マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
遂に動き出したカミューラ!

果たして神崎は十代を守り切れるのか!





第282話 TURN-282 輝け! シャイニング・フレア・ウィングマン

 

 

 

 いつもの学び舎から離れた森の中、携帯端末を見ながら先頭を行く十代の後に続く万丈目と明日香だったが、痺れを切らしたように万丈目が苛立ち気な声を漏らした。

 

「おい、十代。本当に方角はあってるのか?」

 

「んー、メッセージの地図ではこっちにデカい広場があって、そこで神崎さんが待ってるって話だけど……」

 

「珍しいわね。いつもは直接連絡してくるのに」

 

 そう、彼らは「3人目のセブンスターズが来た」との連絡を受け、デュエル見学の為に神崎から指定された場所に赴いている最中である。

 

 とはいえ、場所の問題か、十代のナビの問題か、それとも携帯端末に送られた地図の問題か、目的地までの道のりは順調とは言い難い様子。

 

「全く、こんな森の奥を試合場所に選ぶとはセブンスターズも面倒なことをしおって」

 

「そうか? 俺は今度もどんなデュエルなのか楽しみで仕方ないぜ!」

 

 やがて、万丈目の愚痴を背に十代たちが木々の先を抜ければ、十代たちの視界に広がるだだっ広い広場。

 

 オシリスレッド寮どころか、豪勢なオベリスクブルー寮すら余裕で収まる程の立地面積である。

 

「おっ、此処かぁ――って、なんかデッケー塔いっぱい建ってるじゃん!? なにこれスゲー!」

 

「アカデミアにこんなところがあったとはな……」

 

「一体なんの施設なのかしら? それに神崎さんもいないようだけど?」

 

 やがて、周囲に幾つも立つ巨大な杭のようなモニュメントの1つにバシバシ触れる十代を余所に肝心の神崎たちがいない事実を明日香が告げれば――

 

「そういや、そうだな。道にでも迷ってんのかな?」

 

「もしくは貴様が場所を間違えたか、だな」

 

「えぇー!? そんな筈は……」

 

「送られた地図 見せてくれる?」

 

 この手の行動に信用がないのか万丈目からの苦言に、心配になり始める十代。

 

 だが、一同が携帯端末に表示された地図に集まろうとした時、空から響くように声が落ちた。

 

「ようやくお出ましのようね」

 

「!? なにっ!? コウモリの群れ!?」

 

 同時に周囲の森から小さなコウモリたちが雨霰と飛び出し、明日香たちを通り抜けて広場の中央に集まっていく。

 

 やがて、集まったコウモリが黒い霧となって消えていく中、その霧の中より深紅のドレスに身を包んだ緑の長髪の女――カミューラが現れた。

 

「ようこそ、赤き闇への道へ」

 

「フン、随分と派手な演出だな……」

 

「おぉ! 次の相手はマジシャンなのか!?」

 

「私はセブンスターズのヴァンパイアの貴婦人――『カミューラ』」

 

「ヴァ、ヴァンパイア!? マジで!?」

 

「馬鹿者、役作りの一種に決まっとるだろうが」

 

「兄さんみたいにエンターリーグの人なのかしら?」

 

 そうして、ド派手な登場にテンションを上げっぱなしの十代へ軽く挨拶を済ませたカミューラは万丈目たちのやり取りを無視して黄金のコウモリの翼のようなデュエルディスクを構えて見せて告げる。

 

「招待状どころか歓迎の準備すらなくて申し訳ないけど、早速デュエルを始めましょう」

 

「あっ、待ってくれよ。神崎さ――じゃなくて、デュエルする先生がまだ来てなくってさ」

 

「申し訳ないけど少し待って貰えませんか?」

 

 とはいえ、セブンスターズとのデュエルをアカデミア側が許可していない以上、十代と明日香たちからすれば、カミューラには待って貰う他ない。

 

 ゆえに、軽くお喋りでも――との十代たちの姿勢にカミューラは小さく苦笑を浮かべた。

 

「残念だけれど、待ち人は来ないわ」

 

「えっ?」

 

「……なんだと? まさか貴様、セブンスターズではないのか?」

 

「いいえ、セブンスターズよ。ただ、貴方たちの先生は忙しいんですって」

 

 そうして告げられる「神崎は来ない」との言葉に眉をひそめた万丈目だが、とぼけるように薄く笑みを浮かべるカミューラの言葉に、明日香が十代の手の携帯端末へと思わず視線を向けた。

 

「まさか、このメッセージって……偽物?」

 

「貴様、教諭に何をした……!」

 

「さぁ、今頃は他のセブンスターズとデュエルしてるんじゃないかしら?」

 

 さすれば、万丈目たちへ誤魔化す気もなくしたカミューラは罠にかかった獲物である彼らへ今度は分かり易く嘲笑を向けた後、デュエルの相手を物色するように己の指を向ける。

 

「だから、私の相手は貴方にして貰うわ――遊城 十代、貴方にねェ!!」

 

「えっ、俺?」

 

「おい、十代! 逃げるぞ!」

 

「えっ? なんで?」

 

「コブラ校長の話を忘れたの!」

 

 やがて、未だに事情が呑み込めていない十代の背を叩いた万丈目が先行し、カミューラから離れるように即座に駆け出した。

 

 なにせ、コブラが明言しなかったとはいえ「不審な点がある」との話は明日香たちも聞いている。

 

「逃がす訳ないでしょう! 始めましょう! 闇のデュエルを!!」

 

「や、闇のデュエル!?」

 

「止まるな! 直ぐに他の教諭たちに連絡を――おごっ!?」

 

「なに止まってんだよ、万丈目!」

 

「待って遊城くん! これって――見えない……壁?」

 

 だが、先頭を走っていた万丈目が何もない空間で何かにぶつかり身体を痛める姿に十代の足が思わず止まる。

 

 そして明日香が虚空に手を当て「透明な壁」を認識すれば、せせら笑うカミューラの声が響いた。

 

「残念だけど、一度始まった闇のデュエルを止める術はないわ」

 

 そう、既に闇のゲームは――闇のデュエルは始まっている。

 

 快晴だった筈の空は淀んだ黒い霧に覆われ窺えず、息も詰まるような重苦しい雰囲気が辺りを包み込んでいた。

 

「それでも勝負しないのなら『デュエルの意思なし』と判断され『貴方の負け』ってことになるけど――『負けた時どうなるか』なんて流石に言わなくても分かるわよね?」

 

「くっ……! 仕方あるまい! 下がっていてくれ、天上院くん! 俺が直ぐにケリをつける!」

 

「待って、万丈目くん。私だって――? デュエルディスクが開かない?」

 

「整備不良とはらしくないな。だが、此処は俺に任せて……まさか俺のデュエルディスクも!?」

 

 かくして「最悪の可能性」をチラつかせたカミューラに腕に覚えのある万丈目が一歩前に出るが、続いた明日香の闘志にも反して2人のデュエルディスクは沈黙を守ったままだ。

 

 そんな2人の困惑の表情に嗜虐的な笑みを浮かべたカミューラは己のデュエルディスクに手を当てながら告げる。

 

「悪いけど闇のデュエルのフィールドに貴方たちが立つことは叶わないわ。選ばれたのは遊城 十代! 貴方なのだから!」

 

「へへっ、望むところだぜ! むしろセブンスターズとデュエルできるんなら願ったり叶ったりさ!」

 

 挑まれた勝負にようやく状況を呑み込んだ十代が、そのデュエルディスクを展開すれば見守る他ないと悟った万丈目たちは声援を送る。

 

「油断するなよ、十代! コブラ校長が『俺たちがデュエルするべきではない』と判断した相手だ! カイザーレベルだと思って行け!」

 

「『闇のデュエル』がなんなのかは分からないけど、『デュエル』であるなら十分に勝機はある筈よ! 落ち着いて!」

 

「では始めましょう! 闇のデュエルを!」

 

 

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 かくして、周囲に重苦しい空気が物理的にデュエリストを襲う中、想定しうる限り最悪の状況で闇のデュエルの幕が開いた。

 

 

 

「私の先攻! ドロー! 魔法カード《汎神の帝王》を発動し、『帝王』カードを捨てて2枚ドロー! 更に墓地の《汎神の帝王》を除外し、デッキから3枚の『帝王』カードを選択――坊やが選んだ1枚を手札に加える!」

 

「全部同じじゃん!」

 

「ふっ、当然どれを選んでも同じよ! 魔法カード《手札抹殺》でお互いは手札を全て捨て、その枚数分ドローよ!」

 

「だけど、俺の墓地に送られた装備魔法《妖刀竹光》の効果でデッキから『竹光』カードを手札に加えさせて貰うぜ!」

 

 かくして、一気にデッキを回したカミューラを余所に十代の足元に突き刺さった禍々しい気を感じさせる竹光が地面に沈んで行けば、そこより黄金に輝く竹光が現れるも――

 

「ふっ、お好きになさいな――魔法カード《時を裂く魔 瞳(モルガナイト)》発動! このデュエル中、私は手札のモンスター効果を発動できない代わりに、通常ドローと通常召喚を2度行える!!」

 

「なっ!? そんなのありかよ!?」

 

「ルールに介入するカードですって!?」

 

「ヴァンパイアという割にアンデット族ではなく、アドバンス召喚を主体にしたデッキなのか?」

 

「さぁ、行くわよ! 墓地の《もののけの巣くう祠》を除外し墓地のアンデット族1体――《ゴブリンゾンビ》が復活!!」

 

 鐘の音が響く空間に、墓から腕を突き出しながら這い出たのは生皮が剥がされ骨と筋肉が剥き出しのゴブリン――とはいえ、短剣を構える姿に生前の面影は感じられず、今や異形の化物だ。

 

《ゴブリンゾンビ》守備表示

星4 闇属性 アンデット族

攻1100 守1050

 

「更に魔法カード《トランスターン》を発動! 《ゴブリンゾンビ》を墓地に送り、レベルの1つ高い《ヴァンパイア・ロード》をデッキから特殊召喚!!」

 

 《ゴブリンゾンビ》が己の短剣を自らの心臓に突き刺せば、飛び散った血飛沫諸共その身の全てを高貴なるヴァンパイアの贄とする。

 

 だが、飛び散る血飛沫を巻き立て現れた仕立ての良い黒のタキシードにマントを羽織った青髪の若きヴァンパイアは《ゴブリンゾンビ》の亡骸をゴミのように踏みつけ降り立った。

 

《ヴァンパイア・ロード》攻撃表示

星5 闇属性 アンデット族

攻2000 守1500

 

「くっ、やはり【ヴァンパイア】デッキか……!」

 

「気を付けて遊城くん! 【ヴァンパイア】デッキは、その不死性が厄介よ!」

 

「まだよ! 《ゴブリンゾンビ》が墓地に送られたことでデッキから《ヴァンパイアの幽鬼》を手札に! 更に墓地の《馬頭鬼》を除外し甦れ! 《ヴァンパイアの使い魔》!」

 

 《ゴブリンゾンビ》の死骸で汚れた靴に顔をしかめる《ヴァンパイア・ロード》の傍らに、黒き影で出来た数多のコウモリたちが家臣の如く飛び回り、転がった死骸を綺麗に平らげていく。

 

《ヴァンパイアの使い魔》守備表示

星1 闇属性 アンデット族

攻 500 守 0

 

「墓地から蘇った《ヴァンパイアの使い魔》の効果! 私のライフを500払うことでデッキから『ヴァンパイア』モンスターを手札に!」

 

カミューラLP:4000 → 3500

 

「そして《ヴァンパイアの幽鬼》を通常召喚!」

 

 黒のローブに身を纏った黒髪の若きヴァンパイアが《ヴァンパイア・ロード》にかしずく中――

 

《ヴァンパイアの幽鬼》攻撃表示

星3 闇属性 アンデット族

攻1500 守 0

 

「その効果によりフィールドの《ヴァンパイアの使い魔》を墓地に送り、デッキから《ヴァンパイアの眷属》を墓地へ! 更にデッキから《ヴァンパイア・グリムゾン》を手札に加える!」

 

 《ヴァンパイアの幽鬼》の手元に集まっていく《ヴァンパイアの使い魔》たちが握りつぶされると同時に、《ヴァンパイアの使い魔》たちは血をぶちまけ新たな贄となる。

 

「まだよ! 墓地の《ヴァンパイアの眷属》の効果! フィールドの《ヴァンパイアの幽鬼》を墓地に送って自身を復活! そして効果によりライフを500払って『ヴァンパイア』魔法・罠カード1を手札に!!」

 

カミューラLP:3500 → 3000

 

 やがて《ヴァンパイアの幽鬼》はその身体を黒き霧状と化せば、再構築されるように身体の半分が影で覆われた白猫へと変貌し、《ヴァンパイア・ロード》の足元で喉を鳴らしてみせていた。

 

《ヴァンパイアの眷属》攻撃表示

星2 闇属性 アンデット族

攻1200 守 0

 

「な、なんだこれ……アイツの手札が全然減らねぇ……!」

 

「ビビるな十代! 盤面自体はそう脅威ではない!」

 

「最後に《時を裂く魔 瞳(モルガナイト)》で2度に増えた召喚権で《ヴァンパイア・グリムゾン》をアドバンス召喚――カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

 数多のヴァンパイアたちが現れては消える中、最後に《ヴァンパイアの眷属》の身体がメキメキと異音を上げながら肥大化し、弾けた先より深紅のローブを纏った灰髪のヴァンパイアが現れる。

 

 やがて、巨大な大鎌を影より取り出し肩に担いだ後、《ヴァンパイア・ロード》へ忠誠を誓うように膝をついた。

 

《ヴァンパイア・グリムゾン》攻撃表示

星5 闇属性 アンデット族

攻2000 守1400

 

 

カミューラLP:3000 手札3

《ヴァンパイア・ロード》攻2000

《ヴァンパイア・グリムゾン》攻2000

伏せ×2

VS

十代LP:4000 手札6

 

 

 カミューラの盤面だけみれば万丈目の言う通りさほど脅威には映らないが、アンデット族は墓地にカードが増える程に戦術性が富むことが多いことは十代も知っている。

 

「落ち着いて、遊城くん! 相手に呑まれちゃダメよ!!」

 

「いいや、むしろ逆だぜ、天上院! こんなスゲェデュエリストを相手に燃えない訳がねぇ! 俺のターン! ドローだ!!」

 

「フン、相変わらずのデュエル馬鹿だな」

 

 一抹の心配を覚えた明日香の声が響くが、この物理的にすら重苦しい闇のデュエルの最中であっても十代の心は平常心のままだった。

 

「俺は魔法カード《苦渋の決断》発動! デッキから通常モンスター1体を墓地に送り、その同名カードをデッキから手札に加える! 俺はバーストレディを選択だ!」

 

 炎の女ヒーローが十代のデッキから飛び出し、影を己と瓜二つなドッペルゲンガーのように分離させ、十代の手札と墓地に飛び立ち――

 

「更に魔法カード《E-エマージェンシーコール》発動! デッキからフェザーマンを手札に!」

 

 空から「E」の文字が照らされれば、十代の手札に風が渦巻き始める。

 

「そして永続魔法《切り裂かれし闇》を発動して《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フェザーマン》を召喚! 通常モンスターが呼び出されたことで1枚ドロー!」

 

 その風の吹くままに舞い降りた《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フェザーマン》が翼を広げて、ヴァンパイアたちを警戒するように見やった。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フェザーマン》攻撃表示

星3 風属性 戦士族

攻1000 守1000

 

「早速、お得意の融合召喚の準備が整ったって訳かしら?」

 

「いいや! もう一手加えさせて貰うぜ! 速攻魔法《武装再生》! 墓地の《妖刀竹光》をフェザーマンに装備! これで手札の魔法カード《黄金色の竹光》で2枚ドローだ!」

 

 そんな中、《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フェザーマン》の手中に2種の竹光が収まり、その2つの輝きを交差させれば――

 

「さぁ、今こそ行くぜ! 魔法カード《融合》! フィールドのフェザーマンと手札のバーストレディを融合!!」

 

 十代の元にお決まりの異空間がヒーローたちに更なる力を引き出さんと渦巻いた。

 

「融合召喚! マイフェイバリットヒーロー! フレイム・ウィングマン!!」

 

 そして降り立つは十代のフェイバリットたる右腕に竜の顎を持つ異形のヒーローたる《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》。

 

 片翼を広げて飛翔して難敵を見下ろせば、見下ろされた事実にヴァンパイアたちの瞳に剣呑な色が宿った。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》攻撃表示

星6 風属性 戦士族

攻2100 守1200

 

「成程ね。《妖刀竹光》が墓地に送られたことで再び《黄金色の竹光》を手札に加え、次の融合召喚に備えようって魂胆かしら?」

 

「まぁ、その次がアンタにあるかは分からないけどな! バトルだ! 行けッ! フレイム・ウィングマン! 《ヴァンパイア・グリムゾン》に攻撃だ!」

 

 十代の声に応えるように天高く跳躍した《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》はその身を炎で包み、一筋の弾丸の如く加速する。

 

「良いぞ、十代! 永続魔法《切り裂かれし闇》の効果が乗り、フレイム・ウィングマンはこのターン相手の攻撃力分パワーアップだ!!」

 

 さすれば、加速を続けた《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》の身体を包む炎が黄金の輝きを見せ――

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》

攻2100 → 攻4100

 

「――フレイムシュート!!」

 

「くぁあぁぁぁああぁああ!!」

 

 《ヴァンパイア・グリムゾン》が振るった大鎌を一瞬にして熔解させて、その身を穿ち炎の余波に焼かれたカミューラは実際にその身が焼かれたかのような叫びをあげた。

 

カミューラLP:3000 → 900

 

「これで決まったわ! フレイム・ウィングマンの効果は!」

 

「フレイム・ウィングマンの効果! 破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを受けて貰うぜ!!」

 

 そして、《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》の右腕の竜の顎から放たれた炎がカミューラを襲い、その残り僅かなライフを削り取る。

 

 

 

 

カミューラLP:900

 

「なっ!?」

 

 かに思われたが、炎に晒されている筈のカミューラは涼しい顔をしており、逆に《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》が苦悶の声を上げ始める始末。

 

「フレイム・ウィングマン!?」

 

「なんなの、これ……!?」

 

「フレイム・ウィングマンの命が奴に吸い取られているとでも言うのか!?」

 

「あながち間違いでもないわね」

 

 やがて、《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》の右腕の竜の頭から放たれているのが炎ではなく、その命そのものが奪われるかのようにカミューラの元へ吸い寄せられていた。

 

「カウンター罠《ヴァンパイアの支配》を発動させて貰ったわ。相手の効果を無効にし、破壊――それがモンスターであれば、その元々の数値分のライフを私は回復する」

 

カミューラLP:900 → 3000

 

「拙いな……これで十代のフィールドはガラ空きだ」

 

「くっ、これを狙っていたのね……!」

 

「さぁ、まだ坊やのターンよ」

 

 やがて、力尽きた《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》が灰になって砕け散る中、与えた筈のダメージを完全に回復された事実に歯がみするオーディエンスの姿に気分を良くするカミューラの挑発が届けば――

 

「だったら! 魔法カード《闇の量産工場》! 魔法カード《融合(フュージョン)回収(・リカバリー)》のダブルマジックだ!!」

 

 負けじとバトルを終えた十代は2枚の手札を連続発動。墓地より3つの輝きが十代の元に舞い戻る。

 

「これで《融合》とバーストレディ2枚、そしてクレイマンを手札に戻し――もう一度《融合》発動!!」

 

 そして先の焼き増しのように異空間が渦巻けば、今度は炎と土のヒーローの力が混ざりあう。

 

「今後は手札のバーストレディとクレイマンを融合!! ランパートガンナーを融合召喚!!」

 

 降り立つのは、土色の重厚な装甲に覆われた女ヒーローの姿。左腕の大盾を前面に支柱にするように構え、右腕と一体化したミサイルポッドを添えて見せる。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー》攻撃表示

星6 地属性 戦士族

攻2000 守2500

 

「永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》を発動して、カードを1枚セット! ターンエンドだ!」

 

 やがてターンを終えた十代だが、やる気を出し過ぎたせいか思うように攻めきれなかったターンとなった。

 

 

カミューラLP:3000 手札3

《ヴァンパイア・ロード》攻2000

伏せ×1

VS

十代LP:4000 手札3

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー》攻2000

伏せ×1

《未来融合-フューチャー・フュージョン》

《切り裂かれし闇》

 

 

「《切り裂かれし闇》があるとはいえ、守備型のHEROを攻撃表示か……」

 

「相手のヴァンパイアたちの攻撃力が2000なことを思えば、少し不安な数値ね。でも相手ライフを思えば、うかつに攻勢には出れない筈よ」

 

「なら、私のターン! 《時を裂く魔 瞳(モルガナイト)》の効果により通常ドローが2枚に!!」

 

 そして、それは万丈目たちも――更に対戦相手であるカミューラですら感じ取っている。

 

 それゆえかカミューラはこの機に攻め崩すべく、墓地の魔法カード《汎神の帝王》を除外してサーチし、更に2枚目の《汎神の帝王》を以て最初のターンと同様に手札を補強すれば――

 

「さて、そろそろ王を出迎える準備をしないとね。2枚の永続魔法《ヴァンパイアの領域》と――フィールド魔法《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》発動!!」

 

「な、なんだ!? このフィールドは!?」

 

「言ったでしょう? 王の居城よ」

 

 突如として空を夜に染め、世界を中世ヨーロッパの時代まで逆行させていく。

 

 やがて、爛々と不気味に赤く輝く月が照らす魔城がカミューラの背後にそびえ立つ中、周囲をキョロキョロし始める十代へ、カミューラは己の1枚の手札を強調するように見せ付ける。

 

「さぁ、今こそ城の主を呼び出しましょう――《ヴァンパイア・ロード》を除外し、現れなさい! ヴァンパイアの王!」

 

 さすれば《ヴァンパイア・ロード》が黒い霧に包まれ、その身を依り代と化せば、美しき《ヴァンパイア・ロード》が内側より破壊と再生を繰り返し始め――

 

「――《ヴァンパイアジェネシス》!!」

 

 美しさとはかけ離れた筋骨隆々な暴力の化身として円状の翼を広げ降臨を果たした。

 

 しかし、そんなまさに化け物といった風貌の《ヴァンパイアジェネシス》の姿に、墓地に眠るヴァンパイアたちからは己の始祖たる強靭な姿へ畏怖と敬意の混ざった声が漏れる。

 

《ヴァンパイアジェネシス》攻撃表示

星8 闇属性 アンデット族

攻3000 守2100

 

「攻撃力3000ですって!?」

 

「さしずめアレが奴の切り札ってところか」

 

「ジェネシスの効果! 手札のアンデット族を墓地に送り、そのレベルより低いレベルのアンデット族1体を復活させる!」

 

 《ヴァンパイアジェネシス》の手中にカミューラの手札の1枚から生命エネルギーと思しき光が集い、やがてそれを《ヴァンパイアジェネシス》が握りつぶせば――

 

「私が墓地に送ったのはレベル8の《冥帝エレボス》――よってレベル5の《ヴァンパイア・グリムゾン》が復活!!」

 

 命の贄が血となって大地に滴り、散って行った同胞たる《ヴァンパイア・グリムゾン》が血から逆再生されるように復活。

 

 即座に《ヴァンパイア・グリムゾン》は始まりの始祖たるヴァンパイアの王、《ヴァンパイアジェネシス》の恩寵に感謝するようにかしずいた。

 

《ヴァンパイア・グリムゾン》攻撃表示

星5 闇属性 アンデット族

攻2000 守1400

 

「だとしても、《切り裂かれし闇》がある限り、奴の攻撃は通らん!」

 

「装備魔法《疫病》をランパートガンナーに装備!! これにより戦士族の攻撃力は0になる!!」

 

 カミューラの元より吹いた風に乗った紫色の怨霊の如き影が《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー》の周囲に立ち込めれば、たちまちヒーローは血を吐き、膝をつく。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー》

攻2000 → 攻 0

 

「え、《疫病》だと!? 何故、あんなピンポイントなカードを!?」

 

「拙いわ! これじゃあ《切り裂かれし闇》で攻撃力を上げても相打ちが限界よ!」

 

「バトル!! 《ヴァンパイアジェネシス》でランパートガンナーを攻撃! ヘルビシャス・ブラッド!!」

 

「くっ! だけど永続魔法《切り裂かれし闇》で攻撃力はアップする! 迎え撃てランパートガンナー! ランパート・ショット!!」

 

 《ヴァンパイアジェネシス》が己の身体を瘴気と変化させ、文字通り嵐となって襲い掛かれば、負けじと《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー》も右腕のミサイルポッドより全弾発射(フルバースト)

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー》

攻 0 → 攻3000

 

 瘴気の嵐とミサイルの爆風がぶつかり合い衝撃が連鎖したことで、より巨大な爆発となって爆ぜ、双方のデュエリストごとお互いを消し飛ばした。

 

「うぁあああああぁあああ!!」

 

十代LP:4000 → 3500

 

 だが、爆風に焼かれる十代に反し、爆炎の中より瘴気の嵐と化していた身体を元に戻した《ヴァンパイアジェネシス》はカミューラを守りながらも無傷で現れてみせる。

 

「なっ!? どうして遊城くんのランパートガンナーだけが!?」

 

「まさかあのフィールド魔法の効果か!?」

 

「ご名答。フィールド魔法《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》はアンデット族がバトルするダメージ計算時のみ攻撃力を500ポイントパワーアップさせる」

 

 そう、今やフィールドは完全にヴァンパイアの領域。如何にヒーローといえど単身敵地となれば分が悪い。

 

「《切り裂かれし闇》のパワーアップが攻撃宣言時なのを狙って……!」

 

「こいつ、さっきの《疫病》といい、十代のデッキを調べ尽くしてやがる……!」

 

「卑怯だなんていわないでね。闘いはデュエル以前から始まっているのよ」

 

 更に十代のデッキの隙を狙いすましたカミューラのデッキ構築に、明日香たちも状況の悪さに舌を打つ他ない。

 

「ぐっ……ぅう……」

 

「十代! なにをぼさっとしている! 次が来るぞ!!」

 

 悪化し続ける状況を前に――いや、デュエル中だというのに足元がフラフラとおぼつかない十代の情けないとすら感じる姿に思わず万丈目は檄を飛ばしてしまうが――

 

「あら、随分と酷いお友達ね。闇のデュエルに苦しむ相手に更にムチを入れようだなんて」

 

「どういうことなの――まさか!?」

 

「そう、闇のデュエルは坊やたちが普段しているようなお遊びデュエルとは違うのよ。文字通り、互いの命すら賭けうる死のゲーム」

 

 カミューラはケラケラと嗤いながら、明日香たちの無知を正して見せる。

 

「そのダメージは実際のものとなってプレイヤーを襲い、耐えられなければデュエルの決着を待たず敗北となる」

 

「そ、そんな……そんなの嘘……」

 

「そうだ! そんな馬鹿げたものがあってたまるか!!」

 

「そう、信じたくないのなら構わないわ。デュエルに戻りましょう」

 

 まさにデス・ゲーム。

 

 唐突に巻き込まれた命のやり取りを前に、明日香たちが素直に頷けないのも当然の話。しかし、現実は残酷なまでに進み続ける。

 

「『ヴァンパイア』によってダメージを与えた瞬間、永続魔法《ヴァンパイアの領域》の効果――その数値分、私のライフを回復」

 

カミューラLP:3000 → 3500 → 4000

 

 《ヴァンパイアジェネシス》が十代より奪った命の輝きをカミューラへ慈しむように与えていく中――

 

「更に発動していた罠カード《アームズ・コール》によって《ヴァンパイアジェネシス》に装備された装備魔法《アームド・チェンジャー》の効果も適用よ」

 

 屠った《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー》の残骸を手に残酷に握りつぶして見せれば、その命の残照は再び同胞のものとなってカミューラの元へ舞い戻った。

 

「《ヴァンパイアジェネシス》がバトルでモンスターを破壊した時、装備モンスター以下の攻撃力を持つモンスター1体を墓地から手札に戻す効果をね」

 

「くっ、これで《冥帝エレボス》を戻して、再び《ヴァンパイアジェネシス》の効果を狙うコンボね……!」

 

「気をしっかり持て、十代! 次の攻撃で貴様のライフが残っても、貴様が倒れれば終わりだ!!」

 

 そう、これで次のターンの《ヴァンパイアジェネシス》の効果の準備も整った。とはいえ――

 

「あら、察しの良いお嬢ちゃんだこと――でも、その次が坊やにあるかは分からないけどね! 《ヴァンパイア・グリムゾン》でダイレクトアタック!!」

 

 先の十代のターンの意趣返しのように告げられた《ヴァンパイア・グリムゾン》の大鎌による実質の死刑宣告を前に、万丈目の懸念が振り払えなければ終わりだ。

 

「 「 ――十代(遊城くん)!! 」 」

 

「うわぁぁああぁあああああ!!」

 

 やがて、《ヴァンパイア・グリムゾン》の大鎌が十代の身体を袈裟切りに振るわれ、裂傷こそなくとも大鎌で両断されたかのような衝撃がその身体を突き抜ける。

 

十代LP:3500 → 1000

 

 さすれば、実際のダメージとなって十代の身体を傷なく切り裂いた一撃を前に、つい先程まで痛みで叫んでいた筈の十代の身体は糸の切れた人形のように倒れた。

 

「あら、まさかもう死んじゃった? 折角、永続魔法《ヴァンパイアの領域》で回復した意味がなくなるじゃない――ターンエンドよ」

 

カミューラLP:4000 → 6500 → 9000

 

 

 

カミューラLP:9000 手札1

《ヴァンパイアジェネシス》攻3000(装)

《ヴァンパイア・グリムゾン》攻2000

《アームド・チェンジャー》(装)

《ヴァンパイアの領域》×2

フィールド魔法《ヴァンパイア帝国(エンパイア)

VS

十代LP:1000 手札3

伏せ×1

《未来融合-フューチャー・フュージョン》

《切り裂かれし闇》

 

 

 

 そうしてターンを終えたカミューラが奪った生命エネルギーを得て活力に満ちていく姿に反し、闇のデュエルによるダメージによって倒れた十代はピクリとも動かない。

 

 いつもなら己のターンになれば意気揚々とカードを引いて見せるというのに、倒れ伏したままの姿は只々痛ましい。だからこそ、我慢できずに万丈目は叫んだ。

 

「くっ! おい、貴様! このデュエルは俺が引き継ぐ! 奴はもう限界だ!!」

 

「忘れたの? 一度始まった闇のゲームを止める術なんてないのよ。でも良かったじゃない。坊やの犠牲のお陰で貴方たちは逃げられるんだから」

 

 だが、そんな万丈目の提案もアッサリと断られる。いや、「カミューラにさえ叶えられない」のだ。

 

 この闇のデュエルは十代とカミューラの決戦――代役なんて生温いシステムなど存在しないのだから。

 

「立って! 立って、遊城くん! このままじゃ貴方は!!」

 

「ッ~! 十代! いつもの無駄な暑苦しさはどうした! 立て! 立つんだ、十代!」

 

 ゆえに、もはや明日香たちには励ましの声を贈る他ない。

 

 しかし、そんな声援が届いたのかピクリと指が動いた十代は、やがてノロマと揶揄されかねぬ動きであっても、ゆっくりと確実に立ち上がってみせる。

 

「う、煩いぜ、2人共……そんなに怒鳴らなくったって、ちゃんと聞こえてる……」

 

「あら、寝ていた方がもう苦しむこともないでしょうに」

 

「へ、へへっ、冗談だろ。アンタみたいな強いデュエリストと……デュエルできるんだぜ? 寝て……られっかよ……!」

 

「遊城くん……!」

 

「全く、ヒヤヒヤさせおって……」

 

 とはいえ、カミューラの挑発に軽口を叩いてみせる十代の姿はどうみても唯の強がりだ。ダメージで震える膝がそれを如実に物語っている。

 

――よし、立った。あの子には精霊の庇護がある以上、死の危険がないとはいえ本当に死ぬんじゃないかと肝を冷やしたけど、追い込みは十分の筈。

 

 だが、カミューラはその内心で胸を撫でおろしていた。

 

 なにせ、十代の存在は幻魔を復活させ、その力を完全に掌握する為の鍵。デュエルが終わるまで――いや、儀式が終わるまでは立っていて貰わねば困る。

 

「俺のターン、ドロー! このスタンバイフェイズに永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》の効果だ! デッキから融合素材を墓地に送り、次のスタンバイフェイズに融合召喚する!!」

 

「この瞬間、フィールド魔法《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》の効果発動!」

 

「なっ!?」

 

 逆転の布石となり得る筈の十代の背後から幻影のようにおぼろげ現れた巨大なビルが光を放つが、その光を嫌うように《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》は大地を脈動させていく。

 

「相手のデッキからカードが墓地に送られた時、私のデッキから『ヴァンパイア』1体を墓地に送って、フィールドのカード1枚を破壊する! 永続魔法《切り裂かれし闇》を破壊!!」

 

「くっ……!!」

 

「拙いわ! これじゃあ!」

 

「今は守りを固めろ、十代! 直に異変に気付いた先生方がなんとかしてくれる筈だ!!」

 

 やがて、血脈が鼓動するように隆起した大地によって十代のデッキの核となっていた《切り裂かれし闇》の消失に形勢の更なる悪化を悟った明日香たちが十代に助言を飛ばすが――

 

「いや、そいつは難しいぜ、万丈目」

 

「なんだと?」

 

「こいつを相手に少しでも弱気を見せれば、一気に押し込まれる……!」

 

「それ程の相手なのね」

 

 十代は理解していた。完全に準備を終えたカミューラを倒す気でいかねば食らいつくことすら叶わないと。

 

「リバースカードオープン! 罠カード《補充要員》! 墓地の3枚の通常モンスターのHEROたちよ! 手札に戻ってこい!」

 

 そんな十代の危機に再び墓地のヒーローたちが駆けつけるも、既にどの組み合わせの融合体も破壊されてしまっている以上、三度の融合召喚とは繋がらない。

 

「そして魔法カード《手札抹殺》! お互いの手札を全て捨て、その枚数分ドロー!」

 

「使えないHEROたちを上手く別のカードに変換したわね」

 

「いいや、俺のデッキにそんなHEROは1人もないぜ! 魔法カード《苦渋の決断》! 今度はデッキからスパークマンを墓地に送りつつ手札に!」

 

 だが、新たな布石となったヒーローたちのお陰で、バイザーで顔を覆ったイカズチの戦士がその影を文字通り墓地に落としながら十代の元へ駆けつけ――

 

「行くぜ! 《融合》発動! スパークマンとクレイマンで融合召喚!!」

 

 再び渦巻く異次元へと飛び込み、土のヒーローと力を合わせる。

 

「――《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) サンダー・ジャイアント》!!」

 

 さすれば、胴と両腕に黄色の追加装甲を装着した《スパークマン》の面影が残るヒーローが手の平の球体からイカズチを奔らせながら現れた。

 

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) サンダー・ジャイアント》攻撃表示

星6 光属性 戦士族

攻2400 守1500

 

「だとしても攻撃力が足りないわ」

 

「だったら教えてやるぜ、カミューラ! ヒーローにはヒーローに相応しい戦う舞台ってものがあるのさ!!」

 

 十代の声に呼応するように《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》を揺らす程に大地が音を立てて隆起を始める。

 

「――フィールド魔法! スカイスクレイパー!!」

 

 さすれば、数多のビル群が《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》を呑み込み世界を――いや、「舞台」を中世ヨーロッパの街並みから近未来のビル群たる「摩天楼」へと姿を変えた。

 

 そう、今や舞台はヒーローのホーム。

 

「フン、馬鹿の一つ覚えだがこれで!」

 

「攻撃時に1000パワーアップよ!」

 

「バトル!! サンダー・ジャイアントで《ヴァンパイアジェネシス》に攻撃!! スカイスクレイパー・ボルト!!」

 

 摩天楼の頂点に立った《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) サンダー・ジャイアント》は敗れた仲間である《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) フレイム・ウィングマン》を思わせる所作で跳躍し、右手に奔らせた紫電を竜の顎のようにスパークさせ突貫。

 

 その雷撃の竜と化した一撃は《ヴァンパイアジェネシス》が繰り出した闇の瘴気の嵐を切り裂き、吸血鬼の始祖は雷流の中で断末魔の叫びを上げることとなった。

 

「くぅうぅ……!」

 

カミューラLP:9000 → 8600

 

 

 

 

 かに思われたが、その断末魔が怒りの雄たけびへと変貌したのを皮切りに雷流をこじ開けるように《ヴァンパイアジェネシス》が全身から闘志を放てば――

 

「なっ!?」

 

「《ヴァンパイアジェネシス》が破壊されて……いない……!?」

 

 周囲に焼け焦げた跡を残すも無傷な《ヴァンパイアジェネシス》が摩天楼のビル群へ弾き飛ばした《E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) サンダー・ジャイアント》を忌々し気に見上げていた。

 

「残念だけれど《ヴァンパイア・グリムゾン》がいる限り、私の1000のライフを糧に『ヴァンパイア』たちは破壊されないわ」

 

カミューラLP:8600 → 7600

 

「くっ、前のターンの攻防で隠していた効果か……!」

 

「ライフは削れたけど相手の攻撃じゃスカイスクレイパーの効果は適用されないわ! それに次のターンに、また……!」

 

「さぁ、お次はなんなのかしら? ヒーローに相応しい舞台を見せてくれるんでしょう?」

 

 《ヴァンパイア・グリムゾン》が差し出した腕に噛みつき、血どころか命をすする《ヴァンパイアジェネシス》を余所に、余裕を崩さないカミューラがわざとらしく嘲笑してみせる姿に万丈目たちは悪化を悟る他ない。

 

「サンダー・ジャイアントの効果なら、もう1度破壊が狙えるけど……」

 

「……ライフ1000で防がれるのなら、十代の手札損失の方が痛手だ」

 

「くっ……俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 

カミューラLP:7600 手札1

《ヴァンパイアジェネシス》攻3000(装)

《ヴァンパイア・グリムゾン》攻2000

《アームド・チェンジャー》(装)

《ヴァンパイアの領域》×2

VS

十代LP:1000 手札2

E・(エレメンタル)HERO(ヒーロー) サンダー・ジャイアント》攻2400

伏せ×1

《未来融合-フューチャー・フュージョン》

フィールド魔法《摩天楼 -スカイスクレイパー-》

 

 

 悔し気にターンを終えた十代へ、圧倒的な優位を確信したカミューラは上機嫌でカードをドローする。

 

「あはははは! どうやら成す術がないようね! 私のターン、2枚ドロー!」

 

――チッ、これだけ儀式のキーとなる遊城 十代を追い立ててるっていうのに儀式場が起動する様子がないなんて……やっぱり幻魔復活の為のエネルギーが不足してるじゃない!

 

 だが、カミューラの内心は見せた所作ほどに楽観してはいない。

 

 なにせ、アビドス三世の想定とは異なり、三幻魔復活の儀式に必要な「アカデミアに満ちたデュエリストの闘志」の不足が発覚している。

 

 折角リスクを取ってでも「三幻魔の制御」の鍵である遊城 十代を引きずり出したというのに肝心の儀式場が起動しなければ、カミューラの目的は果たされない。

 

 当たり前の話だが三幻魔が復活しなければ、制御もへったくれもないのだから。

 

「墓地の《汎神の帝王》を除外し、坊やが選んだ『帝王』カードを手札に加え、3枚目の魔法カード《汎神の帝王》を発動! 『帝王』カードを捨て更に2枚のドローよ!!」

 

――あら、良いカードが引けたわ。そうね復活のエネルギーが足りないなら、これで今の坊やから搾り取ってあげるとしましょう。

 

 しかし、此処でカミューラは引いたカードに内心ほくそ笑む。非常にシンプルな形で解決の目途が立った。

 

 そう、「アカデミアに満ちたデュエリストの闘志」が足りないのなら、今「継ぎ足せば良い」のだと。

 

 コブラが校長になってから、その厳しさゆえに「結果的に闘志が満ちやすい環境」が出来ている以上、足りない闘志も言う程は大きくないのは明白。

 

――坊やの持つ強い力を持つ精霊を起爆剤に使ってね!!

 

「魔法カード《天声の服従》!!」

 

 ゆえに、天高く掲げるようにカミューラがカードをかざせば、摩天楼の空より雲を切り裂き仙人のような老人が蜃気楼の虚像を以て現れる。

 

「私のライフ2000を糧にモンスターカードを1つ宣言するわ!!」

 

カミューラLP:7600 → 5600

 

「そして宣言されたカードが坊やのデッキにあれば、そのカードを私の手札か、フィールドに特殊召喚する!!」

 

「此処で《天声の服従》だと!? 何を考えている!?」

 

「どちらにせよ、遊城くんのデッキは調べ尽くされてるわ! なら確実に当ててくる筈よ!」

 

「なら当ててみろよ! カミューラ!!」

 

 やがて、思ってもみなかったカードの発動に万丈目たちは僅かに不審に思うも、厄介な状況には変わりない為、警戒心を募らせていく。

 

 空に浮かぶ仙人の虚像は十代のデッキを指させば、同時にカミューラの背後に巨大な十字架を落とし――

 

「私が宣言するのは――ユベル!!」

 

「ユベルを!?」

 

「拙い、ユベルの効果は十代のデッキにとって厄介だ!」

 

「さぁ、私の元にひざまずきなさい!」

 

 

 狙われた1枚のカードを絡めとらんと、空からデッキへ鎖が放たれる。

 

 

 更に、その鎖は罪人を縛り上げるかのように十字架に張り付けされることとなった。

 

 

「――ユベル!!」

 

「ユ、ユベル!?」

 

 

 だが、十字架の先に縛り付けられている筈のユベルの姿はない。

 

 

 やがて、十代のデッキに絡みついていた天よりの鎖は赦しを与えるように解けていく。

 

 

 そして空に浮かぶ仙人の虚像は霧のように霧散し、消えていった。

 

 

 こうして、色々なエフェクト的なアレコレがあったが、端的に言って――

 

 

 そう、何も起こらなかった。

 

 

「ん?」

 

「ユベルが呼び出されない?」

 

「ま、まさか――デッキを公開しなさい!!」

 

「お、おう、これ押したら良いんだよな? ポチッと」

 

 暫くして、状況を示したような万丈目の言葉にカミューラが怒りの要請を下せば、十代は不慣れな様子でデュエルディスクのボタンを操作。

 

 さすれば、十代の背後に綺麗に並べられたカードが浮かび上がり、一同へと公開された。

 

「手札で進化体たちと固まっている訳でもなさそうだが……」

 

「あら? ユベルがいないわ?」

 

「あっ、そういやユベルはデッキ調整の時に試しで1回抜いたままだった」

 

「し、心配させおって……」

 

「デッキが改修中で助かったわね……」

 

 やがて、魔法カード《天声の服従》の不発の原因が思いのほかにアッサリ発覚し、万丈目たちは一先ず安堵の息を吐く。

 

 ただでさえ、十代の旗色が悪かったのだ。この不発は勝負の流れを引き戻す代物としては決して小さくはないだろう。

 

「ユベルが……デッキに入ってい……ない?」

 

 だが、カミューラからすれば そ ん な も の (勝負の流れ)など今はどうでも良い。いや、別の要因で追い詰められ始めていた。

 

 

 完璧な形で十代を儀式場に誘導し、幻魔復活の流れを整えたというのに学生の気まぐれ(十代のデッキ調整)でカミューラが負ったリスクが無視できない程に膨らみ始めている。

 

――くっ、デッキ調整中ですって……! 最悪のタイミングじゃない! まさか儀式場が起動しないのは、精霊のカードをデッキから外していたのが原因!?

 

 そう、最悪のタイミングだった。

 

 折角、神崎をタニヤがセブンスターズとしての立場でデュエルを強制することで足止めしたというのに、これでは意味がない。

 

 なにせ、彼女らの計画はある意味「片道切符」だ。帰りの便は「手中に収めた復活した幻魔の力」ありきなのだから。

 

 幻魔の復活・制御に失敗すれば、カミューラに後はない。

 

――どうする……闇のデュエルを途中で切り上げることなんか出来ない……! 一度、坊やを倒して再度デュエルを――ダメよ、流石に馬鹿正直にユベルのカードをデッキに入れる訳がない!

 

 此処に来て初めてカミューラは迷いを見せる。胸中の迷いが表に出てしまう程に。

 

――大体、儀式の条件は『精霊と縁のあるデュエリスト』なんだから、精霊の有無は無視しても良いじゃない! 

 

「おーい! そっちのターンだぜ!」

 

「煩い!!」

 

 デュエルでは劣勢だと言うのに吞気に急かす十代の声にすら怒声を返してしまう程にカミューラは八つ当たり気味に苛立ちを募らせていく。

 

「大体、アンタが――」

 

――ユベルのカードをデッキにいれておかないから……!!

 

 なにせ、十代がユベルのカードをデッキに入れていない可能性などカミューラは考慮していなかった。当然だ。

 

「大事なカードだってのに、アンタが……!!」

 

 遊城 十代にとってのユベルのカードは

 

 武藤 遊戯の《ブラック・マジシャン》や

 

 海馬 瀬人の《青眼(ブルーアイズ・)の白龍(ホワイト・ドラゴン)》のようなもの。

 

 まさに無二の相棒であり己の魂に等しい存在。そんな己の魂を試しに外してみる輩が何処にいる?

 

 

 幾ら「あらゆる状況を想定すべき」などと論じても何処かで区切りを付けなければキリがない。

 

 

 そう、文字通りの「ありえない状況」の想定などしていられない。

 

 

「アンタ――」

 

 

――がデッキに入れておかない……から?

 

 

 だが、此処でカミューラは声に詰まる。頭になにかが引っかかる。

 

 

 何故?

 

 

 何故、想定していない?

 

 

 違う。

 

 

 何故、遊城 十代はユベルをデッキに入れていない?

 

 

 武藤 遊戯が《ブラック・マジシャン》をデッキから外すか?

 

 

 海馬 瀬人が《青眼(ブルーアイズ・)の白龍(ホワイト・ドラゴン)》をデッキから外すか?

 

 

 己の魂と呼ぶべきカードをデッキから外すのか?

 

 

 

 そんなあり得ない行為を成したこいつは――

 

 

 

「――アンタ……誰?」

 

 

 

 一体、誰なんだ(遊城 十代なのか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――バレちゃったかァ」

 

 十代が「遊城 十代」が絶対にしない顔で歪に嗤った。

 

 

 





詳細は次回。

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