歩兵の本領   作:ジョニー一等陸佐

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 作者は歴史に疎いです。間違っているところあったらすみません。


信念

 ラッパの音とともに午前六時に起床する。この生活もあと少しで終わりであることを陸上自衛隊員倉岡勝一三等陸尉はベッドの整理をしながら思った。彼は五十四歳を迎え、あと少しで退役の予定だった。

 思えばよくここまでやってこられた。なにしろ一九五〇年の警察予備隊設立から始まって一九七〇年の現在に至るまで自衛隊の世間からの風当たりは冷たかった。そのうえ今は学生運動が盛んになってきている。巷の話ではどこか他の自衛隊員が、デモ隊の学生らに殺害される事件を聞いた。

 グラウンドに整列して体操をして、朝食を食べるまでの間、自分はなぜ自衛隊に入ったのだろうと思った。

 自衛隊の給料はそれほど高いというわけではないし、何かで優遇されるというわけでもない。ましてや、自分は入隊前には旧日本軍に籍を置いていた。南方の島々に送られ激戦をやっとのことで生き抜いた。普通の人なら戦争はもううんざりだといって、そんなところには入らなさそうなものだが。かくいう自分もそうで、終戦後はそんなところとは無縁の農作業やら工場働きをして職を転々としていたが、どういうわけかどれも長続きしなかった。気づけば、自衛隊に舞い戻っていた。

 ほかに行き場がなかったからか。果たしてそうだったのか。本当にそれだけか。どうも腑に落ちない。

 ふと旧日本軍にいたときよく歌った歌を思い出した。

 

 万朶の桜か襟の色 花は吉野に嵐吹く 大和男子と生まれなば 散兵戦の花と散れ

 

 「歩兵の本領」。この歌に何か答えがありそうな気がしたが、何が答えなのかは分からなかった。考えるのはやめにした。訓練のことを考える。

 駐屯地の外には桜の木があったが、まだほとんどつぼみだった。

 

                   

 日曜の朝。本来ならオフの日だが、今日は上からの命令で別の駐屯地に出向くことになった。

 制服に着替え隊舎を出、街に出る。歩きながらふと町の様子を見る。人が歩き、生活をしている。日常があった。

 倉岡はそれを見ながらまたぼんやりと考え事をしていた。考えていた、というより思い出していたといったほうが正しいだろう。倉岡はいままでの自衛隊員としての人生、そして旧日本軍の兵士としての人生のことをゆっくりと歩きながら思い出していた。

 陸軍士官学校に合格した時の喜び。

 シナ大陸での初めての実戦。

 マレー半島での激戦。

 友との別れ。 

 捕虜として迎えた終戦。

 行き場がなく自暴自棄になっていた敗戦直後。

 警察予備隊への入隊。

 すべてが、はっきりと夜明けの日差しのように思い出された。

 そこまで思い出してやはりどうしても考えることがある。なぜ自衛隊に入ったのか?行き場がないから?安定した生活からか?自分の中に、旧日本軍への執着があったのか?なぜ自衛隊が嫌われる時代だというのにわざわざ?何度も何度も考える。だがわからない。

 こんなことを考えても仕方がないだろう。それで何かが満たされるというわけではない。だが退役間近のこの身だ。思い残しとか、未練とか、そういうものはい一切残さずにいたほうがいい。

 何か騒がしい雰囲気を感じてふと見ると、大学生だろう若者たちが大学の正門の前に集まり集会をしていた。

 「しかるに、国家権力とは・・・」

 何やらいろいろと大声で叫んでいるが人々は何もないように普通に通り過ぎている。いや、よく見ると彼らを避けているようにも見えた。なにしろ彼らはイデオロギーに心酔し、それを肥え太らせるためなら警察相手に平気で投石したり火炎瓶を投げたりする連中だ。関わりたくないとでも思うのは普通のことだろう。

 倉岡もそう思っていたし、それにこういう輩は好きではない。そのまま避けて通り過ぎようとした時、手が学生の一人にとん、と当った。

 学生が振り返る。

 しまった。

 学生はなにかいやなものでも見るような目で言った。

 「あんた、自衛隊か?」

 出てきた言葉に倉岡は厄介なことになったと思った。なにしろ相手は自衛隊とかそういうものが嫌いな連中だ。どうにかやり過ごそうとする。

 「そうだが・・・こんな爺さんを相手にしたって仕方ないぞ」

 「そんなのは問題じゃない。この税金泥棒め」

 からまれたようだ。仕方がない。

 「君、名前は?自分は倉岡勝一というが・・・」

 「朝川。朝川通。」

 「じゃあ、朝川君もう一度言うがこんな爺さんを相手にしてもしょうがなし、君は学生だろう?こんなことしてないで学業に励んだらどうだ」

「あんたには分からんみたいだな。こっちの革命の理念が。」

「革命だがなんだが分からんが、私はここで失礼させてもらうよ。急いでいるんでね」

「憲法を踏みにじって、税金を盗んで、恥だと思わないのか」

朝川は倉岡を睨みつけながら問い詰める。

「それは君の勘違いだよ。我々はあくまで任務に従っているに過ぎない。そういう問題はもっと上の人間に話したらどうなんだ。じゃあ、わたしはこれで」

「あっ」

学生の何人かがこちらを見ていた。これ以上いたらこっちが危ない。

逃げたほうが良さそうだ。

体を回し、走り去る。

もう五十を超える年齢だったが、自衛隊員だからなのだろう、体力には自信があった。

 少し走ると、さっきの学生たちの喧騒は聞こえなくなっていた。

 前を見ると、目的の駐屯地が見えた。

 

 なぜ、こうも唾を吐かれる存在の自衛隊に入隊したのだろう。

 倉岡はわからなかった。

 ふと、またあの軍歌が思い出された。

 歩兵の本領。

 

 アルプス山を突破せし 歴史は古く雪白し 奉天戦の活動は 日本歩兵の粋と知れ

 

 もしかすると、自分はもう一度やり直したかったのかもなと思った。

 

                 

 駐屯地を出ると、すでに空は暗くなっていた。

 思ったよりも用事に時間がかかってしまった。

 このまま隊舎に一直線に戻るか。それとも居酒屋にでもよるか。そんなことを考えながら、ぶらぶらと歩いて行った。

 ふと、どこかで悲鳴が聞こえたような気がした。

 声がしたのはビルの間の路地からだった。

 走って向かうと、倉岡はこいつはやばい状況だな、と瞬時に理解した。

 簡単に言えば学生らしき人物が不良に暴行を加えられている、ということだった。

 学生は「うう・・・」とうめき声をあげている。ところどころ痛ましい傷を見せて横たわっている。その顔を見て倉岡は、あっと声をあげそうになった。その学生は昼に、自分に絡んできた学生、朝川人だったからだ。

 「生意気な口ききやがって」

 茶髪の、ガラの悪そうな男たちが横たわる朝川の体にさらに暴行を加え続ける。

 何をすべきかはすぐに分かった。 

 暴行を加えている人間は2人。すでに老体のこの身だが、不良に制裁を加えることぐらいはできる。

 気づいた時には一人の不良のみぞおちにパンチをくらわせていた。

 げっという声にもならない声を出して崩れ落ちた。他愛もない奴だ。もう一人は何が起こったのか困惑していたが、すぐに「てめえ!」とさけんで殴り掛かってきた。

 すぐに避ける。腕をつかんで背負い投げ。投げられた不良の体が、倒れた不良の体に重なる。

 「歩けるか?」

 そういって倉岡は朝川を肩に背負い、その場をすぐに離れた。

 

 どれくらい歩いただろう。街の境にかかる橋のところまで来ていた。彼らが追ってくることはなかった。

 「大丈夫か?」

 朝川はただうなずいた。

 「その様子なら大丈夫そうだが、とりあえず、病院行っといたほうがいいぞ」

 そのまま倉岡は立ち去ろうとした。もうそろそろで門限かもしれない。早いところ戻ったほうがいいだろう。

 「なあ」

 ふと後ろから声をかけられた。

 朝川だった。

 「なんで俺を助けたんだ」

 「なんでそんなことを聞くんだ」

 「そりゃ当然だろう。あんたもう爺さんだから何も無理することはないだろうし、俺たちはあんたら自衛隊の敵みたいなもんなんだぞ」

 朝川は昼の時のように倉岡を問い詰めた。だがその目に、昼のような、親の仇を見るような敵意はなかった。

 「昔だ」

 倉岡はポツリとつぶやいた。

 「昔私は旧日本軍にいたんだ。志願した理由はいろいろあった。単純にかっこいいと思っていたし、国を守りたいというのもあった。」

 倉岡はゆっくりと、かつての思い出を掘り起こしながら、朝川を見た。

 「そして戦争に行き、負けた。そしてもうたくさんだと思った。だが気づけば陸上自衛隊に入っていた。かつての場所に戻ってきたようなもんだ。なんで戻ってきたのか考えたよ」

 倉岡は自分が笑ったような気がした。

 「今日までわからなかった。だがお前のおかげでわかったような気がするよ」

 朝川はわからない、というように倉岡を見た。

 「私はただ守りたかったんだ・・・。任務として、そして私の信念として。」

 朝川はただ倉岡をじっと見るだけだった。

 倉岡は彼を一瞥した後、隊舎に向かって走って行った。

 

                

 今日が退役の日だ。

 自分の前に多くの部下が並んでいる

 隣で部隊長が叫んだ。

 「本日、倉岡勝一三等陸尉は退官なさる。倉岡三尉は、戦後日本の復興と安全保障のために尽力なさった。我々は倉岡三尉の功績に心から敬意と感謝を表するものである」

 それから部下たちや上官から別れの言葉を受け取った後、そのまま駐屯地の門から去って行こうとした。

 その時、前から誰かが歩いてきた。

 近づくと朝川だった。

 朝川の手には封筒が握られていた。朝川は倉岡に礼をした。

 「自分も信念を見つけました」

 一言だけ置いて、そのまま彼は駐屯地の門へと向かっていった。

 その様子を見て、倉岡はまたあの軍歌を思い出した。

 歩兵の本領。

 

 軍旗守る武士は すべてその数二十万 八十四か所にたむろして 

武装は解かじ夢にだも

 

 そうだ。たとえ日本軍が、自衛隊に変わろうとも。世間が我々を嫌おうとも。時代が変わろうとも。我々の任務と信念は変わりはしない。この国を、歴史を、人々を守る。そして武器は捨てようとも、その誇りまでは捨てはしない。決して。そしてその信念は誰かに受け継がれる。そして誰かを、何かを守り続ける。

 ようやく分かった。それが歩兵の本領だ。

 

 歩兵の本領ここにあり ああ勇ましのわが兵科 曾心の友よさらばいざ

 ともに励まん我が任務

 

 倉岡は深々と、礼をした後、また歩き出した。

桜吹雪が舞った。

桜は満開だった。

 




 最近、「総統が鎮守府に着任しました!」「ラブライブ!~ER IST WIEDER DA~」の更新が遅れていることをお詫び申し上げます。可能な限り早く更新しますのでもうしばらくお時間をください。
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