前回のあらすじ
ペガサス「シンディア! 見てくだサーイ! 貴方と見た景色をカードにしてみマシタ!! 差し上げマース!!(《エアーズロック・サンライズ》を渡しつつ)」
シンディア「まぁ、なんて素敵な風景! じゃぁこのアルバムに仕舞って大事にするわ」
ペガサス「What? 《ウォーターワールド》に《
シンディア「フフッ、これはね? 貴方と一緒に旅した世界の景色のカードをこうしてアルバムに纏めているの――こうすればいつだって貴方との想い出を思い出せるでしょう?」
ペガサス「Oh……シンディア……(感涙)」
前田 隼人「なん……だと……なんだな!? これじゃぁ俺はI2社には――」
ボルトヘッジ・ホッグ「いや、違うよぉ! 前回は『マイコ・カトウVSアクターのデュエル』終局編だからぁ!!」
矢の雨からマイコ・カトウを守るように覆いかぶさる《キング・オブ・ビースト》。
両の腕を広げその巨体を盾として立ち塞がる《エンシェント・クリムゾン・エイプ》と《森の狩人イエロー・バブーン》。
その3体の獣の咆哮に背を押され、アクターに向けて雄叫びを上げながら一人駆けだす姿があった。
その姿の主は《森の番人グリーン・バブーン》。
体中に矢の雨が突き刺さろうともその足は止まらない。
その行為は「このデュエル」に何の影響も与えることはない。
――マイコ・カトウの「精霊」、《森の番人グリーン・バブーン》は知っていた。
効果ダメージを無効にする訳でもなく
――知っていた。ただの自己満足だと
相手モンスターを破壊する訳でもなく
――知っていた。マイコ・カトウがこのデュエルにどれ程の準備と意気込みを賭けていたのかを
相手のモンスターの効果を無効にする訳もない
――知っていた。アクターが「何も見ていない」ことを
そう、アクターは何も見ていなかった。
相手のカードを見ても、相手の戦術を見ても、相手の動きを見ても――
デュエリスト、「マイコ・カトウ」には一瞥すらしなかった。
それは「デュエル」する上で必要のない要素ゆえ――そんな理由で。
ゆえに《森の番人グリーン・バブーン》は雄叫びと共に駆け抜ける。
《
だが駆ける足は止まらない。矢を躱そうなどとは考えない。
矢によって、皮膚を貫かれ、肉が食い破られ、骨を砕かれようとも足を止める理由にはなりはしない。
やがて間近に迫った《森の番人グリーン・バブーン》に《
そしてアクターに向けて棍棒を振り上げる巨獣。
しかしこの期に及んでアクターの視線は身動ぎすらせずにマイコ・カトウの手札に注がれていた。
この「ソリッドビジョンの挙動は手札のカード効果によるもの」と考えるゆえに。
そのアクターの姿に《森の番人グリーン・バブーン》は最後の力を振り絞るような咆哮と共に棍棒を振り下ろす。
だがその棍棒はアクターのすぐ横を通り、地面を強かに打ち付けた――既に《森の番人グリーン・バブーン》の瞳には何も映っていない。
力尽き、満足気に倒れる《森の番人グリーン・バブーン》。
マイコ・カトウLP:3850 → → → 0
その巨体が倒れ伏したと同時にマイコ・カトウのライフが0になったことを示す音が鳴り響く。
デュエルが終わり、ソリッドビジョンで映し出されたモンスターが消えていく中、マイコ・カトウは数多の矢に貫かれた4体のモンスターたちの姿を消える最後の瞬間まで目に焼き付けていた。
自身のライフが0になったマイコ・カトウはボソリと言葉を零す。
「……い……の?」
その言葉には様々な感情がない交ぜになったかのような苦悩を感じる。そんなマイコ・カトウはこの一戦の記憶を巡らせながら、答えを探る。
マイコ・カトウの最後のターンになった時点では――
アクターの残りのライフは100。そしてマイコ・カトウのライフは2000程――マイコ・カトウが圧倒していた。
アクターのフィールドのモンスターは下級のセットモンスターが1体、対するマイコ・カトウのモンスターは多くの強靭な獣たち――マイコ・カトウは圧倒していた。
そう、マイコ・カトウがアクターを圧倒している筈だった。
だがたった、1ターンで全てをひっくり返された――「いつでも倒せた」とでも言いたげに。
そこまで考えたマイコ・カトウには内心で理解しつつもアクターに問いかける。
「――『いつから』だったのか、答えて貰えるかしら?」
そのマイコ・カトウの底冷えするような声色に戸惑うテッド・バニアスと内心でそれ以上に戸惑うアクター。
アクターにはマイコ・カトウの質問の意図が見えない。あと怖い。
だがその質問に大して「どういう意味ですか?」と問いかけるのはアクターらしくないと考え内心でビビりながらも沈黙で返す――いや、答えろよ。
沈黙を守るアクターの姿にマイコ・カトウは一つ溜息を吐くと、パズルカードを取り出した。
「……いえ、何でもないわ――受け取りなさい。パズルカードよ」
そして投げ渡された3枚のパズルカードをアクターは掴み取る。
そんなアクターの姿に底冷えするような視線を向けるマイコ・カトウにアクターは内心で困惑しながらも要件は済んだ、と踵を返す。
「――お待ちなさいな。老婆心ながらに言わせて貰うわね。貴方、今のままだと――」
だがその背にマイコ・カトウの言葉が届く。
「――いえ、止めておくわ……きっと貴方には何も届きやしない」
しかしその言葉を途中で止めるマイコ・カトウ。
アクターは重要そうな情報だと思えるゆえに、内心で気になって仕方がない。
だとしてもこれ以上の追及は「らしくない」と判断し、アクターは何時ぞやの時のように手で風を起こしながら相手の視界を奪う――アクターの中で定着しつつある逃げの一手だ。
「うぉおっ!! アレ? あの野郎、どっかいっちまいやがった……」
荒れ狂う突風に目を覆ったマイコ・カトウとテッド・バニアスが視界を取り戻す頃にはアクターの姿は影も形もない。
やがて車椅子に身体を預けるように脱力するマイコ・カトウは力なく呟く。
「私は……一体今の今まで何をやってきたのかしらねぇ」
「お、おい、どうしたんだよ――あのアクターをあそこまで追い詰めた『良いデュエル』だったじゃねぇか」
いつものマイコ・カトウらしからぬ姿にテッド・バニアスは一瞬戸惑うも、最後の最後でひっくり返されたゆえのショックなのかと、なだめるように言葉を返すが――
「……恐らく、最初から……最初から『ああ』だった……」
「ばあさん?」
力なく呟くマイコ・カトウの姿にテッド・バニアスは心配そうに顔を覗かせる。
そのテッド・バニアスに今気づいたようにマイコ・カトウは顔を上げ、いつもの優し気な老婆の面持ちを見せて応じた。
「――いえ、何でもないわ……そう、文字通り『何でもなかった』わ」
僅かな言葉のニュアンスに少し疑問を持つテッド・バニアスだがその疑問を考え込む前にマイコ・カトウの声が響く。
「それよりもテッド。貴方は満足できたかしら――フフッ、問題なさそうね」
そのマイコ・カトウの言葉に先ほどのデュエルを思い出したテッド・バニアスは満足そうに笑みを浮かべた。
「ああ、最高の体験だったぜ! へへっ、今はデュエルがしたくて仕方がねぇよ!」
闘志を溢れさせるテッド・バニアスはふとマイコ・カトウへと視線を戻し、ポツリとこぼす。
「なぁ、ばあさん……俺はアンタくらい、強くなれるか?」
テッド・バニアスが目指すべき全米チャンプの頂きは遥か高み。それゆえに現在のカードプロフェッサー内での最強と
「さぁ、どうかしらね?」
マイコ・カトウは悪戯っぽく微笑んで、言葉を濁すばかり。
「……そこは嘘でも『出来る』っていってくれよ……」
「フフッ、全てはデュエリスト自身の問題――ようは貴方次第なのよ……」
思っていた答えではなかったせいか、僅かに不貞腐れながら車椅子を押すテッド・バニアスにマイコ・カトウはその横顔を眺める――真っすぐ前だけを見て突き進む青年の姿。
それはマイコ・カトウがとうの昔に失ってしまったものだった。
やがてマイコ・カトウは先のデュエルでの己を内心で嗤う。
ずっとマイコ・カトウはアクターの掌で「裏の王者を追い詰めている」と、得意気に踊っていた――「まるで道化じゃないか」とマイコ・カトウは自虐する。
長い年月をかけて磨いてきたマイコ・カトウのデュエリストとしての在り方は、アクターにとって路傍の石程の価値もなかったのだと、マイコ・カトウは乾いた笑いが零れそうだった。
そのマイコ・カトウの在り方をアクターは何の「心」も宿らない力で砕き、言葉なく伝えたのだ「今の今まで何をやっていたのか」と。
マイコ・カトウは自身の生涯が無意味なものに感じて、テッド・バニアスの姿を再度視界に入れる――何も知らない若人の姿が羨ましく、そして眩しく見えた。
何のことはない。マイコ・カトウも同じだったのだ――裏の王者という名の光に手を伸ばし、深淵に落ちたデュエリストたちと。
もはや今のマイコ・カトウの心にかつてのデュエリストとしての覇気は見えない。
なお、それらのマイコ・カトウの考えは全て気のせいだ――とは一概には言えない。
アクターにとっての「
そのマイコ・カトウとアクターのデュエルを遠方よりひっそりと観戦していた人物がいた。
それはこのバトルシティでトンでもないレベルで狙われているマリクの姉、イシズ。
イシズは周囲に誰もいない中、ポツリと呟く。
「あれが『
千年タウクの「予知」によってイシズが見たアクターの姿は純粋な「暴力装置」としてのものだけである。
それゆえに「デュエル」での対処を想定していたイシズだが、その策は大きく修正する必要が発生した。
「カードプロフェッサー、裏デュエル界の番人たち……まさか彼らを退ける程とは……」
マイコ・カトウが一人歩きしたアクターの虚像の姿を過度に警戒した為にいつものようにデュエル出来なかったとはいえ、その変幻自在なデュエルスタイルはイシズとて侮れるものではなかった。
イシズが千年タウクの力でアクターの未来を見れば――
不確かながら見えるおびただしいまでに広がるマリクとリシドを撲殺するアクターの姿。
もはやイシズも形振りは構っていられない。
「千年タウクが示す彼の未来は酷く不確か……ですが見えない訳ではない」
イシズは確実にアクターを退け、その後にマリクに巣食う邪悪なる人格を刺し違えてでも祓い、弟、マリクを救いたい想いがある。
ゆえにイシズは決心を固めるように瞳を閉じた。
「これしか……確実な方法はないのですね……」
イシズが決断した自身が今、取れる最も確実性のある策。それは――
千年タウクの未来予知をデュエルに用いる策――デュエリストとして許されざる手である。
「
マリクが結成したグールズの犯罪行為は許されるものではない。
しかしイシズにとってそれ以上の脅威であるマリクに巣食う「邪悪なる人格」の対処――これは自身が手を下す以外にイシズの道はない。
「ですがマリクの『命』だけは、何としてでも救ってみせます」
だがイシズには、いや大半の人間はマリクに巣食う「邪悪なる人格」へのもっとも簡単な対処を思いつくだろう。ゆえに――
「
イシズは誰も頼れない。マリクの「殺害」こそがもっとも簡単な対処ゆえに。
マリクが死ねば「邪悪なる人格」もその肉体と共に死ぬ。
しかし唯一残された家族たるマリクを失う選択などイシズには許容できなかった。
「
ゆえにイシズは一人、戦い続ける。
その先の未来を信じて。
童実野町の暗がり路地裏で千年リングに宿った闇の人格、バクラの思わずといった具合の笑い声が響く。
「クククク……コイツは何だぁ?」
そのバクラが眺めるのは手元の「千年リング」。
千年リングの5本の針が長年の所持者であるバクラすら見たことがない反応を見せていた。
「随分とトンでもねぇことになってるじゃねぇか……」
七つの千年アイテムの一つである千年リングには千年アイテムを探知する力がある。
その千年リングの5つの針がガチャガチャと目まぐるしく反応していた。
それだけならばバクラも問題にはしない。このバトルシティに千年アイテムが集まることは分かりきっているのだから。
問題はその反応がバクラの持つ千年リングを含めて「八つ」あった――「七つの千年アイテム」の反応が、だ。
「まずは俺様の『千年リング』」
手元の千年リングに意識を戻すバクラ。そしてそれぞれの千年アイテムを探るように念じ――
「この反応は遊戯の『千年パズル』」
カタカタと震える千年リングの一つの針が一か所の方向を指し示す。宿主たる獏良が遊戯と友人ゆえに『千年パズル』の気配はバクラもよく知るものだ。
「纏まった3つの反応があるのはシャーディーの『千年
そしてバクラが念じると次は3つの針が同じ方向を差す。
バトルシティが始まる前の遊戯とシャーディーの会合を盗み見た時点で3つの千年アイテムをシャーディーが所持していることはバクラも確認済みだ。
「後の2つの同じような反応は多分グールズとかいう奴ら――『千年ロッド』と『千年タウク』」
さらに他の気配を探ったバクラ。それに答えた千年リングの2つの針が別々の方向を差す。
グールズのあり得ない速度での組織の拡大をニュースで知ったバクラは一目でそれが『千年アイテム』の力によるものであると見抜いている。
消去法で考えればその千年アイテムは『千年ロッド』と『千年タウク』であることも同上である。
「かなり似た気配……血縁者か?」
その2つの気配がよく似ている事に気付いたバクラは顎に手を当て試案する。
2人の所持者が「手を組んでいる」と考えれば、あれだけ派手に暴れまわっているグールズが未だに捕まっていない点も納得できる、と。
「成程な、片方が『千年ロッド』で大々的に人間を操り相手の動きを乱して、その隙に『千年タウク』の予知で引っかき回してる訳か……」
何にせよ好都合だとバクラは笑う。
千年アイテムの所持者が警察組織に捕まり、千年アイテムが証拠品として押収でもされれば、バクラの計画は大きく遅れるゆえに。
そして問題の「八つ目」の「千年アイテム」の反応。
「そんでもって最後のこの反応は何だ? 酷く安定してねぇ……それに『他』と明らかに違う――だが『千年アイテム』の反応だ」
その反応は一つの針が酷く暴れるように動いたかと思えば、静かに揺れ、また暴れだす不規則な反応。
まるでパニックになった人の心情のようにも思える動きだ、とバクラは嗤う――存外的を射ている。
「ん? 反応が消えやがった……分からねぇな……」
だがその反応も此処にきてプッツリと途絶え、また反応の数が「七つ」に戻る。
「まさか千年アイテムを使いこなせてねぇのか? 何にしろ、要注意だ」
千年アイテムを使いこなせていないならば相手をするのは容易――という訳でもない。
巨大な力が何の制約も制限もなく暴れる危険性があるのだから。それゆえ逆に厄介になる可能性もある為、バクラの警戒は逆に強まる。
千年リングの反応から「内包する力が巨大」であることは確定しているのだから。
それはどこかのマッド博士によって、神のエネルギーやら何やらを詰め込まれた結果ゆえの話だがバクラが知る由はない。
「今はまだ派手に動くべきじゃねぇ――物事には順序ってモンがある」
慎重に、そして大胆にバクラの計画は水面下で進行している。
「――狙えるところから狙って行くとするぜ。クククク……」
そんな不気味な笑い声と共にバクラの姿は暗がりに消えていった。
アクターは建物の上で今しがた手に入れた3枚のパズルカードを視線に収め思考に耽る。
その脳裏に浮かぶのは先のデュエルでの最後の《森の番人グリーン・バブーン》の行動の意味。
冥界の王の力を得ているアクターは精霊を知覚することが出来るゆえにあの《森の番人グリーン・バブーン》がマイコ・カトウの「カードの精霊」であることは直ぐに分かった。
しかし、だとしてもデュエル中にあのような挙動をした理由にはならない。
――最後の「アレ」はなんだったんだ? ソリッドビジョンの故障という訳でもなさそうだが……
基本的に精霊であってもデュエル中にデュエル以外の行動を取ることはない。せいぜいデュエリストとコミュニケーションを交わす程度だ。
あれ程までに活動的になった例は神崎の「原作知識」の中にも存在しない。
当然そうなれば原作にはいない「異物」である神崎が原因であると考えるのが自然だった。
――あの状況でマイコ・カトウ側が持つ、本来の「この世界」にないもの……「デュエルエナジー回収機構」? だがアレはエネルギー収集の機能以外は付いてない……後で調べてみるか。
一先ずの結論を出したアクターこと神崎は想定外だったマイコ・カトウのデュエルへと思考を移す。
――やはり「あのレベルのデュエリスト」相手には下手に追い詰めず、「一手」で決めるのが有効か……しかし一番の問題は「一手」を揃える前に此方が殺られる可能性か。
真のデュエリストを追い詰めればデスティニードローという名の伝家の宝刀が抜かれるゆえに今回はワンショットキル狙いのデッキを用いた神崎だったが、あまり「成果」と呼べるような結果は得られなかった。
だが「成果と呼べない結果」が神崎にとっては「成果」だった。
――今回もギリギリだった。となれば最悪の展開として「遊戯レベル」とデュエルすることになっても、使えそうにない「手」……やはりデュエル以外に持ち込む方が得策か。
今回と同じことを「『遊戯レベル』の相手でやれ」と言われても、神崎には出来る気がしなかった。
その為、遊戯クラス相手では「デュエル」の選択肢を捨てる神崎――仮に「デュエルするにしてもデュエル以外で勝負する」という矛盾した策を考えながら。
そうして先程のデュエルを受けての問題を洗い出す神崎には引っかかる言葉がある。
――それに「
マイコ・カトウに評された「
神崎とて自身が「デュエリスト」として「何か」が足りないことは痛いほどに分かっていた――それがドロー力の低さの原因になっていることも。
しかし神崎にとっては「今更」な話であった。デュエルモンスターズ初期の時代からデュエル漬けだった日々は伊達ではない。
それだけデュエルして「未だに分からない事実」が問題ではあるが。
マイコ・カトウ程のデュエリストが問題にする「アクターに足りないもの」。それを考える中でマイコ・カトウが最後に言いよどんだ言葉の先について考える。
――「今のままだと」の後に続く言葉。何らかのマイナス方向の事象だとは考えられるが……やはり分からないな。
今の神崎に分かるのは「何らかの成長」が必要なことだけだ。
しかし神崎は昔から自身がデュエルを通して成長した実感があまりない。
神崎が自身のデュエリストとして成長を感じたのは「デュエルマッスルを鍛えた」ときと、「冥界の王」を取り込んだときだけだ。
その事実は神崎が「一線級のデュエリスト」とのデュエルを「避けてきた」為のある種の経験値不足によるものと考えていたが、今回のデュエルでその憶測は無に帰した。
――「あのレベルのデュエリスト」に勝ったというのに、成長の実感が湧かない……デュエルには勝った筈……
強者からの勝利はデュエリストにとって大きな成長をもたらすと相場が決まっているが、今の神崎に大きな変化は感じ取れない。
冥界の王の力を使った自身の観測でも己の変化は見られない。
神崎は「さすがに『何か』は成長している筈」と先程のデュエルを再度思い返し――
あることに気付いた――それは比較することで得た答え。
デュエルを通じて成長してきたデュエリストと神崎自身を比べたものだ。
大半のデュエリストはデュエル中によく「笑う」。
それは「挑発」であったり、「ポーカーフェイスの延長」であったり、
そして「デュエルが楽しい」から「笑う」のだ――所謂「ワクワクする」というもの。
――ああ、そうか……
そこまで考えた神崎は内心で自嘲するように笑う。
先程のような野良試合ですら「先のことを考えてしまう」自分を嗤う。
今後、起こりうる世界の危機の為に「己の命を賭ける」ことが確定している「
神崎は気付いてしまった。
――勝った「だけ」か。
純粋にデュエルを楽しんだ日々がもう戻らないことに。
もはや自身が「デュエル」に「手段」以外の「
神崎にとってデュエルは「手段」に成り果てていた。
――今作でのマイコ・カトウの原作との違い
遊戯に「貴方」と敬意を払われる程のデュエリストとしての高い実力が
デュエルエナジー回収機構による「精霊の干渉」を切っ掛けとして、
マイコ・カトウに精霊が宿った。
だがマイコ・カトウには精霊の姿は見えていない。