マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
コイントスの成否に限定すれば――
絶対運命力を持つ斎王 < (明日香が)母から貰ったスカーフ(を持った並デュエリスト)

明日香の母親は一体なにものなんだ……!!





第281話 水面下

 

 

 

 夜空に浮かぶ煌びやかに輝く黄金で彩られた巨大な空飛ぶ帆船の中、椅子に腰かけた深紅のドレスに身を包む緑の長髪の女がヴァンパイアの特徴である鋭く伸びた犬歯を剥き出しにしながら苛立ち混じりにテーブルへと拳を叩き落す。

 

「2連敗ですって……!! 高い金、払ってるってのにアイツら……!!」

 

「所詮は金に目がくらんだ戦士には程遠い者たちだ。初めから期待していなかっただろう?」

 

「タニヤの言う通りだ。そう憤るな、カミューラよ。そもそも勝敗は二の次との計画だろう?」

 

 そしてブチ切れ数歩前の様子を見せるドレスの女こと『カミューラ』を、テーブルを共にする褐色肌の2人――赤紫髪のポニーテールの筋骨隆々な女こと『タニヤ』は予想していた結果なのか軽い調子だ。

 

 だが、そんなタニヤの後押しをした地位の高さを感じさせる黄金の装飾の目立つ古代エジプト風の衣装の褐色肌の青年たる『アビドス三世』へ、カミューラは威圧するような声色で唸るが――

 

「だとしても、ストレート負けじゃ幻魔が復活しない可能性だってある――忘れた訳じゃないでしょうね」

 

「だが、アカデミアが改革されてから生徒間のデュエルの頻度は上がっている。ならば、その可能性は限りなく低いではないか」

 

「ふふふ、猛き戦士の数は、私のお婿さん候補の数に――」

 

「その限りなく低い可能性で失敗すれば目も当てられないって分からないのかしら!!」

 

 アビドス三世からの真っ当な物言いに両手を顔の前でウフフするタニヤをスルーして、カミューラは再度その怒りが再噴火。

 

 なにせ、カミューラの目的である「ヴァンパイア一族の復興」は遥か昔の迫害と弾圧から「唯一生き残った己にしか果たせぬ大義」と彼女は使命感と復讐心の狭間で燃えているのだ。

 

 その計画の要である「幻魔の復活」の失敗の懸念が「セブンスターズの数合わせとして雇ったデュエリスト」という外的要因ともなればカミューラの苛立ちも大きくなろう。

 

「であろうとも、相手方の実力は其方にも、余にもどうしようもなるまい」

 

「どうにかなさい。どうにもならないのなら、私もこのカードを使わざる――」

 

「止せ。私たちがお前に協力する条件を忘れたのか?」

 

 だが、困ったように腕を組んだアビドス三世の姿に、懐から1枚のカードを取り出したカミューラの腕をタニヤが掴むと同時に厳しい口調でいさめた。

 

 やがて1枚のカードがカミューラの手から零れ落ちテーブルに突き立つ中、剣呑な雰囲気を漂わせ始める両者をアビドス三世は制しに動く。

 

「少し頭を冷やせ、カミューラ。其方たち一族が受けた仕打ちを思えば、余たちとて無碍にはせん」

 

「……本当の意味で使う訳じゃないわ。脅しに使うだけよ。条件さえ守れば絶対に勝てるんだから、それで十分じゃない」

 

 そうして、話題に上がった「ヴァンパイアへ人間が行った過去の数々の仕打ち」が脳裏に蘇ったのかカミューラは僅かに意気消沈した様子で自由になった腕を引っ込めながら己の短慮を恥じつつも、奥の手の有効性を示して食い下がるが――

 

「しかし、それにはお前が打って出なければならない。そして、今まで私たちが潜伏できていたのはアビドス三世の『王の船』の力ゆえ――その庇護から離れれば『奴』は確実に動く。アレはそういう男だ」

 

「余も同意見だ。今は無理をするべきではない。余たちを抜いても後2人分、様子を見てからでも遅くはなかろう?」

 

 カミューラの意見へ、タニヤとアビドス三世はそれぞれの方向より否を突きつける。

 

 なにせ、神崎が血眼になって捜索していたカミューラがノンビリ空の船旅が出来ているのはアビドス三世が所有する『空飛ぶ船』があってのこと。

 

 ただの空飛ぶ船と思うなかれ、それは今とは比べ物にならないくらい神秘が顕現していた時代に「宗教的に神と同一視されていた王」を「死後、天へと運ぶ為」の船なのだ。オカルト力が段違いである。

 

 性質の違いから一概には比べられないが「アテムたちの千年アイテム」に近しい神秘はあるだろうことは容易に想像がつく。

 

 つまり、オカルト存在をマシマシに食い千切ってきた神崎にすら通じる逸品だ。

 

 

 閑話休題。

 

 

 そう、カミューラがヤバげなカードの力にどれだけ自信を持っていたとしても、「捕捉されていない優位性」を捨てる程、緊迫した状況ではないとタニヤたちは言いたいのだ。

 

 しかし、カミューラの認識は違った。

 

「…………逆よ」

 

「……? どういうことだ?」

 

「あの男が、このまま黙ってセブンスターズの投入を許してくれると思う? 私たちが時間をかければかける程、相手に準備期間を与えることになるじゃない」

 

 カミューラは、ただ待つだけの現状に危機感を覚えていた。こうして自分たちが手をこまねいている間、相手が何をしてくるか想像がつかない。

 

 命を金に換える死の商人だった頃のKCで幹部の席を用意されるまで命を売り買いし、

 

 国家に匹敵する権力で守られていた世界的な凶悪犯罪者だったグールズの総帥を司法の場に引きずり出せとの命が下れば、肉体以外の全てを引き千切ることすらいとわず、

 

 更には怪しげなオカルト方面の力を日夜研究し、果ては人体実験紛いの行為すら平然と行う話すら聞こえてくる始末。

 

 まさに血と暴力を生業にしてきた男。ハッキリ言って異常者だ。

 

 

 そして今、カミューラたちは「そんな異常者」を前に()()()()()()()()()()()()()()

 

 態々1人ずつ、しかも逐一アカデミアにお伺い立ててから刺客を送り込む――幾らアカデミアを警戒させない為とはいえ、消極的過ぎよう。

 

「ふむ、一理あるな。今、アカデミア側が学内の人間で対処しているのは『曲がりなりにも伝統行事の体』だからだ。その前提が崩れれば、我々は『賊』として扱われかねん」

 

「……成程、そうなれば余たちが狙う三幻魔の儀に必要な『精霊と強い縁ある者』の遊城 十代とのデュエルが遠のく」

 

 やがてカミューラの懸念にタニヤとアビドス三世は理解を示す他ない。なにせ、次で刺客は3人目――もう、セブンスターズが殆ど半分になる。

 

 幻魔復活の為に十代をデュエルの場に引き出さねばならないことを思えば、早急に動き出さねばタニヤの言う通り痛い腹を暴かれ一網打尽の状況に陥りかねない。

 

「そう、他の条件を満たした人間を探そうにも私たちが知るのは、あのカイザーと互角と言われる藤原 優介だけ――でも、それじゃあ折角アイツらの卒業を待った意味がなくなるわ」

 

「ふっ、私としては強き戦士とのデュエルは望むところだがな」

 

「余らに唯一残された機会を思えば、懸念は晴らしておきたいところか……」

 

「ええ、あまり時間はかけられないわ」

 

 やがて、タニヤとアビドス三世へ幻魔復活の条件である「精霊と強い縁のある者」で「唯一手に届く」十代を手中に収める為の一手をカミューラは明かし始める。

 

「だから、電撃作戦よ」

 

 その計略の行きつく先は果たして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな計略など知る由もない今日も平和なアカデミアのフォース生用の教室にて、十代は長椅子にカードを広げて悩まし気な声を漏らしていた。

 

「うーん、どうすっかなー」

 

「遊城、エクストラデッキの方は見直さなくて?」

 

 そのデッキ調整をしている十代の背後から窺う形で胡蝶 蘭の提案が届くも、十代は困ったように頭をかいている。どうにも胡蝶 蘭の提案は素直に頷けない代物なのか、十代はおずおずと困った様子で言葉を零した。

 

「いや、そっちはあんまり変えたくなくって…………やっぱ、変えなきゃダメ?」

 

『HEROは色々種類が多いからね。調べるだけ調べてみるのもアリなんじゃないかな?』

 

「遊城に譲れないこだわりがあるのなら、わたくしはその意思をリスペクトしますわ。ただ、負けた理由に『それ』を使わないようにお気をつけになって」

 

「そんなことしないけど――でも、どこから手を付けりゃ良いんだ? おーい! 万丈目~! 電話まだ~!」

 

 そうして、デッキ調整――というよりはデッキを大きく変える「改造」を前に、明瞭な形が見いだせない十代は助けを求めるように己のライバルの名を呼んだ。

 

 

 

「――やかましいぞ!! まだだ!!」

 

 呼んだのだが、当の万丈目は通信端末片手に離れた位置で通話中の様子ゆえ、十代には怒声が返ってくるばかり。

 

 やがて、怒声を前に少しばかりしょぼくれた十代の姿に小さく「フン」と鼻を鳴らした万丈目は通話相手に謝罪しようとするが――

 

「すみません、正司兄さん。クラスメイトが煩くて――」

 

『構わん。交流すべき人間選びもお前が学ぶべきことだ』

 

 万丈目の電話相手こと、彼の兄「正司」は遠回しに苦言を呈して万丈目の謝罪を切って捨て本題に入る。

 

『それより準、今のアカデミアはどんな様子だ?』

 

「……? 特に変わりはありませんが……精々が学外から来たデュエリストのデュエルを見学する程度で……」

 

 だが、その問いかけの意図は万丈目には推し量れず、態々経済界で忙しくしているであろう兄の正司自ら連絡してきた事実に求められている情報が分からない万丈目は珍しく言葉に詰まった。

 

『…………………………神崎はどうしている?』

 

「あの男ですか? 特段変わった話は聞きませんが……そちら方面は長作兄さんの方が詳しいと――」

 

『なら構わん。兄者にも、そう伝えておく』

 

――この口ぶり、長作兄さんが知りたがっている?

 

 しかし長い沈黙の末に問われた内容の意図も理解できずとも、正司が長兄である長作の要請であることを漏らしたことに万丈目はどうにもキナ臭いモノを感じざるを得ない。

 

 長作が知りたい話なら当人が万丈目に連絡すれば済む話――いや、長作どころか正司でさえ、己の秘書か部下にでも確認を取らせれば良いだけのこと。

 

「何かあったのですか?」

 

『お前程度が気にすることではない』

 

「で、ですが、デュエルアカデミアのことなら俺にも力になれることがある筈です!」

 

『「気にすることではない」と言った』

 

 ゆえに、万丈目は一歩踏み込むが、正司は取り付く島もない。

 

「待ってください正司兄さん! 長作兄さん直々の話なんでしょう!? だったら――」

 

『――くどい! そもそも今のアカデミアにはお前の語った「理由」であるカイザー亮はいないんだぞ! 唯一肩を並べたとされる藤原 優介もだ!』

 

 だが、引き下がらなかった万丈目に対し、正司は厳しい口調でいさめた。

 

『お前が未だにアカデミアに在籍できているのは兄者の温情でしかない! ならば余計なことを考えている暇などない筈だ!! 違うか!!』

 

「そ、それは…………違いませんが」

 

『分かっているのなら()() ()()とでもデュエルして腕を磨いておけ!! 良いな!!』

 

 それは単なる論点のすり替え染みた代物だったが、語られた内容に反論する材料を持たない万丈目は答えに窮する他ない。実際問題、亮たちの卒業は万丈目にとっても得難い経験の喪失に等しいのだから。

 

 ただ、一つばかり引っかかった。

 

「……? 何故、十代が?」

 

 何故、正司が「十代を名指ししたのか」――その一点が。

 

 なにせ、万丈目の兄2人は双方共にデュエルなど門外漢だ。凡そのルール程度は把握しているだろうが、デュエリストの腕の良し悪しを戦績以外で見極める術は乏しい。

 

 それが成長の余地という見えない領域が大きい学生であれば、なおのことだろう。

 

『…………アレは神崎がかなり気にかけている――カイザー以上にな。恐らく何らかの逸材なのだろう』

 

 しかし、そんな当然の疑問に正司は僅かに言葉を濁して返した。その躊躇い振りは、本当は万丈目に話したくなかった様子が容易に伺える程である。

 

 なにせ、目利きに定評がある(と勘違われる)神崎は万丈目へさほど興味を示さなかったのだから正司も兄として面白くはないだろう。

 

『奴の目が確かである以上、存分に利用すべきだ』

 

「……俺はアイツを利用しようとは思えません」

 

 だが、それはそれとして「亮の代わりに十代を糧にしろ」とアドバイスを贈るも、「利用」との言葉へ僅かに嫌悪感を見せた万丈目を正司は鼻で嗤って見せた。

 

『フン、そんなもの所詮は建前だ。切磋琢磨などと言っても、知らずの内にお互いが利用し合う関係である事実は変わらん』

 

 財界という金こそが全てと言わんばかりの世界で生き抜いてきた正司からすれば、今の万丈目の姿勢など甘えでしかない。

 

 そんなことでは政界・財界・デュエルモンスターズ界を統べる万丈目帝国など夢のまた夢である。

 

『「利用」が嫌ならば『競争』でも『友好』でも好きに呼び名をつければ良い』

 

 ゆえに、万丈目を言いくるめるように正司は自論を述べた。

 

『準、お前も万丈目一族の人間ならば人であれ何であれ、上手く使え――話はそれだけだ。何かあれば連絡しろ』

 

 そして「どれだけ綺麗ごとを並べようとも結果を出せなければ意味がない」と言外に告げた正司は「これ以上、論ずる気はない」とばかりにブツリと通話は打ち切ってみせる。

 

 

 やがて携帯端末から響く規則的な機械音を前に、万丈目は立ち尽くす他なかった。

 

 

 

 

 

 暫くして、どう見ても通話中ではない万丈目へ駆け寄った十代の声に、万丈目は顔を向けるが――

 

「おっ、兄ちゃんたちとの電話終わったのか? なら、聞いてくれよ、万丈目~! デッキ改造なんだけど――――」

 

――こいつのデュエルの腕は認めるが、カイザー以上の素質など…………果たしてあるのか?

 

 アレコレとデッキの改修案に四苦八苦しつつも楽しそうに相談する十代の姿に、正司が語った程の「才」を感じられなかった万丈目は堂々巡りを始める思考を一旦止め、未だに語り続ける十代の主張も打ち切り、簡潔に返す。

 

「フン、碌にHEROデッキに触れたこともない俺の半端な意見を取り入れたところで、半端なデッキになって終いだ。自分で考えろ」

 

「えぇ~! ケチ~!」

 

『こいつは……こんなに十代が頼んでるってのに、アイデアの一つも出せないのかい?』

 

 その素っ気ない言葉を前にユベル共々不平不満を述べる十代だが、やがて「仕方がない」と自問自答に戻って行けば、そのやり取りを見守っていた胡蝶の言葉が響いた。

 

「なら、まずは遊城が自身のデッキへのリスペクトをより深めることから始めなさったら?」

 

「……つまり?」

 

「亮様は仰っていましたわ――『多くの出会いをリスペクトした時、道が開けた』と」

 

 さすれば、急に場の雰囲気を熱のこもったものに変えながら胡蝶は力強く素晴らしき亮の教え……もといリスペクトデュエルの精神を語り始めるが――

 

「そう! 己の中にデッキへのリスペクトの答えを見いだせないのなら、これまでの貴方の出会いをリスペクトし直して貰いましてよ! そこから貴方の新たなリスペクトの形を見出しなさい!」

 

『事あるごとに「リスペクト、リスペクト」と煩い女だ……』

 

「おぉ! なんかよく分かんないけどいける気がしてきた! おっしゃー! みんなで最強HEROデッキを考えるぜー!!」

 

 やがて、胡蝶のどちらかといえばLoveな熱気を「熱血」と取り違えた十代の新たなる旅路(小旅行)が幕を開ける。

 

 

 

 

 

「――万丈目も行こうぜ!」

 

――どう見ても唯のデュエル馬鹿にしか見えん。

 

 若干の呆れ顔を見せる万丈目を巻き込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな騒がしさが広がるであろうアカデミアを余所に、島の端の寮を拠点とする神崎は海岸から海へと石を投げ、その波紋と音に意識を集中させていた。

 

「水中には何もなし。空も聞いての通り何もなし――相手も何らかの方法で此方の情報を取っている筈だが……流石に送られた刺客(セブンスターズ)の任務失敗報告だけが情報源な訳ないだろうし」

 

 そう、これはソナー代わりの索敵。なんらかの方法でアカデミアの様子を探り十代を狙うカミューラを警戒しての行為だが、空を持ち前の視力で見上げた神崎の瞳には青い空と白い雲しか映らない。

 

 やがて憶測を交えて相手の出方を警戒する神崎だが――

 

「打って出れないだけで『こう』も弱いとは。力だけあっても出来ないことの方がやはり多いか」

 

 その本心は端的に言って「暇」だった。本来ならば教師は激務なのだが、高度に訓練され苛烈で過酷な環境に適合し、生き残ってしまった悲しい社畜である神崎にとってはもどかしい様子。

 

 ドブ川に慣れた魚は清流を生きられないとは誰の言葉か。

 

――まぁ、備えの為にこうして島くんだりで待機している訳なんだが……

 

「無為に過ぎるだけの時間が妙に勿体なく感じてしまう」

 

 やがて、原作の十代のように釣りに興じつつも社畜の鏡みたいなこと零しながら神崎の中の時間は、今までで最も穏やかな時を刻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『G■チY、▼Cいデ●LD▼タZ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 デッキ改造の聞き込み旅に出かけた十代だが、やはりと言うべきか向かう足は古巣こと付き合いの多い友人たちの元へと向かっていた。

 

「えっ? ひ、ヒーローデッキのか、改造案? ……そ、そうだね。やっぱり融合召喚はて、手札消費が激しいから、み、見直すならその辺りかな? ど、どう思う小原くん」

 

「ああ、大原の方針で良いと思う。遊城のドローが凄いのは知ってるけど、手札に余裕があった方が戦略の幅は広がるし」

 

『まぁ、当然の部分だろうね。ただ、もう少し悩める十代のヒントになりそうなポイントが欲しいところだけれど』

 

「だよな! やっぱ基本は押さえとかねぇと――2人とも、ありがとな!」

 

 それは道すがら会ったラー・イエローで馴染み深い相手である大原、小原の2人からだったり――

 

 

「ん? 遊城、デッキ見直すの? んー、なら取巻みたいに《一族の結束》でも入れてみれば? 遊城のHEROって融合素材も融合体もパワー不足っぽいし」

 

「ハン! マティマティカプロに負けたのがそんなに悔しかったみたいだな! ……えっ、勝った!? ハァ!? トップランカーに!? ハンデありとは言え!? その話、詳しく聞かせ――待て遊城! って、放せよ、慕谷! 俺は真実を確かめ――」

 

「邪魔しちゃダメだぞ取巻~」

 

『ボクとの兼ね合いが悪過ぎるじゃないか。却下だね』

 

 万丈目と縁のある慕谷と取巻だったり――

 

 

「ゲッ、フォース生!? ……の方々」

 

「流石に失礼ですわよ、ジュンコさん」

 

『なんだい、随分と失礼な女だな……』

 

「えっ? 俺、なんかした?」

 

 明日香を探すついでに出会った女子ラー・イエローのジュンコとももえに遭遇するも、思わぬ反応に面食らったりする十代。

 

「えーと、なんでもないことはなくても、別にアンタが悪いって訳じゃなくて――」

 

「オホホ、ジュンコさんは昔フォース生の方の圧に押されて以来、勝手に苦手意識を持っておりますの」

 

「……? でもフォースの天上院と友達なんだよな?」

 

 ももえから過去の小日向との一件を連想したジュンコの引き気味な対応の真相を伝えられるも、残念ながら十代にはピンと来ていない様子。

 

「勿論ですわ! 明日香様とわたくしたち2人は親友ですの!」

 

「……なら何で? まぁ、良いや。じゃあ天上院を見かけたら俺が『デッキのアドバイス欲しい』って探してたこと伝えといてくれよな~!」

 

 それゆえか、アッサリ流して要件を伝えた十代は新たなアドバイス相手を探して万丈目と胡蝶を連れて駆けていく。

 

 

「シニョールのデッキィーノ、改善点でスーテ? オホン、それを様々な方法ゥーデ導き出すノーガ、シニョールの成長に繋が――って、待つノーネ! 話は終わってナイーノ!」

 

 その先で会ったクロノスから助言を貰おうとするも、話が長くなりそうだったのでエスケープした十代たちだったが――

 

 

「話は聞かせて貰ったよ、十代くん! このラッキーカード《ブランチ》がキミのところへ行きたがってる!」

 

「遊戯さん!」

 

 遊戯もとい神楽坂との遭遇にその足を止める十代。

 

『「行きたがって」って、自意識どころか生物なのかすら怪しいカードじゃないか』

 

「ハハン、こいつがあれば融合体がバトルで破壊されてもHEROがフィールドに残り、更にはキミのデッキの核となる《切り裂かれし闇》のドロー効果にも繋がるぜ!」

 

 さすればユベルのツッコミを余所に神楽坂がオススメ理由を交えつつアドバイスする中――

 

「でも戦闘破壊された時の《ブランチ》じゃ《切り裂かれし闇》のドロー効果は使えなくってよ?」

 

「ゆ、遊戯さん!?」

 

「見るな……! そんな目で俺を見るな!!」

 

 胡蝶からの訂正に「憧れの遊戯さんムーブ」の失敗を悟った神楽坂は、十代からの責めるような視線(気のせい)に耐えられない様子で後ずさる。

 

『まぁ、ボクの邪魔にならない点は評価してあげても良いかな』

 

「――うぁわぁぁああぁあああぁあああ!!」

 

「――か、神楽坂!!」

 

 やがて涙ながらに背を見せ走り去る神楽坂を十代は咄嗟に追いかけようとするが、その歩みは立ちふさがった2人の人物によって止められた。

 

「アニキ、今は行かせて上げるっス……」

 

「武士の情けだドン」

 

「お、おう」

 

 かくして、(多分)尊い犠牲を余所に話を聞きつけた十代を「アニキ」と慕う翔と剣山が話題を変えるように「力になりに来た」とばかりに親指を立てれば――

 

「それよりアニキ! 話は聞かせて貰ったっス! 僕もアニキの力になりに来たっス!」

 

「抜け駆けは許さないザウルス! オレもだドン! アニキ!」

 

「おっ、2人とも助かるぜ! じゃあ先に――」

 

 我先にと十代に詰め寄る2人。

 

「お先だドン! HEROデッキのパワーアップなら先人に頼るのが一番ザウルス! プロには『属性HERO』ってのを使うお人がいるドン! これなら――」

 

「あっ、悪ぃ剣山。エクストラデッキはそのままにしてぇんだ」

 

「!? な、なんでだドン!?」

 

 だが、競り勝った剣山の「餅は餅屋」理論からなる助力は他ならぬ十代によって一瞬にして両断された。

 

「……ハァ~、分かってないっスね、剣山くんは! 緩い融合素材より、決まった融合素材の融合体の方が特別感があるんスよ――これ、融合使いには常識っス! ねぇー! アニキ!」

 

「……そういう丸藤先輩も『ロイド×5体』みたいな緩い融合素材の融合体、使ってるドン」

 

「 ボ ク の フ ェ イ バ リ ッ ト は 違 う か ら 良 い ん ス !!」

 

 一瞬で撃沈した剣山を嘲笑うかのように翔が鼻高々に語るも、ボソッと呟いた剣山を黙らせる翔だが――

 

「あっ、悪ぃ翔。俺、他のHEROも特別でカッコいいと思ってるんだ」

 

「!? じゃ、じゃあ何で『緩い素材の融合体』使わないんスか!? 何枚かあった方が絶対便利っスよ!?」

 

 此方もバッサリ両断されそうになる事態に翔は慌てて理由を問えば、十代は自分のHEROの強みこと自慢の部分を得意げな様子で語り始めた。

 

「いや、だって属性HEROって、みんな『バトルに関する効果』だろ? 確かに俺のデッキの融合HEROはパワーじゃ押されるかもだけど、その分『色んな状況』に対応できるんだ」

 

「……つまり、どういうことっスか?」

 

 そう、「〇属性+HERO」で融合される所謂「属性HERO」にはなく、十代が使うHEROたちにあるもの――それこそが、効果の多様性。

 

 とはいえ、突然そんなことを言われても翔が首を傾げるようにピンと来ないだろう。

 

 しかし、そんな翔の疑問は新たな4名の来訪者たちによって紐解かれた。

 

「ふふっ、『ダイレクトアタックする融合HERO』なんて坊やのセイラーマンくらいなのよ、坊やたち」

 

「……ライフを回復する融合HERO……スチーム・ヒーラーのみ……」

 

「おっ、藤原に、レインも! そうなんだよ! 俺のHEROの『こいつらなりの強み』があるんだぜ!」

 

 そう、相手の厄介なモンスターを処理できないが、ダイレクトアタックさえ決められれば勝てる状況や、

 

 初期ライフが4000ゆえに、即死ラインを大幅に更新できるライフ回復が活きる状況などは決して珍しくもない。

 

 それらはシンプルなカードパワーでは勝っている属性HEROたちといえども手が届かない部分なのだ。

 

「確かに突破力と、対応力の両者の強みは別物ザウルス……まさに一長一短だドン」

 

「それに遊城くんのデッキには『指定した融合素材』を要にしたサポートカードも多いわ。まぁ、それでも1、2枚くらいは採用を考えても良いとは思うのだけれど」

 

「ほ、本物の明日香さんだ……」

 

 そうして、明日香が引き継いだ解説を加えて更に納得を見せる剣山を余所に、翔は学園のアイドルと名高い明日香と間近に接せれてかデレデレするのに忙しい様子。

 

「ハァ、丸藤先輩は鼻の下伸ばして……アニキの前で情けないとこ見せないで欲しいザウルス――って、聞こえてないドン」

 

「うーん、でもさ天上院、そのせいで手札のサポートカードが腐るのもイヤなんだよなー」

 

『融合してればエクストラデッキは減っていくからね。攻め時に足ふみしかねない可能性を考えれば、ボクは十代の意見に賛同だよ』

 

 やがて、明日香からのワンポイントアドバイスを前に十代が悩まし気な様子で頭を捻る中、今まで沈黙を守っていた原 麗華が聞くべきか否かを躊躇した後、不思議そうに切り出した。

 

「……素朴な疑問なんですが、だったら遊城さんは何故『ガイ』シリーズを使わないんですか?」

 

「……?」

 

「そういえば、そうザウルス。アニキのデュエル映像、見まくったけど使ってるとこ見たとこないドン」

 

「なっ!? デュエル映像を!? そんなの出来るんスか!?」

 

「大原先輩に教えて貰ったザウルス! まさか丸藤先輩、知らなかったドン?」

 

 当の十代が原 麗華の質問の意味の段階で首を更に傾げるのを余所に、剣山と翔のマウント合戦が再び幕を開く中――

 

「……確かに……疑問……」

 

「……? なんの話してんだ?」

 

「フレイムウィングマンと同じ素材で別の融合HEROを呼び出せるんです――昔は『それこそがE・HEROの特徴』とすら言われていた時期もあるくらいで……」

 

「それって属性HEROのことだろ?」

 

 やがて、原 麗華から問いかけのベースの部分を聞くも、「緩い融合素材のHERO」だと判断した十代の誤認を原 麗華は訂正してみせる。

 

「いえ、別口です。代表的なものはフレイムウィングマンと同じ融合素材を指定するフェニックスガイになりますね」

 

 そう、これは原作GXでも設定だけは存在するが、該当するものが公式アニメで2枚しか紹介されていない悲しきシリーズだ。多分、公式(K〇NAMI)は存在を忘れてる。

 

「し、知らねぇ……」

 

「遊城、貴方って人は……」

 

『いい加減にしろよ、お前ら! 世界にどれだけの種類のカードがあると思ってるんだ! 見落としくらい出て来て当然じゃないか!』

 

 そして代表して呟いた胡蝶の「HERO使いなのに知らなかったの?」と言わんばかりの周囲の面々(一部除く)も合わさった視線が十代に突き刺さる。

 

 そんな中、ユベルが懸命に十代以外に届かぬ援護をすれば偶然にも場の雰囲気を変えようとした明日香がパンと手を叩いて注意を集めつつ建設的な方向へと舵を切った。

 

「ま、まぁ、これで遊城くんのエクストラデッキの補強の目途も立ったんじゃないかしら? 後でみんなに連絡して持っている人がいないか確かめてみましょう――もし、なくてもアカデミアの情報網なら探し出せる筈よ」

 

「思わぬ形でアニキのエクストラデッキが強化されたザウルス――くっ、まさか原先輩にアニキ助けで遅れを取るとは思ってもみなかったドン……!!」

 

「……麗華、すごい……」

 

「なんで本人じゃないのにドヤってるんスか……」

 

 やがて、なんか悔しがる(自称)弟分2人のやり取りの中、明日香によって纏められた助言を得て、十代たちは再び新たな出会いを求めて駆けだすこととなる。

 

 とはいえ、そんな十代たちを見送る明日香たちを余所に追従する(自称)弟分たちという新しいメンバーが追加されたが――栓無きことであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 携帯端末に届いたメッセージを受けた神崎は懐から取り出したデッキケースを手に、デッキ調整とばかりに手品よろしく袖からカードを出しつつ、吟味を始めていた。

 

「HEROデッキか――やはり属性HEROの採用が手っ取り早いと思うが……遊城くんらしさが消えてしまっては本末転倒だろうし」

 

 さすれば、質量保存の法則を無視して次々と袖から出ては消えていくカードの山を余所に「十代のHEROデッキ改」を試し組みしつつ、発展パターンを模索していく神崎だが、ふとその手が止まる。

 

 そう、ただパワーカードで強化すれば良いという話ではない。

 

「【ブルーアイズデッキ】を【ドラゴン族グッドスタッフ】にしてデッキパワーが上がったとしても、海馬社長の本来の実力が出なくなる世界観な訳で」

 

 なにせ遊戯王ワールドにおいてデュエリストとカードの親和性は決して無視できない代物。

 

 原作GXでもヘルカイザー亮から裏サイバー流のカードを受け継いだ翔が、親和性の要であろう「カードが望む道」に気づくまでは「デッキが上手く回らない」と語っていたことからも明白であろう。

 

 ゆえに、方向性を再度思案した神崎が一先ずの完成形を思い描けば、再び袖から出し入れされるカードがデッキに投入される中――

 

「《切り裂かれし闇》を主軸に補助していくのがベストなのだろうが……やはりエクストラデッキのピーキーさが課題か」

 

「神崎さーん! 相談があるんだけどー!」

 

「はい、話は聞いていますよ」

 

 件の人物であろう十代の声に手を止めた神崎は、何食わぬ顔で彼を出迎えるのだった。

 

 

 

 

『●書KンにいR▲にAンまL■く9D▼』『K▼で■TタZの●K▲め!』『●Kてバ▲Rデ■ニ7Rなイ?』『だ■T▼メDもン7』

 

 

 

 

 

 

 やがてアカデミアを一通り回り終えた十代たち。ただ、そんな十代の珍道中に付き合った万丈目の脳裏に蘇るのは――

 

――今日の天上院くんは、どうも機嫌が良かったな。何かあ――いかん、いかん。正司兄さんに釘を刺されたばかりだというのに俺は……!

 

 何処か普段よりも機嫌が良かった明日香の姿。だが、すぐさま頭を振った万丈目は緩んだ己の芯を締め直す。

 

 そんな万丈目の苦悩を余所に、色々回ったゆえに空いた小腹を満たすべく購買部で得たドローパンという戦果を腹に収めた十代はなんとなしに言葉を零した。

 

「いやー、みんなから色々アドバイス聞いたけど――余計こんがらがって来たぜ!!」

 

「アニキなら大丈夫っスよ!」

 

「みんなの意見の対立が問題ザウルス……あっちを立てれば、こっちが立たずだドン」

 

 そんな一見すれば情けないような発言にも翔と剣山のアニキフィルターは健在の様子。

 

「おう、2人もありがとな! ……あっ、忘れてた。胡蝶先輩は俺のデュエル、どんな感じだった?」

 

「わたくしはデッキそのものより、遊城のタクティクス面が気になってよ。上手くは言えませんが……先日のプロとの苦戦と決して無関係とは思えませんわ」

 

 やがて、アニキ分からの礼にわいのわいのする翔たちを他所に十代は此処まで付き合ってくれた胡蝶にあらためて己のデュエルの在り方を問えば、返って来たのは今までとは異なり何とも抽象的な話。

 

 ゆえに、やっぱり「うーん」と十代の中でこんがらがった感覚が増していくばかりだ。

 

『苦戦はしたけど十代に大きなミスはなかった筈だけど……』

 

「おや、珍しい組み合わせだな」

 

 しかし、此処でキャリーバックを引く音と共に馴染み深い声が届いた。

 

「三沢か」

 

「おっ! 久しぶり!」

 

「久しぶりだドン、三沢先輩!」

 

「三沢くん、いたの?」

 

「ああ、久しぶり。最近は、学外の大会に顔を出していてな。顔を合わせる以前の問題さ」

 

 やがて万丈目たちから「久しぶり」と意味を含んだ声に来訪者たる三沢は、公欠扱いになっていたとはいえ、アカデミアにいなかった旨を明かせば「なんか面白そうな外出」とばかりに十代が食いつくが――

 

「えぇ~! なんだよ、それ! 俺も誘ってくれよ~!」

 

「残念だがフォース生の予定を崩せる程の大会じゃなかったんだ。すまないね」

 

「ところで、なんの集まりなんだ? 胡蝶先輩の恋愛相談という訳でもなさそうだが……」

 

 やんわり実力差の問題を告げつつ三沢は珍しいメンバーの集合したこの場に話題を移した。

 

「遊城がデッキを見直したいから、と意見を募っているところでしてよ」

 

「ああ! マティマティカとのハンデデュエルで苦戦しちまってさ。なんとか勝てはしたんだけど、こう、なんて言うか『課題』って言うの? が見つかった気がして」

 

「見つかっとらんではないか」

 

 そうして、十代なりに己の殻を破ろとした旨を明かすが、残念ながら万丈目の言う通り解決策どころか「課題」の段階で迷子だ。

 

「まぁ、そう言ってやるな、万丈目。他のプロならまだしもマティマティカが相手なら十代も普段通りにデュエル出来なかったんだろう」

 

「そうなんだよ~――って、なんで分かったんだ?」

 

「マティマティカはプロの中でも、かなり特殊なスタイルだからな」

 

『どう考えたって、こっちのモンスターしか使わない奴なんて少数だろうさ』

 

「どう説明したものか。そうだな……十代はデュエルであまり悩んだことはないだろ?」

 

 だが、久しぶりの再会だと言うのに十代の悩みの核の部分を凡そ察している様子に大きく興味を見せた十代へ、三沢は少し言葉を探す素振りを見せた後に口を開けば――

 

「ああ! そんなにないぜ!」

 

「その決断力ある十代の実力の根底は『経験則』から来ているんだ。多くのデュエリストとデュエルした経験全てが十代の血肉となっている。だから、咄嗟の状況でも直ぐに対応できるし、相手の隙が感覚的に察知できる」

 

 アカデミアで一番近く、そして長く十代を見てきた三沢の視点からの「デュエリスト遊城 十代」像が語られた。

 

「だが逆を言えば、『経験していない』もしくは『経験が大きく不足している』状況だと本来の実力を発揮できない」

 

「……おう?」

 

「他人に自分の理解度で負ける奴があるか」

 

『自分のことだからこそ、見えない部分があるのが分からないのか?』

 

 しかし、三沢の説明でさえも十代は首を捻るばかりの姿に流石の万丈目も呆れ顔だ。

 

「(け、剣山くん、話についていけないっス)」

 

「(やっぱり話の分かるブルー生徒は一味違うドン)」

 

「違うぜ、万丈目! 三沢は親友さ!」

 

 やがて、十代と同様に三沢の説明に付いていけない弟分たちの小声のやり取りを余所に、十代からズレた返答がなされる中、三沢は切り口を変えて続けた。

 

「はは、ありがとう――ただ、俺の見立てではたとえトッププロのマティマティカが相手であっても十代なら互角に渡り合えると思っている」

 

「いや~、それ程でも~」

 

「調子に乗るな。現実は互角ではなかったではないか」

 

「とはいえ、『本来の実力が出せていれば』との注釈が付くがな」

 

 さすれば、調子に乗せられた十代へ厳しく苦言を告げた万丈目を常は「言い過ぎだ」といさめる三沢だが、今回は珍しく注釈を入れて肯定してみせる。

 

「恐らく、先生方も十代のその辺りを補強する為に、マティマティカに来て頂いたんだろう」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、カイザーの卒業デュエルの時に俺から見てもハッキリしていた部分だったからな」

 

「何故だ? 俺の目には十代に大きなミスはなかったと思うが……」

 

 そうして、彼らからすれば少しばかり過去の一戦を振り返る三沢。

 

 とはいえ、万丈目からすれば十代にミスらしきミスはなかった記憶であり、マティマティカ戦を経た今回の話とは「流石に無関係では?」と判断していた。

 

 だが観察・解析能力に秀でており、更に十代の情報が一番手に入る状況だった三沢は指を1本立てて万丈目に問いかけた。

 

「なら聞くが、万丈目。十代とデュエルして《ユベル》のカードをどのくらい見た?」

 

「…………1度もない」

 

「そう、十代にとって《ユベル》のカードは特別ゆえに、登場の機会も少ない。つまり『ユベル主体の戦法の経験が不足している』『未だ発展途上』の部分が多いんだ」

 

 それが《ユベル》のカードのデュエルでの使用頻度。主戦力のHEROと比較すれば、やはりどうしても劣る。「その僅かな使用感の差」は強敵ほどに致命的だった。

 

「ある程度までなら感覚的に埋められるかもしれないが、極限状態での咄嗟の判断はどうしても他より僅かに劣る。その隙を見逃すカイザーじゃない」

 

「……じゃあ俺のせいでユベルは力を発揮できなかったってことか?」

 

『そんなことないよ、十代! あのデュエルはカイザーの読みが異常だっただけさ!』

 

「いいや、感覚を研ぎ澄ませ続けた十代の今までは間違っていない――ただ、次のステップに進む時が来ただけさ」

 

 やがて、十代は過去の一件より無意識レベルにデュエルでの使用を控えていた事実に己を責めるが、三沢は首を横に振って否定する。なにせ、これはあくまで「亮との卒業デュエルの部分」だ。

 

 マティマティカとのデュエルではシンプルに「相手が何をしてくるか予測どころか予想もつかなかったゆえに経験値不足から対応が遅れた」話なのだから。そう、簡単に言えば――

 

「フン、ようするに『もっと頭を使え』ということだ」

 

「えぇ~! また、其処に戻るのかよ~!」

 

「お、オレも力になるドン! アニキ!」

 

「ぼ、僕もっス!!」

 

 万丈目からの端的な指摘に今度は別の意味で頭を抱える十代たちなのであった。とはいえ、知識方面は弟分たちも得意分野という訳ではないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな最終的に学生らしい悩みに着地した十代たちを余所に、神崎は携帯端末を手にコブラからの連絡を受けていた。

 

「はい、了承しました。3人目のセブンスターズの挑戦の知らせが来たと。では、此方も対応を――」

 

 それは新たなセブンスターズの襲来を知らせる闘いの火蓋の足音。そして――

 

 

『Dロ●Pア▼10B■1にハ▲LでJ●なノ■N』『10こL●JBコ■Kに▲RたクNか▼たL■MてK▲シR!』『このK■を●KレB10ノ▲イFハ!?』『A2▲ハ●けナい▼ス』『S●D■ン! ▼2Kの●化はK▲かR▼L■!』『■Kてバ●かで▲ニなRな1?』『D▼て■Mダ0んN▲!』『●G10モM■といU▲でハ7▼Uダ』『M▲9ン1●ノ?』『Z●とイT!』『ヤK▲CぞK■ラ!』『■CKウN●たラT■▲にヤ▼10やLぜ』『1▲TクケD40■なイ●TちハKナL▼いZ!』

 

 

 耳鳴りのように響き続け始める不協和音染みた声。

 

「…………流石に疲弊も出てくるか」

 

 そのもはや不快な音の羅列と呼ぶに相応しい異音に、いつもの張りつめた笑顔に精神的な疲れが見え始める神崎。

 

 リスクのない作戦とはいえ、「7人抜き出来た方が絶対に良い」という確実に存在するプレッシャーに神崎は参った様子で己の額に手を当てる他ない。

 

「後5人、なんとか保ってく――」

 

 だが、そうして()()()()()()()()()()()神崎の背後から突如として襲撃者が大地を踏み砕けば――

 

「――ん?」

 

 神崎が背後に意識を向けたと同時に腕に巻き付いた鎖によって森の方へと凄まじい力で引き寄せられる始末。

 

 普段ならば力勝負に滅法強い神崎だが、地面が砕けたゆえ一瞬ばかり宙に浮いた神崎に逃れる術はない。

 

 とはいえ、直ぐに足で地面に杭を打つ形で神崎は止まるのだが、先手を取られた事実に変わりはなかった――それに加え、腕に巻き付いた鎖が伸びる先の森の木々に紛れた相手の出方すら分からない始末。

 

 

 そう、どうにも此度のセブンスターズは一筋縄ではいかない様子である。

 

 






ガチ対応にはガチ対応をぶつけるんだよォ!!


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