マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
魔導ギガサイバー「《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》を受けても大丈夫。そう、《天命の聖剣》ならね」




第98話 ラストギャンブル

 

 

 城之内の想定以上の力量に梶木は「それでこそ」と笑いながらデッキに手をかける。

 

「ワシのターンじゃ! ドロー!! ワシは再び墓地の《フラッピィ》の効果を発動するぜよ! 除外ゾーンと墓地、合わせて3体おる内の1体を除外してレベル5以上の海竜族モンスターを特殊召喚!!」

 

 再び《フラッピィ》が海にプカプカ浮かび、強き海竜たちの呼び水となる。

 

「――舞い戻れ! 《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》!!」

 

 そして先のターンの焼き増しの如く宙に躍り出る《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》。

 

 だがその瞳は己が真の姿を切り裂いた《魔導ギガサイバー》を睨むように視界に収めていた。

 

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》

星7 → 星6

水属性 海竜族

攻2600 守1500

攻2800 守1700

 

「ソイツの効果を使わせる訳にはいかねぇぜ!! 罠カード《奈落の落とし穴》を発動!」

 

 《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》の真下に奈落への大穴が開く。

 

「相手が召喚・反転召喚・特殊召喚した攻撃力1500以上のモンスターを破壊して除外する!!」

 

 その大穴から緑の亡者が道連れを求めて《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》に手を伸ばす。

 

「させんぜよ! 《城塞(じょうさい)クジラ》の効果発動! 1ターンに1度、ワシの水属性モンスター1体を対象とする相手の魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にし、破壊するぜよ!!」

 

 その緑の亡者へ向けて突き進む《城塞(じょうさい)クジラ》。

 

「ホエール大回転(スピン)!!」

 

 やがて《城塞(じょうさい)クジラ》は巨体を回転させて《奈落の落とし穴》から手を伸ばす緑の亡者を消し飛ばさんとするが、見えない壁に阻まれてその攻撃は届かない。

 

「どうしたんじゃ! 《城塞(じょうさい)クジラ》!!」

 

「無駄だぜ、梶木! 俺の発動した罠カード《奈落の落とし穴》は『対象を取らない』効果――《城塞(じょうさい)クジラ》でもどうしようもねぇぜ!」

 

 《城塞(じょうさい)クジラ》の決死の動きにも虚しく《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》は奈落への穴に引きずり込まれていく。

 

「ダイダロスが!?」

 

 世界には一個人のデュエリストが知らないカードで溢れている――梶木とて全てのカードを網羅している訳ではない。

 

 しかし、知らないからと言って成す術もなく対応できないなどデュエリストの名折れだと梶木は咆える。

 

「じゃったら、永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の更なる効果を発動じゃ!!」

 

「なにっ!? このタイミングで!?」

 

「《海》がある時! 1ターンに1度、ワシのフィールドの水属性モンスター1体をこのターンの終わりまで除外することで、このターン、ワシの表側の魔法・罠カードは相手の効果では破壊されんぜよ!」

 

 梶木の狙いは自身の「魔法・罠カードが破壊されない」効果ではない。

 

「ワシは《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》をエンドフェイズまで除外する!!」

 

 《奈落の落とし穴》の穴が海に沈んでいき、それに緑の亡者が気を取られた隙に《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》は海へと潜り、一時的に身を隠した。

 

 ギリギリで躱した梶木だったが、当てが外れたと内心で状況を整理しなおす。

 

――ダイダロスでセットカードを一掃する予定じゃったが、予定が狂っちまったぜよ……じゃが!!

 

「――じゃったら! 奈落に落ちかけたリバイアサンの怒りを思い知れ、城之内!! 速攻魔法《海竜神(リバイアサン)の怒り》!!」

 

 海が怒りをあらわにするかの如く荒れ狂う。

 

 焦りを見せる城之内のモンスターたち、だが一方の梶木のモンスターたちは海に生きるものゆえに動じてはいない。

 

「コイツはワシのフィールドに《海》がある時! ワシのフィールドの元々のレベルが5以上の水属性モンスターの数まで城之内! お前のモンスターを破壊するぜよ!!」

 

 やがて大津波となって城之内のフィールドを呑み込まんと迫りくる。

 

「受けてみぃ! 海竜神(リバイアサン)の怒り!!」

 

 大津波に呑まれながらも懸命にクロールで泳ぐ《バーバリアン2号》に大空へと逃げる《ドラゴンに乗るワイバーン》。

 

 だが、その大津波のあまりの規模に大空すら呑み込んで、全てを吹き流していった。

 

「うぉおおおおおっと! だが《天命の聖剣》を装備した《魔導ギガサイバー》は1ターンに1度破壊されねぇ!! 耐えろ! ギガサイバー!」

 

 しかしそんな中で《天命の聖剣》を地面に突き刺し懸命に耐える《魔導ギガサイバー》。

 

 

 やがて大津波が引いていった後に残ったのは膝を突く《魔導ギガサイバー》のみ。

 

「俺のモンスターがギガサイバー以外全滅……」

 

「それだけじゃないぜよ! お前のモンスターがおった場所をよう見てみるんじゃ!」

 

 その梶木の言葉と共に城之内がフィールドを見やると、2か所だけ酷く海の底が深くなっていた。

 

「なっ!? 俺のフィールドが海に沈んでる!?」

 

 その2か所の深さはモンスターを呼び出すこともままならない程だ。

 

「これぞ速攻魔法《海竜神(リバイアサン)の怒り》の更なる効果! 破壊されたモンスターがおったモンスターゾーンは次のターンの終わりまで使用出来んぜよ!」

 

「海の水が引くまで待てってことか……」

 

 大自然の力の前に人が出来るのは、その脅威が過ぎ去るのをじっと待つのみだ。

 

「そういうことじゃ! さらにこれでお前のフィールドはガラ空き同然じゃ!」

 

 城之内のフィールドに残った《魔導ギガサイバー》も厄介な《天命の聖剣》の効果をこのターン使いきった為に梶木の《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の前には脅威足り得ない。

 

 だが城之内は鼻を鳴らす。

 

「へっ! だがよ、梶木……忘れちゃねぇか? お前の発動した永続罠《バブル・ブリンガー》の効果で互いにレベル4以上のモンスターはダイレクトアタックが出来ねぇことをよ!」

 

 そう、城之内の言う通り永続罠《バブル・ブリンガー》で守られるのは梶木だけではない。城之内もその恩恵を受けることが出来る。

 

「お前のフィールドのモンスターはどいつも高レベル! 俺まで攻撃は届かないぜ!」

 

「いらん心配ぜよ! 永続罠《バブル・ブリンガー》の更なる効果を発動!」

 

 しかしそんなことなど使用者である梶木が一番良く知っている――その対処法も含めてだ。

 

「ワシのターンに表側のこのカードを墓地に送ることで、ワシの墓地からレベル3以下の水属性の同名モンスターを2体、特殊召喚するぜよ!」

 

 永続罠《バブル・ブリンガー》の泡が全て海へと沈んでいく。

 

「現れろ! 2体の《海皇の狙撃兵》!! アトランティスの効果でパワーアップ!」

 

 やがてその泡が沈んだ先から泡に包まれ飛び出したのは2体の《海皇の狙撃兵》。

 

 互いにボウガンをクロスさせ、キリリと左右対称になるようにポーズを取る。

 

《海皇の狙撃兵》×2

星3 → 2

水属性 海竜族

攻1400 守 0

攻1600 守 200

 

「もっともこの効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化されちまうがの――じゃがこれで問題なくオメェに攻撃が届くぜよ!」

 

「やばっ!?」

 

 そう己のピンチにおののく城之内を余所に梶木は相手の4枚のセットカードを見やり頭を回す。

 

――城之内のセットカードは気になるが、今は《海皇の狙撃兵》の効果は狙えん……ダイダロスの効果が使えなかったのが、痛いぜよ……

 

「じゃが、攻めの手は緩めん! バトルじゃ!!」

 

 セットカードが「対象を取る」カードなら《城塞(じょうさい)クジラ》で守れる事実も梶木の背を押す。

 

「《伝説のフィッシャーマン》で《魔導ギガサイバー》を攻撃!!」

 

 《伝説のフィッシャーマン》が海に潜り、《魔導ギガサイバー》と自身の視界から消えるのを見届けた城之内は思案する。

 

――どのみち《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》で破壊されちまうなら!

 

「俺はその攻撃宣言時に罠カード《ゴブリンのやりくり上手》を発動! さらにチェーンして、速攻魔法《非常食》も発動だ!」

 

 そしてチェーンは逆処理される。

 

「まず速攻魔法《非常食》で装備魔法《天命の聖剣》と発動した罠カード《ゴブリンのやりくり上手》の2枚を墓地に送ったことで、その数×1000――つまり2000ポイントライフを回復!」

 

 このターンはもう力を発揮しない装備魔法《天命の聖剣》と共にカードを墓地に送り、その墓地に送ったカードの残照が光となって城之内を包み込む。

 

城之内LP:2500 → 4500

 

「そして罠カード《ゴブリンのやりくり上手》の効果で、墓地の《ゴブリンのやりくり上手》の数+1枚ドローして手札を1枚デッキに戻す!」

 

 そしてゴブリンが「いつもの奴ですね」と言わんばかりの笑みを浮かべ、城之内にカードを差し出し、帽子を軽く上げて会釈した後に消えていった。

 

「墓地には3枚の《ゴブリンのやりくり上手》がある! よって4枚ドローして、手札の1枚をデッキに戻す!」

 

 しかしその2枚のリバースカードの効果では《魔導ギガサイバー》に姿なく近づく《伝説のフィッシャーマン》の妨げにはなりはしない。

 

「じゃが《伝説のフィッシャーマン》の攻撃は止まらん! そして永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の効果で《魔導ギガサイバー》を破壊!!」

 

 気付かぬ内に腹に(もり)が突き刺さった《魔導ギガサイバー》は海に倒れ込み沈んでいく。

 

 

 その姿を横目に《伝説のフィッシャーマン》は海中から姿を現し、回収した(もり)の先を「次はお前だ」と城之内に向けた。

 

 しかし梶木は内心で悩む。

 

――最後のセットカードは何じゃ?

 

 城之内にあった4枚のセットカードはもはや後1枚だが、未だに梶木のモンスターの攻撃を防ぐようなものが何一つ発動されていない。

 

 城之内のライフが4500にまで増えたとは言え、今の梶木の残り4体のモンスターの前ではないも同然だというのに――ゆえに様子見とばかりに攻撃力の低いモンスターで攻撃を仕掛ける。

 

「1体目の《海皇の狙撃兵》で城之内にダイレクトアタックじゃ!! シー・スナイプ!!」

 

 《海皇の狙撃兵》がガラ空きの城之内に向けてボウガンから矢を放つ。

 

「ならその攻撃宣言時! 最後のリバースカード! 永続罠《ラッキーパンチ》を発動!」

 

――来たか!!

 

 城之内の最後のリバースカードが発動されたことで、内心でそう梶木は身構えるが――

 

「1ターンに1度、相手の攻撃宣言時にコイントスを3回行って、3枚とも表なら3枚ドロー! 3枚とも裏ならこのカードを破壊! そして表側のこのカードが破壊されたとき俺は6000のライフを失う!!」

 

「攻撃を防ぐカードじゃないじゃと!?」

 

 攻撃を防ぐどころか下手をすればこのまま攻撃が届く前に城之内のライフが尽きてしまうようなカードだった――これは梶木も予想外であった。

 

 やがて宙で回っていた3枚のコインが落ち――

 

「コイントスの結果は――3枚とも表! 大当たりだぜ! 3枚ドロー!!」

 

「じゃが《海皇の狙撃兵》の攻撃は止まらん!」

 

 3枚とも表を差して城之内の手札を潤すが、梶木の言う通り《海皇の狙撃兵》の矢は城之内を貫いた。

 

「ぐぅうう!!」

 

城之内LP:4500 → 2900

 

 城之内の伏せたカードは何一つ「守り」に対応していなかった――ならばこれ以上の警戒は無意味だ。

 

「ならこれで終わりじゃぁあ!! 《海皇龍 ポセイドラ》でダイレクトアタックじゃ!! ポセイドン・スプラッシュ!!」

 

 《海皇龍 ポセイドラ》は己の身体を水で覆い、その巨体を弾丸に見立てて城之内へと突進し、迫る。

 

「終わってたまるかよ! 相手がダイレクトアタックしたとき! 俺の墓地の罠カード《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》の効果を発動!」

 

 その行く手を遮るように鬼火が浮かぶ。

 

「墓地から罠じゃと!? ――《モンスターゲート》の時か!?」

 

「おうよ! 墓地の《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》をモンスター扱いで特殊召喚!!」

 

 その鬼火は漆黒のユニコーンに乗った黒い騎士を呼び、城之内を守るべく立ち塞がる。

 

幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》

通常罠

星4 闇属性 戦士族

攻 0 守 300

 

「なら《海皇龍 ポセイドラ》! そのままソイツを薙ぎ払っちまえ!!」

 

 だが互いの体格の差は歴然であり《海皇龍 ポセイドラ》の水を纏った突進により《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》は吹き飛ばされ、遠くの海面に落ち、水柱を立てた。

 

「この効果で特殊召喚された罠カード《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》はフィールドを離れるとき除外されるぜ……」

 

「1回切りの盾じゃったか! 次のワシの攻撃は防げんようじゃの!」

 

「そいつはどうかな! 俺は再び墓地の罠カードを発動するぜ! 罠カード《救護部隊》!! コイツは俺のフィールドの通常モンスターが破壊されたとき、墓地のこのカードをモンスター扱いで特殊召喚する!」

 

 救急車のサイレンのような音がほら貝の音色で鳴り響き、海を割って4人の人影が歩み出る。

 

「《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》は『通常モンスター』扱い! 条件は満たしてるぜ!」

 

 やがてその4人の看護師が腕全体を使って大きな十字のマークを作るようにポーズを取った。

 

 内3人の看護師は普通の女性のようだが、中央にしゃがんでポーズを取る残りの一人の筋骨隆々な男の看護師はどう見ても戦闘要員にしか見えないのは気のせいなのか。

 

《救護部隊》

星3 地属性 戦士族

攻1200 守 400

 

「コイツもフィールドから離れたときに除外されちまうけどな!」

 

「なら2体目の《海皇の狙撃兵》! 《救護部隊》を打ち抜いてやるんじゃ!」

 

 《海皇の狙撃兵》が戸惑いながらもボウガンから矢を放つが、筋骨隆々な《救護部隊》に素手で受け止められ、そのまま矢は握りつぶされる。

 

 そしてグングンと4人での十字のポーズを維持したまま《海皇の狙撃兵》に近づいてくる《救護部隊》。

 

 《海皇の狙撃兵》が恐慌にかられ頭を押さえて蹲るも、そこにちょうど流れ着き、プカプカ浮かんでいた《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》を引っ掴むと、《救護部隊》は足早に去っていった。

 

 

 《海皇の狙撃兵》の何とも言えない顔に、何とも言えなくなる梶木。

 

「…………これで今度こそオメェのフィールドはガラ空きじゃ! 《城塞(じょうさい)クジラ》でダイレクトアタック! ボンバー・エアレイド!!」

 

 だが先程のやり取りをなかったことにして《城塞(じょうさい)クジラ》に指示を出す。

 

 そして《城塞(じょうさい)クジラ》の背の大砲から雨霰と放たれた砲弾の爆撃に身を焼かれる城之内。

 

「ぐぁああああああ!!」

 

城之内LP:2900 → 350

 

「決着は間近のようじゃの、城之内――ワシはカードを2枚伏せてターンエンドじゃ!!」

 

 城之内は手札こそ大量に補充したが、フィールドアドバンテージは梶木に大きく傾いていた――梶木の言う様に城之内とて長くは持つまい。

 

「このエンド時に永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》で除外した《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》が戻ってくる――が、ワシのフィールドはモンスター5体で埋まっとる……よって墓地に行くぜよ」

 

 《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》が海面から顔を覗かせるが、梶木のフィールドの5体のモンスターと視線が合う。

 

 居場所のない《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》は再び静かに海に潜っていった――そんな時もあるさ……

 

 

 

 

 城之内は自身のターンゆえにデッキに手をかけるが、ふと小さく笑い出す。

 

「へへっ、やっぱ強ぇえな梶木!」

 

「なんじゃい、城之内……絶体絶命じゃろうに楽しそうに笑いおって」

 

 そう返す梶木とてその顔には笑みが浮かんでいる。

 

「楽しいからに決まってんじゃねぇか! こっからどうなるか俺にも分からねぇ……楽しくて仕方がないぜ!」

 

 その梶木の姿に城之内は堪らず今の心境を言葉に吐き出す――伝えられずにはいられない、と。

 

「そりゃそうじゃろう! デュエルは最後まで何が起こるか分からんから面白いんじゃ!」

 

 そう笑って返す梶木――お互いにあるのは純粋にこのデュエルを楽しむ心だけだった。

 

「まったくだぜ! 俺のターン! ドロー!!」

 

 しかしだからと言ってお互いに負けるつもりなど毛頭ない。

 

「俺は墓地の魔法カード《置換融合》を除外して効果発動! 墓地の融合モンスター1体をエクストラデッキに戻し、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

 まだまだ手札をドンドン増やそうとする城之内――今、己に出せるありったけをぶつけるのだと。

 

「墓地の融合モンスター《ドラゴンに乗るワイバーン》をエクストラデッキに戻して1枚ドロー!」

 

 その城之内の意気に応えるように《ドラゴンに乗るワイバーン》がエクストラデッキへと飛び立ち、城之内にすれ違い様にカードを託す。

 

「魔法カード《マジック・プランター》で永続罠《ラッキーパンチ》を墓地に送って更に2枚ドロー!」

 

「なんじゃ、ギャンブルカードは終いか?」

 

 そんな梶木の挑発がてらの言葉に城之内はニヒルに笑う。

 

「へっ、ギャンブルは『引き際』が肝心なんだよ!」

 

 

 だが引いた2枚を見て城之内の表情は固まった。

 

 

「…………魔法カード《カップ・オブ・エース》を発動! コイントスを1度行い、表なら俺は2枚ドローし、裏なら相手が2枚ドローする!」

 

「おいおい、『引き際』がどうしたんじゃ?」

 

 笑いを堪えながら問いかける梶木――ドヤ顔で『引き際』などと言った矢先の為、城之内もいまいち恰好が付かない。

 

「う、うるせぇ! こういう時もあらぁ!! 結果は――表! 俺が2枚ドロー!」

 

 そう恥ずかしがる城之内の姿を見つつ、梶木は内心で冷静に観察する。

 

――なんだかんだで、城之内のヤツに風が吹いとるの……

 

「よっし! 俺はフィールド魔法《融合再生機構》を発動! 新しいフィールド魔法が発動されたことで、《伝説の都 アトランティス》は破壊されるぜ!」

 

 海底神殿の《伝説の都 アトランティス》が沈むのに合わせて《融合再生機構》の工場が出来上がり、海の加護が失われていく。

 

《海皇の狙撃兵》×2

星2 → 3

攻1600 守 200

攻1400 守 0

 

城塞(じょうさい)クジラ》

星6 → 7

攻2550 守2350

攻2350 守2150

 

《海皇龍 ポセイドラ》

星6 → 7

攻3000 守1800

攻2800 守1600

 

 

「これで《海》は消えた! シーステルスは――」

 

 《海》がなければ永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の効果は使えない。

 

 

 引いていく海の水を見つつ、梶木は内心で思案し――

 

――城之内の豊富な手札から、ドデカい反撃がくるのは見えとる! なら!!

 

「そうはいかんぜよ! 永続罠《忘却の海底神殿》を発動じゃ! これも《海》として扱うカードぜよ!」

 

 一手仕掛ける。そしてフィールドに再び海が広がっていく。その海の中には所々崩れた海底神殿が広がっていた。

 

「トラップカードの《海》だとぉ!?」

 

「それだけじゃないぜよ! 永続罠《忘却の海底神殿》の効果で1ターンに1度、レベル4以下の魚族・海竜族・水族モンスターいずれか1体をワシのエンドフェイズまで除外できるんじゃ! ワシは1枚目の《海皇の狙撃兵》を除外!」

 

 《海皇の狙撃兵》が海の中の《忘却の海底神殿》へと姿を隠す。

 

「更に《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の効果で2体目の《海皇の狙撃兵》も除外じゃ! このターンワシの表側の魔法・罠カードは相手の効果では破壊されんぜよ!」

 

 そしてもう1体の《海皇の狙撃兵》も海中へ姿を消した。

 

 

 その光景を見やる城之内は内心で歯噛みする。

 

――くっ……攻撃力の低い《海皇の狙撃兵》に逃げられちまったか……

 

 これで梶木のフィールドにいるモンスターは攻撃されない《伝説のフィッシャーマン》と攻撃力2000オーバーのモンスターのみ――容易には突破できない。

 

「なら魔法カード《名推理》を発動! 梶木! 好きなレベルを宣言しな!」

 

 城之内の頭上でルーレットが回り始める。

 

「今から《名推理》の効果でデッキの上から通常召喚可能なモンスターが出るまで墓地に送っていって、呼び出せるモンスターが出れば、そのまま特殊召喚するぜ!」

 

 城之内が狙うのは「あのカード」――この状況を打破しうる1枚。

 

「だが、もしもそのカードがお前の宣言したレベルのカードだった時は特殊召喚せずに、そのまま墓地に送る!」

 

「なら……レベル7を選択じゃ!」

 

 梶木が選んだのは《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》のレベル――梶木の知る城之内のデッキの中で警戒に値する1枚。

 

「なら《名推理》の効果でカードを墓地に送っていき――来たぜ! 呼び出すモンスターは――」

 

 

 デッキのカードが墓地に送られていき、ついにモンスターカードに辿り着く。海面を押しのけ現れるのは――

 

 

――コイツの力、貸して貰うぜ!!

 

 

「――レベル6!! 《人造人間-サイコ・ショッカー》!!」

 

 

 エスパー絽場とのデュエルで手にした1枚――大会でのデュエルが出来なくなるかもしれないエスパー絽場に代わって城之内がその雄姿を見せるべくデッキに投入する決意を固めた1枚。

 

 

 その城之内の心意気に報いらんと《人造人間-サイコ・ショッカー》はいつもらしからぬ雄叫びを上げ、その赤いスコープから赤い光線を放つ――やる気は十分どころではないレベルである。

 

《人造人間-サイコ・ショッカー》

星6 闇属性 機械族

攻2400 守1500

 

「くっ! モンスターを呼ばれてしもうたか! じゃが! ソイツのパワーくらいじゃ、ワシのシーステルスを突破することは――」

 

 そう梶木が言い終える前にフィールドに異変が起こる。

 

 

「なんじゃ、これは!? 海がどんどん引いて行っとる!?」

 

 そう、この力は――

 

「《人造人間-サイコ・ショッカー》の効果だ! ――コイツがフィールドにいる限り、お互いのフィールドの罠カードの効果は発動されず、効果も無効化されるぜ!!」

 

 やがて互いの膝ほどまであった海水はたちまち消えていった。

 

「くっ……永続罠《忘却の海底神殿》の《海》として扱う効果が無効になった訳か!!」

 

「これでシーステルスを今度こそ封じたぜ!!」

 

 《人造人間-サイコ・ショッカー》の罠封じの力は梶木の永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》には天敵ともいえる相手だった。

 

「じゃがソイツの攻撃力じゃ、ポセイドラは超えられんぜよ!!」

 

「だったら超えられるヤツを呼ぶまでだ!」

 

 しかし、梶木はそれだけで攻略できるような相手ではないことは実際に対峙している城之内が誰よりも理解している。

 

「墓地の《カーボネドン》を除外して、デッキからレベル7以下のドラゴン族通常モンスター、《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を特殊召喚!!」

 

 何度でも舞い戻る城之内のエースたる《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》が翼を広げ、咆哮を上げる。

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

星7 闇属性 ドラゴン族

攻2400 守2000

 

「そんでもって《融合》を発動だ!! 俺はフィールドのレッドアイズと手札の融合素材の代わりになれる《心眼の女神》を融合!!」

 

 《心眼の女神》の力により《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の身体は進化を遂げ、白い外骨格でより逞しくなっていき――

 

「融合召喚!! 悪魔の力宿りし竜!! 《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》!!」

 

 《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の時と何ら代わらぬ赤き眼光を光らせ《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》がその白き骨格に覆われた悪魔の如き絶対的なる姿で眼下を見下ろし、城之内の頭上で咆哮を上げる。

 

《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》

星9 闇属性 ドラゴン族

攻3200 守2500

 

「ここに来て、攻撃力3000オーバーのモンスターか!!」

 

 驚嘆の声を上げる梶木だが、まだ城之内の進撃は終わってはいない。

 

「まだだ! 俺は魔法カード《埋葬されし生贄》を発動! これでこのターン俺が2体のリリースが必要なアドバンス召喚の際に、代わりに互いの墓地のモンスターを1体ずつ除外できる!」

 

 周囲から黒い影のような亡者の嘆きが木霊する。

 

「もっとも、このカードを発動した後、俺はモンスターを特殊召喚できねぇがな! 俺の墓地の《アックス・レイダー》と、梶木! お前の墓地の《海皇子(かいおうじ)ネプトアビス》を除外して召喚だぁ!!」

 

 周囲の亡者に混じる《アックス・レイダー》と《海皇子(かいおうじ)ネプトアビス》だったが、その亡者たちと共に天へと昇っていく。

 

 

「稲妻の戦士は数多の試練を超え、今! 伝説(レジェンド)となる!!」

 

 やがて周囲にイナズマがいくつも落ち始め――

 

「――現れろ!! 《ギルフォード・ザ・レジェンド》!!」

 

 ひときわ大きなイナズマが落ちたと共に現れたのは黒い鎧に身を包んだ大柄な戦士。

 

 その顔の目元は角のある仮面により隠され、赤い髪が背中の茶色いマントと共にはためく。

 

《ギルフォード・ザ・レジェンド》

星8 地属性 戦士族

攻2600 守2000

 

「そして召喚された《ギルフォード・ザ・レジェンド》の効果発動! 俺の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り、俺の戦士族モンスターに装備できる!!」

 

 《ギルフォード・ザ・レジェンド》が大地に手をかざすと、散っていった戦士たちの魂たる武器が、力を貸すぞと言わんばかりに並び立つ。

 

「俺は墓地の装備魔法――《天命の聖剣》と《聖剣カリバーン》を戦士族の《ギルフォード・ザ・レジェンド》に装備!!」

 

 その内の2本の剣を手に取った《ギルフォード・ザ・レジェンド》はそのむき出しの剛腕で2本の剣をまるで長らく共に戦い抜いた相棒の様に軽く振った。

 

「装備魔法《聖剣カリバーン》を装備したモンスターの攻撃力は500アップするぜ!」

 

 やがて剣を振り終えた《ギルフォード・ザ・レジェンド》の力を認めるように2本の剣は小さく脈動する。

 

《ギルフォード・ザ・レジェンド》

攻2600 → 攻3100

 

「さらに装備魔法《聖剣カリバーン》の更なる効果! 1ターンに1度、俺のライフを500回復する!!」

 

 《聖剣カリバーン》に奔る青いラインが淡く光を放ち、城之内のライフを僅かに回復させる。

 

城之内LP:450 → 950

 

「攻撃力3000超えのモンスターが2体か……じゃが! 前のターン発動した速攻魔法《海竜神の怒り》の効果でそれ以上モンスターを呼ぶスペースはないぜよ!!」

 

 大型モンスターを並べ、梶木の罠カードも封じた今この時こそ攻め時な城之内だが、梶木の言う通り、残る2つのモンスターゾーンはこのターンの終わりまで使うことは出来ない。

 

「だったらバトルだ!」

 

 城之内は歯痒い想いを抱きながらも突き進む。

 

「《人造人間-サイコ・ショッカー》! 《伝説のフィッシャーマン》に攻撃しろ! サイバー・エナジー・ショック!!」

 

 《人造人間-サイコ・ショッカー》の手にチャージされるエネルギーが放たれる前に《伝説のフィッシャーマン》はシャチを突撃させ、相手の視界を奪ったうえで回り込み、眉間を狙い(もり)を打つ。

 

 だがシャチに肩を噛まれようが《人造人間-サイコ・ショッカー》の鋼鉄の身体は怯みなどしない。

 

 寧ろ《伝説のフィッシャーマン》の狙いを察し、回り込んだ先にエネルギー弾を放ち(もり)ごと《伝説のフィッシャーマン》を粉砕した。

 

「ぐっ! フィッシャーマンが!!」

 

梶木LP:3000 → 2450

 

 シャチを殴り飛ばしながらダメージを受ける梶木へと手を立ててクイッと動かし、挑発する《人造人間-サイコ・ショッカー》。

 

「次だ! 《城塞(じょうさい)クジラ》をぶった切れ! 《ギルフォード・ザ・レジェンド》!! レジェンド・ブレイバー!!」

 

 そんな《人造人間-サイコ・ショッカー》の横を通り抜けて《城塞(じょうさい)クジラ》へと向かう《ギルフォード・ザ・レジェンド》。

 

 無数に放たれる《城塞(じょうさい)クジラ》からの砲弾の嵐も、《ギルフォード・ザ・レジェンド》の二刀から繰り出される剣捌きに全て切り裂かれて行く。

 

 そして遊戯との一戦を思い出させるようにその砲弾を足場にして跳躍。

 

 宙を浮かぶ《城塞(じょうさい)クジラ》の上を取った《ギルフォード・ザ・レジェンド》の渾身の二連撃が《城塞(じょうさい)クジラ》を地に落とす。

 

 《城塞(じょうさい)クジラ》が地に落ちた際の衝撃を受ける梶木。

 

「ぐぅうううう!!」

 

梶木LP:2450 → 1600

 

「最後は《海皇龍 ポセイドラ》を粉砕しろ! 《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》!  メテオフレア!」

 

 《海皇龍 ポセイドラ》の水のブレスと《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》の炎のブレスがぶつかり合う。

 

 水と炎――単純な相性で言うのならば水が制するこのぶつかり合い。

 

 しかし《海皇龍 ポセイドラ》の水のブレスが炎によって気化していく。

 

 そして拮抗していた筈のブレスのせめぎ合いの均衡が崩れ、《海皇龍 ポセイドラ》は灼熱の炎でその身を焼かれた――その海竜の強固な甲殻もその炎の前では意味をなさない。

 

 炎のブレスの余波の斬撃が梶木を焼く。

 

「ぐぁああああああああ!!」

 

梶木LP:1600 → 1200

 

「俺はバトルを終了し、カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

 《人造人間-サイコ・ショッカー》を起点に大きく盤面を盛り返した城之内は「どうだ!」と言わんばかりにターンを終える。

 

「更に! このエンド時にフィールド魔法《融合再生機構》の効果でこのターン融合召喚に使用したモンスター1体、《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を手札に回収するぜ!」

 

 そして城之内の手札へとスゥっと姿を薄めた黒き竜が舞い戻るが――

 

 

「ならワシもそのエンド時にコイツを発動するぜよ! 速攻魔法《海皇の咆哮》!! この効果で墓地のレベル3以下の海竜族モンスター3体を特殊召喚!」

 

 その《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》にどこからか怒りを向けるような咆哮が木霊する。

 

「蘇るんじゃ! 《海皇の重装兵》! 《深海のディーヴァ》! 《イマイルカ》!」

 

 やがてその怒りに応えたのは、大盾の魚人に、人魚の歌姫、そして小さなイルカ。

 

《海皇の重装兵》

星2 水属性 海竜族

攻 0 守1600

 

《深海のディーヴァ》

星2 水属性 海竜族

攻 200 守 400

 

《イマイルカ》

星2 水属性 海竜族

攻1000 守1000

 

「一気にモンスターを3体も!?」

 

「どんなもんじゃい! ――じゃが、《海皇の咆哮》を発動したターンはワシはモンスターを特殊召喚できんがの!」

 

 しかし今は城之内のエンドフェイズだ。あまり意味はないデメリットである。

 

「さらに永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の効果も使わせて貰うぜよ!」

 

「なにっ!? ソイツは俺のサイコ・ショッカーの効果で無効にされてる筈!?」

 

 城之内の言う通り、《人造人間-サイコ・ショッカー》の前ではいかなる罠も意味をなさない。だが例外的なものもある。

 

「いや、無効化される前に除外した《海皇の狙撃兵》をフィールドに戻すだけじゃ! コイツは特殊召喚じゃなく『戻す』じゃけぇ速攻魔法《海皇の咆哮》のデメリットとは無関係じゃ!」

 

 既に「終わった効果処理」は後から無効化されようにも止まりはしない。

 

 速攻魔法《海皇の咆哮》の呼びかけに応じた3体の海竜族たちの列に並ぶ《海皇の狙撃兵》。

 

《海皇の狙撃兵》

星3 水属性 海竜族

攻1400 守 0

 

「さらに前のターンに発動した速攻魔法《海竜神(リバイアサン)の怒り》で封鎖されたお前のモンスターゾーンの封鎖が解けるぜよ」

 

 これで城之内を縛る制限はない――だが城之内のターンは既に終わっている為、今すぐどうこう出来る話ではないが。

 

 

 

「まさか《伝説のフィッシャーマン》が倒されるとはのう……やるな、城之内! じゃが海の男はこのままじゃ終わらんぜよ! ワシのターン! ドロー!」

 

 エース格が次々と倒されたにも関わらず、まだまだ気力十分な梶木の姿に城之内は気を引き締める。

 

 先のターンでモンスターを全滅させたにも関わらず、今の梶木のフィールドには低ステータスとはいえ、モンスターが4体――どうとでも挽回できる布陣だ。

 

「ワシは墓地に残った最後の《フラッピィ》の効果を使って、墓地の《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》を蘇生じゃ!!」

 

 最後の《フラッピィ》の力により三度舞い戻る《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》。

 

 その瞳には海と真正面からぶつかり合う城之内を認めるかのような色が映る。

 

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》

星7 水属性 海竜族

攻2600 守1500

 

 だが梶木は内心で渋い顔をつくる。

 

――ここで《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》の効果をお見舞いしてやりたいが……

 

 城之内のフィールドの《人造人間-サイコ・ショッカー》を視界に入れる梶木。

 

――《人造人間-サイコ・ショッカー》の罠封じの効果で永続罠《忘却の海底神殿》の自身を《海》と扱う効果は無効になっとる……なら!

 

「ワシはここで魔法カード《マジック・プランター》の効果で永続罠《忘却の海底神殿》を墓地に送り2枚ドロー!!」

 

――何も全て吹き飛ばすだけが芸じゃないぜよ!

 

 崩れていく海底神殿を余所に新たに引いたカードで戦法の切り替えに踏み切った梶木だが、すぐさま城之内の声が響いた。

 

 

「待ちな、梶木!! なら俺はコイツを使うぜ! 速攻魔法《月の書》を発動! フィールドのモンスター1体を裏側守備表示にする! 俺は《人造人間-サイコ・ショッカー》を裏側守備表示に!」

 

 《人造人間-サイコ・ショッカー》がヒラリとその身を翻し、カードの裏側を手で持って身を伏せて裏側守備表示になる。

 

 

――このタイミングで《人造人間-サイコ・ショッカー》の罠封じの効果を捨てたじゃと!? ……なら城之内の最後のセットカードは罠カードか! じゃが使わせん!

 

 その姿に梶木は僅かに思考に耽るも、取る手は変わらない。

 

「ワシは墓地の《海皇龍 ポセイドラ》の効果を使うぜよ! このカードはワシのフィールドのレベル3以下の水属性モンスター3体をリリースして、墓地から特殊召喚できるんじゃ!」

 

 地面から間欠泉のような水柱が3つ立ち上る。

 

「ワシはフィールドの《海皇の重装兵》と《海皇の狙撃兵》! そして《深海のディーヴァ》の3体をリリースし――」

 

 その水柱にその身を捧げる3体のモンスターたち。そして――

 

「――海の王者よ! 暴風となりて! 真なる力を示せ! 来いっ! 《海皇龍 ポセイドラ》!!」

 

 その3つの水柱が一つになり、そこから《海皇龍 ポセイドラ》が怒りの咆哮を上げながらフィールドに再臨した。

 

《海皇龍 ポセイドラ》

星7 水属性 海竜族

攻2800 守1600

 

「自身の効果で特殊召喚に成功した《海皇龍 ポセイドラ》の効果を発動じゃァ!!」

 

 《海皇龍 ポセイドラ》を起点に周囲に暴風が吹き荒れる。

 

「フィールドの魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す!!」

 

「なんだと!?」

 

 その強力な効果に城之内は驚くが、それだけではない――「海皇」たちの効果も城之内を襲う牙となる。

 

「さらに! 水属性モンスターの効果によって墓地に送られた《海皇の重装兵》と《海皇の狙撃兵》の効果も発動じゃ!」

 

 最後の力を振り絞り大盾を構えた《海皇の重装兵》とボウガンで狙いを定める《海皇の狙撃兵》。

 

「それぞれの効果により《海皇の重装兵》は表側のカード――装備魔法《天命の聖剣》を! 《海皇の狙撃兵》は城之内のセットカードを破壊するぜよ!!」

 

 このデュエル中、城之内の危機を救ってきた《天命の聖剣》と最後の頼みの綱のセットカードが今、砕かれる。

 

「させっかよ!! 俺はその効果にチェーンして、最後のリバースカードオープン! 罠カード《重力解除》を発動! フィールドの全ての表側のモンスターの表示形式を変更する!」

 

 

 そしてチェーンは逆処理され――

 

 

 罠カード《重力解除》の効果で梶木の《海皇龍 ポセイドラ》と《イマイルカ》が超重力により地面に叩きつけられ守備表示になる。

 

 それは城之内の《ギルフォード・ザ・レジェンド》と《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》も例外ではない。

 

 

 そして《海皇の狙撃兵》が城之内のセットカードに向けて放った水の銃弾は城之内のセットカードが既に発動されていた為に、明後日の方向へと飛んでいき、

 

 《海皇の重装兵》の特攻が、装備魔法《天命の聖剣》を《ギルフォード・ザ・レジェンド》の手から弾き、

 

 最後に《海皇龍 ポセイドラ》の効果で残ったフィールドの魔法・罠カードを全て持ち主の手札に弾き飛ばした。

 

 だが《海皇龍 ポセイドラ》の放った暴風はそれだけでは終わらない。

 

「さらに! 《海皇龍 ポセイドラ》の効果で3枚以上のカードを手札に戻したとき、城之内! オメェのフィールドのモンスターの攻撃力を戻した数×300ダウンさせるぜよ!!」

 

 《海皇龍 ポセイドラ》の効果によりそれぞれの手札に戻ったのは――

 

 城之内のフィールド魔法《融合再生機構》と装備魔法《聖剣カリバーン》。

 

 梶木の永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》。

 

 この3枚――条件は満たしている。

 

「戻したカードはちょうど3枚じゃ! よって900ポイントダウンじゃ!」

 

 《海皇龍 ポセイドラ》の雄叫びと共に暴風は《ギルフォード・ザ・レジェンド》と《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》の力を削り取っていく。

 

《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》

攻3200 → 攻2300

 

 そして《ギルフォード・ザ・レジェンド》の剣は暴風に吹き飛ばされ、城之内の足元に突き刺さる。

 

《ギルフォード・ザ・レジェンド》

攻3100 → 攻2600 → 攻1700

 

「だが俺のモンスターは全員守備表示! 大した意味はねぇぜ!!」

 

 3体のモンスターの守りを突破するのは容易ではないと返した城之内だが、梶木の奥の手は此処からであった。

 

「そいつはどうじゃろうな! ワシはこのカードを発動じゃ!」

 

 そして発動されるのは――

 

 

「――魔法カード《蛮族の狂宴LV(レベル)5》!!」

 

 

「なにっ! そのカードは!?」

 

 城之内も良く使うカード《蛮族の狂宴LV(レベル)5》を梶木が使ったことに目を見開く城之内。

 

「なにもお前だけのカードじゃないぜよ!! ワシはこのカードの効果で墓地のレベル5の戦士族モンスターを2体まで特殊召喚!!」

 

 水飛沫が2つ上がり――

 

「戻ってこい!! 《伝説のフィッシャーマン》! 《伝説のフィッシャーマン二世》!!」

 

 そこから飛び出したのはシャチに乗った漁師の師弟――そして親子のような《伝説のフィッシャーマン》と《伝説のフィッシャーマン二世》。

 

《伝説のフィッシャーマン》

星5 水属性 戦士族

攻1850 守1600

 

《伝説のフィッシャーマン二世》

星5 水属性 戦士族

攻2200 守1800

 

「お前も知っての通り、《蛮族の狂宴LV(レベル)5》で呼んだモンスターは効果が無効化され、このターンは攻撃できんぜよ!」

 

 しかしこれで梶木のフィールドに水属性のモンスターが追加された。よって――

 

「じゃが、フィールドの水属性モンスターを2体墓地に送ることで《城塞(じょうさい)クジラ》も何度でも蘇る!」

 

 《城塞(じょうさい)クジラ》の重低音のいななきが空気を震わせる。

 

「ワシは《イマイルカ》と《伝説のフィッシャーマン二世》をリリースして、特殊召喚!!」

 

 《イマイルカ》と《伝説のフィッシャーマン二世》が天へと跳躍し、宙で水となって弾ける。

 

「――再浮上せよ!! 《城塞(じょうさい)クジラ》!!」

 

 やがてそこに浮かび上がったのはその巨体で悠然と眼下を見下ろす《城塞(じょうさい)クジラ》。

 

城塞(じょうさい)クジラ》

星7 水属性 魚族

攻2350 守2150

 

 

 これで梶木のフィールドには攻撃力2000オーバーのモンスターが3体。

 

 

「だ、だが! ソイツだけじゃ俺の布陣は――」

 

 しかし城之内のフィールドも3体のモンスターが守りを固めている。

 

 梶木にも4体目のモンスターである《伝説のフィッシャーマン》がいるが、《蛮族の狂宴LV(レベル)5》のデメリットにより攻撃には参加できない。

 

 

 ゆえに城之内の布陣を突破してもダイレクトアタックには届かない――そう、「このまま」なら。

 

 

「慌てるな、城之内! オメェに真の海の男を見せてやる!!」

 

「真の海の男!?」

 

 梶木から飛び出した謎のフレーズに思わず聞き返す城之内。

 

 梶木のフィールドに並ぶ《城塞(じょうさい)クジラ》、《海皇龍 ポセイドラ》、そして《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》という切り札クラスのカードが並ぶ中に更なる切り札クラスのカードが並ぶのかと。

 

「そうじゃ! このカードはワシのフィールドの《伝説のフィッシャーマン》をリリースすることで、更なる力を宿す――まさに究極の海の男のカードじゃ!!」

 

 歴戦の海の男が更なる試練を掻い潜り、辿り着く境地。

 

「ワシはフィールドの《伝説のフィッシャーマン》をリリースして特殊召喚!!」

 

 《伝説のフィッシャーマン》が天へ加速していき、その身を更なる次元へと高めていく。

 

「――積み重ねた年月が! 伝説を更なる次元へと押し上げる! 見ろッ! 海の男が辿り着いた境地!!」

 

 やがて天から光の柱が梶木の背後に立ち――

 

 

 

「――《伝説のフィッシャーマン三世》!!」

 

 

 

 そこから真なる姿を現すのは額に赤いクリスタルが光る強靭に、そしてより巨大な姿となったシャチ。その巨体が躍り出る。

 

 その背には(もり)をボウガンに装着した得物を持つ若さ溢れる海の男の姿がある――だが、その瞳は長きに渡り紡がれてきた教えに基づいた老獪さが見て取れた。

 

《伝説のフィッシャーマン三世》

星7 水属性 戦士族

攻2500 守2000

 

 その攻撃力は2500――絶対的に高いと言うわけではない。だが城之内は如実に感じとっていた。

 

「なんだよ……このカードは……」

 

 《伝説のフィッシャーマン三世》から発せられる強大なプレッシャーを。

 

「これぞ海の男の中の男! 《伝説のフィッシャーマン三世》じゃ!」

 

 梶木の力強い声が城之内の意識を引き戻す。

 

「そして《伝説のフィッシャーマン三世》は戦闘・効果で破壊されず、魔法・罠のカードも受けん! 文字通り、あらゆる困難をものともせず! 決して倒れぬ海の男ぜよ!!」

 

 しかし意識を引き戻した城之内が聞いたのは、絶対的ともいえる《伝説のフィッシャーマン三世》の耐性効果――その前には殆どのカードが無力だ。

 

「その力を見せちゃる!!」

 

 だが《伝説のフィッシャーマン三世》の力はそれだけではない。

 

「特殊召喚に成功した《伝説のフィッシャーマン三世》の効果発動!! 相手フィールドのモンスターを全て除外する!!」

 

 その梶木の声と共に巨大なシャチへと合図を送った《伝説のフィッシャーマン三世》が城之内とそのモンスターの視界から消えた。

 

「なんだと!?」

 

 驚く城之内を余所に《伝説のフィッシャーマン三世》は空中で3つの(もり)をボウガンで射出し、《ギルフォード・ザ・レジェンド》と《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》、そして裏側守備表示の《人造人間-サイコ・ショッカー》をその場に縫い付ける。

 

 そして身動きの取れなくなった3体のモンスターたちは突如として姿を現した巨大なシャチに横合いから次々に喰いつかれ、海へと沈められていった。

 

「俺のモンスターが……!!」

 

 梶木のフィールドに泳ぎ戻った巨大なシャチに着地した《伝説のフィッシャーマン三世》は静かに城之内を見据える。

 

「じゃが、安心せい城之内――この効果を使ったターン、《伝説のフィッシャーマン三世》は攻撃できん」

 

 しかし梶木のフィールドには他の3体の攻撃力2000オーバーのモンスターがいる為、安心など出来るものではない。

 

「さらに相手の除外されたカードを全て墓地に戻すことで、そのターン相手が受ける戦闘・効果ダメージを1度だけ倍に出来る!!」

 

 とはいっても、城之内のライフは僅か950――使う必要はない。

 

「――が、城之内! オメェの除外されたカードは墓地に戻すと厄介じゃから、この効果を使いはせんがの!」

 

 それに加え、城之内の除外されたカードの中には墓地にあってこそ真価を発揮するカードも多い為、下手にこの効果を使えば梶木の首を絞めることになることは明白だった。

 

「邪魔者の掃除だけで十分じゃ! バトル!! 《城塞(じょうさい)クジラ》!! 城之内に止めのダイレクトアタックじゃ! ボンバー・エアレイド!!」

 

 先のターンの雪辱を果たすべく《城塞(じょうさい)クジラ》の背中の砲門が城之内へと照準が合わせられる。

 

そして砲弾による爆撃が敢行された。城之内の視界を奪うほどに降り注ぐ砲弾の雨。

 

 

 

 しかしその城之内の前に光が灯る。

 

「終わってたまるかよ!! 俺は墓地の永続罠《光の護封霊剣》を除外して効果発動! このターン、相手モンスターのダイレクトアタックを封じる!!」

 

 光の正体は光で構成された十字の剣、《光の護封霊剣》。その《光の護封霊剣》が《城塞(じょうさい)クジラ》の砲弾の雨から城之内を守るように盾のように立ち塞がる。

 

 

 周囲を爆炎が覆ったが、その煙が晴れた先の城之内は健在――そして《光の護封霊剣》も立ち塞がるような輝きは衰えてなどいない。

 

「まだ防御カードを隠しとったか!」

 

「これが最後の最後だけどな……」

 

 そう梶木に返した城之内の言葉通り、城之内の墓地の攻撃を防ぐようなカードは品切れだ。文字通り後がない。

 

「ならワシはカードを1枚セットしてターンエンドじゃ」

 

 梶木が伏せたのは当然、《海皇龍 ポセイドラ》の効果で手札に戻った城之内に苦境を課してきたカード永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》。

 

 このカードの発動時に《海》は何度でも舞い戻るのだ。

 

「このエンド時に前のターンに永続罠《忘却の海底神殿》で除外した《海皇の狙撃兵》が戻ってくる予定じゃったが、肝心の永続罠《忘却の海底神殿》が既にないから不発じゃ」

 

 防御カードだけでなく、ギャンブルカードも出し尽くした模様の城之内の姿はまさに虫の息――だが梶木はここで手を抜くつもりなど毛頭ない。

 

「さしずめ、これが最後のターンってヤツじゃな」

 

 そんな梶木の声に城之内は返す言葉はない。

 

 次の城之内のターンで最低でも《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》をどうにかしなければ、全体破壊効果で何を呼ぼうとも全て吹き飛ばされてしまうのだから。

 

 

 今の城之内の手札は5枚と多いが、その内の3枚は既に中身の割れたもの。この状況を打破できるカードではない。

 

 ゆえに実質の手札は2枚――少し心もとない。

 

 

「――ッ!! 俺のターン! ドロー!」

 

 だが城之内の瞳に諦めなど見られはしない。城之内の知る「真のデュエリスト」たちはどれ程のピンチでも前を向くのだから。

 

「墓地の《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》の効果を発動!」

 

 《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》が城之内の闘志に呼応するように赤く輝く。

 

「墓地のレベル7以下のレッドアイズ――《真紅眼の遡刻竜(レッドアイズ・トレーサードラゴン)》をデッキに戻して、墓地の《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》を回収!」

 

 そしてその赤き鼓動が城之内の手札に加わった。

 

「俺はカードを1枚セットして、魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いは手札を全て捨てて、捨てた分だけドローだ!!」

 

 新たに5枚のカードを引いた城之内――文字通り最後のドローになるやもしれないが、城之内に迷いは見えない。

 

 

 その城之内の闘志にデッキは応えるが、まるで城之内を試すような手札だ。

 

――これは!? 一か八かになっちまうが……行くしかねぇ!!

 

 

「俺は手札から《ジャンク・ブレイカー》を通常召喚!!」

 

 六角ボルトに棘の付いたハンマーを手に黒いマントをはためかせて着地するのは銀色の身体を持つ戦士。

 

《ジャンク・ブレイカー》

星4 地属性 戦士族

攻1800 守1000

 

「そして《ジャンク・ブレイカー》の効果を発動! このカードを召喚した俺のメインフェイズにこのカードをリリースすることで――」

 

 その《ジャンク・ブレイカー》はハンマーを振り上げ――

 

「――フィールドの表側表示のモンスターの効果をターンの終わりまで全て無効にする!!」

 

 己の命を燃やすかの如く力を込めて地面へと振り降ろす。

 

魔 封 鎚(ハンマー・オブ・スリーピング)!!」

 

 地面に叩きつけられたハンマーの衝撃はフィールド全体の大地を揺らし、空間を押しつぶすような力場を生みだし梶木の4体のモンスターたちを地に縫い付ける。

 

 

「ワシのモンスターが!?」

 

 梶木が海を味方に付けるというのなら、城之内は大地を味方に付けた一撃。

 

 

「さらに魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地のモンスターを1体蘇生させる! 来いっ! 《鉄の騎士 ギア・フリード》!!」

 

 地上に降ろされた梶木のモンスターたちに対峙するのは、全身を隙間なく黒い鎧で身を固めた《鉄の騎士 ギア・フリード》。

 

《鉄の騎士 ギア・フリード》

星4 地属性 戦士族

攻1800 守1600

 

「ソイツで攻め込む気か城之内! じゃが、お前のセットした装備カードを装備したとしても、攻撃力は足りんぜよ!!」

 

 城之内が《手札抹殺》の前に伏せたカードを言い当てる梶木――しかし少し違う。装備させるのは《鉄の騎士 ギア・フリード》であって、《鉄の騎士 ギア・フリード》ではない。

 

「梶木! お前が『伝説』の真の海の男で来るなら、俺は『伝説』のソードマスターで迎え撃つぜ!」

 

「伝説のソードマスター?」

 

 オウム返しに尋ねた梶木に城之内は誇るように語る。

 

「おうよ! デュエルモンスターズ界にはな――その昔、そのあまりの強さゆえに『敵無し』とまで言われたソードマスターが居たんだぜ!!」

 

 その剣士は鍛え上げた肉体と剣技だけで数多の相手から勝利を勝ち取ったという。

 

「その『伝説』の戦士の剣は! 『天』を割り、『地』を砕き――『海』すら裂いた!!」

 

 そのあまりの巨大な力はいらぬ争いの火種になる程であった。

 

「あまりの強さに、自らに枷を課す必要すらあった程だ!! その枷を! 封印を! 今、解き放つ!!」

 

「枷じゃと? ――ッ! ま、まさか!?」

 

 城之内の言った「枷」との言葉に梶木は《鉄の騎士 ギア・フリード》を再度視界に入れる。

 

 《鉄の騎士 ギア・フリード》の全身を覆う鎧は防具ではなく、「枷」である可能性に辿り着いた梶木。

 

 

「魔法カード《拘束解除》を発動!!」

 

 

 《鉄の騎士 ギア・フリード》の全身を覆う黒い鎧が音を立ててひび割れていき、その隙間から光が溢れる。

 

「俺のフィールドの《鉄の騎士 ギア・フリード》をリリースすることで、手札またはデッキから真の力を解き放つ!!」

 

 そしてその鎧のヒビは全身に広がっていき――

 

 

 

 

 

 砕けた。

 

「――枷を解き放ち、現れよ! ソードマスター!! 《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》!!」

 

 周囲に鎧の残骸を吹き飛ばしながら現れた鋼の如き肉体を持つ戦士が雄叫びを上げ、空気を震わせる。

 

 その装備は腰布と手足のバンテージ程度――その動きを、力を阻害するものは何もなく、雄叫びにより伸びきった黒い長髪が揺れていた。

 

剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》

星7 光属性 戦士族

攻2600 守2200

 

 ここに舞い戻った伝説の剣士――海の猛者たちを前にしてもその心は揺れはしない。

 

「ここで! 《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》に装備魔法《神剣-フェニックスブレード》と《メテオ・ストライク》! そしてセットしておいた《聖剣カリバーン》を装備!!」

 

 《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》の手に不死鳥の力を持つ剣が、星の力が、そして王の風格漂う剣が装備されていく。

 

剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》

攻2600 → 攻3100 → 攻3400

 

「この瞬間! 《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》の効果発動! このカードが装備カードを装備した時、相手モンスター1体を破壊する!!」

 

 《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》に装備されたカードは3枚。よって――

 

「《海皇龍 ポセイドラ》と《城塞(じょうさい)クジラ》、そして《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》を破壊!!」

 

 《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》は剣を手に突き進む。

 

 

 《海皇龍 ポセイドラ》の牙を、爪を、そして尾の先の槍すらも剣でそれらの切っ先を僅かに逸らし最低限の動きで捌き、懐に入り込んで一刀の元に断ち切り、

 

 

 《城塞(じょうさい)クジラ》から放たれる砲弾の壁を3本の剣で寸分なく切り裂きながら突き進み、

 

 

 最後の手段と《城塞(じょうさい)クジラ》の巨大な角による一撃も、その剣で受け止め、角と共にその巨体も両断し、

 

 

 そして《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》の水のブレスも切り裂いて跳躍。頭上から兜割りの如く剣を振り下ろす。

 

「させんぜよ! リバースカードオープン! 永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》!」

 

 だが、《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》はその長大な身体を地面に鞭のように叩きつける。

 

「このカードを発動した際に《海》を発動させる! 墓地の《海》として扱う墓地のフィールド魔法《伝説の都 アトランティス》を発動じゃぁ!」

 

 その瞬間に、その地面から間欠泉のように勢いよく海水が噴出し、周囲を海に変えていき――

 

「さらに《海》があるとき、1ターンに1度! ワシの水属性モンスターを1体除外して、ワシの表側の魔法・罠カードが破壊されんようになるぜよ!」

 

 そして《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》の剣があと僅かで《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》に届く寸前に――

 

「躱すんじゃ! 《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》!!」

 

 《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》は海に潜り、その姿を隠した。

 

「くっ……よりにもよってダイダロスが!?」

 

「如何に『伝説の戦士』と言えども、海の底までは追ってこれんじゃろ!」

 

 城之内が確実に仕留めて置きたかった《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》は今や海の底ならぬ、除外ゾーンの中――《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》の剣は届かない。

 

 

「そして《ジャンク・ブレイカー》の効果で《伝説のフィッシャーマン三世》の効果が無効になったことで、フィールド魔法《伝説の都 アトランティス》のパワーが受け取れるぜよ」

 

 海に降り立った《伝説のフィッシャーマン三世》は久しく受けた海の恩恵に己が力を高めていく。

 

《伝説のフィッシャーマン三世》

攻2500 守2000

攻2700 守2200

 

「これで、よしんばネイキッド・ギア・フリードの攻撃で《伝説のフィッシャーマン三世》を破壊出来てもワシのライフは500ばかり残るぜよ! それだけあれば十分じゃ!!」

 

 梶木の言う通り、3400までその攻撃力を上げた《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》の攻撃が通っても、梶木の残り1200のライフは削り切れない。

 

 

 しかし意味のない仮定だ。今の梶木には永続罠《潜海奇襲(シー・ステルス・アタック)》の恩恵があるのだから――ゆえに単純な攻撃力は無力。

 

 先のターンでモンスターを破壊から守る装備魔法《天命の聖剣》を失ったことが尾を引いている。

 

 

 そんな中で梶木はポツリと呟く。

 

「じゃが一つ聞くぜよ、城之内――なんで攻撃力の高い方の《伝説のフィッシャーマン三世》を破壊せんかったんじゃ?」

 

 梶木のフィールドで攻撃力が一番低かったのは《城塞(じょうさい)クジラ》だ。

 

 どちらにせよ梶木のライフは僅かに残るが、普通はダメージの多い選択をするもの。

 

 

 さらに《城塞(じょうさい)クジラ》も仲間を守る厄介な効果を持っているが、《伝説のフィッシャーマン三世》はそれを上回るあらゆる破壊をも通じぬ絶対的な守りを持つ。

 

 先程の城之内の状況ならば、《伝説のフィッシャーマン三世》の効果が《ジャンク・ブレイカー》の力で無効になっている隙に破壊しておくべきだと梶木は語る。

 

「いや、違うぜ梶木……」

 

 しかしそうポツリと零す城之内――そう、梶木の推測は「前提」から間違っていた。城之内の最後の一手は――

 

 

「俺は《伝説のフィッシャーマン三世》も『破壊するつもり』だ!」

 

 まだ終わってはいない。

 

「俺にはこのターンしか残されてねぇからよ!!」

 

 梶木の手札は0――だが、このターンのエンドフェイズに戻ってくる《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》の存在。

 

 次のターンで発動される効果を防ぐ手は今の城之内にはない。

 

 

 ゆえに城之内には文字通り、後などないのだ。

 

「俺は! 墓地の最後の魔法カード《シャッフル・リボーン》を除外して、フィールドの《メテオ・ストライク》をデッキに戻してカードを1枚ドローする!!」

 

 《剣聖(けんせい)-ネイキッド・ギア・フリード》が装備する星の力が光の粒子となって天へと昇っていく・

 

 

「梶木…………もし俺が今、引くカードが装備カードだったら、どうだ?」

 

 これこそが城之内の最後の最後の一手。その城之内の狙いを察した梶木は挑発的に笑う。

 

「成程の――まさに最後の大博打ってわけじゃな!」

 

 そう、このドローは最後の城之内のギャンブル――このドローで装備魔法を引かなければならない。

 

 城之内の残りデッキはそう多くはないが、だとしてもその中で装備魔法を引く確率は決して高くはない分の悪い賭けだ。

 

 

 そして梶木の言葉に軽く城之内は頷き、デッキに手をかける。その城之内の手が僅かに震えているのは恐れゆえか、それとも武者震いか。

 

 

「ッ!! ――ドロォオオオオ!!」

 

 やがて城之内は己がデュエリストの全てを込めてカードを引き抜いた。

 

 

 

 天がほほ笑むのは果たして――

 

 






大漁旗 鉄平「えっ!? ちょっと待って貰えます!? 此処で《伝説のフィッシャーマン三世》が使われたってことはワイのデッキはどうなるんでっか!?」


伝説のフィッシャーマン三世「安心しろ! 鉄平殿のデッキはキチンと『ある』とのことだ!! ただ出番が遥か先過ぎるだけで!!」




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