マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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遊戯VSパンドラ ダイジェスト版です



前回のあらすじ
人造人間-サイコ・ショッカー「新天地で頑張るとするか……よろしくお願いします! 《炎の剣士》さん! 新人の《人造人間-サイコ・ショッカー》と申します! 特技は『罠封じ』です!!」

炎の剣士「君が新人か……しかし凄いな、私とレベルが1つ違うだけなのに攻撃力が2400もあって、その上に特殊効果まで……頼りになる! 城之内のこと、頼むよ!」






第91話 パンドラ死す

 

 

 倒れ伏したグールズの面々を回収班へと受け渡しを行っていた牛尾は通信機への連絡が入ったことで、その場を離れた。

 

「おう、こちら牛尾。どうかしたのか?」

 

 そして通信機越しから伝えられた情報に瞠目する。

 

「なぁにぃ!! 遊戯のデュエルディスクの反応が途切れたってどういうことだ!!」

 

 その牛尾の疑問に通信機の向こうから次々に情報が送られていく。

 

 遊戯は恐らくグールズと共に地下でデュエルしていること、遊戯の反応は最後にあった地点、そしてその遊戯に助けられたタイタンの証言など、様々な情報が牛尾に伝えられていく。

 

「おう、おう、分かった。んでもって最後の反応はそのポイントなんだな? 証言もとってると、了解だ! 直ぐに向かう!」

 

 遊戯の実力を知る牛尾は負けはしないと信じていても、今までのグールズのなりふり構わない姿に万が一があってはことだと、この場を他の人間に任せた後、すぐさま上に向けて声を張り上げる。

 

「おーい! 北森の嬢ちゃん! 緊急の要件だから! 早いとこ降りてきてくれー!」

 

 緊急事態との牛尾の言葉からいつもよりも急いで駆け下りてくる北森――とその腕に抱えられた静香と杏子。

 

 その加速度はいつもの比ではない。

 

 杏子の何時ぞやよりも二割増しの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな遊戯はグールズのレアハンター、パンドラとの命を賭けたデュエルに興じていた。

 

 互いのフィールドには――

 

 褐色の肌に赤い法衣を纏ったパンドラの《ブラック・マジシャン》が遊戯とその相棒たる《ブラック・マジシャン》を挑発するかのように見下ろし、

 

《ブラック・マジシャン》

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

 色白の肌に紫の法衣を纏った遊戯の《ブラック・マジシャン》が静かにパンドラとその相棒たる《ブラック・マジシャン》を見つめていた。

 

《ブラック・マジシャン》

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

 そしてパンドラの5枚のセットカードに対する遊戯のセットカードは4枚――それらを背に睨み合う《ブラック・マジシャン》。

 

 遊戯はその内の1枚のカードを発動させる。

 

「俺は装備魔法《魔術の呪文書》を《ブラック・マジシャン》に装備! これで攻撃力は700ポイントアップ!!」

 

 固く封印が施された魔術書を《ブラック・マジシャン》が片手に持ち、その深淵なる魔術の知識を得て、その魔力を高めていく。

 

《ブラック・マジシャン》

攻2500 → 攻3200

 

「これでパンドラ! お前の《ブラック・マジシャン》の攻撃力を上回ったぜ! バトルだ! 《ブラック・マジシャン》で攻撃!!」

 

 そして遊戯の《ブラック・マジシャン》は高めた魔力を杖に込め、パンドラの《ブラック・マジシャン》を狙うが――

 

「させませんよ!! 罠カード《マジカルシルクハット》を発動! デッキから魔法・罠カードの2枚をモンスター扱いで呼び出し! 私のフィールドのモンスター1体とシャッフルした後、裏側守備表示に!!」

 

 パンドラの発動したリバースカードにより、パンドラの《ブラック・マジシャン》は大きな3つのシルクハットの中に消え、シャッフルされる。

 

「これで貴方の攻撃は私の《ブラック・マジシャン》へは届かない!」

 

 パンドラのフィールドの3つのシルクハットが佇む――この中のどれかに裏側守備表示になったパンドラの《ブラック・マジシャン》が機を窺っている。

 

 遊戯の《ブラック・マジシャン》はどのシルクハットを狙うか悩む素振りを見せるが――

 

「なら右のシルクハットを攻撃するぜ!!」

 

 遊戯の言葉にその迷いは消え、遊戯から見て右側のシルクハットに狙いを定めた。

 

 

 その遊戯の言葉にパンドラは内心で賞賛を送る。

 

――さすがですね! 本丸をすぐさま見抜くとは! ですが!!

 

 だが、「想定内」だとパンドラは手を掲げ、その動きに合わせてリバースカードの1枚が起き上がる。

 

「そうはさせませんよ、遊戯ィ!! 更なるリバーストラップ発動!! 罠カード《つり天井》!!」

 

 そのパンドラの手の先には大量の鋭利な棘でビッシリ埋められた天井が音を立てて落ち始める。

 

「このカードはフィールドにモンスターが4体以上いるとき! その中の表側のモンスターを全て破壊します!!」

 

 今のフィールドは遊戯の《ブラック・マジシャン》とパンドラの《マジカルシルクハット》によって裏側守備表示になった3つのシルクハット。

 

 ちょうど4体だ――そして《つり天井》によって破壊されるのは「表側」のモンスターのみ。

 

「――ッ!! この為に《マジカルシルクハット》を!?」

 

 遊戯は気付く。

 

 この敵味方関係なく無差別に破壊する《つり天井》の餌食となるのは遊戯の《ブラック・マジシャン》のみだ。

 

「その通り!! 貴方がどのシルクハットを攻撃しようとも結果は変わらないのですよ!!」

 

 全てがパンドラの手の内だった。

 

 

 

 だが遊戯とて無策ではない。

 

「そうはさせないぜ!! ソイツにチェーンして、罠カード《生命力吸収魔術》を発動! フィールドの全ての裏側守備モンスターを表側表示にする!!」

 

 《つり天井》の迫るフィールド全体に光が溢れ、パンドラのフィールドの3つのシルクハットは光の粒子となって溶けていく。

 

 

 シルクハットの中で潜むパンドラの《ブラック・マジシャン》の気配に僅かだが動揺が見られる。

 

「こ、これでは私の《ブラック・マジシャン》も!? ――ですが、貴方の《ブラック・マジシャン》も道連れです!!」

 

 表側になったパンドラのモンスターたちは《つり天井》から逃れる術を失った。しかしどのみち遊戯の《ブラック・マジシャン》も助かりはしないとパンドラは嗤う。

 

「そいつはどうかな? 俺は《生命力吸収魔術》の効果へ更にチェーンして、罠カード《ブラック・イリュージョン》を発動!!」

 

 だが遊戯はその先を行く。

 

 遊戯の《ブラック・マジシャン》の頭上に「BM」と書かれた盾が飛来する。

 

「コイツの効果で俺のフィールドの攻撃力2000以上の闇属性・魔法使い族のカードはターンの終わりまでバトルでは破壊されず、相手の効果も受けないぜ!!」

 

 この盾があれば《つり天井》の一撃は遊戯の《ブラック・マジシャン》に届くことはない。

 

 よって《つり天井》で潰されるのはパンドラのカードのみだ。

 

 

 にも関わらずパンドラの《ブラック・マジシャン》は遊戯たちへ向けて嗜虐的な笑みを見せる。

 

 その笑みを合図とするかのようにパンドラの声が響いた。

 

「ならばそのカードで守られる前に先んじて破壊させて貰いましょう! 私はそのカードにチェーンして罠カード《爆導索(ばくどうさく)》を発動!!」

 

 フィールドに現れた小型の爆弾を連結させた鎖のようなものをパンドラの《ブラック・マジシャン》は手に取り、その鎖を持って遊戯の《ブラック・マジシャン》を拘束する。

 

「この効果により、このカードと同じ縦列にある全てのカードを破壊します!!」

 

 《爆導索(ばくどうさく)》に囚われ、拘束から逃れようと足掻く遊戯の《ブラック・マジシャン》を余所にパンドラの《ブラック・マジシャン》は己が優位に笑みを浮かべる。

 

「私のモンスター扱いの『シルクハット』と貴方のセットカード! そして貴方の《ブラック・マジシャン》をね!!」

 

 《マジカルシルクハット》で呼びだされたカードはバトルフェイズの終わりと共に破壊されるので、パンドラの実質的な損失は0に等しい。

 

「これで《ブラック・イリュージョン》の守りは貴方の《ブラック・マジシャン》を守ることはない!!」

 

 そのパンドラの言葉通り、チェーンは逆順処理で実行される為、遊戯の《ブラック・イリュージョン》の守りが届くのは遊戯の《ブラック・マジシャン》が《爆導索(ばくどうさく)》の爆発に呑まれた後だ。

 

 

 《つり天井》を囮にモンスターを守るカードを無駄打ちさせられた遊戯はパンドラの《ブラック・マジシャン》が爆弾を起爆させる寸前に決断する。

 

「くっ!! ――なら俺はその効果にチェーンして罠カード《闇霊術-「欲」》を発動! 俺のフィールドの闇属性モンスター、《ブラック・マジシャン》をリリースして2枚ドローするぜ!!」

 

 《ブラック・マジシャン》を「守る」のではなく、「逃がす」選択を。

 

 それはパンドラから自身の相棒たるカードを「守れない」と判断したに等しい。

 

 

 そして《闇霊術-「欲」》の力により遊戯の《ブラック・マジシャン》の身体が闇へと消え、《爆導索(ばくどうさく)》の拘束から逃れる。

 

「パンドラ、お前は手札の魔法カードを公開することで、この効果を無効に出来るがな」

 

「私は手札の魔法カードを公開はしません」

 

 そして遊戯のフィールドに「欲」の文字が浮かび上がっていく中で問いかけられた言葉にパンドラは静かに返す。

 

「なら俺は2枚ドローするぜ! そしてパンドラ! お前の発動した《つり天井》が自軍のモンスターを襲うぜ!」

 

 パンドラのモンスターに迫る《つり天井》――だがパンドラの《ブラック・マジシャン》は慌てた様子もなく、余裕を持ってパンドラに目線を送る。

 

「待って貰いましょうか! 私は貴方の《闇霊術-「欲」》にチェーンして、速攻魔法《イリュージョン・マジック》を発動!!」

 

 パンドラの《ブラック・マジシャン》は軽く身を逸らし、《つり天井》の影響が及ばぬ場所へ移動する。

 

「私は自分フィールドの魔法使い族――《ブラック・マジシャン》をリリースし、デッキ・墓地から《ブラック・マジシャン》を2枚まで手札に加えます!」

 

 それはパンドラの手札の中――パンドラの背後に降り立ったパンドラの《ブラック・マジシャン》は遊戯を挑発するように人差し指を軽く振る。

 

「さぁ、チェーンの逆順処理です! 私は《イリュージョン・マジック》の効果で墓地の3枚の《ブラック・マジシャン》の内の2枚を手札に!!」

 

 その後、チェーンの逆順処理が進み――

 

 《闇霊術-「欲」》の効果で遊戯は手札を潤し、

 

 パンドラの《爆導索(ばくどうさく)》が遊戯の最後のセットカードをパンドラのシルクハットとなったカードごと爆破。

 

 遊戯の《ブラック・マジシャン》を守る筈だった《ブラック・イリュージョン》は無為に消え、

 

 《生命力吸収魔術》の効果でフィールドのモンスターが全て表側になり、フィールドの「効果モンスター」の数×400のライフを遊戯が回復するが、表側になったパンドラの《マジカルシルクハット》で呼ばれたカードは「通常モンスター」として扱う為、意味はない。

 

 そしてパンドラの《つり天井》がフィールドに残った最後の《マジカルシルクハット》の効果によりモンスター扱いで呼ばれた魔法・罠カードを貫いた。

 

 

 その後、《つり天井》が落ちた衝撃で誰もいなくなったフィールドに土煙が吹きすさび。やがて《つり天井》が消えていく。

 

 

 

 

 だが、そこには悠然と宙で腕を組む、遊戯の《ブラック・マジシャン》の姿があった。その周囲に本のページが舞う。

 

《ブラック・マジシャン》

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

「なに!? 遊戯のフィールドに《ブラック・マジシャン》が!?」

 

 その事実にパンドラは驚きに目を見開く。遊戯のフィールドに《ブラック・マジシャン》を呼び出すカードなどなく、遊戯の手札のカードが発動された様子もないのだから。

 

 そう驚くパンドラに遊戯は軽く息を吐いた後に返す。

 

「お前が《爆導索(ばくどうさく)》で破壊した俺のセットカード――永続罠《マジシャンズ・プロテクション》の効果さ!」

 

 その遊戯の声に合わせるように遊戯の《ブラック・マジシャン》は杖をパンドラに向ける、

 

「このカードがフィールドから墓地に送られたとき、俺の墓地の魔法使い族モンスターを蘇生させる!」

 

 だがそれだけではない。周囲に舞う本のページの正体は持ち主がいなくなったことでその役目を終えた《魔術の呪文書》のもの。

 

「さらに装備モンスターがいなくなったことで、墓地に送られた装備魔法《魔術の呪文書》の効果で俺はライフを1000回復する」

 

 その《魔術の呪文書》に残された魔力の一部が遊戯を癒すべく、暖かな光となって降り注ぐ。

 

遊戯LP:2200 → 3200

 

 

 確かにパンドラの猛攻に一手届かず一時《ブラック・マジシャン》を手放す選択をした遊戯だが、タダでは終わらない。

 

 文字通りすぐさま態勢を立て直し、反撃に移る――パンドラのフィールドにモンスターはおらず、がら空きだ。

 

 

「フフフ、ならば破壊された罠カード《呪われた棺》を発動させて貰いましょうか!!」

 

 しかしパンドラの笑い声と共に黄金の棺が音を立てて現れる。棺の蓋には古代のファラオらしき人物が彫られている。

 

「そのカードは…………まさか!?」

 

 パンドラの「セットしておいた罠カード」との言葉に遊戯は気付く――パンドラには最後の一手が残されていたことに。

 

 先程の攻防の中でパンドラのセットされた罠カードが破壊されるタイミングは一度しかない。

 

「その通りです! 《爆導索(ばくどうさく)》により破壊された『シルクハット』の一つですよ!!」

 

 答え合わせするかのように大仰に手を広げるパンドラの言葉に続き、《呪われた棺》の蓋が僅かに開く。

 

「よって! 遊戯ィ! 貴方は手札をランダムに捨てるか、自分フィールドのモンスターを1体破壊するかを選ばねばなりません!」

 

「俺は……手札をランダムに捨てるぜ……」

 

 遊戯の選択を聞き遂げた《呪われた棺》はその内部から黒い腕を伸ばし、遊戯の手札の1枚を贄として棺に納め、己と共に墓地に返っていく。

 

 

 遊戯の苦難に満ちた表情を見るに、現状を打破しうるカードが失われたようだ。

 

 しかし、そんな表情も一瞬で消え、いつもの勇敢なる顔つきに戻った遊戯はパンドラを指さす。

 

「だがパンドラ! これでお前のフィールドはがら空きだぜ!! 今度こそ《ブラック・マジシャン》で攻撃! パンドラにダイレクトアタック!! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!!」

 

 遊戯の《ブラック・マジシャン》から放たれる黒い魔力の砲弾がパンドラへと迫る。

 

 

 

 

 

 

 だがパンドラに直撃する前に()()()()()()魔力の砲弾――黒・魔・導(ブラック・マジック)により相殺された。

 

「なにっ!?」

 

 驚きに目を見開く遊戯とその相棒たる《ブラック・マジシャン》。

 

 

 そんな2人を見てパンドラと()()()()()()()()()()()()()()()》がニヤリと余裕気な笑みを浮かべている。

 

 そう、パンドラを守ったのは赤黒い衣装に身を包んだパンドラの《ブラック・マジシャン》。

 

《ブラック・マジシャン》

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

「残念ですが、私は永続罠《正統なる血統》を発動し、墓地より通常モンスター1体――《ブラック・マジシャン》を蘇生させて貰いました」

 

 再び互いに睨み合う両者の《ブラック・マジシャン》。

 

「これによりバトルの巻き戻しが起こりますが――どうしますか、遊戯?」

 

 パンドラは遊戯に問いかける「相打ち覚悟」で攻撃するのか、と。

 

 

 しかし遊戯は口を固く結び、内心でパンドラの実力に舌を巻く。

 

――強い……ヤツの『《ブラック・マジシャン》使いの奇術師』の名は伊達じゃない。

 

「俺はバトルを終了し、カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 相打ちを狙うことも出来たが遊戯はそれを良しとせず、カードを伏せてターンを終える。

 

 しかし倒せるときに敵を倒す決断をしない遊戯をパンドラは嗤う。

 

「おやおや、相打ち覚悟で攻撃はしないのですか……甘いですねぇ」

 

 遊戯が2枚の伏せカードのどちらかで迎撃を狙っていることは読んでいても、パンドラにとって、それは「隙」でしかない。

 

「所詮は子供といったところ――世の中は非情なものです。信頼などは無意味であり、犠牲なくして何かを得ることなど出来ません……」

 

 パンドラには覚悟があった。

 

「ゆえに私は非情に徹する!! 私の愛するカトリーヌをこの手に取り戻すまでは!!」

 

 そのパンドラの左側の端のカーテンに覆われたスペースが光り、その中にいるであろう女性のシルエットを映し出す。

 

 その女性こそパンドラの愛する妻、カトリーヌ。

 

 パンドラがグールズに組する理由に「されている」愛しの妻。

 

 愛する妻をこの手に取り戻す為ならば修羅にでも、鬼にでもなる覚悟がパンドラにはあった。

 

「今の私はその甘さに付け入ることを躊躇いはしない!! 私のターン! ドロー!」

 

 そしてパンドラは回収した《ブラック・マジシャン》を更なる一手に変えるべくカードを発動させる。

 

「まずは今引いた魔法カード《手札抹殺》を発動し、互いは手札を全て捨て、捨てた枚数分新たにドロー!!」

 

 新たに引いた手札にニヤリと顔を歪めるパンドラ。

 

「そして《魔道化リジョン》を召喚!!」

 

 赤い三角帽子を被った道化のような恰好をした人形が緑の関節部をカクカク揺らし、おどけて見せる。

 

《魔道化リジョン》

星4 闇属性 魔法使い族

攻1300 守1500

 

「遊戯! 貴方のその実力は確かに《ブラック・マジシャン》使いと呼ばれるだけのことはある――」

 

 パンドラとて遊戯の強さは理解していた――決闘者の王国(デュエリストキングダム)のデュエルを見れば、難敵であることなど誰にでも分かる。

 

「ですが忘れてはいませんか! 私はその事実を知っていたことに――そう! 私のデッキには完璧なマジシャン封じが用意されているんですよ! しかも、非情なね!!」

 

 しかしパンドラにはいくつもの秘策があった。

 

「私は手札の《パペット・プラント》を墓地へ捨てて効果発動!」

 

 ドクロマークや危険を記すシールがいくつも張られた黒い鉢植えが現れる。

 

「相手フィールドの戦士族・魔法使い族モンスター1体のコントロールをこのターンの終わりまで奪い取ります!!」

 

 その黒い鉢植えに錠剤や薬剤が投じられると、すぐさま急成長した食虫植物らしき草々が本来あり得ないようなスピードで急成長を始めた。

 

「なんだと!?」

 

「《ブラック・マジシャン》使い同士のデュエルであればこういったカードを入れるのは当然でしょう?」

 

 遊戯の驚愕を余所にパンドラはほくそ笑む。これで遊戯の手から《ブラック・マジシャン》は失われたも同然だ。

 

「さぁ、裏切りのショーの始まりです!」

 

 その食虫植物こと《パペット・プラント》は遊戯のフィールドの《ブラック・マジシャン》を絡めとっていき、その自由を奪い、パンドラのフィールドへ引き摺り込んだ。

 

「《ブラック・マジシャン》ッ!!」

 

「ヒヒャヒャヒャヒャッ! これで貴方のフィールドはがら空きです!」

 

 相棒が奪われ、悲痛に手を伸ばす遊戯を見てパンドラは嗤う。前のターン、遊戯が非情に徹しきれなかったゆえの苦境だと。

 

「遊戯ィ! 貴方のその甘さが招いた危機ですよぉ! バトル!!」

 

 《パペット・プラント》に動きを制限されるも懸命に足掻く遊戯の《ブラック・マジシャン》。

 

「さぁ! 貴方の主を攻撃しなさい《ブラック・マジシャン》!! 遊戯にダイレクトアタック!!」

 

 だが《パペット・プラント》から伸びるツルが遊戯の《ブラック・マジシャン》の杖を持つ腕を無理やり遊戯の方へ向け、その杖に魔力がチャージされていく。

 

 そして本人の意思に反して遊戯の《ブラック・マジシャン》の杖から黒い魔力弾が遊戯目掛けて発射された。

 

「どうです! 貴方の甘さが! 己の《ブラック・マジシャン》に(あるじ)を攻撃させる結果となったのです!!」

 

 攻撃による衝撃で煙が舞う中、パンドラは遊戯の甘さを嗤う――まるで過去の己を否定するかのように。

 

 

 

 しかし煙が晴れた先にあったのは《クリボー》が遊戯を守るように立ちはだかる姿。

 

「俺は手札の《クリボー》を捨てることで、その効果によりバトルのダメージを1度だけ0にさせてもらったぜ!」

 

 遊戯の《ブラック・マジシャン》に重荷は背負わせないとでも言いたげに、キリリと目を引き締めた後に消えていく《クリボー》。

 

「おや、防ぎましたか……ならば私の《ブラック・マジシャン》でダイレクトアタックです!! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!!」

 

 今度はパンドラの《ブラック・マジシャン》が先程の遊戯の《ブラック・マジシャン》の動きをなぞるように球体状の魔力を放つ。

 

 その魔法の一撃は遊戯をしたたかに捉え、そのライフをゴッソリと削り取る。

 

遊戯LP:3200 → 700

 

「ぐぅああっ!! だが俺が戦闘ダメージを受けたことで罠カード《運命の発掘》を発動……俺はデッキからカードを1枚ドローする……」

 

「今更カードを1枚引いたところでどうなるというのです! 貴方は次の《魔道化リジョン》のダイレクトアタックで終わりですよ!」

 

 カタカタと関節をあらぬ方向に曲げながら《魔道化リジョン》が遊戯へと向かっていくが――

 

 遊戯に走り迫る《魔道化リジョン》の足元に2本の触覚の生えた白い毛玉に丸いつぶらな瞳を持つ《ワタポン》が防御を固めるように丸まっていた。

 

《ワタポン》

星1 光属性 天使族

攻 200 守 300

 

「なにっ!? 遊戯のフィールドにモンスターが!?」

 

 その《ワタポン》に蹴躓き、横転する《魔道化リジョン》。その動きは道化の名に違わずオーバーリアクションだ。

 

「《ワタポン》がカードの効果で手札に加わったとき、自身を特殊召喚できる――まだ勝負は終わっちゃいないぜ! パンドラ!!」

 

「ならば《魔道化リジョン》で《ワタポン》を攻撃ィ!!」

 

 《魔道化リジョン》は肩を上下させ、怒りの仕草をしながら《ワタポン》に近づき、サッカーボールを蹴るように《ワタポン》を蹴り飛ばした。

 

「俺を仕留めることは出来なかったようだな……このターンの終わりに俺の《ブラック・マジシャン》を返して貰うぜ!」

 

 パンドラの秘策の一つを凌ぎ切ったと笑みを見せる遊戯。

 

 だがパンドラの「マジシャン封じ」はまだ終わってはいない。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒ……フヒャハハハハハハ!! 甘い、甘い、甘いですねぇ!」

 

 馬鹿正直にそのまま己の《ブラック・マジシャン》が返ってくると思っている遊戯を嗤う。

 

 パンドラが「完璧なマジシャン封じ」と銘打ったショーはまだ終わってなどいない。

 

「手品師たるもの不測の事態の備えは常に怠ってはならないのですよ!!」

 

 そして勢いよくカードをデュエルディスクに差し込むパンドラ。

 

「魔法カード《七星の宝刀》を発動! このカードの効果により手札もしくはフィールドからレベル7のモンスターを除外し、カードを2枚ドローします!」

 

 パンドラの《ブラック・マジシャン》が黄金に輝く剣を手に取る。

 

「まさか!?」

 

「そう! 私は貴方から奪ったレベル7! 《ブラック・マジシャン》を除外して2枚ドロー!!」

 

 そのパンドラの《ブラック・マジシャン》はその剣で遊戯の《ブラック・マジシャン》を切り裂く――切り裂かれたその身体はボロボロと崩れていき、やがて異次元へ消えていった。

 

「くっ……《ブラック・マジシャン》ッ!!」

 

 帰らぬものとなった己が相棒に悔しさから拳を握る遊戯。だがそんな遊戯にパンドラは楽し気に声を上げる。

 

「フフフ……《ブラック・マジシャン》の心配をしている場合ですか?」

 

 新たに引いた2枚のカードを手にパンドラは両の手を広げた。ここからが本番なのだと。

 

「私はカードを1枚伏せて――永続魔法《エクトプラズマー》を発動!!」

 

 遊戯を仕留める準備はここに整った。

 

「そしてターンエンド!! この瞬間! 永続魔法《エクトプラズマー》の効果を適用!!」

 

 パンドラのフィールドの周囲に風が集まるように渦巻いていく。

 

「私のフィールドのモンスター1体をリリースし、その元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与えます!!」

 

 その風はパンドラの《ブラック・マジシャン》の足元に渦巻いていく、この先の光景を悟ったパンドラの《ブラック・マジシャン》は沈痛な面持ちでパンドラを見下ろしている。

 

 そのパンドラの《ブラック・マジシャン》の姿は狂った主を前に何も出来ない自身に歯噛みするようにも見えた。

 

「私は――自身の《ブラック・マジシャン》をリリース!! そして射出!! フハハハハ! 私の勝利です!!」

 

 そのパンドラの宣言に覚悟を決めた表情でパンドラの《ブラック・マジシャン》は全霊を込めて、その命を魂の砲弾と化し、遊戯を抹殺せんと飛んでいく。

 

 

 そして《ブラック・マジシャン》の攻撃力2500の半分1250のダメージが遊戯を襲う。

 

 残りライフ700の遊戯には耐えられない一撃だ。

 

 

 土煙が周囲を覆う。

 

「冥途の土産にお教えしましょう――『真の《ブラック・マジシャン》使いのデュエル』は時に目的の為ならば己が相棒にすら非情に徹しなければなりません」

 

 勝利を確信したパンドラは土煙の先の遊戯に言葉を投げかける。これが最後の会話になると思いながら。

 

「貴方の敗因は『非情』に徹することが出来なかったゆえの『甘さ』ですよ!!」

 

 

 そう言い放ったパンドラの視線の先の煙の晴れた場所には――

 

 

 

遊戯LP:700

 

 まだ健在の遊戯の姿があった。

 

「なにっ!?」

 

「俺は手札の《ハネワタ》を捨てることで、このターン受ける効果ダメージを0にさせてもらったぜ……」

 

 《ワタポン》に小さな天使の羽を付けたような姿の《ハネワタ》がパンドラの《ブラック・マジシャン》の魂をその2本の触覚で大事そうに抱えていた。

 

「くぅ……私の《ブラック・マジシャン》の渾身の一撃を躱すとは……」

 

 やがて天に昇っていく《ハネワタ》とパンドラの《ブラック・マジシャン》の魂。

 

「ですが貴方のライフは残り僅か700!! もうすぐ! もうすぐ私は世紀の大脱出ショーをパーフェクトに演じ終えるのです!!」

 

 パンドラの残りライフは1400。このターンで遊戯を大きく追い詰めることが出来た事実にこのまま押し切って見せると意気込みを見せる。

 

「そしてマリク様のお力で愛するカトリーヌが戻ってくる!!」

 

 もうすぐ愛する人との幸福な生活が戻ってくるのだと。

 

 しかしそう高揚するパンドラの耳に遊戯の呟きが聞こえる。

 

「…………とも……いのか……」

 

「おや? どうしましたか?」

 

 だが言葉の震えゆえか上手く聞き取れないパンドラ。そんなパンドラに遊戯は声を荒げる。

 

「お前は何とも思わないのか!! グールズに組し、罪を重ねて!!」

 

 遊戯の怒りは止まらないが、その中には憐憫も含まれている。パンドラはただ「愛する人との幸せ」を取り戻したかっただけなのだ。

 

「俺を殺したその後で! お前は自分の愛する人の前で平気でいられるのか!!」

 

 自身の胸に拳を打ち立て、「デュエリストの誇りを思い出せ」との想いを込めた声を上げる遊戯に今度はパンドラが言葉を震わせる。

 

「……れ……」

 

「お前の愛した人は! そんなお前の姿を見て平気で笑い合える人なのか!!」

 

 遊戯には今のパンドラの未来に光が見えなかった。どう見ても破滅しかない。

 

 しかしパンドラはそんな簡単な事すら気付かずに遊戯を殺す為に動いている。

 

「黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇえええ!!」

 

 だが今のパンドラにはそのあり得ない未来しか信じられない。いや、信じられないように「されている」。

 

 ゆえに半狂乱になりながらパンドラは己の目元を覆う仮面を勢いよく取り外す。

 

「この私の顔を見ろぉおお!! 遊戯ぃいいい!!」

 

 その仮面の下には醜く焼けただれた顔があった――それはパンドラの拭えぬ過去の証。

 

「私は数年前、世界で最も華麗な奇術師として、名声を欲しいままにしていた!! そして、そんな私を暖かく見守ってくれる、カトリーヌの愛も!!」

 

 かつてのパンドラは幸福の絶頂だった。

 

「しかし! たった一度の脱出トリックの失敗で私は全てを失った!!」

 

 だが神の悪戯か、運命の巡り合わせか、パンドラのその幸福はその手の中から零れ落ちていく。

 

「私の愛するカトリーヌも! 自暴自棄になっていた私は彼女の愛に気付かず、その心を深く傷つけてしまったのです!! そして私がその愛に気付いた時は全てが遅かった……」

 

 そして最後にパンドラに残ったのは《ブラック・マジシャン》のみ。

 

「ですが! そんな失意の私の元に現れたマリク様は約束してくださったのです!! 遊戯ィ! お前を亡き者にすれば、その千年ロッドの力で、カトリーヌの愛を取り戻してくれると!!」

 

 そんなマリクの怪しげな提案を何故信じたのかは「今」のパンドラには分からない。

 

 だが今のパンドラには「それ」しかなかった。

 

「私はカトリーヌの為なら何だってする!!」

 

 カーテンの向こう側の女性の人影に向けて誓う様に叫ぶパンドラ。

 

 

 そんなパンドラの独白を聞いた表の遊戯はもう一人の遊戯を押しのけて人格交代する。

 

「なんでッ!」

 

 心優しい遊戯は「操られている」パンドラの姿に叫ばずにはいられなかった。

 

「カトリーヌさん!! 貴方は何でパンドラさんに何も言ってあげないの!! この人は貴方の為にこれだけ苦しんでいるのに!」

 

 だがカーテンの向こう側の女性の人影はその遊戯の言葉に何も答えず。身動ぎすらしない。

 

 

 そのあまりに無反応な姿に表の遊戯は腰のデッキホルダーのベルトを外し、振りかぶる。

 

「貴方たちは、お互いに顔を見せあって! 向かい合うべきだ!!」

 

 そうして表の遊戯の手で投げられたデッキホルダーのベルトはカーテンを固定していた部分に直撃。

 

 やがてカーテンはハラリと落ちる。

 

 

 だがそこにある筈のパンドラの妻、カトリーヌの姿は――

 

「……人形?」

 

 ない。遊戯は不審げに眉を顰める。

 

 カーテンの向こう側にあったのは、椅子に座らされたマネキン人形と思しきものだけだった。

 

 人っ子一人見当たらない。

 

 そしてそれを目の当たりにしたパンドラの変化は顕著だった。

 

「……えっ? あれ? ……何故、人形が? カトリーヌがここにいるとマリク様が……いや、でも人形……カトリーヌが人形? 人形でカトリーヌが……」

 

 明らかに錯乱した様子で目の前の現実を何とか受け止めようと足掻くパンドラ。

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 だが愛する人の為に今の今まで戦い続けてきたパンドラが受け止められる筈もなかった。

 

 頭を抱え、パンドラは言葉にならない絶叫を上げる。

 

 己の目に映る残酷な現実から逃げ出したい思いを表す様にパンドラは足を動かすが、当然枷による拘束から動けるはずもなく、その場で訳も分からず叫ぶことしか出来ない。

 

 

 そのパンドラのあまりの姿に遊戯は言葉を失う――「これが人の所業なのか」と。温厚な表の遊戯でさえ、マリクに対する怒りが抑えられない。

 

 

 だが突如としてパンドラは叫び声を上げるのを止め、ピタリと動きを止める。

 

 そのパンドラの額にはウジャトの瞳の文様が光り輝く。

 

 やがてパンドラの顔に暗い影が差し、濁った瞳で頬が裂けるかのよう笑みを浮かべる。

 

「――そう! そうです! 遊戯! 貴方を倒せばマリク様のお力であの人形はカトリーヌに戻るのです!!」

 

 そんな訳がない。子供であっても騙されないような嘘だ。

 

 マリクの千年ロッドの洗脳の力が更に強められたことでパンドラは先程よりも凶悪さを増し、まるで別人のように「ゲヒャヒャ」と笑う。

 

 

 そのあまりの変わり様に表の遊戯は言葉が出ない。

 

「なんで……こんなことが……」

 

 心優しい表の遊戯にこの残酷過ぎる世界は受け止められなかった。

 

 そんな表の遊戯にもう一人の遊戯が檄を飛ばす。

 

――相棒……奴を救い出す方法は一つしかない!

 

 そして再び人格交代した名もなきファラオの人格の遊戯はその瞳を力強く見開き、怒りのままに宣言する。

 

「許さねぇ……絶対に許さねぇぜ! マリク!! 俺のターン! ドロー!!」

 

 その遊戯の想いに呼応するかのように引いたカードはこの場を収めるに相応しいカード。

 

「俺は手札を1枚捨てて、装備魔法《D(ディファレント)D(ディメンション)R(リバイバル)》を発動! 除外された俺のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する!!」

 

 遊戯の頭上に異次元のゲートが開く。

 

「奴を救う為に力を貸してくれ!! 《ブラック・マジシャン》!!」

 

 遊戯の闘志と想いに呼応するかのように頷く《ブラック・マジシャン》。

 

その杖をパンドラ、否――パンドラの先のマリクに向けて構えた。

 

《ブラック・マジシャン》

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

 だがパンドラの想いという名の狂気はそれを上回る。

 

「かかりましたね!! リバースカードオープン!! 罠カード《黒魔族復活の棺》!!」

 

 パンドラのフィールドに現れるドス黒い赤の棺。その十字が埋め込まれた蓋が音を立てて開く。

 

「このカードは貴方がモンスターを召喚・特殊召喚した際に、そのモンスターと私の魔法使い族モンスターを墓地に送ることで――」

 

 その開いた棺から無数の黒い腕がパンドラのフィールドの《魔道化リジョン》を飲み込み――

 

「私のデッキもしくは墓地から闇属性の魔法使い族モンスター1体を呼び出します!!」

 

 さらに遊戯の《ブラック・マジシャン》も取り込まんと無数の腕が殺到する。

 

 魔法を放ち、抵抗する《ブラック・マジシャン》だったが、際限なく迫る黒い腕に最後は飲み込まれ、《黒魔族復活の棺》に引き摺り込まれた。

 

 その棺の蓋が静かに閉じられる。

 

「私の未来の為に!! 舞い戻りなさい! 《ブラック・マジシャン》!!」

 

 そして《黒魔族復活の棺》はムクリと起き上がり、その棺の蓋が扉の様に開かれた。

 

 そこから歩み出るのは棺と同じ、ドス黒い赤の法衣を纏うパンドラの《ブラック・マジシャン》の姿。

 

《ブラック・マジシャン》

星7 闇属性 魔法使い族

攻2500 守2100

 

「さらにフィールドから墓地に送られた《魔道化リジョン》の効果でデッキ・墓地から魔法使い族の通常モンスターを手札に加えます!!」

 

 《魔道化リジョン》がカタカタと動く音だけが周囲に響き渡る。

 

「私は墓地の残り2枚の《ブラック・マジシャン》の内の1枚を手札に!!」

 

 そして腕だけとなった《魔道化リジョン》がパンドラに1枚のカードを差し出した。

 

「これで貴方のモンスターは再びゼロォ! 残念でしたねぇ!」

 

 マリクによって狂わされていてもパンドラのデュエルの実力が衰えた訳ではない。

 

 パンドラの地力の高さに苦戦しつつも、遊戯は次の手を打つ。

 

「くっ……俺は墓地の《ギャラクシーサイクロン》を除外して、お前の表側の魔法カード、永続魔法《エクトプラズマー》を破壊!」

 

 白い竜巻がパンドラのフィールドのカードの1枚を呑み込んでいく。

 

 これで効果ダメージによる攻撃を防ぐことが出来ると遊戯は残りの手札を見やる。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 最後の希望をカードに託し、遊戯はターンを終えた。

 

 

 実質何もせずにターンを明け渡したように見える遊戯の姿にパンドラは狂ったように――いや、狂った笑いを響かせる。

 

「フハハハ、遊戯! いかがです? 私の完璧なるマジシャンデッキは!  召喚スピード、速攻性、マジックコンビネーション、すべてにおいて貴方を上回っている!!」

 

 パンドラの自信に満ちた言葉もあながち間違いではない。

 

 《ブラック・マジシャン》を中心にしたパンドラのデッキゆえに遊戯の様々なカードを詰め込んだ複雑怪奇なデッキに比べ、こと魔法使い族――マジシャンに関してはパンドラに分があった。

 

「私のターン! ドロー!! ――私は《ウジャト(がん)を持つ男》を召喚!!」

 

 フィールドにユラリと現れたのは両の手から火の玉を浮かばせる赤いローブの魔術師。

 

 その額には今のパンドラと同じくウジャトの眼が浮かんでいた。

 

《ウジャト(がん)を持つ男》

星4 闇属性 魔法使い族

攻1600 守1600

 

「そしてその召喚時に相手フィールドのセットされたカードを1枚確認します!! さぁ! 貴方の頼みのセットカードを見せて貰いましょうか!!」

 

 その《ウジャト(がん)を持つ男》の額のウジャトの眼から放たれて光が遊戯のセットカードを照らし出す。

 

「ほう、《聖なるバリア -ミラーフォース-》でしたか、危ない、危ない」

 

 その効果は相手が攻撃宣言した際に相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する罠カード。

 

 不用意にパンドラが攻撃していれば手痛い反撃となっていただろう。

 

「ですがバトルです! フヒャヒャヒャヒャッ! このカードで目障りなそのカードは封じさせて貰います!!  速攻魔法《封魔の矢》!!」

 

 パンドラの《ブラック・マジシャン》の背後から独りでに遊戯のセットカードに降り注ぐ矢の雨。

 

「このカードはバトルフェイズ開始時に発動できる速攻魔法! その効果によりこれ以降は、互いに魔法・罠カードの効果を発動できません!!」

 

 その矢により遊戯のセットカードは縫い付けられたかのようにスゥっと薄まり、力なく佇む。

 

「さらにこのカードの発動に対して魔法・罠・モンスターの効果は発動できない!! これで貴方の対抗手段は全て封じました!!」

 

 これで遊戯のフィールドは文字通り丸裸。遮るカードなど何一つ見られない。

 

「貴方の負けです!! さぁ、やれっ! 《ブラック・マジシャン》!!」

 

 パンドラの《ブラック・マジシャン》が杖に魔力を込め始める。

 

 だがそのチャージが終わる前に遊戯の声が響いた。

 

「そうはさせないぜ! そのダイレクトアタック時に墓地の《クリアクリボー》を除外して効果発動!!」

 

 遊戯を守るように現れた紫色の毛玉、《クリアクリボー》。

 

「俺はデッキからカードをドローし、そのカードがモンスターだったとき! そのまま特殊召喚し! そのカードとバトルさせる!!」

 

 その身体に縦に真っ二つに分かれるような線が入る。

 

「くっ……《封魔の矢》で防げるのは魔法・罠の効果のみ……ですが! そのドローでモンスターを引いて壁としたとしても! 次の攻撃を防ぐ手はないでしょう!!」

 

 パンドラの《封魔の矢》の隙を突く形でカードを発動させた遊戯だが、このドローでパンドラの《ブラック・マジシャン》を上回る攻撃力もしくは守備力を持つモンスターを引き当てなければならない。

 

 

 だが遊戯は何の恐れも感じさせずにデッキの上からカードを引き抜いた。

 

「俺が引いたのはモンスターカード!!」

 

 この状況でモンスターを引ききった遊戯。そのモンスターは――

 

 

「最上級魔術師、《ブラック・マジシャン》からその魔力を譲り受けたたった一人の弟子!!」

 

 

 今のパンドラを止めるに相応しいカード。

 

 

「――現れろ! 《ブラック・マジシャン・ガール》!!」

 

 水色とピンクを基調にした軽やかな法衣に身を包んだ愛らしい魔術師の少女が散っていった《ブラック・マジシャン》の意思を継ぎ、力強く声を上げる。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

 

「ブ、《ブラック・マジシャン・ガール》ゥ!? 何だ! そのカードは! マジシャン使いのこの私ですら知らないカード……だと!?」

 

 パンドラにとって未知のカード、さらにそれが自身の愛用している「マジシャン」カードともなればその動揺は計り知れないであろう。

 

 だが物珍しさはあれど、そのステータスゆえにパンドラの《ブラック・マジシャン》の脅威足り得ない。

 

「ですが! 攻撃力が2000にも関わらず攻撃表示とは……勝てないと悟ってやけになりましたか!」

 

 さらには《クリアクリボー》の効果で守備表示でも特殊召喚が可能であるというのに攻撃表示で特殊召喚した遊戯を嘲笑う。

 

「いいや! やけになってなんかいないぜ! 《ブラック・マジシャン・ガール》は墓地の《ブラック・マジシャン》の魂を受け継ぎ! その数だけ攻撃力を300ポイントアップさせるのさ!!」

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》の背後で半透明な姿で弟子を見守る遊戯の《ブラック・マジシャン》の姿があった。

 

 それゆえに遊戯とて何の考えもなしに攻撃表示にした訳ではないと返すが、パンドラはその説明を聞き終え、なおのこと遊戯を嘲笑う。

 

「だとしても! 貴方の墓地には《ブラック・マジシャン》が1体のみ! よって2300止まり!! それでは私の《ブラック・マジシャン》には及ばない!!」

 

 パンドラの《ブラック・マジシャン》は杖に魔力をチャージし終えたゆえにその魔力弾を放とうと杖を振り上げるが――

 

 それより先に遊戯の声が届く。

 

「お前には見えないのか! 墓地に行ってもなお! お前を案ずる自身の《ブラック・マジシャン》の姿が!!」

 

 その言葉にパンドラは《ブラック・マジシャン・ガール》の背後へと目を凝らす。

 

 そこには《ブラック・マジシャン・ガール》を見守る遊戯の《ブラック・マジシャン》の隣に静かにパンドラを見下ろすパンドラの《ブラック・マジシャン》の姿があった。

 

「ブ、《ブラック・マジシャン》……」

 

 瞳の濁りが薄れ、自身の《ブラック・マジシャン》を見つめ返すパンドラ。

 

 

 そして《ブラック・マジシャン・ガール》の杖に3人分の魔力が蓄積されている。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻2000 → 攻2300 → 攻2600

 

 やがて両者の手から放たれた魔力弾はぶつかり合うが、パンドラの《ブラック・マジシャン》の一撃は3人分の想いが込められた一撃にかき消される。

 

 そのままパンドラの《ブラック・マジシャン》は最後にパンドラを一瞥した後に消えていった。

 

「私の《ブラック・マジシャン》……」

 

パンドラLP:1400 → 1300

 

「墓地に《ブラック・マジシャン》が増えたことで《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力は更にアップ!」

 

 パンドラの《ブラック・マジシャン》の想いを更に受け継いだ《ブラック・マジシャン・ガール》の魔力がより高まっていく。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

攻2600 → 攻2900

 

「わ、私は一体……」

 

 呆然自失と言った具合に呟くパンドラの手札は既に最後の《ブラック・マジシャン》のみ。

 

 これ以上何も出来ることはない。それゆえ遊戯は自身のターンだとデッキに手をかける。

 

「俺のターン! ドロー!!」

 

 そしてこの悲劇しか生まぬ、闘いに終止符を打つべく宣言する。

 

「パンドラ!! 今こそお前をマリクの呪縛から解き放ってやるぜ!!」

 

 その遊戯の宣言にパンドラは何も返さない。その視線は手札の自身の《ブラック・マジシャン》に注がれていた。

 

「《ブラック・マジシャン・ガール》で《ウジャト(がん)を持つ男》を攻撃!!」

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》の杖の周りに魔力の力場が生まれていく。

 

黒・魔・導 爆・裂・破(ブラック・バーニング)!!」

 

 そしてその放たれた力場が、《ウジャト(がん)を持つ男》に接触すると共に爆発を起こし、その衝撃はパンドラを強く打ち据えた。

 

パンドラLP:1300 → 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンドラのライフが0になったと同時に回転式のカッターの刃がパンドラの身体を切り刻むべく迫りくる。

 

 しかしパンドラは動かない。

 

 パンドラが万が一の為に隠し持っていた予備の鍵も使う様子が見られなかった。

 

「あぁ……もうおしまいだ……これでカトリーヌは人形の姿のまま……カトリーヌのいない世界なんて私には耐えられない!!」

 

 マリクの洗脳であり得ない事実を信じ込まされたパンドラはもはや二度と愛する人とは会えない現実に自暴自棄になり、両手で頭をかかえ苦悩する

 

 

 そんなパンドラを両断する為に回転式のカッターが迫るが――

 

「危ない!!」

 

 人格交代した「表」の遊戯が自身の足の枷を素早く外し、人形を覆い隠していたカーテンを咄嗟にパンドラへと迫る回転式のカッターに挟み込ませた。

 

 僅かに動きを鈍らせる回転式のカッターを余所に遊戯は手持ちの鍵でパンドラ足の枷を外そうと試みるが鍵の形が違うゆえに開くことはない。

 

 

 回転式のカッターの動きを阻害するカーテンの拘束が少しずつ解けていく――それゆえに焦る遊戯の頭上からパンドラの言葉が落ちた。

 

「遊戯、放っておいてください……私はこの世に未練などありません。カトリーヌのいない世界なんて……」

 

 パンドラにもはや生きる気力は残されていなかった。愛する人のいない世界などパンドラにとって地獄に等しい。

 

 そんなパンドラに表の遊戯はいつもらしからぬ強い口調で言い放つ。

 

「人形が人間になる訳がない!! 貴方はマリクに騙されているだけなんだ!!」

 

「違う! マリク様は私を騙してなどいない!!」

 

 遊戯の言葉はマリクに洗脳されているパンドラには届かない。洗脳されたパンドラにとってマリクの言葉は絶対だ。

 

 

 それゆえにもう一人の遊戯も内心で遊戯に焦りの籠った言葉をかける。

 

――相棒ッ! 今のコイツに何を言っても無駄だ! まずは、どうにかしてコイツの枷を外さないと……あれだッ!!

 

 そして視界に入った鉄の棒らしきものを遊戯に示すもう一人の遊戯。

 

 

 そのもう一人の遊戯の考えを察した表の遊戯はその鉄の棒を枷と足の隙間に入れ、強引に枷を壊しにかかる。そして力を込めながらパンドラに言葉を投げかけ続ける。

 

「だったら! 確かめに行こう!! カトリーヌさんのことを!!」

 

「確か……める?」

 

 僅かに様子が変わったパンドラの姿に表の遊戯は希望を見出しつつ続ける――だがパンドラの足の枷は壊れそうにない。

 

「うん! KCは世界中に伝手があるから! 海馬くんならきっとカトリーヌさんがどこにいるか見つけられるよ!!」

 

「で、ですがカトリーヌは、そこに人形となって――」

 

 遊戯の言葉にパンドラは人形から目を逸らしつつ、指さす――受け入れられない現実から逃避するように。

 

「ボクを信じて!!」

 

 だがそのパンドラの視界に入ったのは真っすぐな表の遊戯の瞳。

 

 その瞳にはただパンドラを案ずる優しい色だけが映っていた。

 

 

 己を殺そうとした相手を案ずる表の遊戯の姿にパンドラの心は揺れ動く――そして自身の《ブラック・マジシャン》が最後にパンドラを案ずるかの様な表情が脳裏をよぎった

 

 

 遊戯にスッと手を差し出すパンドラ。その手にはパンドラの足の枷を外す鍵が置かれていた。

 

「これは……」

 

「私の枷を外す為の予備の鍵です」

 

 遊戯の疑問にパンドラは素直に答える――これはパンドラの命綱を遊戯に託す行為だ。

 

 

 今のパンドラの眼は遊戯を真摯に見つめている。ここで見捨てられてもパンドラに悔いはない。

 

 

 

 そのパンドラの想いをくみ取った遊戯はその鍵に手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

――ダメじゃないか、パンドラ。お前はデュエルに負けたんだ。ちゃんと罰は受けなくちゃ。

 

 パンドラの脳裏にそんなマリクの言葉が響くと共に、パンドラの手は横に振られ、その鍵はカーテンの拘束のない遊戯側の回転式のカッターにぶつかり弾かれた。

 

 呆然と自身の腕を眺めるパンドラ。遊戯の伸ばした手は空を切る。

 

「な、なんで……まさかマリク!!」

 

 不可解なパンドラの行動の真意を察知した遊戯。

 

 しかし、回転式のカッターが自由を取り戻す寸前であることに気付き、すぐさま弾かれた鍵を拾い、パンドラの足の枷を外そうとするが――

 

「くっ! ダメだ! 鍵が歪んで合わない!!」

 

 遊戯側の回転するカッターにぶつかった際に変形したパンドラの鍵では枷を開くことは出来ない。

 

 もう一人の遊戯の切迫した声が表の遊戯の中に響く。

 

――相棒! これ以上は!!

 

 回転するカッターがカーテンの拘束を完全に引きちぎり、パンドラの足元にいる遊戯ごと刻まんと迫る。

 

「でもボクはパンドラさんをこのままには出来ないよ!! この人も被害者なんだ!!」

 

――だが! このままじゃ! 相棒まで!!

 

 表の遊戯は最後までパンドラを救うことを諦めない。その表の遊戯の姿にもう一人の遊戯は声を張る。

 

 

 互いの主張は平行線だ。ゆえにもう一人の遊戯が後で表の遊戯に恨まれようとも無理やり人格交代を行おうとするが――

 

 

 

 それよりも表の遊戯の身体がパンドラの手で軽く押される方が早かった。

 

「――えっ?」

 

 表の遊戯は突然の事態に反応できず、ただ茫然と飛ばされる。

 

 そんな遊戯の最後の視界に映ったのは、優しく微笑んだパンドラと、「ありがとう」と短く呟く声。

 

 そしてカッターの刃がパンドラを両断しようとする姿。

 

「パンドラさぁああああん!!」

 

 表の遊戯の悲痛な叫びが一室に響き渡った。

 

 

 






今作ではカードを切り刻まなかった分だけ、パンドラと《ブラック・マジシャン》との関係が良くなりました。



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