マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
オベリスクの巨神兵「喰らうがいい!! ゴッド・ハンド・クラッシャァアアア!!」

エンジェル O7(オーセブン)「《機械天使の儀式》ガード!!」

機械天使の儀式「自分はところてんの方で――グハァアアアァアアア!!」




第95話 それぞれの答え

 

 

 神を失いガラ空きになった海馬を指差し《ヴァイロン・チャージャー》に命を出す月行。

 

「これで貴方のフィールドはガラ空きです! 《ヴァイロン・チャージャー》でダイレクトアタック!!」

 

 《ヴァイロン・チャージャー》の杖と《ヴァイロン・オーム》の腕から海馬に向けて光弾が放たれた。

 

「させんわ! 罠カード《カウンター・ゲート》! 相手のダイレクトアタックを1度だけ無効にし、カードをドロー! そのカードがモンスターならそのまま召喚する!」

 

 がその光弾は突如現れた扉に阻まれる。そしてその扉が開くが――

 

「ドロー! くっ……モンスターではなかったか……」

 

 その先には誰もいない。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 神のカードを攻略した月行だが、特に感情も見せずにターンを終えた――この程度は当然だと言わんばかりだ。

 

 しかし一方の海馬の受けた衝撃は大きい。絶対的な力を持つ『オベリスクの巨神兵』を打ち破られたのだから。

 

「クククク……」

 

 しかし、海馬は笑う。

 

「フフフ……ハハハ……ワーハッハッハッハー!!!!」

 

 狂ったように笑う海馬――だがKCではよく見かける光景。つまり通常運転である。

 

「そうだ! これこそが俺の求めていたものだ!!」

 

 海馬の瞳はもはや正気とは思えぬ程に鋭さを増していくが、そこには理性の輝きがしっかりと残っていた。

 

「――俺は貴様を倒し、更なる高みへと昇る!!」

 

 その高みの先に遊戯がいるのだと言外に示す様な言葉と共に拳を握った海馬は流れるようにデッキに手をかけ、カードを引き抜く。

 

「俺のターン! ドロー!!」

 

 神を失ったことなど感じさせぬような力強さでデュエルを続行する海馬。

 

「まず速攻魔法《サイクロン》を発動! その効果により装備魔法《月鏡の盾》を破壊する!!」

 

 渦巻く青い竜巻に《エンジェル O7(オーセブン)》の身体の中央に光る《月鏡の盾》が呑み込まれていく。

 

 しかし月は沈むことはあれど、消えはしない。

 

「ですが! フィールドで装備魔法《月鏡の盾》が墓地に送られたとき、500ライフを払いデッキの一番上か下に戻す効果が発動します! 《月鏡の盾》をデッキの一番下に!」

 

 月行のライフを糧に、月の魔力を秘めた鏡は再びフィールドという名の天に昇るべく沈んで行く。

 

月行LP:4500 → 4000

 

「貴様に先のターンを与える気などないわ! 墓地の魔法カード《シャッフル・リボーン》を除外し効果発動! フィールドのカード1枚――永続魔法《前線基地》をデッキに戻し、新たに1枚ドロー!」

 

 ユニオンたちの憩いの場が消えていく。

 

「そして俺は2枚目の魔法カード《闇の量産工場》を発動! 墓地の通常モンスター、《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を2体手札に戻す!!」

 

 海馬の気迫に引き寄せられるように手札に飛翔する2枚の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》。

 

「更に3枚目の《闇の量産工場》を発動! 墓地の通常モンスター、《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》と《X-ヘッド・キャノン》を手札に戻す!」

 

 そして3枚目の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》も《X-ヘッド・キャノン》と共に海馬の手札へと舞い戻った。

 

「最後に2枚目の速攻魔法《魔力の泉》を発動! 貴様のフィールドの表側の魔法・罠は装備カードが2枚とフィールド魔法の計3枚! そして俺は《魔力の泉》のみ! よって3枚ドローして、手札を1枚捨てる!」

 

 しかし《X-ヘッド・キャノン》だけ、《魔力の泉》にボチャンと落ちる――手札を最適なものにすべく必要な犠牲である。

 

 

 その甲斐あって海馬の手札には《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》が3体と、必要なピースが揃った。

 

「魔法カード《融合》を発動! ブルーアイズよ! 今こそ一つとなれ!!」

 

 その海馬の宣言と共に手札の3枚の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》が一つとなって究極の力を呼び覚まし、その波動が空気を震わせる。

 

「融合召喚!! ブルーアイズ・アルティメットドラゴン!!」

 

 美しき3つ首の白き竜が大翼を広げ、その咆哮が天を裂く。

 

 その圧倒的な力――攻撃力は『オベリスクの巨神兵』をも上回る4500ポイント。絶対的な数値だ。

 

青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)

星12 光属性 ドラゴン族

攻4500 守3800

 

「バトルだッ! アルティメットよ! 《ヴァイロン・チャージャー》を消し飛ばせ! アルティメット・バァァアアアストォ!!」

 

 海馬の昂りに呼応するかのように《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の3つの首から滅びのブレスが輝き、やがて放たれる。

 

 

 その強力な白きブレスに《ヴァイロン・チャージャー》は消し飛ばされていき、その余波が月行を襲うが――

 

「その攻撃をそのまま受ける訳にはいきませんね! リバーストラップ発動! 罠カード《パワー・ウォール》!!」」

 

 3つ首から放たれた滅びのブレスの前に幾枚ものカードが盾として立ち塞がり、月行を守る。

 

「相手の攻撃によって私がダメージを受けるダメージ計算時に、そのダメージが0になるように500ダメージにつきデッキから1枚のカードを墓地に送ります!」

 

 《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の攻撃力4500に対し、《ヴァイロン・チャージャー》の攻撃力は2200。その為――

 

「この戦闘で発生するダメージは2300! よってデッキから5枚のカードを墓地に!!」

 

 やがて滅びのブレスに対峙していた5枚のカードが月行の墓地へと落ちていく。

 

「さらに《ヴァイロン・チャージャー》と共に墓地に送られた装備魔法《ヴァイロン・マテリアル》と《ヴァイロン・コンポーネント》の効果により、デッキから『ヴァイロン』魔法カードを手札に加えます!」

 

 しかしヴァイロンの力が途切れることはない――その想いの籠った武具は新たな力を引き寄せ、後の仲間のヴァイロンたちに託される。

 

 やがて月行の手札に光が灯るが、それを余所に内心で眉をひそめる。

 

――攻撃の際に相手の魔法・罠の発動を封じる《ヴァイロン・フィラメント》をサーチしたいところですが、先の《パワー・ウォール》の効果で墓地に送られてしまいましたか……ならば!

 

「それぞれの効果で装備魔法《ヴァイロン・マテリアル》と同じく装備魔法《ヴァイロン・セグメント》をサーチ!!」

 

 その月行の宣言と共に天から飛来したヴァイロンの盾とリングがその手に収まり、次の主を待つ。

 

「だが貴様の《ヴァイロン・チャージャー》が破壊されたことで、効果による全体強化も消える!!」

 

 その海馬の言葉と共に月行の《エンジェル O7(オーセブン)》から光が煙のように抜けていく。

 

《エンジェル O7(オーセブン)

攻3100 → 攻2500

 

 しかし、まだ海馬の攻めの手は途切れない。

 

「さらに速攻魔法《融合解除》を発動し、アルティメットの融合を解除!!」

 

 《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の3つの首が三方向に飛び出す様に向き――

 

「その身を元の姿へと戻すがいい! 3体のブルーアイズよ!!」

 

 3体の白き竜の姿に別れ――否、戻り、逃げ道を塞ぐように2体が左右に陣取り、月行の正面の1体が大口を開ける。

 

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》×3

星8 光属性 ドラゴン族

攻3000 守2500

 

「3体のブルーアイズで貴様の相棒ごと奴に止めをさせ! ブルーアイズ!! 滅びのバースト・ストリーム! 三・連・打ァ!!」

 

 3体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》から放たれた滅びのブレスに――

 

 《エンジェル O7(オーセブン)》が頭上の天使の輪からビームを打ち込むも僅かに勢いを削ぐに終わり、やがてぶつかり合いの拮抗が崩れ、その身を散らし――

 

月行LP:4000 → 3500

 

「これで終わりだァ!!」

 

 残った2体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の滅びのブレスが月行を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かに思われた。

 

 突如展開された光の障壁が滅びのブレスを弾き、月行の背後で滅びのブレスが着弾したことで爆炎が上がる。

 

「なにっ!?」

 

 驚く海馬の視線の先にいる光の障壁で月行を守ったのは、矢じりのような身体を持つ白い装甲を固めた大天使。

 

 その足元は白きローブで覆われ、装甲に埋められた黄金の球体から障壁の元となる光を放っている。

 

《テュアラティン》

星8 光属性 天使族

攻2800 守2500

 

「私は《テュアラティン》の効果を発動させて貰いました」

 

 突如として現れた最上級モンスターに警戒を見せる海馬に月行は動じぬ精神で返す。

 

「このカードは相手のバトルフェイズ開始時に私のフィールドにモンスターが2体以上存在し、そのモンスターが1度のバトルフェイズに戦闘で全て破壊されたとき、手札から呼び出すことができます」

 

 同胞の死をトリガーに舞い降りる大天使。

 

 その《テュアラティン》から放たれる暖かな聖なる光は互いのフィールド全域を照らしている。

 

「だがソイツの攻撃力は2800! ブルーアイズの敵ではないわ!!」

 

 そう言いながら《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に攻撃続行を命じる海馬だが、月行は言葉を挟む。

 

「それだけではありません――この効果で特殊召喚された《テュアラティン》は属性を一つ宣言することが出来ます」

 

「属性だと?」

 

 この《テュアラティン》も《エンジェル O7(オーセブン)》と同じく、神殺しの大天使が一柱。

 

「そしてフィールドに存在する宣言した属性のモンスターを全て破壊し、このカードが存在する限り、相手はその属性のモンスターを召喚、特殊召喚することは出来ません」

 

「成程な、その効果で『神属性』を宣言すれば、神のカードと言えども呼びだすことは叶わん訳か……だが今の貴様にその選択は出来まい」

 

 月行の説明に理解を示した海馬の言う通り《テュアラティン》の効果で特殊召喚され、「神属性」が宣言された場合は如何に神のカードと言えども呼び出すことは叶わない。

 

 裏側守備表示でのセットは可能だが、裏側守備表示ではカードの効果はまず適用されない――ゆえにそれは神の力を捨てるに等しい。

 

 

 しかし、今現在《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の脅威に晒されている月行が神属性を選択しても、さしたる意味はない。

 

「そうですね――私は『光属性』を選ばせて貰います」

 

 その月行の言葉に《テュアラティン》はフィールドの己を含めた「光属性」を滅殺せんと破壊的なまでの裁きの光を放つ。

 

 

 光の奔流にかき消される「光属性」の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》。

 

 その白き竜の身体は白き光に塗りつぶされていく。

 

「させん! 俺は墓地の魔法カード《復活の福音》を除外することでドラゴン族モンスターを破壊から守る!! ブルーアイズはやらせん!!」

 

 しかし3体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の前に白き竜の石像が立ちはだかり盾となった。

 

 やがて《テュアラティン》から放たれる光が収まっていく。

 

 

 だが《テュアラティン》の一撃を防ぎ切り海馬のフィールドでそれぞれ雄々しく翼を広げる3体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》。

 

 白き竜は倒れてはいない。

 

「そして《テュアラティン》も光属性! よって貴様のフィールドに俺のブルーアイズの攻撃を遮るモンスターはいない!!」

 

 海馬の言う通り《テュアラティン》の「光属性」を消し去る力は当然「光属性」のモンスターである《テュアラティン》をも滅ぼす力。

 

 

 ゆえに「光属性」を主体としたデッキを使う月行のモンスターもただでは済まない。

 

 しかし月行はフッと小さく笑う。

 

「忘れてはいませんか、海馬 瀬人……私にも《復活の福音》と同じ効果を持つカードがあることを!」

 

 月行は海馬にある種のシンパシーを感じていた――海馬も《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を主軸に添えた「光属性」のデッキの使い手。

 

 くしくも月行のカードたちと同じ属性である。

 

 

 やがて光が収まった先の月行のフィールドに炎が舞い上がる。

 

「――私も貴方と同じように儀式魔法《機械天使の儀式》を除外させて貰いました」

 

 《テュアラティン》健在。

 

 大天使に宿る聖なるオーラにて炎を吹き飛ばし、その身を晒すも身体には傷一つない。

 

「2枚目の儀式魔法《機械天使の儀式》だと!!」

 

 同じタイミングで似通った効果でエース格のモンスターを守った両者――月行がシンパシーを感じるのも頷ける状況だった。

 

「罠カード《パワー・ウォール》の効果で墓地に送られていたか……」

 

 発動タイミングから《機械天使の儀式》が墓地に送られた瞬間を把握する海馬。

 

 

 そしてフェイバリットカードである《エンジェル O7(オーセブン)》すらも囮にして《テュアラティン》の効果で海馬の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に最も効果的な一撃を入れるタイミングを見計らっていたのだ。

 

 神の姿に惑わされることなく。

 

 

 どんな状況でも冷静に対処し、私情に流されない月行の強さ――《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を誇示する傾向にある海馬にはない強さだった。

 

「だが攻撃力の差は埋まらん!! ブルーアイズよ! 《テュアラティン》を破壊しろ!」

 

 しかしこの場においては《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》をこよなく愛する私情むき出しの海馬の強さが白き竜を守り切った。

 

「滅びのバースト・ストリィイイイイム!!」

 

 ゆえに一気に畳みかける海馬――如何に《テュアラティン》の効果が厄介とはいえ、戦闘で破壊してしまえば意味はない。

 

 そしてこと戦闘に、攻撃力にかけて《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の右に出るものは早々いない。

 

 滅びのブレスの奔流が《テュアラティン》を襲う。

 

 

 その滅びのブレスの奔流に呑まれる《テュアラティン》を満足気に見届ける海馬。

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその視界に()()()()が舞った。

 

 

 

 

 その羽は《テュアラティン》の背から()()()()()()()()()の先から虹色の輝きと共に舞う。

 

《テュアラティン》

攻2800 → 攻5800

 

 その虹色の輝きは《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の滅びのブレスをせき止め、光の威光が白き竜を塗り潰していく。

 

 

 やがて白き竜は光の中に呑まれ、その余波が海馬に降り注ぐ。

 

「なっ! ぐぁああああああ!!」

 

海馬LP:3800 → 1000

 

「ぐぅううううッ! ――な、なにが……」

 

「ダメージ計算前に私は手札の《オネスト》を捨てて、その効果を発動させて貰いました」

 

 確かな手応えのあった《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の一撃を覆された状況の把握に努める海馬に月行はどこまでも静かに返す。

 

「光属性モンスターがモンスターと戦闘するとき、相手モンスターの攻撃力分、私の光属性モンスターの攻撃力はアップします」

 

「……おのれ、俺のブルーアイズの力を利用するとはッ!」

 

 今までのデュエルの流れが常に月行に握られている現実がそこにある。残った2体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の悲しみに暮れるような声が響く。

 

「バトルは終了だ!」

 

 ゆえに月行の思惑を超えることが出来なかった海馬は己に苛立ちつつ状況を打破する為に手札のカードを再確認する。

 

――光属性のモンスターは特殊召喚できん……

 

 しかし海馬のメインアタッカーとなるモンスターの殆どは「光属性」ゆえに、今の海馬の手札では《テュアラティン》の影響下から逃れる術はない。

 

 残った《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の攻撃力は《テュアラティン》に勝っているとはいえ、月行がその程度で止まるなどと海馬は考えない。

 

「くっ……カードを3枚伏せてターンエンドだ……このエンド時に《シャッフル・リボーン》の効果で手札1枚を除外するが、俺の手札は既にない!!」

 

「そのエンド時に《オネスト》の効果が切れ、《テュアラティン》の攻撃力が元に戻ります」

 

 《テュアラティン》の背で虹色に輝く翼が天へと昇っていき、オーロラのような幻想的な光となって空へと消えた。

 

《テュアラティン》

攻5800 → 攻2800

 

 

 辛うじて2体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》と共に守りを固めた海馬。

 

 しかし、これが現在の海馬に残された一縷の望み。何故なら今の海馬の手札は0枚――次のターンも守りのカードを引ける保障などないのだから。

 

 

「なら私のターンです! ドロー!」

 

 一方の月行の手札は潤沢である。ハンドアドバンテージの差は如実に現れていた。

 

「まずは魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地より舞い戻れ! 《エンジェル O7(オーセブン)》!!」

 

 再び天より降臨する《エンジェル O7(オーセブン)》。だがその姿にかつてはあった神すらも封じる力は感じられない。

 

《エンジェル O7(オーセブン)

星7 光属性 天使族

攻2500 守1500

 

「此処で発動済みのフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果を使わせて貰います! 墓地の装備魔法《ヴァイロン・フィラメント》2枚と、同じく装備魔法《ヴァイロン・マテリアル》、そして魔法カード《死者蘇生》をデッキに戻し――」

 

 再び教会の祝福の鐘の音色が響き渡り――

 

「その数と同じレベルの光属性・天使族――《ヴァイロン・チャージャー》を墓地より蘇生!!」

 

 祝福を受け、再び舞い戻る《ヴァイロン・チャージャー》。

 

 そして再起動するかのように、その柱状の身体の周囲を回る金色のリングがゆっくりと回り始める。

 

《ヴァイロン・チャージャー》

星4 光属性 天使族

攻1000 守1000

 

「装備魔法《ヴァイロン・マテリアル》と同じく装備魔法《ヴァイロン・セグメント》を《ヴァイロン・チャージャー》に装備! これで攻撃力が600上がり、相手のモンスター効果・罠カードの効果の対象にならない!」

 

 もはや何度目か分からぬ程に《ヴァイロン・マテリアル》の杖の柄の部分を握り、もう一方の手には中心にくぼみのある盾のような《ヴァイロン・セグメント》を構える《ヴァイロン・チャージャー》。

 

《ヴァイロン・チャージャー》

攻1000 → 攻1600

 

「更に《ヴァイロン・チャージャー》の効果で装備カードの数×300! 私の光属性のモンスターの攻撃力がアップ!! 装備カードは2枚! よって600ポイントアップ!」

 

 しかし何度打ち倒されようとも《ヴァイロン・チャージャー》は仲間に力を託し、光を託す。

 

《ヴァイロン・チャージャー》

攻1600 → 攻2200

 

《エンジェル O7(オーセブン)

攻2500 → 攻3100

 

《テュアラティン》

攻2800 → 攻3400

 

「バトルです!! 《エンジェル O7(オーセブン)》と《テュアラティン》で残った2体のブルーアイズに攻撃! そして《ヴァイロン・チャージャー》で海馬 瀬人にアタック!!」

 

 《エンジェル O7(オーセブン)》の聖なるビームが輝き、《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を貫き、

 

 《テュアラティン》から放たれる裁きの光に最後の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》は掻き消え、

 

 《ヴァイロン・チャージャー》の杖から光の弾が2体の大天使の攻撃の余波と共に迫る。

 

「させん! その攻撃時に罠カード《攻撃の無敵化》を発動! 俺はこのバトル中のダメージを0にする効果を選択!! 許せ、ブルーアイズ……」

 

 罠カード《攻撃の無敵化》の「バトルフェイズ中のモンスター破壊を防ぐ」効果は今の残りライフが僅かな海馬には選択できない。

 

 やがて「海馬だけに届かない」天使たちの攻撃に倒れ行く2体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を海馬は沈痛な面持ちでその眼に焼き付けていた。

 

「…………ならカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

 やがてより盤石な布陣を敷きターンを終えた月行に海馬は獰猛な笑みを浮かべる。このままでは終われないと。

 

 

 先の海馬のターンでモンスターを全て失った筈の月行。

 

 しかし《テュアラティン》での反撃を起点とし、今や己がフェイバリットカードと共にモンスターを失った事実など無かったかのように海馬を追い詰める月行の姿はまさに海馬の望むものであった。

 

 

 この先にこそ、海馬の新たなロードが続き、遊戯を打ち倒す為の――否、己が覇道を突き進むための必要なピースが得られるのだと。

 

 海馬は喉の奥がひりつくような緊張感の中、デッキに手をかける。

 

「俺のタァアアアアン!! ドロォオオオオ!!」

 

――来たか!!

 

 これにて準備は整ったと海馬は笑みを深める。

 

「俺は魔法カード《復活の福音》を発動! 墓地よりレベル7もしくは8のドラゴン族モンスターを蘇生する!! 俺が選ぶのはレベル7の――」

 

――《テュアラティン》の効果で光属性であるブルーアイズは呼べない筈……

 

 海馬の宣言にそう試案する月行――今までのデュエルで墓地に送られた中で海馬が宣言したカードはそのどれもが「光属性」。

 

 月行には海馬が呼び出そうとしているカードが読み切れない。

 

「ウイルスの頂点たる毒の王!! 《パンデミック・ドラゴン》!!」

 

 黒き汚泥の水柱が上がり、その中から顔を出したのは流線的な細長い身体を持つ黒き竜。

 

 その身体の中央には紫の巨大な爪にも見える触手らしきものが6本伸び、それらを丸め、3つの円を形作る――それはどこか危険を知らせる標識を思わせる。

 

《パンデミック・ドラゴン》

星7 闇属性 ドラゴン族

攻2500 守1000

 

――あのカードは!?

 

 窮地の海馬が呼び出したカードは月行にとっても既知のもの。

 

 《パンデミック・ドラゴン》――

 

 主のライフを糧にモンスターを弱体化させる効果を持ち、更に自身以下の攻撃力のモンスターを破壊する効果に、己が破壊されたとき全てのモンスターを弱体化させる毒を持ったドラゴン。

 

 まさに「パンデミック」と呼ぶに相応しいカードだ。

 

「させませんよ! 私はリバーストラップ《光の召集》を発動! その効果で手札を全て捨て、捨てた枚数だけ墓地の光属性のカードを手札に加えます!」

 

しかし月行に抜かりはない。

 

「私が捨てた手札は2枚! よって墓地の光属性――《エフェクト・ヴェーラー》と《オネスト》の2体を手札に回収!!」

 

 半透明な翼を持つ魔法使い、《エフェクト・ヴェーラー》に、橙のウェーブのかかった長髪に天使の翼を持つ男、《オネスト》が月行の手札に集う。

 

 その2体は全て手札からその効果を及ぼすモンスターたち。

 

「そして手札の《エフェクト・ヴェーラー》を捨て、このターンの終わりまで《パンデミック・ドラゴン》の効果を無効化します!!」

 

 その1体である白い法衣を纏う少女、《エフェクト・ヴェーラー》の半透明な翼に包まれ、《パンデミック・ドラゴン》は苦し気に呻き声を上げる。

 

「かかったな! 俺は伏せて置いた速攻魔法《エネミーコントローラー》を発動!!」

 

 だが海馬は獰猛に笑う。そんな海馬の前に現れたゲーム用の巨大なコントローラー。

 

「2つのコマンドのどちらかを入力することで《エネミーコントローラー》の力が発揮される!!」

 

 その《エネミーコントローラー》に向けて海馬は腕を横に振りつつ宣言する。

 

「左! 右! A! B!」

 

 その声に合わせてひとりでにボタンが動く《エネミーコントローラー》。

 

「このコマンドにより俺のモンスター1体をリリースすることで相手の表側モンスター1体のコントロールをターンの終わりまで得る!! 《パンデミック・ドラゴン》をリリース!!」

 

 《エネミーコントローラー》から伸びるコードが《パンデミック・ドラゴン》に繋がりコマンドの意のままに動き始め――

 

「貴様の《テュアラティン》は頂くぞ!!」

 

 《テュアラティン》に迫り、その身体をガッチリと捕まえた《パンデミック・ドラゴン》は最後の力を振り絞り海馬のフィールドに強引に引き寄せる。

 

 やがて《パンデミック・ドラゴン》の身体は溶けるように消えていった。

 

「そして前のターンにセットした魔法カード《アドバンスドロー》を発動!! フィールドのレベル8以上のモンスターをリリースし、新たに2枚のカードをドローする!!」

 

 《テュアラティン》の身体が少しずつ光の粒子となって崩れ始める。

 

「当然レベル8! 《テュアラティン》をリリースして2枚ドローする効果を使わせて貰うぞ!!」

 

 今度は《テュアラティン》は苦し気に唸りつつ、その身は光と化し、海馬はデッキに手をかける。

 

「これで《テュアラティン》の効果による制限は完全に解かれた!!」

 

 そう言葉を放つ海馬の手はデッキの上から動かない。

 

 

 《テュアラティン》による制限から解放された海馬だが、今現在手札・フィールド・ライフに至る全てが月行に分がある。

 

 

 このドローが正真正銘、最後の一手になることは自明の理――この一手で月行の思惑の全てを超えなければ海馬に光明はない。

 

「ふぅん、俺は《アドバンスドロー》の効果で2枚のカードを――」

 

 しかし海馬は怯まない。弟、モクバと共に作り上げた最強の――否、「最高」のデッキを手に、何を恐れることがあるのか、と。

 

 

「――ドロォオオオオッ!!!!」

 

 

 右腕を振り切った海馬はその手に、指先にカードの鼓動を確かに感じ取る。

 

 

――見ずとも分かる!! この2枚のカードが何なのかが!

 

「俺は今引いた魔法カード《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を発動!!」

 

 海馬のフィールドに浮かぶ龍を模した縁の鏡、《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》が怪しい光を放つ。

 

「俺のフィールドもしくは墓地のカードを除外し、『ドラゴン族』融合モンスターを融合召喚する!!」

 

 その《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》は墓地の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を鏡の中に引き込み――

 

「墓地の3体のブルーアイズを再び束ね! 融合召喚!!」

 

 墓地から引き上げた3体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》が《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》の中で一つに混ざり合う。

 

「究極にして最強の力を見るがいい!! 現れろ!! 《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》!!」

 

 そして《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を砕きフィールドを凱旋するのは究極の力持ちし白き三つ首の竜、《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》。

 

 その絶対的なまでの威圧感は先ほどよりも心なしか大きく感じられる。

 

青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)

星12 光属性 ドラゴン族

攻4500 守3800

 

「この状況で3体融合を再び繰り出してくるとは……!!」

 

 だが今の月行の手札にはバトルの際に常に相手の攻撃力を上回ることの出来る《オネスト》がいる――容易く突破できる布陣ではない。

 

「ふぅん、貴様の下らん小細工など全て吹き飛ばしてやる!! このカードでな!!」

 

 だが海馬は動じない。目指すべきライバルたる遊戯との勝負を見据える海馬に立ち止まっている暇などないのだから。

 

「俺は最後の手札! 魔法カード《アルティメット・バースト》を発動!!」

 

 海馬が最後の一手として発動したのは《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の攻撃名と同じ名前のカード。

 

「俺のフィールドの融合召喚した《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》1体を対象とし、真の力を解放する!!」

 

 その力はまさにワンオフ――《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の為だけのカード。

 

「これにより、このターンの俺のアルティメットは3度の攻撃が可能となり、アルティメットの攻撃の際にダメージステップ終了時まで相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できん!!」

 

 《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》が翼を広げ周囲に突風が吹き荒れる中で、その3つの頭から雄叫びを上げる。

 

 詰まらぬ小細工など無意味だと言わんばかりに。

 

「そう! これでアルティメットの前では全ての力が無力となる!!」

 

 その圧倒的な力の奔流は月行の身体に突き刺さる。

 

――この土壇場で《アルティメット・バースト》を引ききった……!?

 

 これでは攻撃の際に発動する《オネスト》の効果は使うことが出来ない。

 

 偶然や奇跡では片付けられない「ナニカ」が海馬の手の中にあった。

 

「バトルだ!! 貴様の相棒の天使共々消え去るがいい!!」

 

 そして海馬の宣言と共に《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の3つの口から滅びのブレスがチャージされていき――

 

 

 

「アルティメットォ! バァァァストォオオ!!!!」

 

 

 

 その3つのブレスが発射されると共に一つに混ざり合い月行を吹き飛ばさんと迫る。

 

 《ヴァイロン・チャージャー》が《エンジェル O7(オーセブン)》と共に光の障壁を張り、主を守るべく奮闘するも、その力の差に成す術はない。

 

 

 

 だが月行は言葉を失っていた。それは絶望でもなければ、諦めでもない。

 

 そのあまりにも美しき、純粋な力の化身たる《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の姿に。

 

 

 やがてその滅びの光が月行を呑み込むまで、唯々、月行はその白き竜の姿を見つめる――その先に己が探し求めた答え(殻を破る方法)を見出したように。

 

 

月行LP:3500 → → → 0

 

 

 






パンデミック・ドラゴン「解せぬ」


テュアラティン「百野(ももの) 真澄(ますみ)? そんな人もいた気がしますね」

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