マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
色んな人たちの色んな想い
デュエリストはその想いを背負っていけるヤツじゃないとね!

???「予想GUYです」((((;゜Д゜)ガクガクブルブル

イリアステルが本格的に動きだすでしょうね( ^ ω ^ )ニッコニコ





第33話 幻想は打ち砕かれるものである

 観客の大歓声を余所に牛尾は仕事を忘れ今のデュエルに魅入っていたが、恐ろしい上司の存在を思い出し、すぐさま作業に戻り神崎に報告を入れにいく。

 

 そこで牛尾が見たものは顔に手を当てる神崎の姿――手の隙間から弧を描くような笑みが垣間見える。

 

 その笑みに牛尾は戦慄した。

 

 基本的にポーカーフェイスの如く笑み一択の神崎だが、ここまで狂気的なものを牛尾は初めて見た故である。

 

 

 決して崩れることのない仮面に亀裂が入る程の「ナニカ」。

 

 

――いってぇ何を…………

 

 牛尾はいくら考えても分からない――今起こったのはキースが遊戯を倒したことだけ。

 

――キースが遊戯を倒した……?

 

 

 牛尾の背に嫌な汗が流れる。

 

 

 牛尾から見て神崎は「武藤遊戯」を過剰なほどに警戒していた。

 

 遊戯の摩訶不思議な力を知る牛尾から見てもそれは()()だった。

 

 そして神崎が遊戯に敵対しないのは「勝てない」という認識からくるものであると牛尾は睨んでいる。

 

 

 そんな遊戯が「敗北した」。

 

 

 それは神崎の枷とも言える認識が氷解したことと同義。

 

 

 牛尾は思う――自分たちにあまり時間は残されていないのかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

 当然牛尾の気のせいである――頬が引きつっているだけだ。

 

 だが今の神崎はそれどころではなかった。

 

 観客の大歓声をよそに神崎は思案する。思案する。思案する。思案する。

 

 頭の中はパニックに陥っていた。

 

 

 神崎はどこかもう一人の遊戯こと「アテム」という存在に幻想を持っていた。

 

 キースの予想以上の強さも神崎は理解していた――それでも遊戯なら、と盲目的に信じていた。

 

 アテムは「表の遊戯」以外に負けはしない、そんな幻想を持っていたのである。

 

 ゆえに世界が滅ぶ事件が頻繁に起こり、一度でも遊戯が敗北すれば世界の終わりを示している状況でも神崎はどこか安心して暮らしていられた。

 

――よりスムーズに世界が救えるようにと手助けすればいい

 

 そう考えていた。

 

 

 だが遊戯は敗北した。

 

 遊戯の勝利を盲目的に信じていた神崎にとってそれは「世界の命運がかかったデュエル」の際に遊戯が負ける可能性が跳ね上がったと考える――生きた心地がしない。

 

 「武藤遊戯」が勝てない相手をこの世界の誰が倒せるのか――少なくとも神崎自身には無理だと考える。

 

 

――備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。備えなければ。

 

 

 今の神崎の頭の中を占めるのは「脅威」を可能な限り「除去」する術を思案することのみだ。

 

 最悪の場合、敵に神崎自身が最初にぶつかり「武藤遊戯」の勝利の為に敵の「生きた情報」を伝えるなどの行動をとらねばならない――遊星の為にZ-ONEに挑み散っていったアポリアのように……

 

 命がけになるのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてここにも遊戯の敗北を許容できない男がいた。

 

「くっ……! バカな……遊戯が負けただと!」

 

「兄サマ……」

 

 海馬自身が認めた宿命のライバル――その男が自身以外に敗れるなど許容できる筈もなかった。しかしその怒りはそれだけが理由ではない。

 

――ヤツを倒すのはこの俺だ!

 

 そう意気込んで参加した今大会。

 

 海馬はこの大会を遊戯とのリベンジを果たしつつ、借り物である2枚の《青眼の白龍》の真の所持者となるための条件――「世界一のデュエリスト」になる――を満たすために用意した神崎の敷いたレールだと思っていた。

 

 

 そしてこの大会に参加した海馬には遊戯以外眼中になかった、「遊戯を降し、その()()()に全米チャンプとやらに引導をくれてやろう」とそんな認識だった。

 

 デュエルの結果として遊戯には敗れたが、海馬はその点については問題にしてはいない。

 

 キースを倒して優勝。さらにペガサスを打ち倒した遊戯をいつの日か倒せばいいのだと考え、その認識は変わらなかった――

 

 

 遊戯は決勝で全米チャンプ――キース・ハワードに敗北。

 

――その結果を見るまでは。

 

 

 

 この大会中に海馬にはある疑問があった。遊戯との再戦が準決勝だったことである。

 

 神崎が大会主催者側にいる以上、トーナメントは手を加えているだろうと海馬は考えている。

 

 そして神崎は海馬の機嫌を取る為に遊戯との再戦には最高の舞台を用意すると考えていた。ならば決勝で戦う方が良いことは誰の目にも分かる。だが再戦は準決勝。

 

 その疑問の答えを海馬は今知った――ゆえに湧き出る怒りを抑えられない。

 

 

 遊戯と海馬のデュエルを決勝戦にしなかったのは――

 

――「海馬ではキースには勝てない」そんな認識を神崎が持っているゆえであると――もちろん誤解である。

 

 

 

 キース・ハワード

 「デュエルモンスターズ」が生まれて間もなく「全米チャンプ」に上り詰め、そして今現在君臨し続ける存在。

 

 世界の壁を示すかのような存在を神崎が招待状を送り、今大会に招致した。

 

 海馬の内心は怒りに燃えていた。

 

 それは敗北した遊戯にではなく、海馬を「井の中の蛙」だ、と言わんばかりの神崎の言葉無きメッセージにである。

 

――どこまでも人を嘲笑う男だ!

 

 言い返そうにも海馬を降した遊戯がキースに負けたのだ――今の海馬は返す言葉など持ち合わせていない。

 

 

 海馬の認識通り、確かにキース・ハワードに招待状を渡しこの大会に呼び寄せたのは神崎である。

 

 だがそれは全米チャンプであるキースに大会に不法参加されても困るので招待状を送っておいただけに過ぎない。

 

 つまりは海馬の誤解である――そう伝えても信じてもらえそうにはないが……

 

 今日も今日とて2人の溝は深まるばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 城之内たちと合流した遊戯に仲間はかける言葉が見つからなかった。彼らが遊戯の敗北を見たのはこれが初めてなのだから。

 

 そんな中、遊戯はデュエル前に城之内から託されたカード()を手渡す。

 

「城之内君、このカードたち――返しておくぜ」

 

 だが城之内は受け取る手が出てこない。

 

「すまねぇ遊戯。俺は――余計なことをしちまったのかもしれねぇ……」

 

 一般的に新たなカードをデッキに加えるのは細心の注意が求められる。

 

 それはデッキのバランスを崩してしまう恐れがあるからだ。バランスを崩せばデッキは上手く機能しなくなる。

 

 師匠、双六の教えも相まって今の城之内は遊戯にカードを渡したことを悔やんでも悔やみきれなかった。

 

 そんな城之内に遊戯は優しげに語りかける。

 

「そんなことはないぜ、城之内君。このカードたちのお蔭で俺は最後まで戦い抜くことができたんだ」

 

 そう言って遊戯はカードを持つ手と城之内の手に重ね、感謝の意を示す。

 

 涙ぐむ城之内と共に沈黙が流れる。

 

 

「でも全米チャンプ相手にあそこまで戦えるなんて遊戯君はスゴイな~」

 

 沈黙を打ち破る獏良のマイペースさが今の城之内たちにはありがたかった。

 

「本当にスゴイデュエルだったね、お兄ちゃん! 私、デュエルのことはよく分からないけど私もやってみたくなっちゃった!」

 

「おっ! それならこの本田ヒロトに任せてくれ! 実は城之内にデュエルを教えたのは――」

 

 そんな静香の声に本田が猛アピールを始めるが――

 

「こらっ! 本田! 嘘を教えない! 城之内の師匠は遊戯のお爺さんでしょうが」

 

「おいこら本田!――どういうつもりだぁ!」

 

 杏子の告発と共に城之内も顎を尖らせ本田をひっつかみ追従する。

 

 

 そんないつもの変わらぬ風景に遊戯は自然と笑みがこぼれ、そんな遊戯に表の遊戯が問いかける。

 

――嬉しそうだね、もう一人のボク。

 

――ああ、最高のデュエルだったぜ、相棒。叶うならもう一度……いや、次は相棒の番かもな……

 

――ボクの番?

 

――ああ、いつも俺ばかりデュエルさせてもらっているからな――次は譲るさ……

 

――そんなこと気にしなくてもいいのに……でも、ありがとう。もう一人のボク。

 

 

 だが彼らのその約束は果たされそうにない――これから数々の困難が待ち構えているのだから……

 

 

 

 

 

 

 

――やっとここまで辿り着いた。

 

 今のキースはそんな心境だった。

 

 ペガサスとの縁は「デュエルモンスターズ」のプロモーション時の少年トムを介しての同じデッキでのデュエル。

 

 そのデュエルの敗北が全ての始まりだった。

 

 再戦を誓ったキースだがその道のりは長くなるだろうと予想していた。どんな経緯があれ「素人同然の子供に負けた」という事実が再戦を遠ざけるだろう、と。

 

 そしてその事実からある程度のバッシングは覚悟していたキースだが、そういった声は驚くほど少なかった。

 

 何故なのか――キースはそれをすぐに理解する。

 

 

 見る人が見ればトム少年のデュエルはペガサスの言葉、仕草などによって全て誘導されていたと分かるものである――キースもデュエルの最中に感じ取っていた。

 

 そしてその事実に気付いた人間はキースとペガサスの目に付き難い攻防に目が付く――バッシングなど起ころうはずもない。

 

 

 そして「デュエルモンスターズ」を詳しく知らない人間ならば可能性に満ちたものに見える。

 

 その輝きに引き寄せられデュエルを続けていけば前述したキースとペガサスの攻防に気が付く――師事した人間に気付かされることもあるだろう。

 

 

 つまりキースが敗北した場合のケアも最初から織りこみ済みの試合だったのだ。

 

 

 そのことに行きついたキースは笑うしかなかった。「全米一のカードプロフェッサー」、そして「全米チャンプ」が敗北する前提での試合。

 

 苛立ちは起こらなかった――現にそうなってしまったのだから。

 

 

 故にキースはペガサスとの再戦のついでにあの男の思惑も超えてやろうと心に誓う――驚く姿を拝んでやろう、と……

 

 

 

 そこからキースは突き進んだ。

 

 外野を自身のデュエルで黙らせ全米チャンプに君臨し続け、並み居る挑戦者たちを打ち倒し己の糧とした。

 

 そして決闘者(デュエリスト)王国(キングダム)に参戦。

 

 そこでの思わぬ挑戦者との出会い。

 

 あの時の少年トムが一端のデュエリストの顔つきでスターチップを全て賭けてのデュエル。

 

 それは少年トムなりに一部の周囲のキースへの認識を正そうと挑んできたことをデュエルで感じ取りキースの背中はむず痒くなった。

 

――子供(ガキ)が気を使うんじゃねぇよ。

 

 そうぶっきらぼうに言ったキースの言葉を聞いた少年トムの笑顔をキースは忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペガサスは自室でデュエルの準備をしながらシンディアと語り合っていた。

 

「遂にあの時果たせなかった勝負ができマース。招待状を送ってくれたMr.神崎に感謝デース」

 

 ペガサスは高揚を隠しきれない。

 

「そして遊戯ボーイもデース。あれ程のデュエリストが一体どこに隠れていたのか不思議でなりマセーン」

 

 新たなデュエリストの台頭に、一体どこに隠れていたのかと思案するペガサス。

 

 そんなペガサスをみてシンディアは嬉しそうにそれを指摘した。

 

「でもペガサス、今の貴方――とっても楽しそうよ?」

 

「それは当然デース! ワタシも1人のデュエリスト――あんなデュエルを見せられてはデュエリストの血が騒ぎマース!」

 

 ワクワクする気持ちが抑えられないペガサス。その姿にシンディアはクスリと笑う。

 

「ふふっ、遠足前の子供みたい」

 

「Oh! まさにその通りデース! デュエルが楽しみで仕方ありまセーン」

 

 そうこうしている内にデュエル開始の時刻が迫ってきた事に気付く2人。

 

「あら? そろそろ時間みたいね……私も月行と応援するから――頑張ってね」

 

「Wow! その応援があればワタシは無敵デース」

 

 愛する人の応援にペガサスの気力はなお充実した。

 

 

 

 

 

 

 デュエル会場に並び立つ2人のデュエリスト、

 

「こうしてデッキを手に向かい合うのは、あのとき以来デスネ、キース」

 

 過去を懐かしむペガサス。

 

「御託はいらねぇぜ。2人のデュエリストがこうしているんだ――やることは一つだろ」

 

 長らく追ってきた獲物を前にキースは今にも飛びかからん勢いだ。

 

「……そうデスネ。ワタシが無粋だったようデース――ではデュエル開始の宣言をお願いしマース」

 

 そしてペガサスはMr.クロケッツに指示を出す。

 

「ペガサス・J・クロフォードVSキース・ハワードの試合を執り行わせてもらいます――ラストデュエル開始!!」

 

「「デュエル!!」」

 

 





遂に因縁の2人が激突!


そしてデュエリストキングダム編 もうすぐ完結!


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