前回のあらすじ
エスパー絽場「ボクを裏切るのか!! サイコ・ショッカー!!」
人造人間-サイコ・ショッカー「違う! 私はただ君の眼を覚まさせてやりたいだけだ! 城之内さん、私と共にお願いします!! うぉおおおお! サイバー・エナ――」
城之内「任せな! 《人造人間-サイコ・ショッカー》を含めた3体をリリースして《ギルフォード・ザ・ライトニング》をアドバンス召喚!!」
人造人間-サイコ・ショッカー「!?」
「うぉっしゃぁ!! 俺の勝ちだぜ!!」
そう咆える城之内を余所に終わってみれば終始一方的なデュエルにエスパー絽場は呆然と呟いた。
「そ、そんな、ボ、ボクが」
そのエスパー絽場の姿に4人の弟たちの3人はそれぞれ嘆く。
「おっきいあんちゃんがまけちゃった……」
「チクショー!」
「僕たち……どうなるの……」
弟の1人に背負われたまだ赤ん坊とも言ってもいい末っ子がエスパー絽場を悲しそうに見つめていた。
そして此方にも呆然とする人物があった。
「イカサマなしのエスパー絽場くんの実力も凄かったけど……城之内くん、あんなに強かったんだ……って本田くん、どうしたの?」
そんな御伽の言葉にも無反応な本田は急にガバッと動き出すと、双六の両肩を掴みガクガク揺らしながら矢継ぎ早に問いかける。
「おい! 爺さん! あの『エスパー絽場』って奴、強いんだよな! 俺の目には最初っから最後まで城之内のペースに見えたんだが気のせいか!!」
本田も知っての通り、「城之内のデッキ」はギャンブル効果のあるカードでリスクを背負いながらアドバンテージを稼いで攻め込むタイプのデッキだ。
ゆえにそのデュエルは何処か危うげなものになりがちである。
しかし今回のエスパー絽場とのデュエルでは「ギャンブル効果のあるカード」は殆ど使われなかった――強いて上げれば《名推理》くらいのものだ。
そんな本田にガクガクと揺らされながらも成長した城之内の姿に感慨深げに頷く双六。
「何を言っとるんじゃ。簡単な話じゃろ――『城之内が
そう簡単な話。
今の城之内の実力であれば、如何に名の知れたエスパー絽場を相手にしても「リスクを背負う必要がないとカードが判断した」――それだけの話だった。
双六は弟子である城之内の想定以上の躍進を自分のことのように喜ぶ――未来ある若者の姿が眩しい。
そして此方にも感慨深げに頷く竜崎の姿があった。
「いやぁ~城之内のヤツ、前の時よりも格段に強おなっとるなぁ……」
今の竜崎に「城之内とのデュエルの再戦」を果たしたい想いが沸々と湧き上がるが、頭上から乃亜の声が響く。
『勝負ありのようだね――もうじきKCのスタッフが其方に到着する。エスパー絽場、観念することだ』
その言葉を最後にモニターの「KC」の文字はプツンと消える。この場での追及はしないようだ。
その声に城之内は「そういえば」と思い返し、一方のエスパー絽場は絶望感からかガクリと膝を落とす――こんな筈ではなかった、と。
エスパー絽場にとって城之内は「ギャンブルカード頼りな『運』だけのデュエリスト」であると
そのエスパー絽場の推察は間違ってはいない。実際に
その頃の未熟なままの城之内ならエスパー絽場は問題なく勝利できていただろう。
しかしエスパー絽場は考えるべきだった――城之内がギャンブルカードを使用していた理由を。
城之内の周囲には強者が溢れていた。
親友である遊戯に、そのライバルたる海馬。師匠である双六。その誰もが世界レベルに通用する圧倒的強者。
そんな彼らに城之内は――
遊戯には歯が立たず、海馬には相手にすらされず、双六には教えを受ける立場。
城之内は知っていた――「自分は彼らに比べて『格下』なのだ」と。
だが、城之内はそんな彼らと、親友である遊戯と、肩を並べたかった――それにはただ後を追いかけるだけではダメなことは城之内も何となく感じていた。
己よりも格上と肩を並べるにはどうするか、勝利を掴む為にどうするか――デュエリスト全てが抱える問題。
城之内の出した結論が「ギャンブルカード」による「リスクを背負うこと」だった。
ギャンブルカードはハズレればデメリットが大きい反面、当たったときの効果は強力なものが多い。
城之内はソコに可能性を見出した。
始めは酷いものだった。ギャンブルカードが当たれば上手く勝て、ハズレると負ける。
文字通りの運否天賦――その中で勝利や敗北を城之内は重ねた。
キースと善戦できたこともギャンブルカードが成功し続けたゆえで、失敗した瞬間にアッサリと城之内は敗北した。
だが城之内は拙いながらも着実に「どこで勝負するべきか」、「どこで温存すべきか」を感覚的に掴み、「リスクとリターン」のバランスを、そしてデュエルの勝負の世界で己が力を磨くべく精進を重ねてきた。
エスパー絽場が「手札の盗み見」という「イカサマ」による勝利を重ねている間、ずっとだ。
このデュエルの結果はその違いが如実に現れただけに過ぎない。
頭を垂れるエスパー絽場を余所に竜崎は乃亜の声に慌ててこの場を仕切るものとして動きだす。
「アカン、アカン、仕事せな! んで絽場。まずはパズルカードとレアカードを出しいや。それとイカサマの件は――」
まず賭けていたものの提出を促す竜崎だが――
「どいつもこいつもボクを見下すなあぁ!!」
そんなエスパー絽場の怒声に竜崎は面食らう。
「いや、急にどうしたんや」
「しょうがなかったんだ! ボクは負ける訳にはいかなかったんだ! 弟たちを守るためにはどんな手を使ったって……!」
まるでサスペンスものの犯人役のように突然に犯行動機を語りだすエスパー絽場――ちょっと竜崎は付いていけない。
だがそのエスパー絽場の言葉の中から竜崎は見逃せない事実を推測する。
「なんやと!? お前……誰かに脅されとったんか!?」
まだこのイカサマ騒動の事件は終わっていないのかと驚きを見せる竜崎。
そんな相手の身を案じる竜崎の姿にエスパー絽場は言葉に詰まりつつ返す。
「い、いや、それは違う……でもボクがデュエルで強くなって一目置かれれば、弟をイジメる奴らはいなくなる……だからボクは負ける訳にはいかなかったんだ!!」
「……それが理由かい」
「そうさ! それがボクがイカサマをしていた理由だ!!」
エスパー絽場の取り巻く状況を理解した竜崎だが、その拳は僅かに震えていた。
その竜崎の拳の震えは「怒り」もあった。だがそれよりも危機感の方が大きい。
「お前……なんでそんな真似したんや!!」
その言葉と同時に竜崎はエスパー絽場の襟首を持ち上げる――エスパー絽場のイカサマの動機を聞いても竜崎にあるのはその言葉通りの想いだった。
竜崎は羽蛾と共にオカルト課での牛尾に訓練を付けられる過程で厳命されたことがある。それは「デュエルで不正を働く行為」をしない――つまりはイカサマに類する行為を決してしないこと。
「確かにお前の言う通りデュエルは真剣勝負の勝つか負けるか――確かに負けたら失うもんは多い! 勝ってこそが華や!!」
竜崎の言う通り、勝負の世界はシビアだ。
勝者が多くを手にし、敗者は殆ど何も得られない――竜崎も身に染みて理解している現実。
しかし、それでも敗者の方がマシな「例外」がある。その一つが「デュエルで不正を働く行為」に関わった人間の末路――そのどれもがデュエリストとして碌な結末を迎えない。
「勝つために『努力すりゃぁエエ』なんてワイは言わん――そんなん当たり前や! みんな死ぬ程しとる!」
全ての「頑張った人間」が報われる訳ではない。それは竜崎とて痛いほど分かる。
「それでも勝たれへん時に魔が差してセコイ手ェ使ってしまう気持ちはワイにも分かる!!」
だとしても竜崎はエスパー絽場たちが立ち止まれなかった事実に悔やむ。いわゆるマナー違反スレスレの行為などなら「まだ」助かる余地があったのだから。
しかし明確に「デュエルで不正を働く行為」があれば、そうはいかない。
ここで言われっぱなしだったエスパー絽場が感情をそのまま叫ぶように声を上げる。
「だからボクは相手の手札を――」
「それでも『絶対にやったらアカンこと』があるやろ!!」
だが竜崎の張り上げた声にかき消された。
そう、竜崎の言う通り、エスパー絽場たちの行為は「この世界」ではかなりのタブーとされるものだった。
この「デュエルで不正を働く行為」――つまりイカサマなどに該当する行為は「この世界」の大半のデュエリストが避ける行為だ。
この「世界」では不良ですらデュエルで勝利した「後」でカツアゲをし、
犯罪者のグールズですらデュエルで勝利した「後」で、敗者を袋叩きにしてレアカードを奪う。
そんな、ならず者たちにまでに「デュエルが絶対視」されている「この世界」において「デュエルで不正を働く行為」は善悪関係なく全ての人間から疎まれる結果を生む。
「『デュエリスト』として絶対捨てたらアカンもんをお前は捨てたんや!!」
そんな怒声を上げる竜崎の肩を城之内は掴み、止めるように言葉として発する。
「待てよ、竜崎! 俺だって妹がいる! もし同じ状況なら俺だって――」
エスパー絽場の立場も理解できるとの城之内の言葉に、竜崎は肩に置かれた城之内の手を振り払い叫ぶ。
「アホか! 城之内ッ! お涙頂戴で惑わされんなや!!」
色々あって「弟たちを守る為にイカサマをした」感動的な話――その程度の次元の話ではないのだ。
今、一人のデュエリストの未来に暗雲が立ち込めている。そのことを竜崎は問題にしているのだ。
「手札見ただけで誰にでも勝てる程、デュエルの世界は簡単やあらへん! コイツが『エスパー絽場』言われるだけの
エスパー絽場の実力を鑑みるに、彼ら兄弟にはいくらでも取れる手があった――だが一番安易で愚かな、そして取返しの付かない道を選んでしまった。
そしてエスパー絽場は「仕方なく」、そして弟たちは「兄である絽場はそんなことをしなくても強い」などとでも思っているのが見て取れる。
つまりエスパー絽場や弟たちに深い反省の色は見えない。
「なんでお前はもっと深ぁ考えへんかったんや!」
その内面は容易く見抜かれる――竜崎でも僅かに感じ取れるのだ。他のオカルト課の人間に分からない筈がない。
エスパー絽場たちに自身が行った事実を自覚させなければならない。その機会は今このタイミングを逃せば、もう後にはない――下手をすれば情状酌量の余地すらなくなる。
「そこのチビ共もや! 家族が道、間違えそうになってたら! しがみ付いてでも止めるんが家族やろが!!」
「竜崎!!」
そんな焦りからか年端もいかない子どもたちに怒鳴りつけてしまった竜崎に城之内は声を荒げた――言い方と言うものがあるだろう、と。
「ッ!! ……スマン……つい熱ぅなってしもうたな……」
その城之内の声に冷や水を浴びせられたかのように竜崎の頭は冷えていく。そして視界に捉えるKCのスタッフの姿。
時間切れだ。
「……KCのスタッフさんらが来はったみたいや――後は任せよか」
沈痛な面持ちでKCのスタッフに後の処理を任せる竜崎――その竜崎の背が気持ち小さく見えるのは気のせいではあるまい。
このイカサマ騒動にてエスパー絽場たちの「デュエリストとしての未来」は暗いものとなるであろう。
だが腐ってはいけない。
あくまで暗いものになるのは「デュエリストとしての未来」だけだ、相応の罰を受けた後の
KCのスタッフから受け取ったエスパー絽場の2枚のパズルカードとレアカードに視線を落とす城之内。
《人造人間-サイコ・ショッカー》のカードをエスパー絽場に返して欲しいと城之内はKCスタッフに頼み出たが、帰って来た答えは城之内の予想だにしない程に重いものだった。
エスパー絽場のイカサマのペナルティ次第では「デッキの没収」の可能性すらある為、城之内が持っておいた方が良いとの言葉。
当然、没収された場合はデッキがエスパー絽場の元に返ってくることはない。この手のカードは1枚ごとに分けられ、デュエル発展途上の国々を巡るのだ。
いや、「『デュエル発展途上の国々』って何だよ」と思うかもしれないが深く突っ込んではならない。この「遊戯王ワールド」ではよくあることだ――いちいちツッコミを入れればキリがない。
やがて大事に《人造人間-サイコ・ショッカー》を自身のデッキに加えた城之内はもう1枚のレアカード、《TM-1ランチャースパイダー》を手に少年トムに近づく。
「……トム、コイツは返しておくぜ!」
そう言ってトムに《TM-1ランチャースパイダー》のカードを向ける城之内だが、トムは慌てて横に首を振る。
「い、いえ、もうそれは城之内さんのカードですから!」
バトルシティのルールで失ってしまった自身のカードとはいえ、トムにはそのまま受け取るといった選択肢はなかった。
対戦相手のエスパー絽場のイカサマを見抜けなかったことや、最後には怒りを抑えられずに戦況を見誤り、カードたちに無理をさせてしまったこと等、数々の後悔がトムの中で渦巻いている。
しかしそんなトムに城之内の明るい声が届く。
「そうか! なら俺のカードなんだから俺がどうしようと勝手だろ? 受け取ってくれよ!」
「でも――」
そんな城之内の言葉にもトムは顔を伏せる。トムは未熟な己が許せなかった。
そう顔を伏せるトムの肩に手を置いた城之内は目線を合わせる。
「だったら、俺はお前のデュエルを見たお陰で絽場の奴のサイコ・ショッカーの厄介な効果を知れたからよ! このカードはそのお礼ってことで受け取ってくれよ! 嫌とは言わせねぇぜ!」
あくまでこれは「礼」なのだと笑う城之内にトムはおずおずと《TM-1ランチャースパイダー》のカードを受け取り、その後に城之内に手を差し出す――この恩はいつか必ず返すと誓う為に。
そのトムの手を城之内はしっかりと握り返した。
やがてデュエルの熱も引いていき、周囲の人込みがまばらになってきた頃、城之内はポツリと竜崎に問いかける。
「竜崎……アイツはどうなるんだ?」
城之内が気がかりだったのはエスパー絽場の今後。この手の事情に詳しくない城之内でもKCのスタッフのエスパー絽場を見る目などから相応のペナルティを受けることが伺える。
「どうやろな……かなり手慣れっとったさかいに、イカサマやっとった期間はそこそこ長いやろうから――」
その問いかけに竜崎は正確に答えることは出来ない。あくまで自身の立場は下っ端なのだと。
しかしある程度の予想は出来た。
「多分、かなりの期間、大会やら何やらに関わるんが無理になるんは確実やろうな……」
「そんなにかよ……」
デュエリストにとって「デュエルの大会」は自身を試し、示す重要な場だ。それに長期間一切関われなくなる事実に城之内の顔は青くなる。
だが竜崎は言うべきかどうか悩む素振りを見せた後、ゆっくりと口を開く。
「…………いや、そっちは実際大したことはあらへん。相手さえ見つけりゃデュエルすることは出来る。それよりも――」
エスパー絽場にとって一番の罰は別にある。それは――
「『イカサマしたデュエリスト』ってレッテルをずっと抱えることになることの方が辛いで……こっからずっと後ろ指さされて生きていくようなもんや……」
デュエリストの情報網は広く、伝わる速度も早い。
例え隠したとしても直ぐに発覚し――『イカサマの事実』を隠したことが問題になる。
ゆえにデュエリスト、『エスパー絽場』の再起は絶望的と言っても過言ではない。
この「世界」はデュエルが根幹をなす世界。
その為、そのデュエルを蔑ろにすればそれ相応のモノが返ってくる――ただそれだけの話。
だがまだ青さの残る竜崎や城之内には、そう簡単に割り切れるものではなかった。
そう落ち込みを見せる竜崎の同期であるインセクター羽蛾は人気のない廃ビルの屋上で何やら作業をしていた。
「ヒョヒョヒョー! どいつもこいつも必死に走り回ってるだろうな~! だけど、俺はそんな面倒はゴメンだね! ――っと、よし!!」
その作業を終えた羽蛾は手元のいくつもの小さな虫型のロボットを目に満足そうに頷く。
そしてラジコンのコントローラーのようなものを操作するとその小さな虫型ロボットは羽を広げ空に飛び上がってゆく。
「さぁ~行くんだ! 俺の可愛い
しばらくしてその小さな虫型ロボットが得たデュエルディスクの反応が羽蛾の手元のモニターに映っていく。
「ヒョヒョヒョー! 来た来た! これで後は情報を絞って――」
そのモニターから反応が次々と消えていき、残ったのはグールズと思しきものの反応のみ。
洗脳されたグールズの構成員の大半は大した思考能力を持たない。ただマリクの命令を愚直なまでに実行するだけだ。
その点がまるで「虫のようだ」と気付いた羽蛾の動きは早かった。
「よーし、これで後は時間の問題だな! ヒョヒョッ!」
グールズの構成員の情報から羽蛾の知識を活かすことでパターンを割り出し、要職に就くグールズを割り出して巣穴に陣取るボスであるマリクの居場所を探る羽蛾の計画。
「全てが順調、順調! 俺が狙うのはグールズのトップ! 巣穴にしっかり案内してくれよ~~!!」
そうして羽蛾は自身の輝かしい未来を夢見て「ヒョーッ! ヒョッヒョッヒョッ!!」と高笑いを上げる。
意外とスゴイことをしている羽蛾――それらの情報を乃亜やギース辺りに進言した方が輝かしい未来に近づくのだが、当人は気付く様子はない。
やがてその笑い声を聞きつけて「グールズかっ!」と駆けつけるハンターがいることにも羽蛾は気付く様子はない。
童実野町の人を見かけない一角でハンターとグールズがデュエルに興じていた。
「私はぁカードを1枚伏せて、ターンエンドだぁ……」
攻めきれなかったとターンを終える黒い帽子にデュエルコートの目元を隠す銀の仮面を付けたハンター、「タイタン」はその特徴的な話し方でターンを終えた。
そのフィールドには遊戯の頼もしき仲間《デーモンの召喚》と瓜二つの悪魔、《
《
星6 闇属性 悪魔族
攻2500 守1200
そのグールズは濃い赤色のタキシードのような舞台衣装とシルクハットに、黒と水色のストライプの蝶ネクタイと目元を覆う横長の仮面を付けた手品師のような男。
グールズのレアハンターであるパンドラ。彼はグールズでリシドに次ぐナンバー2の実力者だ。
そのパンドラのフィールドには遊戯の相棒でお馴染みの《ブラック・マジシャン》。
だが身に纏う装備は全て赤紫色に染まっており、白髪に褐色肌など、遊戯の《ブラック・マジシャン》とは大きく違っていた。
《ブラック・マジシャン》
星7 闇属性 魔法使い族
攻2500 守2100
タイタンのターンエンドを聞き終えたパンドラはデッキに手をかける。
「私のターン! ドロー!」
互いのフェイバリットカードの攻撃力は互角――だがタイタンは己が伏せたカードの存在から己が勝利を思い描く。
伏せられたタイタンのカードは罠カード《冥王の咆哮》。
その効果は自分の悪魔族がバトルするダメージステップ時に100の倍数のライフを払うことで、その分だけ相手モンスターを弱体化させるカード。
これによりパンドラの《ブラック・マジシャン》が多少攻撃力を上げたところで返り討ちだと内心で笑う――フラグ建設、お疲れ様っす。
そんなタイタンの思惑を見透かしているパンドラは
パンドラのマジックショーのフィナーレに移行する。
「ならば私はリバーストラップ発動! 罠カード《アヌビスの呪い》!!」
パンドラの背後に棺桶のようなものが現れ、その上に鎮座する黒いジャッカルの銅像の瞳が怪しく光る。
「このカードの効果によりフィールドの全ての表側の効果モンスターは守備表示になり、その守備力が0となります!!」
その黒いジャッカルが前足で棺桶を叩くと棺桶から瘴気が溢れ、フィールド全体を瞬く間に覆った。
その瘴気を受けた《
「わ、私のスカル・デーモンが……」
さらに《
《
守1200 → 守0
「当然このカードの効果は私のフィールドにも及びますが……私の《ブラック・マジシャン》は『通常』モンスター! 問題はありません!!」
だが一方の《ブラック・マジシャン》はどこ吹く風と瘴気の影響を受けてはおらず、苦悶の声を上げる《
「さぁ、フィナーレを飾りましょう! バトルです! スカル・デーモンを破壊しなさい!! 《ブラック・マジシャン》!!」
息も絶え絶えな《
「だぁがぁ、私の守備モンスターを破壊したところで――」
守備表示モンスターが破壊されてもプレイヤーにダメージはない為、次のターンで挽回して見せると息巻くタイタンだが――
「仕込みは既に終わっているのですよ! リバーストラップ発動! 罠カード《ストライク・ショット》!!」
《ブラック・マジシャン》の杖の先に赤いオーラが集まっていく。
「このカードにより私のモンスターの攻撃宣言時、そのモンスターの攻撃力を700上げ、さらに貫通効果を与えます!!」
やがてその杖の先がスピアのように鋭利に尖り、《ブラック・マジシャン》はその穂先を《
《ブラック・マジシャン》
攻2500 → 攻3200
この《ストライク・ショット》の効果により攻撃した際に守備力を攻撃力が超えていれば、タイタンに戦闘ダメージが発生する。
そして今の《
「これにてフィナーレです! ブラック・シェイバー!!」
《ブラック・マジシャン》の鋭利になった杖から放たれるスピアのような魔力弾に《
「バ、バカぬぁあぁ!! この私がぁあああ!!」
タイタンLP:1100 → 0
倒れ伏したタイタンからパズルカードを奪ったパンドラの前に、デュエルの騒ぎを聞きつけたデュエリストが今、到着する。
パンドラが「新手か」と顔を向けた先にいたデュエリストは一度見れば二度と忘れないであろうヒトデヘアー。
その姿にパンドラはマリクからの命令を果たすことが出来ると笑みを作る――もうすぐ最愛の妻と再会できるのだと。
「おやおや、これは『武藤 遊戯』――ちょうどいいところに」
「お前は……グールズなのか?」
遊戯の疑問も当然だった。
パズルカードを片手に立つパンドラも、倒れ伏すタイタンも、遊戯から見ればどちらも怪しい服装ゆえにグールズに見える――遊戯が裏の事情に詳しくないことの弊害だった。
そう怪訝な顔を向ける遊戯にパンドラは大仰に礼を尽くす。
「これは失礼いたしました。私はグールズに所属するレアハンター、『パンドラ』と申します――別名『《ブラック・マジシャン》使いの奇術師』」
パンドラの大仰な礼の仕草は「
「グールズの首領、マリク様の命により貴方を葬りに来ました――おっと、来たのは貴方の方からでしたね……フフフ……」
そんなパンドラの言葉に遊戯はデプレから得た情報を脳内に巡らせる。そして瞳を見開き宣言する。
「成程な……お前がグールズの一味って訳か……なら! パンドラ! お前には答えて貰うぜ! グールズの総帥、マリクがどこにいるのかをな!!」
「さあ? 存じ上げませんねぇ……ですが意外に近くにいるかもしれませんよ? 例えば
しかしパンドラはそんな遊戯をただ笑うばかり、おどけた仕草で自身の頭を指さす。
その姿とデプレから得た情報から今のパンドラの状態が遊戯にはよく分かる。
グールズの構成員はマリクのマインドコントロールによって操られた被害者。つまりこのパンドラの狂気的な状態もマリクによるもの。
もう一人の遊戯と共に遊戯は沈痛な面持ちでパンドラを見やる。
だが一方のパンドラはデッキの上から1枚のカードを引き、遊戯に見せつけた。
「しかし……遊戯、貴方も《ブラック・マジシャン》使いとのこと――ですが私こそがマスターオブマジシャン! 私の《ブラック・マジシャン》に勝てる者はいない!」
そのカードは《ブラック・マジシャン》のカード。
ならば、と遊戯もデッキの上から1枚のカードを引き、パンドラへ見せつけ、言い放つ。
「なら俺も『《ブラック・マジシャン》使い』として、この勝負! 是が非でも受けて立つぜ、パンドラ!! お前を――マリクの呪縛から解き放ってやる!!」
当然その遊戯のカードは《ブラック・マジシャン》。
その遊戯の姿にパンドラは満足気に笑みを浮かべデュエルディスクを構えた。
「では! ここでデュエル! ――といくのも構いませんが、もうじき招かれざるお客様も来ることですし、場所を変えても?」
だがすぐさまデュエルディスクを引っ込め、一礼をしながら遊戯を特別なステージへと案内するべく動き出す。
「好きにしな」
「こうも快くお受けくださるとは、光栄です。 ではこの扉をくぐり、ついてきて頂きたい」
そうしてパンドラの背の壁にいつのまにやらあった扉を開け先導するパンドラへ同行する遊戯。
暫く入り組んだ道を進んだ後、コロシアムのような丸いステージの端に遊戯は案内された。
「此方が貴方の為に用意した特別なデュエル場――『パンドラの部屋』です」
そう言いながら遊戯とは向かい側の端で立ち止まったパンドラ。
「マリク様から貴方に退屈させぬよう言いつけられておりますので、この部屋には様々な仕掛けをご用意させて頂きました――」
その言葉と共に右腕を遊戯に向けるように上げたパンドラ。そして、その指が鳴らされると共に――
「――こんな風にね!!」
遊戯の足が厚い金属の枷に捕らえられた。
「なにっ!!」
驚きを見せる遊戯――パンドラの足にも同様に枷が嵌められている。
「どうです? この趣向は? カードを操り、時に悪夢を売ることが奇術師の生業でしてね……《ブラック・マジシャン》同士のデュエルには申し分ない舞台でしょう!!」
「態々こんなことしなくたって俺は逃げやしないぜ!」
パンドラの大仰な説明にも遊戯は強気で返す。
だがパンドラは遊戯の言葉も余所に思考にふける。
――しかしオートシャッフル機能ですか……KCも面倒なものを作ったものです。
これのお陰でパンドラの手品師としての技術の大半が使えなくなってしまったのだから。
グールズでもデュエルディスクに仕込まれた様々な機能を解除する為に四苦八苦したのだが、いずれも「デュエルディスクの故障」以上の結果は出せなかった。
そんな思考にふけるパンドラに遊戯は挑発がてらに言葉を投げかける。
「いいのか? そんなにノンビリして――邪魔者が来るんだろ?」
「いえ、ご心配には及びません。私には貴方をデュエルで倒す時間さえあれば十分ですからね……」
遊戯の挑発を挑発で返すパンドラはやがて右手を上げ――
「寧ろ――貴方は私の心配よりも自分の心配をするべきです!」
振り下ろす。
その瞬間に向かい合った遊戯とパンドラと十字を描くように両端から回転式のカッターが現れ、回転を始め唸りを上げる。
「こ、これは!!」
遊戯の驚きの声も当然だ――その2か所の回転式のカッターが目指す先は互いの枷の付いた両足。
「ヒヒヒヒヒヒヒ……フヒャハハハハハハ!! 大仕掛けのマジックに使われる回転式のカッターです!!」
狂ったように笑い続けるパンドラはその後に勢いよく息を吸い込み、観客に説明するようにオーバーな仕草で語る。
「これこそがわたくし、奇術師パンドラの世紀の大脱出ショーのご演目!! もうおわかりでしょう? このデュエルのルールが!!」
回転式のカッターが移動するレールには数字が1000ごとに刻まれており、今の回転式のカッターの位置の数字は「4000」。
「くっ……!! 自分のライフが減る度にその刃が迫ってくるのか!!」
「ご名答!! 負けた方が刻まれる悪夢のゲームなのです!!」
すぐさま大まかなルールを理解した遊戯の姿にパンドラは笑みを浮かべる。「それだけではない」のだと。
「さらに、足元をご覧下さい! この中には足を固定している枷を外す鍵が入っています!」
「相手のライフが0になれば箱が開く寸法か……」
「その通り! 勝ち残った者だけが脱出可能なのです!!」
どちらか片方は両断される――まさに悪夢のゲーム。
しかしそんな恐ろしいゲームにも関わらずパンドラは狂ったように笑いながら饒舌に語る。
「その鍵は、差し詰め、厄災の入った『パンドラの箱』の中の最後の希望なのですよ!!」
「楽しいかよ……」
そんなパンドラの姿に遊戯は言葉を震わせる。
「おや、何か問題でも?」
怪訝な表情を見せるパンドラ――遊戯から見ればパンドラの姿は正気とは思えない。
ゆえに遊戯に怒りが込み上げる。
「――命を奪い合う戦いが! 楽しいかって聞いてるんだよ!」
「ええ、勝つのは私ですから」
そんな遊戯の怒りの言葉にもパンドラは平然と外道な返答を返す。
遊戯には許せなかった。
「人を此処まで歪めるのか…………腐ってる……腐ってるぜ、マリク!!」
パンドラをこんな有様にしたマリクを。ゆえに遊戯は誓うようにデュエルディスクを構え、言い放つ。
「なら俺が思い出させてやる! 真の『デュエリストの闘い』って奴をな!」
「なら私もお教えしましょう! 真の《ブラック・マジシャン》使いのデュエルを!」
パンドラも「これに勝てば愛する妻にもう一度会える」と気合十分な姿でその遊戯の闘志に応えた。
「 「デュエル!!」 」
復讐鬼、マリクの狂気を植え付けられた刺客、パンドラの魔の手が遊戯へと迫る。
「ショットガンシャッフルはカードを傷めるぜ!」は犠牲になったのだ……
ちなみに――
デプレから与えられた事前情報により――
遊戯のパンドラに対するヘイトがダウン!NEW
さらに
遊戯のマリクに対するヘイトがアップ! NEW
ですが、その前に前回に登場した「タイタン」って誰! の声を頂いたので
~入りきらなかった人物紹介~
タイタン
遊戯王GXに登場
黒い帽子に黒いデュエルコートを来た大男。
その正体は依頼人の意向に従いデュエルする、いわゆる「裏デュエル界の雇われデュエリスト」。
その依頼料金は一律、依頼者の給料3ヶ月分。
GX時代にはクロノス教諭に雇われ、十代とデュエルした。
その際、千年パズル(形だけ真似た模造品)を使い催眠術まがいのことをしてライフが減る毎に身体が消える幻覚を用いることで「闇のゲーム」を語り、対戦相手を心理的に追い詰める手を取る。
上述のような色々と手の込んだパフォーマンス染みたものが多い。
だが、突如として本物の「闇のゲーム」が始まり、最後は十代に敗北した後、闇に呑まれた。
過去に闇のゲームを研究していた場所とはいえ、理不尽である――が、遊戯王ではよくあることだ。
その後、セブンスターズの一員にすべく影丸に闇から引き上げられ、「本当の闇のゲーム」を十代の仲間に仕掛けるも、またも敗北し、闇に呑まれた。
GXのセブンスターズの騒動後に黒幕の影丸が改心したが、タイタンが救助された様子がない――影丸ゥ……
――今作では
DM時代に、既に裏世界のデュエリストになっている――だが、まだ日が浅く新米に位置するポジション。
まだ千年パズル(形だけ真似た模造品)などの小道具は持っていない。
現在は裏デュエル界の不文律などを学びつつ、
個性派揃いの裏デュエル界のデュエリストの面々に埋もれないように自分らしい個性を出すことや、信頼を積み重ねるべく頑張っている。
一応グールズ狩りのバトルシティに召集をかけられる程度の実力はあった――だが初戦で遊戯を追い詰めるレベルのパンドラに遭遇し、撃破数0で終わる。無念。
~今作特有の用語~
「デュエル発展途上国」
読んで字のごとく
様々な事情で「デュエル」に関する事柄が極端に遅れている国を差す。
ペガサスもこの社会問題には胸を痛めており、I2社を含めた様々な個所からの支援が行われている。
作者も自分で書いていて「何を言ってるんだ」と思ってしまうが……きっと疲れているんだろう。デュエルしなきゃ(使命感)