テレビの中に入るとすぐにクマがいた。すると私たちを指差し何故かどや顔で言ってきた。
「わーかったっ! 犯人はキミたちだクマ! キミたちはココに来れる……。他人にムリヤリ入れられた感じじゃないクマ! よって一番怪しいのはキミたちクマ! キミたちこそ、ここへ人を入れてるヤツに違いないクマァアッ!!」
……なんだろう。すっごくムカついた。私たちが人を入れてる? 入れると知ったの昨日なのに。
「っざけんなッつーの! 俺たちはその犯人ってヤツを突き止めに来たんだよ! そうじゃなきゃ、わざわざこんな帰れるかもどうかもわかんねーところにまた来るかっての!!」
ほらあ。花村先輩、クマの頭つかんで怒鳴ってる。
でも、クマが私たちを急に疑うのもわかる気がする。初めて私たちがここに来たとき、クマは「ここに住んでる」って言っていた。
なのに急に人が落とされたりーーまだそう疑っているだけーー人が来たり、クマにとっては自分の家を荒らされた感じだと思う。
……と、私が思ってるときも花村先輩とクマは言い争っていた。クマが「証拠あるクマ?」と訊いてきて花村先輩は急に少し黙る。流石の花村先輩も証拠を訊かれてしまえばお手上げ、といったところか。……仕方ない。後輩の私が助け船をだしてあげよう。
「……もし、犯人だったら。このゴルフクラブでキミをボコボコにしてるところだよ」
私は花村先輩に護身用にとくれたゴルフクラブを野球のバットの構えでクマに向ける。少し怖いのかクマの表情が強ばっていた。ちなみに、少しスイングしてみると横の花村先輩も怖がっていた。どこが怖いのだろう? 私はあとで聞いてみようと記憶の片隅によせておく。
「キミも私たちに危害を加えてこない。だから、信用できる。それじゃあ、ダメ?」
「そっか」
そんなりあっさりいいんだ。
「……おい。俺んときとずいぶん態度が違うじゃねぇか。納得したのかよ」
「まだ疑いは晴れてないクマけど、この人クマのこと起こしてくれたクマ。信じていいよ。……でも、その代わり言ってるとおりに犯人を探し出してほしいクマ。クマは……ただ、前みたいに静かに暮らしたい……だけ……クマ。もし言ってることが本当じゃなかったら……」
「じゃなかったら……?」
「ココから出してあーげないっ!」
クマってとても表情豊かで可愛いねぇ。……触っていいかな? いいよね? 約束するんだもの。
「クマっ!? 何するクマか!?」
「何……やってんの奏ちゃん?」
「何って、触ってるだけですよ花村先輩。……ああ、あと。命綱のつもり“だった”ロープ。切れてますよ」
花村先輩は気づかずずっと巻いていたことに言いたかった。けどいきなりクマが腹が立つことを言ってきたので言えなかった。でもやっと言えた。私は結構すぐに気づき取っておいたが気づかないままの花村先輩は腰にまだ巻き付いていた。
花村先輩はやっと気づき腰に巻いていたロープを取る。
「だから、クマ。約束する。私たちは必ず犯人を見つけ出すって」
「言われなくても犯人見つけてやるから、きちんとこっから俺たちを出してもらうからな!!」
仕方なく花村先輩も約束したようだ。時を見計らって私はクマに訊きたかったことを訊いた。
「1つ訊いてもいいかな? あの番組“マヨナカテレビ”ってここのスタジオで撮影されてたりする?」
「バングミ? サツエイ? ココは元々こういう世界クマ。誰かが何かをトルとかそんなのないクマよ。でも、そっちがこっちに干渉するからこっちの世界、どんどんおかしくなってるクマ」
クマは喋りながら話し出す。前に放り込まれた人が消えた場所に案内してくれるらしい。放り込まれた人と言えば……小西先輩しかいない。私と花村先輩はクマの話を聞きながら歩いてく。
クマはココについても話してくれたけど、私たちにはよくわからない内容だった。私たちの世界で“霧が出る日”はこっちにとっては“霧が晴れる日”。そして霧が晴れると“シャドウ”というのが暴れて危ない。
「でもクマ。私たち何も見えないよ? 歩いてるのでやっとなの。よくそんなスタスタ歩けるね」
「仕方ないクマね。コレをかけるクマ!!」
「なんだよ……メガネ?」
私たちは恐る恐るかけてみる。
「わっ……。ハッキリ見える!」
「すげぇ。濃い霧がまるでないみたいだ……。つか、ここって町の商店街にそっくりじゃんか。けど、ここがウチの商店街と一緒ならこの先は……」
「“コニシ酒店”……小西先輩の両親のお店ですね」
見てるだけで恐ろしい雰囲気。たぶん、先輩はここで消えたのだろう。花村先輩が近づいてみる。
「ま……待つクマ! そこにいるクマ! やっぱり襲ってきたクマ!」
急にクマが慌てる。何か恐ろしいのが近づいてくるのだろうか。怯えているようにも見える。
「……? いるって、何がだよ」
「シャドウ!!」
店の出入り口から黒い影が2つ、現れた。花村先輩は不意打ちで攻撃を受けたらしく肩に傷が出来ている。これがクマが言ってた“シャドウ”。確かに、住んでるクマが慌てるのもわかる。
「普段は身を潜めてるけど、1度暴れだすと手がつけられないクマ!!」
「先輩はこいつらに殺されたってことかよ」
「はあっ!」
私はゴルフクラブを思いっきりシャドウに叩きつける。
「へ……」
「無理だクマ!! シャドウに普通の攻撃は通用しないクマ!!」
ゴルフクラブは見事にぐにゃぐにゃに曲がり使い物にならなくなった。攻撃したシャドウが私に襲いかかる。
「いやっ!! に、兄さん……」
“助けて”。そう言おうとしたけど私は口を閉じた。今ここに兄さんはいない。外で里中先輩と帰ってくるのを待っているのだ。私は思わず目をつぶる。
「ようこそ……我がベルベットルームへ」
老人の声が聞こえて目を開けるとリムジンらしき車の中にいた。奥のソファに先程の声の主の老人、右に綺麗な女性、左に私と同い年くらいの少女がいる。
「私はイゴール。お初にお目にかかります。ここは何かの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる部屋……。今、まさに貴方の運命は節目にあり、もしこのまま謎が解かれねば未来は閉ざされてしまうやもしれません」
「未来……つまり死ぬってこと?」
「私どもは“答え”は言いませぬ。しかし、私の役目はお客人がそうならぬよう手助けをさせていただくことでございます。これは貴方の未来を示すタロットカード。……おやおや、どうやらおもしろいカードをお持ちのようだ」
イゴールがカードを隣の女性に渡すとそれを今度は私に渡してくる。
「願わくば……。貴方が何事にも惑わされず、前に進めるよう。……“彼”のようにね」
“彼”……? 誰だと訊こうとしたが意識はその前に現実に戻ってきた。そう。あのシャドウに襲われる寸前の危機的な“現実”に。