがギャンブラーだぜ! 永続罠《ラッキーパンチ》と《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》発動!!」

 

 やがて、警戒を募らせるボーイの元、十代たちが察する程に一か八かの逆転の一手こと《ハネクリボー》を突撃させた神崎。

 

 だが、一か八かの勝負を仕掛けられたのなら乗るのがギャンブラーの性。ゆえに、ボーイがカードを発動させれば、その背後で再臨を果たしたスロットが回転を始める。

 

「表が1度でも出ればアンタはお陀仏だ!!」

 

「くぅ~! 最後の一か八かの大勝負だぜ!」

 

「しかし、今まで散々表を出し続けてきたんだ! 運の揺り返しが来てもおかしくはない!」

 

 神崎の残りライフはたった400――丁度《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》の500ダメージでジ・エンドだ。

 

 ゆえに、ボーイが圧倒的に有利なギャンブルの結果を示すように、スロットの出目の回転が段々と遅くなっていく中――

 

「墓地の罠カード《ダメージ・ダイエット》を除外し、効果発動。このターン受ける効果ダメージを半減させます」

 

「野暮な真似は止せよ! 手札から《スカル・マイスター》の効果! 相手の墓地で発動する効果を無効にする!!」

 

 神崎の墓地から飛び出した毛糸で編まれたマジックハンドが盾のように展開されるが、長い黒髪を頭上でまとめた青年が繰り出す悪魔の頭骨によってプッツリと噛み切られた。

 

「2枚目の罠カード《ダメージ・ダイエット》を除外し、効果発動。このターン受ける効果ダメージを半減します」

 

「ッ!? またかよ! だが、運命のコインは止まらねぇ! 裏! 裏! 裏!」

 

 途端に追加で飛び出した毛糸のマジックハンドに絡まった《スカル・マイスター》と彼の操る悪魔の頭骨が複雑に絡み合った結果ワチャワチャもがく羽目になる中、スロットがボーイにとって最悪な3つのドクロの出目を出す。

 

「だが、永続魔法《セカンド・チャンス》の再試行! 表! 表! 表!!」

 

 しかし、ボーイがスカーフに口づけして再試行すれば、スロットの画面のゴブリンがドクロのマークの上に「当」のシールを張ったことで大当たりへと確変。

 

「またまた大当たり!?」

 

「ふざけるな! 無茶苦茶ではないか!!」

 

「無茶を通したものが勝つ! それがギャンブルってもんさ!」

 

 そうして、このデュエル中に何度でたかわからぬ「3枚とも表」の数に、流石の十代たちもブーイングを飛ばすが、ボーイは一刀ならぬ一言の元に切り伏せる。

 

「さぁ、『ギャンブルコンボ』のお時間だ! オレは合計5枚ドロー! ダメージに加えて手札破壊! そしてフィールドで破壊するのは――」

 

 やがて、スロットマシーンの上部からお馴染み3つの機銃が現れたと同時に発砲、連射。

 

「《ハネクリボー》だ! 何を狙ってやがるかは知らねぇが、そいつがキーなんだろ!!」

 

『クリリィィイイイイ!?』

 

神崎LP:400 → 150

 

 毛糸のマジックハンドに守られた神崎と、その手札を撃ち抜き、《ハネクリボー》をハチの巣に撃ち抜く。

 

「これでアンタの最後の一手も完全攻略! さぁ、ターンエンドしな!」

 

 かくして、最後の大博打にも見事勝利したボーイは、神崎の最後の頼みの綱も断ち切ったと勝利を確信するが――

 

「なにを勘違いされているのですか?」

 

「あぁ?」

 

「まだ私のバトルフェイズは終了していません。《クリベー》で《プレートクラッシャー》を攻撃」

 

 そんな中、今度は《クリベー》が決死の突撃を始める。

 

「テメェ!? 自滅する気か!?」

 

「いいや! 《ハネクリボー》が破壊されたターン! 神崎さんはバトルダメージを受けないぜ!」

 

「そうか! ならば狙いは――」

 

「墓地の《剣神官ムドラ》を除外し、墓地の《ハネクリボー LV(レベル)10》、《クリボー》、《機雷化》の3枚をデッキに戻します」

 

 やがて、やぶれかぶれにしか見えない《クリベー》の突撃にボーイがおののく中、十代たちはタイタンのデュエルを思い出せば、黄金の鎧をまとう褐色肌の闘士が両の手のメリケンサックで墓地からカードを掘り起こし始めた。

 

「ッ! 《クリバー》と《クリビー》の効果か!?」

 

 そんな光景にボーイも神崎の狙いを察する他ない。

 

 そう、神崎の狙いは再び《クリボー》と《機雷化》を揃え、今度こそ《ラッキーパンチ》を破壊するつもりだ。

 

「――させるかよォ!! 手札の《屋敷(やしき)わらし》の効果! こいつを墓地に送って相手の墓地からデッキに戻す効果は無効だァ!!」

 

 しかし、一転して絶体絶命の状況に陥ったボーイだが、黙って素通りさせるつもりは毛頭ない。

 

 墓地のカードを手に取り去ろうとした《剣神官ムドラ》の前に《屋敷(やしき)わらし》が両の手を広げて立ちはだかったことで、《剣神官ムドラ》の足は止まる。

 

 やがて、《屋敷(やしき)わらし》の真っ直ぐな視線に「墓守の己が墓暴きしてる……」と己を恥じた《剣神官ムドラ》は両の手からメリケンサックと共にカードを落として自己嫌悪で涙する中、その背中を《屋敷(やしき)わらし》は優しくポンと叩いた。

 

「墓地の《宿(しゅく)神像(しんぞう)ケルドウ》を除外し、墓地の《ハネクリボー LV(レベル)10》、《クリボー》、《機雷化》の3枚をデッキに戻します」

 

「テ、テメェ!!」

 

 そんな2人の隣で巨大な大盾のような両腕を伸ばす女神像のような機兵が《剣神官ムドラ》の落したカードを手に去っていく光景に、またまた《屋敷(やしき)わらし》は「ガーン!」と擬音を響かせながらショックを受けた様相を見せていた。

 

「そうか! アイツの手札誘発は『1ターンに1度しか使えない』のばっかりなんだ!」

 

「だからこそ、墓地にカードが貯まり切り、2度打ち――セカンド・チャンスが出来る状況まで待った……!」

 

『クリベブッ!?』

 

 かくして、ボーイのデッキの僅かな隙を狙いすまし、《プレートクラッシャー》の長剣の腹に脳天をチョップされた《クリベー》が大きなたんこぶを作りながら地面にめり込む中――

 

「《クリベー》が破壊されたことで、《クリバー》の効果で《クリボー》を特殊召喚」

 

『クリィ!!』

 

 倒れた《クリベー》に黒いガソリンをぶっかけた《クリバー》の匠の一手により、《クリベー》は《クリボー》に華麗に変身。

 

《クリボー》攻撃表示

星1 闇属性 悪魔族

攻 300 守 200

 

「更に《クリベー》の効果で《クリボー》の名が記された――速攻魔法《機雷化》を手札に加え、そのまま発動」

 

 そして、《クリベー》に先っちょに火が付いたロープを頭に付けられた《クリボー》は、2兄弟にまで減った発射台によって射出。

 

 やがて、その間も短くなり続けていた導火線の火が《クリボー》に着火すれば、巨大な爆発がメッチャ焦るボーイを襲った。

 

「――うぉぉおおぉおお!!??」

 

『――ク゛リ゛ィ゛イ゛イ゛イ゛ィ゛イ゛イ゛イ゛!!??』

 

 (自称)聖なる光の力によって轟々と燃えさかるボーイのフィールドにて、《クリボー》の断末魔――じゃなくて聖なる歌が響く中、十代たちはあっと驚く逆転劇にテンションを上げていた。

 

「よっしゃぁ! 《ラッキーパンチ》のデメリットは『破壊された時』だぜ!」

 

「遂に避け続けてきたリスクを清算する時だ!!」

 

 そう、今の今まで豪運が続いていたボーイの運は此処に尽きる。

 

 その最後は「自らのカードのデメリット」というのは何ともギャンブラーらしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーイLP:4000

 

 かに思われた。

 

「なっ!?」

 

「……ふぅ、危ねぇところだったぜ――オレはチェーンして《魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》の効果を発動させて貰った。オレの表側の魔法・罠カードを墓地に送ることで1枚ドローする効果をな」

 

 今の今まで存在感皆無だった《魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》が杖から水を撒いたことで鎮火し、プスプス煙を上げている《クリボー》を掴んでいる光景に、流石の十代たちも舌を巻く。

 

 そう、これこそが《魔導(マジカル)闇商人(・ブローカー)》の効果。魔法・罠ゾーンの圧迫を何時でも解け、更には相手ターンに《ラッキーパンチ》のデメリットすら回避する。

 

「先生ェよぉ、奥の手ってのは最後の最後まで隠しとくもんだぜ」

 

「……こ、これも躱すなんて」

 

「対象を取らない《機雷化》は、他のカードを破壊できるが破壊したところで焼け石に水だ……」

 

「では《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》を破壊しておきましょうか」

 

 やがて、ボーイの煽るような言葉に十代たちが絶句する中、ボーイの背後のスロットと機銃が煙を出しながら壊れていく。

 

 まさに針に糸を通すかのような唯一の光明が今、絶たれた。

 

「まさか最後にあんな手を残してるとはな――正直アンタを舐めてたぜ。大したもんだ」

 

 だが、ボーイは此処に来て初めて神崎へ純粋な賛辞を贈る。正直、もっと楽に勝てると思っていただけに今、ボーイは己の考えを改める。

 

 流石はアカデミア――落ち目といえども粒が揃っている、と。

 

「まっ、これからはセブンスターズを退ける同僚として仲良くしようじゃねぇか」

 

「なに勘違いしているんですか?」

 

「……? なんだ? まだ、なんかあんのかよ」

 

 しかし、まだだ。まだ終わってはいない。

 

「言ったでしょう? まだ私のバトルフェイズは終了していないと! 速攻魔法《バーサ――《ジェネレーション・ネクスト》発動! 墓地の《ハネクリボー》を特殊召喚!!」

 

「成程な。そいつの効果で次のターンを凌ごうって腹か」

 

『クリリィ!!』

 

 さすれば《ハネクリボー》が小さな天使の翼を懸命に動かしながら墓地より飛翔。

 

《ハネクリボー》攻撃表示

星1 光属性 天使族

攻 300 守 200

 

「攻撃表示だと?」

 

「《ハネクリボー》で《プレートクラッシャー》を攻撃!」

 

「なに考えて――」

 

 だが、ボーイの予想に反して、《ハネクリボー》はグググと踏ん張り身体から光を放たんとすれば――

 

「ダメージステップ時、速攻魔法《バーサーカーソウ――《バーサーカークラッシュ》発動! 墓地の《爆走特急ロケット・アロー》を除外し、そのステータスを《ハネクリボー》は得る!」

 

 《ハネクリボー》の背中の小さな翼が巨大な10枚の翼に増え、か細い光は絶対的な神々しさすら見える代物へと変化。

 

《ハネクリボー》

攻300 守200

攻5000 守 0

 

「こ、攻撃力5000だと!?」

 

「このカードが手札破壊されれば私の負けでしたよ」

 

 しかし、此処で神崎は「ギャンブル効果に勝ったのは己だ」と返す。

 

 彼が手札で温存していたコンボパーツのどれか1枚でもボーイが手札破壊できていれば、この結果はなかった。

 

 そう、針に糸を通すようなか細い道が閉ざされたのなら、己が剛腕を以て道を開くだけだ。

 

 神崎はいつだってそうやって来たのだから。

 

「くっ……! だが、ライフ計算を間違えてるぜ、先生ェさんよ! これならオレのライフは残る!!」

 

「ライフが残る? 何を言っているんですか?」

 

「……なんだと?」

 

「言ったでしょう――『このカードが手札破壊されれば私の負けだった』と」

 

 そう、最後の最後でボーイは当たりを引き損ねたのだ。

 

「これが(就職難を)生き残る為の私の足掻きだァ!! 手札の《クリベー》の効果! 『クリボー』1体――《ハネクリボー》の攻撃力を1500アップさせる!!」

 

『――クリィイイィイイ!!』

 

 手札の《クリベー》が光となって《ハネクリボー》に力を貸せば、その背中の10枚の翼が、12枚の翼に増えたことで、より神々しさを増す。

 

《ハネクリボー》

攻5000 → 攻6500

 

 

「 「 こ、攻撃力6500の《ハネクリボー》だとォ!? 」 」

 

 

「カックィー!」

 

 

 ボーイと万丈目がハモり、十代のテンションが最大限に高まった。

 

 

 そんな中、ボーイはその圧倒的な攻撃力を前に、一歩後ずさる。そして、自分は一体「何のデッキと戦っていたのか」と思い返せば――

 

 

「ク、クリボーがして良い攻撃力じゃ――」

 

 

『――クリィイイイイイイィイイイイイイィイイイ!!!!』

 

 

「――ぐぉおぉおおぉおおおぉお!!??」

 

 

 12枚の翼を広げ、天上の存在にランクアップした《ハネクリボー》から放たれる神の如き光の奔流が《プレートクラッシャー》もろとも罪人を裁くようにボーイを呑み込んだ。

 

 

ボーイLP:4000 → 0

 

 

 盗人死すべし慈悲はない。

 

 

 







今日の最強カードもとい最強アイテムは――

明日香が母から貰ったスカーフ!

こいつに願掛けすると豪運が舞い込むらしいぜ!

もはやオーパーツだな!







~今作のボーイのデッキ~

原作の彼のデッキでは、モンスター2体以上で攻撃された瞬間に戦線が崩壊するので、

ボーイの「一か八かの大博打――に見せかけつつもリスクは負わない」姿勢をデッキに反映させ
《セカンド・チャンス》のやり直しコイントスを必ず的中させられるスカーフの能力?に着眼する形で改造。

作中のように互いのターンに「3枚のコイントス」を《セカンド・チャンス》することで
《エンタメデュエル》と《(ガン・)(キャノン)(・ショット)》によって
毎ターンの「2~5ドロー」+「手札破壊と盤面除去」――によりアド差を広げていく。

しかし魔法・罠ゾーンの圧迫が酷く、展開力も皆無なことから沢山ドローしても手札制限により捨てる羽目になるので《無限の手札》を採用しているが、

結局「より魔法・罠ゾーンの圧迫が酷くなる」事態を生んでいる為、有り余る手札は手札誘発に割り切った。

とはいえ、直接的な除去には滅法弱い為、語られる程の圧はない。

彼が使用した未OCGの『ギャンブル天使バニー』? 同じ効果の《暴れ牛鬼》ですら採用し難いので
(OCG化の際に魔改造されないと)厳しいっす。


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