マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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羽蛾VSリシド ダイジェスト版です



前回のあらすじ
シリアス「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! おれは パンドラに救いようのない悲劇を届けようと思ったら いつのまにか大団円になっていた」

シリアsル「な…何を言っているのか わからねーと思うが、おれも 何をされたのか わからなかった……恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ………」




第93話 カードパワー≠デュエリストの強さ

 

 羽蛾のインセクト軍団の一斉攻撃によりリシドのフィールドは土煙に覆われる。

 

 その土煙を振り払うのは背中にウジャトの眼を覗かせる巨大なサソリのモンスター。《聖獣セルケト》が、その牙がビッシリと並んだ口から苛立つような音を発する。

 

《聖獣セルケト》

星6 地属性 天使族

攻2500 守2000

 

「だが永続罠《ディメンション・ガーディアン》の対象になっている私の《聖獣セルケト》は戦闘・効果では破壊されない……」

 

リシドLP:2800 → 2700 → 2500 → 2200

 

 リシドのエースモンスターが破壊されずともダメージは通る為、リシドのライフは着実に減っていった。

 

 そのリシドの姿に羽蛾は有頂天になって笑う。

 

「ヒョヒョヒョー! だけどお前のライフは2200!! そして一方の俺のライフは3000!!」

 

 そして状況を確かめるようにリシドと羽蛾のアドバンテージの違いを得意気に語りだす羽蛾。

 

「しかも~お前のエースの効果は俺の発動した永続罠《スキルドレイン》で無効化!!」

 

 モンスターを倒せば倒す程にその力を際限なく高めていく《聖獣セルケト》の効果も封じられ、今や羽蛾のインセクト軍団のサンドバック状態だ。

 

「さらに、さらに! 俺の5体の最強インセクト軍団!! お前に勝ち目なんてないんだよ!!」

 

 羽蛾のフィールドに並び立つのは――

 

 どこか人に似たフォルムを持つ上半身を持ち、残りの半身は巨大な女王アリのようなモンスター、《インセクト女王(クイーン)》が赤い甲殻を開き、羽を広げ、

 

《インセクト女王(クイーン)

星7 地属性 昆虫族

攻2200 守2400

 

 白いカブトムシを連想させる鎧を纏った褐色肌の男が、手に持つ巨大な三又の槍を構え、

 

《ポセイドン・オオカブト》

星7 地属性 昆虫族

攻2500 守2300

 

 黒ずんだ甲殻に黄土色の腹の巨大なムカデが、その長い身体を竜のようにとぐろを巻いて、その牙をガチガチと鳴らし、

 

地獄大百足(ヘル・センチピード)

星7 闇属性 昆虫族

攻2600 守1300

 

 巨大な青い羽を広げて、宙に留まる黄色い甲殻の蝶が赤い複数の複眼でリシドを見下ろし、

 

怪粉壊獣(かいふんかいじゅう)ガダーラ》

星8 風属性 昆虫族

攻2700 守1600

 

 背中の黒い甲殻に薄い赤を持つ腹の巨大なムカデが空に向かって頭を上げ、口から奇怪な音を発してリシドを威嚇する。

 

《デビルドーザー》

星8 地属性 昆虫族

攻2800 守2600

 

「俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ!!」

 

 伏せたカードに羽蛾は内心でほくそ笑む。

 

――俺の伏せた罠カード《メテオ・レイン》があれば、奴がセルケトを守備表示にして守りを固めても貫通ダメージでお仕舞さ!

 

 このデュエルで自身すら、驚く程に実力が高まっているのを感じていた羽蛾。あのオカルト課での拷問染みた訓練は羽蛾を大きく成長させていた。

 

――仮に俺のモンスターが全て効果破壊されても永続魔法《大樹海》で新たな高レベルの昆虫をサーチ! 更に永続罠《強化蘇生》で墓地の《代打バッター》を蘇生して破壊させれば手札の高レベルの昆虫モンスターで立て直しは十分に可能だ!

 

 今の羽蛾には万が一の事態すらないと己の力を誇る。

 

――完璧な布陣だ! 俺の勝利は揺るがないね!!

 

 自身はもっと評価されるべきなのだと。

 

 

 そんな羽蛾の胸中も余所にリシドは負ける訳にはいかないとデッキに手をかける。

 

「……私のターン……ドロー!!」

 

 リシドとて「インセクター羽蛾」の名だけは知っていた。

 

 しかし今までの名も知らぬハンターたちが強敵揃いだった為、事前情報のあった羽蛾をリシドはどこか甘く見ていた。

 

 海馬がいない大会でしか優勝出来ない程度の実力の相手に後れを取ることはない、と。

 

 その認識は改めなければならない。

 

「見事だ、羽蛾……正直、デュエルを始める前はお前が此処まで私を追い詰めるとは思ってもいなかった」

 

 それゆえにリシドは奥の手の使用を決断する。

 

「おいおい、突然どうしたよ。ひょっとして命乞いのつもりか~い?」

 

 相手を嘲笑うような羽蛾の挑発にも、リシドはもう「その手」に騙されはしないと真摯に羽蛾を見つめる。

 

 羽蛾のどこか三下感溢れる姿、それは相手を油断させる罠なのだと――いや、それは素です。

 

「いや、純粋な賛辞だ」

 

 勝利の為ならばあえて己に下賎な仕草すら課す羽蛾の姿にリシドは敬意を示す――実際は違うが、リシドの中では「そういうこと」になっている。

 

「私はカードを1枚セット。そして発動済みの永続魔法《王家の神殿》の効果を使わせて貰おう」

 

 リシドの背後の黄金で彩られた僅かな光で照らされる神殿の中央のジャッカルの銅像が脈動する。

 

「このカードの効果により、1ターンに1度、私は罠カードをセットしたターンに発動できる」

 

 そのジャッカルの銅像の瞳が赤く光り、リシドのセットカードの1枚を引き起こす。

 

「私が先程セットした永続罠《DNA改造手術》を発動! その効果でフィールドの全てのモンスターは私が宣言した『種族』になる――私は『魔法使い族』を宣言!」

 

 フィールドの全てのモンスターに魔法使いらしき帽子が被せられる。「これで君も今日から魔法使い族だ」と言わんばかりに――互いのフィールドのモンスターの姿を見るに大分無理があるが……

 

「今こそお前に見せてやろう! 《王家の神殿》の更なる力を!!」

 

 そのリシドの宣言に《王家の神殿》が地震にあったが如く、揺れ動く。

 

「私は永続魔法《王家の神殿》の第二の効果を発動!! このカードと私のフィールドの《聖獣セルケト》1体を墓地に送ることで、手札・デッキのモンスターまたはエクストラデッキの融合モンスター1体を特殊召喚する!!」

 

 《王家の神殿》が崩れていくと共に《聖獣セルケト》もその身を光の粒子へと変えていく。

 

「私はエクストラデッキから融合モンスターを特殊召喚!!」

 

 その《王家の神殿》の残骸と《聖獣セルケト》の力が集まっていき――

 

「起動せよ!! 神の聖域の守護者!! 《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》!!」

 

 現れるのは赤い巨大な古代兵器。

 

 その脚部についた巨大な2つのジェットエンジンで宙に浮かび、塔のようにそびえ立つ身体から腕の様に伸びる2本のキャノン砲と2つのパラボナアンテナのような形状のビーム兵器が伸びる。

 

極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》

星12 地属性 機械族 → 魔法使い族

攻4000 守4000

 

 その巨大な古代兵器には魔法使いによって込められた力が宿っている。

 

「こ、攻撃力4000のモンスターだとぉ!? だ、だがその効果は俺の《スキルドレイン》で無効になってる! 俺の昆虫軍団が1体破壊されようが――」

 

 圧倒的な巨大モンスターに羽蛾は声を震わせつつも強気に返すが――

 

「お前に次のターンの心配など無用だ! 私はライフを1000払い、魔法カード《拡散する波動》を使わせて貰う!!」

 

リシドLP:2200 → 1200

 

 リシドは羽蛾に今の己が出せる最大の力をぶつけるべく、《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》に自身のライフを削ってでも更なる力を与える。

 

「その効果で私のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体は相手モンスターに1度ずつ攻撃しなければならない」

 

「この為に《DNA改造手術》を!?」

 

 文字通り、羽蛾のモンスター全てをなぎ倒すまで終わらぬ全体攻撃。

 

 そしてフィールドの羽蛾のインセクト軍団は全て攻撃表示の為、そのダメージは計り知れない。

 

「その通りだ。ではバトルと行こう」

 

 リシドは羽蛾とのデュエルで心の隙を諫められたことに感謝しつつ止めをさす。

 

「ゆけっ! 《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》! 羽蛾のインセクト軍団を薙ぎ払え!!」

 

 《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》の全砲門が開き、インセクト軍団を破壊しつくすべく、殲滅が開始される。

 

「ぎょぉぇええええ!!」

 

 雨霰と降り注ぐレーザーやミサイルの前に羽蛾は成す術はないゆえに絶叫を上げた。

 

 

 

 

 

 

「なーんてなぁ!! ダメージステップ開始時に罠カード《奇策》を発動!!」

 

 かに思われたが、羽蛾はおどけながらカードを発動させる。

 

「手札のモンスター1体を捨て、フィールドのモンスター1体の攻撃力を捨てたモンスターの攻撃力分だけダウンさせる!!」

 

 《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》の頭上に影が映る。

 

「俺は手札の《グレート・モス》を捨て、その攻撃力2600分! 《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》の攻撃力を下げるぜ!!」

 

 その影の正体は巨大な芋虫に羽と6本の足が生えた姿の蛾のモンスター、《グレート・モス》。

 

「これで《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》の攻撃力は4000から1400にまでダウン!! 返り討ちだ!!」

 

その《グレート・モス》の巨体による体当たりが《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》を襲う――

 

 

 

 

 

 

 

 

「カウンター罠《ギャクタン》を発動」

 

「ヒョ?」

 

「罠カードの発動を無効にし、そのカードをデッキに戻す。言った筈だ――『その手には騙されない』と」

 

 なんてことはなく、《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》の頭頂部から発せられた電波により感覚を狂わされた《グレート・モス》。

 

 その《グレート・モス》の巨体は《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》の横を通り過ぎ、そのまま地面にぶつかって力なく倒れる。

 

 

 当然《極戦機王(きょくせんきおう)ヴァルバロイド》の一斉掃射を遮るものはない為、その攻撃はインセクト軍団諸共、羽蛾を焼き払った。

 

 

「ヒョォェエエエエエエ!!!!」

 

羽蛾LP:3000 → → → → → 0

 

 

 

 

 

 

 

 全てが焼き払われ、黒焦げになったインセクト軍団の倒れ伏すフィールドで羽蛾は呆然と呟く。

 

「そ、そんなバカな……」

 

「約束通り、パズルカードは全て頂こう」

 

 茫然自失な羽蛾からパズルカードを回収したリシドは更に羽蛾の首根っこを掴み、言い放つ。

 

「そして、お前にも一緒に来てもらおうか」

 

 そうして羽蛾を持ち上げるリシド。

 

――末端の人間といえども何らかの情報は持っている筈。

 

 そう内心で考えつつ、リシドは頭を回す。自分たちにあまり時間が残されていないゆえに、早急にマリクと共に対策を講じなければならなかった。

 

「い、嫌だ! 離せ!」

 

 しかし羽蛾は当然暴れだす。

 

 このままでは周囲の他のグールズの一員の様にマリクに「洗脳」され、生きた屍も同然になるのだ。なまじある程度の事情を知るゆえに羽蛾は必死で抵抗する。

 

 だがオカルト課でそれなりに揉まれた羽蛾の身体能力はリシドの拘束から逃れることは出来ても、地面に尻餅をついた後が続かない。

 

 そんな羽蛾を見下ろし、脅すような口調でリシドは羽蛾を見つめる。

 

「往生際の悪いことだ。あまり暴れるようなら此方も相応の手段に訴えるが?」

 

「ヒョ、ヒョエェ!!」

 

 そのリシドの威圧に羽蛾は手足をバタバタさせながら、その場から逃れようと足掻くも、パニックに陥った羽蛾の動きは精細さがない――と言うよりも、結果的にその場から動けていない。

 

 

 羽蛾は端的に言ってピンチだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってもらおうか!!」

 

 だがそんな羽蛾の窮地を救ってくれそうな声が頭上から響く。

 

 

 やがてズシンと着地した男がリシドの前に立ち塞がった。

 

 その人物は「闇」と書かれた丸い縁のない帽子を被った大柄な男。

 

 その左右の目元に黒い縦の一線が入ったメイクに如何にもな強面と大柄な体格がマッチした結果、中々に極悪そうな雰囲気である。

 

 その見上げる程の巨体は体格の良いリシドよりも大きい。

 

 

 増援の声が聞こえたときは「助けが来た!」と安心した羽蛾だったが、来た人物の人相を見て「味方とは思えない」と頬を引きつらせる羽蛾。

 

 

 しかし色々と個性的なハンターたちに追われ続けたリシドは警戒したように言葉を零す。

 

「……新手か」

 

「如何にも、我が名は『闇のプレイヤーキラー』!!」

 

 そのリシドの呟きに、大仰にその拳同士を打ち合わせ、丸太のような腕を見せつける闇のプレイヤーキラー。

 

「グールズ共よ! カードを汚す貴様らに安らかな眠りなどはない!!」

 

 そう声を張る闇のプレイヤーキラーの瞳には確かな怒りが見て取れた。

 

「ヒョッ! ヒョ~! た、助かったぁ~!!」

 

 闇のプレイヤーキラーの物言いから味方だと判断し、慌ててリシドたちから距離を取って闇のプレイヤーキラーの背後に隠れる羽蛾――その心は怯えが抜けていない。

 

 

 そんな羽蛾を歯牙にもかけずにリシドは闇のプレイヤーキラーと視線を合わせ、その実力を肌で感じ取り決断する。

 

「今度は裏の人間のようだな……しかし――悪いが今の私にお前とデュエルしている暇はない」

 

「フッ、逃がすと思うのか?」

 

 撤退の決断をしたリシドに「逃げられると思っているのなら舐められたものだ」と言わんばかりにニヤリと笑う闇のプレイヤーキラー。

 

 

 だがリシドは何としてでも今の手持ちのパズルカードをマリクの元へ届けなければならない。ゆえにゆっくりと闇のプレイヤーキラーのいる方向へ指を差しながら返す。

 

「私を追いたくば好きにするがいい。だがその時は――」

 

 そのリシドが指し示すのは闇のプレイヤーキラーではなく、その後ろに隠れる羽蛾の姿。

 

「――インセクター羽蛾。ヤツがどうなるかな?」

 

 そのリシドの言葉に傍に控えていたグールズの構成員がリシドと羽蛾を分断するように広がる動きを見せる。

 

 その姿に小さく「ヒョェ」と息を吐く羽蛾。

 

 そんな羽蛾を後方へ逃がしつつ、闇のプレイヤーキラーはデュエルディスクを構えながら言い放つ。

 

「くっ! 貴様はデュエリストとしての最低限の誇りすらないのか!!」

 

「…………何とでも言うがいい」

 

 闇のプレイヤーキラーの言葉にリシドは僅かに瞳を揺らすも、マリクの為に内心を押し殺して指示を出す。

 

「お前たち、『闇のプレイヤーキラーの相手をしろ。応じぬ場合はインセクター羽蛾を潰せ』」

 

 マリクからリシドに従う様に命令を受けているグールズの構成員たちはその一人がデュエルディスクを展開し、残りはリシドを追えぬように羽蛾へと視線を向ける。

 

 そしてリシドは足早にこの場から去っていく。 

 

 グールズの構成員を無視してリシドを追えば、羽蛾がどうなるかなど考えるまでもなく明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《闇魔界の覇王》でダイレクトアタック!! 魔・導・波!!」

 

 棘の付いた枷のような輪を首と腰に巻いた闇色の甲殻を持った紫の体表の悪魔、《闇魔界の覇王》が、どこかエイリアンを思わせる口以外存在しない顔でグールズを見据え、

 

 その両腕を合わせて掌を突き出し、そこから放たれた闇のエネルギーがグールズを呑み込んでいった。

 

グールズ構成員LP:1090 → 0

 

 

 そして最後のグールズの構成員が倒れ伏したことを確認した闇のプレイヤーキラーは周囲に目を配りつつ確認するように呟く。

 

「これで最後のようだな…………」

 

 そうして警戒を続けつつ背後の羽蛾へと向き直る闇のプレイヤーキラー。その闇のプレイヤーキラーの巨体ゆえの威圧感に羽蛾の背筋は伸びた。

 

「インセクター羽蛾と言ったな? 怪我はないか?」

 

 だが闇のプレイヤーキラーの言葉は羽蛾を心配してのもの。やがて闇のプレイヤーキラーは眼を伏せつつ言葉を続ける。

 

「……我々が不甲斐ないばかりに災難な目に遭わせてしまったようだな」

 

「い、いえ、大丈夫です! あ、ありがとうございます!」

 

 羽蛾は外見からのイメージと随分と違う闇のプレイヤーキラーの姿にただ畏まる。

 

「礼には及ばん。本来、我々『裏の人間』が仕事以外で『表の人間』を巻き込んではならない『不文律』がある」

 

 その言葉通り――

 

 闇のプレイヤーキラーからすれば「参加者に扮し、表でグールズ以外の不正を見つける業務」の羽蛾が、「裏のグールズ狩り」に「巻き込まれた」と認識している。

 

 その為、闇のプレイヤーキラーからすれば当然の行為だった――態々礼を言われることでもない程に。

 

「俺はそれに従ったまでだ」

 

 そう締めくくった闇のプレイヤーキラー。そして此方に近づく人影を視界に捉え、踵を返す。

 

「ムッ、増援と回収班が来たようだな。俺はこれで失礼させて貰おう」

 

 向かう先はリシドが立ち去った方角――そのまま追えるとは思えないが、追跡を試みるようだ。

 

「後はKCに戻ることを勧める。見たところパズルカードを失っているようだしな――次は『此方側』に巻き込まれないように気を付けることだ」

 

 そう言い残して立ち去る闇のプレイヤーキラーを見送る羽蛾。

 

 

 

 そんな羽蛾の胸中にあるのは感謝……もなくはないが、それより根強くあるのは「敗北感」だ。

 

 しかしそれは羽蛾がリシドに負けたことによるものではない。

 

「……何で……だよ……俺のデッキの方が強かった筈だろ……!!」

 

 羽蛾の脳裏に過るのは闇のプレイヤーキラーのデュエルだった。

 

 闇のプレイヤーキラーのデュエルで使われたカードはどれも半端なステータスで決して「強い」とは言い辛いカードばかりだった。

 

 純粋なモンスターのカードパワーは明らかに羽蛾に比べ、闇のプレイヤーキラーは劣っていた。これは覆せない事実である。

 

 

 だが羽蛾を下したリシドはそんな闇のプレイヤーキラーから「勝負を避ける」選択を取った。

 

 さらにリシドの命令は「この場にいたグールズ構成員の全員が闇のプレイヤーキラーを狙う」もの。

 

 つまりリシドは羽蛾が闇のプレイヤーキラーを囮に単身で追いかけて来たとしても問題ないと判断しているに等しい。

 

 それはリシドにとって羽蛾が闇のプレイヤーキラーよりも劣っているとの証明に他ならない。

 

「クソッ!! 俺は強くなったのに!! 何で誰も俺を認めない!!」

 

 羽蛾の怒りのままの声が辺りに響く。

 

 だが羽蛾は本当の意味で理解していない。

 

 強いカードを使えば簡単に勝てる程、「この世界」のデュエルはシンプルに出来てはいないことに。

 

 

 

 後に回収班のアヌビスに引っ掴まり、KCに強制送還される羽蛾にはいつもの小生意気な程の自信タップリな態度は鳴りを潜めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある童実野町の一角で海馬はコートをはためかせながら不敵に笑う。

 

「ふぅん、まさかこんなところで貴様に出会うとはな……」

 

 その海馬の見つめる先にいるのは一人のデュエリスト。それは――

 

「ペガサスに『パーフェクトデュエリスト』とまで称された男、『天馬 月行』――貴様の実力を見せて貰うとしよう……」

 

 ペガサスミニオンの一人、月行。

 

 そのデュエルの腕前はペガサスが「もはや自分には教えることがない」と手放しで賞賛する程、まさに「パーフェクト」と呼ぶに相応しい実力を備えている。

 

 しかし海馬の視線の先の月行は困り顔だった。

 

「『海馬 瀬人』…………申し訳ないですが、その申し出はお断りさせて頂きます」

 

 月行はそう言って軽く頭を下げ、踵を返すが、その月行の背中に海馬は嘲笑混じりの言葉を送る。

 

「何を言うかと思えば……デュエリストたる貴様がおめおめと尻尾を巻いて、逃げる気か?」

 

「何とでも言ってくださって構いません、今の私には優先すべき問題がありますので」

 

 そう、月行はペガサスの為に「グールズへの対処」に動いている。

 

 そしてペガサスミニオンの方針として本戦を目指す為にパズルカードを「グールズ」たちから集めなければならないのだ。

 

「――俺が『神のカード』を持っている、と言ってもか?」

 

「今、何と」

 

 だが海馬の言葉に月行の眼は鋭さを増し、膨れ上がった闘志が海馬を突き刺す。

 

「ほう、そんな顔も出来るではないか……だが貴様の質問に答えてやる義理はない」

 

 先程の温和な顔つきから一変した月行の姿に海馬は満足気に頬を吊り上げる。格別な獲物(強者)の実力を肌で感じ取れたのだから。

 

「確かめたくば――デュエルで聞き出してみるがいい!!」

 

 海馬のその言葉と共に、腕のデュエルディスクが展開される。

 

「ならばこの勝負受けさせて貰います! 私の手持ちのパズルカードは3枚!!」

 

 月行は海馬の持つ「神のカード」がグールズに奪われたものなのか、イシズから託されたものなのかを確かめねばならない。

 

 それゆえにデュエルに応じ、パズルカードを提示する。

 

「俺は4枚だ!! どうせだ! 貴様は2枚賭けるがいい、俺は3枚賭けてやろう!!」

 

 海馬の提案は明らかに自身が不利な条件だ――月行へ無理を言った為の海馬なりの誠意にも思える。

 

「つまり、このデュエルで勝った方が本戦に行くと……」

 

 海馬自身に不利を課す提案の裏を探ろうとする月行――だが存外「パズルカードが7枚あっても邪魔なだけ」といった俺様染みたものにも思えるが。

 

「その通りだ!! さぁデュエルディスクを構えるがいい!!」

 

「良いでしょう!! 貴方の『神のカード』、見せて貰いましょうか!!」

 

 海馬の提案の真意は読めなかった月行だが、ならばデュエルで聞き出せばいいとばかりにデュエルディスクを展開。

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 こうして「神のカード」を巡る戦いの火蓋がやっと切られた。

 

 





オベリスクの巨神兵「キタコレ!!」


~今作での闇のプレイヤーキラーの状態~
今作では決闘者の王国(デュエリストキングダム)で出番を失ったことで遊戯の罰ゲームから受ける運命から逃れることが出来た

その結果、現在も裏デュエル界でバリバリ頑張っている。


さらに――
コミック版で決闘者の王国(デュエリストキングダム)編にて
孔雀舞へ夜間にデュエルを申し出て打ち倒した際も、不埒な事はせず、紳士的に接した姿や

デュエリストも卑怯な振る舞いをせず、ペガサスからの依頼に対し職務を全うしようとした姿や

闇遊戯が《竜騎士ガイア》を《カタパルト・タートル》で射出する戦術に対して

「な……なに……! 自らのモンスターを犠牲にする気か!」とのモンスターを大切に思う心などから
(闇遊戯の戦術を否定している訳ではなく、闇のプレイヤーキラー側のポリシーの問題です)

「裏デュエル界の中では」かなり良い人ではないかと推察。

ゆえに今作では本編の様に「裏デュエル界の良心」的な存在のポジションを得た。


ちなみに――
闇遊戯の首にワイヤーの件は闇遊戯側が言い出したことなので、裏の人間としては保証書替わりに必要な処置ということで、ここは一つ(震え声)

アニメ版の火炎放射機?

闇のプレイヤーキラーは犠牲になったのさ
コミック版の闇遊戯のハッスル(トンでもないレベルの口の悪さや俺ルールなどの)行為……
その犠牲にな……(つまり遊戯側の為に闇のプレイヤーキラーが割を食った)


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