王朝戦乱記   作:藤種沟

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最近とても寒くなりました。

この新連載がすべらないといいな〜♪


突然のクーデター

今日、この国の王城は大忙しだった。

 

今日、この国の皇帝が、息子である皇太子に帝位を譲る式が王城で行われるのである。

 

「この国は我が一族で治めていく。そう天下に知らしめるのだ。」

 

「よろしいのですか?父上。まだ私には帝位につくほどの器量が備わっているとは思えません。」

 

今日から皇帝になる皇太子はそう父に尋ねた。

 

「いや、分からんことがあれば朕に聞けば良い。おぬしの為には、なるだけ早いほうが良い。」

 

この国の創設者である皇帝はそういった。

 

彼は貧しい農民から一国の皇帝にまで成り上がったカリスマだ。

しかし皇太子にはそのカリスマ性が父ほどないので、まだ自分が生きている間に帝位を譲り、国をますます盤石にしようという魂胆だ。

 

「皆の者、これからは新たな皇帝に忠節を尽くし、ますます国の為に働いてくれ。」

 

「はっ‼︎」

 

ここにいるのはほとんど国の創設メンバーで、いままで皇帝に忠節を尽くしてきた強者どもだ。

この強者たちと新たな皇帝が早く馴染めるように、というのも早めの譲位を決断した理由なのかもしれない。

 

 

 

この強者どもの中に、名臣 翔彦《なおみ かけひこ》という者がいた。

 

名臣は国の創設メンバーの中では一番若く、皇太子や皇太子の妹、月宮姫《つきのみやひめ》とも歳が近いため、もはや歳をとっていた他の創設メンバーからはとても期待されている。

 

「これからも国に忠節を尽くし、新たな皇帝陛下に全身全霊で尽くそうと思います‼︎」

 

その若武者はそう叫ぶように言った。

 

「ここにいる者たちはもう歳をとり、先は長くなかろう。朕の譲位を機に隠居する者もいると聞く。名臣翔彦、若き国の創設メンバーとしてしかと我が子を支えてくれ。」

 

「ありがたいお言葉。」

 

皇帝がそう言い終わると他の創設メンバーたちも名臣に激励の言葉をかけた。

 

「後はたのむぞ。」

 

「国はおぬしにかかっているぞ。」

 

その中に、まだ貧しかった名臣を、まだ国をつくる前の皇帝の家来に引き立ててくれた恩人、青龍寺 望麿《せいりゅうじ もちまろ》の姿もあった。

 

彼は国の創設メンバーの中では一番高齢で、皇帝よりもひとまわり歳が上だ。

 

「おぬしは皇太子殿下の次に責任が重くなる。覚悟はできておるか?」

 

「御意‼︎」

 

青龍寺はニコリと笑って肩に手をおいた。

 

名臣はその肩になにか重いものを感じたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵襲‼︎」

 

「謀反だ‼︎反乱だ‼︎」

 

いきなり叫び声が王城に響いた。

 

「何事か⁉︎」

 

皇帝が叫んだ。

 

「反乱でございます‼︎譲位の儀式に出席するはずの喜条 長盛《きじょう ながもり》が三万の軍勢を率いて王城に攻めてきました‼︎」

「何だと⁉︎」

 

「今続々と喜条軍が王城に浸入‼︎もうすぐそこまできています‼︎」

 

突然の出来事だった。

皆、譲位の儀式の準備で忙しく、反乱軍が攻めてきたのが気がつかなかったのである。

 

「ぬううう‼︎」

 

「陛下‼︎いかがいたします‼︎」

 

「父上‼︎」

 

皆、皇帝の顔を覗き込むようにして、言った。

 

「逃げるわけにはいかん。剣を持って戦うぞ‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

老将たちは武器を持って散り、反乱軍と戦った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ワアアア‼︎

 

王城のいたるところで乱戦が繰り広げられていた。

 

皇帝や皇太子、今まで国に尽くしてきた老臣らは必死に戦ったが、形勢は明らかに不利だった。

 

「先に王妃と月宮姫だけでも王城から脱出させたほうがよろしいかと。」

 

長老、青龍寺 望麿はそう助言した。

 

「うむ………よし、青龍寺は我が妃を、名臣は月宮を連れて王城より脱出せい‼︎」

 

この時名臣は少し嬉しく思った。

脱出できるからではなく、姫の脱出を自分がすることになったからである。

 

しかしこの一大事にそんなことを言っている場合ではない、と思い直し、名臣は皇帝に逆らった。

 

「陛下‼︎私はここで陛下と共に戦いとうございます‼︎姫を救い出すのは他の者に任せてください‼︎」

 

「案ずるな。朕はこの戦いでは死なん。今でなくとも朕に尽くすときは沢山あろう。」

 

皇帝はニコリと笑った。しかしその笑顔はどこか寂しげであった。

 

「なれど………なれど………」

 

皇帝の言っていることはうそだ。

もはや先に王妃と月宮姫だけでも脱出させなければ王家が全滅してしまう、というところまで来てしまったのだ。

皇帝が無事にすむはずがない。

 

「陛下、やはり私は………」

 

「これは勅命である‼︎」

 

皇帝は叫んだ。

 

「もし朕の命が聞けんというのであるならばおぬしも反乱軍とみなしここで首を切る‼︎」

 

皇帝は城が崩れんばかりの大きな声で叫んだ。

 

「名臣殿、ここは陛下の命に従いなさい。」

 

青龍寺がそう言った。

 

しばらくの沈黙の後、名臣は溢れ出る涙をこらえながら承諾した。

 

今まで尽くしてきた皇帝を救えず、自分だけ、姫を助けるためとは言え脱出するというのは名臣にとって受け入れがたい事実であった。

 

「青龍寺と名臣に朕から授けるものがある。」

 

皇帝はそういうと大きな鏡と剣を二人に手渡した。

 

「この鏡は太陽の鏡、剣は蛇の剣という。この二つの神器を持つ者こそが我が国の国王になる資格がある。これを反乱軍に渡すわけにはいかん。おぬしたちは姫と妃とともにこの神器も持っていってくれ。くれぐれも反乱軍に渡すなよ‼︎」

 

「御意。」

 

これが最後の皇帝への言葉だった。

 

「名臣殿、おぬしは月宮姫を救い出したらここから南に十里ほどのところにある砦に行きなさい。私も王妃を救い出したらそこに行く。そして蛇の剣を持っていってくれ。」

 

青龍寺の言葉に、また名臣はうつむきながら承諾した。

 

二人は皇帝のもとを離れた。

 

それが皇帝を見た最後であった。

名臣はその大きな体に似合わない速さで月宮姫の部屋に走っていった。姫の脱出というおそらく最後の勅命を受けた名臣はその最後の勅命を遂行しようと必死に走ったのだ。

部屋の近くには無数の反乱軍が溢れていたが、蹴散らしていち早く月宮姫のいる部屋にたどり着いた。

 

「姫‼︎大丈夫ですか⁉︎」

 

扉を開けた瞬間、何か重くてかたい棒のようなものが名臣の頭に落ちてきた。

 

ガンッ‼︎

 

「痛ああああ‼︎」

 

さすがの若武者も不意を突かれたらどうしようもない。

 

「おのれ反乱軍‼︎この私が成敗してくれる‼︎この変な顔‼︎」

 

姫のうっとりするような声で変な顔と言われたのは心にグサッときた。

 

「姫………私は姫を助けにきた者です。反乱軍ではありません………」

 

「うそつけ逆賊‼︎こんな変な顔の男が我が国の家来だとは思えませんわ‼︎」

 

グサッ

 

「姫………私はこの剣を陛下から預かりました。これが私が陛下の家来であるとの証拠です………」

 

名臣は泣きそうな声でそう言った。

 

姫はその剣をまじまじと見つめ、また、名臣の顔、そして名臣の鎧の紋章(皇帝直属の家来の印)もまじまじと見つめた。

 

青龍寺に皇帝の家来に引き立てられ、初めての仕事が歳の近い月宮姫の遊び相手であった名臣も、姫のぱっちりとした目に見つめられるとさすがに照れるものだ。

 

「確かにこの変な顔は父上の家来なのね。」

 

姫は二、三回頷くと名臣の方に振り向いて言った。

 

名臣は姫の振り向くときにさらりと動いた美しい黒髪に見とれた。

 

「で、私を助けにきたと?」

 

「は、はい‼︎」

 

はっ、とした名臣はぎこちなく返事した。

長く姫と接しているが名臣は姫の前だと緊張する。

 

「この城を脱出するの?」

 

「は、はい‼︎王城から南へ十里ほどのところの砦にとりあえず落ち延びます‼︎」

 

あまりの緊張のため、名臣は今クーデターが起きていることを忘れそうだ。

 

姫の遊び相手をしている時は姫の兄である皇太子もいつも一緒であったため、こうして二人きりで部屋にいるというのは初めてなのだ。

 

姫の部屋に、姫と二人きり………

 

名臣はしばしの妄想をしていたが、今は一大事だと、思い起こし、

 

「姫‼︎急ぎ王城から脱出しますぞ‼︎」

 

「でも部屋のまわりには反乱軍が………」

 

彼が部屋に来る頃には、もう反乱軍が部屋を包囲していた。

 

姫が心配そうに部屋の外をうかがう様子にまた名臣は心がキュンッとなった。

 

「心配無用。私が姫を守りながら敵を蹴散らし二人で走って………」

 

「でもあなたが走る速さと私の走る速さには違いがあるわ。私と一緒に走るのは無理よ。」

 

「………」

 

しばしの沈黙。

 

「おんぶ………」

 

姫がいきなりそう言った。

 

「………へ?」

 

「あなたが私をおんぶして走って敵を蹴散らせばいいのよ‼︎」

 

「………‼︎」

 

名臣は驚いた。

姫をおんぶ………

 

「おんぶ………できるわよね?」

 

姫が心配そうに言った。

 

「あ、まあできなくもありませんが………」

 

「じゃあ早くおんぶして‼︎」

 

名臣の胸の鼓動が激しくなる。

 

「よいしょ、」

 

姫のうっとりするような「よいしよ」が聞こえた。

 

姫のぬくもりを感じる。そして胸も………なんでもない。

 

「では行きますぞ‼︎」

 

部屋を勢いよく部屋を飛び出した名臣は敵の包囲網に突っ込んだ。

 

男は恋する人の前だと良い格好をしたいのでいつも以上に張り切るものである。

 

名臣も姫をおぶりながらも勇猛果敢に敵を蹴散らし、城を脱出した。

 

外はもう夜であった。

 

どこからか火の手があがった王城は、闇夜の中を輝きながら崩れていった。

 

一瞬振り返った名臣は心の中で合掌した。

 

「陛下………みんな………」

 

いつの日かの王朝再興を誓った名臣は、姫を連れて、青龍寺との合流地点である砦に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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