朝。昨夜のマヨナカテレビのせいで珍しく早起きしてしまった。普段の私なら2度寝するのだが、何故か今日はこのまま寝れる気がしなかった。
「おはよう。今日はめずらしくはやいね」
「おはよう菜々子ちゃん。私だって、たまには兄さんより早く起きるときだってあるんだよ」
「そうなんだ。すごいね」
菜々子ちゃんは純粋に信じてくれた。偉いなあ。椅子に座るとちょうどいいタイミングで兄さんが降りてきた。早起きが兄さんにとっては珍しいのか理由を訊かれた。菜々子ちゃんの前でマヨナカテレビのことを言うのは不味いと思った私はとっさに半分嘘半分本当のことを言った。
マヨナカテレビのことは通学路を歩くときに言おう。画面に吸い込まれた、なんて信じてもらえないかもしれないけど、兄さんには嘘はつきたくないから。
「ねえ、兄さん」
私は前を歩く兄さんを呼び止める。兄さんはいつも通りの優しい笑顔で「何?」と訊いてくる。私は誰にだって優しい兄さんが大好きだ。
「テレビに腕が突っ込んだって言ったら……信じる?」
「信じるよ」
……え?
私はとても驚いた顔をした。信じてくれることは嬉しい。でも、何故そんなにすぐ「信じる」と言い切れるのだろう。
「そんなにすぐ、信じてくれるの?」
「だったら訊くけど。俺が奏と同じこと言ったら、信じる?」
「もちろん!」
私は即答で答える。兄さんはいつも嘘はついたことがない。……いや、ボケるときに少々嘘は言ったりするが。
それでも悪意をもって嘘を言ったことはなかった。だから、もしも兄さんが私と同じことを言ってもすぐに信じる。私はそんな自信があった。
「それと同じ。マヨナカテレビの結果、俺が花村と里中に話しておく。放課後、ジュネス行くぞ」
「わかった!」
そこでちょうど学校に着いた。私は靴を上履きに履き替え、階段を上がって2階にいく兄さんと別れた。私は1階の1組の教室に入った。
兄さんのいう通り放課後ジュネスへとやってきた私、兄さん、花村先輩に里中先輩。
まずは花村先輩と里中先輩がテレビの画面に触れてみる。画面はウンともスンとも言わない。「やっぱな」と言わんばかりの表情をしたあと、2人は隣のテレビのコーナーに行ってしまった。
私と兄さんが取り残された状態になった。
「兄さんは触らないの?」
「俺は……いいや。ちょっと行くとこあるから。……奏。触れてみたら?」
「う、うん」
私は画面に指を近づける。少し怖いのか、腕が震えている。私は「大丈夫」と言い聞かせてもう少し近づける。あれは夢だったんだ。そう信じていた。
「ーー!! やっぱり……兄さん、入る」
夢ではなかった。何故か私はテレビに入れるのだ。
「中に空間があったりしてな」
当事者である私がかなり驚いているのに、兄さんはいつも通りの口調だった。兄さんはこういうときでもクールに対処する。カッコいいのか、鈍いのか。妹の私でもよくわからない時がある。今がその一例だ。
「そういえば鳴上。おまえんちのテレビ……て……おい。奏ちゃんの腕……刺さってない?」
ここで花村先輩が私に気づいた。つられて里中先輩も気づく。何故か私より慌てていた。どうやら客が近づいてくるらしい。だったら尚更だ。飛び込んでやる。
2人は私に向かって走ってくる。慌てすぎたのか2人の体同士ぶつかって私の方に倒れてくる。これはもう入り込むしかない。
「ってちょ! まっ!! うわあああああ」
花村先輩に里中先輩がそう叫ぶ中、私だけ少しドキドキしながら落ちる先を見つめていた。ここだけは、きっと兄さんに似たのかも。そう思ったりした。
「ぐえ……! つーーケツを……モロにっ!」
「な……なんなのいったい」
地面に着地した私たち。……花村先輩にお尻からドスっといってしまったらしいけど。
そんな私たちを待ち受けていたのは一面の霧だった。何も見えない。かろうじてわかるのは……
「どこ……ココ?」
ここは“テレビの中の世界”だということだった。