全校集会が終わったあとの休み時間。俺と里中は窓に寄りかかって話していた。すると陽介が近づいてきた。
「あ……花村……」
「……なあ、おまえら。昨日、あの夜中のテレビ見たか?」
「あのさ……人が死んでるのに何言ってるの? しかも被害者は」
「見た。小西先輩だよな。映ってたの」
「鳴上くん!?」
「……そういや、おまえだけだよな。“テレビの中”に入ってないの」
「奏ちゃんから訊かなかったの?」
「言いたくなさそうだったから」
正直、別に知ってるからいいとか言えないし、何故か2人が丁寧に教えてくれたので俺は驚くふりをした。
……ぶっちゃけこの演技はりせに勝てると思っていないとは言えない。
俺への説明が終わったところで話を戻し、陽介の考えを聞くことになった。陽介は先輩が死んでとてもショックだったのかいつもの落ち着きがないように見えた。
「……頼むよ。鳴上、奏ちゃんの力借りたいんだ。奏ちゃんがいないと“テレビん中”に入れないんだ。俺、どうしてもあっちの世界に行ってたしかめたいんだ。先輩に関係する場所もあるかもしれない。なんで先輩が死ななきゃなんなかったのか、知っときたいんだよ!俺、ジュネスで待ってるからさ」
「ジュネスで待ってる」。そう言うと陽介は先に帰った。ちょうど俺たちももうすぐ下校。ついでに1年の教室によろうと階段に向かう。
「鳴上くん、奏ちゃんに言うつもり?」
「……花村があんなに真剣なんだ。奏もわかってくれるし、最悪“俺も行く”」
ただテレビの中に行くことしか出来ない俺が行ったって足手まといになるだけだが、里中を説得出来ないと奏のところに行けないかもしれない。それは正直言ってめんどい。かなりめんどい。
だから、“最悪”俺も行く。なのだ。本当に最悪じゃないと行かない。そういう意味だ。
本音を言えば里中なら肉でつられるんじゃ……と思ったりして。陽介にやらせてみようかな。……いや、1週目で陽介が1回やった気がする。いつだろう?
「……わかった。もうすぐモロキンくるから急ぎなよ」
「ああ」
説得成功。俺は駆け足で1年1組に向かった。
1組。探すのがめんどくさいので近くにいた女子に呼んでもらった。急に2年が来たから若干俺に視線が集まったのだが気にせず奏を廊下に連れ出す。
「奏。花村が“ジュネスで待ってる”って。……向こうから教えてもらった。昨日のこと」
「……そっか。わかった、すぐ行く。兄さんは、どうするの?」
考えてなかった。でも流石にジュネスまでは行かないと里中に怒られるよなあ。……行ってから考えよう。
「とりあえず、ジュネスには行くよ。俺はあっちの世界は見たことないからわからないけど、気を付けて」
「……うん!」
何故か奏は元気に返事した。ちゃんと伝わったか、とても心配だ。一応遠回しに忠告しといたんだが。例えば……シャドウとかシャドウとかシャドウとか……。
それにこのあとは確か陽介のシャドウ戦になるかもしれない。というかそうなる。だからなあ……と俺は本当に心から心配している。
「じゃあ、教室戻るから」
「またね兄さん」
◇◇◇
ーー俺はこのとき、自分のこの胸の高鳴りを抑えられないでいた。
「来てくれたのか!!」
ロープとゴルフクラブを持って待っているとこちらに歩いてくる3人がいた。鳴上兄妹に里中だ。
「バカを止めに来たの! あんたの言ってるようなことが仮にマジだったりしたらあんたの身にも何が起きるかわからないんだよ。向こうで何があっても知らないんだからね」
……そんなの、わかってる。でも、“それでも”行かないといけないんだと思う。里中は本気で心配してくれている。それはとても嬉しい。だからって「はいそーですか」で「やっぱりやめときます」って訳にはいかない。
奏ちゃんは俺と里中の会話を心配そうな表情で聞いていた。口喧嘩だと思って心配しているのかな、と俺は少し恥ずかしくなる。
そんな妹とは反対の表情、いや無表情なのかと疑う感じの表情をしているのが兄の鳴上悠だ。鳴上はホントたまに何を思ってるのかわからないときがある。いきなりボケたり、さりげなく厳しいツッコミをやったり。謎の男だ。
兄妹で違うところと言えば妹はテレビの中に入れる、という不思議な能力をもっている。兄にはそれはない……のか? そう言えば、昨日俺と里中はテレビに触れたけどこいつだけ触れていなかったよな。まあ、いいか。
「鳴上くん……もうこのバカになんか言ってやってよ」
里中は「命綱あるから大丈夫」と言った俺に呆れたのか鳴上に話をふる。
「おまえも放っておくことはできないよな? ……奏ちゃん、頼む!」
「……わかったよ。奏、協力してやってくれ」
「ずっとそのつもりだったよ兄さん。花村先輩、行きましょうか」
「ああバカだ、こいつらバカだ。鳴上くんと奏ちゃんがそんな人だとは思わなかったよ……」
悪い、里中。
俺は心の中で謝り、鳴上に里中と一緒に留守番するよう頼んだ。鳴上は快く快諾してくれた。
「戻ってきてよ絶対に!!」
里中は渋々了承してくれた。
ーーそれは、先輩が死んだことへの悲しみなのか憤りなのか、犯人への怒りなのか。はたまたただの好奇心からくるものだったのかわからないが。
「キ……キミたち……なんでまた来たクマ?」
なんにしても、これがこれから忘れられない1年間を共にする相棒と、
「へへへ……ちょっと真実をつかみにね」
自分の意志での初めての事件探索になったっつーことは、紛れもない事実だな。
◇◇◇
ジュネスの家電売り場で待っている俺と里中。たまにくる客の視線が痛かったが頼まれたので我慢して待っていた。
ざっと考えて
里中は切れたロープを手に持ちながら座って待っている。心配なのか何も言葉を発しなかった。俺も、ただただ何も話さず待っていた。
今の俺は……“昔の俺”そっくりだと思う。きっと1週目の陽介が見たらそう言うに違いない。
『今の相棒、初めて会ったときとそっくりだ』
そんな感じで。何て言うか……寂しいんだろうな。隣に里中がいるけれど、何かが違う。
……ああ、わかった。きっと、陽介が俺じゃなくて、奏のことを「相棒」と言ってしまうかもしれないって思っているからだ。
俺は陽介に“相棒”と呼ばれることで「陽介は一番の親友だ」って思っていたんだろう。それが“当たり前”になっていたのだ。いつの間に。
だからきっとそれがない。それが一番寂しくて悲しい。
もちろん、相棒じゃなくたって陽介は話しかけてくれる。でも、事件に関わらない俺と、関わっていて相棒の奏とじゃあ話す量が違う。
これは、ただ私情。それはわかってる。それにこれだとちょっと危ない。一応言っておく。これは「恋」ではない。あれだ。「嫉妬」だ。……どっちもどっちだな。
……とにかく、これは“嫉妬”。俺は関わらないと決めた身だ。あまり陽介たちに関わっちゃ駄目だ。
これ以上関わってしまったら、きっとこう思ってしまう。思い続けていたらもしもテレビの中に入ってしまったとき、シャドウに利用されてしまう。
でも、駄目だ。本当に、駄目なんだ。“この世界”は、2週目であり、1週目とは変わった世界なのだから。
【ワイルドの力を失わず、鳴上奏という存在がいなくなればいいのに】
俺は、このとき久しぶりにーーと言ってもたぶん数分くらいなのだがーー里中に声をかけた。
「悪い里中。俺、ちょっと気分が悪い。鮫川で休んでくる」
「気を付けてね」
「すぐ……戻るから」
「駄目だったら、帰っていいからね」
「ああ」
俺は駆け足でジュネスを出る。出て人通りが少なくなった瞬間、俺は走っていた。
俺以外を“相棒”と呼ぶ陽介なんて見たくない。
俺以外を“センセイ”と呼ぶクマも見たくない。
俺だけ仲間はずれなんて嫌だ。
もう一度みんなのリーダーをやりたい。
2週目なんて……来たくなかった。
「何で……こっちに来させたんだ。ベルベットの人たちは」
気がつけば、俺は家に戻っていた。「帰ってもいい」そう里中に言われたので遠慮なく俺は家に帰る。
菜々子が心配そうな顔で俺の顔をのぞいてくるので「大丈夫」と言って部屋に戻った。戻る前に、夜ご飯いらないと伝えて。
部屋の時計を見る。そして布団にねっころがる。
気がついたら、俺はもう寝ていた。これは、奏と陽介が向こうの世界でクマと話している辺りから……シャドウ陽介との戦闘している辺りまでの話だ。
鳴上兄めっさ最後暗いですが奏のこと嫌いではないので態度が変わったりはしません。ただの嫉妬ってことです。