マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
???「今はまだ私が土下座をする時ではない」




第80話 囮……囮ってなんだろう?

 

 牛尾は自身の前を歩く3人に軽く溜息を吐く。酷く居心地が悪かった。

 

「へぇー玲子ちゃんも牛尾君みたいにデュエリストレベル高いんだ?」

 

 仲が深まったゆえに北森の呼び方を名前呼びに変えつつ杏子は話を振り、

 

「そうなんですよ、杏子さん! 玲子さんはデュエルがすっごく強いんです!」

 

「そ、そんな! わ、私なんか!」

 

 自身の最初の師匠の実力を元気一杯に静香は肯定し、それに対し北森が謙遜から首を激しく横に振る。

 

 そんな女性3人の姿に「女三人寄れば姦しい」とはよく言ったものだと何度目か分からぬ溜息を吐く。

 

 牛尾にとってこの空間はとても居心地が悪かった。

 

 

 だが建物の影に潜むグールズの姿を見つけ、その気の抜けた顔もすぐさま締まる。そして牛尾は北森に合図を送って周囲に聞こえるようなボリュームで北森に声をかけた。

 

「俺はちょっと飲み物でも買ってくるわ。少しの間、頼む」

 

 その牛尾の呼びかけの意味を理解し、北森は顔を険しくさせるも、その隣の杏子が割って入るように返す。

 

「あっ、じゃぁ私の分もお願い。お金は後で払うから。静香ちゃんはどうする?」

 

「じゃあ私もお願いしていいですか?」

 

 そう続いて頼んだ静香の姿に不自然にならぬよう北森も同調し、各々のメニューを聞きつつ牛尾はどうしたものかと考えつつも一先ず脇に置き――

 

「へいへい、了解しましたよ、お嬢様方」

 

 その言葉を最後に杏子たちと距離を取り、視界から外れたところで目的地に向かいつつ通信機片手にギースに連絡を取る牛尾。

 

「此方、牛尾。ギースの旦那、今のところは乃亜の予想通りかなり釣れました――こりゃあ相手さんの余裕がねぇのは確実ですね」

 

『そうか。だが牛尾、分かっているとは思うがこの作戦に失敗は許されん。油断はするなよ――――済まんな。負担をかけてしまって……』

 

 ギースの言う通り、この作戦に失敗は許されない。

 

 あくまで「偵察班が偶発的にグールズに襲われた」スタンスを崩してはいけない。

 

 囮作戦などという醜聞はあってはならないのだ。

 

「よしてくださいよ。旦那の働き具合に比べりゃ、俺のとこなんて大したことじゃねぇですって」

 

 牛尾とて乃亜が望まぬ形でこの作戦を立て、他に目ぼしい解決策もなかったゆえにギースも了承するしかなかったことなど理解している。ならば手足である己に出来る最善をこなすまでだった。

 

「じゃぁ、そろそろ目標のポイントに着きますんで、これで」

 

『ああ、無理だけはするなよ』

 

 ギースのその言葉を最後に通信を終えた牛尾はふと思う――ここに神崎がいればこの問題をもっと危険性の少ない方法で収められたのではないかと。

 

 だが直ぐに頭を振る。何故ならそれは「毒」だと牛尾は痛い程に理解しているゆえだ。

 

 人の意思を奪い、想いを書き換え、行動を縛る。

 

 そうやって一体どれだけの人間を本人も気付かぬままに歪められたのかを忘れたのかと。

 

 例え「一般的に正しいといわれる状態」にされると言えど牛尾には許容できることではなかった。

 

――あの人をアテにして動くのはしねぇ方が良い。

 

 牛尾は常々強く己を持つように心がける。「まだ己を見失ってはいない」と。

 

 既に変えられたことにも気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 一方の囮になった杏子たちは――

 

 当然、グールズとの追いかけっこに興じていた。

 

「ちょっとアイツら数がどんどん増えていってるんだけど!!」

 

 そう愚痴りながら、足を懸命に動かす杏子――それなりの距離を全力で走ったゆえかその息は荒い。

 

「杏子さん! もう少しらしいですよ!」

 

 そんな風に息も絶え絶えに走る杏子と違って、静香は涼しい顔で声援を送る。それもその筈、静香の姿は先行する北森の腕の中――所轄、お姫様抱っこされているのだから。

 

 何故か――退院したてゆえの体力的な問題から静香が直ぐにバテた為である。

 

「杏子さん! 目的地はこの先になります!」

 

 そして女性いえど人ひとり抱えながら息を切らすどころか汗一つかかずグングン進んでいく北森が、杏子に声をかけながら曲がり角に差し掛かる。

 

 だがそこは――

 

「えっ! ちょっと行き止まりじゃない、玲子ちゃん!」

 

 そう、行き止まり。だがそんな杏子の絶望が垣間見える表情にも北森はケロッと返す。

 

「はい、ここに向かってましたから――ちょっと失礼します」

 

「なんで――ええっ!」

 

 そして静香を片腕持ちに変え、空いた手で杏子を片手で持ち上げ抱える。

 

 女性いえども2人の人間を苦も無く抱える北森の腕力に驚く杏子はただ戸惑いの声を上げるばかり。

 

 

 やがて杏子たちの背後にグールズたちが「目標を行き止まりに追い詰めた」と、ジリジリと距離を詰め、杏子たちを捕らえるべく動いていく。

 

 しかしそんな姿を無視して北森は杏子に優しく微笑む。

 

「しっかり掴まっててくださいね?」

 

「え? なにを――」

 

 するつもり、とは杏子は続けられなかった。

 

 建物の壁を蹴った北森はそのまま反対側の建物の壁を蹴り、宙を舞う。

 

「えぇぇええええええええ!!」

 

 そんな杏子の絶叫を余所にそのまま同じように左右の建物の壁を蹴り、その屋上をも越える跳躍を見せ――

 

「あっ、飛びすぎちゃいました――ね。っと」

 

 そんなどこか場違いな言葉と共に屋上に着地する北森。

 

 そして抱えた杏子と静香の2人を降ろした北森は屋上から下に向けて顔を覗かせ、声を上げる。

 

「では牛尾さーん! 後はお願いしまーす!」

 

 その言葉に呆然と――そもそも千年ロッドの洗脳により大した反応はないが――上を向いていたグールズたちは背後に迫る足音に振り向き――

 

「了ー解。任された」

 

 そこにいる拳を鳴らす牛尾の姿を目にする。

 

 いつのまにやら「杏子たちを行き止まりに追い詰めた」筈のグールズは、「牛尾に行き止まりに追い詰められた状況」に陥っていた。

 

 だが、そんな状況でもグールズたちにあるのはマリクに指示された命令のみ。杏子たちを追うべく障害となった牛尾に人形のように無感情で殴りかかる。

 

 

 そしてかなりの数のグールズと牛尾の決戦の火蓋が切られた。そして拳が行きかう――って、デュエルしろよ。

 

 

 

 

 

 

 屋上から階下の路上で行われる拳の演奏こと、殴打音をバックミュージックに手元の端末で何やら作業している北森。

 

 そしてそっと下の牛尾の様子を覗き見ようとする静香――だが北森に路上の様子が見えないように引き寄せられていた。

 

 そんな中で杏子はその場にへたり込む。端的にいって地に足が付いていない。

 

「えっと玲子ちゃん? いや玲子さん? さっきの壁を蹴ってジャンプしたのってKCの発明品?」

 

 杏子は何故か「さん」呼びになりつつ北森に問いかけるが――

 

「? ただ足の指の力で壁を掴んで蹴っただけですけど……」

 

 肝心の北森は「何故そんな当たり前のことを聞くのだろう?」と、そんな疑問を顔に出しながら返す――互いの常識が色々と噛み合ってなかった。

 

「杏子さん! 玲子さんは凄いんですよ! とっても力持ちなんです!」

 

「い、いえっ! と、とんでもないです! 私なんてまだまだで――」

 

 そして静香が元気一杯に褒め、恥ずかしさと謙遜から北森がブンブンと首を振る姿に杏子は己が精神を立て直しにかかるのだが――

 

「――ちょっと待って2人とも、今の私……現実を受け止めるのに忙しいから……」

 

――えっ? これって「力持ち」で済む話なの?

 

 そんな杏子の言葉と内心はオカルト課の常軌を逸した常識の前ではあまりに無力であった。

 

 

 

 

 やがて先ほどのやり取りをなかったことにして杏子は気になった点を呟く。

 

 力持ち云々よりも杏子には此方の方が重要だった――断じて現実から目を背けている訳ではない。ないったらないのだ。

 

「アイツらってグールズの奴らよね? どうして私たちを狙ったのかしら? 私なんて珍しいカードを持ってる訳でもないのに」

 

「……ひょっとして私のカードが狙いなんですか?」

 

 そんな杏子の言葉に「もしや自分が原因ではないのか」と不安げに静香は片手を上げる。

 

「違うと思いますよ? 静香さんはデュエルを始めて日が浅いのでそこまで知られているとは思えませんし――ど、どちらかというと杏子さんが原因かと……」

 

 しかし事情を知る北森は違うと断言出来る――だが、実際の事情を話す訳にもいかない為、嘘を吐くのが苦手な北森はこんな時の為にと、乃亜が考えたストーリーを話すしかない。

 

「えぇっ!? 私!?」

 

 その北森の言葉に自分を指さしながら驚きを見せる杏子。自分では狙われる理由が皆目見当がつかないようだ。

 

 だが乃亜の考えたストーリーは杏子の目から真実を逸らす程度の説得力はある。

 

「はい、杏子さんはそ、その、『武藤 遊戯』さんのこ、恋人さんなんですよね? なので武藤さんのレアカードを狙う為に、杏子さんを利用しようとしたんじゃないかと……」

 

「成程ね……」

 

 北森の照れの入った説明に納得を見せる杏子。

 

 実際に決闘者の王国(デュエリストキングダム)で全米チャンプであるキースと熾烈な決闘を繰り広げた遊戯は学校ではスターのように扱われた姿を杏子は知っているのだから。

 

「えっ! 杏子さん! 遊戯さんとお付き合いしてたんですか!?」

 

 だが静香のその言葉に杏子はまたも瞠目した。

 

「あっ! ち、違うわよ。私と遊戯は別にそんな――そ、それよりも! そんなこと誰から聞いたの玲子ちゃん!?」

 

 咄嗟に「恋人」という関係性を否定した杏子。

 

 遊戯が抱える「武藤 遊戯」と「名もなきファラオ」、2つの人格を持つ特殊な状態ゆえに杏子自身が持つ感情の不明瞭さもその否定に拍車をかける。

 

 よって北森から下手人を問い質すことで話を逸らそうとする杏子。

 

「? 牛尾さんが言ってましたけど……違うんですか?」

 

 その下手人の名は思っていたよりもあっさりあがった。

 

「ち、ちょっと牛尾くん!」

 

 ゆえに階下の路上で完全に別と言っても良いようなアウトローな世界を構築している牛尾に色々言ってやろうと、屋上から下を覗こうとするが――

 

「あっ! ダメですよ! 下を見ちゃ!」

 

 その杏子の手を掴み、北森が制止に入る。杏子は咄嗟にそのまま進もうしたが、北森の身体は文字通りビクともしない。

 

「なんで!」

 

「な、なんでと言われても……あまり見ない方が良いとしか……」

 

 ゆえにキツ目の言葉を使ってしまった杏子の剣幕ゆえに北森は目を泳がせる。だが腕は相変わらずビクともしない。

 

 

 その北森の姿に今現在、牛尾はグールズの対応をしていることに思い至る――屋上では先ほど聞こえていた殴打音も鳴りやみ、静かだったゆえに忘れてしまっていたようだ。

 

「あっ、ごめんなさい……牛尾くんの邪魔になっちゃうかもしれないか……」

 

「は、はい。あの……私も武藤さんと杏子さんの関係を間違えてしまって、すみません」

 

 杏子の謝罪に北森もペコリと謝罪を返す。

 

「いや~そういう訳じゃぁ……いや! この話はもうおしまい! 気にしないわ!」

 

 北森のあまりにもバッサリとした遊戯との関係性を区分する姿に一瞬戸惑う杏子。

 

 だが杏子の複雑な乙女心を説明する難しさと、静香が興味津々に聞きたそうにしている現実から話題を若干強引に終わらせた。

 

 さらに「これ以上追及される前に話題を変えねば」と杏子は考えを巡らせつつ、何かのヒントを探す様に目線を泳がせる。

 

 そんな杏子の視界に入った北森の姿に先程の一旦置いておいた疑問を掘り起こす。

 

 そして自身を見やる杏子の姿に「どうしたのだろう」と首を傾げる北森の身体の上から下までを杏子は眺め、ふと零す。

 

「ところで玲子ちゃん。さっきは凄い力よね……」

 

 スラリと伸びる長袖に覆われた北森の手足は服越しではそう筋肉質に見えない。

 

「そ、そうなんでしょうか? 私の職場ではみんな『こう』なので、あまり実感はないんですけど……」

 

 しかし北森は「マッスルの巣窟」などと揶揄されかねないオカルト課にドップリ漬かってはいても、

 

 護衛用の戦闘訓練では殆どギースが相手を務め、大体自身の攻撃をいなされている為、あまり自身が力強い認識はない。

 

 そのギースがいないときの戦闘訓練では基本的にサンドバッグを殴っていることも相まって、その認識は中々氷解しない。

 

 その北森がサンドバックを殴る姿を見た神崎が「もうやめて! とっくにサンドバッグのライフはゼロよ!」と思ったとかなんとか。

 

 さらにオカルト課対抗、腕相撲大会の決勝戦での牛尾との一戦で、バトルフィールドたるテーブルを木端微塵に粉砕した過去があるが、詮無きことである。

 

 ちなみに大会結果は「微妙に腕の角度が牛尾の方が優位だった」とのギースの審判により牛尾が優勝した。

 

 

 

「そんなに太い訳じゃないし……」

 

 ジッと北森を見やる杏子に北森は居心地を悪そうにしながら返す。

 

「そ、それは筋繊維の密度がどうとかで、関節の動きを阻害しないとかなんとか――すみません、私はあまり詳しくなくて……ギースさんや博士なら詳しいんですけど……」

 

 だが北森はそこまで肉体の仕組みに詳しい訳ではない為、説明は自然とフンワリしたものになる。

 

 しかし杏子は静香の師匠’sの紹介に出てきたギースの名に反応を示した。

 

「ギースさん?と博士さん?が玲子ちゃんのデュエルの師匠なの?」

 

「そういえば私も玲子さんのデュエルの師匠のことは聞いたことないです!」

 

 杏子の疑問に追従して静香も前に出る――自身の最初の師匠の過去が気になる様子。

 

 そんな2人に対し、北森は頬をかきながら返す。

 

「いえ、私に『デュエルの師匠』と明確に言える人はいないです――神崎さん、えっと私の職場の責任者の方なんですけど、その人に『デュエルの才能がある』なんていわれて、基本的なことはカリキュラムを受けて、後は私の思う様にすると良いと」

 

 オカルト課でのデュエルの教導は「選ばれし真のデュエリスト」を生み出すことを旨としている。

 

 その「選ばれし真のデュエリスト」になればデュエルも強くなる為、あながち間違ってはいない。

 

 だが神崎を含め、オカルト課の誰もが「選ばれし真のデュエリスト」になる方法も知らない為、才能を阻害しないことを一番にした教導になっている。

 

 ゆえにデュエルモンスターズの複雑怪奇なルールを叩き込んだ後は身体作りの継続と定期的なデュエル、そして仕事以外は自由に等しい。

 

 しかしその自由時間も北森の真面目な性格から身体を鍛え続け、神崎やギースも「身体を動かすのが好きなのか」と勘違いしそれ相応のハードルを与え、北森はそれを乗り越え続けた。

 

 乗り越え続けてしまったのだ。

 

 そんなことを続けた結果、北森以外が天を仰ぐような羽目になってしまった――誰か止めろよ。

 

「それでギースさんは、えっと私の先輩の方でトレーニングを見て貰いました。後は博士……じゃなくて、ツバインシュタインさんは色んなことを研究しているお医者さんなんですけど……詳しいことは何も……」

 

「あっ、玲子ちゃんだって守秘義務とかあるわよね」

 

 マッスル的な知識は北森にはない為に説明は要領を得ない。ゆえに杏子は「守秘義務」かと謝るが――

 

「それは大丈夫です。私が見聞きするようなことは『出来る限り大丈夫なものにしてる』ってギースさん仰ってましたから。さすがに他の方の個人情報とかはお教え出来ませんけど」

 

 オカルト課内で裏の仕事にそこまで関わらない北森が、友人などに「言えない」等といった悲しいことがあまりないようにとの配慮はされている。

 

「へー、いい職場なのね……」

 

 楽しそうに自身の職場を語る北森の姿に杏子はそう呟くも、少しの好奇心から、今思いついたかのように願い出る。

 

「そうだ! 私、将来はダンサーを目指してるんだけど――腕の筋肉とか触らせて貰っていいかな?」

 

「それは構いませんけど……」

 

「じゃぁ私もいいですか? 玲子さん!」

 

 そして同意を得た静香は自身の最初の師匠とのスキンシップに杏子にお先にと、北森の腕を長袖越しにペタペタと触る。

 

「うわぁ~もっと固いと思ってたんですけど、結構普通なんですね~」

 

 そんな静香の感嘆の声を余所に反対側の腕を触る杏子だが――

 

「お、重ッ! ご、ごめんなさい!」

 

 予想していたよりも遥かに重みがあった為、思わず声が漏れる。

 

 女性に「重い」は禁句だが、北森は気にした様子もなく返す。

 

「いえ、構わないですよ。体重よりも体型を気にかけた方が良いとギースさんも言ってましたし――それよりも、もういいですか?」

 

 北森からすれば「重い」との言葉より、段々と触り方に遠慮がなくなってきた杏子と静香の方が気になっていた。

 

「 「もうちょっと!」 」

 

 そんな杏子と静香の息ピッタリな声に困惑する北森。

 

 しかし助け舟は思わぬところから訪れる。

 

 

「おーい!! こっちは終わったぞー!!」

 

 下から響く牛尾の声に北森の腕をペタペタと触る杏子と静香を制す北森――静香の残念そうな瞳と北森は目が合ったがいつまでもこうしている訳にはいかないのだ。

 

「牛尾さんの方は終わったみたいですね――じゃぁ戻りましょうか」

 

 その言葉に静香は北森の腕の中に収まる。

 

 その姿を見た階段に通じる扉の方へと歩を進めていた杏子は嫌な予感がした。

 

 だがそう考えた杏子はいつのまにやら北森の腕の中に抱え込まれている。未だに杏子の中には嫌な予感しかない。

 

 北森が屋上の縁に向かい、身を乗り出したところで杏子の嫌な予感は確信に変わる。

 

「え、ちょっと待って玲子ちゃん……ひょっとして――」

 

 そんな杏子の姿を余所に北森は安心させるようニッコリ笑い――

 

「じゃぁ、さっきみたいにしっかり掴まっててくださいね?」

 

 既に静香は北森にギュッと掴まっている。

 

 そして屋上の端に足を置いた北森の姿に杏子も慌てて北森にしがみ付いた。

 

「よっと!」

 

 そんな軽い掛け声と共に屋上から壁を伝って走り下りる北森。

 

 杏子の乙女であることをかなぐり捨てたような絶叫が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上に舞い戻った北森・杏子・静香の3名。

 

 絶叫マシンのようだったと北森に喜びを示す静香を余所に前後不覚で座り込む杏子だったが、息も絶え絶えに立ち上がり牛尾に詰め寄る――2回目ゆえか立ち直りは早い。

 

「ちょっと牛尾くん! ――あれ? さっきのグールズは?」

 

 しかし周囲にグールズの面々がいないことに目が付く杏子。

 

「もう回収班の奴らに引き渡したよ。ほれ、飲み物。で、何だ?」

 

 杏子にザックリと事の経緯を説明しつつ、回収班の佐藤から差し入れ兼、辻褄合わせに渡されたジュースの缶を杏子に軽く放りながら牛尾は杏子の言葉を待つ。

 

「あ、ありがとう……じゃなくて! 私が遊戯と、こ、恋――そ、その付き合ってるとか言ったそうね!」

 

 杏子の要件は先ほどの北森から聞きだした下手人の件。

 

 恥ずかしさからか、言葉を詰まらせながら怒る杏子に牛尾は堪えた様子もない。

 

「ん? 何だ、違うのか? デートも済ませたんだろ? だから俺はてっきり――」

 

「な、なんでそのことを!?」

 

 遊戯と町に繰り出したことを牛尾が何故知っているのかと恥ずかしさと驚きがない交ぜになったような面持ちを見せる杏子。

 

 

 その姿に「遊戯から聞いた」と真実を答えていいものかと悩む牛尾。2人だけの思い出にケチをつけるものは如何なものかと――もはや今更だが。

 

「遊戯の知名度考えたらその手の情報は自然と耳に入ってくるぞ? 今後のデートはもうちっと気を付けな」

 

 それとなく真実を混ぜつつ、矛先を逸らす牛尾――「恋愛事は面倒だなぁ」などと思いながら。

 

「そ、そうなんだ……ありがとう……って違う! 私たちは――」

 

 今後に気を付けるべき個所を指摘した牛尾に感謝を送るも、そもそもの発端を杏子は思い出し追及するが――

 

「ヘイヘイ、お二人さんはお友達の関係ってことな」

 

「~~ッ! もう!」

 

 牛尾の「分かってますよ」との対応に杏子は照れから顔を赤くする。

 

 だが杏子とて古代エジプトの石板に描かれたもう一人の遊戯こと「名もなきファラオ」の姿を見たときから、どこか予感しているのだ。

 

 いつか来るであろうもう一人の遊戯との別れのときを。

 

 それゆえに顔を曇らせる杏子を余所に牛尾は残りの飲み物を北森と静香に渡しつつ、声をかける。

 

「さて、ちっとばかしトラブルに見舞われちまったが、仕事に戻るとするか」

 

 その牛尾は掛け声に北森と静香は顔を見合わせ――

 

「了解です、牛尾さん」

 

「はい! 牛尾先輩!」

 

 そうして先行する3人に杏子はもう一人の遊戯との別れの不安を振り切るように後に続いた。

 

 




静香がオカルト課で受けたのはデュエルの師事だけで
マッスル訓練を受けていない為、退院上がりなのも相まって筋力は低め。

杏子はダンサーを志しているのもあり、筋力は一般的な人よりやや上。

北森はオカルト課の影響をモロに受けた為、マッスルは異次元。

牛尾は城之内や本田をも一蹴するリアルファイトの腕は実践的な訓練により更なる磨きがかかっている。


さぁグールズ共! どっからでもかかってきな!!( ゚д゚ )クワッ!!

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