マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
シャドウ・グール「くそぉ、一足遅かったのか。遊戯め、まんまと盗みおって」

レベッカ「違うわ! ダーリンはなにも盗らなかった! 私のデュエリストの誇りのために戦ってくれたのよ!」

シャドウ・グール「いえ、奴はとんでもないものを盗んでいきました」

レベッカ「?」

シャドウ・グール「あなたの心です」( ・´ー・`)ドヤァ……






第48話 出会いと再会はいつだって唐突

 KCの訓練室で力尽き倒れるデュエリスト2名――竜崎と羽蛾。

 

 そんな2人に牛尾が檄を飛ばす。

 

「おらっ! いつまで寝てんだ! さっさと起きねぇか!」

 

「ヒョエ~思ってたのと違う……」

 

「ワイも同意見や……」

 

 項垂れる羽蛾と竜崎。そんな2人に牛尾はしょうがないことだと言い聞かせる。

 

「お前ら2人の試験の結果が散々だったからだろうが……恨むんならテメェの実力を恨みな」

 

――試験

 

 それは神崎がデュエリストを雇った際にどの程度の実力があるのかを計る目的で行わる。

 

 そしてその実力が不足と判断されれば今の2人のようにテコ入れが入る。

 

 

 だが牛尾はこの試験での合格基準が厳しすぎるのではないかと常々思う。今まで突破者が誰一人としていないのだから。

 

「へばってちゃ、いつまでたっても終わらねぇぜ! あとちょっとなんだからよ――踏ん張りな!」

 

 そんな牛尾の言葉にこれまで幾度となく逃げ出したいとの思いがあった2人だが、今の今まで何とかと留まっている。

 

 

 それは訓練前に渡された自身のデッキにピッタリと合うレアカードと「期待している」との言葉だった。

 

 レアカードを受け取ってしまったゆえに辞めづらく、辞めてしまえばこのレアカードを返却しなければならない可能性と、「期待されている」事実が逃げ出そうとする足を止める。

 

 

 だがツライものはツライ。

 

 ゆえに休憩時間を稼ぐために他愛のない話で時間稼ぎを始める2人。

 

「そう言えば、言ってはった企業間での契約デュエルの話なんですけど、負けたらどんくらいの損失になるんでっか? 負けてもペナルティないんは聞きましたけど、そ、その、気になるんで……」

 

 息も絶え絶えに放たれた竜崎の言葉に、牛尾は顎を抑えつつ考える。

 

「そうだな~そいつは契約内容にもよるんだろうから……これといった金額は明言できねぇな。まあかなりの金額になるんじゃねぇか?」

 

「かなりっていうとどのくらいなんだ――じゃなくて、ですか?」

 

 一応敬語を使い尋ねる羽蛾。

 

 そんな羽蛾に対し牛尾は意地の悪い顔で答える。

 

「さぁな、ひょっとするとこの会社を揺るがしかねねぇかもな!」

 

「ちょっとまってくださいよ! ワイらにそんなデカい勝負させる気でっか! 無茶言わんといて下さい!」

 

「ちょっと待て! 俺も一緒にするな!」

 

「なら羽蛾、お前はそんなデカい勝負受けれんのか?」

 

「い、いや~それは、その~」

 

 怖気づく竜崎に、口ごもる羽蛾。

 

 そんな2人を安心させるように牛尾は笑いながら言う。

 

「ハッハッハッ! そこらへんは安心しな! お前ら2人が3人制のデュエルで最後を務めることはねぇよ」

 

「やっぱですか! そういうんはベテランのギースハンとか先輩の牛尾ハンの担当になるんですね? 牛尾ハンは最後のデュエルどうでした? プレッシャーとかしんどそうですけど」

 

 その言葉に安心したと一息つく竜崎。そして恐らく最後、トリを務めるのは牛尾たちベテラン勢だと様子を聞いてみるが。

 

「あ~、最近は2人目まででケリが付いてるのもあるが、基本的に俺たちが最後を戦うことはねぇからよ」

 

「――『たち』ってことは神崎ハンの右腕っぽいギースハンもでっか?」

 

 竜崎は牛尾の言った「俺」ではなく「俺たち」という言葉からかなり勤続年数が長いであろうギースですらトリを務めたことはないのかと疑問をぶつける。

 

「ああ、そうなるな。そういうのはうちの秘密兵器のヤツが引き受けるからな」

 

「秘密兵器? ソイツって――」

 

 さらに問いただそうとする竜崎の言葉は続けられなかった。

 

「何をしている、牛尾。 新人たちの訓練は終わったのか? 終わったのならこんなところではなくキチンと休める場所に――」

 

 いつの間にか近くにいたギースが会話を横切り牛尾に状況を問いかける。

 

「おっといけねえ。じゃあそろそろ再開すんぞ。休憩は充分だろ」

 

 さらりと竜崎と羽蛾の目的を察していたことを牛尾は明かしつつ。訓練に戻ろうとするが。

 

「ちょっと待ってくださいよ! せめてその人のこと聞かせてもらってもエエですか!」

 

 竜崎のデュエリストとしての本能がまだ見ぬ強者への興味を駆り立てる。

 

「何の話だ? 牛尾」

 

 今来たばかりのギースには話が見えない。

 

 だが牛尾は慌ただしく2人を急かす。

 

「い、いえ、なんでもねぇんです。おら! 訓練にもどるぞ!」

 

「ヒョッ! 俺も腕利きのデュエリストの話は同じデュエリストとして気になるぜ~」

 

 もう少し休みたい羽蛾も興味があることを盾に追従するが。

 

「腕利き? まさかヤツのことか!!」

 

 語気を荒げたギースと額に手を当てて天を仰ぐ牛尾の姿から、羽蛾はギースの地雷を踏んだことを悟った。

 

「あんなヤツなどあの方には不要だ! 勝手気ままに振る舞いおって!!」

 

「ヒョッ!?」

 

「だいたいヤツは――」

 

 そこからまくし立てるように溢れ出る鬱憤。

 

 普段からKCにおらず気ままに行動しているように見える点や、神崎と直接顔を合わせようとしない態度などなど、様々な怒りが怒涛の勢いで愚痴となって羽蛾に直撃する。

 

「ヒョエェ~!」

 

 ヒートアップするギースに付いて行けない羽蛾。

 

「――ヤツをお払い箱にするためにも我々デュエリストは早急にヤツを超えねばならん! 解ったらさっさと訓練にもどれ!」

 

「ヒョ、ヒョ! 了解しましたぁ!」

 

「ガッテン了解ですわ!」

 

 そんな羽蛾と竜崎に檄を飛ばし、憤慨しながら立ち去るギース。

 

 その後姿を見ながら竜崎は思わず尋ねる。

 

「なんであんな怒ってはるんやろ?」

 

「ギースの旦那はヤツのことあんま快く思ってねぇからなぁ、あの神崎さんが『扱いにくい』って言いきるぐらいだし、いろいろあんだろ……ほら! さっさと訓練戻るぞ」

 

 その牛尾の返答を最後に竜崎と羽蛾の訓練は再開され、2人のデュエリストは今日も今日とて限界に挑戦する。

 

 健全なデュエルは、健全な肉体と精神からだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海馬は神崎の会って欲しい人間がいるとのことから時間の都合をつけ、社長室に神崎共々呼び出したのだが、来たのは神崎一人。会わせたいであろう人間は見当たらない。

 

「会わせたい奴とやらをさっさと呼べ。俺は忙しい、手短に済ませろ」

 

 相も変わらず神崎を毛嫌いする海馬。

 

 神崎も引っ張ることでもないため入室を促す。

 

「では早速、入ってもらってかまいませんよ」

 

 そして社長室に入出するモクバよりも若干年上の少年。

 

 その姿を見てモクバは一瞬言葉を失う。

 

「昔の兄サマにそっくりだ……」

 

「こんにちは海馬瀬人。僕は海馬乃亜、名前くらいは聞いたことがあるだろう?」

 

「海馬だと――まさか貴様は!」

 

 海馬の名字で海馬瀬人は思い至る――KCには元々正当な後継者がいたことに。

 

 だがそれは遥か過去の話であり、外見年齢が一致しない。

 

 そしてその後継者は若くして亡くなっていると聞かされ、その穴埋めとして剛三郎が海馬瀬人を後継者として引き取ったとBIG5からは聞かされている。

 

 そう思い至った海馬の姿を見て内心ほくそ笑む乃亜。

 

「久しぶりだね、瀬人――と言っても僕が一方的に知っているだけだけどね」

 

「貴様は既に死んでいる筈だ……神崎! これもお前の仕業か!」

 

 ジロリと神崎に視線を向ける海馬。

 

 そんな海馬に内心冷汗を流しつつも神崎は用意していたバックストーリを答える。

 

「はい。実は――」

 

「それ以上は聞く気はない。貴様の仕業だと分かればそれでいい。用件はコイツの紹介だけか?」

 

 だが海馬はその話を最後まで、というよりも一切聞くことなく、神崎をさっさと追い出しにかかるが――

 

「始めましてモクバ。僕は海馬乃亜、血の繋がりはなくとも君の兄だよ。乃亜兄様とでも呼んでくれ」

 

「おう、よろしくな!」

 

 いつもの姿からは想像できない程に優しい声色でモクバに話しかける乃亜。

 

 さっそく兄弟の絆を育んでいた。

 

 モクバは昔の兄の面影が残っていることと海馬に比べて肉体年齢が近いことも相まって警戒心は低い。

 

「ッ! モクバから離れろ!」

 

 過保護な海馬はモクバから乃亜を苛立ちながら引き離そうと動く――神崎が連れてきたことも相まって海馬の警戒心は高い。

 

 だが乃亜はすまなそうな顔をしてモクバの肩に手を置き海馬を見やる。

 

「ああ、すまないね、瀬人。君を仲間外れにするつもりはなかったんだ。もちろん君も僕の大事な弟――乃亜兄さんと慕ってくれて構わないよ」

 

 生きた年月を考えれば乃亜は確か海馬三兄弟の中では長兄であった。だが――

 

「ふぅん、笑わせる。そんなナリで俺の兄を語るとは片腹痛いわ!」

 

 乃亜の体格はモクバよりも少し上の程度――長身である海馬瀬人と比べると……お察しの通りである。

 

 乃亜を嘲笑う海馬。だが乃亜は内心でイラッとしつつも表面上の余裕は崩れない。

 

「フム、君の言うことにも一理あるね。世間的に考えれば僕が次男としてあるべきか……なら不甲斐ない兄を僕がサポートしてあげるよ――瀬人() () ()

 

 身体年齢的に正しい三兄弟の在り方に見えなくもない。

 

 そして微塵も敬いが感じられない。

 

「貴様ァ!」

 

 乃亜の挑発に怒りのボルテージが一気に上がる海馬。

 

「怖いなぁ。助けてくれモクバ。瀬人兄さんが僕を苛めるんだ」

 

 モクバの後ろに隠れるように立ち、海馬をさらに挑発する乃亜。

 

 内心で「YA☆ME☆RO」と願う神崎。

 

 

「兄サマも乃亜も喧嘩しちゃだめだぜ! 兄弟は仲良くしなくちゃ!」

 

 そして頼られて満更でもないモクバ。

 

「グッ……」

 

 ならばと海馬はモクバの手を取り乃亜から物理的に距離を取らせるが――

 

「おや? 嫉妬かい? 見苦しいよ、瀬人() () ()

 

 乃亜の軽口めいた挑発が続き海馬の怒りは炎のように猛り、遂には爆発するかに思えたが――

 

 モクバが乃亜へ告げた言葉に遮られる。

 

「お前のことは『乃亜』って呼ばせてもらうぜぃ! 俺にとっての兄サマは兄サマだけだから……」

 

 鼻をかき照れながら付け足されたモクバの言葉と共に海馬の苛立ちは鎮火された――チョロ……兄弟の絆は偉大である。とても偉大である!

 

「そうかい? ならそれで構わないよ。しかし瀬人――君も愛されてるねぇ。ククッ」

 

 乃亜はそんな兄弟のやり取りをどこか羨ましそうにしつつ、その感情を軽口で隠す。

 

「チッ! 用が済んだのならさっさと出ていくがいい!」

 

「了解しました。では乃亜行きますよ」

 

 さすがにこれ以上海馬の機嫌を損ねるわけにはいかないと早々に退出しようとした神崎だが――

 

「またねモクバ。それと今後ともよろしく――瀬人 () () ()

 

 乃亜の最後の言葉に海馬の視線がさらに鋭くなった。

 

 神崎の胃は今日も痛む気がする――そういった痛みからは冥界の王の力を得た時に解放された筈なのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あくる日のKCのオカルト課の窓口で客人が何やら騒いでいた。

 

 その受付で騒ぐのは2人――というより騒ぐ1人と抑えようとする1人

 

「だ・か・ら! 海馬瀬人に繋いで欲しいって言ってるの!」

 

 その騒ぐ1人の金髪のツインテールの少女――レベッカ・ホプキンス。

 

 その勢いに鼻眼鏡をかけた受付の女性はタジタジになりながらもその勢いを抑えようと奮闘していた。

 

「で、ですから、ぶ、部署が違いますし、それにアポイントもなしに、その、社長に……お繋げることは――」

 

「そこを何とか、お願い!」

 

 なおも頼み込むレベッカを抑えようとしていた1人――武藤遊戯が懸命に動く。

 

「ちょっとレベッカ落ち着いて、海馬君だって忙しいだろうから、僕の友達がすみません――えっと北森さんでしたよね?」

 

 レベッカを抑えながら、その友人の無礼を謝りつつ、最初に自己紹介があった受付の人間の名前を確認する遊戯――大変そうであった。

 

 そんな遊戯を眼鏡の位置を直しつつ、心の中で応援する受付の女性、北森 玲子(れいこ)

 

「い、いえ自分が望んだ仕事ですので……」

 

 そう遊戯に小さく返す。

 

 だがそんな遊戯の防波堤もあっけなく崩れさる。

 

「ダーリンもお願いするの手伝って! これは私にとって大事なことなの! なら神崎って人でもいいから! たしかダーリンと面識あるんでしょ!」

 

 レベッカがここまで《青眼の白龍》に拘るのには理由があった。

 

 レベッカの祖父アーサーが所持していたのもが双六にわたり、最終的に海馬に渡っている。

 

 そしてそのことを知ったレベッカが日を改めてKCに愛する人となった遊戯を引き連れ突撃した経緯があった。

 

 だがアポイントなしに社長である海馬に会える訳もなく、受付で突っぱねられた。

 

 だが遊戯からKC内で発言力を持つ神崎の存在を知り、どうにかして海馬との会合の都合をつけようとオカルト課に突撃し、奮起しているのだ。

 

 

 このままでは収拾がつかないと思い始めていた受付の北森と遊戯の前に場の空気を変える人物が現れた。

 

「なんやエライ騒がしいな~って遊戯やんけ。どうかしたんか?」

 

 KC所属となったダイナソー竜崎である。

 

「君は確かダイナソー竜崎君! でもなんで竜崎君がKCに?」

 

 ペガサス主催の大会――決闘者の王国(デュエリストキングダム)以来だと考えるも、何故ここにいるのかと疑問を投げかける遊戯。

 

「ん? ああそのことやったら、あの大会が終わってから『専属デュエリストに』って話が来たんや。それでワイはその話を受けて羽蛾の奴と一緒にここにおらせてもらってるんやで」

 

「羽蛾君も一緒に? ならその羽蛾君は?」

 

 新たに聞かされた知った名前を聞いた遊戯はさらに尋ねる――レベッカは蚊帳の外だ。

 

「羽蛾のヤツならまだデュエルロボとデュエルしとる筈やで、会ってみるか? そのデュエルロボがこれまたメッチャ強ぉてな~」

 

「竜崎君がそこまで言うほど強いの?」

 

 1人のデュエリストとして強者に敏感に反応する遊戯。

 

 そんな遊戯に竜崎は悪い顔をしながらある提案を出す。

 

「そりゃも~強いのなんのって……せっかくやからデュエルしていくか?」

 

――もちろん!

 

 そう答えようとした遊戯に雷が落ちた。

 

「ちょっとダーリン! 私の目的忘れないでよ!」

 

「あっ! ゴメンねレベッカ……久しぶりの再会だったから。それで僕たちがここに来たのは――」

 

 大まかなことの経緯と目的を竜崎に話した遊戯。

 

 竜崎は全ての話を聞き終え最初にしたことは――

 

「ほ~なるほど、そういう事情やったんか。しっかし『ダーリン』とはお前も隅に置けんやっちゃな! このっ! このっ!」

 

 1人のデュエリストのめでたい話を祝い、遊戯の脇腹を肘で軽くつつく。

 

「いやレベッカとはそういう訳じゃ……」

 

 苦笑いしながら弱々しく否定を入れる遊戯。

 

「それで海馬のヤツ――じゃなくて海馬社長に会いたいんやったら力になれるかも知れんで、まぁとりあえず場所変えよか」

 

 竜崎は遊戯の彼女の力になってやろうと動く前にとりあえず場所を変える――さすがにそろそろ周囲の視線が痛かった。

 

 

 ちなみにレベッカは遊戯の彼女ではなく、レベッカの一方的な片思いである。

 

 

 

 

 別室へと案内した竜崎はとりあえず2人にお茶と菓子を出しレベッカに尋ねる。

 

「手ぇ打つ前に聞いときたいんやけど海馬社長にあって嬢ちゃんはどうするんや?」

 

「なんでそんなこと聞くの?」

 

 竜崎の質問に場合によっては会わせない気配を感じ取ったゆえに質問に質問を返すレベッカだったが竜崎の意図はそこにはない。

 

「そりゃブルーアイズを社長から『デュエルで奪い返す!』って話なんか、社長から『買い取る』って話かで対応が変わるやろ? それでや」

 

 そう言いながらあの社長いくら出そうとも首を縦には振らないだろうと思う竜崎。

 

 遊戯もまたレベッカの真意は聞かされておらず「まずは会う」が目的となっていたため気になるところではある。

 

「そ、それは……」

 

 言いよどむレベッカ。そんなレベッカに竜崎は厳しい言葉を投げかける。

 

「人様に言えんような理由やったらワイは何もしてあげられへんで?」

 

 海馬瀬人は竜崎の所属する企業のトップゆえに対応は自然と厳しくなる。

 

「そ、それは……」

 

「「それは?」」

 

「お爺ちゃんの《青眼の白龍》をもつのがどんな人間かこの目で見極めるためよ!」

 

 思っていたより大した理由ではなかった――いや、デュエリストとしては大した理由なのだろう。

 

「あ、もしもし牛尾ハン? ちょっとお頼みしたいことがあるんでっけど――」

 

 警戒して損したと言わんばかりに牛尾に電話をかける竜崎。

 

 そんな竜崎の分かりやすいまでの呆れている態度がシャクにさわったのか思わず立ち上がるレベッカとそれを止める遊戯。

 

「ハイ、ハイ。出来たらでエエんで……ほな、お願いします――よっしゃ!」

 

「どうだった竜崎君?」

 

 通話を終えた竜崎におずおずと尋ねる遊戯。そんな遊戯に竜崎は親指を立て言い放つ。

 

「とりあえずワイの先輩の牛尾ハンに話は通してみたで!」

 

「で、それで結局どうなるの?」

 

 大口を叩いておいて先輩に連絡しただけの竜崎をジト目で見つめるレベッカ。

 

 レベッカの望んだ海馬とも神崎とも今の所連絡は繋がってはいない。

 

「そう慌ててもエエことないで? これでワシの先輩の牛尾ハンに話が届いて

さらに牛尾ハンから、その上司のギースハンに話が届いて

そのギースハンから、上司の神崎ハンに話が届いたら

その神崎ハンから、社長に話が届くっちゅうわけや!」

 

 まるで日本の昔話の一つのような伝言ゲームに思わずレベッカはぼやく。

 

「……回りくどいわね」

 

「そう言われてもワイはまだまだ下っ端やからトップの社長に直接話繋ぐのなんて無理やで……そういうんは出来る人に頼まな」

 

「でもわざわざ僕たちのためにありがとう竜崎君。ほらレベッカもお礼言わなきゃ」

 

「ええ、感謝するわ! ありがとう!」

 

 2人の礼を受けつつ、「仲がエエなぁ~」と竜崎は思いつつ3人で談笑を続ける。

 

 2人の出会いはどうだったのかと尋ねた竜崎にレベッカがそれは運命的なものだったと返す。

 

 そんな乙女チックな会話を羨ましそうに聞いていた竜崎だったが、その楽しい時間も電話が鳴るとともに終わりを告げ、通話に応じる竜崎と結果を待つ2人。

 

「ハイ、そうでっか……いえ、こっちも急な話でスンマセン……ハイ、ほな」

 

 そう言って電話を竜崎に2人の期待に満ちた視線が突き刺さる。

 

「どうだったのっ!」

 

「いや、それが今社長はなんか誰かに呼び出されて忙しいさかいに会うんは無理やそうや……」

 

「なら神崎って人は!」

 

 海馬が無理ならばと一縷の望みをかけてレベッカはもう1人の人物に望みをかけるも――

 

「神崎ハンの方でもなんか忙しいそうやから、こっちも無理や、でも――」

 

「「でも?」」

 

「――神崎ハンが言うにはやけど、近々ここ童実野町で大会が開かれるらしくてな? その大会に参加すりゃ社長に会いつつ、ひょっとしたらブルーアイズを取り返せるかもっちゅう話らしいで?」

 

 伝言ゲームのように伝えられた話をレベッカに伝える竜崎だが話している本人にもよく分かってはいない。

 

「なにその怪しさ満点の話……」

 

 レベッカも同意見のようだ。

 

 親友の恩人の話ゆえに遊戯も怪しさを感じつつ援護に回る。

 

「で、でもこんな嘘をつく人じゃないし、少しだけ待ってみたらどうかなレベッカ? 僕の方にも何か情報が入ったら連絡するからさ!」

 

 そして「連絡をする」という遊戯の発言に12歳にして大学生である明晰な頭脳を持ったレベッカは喰いついた。

 

「ならダーリンの連絡先も教えて! はい! これが私の連絡先!」

 

 恋する乙女は強い――ただでは転ばない。

 

 この後茶菓子を堪能しつつKCを後にするレベッカを見て竜崎はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 KCに呼び出されたアヌビスは神崎の前で苛立ちを隠さずに睨みをきかせる。

 

 そんなアヌビスを溜息を吐きつつ見やった神崎はおっくうそうに口を開く。

 

「アヌビス、何故呼び出されたか分かりますか?」

 

「いや」

 

 即答である。

 

 それに対しこれは厄介だと内心で頭を押さえながら神崎は確認作業に入る。

 

「…………ギースや北森さんが主導して計画した歓迎会をことごとくボイコットしているとの報告を受けましたが――本当ですか?」

 

「ふん、貴様が言った『現世を謳歌』など我には興味はない」

 

 アヌビスの言うとおり神崎が最初に命じた『現世の謳歌』は何一つ実行されてはいなかった。

 

 「遊べ」と言われて此処まで拒否するものも珍しい。

 

 

 だがそれは社畜的な忠誠によるものなどではなく、アヌビスの復讐心が燃え滾るゆえのものであった。

 

 アヌビスは自身が任務などでそれ相応の結果を出し、自身の要望を速やかに通したいのだ。

 

 早い話が「さっさと復讐させろ」と言うことである。

 

 

「私が何故『現世を謳歌』と命じたか分かっていないようですね……」

 

「今の我に遊びに興じている暇などない! さっさと任務でもなんでも命じるがいい!」

 

 溜息混じりに向けられる神崎の言葉にアヌビスは激昂するかのように任務を願う。

 

 

 だが今のアヌビスに仕事(任務)は回せない。

 

 

「本当に分かっていないようですね――今の貴方では使い物にならないと言っているんですよ」

 

「なにっ!」

 

ココ(オカルト課)に破壊を振り撒く戦闘マシーンは必要ありません。必要なのは『戦士』です」

 

 そもそもアヌビスが雇われた理由は「名もなきファラオの因縁を知る協力者」が必要だったためである。

 

 アヌビスの「力」自体を欲したわけではない。

 

 

 デュエルの腕前なら所属するデュエリストで十分事足り、

 

 オカルト系統の力ならギースの精霊の力を借りるサイコパワーや人造闇のアイテム「精霊の鍵」で事足り、

 

 純粋な破壊の力なら神崎が冥界の王の力を振るえば済む話である。

 

 

 神崎はアヌビスに「そんなもの」は求めていない。

 

「何を言う! 貴様に与えられたカードもデッキに組み込ませ、現代の情勢も問題なく把握したではないか!!」

 

「デッキを万全にしておくのは『当たり前』です。それに現代の情勢も『知識』だけでしょう?」

 

 アヌビスの言い分を一切評価しない神崎。

 

 

 だがそれも無理からぬこと、アヌビスは致命的なまでに「求められている」ことを理解していなかった。

 

「貴様、言わせておけば……」

 

 しかし、そうとは知らないアヌビスに剣呑とした雰囲気が溢れる。

 

 それに対し妥協案を提示する神崎。

 

「でしたら納得できない貴方のために後日『テスト』を行いましょう。このテストを何一つ問題なくクリアできるのなら私もこれ以上『現世を謳歌』などとは言いませんよ」

 

「いいだろう! そのくだらぬテストなど早々に終わらせてくれるわっ!」

 

 売り言葉に買い言葉のように了承したアヌビスは怒りながら部屋を後にする。

 

 

 

 アヌビスは知らない。神崎はただ「オカルト関連で説明が面倒な範囲の仕事」を任せたいだけなのだと。

 

 そう、求められているのは「様々な仕事を任せられる器用さ」だった。

 

 




竜崎と羽蛾の改造――最終段階
結果にコミットされる
なお。これでもトレーニングは易しい部類だそうです


~入りきらなかった人物紹介~

北森(きたもり) 玲子(れいこ)

原作では――
「遊戯王R」にて登場したカードプロフェッサーの一人。
デュエルモンスターズを始めて1ヶ月程度にも関わらず、
バトルシティを戦い抜いた城之内相手に実質勝利する実力を持つ。

彼女に対して放たれた城之内の発言は「戦術批判」に取られかねないこともあり
遊戯王ファンの間で色々と物議をかもした。

自分以外のデュエリストを怖がっているが、城之内とのデュエルにて緩和された模様。


今作では――
その実力を「原作」より知っていた神崎にスカウトされた。
そして「守りを固める戦術」の楽しさを教えられる。

デュエルマッスルに対しても「デュエリストって大変なんですね」などと思いながら
生来のマジメな性格も相まって精進し続けた結果、
リンゴ程度容易く握りつぶして木端微塵にできるようになった。

他者を怖がる自身を変えたいと受付を希望。

KCのオカルト課のデュエル戦士の中での実力は上から数えた方が早い。


~用語紹介~
カード・プロフェッサーとは
デュエルの大会などの懸賞金を狙うデュエリスト達の総称。
傭兵的な存在でもあり、いわゆる雇われデュエリストのような側面も持っている。

原作のキース・ハワードも所属していた

だが今作のキース・ハワードはチャンプで忙しいため「元」所属となっている。


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