マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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―注意―
今回のお話ではマリクとリシドが酷い目に合う描写があります――どうかあらかじめご覚悟を



前回のあらすじ
静香「(北森に抱えられつつ)あの……玲子さん……私……重くないですか?」

北森「? ――いえ、むしろ軽すぎて心配になるんですが……(マッスル感)」

杏子「に、二重の意味で辛いんだけど……(全力疾走中)」

牛尾「……(もはや何も言うこともねぇ)」




第81話 タ、タイム! タイム! ぼ、暴力反対!

 

 マリクの隠れ潜む一室でテーブルから伝わる僅かな振動によりマリクは地面からの振動を感じ取る。

 

 その揺れは一度だけの軽いもので、直ぐに収まった。

 

「これは地震……か?」

 

 そう不審に思うマリクを余所にマリクの隠れ家の天井から砲弾のような何かが飛来し、マリクの近くに轟音と共に落ちる。

 

 そして周囲は砂煙で覆われ、マリクの視界を奪った。

 

「い、一体何が!?」

 

 そんなマリクの困惑に答えるように砂煙の中から腕が伸び、横なぎに振るわれると、突風と共に砂煙は吹き飛ばされる。

 

 

 マリクの前に立つのは人であることを覆い隠すような黒い衣装で全身を覆った男、アクター。

 

 そのアクターに対し、マリクは警戒するように腰のホルダーに取り付けられた「デュエルディスク」と共にしまってある「千年ロッド」を手に取り相手に向ける。

 

「貴様、一体何者だ!! 何が目的で――」

 

 そう、マリクは「デュエルディスク」ではなく、「千年ロッド」を相手に向けて() () () ()

 

 そしてマリクの耳に届く「ポキッ」という音と地面に金属の何かが落ち、転がるような音。

 

 

 その2つの音の正体はマリクの腕が折れた音と、千年ロッドが地面に落ち、転がった音。

 

 簡単な話だ。ただアクターがその常軌を逸した筋力でマリクの千年ロッドを持つ腕を圧し折ったに過ぎない。

 

「――ボ、ボクの腕がぁああああ!!」

 

 そう叫んで痛みのあまり尻餅をつくマリク。

 

 重ねて言うがマリクは「デュエルディスク」ではなく、「千年ロッド」を相手に向けた。

 

 それは「デュエル」ではなく、「リアルファイト」で戦うことを選んだに等しい。

 

 それも桁外れのデュエルマッスルを持つ相手に。

 

 更に運の悪いことにアクターにとって「人を洗脳する力を持つ千年ロッド」を向けられた段階でマリクに対する「必要な配慮」は消し飛んでいる。

 

 ある程度はオカルト課が持ちうる治療技術で治せることもその決断の後押しとなった。

 

 さらに操られたグールズたちがどういった状態なのかを神崎が知っている点もその理由に上がる――あれは「生ける屍」に等しく、アクターこと神崎が恐れる「死」に近い。

 

 ゆえに今のアクターこと神崎に「容赦」の二文字はない。神崎にとって己の命こそ優先すべき事柄なのだから。

 

「ぐぅううう!!」

 

 そして折れた腕を無事な腕で抑えながら地面に転がった千年ロッドを探し、目を動かすマリク。

 

 しかしそのマリクに今度は「グシャリ」という何かが潰れる音が足元から聞こえた。

 

 アクターがマリクの両足を踏み砕いた音である――人の所業ではない。

 

「ぐがぁあぁあぁああああああ!!」

 

 痛みのあまりその場でのたうち回るマリクを余所にアクターは千年ロッドを視界に収める。

 

 

 千年ロッドの危険性はアクターも理解している為、どうにかする必要がある。だが一つの懸念もあった「アレは認められたもの以外が触っても大丈夫なのだろうか?」と。

 

 原作にて適性のないものが千年リングを装着した場合に、千年リングに認められずに炎に焼かれて死んだ事例がある。

 

 ゆえにアクターこと神崎は警戒する――あれと同様のことが触っただけで千年ロッドでも起きるのではないか、と

 

 

 そう考えていた僅かな時間にマリクの隠れ家の扉だったものを蹴破り、息を切らせてこの場に現れた褐色肌の男、リシドが必死な形相でマリクに呼びかける。

 

「マリク様!! ご無事ですか!! 一体何が――」

 

 アクターがマリクの隠れ家に襲撃した際のダイナミックエントリーの轟音を聞きつけ慌てて駆け付けたリシドの姿。

 

 だが片腕と両足があらぬ方向に曲がり地面に蹲るマリクの姿とそれを行ったと思われるアクターの姿にリシドの視界は怒りで真っ赤に染まる。

 

「――貴様ぁあああ!!」

 

 そして(あるじ)であるマリクを救うべく、アクターに「殴りかかる」が――

 

 そのリシドの拳はあっさりとアクターの掌に掴まれ、そのまま紙切れのように握りつぶされた。

 

「なっ! ぐっぅうううう!!」

 

 拳を抑え、痛みに呻くリシド。だがリシドの目はまだ闘志を失ってはいない。

 

 今の状況からマリクだけでも逃がさねば、その一念だけがリシドを動かす。

 

 

 リシドにとって幸いなことにアクターからの動きはない。

 

 それもその筈、アクターこと神崎は「肉弾戦」に於いての手加減が酷く苦手だ。

 

 普通に殴ったつもりでも対象に大穴が空き、対象を掴んでそのまま投げ飛ばそうとすればその対象が比喩でも何でもなく引き千切られる。

 

 ゆえにアクターにはシンプルなアクションでしか攻撃出来ない――理性が「殺しは後々面倒なことになる」と辛うじてブレーキを踏んでいることもそれに拍車をかける。

 

 

 しかしそれでもリシドに選択肢は多くない。マリクを逃がそうにも肝心のマリクの両足は圧し折られており、自力での逃亡は困難。

 

 リシドがマリクを抱えて逃げようにもアクターがそれを許してくれるとはリシドには思えない。

 

 ゆえにリシドが取った選択は――

 

「うぉおおおおお!! マリク様!! 千年ロッドを!!」

 

 そう雄叫びを上げながら勢いよくアクターの腰元にタックルをかけたリシドは最後の希望をマリクに託す。だがそんなリシドの決死のタックルにもアクターは微動だにしない。

 

 しかし今のリシドは人を操る力を持つ千年ロッドに全てを託すしかなかった。

 

 そのリシドの決死の姿を見たマリクは手足に奔る激痛に耐え、地面を這って千年ロッドを目指す。

 

 だがマリクの耳に肉がゆっくりと潰れるような音が聞こえる。

 

「リシドッ!」

 

 思わずリシドの方に首を向けるマリク。

 

 

 そのマリクの視界に入ったのはアクターの腰元にタックルで押し続けるリシドの姿。

 

 そしてそのリシドの両肩に手を置き、その両肩を千切り取ってしまわぬようにゆっくりと握り潰しているアクターの姿。

 

 リシドはあまりの激痛に叫び声を上げたい衝動を気迫のみで押さえつけている――きっとマリクが歩を止めてしまうと考えたゆえに。

 

「マ、マリク様……お早く……な、長くは持ちそうに……ありません……」

 

「くっ! リシドッ! あと少し頑張ってくれ!」

 

 そのリシドの姿に何を止まっているのだと己に叱責をいれ、千年ロッドを目指すマリク。

 

 やがてマリクの後ろで「ドサリ」と人の倒れる音がしたが、マリクは目前の千年ロッドに手を伸ばし――

 

 だがそのマリクを覆う様にさす人影にマリクは動きを止める。

 

「ボ、ボクが……ボクたちがどうしてこんな目に――」

 

 そう言いながらマリクは絶望の表情と共に顔を上げるが、その前にマリクの残った無事な腕にアクターの足が降ろされた。

 

 肉の潰れる音と、青年の叫び声が響いた。

 

 

 

 

 その後に特に特筆すべき点はない。

 

 マリクを持ち上げ千年ロッドから物理的に距離を離したアクターの姿と、

 

 リシドが深く意識を失ったゆえに表に出てきたマリクの怨み辛みが集まった邪悪なる人格、闇マリクが己の身体に起こったあまりの事態に喚く姿、

 

 そしてアクターが通信機で呼んだ赤毛の強面の男、ギースがマリクとリシドを連行した姿だけだ。

 

 その後のマリクとリシドは治療を受けた後、どこの国かも分からない特殊な刑務所に数百年もの刑期を課される。

 

 言外に「一生刑務所にいろ」と言い渡されたようなものだ。

 

 そしてその生涯を牢獄で過ごした。

 

 

 

 

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 今の出来事はイシズが持つ未来を見通すことができる「千年タウク」が見せた未来。

 

 しかし既にこの未来の切っ掛けである「偶発的にマリクの居場所を発見する」蜘蛛のマークのタンクトップを着た名蜘蛛を別の場所にイシズが誘導した為、起こることはない。

 

「これでマリクは無事、生きられる筈……」

 

 だがイシズは深い溜息を吐く――もはや何度目か分からない、と。

 

 あるときを境にイシズが見た未来は原作のような「一遍の光すら見えない暗黒の未来」以上に酷いものだった。

 

 それは先ほどのようなアクターと呼ばれる男にマリクとリシドが蹂躙される未来。

 

 他の未来も形や経緯こそ違えど、マリクとリシドの辿る結果はイシズにとってそう変わりはない。

 

 さらにアクターの未来を見る際は千年タウクをしても、酷く未来が見え難くなったこともそのイシズの心労に繋がっている。

 

 

 過去にイシズは一度、マリクの中に眠る邪悪な人格である闇マリクならば対抗できるのではと考えた。

 

 だが千年タウクが見せた未来は千年ロッドを使った闇マリクの闇の力場を何らかの力――冥界の王の力なのだが――を込めた素手で引きちぎり、そのまま闇マリクの顔面を殴り飛ばすアクターの姿。

 

 そして地面に血だまりを作りピクリとも動かなくなったマリク。

 

 

 その先の未来をイシズは恐ろしさのあまり見てはいない。

 

 

 今まで幾度となく、数えるのも億劫になるレベルで陰ながらマリクの命の危機を回避してきたイシズはあと少しだと気を引き締める。

 

 この凄惨な未来を完全に回避できるのはマリクがこのバトルシティの「本戦」に勝ち上がり、人目のある場所で活動し始めたときなのだから。

 

 

 その先に救いがあると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 KC内のバトルシティの情報が全てあつまる管制室でBIG5のサイコ・ショッカーの人こと大門が乃亜に情報を告げる。

 

「乃亜様、また偽造カードの反応があったとのことです」

 

「そうか、なら近場のデュエリストを……まずは2名向かわせろ」

 

 その乃亜の指示に雇ったデュエリストへ連絡を入れるKCスタッフ。

 

 そんな慌ただしくも統制の取れた管制室に来客が訪れる。

 

「いやはや、大田の作ったシステムは優秀ですな」

 

 その来客はBIG5の一人《深海の戦士》の人こと大下 幸之助が此処にはいないBIG5の一人、《機械軍曹》の人こと大田 宗一郎へ賛辞を贈る。

 

 

 童実野町の全体のデュエル情報を網羅するシステムを組み上げた大田の働きによって起動しているデュエルディスクさえあればグールズたちはおろか、参加デュエリストの不審な動きも丸分かりだ。

 

 

 そして物見遊山な気分でモニターに映るデュエルを見つめる大下はふと言葉を零す。

 

「しかし、このバトルシティであの大犯罪者『ドクター・コレクター』を捕らえるとは……思わぬ大物が釣れたものだ。これなら警察関係に新たな強いパイプも持てるというもの」

 

「何の話だい、大下?」

 

 そのBIG5の大下の言葉に乃亜は不思議そうに返す――大下の言葉から何者かの影を感じ取って。

 

「大下!!」

 

 しかしBIG5のサイコ・ショッカーの人こと大門は声を荒げる。

 

 それらの件は神崎が秘密裏にBIG5と交換条件の元で依頼されたもの――さらにBIG5の面々は既に報酬は受け取っているのだ。下手なことは出来ない。

 

 それゆえに不用意に情報を広げるべきではないと考える大門を余所にBIG5の大下は軽く肩を竦める。

 

「何を恐れる大門。乃亜様はオカルト課の暫定的なトップともいえるお方だ。であれば神崎の計画もそのお耳に入れておくべき話ではないか」

 

「しかし、奴は剛三郎殿を――」

 

 BIG5はかつて方針の違いから剛三郎とある種の溝があった。しかし「今現在の剛三郎の姿」を実際に見た大門はその有様に同情を禁じ得ない。

 

 そしてそれは神崎に対する大門の警戒心を強めていた。

 

 そんな大門の姿に大下は顎に手を当て考え込む仕草を見せるも――

 

「フム、どうやらお前は神崎を警戒し過ぎているようだな。だがその心配は『杞憂』というもの――アレは中々に話の分かる男だ。その程度のことで我々を切り捨てはせんよ」

 

 大門の言葉をまともに取り合わない。今まで上手くやれてきたのだから、今後も問題はないのだと。

 

 なおも言葉を返そうとする大門を乃亜は手で制して大下から情報を引き出す。

 

「それで大下。キミは神崎に何を頼まれたんだい?」

 

 それに対しBIG5の大下は特に隠す様子もなく切り出した。

 

「やはり乃亜様はご存知ないようだ――実は過去に神崎から頼まれていましてね。なんでも警察内部に新しい部署を作る際に色々手を出したいと」

 

「部署?」

 

 乃亜はそんな話を神崎から聞かされてはいなかった。ゆえに乃亜には任せられないと言外に言われているように感じ、乃亜の声はどこか冷たくなる。

 

 しかしBIG5の大下はそんな乃亜の変化に気にした様子もなく説明を続ける――実質的な幹部扱いである乃亜が知らないのは意外だと思いつつ。

 

「はい、部署です――確かデュエル犯罪に対応したものとか、かなり大きく動くらしいとのことです。ですが乃亜様が聞いておられないのも無理はないかと、まだ形にすらなっていない案件ですので」

 

 警察関係、長い準備期間、大規模、デュエル犯罪への対抗等々、様々な情報が乃亜の脳内を巡る。

 

 そう思考に耽る乃亜だったが、意気揚々と現れた新たな来客の陽気な声がその思考を断ち切る。

 

「おおっ! 皆、頑張っているようですねぇ! ああ、これは乃亜様、私が選りすぐったキャンペーンガールちゃんたちの様子はどうですかな!」

 

 その新たな来訪者はBIG5のペンギン大好きおじさんこと大瀧。

 

 あいも変わらず趣味全開で生きるその明け透けな姿に乃亜は毒気を抜かれたように返す。

 

「今のところ順調に働いてくれているよ。しかし大瀧、キミも思い切ったことを考えたものだ――情報の窓口をKCの職員ではなく一般から集めるとは」

 

 大瀧の提案による「キャンペーンガール」たちにデュエルの情報を大々的に取り上げさせ、一般人の目をグールズから逸らす策。

 

 大瀧の趣味全開の策ではあったが、それ相応の根回しと緻密に計算された情報統制に大瀧の熱意が合わさった結果によって形になったものだ。

 

「しかし彼女たちは裏の事情は大して知らない――余計な情報を流していないといいんだけど」

 

 そんな「押し切ったからには失敗は許されない」との乃亜からの言外のプレッシャーにも大瀧は動じた様子を見せず笑う。

 

「グフフフ、その点はご安心を!! 何せこの私、手ずから選抜した精鋭中の精鋭たち! 必ずや乃亜様がご満足して頂ける成果を上げてくれるでしょう!!」

 

「そうか……そういえば本戦での情報媒体も彼女たちから選ぶことになっている手筈だけど、目星はついたのかい?」

 

 このバトルシティではキャンペーンガールたちも互いに競い合っている。

 

 最も優秀な働きを示したものがこのバトルシティでの本戦でのリポートの権利を得る――バトルシティの知名度を鑑みれば上を目指すものたちにとって大きなチャンスだ。

 

 しかしその乃亜の質問に大瀧は片手を「ビシッ」と勢いよく前に出しながらキリッとした真面目な表情で返す。

 

「今のところ甲乙付けがたい、といったところになります……ですが競わせることで彼女たちの才を限界値まで高め合わせ、もっとも――」

 

「キミの趣味に付き合う気はないよ、大瀧」

 

 そして矢継ぎ早に大瀧の趣味の領域やこだわり等を話し出しかねない勢いに乃亜は呆れ顔で制す――これでも忙しい身なのだと。

 

「これは失礼しました! ですが彼女たちからすればこの機会はビッグチャンスですからねぇ! 文字通り完璧に仕事をこなしてくれることでしょう! 乃亜様は大船に乗ったお気持ちでいてくだされ!! ハッハッハッ!!」

 

 そう笑う大瀧を乃亜は冷ややかに眺めている。

 

 その乃亜の視線に一緒にされては敵わないと大下はそそくさと退散していく。

 

 そんな大下の後ろ姿を今は側近として乃亜の傍にいなければならない大門は己も退散したい気持ちをグッと押し殺し、羨ましそうに見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 童実野町の広場の一角でキャンペーンガールの一人である野坂ミホはバトルシティの参加者にインタビューをしていた。そのお相手は――

 

「アメリカにて最年少でプロになったレベッカ選手! ではカメラに向かって意気込みをどうぞ!」

 

 プロデュエリストの肩書を持つレベッカ。

 

 そしてレベッカは眼鏡の位置を直して長い髪を揺らしながら、カメラに向かって手を振り元気よく答える。

 

「おじいちゃーん! 見てるー? 私、頑張るからねー!」

 

 

 そんなレベッカの周囲を見渡せばデュエルモンスターズのモンスターである白い四角の身体に小さな天使の羽、さらに3本線で目と口が書かれ、頭に?マークがある《もけもけ》や、

 

 デフォルメされたヒヨコの頭に卵の殻を乗せた《ぴよコッコ》のキグルミが子どもに《クリボー》を模した風船を手渡している。

 

 さらには長い髭を蓄えた如何にもな学者の風貌の《マスマティシャン》が2頭身のキグルミとなって杖片手に巨大なモニターに映るデュエルを分かりやすく解説する姿も見える。

 

 

 そんな祭りのような風景を眺めつつ海馬はつまらないものを見るように呟く。

 

「ふぅん、全く……随分と騒がしいことだ」

 

 海馬からすればこのバトルシティはグールズを捕らえる為の罠であり、デュエリストたちが熾烈を競う戦いの場だ。

 

 にも関わらずお祭り騒ぎのような騒々しさに海馬は眉をひそめる。この大会の開催を神崎に命じた海馬だが、思っていた大会の雰囲気と違うらしい。

 

 一応あのキグルミを着たKCの社員たちはグールズが表で騒ぎを持ち出した際にそのままの姿で特攻をかけ、その騒動をイベントのように誤魔化しつつ叩き潰す部隊だ。

 

 しかし今の表が平和な段階ではただの盛り上げ役でしかない。

 

 なおここまでお祭り騒ぎになったのはBIG5たちが「折角町一つを大会の会場にするのだから」と色々悪ノリした結果だったりするのだが、そのヘイトはやっぱり神崎に向かっている――便利な避雷針だ。

 

 

 そんな海馬を余所に野坂ミホのインタビューは進んでいく。

 

「レベッカ選手はこのバトルシティにどういった意気込みで参加されたんですか?」

 

「それはね~どうしても確かめたいことがあって――」

 

 レベッカの目的は海馬とデュエルして《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に相応しいか確かめるべく、確実にデュエル出来るであろう本戦に進むことだ。

 

 だが当然それを話せば《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に関する色々と込み入った事情も話さなければならなくなるゆえに、どこまで話したものかと言葉を探すレベッカだったが――

 

「――って海馬!!」

 

 肝心の目的の人物が普通に傍にいたことに瞠目するレベッカ。

 

「あっ! 海馬社長!」

 

 そのレベッカのマイク越しの声に野坂ミホも海馬に一礼を返す。その2人の声に周囲のキグルミたちの背筋が突如ピンと伸びたのは気のせいに違いない。

 

「ふぅん、急にどうした。俺になにか用か?」

 

 そう挑発するように返す海馬の姿にレベッカはマイクを野坂ミホに突き返し、素早く海馬の正面に走り寄って指差す。

 

「本戦で戦うつもりだったけど予定変更よ!!」

 

 そして己のデッキを取り出し、デュエルディスクにセットしながらレベッカは啖呵を切る。

 

「ココであったが百年め! 海馬! 貴方がおじいちゃんのブルーアイズを持つに相応しいか! 私が見極めて上げるわ!!」

 

「またあのじいさんの関係者か……」

 

 初戦に戦った双六と同じような用件だと察した海馬はレベッカに獰猛な笑みを向ける――誰の挑戦であっても海馬は受けて立つのみだ。

 

 自身こそが《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に相応しいのだと見せつけてやろう、と。

 

「良いだろう、だがブルーアイズを狙う以上――女子供であろうと容赦はせんぞ!」

 

「容赦? そんなもの端から必要としてないわ!! 全力できなさい!! ――それと私が持っているパズルカードは2枚! 海馬! 貴方は?」

 

 海馬に挑発を返されたレベッカだが、構わず強気に返す。そして互いに賭けるパズルカートを懐から示した。

 

「ふぅん、奇遇だな。俺も2枚だ――今後も纏わりつかれても迷惑だ。ここは互いにパズルカードは全て賭けるとしよう」

 

「異論はないわ!!」

 

 互いに手持ちのパズルカートを全賭けのデュエル――この勝負が終わればどちらかがこのバトルシティを敗退する。

 

 しかし両者には「己こそが勝つ」と言わんばかりの姿だけがあった。

 

 

 その姿に野坂ミホはこの場に居合わせた幸運に感謝しつつ、撮影スタッフと目配せして両者の間に立つ。

 

「おおっとぉ! 何やら詳しい事情は分かりませんが、因縁がある様子ですよー! これは名勝負の予感です!!」

 

 そんな野坂ミホの姿に海馬、レベッカの両名は「好きにしろ」と言わんばかりに乱入を許す。

 

「では不肖の身ながら私があの言葉を言わせて貰いまーす!」

 

 そして右手を天に掲げた野坂ミホは軽く咳払いしたのち宣言した。

 

「おほん――デュエル開始ぃいいいいい!!!」

 

 

「 「デュエル!!」 」

 

 





基本的に神崎は敵対者には容赦はしない――自身の命に係わる程、それは顕著になる。



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