0から始まる2週目の物語   作:雨扇

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4月ー①

【3月21日】 

 

 俺の名前は「鳴上 悠(なるかみ ゆう)

 

 

 今日、稲羽での戦いが全て終わり仲間とのしばしの別れをした。

 

 

 電車に乗り込み、追いかけてくる仲間の姿が見えなくなると俺は席に座り、しばし寝ることにした。

 

 

 

 

 目覚めるとリムジンのソファで座っていた。目の前にはマリーとマーガレット、そしてこの「ベルベットルーム」の主、イゴールがいた。

 

 

「神様さえも倒して真の真実を掴みとるとは……流石、と言ったところかしら」

 

「もう、俺はここにくることはないのか」

 

「そうね」

 

「……色々と、ありがとう」

 

 

 イゴールにはペルソナの合成を手伝ってもらったし、マーガレットにはペルソナ全書でペルソナの登録とか呼び出しとかしてくれた。マリーとは一緒に出掛けたりした。記憶を取り戻した今、また出掛けたいが、また今度だ。

 

 

 お礼を言うと、イゴールは首を横に振った。

 

 

「いいえ。ご客人。まだ、貴方の戦いは終わっていないようだ」

 

 

 どういうことだ? イゴールに訊くがこの部屋のルールで「問い」に対しての「答え」は教えてくれない。

 

 

 ただ、妙な呟きがマリーの方から聞こえた。

 

 

「……やっぱり、覚えてないんだ。……一瞬だったもんね」

 

 

 すぐに消えてしまうくらいの呟きだったから、特に気にしないことにした。マーガレットが喋ろうとしたため、俺は意識をマーガレットの方に向ける。

 

 

「貴方はワイルドの力をなくし、少々変わられた“別世界”でもう一度、あの町で1年、過ごすことになるわ」

 

 

 ワイルドーーペルソナがいくつも使える力。確かにアレは便利だった。それが使えなくなる、つまり俺のペルソナは「イザナギ」だけだ。

 

 

「目を開けたら少し変わったことがすぐにわかるハズよ。……さぁ、貴方は“この世界”では事件に関わっても、関わらなくてもいい。どう過ごすのか、楽しみにしているわ」

 

「ベルベットルームには自由に入れるから。……客じゃなくなるけど、私が必死に頼んだ。だから、遊んでね」

 

 

 マリーが顔を赤くして言った。マーガレットを見るとクスクスと笑っている。その様子だとマリーにしては珍しく頑張ったんだな。

 

 

「あぁ。また遊びに行こう」

 

 

「時間のようだ。それでは、ごきげんよう」

 

 

 

 

 

【2011年 04/11 月】

 

『まもなくー 八十稲羽ー八十稲羽ー』

 

 

 どうやら電車に座って寝ていたようだ。マーガレットに言われた通り、ゆっくり目を開ける。

 

 

「あっ、兄さん。ナイスタイミングで起きたね」

 

 

 目の前に俺に似た少女がいた。……成る程。わかった気がする。

 

 

 俺は寝ぼけた演技をした。

 

 

「えっと、八十稲羽で1年間過ごす。俺、鳴上悠と……」

 

 

 目で訴えると気づいて寝ぼけた(フリ)俺に教えてくれた。実際、目の前の少女の名とか、関係はわからないから結局はいつかは訊くしかない。

 

 

 まぁ。関係に関しては予想がつく。

 

 

「私、妹の「鳴上 奏(なるかみ かなで)」 16歳、明日から八十神高校1年生なのだ」

 

「……ご苦労」

 

 

 どうやら俺の妹はボケに付き合ってくれるタイプらしい。陽介とあうかもしれない。

 

 

 俺の演技、りせには負けるが中々のものだと自負している。妹にならいけるな。

 

 

 そしてマーガレットが言ってたこと。俺にはもうワイルドの力はない。ペルソナを使うためには、みんなみたいに自分の「シャドウ」と向き合わないといけない。

 

 

 もしかしたら、妹の奏が1週目の俺の立場ということかもしれない。今日、ガソリンスタンドで人間の姿のイザナミと握手し、力を手にいれるということだろう。

 

 

 マーガレットの言う通り、確かにこの世界では俺は必要ないかもしれないな。ふむ、どうするか。料理でも極めてみようか、みんながテレビの中に行く日とかに振る舞ってみよう。

 

 

 俺はみんなの前では「何も知らない一般人」で貫き通すことにする。その代わり、リーダーは奏に任せた。……大丈夫かな、意外とリーダーは辛いからな。

 

 

 

 

 色々と考えていると、駅に着いた。駅を出ると俺たちを呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「おう、写真より男前で、妹は可愛いじゃねぇか。お前らを預かることになってる堂島 遼太郎(どうじま りょうたろう)だ。ようこそ稲羽市へ」

 

「はじめまして。鳴上悠です」

 

「妹の鳴上奏です!」

 

 

 俺たちも自己紹介する。俺にとってはつい1時間ほど前に別れの挨拶で会ったばかりなのに、また会うなんて若干恥ずかしい。“勇気”は5だが、流石に辛い。

 

 

「ははっ。はじめまして……か。オムツ替えたこともあるんだがな」

 

 

 すみません。はじめましては嘘です。そして「オムツ替えた」発言2回目なのでそろそろ真面目に恥ずかしくなりました。

 

 

「こっちは娘の菜々子だ。ほれ、挨拶しろ」

 

「……にちは」

 

「はは、こいつ。照れてんのか?」

 

 

 お、菜々子が堂島さんの尻を叩いた。

 

 

 ……可愛い。マジで可愛い。電車でよく見たが奏も可愛かったが、やはり菜々子は別物だ。

 

 

 いかんいかん。ただでさえ1週目で引くくらい「シスコン」だと陽介に言われ続けていたのだ。これ以上言われてたまるか。

 

 

 

 

 

 車の中ーー

 

 

「しっかし、義兄さんと姉貴もあいかわらず仕事一筋だな。1年限りとはいえ、親に振り回されてこんな田舎まで来ちまって、子どもも大変だ」

 

 

 俺は「慣れてます」そう答えた。実際1週目の時もかなり引っ越ししてきたし、既に1年堂島さんの所で住んだ。これは2つの意味を込めての「慣れている」だ。

 

 

 奏も俺と同じ意見なのかうんうんと頷いている。

 

 

「ま、ウチは俺と菜々子の2人だしおまえらみたいのがいてくれると俺も助かる。これからしばらくは家族同士だ。気楽にやってくれ」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

「お世話になります」

 

 

 奏は元気よく返事したが、俺はわざと堅苦しく言った。

 

 

 別に恨みとかそんなんじゃない。これは多くの転校で身に付いたことだ。相手と適度の距離を保って生活すること。ただ俺の場合は少しずつ距離を近づける。

 

 

 理由は2つ。

 堂島さんに変な疑いをかけられないため。そしてもう1つ。今度こそ、菜々子をテレビの中に入れられる前に助けること。

 

 

 全てはそのためだ。そのためなら、俺はバックアップにいくし、奏達「特別捜査隊」を利用することだって覚悟している。

 

 

 俺の返答がかなり堅苦しかったのか、若干不機嫌そうだ。何かかなり悪いことをした気がする。

 

 

「……あー固い固い。気ぃ遣いすぎだ。見ろ。菜々子がビビってるぞ」

 

「……」

 

 

 いや、堂島さん。別に菜々子はビビっている訳ではないです。それに菜々子はこれしきのことではビビらん。

 

 

「もう1度言うぞ。これからは家族だと思って生活してくれよ。……どうした?」

 

 

 やっと菜々子の異変に気づいた堂島さん。すると堂島さんの発言に被せて奏がデリカシーない言葉を発した。

 

 

「菜々子ちゃんトイレ?」

 

「……!」

 

「いてっ」

 

 

 菜々子が堂島さんの腕を叩いた。堂島さん、奏がご迷惑かけました。

 

 

「奏、デリカシーない」

 

「はっ!? ゴメンよ菜々子ちゃん!」

 

「だいじょーぶ」

 

 

 流石菜々子。器が大きいな。

 

 

 さて、もうすぐガソリンスタンドに着くはずだ。店員をどう奏の方に向けさすか、だな。俺が握手して力もらっても、もうワイルドではなくなるのだから完全無意味だ。

 

 

 仕方ない。店員が来る前に少しガソリンスタンドから離れよう。幸いにも堂島さんはタバコを吸いにいくはずだから時間はある。本屋に行くか。まぁ、本はほとんど読破してしまったが。

 

 

 

 

 ガソリンスタンド。

 菜々子がトイレに行き、堂島さんはタバコを吸いに行った。

 

 

「奏。少しそこの商店街歩いてくる」

 

「私も行く!」

 

「奏まで来ちゃったら誰が荷物守るんだ」

 

「うー」

 

 

 奏はあれか? 「兄さん大好きっ子」的なアレか? 俺が言うと変態みたいだからこれ以上は言わないが、さて……どうする。奏がここにいて店員ことイザナミと話してくれないと物語事態進まない可能性がある。それだけは避けたい。

 

 

「頼む。今度一緒に見て回ろう。な」

 

「うん。……あと肉じゃが作って」

 

「わかった」

 

 

 ふぅ。何とかクリア。条件に肉じゃが作ってって……俺はよく奏に作ったのか? 主夫だ、と陽介辺りにツッコミされそう。

 

 

 本屋に行く前にベルベットルームがあるかどうか調べた。どうやらまだ入れないようだ。たぶん奏が入れるようになったら入れるかもしれない。その時、もう1度見に行くとしよう。

 

 

 本屋に入り見て回った。ーー!?

 

 

「『弱虫先生シリーズ』の番外編!?」

 

 

 俺が一番好きなシリーズだ。読むと“寛容さ”が上がる気がするのだ。1週目にはなかったが、まさか番外編が読めるとは……!

 

 

「『弱虫先生釣りをする』あの先生釣りを始めたのか。……気になるな」

 

 

 所持金を確認する。ギリギリ買える額だ。俺は迷わずその本を買う。流石に今日は荷物整理とかで疲れるから、明日読もう。絶対読もう。

 

 

 フフ、かなりの得だ。

 

 

「ん? お前もそのシリーズ好きなのか?」

 

 

 急に声をかけられた。左の方からかけられたので左を向いてみた。

 

 

「ーー!! あ、あぁ」

 

 

 ……陽介だ。花村 陽介(はなむら ようすけ)がいた。何故だ? 1週目ではいなかったと思うが。と、とりあえず落ち着いて、対応だ。

 

 

「俺も好きなんだよ。……ってそれ番外編じゃねぇか! マジでか」

 

「俺もビックリした。ついに釣りを始めたらしい」

 

 

 陽介はかなり驚いていた。どうやら2週目の陽介はいきなり話が合う様だ。出会いが自転車の事故とかなくてある意味よかった。良かったな、陽介。ゴミバケツに頭から突っ込まなくて。

 

 

「今日から妹と1年間、叔父さんの家に住む鳴上悠だ。明日から八十神高校の2年生。よろしく」

 

「お、同い年じゃん。つか俺も半年前に引っ越してきたんだ。花村陽介、よろしくな」

 

 

 俺と陽介はお互い握手した。この世界ではまだ知り合い程度だが、また陽介と会えたことは喜ばしいことだ。

 

 

 陽介とまた明日と約束し、別れた。俺はそろそろか、とガソリンスタンドの方に戻った。

 

 

 

 

 ちょうど、奏とイザナミが握手していた。数秒後、奏がよろめく。1週目の時の俺と同じように少し具合が悪くなったのだろう。俺は奏に声をかける。

 

 

「奏、大丈夫か?」

 

「乗り物よい? ぐあい、わるいみたい」

 

 

 菜々子もいいタイミングで戻ってきた。

 

 

「……」

 

 

 ……? イザナミが俺をチラッと見てきた。まぁ、気にすることでもないか。

 

 

 奏の具合が少しよくなった所で喫煙から戻ってきた堂島さんの「行くぞ」の声で、俺も車に戻った。

 

 

 

 

 この物語は、ワイルドの力をなくしバックアップに勤める1週目元リーダーと、ワイルドの力をもった妹・奏と2週目の特別捜査隊が怪奇連続殺人事件の“真実”を求めることになる。

 

 

 かけがえのない、仲間達との1年間の“もう1つ”のお話。

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