「そういや大和は新入生の案内か何かやるんだっけ? かぁーっ、そんな面倒なことよく引き受けるよなぁ」
合流を果たしたキャップは、自分の頭に手を回し信じられないとばかり欠伸を噛み殺していた。
話を聞くに、徹夜で青森から帰ってきたらしい。東北でも北海道を除けば最北端に行くとかこの男半端ねぇな、おい。
ゾロゾロと歩く少年少女の集団も本来なら奇異の視線を向けられるものだが、生憎ここは魔境川神市。俺らのような集団以上の変人奇人狂人なんでも御座れの街にとって、一つのグループなんて日常の範疇にすぎなかった。
それに、俺たち"風間ファミリー"はこの街でも名を知られたグループでもあることから、微笑ましい視線はあっても奇異の視線は一つもない。
「ま、これも人脈作りの一つってね」
「弟よー、可愛い後輩いたらお姉さんにちゃんと紹介しろよー?」
「姉さんはほんとそればっかりだね……。後輩の貞操の危機なんで却下です」
「なにー? ホントファミリーの男共は生意気だなー?」
「うわっ、ちょ!」
引っ付くの止めたかと思えば、次は弄る方針に鞍替えした模様。
歳上好きのガクトはそんな光景をまたもや睨む。
「俺様も生意気なこと言うからモモ先輩引っ付いてくれませんかね!」
「お前がそんなこと言ったら殴るぞ」
「冷静な声音で酷い返しをされ、ぐゔぁ!? 何も言ってないのに殴ってくるこの人酷い……」
「アハハッ、ガクトってホント馬鹿ねー」
「ガクトは成長しないからね。いい加減無駄ってこと理解すればいいのに」
「ムッツリのモロには言われたくねーな!」
「誰がムッツリだよ!」
「お前だよ!」
「ガクトは変態の癖に!」
「「あぁ?」」
遠慮も容赦のないやり取りこそ、風間ファミリーならばこその光景。
「リンは今日はどうするの?」
「んー、始業式はサボるとしてどうすっかなぁ」
「臆面もなく学校行事をサボるというその男気、好きっ」
「始業式終わったら連絡一本くれたまへ。それまでキャップと日向ぼっこでもしとくさ」
「しょーがないなぁ」
✝
「見事に全員Fクラスだな、おい」
掲示板に貼られたクラス分けを見ると、風間ファミリーは満場一致でFクラスとの文字が。
モモ姉は学年が違うから仕方ないとしても、まさかこうまで固まるとは思ってもいなかった。
ガクトとモロとワン子は学力的に仕方ないにしても、大和と京は学年でもトップエリートが集うSクラスも余裕で圏内のはず。
俺? そんな面倒なことしてられるか!
「神経すり減らすような空間はちょっとね。俺としてはもっとスマートに生きたいのさ」
「リンがいる場所こそが私のいる場所」
「熱烈な告白ありがとよ」
「テレテレ」
他の掲示板に目を移していくと、知り合いの名前を発見。
「トーマにハゲにユキに英雄はSクラスと。まぁわかってたけどさ」
あの優等生がSクラス以外にいる図を想像できやしない。
ファミリーではないものの、俺の大事な幼馴染たち。
どいつもこいつも一癖二癖、腹に一物を抱えたやつばっか。それはファミリーの奴らにも言えることか。
ファミリーの連中はキャップに導かれる形で知り合い、トーマたちSクラス組とは同じ小学校の友達という関係性で今に至る。
「それじゃ私は三年の方に行ってくるなー。お前らもしっかりと励め、若人たちよ」
モモ姉はそう告げると、新たな同級生(可愛い子限定)の味見に向かった。
呆れを向けるファミリーの視線のなど何のその。新天地を前にしてそんなモノに挫ける姉貴分ではなかったようだ。
「それじゃ私たちも行きましょうか!」
「おーけー」
「俺様の目に留まる美人な娘はいるかなーっと」
「ガクトってばそればっかり。それじゃ僕たちは行くね」
「「「いってらー」」」
俺とキャップ、大和の声がハモリ、そのまま京たちは講堂へと向かう。
「俺は新入生の案内の方に向かうとしますかね」
「おーおー、がんばがんば」
「しっかりと案内してこいよー! それで面白そうな奴がいたら報告忘れんなよ?」
「りょーかい。それじゃまた教室で」
手をフラフラと振りながら、大和も新入生案内役が揃うグラウンドの方へと歩み出す。
人脈作りとは言うけど、アイツもあれでいて面倒見がいいお兄ちゃんだからな。こういう行事は積極的なものだ。
「んじゃ俺らはどっかで時間でも潰してよーぜ?」
「そうだな。日差しもいいし、やっぱ屋上で日向ぼっこだな! 徹夜明けでねみーしよ」
「それはキャップの自業自得だろうが」
「ちげーねぇ」
男二人は肩を組みながら人気のない校舎へ突入し、そのまま施錠されていない屋上へ。
川神学園の屋上は常に開放されており、ここでお昼ご飯を食べるもよし、談笑にふけるもよしと中々に心地の良いスペースとなっている。
そんな心地よい空間だからこそ、俺らみたいな駄目人間にとっては至高の場所なるわけで。
「おーおー、今頃みんなは面倒な有り難いお話を聞いてる頃だぜ」
「川神学園の始業式とかってなげぇもんなー。何気に一時間以上やってるだろ、あれ」
「校長の長い話は万国共通なのかねぇ。まぁ鉄心爺さんだから面白いと言えば面白いけどな」
そんなとりとめもない会話をしていると、いつの間にか話し声は吐息へと変わる。
「気持ちよさそうに寝ちゃってまぁ……」
隣で寝転ぶキャップを尻目に、俺も瞼を閉じる。
いつ迄も、こんな温かい日常を遅れますように。
そんな言葉は空へと吸い込まれていった。
✝
気が付けば放課後。
放課後と言っても今日は授業もなく、始業式の後は簡単な自己紹介やらHRやらしかない。
「俺はSクラスに顔出してくるけど、お前らどうするの?」
「私の居場所はリンがいる場所。付いてくよ」
「俺様はジム行ってから秘密基地に行くとするか」
「僕は話が合ったクラスメートとゲーセンに行く約束してる。夕方くらいに秘密基地かな?」
「俺とワン子はちょっと買い物してから秘密基地に行くぜ。今日はバイトもねーしな」
「というわけ!」
「大和は?」
「俺は一回島津寮に戻って情報精査した後に秘密基地に顔出すようにするよ」
バラバラなようでいて、結局の帰結点は集合するという。
「うぃうぃ。ならまた後でー」
それを皮切りに、各自一斉に行動開始。
俺らも移動を開始するが、所詮廊下の突き当りまで移動するだけなのですぐに目的地に到着する。
「ハロハロー」
「あ、リンだ! はろはろ~」
抱きつくように突進してくる純白の娘は榊原小雪、通称ユキだ。
無邪気ながらに抱きつくのはいいが、京の目線が凄く痛い。だが、これだけで済むのはユキだからでもある。
ユキと京は一種の同族。
家庭内暴力に合っていたユキと苛めを受けていた京。一種のシンパシーがあるからこそ、二人は気心しれた仲となっていた。
「ユキ、いつまでもリンに抱きついてちゃいけません! 見ろ、椎名の顔が鬼の形相になってるぞ」
「おおぅ、京は般若の生まれ変わりだったのかー。般若ー、般若ー」
「……ユキ、覚悟はできてる?」
「京が怒ったー。ハゲガード!」
「え、俺壁にされゲフぅ!? 躊躇もなく攻撃するの止めて下さい……」
なんてことを考えていたら、いつの間にかハゲが眩しい男――井上準が京の蹴りに沈んでいた。
飄々としているがその強さは中々なものではあるが、京にはまだまだ届かない。
「――ユキ、余り京さんを怒らせないように」
「あ、トーマ!」
「よ、おはよーさん」
「おはようと言うにはもう昼前ですが。はい、おはようございます、リン」
川神学園のエレガンテ・クワットロの筆頭。
俺の幼馴染にして大和とその智謀を張り合える数少ない男こそが葵冬馬だ。
大不祥事があった葵紋病院の跡取りであり、夢は傾いた葵紋病院を立て直すこと。
彼の病院はトーマの父が数多くの不正を働いており、それをトーマや準、ユキに加え俺たち風間ファミリー、そして九鬼財閥等々の力を集結させることにより終止符を打つことが出来た。
そういった経緯もあり、学校は違えども俺たちファミリーとトーマ率いるトリオとは仲が良い。
一応今も葵紋病院は川神市の大病院として機能しているが、やはり離れた患者も多く存在し、そうした悪評を取り除くことが跡取りのトーマとその右腕たる準の夢だ。ちなみにユキもナースとして働くことを希望しているが、患者が心配でならないのが俺の悩みである。
「というか、態々俺たちに会いに来てくれたのか?」
「一応なー。始業式をぶっちしたから元気は有り余ってるし?」
「いけませんよ? 余り目立っては教師たちの注目を集めてしまうでしょう?」
「それなら大丈夫。うちのキャップという最大の目眩ましあるし」
「それもそうか。風間がいれば気怠げキャラのリンも余り目立たない、か」
「誰かに目を付けられても私が助けてあげるのだー」
肢体は貧弱、というほどでもないが強くもない俺だが、守ってもらうほど弱くはないんだけどなぁ。
まぁ能ある鷹は爪を隠すと言うし、俺はこのままで丁度いいだろう。
俺が力を発揮する機会なんてない方がいい。殆どモモ姉がいれば解決するし。
平日の更新は期待しないで下さい。
もしかすれば、くらいの気持ちでお願いします。
だからといって休日なら更新できるかと言えば怪しいところですけどね……