マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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ドクターコレクターVSアクター 後編です



前回のあらすじ
アクター「墓地は公開情報――ゆえに(超視力で)見て確認する」

牛尾「いや、無茶言うなよ」



第67話 完全記憶

 

 

 

 アクターの大量に発動されたカードの数々に強い警戒を見せるドクター・コレクター。そして意を決してデッキに手をかける。

 

「…………私のターン! ドロー!」

 

 セットカードが0にも関わらずドクター・コレクターの手札は2枚――少々心許なかった。

 

 だが足りないならば増やせばいい。

 

「貴様のデッキが魔法使い族を用いるのならばこのカードは不要だ! 私は墓地の《シャッフル・リボーン》を除外し効果を発動! 私のフィールドの永続魔法《魔法族の聖域》をデッキに戻し1枚ドロー!!」

 

 《魔法族の聖域》が光の粒子となって消えていき、その光はドクター・コレクターの手札に加わる。

 

「次に魔法カード《闇の量産工場》を発動! 墓地の通常モンスター《ヂェミナイ・エルフ》と《コスモクイーン》を手札に!!

 

 地面から縦にせり上がったベルトコンベアに手をかけて上る2体の魔法使いがドクター・コレクターの元に戻り――

 

「さらに魔法カード《トレード・イン》! 手札のレベル8の《コスモクイーン》を墓地に送り2枚ドロー!!」

 

 すぐさま墓地に戻される《コスモクイーン》――恨めしそうにドクター・コレクターを見つめるが当の本人は気づいた様子はない。

 

「そして《ヂェミナイ・エルフ》を通常召喚!!」

 

 白い肌に金の髪の妹と黒い肌で赤毛の姉の双子のエルフが仲睦まじく歩み出る。

 

《ヂェミナイ・エルフ》

星4 地属性 魔法使い族

攻1900 守 900

 

「そして《ヂェミナイ・エルフ》に装備魔法《ワンダー・ワンド》を装備!!」

 

 《ヂェミナイ・エルフ》に緑の宝玉があしらわれた杖が現れる。

 

「攻撃力が500ポイントアップするが――私は《ワンダー・ワンド》のもう一つの効果を発動する!」

 

 姉妹仲良く《ワンダー・ワンド》を手にしていたが――

 

《ヂェミナイ・エルフ》

攻1900 → 攻2400

 

「《ワンダー・ワンド》自身とそれを装備した《ヂェミナイ・エルフ》を墓地に送りデッキからカードを2枚ドロー!!」

 

 《ヂェミナイ・エルフ》は《ワンダー・ワンド》に吸い込まれ姿を消し、その杖が光となってドクター・コレクターの手札を潤した。

 

「おっと3枚の魔法カードが発動したことで《マジカル・コンダクター》にさらに魔力カウンターを乗せさせて貰おう!!」

 

 《マジカル・コンダクター》の周囲には20を超える魔力カウンターが浮かんでいる。

 

 だが当の《マジカル・コンダクター》はその数の多さに若干息苦しそうだ。

 

《マジカル・コンダクター》

魔力カウンター:16 → 18 → 20 → 22

 

「ククッ! 貴様のサイレント・マジシャンの攻撃力は確かに脅威だが――わざわざ真正面から相手をすることもない! 私は魔法カード《メガトン魔導キャノン》を発動!!」

 

 ドクター・コレクターの背後に太古の技術で生み出された砲台がどこからともなく現れる。

 

「このカードは相手フィールドの全てのカードを破壊する!!」

 

 そう言って砲台をアクターのフィールドに向けるドクター・コレクター。そして嗜虐的な笑みを浮かべながら語る。

 

「だがその条件として私のフィールドの10個もの魔力カウンターを取り除かねばならんが――」

 

 その重い発動条件も問題なくクリアされている。

 

「――貴様が魔法カードを乱発したお蔭で《マジカル・コンダクター》には22個もの魔力カウンターがある!!」

 

 他ならぬアクターの手によって。

 

「貴様の魔法カードの乱発が己の首を絞める結果になるとはな! 魔力カウンター充填!!」

 

 そして《マジカル・コンダクター》が周囲の魔力カウンターを引っ掴み、《メガトン魔導キャノン》にくべていく。

 

《マジカル・コンダクター》

魔力カウンター:22 → 12

 

「《メガトン魔導キャノン》!! 発射ァ!! 薙ぎ払え!!」

 

 やがて《メガトン魔導キャノン》に魔力が漲り、全てを破壊する古代魔法文明の英知の結晶がドクター・コレクターの宣言によって今! 放たれ――

 

 

 なかった。

 

 

 思わず振り返って《メガトン魔導キャノン》の状態を見るドクター・コレクター。

 

 しかし肝心の《メガトン魔導キャノン》はその内部で熱暴走を起こし、表面がドロドロと溶け始めていた。

 

「どうした! さっさと撃たんか!! それでも禁忌の兵器か!!」

 

 そのドクター・コレクターの声にも《メガトン魔導キャノン》は何の反応もしない。

 

 そんなドクター・コレクターにアクターは内心の言い難さを隠しつつ告げる。

 

「……《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》は1ターンに1度、魔法カードの発動を無効にできる」

 

 サイレント・マジシャンがその指をならすと《メガトン魔導キャノン》は内側から爆発し、その溶けた残骸だけが地面に転がった。

 

 その破壊兵器の残骸を軽蔑するかのように冷たく見下ろすサイレント・マジシャン。

 

 

 魔法カードの「発動が無効」つまり「発動していないことになった」ゆえに《マジカル・コンダクター》に魔力カウンターが乗ることはない。

 

 思わぬ迎撃に苛立ちつつもドクター・コレクターの手は止まらない。

 

「くっ! ならば《マジカル・コンダクター》の効果を発動! 魔力カウンターを8つ取り除き、墓地からレベル8のモンスターを特殊召喚だ!!」

 

 《マジカル・コンダクター》が天に描いた魔法陣に魔力カウンターが注がれ、陣が力強く脈動する。

 

《マジカル・コンダクター》

魔力カウンター:12 → 4

 

 そして周囲の魔力カウンターが目に見えて減ったせいか《マジカル・コンダクター》はどこか晴れ晴れとしていた。

 

「現れろ! 全宇宙の統治者! 絶対なる女王! 《コスモクイーン》!!」

 

 そして天から現れるは血のように赤いローブを纏った宇宙の女王。

 

 そのローブから見える手は異常に大きくその肌は薄い紫がかっていた。

 

 肩幅以上の横幅を持つ金の巨大な王冠は女王たる証。

 

《コスモクイーン》

星8 闇属性 魔法使い族

攻2900 守2450

 

「バトルだ!! 行けっ! 《コスモクイーン》!! サイレント・マジシャンに攻撃だ!! コズミック・ノヴァ!!」

 

 《コスモクイーン》の両手に赤黒いエネルギーが集まっていく。その巨大な力はそこに存在するだけで周囲の空間に軋みを与えた。

 

 

 だがそんな中で手札のカードに僅かに視線を落としたドクター・コレクターの姿を無駄に鍛えられた視力で捉えるアクター。

 

――手札から速攻魔法? タイミング的にステータス変化?

 

 一瞬の迷いを振り切りアクターは決断する。

 

「その攻撃宣言時にセットされた速攻魔法《ゲーテの魔導書》を発動。墓地の《ネクロの魔導書》・《ルドラの魔導書》・《ヒュグロの魔導書》の3枚を除外」

 

 再び墓地の3枚のカードが異次元へと消え、《ゲーテの魔導書》の力が行使される。

 

「それにより相手フィールド上のカード1枚を選んでゲームから除外する効果を適用――《コスモクイーン》を除外」

 

 異次元のゲートが開かれ、そこから這い出た大量の黒い腕が《コスモクイーン》を引き摺りこまんと殺到する。

 

 その向かってくる腕に対しサイレント・マジシャンを攻撃する為の力を放ち懸命に抵抗する《コスモクイーン》。

 

 

 ドクター・コレクターは己の手札の1枚をじっと見つめるも、やがて眼を逸らし沈痛な面持ちで決断する。

 

「済まない……《コスモクイーン》ッ!」

 

 己が仲間を見捨てる選択を。

 

 そして黒い腕に掴まり異次元へと引き摺りこまれる《コスモクイーン》。

 

 だがその顔には気丈な笑みが映っていた。

 

「『魔導書』魔法カードの発動により《魔導書廊エトワール》に魔力カウンターが乗る」

 

 夜空に《コスモクイーン》の墓標のように浮かぶ魔力カウンター。

 

《魔導書廊エトワール》

魔力カウンター:6 → 7

 

「だがそれは此方も同じことだ!」

 

 そして《コスモクイーン》の忘れ形見のように《マジカル・コンダクター》の周囲に浮かぶ魔力カウンター。

 

《マジカル・コンダクター》

魔力カウンター:4 → 6

 

 そんなソリッドビジョンが見せる魔力カウンターの姿にドクター・コレクターは悔し気に拳を握りしめている。

 

 

 だがアクターの視線は一点にのみ注がれていた――先ほどドクター・コレクターが使うか否か迷いを見せたカードに。

 

――確定情報は「バトルフェイズに手札から発動可能」、「魔法効果の除外を防ぐ」、「攻撃力の勝るサイレント・マジシャンを戦闘破壊・もしくは除去が可能」。

 

 その情報から冥界の王の力によって容量を増した脳で前世の記憶を再確認した己の知識と、神崎 (うつほ)の立場を使って集めたこの世界のカード知識を駆使して予想を立てるアクター。

 

――最も可能性が高いのは《禁じられた聖槍》。次点で《エネミーコントローラー》。

 

 そんなアクターの探る視線はドクター・コレクターにとっては不気味でしかない。

 

 

 今のドクター・コレクターにあるのは「モルモットでも観察するような視線」、言い得て不気味なものだった。

 

 だがドクター・コレクターは己の意識をしっかりと保ち、打てる手を打っていく。

 

「ならば私は《マジカル・コンダクター》と2体の《マジシャンズ・ヴァルキリア》を守備表示に変更! 最後にカードを3枚伏せてターンエンドだ!!」

 

 守備表示になる3体の魔法使いたち。その顔にはドクター・コレクターの感じている不安が伝播しているようにも見える。

 

「エンド時に《シャッフル・リボーン》の効果で手札を除外せねばならないが、今の私の手札は0! 問題はない!!」

 

 カードを3枚伏せたドクター・コレクター。

 

 普通に考えれば《シャッフル・リボーン》のデメリット効果を回避する為の行為だ。

 

 

 だがデュエリストのドロー力の前にその仮定は容易く崩れ去る。

 

――ブラフ? いや、この状況で最適なカードを引けるのが彼ら(デュエリスト)。とはいえ警戒すべきは3枚の内の2枚。しかしその2枚でこの盤面を覆すのは難しい筈。

 

 

 アクターはそう考えつつも身近なとんでも例(遊戯)を知るゆえに正直気が気ではなかった。

 

「私のターン、ドロー」

 

 しかしそんなことはおくびにも出さずにデュエルを続けるアクター。

 

「スタンバイフェイズにフィールド魔法《魔導書院ラメイソン》の効果を発動」

 

 《魔導書院ラメイソン》の建物を囲うように魔力の帯が奔っていく。

 

「1ターンに1度、自分フィールド上に魔法使い族モンスターがいる時、《魔導書院ラメイソン》以外の自分の墓地の『魔導書』魔法カード1枚をデッキの一番下に戻し、カードを1枚ドローできる」

 

 そしてその魔力の帯は魔法陣の役割を果たし魔術を行使し――

 

「墓地の《ゲーテの魔導書》をデッキの一番下に戻しドロー」

 

 アクターの手札を潤した。

 

 その新たに加わったカードと手札を見比べたアクターはドクター・コレクターの2枚のセットカードの攻略に移る。

 

「手札の『魔導書』魔法カードを3枚公開することで――」

 

 そして公開された《グリモの魔導書》・《セフェルの魔導書》・《トーラの魔導書》の3枚の魔導書それぞれから魔法陣が放たれ折り重なる。

 

「手札から《魔導法士 ジュノン》を特殊召喚」

 

 その折り重なった魔法陣から白い軽装の法衣に身を包んだ桃色の髪の魔導法士が現れる。

 

 そして空中に魔法で足場を生み出しそこに腰掛け、その手に持った緑の魔導書を自身の膝に置いた。

 

《魔導法士 ジュノン》

星7 光属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

 大型モンスターを呼び出しドクター・コレクターの様子を窺うアクター。

 

 

 それに対しドクター・コレクターは「待ってました」といわんばかりにセットカードを発動させる。

 

――まずは1枚目。

 

 内心でそう思いつつハラハラしながらドクター・コレクターのセットカードの正体を待つアクター。

 

「かかったな! 私はその特殊召喚に罠カード《黒魔族復活の棺》を発動させて貰おう!!」

 

 ドクター・コレクターの足元から黒い瘴気と共に六芒星が浮かんだ水晶を中心にはめ込んだ十字架が取り付けられた赤紫の棺が現れた。

 

「このカードは相手がモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、そのモンスター1体と私のフィールドの魔法使い族モンスター1体を墓地に送り――」

 

 やがてその棺はギィと音を立て静かに開く。

 

「その後、私のデッキもしくは墓地から魔法使い族・闇属性モンスター1体を特殊召喚できる!!」

 

 そして贄を求めるように棺から黒い瘴気が噴出した。

 

「私の《マジカル・コンダクター》と貴様の《魔導法士 ジュノン》を柩に納める!!」

 

 その噴出した瘴気はドクター・コレクターの指示を聞きとげ《マジカル・コンダクター》と《魔導法士 ジュノン》に迫るが――

 

「その効果にチェーンしてセットされた速攻魔法《トーラの魔導書》を発動。フィールドの魔法使い族モンスター1体にこのターンのみ魔法カードもしくは罠カードへの耐性を与える」

 

 自身に向かってくる瘴気に《魔導法士 ジュノン》は両の手を広げ、魔力を漲らせる。

 

 すると膝の上の魔導書が宙に浮かび一人でにページがパラパラと捲れ出す。

 

「私は《魔導法士 ジュノン》に罠カードへの耐性を与える。よって《魔導法士 ジュノン》はこのターン罠カードの効果を受けない」

 

 そして魔導書が淡い緑の光を放つと《魔導法士 ジュノン》に向かってきていた瘴気は見えない壁に弾かれた。

 

 

 これにより罠カード《黒魔族復活の棺》への贄は《マジカル・コンダクター》のみ、贄の足りぬ《黒魔族復活の棺》の新たなモンスターを呼ぶ効果は発揮されない。

 

 このままでは《マジカル・コンダクター》の無駄死にだ。だがドクター・コレクターは自身のカードを2度は見捨てまいとセットカードを発動させる。

 

「私の《マジカル・コンダクター》はやらせん! そのカードにチェーンして速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動!!」

 

――やはり《禁じられた聖槍》か……2枚目。

 

 そう思いながらアクターはドクター・コレクターの3枚目のセットカードを見つつ、内心でそのカードに警戒し、盤面をひっくり返されないかと心配を募らせる。

 

「その効果により対象モンスター1体の攻撃力を800下げる代わりに魔法・罠耐性を与える!!」

 

 天から勢いよく地面に刺さった《禁じられた聖槍》を《マジカル・コンダクター》は《禁じられた聖槍》の全てを拒絶するかのような波動に眉をひそめつつ、引き抜いた。

 

《マジカル・コンダクター》

攻1700 → 攻900

 

「これで私の《マジカル・コンダクター》も《黒魔族復活の棺》の効果を受けない!!」

 

 そして《マジカル・コンダクター》はその《禁じられた聖槍》を以て己に迫る瘴気を切り裂き突き進み、《黒魔族復活の棺》にその聖槍を突き立てる。

 

 

 その聖なる槍の一突きによって瘴気は消え、《黒魔族復活の棺》にヒビが広がり、やがて砕け散った。

 

「『魔導書』魔法カードの発動により《魔導書廊エトワール》に魔力カウンターが乗る」

 

 空にその《マジカル・コンダクター》の健闘を称えるように魔力カウンターが浮かぶ。

 

《魔導書廊エトワール》

魔力カウンター:7 → 8

 

「こちらも2枚の魔法カードの発動により《マジカル・コンダクター》に魔力カウンターが乗る!」

 

 一仕事を終えたと額の汗を拭う《マジカル・コンダクター》の周囲に魔力カウンターが浮かぶが、数が多いせいか暑苦しいといわんばかりに手を振る《マジカル・コンダクター》。

 

《マジカル・コンダクター》

魔力カウンター:6 → 8 → 10

 

――これで最後の3枚目。

 

 そう意を決してドクター・コレクターの3枚目のセットカードに攻め入るアクター。

 

「《魔導法士 ジュノン》の効果を発動。手札もしくは墓地の『魔導書』魔法カードを1枚除外しフィールド上のカード1枚を破壊する」

 

 《魔導法士 ジュノン》が指先を銃のように構え、どのカードを狙うかを物色し始める。

 

 その指が己の方を向く度に肩を震わせるドクター・コレクターの魔法使いたち。

 

「墓地の《トーラの魔導書》を除外してセットカードを破壊」

 

 そしてドクター・コレクターのセットカードを向けて《魔導法士 ジュノン》の指が止まり、その指先から魔力の弾丸が発射された。

 

 

 砕け散るドクター・コレクターの最後のセットカード。

 

 その姿を見届け、銃の銃口に見立てた指先をガンマンのように息でフッと吹く《魔導法士 ジュノン》。

 

「クッ――だが貴様が破壊した速攻魔法《魔導加速(マジック・ブースト)》の効果を発動させてもらおう!」

 

 砕け散ったカードが黄金の光を放ち、ドクター・コレクターのフィールドに集まっていく。

 

「このカードが相手の効果で破壊された場合! 私のデッキから魔力カウンターを置く事ができるモンスター1体を特殊召喚し、そのモンスターに魔力カウンターを2つまで置く!!」

 

 その黄金の輝きは人の形に変わっていき――

 

「私はデッキから《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》を攻撃表示で特殊召喚!」

 

 輝きが収まった先には宝玉の埋め込まれた大きな肩当てに深紅の衣をまとった白い長髪の人物が額から後ろに伸びる角のような装飾の帽子を被り直し現れた。

 

闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)

星6 闇属性 魔法使い族

攻1700 守2200

 

「そして《魔導加速(マジック・ブースト)》の効果で魔力カウンターを2つ置く!!」

 

 《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》の持つ先端が三日月の形を取り、オレンジ色の宝玉がその三日月にかませられた杖の周囲に宝玉と同じ色の魔力カウンターが2つ舞う。

 

闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)

魔力カウンター:0 → 2

 

「そしてこのカードは自身に乗った魔力カウンターの数×300ポイント攻撃力がアップ! 今乗っているのは2つ! よって600ポイントアップだ!」

 

 すると《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》の肩当てとその杖の宝玉が淡く発光した。

 

闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)

攻1700 → 攻2300

 

「さらにこのカードは《マジカル・コンダクター》と同じく互いが魔法カードを発動する度に自身に魔力カウンターを乗せる! もっとも《マジカル・コンダクター》とは違い1つずつだがな……」

 

 新たに呼び出したモンスターの説明をいれるドクター・コレクター。

 

 しかしそれは親切心ではなく――

 

「先のターンのように不用意に魔法カードを発動させればどうなるか――分からぬ貴様ではあるまい」

 

 アクターに対する牽制の意味合いが大きい。

 

 

 だが当のアクターは最後の不確定だったドクター・コレクターのセットカードを確認し、相手のフィールド・手札・墓地のカード全てを把握できた為、大した効果は見られない。

 

「魔法カード《グリモの魔導書》を発動。デッキから『魔導書』カード――2枚目の《魔導書士 バテル》を手札に」

 

 宙に現れた《グリモの魔導書》のページが開かれそこから人の影がアクターの手札に加わる。

 

「《魔導書士 バテル》を召喚。召喚時の効果でデッキから『魔導書』魔法カード――《ゲーテの魔導書》を手札に」

 

 そしてその人影はすぐさまフィールドに呼び出され、億劫そうに頭を掻きながら《魔導書士 バテル》が歩み出て、懐から《ゲーテの魔導書》を取り出しアクターに手渡した。

 

《魔導書士 バテル》

星2 水属性 魔法使い族

攻 500 守 400

 

「魔法カード《セフェルの魔導書》を発動。墓地の《グリモの魔導書》の効果を得て、デッキから『魔導書』カード――《トーラの魔導書》を手札に」

 

 再び《セフェルの魔導書》が開かれ、黒い霧のようなものが現れるが2度目になれば慣れるのか《魔導書士 バテル》は手慣れた様子で黒い霧に手を突っ込み何かを探る。

 

 そして引き抜いた新たな魔導書をアクターに面倒そうに手渡した。

 

 

 先のターンの焼き増しのように次々と現れる魔導書。そこには一切のためらいは見られない。

 

「おい! 聞いているのか! 貴様が魔法カードを発動する度――」

 

 そんなドクター・コレクターの言葉も聞いていないようにアクターはデュエルを進める。

 

 

 アクターからすれば自身の発動するカードの多さからドクター・コレクターをあまり待たせないように気を使っているだけだったりするのだが、残念ながらその気遣いは伝わってはいない。

 

「魔法カード《ルドラの魔導書》発動――それにチェーンして速攻魔法《ゲーテの魔導書》を発動」

 

 前のターンに使用した2枚の魔導書の効果が折り重なる。

 

「チェーンの逆処理により速攻魔法《ゲーテの魔導書》の効果を適用。墓地の《グリモの魔導書》・《ゼフォルの魔導書》・《ヒュグロの魔導書》の3枚を除外し――」

 

 そして天に浮かび上がった複数の術式が複雑に入り組んだ魔法陣から火花が飛び散り――

 

「《マジシャンズ・ヴァルキュリア》を除外」

 

 そこから落ちた業火が《マジシャンズ・ヴァルキュリア》を捉え、存在を否定するかのようにその身を焼き尽くした。

 

「《マジシャンズ・ヴァルキュリア》ッ!」

 

 そのドクター・コレクターの悔し気な叫びもアクターは意に介さないようにデュエルを続ける。

 

「そして《ルドラの魔導書》の効果で《ゲーテの魔導書》を墓地に送り2枚ドロー」

 

 役目を終えた天に浮かぶ魔法陣が崩れ、アクターの手元に集まり新たな手札へと変わる。

 

 

 だが急に動きを止めるアクター。

 

「4枚の『魔導書』魔法カードが発動したことでフィールド上の魔力カウンターを置く効果を持つカードにそれぞれ魔力カウンターが乗る」

 

 空に新たに魔力カウンターが浮かぶ――ドクター・コレクターにはそれがハンティングトロフィーに見えてならない。

 

《魔導書廊エトワール》

魔力カウンター:8 → 9 → 10 → 11 → 12

 

 前のターン発動した《メガトン魔導キャノン》や自身の効果で大量に魔力カウンターを消費したにも関わらず《マジカル・コンダクター》を覆い隠す程の魔力カウンターで溢れかえっていた。

 

《マジカル・コンダクター》

魔力カウンター:10 → 12 → 14 → 16 → 18

 

 それは《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》の周辺も程度の差はあれど同じであり、つい先ほどフィールドに呼び出されたにも関わらずそれなりの魔力カウンターが周囲に浮かぶ。

 

闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)

魔力カウンター:2 → 3 → 4 → 5 → 6

 

 

 そのアクターの急停止はフィールドの魔力カウンターの数を互いに確認する意味合いでのものだった。

 

 

 しかしドクター・コレクターは呆然とするばかり、反応は返ってこない。

 

 そしてソリッドビジョンの《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》の攻撃力を示す宙に浮かぶアイコンの数値が上昇する音だけが響く。

 

闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)

攻2300 → 攻3500

 

 《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》は己の魔力カウンターの力によってその魔力を増したがその顔には不安が見て取れる。

 

 

 アクターは押し黙るドクター・コレクターに待たせ過ぎて怒らせてしまったかと内心で考えつつ、ならばと手早くデュエルを進める。

 

「今の私の手札は4枚よって《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の効果でその攻撃力は2000ポイントアップ」

 

 《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の杖が蒼く輝く。

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》

攻1000 → 攻3000

 

「さらに永続魔法《魔導書廊エトワール》の魔力カウンターは12個、よって私のフィールドの魔法使い族モンスターの攻撃力は1200ポイントアップ」

 

 そしてアクターのフィールドの3体の魔法使いの全身に魔力が漲っていく。

 

《魔導書士 バテル》

攻 500 → 攻1700

 

《魔導法士 ジュノン》

攻2500 → 攻3700

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》

攻3000 → 攻4200

 

「バトルフェイズ。《魔導法士 ジュノン》で《マジシャンズ・ヴァルキュリア》を攻撃」

 

 《魔導法士 ジュノン》が左手で魔導書を開き、右手を前に突き出す。

 

 その右手には永続魔法《魔導書廊エトワール》によって高められた魔力がうねりを上げ、巨大な魔力の砲弾となって《マジシャンズ・ヴァルキュリア》に放たれた。

 

 《マジシャンズ・ヴァルキュリア》も魔力の壁で防ごうと試みるが、攻守の差こと力の差は歴然であり、その魔力の壁を容易く砕いた魔力の砲弾はその術者を消し飛ばした。

 

「――《マジシャンズ・ヴァルキュリア》!!」

 

 その《マジシャンズ・ヴァルキュリア》の姿は大量に発動されたアクターの魔法カードに言葉を失い呆然としていたドクター・コレクターの意識を覚醒。

 

 咄嗟にその消し飛んだ《マジシャンズ・ヴァルキュリア》の方へと手を伸ばす。

 

 何も掴めはしないというのに。

 

 フィールドのドクター・コレクターの魔法使いたちの瞳には怯えしかなく、縋るようにドクター・コレクターを見やるも既にドクター・コレクターに打てる手は残されていない。

 

「《魔導書士 バテル》で《マジカル・コンダクター》を攻撃」

 

 《魔導書士 バテル》は《マジカル・コンダクター》に魔導書の一冊を投げ渡す。

 

 思わずそれを受け取った《マジカル・コンダクター》だったが、その魔導書に吸い込まれるように取り込まれ、断末魔だけがあたりに響き渡った。

 

「《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》で《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》を――」

 

「や、止め――」

 

「攻撃」

 

 ドクター・コレクターの懇願するような声も聞かず《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》は命じられるままに杖をかざす。

 

 そして《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》と《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の両者の杖から赤と白の魔力が迸る。

 

 互いに拮抗しているような魔力の波動だったが、徐々に白い波動がゆっくりと《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》に迫り――

 

 

 その白き魔力に懸命に戦い抜いた《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》は消し飛ばされた。

 

ドクター・コレクターLP:4000 → 3300

 

 僅かに削れたドクター・コレクターのライフ。

 

「わ、私の魔法使いたちが……」

 

 だがドクター・コレクターの表情にはライフ以上の何かが削られているようにも見受けられる。

 

「バトルを終了しメインフェイズ2に移行。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 前のターンと同じようにターンを終えるアクター。

 

「手札数の変化により《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の攻撃力が変化」

 

 攻撃力のダウンも気にせず《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》は杖を地面に向けて振りぬく。

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》

攻4200 → 攻3200

 

 

 しかし互いのフィールドまでは同じとはいかない。

 

 一つ、また一つと消えていったドクター・コレクターのカード(仲間)たち。

 

 もはや残るはドクター・コレクター(デュエリスト)のみ。

 

 

 だがその心は折れてはいない。

 

「まだだ! 貴様を倒すまで私は終われん!! 私のターン! ドロォオオオオ!!」

 

 復讐の憎悪に濁った瞳で引いたカードを見たドクター・コレクター。

 

「ッ! ………………私はカードを1枚セットしてターンエンドだ!!」

 

 その魂を燃やす勢いで引いた最後の希望を託したカードを伏せた。だが――

 

「そのエンド宣言時セットされた速攻魔法《ゲーテの魔導書》を発動。墓地の『魔導書』魔法カードを3枚を除外し相手フィールド上のカード1枚を選んでゲームから除外――そのセットカードを除外」

 

 アクターの無慈悲な宣告が告げられる。

 

 

 3枚の魔導書の力を喰らい《ゲーテの魔導書》がドクター・コレクターの最後の希望を刈り取る。

 

 そして除外されたカードが表となって異次元に消えた。

 

 

 しかし除外されたカードを視界に捉えたアクターの目は仮面の奥で驚愕に見開かれる。

 

 除外したドクター・コレクターのセットカードは「罠カード《裁きの天秤》」

 

 もし発動されていればアクターのフィールドのカードは7枚。

 

 ドクター・コレクターの手札・フィールドのカードは《裁きの天秤》のみ。

 

 よって6枚ものカードをドローされていた。

 

 

 手札で発動する類のカードを引かれ、なおかつ逆転すらあり得るドロー数だ。

 

――ふざけたドロー力だ……

 

 アクターは内心で背筋を凍り付かせる。

 

 厄介なことに、このドクター・コレクターのドロー力ですらまだ高い方ではない。伝説(遊戯)レベルは遥か先である。

 

「…………『魔導書』魔法カードの発動により《魔導書廊エトワール》に魔力カウンターが乗り、私の魔法使い族モンスターの攻撃力も上昇」

 

 新たな魔力カウンターが夜空に煌く。

 

《魔導書廊エトワール》

魔力カウンター:12 → 13

 

 それは魔法使いたちの力を底上げした。

 

《魔導書士 バテル》

攻 1700 → 攻1800

 

《魔導法士 ジュノン》

攻3700 → 攻3800

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》

攻3200 → 攻3300

 

 

「こ、こんな事が――」

 

 もはやドクター・コレクターはデュエリストとして何も出来ない。

 

「私のターン、ドロー」

 

 死刑台にドクター・コレクターを押し上げ得るようなアクターの声が聞こえる。

 

「スタンバイフェイズにフィールド魔法《魔導書院ラメイソン》の効果を発動し、墓地の《ゲーテの魔導書》をデッキの一番下に戻しドロー」

 

 《魔導書院ラメイソン》の周囲の魔力の円から力が流れ、アクターの手元に集まる。

 

「手札枚数の変化により《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の攻撃力は変化」

 

 見せつけるように膨大な魔力によって光り輝く杖を掲げる《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》。

 

《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》

攻3300 → 攻4300

 

「バトル――《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》でダイレクトアタック」

 

 そして白き暴虐の一撃が放たれた。

 

「ぬぅううおおおおおッ!!」

 

ドクター・コレクターLP:3300 → 0

 

 

 

 





ほぼ全てのカードを知っている――それは凄まじいまでのアドバンテージだと思うの……



《グリモの魔導書》はそして2017年の10月1日から制限カードになってしまいますが

デュエル構成を書き直すのも大変なので今回のデュエルはこのままということで……


きっと直ぐに緩和されるさ……(希望的観測)



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