鮫川河川敷に到着した俺は辺りを見渡す。ここは結構静かな所で釣りが出来る。1週目の時から俺はよくここに来ていた。
「……いないか。ん? あの人影……まさか!」
俺が見間違える訳がない。何せ特別捜査隊の頭脳担当。現役高校生探偵の「
だけどこれは少し好都合かもしれない。直斗に訊けば小西先輩がもうここに来たのかどうかわかる。
「……ねえ」
「はい、何でしょう?」
この反応はキツい。何か心にグサッとくる感じだ。壁を作ってる直斗は、アレだ。「可愛いげがない」ってヤツだ。
……いかん、本題にいかないと。
「小西早紀って人、ここで見なかった? 八校の人なんだけど……」
俺は小西先輩の特徴を丁寧に、細かく直斗に伝えた。1週目初期ステータスの俺だったら無理だが、伝達力MAXの今の俺なら楽勝だ。
「……なるほど、それにしても貴方は伝える能力が高いようですね。とても分かりやすいです」
「ありがとう」
……ふっ。探偵に誉められた。とても嬉しい。お世辞だとしても嬉しい。
「ええ。見ましたよ。何やら男の人と揉めていた感じでした。気になったので別れたあとその小西早紀さんを尾行していたら、刑事に呼び止められたらしく警察署に歩いていきました」
……!! 遅かったか。まさかここまで足立さんの行動が早いとは。すまない、陽介。どうやら俺には止められなかったみたいだ。
「わかった。ありがとう。……えっと、名前訊いてもいいか? 俺は鳴上悠。高校2年」
「僕は訊かれたことを答えたまでです。ですが、貴方と会えたことは僕にとっても刺激になりました。鳴上さん、こちらこそありがとうございます。僕は……白鐘直斗です」
そうか。まだこの時点では直斗は八校生じゃないのか。鳴上“さん”か。悪くないな。
俺と直斗は互いに握手し合うと、別れを言って俺は鮫川から離れた。意外と時間は経過していたらしく、まもなく奏たちがテレビの中から帰ってくる時間になっていた。
俺は急いでジュネスの家電製品売り場に戻った。
◇◇◇
辺りを見渡すと不思議な場所だった。霧が1面広がっていて全然見えない。とても不安にさせる所だ。私だけじゃない。里中先輩も花村先輩も不安がっていた。……兄さんなら、ここでもクールに振る舞っていたのかな。
「何ここ……どこかのスタジオ? ジュネスのテレビがこんなところにつながってるなんてビックリ。何かのアトラクション?」
「……なわけねーだろ。わけわかんねーよ。つかどうなってんだ?」
「……どうするの?」
里中先輩が不安丸出しで訊いてくる。花村先輩も辺りを見渡していた。「どうするの?」と訊かれれば答えは1つ。
「調べてみるのが1番手っ取り早いのではないですか? 出入り口……見当たらないみたいですし」
そう言うと里中先輩はもう1度キョロキョロ見渡して「……ほんとだ」と呟いた。花村先輩も同意してくれて私たちは行けそうなところから行ってみることにした。里中先輩は最初はビビっていたが私たちが先行して先に行くのを見ると後ろからついてきた。
行き着いた先はマンションのような建物。道のりに進むとある部屋だけドアが開いていた。
「見るからに怪しいわね……」
「入るぞ」
「え…… そんななんのためらいもなく」
「里中先輩、覚悟決めましょう。進めそうなとこ、ここしかなさそうですし」
「そーいうこった。行くぞ」
相変わらず怯えている里中先輩を説得しつつ、部屋に入っていく。というか、今回花村先輩がとても頼もしい。唯一男子が先輩だということもあるけど、これに限っては兄さん並みにとても頼れる。
「花村先輩、私初めて先輩頼もしいと思いました」
「お、好感度アップ的な? いいぜ、惚れちゃっても」
「兄さんはそういうこと言いませんよ。花村先輩とは圧倒的に違うとこですね」
「真顔で言うなよ」
少し砕けた話をしているととある部屋についた。携帯を見るが圏外。電話やメールをしようにも出来ない状況だ。辺りを見渡す花村先輩。入ってきたドア意外に出入り口はなく、若干焦っていた。
「……ちょっと。周り……」
里中先輩の震えた声がした。私と花村先輩は周りを見る。壁1面に誰かのポスターがあった。でも、顔の部分が切り取られていて誰だかわからなかった。かなり恨んでいたのだろうか。
そして真ん中には椅子とロープがあった。あからさまにアレだとわかり、みんなこれにはもう話をふれることはなかった。
「……いや。戻ろうよ……気分悪くなってきた。さっきんトコ戻って違う道探してみようよ。私……こんな場所いたくない」
里中先輩はもう限界のようだった。……それにしても、里中先輩の言う通りちょっと私も気分が悪い気がする。この部屋の光景のせいなのか、いつもの元気が出ない。これには花村先輩も同意し一旦戻ることにした。
「……何かいる」
「何か? 何かって何!!」
先ほどの広場に戻ると真ん中に何かいた。霧のせいでよく見えないので、それが余計怖さを引き出していた。
「おい里中……。おまえ行けよ、お得意のカンフーでさ」
「なんでアンタはこういうときは逃げ腰なのよ……。いいけどさ」
里中先輩は何やら技を繰り出すのだろうか。構える。……てかさっきまで怖がってたの里中先輩なのに、今は花村先輩が怖がっちゃってる。攻守逆転ってやつなのかな?
「たぁーっ!!」
「グエーッ」
……喋った? 今、「グエーッ」って。
「な……何これ。着ぐるみ? サル……じゃない。クマ?」
「なんなんだこいつ」
クマの着ぐるみが里中先輩の蹴りのせいで倒れている。よく見ると……意外とかわいい。兄さんって裁縫出来るかな? 出来るならこれのストラップ作ってほしいな。
「キ……キミらこそ誰クマ?」
「……喋りましたよ。クマの着ぐるみが」
「しゃべった!?」
「おもいっきしグェとか言ってた気がしたけどな……」
喋るんだこの子。……「誰クマ?」とか訊いてきたけど、あれから数秒このクマは喋ってない。何でだろう?
「……」
「起こして」
あ、自分で起きれないんだ。私は手を差し出してクマを起こす。場所の雰囲気にかなりミスマッチな外見だ。私はクマにここはどこなのか、キミは何者なのかを訊いてみた。
「クマは、クマだクマ。ココにひとりで住んでるクマ。ココはボクがずっと住んでるところ。名前なんてないクマ。とにかく……キミたちは早くアッチに帰るクマ」
「だから! こっちもそうしてえんだっつの」
「最近誰かがココに人を放り込むからクマ迷惑してるクマよ。誰の仕業か知らないけどアッチの人にも少しは考えてほしいって言ってんの!」
誰かが……ココに? それに“アッチの人”とか……意味わかんない単語のオンパレード。私そんなに成績よくないから難しい話しないでほしい。
……って花村先輩に里中先輩。かなり落ち着かないご様子。私が変なのかな? 私は別に普通なんだけど。ここも兄さんに似てるってよく言われるなあ。
「そっちのほうが私たちを引き込んでたりするんじゃないの? こっちのが迷惑だっつーの! 何がどうなってんのっ!?」
「ひぃっ!」
「……せ、先輩方。少し落ち着きましょ? クマ、怖がってますから……」
「と……とにかく早く帰ったほうがいいクマ」
「でもクマ、出方わからないよ?」
「だから、クマが外に出すって言ったクマ!」
「……聞いてねーよ」
するとクマは真ん中で床を足でトントンと叩く。
「うおっ!?」
ポム、と3段に積み上げられたテレビが現れた。ここに入れば戻れるらしい。
「さー行って行って行ってクマ。ボクは忙しいクマだクマ!」
「ちょ、いきなり何無理だって! 押すな! 入らないって!」
「いってぇ~ あのクマ無理矢理過ぎなんだよ……」
「あいたた……」
「も、戻れた?」
辺りを見るとジュネスの家電製品売り場だった。そして、近くには兄さんが少しビックリした表情をしていた。
よかった。どうやら無事に戻ってこれたらしい。
◇◇◇
奏たちが入っていったテレビの前に着いた。奏たちの姿はない。間に合ったようだ。
「いてっ! ……戻ってきた? ってもうそんな時間かよ」
陽介が流れた放送を聞いて呟く。俺は3人に声をかける。すると奏が抱きついてきた。かなり怖かったらしい。何故か陽介と里中の顔が若干赤くなっていたが、気にしないことにした。
恥ずかしさより、妹をとる。陽介に1週目のころ言われまくった“シスコン”をなめないでもらおう。
「ーー! 花村先輩……あれ」
奏が俺の背中に隠れたまま陽介に呟いた。目線は演歌歌手「柊みすず」のポスターだった。……いいのか、俺の前で。いくら呟きでも俺にガッツリ聞こえているぞ。
「……ああ。そうか」
陽介が俺に気づきそれ以上は何も言わなかった。別にテレビに入るところを見たわけだし、言ってくれてもいいと思うのだが。
「わーわー! やめやめ! 俺今日のことまとめて忘れることにする! なんかもーハート的に無理だから。うん!」
「帰ろっか」
……何か強制終了された気がする。俺がいるから? 目撃者だったのに? 寂しいな、これ。あとで陽介に古いイタズラでもしてやろう。そうしよう。
「……奏、俺たちも帰ろうか」
「あ、うん」
これは声をかけるべきなのか……? 兄としてやらなければならない試練なのか? ……やってやろうではないか。
「別に無理矢理聞こうとはしないよ」
「ーー!」
「花村があんな様子ってことはそれほどヤバかったんだな。俺が聞いてもたぶん無駄だと思うな。だから、何も聞かない」
「……ありがと、兄さん」
図星だった。よかった。兄としてレベルアップだな。1週目でステータス全MAXにしといてよかった。まさかここで役立つとは。
さて、今日も雨か。1週目では疲れて見る気が起きなかったが今は違う。そもそも入ってない。だから今日は見ようと思う。……マヨナカテレビを。
◇◇◇
「わーわー! やめやめ! 俺今日のことまとめて忘れることにする! なんかもーハート的に無理だから。うん!」
なんて強がってみたところでーーあんなおかしな出来事を忘れられるはずもなく……俺はその日の晩。どうしても気になり“マヨナカテレビ”を見ることにした。
“テレビ”はさもそれが当然のように映り、俺も驚くこともなく、“テレビの中”には前に見たのと同じ小西先輩に似た女性が映っていた。
その姿はとても眩しくて鮮明で、何かに苦しんでいるようで、俺はどこか胸のあたりが熱くなるのを感じながら。その姿をじっと眺めていた。
ーー翌日。
山野アナの第一発見者である小西早紀先輩は山野アナと同様に変死体となって……遺体の姿で発見された。