マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
共闘するランドスターの剣士×3「 「 「 おらおらー! これでもくらえー!(ポカポカ)」 」 」





第77話 プロの世界

 

 

 デュエルの決着を見せた城之内と静香。

 

 そんな2人を眺めつつ野坂ミホは撮影スタッフたちと締めの絵を撮った後、少し身体を伸ばして呟く。

 

「いや~いい勝負だったよねぇ~それじゃぁ――撤収しちゃおうか!」

 

 その野坂ミホの姿に牛尾はつい言葉を零す。

 

「ん? 意外だな、俺はてっきりアイツらに勝利者インタビューの真似事でもするかと思ったんだが」

 

 その牛尾の言葉に「心外だ」と言わんばかりのオーバーなジェスチャーを見せる野坂ミホ。

 

「もー、牛尾くんだって分かってるくせに! 私だって今の2人に割って入るお邪魔虫じゃありませんよ~だ!」

 

 しかし野坂ミホはそのジェスチャーの後、スッと目を細めた――もしも何らかの巡り合わせが違えば、自分はあの輪の中に自然と入れたのだろうかと。

 

 だがそんな一瞬の憂い顔も消え、いつもの底抜けに明るい姿に戻り、杏子たちから距離を取る。

 

「じゃあね~杏子! それにみんなも! 次に会うのは本戦になると思うから~!」

 

 そんな別れの言葉と共に野坂ミホはまだ見ぬ名勝負を探し、撮影スタッフと共に駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな野坂ミホを余所にデュエルを終えた静香の姿はどこか悔し気だ。しかし一息つくといつもと変わらぬ姿がそこにある。

 

「負けちゃった……やっぱりお兄ちゃんはスゴイね!」

 

「ははっ! まぁな! 静香も中々いい線いってたぜ!」

 

 城之内は互いの健闘を称えつつ、内心に影を落とす。

 

――ギリギリだったぜ……静香の全力、デュエリストとしてちゃんと応えてやれたかな?

 

 そう内心で自身の力不足に悩む城之内にいつの間にか集合していた本田たち。

 

 そして本田は城之内をジト目で見つつ言葉を投げかける。

 

「いや、城之内。ギリギリだったろお前」

 

「そ、そんなことねぇよ」

 

 その本田の指摘に若干泳ぐ城之内の目。

 

 そんな泳いだ目の先にあったのは静香の姿。

 

「あっ、お兄ちゃん。はい、これ『パズルカード』と『レアカード』!」

 

 そういって城之内に2枚のカードを差し出す静香だが――

 

「何言ってんだよ――静香からは受け取れねぇさ」

 

 城之内は首を横に振るが、そんな城之内に静香はいつもらしからぬ声を上げる。

 

「ダメだよ! お兄ちゃん! これはデュエリストとしての約束事なんだから!」

 

「お、おう……ならパズルカードだけ貰っとく――さすがに静香からレアカードをアンティする訳にはいかねぇよ」

 

 パズルカードだけを手に取って城之内は言葉を続ける。

 

「それに静香のカードは俺のデッキじゃ使いこなせないからよ――カードにとっても、やっぱ全力で活躍できるとこが一番だろ?」

 

 静香のデッキのカードはどれも天使族であることを加味されたカード。城之内のデッキにマッチしているとは言い難い。

 

 城之内がデッキ外で観賞用として持つよりも、静香の元で力を振るう方が良いのだと城之内は語る。

 

「じゃぁこのカードなら! きっとお兄ちゃんの力に――」

 

 ならと別のカードをデッキから選ぶ静香の手を城之内は掴む。

 

「おいおい、静香……どうしたんだ? 別に俺はそんなに――」

 

 その後に「カードに困っている訳じゃない」と見栄ありきで続けようとした城之内の足を牛尾が軽く踏む。

 

「痛っ! 牛尾! 何す――」

 

 そして素早く城之内を引き寄せ静香から見えない位置で牛尾は小さく怒鳴る。

 

「バカ! どうみても、そういう事じゃねぇだろ! オメェのことを想ってのことだろうが!」

 

 そう言いながら城之内を静香に向い合せながら静香に向けて場を取り持つ。

 

「おう、妹さんは思いの丈ってのをぶつけた方がいいぜ――このバカ(城之内)にはハッキリ言わねぇと伝わらねぇからよ」

 

 その牛尾の言葉に静香は少し考える素振りを見せ、牛尾に会釈しながら城之内に再度向き直る。

 

「ありがとうございます、牛尾さん――お兄ちゃん……私、お兄ちゃんがプロを目指してるって聞いて、カードには想いが籠るんでしょ? だから少しでも助けになれたらって……」

 

 気持ちを上手く言葉に出来ない静香。

 

 要するに「プロを目指す以上、城之内はいずれ遠くに行くことが決まっている為、想いをカードに込めて託して置きたい」といった具合だ。

 

 しかしプロの門は早々容易いものではない為、城之内といえども直ぐに遠くに行く訳ではないのだが……家族の贔屓目といったところなのか……

 

 

 話は戻る。

 

 そんなことを言われれば、城之内にあるのは感激の嵐。

 

「そういうことだったのかよ……ならありがたく受け取らせてもらうぜ!」

 

 その静香が選んだカードの1枚をデュエリストとして、そして兄として受け取る。

 

 そのカードは――

 

「《心眼の女神》か……へーなる程! コイツは融合代用モンスターってヤツだな! ありがとよ、静香! これで俺のデッキは百人力だぜ!」

 

 城之内のデッキには《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》や

《ベビードラゴン》などを素材の主軸にした融合モンスターを多々採用している。

 

 ゆえに《心眼の女神》の融合素材の代わりになれる力は城之内の戦術に大きく幅を持たせることが出来るだろう。

 

「もう、お兄ちゃんったら大袈裟なんだから……」

 

 高らかに、そして嬉しそうに笑う城之内の姿に静香は若干の照れを見せつつ、城之内に喜んで貰えた事実に内心で喜ぶ。

 

 

 そんな兄妹(けいまい)の仲睦まじい姿を視界に入れつつ双六は呟く。

 

「ふむ、良いカードじゃな……」

 

 その双六の言葉に静香と共に城之内に送るカードを悩んだ北森も自分のことのように誇らしげに返す。

 

「静香さんのお兄さんのデッキとの相性も考えましたから!」

 

 そんな北森の姿に双六は苦笑しつつ、それだけではないのだと続けた。

 

「いや、勿論デッキとの相性といった話もある――じゃがなにより相手を想って託されたカードじゃ。それはきっと城之内のピンチの時に助けになってくれるぞい」

 

 その双六の言葉に御伽も同意するように頷く。

 

「いい妹さんだね」

 

 妹の話となれば地獄耳と言わんばかりに城之内は御伽の背にいつの間にか回りその背を軽く叩きながら胸を張る。

 

「あったりまえよ! 俺の自慢だぜ!」

 

 そして誇らしげに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな城之内の天元突破していた喜びがしばらくして収まりを見せたころ、本田は静香に自然体を装いつつ尋ねる。

 

「それで静香ちゃんはこの後の予定とかある? もし予定がないなら俺たちと――」

 

 デート――にしては外野が多いが、本田からしてみれば一緒にいられるだけでその胸は高鳴るのだ。

 

「ううん、これから牛尾さんの業務を手伝うことになってるんです――私の治療の為に色々助けて貰ったオカルト課の皆さんに少しでも恩返しがしたいから……」

 

 しかし先約があった。

 

 笑顔で対応する本田だが、その内心ではまたしても「牛尾ォ!」である。

 

 なお実際にそんなことを言われても牛尾にはどうすることも出来ない。

 

 

 そんな本田はさておきと、城之内は「その業務」について疑問が浮かぶ。

 

「それって竜崎の奴が言ってた『大会参加者に扮して大会で不正する奴らに目を光らせる』ってヤツだったか?」

 

 静香はパズルカードを既に全て失っている為、「大会の参加者に扮する」ことが出来ないのではと城之内は考えたのだが――

 

「いや、見回りの方だ。竜崎たちみてぇに実際に対峙することはねぇよ」

 

 牛尾は乃亜から指示された表向きでの業務を明かしつつ、内心で情報を漏らした竜崎に「後で説教だ」などと考えながら対応する。

 

「何だか危なそうじゃのう……」

 

 遊戯たちと竜崎と羽蛾のやり取りを知らない双六は心配そうな声を上げ、御伽もまた最近の情勢の変化から危機感を募らせる。

 

「ここのところグールズの活動も活発になってきてるって話だしね」

 

「グールズって?」

 

「人のレアカードを狙う 悪い奴らじゃ!」

 

 そんな杏子の疑問にものすごくザックリした説明をする双六――大体合ってはいるが酷くスケールダウンしているように聞こえるのは何故なのか。

 

 その双六の説明に心配そうに静香を見つめる城之内一同を牛尾は安心させるように言葉を選ぶ。

 

「まぁ確かにそんな話もあるが、見回りは見つけて連絡すりゃぁ後は逃げればいいしな。実際に矢面に立つよりは危なくねぇよ」

 

 そして牛尾は右腕をガッツポーズするように握り拳を作り、力強く宣言する。

 

「もしもがあれば俺が対処する――それでも心配か?」

 

「そうか! なら安心出来るぜ! オメェの拳は効くからなぁ……」

 

 牛尾の拳の威力を過去に身をもって実感している城之内はそう零しつつ感慨深く頷いた。

 

 そんな中で手を上げつつ御伽は牛尾に、というより静香に歩み寄る。

 

「じゃぁ、僕は静香ちゃんと――」

 

 男手は多い方が良いだろうとの気遣いと、気になった静香と距離を詰めるチャンスをゲットするある種の打算を持ちつつ動いた御伽だが――

 

 そうは問屋が卸さないとばかりに本田が御伽の肩を掴む。

 

「おおっと、御伽ィ……オメェは俺たちと城之内の応援があるだろ? 静香ちゃん! 城之内のヤツのことは俺たちに任せてくれ! なぁ! 御伽!」

 

 そう言って抜け駆けは許さないとばかりに御伽と肩を組む本田。

 

「えっ? いや僕は――」

 

「なぁ! 御伽!」

 

 御伽の言葉を封殺しつつ本田は有無を言わせないと御伽に顔を向ける――御伽にとって凄まじいまでの圧だ。

 

 そして本田の執念に折れた御伽が抵抗を止め、城之内たちの元へ戻っていった。

 

 

 

 やがて牛尾がそろそろ仕事に向かおうとするのだが――

 

「あっ! そうだ、牛尾! 聞きてぇことがあるんだけどよ」

 

「ん? どうしたよ、城之内?」

 

 その前に城之内が質問を飛ばす。牛尾も城之内の真剣な様子から内心で身構えた。

 

「キースは……『キース・ハワード』は何処にいんのか分かるか? 一回、アイツのデュエルを見ておきてぇんだけど……」

 

 城之内の問いかけは挑むべき相手への偵察――万全の状態で挑みたい城之内の決意の表れだった。

 

「ひょっとして、もう本戦にたどり着いちまってるか?」

 

 キースの実力を鑑みれば十分にあり得る可能性を城之内は上げるが、牛尾の顔にはゲンナリしたものが見える。

 

「いや、あのな……運営側の俺が大会参加者の情報をホイホイ明かすわけねぇだろ?」

 

「そうか……いや、そうだよな。無理言っちまって悪い……」

 

 言われてみれば、いや、言われなくとも当たり前の返答にハッとする城之内。

 

 今まで牛尾が城之内の問いかけに真摯に答えてくれていただけに、無自覚の内にそれに甘えてしまっていた己を恥じる城之内。

 

 そんな目に見えて落ち込んだ様子の城之内に牛尾は頬を掻きながらやり難そうに眼を逸らす。

 

 やがて牛尾は深いため息と共に自分の甘さを理解しつつ言葉を吐き出した。

 

「ハ~~だが、まぁいいだろ」

 

「い、いいのか!? ――いやっ、やっぱ俺も大会の参加者の一人としてそんな贔屓(ひいき)――」

 

 牛尾の言葉に思わず顔を上げて喜色を見せる城之内だが、すぐさま牛尾の厚意に甘える訳にはいかないと頭を横に振るが――

 

贔屓(ひいき)にはならねぇよ。多分このバトルシティの参加者の中で知らねぇのオメェだけだろうし」

 

 その牛尾の言葉の意味が咄嗟に理解できず思わず目が点になる城之内。

 

「えっ? それってどういう――」

 

「このバトルシティに全米チャンプ、キース・ハワードは参加してねぇ」

 

 更に牛尾からもたらされた情報に城之内は一瞬頭の中が真っ白になるも、すぐさま再起動し牛尾に詰め寄った。

 

「う、嘘だろ! あんなスゲェ奴がデュエリストレベル5以下な訳――」

 

「そんな『スゲェデュエリスト』だからだよ」

 

 だが牛尾は突き放すように城之内に言葉を返す。

 

「城之内、オメェはいまいち理解してねぇみたいだから、この際ハッキリ言っとく」

 

「な、なんだよ……」

 

 牛尾の勿体ぶった言い方に緊張の色を見せる城之内。

 

 そして牛尾は重い口を開く。

 

「デュエル始めて数か月そこらのオメェが全米チャンプとデュエル出来たってのは、本来ならありえねぇレベルの『幸運』だ」

 

 過去にデュエルを始めたばかりでその幸運を手にしたのは「デュエルモンスターズ」のプロモーションの際にペガサスの指示の元でデュエルした少年トムのみ。

 

 その少年トムが「ラッキートム」と称される程に「幸運」な出来事だ。

 

「あのレベルの位置にいりゃあ、色んなしがらみやら義務やらがある。だから早々、自由に動けるもんじゃねぇ」

 

 全米チャンプの肩書は決して軽いものではない。そんな全米チャンプを動かせるとすれば――

 

決闘者の王国(デュエリストキングダム)のときはキース側とペガサス側の両方の同意があったからだ」

 

 デュエルモンスターズの創造主、ペガサス。そんなレベルの人物からの呼びかけが必要不可欠だ。

 

「普通のヤツがキースにデュエルを挑むってんなら――」

 

 少し間を置く牛尾――城之内にとって酷な現実を叩きつけることになるのだから。

 

「まずプロデュエリストになるのは『大前提』だな」

 

「えっ!?」

 

 城之内の将来の夢、「プロデュエリスト」。

 

 そんなものはあって当たり前な世界。

 

「そんでアメリカに渡ってチャレンジャーとして相応しいレベル――全米の上位10位くらいだっけか? そこまでプロランクを上げるか――」

 

 アメリカはデュエルモンスターズ発祥の地――当然プロデュエリストの数も他の国々に比べ圧倒的に多い。

 

 その中で最上位にいなければ挑むことすら許されない頂き。

 

 

 だが何事にも例外的な裏口がある。

 

「あとは世界レベルのデュエリストが参加するような規模のデカい大会に滑り込むしかねぇな」

 

 当時は素人同然だった城之内がデュエル出来た「幸運」もこれに近いものだ。

 

 その牛尾の言葉は城之内はその顔に希望を映すが――

 

「おっ、城之内――今『それなら俺にも出来るかも』って考えただろ?」

 

 図星を突かれたことで動揺を見せる城之内。

 

 そんな城之内に牛尾はそう甘い話ではないのだと語る。

 

「だが実際はそう簡単じゃねぇ。滑り込むには世界中にいるオメェみてぇな奴を全員、押しのけなきゃならねぇ」

 

 そう言われても城之内はデュエルの大会事情に詳しいわけではない為、いまいち理解できていない様子だ。

 

「ピンとこねぇか? このバトルシティに集まったヤツ全員をぶっ飛ばさなきゃダメっつったら分かるか? 勿論、遊戯や海馬もな」

 

「う、嘘だろ……」

 

 示された過酷な条件に開いた口が塞がらない面持ちの城之内だが、牛尾の話はそれで終わりではない。

 

「さらにソレで終わりじゃねぇ――ソレだけやって、やっとスタートラインに立てるんだ」

 

 そう、それだけの条件を満たしてなお、あくまで「スタートライン」に過ぎない。

 

 チャンプともなれば盛り上がる対戦カードが望まれる為、城之内のような知名度があまり高くないデュエリストは反対側のブロック程の距離に出来ることは容易に想像できる。

 

「そういうレベルの話なんだよ――オメェが目指す先は」

 

 そしてショックを受けているように見える城之内に言い聞かせるように牛尾は最後に言葉を投げかける。

 

「あんな決闘者の王国(デュエリストキングダム)の時みてぇなラッキーはもう2度とねぇと思いな」

 

 しかし俯き、身体を震わせる城之内の姿に牛尾の中で罪悪感が生まれた――夢の否定とまではいかなくとも、「お前には無理だ」と言い聞かせたようなものなのだから。

 

――いや、現実は早めに知っといた方がいい。

 

 牛尾は内心でそうかぶりを振る。現実を知って諦める程度の覚悟なら、過酷なプロの世界は戦い抜いていけるものではないのだと。

 

 

 だが勢いよくガバッと顔を上げた城之内の顔にあるのは――

 

「スゲェ、スゲェぜ!! スゲェとは思ってたけど、そんなにかよ!! 挑み甲斐があるってもんじゃねぇか!!」

 

 一遍の陰りも見られない顔だった。

 

――杞憂だったか……

 

 その城之内の姿に内心で安心しつつ、踵を返す牛尾。

 

「やる気は十分みてぇだな。なら健闘を祈ってるぜ――じゃぁな、俺たちはこれで――」

 

 

 

 

 今度こそ仕事に戻ろうとする牛尾。だがまたまた呼び止められる。

 

「あっ、そうだ牛尾くん」

 

「……こんどは真崎か……どうしたよ」

 

 杏子に呼び止められ、いまいち恰好の付かなくなった事実にため息を付きつつ牛尾は杏子に向き直り、杏子の言葉を待つ。

 

「静香ちゃんを城之内の所まで案内したみたいに私を遊戯の所まで案内してもらうのって出来る? 『不正する人たちの中にグールズっていう危ない人がいるかも』って伝えたいんだけど」

 

 杏子の頼みは遊戯を心配してのもの。ゆえに牛尾とて可能な限り力になってやりたいと思うが――

 

「ん~あくまで俺らに同行して『遊戯が近くにいたら』ってんなら出来る。でもよぉ、それなら自分で探し回った方が良いと思うんだが?」

 

 この杏子の頼みは牛尾にどうこう出来るものではなかった。

 

 そう渋る牛尾の姿に双六は自身の時との対応の違いに当然の疑問を持つ。

 

「何じゃ? 儂らが城之内を探してもらったようには出来んのか?」

 

「まぁ、いわゆる知名度の差ってヤツだな。遊戯と会いてぇ、戦いてぇ奴はゴマンといるだろうから緊急時以外は自重するらしい」

 

 そう表向きの理由を話す牛尾――遊戯がグールズに真っ先に狙われる立場であることなど、そうおいそれと明かせはしない。

 

 嘘を重ねなければならない自身の立場に嫌気が募る牛尾。

 

「ヴァロンって人はそんなこと言ってなかったけど……」

 

「まぁ隠す程でもねぇが言いふらすようなことでもねぇしな」

 

 御伽の疑問も守秘義務を盾に軽く突っぱね、牛尾は誤魔化す。

 

 だが杏子から代替え案が提示される。

 

「そうなんだ? でも遊戯ならそのグールズって人たちをやっつけられるだろうから、その時は牛尾くんに連絡が行くでしょ?」

 

「確かに、それはそうなんだが……ちょっと待ってろ」

 

 そう返した牛尾は通信機を取り出し、色々話し込み始めた。

 

 杏子の予想はあながち間違いではない。

 

 遊戯がグールズを撃退し、KCの関係者に連絡を取れば遊戯に警戒心を持たれないような人員が派遣される――友人関係を構築している牛尾もその候補の一人だ。

 

「……よし。とりあえず話は通しといた」

 

 通信を終え、そう杏子に伝える牛尾。

 

 その言葉に杏子は城之内たちから離れ、手を軽く上げながら城之内たちに別れる旨を伝える。

 

「じゃぁ城之内、私は一旦遊戯のとこに向かうわね」

 

「そうか、じゃぁ遊戯によろしく頼むぜ! 杏子!」

 

 こうして城之内たち一同は二手に分かれる――乃亜の思惑に沿う形で。

 

 

 城之内と共に対戦相手を探しに燃える双六。追従する本田と御伽。

 

 静香と北森に早速溶け込んでいる杏子。完全に蚊帳の外の牛尾。

 

 

 闘志に燃える城之内たちを去り際に見ながら牛尾は深いため息を吐く。自分の側はとても居心地が悪い、と。

 

 

 

 

 

 

 

 一方のそんな杏子の探し人遊戯は――

 

――名もなきファラオ(アテム)の「(バー)」オカシイ。

 

 アクターこと神崎に冥界の王の力での(バー)測定を、遠目からされていた。

 

 アクターの冥界の王の力を用いた視界に映る遊戯の(バー)はその全身を覆い、某スーパーな宇宙人の気やオーラのようにバリバリと噴出している。

 

――さらに問題なのはあれだけの「(バー)」に常に晒されている「武藤 遊戯」に何も肉体的・精神的な問題が起きていない。「器」に選ばれたのは伊達ではないといったところか。

 

 そう考察するアクターだったが――

 

「誰だ!!」

 

 遊戯に冥界の王の邪悪な気配を察知されたのか気付かれるアクター。

 

 

 脳内で一瞬パニックが起こるアクターだが、すぐさま立て直し路地裏にサッと消える。

 

「待てっ!!」

 

 当然追いかける遊戯。

 

 だがアクターにとって遊戯の視界から一瞬でも逃れることが出来れば問題はなかった。

 

――肉体的にはただの一般の高校生デュエリスト程度の筋力(マッスル)で追いつけると思わないことだ。

 

 そう考えつつ足に力を込めるアクター。遊戯がその姿を捉えるには数秒を要する。

 

 その数秒があればデュエルマッスルの性能の違いから入り組んだ道を走りぬき、遊戯を()くには十分だった。

 

 

 そしてアクターは風になった。

 

 

 その後、路地裏に入った遊戯の目に映るのは誰もいない景色のみ。しばらく探し回ったが――

 

「くっ……見失った……」

 

 その姿は捉えられない。

 

「奴は一体……」

 

 遊戯にあるのは言い得ぬ恐怖。その背に嫌な汗が流れる。

 

 

 先程の視線に気付いた遊戯はその時に奈落に引き摺り込まれるような錯覚を覚えた。

 

 死者の番人たる冥界の王の力で見られていたゆえにあながち間違いではない――名もなきファラオは冥界へと還るべき「死者」なのだから。

 

 

「奴は……グールズ……なのか?」

 

 遊戯が視界に捉えたのはアクターの黒い衣装だけ、判断材料としては少し弱い。

 

 悩む遊戯にもう一人の遊戯こと表の遊戯がその心中で語る。

 

――でもグールズだとするなら、もう一人のボクから逃げたのはなんでだろう?

 

「いや、奴が逃げたのかどうかすら分からない……それにもしグールズだったとすればデプレが奴の情報を持っていなかったことに疑問が()く。それに――」

 

 そう一呼吸置いた遊戯に表の遊戯は内心で続きを促す。

 

――それに?

 

「奴が誰かの下で粛々と従っている姿が――俺には想像できない」

 

 遊戯が一瞬感じ取った邪悪な塊のような気配がアクターの正体を霧のように隠す。

 

 遊戯にグールズの情報を与えたデプレがこの場にいれば「アレは違う」と説明してくれただろうが、いないものはどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして命からがら逃げ伸びたアクターは遊戯を撒いたことに安堵する。

 

 のも束の間、接近する気配を感じ取る――遊戯ではないことはその存在感からアクターには察しがついた。

 

「やっと見つけましたよぉ」

 

 ねめつけるような声と共にアクターの前に立ちふさがったのは黒いスーツに身を包んだ眼鏡の男。

 

 前髪は中央で分けられ、その口元は嘲笑するかのような笑みを浮かべている。

 

「まずは自己紹介と行きましょう――私は『エックス』。しがないプロデュエリストをしております」

 

 そう言って舞台役者のように大仰に礼をするエックス

 

「要件は」

 

「おや、つれないですねぇ……ふふっ、ですがお話が早くて助かりますよぉ」

 

 最低限の言葉で返すアクターの姿勢にエックスはヤレヤレとジェスチャーするも、その腕のデュエルディスクを見せつけるように示す。

 

「なぁに、私とデュエルして頂ければそれだけで構いません」

 

 そしてエックスは指に挟んだパズルカードを1枚示した。

 

 それに対し、無言でデュエルにデッキをセットするアクター。

 

「おやおやぁ? 随分あっさり引き受けてくれるんですねぇ――噂など、当てにはならないものだ」

 

 そう挑発するようにはやし立てるエックスだが、アクターは見向きもせずデュエルディスクを展開させる。

 

「おっと、これは失礼――お詫びと言ってはなんですが、私の『依頼主』なぁんてものは知りたくはないですかねぇ?」

 

 しかしエックスはデュエルの準備などせずにアクターに語り掛け続ける。何かの反応を待つように。

 

「まぁ特に口止めされている訳でもありません。それに私は『プロ』、表の住ゥ人――貴方がたのように裏の流儀なんてものは関係ないものでねぇ」

 

 そう言って両の手を広げつつエックスは依頼人の名を口にする。

 

「依頼人は『ジークフリード・フォン・シュレイダー』――中々の大物ですねぇ。貴方、一体何をやらかしたんですか? 是非ともお教え願いたぁい」

 

 ジークフリード・フォン・シュレイダー。通称、ジーク。

 

 ヨーロッパの大企業シュレイダー社の実質の社長。

 

 アニメ遊戯王デュエルモンスターズのバトルシティ後のアニメオリジナルエピソードにて登場した桃色の長髪の男。

 

 そのエピソードにてジークはKCに経済攻撃を仕掛けるのだが――

 

 それを「原作知識」として知っていた神崎はシュレイダー社が潤えば「そんなことはしなくてもいいのでは?」と考え、儲け話を持っていったのだがジークはこれを拒否。

 

 それゆえにシュレイダー社に物申せる状態にすれば良いと考えた神崎はシュレイダー社の株式を買い漁っている――傍からそれがどう映っているのか神崎は気付いていない。

 

 

 エックスから告げられた名に冥界の王の力でエックスの(バー)を見て真実だと確認し、「あの貴族様か」などと考えながらデュエルの準備を終えるアクター。

 

 しかしエックスのおしゃべりは止まらない。

 

「恐らく彼が貴方を狙うのはKCのオカルト課でしたっけねぇ? それの失墜を狙っているのでしょう」

 

 それはいわゆる「海馬瀬人がデュエルに負けたらKCの株価が下がる」というリアル視点では謎現象ゆえだ。

 

 オカルト課とてその謎現象の例外ではない。

 

「…………もう少し何らかのアクションを取って頂きたいものですが、まぁいいでしょう」

 

 エックスはそうため息を吐きながらデッキをデュエルディスクにセットする。

 

「クフフ……貴方と戦えるなんて早々出来ませんからねぇ……」

 

 エックスの言う通り、今となってはオカルト課のデュエリストが充実している為、企業間のデュエルでのアクターの出番などほとんどない。

 

 ゆえにアクターを狙うものたちからすれば、このバトルシティは絶好の機会であった。

 

「私は貴方のファンなんですよ――おや? 信じていませんねぇ?」

 

 最後に爆弾発言をかましたエックス。カマをかけるのも忘れない。

 

 だがアクターこと神崎はその手の言葉を受け流す術は十分身についている――ペガサスとシンディアの惚気を受け続けた経験は伊達ではない。

 

「是非とも貴方が凡百の紛い物共の下らない戯言を一蹴してくれることを願いますよぉ!」

 

 そう言ってデュエルディスクを展開したエックスは己の心を、デュエリストとしての在り方を確かめるべく、宣言した。

 

「では――デュエルといこうじゃありませんか!!」

 

 

 






~入りきらなかった人物紹介、その1~
ジークフリード・フォン・シュレイダー
アニメ遊戯王デュエルモンスターズ、アニメオリジナルエピソードKCグランプリ編に登場

女性的とも言える桃色の長髪を持った社交服で決めた美男子。
芝居がかった言動と傲慢な性格が特徴。

ヨーロッパの大企業シュレイダー社の後継者。

ちなみにこのシュレイダー社も元はヨーロッパ随一の軍事産業企業だったが剛三郎時代のKCと張り合った結果、経営は悪化しジークの父は心労で倒れた。

そして倒れた父に代わりジークは事実上の社長として軍事産業からゲーム・アミューズメント産業へとシフトさせる。

だが同じ時期にKCも海馬瀬人が社長の座を勝ち取り、軍事産業からゲーム・アミューズメント産業へとシフトさせたため、結局シェアを奪い合う結果になった――運がねぇ……


ジーク本人はバーチャルシステムを0から自力で組み上げる程に有能。

だがI2社と契約する前に海馬が先に契約したため、海馬をライバル視、そして逆恨み。

海馬が少年時の剛三郎時代に既にモノは出来ていたことは密に密に。


さらにデュエリストとしても「ヨーロッパ無敗の貴公子・皇帝」の通り名を持つ程に有名。

デュエリストが本業ではないにも関わらず城之内を下し海馬とも互角に戦う実力者。

だがデュエルに関してはただの遊びと認識している。



~アニメ版と今作でのジーク(フリード・フォン・シュレイダー)の違い~
神崎がアメルダ一家を救う為に紛争をぶっ飛ばして回ったことで大企業シュレイダー社の軍事産業は大打撃を受けた。

あまりの事態にジークの父は心労(物理)で倒れる。


そして神崎が原作知識より
ジークの海馬への(逆)恨みから最終的にKCに色々悪さすることを知っていたので

シュレイダー社が会社として充実した状態ならばそんなことはしないだろう、と
お詫びもかねて神崎は儲け話を持っていくが、

「ライバルであるKCの力などいらぬぅ!」とシュレイダー社の社長の業務を継いだジークは拒否。

その後も手を変え品を変え神崎は挑むも、上述の理由でやっぱり拒否された。


それゆえに「しょうがない」と、シュレイダー社にある程度意見を通せる立場を得る為、神崎はシュレイダー社の株式を買い漁っている。

ゆえにアニメ版以上にシュレイダー社、というよりジークは精神的に追い詰められている状態。


一応、儲け話は継続してジークに送られているが――逆効果であることを神崎は理解していない。




~入りきらなかった人物紹介、その2~
エックス
遊戯王GXにて登場

「破滅の光」に操られた斎王が十代に差し向けた刺客。

ちなみにプロデュエリストである。

「甘ーい!」が口癖。

相手のデッキとの信頼などを破壊することに喜びを感じているサディスト。それゆえかデッキ破壊の戦術を用いる。

上述の理由から他のプロに嫌われているらしい。

しかしそれはデッキ破壊ゆえに嫌われたというよりもエックスの性格的な問題だと思うが……

~今作では~
色々あってアクターに興味を持つ――詳しくは次回。

そしてジークに依頼され役者(アクター)とデュエルする。詳しい目的は明かされていないが察した。

ちなみにジークの思惑は
いわゆる「海場瀬人が敗北すればKCの株価が下がる」謎現象を利用し

役者(アクター)を敗北させることでオカルト課へのダメージ」を狙った。



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