マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
見よ、我が同胞たちを!

国は滅び、その魂が天に召されようとも、それでもなお余を慕う精霊(カー)たち!

皆との結束こそが我が(ファラオの)遺産! 我が魂! 余が誇る最強魔物(カード)――(スピリッツ)(・オブ・)(ファラオ)なり!!




第285話 ようこそ、僕のデュエルアカデミアへ

 

 

 

 雪崩の如く迫りくる数多の石像たちを見定めたアビドス三世は、(バー)から魔力(ヘカ)が一気に目減りしたゆえ貧血に近い感覚を覚えながらも己の魔物(カー)であるスピリッツ・オブ・ファラオと共に神崎の一挙手一投足を見逃さぬよう注視するが、相手は距離を取ったまま動く気配はない。

 

――まずは、あの者の魔物(カー)の力を推し量らねば……

 

 そう、結果的に相手の虚を突いてカミューラたちを逃がせたとはいえ、想定外なのはアビドス三世も同じだ。此処でアビドス三世が倒れれば仲間の逃走の芽も潰える。

 

 だというのに、戦況を有利に進める上で必須であろう情報が何よりも不足していた。

 

 相手が神官の技能を修めた者だと仮定して魔物(カー)の姿や形、更にはその固有能力。加えてカミューラたちを騙した擬態などの神崎が行使できる術の範囲。

 

 下手に突っ込んで相手の未知の魔物(カー)の力に敗れればアビドス三世たちは詰む。

 

 石像の兵を操っている様子から己のスピリッツ・オブ・ファラオと同系統の固有能力を有していることは窺えるが、逆を言えばその程度のことしか今のアビドス三世には分からないのだから。

 

 

 ゆえに、お互いに如何に立て直しを図るかが求められる中、とうの神崎は膝をついて地面に手を付けた。

 

「《湿地草原》」

 

 途端に地面が長い草の生い茂った湿地で染まり、ぬかるんだ地面にアビドス三世の兵士たちの足が鈍る。なにせアビドス三世の故郷は砂漠地帯――湿地の戦闘経験はない。

 

――地形操作の能力を持つ魔物(カー)か!?

 

 そうして勘違いするアビドス三世を余所に、石像の重量ゆえにオレイカルコスソルジャーたちも湿地に足を取られ始めるが――

 

「《城壁》」

 

「 「 「 UGOッ!? 」 」 」

 

 地面から飛び出したレンガ詰みの巨大な壁がオレイカルコスソルジャーたちの幾体かを天高く戦線から弾き飛ばした。

 

――拙いッ!

 

「スピリッツ・オブ・ファラオ!」

 

 だが、ぬかるみの足場など感じさせぬ跳躍を見せたスピリッツ・オブ・ファラオが腰元より抜いた剣を振り抜き撃ち落とす。

 

 結果、湿地に頭から叩きつけられた数体のオレイカルコスソルジャーは、周りの白い仮面をつけたミイラ兵たちこと「王家の守護者」たちに取り囲まれて拳でしばき回されていた。

 

「 「 「 H、HELP! HELP! 」 」 」

 

「《魔力の棘》」

 

 が、その王家の守護者たちの足元から伸びた茨が更に彼らの動きを阻害する。とはいえ、オレイカルコスソルジャーたちの動きも阻害されるが。

 

「《銀幕の(ミラー)(ウォール)》」

 

「 「 「 TIGAッ!? 」 」 」

 

 しかし今度は水晶の壁が地面から飛び出し再び幾体かのオレイカルコスソルジャーを天へと弾き飛ばした。

 

「くっ! 撃ち落とせ、スピリッツ・オブ・ファラオ!」

 

「《誘爆》」

 

 当然、見逃せないアビドス三世は先と同様にスピリッツ・オブ・ファラオに叩き落させんと跳躍するが、その瞬間アカデミア本校舎で連鎖的な爆発音が響くと同時に本校舎は大きく傾き――

 

「王族親衛隊よ!!」

 

 

 両軍まとめて圧し潰す質量兵器となって降り注ぐ。

 

 

 やがて轟音と共に建物の残骸によって周囲の全てが押し潰された。

 

 

 そんな残骸広がる跡地から幾体もの木製の盾を持つミイラこと「王族親衛隊」によって守られたアビドス三世が顔を出し、他の兵たちも生き残りが立ち上がるが悠長にはしていられない。

 

――拙い、何体か包囲を抜けた!

 

「ファラオのしもべよ! カミューラを守るのだ!」

 

「《鈍重》」

 

 槍を持ったミイラ兵ことファラオのしもべを追手に回すも彼らの身体にかかる超重力により、ぬかるみに更に足がはまり、瓦礫が身体に突き刺さり、茨が四肢を縫い付ける。

 

――この規模の術を連続で……! だが!!

 

 ただ、先の残骸の雨を逆に足場として天へと駆けたスピリッツ・オブ・ファラオが杖を構え、遥か空より知覚外から《鈍重》による超重力すら加速に利用した一撃を放っていた。

 

「其方の危機に魔物(カー)は姿を現さざるを得まい!!」

 

「《(ソーン)の壁(・ウォール)》」

 

 しかし、スピリッツ・オブ・ファラオの杖の一撃は地面から伸びた幾重もの茨が絡まり合った巨大な壁に阻まれる。

 

 だが、スピリッツ・オブ・ファラオは己の身が茨に傷つけられることになろうとも、杖に魔力(ヘカ)を一点集中させれば――

 

 

 粉砕。

 

 

 茨の壁は砕け散り速度を緩めることなく神崎を射抜かんと迫るも、神崎が防御の為に地面へ手をかざす。

 

 

「《光の護――」

 

 

 だが地面に手をかざした神崎にパキンと何かが砕けるような感覚が過ればオレイカルコスソルジャーたちを含めた偽のアカデミア諸共、島自体が消失した。

 

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「 「 ッ!? 」 」

 

 

 それにより、この場の全員の身体が浮遊感に晒される中、結果的に神崎も海へと落下したことでスピリッツ・オブ・ファラオの一撃は目標を貫くことなく海面へと一先ず先に着水。

 

 

「ゴースト・カロンたちよ!!」

 

 

 アビドス三世も小船に乗った傘を被った船頭こと「劫火の舟守 ゴースト・カロン」たちを呼び出し、兵たちと共に海面への落下を防ぐ中、神崎は唯一残った陸と呼ぶには少しばかり狭い岩場に着地した。

 

 

 

 

 やがて偽のアカデミアの島とオレイカルコスソルジャーたちすら消えた事実に神崎が不思議そうに己の手の平を見やるが、アビドス三世は驚きを交えつつも確かな口調で告げる。

 

「よもや、この島すら魔術で用意した代物だったとは……驚嘆に値する魔力(ヘカ)だ」

 

 既存の島を利用したと考えていただけに、アビドス三世は舌を巻かざるを得ない。ただ、納得も出来た。

 

「だが驕ったな。如何なる外法を用いたのかは知らぬが、魔力(ヘカ)(バー)より生ずるもの。無理やり行使しようものなら命すら脅かし、術はまともに発動すらせん」

 

 そう、魔力(ヘカ)の枯渇の危険性は原作にて神官カリムの死が証明している。

 

「よせ。其方は偽物の生徒と教師たちに加え、この島の維持をかなりの期間続けていた身――とうに限界など越えている筈だ」

 

 なにせ、どれだけ魔力(ヘカ)の総量の自信があったとしても、超広域・長時間・微精細なコスパを完全に無視した術を維持し続けるなど正気の沙汰ではない。

 

 むしろ、逆に今まで維持できていたことが既に奇跡だとアビドス三世は断じてみせた。

 

「警告しよう。それ以上、その力を使うべきではない」

 

 それゆえ、拳を握ったアビドス三世は強い口調でいさめる。

 

「外法によって幾ら強大な力が行使できるようになったといえども、その手の代物は術者の心と体を蝕むゆえに禁忌とされているのだ」

 

 これは打算などではないアビドス三世の純粋な心配から来る言葉だ。

 

「其方が更に力を使い続ければ命の危険だけでなく、心を失う可能性すらある」

 

 神秘のあった時代の王として高度な魔術系統の教育を受けたアビドス三世には、神崎がどれだけ危険な行為をしているかを確かな精度で把握できるゆえに、その言葉は重い。

 

「ゆえに此処は退いてはくれぬか?」

 

「やむを得ませんね」

 

「うむ、賢明な判断だ」

 

「いたぶるような真似は避けたかったのですが」

 

 だが、世間話でもするような気軽さで神崎の姿はアビドス三世の視界からブレて消えた。

 

 

 そう、アビドス三世の心配など止まる気のない神崎には届かない。

 

 

 結果、瞬きの間にアビドス三世の背後に移動し右拳を腰だめに構えた神崎――だが、そんな不意打ちへ即座に反転して反応したスピリッツ・オブ・ファラオは神崎が右拳を放つより先に杖による突きを放っていた。

 

 そんな突きの一撃に対し、神崎は腰だめの右拳を添えるように合わせて杖を掴み相手の勢いを利用するように引き込み左の蹴りを叩きこむ。

 

 しかし、とうのスピリッツ・オブ・ファラオは引き込まれた段階で既に杖を手放し右腕で神崎の蹴りをガードするも、蹴りのインパクトの瞬間に神崎は身体を回転させながら右の回し蹴りに繋げてスピリッツ・オブ・ファラオの横っ腹を蹴り抜いた。

 

 結果、横腹から鈍い音を立てながら海面を二転三転と石で水切りするように吹き飛んだスピリッツ・オブ・ファラオは、吹き飛ぶ瞬間に抱えていたアビドス三世と共に別の小船のゴースト・カロンに受け止められる。

 

「ぐっ……」

 

 途端にスピリッツ・オブ・ファラオの受けたダメージのフィードバックにより膝をつくアビドス三世を余所に、海面に立つ神崎は煙を上げる己の右腕で銃痕のような傷の残る右肩から金属片を引き抜きつつ、スピリッツ・オブ・ファラオの右腕の手甲が一段なくなっている様子を見やっていた。

 

「死眼の伝霊……よ、余らを癒……せ」

 

 しかし、黒いローブの小さな影こと「死眼の伝霊-プシュコポンポス」がアビドス三世の背中で何やら呪文を唱えれば先のフィードバックによるダメージを含めスピリッツ・オブ・ファラオの横腹の負傷が逆再生するかのように消えていく。

 

 

 これにより、不意打ち染みた此度の攻防は、聖なる力のこもった杖を不用意に握った右腕とカウンターを受けた右肩を負傷した神崎の一手損といったところ。

 

 いつもなら瞬く間に治る神崎の負傷も「聖なる力」が致命的な弱点ゆえに亀の歩み。

 

 そして何より――

 

 

「治療役まで……歴史家の評価がアテにならないな」

 

 神崎が言葉を零したように、負傷を帳消し出来る程の治癒能力すら間接的に有するスピリッツ・オブ・ファラオの力は彼にも想定外だった。

 

――追撃しないだと? あの者、何を考えて……

 

「当然だ。余が生きた時代は、平和とは言えずとも動乱とは無縁の日々――余の国と共にあった魔物(カー)の力を間近にする機会など、殆どなかったのだから無理はない」

 

 しかし、急に足を止めた神崎を警戒するようにアビドス三世が己の生きた時代を語ってみせつつ出方を窺う他ない。

 

 

 そう、原作GXで語られていた王の不敗伝説も配下に八百長染みた真似をさせていた以上、周辺国への牽制を目的に国家の立場で流布された情報戦染みた代物だと推察できる。

 

 とはいえ、周辺国も魔物(カー)の情報を有していれば、闘おうとは思えないだろうが。

 

 なんにせよアビドス三世の不敗伝説がGX時代にて「真実だ」と誤認される程度には真実味があったのだろう。

 

 

 閑話休題。

 

 

 そうして出方を窺う神崎の姿に、矛を収める機会を得たとアビドス三世は争いを避けようと言い放つ。

 

「其方の力は確かに脅威だが、(バー)魔力(ヘカ)も疲弊し魔物(カー)の維持すら叶わぬ状態で千の魔物(カー)を従える余のスピリッツ・オブ・ファラオと戦えば、ただでは済まぬ筈」

 

 スピリッツ・オブ・ファラオが従える魔物(カー)の中には治癒能力を持つ魔物(カー)も存在し、今まではオレイカルコスソルジャーたちの相手をしていた魔物(カー)たちが全て神崎に襲い掛かるとなれば数の利は明白。

 

 とはいえ、アビドス三世も確実に勝てるとは思ってはいない。神崎が魔物(カー)と殴り合える身体能力を持っている以上、奥の手の一つや二つがあってもおかしくはないだろう。

 

 しかし、それでも――

 

「これが最後の警告だ。退いてくれ――余とて其方を傷つけるのは本意ではない」

 

 カミューラの決死の覚悟を知りつつも、アビドス三世は可能な限り血を流さず穏便に計画を完遂したかった。

 

 

 返答はアビドス三世に迫る拳だった。

 

 

「残念だ」

 

 爆発的な速度で迫った神崎の拳に貫かれたファラオのしもべがアビドス三世が一息に大きく離れる時間を作れた事実に満足気に消えていくと同時に、その背後から跳躍していたスピリッツ・オブ・ファラオが己の頭上で回転させていた杖を神崎の脳天へと振り下ろす。

 

 だが、それを交差した両腕でガードした神崎はその杖を起点に重さを感じさせぬ体捌きにより空中でスピリッツ・オブ・ファラオへ回転蹴りを放つが、海中より飛び出した王家の守護者が両腕を己の顔の前で構えて防御し身代わりとなった。

 

 その一瞬の間に杖から手を放して神崎の側面へ回り込んでいたスピリッツ・オブ・ファラオは結果的に回し蹴りを王家の守護者に放った無防備な神崎へ腰元の剣を居合抜きのように振るう。

 

 だが、その僅か前に神崎は蹴り抜いた王家の守護者を足の指で掴んで強引に足場とし、更に身体を捻って今度は縦回転によるかかと落としをスピリッツ・オブ・ファラオに放っていた。

 

 と同時にかかと落としに一足先に着弾した離れた位置でアビドス三世を抱えたファラオのしもべの投擲した槍が砕けて威力を削ぐ中――

 

 

 スピリッツ・オブ・ファラオの渾身の一刀と神崎のかかと落としが激突。

 

 

 空間にヒビを入れるような感覚を辺りにばらまきつつ、その余波が海面を波立たせていく。

 

 

――速い……並の兵では追いすがることすら叶わん、か。そして先程より威力が増しているとなれば……

 

 やがて均衡が崩れたようにスピリッツ・オブ・ファラオの振るった剣は弾かれ、軌道のズレた神崎のかかと落としが海面を叩き割る。

 

 そんな中、剣を弾かれた勢いのまま回転したスピリッツ・オブ・ファラオは離れた位置の骸骨こと「ワイト」から投げられた吹き飛んでいた己の杖を掴みつつ一歩前に出た神崎の右腹へ杖による薙ぎの一撃を振るう。

 

 さすれば鈍い音と焼けるような音が神崎の脇腹から響く瞬間、己の身体に打ち据える衝撃を左腕から逃がすように左ストレートの拳となってスピリッツ・オブ・ファラオの胸部を打ち据えた。

 

――やはり、あの者の狙いは……

 

 そうして、カウンターを受けて吹き飛ばされたスピリッツ・オブ・ファラオが別のゴースト・カロンの小船に着地し、即座に待機していた死眼の伝霊の治療を受ける中、脇腹から煙を上げる神崎の元に周囲の全ての船上から紫のローブの骸骨の「ファイヤー・デビル」たちが火矢を雨あられと放っていく。

 

――余が命を落とさぬラインを探りながら戦うつもりか。ならば、その隙! つかせて貰おう!

 

 そう、今の神崎は「万が一にもアビドス三世が死なない範囲の威力」を測りながら戦っている。

 

 それは「アビドス三世が冥界に還った際にアテムに遭遇する可能性が高い」ゆえの悪印象が伝わる危険を鑑みてのことだが、残念ながらその行いは神崎が語った通り「避けたかった」「いたぶるような真似」だ。

 

 とはいえ、結果的に「手を抜いている」現実は変わらない以上、アビドス三世の言う通りそれは「付け入る隙」以外の何物でもない。

 

 

 

 かくして、火矢の雨の渦中で神崎が海面に拳を叩きつければ海水が壁のように跳ね上がり火矢を防ぐ中、その海水の城壁とも言うべき場所へ船上よりスピリッツ・オブ・ファラオが槍投げのように掲げた杖に紫電の光を迸らせながら構え――

 

「スケルゴン!!」

 

 海水の城壁の形が崩れた瞬間に()()()()()()()()()()()()放たれた。

 

 と同時に骸骨の竜ことスケルゴンに乗り空へ飛翔するアビドス三世が乗っていた小舟が海中から蹴りをぶちかました神崎に蹴り砕かれ、ゴースト・カロンが海に放り出される瞬間に空気を切り裂きながら迫る杖が神崎に着弾。

 

 咄嗟に右腕を差し込んでいた神崎が強引に腕をかち上げて聖なる光が迸る杖の軌道を空のスケルゴンに乗るアビドス三世へ変えて見せるが、その杖の一撃はスケルゴンから飛び降りた王家の守護者が己の身体を盾として弾いた。

 

 その一連の攻防の最中、急接近していた両拳に聖なる光を宿したスピリッツ・オブ・ファラオが杖をかち上げた姿勢で隙を晒す神崎の土手っ腹に上段から拳を振るい海面に叩きつけて見せる。

 

「スケルゴンよ! 煙毒のブレスを放て!」

 

 途端に海中より現れたおびただしいまでの腕こと「死者の腕」が神崎を海面へと縛り付け、スケルゴンより毒ガスのブレスが放たれスピリッツ・オブ・ファラオが海中へ姿を隠せば――

 

「――ハァッ!!」

 

 その瞬間にスケルゴンの背からアビドス三世の放った炎の魔術が可燃性の毒ガスのブレスに引火。

 

 

 海水を巻き込んだ水蒸気爆発も交えた炎熱地獄が周囲を包んだ。

 

 

 白煙が周囲を包む中、アビドス三世は息を整えながら己の背後に陣取る死眼の伝霊へ指示を出す。

 

 

「ハァ……ハァ……死眼の伝霊よ、あの者を探すのだ」

 

 

 傍から見ればオーバーキル満載の攻防だったがアビドス三世とて殺す気があった訳ではない。

 

 

 スピリッツ・オブ・ファラオの攻撃を受け止められる人間が耐えられるギリギリを狙い、なおかつ治癒能力を有する魔物(カー)を従えている上での一手。

 

 

 というか、これだけやらなきゃ止まらない神崎側に大いに問題があろう。

 

 

 ただ、白煙の晴れた先より問題なく立つ神崎の姿に己の認識が間違っていた事実をアビドス三世は悟った。

 

 

「……馬鹿な、あり……えぬ」

 

 

――魔物(カー)の維持すら叶わぬ以上、今あの者は己の膂力のみで戦っている筈! 外法によって幾らか身体能力が上がっていたとしても、あの一撃を受けて立っていられる筈がない!

 

 

 偽アカデミアの維持が唐突に途切れたことからも、神崎の魔力(ヘカ)が限界だったのは確固たる事実。

 

 スピリッツ・オブ・ファラオと打ち合えていたのは、外法による肉体の変異を鑑みれば説明できなくもない。

 

 だが、魔物(カー)にさえ耐えられないレベルの一撃を受けて、多少の火傷らしきダメージが見える程度な現実は無視できなかった。

 

 

 賢明な読者諸君は「今更なにを言っているんだ?」とお思いかもしれない。だが違うのだ。

 

 

――余のスピリッツ・オブ・ファラオと打ち合える程度なら理解できる。だが、魔物(カー)ですら耐えられぬ一撃を耐えうる術者など……根底が崩れる!

 

 

 アビドス三世は神官が生身で魔物(カー)と打ち合う話など聞いたことがない。

 

 さらに、魔物(カー)と一体化した禁術の可能性を考えようにも、一体化した魔物(カー)の力を使う気配もなく、ひたすら肉弾戦を繰り出す姿を見れば杞憂だろう。

 

 人間の身体能力の底上げを成す術も存在するにはするが、魔物(カー)の身体能力に比べれば微々たる代物だ。

 

 

 なにせ魔力(ヘカ)(バー)由来の(エネルギー)であり、原作のマハードのように肉体を失っても問題なく使用できるが――

 

 反面、人間の身体能力に大きく作用することはなく「エジプト一の魔術師」といわれた生前のマハードでさえディアハリストの「術者が狙われると弱い」弱点を克服できず、その弱点を突かれ原作にてバクラに殺害されていた。

 

 それは原作にてアクナムカノンが闇落ちし、外法によって強化された「闇の大神官」であっても神官セトに「なんの変哲もない刃物」で急所を刺されれば死亡する程度だ。

 

 

 ちなみに、デュエルエナジーは肉体由来の(エネルギー)と思われる。

 

 なにせ原作GXでもデュエルエナジーを吸い取られた十代の容態が「何日も連続でデュエルし続けたような疲弊が見られる」と語られており、更には原作GXにて肉体に甚大なダメージを負ったユベルが身体の再生の為にコブラに集めさせていたのだから。

 

 

 閑話休題。

 

 

 早い話が神崎の異様さがアビドス三世には正しく認識できてしまう。

 

 タニヤやカミューラなら「変わった力を持っている」程度の認識で流せるのだろう。だが、神秘のある時代の王として高度な教育を受け、魔術にも造詣が深いアビドス三世には無視できない。

 

 今まで神崎と戦って来た(リアルファイトしてきた)面々が漫然と流していた現象に違和感を感じ取れてしまう。

 

 

――なんだ……? 余はあの者の何を見落としている……?

 

 

 これが冥界の王の力を使った産物であれば、アビドス三世も納得が出来ただろう。

 

 しかし、残念ながら「冥界でアテムに会うかもしれないアビドス三世」に神崎が冥界の王の力を見せる筈もない。

 

 

――これでは……これでは、まるで……

 

 

 そうして、意識が思考の渦に沈み始めていたアビドス三世の口から一筋の血が零れた。

 

「……?」

 

 ふらつく身体でアビドス三世は眼下にて膝をつくスピリッツ・オブ・ファラオの姿を認識すれば、己の身に魔物(カー)が受けたダメージがフィードバックした事実を理解する。

 

 

 やがて、海面で立つ神崎の焼けただれた顔に浮かぶ歪な笑みと目が合った。

 

 

 

 そう――残念ながら時間切れだ(デッドラインを把握された)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体中に打撲と裂傷の痕が見える痛々しい姿のアビドス三世の首根っこを掴んでいた神崎は、地に倒れ伏したスピリッツ・オブ・ファラオが己の足を掴む姿が、その身体が光の粒子となって消えていく光景にひとりごちた。

 

「ようやく魔力(ヘカ)の限界か」

 

 それと同時に周囲の壊れた小舟や、海面に浮かぶファラオのしもべや王家の守護者の姿が消えていく中、アビドス三世は身体中に奔る痛みを無視して腰元の鞘のついた短剣に手を伸ばす。

 

 と同時に、その身体は神崎に放り投げられ地面に転がり、短剣はカランと音を立てて地面に零れ落ちた。

 

 しかし、アビドス三世は動かぬ身体に鞭を打って短剣の落ちた先へ這いずるが――

 

「無駄ですよ」

 

 負傷を治しながら神崎はその行いを無駄だと断じて見せる。

 

「時間稼ぎを考えておられるのでしょうが、此方の索敵を妨害していたのはあの黄金の船の力でしょう?」

 

 なにせ、今更アビドス三世が短剣一本持ったところで戦況は覆らない。

 

「アレが破壊された時点で追跡は容易。貴方が懸命に稼いだ時間にさしたる意味はない」

 

 なにより、多少は枯渇していた魔力(ヘカ)が回復し始めている神崎からすれば、アビドス三世の有する厄介なオーパーツの類を制せた段階で戦果としては十二分であろう。

 

 ゆえに今度は神崎が提案する。

 

「降伏を。此方としては貴方が還るべき場へ還って頂ければ良いんです。貴方が願う『デュエルの相手』なら、其処で十二分に賄えますよ」

 

 アビドス三世の本当の願い(策なく普通にデュエルする)を知る神崎からすれば、ここいらが着地点だった。

 

 カミューラへの義理も足止めで果たし、これ以上の無茶は無意味となればアビドス三世に戦う理由などない。

 

 

 だというのに、短剣を手に震える四肢で地面に肘膝を立てて立ち上がろうするアビドス三世の姿に、神崎は一段低い声で告げた。

 

「……立つな。これ以上は無意味だ」

 

 そう、上述の説明通り「もはやアビドス三世が戦うメリットも必要性も一切ない」のだ。

 

 なら、そのまま力を抜いて還るべき場所へ還れば良い。誰だって「そう」する。同じ状況なら神崎だって「そう」する。

 

 

 しかし、それでも言うことを聞かぬ足でなんとか立ち上がったアビドス三世が短剣を構えるよりも先に、その頬を神崎の拳が軽く打ち据えた。

 

 結果、踏ん張れる筈もなく再び地面に転がるアビドス三世だが、再び四つん這いから四肢に立ち上がる力を籠める姿に神崎は苛立ち混じりに返す。

 

「話を聞いていたのか? 此方は今すぐにキミの仲間の元へ移動する術もある。貴方が此処で幾ら時間を稼いだところで無意味なんだよ」

 

 タニヤの泳ぎが幾ら速かろうが、本物のアカデミアに辿り着くよりも神崎が追い付く方が早い。

 

 なんなら神崎の方が先に本物のアカデミアに辿り着く術だってある。

 

 

 それでもフラつきながらも立ち上がったアビドス三世だが、神崎が軽く押して見せるだけで尻もちをついてしまう程にもはや無力だ。

 

「いい加減にしろ。此方に敵意がないことは、もう流石に理解しているだろう?」

 

 神崎は咎めるような物言いをしつつも、内心で面倒になるがこれ以上の実力行使は避けたいのもまた事実。

 

 先に語った通り、アビドス三世は冥界でアテムに会合する可能性のある人物――印象値の操作という点では既に危険域を超えているだろう。

 

 

 ゆえに、厄介だった。

 

 

 限界を迎えた身体で何度でも立ち上がってみせるアビドス三世が。

 

 

 彼の仲間への誓いが。

 

 

 その折れない闘志が。

 

 

「………………分かった。降参だ」

 

 

 やがて小さく息を吐いた神崎は力の抜けた声を落とす。

 

 

「そうだった。キミたちは『そういう精神性』をしているんだった――なら、その闘志を折る方法は一つしかない」

 

 

 そして何処からともなく左腕にデュエルディスクを出現させれば――

 

 

「デュエルしよう。私が勝ったら諦めて還るべき場へ還れ」

 

「余が……勝……て、ぐっ!?」

 

「それは貴方が決めることでは?」

 

 息も絶え絶えなアビドス三世の土手っ腹に神崎が掌底を叩きこんで見せれば、ある程度アビドス三世の身体の負傷が癒えていく。

 

「傷が……」

 

「怪我でデュエルに支障が出たせいだ――なんて言い訳で再戦なんて御免ですから」

 

「ならば、余が勝てばこの場は退いて貰う」

 

「良いでしょう」

 

 やがて、アビドス三世の左腕に黄金のデュエルディスクが展開される中で告げられた要請に神崎は二つ返事で了承してみせる。

 

 

 なにせ、神崎からすれば殆ど意味のない提案だ。この場を退いたとしても別ルートで追いかければ済む話。アビドス三世を監視してはならない制限がある訳でもない。

 

 

 まさに無意味な約定――だが、それで良い。

 

 

 なにせ、このデュエルの本質は――

 

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 相手(デュエリスト)の闘志を折ることなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、その矛となる手札を神崎は見やった。

 

 

神崎の手札

《クリバー》

《クリビー》

《クリブー》

《クリベー》

《クリボー》

 

 

――れれれ、冷静になれ。

 

 

 と同時に固まった。

 

 

 久々に、とんでもねぇ手札だった。

 

 

 

 

 







Q:どうしてデュエルするの? 暴力でボコった方が早くね?

A:デュエル以外で闘志が一切折れない面々が「選ばれし真のデュエリスト」だからです。

後々の遺恨やら報復やら何やらを鑑みると、「もはやデュエルで心を折るのが最効率」レベルかと思われます。



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