マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
???「今はまだ私が動く時ではない」






第284話 衝撃の真実

 

 

 

 

 カミューラと偽十代の両者が闇のデュエルのダメージにより膝をついたと同時に、周囲の重苦しい空気が消え、闇のデュエル空間が解除されていく瞬間に偽十代は鬼気迫る様相で叫んだ。

 

「――校舎まで走れ!」

 

「行こう! 天上院くん!」

 

「貴方も気を付けて!!」

 

「待ちなさ――ッ!?」

 

 さすれば邪魔にはなるまいと万丈目と明日香が校舎に向かって駆けだす背中を、カミューラが追おうとするも、茂みより飛び出した影にさらわれたカミューラの身は本人の意思に反してこの場から立ち去ることとなった。

 

 

 

 

 とはいえ、黙って引きずり回される気もないカミューラが抵抗しようとするが、その前に頭上から馴染みのある声が響いた。

 

「落ち着け、カミューラ。私だ」

 

「タニヤ!? なんでアンタが此処に――神崎の足止めは!」

 

 やがて、仲間の姿に抵抗を止めたカミューラを一旦、解放したタニヤは少し歯切れ悪く返す。

 

「問題ない。直ぐに終わった」

 

「そう、勝ったのね。なら、これでセブンスターズ側の1勝……こっちは偽物掴まされて引き分けよ。でも、アイツはさほど強くはな――」

 

「あれを勝ちとは呼びたくはないがな」

 

「どういうこと?」

 

「あの男、デュエルが始まって直ぐに自爆特攻してな。自ら敗北を選び、校舎から離れるように逃走した――恐らく、私に追わせるのが狙いだったのだろう」

 

 なにせ、命のやり取りを好まないタニヤが闇のデュエルをしなかったとはいえ、「神崎の足止め」という面でも、「デュエル」という面でもタニヤにとって不完全燃焼な結末だったのだ。

 

 デュエル開始早々にクリボー5兄弟の特攻5連続タックルで爆散してく神崎を見れば、再び挑んだところで、同じ光景が繰り返されると悟る他ない。

 

 なにより、そんな不可解な行動をする神崎の姿にタニヤの戦士としての勘が警鐘を鳴らしたことも合流の選択に一役買っていた。

 

「キナ臭いものを感じてお前に知らせを送りたかったのだが、既に闇のデュエルが始まっていたからな」

 

「待機してくれてたって訳ね。なら、あの偽物の相手をお願い……私は本物の遊城 十代を探す」

 

「探すアテはあるのか?」

 

「精霊の方を探すわ。最悪、遊城 十代がいなくても他に精霊を知覚できる人間がいれば……」

 

「なぁ、作戦会議って終わった?」

 

「――ッ!?」

 

「遊城 十代!?」

 

 やがて、互いの情報をやり取りし、方針を立て直す2人にしれっと混ざる偽十代――に、2人が驚く中、カミューラは校舎へ向かって距離を取りながら声を張り上げる。

 

「例の偽物よ! 口調・仕草とも私たちじゃ判別できない! でも、デュエルの腕は大したことないわ!」

 

「なら、此処は私が受け持とう!」

 

「なーんか、勝手に話進んでっけど良いのかよ?」

 

 だが、偽十代の足止めにタニヤが立ちはだかり、カミューラが校舎へ駆けだそうとする中、偽十代はポリポリと頭をかきながらポツリと呟いた。

 

「そいつ、本物か?」

 

「――ッ!?」

 

「何を馬鹿な…………カミューラ?」

 

 途端にカミューラの足は止まる。

 

 そう、カミューラは動けない。何故なら――

 

「だよなぁ――タニヤが俺たちの仲間が変装した奴だったら、アンタは隙だらけの背中晒しちまうもんなぁ。仲間内でしか知らねぇ情報も本物から抜き出されてるかもしれねぇし」

 

「落ち着け、カミューラ! もし私が偽物であれば、奴が明かす訳がないだろう!」

 

「そんなの『そんなことする筈ないから本物』って思わせる為かもしれないじゃん」

 

「そんなもの――」

 

 なにせ、カミューラには「偽十代の正体をユベルの有無でしか判別できなかった」のだ。

 

 タニヤの正否も「外見や仕草」から判別できず、内面の情報すら「本物が今どうなっているか分からない」以上、判断材料にはなりえない。

 

「――水掛け論だよな」

 

 結果、タニヤの述べた判別方法も結局は「カミューラが信じられるか否か」の問題になる。

 

「でも、なんにも信じずに一人で足掻くのが最適解なんだよ。一番リスクがない」

 

 十代らしからぬニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる偽十代の言葉にカミューラは、思った以上に厄介な「偽物」の対処に頭を悩ませれば――

 

――こいつの言う通り、このタニヤが本物の保証なんて何処にもない……でも、そんなことまで論じ始めれば何も出来なくなる。1人でも動くしかない……けど!

 

「だけど、1人で動くと俺たち総出で袋叩きにされちゃうかもしれねぇんだよなぁ――なぁ、どうする?」

 

 見透かしたかのような偽十代の声が響き、カミューラを惑わせる。

 

「……それは嘘だな」

 

「なんの話?」

 

だが、此処で何かに気づいた様子のタニヤが待ったをかけた。

 

「お前たちが『集団で動いている』との話だ」

 

「ふーん、それで?」

 

「聞け、カミューラ。奴の言う通り多人数の仲間が大勢いるのであれば、神崎は私の足止めに専念していた筈だ。鍵を1つ失うリスクを取ってまで自滅を選び、決着を焦る必要はない」

 

 そしてカミューラに聞かせるようにタニヤが説明する通り、偽十代の仲間が大勢いるのなら「神崎はタニヤの足止めに乗っかっていた方が良かった」のは明白である。

 

 なにせ、その方が「偽十代はカミューラの相手に専念できる」のだから。今のような状況にすら陥いることなく――だ。

 

「むしろ、追わせるように神崎が逃げたのは、私を振り切り偽物の遊城 十代としてカミューラの前に現れる為だったのやもしれん」

 

「スッゲー、名推理! 良かったな、カミューラ! このタニヤ、本物っぽいぜ! 信じて良いんじゃねぇか!」

 

 やがて、タニヤの推理をパチパチと拍手しながら褒め称えた偽十代の姿にカミューラは歯噛みし、言葉を返せない。

 

「自分で導き出した答えってのは、案外自分じゃ疑わねぇからなー」

 

 そう、今のカミューラには「自分の為のタニヤの行動」ですら「自分を信用させる為の行為」ではないかと疑ってしまうのだ。

 

 誰も信じられない。

 

 だが、誰かを信じないとリスクが跳ね上がる。

 

 しかし、信じた結果、また騙される可能性が脳裏をよぎる。

 

 そうなれば、今度こそ詰みになりかねない。

 

 

 暫くして葛藤に葛藤を重ねたカミューラは絞り出すように呟いた。

 

「信じて……良いのね?」

 

「いや、信じるな。私の偽物が用意されている可能性もある」

 

 しかし、そのカミューラの決断をタニヤは切って捨てて告げる。

 

「私はお前の為に動く。お前はそれを利用しろ」

 

「ひゅ~! カックィー! これは確実に本物の仲間だぜ、カミューラ! 信じて背中を任せるべきだって!」

 

「――黙りなさい!!」

 

――幾ら疑っても、信頼し切れる材料がない……確信も得られない……こいつら、本当に性格が悪い!!

 

 やがて、茶化すような偽十代の声と仕草にがなり声をあげたカミューラは、信じたい気持ちと信じられない感覚の板挟みになりながらも、タニヤたちを視界から外せぬまま少しずつ校舎の方へと後ずさっていく。

 

 だが、此処で茂みから足音が響いた。

 

「貴方たちィーガ、セブンスターズでスーネ! 生徒たちには近づけさせないナノーネ!」

 

「おっ、タニヤの『仲間が少ない』って情報と食い違うな~、やっぱ怪しいんじゃねぇの?」

 

「行けッ! カミューラ!!」

 

「くっ、アンタが偽物だったら承知しないわよ!!」

 

 と、同時に万丈目たちからの知らせを受けたと思しきクロノスが現れたことで、タニヤへの信用が乱高下する中、ギリッと歯を食いしばったカミューラは一か八かの覚悟で校舎へ向かって駆けだした。

 

「ま、待つノーネ! ワタクシが相手を――って、ワワワ!? ま、周りが真っ黒々になってイクーノ!?」

 

 やがて、遅れてその後を追うクロノスが茂みの向こう側で闇のデュエルに引き込まれた中、タニヤはデュエルディスクを構えて見せる。

 

「どうした? 早く構えないか。デュエルといこう」

 

「まっ、一応アンタにも聞いとくよ。こっちはカミューラの望みを叶える準備がある。アンタから説得してくれねぇか?」

 

「いい加減、遊城 十代の振りは止せ。正体を明かせとまでは言わんが、私はお前という戦士の素の姿が見たい」

 

 しかし、この期に及んで十代の演技を止めない偽十代へ、タニヤが眉をひそめるが――

 

「あはは、悪ぃ。この姿だとなに喋っても『遊城 十代っぽく』なっちまうんだ。参っちまうぜ――んで、交渉の答えは?」

 

「悪いがカミューラが『信じられない』と結論づけた以上、その決断を尊重するつもりだ。それに私から見ても、どのみち一族が復興すれば人間との対立は避けられん」

 

「だよなー」

 

「話はそれだけか? ならば、デュエルといこう。カミューラの時のように擬態用のデッキではなく、本来のデッキで来い」

 

 演技を「止めない」ではなく「止められない」と肩をすくめてみせた偽十代の停戦の提案は呆気なく蹴ったタニヤが剥き出しの闘志をぶつけながら獰猛な笑みを浮かべて見せた。

 

「アマゾネスの戦士の誇りに懸けて、全霊を以てお相手しよう」

 

「やっぱ、デュエルしなきゃダメ?」

 

「当然だ。貴様も7つの鍵を守る戦士の1人――敵将の頭数を減らせる機会を逃す訳もあるまい」

 

「うぐっ、反論できねぇ。うーん、じゃあこの『知恵』のデッキと『勇気』のデッキ、どっちが良い?」

 

「……私のことも調査済みという訳か」

 

 そんなデュエリスト然としたタニヤの姿に偽十代は諦めた様子で腰のデッキケースから2つのデッキを手に取り問うた。

 

 そう、これは原作GXにてタニヤが対戦相手に問いかける二択。神崎とのデュエルでは見せていなかった所作ゆえに、カミューラが騙された偽物の完成度に内心で舌を巻く。

 

「まぁな! 俺の方はアンタが選んだ方と同じヤツを選ぶぜ! さぁ、どっちだ!」

 

「フフフ、成程な。これは少々厄介だ」

 

――どちらのデッキが私の全力に応えられるか……相性の問題もある。

 

「ならば『知恵』のデッキにしよう。策を弄するお前の知恵の髄たる形が見たい」

 

「おっけー! じゃぁ、こっちのデッキな――よし、行くぜ!」

 

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 

 やがて、選ばれたデッキの一方をデュエルディスクに収めた偽十代の姿を合図に、闇のデュエルではない普通のデュエルが幕を開く。

 

「私の先攻! ドロー! フィールド魔法《アマゾネスの里》を発動! そして手札の――」

 

「――マンマミーア!? そ、そんなカード、ズルっ子ナーノ!?」

 

 そして、周囲にアマゾンの奥地にある集落を思わせる世界が広がる中、遠方でクロノスの世の理不尽を呪うかのような叫び声が響いた。

 

「ペ、ペペロンチィイイイィイイイノォオォオォオオオ!!??」

 

「あれ? クロノス先生、負けちまったのか? うーん、流石にこっからじゃ分かんねぇなー」

 

「フッ、早くもお前たちの仲間が敗れたようだな。これで鍵の守り手は2人減り、お前を倒せば半数――状況はイーブンに……」

 

 やがて、遠方からクロノスの断末魔が木霊すれば、偽十代とタニヤはその勝負の行方を悟るが――

 

 

“自分で導き出した答えってのは、案外自分じゃ疑わねぇからなー”

 

 

 その決着を前に、タニヤの中で疑念が芽吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で時計の針を少しばかり早めれば、校舎にて闇のデュエルのダメージによってフラついていた牛尾は、限界を迎えたように膝から崩れ落ちた。

 

「くそっ……俺の実力じゃ、ここいらが限界……か」

 

「倫理委員会のおっさん!?」

 

「そこで寝ていなさい! さぁ、次の相手は誰!!」

 

――この騒ぎは教師だけでなく、生徒たちにも伝わっている筈。このまま、遊城 十代だけでなく、精霊に選ばれるようなデュエリストが黙っていられない状況を作ってやるわ!

 

 やがて、邪魔者がいなくなったことでカミューラが次々に階段を昇って捜索を続けていけば、様子を伺っていた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げまどう。

 

 そんな中、カミューラは校舎中に聞こえそうな程に拡散させた声で高々に告げた。

 

「聞こえているかしら! 遊城 十代! 坊やを守る為に先生たちが次々傷ついていくわよ!!」

 

 それは恐怖にかられた生徒たちに「十代を差し出せば助かる」との思考誘導を兼ねた牽制。

 

 そうして、アカデミア側に余計な仕事を増やしつつ、己が少しでも動きやすくせんとするカミューラだが――

 

「こうなったらオレが相手だドン! 十代のアニキの元へは行かせないザウルス!!」

 

「ダ、ダメだっスよ、剣山くん! 牛尾さんはともかく、クロノス先生すら倒した相手に僕らじゃ無理っスよ~!」

 

 逆に「アニキの危機だ!」と知ったゆえに剣山を呼び寄せてしまう結果になる。

 

 その腰元には翔が小鹿のように足を震えさせながら剣山の身を案じて引っ張っていたが、鍛え方の差ゆえに効果はない様子。

 

「何をしている馬鹿者ども! さっさと避難しろと言われただろうが!!」

 

「ま、万丈目先輩!?」

 

「あら、アンタたちは遊城 十代の知り合いだったわね――なら、痛めつければ、坊やの方から来てくれるかしら!!」

 

「ひ、ひぃ~! お助けっス~!!」

 

「まさか先輩まで、このまま黙って逃げろって言う気ザウルス!?」

 

「もっと頭を使え、1年坊! 戦うにしても、纏まっていた方が有利だろうが! 今は生徒全員で一致団結するぞ! 来いッ!!」

 

 やがて、逃げ遅れ+馬鹿な事を考えた面々の回収に万丈目が怒声を上げる中、カミューラはアカデミア側の混乱が加速している状況にほくそ笑む。

 

「あら、狩り場に案内してくれるなら助かるわ」

 

「俺が相手だ、カミューラ!!」

 

「 「 アニキ!! 」 」

 

 だが、此処でお目当ての十代が乱入。とはいえ、本物の保証は何処にもないが。

 

――こいつ、本物? いいえ、関係ないわ。偽物も片っ端から倒せば良い。

 

「よくも先生たちを……!! 俺はお前を絶対に許さねぇ!!」

 

 しかし、怒りに満ちた目でカミューラを睨む十代の姿は2年目にして覇王化するんじゃないかと思えるものである。

 

「止せ、十代! あの女の狙いは貴様だ! のこのこ出て行ってどうする!!」

 

「状況が見えてないな。ボクの十代が狙われているっていうのに、ガードの教師どもが頼りないんじゃ時間の問題ってことが分からないのかい?」

 

「行くぞ、ユベル!! アイツは俺たちで止める!!」

 

「勿論だよ、十代。キミとボクの力があれば、どんな壁だって乗り越えられる――そうだろう?」

 

「剣山くん……アニキ、空中に向かって話しかけて――誰と話してるんスか?」

 

「分からないドン……でも、きっと自分の魂のデッキに語り掛けるアニキなりのルーティーンに違いないザウルス!」

 

 更に空中に浮かぶユベルに語り掛ける十代の姿に、カミューラの中にひりついた緊張感が走った。

 

――ユベル! 遊城 十代と共にいる精霊! 仮にこの遊城 十代が本物でなくとも、こいつも精霊が見えるのなら問題ない!!

 

 この際、「この十代」が本物か否かは構わない。

 

 なにせ、精霊が見える人間――幻魔を復活させ、その力をコントロールする為の(キー)が揃っている。

 

「やめろ、十代!! 冷静になれ!!」

 

「退けよ! 万丈目!! こいつは……!! こいつだけは……!!」

 

『カミューラ! 聞こえるか! タニヤだ!!』

 

――タニヤからの通信? あの偽物を倒したの?

 

 ゆえに、万丈目を振り切った眼前の十代へカミューラがデュエルディスクを構えるが、彼女の通信機から焦ったようなタニヤの声が響く。

 

『一旦、退却しろ! 態勢を立て直すんだ!』

 

「問題ないわ! 遊城 十代がいたの!!」

 

『相手にするな! 罠だ!!』

 

「問題ないわ! 偽物でも精霊との縁があれば良い!!」

 

 しかし、タニヤの「罠」との忠言をカミューラは切って捨てる。この際、罠でもなんでも構わない。

 

 今のカミューラには「精霊が知覚できる人間とデュエルできる」なら、罠だとしても飛び込む他ないのだ。

 

『そうじゃない!』

 

――タニヤ……通信機を奪われたのね。でも、アンタが稼いだ時間は無駄にはしないわ!

 

「儀式さえ始めてしまえば私たちの勝ちよ!!」

 

『聞け! カミューラ!!』

 

 それに加えて、「信じるな」「(タニヤ)の行動を利用しろ」とタニヤ自身が言っていたにも拘わらず、ひたすら「撤退しろ」と方針を押し付けてくる「通信機から聞こえるタニヤの声」はカミューラの決断を後押しする結果となる。

 

 

 なにせ、通信機からの声は「今、カミューラが“この十代”とデュエルすることに不都合を感じている」神崎の思惑が透けて見えたからだ。

 

 

 だからこそ、カミューラは「偽十代を足止めしたタニヤ」を信じて、眼前のデュエルに集中する。

 

 

 これが正真正銘の最後のチャンス。

 

 

 仮にこの十代が偽物で、とんでもない実力者が変装していたとしても構わない。

 

 

 なんとしても勝つ――その決意だけがカミューラの背を押していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――此処はアカデミアじゃない!!』

 

 

 

「…………えっ?」

 

 

 そして、プツリとカミューラの集中が途切れる。

 

 

 言葉の意味を理解するのが数拍遅れる。

 

 

 眼前の十代の両端から剣山、翔、万丈目たちがカミューラに飛び掛かり、

 

 

 周囲の教室から飛び出した生徒たちも同様に己に向けて殺到する光景に意識が追い付かない。

 

 

「ガ■チャ、楽CいデュLだっタZ」

 

 

 視界の端で十代の()()()()()()()()()()()()と視線があった瞬間にカミューラの全身を突き抜ける衝撃。

 

 

 砕ける窓ガラス。

 

 

 その身を覆う一瞬の浮遊感。

 

 

 互いを足場に次々と己を目指す生徒たちの姿。

 

 

 重力に引かれる感覚。

 

 

「カミューラ!!」

 

 

 そして仲間の声。

 

 

 受け止められた感触。

 

 

 分散された着地の衝撃と同時に周囲に、肉の潰れる音が幾重にも響いた。

 

 

「なに……これ……」

 

 

 呆然とタニヤの腕の中で呟いたカミューラの眼前には、頭が欠け、腕がひしゃげ、足があらぬ方を向いた生徒たちの姿。

 

「恐竜サん●DNAがNAけれBA即死▲ったザUルス……」「ヒョーHYOヒョ▲スだゾ、キ●スのアニKノO陰っス」「オCリスRedの●ズME」「KズはクZ同士庇I合イカ?」「連■飛BI降RI事件●真相HA万丈目Thunder▲名NI懸けて■く!!」「Red如きがBlueのAタ▲TAちニ意見■ルKI?」「校舎▲らDrop out Boy●ノーネ」

 

 いや、大勢の生徒だったなにかがうめき声に似た音を上げながら立ち上がり、這いずる光景。

 

「なん……なの……? 何が……何が起きてるの!?」

 

 カミューラには眼前の地獄のような光景が理解できない。

 

 脳が状況の把握を拒絶する。

 

 だが、それでもヴァンパイア一族の復興が脳裏を過ったカミューラは縋りつくように己を抱えるタニヤへ叫んだ。

 

「此処がアカデミアじゃないって何!? なら、何処なの!? アイツらは誰!?」

 

「……そこまでは分からん」

 

「だったら放して!! どうせ、アンタも偽物なんでしょう!!」

 

 しかし、望んだ答えが得られなかったカミューラはヒステリックに叫ぶ他ない。

 

 だって、後一歩だったのだ。

 

 精霊が知覚できるデュエリストを見つけたのだ。

 

 そいつを倒せばすべてが解決した筈なのに。

 

「折角、精霊の見える人間を見つけたのにアンタのせいで台無しよ!!」

 

「……幻魔封印の鍵の扱いが雑過ぎる。この日だけで私たちは7人の守り手の内、何人倒した?」

 

 だが、此処でタニヤが確かめるような問いかけが落ちる。

 

 代わりに答えれば、確認できているだけでも神崎、クロノス、牛尾の3人である。

 

 偽十代も実力を鑑みれば、そう苦もなく倒せることを鑑みれば4人倒せる計算になるだろう。

 

「馬鹿じゃないの! あのカードの力があれば、そんなの幾らでも倒せ――」

 

「なら、儀式場は起動したか!!」

 

「そんなのエネルギーが足りないんだから、仕方ないでしょう!!」

 

 とはいえ、カミューラの言う通り「例の闇のカード」があれば、この戦果はさほど難しい訳ではない。

 

「――これは1年前に実行する筈の計画だったんだぞ!!」

 

「ッ!?」

 

 だが、儀式場の起動に関しては説明が付かなかった。

 

 本来であれば幻魔の騒動は「十代たちが1年生の間に起きる事件」だ。カミューラたちも「当初はその予定だった」のだから。

 

 ならば、1年前にエネルギーが貯まっていなければ辻褄が合わない。とはいえ、多少の誤差はあるだろう。

 

「それでも多少の不足は理解できる! だが、これだけ暴れて何故、起動しない!!」

 

 しかし、現状は「多少」とは呼べぬ程に乖離していた。ありえない程に。

 

 だが、前提が違うことに思い至れば当然だった。

 

「『此処がアカデミアでない』なら奴の行動にも全て説明がつく!!」

 

 そう、儀式場が起動しないのは当然だ。だって、儀式場なんて代物が初めからないのだから。

 

 鍵の守り手が捨て駒にされて当然だ。だって、守る必要のある鍵なんて此処にはないのだから。

 

「正解・正解・大正解~! いやぁ、まさか其処まで辿り着くなんてなー」

 

 その結論にたどり着いたタニヤへ偽十代が拍手を送れば、周囲の身体の損傷が激しい生徒たちも盛大な拍手を共に打ち鳴らす。

 

 何故、疑問に思わなかったのか。

 

 セブンスターズとのデュエルではユベルが一言たりとも喋らず、

 

 アカデミアでは3年の胡蝶 蘭が先輩として十代たちの世話を焼いていたにも拘わらず、セブンスターズとのデュエルの際は姿どころか話題にすら出ず、

 

 セブンスターズとのデュエルでは漫画版の雰囲気に近くなった万丈目が、妙にアニメ版の性格で騒ぎ、

 

 明日香の知り合いがセブンスターズとして来れば、示し合わせたように明日香が観客から消える。

 

 いや、そもそも神崎がいた場所を「アカデミア」と明言したことは一度もないのだが。

 

 

 そう、答えはシンプルだった。

 

 

 学園も、生徒も、教師も――全部、全部、ぜーんぶ偽物だったのだ。

 

 

 偽物の学園で、偽物の生徒相手に、偽物の儀式を行って、一喜一憂していたカミューラの姿はお笑い種であろう。

 

 

 おっと、偽物の生徒の1人には気づいたんだったか。

 

 

「アンタ……!!」

 

「あっ、俺のことは気にせず続けてくれて構わねぇぜ。デュエル中だけど、アンタらが喧嘩したまま再開されても困るし」

 

 そんな小馬鹿にしたような拍手喝采を睨むカミューラに、偽十代は堪えた様子もなくタニヤへ推理の続きを促せば――

 

「カミューラ、我らはアレの変装精度の高さに『そう数は用意できない』と判断してしまった。なんの根拠もない推論を軸に行動を……な」

 

 苦虫を嚙み潰したようなタニヤは己の軽率な判断を悔やんで見せる。

 

「此処で儀式を始められる訳がなかったんだ……儀式場そのものがないのだから」

 

「なら、今まで送り込んだセブンスターズとのデュエルは!?」

 

 しかし、それでも信じられないのか送り込んだセブンスターズの刺客たちの情報をもとに反論の術を探すカミューラへ、偽十代は何でもないように返した。

 

「いや、全部ここで終わらせたに決まってんじゃん。アカデミアは今日も平和にやってるって話だぜ」

 

「ふざけないで!! アカデミアにセブンスターズの刺客を退けたって噂があるのよ! 学園との交流戦の話は表のルールに則った正式なもの! 無視は出来ない!!」

 

「……? そんなのこっちで用意した偽物の刺客をアカデミアに送り込んだら良いだけだろ?」

 

「だとしても、島1つ増えれば流石に誰かが疑問に思う筈よ!!」

 

「辺り一面に海しかねぇ閉鎖的な場所で『誰が』『どう』確認すんだよ。衛星とか計器とかさえ誤魔化せりゃ、後はどうとでもなんだろ――アンタたちは専門的な知識もないんだからさ」

 

「ふ、ふざけないで!!」

 

「ハハッ、コブラ校長も似た感想だったらしいぜ!」

 

 そう、今回の計画は偽物と本物をひっくり返しただけだ。

 

 本物のセブンスターズは偽物のアカデミアへ、

 

 偽物のセブンスターズを本物のアカデミアへ。

 

 たった、それだけの話。

 

「神崎がアカデミアに半年ほど籍を置いていたのは学園の人間たちの性格や行動パターンを測る為……」

 

 やがて、タニヤは合点がいった様子で神崎の行動の裏を整理してみせるが――

 

「偽のアカデミアの準備を思えば、少なくとも数年以上前に我らの計画は察知されていた訳か」

 

「バ、バカじゃないの!? 私たちを捕らえる為だけに! 偽物のアカデミアを用意して! 偽物の生徒を大勢用意して! 闇のゲームで命を賭けたって言うの!?」

 

 カミューラの言う通り過剰すぎる計画だった。

 

 島を丸ごと一つ使って、たった1人を捕らえるなど馬鹿げている。

 

「生徒の安全という面では確実な手だ。実際に足を運ばねばまず偽物とは発覚しない――そして、足を運べば偽の生徒全員で包囲され逃げ場を失う」

 

 しかし、タニヤの言う通り「生徒の安全」において費用対効果はともかく、これ以上の策はないだろう。なにせ「守る生徒がいない場で戦う」のだから。

 

「それに恐らくは我々に『幻魔復活は不可能だった』と誤認させる目的もあったのだろう」

 

「あはは……まぁ、微妙に違うけど大体そんな感じ」

 

 やがて、「第二、第三の幻魔復活をもくろむ輩への罠」としての側面もあったと察してみせるタニヤへ、目を泳がせた偽十代はパンと手を叩いて話題を変えた。

 

「まっ、種明かしも済んだところで――そろそろ諦めろよ。俺もお前らと問答無用で潰し合いたい訳じゃないんだ」

 

 先程までの嘲るような素振りは見せずに偽十代は真摯な姿を見せる。

 

「お前らの目的って多分、カミューラの一族の復活だか復興だかだろ? なら、そっちの『ヴァンパイア一族の情報』さえ貰えれば力になれるからさ!」

 

 そう、神崎側に唯一足りないのが「物質次元を生きたヴァンパイアの情報」のみ。

 

 それさえ明らかになれば、カミューラの望みが何の犠牲なく叶う可能性だってゼロではない。

 

「俺たちが戦う理由なんて、ホントは何処にもないんだよ! なっ? 仲良くいこうぜ?」

 

「10代、包I●完了▲たZ」

 

「MI沢9んIたNO?」

 

「ZUっ10イTA!」

 

 そんな偽十代の真っ直ぐな言葉を余所に、周囲に偽物の生徒たちがカミューラたちから逃げ場を奪うように集っているが栓無き事である。

 

――囲まれたか。口を挟まなかったのは偽物共を集める為……

 

「……ならば、いい加減、遊城 十代の振りは止めたらどうだ」

 

「またそれかよ……いやさ、ちゃんと擬態を解くのって面倒なんだよ。協力取り付ける前に使い捨てちゃ、もしもの時に困るだろ?」

 

「もはや正体を隠す意味はあるまい。そうだろう、神崎?」

 

「ははっ、当てずっぽで――」

 

 やがて、周囲に気を配るタニヤのカマをかけるような物言いに偽十代はとぼけて見せるが――

 

「変装程度ならまだしも、これだけの規模の力をお前が不特定多数の人間に晒す訳がない。それが理由だ」

 

「なら聞くけど、正体明かせば諦めんのか?」

 

「話くらいは聞くやもしれんぞ」

 

 状況証拠ゆえど確信を持ったタニヤの瞳を前に自白とも取れる形で偽十代は降伏の確認を取るが、最後は諦めたように一息吐けば顔がひび割れたように崩れていき、その身体はメキメキと異音を上げながら一回り、二回りと大きくなっていく。

 

「ハァ…………これで満足ですか?」

 

 さすれば、サイズが合わずに手に取った青い制服の上着を肩にかけながら、いつものスーツではなく十代が着ているような黒いインナー姿の神崎が身体の調子を確かめるように肩を回していた。

 

 

「やはり神崎……!!」

 

「では、本来ならあなた方からヴァンパイアの情報を得た上で説明するべきでしたが、此方が持ちうる情報で用意した解決策を提示さ――」

 

「――喋るな!! アンタ、頭おかしいんじゃないの!? 聞く訳ないじゃない!! 騙そうとしてきた相手の言葉を!!」

 

 そして、神崎が用意した解決策を語ろうとするも、カミューラの怒声によって掻き消される。

 

 当然だ。これだけ念入りに騙しに来た相手の言葉を「はい、そうですか」と簡単に信じられるのなら世界はとうに平和だろう。

 

 カミューラとて生徒たちを危険に晒す計画を立てたとはいえ、理屈と感情は別である。

 

「期待はしていませんでしたが、やはり話は聞いてもらえないようですね」

 

「お、終わり……なの? こんな……こんな馬鹿げてること考えた奴のせいで……ヴァンパイア一族の復興が……」

 

「いや、1つだけ突破口がある」

 

「えっ?」

 

「……気休めじゃないわよね?」

 

 やがて、神崎も「もう、全部ぶっ飛ばしてから考えるか」なんて物騒なことを考え始めていた中、タニヤから驚きの発言が飛び出した。

 

 思わず神崎も「え、この状態からでも入れる保険があるんですか?」とばかりに呆けた声が漏れる。費用対効果をガン無視した意味は一体……

 

「ああ、奴は我々を『殺せない』――『怪我すらあまりさせたくない』程に」

 

「私たちを?」

 

「そうだ。そもそも、こんな馬鹿げた規模の作戦を立てた理由を考えてみろ。さほど計略に富んでいない私でさえ『もっとマシな作戦がある』と断言できる」

 

 だが、真相は逆である。「費用対効果をガン無視するだけの何かがある」と察せられたのだ。

 

「つまり、奴は『それが出来ない何らかの理由』があるのだろう。こうして殆ど詰みの状況に持って行ったというのに、未だに降伏を持ち掛けてくる」

 

 なにせ、考えてみれば不思議な話である。手段を選ばなければ神崎には幾らでも勝ち方はあった。

 

「そして何より、先程の落下したお前を私が受け止める時、奴は邪魔をしなかった」

 

 最たるものは、カミューラが偽の校舎から叩き落された一件。

 

 あの時、通話が繋がる前からタニヤはカミューラの元へ向かうべく「偽十代とデュエル中にも拘わらず」校舎へと突っ走っていたのだから。

 

「妨害一つでもあればお前は重症を負い、逃走の可能性が断てたというのに」

 

 あの歩みを偽十代が僅かでも足止めしていれば、カミューラは歩行不可能な程の怪我を負い自力での移動が困難になっていたことは明白。

 

 そうなれば、タニヤとて打つ手がなかった。ゆえに告げる。

 

「ゆえに逃げろ、カミューラ。奴らの足止めは私がする」

 

「この数を相手に? そんなの出来っこないわ!!」

 

「笑わせる――私は誇り高きアマゾネスの戦士! この程度の苦境など幾度となく乗り越えて来た!!」

 

「いえ、流石にデュエル中の相手へ襲撃させたりはしませんよ」

 

 単身で偽物の生徒と呼べない物の怪どもとの闘いに挑むタニヤを神崎は一応、デュエリストの立場でやんわりと断った。

 

 遊戯王ワールドでデュエル中の相手に襲撃をかますような面々の末路など語るまでもあるまい。

 

 しかし、物の怪生徒どもが相手ではカミューラが逃げ切れないことを察しているタニヤは引く気はなかった。

 

「ならば悪いがデュエルは中断させて貰おう。カミューラが逃げ切った後に再開だ」

 

「止めませんか? デュエルを放棄なさるのなら、荒っぽい方法になってしまいますので」

 

「やってみろ! この私を倒さねば――」

 

 ゆえに、デュエリストの矜持を曲げてでも仲間の盾となろうとしたタニヤは、その頭を神崎の手に掴まれ地面にあおむけに叩きつけられた。

 

 遅れてタニヤの背中に衝撃が響く。

 

「――ばッ!?」

 

「タニヤ!?」

 

「止まるな! 走り続けろ! 私がこいつを捕まえている内に!!」

 

 だが、タニヤは己の頭を掴む神崎の腕を圧し折る勢いで掴み返して叫んだ。

 

「でもっ!」

 

「こいつは私を殺せん! だ……が!!」

 

「ぅぉっ」

 

「力比べに随分と自信があるようだが……! 私とてアマゾネスの戦士の中では剛腕……! 容易く振りほどけはせんぞ……!!」

 

 やがて、頭を掴まれたままで押し返すように立ち上がるタニヤの腕力に神崎が僅かに押されていく。

 

 そう、なにせタニヤの本当の姿は「虎のモンスターの精霊」――その怪力は人間とは比較にはならず、精霊の中でも決して非力ではない。

 

 限界を超えた肉体の酷使にタニヤの身体からミシミシと鳴ってはならない歪な音が零れるが、その甲斐あってか神崎は押し切れず、動けない。

 

「構いませんよ。貴方を抑え込めれば」

 

 ただ、既にそんなことは関係なかった。

 

「やれ」

 

「 「 「 Glory on the Academia!! 」 」 」

 

 端的な神崎の指示に周囲からおびただしい程のアカデミア生徒や教師の姿が貼りつけられたオレイカルコスソルジャーたちが殺到する中、もはやタニヤは力の限り叫ぶ他ない。

 

「走れ! カミューラ!!」

 

「――くっ!!」

 

 そのタニヤの覚悟に背を押されたカミューラは、崖のある方へと駆け出していくが――

 

「行KE! 9ZU共!!」「ジュ●KO、MOもエ! Jet Stream Attackを仕KAけRUわ!」「 「 Jet Stream Attack!! 」 」「融合SURUのはYubel! 俺TOお前NO魂DA!!」「俺GA輝KU為にHA、もHAやKOんNA制服HA必要NAIッ!」「こU見EてMO腕力にHA自信がAるNでスYO」

 

「放しなさ――」

 

 死体に群がる蟻のように己に向かうオレイカルコスソルジャーたちの幾人かを躱すカミューラの手は眼鏡をかけたオレイカルコスソルジャーに掴まれたことで歩みが止まり、

 

「Aの時TO一緒DANA……」「IYAッHOOOOOOォUゥ!!」「YAっPAりBAKAの一TU覚EなNOーNE……」「NAにYAってRUの Brother……」「所詮TEめぇRAは権力NIゃA逆らEねぇNだYOォッ!!」

 

「――ぶっ……!?」

 

 皮を削ぐ勢いでなんとか腕を自由にしたカミューラの腹部に1体のオレイカルコスソルジャーのタックルが突き刺されば、体勢を崩したカミューラの元へ次々にオレイカルコスソルジャーたちが抑え込みにかかる。

 

「GAッTYOョ、楽しIデュエルDAったZE!」「SOれっTE、OかSIクなIかNA?」「SOうDA。貴様にHAデュエリストとSIてNO骨がNAI。デュエルGA軽イ。」「DEすかRA私HA皆サNに……復讐SUるKOとNI決メMAシTA」「嬉シIヨ10代……KOれGA、YouノLoveナNダNE」

 

 そして、最後は幾人ものオレイカルコスソルジャーたちによって地面に押さえつけられた。

 

 それでも土で汚れたカミューラが崖に向かって這ってでも進もうとするが、そんな無意味な足掻きでさえ、余りに余ったオレイカルコスソルジャーたちがカミューラの手足を抑えるだけで終わる。

 

 更に、他のオレイカルコスソルジャーたちが周囲の警戒をするように、カミューラの盾にも見えてしまう陣形を取って辺りを見回しているが、乱入者の影どころか何もない。

 

 やがて、打つ手を失くしたカミューラの涙と嗚咽に混じった声が零れるが、残酷なまでに奇跡なんて何処にもなかった。

 

 

「存外、呆気のない――これが貴方の言う『突破口』ですか?」

 

 

――じゃないよな。瞳の闘志が消えていない。

 

 

 しかし、それでも神崎は警戒を続ける。なにせ、己の腕を未だに力の限り掴むタニヤの目は死んでいない。

 

 

 この状況からの逆転を信じて疑っていない。だからこそ、再度告げる。

 

 

「なんにせよ、あなた方の身柄さえ押さえら――ッ!?」

 

 

 と同時に黄金の船が神崎を跳ね飛ばした。

 

 

――いつの間に? いや、()()近づいた!?

 

 

 まるで時間を切り取ったかのように現れ、オレイカルコスソルジャーたち諸共神崎を蹴散らした黄金の船の出現に意識が逸れる中、空より1人の青年が着地する。

 

「無事か、2人とも」

 

「アビ……ドス……」

 

「どうやら……上手く伝わったようだな」

 

「ど、どういうこ――」

 

 そんなアビドス三世の乱入に、人身事故に巻き込まれかけたタニヤが安堵の息を吐きながら倒れたままのカミューラに手を差し出せば、黄金の船の着弾地からドゴンと轟音が響いた。

 

「そういえば、貴方もいましたね」

 

「王の船がッ!?」

 

「私を足止めし、カミューラに単身で無謀な逃走を指示したのは、生徒が群がる異常な光景を用意する為……これは一本、取られました」

 

 やがて一蹴りで王を神の国に運ぶ超重要文化財を通り越した技術革新を運ぶオーパーツこと、王の船をぶっ壊した神崎はタニヤの語った「突破口」の正体に舌を巻く。

 

 だが、アビドス三世もまた感嘆の声を漏らした。

 

「成程な。状況は理解した――この者、神官の系譜か。伝承の途絶えた今の世に、これ程の魔術を行使できる者がいたとは余も驚きだ」

 

「アビドス、任せるぞ」

 

「引き受けた。しんがりは余が務めよう」

 

「流石にこれ以上、付き合う気はないな」

 

 やがて、タニヤの言わんとする所を理解したアビドス三世が一歩前に出た瞬間に、その背に守るカミューラに向けて神崎の拳が振るわれた。

 

――ッ!?

 

 と、同時に神聖なる力のこもった杖が神崎の拳を払った。

 

「よもや、余の魔物(カー)たるスピリット・オブ・ファラオと生身で打ち合うとは……」

 

 聖なる光の宿る一撃に拳から煙を出しながら距離を取った神崎へ、ツタンカーメンマスクに黄金の鎧で身を包んだ魔物(カー)――スピリット・オブ・ファラオがアビドス三世を守るように穂先が曲がったモザイク模様の杖を構えて立ちはだかる。

 

――そうか、アビドス三世は……!

 

「其方、かの精霊(カー)と術者を同一化する禁術を用いた身ではあるまいな?」

 

 やがて、逆に心配そうな顔を見せるアビドス三世より、神崎は原作にて描写がなかったゆえに無意識で除外していた可能性に晒され内心で舌を打つ。

 

――石板に魔物(カー)を封印していた時代の王!!

 

 そう、原作にて特に魔物(カー)と共に戦う描写がなされた訳ではないが、アビドス三世は「石板に封じられたモンスターを使って戦える者ディアハリスト」なのだ。

 

 アテムもご用達だった「石板の魔物(カー)を用いて戦う訓練」の様子だけは原作でもしかと描写されている。

 

 やがて、神崎に釣られた訳ではないが思ってもみなかった仲間の活躍にポカンとしていたカミューラへアビドス三世は焦燥感を含んだ声で告げた。

 

「語らいは好まぬか――何をしているカミューラ。行け、余とて何処まで対抗できるかは分からぬ」

 

「乗れ、カミューラ!!」

 

「全員静聴、アレは無視してカミューラを追え」

 

 やがてカミューラがタニヤの肩に乗せられた中、神崎がパチンと指を鳴らせば生徒のガワが弾け飛び――

 

「UGOGO……!」「GUGAAaaaAaaa!!」「IiiYAHAaaaaaHA~ッ!」「UKEKEKEKEッ!!」「HiHiHiーッ」「REREZIGii、GAGAGAGAGAAaaa!!」「IYaッHoooooo~~!!」「SIiiiZAaaaaaaッ!!」「ⅣOooOoooッ!!」「KiKi i i i i i!!」

 

 異形の叫びをあげる普段通りのオレイカルコスソルジャーたちがスピリット・オブ・ファラオの先にいるカミューラたちへ向けて殺到。

 

「王を前に単身で挑むか――だが、今の世の神官よ、忘れてはいまいか?」

 

 その石像の軍勢を前にアビドス三世は内より魔力(ヘカ)を練り上げ、己の魔物(カー)の力を開放すれば、スピリット・オブ・ファラオの肩から伸びるホルスとジャッカルの頭部の瞳が赤く輝きを増していく。

 

「余がファラオであることを! 民を率い戦う矛であり盾であることを!!」

 

 そして、スピリット・オブ・ファラオが地面に己の杖を突きさせば、大地が脈動と共に隆起し、大地より這い出した影がオレイカルコスソルジャーたちに次々に襲い掛かる。

 

「うぉ……」

 

――いやはや、カードパワーと精霊(カー)の力は一切関係がないのは知っているが……

 

 やがて、神崎の眼前に広がるのは地を揺るがす程のミイラの兵隊、骨の騎馬隊、はたまた死霊の古代の戦車(チャリオット)の軍勢など大軍がおびただしい数のオレイカルコスソルジャーたちと激突する光景。

 

 

 剣が、槍が、矢が飛び交いオレイカルコスソルジャーの身体を砕き、かたやオレイカルコスソルジャーたちもその拳でミイラの兵を薙ぎ倒す。

 

 まさに地獄もかくやな戦場が一瞬にして形勢された事実に神崎の喉は引きつりっぱなしである。

 

 

――太古のエジプト人、怖すぎだろ。

 

 

 《スピリット・オブ・ファラオ》――OCG化に伴いクソカード、産廃、重症患者etcといった具合に、カードとして数々の汚名を受けている。

 

 だが、遊戯王ワールドにおいて精霊(カー)という「人の常識では測れない超常の存在である」ことは、意外と忘れさられがちだ。

 

 

 

 さぁ、ディアハしようぜ

 

 

 






おい、デュエルしろよ。




Q:なんでスピリット・オブ・ファラオ、こんなに強いの?

A:ディアハで「王もバリバリ戦うのが常識な時代」の「王の魔物(カー)」が弱い訳がなく、

「カードパワー」と「精霊パワー」の因果関係は一切ないからです。

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